JP6500741B2 - シートベルト用ウェビング及びその製造方法並びにシートベルト - Google Patents
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Description
このような技術としては、下記特許文献1に、衝突時にシートベルトから乗員へ作用する圧力負荷を軽減することができるシートベルト用ウェビングが開示されている。
この技術では、扁平断面糸の横転によってシートベルト用ウェビングの幅を拡張できる点で優れている。しかしながら、衝突等の際の力の入力方向に依存して扁平断面糸の横転方向が揃わない可能性がある。即ち、シートベルト用ウェビングの厚み方向に力が加わった場合であっても、扁平断面糸は、左回りに横転するものと、右回りに横転するものが混在する可能性がある。そのため、扁平断面糸の横転方向が一定とならない場合には、拡張幅にバラツキを生じる可能性があり、必要な拡張幅を設計することが難しくなるという問題がある。
また、シートベルト用ウェビングの構成糸として汎用されているポリエチレンテレフタレート繊維やポリアミド繊維等は、衝突によって生じ得る荷重域において扁平形状を維持でき無い可能性がある。従って、衝突荷重下においても、扁平形状を維持でき、必要に応じて横転可能な扁平断面糸にできる繊維材料が制約され、コスト増を招く可能性がある。
従って、上述のような課題を生じない、従来と異なる機序によってシートベルト用ウェビングの幅を拡張できる技術が求められている。
請求項1に記載のシートベルト用ウェビングは、一面側に突出した湾曲状横断面が長手方向に連続して形成された第1湾曲帯と、
他面側に突出した湾曲状横断面が長手方向に連続して形成された第2湾曲帯と、が交互に配置された蛇腹構造を備え、
前記第1湾曲帯は、緯糸のとび量が表裏で異なる織組織(A)で形成され、且つ、前記織組織(A)の前記緯糸のとび量が多い面が前記第1湾曲帯の凹面を形成し、
前記第2湾曲帯は、緯糸のとび量が表裏で異なる織組織(B)で形成され、且つ、前記織組織(B)の前記緯糸のとび量が多い面が前記第2湾曲帯の凹面を形成していることを要旨とする。
請求項2に記載のシートベルト用ウェビングは、請求項1に記載のシートベルト用ウェビングにおいて、前記織組織(A)は、前記織組織(B)が表裏反転された織組織であることを要旨とする。
請求項3に記載のシートベルト用ウェビングは、請求項1又は2に記載のシートベルト用ウェビングにおいて、前記織組織(A)は、織組織(A1)及び織組織(A2)を含む2種以上の異なる織組織を含み、
前記第1湾曲帯は、前記織組織(A1)によって形成された中央帯部と、前記織組織(A2)によって形成された両側帯部と、を備え、
前記織組織(A1)は、前記織組織(A2)よりも前記凹面側における前記緯糸のとび量が多くされていることを要旨とする。
請求項4に記載のシートベルト用ウェビングは、請求項1乃至3のうちのいずれかに記載のシートベルト用ウェビングにおいて、前記織組織(B)は、織組織(B1)及び織組織(B2)を含む2種以上の異なる織組織を含み、
前記第2湾曲帯は、前記織組織(B1)によって形成された中央帯部と、前記織組織(B2)によって形成された両側帯部と、を備え、
前記織組織(B1)は、前記織組織(B2)よりも前記凹面側における前記緯糸のとび量が多くされていることを要旨とする。
請求項5に記載のシートベルト用ウェビングは、請求項1乃至4のうちのいずれかに記載のシートベルト用ウェビングにおいて、前記第1湾曲帯と前記第2湾曲帯との間に、緯糸のとび量が表裏で均等な織組織(C)で形成された非湾曲帯を備えることを要旨とする。
請求項6に記載のシートベルト用ウェビングは、請求項1乃至5のうちのいずれかに記載のシートベルト用ウェビングにおいて、前記緯糸は、両側端で折り返されていることを要旨とする。
請求項7に記載のシートベルト用ウェビングは、請求項1乃至6のうちのいずれかに記載のシートベルト用ウェビングにおいて、前記織組織(A)及び前記織組織(B)の各々の経糸及び前記緯糸のうちの少なくとも前記緯糸は、熱収縮されていることを要旨とする。
請求項8に記載のシートベルトは、請求項1乃至7のうちのいずれかに記載のシートベルト用ウェビングを用いたことを要旨とする。
請求項9に記載のシートベルト用ウェビングの製造方法は、請求項1に記載の前記シートベルト用ウェビングの製造方法であって、
前記シートベルト用ウェビングとなる前駆体ウェビングであり、前記織組織(A)及び前記織組織(B)を有する前駆体ウェビングを熱処理する熱処理工程を備え、
前記熱処理工程では、前記前駆体ウェビングの両幅端を保持することなく前記熱処理を行うことを要旨とする。
これにより、厚み方向の力によって、第1湾曲帯及び第2湾曲帯の湾曲を弱め、より平坦に近い形状へと変形させることで、シートベルト用ウェビングの幅を拡張することができる。即ち、従来と異なる機序によってシートベルト用ウェビングの幅を拡張できる。そして、幅拡張を起こすための変形方向が、第1湾曲帯においても第2湾曲帯においても、厚み方向であることから、安定してシートベルト用ウェビングの幅を拡張させることができる。
更に、第1湾曲帯は、緯糸のとび量が表裏で異なる織組織(A)で形成され、且つ、織組織(A)の緯糸のとび量が多い面が第1湾曲帯の凹面を形成している。また、第2湾曲帯は、緯糸のとび量が表裏で異なる織組織(B)で形成され、且つ、織組織(B)の緯糸のとび量が多い面が第2湾曲帯の凹面を形成している。
このように、第1湾曲帯及び第2湾曲帯の湾曲形状は、各々織組織(A)及び織組織(B)によって形成されており、幅拡張の機序は、織組織(A)及び織組織(B)によって得られている。従って、利用する繊維材料の制約を受けることがない。
本発明のシートベルト用ウェビングにおいて、織組織(A)が、織組織(A1)及び織組織(A2)を含む2種以上の異なる織組織を含み、第1湾曲帯が、織組織(A1)によって形成された中央帯部と、織組織(A2)によって形成された両側帯部と、を備え、織組織(A1)は、織組織(A2)よりも凹面側における緯糸のとび量が多くされている場合には、中央帯部ではより強く湾曲された湾曲形状としつつ、両側帯部ではより弱く湾曲された湾曲形状することができる。即ち、必要に応じて、第1湾曲帯の湾曲を制御することができ、より自在なシートベルト用ウェビングの設計が可能となる。
本発明のシートベルト用ウェビングにおいて、織組織(B)が、織組織(B1)及び織組織(B2)を含む2種以上の異なる織組織を含み、第2湾曲帯は、織組織(B1)によって形成された中央帯部と、織組織(B2)によって形成された両側帯部と、を備え、織組織(B1)は、織組織(B2)よりも凹面側における緯糸のとび量が多くされている場合には、中央帯部ではより強く湾曲された湾曲形状としつつ、両側帯部ではより弱く湾曲された湾曲形状することができる。即ち、必要に応じて、第2湾曲帯の湾曲を制御することができ、より自在なシートベルト用ウェビングの設計が可能となる。
本発明のシートベルト用ウェビングにおいて、第1湾曲帯と第2湾曲帯との間に、緯糸のとび量が表裏で均等な織組織(C)で形成された非湾曲帯を備える場合には、湾曲させる必要がない所望の個所が存在する場合に、非湾曲帯(平板状の帯域等)を有することができる。このため、必要に応じた形状とすることができ、より自在なシートベルト用ウェビングの設計が可能となる。
本発明のシートベルト用ウェビングにおいて、緯糸が、両側端で折り返されている場合には、両幅端が緯糸で閉じられた、いわゆる、耳を有する織物となっており、シートベルト用ウェビングとして特に適する。
本発明のシートベルト用ウェビングにおいて、織組織(A)及び織組織(B)の各々の経糸及び緯糸のうちの少なくとも緯糸が、熱収縮されている場合には、緯糸の熱収縮によって、上述の湾曲形状が維持されており、熱収縮されていない場合に比べて、形態安定性がより優れる。
更に、第1湾曲帯は、緯糸のとび量が表裏で異なる織組織(A)で形成され、且つ、織組織(A)の緯糸のとび量が多い面が第1湾曲帯の凹面を形成している。また、第2湾曲帯は、緯糸のとび量が表裏で異なる織組織(B)で形成され、且つ、織組織(B)の緯糸のとび量が多い面が第2湾曲帯の凹面を形成している。
このように、第1湾曲帯及び第2湾曲帯の湾曲形状は、各々織組織(A)及び織組織(B)によって形成されており、幅拡張の機序は、織組織(A)及び織組織(B)によって得られている。従って、利用する繊維材料の制約を受けることがない。
本発明のシートベルト用ウェビング(1)は、一面(1a)側に突出した湾曲状横断面(S111)が長手方向(D1)に連続して形成された第1湾曲帯(11)と、
他面(1b)側に突出した湾曲状横断面(S121)が長手方向(D1)に連続して形成された第2湾曲帯(12)と、が交互に配置された蛇腹構造を備え、
第1湾曲帯(11)は、緯糸(WE)のとび量が表裏で異なる織組織(A)で形成され、且つ、織組織(A)の緯糸(WE)のとび量が多い面が第1湾曲帯(11)の凹面(S112)を形成し、
第2湾曲帯(12)は、緯糸(WE)のとび量が表裏で異なる織組織(B)で形成され、且つ、織組織(B)の緯糸(WE)のとび量が多い面が第2湾曲帯(12)の凹面(S122)を形成していることを特徴とする。
このウェビング1は、一面1a側に突出した湾曲状横断面S111(第1湾曲状横断面S111)を有し、この第1湾曲状横断面S111が長手方向D1に連続して形成された第1湾曲帯11を備える(図1参照)。更に、他面1b側に突出した湾曲状横断面S121(第2湾曲状横断面S121)を有し、この第2湾曲状横断面S121を長手方向D1に連続して形成された第2湾曲帯12を備える(図1参照)。これらの第1湾曲状横断面S111と第2湾曲状横断面S121とは、交互に配置されており、その結果、ウェビング1は、蛇腹構造を備えている(図1参照)。
このような蛇腹構造を備えることで、ウェビング1は、実際の幅の長さよりも、狭く収縮した形態を得ることができる。そして、衝突等の事象によって、ウェビング1の厚み方向D2に力が加わった際には、蛇腹構造が広がり、ウェビング1の幅を拡張することができる。即ち、第1湾曲帯11及び第2湾曲帯12の各々の湾曲が弱まり、より平坦な形状へ変形される結果、ウェビング1の幅が拡張される。そして、この幅拡張を起こすための変形方向が、第1湾曲帯11においても、第2湾曲帯12においても、厚み方向D2に揃っているために、厚み方向D2に力が加わった際には、第1湾曲帯11と第2湾曲帯12とが揃って展開されるため、安定してウェビング1の幅を拡張できる。加えて、厚み方向D2は、通常、シートベルト2では、乗員4の胸部付近における前後方向D3に対応することから、ウェビング1の展開によって、乗員4の胸部付近における負荷を効果的に軽減できる(図6及び図7参照)。
そして、上述のように、緯糸WEのとび量が表裏で異なる織組織であって、緯糸WEのとび量が多い面を所定面側に集めることによって、織組織の表裏差によって、ウェビング1に各々の湾曲帯を形成できる。
更に、構成糸として、熱収縮性を有する糸(熱収縮糸)を用い、必要な織組織を前駆体ウェビングに織り込んだ後、加熱によって構成糸を収縮させて、湾曲帯の賦形を行うことがより好ましい。全ての構成糸として熱収縮糸を用いてもよいし、経糸WA及び緯糸WEのうちの緯糸WEとしてのみ熱収縮糸を利用してもよい。即ち、ウェビング1においては、経糸WA及び緯糸WEのうちの少なくとも緯糸WEが、熱収縮されていることが好ましい。
ここで、「緯糸WEのとび量が表裏で異なる」とは、緯糸WEが経糸WAの上を通過する本数と、緯糸WEが経糸WAの下を通過する本数と、が異なることを意味する。即ち、例えば、2/1綾織は、表における緯糸WEのとび量は2であるのに対し、裏における緯糸WEのとび量は1であり、緯糸WEのとび量が表裏で異なる織組織Aである。従って、2/1綾織の完全組織(図1の組織Aを参照)では、表における合計とび量(図1の組織A(表)における黒升数)は6であるのに対し、裏における合計とび量(図1の組織A(裏)における黒升数)は3である。即ち、2/1綾織の完全組織における表の総とび量は、裏の総とび量の2倍であり、緯糸WEのとび量が表裏で異なる織組織Aとなっている。
この緯糸WEのとび量が表裏で異なる織組織(A)としては、具体的には、2/1綾織、3/1綾織、4/1綾織、5枚朱子織、8枚朱子織等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
特に、織組織A1として、織組織A2よりも凹面S112側における緯糸WEのとび量が多い組織を採用することで、より湾曲の強い中央帯部111と、それに比べてより湾曲の弱い両側帯部112とを設けることができる(図2参照)。
織組織Aは前述の通り、緯糸のとび量が表裏で異なる織組織である。織組織(A1)と織組織(A2)とは、いずれも織組織Aに含まれるがパターンが異なる織組織である。同じ面を向けた場合に、織組織A1は、織組織A2よりも緯糸WEのとび量が多い織組織である。具体的な組合せとしては、織組織A1:織組織A2として、3/1綾織:2/1綾織、4/1綾織:3/1綾織、4/1綾織:2/1綾織、5枚朱子織:8枚朱子織等が挙げられる。この織組織A1及び織組織A2の組合せは、後述する織組織B1及び織組織B2の組合せと同じであってもよく、異なってもよい。
織組織Bにおける「緯糸WEのとび量が表裏で異なる」の意味は、織組織(A)の場合と同様である。即ち、2/1綾織は、表における緯糸WEのとび量は2であるのに対し、裏における緯糸WEのとび量は1であり、緯糸WEのとび量が表裏で異なる織組織Bである。従って、2/1綾織の完全組織(図1の組織Bを参照)では、裏における合計とび量(図1の組織B(裏)における黒升数)は6であるのに対し、表における合計とび量(図1の組織B(表)における黒升数)は3である。即ち、2/1綾織の完全組織における裏の総とび量は、表の総とび量の2倍であり、緯糸WEのとび量が表裏で異なる織組織Bとなっている。
この緯糸WEのとび量が表裏で異なる織組織(B)としては、織組織(A)と同様に、具体的には、2/1綾織、3/1綾織、4/1綾織、5枚朱子織、8枚朱子織等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
特に、織組織B1として、織組織B2よりも凹面S122側における緯糸WEのとび量が多い組織を採用することで、より湾曲の強い中央帯部121と、それに比べてより湾曲の弱い両側帯部122とを設けることができる(図3参照)。
織組織Bは前述の通り、緯糸のとび量が表裏で異なる織組織である。織組織(B1)と織組織(B2)とは、いずれも織組織Bに含まれるがパターンが異なる織組織である。同じ面を向けた場合に、織組織B1は、織組織B2よりも緯糸WEのとび量が多い織組織である。具体的な組合せとしては、織組織B1:織組織B2として、3/1綾織:2/1綾織、4/1綾織:3/1綾織、4/1綾織:2/1綾織、5枚朱子織:8枚朱子織等が挙げられる。この織組織B1及び織組織B2の組合せは、織組織A1及び織組織A2の組合せと同じであってもよく、異なってもよい。
各糸を構成する材料は特に限定されず、天然材料による糸であってもよく、合成材料による糸であってもよい。これらのうちでは、強度及びその制御の観点から合成材料が好ましい。即ち、合成繊維が好ましい。
合成繊維を構成する樹脂も特に限定されないが、通常、熱可塑性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド系樹脂{脂肪族ポリアミド樹脂(ナイロン等)、芳香族ポリアミド樹脂(パラフェニレンジアミンとテレフタル酸との重合体など)}、ビニル系樹脂(疎水化ポリビニルアルコール樹脂等、特にビニロン)、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂等)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。更には、これらの構成糸には、必要に応じて樹脂以外の成分が含まれてもよい。即ち、例えば、無機フィラー、有機フィラー、着色剤、可塑剤、酸化防止剤、老化防止剤等が挙げられる。これらは1種のみが含有されてもよく2種以上が含有されてもよい。
更に、構成糸の形態は限定されず、モノフィラメントでも、マルチフィラメントでもよい。また、マルチフィラメントである場合には、引き揃え糸でも、撚り合わせ糸(合撚糸、交撚糸等)でもよい。
また、ウェビング1では、織組織A及び織組織B以外の織組織を用いることができる。織組織A及び織組織B以外の組織は特に限定されないが、緯糸WEのとび量が表裏で均等な織組織(C)が挙げられる。織組織Cを用いた場合には、湾曲されない非湾曲帯13を必要に応じて、ウェビング1に加えることができる(図4参照)。
織組織Cとしては、平織、2/2綾織、3/3綾織等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。このうち、平織としては、1/1平織、2/2平織、3/3平織等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、1/1平織、及び/又は、2/2平織が好ましい。
本発明のウェビング1を製造する方法は特に限定されないが、熱処理によって形状維持又は賦形を行う場合には、下記の本発明の方法を用いることが好ましい。
即ち、ウェビング1となる前駆体ウェビングであり、織組織(A)及び織組織(B)を有する前駆体ウェビングを熱処理する熱処理工程を備え、この熱処理工程では、前駆体ウェビングの両幅端を保持することなく熱処理を行うことを特徴とする。
この方法によれば、テンター等を用いて前駆体ウェビングの両幅端を引っ張らないため、熱処理による幅方向への縮みを規制されず、熱処理による幅方向への収縮に伴って湾曲帯(第1湾曲帯11及び第2湾曲帯12)の立体形状を現出させることができる。
また、ポリアミド系樹脂を用いた熱収縮糸を緯糸WEとして利用した前駆体ウェビングでは、熱処理を湿式で行うことができる。加熱条件は限定されないが、例えば、70℃以上150℃以下の温水、沸騰水又は水蒸気と接触させて加熱を行うことができ、80℃以上120℃以下がより好ましく、90℃以上110℃以下が特に好ましい。また、例えば、1分以上5分以下の加熱時間とすることができ、2分以上3分以下とすることが好ましい。
前駆体ウェビングは、既に製織の際に、湾曲が付与されて湾曲帯(第1湾曲帯11及び第2湾曲帯12)が形成されていてもよい。この場合には、熱処理工程によって、湾曲形状の形態安定性を向上させることができる。また、前駆体ウェビングは、製織後且つ熱処理工程前の段階では、湾曲がない平板状態であってもよい。この場合には、熱処理工程によって、湾曲した立体形状を現出させることができる。また、当然ながら、前駆体ウェビングは、織組織及びその構成(織組織の種類及び配置)としては、ウェビング1と同様の織組織及び構成を有する。
本発明のシートベルト2は、本発明のシートベルト用ウェビング1を用いたことを特徴とする(図6−9参照)。
より具体的には、ベルト本体21(ウェビング1から構成されている長尺織物)と、その他の構成とを備えることができる。その他の構成としては、ベルト本体21の一端側から、ベルト本体21の一端側を固定しつつベルト本体21を延出及び巻取りが可能とされたリトラクタと、ベルト本体21が挿通されるとともに車両又は座席に固定されてベルト本体21の延出方向を変化させるスルーアンカと、ベルト本体21が挿通されるとともにベルト本体21を長尺方向に可動可能とされたタングと、車両又は座席3に固定されるとともにベルト本体21の他端を固定するアンカ21と、を備えることができる。更に、上記タングを固定するためのバックル22を、車両本体又は座席3に固定して備えることができる。
そして、図7及び図8に例示されるように、衝突等に伴って生じた力が作用すると、この力のうち前後方向D3に負荷される力が、シートベルト2を構成するウェビング1の厚み方向D2の力として作用され、前述の通り、ウェビング1の蛇腹構造を展開させ、ウェビング1の幅を拡張させる。そして、このように幅広に拡張された状態において、ベルト本体21b(幅広に拡張された状態のベルト本体)により座席3に対して乗員4を拘束し続けることができる。更に、この拡張により、シートベルト2から乗員4の胸部へ作用する負荷を効果的に軽減することができる。
〈第一実施形態〉
図1に例示するウェビング1について説明する。
(1)前駆体ウェビングの製造
乾熱寸法変化率が3%以上20%以下(好ましくは5%以上15%以下)のポリエステル糸を経糸WA及び緯糸WEとして用い、幅46mm以上100mm以下(好ましくは46mm以上55mm以下)の前駆体ウェビングを、ニードル織機を用いて製織する。
この製織に際して、経糸WA及び緯糸WEは、50dtex以上1670dtex以下であることが好ましい。更に、経糸WAは700dtex以上1670dtex以下、緯糸WEは150dtex以上1100dtex以下の範囲で、経糸WAが緯糸WEよりも太い糸であることが好ましい。より具体的には、経糸WAの恒長式番手と緯糸WEの恒長式番手との比{経糸WAの恒長式番手(dtex)/緯糸WEの恒長式番手(dtex)}は、1.2以上5以下が好ましい(より好ましくは1.5以上4.7以下)。
尚、上記乾熱寸法変化率は、JIS L1013のA法(かせ寸法変化率)の乾熱寸法変化率の測定方法に準じて、乾熱温度を150℃に設定し、無荷重にて30分間、乾熱処理を行った処理前後の各糸長を測定し、下記式(I)にて算出した値である。但し、L1は、乾熱処理前の長さ(cm)を、L2は、乾熱処理後の長さ(cm)を、意味する。
乾熱寸法変化率(%)={(L1−L2)/L1}×100 ・・・(I)
上記(1)で得られた前駆体ウェビングの熱処理を、前駆体ウェビングの長手方向へはテンションを掛け、両幅端の保持はせず行う。熱処理条件は、加熱温度100℃以上230℃以下とすることができ、150℃以上220℃以下が好ましい。加熱時間は1分以上5分以下とすることができ、2分以上3分以下が好ましい。
この熱処理により、前駆体ウェビングは、長手方向D1には引っ張られつつ、両幅端を広げるテンションは付加されていないため、経糸WAに比べて緯糸WEがより効果的に収縮され、この2/1綾織(織組織A及び織組織B)で形成された各々の緯糸WEのとび量が多い面が凹面を形成するように湾曲される。即ち、一面1a側に突出した湾曲状横断面S111が長手方向D1に連続して形成された複数条の第1湾曲帯11と、2つの第1湾曲帯11に挟まれて形成され、他面1b側に突出した湾曲状横断面S121が長手方向に連続して形成された複数条の第2湾曲帯12と、で交互配置となった蛇腹構造が形成される。このようにして、織組織A及び織組織Bのみを用いて、蛇腹構造を形成でき、幅方向に収縮されたシートベルト用ウェビング1(図1参照)を得ることができる。
これにより、厚み方向D1の力の負荷により、第1湾曲帯11及び第2湾曲帯12の湾曲を弱め、ウェビング1をより平坦に近い形状へと変形させることで、ウェビング1の幅を拡張することができる。また、幅拡張を起こすための変形方向が、第1湾曲帯11においても第2湾曲帯11においても、厚み方向D1であるため、安定してウェビング1の幅を拡張できる。
更に、第1湾曲帯11は、織組織Aで形成され、織組織Aの緯糸WEのとび量が多い面が第1湾曲帯11の凹面S112を形成している。同時に、第2湾曲帯12は、緯糸WEのとび量が表裏で異なる織組織Bで形成され、織組織Bの緯糸WEのとび量が多い面が第2湾曲帯12の凹面S122を形成している。
このように、第1湾曲帯11及び第2湾曲帯12の湾曲形状は、各々織組織A及び織組織Bによって形成され、幅拡張の機序が、各織組織によって得られている。従って、利用する繊維材料の制約を受けることがない。
加えて、このように織組織によって蛇腹構造が得られているため、蛇腹構造は形態安定性に優れており、厚み方向D1の力の入力により幅拡張されるものの、この厚み方向D1の力の入力が収まると、蛇腹構造が復元されるため、通常幅のシートベルトとし再利用できる。必要な場合にのみ幅拡張され、不要な場合には、通常幅のシートベルトとして利用できるため、例えば、エアバックのように一定以上の力の入力があった場合にのみ利用するというような閾値を高く設定する必要がなく、簡便に利用することができる。
図2に例示するウェビング1について説明する。
(1)前駆体ウェビングの製造
第一実施形態の場合と同じ構成糸を用い、同様に、ニードル織機を用いて前駆体ウェビングを製織する。
但し、第1湾曲帯11の中央部は、中央帯部111として形成されるように3/1綾織(織組織A1)で形成し、中央帯部111の両側は両側帯部112として形成されるように2/1綾織(織組織A2)で形成する点が異なる。より具体的には、幅0.5mm以上3mm以下(好ましくは1mm以上2mm以下)で、中央帯部111を3/1綾織で形成し、幅0.5mm以上3mm以下(好ましくは1mm以上2mm以下)で、各両側帯部112を2/1綾織で形成できる。
尚、第二実施形態における第2湾曲帯12は、どのように構成してもよい。即ち、第一実施形態と同様に、2/1綾織(織組織B)のみで形成してもよいし、後述する、第三実施形態と同様の構成により形成し、第2湾曲帯12内にも、中央帯部121及び両側帯部122を形成してもよい。
上記第一実施形態と同様に熱処理を行う。この熱処理により、前駆体ウェビングは、長手方向には引っ張られつつ、両幅端を広げるテンションは付加されていないため、3/1綾織(織組織A1)及び2/1綾織(織組織A2)では、経糸WAに比べて緯糸WEがより効果的に収縮され、各織組織の緯糸WEのとび量が多い面が凹面を形成するように湾曲される。更に、第1湾曲帯11のうち、3/1綾織(織組織A1)によって形成された中央帯部111は、2/1綾織(織組織A2)によって形成された両側帯部112に比べて、他面1b側の緯糸WEのとび量が多くされているため、より強く湾曲される。即ち、一面1a側に突出した湾曲状横断面S111が長手方向D1に連続して形成された複数条の第1湾曲帯11と、2つの第1湾曲帯11に挟まれて形成され、他面1b側に突出した湾曲状横断面S121が長手方向に連続して形成された複数条の第2湾曲帯12と、で交互配置となった蛇腹構造が形成される。このようにして、織組織A1、織組織A2及び織組織Bを用いて、蛇腹構造を形成でき、幅方向に収縮されたシートベルト用ウェビング1(図2参照)を得ることができる。
図3に例示するウェビング1について説明する。
(1)前駆体ウェビングの製造
第一実施形態の場合と同じ構成糸を用い、同様に、ニードル織機を用いて前駆体ウェビングを製織する。
但し、第2湾曲帯12の中央部は、中央帯部121として形成されるように3/1綾織(織組織B1)で形成し、中央帯部121の両側は両側帯部122として形成されるように2/1綾織(織組織B2)で形成する点が異なる。より具体的には、幅0.5mm以上3mm以下(好ましくは1mm以上2mm以下)で、中央帯部121を3/1綾織で形成し、幅0.5mm以上3mm以下(好ましくは1mm以上2mm以下)で、各両側帯部122を2/1綾織で形成できる。
尚、第三実施形態における第1湾曲帯11は、どのように構成してもよい。即ち、第一実施形態と同様に、2/1綾織(織組織B)のみで形成してもよいし、前述した、第二実施形態と同様の構成により形成し、第1湾曲帯11内にも、中央帯部111及び両側帯部112を形成してもよい。
上記第一実施形態と同様に熱処理を行う。この熱処理により、前駆体ウェビングは、長手方向には引っ張られつつ、両幅端を広げるテンションは付加されていないため、3/1綾織(織組織B1)及び2/1綾織(織組織B2)では、経糸WAに比べて緯糸WEがより効果的に収縮され、各織組織の緯糸WEのとび量が多い面が凹面を形成するように湾曲される。更に、第2湾曲帯12のうち、3/1綾織(織組織B1)によって形成された中央帯部121は、2/1綾織(織組織B2)によって形成された両側帯部122に比べて、一面1a側の緯糸WEのとび量が多くされているため、より強く湾曲される。即ち、一面1a側に突出した湾曲状横断面S111が長手方向D1に連続して形成された複数条の第1湾曲帯11と、2つの第1湾曲帯11に挟まれて形成され、他面1b側に突出した湾曲状横断面S121が長手方向に連続して形成された複数条の第2湾曲帯12と、で交互配置となった蛇腹構造が形成される。このようにして、織組織A、織組織B1及び織組織B2を用いて、蛇腹構造を形成でき、幅方向に収縮されたシートベルト用ウェビング1(図3参照)を得ることができる。
図4に例示するウェビング1について説明する。
(1)前駆体ウェビングの製造
第一実施形態の場合と同じ構成糸を用い、同様に、ニードル織機を用いて前駆体ウェビングを製織する。
但し、第1湾曲帯11(織組織A)と第2湾曲帯12(織組織B)との間に、非湾曲帯13を形成するよう、織組織Cを用いている点で異なる。より具体的には、幅0.5mm以上3mm以下(好ましくは1mm以上2mm以下)で、第1湾曲帯11を2/1綾織(織組織A)で形成し、幅0.5mm以上3mm以下(好ましくは1mm以上2mm以下)で、非湾曲帯13を1/1平織で形成し、幅0.5mm以上3mm以下(好ましくは1mm以上2mm以下)で、第2湾曲帯12を2/1綾織(織組織B)で形成できる。
尚、第四実施形態における第1湾曲帯11及び第2湾曲帯12の各々は、どのような織組織を用いて形成してもよい。即ち、第一実施形態と同様に、2/1綾織(織組織A)及び2/1綾織(織組織B)を用いて形成してもよいし、第二実施形態と同様に、3/1綾織(織組織A1)、2/1綾織(織組織A2)及び2/1綾織(織組織B)を用いて形成してもよいし、第三実施形態と同様に、2/1綾織(織組織A)、3/1綾織(織組織B1)及び2/1綾織(織組織B2)を用いて形成してもよい。
上記第一実施形態と同様に熱処理を行う。この熱処理により、前駆体ウェビングは、長手方向には引っ張られつつ、両幅端を広げるテンションは付加されていないため、2/1綾織(織組織A)及び2/1綾織(織組織B)では、経糸WAに比べて緯糸WEがより効果的に収縮され、各織組織の緯糸WEのとび量が多い面が凹面を形成するように湾曲される。即ち、一面1a側に突出した湾曲状横断面S111が長手方向D1に連続して形成された複数条の第1湾曲帯11と、2つの第1湾曲帯11に挟まれて形成され、他面1b側に突出した湾曲状横断面S121が長手方向に連続して形成された複数条の第2湾曲帯12と、で交互配置となった蛇腹構造が形成される。このようにして、織組織A、織組織B及び織組織Cを用いて、蛇腹構造を形成でき、幅方向に収縮されたシートベルト用ウェビング1(図4参照)を得ることができる。
11;第1湾曲帯、111;第1湾曲帯の中央帯部、112;第1湾曲帯の両側帯部、
12;第2湾曲帯、121;第2湾曲帯の中央帯部、122;第2湾曲帯の両側帯部、
13;非湾曲帯、
15;幅端、
2;シートベルト、
21;ベルト本体、21a;拡張前のベルト本体、21b;拡張後のベルト本体、21;アンカ、22;バックル、
3;シート(座席)、
4;乗員、
D1;長手方向、D2;厚み方向、D3;前後方向、
S111;第1湾曲帯の湾曲状横断面、S112;第1湾曲帯の凹面、
S121;第2湾曲帯の湾曲状横断面、S122;第2湾曲帯の凹面、
WA;経糸、WE;緯糸。
Claims (9)
- 一面側に突出した湾曲状横断面が長手方向に連続して形成された第1湾曲帯と、
他面側に突出した湾曲状横断面が長手方向に連続して形成された第2湾曲帯と、が交互に配置された蛇腹構造を備え、
前記第1湾曲帯は、緯糸のとび量が表裏で異なる織組織(A)で形成され、且つ、前記織組織(A)の前記緯糸のとび量が多い面が前記第1湾曲帯の凹面を形成し、
前記第2湾曲帯は、緯糸のとび量が表裏で異なる織組織(B)で形成され、且つ、前記織組織(B)の前記緯糸のとび量が多い面が前記第2湾曲帯の凹面を形成していることを特徴とするシートベルト用ウェビング。 - 前記織組織(A)は、前記織組織(B)が表裏反転された織組織である請求項1に記載のシートベルト用ウェビング。
- 前記織組織(A)は、織組織(A1)及び織組織(A2)を含む2種以上の異なる織組織を含み、
前記第1湾曲帯は、前記織組織(A1)によって形成された中央帯部と、前記織組織(A2)によって形成された両側帯部と、を備え、
前記織組織(A1)は、前記織組織(A2)よりも前記凹面側における前記緯糸のとび量が多くされている請求項1又は2に記載のシートベルト用ウェビング。 - 前記織組織(B)は、織組織(B1)及び織組織(B2)を含む2種以上の異なる織組織を含み、
前記第2湾曲帯は、前記織組織(B1)によって形成された中央帯部と、前記織組織(B2)によって形成された両側帯部と、を備え、
前記織組織(B1)は、前記織組織(B2)よりも前記凹面側における前記緯糸のとび量が多くされている請求項1乃至3のうちのいずれかに記載のシートベルト用ウェビング。 - 前記第1湾曲帯と前記第2湾曲帯との間に、緯糸のとび量が表裏で均等な織組織(C)で形成された非湾曲帯を備える請求項1乃至4のうちのいずれかに記載のシートベルト用ウェビング。
- 前記緯糸は、両側端で折り返されている請求項1乃至5のうちのいずれかに記載のシートベルト用ウェビング。
- 前記織組織(A)及び前記織組織(B)の各々の経糸及び前記緯糸のうちの少なくとも前記緯糸は、熱収縮されている請求項1乃至6のうちのいずれかに記載のシートベルト用ウェビング。
- 請求項1乃至7のうちのいずれかに記載のシートベルト用ウェビングを用いたことを特徴とするシートベルト。
- 請求項1に記載の前記シートベルト用ウェビングの製造方法であって、
前記シートベルト用ウェビングとなる前駆体ウェビングであり、前記織組織(A)及び前記織組織(B)を有する前駆体ウェビングを熱処理する熱処理工程を備え、
前記熱処理工程では、前記前駆体ウェビングの両幅端を保持することなく前記熱処理を行うことを特徴とするシートベルト用ウェビングの製造方法。
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