以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(レベル計の構成について)
まず、図1を参照しながら、本発明の実施形態に係るレベル計測方法で用いられるレベル計の構成について説明する。図1は、本実施形態に係るレベル計の構成の一例を模式的に示した説明図である。
本実施形態に係るレベル計10は、転炉に存在する溶融物(溶銑や溶鋼やスラグ)のうちスラグを計測対象物Sとし、かかるスラグの表面(スラグ面ともいう。)の位置を、マイクロ波により計測する装置である。ここで、スラグ面の位置を、スラグ面のレベル(図1における離隔距離D。以下、スラグレベルともいう。)と呼ぶ。このレベル計10は、図1に示したように、マイクロ波照射ユニット100と、アンテナ駆動機構150と、演算処理ユニット200と、を備える。
マイクロ波照射ユニット100は、計測対象物Sに対して周波数を掃引してマイクロ波を照射するとともに、計測対象物Sからのマイクロ波の反射波を検出するユニットである。このマイクロ波照射ユニット100の詳細な構成については、以下で詳述する。
アンテナ駆動機構150は、マイクロ波照射ユニット100が有するアンテナの配設角度を少なくとも調整する駆動機構である。かかるアンテナ駆動機構150が動作することで、マイクロ波照射ユニット100におけるアンテナの配設角度が変化し、所望の方向へマイクロ波を照射することが可能となる。かかるアンテナ駆動機構150は、例えばアクチュエータ等の公知の駆動機構を利用することが可能である。
また、アンテナ駆動機構150は、マイクロ波照射ユニット100が有するアンテナの配設角度以外にも、アンテナの配置状態を変化させるために、様々な設置条件を調整することが可能である。
なお、アンテナ駆動機構150の配設位置については、特に限定されるものではなく、マイクロ波照射ユニット100が有するアンテナに対して作用を及ぼすことが可能な位置であれば、任意の位置に設置することが可能である。
演算処理ユニット200は、マイクロ波照射ユニット100により検出されたマイクロ波に関する信号データを利用して、計測対象物Sであるスラグの絶対レベルを算出するユニットである。この演算処理ユニット200の詳細についても、以下で詳述する。
<マイクロ波照射ユニットの構成について>
続いて、図1を参照しながら、本実施形態に係るマイクロ波照射ユニット100の構成を詳細に説明する。
本実施形態に係るマイクロ波照射ユニット100は、例えば、周波数変調連続波(Frequency Modulated−Continuous Wave:FM−CW)方式を採用したユニットとして実現される。このマイクロ波照射ユニット100は、図1に示したように、マイクロ波射出部の一例である周波数掃引器101及び発振器103と、方向性結合器105と、アンテナ部として機能するアンテナ107と、ミキサ109と、検出器111と、を備える。
周波数掃引器101は、後述する発振器103から発振されるマイクロ波の周波数を制御して、連続的かつ直線的に周波数を変化させる機器である。周波数変調の幅と、変調の周期については、事前に調整を行い、マイクロ波が所望の精度で射出・検出できるように設定しておけばよい。また、用いる周波数掃引器101についても特に限定されるものではなく、公知のものを利用すればよい。
発振器103は、周波数掃引器101による制御のもとで、周波数掃引器101により指定された周波数のマイクロ波を発振する機器である。かかる発振器103により発振される周波数(中心周波数)については、以下で詳述する。また、発振されるマイクロ波の強度については、特に限定されるものではないが、計測対象物までの大まかな離隔距離の大きさに応じて、適切な強度を選択すればよい。発振器103から発振された周波数を掃引して射出するマイクロ波は、後述する方向性結合器105に出力されるとともに、一部が後述するミキサ109に出力される。なお、用いる発振器103については、公知のものを利用可能であるが、スラグレベルのリアルタイム計測を実現するためには、周波数掃引器101による周波数掃引に容易に追随できる程の応答速度を有する機器を用いることが好ましい。
方向性結合器105は、発振器103から発振されたマイクロ波を後述するアンテナ107へと導波するとともに、アンテナ107が受信したマイクロ波(すなわち、計測対象物Sからの反射マイクロ波)を、後述するミキサ109へと導波する機器である。方向性結合器105についても、特に限定されるものではなく、公知のものを利用することが可能である。
アンテナ107は、マイクロ波の送受信器として機能するものであり、発振器103から射出されるマイクロ波を計測対象物Sに向けて照射するとともに、計測対象物Sからの反射波を受信する。本実施形態に係るマイクロ波照射ユニット100では、アンテナ107は、後述するように、転炉の炉口の上方に存在する開口部に設置される。従って、アンテナ107の大きさは、かかる開口部に適合可能なような大きさとすることが好ましい。アンテナ107の形状については特に限定されるものではないが、例えば、カセグレン型やホーン型のアンテナを利用することが好ましい。また、アンテナ107から放射されたマイクロ波の指向性を向上させるために、テフロン(登録商標)等の誘電体でできたレンズをアンテナ107の先端等に取り付けてもよい。
また、かかるアンテナ107は、アンテナ駆動機構150によって開口部への配設角度が制御されており、任意の方向にマイクロ波を照射し、計測対象物Sの様々な部位からの反射波を受信することが可能となる。
ミキサ109は、発振器103から射出されるマイクロ波(すなわち、送信波)と、方向性結合器105から導波された、計測対象物Sからの反射マイクロ波(すなわち、受信波)と、を混合して、後段の検出器111へと出力する。
検出器111は、ミキサ109によって送信波と受信波とが混合されることで生成した信号と、周波数変調との同期信号を検出する機器である。検出器111によるこのような検出処理により、アンテナ107が受信した反射マイクロ波が検出されることとなる。この検出器111によって検出された検出信号が、演算処理ユニット200へと出力される。かかる検出器111については、計測対象物Sからの反射波の大きさ等を事前に検証しておき、所望の精度・応答速度で信号を検出可能なものを利用することが好ましい。
[マイクロ波距離計の原理]
このような構成を有するマイクロ波照射ユニット100は、いわゆるマイクロ波距離計として機能するものであるが、以下では、図2を参照しながら、FM−CW方式のマイクロ波距離計の原理を簡単に説明する。図2は、マイクロ波を利用したレベル計の原理を説明するための説明図である。
いま、図2の最上段に示したように、周波数掃引器101によって制御される発振器103の周波数変調の幅がF[Hz]に設定され、変調の周期がT[秒]に設定されたものとする。図2の最上段に示したように、送信波の周波数は、時間の経過とともに連続的かつ直線的に変化する。
一方、計測対象物Sにより反射されてアンテナ107で受信された受信波は、計測対象物Sまでの離隔距離Dに比例した遅れΔt[秒]を生じることとなる。その結果、ある同時刻における送信波と受信波との間には、離隔距離Dに対応した周波数の差Δf[Hz]が生じる。このような送信波及び受信波がミキサ109によって混合されると、Δfに相当する周波数成分を有する差周波信号(ビート波)となる。
いま、送信波と受信波との時間的遅れΔtは、マイクロ波が、アンテナ107と計測対象物Sとの間を往復するために要する時間に相当する。また、マイクロ波の伝播速度は光速cであるため、時間的遅れΔtは、以下の式101で表すことができる。一方、ビート波の周波数Δfと時間的遅れΔtとの間には、以下の式102で表される関係が成立する。従って、式101と式102とを用いることで、離隔距離Dは、以下の式103により算出することができることがわかる。式103から明らかなように、離隔距離Dを算出するという処理は、図2に示したビート波の周波数を算出することと等価である。
ここで、現実の計測環境においては、ミキサ109により生成されるビート波が図2に示したような正弦波となる場合はまれであり、いくつもの周波数成分が混じり合った複合波となる場合が多い。従って、このような複数の周波数成分からなるビート波の周波数を求める場合には、後述する演算処理ユニット200によってデジタル信号処理を行うこととなる。
具体的には、複数の周波数成分からなるビート波をフーリエ変換して、横軸を周波数[Hz]としたスペクトルを生成した上で、更に上記式103によって横軸を距離[m]に変換し、縦軸を強度とした、図2下段に示したような波形(以下では、「距離波形」ともいう。)を生成する。この距離波形において、メインピークを与える横軸の位置が、求めたい離隔距離Dとなる。
[アンテナ107の設置方法について]
さて、以上のような原理に基づくマイクロ波照射ユニット100の計測対象物Sへの設置方法(より詳細には、アンテナ107の設置方法)について、図3を参照しながら詳細に説明する。図3は、本実施形態に係るマイクロ波照射ユニットの設置方法について説明するための説明図である。
本実施形態に係るレベル計10の計測対象物Sは、図3左側の図に示したように、製鋼プロセスで用いられる転炉の内部に存在するスラグ表面である。転炉製鋼プロセスでは、図3に示したような転炉の内部に溶銑を装入し、かかる溶銑に対して上吹きランスから酸素含有ガスを吹き込むことによって、溶銑の成分調整が行われて溶鋼が生成される。かかる溶融物の表面には、処理の進行に伴ってスラグが生成される。
また、転炉で行われる処理では、蒸気やダストなどが発生するため、発生するダスト等を外部環境に出さないためのフードが、転炉の炉口付近に設けられている。このフードには、上吹きランスを転炉内に挿入するための開口部や、サブランスを転炉内に挿入するための開口部(すなわち、サブランス孔)が設けられている。
本実施形態に係るマイクロ波照射ユニット100のアンテナ107は、図3右側の図に示したように、転炉の炉口側に位置するサブランス孔のような開口部に設置される。また、先だって説明したように、アンテナ107の近傍には、アンテナ駆動機構150が配設されており、アンテナ駆動機構150が稼働することでアンテナ107の配設角度を変更できるようになっている。これにより、アンテナ107からのマイクロ波を所望の方向に向けて照射することが可能となる。マイクロ波を照射する方向については、以下で改めて詳述する。
また、本実施形態に係るマイクロ波照射ユニット100では、転炉の内部に鉄の溶融物が存在しており、スラグ表面の計測を行う場合に、図3に示したように、転炉の内部に向けて照射されるマイクロ波の照射方向を示す軸線(アンテナの中心とスラグ表面における照射領域の中心とを結ぶ軸線)が、転炉に挿入される上吹きランスの側壁に対して傾斜して、マイクロ波がスラグの表面と上吹きランスの側壁との双方に対して照射されるように、アンテナ107の配設角度が制御されていることが好ましい。この理由についても、以下で詳述する。
なお、本実施形態において、スラグ表面の計測を行う場合のアンテナ107の配設角度は、スラグの表面と上吹きランスの側壁の双方に対してマイクロ波が照射される方向に限定されるわけではなく、スラグの表面のみにマイクロ波が照射される方向に、アンテナ107の配設角度が制御されていてもよい。
また、本実施形態において、アンテナ107の設置箇所は、サブランス孔に限定されるわけではなく、転炉の内部(スラグ表面)を臨むことが可能なフードの位置に新たに専用の開口部を設け、かかる新たな開口部にアンテナ107を設置してもよい。
以上、図1〜図3を参照しながら、本実施形態に係るレベル計10が備えるマイクロ波照射ユニット100の構成について、詳細に説明した。
<演算処理ユニットの構成について>
続いて、図4を参照しながら、本実施形態に係る演算処理ユニット200の構成を詳細に説明する。図4は、演算処理ユニット200の構成の一例を示したブロック図である。
本実施形態に係るレベル計10が備える演算処理ユニット200は、マイクロ波照射ユニット100の発振器103にて射出されるマイクロ波と、検出器111にて検出された反射マイクロ波とに基づいて、スラグのレベルを算出する処理ユニットである。より詳細には、演算処理ユニット200は、マイクロ波照射ユニット100によって検出されたビート波の検出信号に対してデジタル信号処理を施し、スラグ表面の位置を算出するユニットである。この演算処理ユニット200は、マイクロ波照射ユニット100に設けられた演算処理用のチップとして実装されていてもよく、マイクロ波照射ユニット100の外部に設けられ、マイクロ波照射ユニット100からデータの取得が可能な、各種コンピュータやサーバ等の情報処理装置として実現されていてもよい。
この演算処理ユニット200は、図4に示したように、計測制御部201と、演算処理部203と、表示制御部205と、記憶部207と、を主に備える。
計測制御部201は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、通信装置等により実現される。計測制御部201は、本実施形態に係るマイクロ波照射ユニット100による計測対象物Sの計測処理、及び、アンテナ駆動機構150によるアンテナ107の調整処理を、それぞれ統括して制御する。
より詳細には、計測制御部201は、マイクロ波照射ユニット100によって計測対象物Sのレベル位置の計測を開始する場合に、マイクロ波照射ユニット100の動作を開始させるための制御信号を出力する。
また、計測制御部201は、ユーザ操作等に応じて、マイクロ波照射ユニット100のアンテナ107の配設角度(例えば、図3右側の図における紙面に平行な面内での配設角度や、紙面に垂直な面内での配設角度)を調整するために、アンテナ107の近傍に設けられたアンテナ駆動機構150に対して、配設角度を変化させるための制御信号を出力することも可能である。これにより、本実施形態に係るレベル計10の使用者は、マイクロ波照射ユニット100で計測されるビート波の出力の具合(例えば、信号強度やS/N比等)を実際に見ながら、炉口や炉底までの離隔距離を計測したり、着目している操業における最も適したアンテナ107の配設角度を調整したりすることが可能となる。
演算処理部203は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。演算処理部203は、マイクロ波照射ユニット100から出力されたビート波の検出信号を利用してデジタル信号処理を行うことにより、転炉内におけるスラグ表面の位置を算出する演算処理を実施する。また、演算処理部203は、算出したスラグ表面の位置を、転炉における吹錬処理の経過時間毎に記録したトレンドチャートを生成することも可能である。
演算処理部203は、算出したスラグ表面の位置やトレンドチャートといった、マイクロ波照射ユニット100による計測結果を表す各種の情報を算出すると、得られた結果を表す情報を、表示制御部205に出力する。また、演算処理部203は、得られた結果を表す情報を、プリンタ等の出力装置を介して、例えば帳票のようなかたちで出力したり、転炉による操業を管理する操業管理コンピュータ等などに、得られた結果を表すデータそのものを出力したりすることも可能である。
かかる演算処理部203における演算処理の詳細については、以下で改めて説明する。
表示制御部205は、例えば、CPU、ROM、RAM、出力装置等により実現される。表示制御部205は、演算処理部203から伝送された、計測対象物Sである転炉内のスラグ表面の位置に関する計測結果を、演算処理ユニット200が備えるディスプレイ等の出力装置や演算処理ユニット200の外部に設けられた出力装置等に表示する際の表示制御を行う。これにより、レベル計10の利用者は、転炉内のスラグ表面の位置に関する計測結果を、その場で把握することが可能となる。
記憶部207は、例えば本実施形態に係る演算処理ユニット200が備えるRAMやストレージ装置等により実現される。記憶部207には、本実施形態に係る演算処理ユニット200が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、または、各種のデータベースやプログラム等が、適宜記録される。この記憶部207は、計測制御部201、演算処理部203、表示制御部205等が、自由に読み書きを行うことが可能である。
[演算処理部における演算処理について]
次に、図5を参照しながら、演算処理ユニット200が備える演算処理部203における演算処理について、詳細に説明する。図5は、本実施形態に係る演算処理部における演算処理を説明するための説明図である。
○実施される演算処理の大まかな流れについて
本実施形態に係る演算処理部203では、マイクロ波照射ユニット100から、図5の最上段に示したようなビート波の検出結果を示す信号が出力されると、まず、得られた信号をA/D変換して、デジタルデータとする。その上で、演算処理部203は、得られたビート波のデジタルデータをフーリエ変換(より詳細には、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT))し、図5の2段目に示したようなスペクトルを生成する。より詳細には、演算処理部203は、高速フーリエ変換によって得られたデジタルデータ(図5の2段目に示した、横軸がビート周波数であるスペクトル)に対して、マイクロ波照射ユニット100の設定値に基づいて決定される距離係数(上記式103の最右辺において、(cT/2F)で表される係数)を乗じ、図5の3段目に示したような距離波形を生成する。かかるフーリエ変換によって得られるスペクトルの横軸を距離に変換した距離波形は、横軸が、アンテナ107とスラグ表面の位置との間の距離に対応し、縦軸が信号強度に対応する。
ここで、マイクロ波照射ユニット100により検出されるビート波は、スラグの表面変動に由来する多くの凹凸が存在するため、図5の最上段に示したように、微小なピークの集合体として観測される。従って、演算処理部203は、距離方向の所定の長さの移動平均処理を行って、得られた距離波形を空間的に平均化する。これにより、平均化前の距離波形における局所的なピークが平坦化されて、有意なピークが強調されることとなる。図5に示した例では、図5の3段目に示したような距離波形が空間的に平均化されて、図5の最下段に示したような、平均化後の距離波形が算出される。
なお、移動平均処理を実施する距離方向の長さについては、特に限定されるものではなく、過去の操業データ等を解析するなどして適宜設定すればよいが、例えば、300〜500mm程度とすることができる。
その後、演算処理部203は、空間的に平均した後の距離波形において、予め設定した閾値以上の強度を有するピークのうち最大強度を与える距離を、スラグ表面までの距離として決定する。ここで、演算処理部203は、得られたスラグ表面までの距離を、スラグ表面の絶対レベルとしてもよいし、例えば、転炉の炉底からの高さなどのように、他の基準へと変換してもよい。なお、かかる処理に用いられる閾値についても特に限定されるものではなく、過去の操業データ等を解析するなどして適宜設定すればよい。
また、演算処理部203は、得られたスラグ表面までの距離を利用し、スラグ表面の位置と転炉における吹錬処理の経過時間とを関連付けた、いわゆるトレンドチャートを生成してもよい。かかるトレンドチャートは、例えば横軸に吹錬処理の経過時間をとり、縦軸に得られたスラグ表面のレベルをとったような、時系列経過を示したグラフ図となる。
この際、計測レベルの表面変動に起因する変動に対応するために、演算処理部203は、ピークの経時変化を一定時間幅で時間的に移動平均処理し、大局的なレベルの推移を表すトレンドチャートとすることが可能である。かかる時間的な移動平均処理の大きさについても特に限定されるものではないが、例えば、200ミリ秒程度に設定することが可能である。
更に、演算処理部203は、得られたトレンドチャート等に基づいて、スラグ表面の平均的な高さや、スラグ表面の高さの最大値や、スラグ表面の高さの最小値などといった各種の統計量を算出して、吹錬処理を特徴づける特徴量としてもよい。
以上、本実施形態に係る演算処理ユニット200の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
なお、上述のような本実施形態に係る演算処理ユニットの各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
<ハードウェア構成について>
次に、図6を参照しながら、本発明の実施形態に係る演算処理ユニット200のハードウェア構成について、詳細に説明する。図6は、本発明の実施形態に係る演算処理ユニット200のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
演算処理ユニット200は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、演算処理ユニット200は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、またはリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、演算処理ユニット200内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチおよびレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、演算処理ユニット200の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。さらに、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。演算処理ユニット200のユーザは、この入力装置909を操作することにより、演算処理ユニット200に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的または聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプなどの表示装置や、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、演算処理ユニット200が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、演算処理ユニット200が行った各種処理により得られた結果を、テキストまたはイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
ストレージ装置913は、演算処理ユニット200の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、または光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、および外部から取得した各種のデータなどを格納する。
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、演算処理ユニット200に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu−ray(登録商標)メディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、または、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
接続ポート917は、機器を演算処理ユニット200に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、演算処理ユニット200は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置919は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等であってもよい。
以上、本発明の実施形態に係る演算処理ユニット200の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
以上、図1〜図6を参照しながら、本発明の実施形態に係るレベル計測方法で用いられるレベル計の構成について、詳細に説明した。
(レベル計測方法について)
次に、図7A〜図14を参照しながら、本実施形態に係るレベル計測方法について、詳細に説明する。
<転炉製鋼プロセスについて>
まず、図7A〜図11を参照しながら、転炉製鋼プロセスについて、簡単に説明する。図7A及び図7Bは、転炉製鋼プロセスについて説明するための説明図であり、図8は、本実施形態に係る転炉製鋼プロセスについて説明するための説明図である。図9A及び図9Bは、CaCO3の反射率について説明するためのグラフ図である。図10は、マイクロ波の照射領域の大きさについて説明するための説明図である。図11は、本実施形態に係るレベル計測処理におけるマイクロ波反射層について説明するための説明図である。
転炉製鋼プロセスにおける実際の操業では、吹錬によって生じる炉内の飛散物により、転炉の炉口に部分に地金が付着していく。付着した地金によって炉口が閉塞してしまうと、炉上シュートから副原料の投入が出来なくなる等といった操業の障害となる。そのため、図7Aに示したような上吹きランスを用いることで、炉口近傍への地金の付着を抑制する方法が行われる。この方法で用いられる上吹きランス1は、転炉に挿入される側の端部に複数設けられた、転炉内に装入された鉄の溶融物(溶銑)に対して酸素含有ガスを吹き付けるための吹錬用ノズル3と、上吹きランスの炉口近傍に対応する位置の側面に設けられた、炉口付近に付着した地金に対して酸素含有ガスを吹き付けるための地金溶解用ノズル5と、を有している。地金溶解用ノズル5から噴射される酸素含有ガスによって、転炉の炉口近傍に付着した地金が融解する。酸素含有ガスによって酸化された地金(すなわち、酸化鉄FeO)は、転炉内のスラグ層へと流入し、スラグ中に溶解する。
FeOがスラグ中に溶解すると、スラグの滓化が促進されてスラグの液相率が増加するが、液相率の増加に伴いマイクロ波の反射率が低下する。そのため、従来のマイクロ波を利用したレベル計測方法では、スラグ表面からのマイクロ波の反射信号を正確に受信することが困難となり、レベル計測が出来なくなることがある。
また、転炉に挿入された溶銑を脱リン処理する際に、精錬効率の向上や歩留まりの改善を図るために、図7Bに模式的に示したように、吹錬用ノズル3から噴射される酸素含有ガスに対して粉体精錬剤を混ぜることが行われる。このような粉体精錬剤として、生石灰(CaO)が用いられる。CaOがスラグに噴射されることで、スラグの滓化が促進されるが、上記と同様に、従来のマイクロ波を用いたレベル計測が出来なくなることがある。
また、図7Aに示したような地金の溶融処理と、図7Bに示したような粉体精錬剤の使用とを併用した場合には、スラグの滓化がより一層促進され、マイクロ波を用いたレベル計測が出来なくなってしまう。
一方で、先だって言及したように、スラグの滓化が促進されると、スラグはよりフォーミングしやすくなるため、スラグレベルの計測が出来ないというのは、操業上問題となる事態である。そのため、上記のように、地金の溶融処理を行った場合や、粉体精錬剤を用いた場合であっても、マイクロ波を用いたレベル計測が可能な方法について、本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、本発明者らは、所定量の炭酸カルシウム(CaCO3)又は炭酸マグネシウム(MgCO3)の少なくとも何れか一方と、CaOと、を含む粉体精錬剤を用いることで、マイクロ波によるレベル計測信号の検出率が著しく増大するという知見を得ることができ、かかる知見をもとに本実施形態に係るレベル計測方法を完成するに至った。
本実施形態に係る転炉製鋼プロセスでは、図8に模式的に示したように、上吹きノズル1の吹錬用ノズル3の少なくとも一つから、CaCO3又はMgCO3の少なくとも何れか一方と、CaOと、を含む粉体精錬剤を、酸素含有ガスとともに噴射する。この際に、粉体精錬剤に含まれるCaCO3又はMgCO3の少なくとも何れか一方の割合を、レベル計測に利用するマイクロ波の周波数に応じた値以上とすることで、レベル計測の信号検出率を増大させることが可能となる。
本発明者らは、CaCO3又はMgCO3の少なくとも何れか一方を用いることによる信号検出率の増大は、以下のような機構によると考えている。
すなわち、CaCO3の密度は、2.71g/cm3であり、MgCO3の密度は、2.96g/cm3である一方で、スラグの主成分であるCaOの密度は、3.34g/cm3である。このような密度の違いから、吹錬用ノズル3から供給されたCaCO3/MgCO3は、スラグの表面に浮かびあがり、しばらくの間スラグの表面に存在する。その後、CaCO3/MgCO3は、周囲のスラグからの熱により、CaCO3→CaO+CO2、MgCO3→MgO+CO2の反応が生じてCaOやMgOとなり、スラグ中に拡散していく。従って、上吹きランス1から常時新たに上吹きされるCaCO3やMgCO3によって、スラグ表面の一部は、常にCaCO3やMgCO3で被覆されていることとなる。
一方、CaCO3とCaOの双方について、周波数2.45GHzのマイクロ波の反射率を、25℃から1200℃まで温度を変えながら測定した結果を、図9Aに示した。図9Aにおいて、横軸がCaCO3やCaOの温度であり、縦軸がマイクロ波の反射率である。図9Aから明らかなように、CaCO3のマイクロ波の反射率は、25℃〜1200℃までの全ての温度において、CaOのマイクロ波の反射率よりも高いことがわかる。
また、CaOを約28%含有する粉体精錬剤について、空洞共振器摂動法により誘電率を測定した後、得られた誘電率を反射率に換算することで、周波数1GHz〜10GHzの範囲で、25℃における反射率を測定した。得られた結果を、図9Bに示した。図9Bから明らかなように、周波数1GHz〜10GHzの範囲では、CaOの反射率はほとんど変化していないことがわかる。このような状態は、90GHz程度までは同様であると推定されるため、1GHz〜90GHzの範囲では、CaOの反射率の挙動は変化しないと考えられる。
以上のような知見から、転炉内部のような1000℃以上の温度域(例えば、脱リン工程中は1200〜1300℃程度、脱炭工程中は、1500〜1600℃程度の温度となる。)では、2.45GHz以上90GHz以下の電磁波に対するCaCO3の反射率は、滓化が促進したスラグの反射率に比べて大きいと考えられる。また、MgCO3は、電磁波に対してCaCO3と類似した挙動を示す物質であるため、2.45GHz以上90GHz以下の電磁波に対するMgCO3の反射率についても、滓化が促進したスラグの反射率に比べて大きいと考えられる。
そのため、吹錬用ノズル3から供給され、スラグ表面の一部を被覆しているCaCO3やMgCO3は、図8に模式的に示したように、マイクロ波反射層として機能することとなる。このマイクロ波反射層に向けてマイクロ波を照射し、スラグ表面に存在するCaCO3やMgCO3からの反射波を検出することで、レベル計測の信号検出率を増大させることが可能となる。
ここで、図3に示したようなアンテナ107からスラグ表面までの一般的な距離は、8〜22m程度である。アンテナ107から照射されるマイクロ波の最小拡散角αは、図10に模式的に示したように、アンテナ107の径(直径)φ1と、マイクロ波の周波数と、で規定される。ここで、本実施形態に係るレベル計10で用いられるアンテナ107は、開口部という大きさの限られた場所に設置されるため、アンテナ径φ1は、開口部の大きさに制限されることとなる。例えば、転炉製鋼プロセスにおいて発生するダスト等が外部に漏出することを防止するために、フードに大きな開口を設けることができないという制約上、開口部の大きさは、せいぜい300〜400mm程度に制限される。従って、アンテナ107の径φ1も、開口部の大きさが300mmの場合には、例えば250〜270mm程度となる。
アンテナから照射されるマイクロ波は、以下の式111に示した、一般的なガウシアン・ビームの伝播に従うことが知られている。ここで、下記式111において、ω(x)は、距離xでのガウシアン・ビームのビーム半径であり、ω0は、ビームウェスト半径であり、λは、マイクロ波の波長である。かかる関係を、アンテナ107から照射されるマイクロ波に適用すると、ω0は、アンテナからの距離0でのビーム半径(すなわち、アンテナの開口の半径)に相当する。下記式111を用いて、アンテナ径がφ1(=2ω0)[単位:m]の場合における、離隔距離Dの位置でのマイクロ波照射領域の径φ2(=2ω)[単位:m]を求めると、図10に示したマイクロ波照射領域の径φ2は、用いるマイクロ波の周波数f[単位:Hz]に応じて変化し、その値は、以下の式113で表わされる。ただし、以下の式113において、cは、光速である。
アンテナ107から照射されるマイクロ波の信号検出率を増大させるためには、図11に模式的に示したように、マイクロ波照射領域の径φ2が、スラグ表面に形成されるCaCO3やMgCO3によるマイクロ波反射層の径以下であることが必要である。換言すれば、マイクロ波反射層の径は、マイクロ波照射領域の径φ2以上であることが必要である。
また、スラグ表面に形成されるマイクロ波反射層の厚みが小さい場合には、マイクロ波反射層の表面に到達したマイクロ波が、CaCO3やMgCO3中を伝播して、スラグ層へと透過してしまう。マイクロ波がマイクロ波反射層を透過してスラグ層まで達してしまうと、スラグの滓化により液相率が増加しているスラグ層中にマイクロ波が吸収されてしまい、マイクロ波の信号検出率を上げることができない。このようなマイクロ波の浸透深さは、マイクロ波が浸透していく物質に応じて決まるものであるが、マイクロ波反射層の厚みがスラグ層の厚みの10%以上であれば、マイクロ波はマイクロ波反射層を透過することはない。
以上のような条件が満たされることで、スラグからのマイクロ波の反射信号強度が増大し、レベル信号の受信強度も増大する結果、レベル信号の検出率が増大する。
以上のような知見から、図11に示したようなモデルを考えることができる。すなわち、転炉の直径(=転炉内のスラグ層全体の直径)をd[m]とした場合に、以下の式115で表わされる含有量以上のCaCO3やMgCO3を、CaOを含む粉体精錬剤に対して添加することで、マイクロ波反射層がスラグ表面に好適に形成されて、レベル信号の検出率を増加させることができる。なお、以下で着目するCaCO3やMgCO3の含有量は、図11に示したようなスラグ層の全体積V0に対するCaCO3やMgCO3の含有量である。
ここで、上記式115において、
V1:CaCO3又はMgCO3の少なくとも何れか一方の含有量[体積%]
d:転炉の内径[m]
D:アンテナからスラグ面までの離隔距離[m]
φ1:アンテナの径[m]
f:マイクロ波の周波数[Hz]
c:光速[m/s]
である。
その結果、本実施形態に係るレベル計測方法では、上記式115で表わされる条件を満足するCaCO3及び/又はMgCO3含有粉体精錬剤を、酸素含有ガスとともに吹錬用ノズル3から噴射しつつ、このマイクロ波反射層に向けて、周波数2.45GHz〜90GHzのマイクロ波を照射することで、転炉製鋼プロセスにおいてスラグの滓化が促進した場合であっても、スラグレベルをリアルタイムに計測することが可能となる。なお、計測に用いるマイクロ波の周波数は、より好ましくは、10GHz〜90GHzである。
この際に、マイクロ波反射層に向けて適切にマイクロ波を照射するために、アンテナ107の近傍に設けられたアンテナ駆動機構150を用いて、マイクロ波の照射方向を適切に制御する。ここで、マイクロ波反射層がスラグ表面のどのあたりに形成されるかについては、吹錬用ノズル3の設計条件等を検討して酸素含有ガスの噴射範囲等を特定することで、事前に把握することが可能である。
また、上記式115におけるアンテナからスラグ面までの離隔距離Dについては、過去の操業データ等を参照しながら、公知の統計処理等を行うことで、適切な値を算出することが可能である。また、上記のようにして静的な値を決定するのではなく、リアルタイムに計測されたスラグ面までの離隔距離をフィードバックさせることで、離隔距離Dを動的に変化させることも可能である。
例えば、転炉の内径dが6mであり、離隔距離Dが一般的なスラグ表面までの距離である8mであり、マイクロ波の周波数が90GHzである場合には、上記式115に基づく体積含有量V1の値は、0.022体積%となる。
なお、噴射されるCaCO3やMgCO3がスラグ中で酸化物及び二酸化炭素へと変化する上記の反応は吸熱反応であるため、かかる反応が進行しすぎると、スラグの温度が低下して転炉製鋼プロセスの操業条件が変化してしまうため、好ましくない。また、スラグの温度が低下することでスラグの粘度が上昇し、スラグの流動性も低下してしまう。本発明者らの検討によれば、CaCO3やMgCO3を5質量%程度スラグ中に添加してしまうと、スラグの粘度の上昇が生じ始め、スラグの温度が低下していく。
5質量%に対応するCaCO3の含有量を上記のCaCO3の密度を用いて計算すると、6.0体積%となり、5質量%に対応するMgCO3の含有量を上記のMgCO3の密度を用いて計算すると、5.6体積%となる。従って、粉体精錬剤にCaCO3が含有される場合に、上記CaCO3の含有量V1は、6.0体積%以下であることが好ましく、粉体精錬剤にMgCO3が含有される場合に、上記MgCO3の含有量V1は、5.6体積%以下であることが好ましい。また、粉体精錬剤にCaCO3及びMgCO3が含有される場合には、CaCO3の含有量が6.0体積%未満であり、MgCO3の含有量が5.6体積%であり、かつ、上記CaCO3及びMgCO3の含有量の合計が、6.0体積%以下であることが好ましい。CaCO3/MgCO3の含有量V1は、より好ましくは、それぞれ3.0体積%以下、及び、2.8体積%以下であり、CaCO3及びMgCO3の合計の含有量は、より好ましくは、3.0体積%以下である。CaCO3又はMgCO3の少なくとも何れか一方の含有量を上記のより好ましい上限値以下とすることにより、スラグの温度低下をより確実に抑制しつつ、スラグレベルの測定をより確実に実施することが可能となる。
<マイクロ波の照射方法について>
本発明者らは、本発明に係るレベル計測方法について検証を続けるなかで、図12に示したように、アンテナ107から斜め方向に、一部が上吹きランス1の側壁に照射されるようにマイクロ波をマイクロ波反射層に向けて照射すると、アンテナ107に戻ってくる反射波の割合が著しく増加することに想到した。本発明者らは、その理由について検討を行った結果、図13Aに示したように、マイクロ波反射層とランス側壁とで、いわゆるコーナーキューブミラーが擬似的に実現されるためであるとの結論に至った。
コーナーキューブミラーとは、2次元の場合を考えると、図13Bに示したように2枚のミラー(鏡)を直角に組み合わせたものである。いま、図13Bに示したように、P1方向から進行してきたマイクロ波が、入射角θで下部のミラーのP2に入射したものとする。その場合、マイクロ波は、反射角θでP2からP3に向かって反射する。ここで、2つのミラーは直角に組み合わされているため、P2での反射波は、入射角(90−θ)でもう一方のミラーにP3で入射し、反射角(90−θ)で反射する。図13Bに示した幾何学的な位置関係から明らかなように、直線P1−P2と、直線P3−P4とは、互いに平行となるため、結局、P1から進行してきた入射波は、P4から入射方向に向かって戻っていくこととなる。
同様に、P4方向から進行してきたマイクロ波が、入射角(90−θ)で側方のミラーのP3に入射したものとする。その場合、マイクロ波は、反射角(90−θ)でP3からP2に向かって反射する。ここで、2つのミラーは直角に組み合わされているため、P3での反射波は、入射角θでもう一方のミラーにP2で入射し、反射角θで反射する。その結果、P4から進行してきた入射波は、P1から入射方向に向かって戻っていくこととなる。
このとき、入射波と反射波とは、図13Bに示したように、大きさDoffだけ位置ズレが生じることとなる。
なお、幾何学的な位置関係から明らかなように、上記のような入射波−反射波の関係は、いずれの方向から波が入射した場合であっても同様であり、入射角θには依存しない。
従って、図13Aに示したように、マイクロ波をマイクロ波反射層とランス側壁の双方に照射されるように、斜め方向に向かって照射することで、マイクロ波反射層に入射したマイクロ波はコーナーキューブミラーによってランス側壁で反射してアンテナ107の方向(すなわち、開口部方向)に戻り、ランス側壁に入射したマイクロ波はマイクロ波反射層で反射してアンテナ107の方向に戻ることとなる。
この際、図13Bに示したように、P1−P2で表される波の進行方向と、P3−P4で表される波の進行方向とは、大きさDoffだけ位置ズレが生じている。従って、このオフセット分Doffが存在したとしても、アンテナ107でオフセット分を含めて受信できるように、アンテナ107の傾き度合いを決めることが好ましい。
アンテナ107の傾き度合いと反射波の受信度合いとの関係は、実機を利用して実際に測定することで検証することも可能であるし、公知の有限要素法による電磁場解析等のシミュレーションを利用して理論的に求めることも可能である。シミュレーションを利用して上記の関係を求める場合、アンテナ107からガウスビーム形状の入射波がマイクロ波反射層に向かって拡散しながら進行していくものとし、アンテナ107に戻ってくる反射波の強度を算出すればよい。このようにして得られた知見に基づいて、上記のようなアンテナ107の傾き度合いを決定すればよい。
<レベル計測方法の流れについて>
続いて、図14を参照しながら、本実施形態に係るレベル計測方法の流れについて、簡単に説明する。図14は、本実施形態に係るレベル計測方法の流れの一例を示した流れ図である。
本実施形態に係るレベル計測方法では、まず、転炉製鋼プロセスに用いられる上吹きランスを介して、CaCO3/MgCO3含有粉体精錬剤が、酸素含有ガスとともに噴射される(ステップS101)。この際に、CaCO3又はMgCO3の含有量は、上記式115に示した含有量以上となるように、予め調整されている。
その後、本実施形態に係るレベル計10のマイクロ波照射ユニット100及びアンテナ駆動機構150が稼働されて、マイクロ波反射層に向けてマイクロ波が照射される(ステップS103)。この際に、上記のようなコーナーキューブミラーを疑似的に実現させるために、照射されるマイクロ波の一部が上吹きランスの側面にも照射されるようにアンテナ107の角度を調整することが好ましい。これにより、マイクロ波反射層からのマイクロ波の反射波と照射したマイクロ波との差周波信号(すなわち、ビート波)が検出される(ステップS105)。マイクロ波照射ユニット100は、得られたビート波に対応する信号を、演算処理ユニット200に出力する。
演算処理ユニット200の演算処理部203は、マイクロ波照射ユニット100から出力されたビート波に対応する信号に対して、A/D変換を実施し(ステップS107)、ビート波のデジタルデータを生成する。その後、演算処理部203は、ビート波のデジタルデータをフーリエ変換して周波数に関するスペクトルを生成し、得られた変換結果に距離係数を乗じることで距離波形を算出する(ステップS109)。
続いて、演算処理部203は、得られた距離波形を空間的に平均化した後(ステップS111)、所定の閾値以上の強度を有するピークのうち、最大ピークを与える距離を、スラグ表面(より正確には、スラグ表面に存在するマイクロ波反射層)までの距離として特定する(ステップS113)。
また、演算処理部203は、得られたスラグ表面までの距離を一定時間幅で移動平均処理することで時間平均化した後(ステップS115)、トレンドチャートを生成する(ステップS117)。次に、演算処理部203は、得られたトレンドチャート等を利用して、スラグ表面の平均レベル、最大レベル、最小レベル等といった各種の特徴量を算出する(ステップS119)。その後、演算処理部203は、得られた結果を出力する(ステップS121)。
以上、図14を参照しながら、本実施形態に係るレベル計測方法の流れの一例を簡単に説明した。
以下では、実施例を示しながら、本発明の実施形態に係るレベル計測方法について、具体的に説明する。なお、以下で示す実施例は、本発明に係るレベル計測方法のあくまでも一例であって、本発明に係るレベル計測方法が、以下に示す例に限定されるものではない。
本実施例では、マイクロ波照射ユニット100として、中心周波数79GHz、変調幅±2GHz以上のマイクロ波を用いた公知のFM−CW方式のユニットを利用し、転炉にて実施された実際の操業の様子を計測した。なお、アンテナ107は、250mmφのアンテナ径を有するカセグレン型又はホーン型のものを利用した。かかるアンテナ107において、拡散角は1度以下である。かかるマイクロ波照射ユニット100から照射されるマイクロ波の発振出力は100mW以上であり、変調周期は0.02秒である。また、転炉の内径dは、3mであった。
吹錬が開始されると同時に、CaCO3を0.22体積%含有したCaOを主体とする粉体精錬剤を上吹きランス1から酸素含有ガスと共に上吹きするとともに、炉口に付着した地金融解を行いつつ、転炉内部へマイクロ波を照射した。なお、上記式115により算出される含有量V1の値は、0.096体積%である。
発振したマイクロ波は、方向性結合器(又は分配器)105によって検出器側に一部分配され、残りは、アンテナから大気中に放射された。CaCO3からなるマイクロ波反射層で反射されたマイクロ波のうち、マイクロ波照射ユニットに向かう方向の成分のみがアンテナ107で集波され、方向性結合器105を通った後、ミキサ109により分岐波とミキシングされ、検出器111で検波された。混合された信号の差周波成分(ビート信号)と周波数変調との同期信号を、マイクロ波照射ユニット100の外部に設けられたコンピュータのA/D変換ボードに入力し、デジタルデータとしてコンピュータに取り込ませた。
コンピュータに入力されたビート信号は、FFT処理を施されて周波数スペクトルが生成され、式103によって横軸が距離である波形に変換され、距離波形が得られた。この際、予め設定した閾値以上のピークのうち最大強度のものを、スラグの表面レベルとして検出した。その上で、ピークの継時変化を200ミリ秒程度の時間幅で移動平均処理し、図15Aに示したトレンドチャートを得た。
また、比較のため、CaCO3を含有しないCaOを主体とする粉末精錬剤を上吹きランスから酸素含有ガスと共に上吹きし、地金融解を同時に行った際のトレンドチャートを生成させて、図15Bに示した。
なお、図15A及び図15Bにおいて、各時刻におけるスラグの表面レベルの計測値を点で示している。また、距離波形からピークが検出できなかった(すなわち、レベル計測できなかった)間は、空白となっている。
図15Aから明らかなように、得られたトレンドチャートでは、転炉内におけるスラグの表面レベルの推移がリアルタイムで把握可能である。かかるトレンドチャートを利用することで、吹錬操業において、吹錬初期では送酸量を増やしてフォーミングを促進し、レベルが一定値になると鎮静剤を投入するアクションを取ることが可能となった。また、かかるトレンドチャートを利用することで、短時間の表面変動も含めてリアルタイムにスラグの表面レベルを把握できるため、ランス高さや送酸量のきめ細かな制御ができ、スピッティングを抑制することによる歩留まり向上やスロッピング予防が可能になった。
一方、CaCO3を含有しない粉末精錬剤を上吹きした図15Bでは、ほとんど計測が行えていないことがわかる。図15Aと図15Bとの比較から明らかなように、CaCO3含有粉末精錬剤を上吹きランスから酸素含有ガスと共に上吹きすることによって、スラグ表面のレベル計測が常時可能となることが明らかとなった。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。