JP6508680B2 - 印刷用ブランケット - Google Patents
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Description
また、インキの受理を抑制する効果も不十分であり、依然として印刷物に汚れを生じた。特に、特許文献2でインキとの親和性の低いとされるフッ素系のコーティング被膜は、却ってインキを受理する傾向が大きかった。
本発明の目的は、版胴の溝(ギャップ)に堆積したインキや紙粉の転写による印刷物の汚れを発生させることがなく、このような印刷物の汚れ防止効果を長期にわたり安定的に発揮することができ、高速で印刷しても画像乱れ(ショック目)などを生じさせることのない印刷用ブランケットを提供することにある。
前記倍胴型印刷機による印刷時において版胴の溝に接触することになる前記表面ゴム層の平坦な表面(帯状の領域)に、表面張力の水素結合成分(γs h )が0.7mN/m以上である縮合硬化型のシリコーン系コーティング材料による硬化被膜が形成されていることを特徴とする。
図1および図2に示すブランケット100は、織布11、織布12および織布13を貼り合わせてなる基布層10と、発泡ゴムからなる圧縮層20と、織布からなる支持体層30と、ゴムからなる表面ゴム層40とを備えてなり、倍胴型印刷機のブランケット胴に装着される平板状の印刷用ブランケットであって、倍胴型印刷機による印刷時において版胴の溝(ギャップ)に接触することになる表面ゴム層40の表面(図1に示す帯状の領域)に、表面張力の水素結合成分(γs h )が0.7mN/m以上である縮合硬化型のシリコーン系コーティング材料による硬化被膜60が形成されているブランケットである。
図2において、51、52、53、54および55は、それぞれ接着ゴム層である。
支持体層30と表面ゴム層40との間の接着ゴム層53は、ゴム糊(接着ゴム層形成用組成物)を乾燥・硬化させることにより形成される。ゴム糊を構成するゴム(原料ゴム)としては、特に限定されるものではないが、ニトリルゴム(NBR)を使用することが好ましい。
本発明者が確認したところ、フッ素系のコーティング材料によって形成される被膜は、後述する表面張力の水素結合成分(γs h )の値に関わらずインキを受理しやすい傾向があり、そのようなフッ素系の被膜を表面ゴム層40の表面に形成した場合には、版胴の溝(ギャップ)に堆積したインキを積極的に受理して紙に転写してしまう(後述する比較例6〜8参照)。
本発明者が検討を重ねた結果、シリコーン系の硬化被膜によるインキ受理性は、当該被膜における表面張力の水素結合成分(γs h )の値に依存することが見出された。
シリコーン系の硬化被膜であっても、表面張力の水素結合成分(γs h )が0.7mN/m未満である場合には、印刷物の汚れを防止することができない(後述する比較例2〜3参照)。
ここに、硬化被膜60により撥インキ性が発現されるインキとしては、特に限定されるものではなく、通常のオフセット印刷用として市販されている疎水性のインキを挙げることができる。
具体的には、表面エネルギー(γL )の分散成分(γL d )、配向成分(γL p )および水素結合成分(γL h )が既知である3種類の液体を用いて、硬化被膜の表面における各液体の接触角(θ)を測定し、下記に示す北崎・畑の理論式に代入して連立方程式を解くことにより、硬化被膜の表面張力(γs )の分散成分(γs d )および配向成分(γs p )とともに、水素結合成分(γs h )を求める。
縮合硬化によって形成された硬化被膜60は、表面ゴム層40に対する密着性や耐油性が高く、長時間のオフセット印刷に供されても、表面ゴム層40から硬化被膜60が剥離することはなく、ブランケットとしての耐久性に優れる。これにより、印刷物の汚れ防止効果を長期にわたり安定的に発揮することができる。
硬化被膜の幅が狭すぎる場合には、印刷物の汚れ防止効果を十分に発揮することができない。他方、硬化被膜の幅が広すぎる場合には、印刷可能領域が狭くなるので好ましくない。
これにより、凹部を形成するための煩雑な加工作業が不要であるばかりでなく、ブランケット表面に付与される圧力が硬化被膜60の形成部分において急激に緩和されるようなことはないので、高速で印刷しても画像乱れ(ショック目)などを生じさせることはない。
<実施例1>
〔1〕ブランケットの製造:
3枚の織布を貼り合わせてなる基布層と、NBR系の発泡ゴムからなる圧縮層と、織布からなる支持体層と、NBRからなる表面ゴム層とを備えてなるブランケット本体(360mm×50mm)を準備し、長手方向(ブランケット胴に装着する際の巻き付け方向)の中間における表面ゴム層の表面(幅15mmの帯状の領域)に、縮合硬化型シリコーンコーティング剤(レジン系)(信越化学工業(株)製)を刷毛により塗布し、150℃のオーブンで10分間加熱することにより塗膜を硬化させて膜厚約10μmの硬化被膜を形成することにより、図2に示したような断面構成を有し、図3(1)に示すような平面形状(寸法)を有する本発明の印刷用ブランケットを製造した。
・Nipol 1042 :100.0質量部
・ノクラック ♯200 : 0.5質量部
・ステアリン酸 50S : 1.0質量部
・酸化亜鉛 : 5.0質量部
・ハクエンカCC : 30.0質量部
・酸化チタン JA−1 : 3.0質量部
・沈降硫黄 : 2.0質量部
・チオコールTP−95 : 15.0質量部
・ノクセラ CZ−G 3.0質量部
表面エネルギー(γL )の分散成分(γL d )、配向成分(γL p )および水素結合成分(γL h )が既知である下記表1に示す3種類の液体を用い、表面ゴム層上に形成した硬化被膜の表面における各液体の接触角(θ)を測定した。
接触角(θ)の測定は、「自動接触角計DM−501」(協和界面科学社製)を使用し、硬化被膜の表面に2μLの液滴を着滴してから1秒後の静止画を取り込み、楕円フィッティング法にてフィッティングすることにより行った。
硬化被膜の表面における各液体の接触角(θ)の測定結果(n=5の平均値)、およびこれらの測定結果に基づく硬化被膜の表面張力(γs )の各成分の値を下記表2に示す。
縮合硬化型シリコーンコーティング剤(レジン系)に代えて、縮合硬化型シリコーンコーティング剤(ゴム系)(信越化学工業(株)製)を、ブランケット本体の表面ゴム層の表面に塗布して硬化被膜を形成したこと以外は実施例1〔1〕と同様にして、図2に示したような断面構成を有するブランケットであって、図3(1)に示すような平面形状(寸法)を有する本発明の印刷用ブランケットおよび図3(2)に示すような平面形状(寸法)を有する本発明の印刷用ブランケットを製造した。
硬化被膜の表面における各液体の接触角(θ)の測定結果、およびこれらの測定結果に基づく硬化被膜の表面張力(γs )の各成分の値を下記表2に示す。
表面ゴム層上に被膜が形成されていない印刷用ブランケットとして、実施例1で使用したブランケット本体(360mm×50mm)を比較例1に係る印刷用ブランケットとした。
縮合硬化型シリコーンコーティング剤(レジン系)に代えて、シランカップリング剤「KBE−903」(信越化学工業(株)製)をブランケット本体の表面ゴム層の表面に塗布して硬化被膜を形成したこと以外は実施例1〔1〕と同様にして、図3(1)に示すような平面形状(寸法)を有する印刷用ブランケットを製造した。
硬化被膜の表面における各液体の接触角(θ)の測定結果、およびこれらの測定結果に基づく硬化被膜の表面張力(γs )の各成分の値を下記表2に示す。
縮合硬化型シリコーンコーティング剤(レジン系)に代えて、シランカップリング剤「Si−75」(エポニック・デグサジャパン社製)を、ブランケット本体の表面ゴム層の表面に塗布して硬化被膜を形成したこと以外は実施例1〔1〕と同様にして、図3(1)に示すような平面形状(寸法)を有する印刷用ブランケットを製造した。
硬化被膜の表面における各液体の接触角(θ)の測定結果、およびこれらの測定結果に基づく硬化被膜の表面張力(γs )の各成分の値を下記表2に示す。
「TSE−260−5U」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)100質量部と、「TC12K」(同社製)2質量部と、トルエンとを混合してなる、粘度が200dPa・secの過酸化物硬化型シリコーンコーティング剤(ゴム系)を調製した。
縮合硬化型シリコーンコーティング剤(レジン系)に代えて、上記のようにして得られた過酸化物硬化型シリコーンコーティング剤を、ブランケット本体の表面ゴム層の表面に塗布し、150℃のオーブンで10分間加熱したが塗膜を硬化させることができなかった。これは、空気により塗膜の硬化反応が阻害されたためと推測される。
縮合硬化型シリコーンコーティング剤(レジン系)に代えて、付加硬化型のシリコーンコーティング剤(ゴム系)「KE−1935」(信越化学工業(株)製)を、ブランケット本体の表面ゴム層の表面に塗布し、150℃のオーブンで10分間加熱したが塗膜を硬化させることができなかった。これは、表面ゴム層に含有される架橋剤(硫黄)などにより、塗膜の硬化反応が阻害されたためと推測される。
縮合硬化型シリコーンコーティング剤(レジン系)に代えて、特開2003−253022号公報の実施例に記載されているフッ素系の表面処理剤を、ブランケット本体の表面ゴム層の表面に塗布し、150℃のオーブンで10分間加熱して被膜を形成したこと以外は実施例1〔1〕と同様にして、図3(1)に示すような平面形状(寸法)を有する印刷用ブランケットを製造した。
硬化被膜の表面における各液体の接触角(θ)の測定結果、およびこれらの測定結果に基づく硬化被膜の表面張力(γs )の各成分の値を下記表2に示す。
縮合硬化型シリコーンコーティング剤(レジン系)に代えて、フッ素系の表面処理剤「FC−102 ニューTFEコート」(ファインケミカルジャパン社製)を、ブランケット本体の表面ゴム層の表面に塗布し、150℃のオーブンで10分間加熱して被膜を形成したこと以外は実施例1〔1〕と同様にして、図3(1)に示すような平面形状(寸法)を有する印刷用ブランケットを製造した。
硬化被膜の表面における各液体の接触角(θ)の測定結果、およびこれらの測定結果に基づく硬化被膜の表面張力(γs )の各成分の値を下記表2に示す。
縮合硬化型シリコーンコーティング剤(レジン系)に代えて、フッ素系の表面処理剤「FC−250」(ファインケミカルジャパン社製)を、ブランケット本体の表面ゴム層の表面に塗布し、150℃のオーブンで10分間加熱して被膜を形成したこと以外は実施例1〔1〕と同様にして、図3(1)に示すような平面形状(寸法)を有する印刷用ブランケットを製造した。
硬化被膜の表面における各液体の接触角(θ)の測定結果、およびこれらの測定結果に基づく硬化被膜の表面張力(γs )の各成分の値を下記表2に示す。
実施例1〜2、比較例1〜3、比較例6〜8で得られたブランケット(360mm×50mm)の各々についてインキの転移試験を行った。
具体的には、インキ転移試験機(IGT製)を使用し、図4(1)に示すように、疎水性の商業用インキ(藍)による均一なインキ層71が形成されたインキローラ72を、ブランケット胴73に装着したブランケット74(サンプル)に接触させるとともに、このブランケット74に、紙胴75に装着した紙(図示省略)を接触させ、インキローラ72、ブランケット胴73および紙胴75を回転させ、これにより、インキ層71におけるインキの一部を、インキローラ72からブランケット74に受理させ、ブランケット74が受理したインキの一部を、更に紙に転移させた。
そして、被膜の形成部分におけるインキ受理の程度(被膜の撥インキ性)および被膜から紙へのインキ転移の程度を観察することで、当該被膜による紙への汚れ防止性能を評価した。結果を下記表2に併せて示す。
また、実施例1で得られたブランケットについて、転移試験後のブランケット表面を撮影した写真を図5(1)に示し、紙を撮影した写真を図5(2)に示す。
「○」:ブランケット表面において、被膜の形成部分のインキ濃度がきわめて低く、被膜の撥インキ性が十分に認められる。また、紙へのインキの転移が殆ど認められない。
「△」:ブランケット表面において、被膜の形成部分のインキ濃度が低く、被膜の撥インキ性が認められる。また、紙への転移は認められるが、実用上許容できる程度である。 「×」:ブランケット表面において、被膜の形成部分のインキ濃度が、被膜の非形成部分のインキ濃度と同程度か、非形成部分より高濃度である。また、紙への転移が顕著に認められる。
実施例1〜2、比較例2〜3、比較例6〜8で得られたブランケット(360mm×50mm)の各々について、被膜の耐油性を評価した。
具体的には、ブランケットを、油性インキ洗浄剤「ブランクリンV」(ニッカー(株)製)に1時間浸漬した後、被膜の形成部分を目視観察を行って膨潤、欠落、変色の有無を確認し、更に、ウエスで擦って剥離が生じるか否かを確認した。
耐油性の評価基準としては、膨潤、欠落、変色、剥離などの異常が認められた場合を「×」とし、認められなかった場合を「○」とした。結果を下記表2に併せて示す。
実施例1〜2で得られたブランケット(842mm×150mm)の各々について、被膜の耐久試験を行った。
具体的には、図4(2)に示すように、ブランケット胴83に装着したブランケット84(サンプル)に圧胴85を接触させ、更に0.3mm追い込んだ状態で、ブランケット胴83を回転速度15rpmで100万回にわたり回転させた。その後、ブランケット84を取り外して硬化被膜の状態を観察した。
耐久性の評価基準としては、硬化被膜の剥離などが認められた場合を「×」とし、認められなかった場合を「○」とした。結果を下記表2に併せて示す。
※2:信越化学工業(株)製
※3:「KBE−903」信越化学工業(株)製
※4:「Si−75」エポニック・デグサジャパン社製
※5:「TSE−260−5U」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)100質量部と、「TC12K」(同社製)2質量部と、トルエンとの混合物。
※6:「KE−1935」信越化学工業(株)製
※7:藤倉ゴム工業(株)製
※8:「FC−102 ニューTFEコート」(ファインケミカルジャパン社製)
※9:「FC−250」(ファインケミカルジャパン社製)
※10:被膜の表面における蒸留水の接触角(θ)
※11:被膜の表面における1−ブロモナフタレンの接触角(θ)
※12:被膜の表面における1,1,2,2−テトラブロモエタンの接触角(θ)
10 基布層
11 織布(最下層)
12 織布(中間層)
13 織布(中間層)
20 圧縮層
30 支持体層
40 表面ゴム層
51 接着ゴム層
52 接着ゴム層
53 接着ゴム層
54 接着ゴム層
55 接着ゴム層
60 硬化被膜
71 インキ層
72 インキローラ
73 ブランケット胴
74 ブランケット(サンプル)
75 紙胴
83 ブランケット胴
84 ブランケット(サンプル)
85 圧胴
Claims (5)
- 複数枚の織布を貼り合わせてなる基布層と表面ゴム層とを備えてなり、倍胴型印刷機のブランケット胴に装着される平板状の印刷用ブランケットであって、
前記倍胴型印刷機による印刷時において版胴の溝に接触することになる前記表面ゴム層の平坦な表面に、表面張力の水素結合成分(γs h )が0.7mN/m以上である縮合硬化型のシリコーン系コーティング材料による硬化被膜が形成されていることを特徴とする印刷用ブランケット。 - 前記硬化被膜の表面張力の水素結合成分(γs h )が1.0mN/m以上であることを特徴とする請求項1に記載の印刷用ブランケット。
- 前記硬化被膜の表面張力の水素結合成分(γs h )が1.1mN/m以上であることを特徴とする請求項1に記載の印刷用ブランケット。
- 前記硬化被膜の膜厚が5〜100μmであることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の印刷用ブランケット。
- 前記表面ゴム層を構成する原料ゴムがニトリルゴム(NBR)であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の印刷用ブランケット。
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