以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両制御装置について説明する。
まず、図1及び図2を参照して、車両制御装置の構成について説明する。図1Aは車両制御装置の構成図、図1Bは運転者操作部の詳細を示す図、図2は車両制御装置の制御ブロック図である。
本実施形態の車両制御装置100は、これを搭載した車両1(図3等参照)に対して複数の運転支援モードにより、それぞれ異なる運転支援制御を提供するように構成されている。運転者は、複数の運転支援モードから所望の運転支援モードを選択可能である。
図1Aに示すように、車両制御装置100は、車両1に搭載されており、車両制御演算部(ECU)10と、複数のセンサ及びスイッチと、複数の制御システムと、運転支援モードについてのユーザ入力を行うための運転者操作部35を備えている。複数のセンサ及びスイッチには、車載カメラ21,ミリ波レーダ22,車両の挙動を検出する複数の挙動センサ(車速センサ23,加速度センサ24,ヨーレートセンサ25,舵角センサ26,アクセルセンサ27,ブレーキセンサ28),測位システム29,ナビゲーションシステム30が含まれる。また、複数の制御システムには、エンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,ステアリング制御システム33が含まれる。
図1Bに示すように、運転者操作部35は、運転者が操作可能なように車両1の車室内に設けられており、複数の運転支援モードから所望の運転支援モードを選択するためのモード設定操作部として機能する。運転者操作部35には、速度制限モードを設定するためのISAスイッチ36aと、先行車追従モードを設定するためのTJAスイッチ36bと、自動速度制御モードを設定するためのACCスイッチ36cと、レーンキープ制御モードを設定するためのLASスイッチ36dが設けられている。さらに、運転者操作部35には、先行車追従モードにおける車間距離を設定するための距離設定スイッチ37aと、自動速度制御モード等における車速を設定するための車速設定スイッチ37bと、を備えている。
図1Aに示すECU10は、プロセッサ,各種プログラムを記憶するメモリ,入出力装置等を備えたコンピュータにより構成される。ECU10は、運転者操作部35から受け取った運転支援モード選択信号や設定車速信号、及び、複数のセンサ及びスイッチから受け取った信号に基づき、エンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,ステアリング制御システム33に対して、それぞれエンジンシステム,ブレーキシステム,ステアリングシステムを適宜に作動させるための要求信号を出力可能に構成されている。
車載カメラ21は、車両1の周囲を撮像し、撮像した画像データを出力する。ECU10は、画像データに基づいて対象物(例えば、車両、歩行者、道路、区画線(車線境界線、白線、黄線)、交通信号、交通標識、停止線、交差点、障害物等)を特定する。さらに、本実施形態においては、車載カメラ21として、車両を運転中の運転者を撮像する車室内カメラも備えている。なお、ECU10は、交通インフラや車々間通信等によって、車載通信機器を介して外部から対象物の情報を取得してもよい。
ミリ波レーダ22は、対象物(特に、先行車、駐車車両、歩行者、障害物等)の位置及び速度を測定する測定装置であり、車両1の前方へ向けて電波(送信波)を送信し、対象物により送信波が反射されて生じた反射波を受信する。そして、ミリ波レーダ22は、送信波と受信波に基づいて、車両1と対象物との間の距離(例えば、車間距離)や車両1に対する対象物の相対速度を測定する。なお、本実施形態において、ミリ波レーダ22に代えて、レーザレーダや超音波センサ等を用いて対象物との距離や相対速度を測定するように構成してもよい。また、複数のセンサを用いて、位置及び速度測定装置を構成してもよい。
車速センサ23は、車両1の絶対速度を検出する。
加速度センサ24は、車両1の加速度(前後方向の縦加速度、横方向の横加速度)を検出する。なお、加速度は、増速側(正)及び減速側(負)を含む。
ヨーレートセンサ25は、車両1のヨーレートを検出する。
舵角センサ26は、車両1のステアリングホイールの回転角度(舵角)を検出する。
アクセルセンサ27は、アクセルペダルの踏み込み量を検出する。
ブレーキセンサ28は、ブレーキペダルの踏み込み量を検出する。
測位システム29は、全球測位衛星システム(GNSS)及び/又はジャイロシステムであり、車両1の位置(現在車両位置情報)を検出する。また、測位システム29は、デッドレコニングや路車間通信(Wi−Fi等を用いる)による位置情報取得手段を含んでもよい。
ナビゲーションシステム30は、内部に地図情報を格納しており、ECU10へ地図情報を提供することができる。ECU10は、地図情報及び現在車両位置情報に基づいて、車両1の周囲(特に、進行方向前方)に存在する道路、交差点、交通信号、建造物等を特定する。地図情報は、ECU10内に格納されていてもよい。
エンジン制御システム31は、車両1のエンジンを制御するコントローラである。ECU10は、車両1を加速又は減速させる必要がある場合に、エンジン制御システム31に対して、エンジン出力の変更を要求するエンジン出力変更要求信号を出力する。
ブレーキ制御システム32は、車両1のブレーキ装置を制御するためのコントローラである。ECU10は、車両1を減速させる必要がある場合に、ブレーキ制御システム32に対して、車両1への制動力の発生を要求するブレーキ要求信号を出力する。
ステアリング制御システム33は、車両1のステアリング装置を制御するコントローラである。ECU10は、車両1の進行方向を変更する必要がある場合に、ステアリング制御システム33に対して、操舵方向の変更を要求する操舵方向変更要求信号を出力する。
図2に示すように、ECU10は、入力処理部10a、周辺物標検出部10b、目標走行経路算出部10c、運転操作判断部10e、及び制御目標算出部10fとして機能する単一のCPU又はプロセッサを備えている。なお、本実施形態では、単一のCPUが複数の上記機能を実行するように構成されているが、これに限らず、複数のCPUがこれら機能を実行するように構成することができる。
入力処理部10aは、車載カメラ21を含む種々のセンサ/スイッチ群、及び運転者操作部35から入力された入力情報を処理するように構成されている。この入力処理部10aは、走行路面を撮像したカメラ21の画像を解析し、車両1が走行している走行車線(車線の両側の区画線)を検出する画像解析部として機能する。
周辺物標検出部10bは、ミリ波レーダ22、カメラ21等からの入力情報に基づいて周辺物標を検出するように構成されている。
目標走行経路算出部10cは、ミリ波レーダ22、車載カメラ21、センサ群等からの入力情報に基づいて車両の目標走行経路を算出するように構成されている。
運転操作判断部10eは、運転支援制御として自動速度制御及び/又は自動操舵制御が実行されているときに、乗員がアクセルペダル,ブレーキペダル,又はステアリングホイールを操作した場合、乗員による操作を優先して、乗員による操作に応じた要求信号を制御システム31〜33へ出力するように構成されている。すなわち、運転操作判断部10eにより、乗員は、自動的な運転支援制御をオーバーライドして、自らが運転操作を行うことが可能である。
制御目標算出部10fは、目標走行経路算出部10cによって算出された目標走行経路を補正して、補正走行経路を算出し、この補正走行経路に基づいて制御システム31〜33へ要求信号を出力するように構成されている。
例えば、制御目標算出部10fは、周辺物標検出部10bによって回避すべき周辺物標が検出された場合に、目標走行経路を補正して補正走行経路を算出する。また、制御目標算出部10fは、運転支援モードの変更によって目標走行経路自体が変更になった場合にも、新たな目標走行経路を補正して補正走行経路を算出する。車両1は、この補正走行経路を走行することにより、新たな目標走行経路へ合流する。すなわち、この場合の補正走行経路は、現在の車両挙動(舵角,加速度等)を新たな目標走行経路における車両挙動に適合させるための遷移的な経路である。
制御目標算出部10fは、補正走行経路を算出するため、所定の評価関数を用いる。制御目標算出部10fは、目標走行経路を基準として評価関数を用いて複数の候補走行経路を評価し、所定の制約条件(又は、拘束条件)を満足するように最適化された1つの補正走行経路を算出する。また、本実施形態においては、評価関数及び制約条件は、選択されている運転支援モードや周辺物標等に基づいて、適宜設定される。
ECU10は、制御目標算出部10fによって決定された最適な補正走行経路を走行すべく、少なくともエンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,又はステアリング制御システム33のいずれか1つ又は複数に対する要求信号を生成し、出力する。
次に、本実施形態による車両制御装置100が備える運転支援モードについて説明する。本実施形態では、運転支援モードとして、5つのモード(レーンキープ制御モード、先行車追従モード、自動速度制御モード、速度制限モード、基本制御モード)が備えられている。
<レーンキープ制御モード>
レーンキープ制御モードは、車両1が車線の中央付近を走行するようにステアリング制御するモードであり、車両制御装置100による自動的なステアリング制御、速度制御(エンジン制御、ブレーキ制御)を伴う。
本実施形態では、レーンキープ制御モードの選択時(すなわち、LASスイッチ36dが操作又は押下されている状態)において、走行車線の車線両端部の検出の可否に応じて、異なる制御が行われる。すなわち、車線両端部の検出中、ECU10は、車両1が走行車線の中央付近を走行するようにステアリング制御及び速度制御を行う。しかしながら、車線両端部が検出されない場合、運転支援モードは、基本制御モード(オフモード)に切り替えられる。基本制御モードでは、運転者がステアリング操作,アクセル操作及びブレーキ操作を行う。
なお、車線両端部とは、車両1が走行する車線の両端部(白線等の区画線,道路端,縁石,中央分離帯,ガードレール等)であり、隣接する車線や歩道等との境界である。ECU10は、この車線両端部を車載カメラ21より撮像された画像データから検出する。また、ナビゲーションシステム30の地図情報から車線両端部を検出してもよい。
<先行車追従モード>
先行車追従モードは、基本的に、車両1と先行車との間に車速に応じた所定の車間距離を維持しつつ、先行車の走行軌跡を車両1に追従走行させるモードであり、車両制御装置100による自動的なステアリング制御,速度制御(エンジン制御,ブレーキ制御)を伴う。
本実施形態では、ECU10は、車載カメラ21による画像データ及びミリ波レーダ22による測定データにより、先行車を検出する。具体的には、車載カメラ21による画像データにより前方を走行する他車両を走行車として検出する。更に、本実施形態では、ミリ波レーダ22による測定データにより、車両1と他車両との車間距離が所定距離(例えば、400〜500m)以下である場合に、当該他車両が先行車として検出される。なお、代替的に、車載カメラ21及び/又はミリ波レーダ22が先行車を検出して、先行車の位置等の先行車情報をECU10へ出力してもよい。
本実施形態では、先行車追従モードの選択時(すなわち、TJAスイッチ36bが操作又は押下されている状態)において、先行車の検出の可否に応じて、異なる制御が行われる。すなわち、先行車の検出中は、ECU10は、車両1が先行車を追従走行するようにステアリング制御及び速度制御を行う。しかしながら、先行車が検出されない間は、運転支援モードは、基本制御モード(オフモード)に切り替えられる。または、代替的に、先行車が検出されない間は、ECU10は、車両1が設定車速で走行するように速度制御を行い、運転者がステアリング操作を行う。なお、設定車速は、例えば、車速設定スイッチ37bによって設定することができる。
また、代替的な先行車追従モードにおいて、車線両端部及び先行車の検出の可否に応じて、異なる制御が行われるように構成してもよい。例えば、代替的な先行車追従モードでは、車線両端部及び先行車が検出されている場合、ECU10は、車両1が先行車の走行軌跡を追従するのではなく、先行車との所定の車間距離を維持しながら、車両1が走行車線の中央付近を走行するようにステアリング制御及び速度制御を行う。一方、先行車は検出されているが、車線両端部は検出されていない場合は、ECU10は、車両1が先行車の走行軌跡を追従走行するようにステアリング制御及び速度制御を行う。さらに、車線両端部は検出されているが、先行車は検出されていない場合、ECU10は、車両1が走行車線の中央付近を設定車速で走行するようにステアリング制御及び速度制御を行う。さらに、先行車も車線両端部も検出されていない場合、ECU10は、車両1は設定車速で走行するように速度制御を行い、運転者がステアリング操作を行う。
<自動速度制御モード>
また、自動速度制御モードは、車速設定スイッチ37bを使用して運転者によって予め設定された所定の設定車速(一定速度)を維持するように速度制御するモードであり、車両制御装置100による自動的な速度制御(エンジン制御,ブレーキ制御)を伴うが、ステアリング制御は行われない。この自動速度制御モードでは、車両1は、設定車速を維持するように走行するが、運転者によるアクセルペダルの踏み込みにより設定車速を超えて増速され得る。また、運転者がブレーキ操作を行った場合には、運転者の意思が優先され、設定車速から減速される。また、先行車に追いついた場合には、車速に応じた車間距離を維持しながら先行車に追従するように速度制御され、先行車が存在しなくなると、再び設定車速に復帰するように速度制御される。
<速度制限モード>
また、速度制限モードは、車両1の車速が速度標識による制限速度又は運転者によって設定された設定速度を超えないように速度制御するモードであり、車両制御装置100による自動的な速度制御(エンジン制御)を伴うが、ステアリング制御は行われない。制限速度は、車載カメラ21により撮像された速度標識や路面上の速度表示の画像データをECU10が画像認識処理することにより特定してもよいし、外部からの無線通信により受信してもよい。速度制限モードでは、運転者が制限速度を超えるようにアクセルペダルを踏み込んだ場合であっても、車両1は制限速度までしか増速されない。
<基本制御モード>
基本制御モードは、運転者操作部35により、何れの運転支援モードも選択されていないときのモード(オフモード)であり、車両制御装置100による自動的なステアリング制御及び速度制御は行われない。
次に、図3〜図5を参照して、本実施形態による車両制御装置100により計算される目標走行経路について説明する。図3〜図5は、それぞれ第1走行経路〜第3走行経路の説明図である。本実施形態では、ECU10に備えられた目標走行経路算出部10cが、以下の第1走行経路R1〜第3走行経路R3を時間的に繰返し計算するように構成されている(例えば、0.1秒毎)。本実施形態では、ECU10は、センサ等の情報に基づいて、現時点から所定期間(例えば、3秒)が経過するまでの間の走行経路を計算する。走行経路Rx(x=1,2,3)は、所定時間毎(例えば、0.3秒毎)に設定される走行経路上の車両1の目標位置(Px_k)及び目標速度(Vx_k)により特定される(k=0,1,2,・・・,n)。更に、各目標位置において、目標速度以外に複数の変数(加速度、ジャーク、ヨーレート、舵角、車両角度等)について目標値が特定される。
なお、図3〜図5における走行経路(第1走行経路〜第3走行経路)は、車両1が走行する走行路上又は走行路周辺の物標(駐車車両、歩行者等の障害物)に関する周辺物標の検出情報を考慮せずに、走行路の形状,先行車の走行軌跡,車両1の走行挙動,及び設定車速に基づいて計算される。このように、本実施形態では、周辺物標の情報が計算に考慮されないので、これら複数の走行経路の全体的な計算負荷を低く抑えることができる。
以下では、理解の容易のため、車両1が直線区間5a,カーブ区間5b,直線区間5cからなる道路5を走行する場合において計算される各走行経路について説明する。道路5は、左右の車線5L,5Rからなる。現時点において、車両1は、直線区間5aの車線5L上を走行しているものとする。
(第1走行経路)
図3に示すように、第1走行経路R1は、道路5の形状に即して車両1に走行路である車線5L内の走行を維持させるように所定期間分だけ設定される。詳しくは、第1走行経路R1は、直線区間5a,5cでは車両1が車線5Lの中央付近の走行を維持するように設定され、カーブ区間5bでは車両1が車線5Lの幅方向中央よりも内側又はイン側(カーブ区間の曲率半径Lの中心O側)を走行するように設定される。
目標走行経路算出部10cは、車載カメラ21により撮像された車両1の周囲の画像データの画像認識処理を実行し、車線両端部6L,6Rを検出する。車線両端部は、上述のように、区画線(白線等)や路肩等である。更に、目標走行経路算出部10cは、検出した車線両端部6L,6Rに基づいて、車線5Lの車線幅W及びカーブ区間5bの曲率半径Lを算出する。また、ナビゲーションシステム30の地図情報から車線幅W及び曲率半径Lを取得してもよい。更に、目標走行経路算出部10cは、画像データから速度標識Sや路面上に表示された制限速度を読み取る。なお、上述のように、制限速度を外部からの無線通信により取得してもよい。
目標走行経路算出部10cは、直線区間5a,5cでは、車線両端部6L,6Rの幅方向の中央部を車両1の幅方向中央部(例えば、重心位置)が通過するように、第1走行経路R1の複数の目標位置P1_kを設定する。
一方、目標走行経路算出部10cは、カーブ区間5bでは、カーブ区間5bの長手方向の中央位置P1_cにおいて、車線5Lの幅方向中央位置からイン側への変位量Wsを最大に設定する。この変位量Wsは、曲率半径L,車線幅W,車両1の幅寸法D(ECU10のメモリに格納された規定値)に基づいて計算される。そして、目標走行経路算出部10cは、カーブ区間5bの中央位置P1_cと直線区間5a,5cの幅方向中央位置とを滑らかにつなぐように第1走行経路R1の複数の目標位置P1_kを設定する。なお、カーブ区間5bへの進入前後においても、直線区間5a,5cのイン側に第1走行経路R1を設定してもよい。
第1走行経路R1の各目標位置P1_kにおける目標速度V1_kは、原則的に、運転者が運転者操作部35の車速設定スイッチ37bによって設定した速度、又は車両制御装置100によって予め設定された所定の設定車速(一定速度)に設定される。しかしながら、この設定車速が、速度標識S等から取得された制限速度、又は、カーブ区間5bの曲率半径Lに応じて規定される制限速度を超える場合、走行経路上の各目標位置P1_kの目標速度V1_kは、2つの制限速度のうち、より低速な制限速度に制限される。さらに、目標走行経路算出部10cは、車両1の現在の挙動状態(即ち、車速,加速度,ヨーレート,舵角,横加速度等)に応じて、目標位置P1_k,目標速度V1_kを適宜に補正する。例えば、現車速が設定車速から大きく異なっている場合は、車速を設定車速に近づけるように目標速度が補正される。
(第2走行経路)
また、図4に示すように、第2走行経路R2は、先行車3の走行軌跡を追従するように所定期間分だけ設定される。目標走行経路算出部10cは、車載カメラ21による画像データ,ミリ波レーダ22による測定データ,車速センサ23による車両1の車速に基づいて、車両1の走行する車線5L上の先行車3の位置及び速度を継続的に計算して、これらを先行車軌跡情報として記憶し、この先行車軌跡情報に基づいて、先行車3の走行軌跡を第2走行経路R2(目標位置P2_k、目標速度V2_k)として設定する。
(第3走行経路)
また、図5に示すように、第3走行経路R3は、運転者による車両1の現在の運転状態に基づいて所定期間分だけ設定される。即ち、第3走行経路R3は、車両1の現在の走行挙動から推定される位置及び速度に基づいて設定される。
目標走行経路算出部10cは、車両1の舵角,ヨーレート,横加速度に基づいて、所定期間分の第3走行経路R3の目標位置P3_kを計算する。ただし、目標走行経路算出部10cは、車線両端部が検出される場合、計算された第3走行経路R3が車線端部に近接又は交差しないように、目標位置P3_kを補正する。
また、目標走行経路算出部10cは、車両1の現在の車速,加速度に基づいて、所定期間分の第3走行経路R3の目標速度V3_kを計算する。なお、目標速度V3_kが速度標識S等から取得された制限速度を超えてしまう場合は、制限速度を超えないように目標速度V3_kを補正してもよい。
次に、本実施形態による車両制御装置100における運転支援モードと走行経路との関係について説明する。本実施形態では、運転者が運転者操作部35を操作して1つの運転支援モードを選択すると、選択された運転支援モードに応じて第1〜第3走行経路のうちの1つが目標走行経路として選択されるように構成されている。
レーンキープ制御モードの選択時には、車線両端部が検出されていると、第1走行経路が選択される。この場合、車速設定スイッチ37bによって設定された設定車速が目標速度となる。
また、先行車追従モードの選択時には、先行車が検出された場合、第2走行経路が選択される。この場合、目標速度は、先行車の車速に応じて設定される。また、先行車追従モードの選択時において、先行車が検出されない場合、第3走行経路が選択される。
また、自動速度制御モードの選択時には、第3走行経路が選択される。自動速度制御モードは、上述のように速度制御を自動的に実行するモードであり、設定車速入力部37によって設定された設定車速が目標速度となる。また、運転者によるステアリングホイールの操作に基づいてステアリング制御が実行される。
また、速度制限モードの選択時にも第3走行経路が選択される。速度制限モードも、上述のように速度制御を自動的に実行するモードであり、目標速度は、制限速度以下の範囲で、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に応じて設定される。また、運転者によるステアリングホイールの操作に基づいてステアリング制御が実行される。
また、基本制御モード(オフモード)の選択時には、第3走行経路が選択される。基本制御モードは、基本的に、速度制限モードにおいて制限速度が設定されない状態と同様である。
次に、図6〜図8を参照して、本実施形態によるECU10の制御目標算出部10fにおいて実行される制御目標算出処理について説明する。図6は制御目標算出処理の説明図、図7は補正走行経路の説明図、図8は車両モデルの説明図である。本実施形態において、制御目標算出処理には、走行経路補正処理が含まれる。
図6及び図7に示すように、制御目標算出部10fは、目標走行経路Rを外部環境(障害物3等)や運転支援モードの変更に応じて補正して、補正走行経路Rcを算出する。そして、制御目標算出部10fは、車両1がこの補正走行経路Rcを走行するための所定の制御量の制御目標値(加速度目標、舵角目標)を計算し、制御目標に基づいて車両1の制御システムへ要求信号を出力する。なお、図7には、所定期間(例えば、3秒)にわたる例示的な目標走行経路R,補正走行経路Rcが示されている。各経路R,Rcには、それぞれ所定時間毎(例えば、0.3秒毎)の目標位置P,補正目標位置Pcが示されている。
具体的には、制御目標算出部10fは、センサ/スイッチ群から各種情報を受け取り、目標走行経路算出部10cから目標走行経路Rを受け取り、周辺物標検出部10bから周辺物標に関する情報を受け取る。制御目標算出部10fは、これらの情報に基づいて、制約条件(周辺物標との衝突回避等)を満足しつつ、目標走行経路Rからの逸脱量が小さくなるように最適化された補正走行経路Rcを計算する。すなわち、本実施形態では、制御目標算出部10fは、制約条件下で(又は拘束条件下で)所定の評価関数Jの評価値を最小にするという最適化問題を解くように構成されたソルバーを含む。このため、制御目標算出部10fは、最適化計算部11aとモデル予測部11bを備えている。
本実施形態では、概略的には、最適化計算部11aは、車両1の現在の挙動(速度、位置、加速度、舵角等)に基づいて、制約条件(障害物等)を回避するような候補補正走行経路を設定し、候補補正走行経路上の各候補目標位置での物理量(加速度、舵角)を入力値としてモデル予測部11bへ与える。モデル予測部11bは、入力値を車両モデルに適用することにより、候補補正走行経路上での車両1の挙動を計算し、車両挙動に基づく種々の物理量を最適化計算部11aへフィードバックする。
車両モデルは、車両1の物理的な運動を規定するものであり、以下の運動方程式で記述される。この車両モデルは、本例では図8に示す2輪モデルである。車両モデルにより車両1の物理的な運動が規定される。
図8及び式(1)、(2)中、mは車両1の質量、Iは車両1のヨーイング慣性モーメント、lはホイールベース、lfは車両重心点と前車軸間の距離、lrは車両重心点と後車軸間の距離、Kfは前輪1輪あたりのタイヤコーナリングパワー、Krは後輪1輪あたりのタイヤコーナリングパワー、Vは車両1の車速、δは前輪の実舵角、βは車両重心点の横すべり角、rは車両1のヨー角速度、θは車両1のヨー角、yは絶対空間に対する車両1の横変位、tは時間である。
最適化計算部11aは、候補補正走行経路上での車両1の挙動を表すフィードバックに基づいて評価関数Jを用いて、候補補正走行経路を評価する。本実施形態では、評価関数Jは、補正走行経路の評価に関する評価項JEと、制約条件に関する制約項JCとを含む。評価項JEは、複数の評価ファクタを有する。また、制約項JCは複数の制約ファクタを有する。制御目標算出部10fは、実行中の運転支援モード及びセンサ情報等に応じて異なるように評価関数Jを設定する。
複数の評価ファクタは、目標位置Pでの車両1の挙動を表す複数の物理量(例えば、速度(縦方向及び横方向)、加速度(縦方向及び横方向)、ジャーク(縦方向及び横方向)、ヨーレート、車線中心に対する横位置、車両角度、舵角、舵角速度、その他ソフト制約)にそれぞれ対応して設定されている。評価ファクタには、目標走行経路と補正走行経路の物理量の差が小さいほど評価が高くなる第1評価ファクタと、物理量自体の大きさが小さいほど評価が高くなる第2評価ファクタが含まれる。本実施形態では、評価値が小さな値となるほど、評価が高くなる。
第1評価ファクタは、目標走行経路と補正走行経路の差を最小化するための評価ファクタであり、第1評価ファクタの物理量は、例えば、速度(縦方向及び横方向)、横位置等である。一方、第2評価ファクタは、所定の物理量を最小化するための評価ファクタであり、第2評価ファクタの物理量は、例えば、加速度(縦方向及び横方向)、ジャーク(縦方向及び横方向)、舵角、舵角速度等である。
また、複数の制約ファクタは、複数の物理量にそれぞれ対応して設定されている。制約ファクタは、対応する物理量に対して規定された制限範囲(下限値〜上限値)をその物理量が超えた量に応じて、ペナルティ値として見積もられる。よって、超過量が大きいほど、ペナルティ値は大きくなる(すなわち、結果的に、評価値は大きくなる)。
例えば、速度(縦方向及び横方向)、加速度(縦方向及び横方向)、ジャーク(縦方向及び横方向)、舵角、舵角速度、ヨーレートを含む複数の物理量には、それぞれ原則的に固定された制限範囲が規定されている。しかしながら、固定の制限範囲よりも狭い範囲に制限範囲が変更される場合がある。例えば、下記で説明する速度分布領域(図9参照)が適用される場合には、車両1の位置に応じて物標3に対する速度の制限範囲が変更される。
評価関数J(=JE+JC)は、以下の式で記述される。
評価項JEについて、式中、Wk(Xk−Xrefk)2は評価ファクタ、Xkは候補補正走行経路の物理量、Xrefkは目標走行経路の物理量又は0(ゼロ値)、Wkは評価ファクタの重み係数(例えば、0≦Wk≦1)である(但し、k=1〜n)。したがって、本実施形態の評価項JEは、n個の評価ファクタの物理量について、候補補正走行経路の物理量から目標走行経路の物理量(目標走行経路との差を最小化する評価ファクタの場合)又はゼロ値(物理量自体を最小化する評価ファクタの場合)を差し引いた差分の2乗の和を重み付けして、所定期間(例えば、N=3秒)の走行経路長にわたって合計した値に相当する。なお、重み係数Wkは、各運転支援モードに応じて異なって設定される。
一方、制約項JCは、複数の物理量の制限範囲からの超過量に応じた評価値の合計値を、所定期間(例えば、N=3秒)の走行経路長にわたって合計した値に相当する。各評価値は、例えば、超過量を2乗した値に所定の重み係数Wを乗じた値とすることができる。なお、所定の物理量の制限範囲は、周辺物標等に応じて変動し得る。
本実施形態では、評価関数Jは、制約項JCが組み込まれたラグランジュ関数である。よって、最適化計算部11aは、無制約の最適化問題を解くように構成されており、良好な収束性で最適解を導出可能である。仮に評価関数Jが制約項JCを含まない場合、モデル予測部11bからのフィードバックが制約条件を満足しないと、そのフィードバックは最適化問題の収束性に何ら寄与しない。この場合、最適解が所定計算時間内に得られないおそれがある。
さらに、本実施形態では、フィードバックが制約条件を完全には満足しない場合であっても、最適化計算部11aは、その候補補正走行経路を、制約条件を考慮して評価関数Jにより評価することができる。これにより、本実施形態では、収束性を向上させることができる。例えば、センサ情報等のノイズ誤差や、道路環境の評価に対する誤差や、モデル関数に起因する誤差等により、制約条件をわずかに超えるような候補補正走行経路を確実に評価することができる。ただし、本実施形態では、制約項JCの重み係数を大きな値に設定することにより、制約項JCを制約条件として確実に機能させることができる。
本実施形態では、最適化計算部11aは、モデル予測部11bからのフィードバックに基づいて、評価関数Jを用いて候補補正走行経路についての評価値を算出する。最適化計算部11aは、評価値に応じて、新たな候補目標走行経路を設定し、この新たな候補補正走行経路に基づいて、修正した入力値をモデル予測部11bへ与える。本実施形態では、このような最適化計算部11aとモデル予測部11bとの間でのフィードバックが複数回繰り返されることにより、評価関数Jの評価値が最小化(又は、最適化)された補正走行経路Rcが算出される。なお、フィードバックの最大繰り返し回数は、所定回数に制限されてもよい。
次に、図9〜図10を参照して、本実施形態による障害物回避処理について説明する。図9は目標走行経路の補正による障害物回避の説明図、図10は障害物を回避する際の障害物と車両との間のすれ違い速度の許容上限値とクリアランスとの関係を示す説明図である。図9では、車両1は走行路(車線)7上を走行しており、走行中又は停車中の車両3とすれ違って、車両3を追い抜こうとしている。
一般に、道路上又は道路付近の障害物(例えば、先行車、駐車車両、歩行者等)とすれ違うとき(又は追い抜くとき)、車両1の運転者は、進行方向に対して直交する横方向において、車両1と障害物との間に所定のクリアランス又は間隔(横方向距離)を保ち、且つ、車両1の運転者が安全と感じる速度に減速する。具体的には、先行車が急に進路変更したり、障害物の死角から歩行者が出てきたり、駐車車両のドアが開いたりするといった危険を回避するため、クリアランスが小さいほど、障害物に対する相対速度は小さくされる。
また、一般に、後方から先行車に近づいているとき、車両1の運転者は、進行方向に沿った車間距離(縦方向距離)に応じて速度(相対速度)を調整する。具体的には、車間距離が大きいときは、接近速度(相対速度)が大きく維持されるが、車間距離が小さくなると、接近速度は低速にされる。そして、所定の車間距離で両車両の間の相対速度はゼロとなる。これは、先行車が駐車車両であっても同様である。
このように、運転者は、障害物と車両1との間の距離(横方向距離及び縦方向距離を含む)と相対速度との関係を考慮しながら、危険がないように車両1を運転している。
そこで、本実施形態では、図9に示すように、車両1は、車両1から検知される障害物(例えば、駐車車両3)に対して、障害物の周囲に(横方向領域、後方領域、及び前方領域にわたって)又は少なくとも障害物と車両1との間に、車両1の進行方向における相対速度についての許容上限値を規定する2次元分布(速度分布領域40)を設定するように構成されている。速度分布領域40では、障害物の周囲の各点において、相対速度の許容上限値Vlimが設定されている。
図9から分かるように、速度分布領域40は、原則的に、障害物からの横方向距離及び縦方向距離が小さくなるほど(障害物に近づくほど)、相対速度の許容上限値が小さくなるように設定される。また、図9では、理解の容易のため、同じ許容上限値を有する点を連結した等相対速度線が示されている。等相対速度線a,b,c,dは、それぞれ許容上限値Vlimが0km/h,20km/h,40km/h,60km/hに相当する。本例では、各等相対速度領域は、略矩形に設定されている。
本実施形態では、すべての運転支援モードにおいて、障害物に対する車両1の相対速度が速度分布領域40内の許容上限値Vlimを超えることがないように目標走行経路の補正が実施される。すなわち、速度分布領域40が、車両1の速度に対する制約条件となる。具体的には、制御目標算出部10fは、周辺物標検出部10bによって回避すべき障害物(周辺物標)が検出されると、障害物に対して速度分布領域40を設定する。そして、制御目標算出部10fは、速度分布領域40により規定される許容上限値Vlimを超えることがないように、目標走行経路算出部10cによって算出された目標走行経路Rを補正して、補正走行経路Rcを算出する。図9には、例示的な補正走行経路Rc1,Rc2,Rc3が示されている。
なお、速度分布領域40は、必ずしも障害物の全周にわたって設定されなくてもよく、少なくとも障害物の後方、及び、車両1が存在する障害物の横方向の一方側(図9では、車両3の右側領域)に設定されればよい。
図10に示すように、車両1がある絶対速度で走行するときにおいて、障害物の横方向に設定される許容上限値Vlimは、クリアランスXがD0(安全距離)までは0(ゼロ)km/hであり、D0以上で2次関数的に増加する(Vlim=k(X−D0)2。ただし、X≧D0)。即ち、安全確保のため、クリアランスXがD0以下では車両1は相対速度がゼロとなる。一方、クリアランスXがD0以上では、クリアランスが大きくなるほど、車両1は大きな相対速度ですれ違うことが許容される。
図10の例では、障害物の横方向における許容上限値は、Vlim=f(X)=k(X−D0)2で定義されている。なお、kは、Xに対するVlimの変化度合いに関連するゲイン係数であり、障害物の種類等に依存して設定される。また、D0も障害物の種類等に依存して設定される。
なお、本実施形態では、VlimがXの2次関数となるように定義されているが、これに限らず、他の関数(例えば、一次関数等)で定義されてもよい。また、図7を参照して、障害物の横方向の許容上限値Vlimについて説明したが、障害物の縦方向を含むすべての径方向について同様に設定することができる。その際、係数k、安全距離D0は、障害物からの方向に応じて設定することができる。
なお、速度分布領域40は、種々のパラメータに基づいて設定することが可能である。パラメータとして、例えば、車両1と障害物の相対速度、障害物の種類、車両1の進行方向、障害物の移動方向及び移動速度、障害物の長さ、車両1の絶対速度等を考慮することができる。即ち、これらのパラメータに基づいて、係数k及び安全距離D0を選択することができる。
また、本実施形態において、障害物は、車両,歩行者,自転車,崖,溝,穴,落下物等を含む。更に、車両は、自動車,トラック,自動二輪で区別可能である。歩行者は、大人,子供,集団で区別可能である。
図9に示すように、車両1が走行路7上を走行しているとき、車両1のECU10に内蔵された周辺物標検出部10bは、車載カメラ21から画像データに基づいて障害物(車両3)を検出する。このとき、障害物の種類(この場合は、車両、歩行者)が特定される。
また、周辺物標検出部10bは、ミリ波レーダ22の測定データ及び車速センサ23の車速データに基づいて、車両1に対する障害物(車両3)の位置及び相対速度並びに絶対速度を算出する。なお、障害物の位置は、車両1の進行方向に沿ったx方向位置(縦方向距離)と、進行方向と直交する横方向に沿ったy方向位置(横方向距離)が含まれる。
制御目標算出部10fは、検知したすべての障害物(図9の場合、車両3)について、それぞれ速度分布領域40を設定する。そして、制御目標算出部10fは、車両1の速度が速度分布領域40の許容上限値Vlimを超えないように目標走行経路Rの補正を行う。
即ち、目標走行経路Rを車両1が走行すると、ある目標位置において目標速度が速度分布領域40によって規定された許容上限値を超えてしまう場合には、目標位置を変更することなく目標速度を低下させるか(図9の経路Rc1)、目標速度を変更することなく目標速度が許容上限値を超えないように迂回経路上に目標位置を変更するか(図9の経路Rc3)、目標位置及び目標速度の両方が変更される(図9の経路Rc2)。
なお、一般的に、評価関数Jにおいて、舵角速度を最小化するための評価ファクタの重み係数が大きい場合に補正走行経路Rc1が算出され、前後方向の加速度を最小化するための評価ファクタの重み係数が大きい場合に補正走行経路Rc3が算出される。
例えば、図9は、計算されていた目標走行経路Rが、走行路7の幅方向の中央位置(目標位置)を60km/h(目標速度)で走行する経路であった場合を示している。この場合、前方に駐車車両3が障害物として存在するが、上述のように、目標走行経路Rの計算段階においては、計算負荷の低減のため、この障害物は考慮されていない。
目標走行経路Rを走行すると、車両1は、速度分布領域40の等相対速度線d,c,c,dを順に横切ることになる。即ち、60km/hで走行する車両1が等相対速度線d(許容上限値Vlim=60km/h)の内側の領域に進入することになる。したがって、制御目標算出部10fは、目標走行経路Rの各目標位置における目標速度を許容上限値Vlim以下に制限するように目標走行経路Rを補正して、補正走行経路Rc1を生成する。即ち、補正走行経路Rc1では、各目標位置において目標速度が許容上限値Vlim以下となるように、車両3に接近するに連れて目標速度が徐々に40km/h未満に低下し、その後、車両3から遠ざかるに連れて目標速度が元の60km/hまで徐々に増加される。
また、補正走行経路Rc3は、目標走行経路Rの目標速度(60km/h)を変更せず、このため等相対速度線d(相対速度60km/hに相当)の外側を走行するように設定された経路である。制御目標算出部10fは、目標走行経路Rの目標速度を維持するため、目標位置が等相対速度線d上又はその外側に位置するように目標位置を変更するように目標走行経路Rを補正して、補正走行経路Rc3を生成する。したがって、補正走行経路Rc3の目標速度は、目標走行経路Rの目標速度であった60km/hに維持される。
また、補正走行経路Rc2は、目標走行経路Rの目標位置及び目標速度の両方が変更された経路である。補正走行経路Rc2では、目標速度は、60km/hには維持されず、車両3に接近するに連れて徐々に低下し、その後、車両3から遠ざかるに連れて元の60km/hまで徐々に増加される。
補正走行経路Rc1のように、目標走行経路Rの目標位置を変更せず、目標速度のみを変更する補正は、速度制御を伴うが、ステアリング制御を伴わない運転支援モードに適用することができる(例えば、自動速度制御モード、速度制限モード、基本制御モード)。
また、補正走行経路Rc3のように、目標走行経路Rの目標速度を変更せず、目標位置のみを変更する補正は、ステアリング制御を伴う運転支援モードに適用することができる(例えば、先行車追従モード)。
また、補正走行経路Rc2のように、目標走行経路Rの目標位置及び目標速度を共に変更する補正は、速度制御及びステアリング制御を伴う運転支援モードに適用することができる(例えば、先行車追従モード)。
次に、図11を参照して、本実施形態の車両制御装置100における運転支援制御の処理フローを説明する。図11は運転支援制御の処理フローである。
ECU10は、図11の処理フローを所定時間(例えば、0.1秒)ごとに繰り返して実行している。まず、ECU10(入力処理部10a)は、情報取得処理を実行する(S11)。情報取得処理において、ECU10は、測位システム29及びナビゲーションシステム30から、現在車両位置情報及び地図情報を取得し(S11a)、車載カメラ21,ミリ波レーダ22,車速センサ23,加速度センサ24,ヨーレートセンサ25,運転者操作部35等からセンサ情報を取得し(S11b)、舵角センサ26,アクセルセンサ27,ブレーキセンサ28等からスイッチ情報を取得する(S11c)。
次に、ECU10(入力処理部10a,周辺物標検出部10b)は、情報取得処理(S11)において取得した各種の情報を用いて所定の情報検出処理を実行する(S12)。情報検出処理において、ECU10は、現在車両位置情報及び地図情報並びにセンサ情報から、車両1の周囲及び前方エリアにおける走行路形状に関する走行路情報(直線区間及びカーブ区間の有無,各区間長さ,カーブ区間の曲率半径,車線幅,車線両端部位置,車線数,交差点の有無,カーブ曲率で規定される制限速度等)、走行規制情報(制限速度、赤信号等)、先行車軌跡情報(先行車の位置及び速度),周辺物標情報を検出する(S12a)。
また、ECU10は、スイッチ情報から、運転者による車両操作に関する車両操作情報(舵角,アクセルペダル踏み込み量,ブレーキペダル踏み込み量等)を検出し(S12b)、更に、スイッチ情報及びセンサ情報から、車両1の挙動に関する走行挙動情報(車速、縦加速度、横加速度、ヨーレート等)を検出する(S12c)。
次に、ECU10(目標走行経路算出部10c)は、計算により得られた情報に基づいて、目標走行経路算出処理を実行する(S13)。目標走行経路算出処理では、上述のように、第1走行経路R1,第2走行経路R2,及び第3走行経路R3が計算され、これらの中から、選択されている運転支援モードとセンサ情報(先行車、車線両端部等)に応じて、目標走行経路Rが選択される。
次に、ECU10(制御目標算出部10f)は、目標走行経路R、周辺物標情報、各種のセンサ情報等に基づいて、制御目標算出処理を実行する(S14)。制御目標算出処理では、上述のように、補正走行経路Rcが算出され、この補正走行経路Rc上の各補正目標位置Pcにおける所定の制御量の制御目標(加速度目標、舵角目標)が生成される。
最後に、ECU10(制御目標算出部10f)は、生成した補正走行経路Rcにおける制御目標に基づいて、システム制御処理を実行して(S15)、処理を終了する。システム制御処理では、補正走行経路Rcにおける制御目標に応じて、要求信号(エンジン要求信号,ブレーキ要求信号,ステアリング要求信号)が生成され、生成された要求信号が車両1の制御システム31〜33へ出力される。
次に、図12及び図13を参照して、本実施形態のジャーク制約条件の緩和制御について説明する。図12は補正走行経路における加速度目標の時間変化を示す説明図、図13はジャーク制約条件の説明図である。
本実施形態では、上述のように、所定の制御周期毎(例えば、0.1秒毎)に評価関数Jを用いて補正走行経路Rcが繰り返し更新される。補正走行経路Rcは、現時点から所定時間(例えば、3秒)が経過するまでの間の経路である。
図12は、ある制御周期において算出された補正走行経路Rcによって設定される加速度の制御目標値(加速度目標)の例を示している。補正走行経路Rcにより、所定期間にわたる加速度目標が設定される。図12中の各点Ak(但し、k=1〜n)は、補正走行経路Rc上の補正目標位置Pcでの加速度目標に対応する。この例では、車両1が補正走行経路Rcを走行すると、加速度目標が正の値から負の値に変化する。すなわち、車両1の挙動は、将来的に加速から減速に切替わることになる。
また、本実施形態では、上述のように、評価関数Jは、ジャーク制約条件に関する制約ファクタを含む。この制約ファクタでは、車両1の乗り心地に影響を与える前後方向のジャークに制限範囲(下限値〜上限値)が設けられている。すなわち、前後方向のジャークが制限範囲を超えるとペナルティ値が評価関数Jに加算される(評価が低くなる)。したがって、補正走行経路Rcにおける前後方向のジャークは、制限範囲内に制限されている。
しかしながら、車両1が加減速するように走行するとき(具体的には、加速から減速への切替わり時、及び、減速から加速への切替わり時)、ジャークが制限範囲内に制限されることに起因して、車両1の挙動が周囲の交通流に対して遅れる場合がある。このような遅れを防ぐため、本実施形態では、制御目標算出部10fは、ジャーク制約条件の制限範囲を、現在と将来の車両1の挙動に基づいて変更するように構成されている。
具体的には、本実施形態では、車両1の現在と将来の加速度を考慮して、ジャーク制約条件の制限範囲が変更される。現在の加速度は、センサ情報から取得される。将来の加速度は、前回の制御周期において算出した補正走行経路Rcの加速度目標(例えば、図12の点A7における加速度目標)が用いられる。ここで、「将来」とは、補正走行経路Rcが設定される所定時間内における現在よりも未来の所定の時点である。
図12の例では、車両1の挙動が将来的に加速から減速に切替わると予想される。そして、加速から減速への切替わり時において、前後方向のジャークが下限値により制限されてしまうと、車両1の減速が周囲の交通流に対して遅れるおそれがある。このため、制御目標算出部10fは、現在の加速度が正の値であり、且つ、前回の制御周期で算出された補正走行経路Rcの現在よりも将来の加速度目標(例えば、点A7)が負の値である場合、ジャーク制約条件に関する制約ファクタの制限範囲の下限値を標準下限値よりも所定の低下量だけ小さい低下限値へ変更し、制限範囲を下側へ拡大する。これにより、本実施形態では、加速から減速への切替わり時における挙動遅れの発生を抑制することができる。
図13には、現在の加速度と将来の加速度(前回の制御周期で算出された補正走行経路Rcから予想される将来の加速度目標)との組み合わせに対して、それぞれ前後方向のジャークの制限範囲が示されている。図13の例Aは、図12の例に対応する。図13の例B及び例Dのように、現在と将来の加速度が共に正又は共に負である場合、及び、現在から将来にわたって一定速度の場合(例E)、制限範囲は変更されない(制限範囲:基準下限値〜基準上限値)。
一方、加速度が正から負へ切替わる場合(例A)、制限範囲の下限値が基準下限値よりも所定の低減量だけ小さい低下限値へ変更される(制限範囲:低下限値〜基準上限値)。これにより、本実施形態では、加速から減速への切替わり時における挙動遅れの発生を抑制することができる。
また、加速度が負から正へ切替わる場合(例C)、制限範囲の上限値が基準上限値よりも所定の第1増加量だけ大きい高上限値へ変更される(制限範囲:基準下限値〜高上限値)。これにより、本実施形態では、減速から加速への切替わり時における挙動遅れの発生を抑制することができる。
なお、図13において、センサ誤差等を考慮して、例えば、−0.2m/s2以上且つ+0.2m/s2以下の範囲の加速度を、「0(ゼロ)近傍」の加速度としてよい(例E参照)。同様に、例えば、+0.2m/s2より大きな加速度を「正」の加速度とし、−0.2m/s2より小さな加速度を「負」の加速度としてもよい。
また、図13の例C(減速から加速への切替わり時)において、車両1の前方の所定距離(例えば、50m)以内に先行車が検出されている場合、制御目標算出部10fは、ジャークの制限範囲の上限値を基準上限値から所定の第2増加量だけ大きい第2高上限値へ変更する。第2増加量は、第1増加量よりも小さく設定されており(第2増加量<第1増加量)、第2高上限値は、高上限値よりも小さい値に設定される(基準上限値<第2高上限値<高上限値)。先行車が存在する場合には、車両1が将来的に加速すると、先行車に追い付く可能性がある。したがって、本実施形態では、前後方向のジャークの上限値の増加量を低減することにより、不要になるおそれのある加速を抑制することができる。
なお、代替的に、制御目標算出部10fは、現在の加速度を参照することなく、簡易的に将来の加速度のみに基づいて、ジャークの制限範囲を設定するように構成されてもよい。例えば、将来の加速度目標が、所定の負の閾値(例えば、−1.0m/s2)よりも小さな負の値、又は、所定の正の閾値(例えば、+1.0m/s2)よりも大きな正の値である場合、加速度に負の変化(負のジャーク)又は正の変化(正のジャーク)が生じる可能性が高い。
したがって、代替的に、前回の制御周期で算出された補正走行経路Rcによる将来の加速度目標が、負の値である場合には、図13の例Aと同様に、ジャークの制限範囲の下限値を基準下限値から低下限値へ変更し、一方、正の値である場合には、図13の例Cと同様に、ジャークの制限範囲の上限値を基準上限値から高上限値へ変更してもよい。なお、この代替例において、制御をさらに簡略化するため、正及び負の閾値を設けなくてもよい。
次に、本発明の実施形態による車両制御装置100の作用について説明する。
本発明の実施形態の車両1の運転を支援するための車両制御装置100は、車両1の目標走行経路Rを算出する処理と、補正走行経路Rcを評価するための評価関数Jを用いて所定の制約条件下で目標走行経路Rに基づいて補正走行経路Rcを算出すると共に、車両1が補正走行経路Rcを走行するための車両1の制御目標値を算出する処理と、を所定の制御周期毎に繰り返し実行するように構成されており、制御目標値は、補正走行経路Rc上における将来の制御目標値を含み、且つ、少なくとも車両1の加速度の制御目標値を含み、制約条件は、車両1の前後方向のジャークを所定の制限範囲内の値に制限するジャーク制約条件を含み、車両制御装置100は、前回の制御周期において算出した将来の加速度の制御目標値に応じて、今回の制御周期における前後方向のジャークの制限範囲を変更する、ことを特徴としている。
このように構成された本実施形態では、今回の制御周期での補正走行経路Rcの算出において、前回の制御周期で算出した補正走行経路Rcの将来の加速度の制御目標値に応じて、ジャーク制約条件が適宜に変更されるように構成されている。したがって、本実施形態では、予想される将来の走行状況に応じて、適切にジャーク制約条件を設定することができる。これにより、本実施形態では、車両1における乗り心地を良好に維持しつつ、走行状況により適した車両1の挙動を達成することができる。
また、本実施形態では、車両制御装置100は、前回の制御周期において算出した将来の加速度の制御目標値、及び、車両1の現在の加速度に応じて、今回の制御周期における前後方向のジャークの前記制限範囲を変更する。
このように構成された本実施形態では、将来の予想加速度に加えて、現在の加速度を考慮することにより、現在から将来にかけての車両1の挙動変化(例えば、車両1の加速度が負から正に変化する場合や、車両1の加速度が正から負に変化する場合)に応じて、より適切にジャーク制約条件を設定することができる。
また、本実施形態では、車両制御装置100は、車両1の現在の加速度が正の値であり、前回の制御周期において算出した将来の加速度の制御目標値が負の値である場合(図13の例A参照)、今回の制御周期における前後方向のジャークの制限範囲の下限値をより小さい値(低下限値)に変更して、制限範囲を拡大する。
このように構成された本実施形態では、車両1の挙動が加速から減速に変化すると予想される場合に、前後方向のジャークの下限値をより小さい値に変更することによって、今回の制御周期において、加速から減速への車両1の挙動がより滑らかで、且つ、周囲の交通流に対する遅れが生じ難いような補正走行経路Rcを算出することが可能となる。
また、本実施形態では、車両制御装置100は、車両1の現在の加速度が負の値であり、前回の制御周期において算出した将来の加速度の制御目標値が正の値である場合(図13の例C参照)、今回の制御周期における前後方向のジャークの制限範囲の上限値を所定の増加量(第1増加量)だけ大きな値(高上限値)に変更して、制限範囲を拡大する。
このように構成された本実施形態では、車両1の挙動が減速から加速に変化すると予想される場合に、前後方向のジャークの上限値をより大きい値に変更することによって、今回の制御周期において、減速から加速への車両1の挙動がより滑らかで、且つ、周囲の交通流に対する遅れが生じ難いような補正走行経路Rcを算出することが可能となる。
また、本実施形態では、車両制御装置100は、車両1の前方の所定距離範囲内に先行車が存在する場合、先行車が存在しない場合と比べて、増加量を小さく設定する(第2増加量)。このように構成された本実施形態では、車両1が結果的に先行車に追い付いて、早期に加速を開始したことが無駄になることを抑制することができる。