以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
電子回路基板は、一般的に複数の層から構成される。例えば、マイクロストリップ線路のような伝送線路の場合、信号線とグランド導体とが異なる層に配置され、信号線において信号が伝送される。しかしながら、この場合、信号線にノイズが混入し、ノイズも電子回路基板を伝搬してしまうことがある。これに対して、電磁バンドギャップ(EBG)構造によれば、信号線に混入するノイズについて、特定の周波数帯域の成分を抑圧することができる。これにより、例えば特定の周波数の信号に由来するノイズを効果的に抑圧することが可能となる。以下の実施形態では、従来提案されてきたEBG構造が小型化という点で十分ではなかったことに鑑みて、小型のEBG構造についていくつかの例を示す。
まず、本実施形態に係るEBG構造について説明する前に、一般的なEBG構造の動作原理を説明する。特定の周波数帯域において電磁波の伝搬を阻止するEBG構造は、その等価回路が図1(a)又は(b)のようになる構造体によって実現される。本実施形態では、等価回路が図1(a)のようになる構造体について説明する。
図1(a)の等価回路は、平行に配置された信号線とグランド導体との間に、一端がグランド導体と接続し、もう一端が開放端である導体を配置された構造体により実現できる。これを、従来のEBG構造を用いて説明する。図2(a)は、従来のEBG構造の概略図であり、図2(b)は、図2(a)のEBG構造のY−Z平面の断面図である。このEBG構造は、信号線201及びグランド導体203が配置される層と異なる層に配設される一端が開放端の導体204と、導体204の開放端でない側の一端とグランド導体203とを電気的に接続する導体ビア205と、誘電体206とを含む。ここで、以下では、EBG構造から信号線と誘電体とを除いたものを単位セル構造と呼ぶ。例えば、図2(b)の破線で囲われた導体部分が単位セル構造202である。
導体204と、導体204に接続される導体ビア205とで構成されるオープンスタブは、信号線201と、グランド導体203との間に配置される。一般的に、オープンスタブのインピーダンスは、
(式1)
で表わされる。なお、Zはオープンスタブのインピーダンス、Z0は特性インピーダンス、βはβ=λ/2πで表される位相定数、dはオープンスタブの長さ、そして、λは波長である。
図3は、式1で示したインピーダンスの虚部の値とオープンスタブの長さとの関係を示すグラフである。図3から、オープンスタブの長さに応じて、インピーダンスの虚部における値の正負が入れ替わることが分かる。すなわち、このようなオープンスタブは、インピーダンスの虚部が正である時にインダクタンスとして、負の時にキャパシタンスとして動作する、すなわち、長さに応じてインダクタンス又はキャパシタンスとして動作することとなる。このような挙動を示すオープンスタブを、図2の導体204および導体ビア205で構成し、それを信号線201とグランド導体203との間に配置する。そして、導体204および導体ビア205の全長を適切な長さにすることで、前述の図1(a)の等価回路の並列アドミタンス部を実現することができる。また、図1(a)の直列インピーダンス部は、図2に示す信号線201のインダクタンス成分で実現されうる。したがって、図2の構造体は、その等価回路が図1(a)のようになり、EBG構造として動作することができる。
本実施形態では、図2のような構造体をさらに小型化するためのいくつかの構造体の構成例について説明する。
<<構成例1>>
(単位セル構造の構成例)
図4(a)及び(b)はEBG構造の単位セルの構成例を示す図であり、図4(c)及び(d)はEBG構造の別の単位セルの構成例を示す図である。図4(a)は、4層プリント基板に構成されたEBG構造の単位セルの構造体を図解する概略図である。図4(b)は、図4(a)の単位セル構造のY−Z平面の断面図である。単位セル構造401は、グランド導体402とスパイラル状の導体403並びに404、及び、導体ビア405並びに406とを含んで構成される。また、単位セル構造401は、誘電体407内に構成される。
本構造体では、内層の第1のスパイラル状の導体403は、導体ビア405を介して、内層の第2のスパイラル状の導体404と接続され、最下層のグランド導体402は、導体ビア406を介して、第2のスパイラル状の導体404と接続されている。すなわち、導体ビア406、第2のスパイラル状の導体404、導体ビア405、及び第1のスパイラル状の導体403が順に直列に接続されており、一端がグランド導体と接続し、他の一端が開放端である導体が複数の層に跨って形成されている。
さらに、図4(a)及び(b)の構造体において、導体ビア406を貫通ビアとした場合の単位セル構造の構成例を図4(c)及び(d)に示す。導体ビア406を貫通ビアとすることにより、コスト削減を図ることができる。図4(c)は、単位セル構造の構造体を図解する概略図であり、図4(d)は、図4(c)の単位セル構造のY−Z平面の断面図である。単位セル構造408は、グランド導体409とスパイラル状の導体410並びに411、内層導体ビア412、及び貫通導体ビア413とを含んで構成される。また単位セル構造408は、誘電体414内に構成される。
例えば無線LANで使用される周波数帯である2.4GHz帯でEBGとして動作する(すなわち、2.4GHz帯の電磁波の伝播を遮断する又は減衰させる)ように単位セル構造を設計すると、図1の構成では導体204の長さが13mmの長さとなる。一方、図4(c)及び(d)の構成で、一般的な4層構造のFR−4基板上に単位セル構造を設計すると、その単位セル構造のサイズは1.6mm×1.6mmで足りる。このように、図4(a)〜(d)で示す構造体が形成される基板における面積を小型化しながらも、EBG構造における導体の線長を確保することができる。
図5に、信号線501の線路下に単位セル構造408を配置した構成を示す。単位セル構造408は誘電体414内に構成される。ここで、単位セル構造408は、2.4GHz帯でEBGとして動作する(すなわち、2.4GHz帯の電磁波の伝播を遮断する又は減衰させる)ように設計されたものが用いられるものとする。図5(a)は、信号線の線路下に単位セル構造408を配置した概略図であり、図5(b)は、図5(a)の拡大断面図である。なお、信号線501と単位セル構造408は、互いに導通することが無いよう配置される。なお信号線501の導体幅aは、2.4GHz帯で特性インピーダンスがおよそ50Ωとなるように約1.5mmとし、長さbを30mmと設定した。グランド導体502は、導体幅b及びcともに30mmとした。また、基板厚は約0.8mmとした。
このときの信号線501をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数S21の解析結果を図5(c)に示す。図5(c)から、図5(a)及び(b)の構成において、信号線を伝播する電磁波は、2.4GHz帯で透過係数S21が約−10dBとなっており、設計通り、2.4GHz帯の電磁波を充分に減衰させていることが分かる。
なお、図4(c)及び(d)に示した単位セル構造408は、内層導体ビア412を用いているが、貫通ビアが用いられてもよい。なお、図5(a)及び(b)に示すような電子回路基板の信号線下に配置する場合、その内層導体ビア412に代えて用いられる貫通ビアが信号線501及びグランド導体502と導通しないように、信号線及びグランド導体にクリアランスを設けてもよい。
なお、本構成例では、基板の2つの層にスパイラル状の導体を構成したが、さらに多くの層を用いて、前述と同様の原理で線長を確保することによって、EBG構造体のさらなる小型化が可能である。さらに、本構成例では、導体の形状にスパイラル形状を用いたが、これに限られず、例えば、導体の線長を確保することができるように、メアンダ形状等の曲線形状を複数の層で構成するようにしてもよい。なお、曲線形状とは、本実施形態及び特許請求の範囲にわたって、円弧状などのように、直線部分を含まない形状のみならず、図4(a)〜(d)の構造体のように、直線部分が含まれるが少なくとも1点において曲がる形状をも含む。
(単位セル構造の配置位置による特性の調整手法)
続いて、単位セル構造と信号線との間に生じる電磁的な結合、及び単位セル構造とグランド導体との間に生じる電磁的な結合が、単位セル構造のサイズ、遮断周波数及び透過係数S21に影響を及ぼすことを示す。すなわち、単位セル構造と信号線又はグランド導体との間の結合を考慮することにより、実装条件に合った、適切な単位セル構造を設計することが可能となることを示す。
図5(a)及び(b)の構成において、単位セル構造408を信号線501に対してX軸方向にずらしたときの特性の変化について説明する。図6(a)は、図5(a)の、単位セル構造408付近の平面拡大図である。図6(a)に示すように、単位セル構造408のスパイラル状の導体410の開放端部と、信号線501のX軸方向の基準点との距離をeとする。また、信号線501の導体幅aは0.2mmである。図6(a)から分かるように、eの距離が小さいほど、単位セル構造408の開放端部と信号線501のX軸方向の基準点との距離が近くなる。
図6(b)に、eを0mm、0.3mm、0.6mmと変化させた時の、信号線501をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数(S21)の解析結果を示す。図6(b)において、参照番号601、602及び603が付された曲線は、それぞれ、eが0mmの場合、0.3mmの場合、及び0.6mmの場合の解析結果である。図6(b)から、単位セル構造408のスパイラル状の導体410の開放端部と信号線501との距離eが0.3mmの時と0.6mmの時では、減衰量、遮断周波数において大きな変化は見られない。しかし、eが0mmの時、すなわち、開放端部が信号線501とグランド導体502との間に配置される場合は、eが0.3mm、0.6mmの時と比べ、電磁波の減衰量が大きくなり、かつ、遮断周波数が低域に移動する。
これは、単位セル構造408のスパイラル状の導体410の開放端部と、信号線501との間に生じる電磁的な結合が関係している。すなわち、単位セル構造408の導体410の開放端部と、信号線501の間に生じる電磁的な結合が強いほど大きな電磁波の減衰量を得ることができ、また遮断周波数を低域に移動させる効果がある。
一般的に、2つの導体間の電磁的な結合は、その2つの導体間の距離が短いほど、強くなる。すなわち、本構成例では、スパイラル状の導体410の開放端部と信号線501との距離eが短いほど、スパイラル状の導体410の開放端部と信号線501との間に生じる電磁的な結合が強くなる。そして、この結果、これに伴って、スパイラル状の導体410の開放端部と信号線501との距離eが短いほど、電磁波の減衰量が大きくなると共に遮断周波数が低域に移動する。なお、ここでの「電磁的な結合」とは、静電結合(容量結合)、磁気結合(誘導結合)、又はこれらの両方が混在する電磁結合を含む。本実施形態及び特許請求の範囲にわたって、このような状態を含めて「電磁的な結合」と表現する。
次に、図5(a)及び(b)に示した信号線501の導体幅aを0.5mm、1mm、1.52mmと変化させたときの信号線501をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数(S21)を図6(c)に示す。図6(c)において、参照番号604、605及び606が付された曲線は、それぞれ、aが0.5mmの場合、1mmの場合、及び1.52mmの場合についての解析結果である。
図6(c)から、信号線501の導体幅aが大きくなるにつれて、減衰量が大きくなり、かつ、遮断周波数が低域に移動していることが分かる。これも、単位セル構造408のスパイラル状の導体410の開放端部と、信号線501との間に生じる電磁的な結合が関係している。すなわち、単位セル構造408の導体410の開放端部と、信号線501との間に生じる電磁的な結合は、その結合が強いほど大きな電磁波の減衰量を得ることができ、また遮断周波数を低域に移動させる効果がある。一般的に、2つの導体間の電磁的な結合は、その近接する2つの導体間の距離が一定の場合、面積が大きいほど、強くなる。本構成例では、スパイラル状の導体410の開放端部と信号線501とが近接する面積、すなわち、信号線501の導体幅が大きいほど、スパイラル状の導体410の開放端部と信号線501との間に生じる電磁的な結合が強くなる。そして、これに伴って、信号線501の導体幅が大きいほど、電磁波の減衰量は大きくなり、かつ、遮断周波数は低域へと移動する。なお、上述の例では、信号線501の導体幅を大きくする場合について述べたが、これと同様の効果を、スパイラル状の導体410の開放端部近傍の導体幅を大きくすることでも得ることができる。また、ここでの説明では、開放端部が、電界が集中することにより大きな電磁的な結合を得られやすい箇所であるため、スパイラル状の導体410の開放端部近傍における電磁的な結合を例にして説明を行った。しかしながら、開放端部近傍以外の部分においても電磁的な結合を得ることができ、その電磁的な結合を調整することにより、EBG構造としての特性を調整することができる。
以上のように、スパイラル状の導体410の開放端部と、信号線501との間に生じる電磁的な結合は、導体410の開放端部と信号線501との距離を短くし、又はこれらが近接する部分の面積を大きくする等によって大きくすることができる。そして、電磁的な結合を強くすることにより、EBG構造による電磁波の減衰量を大きくし、かつ、遮断周波数を低域に移動させることができる。したがって、例えば、単位セル構造の配置を調整することにより、所望の遮断周波数において、電磁波の減衰量を十分な大きさとすることが可能となる。
なお、以下の他の構成においても、同様に、単位セル構造の位置を変更することにより、信号線と単位セル構造との電磁的な結合の大きさを調整し、その結果、遮断周波数や電磁波の減衰量を調整することができる。
<<構成例2>>
構成例1では、スパイラル状の導体410の開放端部が形成される層が、信号線501が配置される層に近接するような、単位セル構造について説明した。本構成例では、導体410の開放端部が形成される層が、グランド導体が形成される層に近接する単位セル構造について説明する。
図7(a)及び(b)は、本構成例に係る単位セル構造を示す図である。図7(a)は本構成例の単位セル構造の概略図であり、図7(b)は、図7(a)構造のY−Z平面の断面図である。単位セル構造701は、グランド導体702、スパイラル状の導体703並びに704、及び導体ビア705並びに706を含んで構成される。また、単位セル構造701は、誘電体707内に構成される。
内層の第1のスパイラル状の導体704は、導体ビア705を介して、内層の第2のスパイラル状の導体703と接続され、最下層のグランド導体702は導体ビア706を介して内層の第2のスパイラル状の導体703と接続される。導体ビア706、内層の第2のスパイラル状の導体703、導体ビア705、内層の第1のスパイラル状の導体704が順に直列に接続される構造となり線長を確保しながら小型化することが可能である。構成例1の単位セルとは、第1のスパイラル状の導体704が、信号線が形成される層よりもグランド導体702の層に近接した層に形成されており、すなわち、第1のスパイラル状の導体704の開放端部がグランド導体702に近接している点で異なる。
図7(a)及び(b)の構造体を、構成例1と同様の一般的な4層構造のFR−4基板上に、無線LAN周波数帯の2.4GHzでEBGとして動作するように設計すると、単位セル構造の大きさは1.6mm×1.4mmとすることができる。このことから、図7(a)及び(b)の構造体が、図4(c)及び(d)に示した単位セル構造よりさらに小型化されていることが分かる。
図7(c)に、その単位セルを信号線501の下に配置した場合の、信号線501をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数S21の解析結果を示す。なお、図7(c)の解析結果は、信号線幅、グランド導体幅及び基板厚が構成例1に関して図5(a)〜(c)を用いて説明したものと同様の条件で得られた結果である。図5(c)の解析結果と図7(c)の解析結果とを比較すると、図7(c)の2.4GHz帯における透過係数S21の方が、約7dB大きくなる、すなわち、構成例1の方が電磁波をより強く遮断していることが分かる。
図4(c)及び(d)に示した単位セル構造408では、電界のエネルギーが集中する開放端部が信号線501近傍に存在するため、開放端部と信号線501との間で大きな電磁的な結合が得られる。これに対し、図7(a)及び(b)に示した単位セル構造では、電界のエネルギーが集中する開放端部がグランド導体702近傍に存在するため、開放端部とグランド導体702との間でより大きな電磁的な結合が得られる。これにより、図7(a)及び(b)の単位セル構造の方が、図4(c)及び(d)の単位セル構造と比べ、電磁波の遮断能力は劣るが小型化が可能となったと考えられる。
以上のように、図7(a)及び(b)の構造により、電磁波の減衰量は大きくないものの小型化されたEBG構造が実現される。これにより、例えばEBG構造に求められる仕様として、減衰量がある程度小さくても良いから単位セル構造を小型化したいという要求に応えることが可能となる。すなわち、電子回路内のEBG構造として、大きさに強い制約はないが電磁波の減衰量を大きくしたい場合は図4(c)及び(d)の構造を、一方で、減衰量は小さくてよいが大きさに強い制約がある場合は図7(a)及び(b)の構造を、それぞれ採用できる。
なお、図4(a)〜(d)及び図7(a)及び(b)の構成では、スパイラル形状の導体は、全てグランド導体が形成される層と信号線が形成される層との間に配置されているが、これに限られない。例えば、導体404、411及び704は、グランド導体が形成される層と同じ層に構成されてもよい。これにより、EBG構造を実現するのに必要な層数を減らすことができる。
(導体の向きと遮断周波数との関係)
上述の構成例1及び2では、2つの層に形成されるスパイラル状の導体の回転方向が、同一方向である場合のEBG構造の単位セル構造の構造体を示した。ここで、この回転方向が単位セル構造の特性に与える影響について説明する。ここで、説明のための構造体として、図8(a)及び(b)の構造体を用いる。
図8(a)は、2つの各層に構成されたスパイラル状の導体の回転方向が同一方向である単位セル構造を示す図である。図8(a)では、第2のスパイラル状の導体804の導体ビア805に接続されている点から第1のスパイラル状の導体803の開放端部へ向かう方向で考えると、第1のスパイラル状の導体803及び第2のスパイラル状の導体804の回転方向は同じである。
一方、図8(b)は、2つの各層に構成されたスパイラル状の導体の回転方向が逆方向である単位セル構造を示す図である。なお、図8(b)の単位セル構造の各導体部を合わせた全長は、図8(a)の各導体部を合わせた全長とほぼ変わらないように構成されている。図8(b)では、第2のスパイラル状の導体810の導体ビア811に接続された点から第1のスパイラル状の導体809の開放端部に向かう方向で考えると、第1のスパイラル状の導体809及び第2のスパイラル状の導体810の回転方向は逆方向である。
なお、図8(a)及び(b)では、単位セル構造の各層に構成されたスパイラル導体の回転方向による特性の違いをより明確に理解できるように、構成例1及び2の構造体よりも、各層に構成されたスパイラル導体間の距離、すなわち層間の距離を短くしている。
図8(a)及び(b)の単位セル構造を、図5(a)及び(b)のように信号線の下にそれぞれ配置したときの、信号線501をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数(S21)の解析結果を図8(c)に示す。なお、本解析では、信号線幅、グランド導体幅及び基板厚として、構成例1で説明した値と同様のものを用いた。図8(c)では、参照番号814の付された曲線が図8(a)の単位セル構造を配置した場合の解析結果を示し、参照番号815の付された曲線が図8(b)の単位セル構造を配置した場合の解析結果を示す。
図8(c)から、図8(a)の単位セル構造の方が、図8(b)の単位セル構造よりも低域側に遮断周波数を有していることが分かる。すなわち、図8(a)と図8(b)とでは、単位セル構造の各導体部を合わせた全長はほぼ変わらないにもかかわらず、各層に構成されたスパイラル導体の回転方向の違いによって、遮断周波数が異なる。より具体的には、図8(a)の構造では、図8(b)の構造より短い線長で、同じ遮断周波数を持つEBG構造を設計することが可能である。
図8(a)の構成では、2つのスパイラル状の導体803及び804のそれぞれの回転方向が同じであるため、EBGとして動作する周波数帯近傍において、重なり合った2つのスパイラル状の導体に流れる電流の向きも同じ方向となる。このため、電流が流れたときにそれぞれの導体が形成する磁界も同じ向きとなるため、磁界を互いに強めあう効果が発生し、効果的にインダクタンス成分が増加する。一方、上述のように、図8(b)の構成では、2つのスパイラル状の導体809及び810のそれぞれの回転方向が逆であるため、EBGとして動作する周波数帯近傍において、重なり合った2つのスパイラル状の導体に流れる電流の向きも逆の方向となる。このため、それぞれの導体が形成する磁界も逆の向きとなるため、互いに打ち消しあい、インダクタンス成分が図8(a)の構造に比べて低下する。このため、図8(a)の構造により、図8(b)の構造より短い線長で、同じ遮断周波数を持つEBG構造を設計することができるものと考えられる。
以上のように、各層に構成されるスパイラル状の導体構造を、回転方向を合わせることで、さらなる単位セル構造の小型化が可能となる。なお、ここではスパイラル状の導体におけるベクトルの回転方向を同じ方向にすることで電流の向きが同じ方向になる構成を示したが、これに限られない。例えば、メアンダ形状等の形状を採用する場合であっても、電流の向きが同じ方向となるように複数の層において線状導体を形成することで、これらの線状導体が形成する磁界が互いに強めあう関係となり、EBG構造を小型化することが可能となる。
(複数の単位セル構造の配置と特性との関係)
続いて、上述の単位セル構造を信号線路下に複数配置し、配置する単位セル構造の個数および配置する間隔によって与えられる減衰量の影響について評価する。評価では、図9(a)及び(b)に示す構成が用いられるものとする。図9(a)は、信号線901の下に、図4(c)及び(d)に記載の単位セル構造408をY軸方向に複数配置した図であり、図9(b)は、図9(a)の構成をZ方向から見たときの平面図である。図9(a)及び(b)に示すように、本構成は、信号線901、グランド導体902、誘電体903、複数の単位セル構造408を含んで構成されている。
図9(a)及び(b)では信号線901の下に単位セル構造408が2つ配置されているが、この単位セル構造408の数を変化させて評価を行った。単位セル構造408の個数を1個、2個、3個と変化させた時の信号線901をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数(S21)の解析結果を図9(c)に示す。参照番号904〜906がそれぞれ付された曲線は、それぞれ、配置する単位セル構造が1個の時、2個の時、及び3個の時の解析結果である。図9(c)から、単位セル構造408をY軸方向に増やすことで、電磁波の減衰量が大きくなることが分かる。このように、信号線の下に配置する単位セル構造の個数を増やすことで、信号線を伝播する特定の周波数帯の電磁波の減衰量を大きくすることができる。
次に、図9(b)に示されるように、単位セル構造408を複数個配置した時の単位セル構造間距離をfとして、fを変化させて評価を行った。図9(d)に、3つの異なるfに対する解析結果を示す。図9(d)において、参照番号907〜909がそれぞれ付された曲線は、それぞれ、単位セル構造間距離fが3.6mm、18.0mm、25.2mmである場合の、信号線901をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数(S21)の解析結果である。図9(d)から、fが18.0mmの時の解析結果(曲線908)の特性は、所望の周波数帯での減衰量が最も大きく、その他の特性と比べて良好な電磁波遮断特性が得られており、通過域特性においてもその他の特性と比べて良好であることが分かる。これは、所望の遮断周波数帯の電磁波が単位セル構造間の信号線を伝播する時、単位セル構造間の距離をその電磁波の電気長(λ)の約1/4の長さとすることで、その信号線がイミッタンスインバータの役割を果たすこととなるからであると考えられる。すなわち、所望の遮断周波数帯の電磁波が信号線を伝播する時の電気長をλとするときに、単位セル構造の間隔を約λ/4の長さとすることで、良好な通過域特性および遮断特性を得ることができる。
このように、電子回路においては、単位セル構造の配置個数とその配置間隔とを調整することにより、EBG構造としての特性を調整することができる。
(導体プレーンの間を伝播する電磁波に対する遮断特性)
ここまで、信号線の下に単位セル構造を配置した場合の特性について説明した。しかし、電子回路基板は一般的に層構成になっており、その電子回路基板においては、各層に構成された導体プレーンの間を伝播するノイズが問題となることがある。そこで、続いて、信号線を伝播する電磁波のみならず、導体プレーンの間を伝播する電磁波に対する特性を評価した。
本評価では、図10(a)に示すような構成を用いた。図10(a)の構成は、平板状の導体である導体プレーン1001並びにグランド導体プレーン1002、誘電体1003、及び複数の単位セル構造408を含んでいる。なお、導体プレーン1001には、単位セル構造408と導通しないように、図4(c)及び(d)に示す貫通導体ビア413の部分にクリアランスを設けている。ここで用いられる単位セル構造は、無線LANで使用する周波数帯である2.4GHz帯でEBGとして動作するように設計されている。ここで、導体プレーン1001とグランド導体プレーン1002との間に配置される単位セル構造408は、構成例1で説明した単位セル構造と構造は同じであるが、スパイラル状の導体部の全長を調整する必要がある。これは、単位セル構造と導体プレーンとの間に生じる結合と、単位セル構造と信号線との間に生じる結合では、結合の量が異なるからである。
この時の導体プレーン1001をY軸方向に伝わる電磁波の透過係数(S21)を図10(b)に示す。図10(b)では、参照番号1004及び1005が付された曲線は、それぞれ、導体プレーン1001とグランド導体プレーン1002との間に単位セル構造408が配置された場合と配置されない場合との特性を示す。図10(b)から、導体プレーン1001とグランド導体プレーン1002との間に単位セル構造408を配置することにより、所望の周波数帯の電磁波を遮断することができることが分かる。
なお、ここでは、図10(a)に示すように、Y軸方向に1列のEBG構造を配置した場合について説明したが、図9(a)及び(b)に示すように単位セル構造の列数を増やすことで、減衰量を大きくすることができる。また、その際に、単位セル構造の列の間隔を約λ/4に調整することで、所望の通過域特性および遮断特性を得ることができる。なお、ここでは、導体プレーン間に図4(c)及び(d)に示す単位セル構造408を配置する場合について説明したが、図7(a)及び(b)に示す単位セル構造701を配置しても所望の周波数帯の電磁波を遮断することができる。
<<構成例3>>
本構成例の単位セル構造について、図11(a)及び(b)を用いて説明する。図11(a)に単位セル構造の構成を示し、図11(b)に図11(a)の構造体のY−Z平面の断面図を示す。図11(a)に示すように、本構成例に係る単位セル構造1101は、2つの層にパターン導体を複数構成し、ビアを用いて2つの層のパターン導体を交互かつ直列に接続することで、ヘリカル形状を構成したものとなっている。単位セル構造1101は、グランド導体1102、導体1103〜1107、導体ビア1108〜1112、及び誘電体1113を含んで構成される。より具体的には、単位セル構造1101では、第1の層に形成された導体のうちの相異なる2つの導体のそれぞれの端部の1つが、第2の層に形成された導体のうちの1つの導体の相異なる2つの端部にそれぞれ接続される。例えば、第1の層に形成された導体1103及び1104は、それぞれの端部の1つにおいて、第2の層に形成された導体1106のそれぞれ相異なる端部に、導体ビア1111及び1109を介して接続される。このようにして、単位セル構造1101では、導体ビア1108、導体1103、導体ビア1111、導体1106、導体ビア1109、導体1104、導体ビア1112、導体1107、導体ビア1110、及び導体1105が順に直列に接続される。なお、導体1103〜1104並びに1106〜1107は、それぞれ両端において導体ビアと接続し、一方で、導体1105は、一端において導体ビアと接続されるが、他端は開放端である。また、図11(a)において、導体1103〜1107は広い幅を有する板状の形状をしているが、これに限られず、線状の形状(又は狭い幅の板状形状)であってもよい。
これにより、一端がグランド導体と接続しもう一端が開放端である導体を、小さい面積で、線長を確保しながら実装することができる。図11(a)及び(b)の単位セル構造を、無線LAN周波数帯の2.4GHzでEBGとして動作するように設計すると、その実装面積は1.5mm×1.7mmとすることができる。ここで、基板は、上述の各構成例と同様に、一般的な4層構造のFR−4基板としている。
図11(c)は、図5(a)及び(b)と同様に、図11(a)及び(b)の単位セル構造を信号線下に配置した時の、信号線をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数(S21)の解析結果を示す図である。なお、信号線幅、グランド導体幅、基板厚は、図5(a)及び(b)に関連して説明した値と同様である。図11(c)から、図11(a)及び(b)の単位セル構造においても、信号線を伝播する電磁波は、2.4GHz帯で透過係数S21が約−15dBとなっており、充分に電磁波を減衰させていることが分かる。
なお、図11(a)及び(b)の単位セル構造においても、開放端と信号線との位置関係を調整することによって結合を強くして、さらなる小型化をすることができる。また、図11(a)及び(b)の単位セル構造において、開放端部をグランド導体に近接させることで、電磁波の減衰量は大きくないがさらなる小型化を実現することもできる。さらに、図11(a)及び(b)の単位セル構造において、導体の回転方向を同一方向とすることにより、逆方向とするよりも小型化を達成できる。また、複数の単位セル構造を併設することにより、減衰量を大きくすることができ、その際に単位セル構造の間隔を約λ/4に調整することで、良好な通過域特性および遮断特性を得ることができる。また、図11(a)及び(b)の単位セル構造によって、導体プレーン間においても、所望の周波数帯の電磁波を遮断することが可能である。
なお、図11(a)及び(b)の構成では、導体1103〜1107は、全てグランド導体1102が形成される層と信号線が形成される層との間に配置されているが、これに限られない。例えば、導体1106及び1107は、グランド導体1102が形成される装置と同じ層に構成されてもよい。これにより、例えば導体ビア1108〜1112の長さが長くなり、より長い線長を確保することができる。また、図11(a)及び(b)の例では、信号線が形成される層に近い層に形成された導体1103がグランド導体1102に接続されたが、これに限られない。すなわち、導体1106が形成される層のいずれかの導体がグランド導体1102に接続されてもよい。なお、図11(a)及び(b)の例において、例えば導体1106がグランド導体1102に接続され、導体1103がグランド導体1102に接続されない場合、後述のデュアルバンドEBGとして機能しうる。
なお、構成例1又は2と、構成例3とを組み合わせたような構成が用いられてもよい。例えば、第1の層において2つ以上の曲線形状の線状導体を配置し、第2の層において1つ以上の曲線形状の線状導体を配置する。そして、第1の層の線状導体のうちの相異なる2つの導体のそれぞれの端部の1つを、1つの第2の層の線状導体の2つの相異なる端部に導体ビアなどによって接続して、複数の導体が直列的に接続された1つの線状導体を形成する。これにより、実装面積を抑えながら、EBG構造に係る導体の線長を確保することができる。
<<構成例4>>
上述の各構成例では、平行に配置された信号線とグランド導体との間に、一端がグランド導体と接続し、もう一端が開放端である導体を配置する構成のEBG構造について説明した。本構成例では、平行に配置された信号線とグランド導体との間に、両端が開放端である導体を配置する構成のEBG構造について説明する。
まず、本構成例におけるEBG構造の動作原理について説明する。図12に本構成例に係るEBG構造の構成の概要を示す。本構成例に係るEBG構造は、信号線1201及び共振器1202によって構成される。このような構成により、所望の周波数で共振する共振器を信号線下に配置し、信号線と電磁的に結合させることで、信号線を伝播する所望の周波数の電磁波を遮断することができる。両端が開放端である導体は、電気長をλとしたときに導体長がλ/2である場合、共振することが知られている。本構成例は、両端が開放端である導体の線長が、所望の周波数の電磁波を遮断することができる長さとなるようにしながら、EBG構造全体のサイズを小型化するものである。
図13(a)及び(b)は、本構成例に係るEBG構造の単位セル構造を示す図である。図13(a)は、EBG構造の単位セルを4層プリント基板に構成した概略図であり、図13(b)は、図13(a)の単位セル構造のY−Z平面の断面図である。単位セル構造1301は、グランド導体1302とスパイラル状の導体1303並びに1304、及び導体ビア1305を含んで構成される。また、単位セル構造1301は、誘電体1306内に構成される。
第1のスパイラル状の導体1303は、導体ビア1305を介して第2のスパイラル状の導体1304と接続されている。このように、複数層にスパイラル状の導体を配置し、各スパイラル状の導体の端部をビアで接続することで、小さな体積中に長い線長を有する導体を構成することが可能となり、EBG構造を小型化することができる。例えば、図13(a)及び(b)の単位セル構造を、無線LAN周波数帯の2.4GHzでEBGとして動作するように設計すると、そのサイズ(基板上の面積)は、1.9mm×1.9mmとすることができる。なお、基板は、上述の各構成例と同様に、一般的な4層構造のFR−4基板としている。
図4(c)及び(d)の単位セル構造401と比較すると、図13(a)及び(b)の単位セル構造1301は両端が開放端であるため、導体ビア406を配置する必要が無く、導体ビアはコア層のビアのみで足りる。このため、製造コストを削減することができる。さらに、図4(c)及び(d)に示した貫通ビアを用いる単位セル構造408は、導体ビア413や、導体ビア413のビアランドにより、基板の最上層部と最下層部の実装面積を狭めるが、両端が開放端である単位セル構造1301では、このような制限がない。このため、図4(c)及び(d)の構造に比べて、基板における回路部品の実装面積がより大きくなる。
図13(c)に、図13(a)及び(b)の単位セル構造を図5(a)及び(b)に示すように信号線下に配置した時の、信号線をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数(S21)の解析結果を示す。なお、信号線幅、グランド導体幅、基板厚は図5(a)及び(b)に係る説明で用いられたものと同様であるものとした。図13(c)から、図13(a)及び(b)の単位セル構造においても、2.4GHz帯で透過係数S21が約−15dBと、信号線を伝播する電磁波が充分に減衰することが分かる。
なお、図13(a)及び(b)に示す単位セル構造においても、導体1304の開放端部から導体1303の開放端部に向かう方向において、導体1303と導体1304のそれぞれの回転方向を同じとすることにより、さらなる小型化を図ることができる。例えば、図13(a)及び(b)の構造は、導体1304の開放端部から導体ビア1305に向かった時と、導体ビア1305から導体1303の開放端部に向かった時と、同じ回転方向となっている。したがって、これらの2つの導体が同じ回転方向に向いていない場合と比べて小型化ができている。また、図13(a)及び(b)の構造は、複数の単位セル構造を並べて用いることで、減衰量を大きくすることができる。また、その時、単位セル構造の配置間隔を、所望の遮断周波数帯の電磁波が信号線を伝播する時の電気長λの約1/4の長さとすることで、良好な通過域特性および遮断特性を得ることができる。さらに、図13(a)及び(b)の構造は、導体プレーン間においても、所望の周波数帯の電磁波を遮断することができる。
なお、本構成例では基板の2つの層にスパイラル状の導体を構成したが、さらに多くの層を用いて、上述の原理によって線長を確保する事で、さらなる小型化が可能である。例えば、スパイラル状の導体を互いに異なる3層に形成し、最上層と2番目の層の2つの導体のスパイラル形状の中心部同士を導体ビアで接続し、2番目と3番目の層の2つのスパイラル形状の最外部の端部同士を導体ビアで接続するようにする。このとき、最上層のスパイラル導体の最外部の端部から、最下層(3番目の層)の中心部へ向かう回転方向が、それぞれ一致するようにすることができる。なお、上述の例では最上層の最外部と最下層の中心に開放端が存在するが、これは逆であってもよい。すなわち、最上層の中心部と最下層の最外部に開放端が存在してもよい。また、上述の例と同様にして、4層以上に曲線形状導体を形成することもできる。さらに、導体の形状はスパイラル状でなくてもよく、導体の線長を確保するような、例えばメアンダ形状等の曲線形状を複数の層で構成して接続してもよい。
なお、上述の各構成例において、グランド導体と接続する場合にも、同様に2つより多くの複数の層に曲線形状の導体を配置して、小型の設置面積において十分な長さの線長を確保することができる。すなわち、最下層又は最上層の導体をグランド導体に接続して、上述のように、2つより多くの複数の層に曲線形状導体を形成して繋ぐことで、面積を抑えながら導体長を確保することができる。
また、本構成例では、図14(a)及び(b)のように、図11(a)及び(b)に関して説明した構成において、複数の層の導体が交互かつ直列に接続されて形成されるヘリカル形状の導体の両端を開放端とするようにした構成が用いられてもよい。図14(a)に、そのような単位セル構造の構成図を示し、図14(a)の構成のY−Z平面の断面図を図14(b)に示す。図14(a)及び(b)は、2つの層にパターン導体を複数構成し、ビアを用いてそのパターン導体を接続することで、ヘリカル形状を構成したものとなっている。単位セル構造1401は、グランド導体1402、導体1403〜1410、導体ビア1411〜1417、及び誘電体1418を含んで構成される。
より具体的には、単位セル構造1401では、基板内の第1の層に導体1403〜1406が形成され、第2の層に導体1407〜1410が形成される。そして、第1の層に形成された導体のうちの相異なる2つの導体のそれぞれの端部の1つが、第2の層に形成された導体のうちの1つの導体の相異なる2つの端部にそれぞれ接続される。例えば、第1の層に形成された導体1403及び1404は、それぞれの端部の1つにおいて、第2の層に形成された導体1408のそれぞれ相異なる端部に、導体ビア1415及び1412を介して接続される。なお、第1の層に形成される導体のうちの導体1406及び第2の層に形成される導体のうちの導体1407は、その一端が開放端として、他の導体に接続されないように構成される。このようにして、単位セル構造1401では、複数の導体が、導体1407、導体1403、導体1408、導体1404、導体1409、導体1405、導体1410、導体1406の順で直列的に接続され、1つの(線状)導体を形成する。なお、これらの導体の接続に、導体ビア1411〜1417がそれぞれ図14(a)及び(b)に示すように用いられる。
これにより、一端がグランド導体と接続しもう一端が開放端である導体を、小さい面積で、線長を確保しながら実装することができる。なお、図14(a)及び(b)に示した単位セル構造を無線LAN周波数帯の2.4GHzでEBGとして動作するよう設計すると、そのサイズ(基板上の面積)は、2.2mm×2.5mmとすることができる。なお、基板は、上述の各構成例と同様に、一般的な4層構造のFR−4基板としている。
また、図13(a)及び(b)の例と同様に、図14(a)及び(b)の構造体においても、導体ビアとしてコア層の内層ビアのみを用いて単位セル構造を構成することができるため、製造コストを削減することができる。さらに、図11(a)及び(b)に示した貫通ビアを用いる単位セル構造と比較すると、両端が開放端の構造では、基板における回路部品の実装面積を狭めることがなくなる。
図14(c)に、図14(a)及び(b)の単位セル構造を図5(a)及び(b)に示すように信号線下に配置した時の、信号線をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数(S21)の解析結果を示す。なお、信号線幅、グランド導体幅、基板厚は図5(a)及び(b)に係る説明で用いられたものと同様であるものとした。図14(c)から、図14(a)及び(b)の単位セル構造においても、2.4GHz帯で透過係数S21が約−10dBと、信号線を伝播する電磁波が充分に減衰することが分かる。
なお、図14(a)及び(b)に示す単位セル構造においても、導体1407の開放端部から導体1406の開放端部に向かう方向において、各導体の回転方向を同じとすることにより、さらなる小型化を図ることができる。また、図14(a)及び(b)の構造は、複数の単位セル構造を並べて用いることで、減衰量を大きくすることができる。また、その時、単位セル構造の配置間隔を、所望の遮断周波数帯の電磁波が信号線を伝播する時の電気長λの約1/4の長さとすることで、良好な通過域特性および遮断特性を得ることができる。さらに、図14(a)及び(b)の構造は、導体プレーン間においても、所望の周波数帯の電磁波を遮断することができる。
なお、図14(a)及び(b)の構成において、線長を長くするために、上述の導体1403〜1410の少なくともいずれかを、例えばスパイラル状又はメアンダ形状などの曲線形状としてもよい。
(単位セル構造と信号線又はグランド導体との電磁的結合による特性の変化)
続いて、図13(a)及び(b)又は図14(a)及び(b)の単位セル構造と、信号線又はグランド導体との間に生じる電磁的な結合による、透過係数S21の変化について説明する。
まず、図5(a)及び(b)の構成において、図13(a)及び(b)の単位セル構造1301と信号線及びグランド導体との距離を変化させた時の電磁波の伝搬遮断特性について述べる。図15(a)に、図5(a)及び(b)をX軸方向からみた場合の、単位セル構造1301と信号線501及びグランド導体502との位置関係を示す。なお、図15(a)では、単位セル構造1301と信号線501及びグランド導体502との関係性が分かるように、単位セル構造1301を拡大して示している。図15(a)に示すように、単位セル構造1301のスパイラル状の導体1303と、信号線501とのZ軸方向の距離をgとし、スパイラル状の導体1304と、グランド導体502とのZ軸方向の距離をhとする。
図15(b)に、hを固定し、gを0.06mm、0.11mm、0.16mmと変化させた時の、信号線501をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数(S21)の解析結果を示す。参照番号1501〜1503が付された曲線は、それぞれ、gが0.06mm、0.11mm、0.16mmの場合の解析結果である。図15(b)から、単位セル構造1301のスパイラル状の導体1303と信号線501との距離gが小さいほど、電磁波の減衰量が大きいことが分かる。これは、単位セル構造1301のスパイラル状の導体1303と、信号線501との間に生じる電磁的な結合が関係していると考えられる。すなわち、単位セル構造1301のスパイラル状の導体1303と信号線501の間に生じる電磁的な結合が強いほど、大きな電磁波の減衰量を得ることができる。一般的に、2つの導体間の距離が短いほど、その2つの導体間の電磁的な結合が強くなる。すなわち、ここでは、導体1303と信号線501の距離gが短いほど、導体1303と信号線501の間に生じる電磁的な結合が強くなるため、電磁波の減衰量も大きくなる。なお、ここでは、スパイラル状の導体1304の位置は変えずに、スパイラル状の導体1303の位置をZ軸方向に変化させることによって、図15(a)のgを変化させているため、gの長さに応じて導体ビアの長さが変化する。
次に、図15(c)に、gを固定し、hを0.06mm、0.11mm、0.16mmと変化させた時の、信号線501をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数(S21)の解析結果を示す。参照番号1504〜1506が付された曲線は、それぞれ、hが0.06mm、0.11mm、0.16mmの場合の解析結果である。図15(c)から、単位セル構造1301のスパイラル状の導体1304とグランド導体502との距離hが小さいほど、電磁波の減衰量が大きいことが分かる。これは、単位セル構造1301のスパイラル状の導体1304と、グランド導体502との間に生じる電磁的な結合が関係していると考えられる。すなわち、単位セル構造1301のスパイラル状の導体1304と、グランド導体502の間に生じる電磁的な結合が強いほど大きな電磁波の減衰量を得ることができる。すなわち、ここでは、導体1304とグランド導体502の距離hが短いほど、導体1304とグランド導体502との間に生じる電磁的な結合が強くなるため、電磁波の減衰量も大きくなる。なお、図15(a)のgの長さを変化させた時と同様に、スパイラル状の導体1303の位置は変えずに、スパイラル状の導体1304の位置をZ軸方向に変化させることで、図15(a)のhを変化させているため、hの長さに応じて導体ビアの長さが変化する。
続いて、図5(a)及び(b)の構成において、図14(a)及び(b)の単位セル構造1401と信号線及びグランド導体との距離を変化させた時の電磁波の伝搬遮断特性について述べる。図16(a)に、図5(a)及び(b)をX軸方向からみた場合の、単位セル構造1401と信号線501及びグランド導体502との位置関係を示す。なお、図16(a)では、単位セル構造1401と信号線501及びグランド導体502との関係性が分かるように、単位セル構造1401を拡大して示している。図16(a)に示すように、単位セル構造1401と信号線501とのZ軸方向の距離をiとし、単位セル構造1401とグランド導体502とのZ軸方向の距離をjとする。
図16(b)に、jを固定し、iを0.06mm、0.11mm、0.16mmと変化させた時の、信号線501をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数(S21)の解析結果を示す。参照番号1601〜1603が付された曲線は、それぞれ、iが0.06mm、0.11mm、0.16mmの場合の解析結果である。図16(b)から、単位セル構造1401と信号線501との距離gが小さいほど電磁波の減衰量が大きいことが分かる。これは、単位セル構造1301を信号線下に配置した時と同様、単位セル構造1401と信号線501との間に生じる電磁的な結合が関係していると考えられる。すなわち、単位セル構造1401と信号線501との間に生じる電磁的な結合が強いほど、大きな電磁波の減衰量を得ることができる。
次に、図16(c)に、iを固定し、jを0.06mm、0.16mm、0.21mmと変化させた時の、信号線501をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数(S21)の解析結果を示す。参照番号1604〜1606が付された曲線は、それぞれ、jが0.06mm、0.16mm、0.21mmの場合の解析結果である。図16(c)から、単位セル構造1401とグランド導体502との距離jが小さいほど電磁波の減衰量が大きいことが分かる。これは、単位セル構造1301を信号線下に配置した時と同様、単位セル構造1401とグランド導体502との間に生じる電磁的な結合が関係していると考えられる。すなわち、単位セル構造1401とグランド導体502の間に生じる電磁的な結合が強いほど、大きな電磁波の減衰量を得ることができる。
なお、図15(a)のg又はhの長さを変化させた時と同様に、線状導体の位置をZ軸方向に変化させることで、図16(a)のi又はjを変化させているため、i又はjの長さに応じて導体ビアの長さが変化する。なお、図16(b)又は図16(c)において、i又はjを大きくするのに従い、遮断周波数が高域に変化するのは、単位セル構造1401の導体ビアが短くなることが影響している。導体ビアが短くなることにより、単位セル構造自体の導体長も短くなり、より高域で共振周波数を有することとなり、これに応じて遮断周波数が高域に変化していると考えられる。
以上のように、図13(a)及び(b)又は図14(a)及び(b)の単位セル構造1301又は1401は、信号線501又はグランド導体502との距離を短くすることによって、電磁的な結合を強くして、電磁波の減衰量を大きくすることができる。
なお、ここでは、1つの層に構成された導体部の全体をZ軸方向に移動させて、信号線又はグランド導体との距離を短くし、電磁波の減衰量を大きくした。しかしながら、各層に構成された導体の一部をZ軸方向に移動させて、その一部についてのみ信号線およびグランド導体との距離を短くしても同様の効果を得ることができる。
<<構成例5>>
上述の構成例1〜4では、互いに平行な、信号線が配置される面とグランド導体が配置される面との間に単位セル構造を形成する線状導体を配置し、信号線を伝播する1つの周波数帯の電磁波を減衰させる、シングルバンドのEBG構造について説明した。本構成例では、上述のEBG構造の原理を用いて、信号線を伝播する複数の周波数帯の電磁波を減衰させるマルチバンドのEBG構造について説明する。
図17(a)及び(b)は、本構成例に係るデュアルバンドEBG構造の単位セルの構成例を示す図である。本構成例では、導体の一端がグランドに接続し、もう一端が開放端の構造体において、2つの層にパターン導体を複数構成し、導体ビアを用いて2つの層のパターン導体を交互かつ直列に接続することで、ヘリカル形状の線状導体を構成している。図17(a)は、デュアルバンドEBG構造の単位セルを4層プリント基板に構成した概略図であり、図17(b)は、図17(a)の単位セル構造のY−Z平面の断面図である。単位セル構造1701は、グランド導体1702と導体1703〜1709、ビア1710〜1715、及び誘電体1716を含んで構成される。
単位セル構造1701では、ビア1710、導体1703、及びビア1714が順に接続され、ビア1714から導体1707及び導体1708が分岐する。そして、導体1707から、ビア1711、導体1704、ビア1715、導体1709、ビア1713、及び導体1706が順に直列に接続される。また、導体1708から、ビア1712、導体1705が順に直列に接続される。
このEBG構造では、ビア1710、導体1703、ビア1714、導体1707、ビア1711、導体1704、ビア1715、導体1709、ビア1713、及び導体1706が第1の周波数での電磁波の遮断に寄与する。そして、ビア1710、導体1703、ビア1714、導体1708、ビア1712、導体1705が、第2の周波数での電磁波の遮断に寄与する。以下では、第1の周波数と第2の周波数の両方の周波数の電磁波の遮断に寄与するビア1710、導体1703、ビア1714を、共通導体部とする。なお、共通導体部は必ずしも存在する必要はない。すなわち、例えばビア1710、導体1703、ビア1714を省略し、それに代えて、導体1707及び1708が分岐する点をグランド導体1702に接続するようにしてもよい。ただし、この場合、それぞれの導体長を長く確保するための工夫が要求される。
図11(a)及び(b)のシングルバンドEBG構造の単位セル構造1101を用いて複数周波数の電磁波を遮断するためには、複数個の単位セル構造を信号線下に配置する必要がある。また、図11(a)及び(b)の単位セル構造は、導体ビア1108を用いており、導体ビア1108やそのビアランドにより、基板の最上層部と最下層部における部品の実装面積を狭める。すなわち、単位セル構造1101を用いて複数の周波数の電磁波を遮断する際、複数の貫通ビアが基板に配置され、基板の最上層部と最下層部の部品実装面積を狭めてしまう。
一方、図17(a)及び(b)の単位セル構造1701では、ビア1710が共通導体部であるため、1つの貫通ビアのみを含んで構成されている。このため、図11(a)及び(b)の単位セル構造を複数並べた場合と比べ、図17(a)及び(b)の単位セル構造1701を用いることにより、基板の最上層部と最下層部における部品実装面積を狭めることがない。また、図17(a)及び(b)の単位セル構造1701は、共通導体部を有するため、図11(a)及び(b)の単位セル構造1101を複数配置するより、単位セル構造1701を1つ配置する方が、EBG全体としての占有体積は小さくてすむ。なお、図17(a)及び(b)の単位セル構造を無線LAN周波数帯の2.4GHzと5GHzでEBGとして動作するように設計すると、そのサイズ(専有面積)は2mm×1.85mmとすることができる。なお、基板は、上述の各構成例と同様に、一般的な4層構造のFR−4基板としている。
図17(c)に、図17(a)及び(b)の単位セル構造を、図5(a)及び(b)と同様に信号線下に配置した時の、信号線をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数(S21)の解析結果を示す。なお、信号線幅、グランド導体幅、基板厚は、図5(a)及び(b)に関連して説明した値と同様である。図17(c)から、図17(a)及び(b)の単位セル構造において、信号線を伝播する電磁波は、2.4GHz帯及び5GHzで、それぞれ透過係数S21が約−15dB及び約−10dBとなっており、充分にこれらの周波数の電磁波が減衰することが分かる。
なお、図17(a)及び(b)の単位セル構造においても、導体の回転方向を同一方向とすることにより、逆方向とするよりも小型化を達成できる。また、複数の単位セル構造を併設することにより、減衰量を大きくすることができ、その際に単位セル構造の間隔を、所望の周波数帯の約λ/4に調整することで、良好な通過域特性および遮断特性を得ることができる。また、図17(a)及び(b)の単位セル構造によって、導体プレーン間においても、所望の周波数帯の電磁波を遮断することが可能である。
なお、図17(a)及び(b)の構成において、線長を長くするために、上述の導体1703〜1709の少なくともいずれかを、例えばスパイラル状又はメアンダ形状などの曲線形状としてもよい。さらに、図17(a)及び(b)の構成では、共通導体部から2つの共通でない導体部に分岐して2つの周波数を遮断周波数としたが、2つより多くの周波数を遮断周波数とするために、3つ以上の共通でない導体部に分岐してもよい。なお、3つ以上の共通でない導体部に分岐させる場合、例えば、図17(a)のビア1714から3つ以上に分岐させてもよいし、図17(a)のビア1714からは2つにのみ分岐させてビア1715においてさらに2つに分岐させてもよい。すなわち、共通導体部の端点においてのみならず、少なくとも一部の周波数に寄与しない導体部において分岐がなされてもよい。
なお、ここでは、導体の一端がグランドに接続し、もう一端が開放端であるヘリカル形状のデュアルバンドEBGの単位セル構造1701について説明したが、ヘリカル形状でない形状であっても、デュアルバンドEBGの単位セル構造を構成することはできる。図18に、そのようなデュアルバンドEBGの単位セル構造の構成例を示す。
単位セル構造1801は、グランド導体1802とスパイラル状の導体1803〜1805、及び、導体ビア1806並びに1807を含んで構成される。また、単位セル構造1801は誘電体1808内に構成される。グランド導体1802に接続されたスパイラル状の導体1805に導体ビア1806が接続され、導体ビア1806からスパイラル状の導体1804と導体ビア1807が分岐し、導体ビア1807はスパイラル状の導体1803と接続される。なお、図18では、導体1805は、グランド導体1802と同じ層に形成される。しかしながら、導体1805は、グランド導体1802と異なる層に配置され、グランド導体1802と導体ビアで接続されて構成されてもよい。また、導体1805は必ずしも存在しなくてもよい。すなわち、複数のスパイラル形状の導体1803及び1804が導体ビア1807で接続され、かつ、導体ビア1807がグランド導体1802に接続するように構成されてもよい。この場合、各スパイラル形状の導体は、共通導体部が存在しないため、より長い導体長が要求される。
図18のデュアルバンドのEBG構造は、スパイラル状の導体1805、導体ビア1806、導体ビア1807、及びスパイラル状の導体1803が第1の周波数での電磁波の遮断に寄与する。また、スパイラル状の導体1805、導体ビア1806、及びスパイラル状の導体1804が第2の周波数での電磁波の遮断に寄与する。以下では、第1の周波数と第2の周波数の両方の電磁波の遮断に寄与しているスパイラル状の導体1805及び導体ビア1806を共通導体部とする。
共通導体部の線長を長くすることにより、導体1803及び導体1804の線長を短くすることができ、単位セル構造を小型化することが可能となる。図18の例では、共通導体部の線長を確保して単位セル構造の小型化を実現するため、導体1805をスパイラル形状としている。同様に、導体1803及び導体1804も、スパイラル形状とすることにより、実装面積を小さく抑えることができる。なお、導体1803〜1805のスパイラル形状を、メアンダ形状等の他の曲線形状に置き換えても、同様の効果を得ることができる。図18の単位セル構造を、無線LAN周波数帯の2.4GHzと5GHzでEBGとして動作するように設計すると、そのサイズは、1.9mm×1.9mmとすることができる。なお、このときの基板は、一般的なFR−4基板である。
図19(a)及び(b)は、単位セル構造1801を、信号線に伝播する電磁波を遮断するのに用いる際の構成例を示す図である。図19(a)は、信号線と単位セル構造1801との構成を示した概略図であり、図19(b)は図19(a)の断面図である。単位セル構造1801は誘電体1808内に構成される。なお、信号線幅、グランド導体幅、基板厚は、図5(a)及び(b)に関連して説明した値と同様である。
図19(a)及び(b)では、信号線1901が、スパイラル状の導体1803と1804の間の層に配置されている。これは、信号線1901とスパイラル状の導体1803及び1804の双方との電磁的な結合を強くするためである。上述のように、信号線と単位セル構造の結合を強くすることで、EBG構造の電磁波の減衰量を大きくすることができる。なお、導体1803と導体1804との間の層に信号線を配置しなければならないわけではなく、導体1803の上の層、又は導体1804と導体1805との間の層に信号線が配置されてもよい。
図19(c)に、信号線1901をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数(S21)の解析結果を示す。図19(c)から、図18の単位セル構造において、信号線を伝播する電磁波は、2.4GHz帯及び5GHz帯で、それぞれ透過係数S21が約−15dBとなっており、これらの周波数の電磁波が充分に減衰することが分かる。
なお、図18の単位セル構造においても、導体の回転方向を同一方向とすることにより、逆方向とするよりも小型化を達成できる。また、複数の単位セル構造を併設することにより、減衰量を大きくすることができ、その際に単位セル構造の間隔を約λ/4に調整することで、良好な通過域特性および遮断特性を得ることができる。また、図18の単位セル構造によって、導体プレーン間においても、所望の周波数帯の電磁波を遮断することが可能である。
また、図18では、導体を2分岐することにより、電磁波を2つの周波数において遮断する構成が示されているが、導体を3つ以上に分岐して、3つ以上の周波数において電磁波を遮断するように単位セルが構成されてもよい。例えば、スパイラル形状の導体であって、導体ビア1807から分岐する導体を、導体1803及び1804の間の層に形成することによって、このような単位セルが構成されうる。
<<構成例6>>
上述の各構成例は、信号線が配置される平面とグランド導体が配置される平面との間に、一端または両端が開放端である導体を配置するEBGの単位セル構造について説明した。これに対して、本構成例では、信号線が配置される第1の平面と、その第1の平面と平行なグランド導体が配置される第2の平面との間に、両端がグランド導体に接続されるEBG構造を配置する。このような構造により、導体の導体長がλ/2である時に、電気長がλの電磁波の伝搬が阻止される。
図20(a)及び(b)は、本構成例に係るEBG構造の単位セル構造を示す図である。図20(a)は、EBG構造の単位セルを4層プリント基板に構成した概略図であり、図20(b)は、図20(a)の単位セル構造のY−Z平面の断面図である。単位セル構造2001は、グランド導体2002、スパイラル状の導体2003並びに2004、及び導体ビア2005〜2007を含んで構成される。また単位セル構造2001は、誘電体2008内に構成される。グランド導体2002は導体ビア2005を介してスパイラル導体2003と、スパイラル導体2003は導体ビア2006を介してスパイラル導体2004と、スパイラル導体2004は導体ビア2007を介してグランド導体2002と、それぞれ接続される。
このように、本構成例では、複数層にスパイラル状の導体を配置し、各スパイラル状の導体の端部を導体ビアで接続することで、小さな体積中に長い線長を確保する導体を構成することができる。この結果、所定の周波数を遮断するのに要求される線長を確保しながら、EBG構造を小型化することができる。例えば、図20(a)及び(b)の単位セル構造を無線LAN周波数帯の2.4GHzでEBGとして動作するように設計すると、そのサイズは、2.6mm×2.6mmとすることができる。なお、このときの基板は、上述の各構成例と同様に、一般的な4層構造のFR−4基板としている。
図20(c)に、図20(a)及び(b)の単位セル構造を図5(a)及び(b)と同様に信号線下に配置した時の、信号線をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数(S21)の解析結果を示す。なお、信号線幅、グランド導体幅、基板厚は、図5(a)及び(b)に関連して説明した値と同様である。図20(c)から、図20(a)及び(b)の単位セル構造においても、信号線を伝播する電磁波は、2.4GHz帯で透過係数S21が約−19dBとなっており、充分に電磁波が減衰することが分かる。
図21(a)及び(b)に、本構成例に係る別のEBG構造の概略図と拡大断面図を示す。図21(a)の構造では、図20(a)及び(b)の単位セル構造が、図5(a)及び(b)と同様に信号線2101の下に配置される。さらに、図21(a)の構造では、スパイラル導体2003が配置される第2の層とスパイラル導体2004が配置される第3の層との間に導体2103が配置され、その導体2103とグランド導体2102とが多数の導体ビア2104で接続される。図21(b)は、EBG構造を拡大した断面図である。
一般的な電子回路基板は複数の層から構成されている。そのような基板を設計する際、ノイズ耐性のある基板にするため、グランド導体を複数の層に配置し、それぞれを導体ビアで接続することがある。この場合、図21(a)及び(b)のように、EBG構造の一部であるスパイラル導体2004及び2005の間にグランド導体が配置されることが考えられる。
図21(c)に、信号線2101をY軸方向に伝播する電磁波の透過係数(S21)の解析結果を示す。なお、信号線幅、グランド導体幅、基板厚は、図5(a)及び(b)に関連して説明した値と同様である。図21(c)から、図20(a)及び(b)の単位セル構造において、信号線を伝播する電磁波は、2.4GHz帯で透過係数S21が約−6dBとなっており、十分に電磁波が減衰することが分かる。
図20(c)と図21(c)の透過係数S21が最も低くなる周波数を比較すると、図20(c)ではその周波数は2.47GHzであり、図21(c)ではその周波数は2.45GHzである。すなわち、スパイラル導体2004及び2005の間にグランド導体が配置されても、遮断周波数には変化がほとんどないことが分かる。これは、図20(a)及び(b)のEBG構造が、周囲の近傍に配置された導体の影響を受けにくい構造であることを示している。すなわち、EBG構造の近傍に導体が配置されても遮断周波数が変化しないため、基板に図20(a)及び(b)のEBG構造を設計する際、周囲の導体配置を厳密に考慮することなく設計することができる。
なお、図20(a)及び(b)に示す単位セル構造においても、単位セル構造と信号線との位置関係を調整することによって結合を強くして、さらなる小型化をすることができる。両端がグランド導体に接続される単位セル構造の場合の一次共振時の電界分布を考えると、単位セル構造の中点の位置で最も電界が集中する。そのため、単位セル構造の中点を信号線に近接させることで、小型化を実現することができる。
さらに、図20(a)及び(b)の単位セル構造において、導体の回転方向を同一方向とすることにより、逆方向とするよりも小型化を達成できる。また、複数の単位セル構造を併設することにより、減衰量を大きくすることができ、その際に単位セル構造の間隔を約λ/4に調整することで、良好な通過域特性および遮断特性を得ることができる。また、図20(a)及び(b)の単位セル構造によって、導体プレーン間においても、所望の周波数帯の電磁波を遮断することが可能である。
なお、上述の構成例は、線状導体の両端部がグランド部に接続され、かつ導体長がλ/2である時に、電気長がλの電磁波の伝搬が阻止されるものであるため、上述の具体的な構成例以外の形状でも同様の効果を得ることができる。例えば、図14(a)に示すようなヘリカル構造において、両端部を導体ビアでグランド導体と接続するようにしても、同様の効果を得ることができる。
なお、上述の各構成例では、EBG構造が、無線LAN周波数帯である2.4GHz帯(場合によっては更に5GHz帯)における電磁波を遮断するように設計されているが、遮断しようとしている電磁波の周波数帯に合わせた設計が可能である。すなわち、上述の各構成例は、信号線とグランド導体とが形成される基板の表面と裏面とを除く他の複数の層に導体を配置して、それぞれを端部で接続することにより、曲線形状の導体を形成して線長を延長するものである。そして、遮断周波数は、この線長に応じて定まる。したがって、遮断周波数に応じて、上述の各構成例のようにして線長を延長し、又は例えば上述の各構成例において導体の長さを短縮し、又は導体ビアの長さを調整することにより、所望の遮断周波数を得ることが可能となる。
また、上述の各構成例では、EBG構造を誘電体基板内に形成するものとしたが、必ずしも誘電体基板内に構成される必要はない。例えば、セラミック等の高誘電体部材内で上述のEBG構造が構成されてもよい。また、上述の各構成例では、信号線としてマイクロストリップ線路のような伝送線路が用いられる例について説明したが、信号を伝送する線路であれば、導体波管やコプレーナ線路やストリップ線路など他の線路が用いられてもよい。また、上述の各構成例では、信号線下に単位セル構造を配置して、電磁波を遮断しているが、信号線にクリアランスなどを設けて、単位セル構造と電気的に導通しない限りにおいて、EBG構造の内層部に信号線が配置されてもよい。すなわち、図4を例にとると、導体403と導体404との間の層に信号線が配置されてもよい。