JP6497689B2 - Co−Cr−W基合金熱間加工材、焼鈍材、鋳造材、均質化熱処理材、及びCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法、焼鈍材の製造方法 - Google Patents

Co−Cr−W基合金熱間加工材、焼鈍材、鋳造材、均質化熱処理材、及びCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法、焼鈍材の製造方法 Download PDF

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本発明は、Co−Cr−W基合金熱間加工材、焼鈍材、鋳造材、均質化熱処理材、及びCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法、焼鈍材の製造方法に関し、特に、炭素、並びに必要に応じて窒素及び/又はホウ素を含有するCo−Cr−W基合金熱間加工材、焼鈍材、鋳造材、均質化熱処理材、及びCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法、焼鈍材の製造方法に関する。
近年、高齢化の進行を背景に身体の機能を代替する生体材料は大きな関心を集めており、精力的な研究開発がなされている。生体材料は主に金属材料、高分子材料およびセラミックスに分けられるが、中でも金属材料は高分子やセラミックスに比べて強度・靭性のバランスに優れるため体を支える骨格系の代替材料として使用されている。
現在実用化されている主な金属系生体材料としては、純Ti又はTi合金、オーステナイト系ステンレス鋼、及びCo−Cr基合金が挙げられるが、中でもCo−Cr基合金は他の金属材料と比較して耐食性および耐摩耗性に優れるため人工関節用材料として重要な役割を担っている。Co−Cr基合金としては、Co−Cr−Mo基合金(特許文献1、2参照)、Co−Cr−W(特許文献3参照)等が知られている。
また、最近では高弾性特性やX線透過性が低いこと、磁化率が低いためMRI(核磁気共鳴画像法)による診断画像にアーチファクトを生じにくいことから、ステント用材料としても注目されている。
一方、歯科分野において、う蝕により欠損した歯(う歯:一般的には虫歯)の治療法として補綴(ほてつ)と呼ばれる手法があり、その歴史は古い。補綴とは歯の欠損部分を人工物で補うことをいうが、欠損が軽度な場合にはコンポジットレジンや歯科用セメント(いずれも高分子材料)、インレー、アマルガムなどが用いられ、欠損が広範囲に及ぶ場合にはクラウンやブリッジ、入れ歯などが使用されている。
このうち、アマルガムはその成分である水銀の生体や環境への影響が問題となっており、最近では使用頻度が激減している。補綴に使用される金属材料としては、生体適合性に優れた金及び金合金、プラチナ及びプラチナ合金などの貴金属が古くから知られるが、近年の世界的な金地金の価格の高騰により、その使用には制限がかかっている。また、ここ数年、1)欠損部分の造形を高精度に行い患者固有の形状に復元する、2)復元時に歯列の矯正や審美的な要求も同時に実現させる、などの患者側の要求が歯科治療の先進国である欧米で強まっている。更に、現在のクラウン製造工程は煩雑で技工に時間を要するため、3)患者のQOL(生活の質)の向上の観点から治療期間の短縮が求められている。併せて4)治療コストの低減要求も高まっている。
そこで、これらの要求を一挙に解決する方策として、機械加工分野で普及しているCAD/CAM(Computer−Aided Design/Computer−Aided Manufacturing)技術を利用し、マシニングセンターなどを用いて補綴物を機械加工により製造する技術(以降、CAD/CAM製造法と称する)が欧米で急激に普及し始めている。この製造法は、補綴を必要とする患者の口腔内の形状を光学系(レーザーや赤外線など)装置で読み取ってデータ化し、そのデータをもとにディスク状の素材から補綴物を製作するものである。なお、素材がディスク状である理由は、補綴物が顎骨の湾曲に沿った形状をしていることから、何人もの患者の補綴物(大小取り混ぜて)を効率よく同時に機械加工するのに適しているためである。
CAD/CAM技術を利用したう歯治療法には当初ジルコニアが用いられたが、高価であることと、セラミックス材料であるため機械加工に時間がかかる上に加工中に欠けやすいという欠点があった。そのため、実績のあるコバルト合金製ディスクが使用され始めたが、現在、CAD/CAM用コバルト合金製ディスクの供給企業は、世界でDentaurum社の一社のみである。製品名称は「remanium(レマニウム)」(登録商標)で、合金組成がCo−28Cr−9W−1.5Siの鋳造品であるが、Niを添加していないため、欧米人に多いNiアレルギーに対応するCAD/CAM用合金として世界市場で急激に売上げを伸ばしつつある(特許文献4参照)。
しかしながら、上記の鋳造remanium合金において、製造プロセスである鋳造に起因する問題が新たに指摘されている。最も大きな問題は、1)鋳造組織を呈しているために同じディスク内での材質が均質でないことであるが、それに加えて、2)ディスクに含まれる凝固欠陥(元素偏析、引け巣、析出物など)が機械加工時のチッピング(欠け)の原因となる、3)引け巣が補綴物の表面に露出することによる製品欠陥、4)それらが原因となる素材の歩留まりロスによるコスト高、である。したがって、高強度で機械加工性(被削性)に富み、同時に、生体適合性に優れた品質の高いコバルト合金に対する要求が高まっており、歯科補綴物のCAD/CAM製造に最適な良質のコバルト合金製ディスクの開発が重要である。
特開2009−114477号公報 特開2008−111177号公報 特開2011−202197号公報 米国特許出願公開第2005/0232806号明細書
本発明者らは、鋭意研究を行ったところ、従来使用されている鋳造remanium合金に、炭素、並びに必要に応じて窒素及びホウ素を加えること、また、熱間加工技術を駆使することで、高強度・高延性で疲労強度が高く、元素偏析および内部欠陥を低減した材質がより均一なCo−Cr−W基新合金が得られ、この新合金が、金合金よりも安価でかつ生体適合性に優れた歯科分野におけるCAD/CAM用コバルト基合金に加え、耐熱性、耐酸化性等に優れることから、医療用途として、ステント、側湾症矯正用ロッド材料、人工股関節ステム材料、産業用途として、耐熱部材、アルミダイカスト用金属金型材料、摩擦攪拌溶接(FSW)ツール用材料などに使用する、ロッド、板、線、等にも有用であることを新たに見出した。本発明は、この新知見に基づいて成されたものである。
すなわち、本発明の目的は、歯科補綴物のCAD/CAM用途、医療用途、産業用途に最適なCo−Cr−W基合金熱間加工材、焼鈍材、鋳造材、均質化熱処理材、及びCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法、焼鈍材の製造方法を提供することである。
本発明は、以下に示す、Co−Cr−W基合金熱間加工材、焼鈍材、鋳造材、均質化熱処理材、及びCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法、焼鈍材の製造方法に関する。
〔1〕Cを0.02〜0.5質量%含有するCo−Cr−W基合金に熱間加工を施したことを特徴とするCo−Cr−W基合金熱間加工材。
〔2〕前記Co−Cr−W基合金中のCr及びW元素が、質量比で、Cr:25〜35%、W:5〜20%であり、残部がCoおよび不可避的不純物の組成からなることを特徴とする上記〔1〕に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材。
〔3〕前記Co−Cr−W基合金中に質量比で0〜0.8%のN及び/又は0〜2%のBを更に含むことを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材。
〔4〕前記Co−Cr−W基合金中にN及びBを含み、h−BNが分散していることを特徴とする上記〔3〕に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材。
〔5〕前記Co−Cr−W基合金中に質量比で0.1〜5%のSiを更に含むことを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕の何れか1に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材。
〔6〕面心立方構造のγ相の割合が90%以上であることを特徴とする上記〔1〕〜〔5〕の何れか1に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材。
〔7〕上記〔1〕〜〔6〕に記載されているCo−Cr−W基合金熱間加工材を、1000〜1250℃で1分〜6時間、更に熱処理を施したことを特徴とするCo−Cr−W基合金焼鈍材。
〔8〕Cを0.02〜0.5質量%含有することを特徴とするCo−Cr−W基合金鋳造材。
〔9〕前記Co−Cr−W基合金中のCr及びW元素が、質量比で、Cr:25〜35%、W:5〜20%であり、残部がCoおよび不可避的不純物の組成からなることを特徴とする上記〔8〕に記載のCo−Cr−W基合金鋳造材。
〔10〕質量比で0〜0.8%のN及び/又は0〜2%のBを更に含むことを特徴とする上記〔8〕又は〔9〕に記載のCo−Cr−W基合金鋳造材。
〔11〕前記Co−Cr−W基合金中にN及びBを含み、h−BNが分散していることを特徴とする上記〔10〕に記載のCo−Cr−W基合金鋳造材。
〔12〕前記Co−Cr−W基合金中に質量比で0.1〜5%のSiを更に含むことを特徴とする上記〔8〕〜〔11〕の何れか1に記載のCo−Cr−W基合金鋳造材。
〔13〕面心立方構造のγ相の割合が90%以上であることを特徴とする上記〔8〕〜〔12〕の何れか1に記載のCo−Cr−W基合金鋳造材。
〔14〕上記〔8〕〜〔13〕に記載されているCo−Cr−W基合金鋳造材を、1000〜1250℃で1〜24時間熱処理を施したことを特徴とするCo−Cr−W基合金均質化熱処理材。
〔15〕Cを0.02〜0.5質量%含有するCo−Cr−W基合金を、相当ひずみを0.15以上で熱間加工する工程を含むことを特徴とするCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法。
〔16〕前記Co−Cr−W基合金中のCr及びW元素が、質量比で、Cr:25〜35%、W:5〜20%であり、残部がCoおよび不可避的不純物の組成からなることを特徴とする上記〔15〕に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法。
〔17〕前記Co−Cr−W基合金が、質量比で0〜0.8%のN及び/又は0〜2%のBを更に含むことを特徴とする上記〔15〕又は〔16〕に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法。
〔18〕前記Co−Cr−W基合金が、質量比で0.1〜5%のSiを更に含むことを特徴とする上記〔15〕〜〔17〕の何れか1に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法。
〔19〕前記熱間加工する工程の前に、Co−Cr−W基合金から鋳造材を作製する工程を含むことを特徴とする上記〔15〕〜〔18〕の何れか1に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法。
〔20〕前記Co−Cr−W基合金から鋳造材を作製する工程の後に、鋳造材を1000〜1250℃で1〜24時間処理することで組織を均質化する工程を含むことを特徴とする上記〔19〕に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法。
〔21〕前記熱間加工する工程の後に、1000〜1250℃で1分〜6時間、更に熱処理する工程を含むことを特徴とする上記〔15〕〜〔20〕の何れか1に記載のCo−Cr−W基合金焼鈍材の製造方法。
(1)Co−Cr−W基合金に、Cを添加することで、材料を脆化させるσ相の形成を抑制し、Laves相の析出に寄与し、更に、鋳造過程においてミクロ偏析と金属間化合物相の析出を促進し、凝固組織を微細化することができる。したがって、本発明のCo−Cr−W基合金を鋳造材のまま使用する場合や均質化熱処理を行って使用する場合には、従来材と比較して機械加工性に優れている。一般に、結晶粒を微細化するためには水冷鋳型等を用いて大きな冷却速度で凝固させる方法が考えられるが、鋳塊サイズや設備の制約を受ける。したがって、本発明ではCの微量添加のみで結晶粒を著しく微細化できるため、工業的にも優れている。さらに、熱間加工を行う場合には材料表面や内部に割れが生じにくくなるため、安定した製造工程が実現可能である。
(2)また、Cに加え、Nを更に添加することで、材料強度を高めると同時に、六方最密構造のεマルテンサイトの形成を抑制し、面心立方構造のγ相を安定化することで延性をさらに向上させることができる。
(3)上記合金においてNとBを同時に添加すると、γ相中に存在するNの一部を切削加工時に潤滑作用を示す六方晶系窒化ホウ素(h−BN)として析出させることができ、被削性が大幅に改善される。このh−BNの析出は下記の熱処理及び熱間加工により促進される。
(4)上記合金に、Siを添加することで、材料の脆化の原因となるσ相の形成を抑制することができる。また、Siを添加すると合金溶湯から酸素を除去(脱酸)されるため、酸化物系介在物の形成を抑制し、疲労強度の改善が期待できる。さらに、Si添加は材料の耐酸化性を飛躍的に高めることから、熱処理及び熱間加工時にスケール(素材表面の酸化物)の形成を抑制し、製品の歩留まり向上にも効果的である。
(5)本発明の合金組成の下で熱間加工を施すと上記の金属間化合物を微細(1μm以下)かつ均一に析出させることが可能であるため、合金の飛躍的な特性改善が可能となる。
(6)本発明のCo−Cr−W基合金は、Niフリーであっても十分な延性を示し、長期間人体内に埋入されても生体適合性が高い。
図1は、実施例1〜4及び比較例1で得られた各鋳造材のγ相のEBSDマップを示す。 図2は、実施例1〜4及び比較例1で得られた各鋳造材のEBSD測定結果をもとに結晶方位差2°以上の粒界について平均結晶粒径を切片法により算出した結果を示す。 図3は、図面代用写真で、実施例1〜4及び比較例1で得られた各鋳造材のSEM−反射電子(BSE)像である。 図4は、実施例1〜4及び比較例1で得られた各鋳造材の金属間化合物相の析出物の面積率を示す。 図5は、図面代用写真で、実施例1〜3及び比較例1で得られた各鋳造材の元素分布のEPMAマッピングである。 図6は、実施例5で得られた鋳造材の反射電子(BSE)像およびEPMA分析結果である。 図7は、実施例7で得られた鋳造材のBSE像およびEPMA分析結果である。 図8は、実施例9で得られた鋳造材のBSE像およびEPMA分析結果である。 図9は、実施例5〜9で得られた鋳造材を室温で引張試験した際に、Cの添加量を変えることにより、(a)強度、及び(b)破断伸びが、どのように変化したのかを示すグラフである。 図10は、図面代用写真で、実施例5〜9の引張試験片を引張試験した際の破断面のSEM写真である。 図11は、実施例10及び11で得られた均質化熱処理材の粒界マップである。 図12は、実施例12〜15の結晶粒微細化挙動に及ぼす加工温度の影響を示したEBSD粒界マップである。 図13は、図面代用写真で、実施例12及び実施例15で得られた試験片のTEM明視野像である。 図14は、実施例12、16、及び比較例2の条件で熱間圧縮試験を行った場合のγ相の組織変化を示している。 図15は、合金の結晶粒微細化挙動に及ぼす熱間加工条件(加工温度、ひずみ速度)をZener−Hollomon(Z)パラメータを用いて整理した結果である。 図16は、実施例21〜26で得られた試験片のXRDパターンを示す。 図17は、実施例21及び実施例24で得られた試験片のEBSD粒界マップを示す。 図18は、図面代用写真で、実施例21及び23で得られた試験片のEPMA元素マッピングを示す。 図19は、図面代用写真で、実施例21及び実施例24で得られた試験片のSEM−BSE像を示す。 図20は、図面代用写真で、実施例21及び実施例24で得られた試験片のTEM明視野像を示す。 図21は、実施例21〜26で得られた試験片の室温引張試験により得られた公称応力−公称ひずみ曲線を示す。 図22は、実施例21〜26で得られた試験片のアノード分極曲線を示す。 図23は、実施例27〜30で得られた合金の試験片のEBSDマップで、上段は結晶方位を示すIPF(Inverse Pole Figure)マップ、下段は相構成を示すPhaseマップである。 図24は、図面代用写真で、実施例27〜30の合金の試験片のSEM−反射電子(BSE)像である。 図25は、実施例30の合金のEPMA分析結果である。 図26aは、図面代用写真で、実施例30の合金において観察されたナノサイズの析出物を含むTEM明視野像である。図26bは、図26aで観察された析出物から得られた制限視野回折パターン図である。図26cは、エネルギー分散型X線分析(EDX)の結果である。 図27は、実施例27〜30で得られた各合金の室温引張試験により得られた公称応力−公称ひずみ曲線である。 図28は、図27から求めた各合金の引張特性を示したグラフで、図28aはC添加量と強度の関係を示し、図28bはc添加量と破断伸びの関係を示す。 図29は、図面代用写真で、実施例27〜30で作製した引張試験片の破面観察結果(SEM写真)を示している。 図30は、実施例31(熱間鍛造材)、実施例35(焼鈍材)、及び実施例39(熱間圧延材)で得られた試験片のEBSD測定により作成したImage qualityマップである。 図31は、図面代用写真で、実施例39〜42で得られた試験片のSEM−BSE像である。 図32は、図面代用写真で、実施例39で得られた試験片のTEM像で、(a)は明視野像及び制限視野回折パターン、(b)は変形双晶の暗視野像、(c)はεマルテンサイトの暗視野像、である。 図33は、実施例39の試験片のEBSDにより得られた極点図を示す。 図34は、実施例31〜34の熱間鍛造材、実施例35〜38の焼鈍材、実施例39〜42の熱間圧延材(熱間圧延材については、RD及びTDの2種類)、実施例27及び30の鋳造材、実施例26及び29の均質化熱処理材の強度−延性バランスを0.2%耐力と伸びを用いて示したグラフである。 図35は、切削荷重測定の模式図を示す。 図36は、実施例43及び44の鋳造材のEPMA元素マッピングである。 図37は、実施例43、44及び比較例4の各試験片のアノード分極曲線を示す。 図38は、実施例43(鋳造材)と実施例45(熱間鍛造材)のEPMA元素マッピングの結果を示す。 図39は、図面代用写真で、実施例46〜70の熱間鍛造材および焼鈍材のSEM−反射電子(BSE)像である。 図40は、実施例46〜70の合金の切削荷重の合力値(R)を、熱処理条件ごとにB添加量に対してプロットしたグラフである。
本発明の、Co−Cr−W基合金熱間加工材、均質化熱処理材、鋳造材、及びCo−Cr−W基合金熱間加工材、均質化熱処理材、鋳造材の製造方法について、以下に、具体的に説明する。
本発明で用いられるCo−Cr−W基合金は、質量比で、Cが0.02〜0.5%含まれていることを特徴とし、更に、必要に応じて、N、Si、B等の元素を添加してもよい。
合金中のCrは、質量比で25〜35%含まれることが望ましい。Crの質量比が25%未満では十分な耐食性が得られず、また、35%を越えた過剰な添加は材料の加工性に悪影響を及ぼす。
合金中のWは、面心立方構造のγ相を安定化する働きを持ち、質量比で5〜20%含まれていることが望ましい。CoおよびCrを主要元素とする生体用金属材料(例えば人工関節に使用されるCo−Cr−Mo合金)ではγ相中に六方最密構造のεマルテンサイト相が板状に形成されるが、γ/ε界面は塑性変形中に転位運動の障害となり、大きな応力集中を生み出すため早期破断を誘発し、十分な延性が得られない。本発明では、γ相を安定化するWを添加することでεマルテンサイト量を低減し、延性の向上を図っており、前記効果を得るためには、Wの含有量は5質量%以上が好ましい。一方、W添加量の増加とともに金属間化合物相が形成しやすくなり、20%を越える添加は金属間化合物の析出量が多くなりすぎるため材料を脆化させる。
Cの添加はσ相の形成を抑制し、Laves相の析出に寄与するとともに、炭化物を形成する。さらに、C添加は鋳造過程においてミクロ偏析とLaves相の析出を促進し凝固組織が微細化するため、鋳造材や均質化熱処理材として使用する場合には機械的特性の向上や微細粒組織によりチッピングが抑制されるため切削性の向上が期待できる。また、微細粒組織は安定な熱間加工を可能とすることから、合金中のCの添加量は、0.02質量%以上が好ましい。一方、0.5質量%を超えると、金属間化合物相の析出量が多くなり過ぎ、材料が脆化することから、望ましくない。
本発明では、Cに加え、Nを0〜0.8質量%、より好ましくは0.02〜0.4質量%添加することもできる。Nは、マトリックスであるγ相中に固溶、あるいは窒化物相として存在することで材料強度を高めると同時に、εマルテンサイトの形成を抑制することで延性をさらに向上させることができる。ただし、0.8%以上のNが添加された合金は、多量の窒化物や窒素ガスがブローホールとして存在するため、機械的特性に悪影響を及ぼすため好ましくない。また、CおよびN量を制御することで金属間化合物相の析出制御を行うことができ、本発明のCo−Cr−W基合金の用途としてCAD/CAM製造法で利用するディスク材料以外にも幅広く使用することが出来る。
本発明では、上記のC添加したCo−Cr−W基合金に、質量比で0〜2%、より好ましくは0.05〜1%のBを添加すると、Bは結晶粒界に偏析し、粒界強度を高めることで室温延性を向上させることができる。また、NとBを同時に添加することでγ相中に六方晶系窒化ホウ素(h−BN)を微細に(10μm以下)分散させて機械加工性を更に高めることができる。このとき、合金中のNの一部をγ相中に残存させることで、上記のN添加による効果を同時に達成することができる。同様に、h−BNとして存在するB以外にγ相中に残存するBは上記の粒界偏析により機械的特性の向上に寄与する。また、N及び/又はBを添加することによって耐食性が向上する。
本発明では、Siを0.1〜5質量%添加することが好ましい。Siは材料の脆化の原因となるσ相の形成を抑制することができる。また、Si添加は材料の耐酸化性を飛躍的に高めることから、製品の歩留まり向上にも効果的である。また、Siを添加することで合金溶湯から酸素を除去(脱酸)することができるため、酸化物系介在物の形成を抑制され、疲労強度が改善される。
本発明では、Cr、Co、W、Si、C、N、Bの他、質量比で、Mn:0〜2%、Zr:0〜0.1%から選択される少なくとも一種の元素を含んでもよい。MnはSiと同様に合金溶湯からの脱酸効果を有するため、酸化物系介在物の形成を抑制され、疲労強度が改善される。Zrは0.1%を上限に微量添加することで粒界強度を高め、熱間加工性を向上させる。Zr添加量はより好ましくは0.05%以下である。
本発明のCo−Cr−W基合金の組織は、面心立方構造のγ相が90%以上で、より好ましくは95%以上である。また、後方散乱電子回折(EBSD)法等を用いて測定される結晶方位差2°以上の粒界に対して平均結晶粒径が0.1〜80μmであることが好ましい。C、N添加量が少ない場合、γ相に加えて熱間加工後の冷却時に形成される非熱的εマルテンサイト相を含む。なお、本発明により作製したCo−Cr−W基合金は室温付近においてγ相が準安定であり、塑性加工によりひずみ誘起マルテンサイト変態を示すため、C、N添加材においてもε相を含む場合がある。また、本発明のCo−Cr−W基合金は上記のγ、ε相に加えて金属間化合物であるσ相およびLaves相、炭化物及び窒化物が微細に析出させることも可能である。
一方、本発明のCo−Cr−W基合金のγ相中には熱間加工により導入された大量の格子欠陥(転位、積層欠陥、変形双晶等)が含まれる。また、この熱間加工材を更に1000〜1250℃で熱処理を行うことで強度レベルを調整し、室温延性を更に高めることができる。このとき、上記の平均結晶粒径の範囲を満たすように、約1分〜6時間で熱処理時間を設定する必要がある。
次に、本発明の鋳造材の熱間加工について説明する。本発明は、上記組成のCo−Cr−W基合金を、1000℃以上のγ単相域、あるいはγ相に加えて、上記の析出物相が熱力学的に安定な温度・組成であっても実質的にγ単相となる過飽和固溶体状態、あるいは析出物相分率が低い状態で、1パス、あるいは多パスの熱間加工を行うことを特徴とする。ε相や析出物が多量に存在する場合には熱間加工中に破壊する可能性がある。さらに、必要に応じて上記のCo−Cr−W基合金の熱間加工材にγ相が安定な温度において熱処理を施すことで延性を向上させることが可能である。熱間加工は、例えば、鍛造加工、圧延加工、スウェージ加工、溝ロール圧延加工、押し出し加工、線引き加工等が挙げられ、その方法に特に限定されない。なお、以下においては、熱間加工が施された合金のことを「熱間加工材」と記載することがある。また、熱間加工として「圧延加工」が行われた合金を「熱間圧延材」、「鍛造加工」が行われた合金を「熱間鍛造材」と記載することがある。
ε相や析出物が多量に存在する場合には熱間加工中に破壊する可能性がある。そのため、上記の熱間加工は、加工する材料の形状に応じて、次式で表される相当ひずみ(εeq)を一度に0.15以上付加する1パス、あるいは多パス加工とすることが望ましい。
ここで、rは圧縮率(あるいは圧延率)、A0およびAは棒・線材加工前後の素材断面積である。熱間加工中の著しい粒成長を避けるために、熱処理時間を短く保つ、あるいはγ相中に析出している金属間化合物粒子(例えばLaves相)によるピンニングを利用する必要がある。
熱間加工は、1000〜1250℃で、ひずみ速度は10-3〜10 -1で実施されることが望ましい。
なお、本発明においては、凝固偏析を低減し、より均質な元素分布を得るため、上記熱間加工の加熱温度において鋳造材を均質化熱処理してもよい。均質化熱処理は、1〜24時間行えばよい。
本発明のCo−Cr−W基合金は熱間加工により鉄鋼等の他の構造用金属材料と比較して積層欠陥エネルギーが低いため、γ相を熱間加工することで動的再結晶が発現し、結晶粒が微細化する。特に、1パスで相当ひずみ0.15以上を付与した場合には結晶粒組織が著しく微細化する。一方、付加ひずみ量によらず多パス加工を行った場合には、動的再結晶の発現(相当ひずみ0.15以上の場合)とともに多量の格子欠陥(転位、積層欠陥、変形双晶)がγ粒内に蓄積する。すなわち、いずれのルートにおいても熱間加工を施すことで高強度化が可能となる。
また、このようにして得られた組織形態は一般にトレードオフの関係にある強度と延性を高度に両立する。そして、このような組織微細化はディスク材から補綴物を機械加工により製造する際に表面性状の改善に効果的である。さらに、合金中の元素拡散が活発となる高温プロセスであるため、鋳造による元素偏析を著しく改善することができ、材質がより均一となる。
加えて、本発明の合金組成では、σ相、Laves相といった金属間化合物が析出する可能性がある。これらの金属間化合物相はγ相に比較して脆く、特にσ相は粗大に、あるいは結晶粒界に沿って形成される場合には材料は著しく脆化し、機械加工性の観点からも不利である。一方、上記の合金組成の下で熱間加工を施した場合には析出物を微細(1μm以下)かつ均質に分散させることは可能であるため、飛躍的な特性改善が可能である。
以上のような合金組成と熱間加工からなる本発明のCo−Cr−W基合金熱間加工材は、従来、鋳造合金として商用化されているCo−Cr−W基合金と比較して強度、延性、疲労特性といった室温機械的特性と材質均一性を示すばかりでなく、鋳造から熱間加工に至る材料加工プロセスと、このようにして製造されたディスク材から歯科補綴物を機械加工により製造する際にも従来材と比較して優れている。
以下に、本発明の特徴点を纏める。
(1)生体適合性:本発明の合金組成はCrを含み、酸化皮膜形成による優れた耐食性を有する。また、難加工性材料であるCo−Cr基合金の延性を向上させるため、一般的に生体へのアレルギー反応を示すNiが添加されているが、本発明のCo−Cr−W基合金はNiフリーであっても十分な延性を示し、長期間人体内に埋入されても生体適合性が高い。
(2)熱間加工の適用:Co−Cr−W基合金に関する研究例は同じ類似組成であるCo−Cr−Mo基合金(主に整形外科用)と比較して圧倒的に少なく、特に熱間加工に関する文献は皆無である。また、本発明では単に付形化技術としての熱間加工ではなく、これまでの研究を基に下記の動的再結晶を利用した組織制御を行っている。すなわち、本発明ではこれまでの研究に基づき材料の変形特性に大きな影響を与える積層欠陥エネルギーを熱間加工温度において従来積層欠陥エネルギーが低いとされてきた金属・合金(例えばオーステナイト系ステンレス鋼)よりも低くなるよう合金設計を行い、動的再結晶を利用している。この動的再結晶現象自体はオーステナイト系ステンレス鋼をはじめとして多くの報告例があるが、その多くは実用に供することが可能な付加ひずみ量では結晶粒の著しい微細化と高い再結晶率を同時に得ることは困難である。また、熱間加工温度における積層欠陥エネルギーを低くすることで転位が積層欠陥に拡張し、回復しにくくなるため、γ結晶粒中に多量の格子欠陥を導入することが出来る。
(3)高強度化:上記のように本発明における熱間加工は加工条件を制御することで高密度の格子欠陥の導入と結晶粒の微細化のいずれか、あるいは両方を達成することが可能で、かつ元素分布の均質化を高度に達成するものである。一般に構造用金属材料では冷間/熱間加工と熱処理が組み合わせて行われているが、このようなプロセスでは結晶粒微細化や均質化は可能であっても高密度の格子欠陥を利用することが出来ない。一方、本発明のCo−Cr−W基合金では、1μm以下と極めて微細な均質結晶粒組織が得られる合金設計・熱間加工条件見出し、組織制御に利用している。
(4)高延性:本発明の合金組成では、鋳造後・加工熱処理後の冷却中に生じるγ→εマルテンサイト変態が抑制されるため、室温でも準安定γ相を主体とする(おおよそ90%以上)組織を得ることができる。このため、εマルテンサイト多く含むγ相とε相の二相組織を有する場合と比べて高い延性を示し、疲労強度を高めることが可能である。
(5)凝固組織の制御:Cを適切量添加することにより凝固過程における元素偏析及び金属間化合物相の析出を促進させ、鋳造組織を微細化することが出来る。多量の析出物が粒界に存在すると材料が脆化するため鋳造材として利用する際には好ましいものではないが、その後の熱間加工において割れを抑制し、安定した製造工程や歩留まりの向上を実現する。上記のCo−Cr−Mo合金においてC添加は一般的であるが、これは強化相としての炭化物析出を目的としており、本発明は、従来とは全く異なる合金設計思想である。実際、熱力学計算によれば本発明のCo−Cr−W合金では平衡相として炭化物が存在するが、実際には実施例に示すように炭化物の析出は従来のCo−Cr基合金と比較して明らかに少ない。また、上記の加工熱処理により元素偏析の解消及び金属間化合物の析出量の低減は可能である。また、組織形成の観点からは熱間加工後に金属間化合物相を均一微細に分散させ、強化相として利用することもできる。
(6)組織均質性と機械加工性の改善:本発明のCo−Cr−W基合金は加工熱処理中に元素分布が均質化する。凝固偏析は十分な高温・時間で熱処理を行うことで解消することは可能であるが、この場合結晶粒が粗大化し、機械加工性が低下する。本発明では発明者らの研究により動的再結晶が発現する合金設計・熱間加工条件を明らかにし、組織均質性と結晶粒微細化による機械加工性を両立している。
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
まず、炭素の添加による凝固組織の微細化について確認を行った。
<実施例1>
高周波誘導溶解炉を用いてCo−28Cr−9W−1Si−0.05C(質量%)合金の400g鋳塊(φ15mm×20mmL)をAr雰囲気中で溶製した。得られた鋳造材の組織観察は鋳造材のbottomから5mm離れた位置の長手方向に垂直な断面にて行い、サンプル表面はエメリー紙、アルミナおよびコロイダルシリカを用いて鏡面に仕上げた。鋳造材の組織は、電界放出型走査型電子顕微鏡(FESEM:FEI XL30S−FEG)を用い、後方散乱電子回折(EBSD)法により行った。EBSD測定は、加速電圧20kVで行った。また、鋳造材における元素分布を電界放出型電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:JEOL JXA−8530F)を用いて調査した。
<実施例2〜4>
合金のCを下記表1に示す質量%に変えた以外は、実施例1と同様の手順で鋳造材を得て、組織の調査を行った。
<比較例1>
合金のCを0質量%とした以外は、実施例1と同様の手順で鋳造材を得て、組織の調査を行った。なお、表1中では、比較例1の合金にはCが0.005質量%含まれているが、このCは不純物であり、積極的に添加したCではない。
上記実施例1〜4及び比較例1の合金の詳細な組成比を表1に示す。
〔鋳造組織の結晶方位マップ〕
図1は、上記実施例1〜4及び比較例1で得られた各鋳造材のγ相のEBSDマップを示す。Cの添加によりε相量は減少し、本条件の下では0.2%以上のC添加によりγ単相組織が得られた。また、図1より、個々の結晶粒はランダム配向していることがわかった。
〔鋳造組織の結晶粒径のC濃度依存性〕
図2は、実施例1〜4及び比較例1で得られた各鋳造材のEBSD測定結果をもとに結晶方位差2°以上の粒界について平均結晶粒径を切片法により算出した結果である。C添加量の増加とともに平均結晶粒径が減少しており、特にC添加量が0.05%以上の場合においてその傾向は顕著であった。
〔鋳造組織のSEM−BSE像〕
図3は、実施例1〜4及び比較例1で得られた各鋳造材のSEM−反射電子(BSE)像である。BSE像では原子番号の大きな元素ほど明るいコントラストで表され、元素分布に関する情報が得られるが、いずれの合金についてもデンドライトアーム間に対応する粒界近傍に原子番号の大きな元素が偏析していることが確認された。また、実施例1〜4では偏析部(=結晶粒界)に沿って析出物が存在していたが、C添加量の増加により析出物量が増加することが確認された。以上により、C添加量の増加に伴い、凝固組織が微細化し、凝固偏析することが明らかとなった。
〔鋳造組織の析出物の面積率〕
図4は、実施例1〜4及び比較例1で得られた各鋳造材の金属間化合物相の析出物の面積率を、SEM−BSE像を用いて金属間化合物粒子を識別し、画像解析ソフトImageJを用いて測定した結果である。C添加量の増加とともに析出物の面積率が増加しており、特にC添加量が0.05%以上の場合においてその傾向は顕著であった。
〔鋳造組織の元素マッピング〕
図5は実施例1〜3及び比較例1で得られた各鋳造材の元素分布を、EPMAを用いてマッピングした結果である。C添加量の増加に伴い凝固偏析がより顕著になる傾向が確認された。また、粒界近傍の偏析部には、金属間化合物相であるCr、W、Si、Cが濃化していた。したがって、C添加による凝固組織の微細化により、粒界近傍の元素偏析が促進され、析出物を形成に寄与していることが明らかである。
次に、鋳造材において、炭素の添加量が引張特性と組織に及ぼす影響について調べた。
<実施例5>
高周波誘導溶解炉を用いて、Co−28Cr−9W−1Si−0.005C(質量%)合金の400g鋳塊(φ15mm×20mmL)をAr雰囲気中で溶製した。試験片の長手方向に垂直な断面における組織を電界放出型電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:JEOL JXA−8430F)を用いて調査した。組織観察用サンプルはエメリー紙、アルミナおよびコロイダルシリカを用いて鏡面に仕上げた。室温における機械的特性を引張試験により評価した。引張試験片は評点間長さ10.5mm、幅1.6mm、厚さ1mmであり、インストロン型引張試験機を用いて、初期ひずみ速度1.6×10-4-1で行った。また、引張試験片の破面観察を電界放出型走査型電子顕微鏡(FESEM:Carl Zeiss ULTRA 55)を用いて行った。
<実施例6〜9>
合金のCを下記表2に示す質量%に変えた以外は、実施例5と同様の手順で機械的特性の評価及び破面を観察した。
上記実施例5〜9の試験片の詳細な合金組成比を表2に示す。
〔鋳造材の反射電子(BSE)像およびEPMA分析結果〕
図6は、実施例5で得られた鋳造材の反射電子(BSE)像およびEPMA分析結果である。凝固偏析に起因した不均一な元素分布が観察された。このような偏析に起因してCr、WおよびSiが濃化した部分ではBSE像において明るいコントラストで観察される析出物が形成していた。これらの析出物はCの濃化を伴わないことから、σ相あるいはLaves相であると考えられる。
図7は、実施例7で得られた鋳造材のBSE像およびEPMA分析結果である。図6と同様に、CrおよびWが濃化した析出物の形成が観察されたが、その一部はCの濃化を伴っていた。したがって、実施例7で得られた鋳造材では、金属間化合物相(σ相あるいはLaves相)とM23炭化物の両方が形成していることがわかった。
図8は、実施例9で得られた鋳造材のBSE像およびEPMA分析結果である。本実施例9の鋳造材において、観察された析出物はいずれもCrおよびWが濃化したM23炭化物であった。以上の結果より、いずれの合金においても析出物が観察されたが、C添加量の増加により析出物の種類が金属間化合物からM23炭化物に変化することがわかった。
〔鋳造材の強度及び破断伸び〕
図9は、実施例5〜9で得られた鋳造材を室温で引張試験した際に、Cの添加量を変えることにより、(a)強度、及び(b)破断伸びが、どのように変化したのかを示すグラフである。0.2%耐力は、実施例5の鋳造材では約200MPaであったが、その他の鋳造材では400MPa以上の値が得られた。これらの結果より、C添加が本発明のCo−Cr−W系合金鋳造材の高強度化に極めて有効であることがわかった。なお、0.2%耐力に関しては、C添加量の増加とともにも増加した。一方、引張試験における破断伸びに関しては、Cの添加量が、0.005質量%(実施例5)と0.043(実施例6)ではほとんど変わらないが、C添加量が約0.1質量%(実施例7)付近で最大となった。これに対して、C添加量が約0.1質量%を超えると破断伸びは急激に低下した。このような破断伸びの低下は、図7および図8に示すように、M23炭化物の形成に起因するものと考えられる。
〔破断面のSEM写真〕
図10は、実施例5〜9の引張試験片を引張試験した際の破断面のSEM写真である。図9(b)に示すように、特に延性低下が見られた実施例8及び9の鋳造材では、鋳造組織であるデンドライト界面で破壊が起きたことを示唆する破面(実施例8及び9のSEM写真の周期的な凹凸)が観察された。C添加量が約0.1質量%を超える鋳造材の鋳造組織ではデンドライト界面にM23炭化物が形成していたことから、M23炭化物の形成がデンドライト界面における破壊を促進し、その結果、延性が低下したと考えられる。一方、強度の観点からはC添加量は多い方が好ましく、C添加量と破断伸びの低下を考慮すると、C添加量は、0.02〜0.5質量%が好ましく、0.05〜0.3質量%がより好ましい。
〔均質化加熱処理材の粒界マップ〕
<実施例10>
実施例1で得られた鋳造材を、1200℃、6時間の条件で大気中にて均質化加熱処理を行い、次いで水冷して、均質化加熱処理材を得た。
<実施例11>
実施例4で得られた鋳造材を、1200℃、6時間の条件で大気中にて均質化加熱処理を行い、次いで水冷して、均質化加熱処理材を得た。
図11は、実施例10及び11で得られた均質化加熱処理材の粒界マップである。何れの実施例においても、粒径の小さな結晶が得られたが、Cの添加量が多い実施例11では、凝固組織において、より多くの粒界析出物が存在し、より顕著な元素偏析を呈していた。また、図11に示すように、Cの添加量を多くすると、結晶粒界は湾曲していた。これは、粒成長過程における粒界移動が析出物にピン止めされたためと考えられる。更に、図示しないSEM−BSE像より、Cの添加量を多くすることで、均質化加熱処理後でもより多くの金属間化合物相が残存しており、熱処理中の結晶粒成長を抑制していたことが確認された。以上の結果より、鋳造材の凝固偏析、粒界析出物は凝固組織を微細化するだけでなく、高温加熱時の粒成長を抑制することが確認された。
上記、実施例1〜11の結果より、Cの微量添加は凝固組織の微細化に非常に有効であることがわかった。
次に、熱間加工後の結晶粒径に及ぼす加工温度の影響について実験を行った。
<実施例12>
高周波真空誘導溶解法にて溶製したCo−28Cr−9W−1Si−0.05C(質量%)合金34kgインゴットを1230℃、3時間の均質化加熱処理後、熱間鍛造および熱間圧延により厚さ15mmの板材を作製した。この板材より放電加工によりφ8mm、高さ12mmの円柱試験片を切り出し、熱間加工再現試験機(富士電波工機)を用いて熱間圧縮試験を行った。試験条件は加工温度を1050℃、ひずみ速度を0.1s-1、圧縮率を60%(相当ひずみ0.92)として1パスの単軸圧縮加工を行った。熱間圧縮試験終了後は、直ちにHe+N2混合ガスを用いて試験片を冷却した。試験片の圧縮軸に平行な断面における組織観察は、FESEM(FEI XL30S−FEG)を用いた後方散乱電子回折(EBSD)法、透過電子顕微鏡(TEM:Topcon EM002B)により行った。EBSD測定およびTEM観察はそれぞれ加速電圧20kV、200kVで行った。EBSD用サンプルはエメリー紙、アルミナおよびコロイダルシリカを用いて鏡面に仕上げた。TEM観察用サンプルはエメリー紙を用いて厚さ約50μmまで研磨した後、ディンプルグラインダーおよびイオンミリングを用いて作製した。組織観察用サンプルはエメリー紙、アルミナおよびコロイダルシリカを用いて鏡面に仕上げた。γ相の平均結晶粒径は粒内のεマルテンサイトおよび焼鈍双晶を除いて切片法により算出した。なお、熱間圧縮試験前の初期組織の平均結晶粒径は40μmであった。
<実施例13>
加工温度を1100℃とした以外は、実施例12と同様の手順で実験を行った。
<実施例14>
加工温度を1150℃とした以外は、実施例12と同様の手順で実験を行った。
<実施例15>
加工温度を1200℃とした以外は、実施例12と同様の手順で実験を行った。
図12は、実施例12〜15の結晶粒微細化挙動に及ぼす加工温度の影響を示したEBSD粒界マップである。加工温度の上昇に伴い、熱間圧縮試験後の組織は粗大化した。同様に、個々では示さないがひずみ速度の増加に対しては結晶粒径が減少した。このような結晶粒径の変化は熱間加工中に発現する動的再結晶に起因したと考えられる。
図13は、実施例12及び実施例15で得られた試験片のTEM明視野像である。図13から明らかなように、実施例15の結晶粒が粗大化した高ひずみ速度条件は、実施例12と比較して格子欠陥の密度が低い。これは上記の動的再結晶に加えて、加工終了後の冷却中に生じる静的再結晶と関連している。
〔熱間圧縮試験を行った場合のγ相の組織変化〕
<実施例16>
圧縮率を20%(相当ひずみ0.22)とした以外は、実施例12と同様の手順で試験片を得た。
<比較例2>
圧縮率を10%(相当ひずみ0.11)とした以外は、実施例12と同様の手順で試験片を得た。
図14は、実施例12、16及び比較例2の条件で熱間圧縮試験を行った場合のγ相の組織変化を示している(図中の黒色部分は熱間加工後の冷却中にわずかに形成したε相である)。比較例2では、一部に動的再結晶により形成した初期粒径40μmよりも微細な結晶粒が観察されたがその割合は低い。一方、相当ひずみに増加により微細粒の割合、すなわち再結晶率は増加し、実施例16のεeq=0.22(圧縮率20%)ではbimodalな結晶粒径分布が、実施例12のεeq=0.92(圧縮率60%)の全面が微細な結晶粒組織に置き換わっている。すなわち、動的再結晶の発現は付加ひずみ量が比較例2および実施例16の間で顕著となるため、本発明のCo−Cr−W基合金の熱間加工は1パスあたり相当ひずみ0.15以上が必要であることが明らかとなった。
〔Nを追加添加した際の熱間圧縮試験〕
<実施例17>
合金をCo−28Cr−9W−1Si−0.05C−0.17Nとした以外は実施例12と同様の手順で試験片を作製した。
<実施例18>
合金をCo−28Cr−9W−1Si−0.05C−0.17Nとした以外は実施例13と同様の手順で試験片を作製した。
<実施例19>
合金をCo−28Cr−9W−1Si−0.05C−0.17Nとした以外は実施例14と同様の手順で試験片を作製した。
<実施例20>
合金をCo−28Cr−9W−1Si−0.05C−0.17Nとした以外は実施例15と同様の手順で試験片を作製した。
図15は、合金の結晶粒微細化挙動に及ぼす熱間加工条件(加工温度、ひずみ速度)をZener−Hollomon(Z)パラメータを用いて整理した結果である。Zパラメータは、
ここで、εはひずみ速度、Qは活性化エネルギー(=452.51kJ mol-1)、Rはガス定数、Tは絶対温度である。Zパラメータはひずみ速度が大きいほど、加工温度が低いほど大きくなる。熱間圧縮試験後の平均結晶粒径はZパラメータの増加とともに微細化し、最小で0.9μmと非常に微細な結晶粒組織が得られた。一方、同一の加工温度の下ではひずみ速度の増加により結晶粒径は減少し、その後、高ひずみ速度条件(おおよそ、>0.1s-1)では結晶粒径が増加した。
以上より、本発明のCo−Cr−W基合金は、熱間加工条件(=加工温度、ひずみ速度、ひずみ量)を変化させることで材料特性(=力学特性、機械加工性等)に直接影響する結晶粒径と格子欠陥密度を任意に制御することが可能であることがわかった。なお、Nを添加していないCo−28Cr−9W−1Si−0.05C合金においても同様に動的再結晶による結晶粒の微細化が観察された。ただし、この場合Nが添加されている合金と比較して熱間圧縮試験終了後の静的再結晶が起こりやすいため、Nを添加することにより、より微細な結晶粒組織が得られることがわかった。
次に、熱間加工による組織変化と特性変化について検討を行った。
<実施例21>
Cの割合が、約0.06(質量)%となるように添加したCo−28Cr−9W−1Si(質量%)合金の400g鋳造材(φ15mm×20mmL)を、高周波誘導溶解炉を用いてAr雰囲気中で溶製した。鋳造材は1200℃、6時間の条件で大気中にて均質化熱処理を行い、水冷した。この均質化熱処理材を1100℃に加熱し、φ9.6mmまで熱間溝ロール圧延(相当ひずみ0.89)を行い、棒材を作製した。なお、熱間圧延材は圧延後、直ちに水冷した。
<実施例22>
熱間溝ロール圧延を行わず、均質化熱処理材を試験片とした以外は、実施例21と同様の手順で試験片を作製した。
<実施例23>
均質化熱処理及び熱間溝ロール圧延を行わず、鋳造材を試験片とした以外は、実施例21と同様の手順で試験片を作製した。
<実施例24>
Cの割合を約0.03質量%となるようにした以外は、実施例21と同様に棒材を作製した。
<実施例25>
Cの割合を約0.03質量%となるようにした以外は、実施例22と同様の手順で試験片を作製した。
<実施例26>
Cの割合を約0.03質量%となるようにした以外は、実施例23と同様の手順で試験片を作製した。
実施例21と実施例24の組成比を表3に示す。
上記実施例21〜26で得られた試験片の長手方向に垂直な断面における組織をX線回折(XRD:Panalytical X’Pert MPD)、電界放出型走査型電子顕微鏡(FESEM:Carl Zeiss ULTRA 55)、FESEM(FEI XL30S−FEG)を用いた後方散乱電子回折(EBSD)法、透過電子顕微鏡(TEM:Topcon EM002B)により調査した。EBSD測定およびTEM観察はそれぞれ加速電圧20kV、200kVで行った。また、鋳造材および熱間圧延材の元素分布を電界放出型電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:JEOL JXA−8530F)を用いて調査した。XRD、SEM、EBSDおよびEPMA用サンプルはエメリー紙、アルミナおよびコロイダルシリカを用いて鏡面に仕上げた。TEM観察用サンプルはエメリー紙を用いて厚さ約50μmまで研磨した後、ディンプルグラインダーおよびイオンミリングを用いて作製した。室温における機械的特性は引張試験により評価した。引張試験片は評点間長さ10.5mm、幅1.6mm、厚さ1mmであり、インストロン型引張試験機を用いて、初期ひずみ速度1.6×10-4s-1で行った。
表4に、実施例21〜26の引張試験の結果を示す。表4から明らかなように、本発明の実施例21のCo−Cr−W基合金は、γ相安定温度を保ちながら熱間加工を行うことで、加工中に割れ等を起こさず、優れた熱間加工性を示した。
図16は、実施例21〜26で得られた試験片のXRDパターンを示す。いずれの試験片においても鋳造材は冷却速度等の鋳造条件に応じてわずかにε相を含むもののγ−richな相構成であった。均質化加熱処理材にはε相がより多く形成されるが、熱間圧延材はγ単相組織を呈した。
図17は、実施例21及び実施例24で得られた試験片のEBSD粒界マップである。いずれの試験片においても結晶粒が微細化されており、結晶粒径100μm未満の等軸微細組織が得られた。これは熱間加工中の動的再結晶および中間焼鈍や加工直後に生じる静的再結晶により、結晶粒が微細化したと考えられる。なお、EBSDを用いて測定した際のε相の割合は、実施例22では6.8%、実施例25では9.2%、実施例26では0.6%で、実施例21、23及び24では0%であった。
図18は、実施例21及び実施例23で得られた試験片のEPMA元素マッピングである。実施例23の鋳造材であっても機械的特性は十分であるが、熱間圧延材処理をすることで、全体的に元素分布は均一になり、ミクロ偏析がほぼ解消された。熱間加工により、優れた機械的特性に加え、材質均一性に優れることが明らかとなった。
図19は、実施例21及び実施例24で得られた試験片のSEM−反射電子(BSE)像を示す。Cを添加した実施例21の熱間圧延材と実施例24の熱間圧延材を比較すると、実施例21には析出物が多く存在していた。これらの析出物相はナノメータースケールであり、組織中に均質に分散していた。これは実施例24に示したようにC添加が凝固偏析およびそれに起因したLaves相の析出を促進するためと考えられる。
図20は、実施例21及び実施例24で得られた試験片のTEM明視野像を示す。いずれの試験片もγ相内に多量の積層欠陥が観察された。これは、本発明の組成を有する合金の積層欠陥エネルギーが熱間圧延を行った温度域であっても十分に低く、塑性加工により導入される転位が積層欠陥を挟むShockley部分転位に分解することを示している。このような転位形態は通常の構造用金属材料の高温変形では観察されない特異な組織であり、室温強度の向上に寄与するとともに、動的再結晶による結晶粒微細化を促進する。また、このような下部組織は有する結晶粒組織は通常の冷間加工とその後の熱処理を組み合わせた静的再結晶では得られず、新粒形成後にも変形を受ける動的再結晶の特徴である。すなわち、本発明における熱間加工は、(1)結晶粒微細化、(2)多量の格子欠陥の導入、(3)金属間化合物相の微細分散を同時に達成することが出来る。
図21は、実施例21〜26で得られた試験片の室温引張試験により得られた公称応力−公称ひずみ曲線を示す。まず、上記表4に示すように、実施例23及び実施例24の鋳造材の引張特性はC添加による影響はほとんどないことがわかる。しかしながら、実施例22及び実施例25の均質化加熱処理材どうしを比較すると、Cの添加量が少ない実施例25は実施例22と比較して、鋳造材よりも強度・延性がともに大きく低下している。これは炭素添加量の多い合金の方が偏析、析出物の形成が顕著であるため、熱処理中の粒成長が抑制されたためである。一方、実施例21及び実施例24の熱間圧延材の引張特性は両合金ともの鋳造材のそれと比較して大きく改善されている。また、両合金間の差はより大きなものとなって現れている。すなわち、本発明のC添加は、熱間圧延後の強度・延性を同時に向上させることが可能であることが明らかとなった。
上記実施例21〜26で得られた試験片の耐食性を分極試験により調査した。各試験片の長手方向に垂直な断面を#800のエメリー紙で研磨した。試験片は蒸留水、エタノールおよびアセトンを用いて洗浄後、大気酸化皮膜生成を目的として大気中に1日以上放置した。分極試験は37℃の生理食塩水(0.9%NaCl水溶液)中で行った。対極及び参照電極にはPt板及び飽和カロメル電極(SCE)を用いた。試験片を生理食塩水中に10〜30分間浸漬し、浸漬電位を測定した。アノード分極試験は上記の浸漬電位より−50mV低い電位から、走査速度1mV/sでアノード方向に電位をスイープし、最終電位1.5V(SCE基準)まで行った。測定はそれぞれの試験片について3回ずつ行った。
図22に、各試験片のアノード分極曲線を示す。鋳造材、均質化熱処理材及び熱間圧延材の耐食性を比較すると、鋳造材の耐食性が最も優れ、均質化熱処理材、熱間圧延材の順にわずかな耐食性の低下が見られたが、十分な耐食性を有している。また、C添加量の増加により金属間化合物相がより多く析出するが、両合金の耐食性は同等であり、C添加の耐食性に与える影響はほとんどないことがわかった。したがって、実施例21〜26はいずれも厳しい腐食環境である生体内での使用に耐え得る優れた耐食性を有していると言える。なお、生理食塩水中に高純度窒素及び高純度アルゴンによるバブリングし、溶存酸素濃度を低減した脱気条件下で試験を行った場合にも同様の結果が得られた。
次に、炭素の添加量が異なる合金の熱間圧延を行い、炭素の添加量が組織と引張特性に及ぼす影響について調べた。
<実施例27>
Cの割合が、約0.02(質量)%となるように添加した以外は、実施例21と同様の手順で合金の試験片を作製した。
<実施例28〜30>
Cの割合を下記表5に示す質量%に変えた以外は、実施例27と同様の手順で合金の試験片を作製した。
上記実施例27〜30の試験片の詳細な合金組成比を表5に示す。
上記実施例27〜30で得られた合金の試験片の長手方向に垂直な断面における組織を、電界放出型走査型電子顕微鏡(FESEM:Carl Zeiss ULTRA 55)、FESEM(FEI XL30S−FEG)を用いた後方散乱電子回折(EBSD)法、電界放出型電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:JEOL JXA−8430F)、透過電子顕微鏡(TEM:Topcon EM002B)を用いて調査した。EBSD測定およびEPMA測定は加速電圧15kV、TEM観察は加速電圧200kVで行った。組織観察用サンプルはエメリー紙、アルミナおよびコロイダルシリカを用いて鏡面に仕上げた。室温における機械的特性を引張試験により評価した。引張試験片は評点間長さ10.5mm、幅1.6mm、厚さ1mmであり、インストロン型引張試験機を用いて、初期ひずみ速度1.6×10-4-1で行った。
図23は、実施例27〜30で得られた合金の試験片のEBSDマップで、上段は結晶方位を示すIPF(Inverse Pole Figure)マップ、下段は相構成を示すPhaseマップである。いずれの合金においても等軸結晶粒組織が観察されたが、γ結晶粒内には板状のεマルテンサイトが形成していた。これらを基に求めたγ相の結晶粒径とεマルテンサイトの相分率を表6に示す。
いずれの合金もγ−richな相構成であるが、C濃度の増加とともにγ相が安定化し、ε相の形成量が減少することがわかった。このようなεマルテンサイトおよびγ相中に形成する焼鈍双晶を除いて計算したγ結晶粒径はいずれの合金であっても30μm以下と非常に微細であった。また、γ結晶粒径はC添加量の増加とともに微細化しており、鋳造材の場合と同様にC添加は結晶粒の微細化に有効であることがわかった。
図24は、実施例27〜30の合金の試験片のSEM−反射電子(BSE)像である。いずれの合金においても析出物が観察された。実施例27では矢印に示すように2−5μm程度の析出物と直径500nm以下のナノサイズの析出物が観察された。EPMAおよびTEM観察の結果、2−5μm程度の析出物はσ相であり、直径500nm以下のナノサイズの析出物はLaves相であることがわかった。なお、C添加量の増加とともにσ相の形成は抑制され、その代わりにLaves相の析出量が増加した。実施例29では、実施例28と同様の組織が観察された。一方、実施例30では、Laves相の他に粗大な析出物が観察された。
図25は、実施例30の合金のEPMA分析結果である。反射電子像において観察された粗大な析出物はCrとWを多く含むM23タイプの炭化物であることがわかった。
図26aは実施例30の合金において観察されたナノサイズの析出物を含むTEM明視野像である。ここで観察された析出物から得られた制限視野回折パターンを図26bに、エネルギー分散型X線分析(EDX)の結果を図26cにそれぞれ示す。電子線回折およびEDS分析の結果より、これらの析出物は図25で観察されたのと同様のM23炭化物であることがわかった。すなわち、以上の結果からC添加によりσ相の形成が抑制され、C添加量の増加とともにM23炭化物が形成することがわかった。
図27は、実施例27〜30で得られた各合金の室温引張試験により得られた公称応力−公称ひずみ曲線である。また、図27から求めた各合金の引張特性を図28に示す。図28aに示すように、熱間圧延により、実施例27〜30のいずれの合金においても0.2%耐力600MPa以上、最大引張強度1100MPa以上、破断伸び20%以上と、優れた引張特性が得られた。まず、0.2%耐力は実施例27の合金(C:0.02質量%)と実施例28の合金(C:0.05質量%)では大きく変わらなかった。これら2種類の合金では添加されたCの多くがγ相中に固溶していると考えられる。一般に、FCC合金では侵入型元素による固溶強化は小さいため、両合金で強度がほとんど変わらなかったものと考えられる。これに対し、0.05質量%より多くのCを添加した合金では、C濃度に対してほぼ線形的に0.2%耐力が増加した。このCによる強化能は822MPa/質量%であることがわかった。このようなC添加に伴う高強度化はM23炭化物の形成に起因していると考えられる。
一方、引張試験における破断伸びは、図28bに示すように、C添加量が0.1質量%付近で最大となった。したがって、約0.1質量%以下ではC添加が延性向上に効果的であることがわかった。これに対してC添加量が0.1質量%以上の合金では延性が低下したが、これは図24の実施例30および図25において観察された粗大なM23炭化物に起因すると考えられる。図29は、実施例27〜30で作製した引張試験片の破面観察結果(SEM写真)を示しているが、実際、実施例27〜29の合金と異なり、実施例30(C:0.33質量%)の合金の破面では、ミクロンオーダーのM23炭化物が観察された。すなわち、実施例30の合金の引張変形において起こる破壊はこのようなM23炭化物の形成と密接に関連していると考えられ、約0.1質量%以上のC添加により延性が低下する原因となっていると考えられる。
しかしながら、強度の観点からはC添加量が多い方が好ましく、実際のC添加量は、強度及び破断伸びを考慮して決めればよい。
上記のとおり、表5に示した合金組成を有する本発明のCo−Cr−W基合金はγ相安定温度を保ちながら熱間加工を行うことで、加工中に割れ等を起こさず、優れた熱間加工性を示した。
次に、N添加による引張特性の向上について実験を行った。
<実施例31〜34>
Cを約0.05質量%添加したCo−Cr−W−Si合金に、窒素含有量が約0質量%(実施例31)、約0.09質量%(実施例32)、約0.12N(実施例33)及び約0.17N(実施例34)となるようにNを添加した合金の34kg鋳造材を溶製した。合金の溶解はArとNの混合雰囲気中で行い、N分圧を変化させることで合金中のN量を変化させた。以下、鋳造材は1230℃、3時間の条件で大気中にて均質化加熱処理を行い、次いで、熱間鍛造を行った(以後、「熱間鍛造材」と記載することがある。)。熱間鍛造で付加したひずみ量は、相当ひずみで1.1であった。熱間鍛造後は水冷した。試験片の長手方向に垂直な断面における組織観察をX線回折(XRD:Panalytical X’Pert MPD)、電界放出型走査型電子顕微鏡(FESEM:Carl Zeiss ULTRA 55)、FESEM(FEI XL30S−FEG)を用いた後方散乱電子回折(EBSD)法、透過電子顕微鏡(TEM:Topcon EM002B)により行った。EBSD測定およびTEM観察はそれぞれ加速電圧20kV、200kVで行った。XRD、SEMおよびEBSDEPMA用サンプルはエメリー紙、アルミナおよびコロイダルシリカを用いて鏡面に仕上げた。TEM観察用サンプルはエメリー紙を用いて厚さ約50μmまで研磨した後、ディンプルグラインダーおよびイオンミリングを用いて作製した。室温における機械的特性を引張試験により評価した。引張試験片は評点間長さ10.5mm、幅1.6mm、厚さ1mmであり、インストロン型引張試験機を用いて、初期ひずみ速度1.6×10-4-1で行った。
<比較例3>
Cを添加しなかった以外は、上記実施例31〜34と同様の手順で試験片を作製した。
上記実施例31〜34及び比較例3の組成比を表7に示す。
比較例3の組成のCo−Cr−W基合金は熱間鍛造中に材料表面に無数の割れが発生したのに対し、実施例31〜34はほとんど割れが発生することなく熱間鍛造を行うことができた。また、Cを添加しなかった場合には上記の表面割れ以外に材料内部にも微細な割れ(マイクロクラック)が発生し、延性の低下が認められた。
<実施例35〜38>
上記実施例31〜34で得られた熱間鍛造材を、1200℃、10分間の条件で焼鈍した「焼鈍材」を作製、次いで水冷し、実施例35〜38の試験片を得た。試験片の評価は、実施例31〜34と同様の手順で行った。
<実施例39〜42>
上記実施例31〜34で得られた熱間鍛造材を、1230℃に加熱し、一方向熱間圧延を行った。熱間圧延で付加したひずみ量は、相当ひずみで1.4であった。熱間圧延後は水冷し、実施例39〜42の試験片を得た。試験片の評価は、実施例31〜34と同様の手順で行った。
図30は、実施例31(熱間鍛造材)、実施例35(焼鈍材)、及び実施例39(熱間圧延材)で得られた試験片のEBSD測定により作成したImage qualityマップである。焼鈍により結晶粒が粗大化するものの、いずれの試験片も平均結晶粒径100μm未満の微細な組織を呈していた。また、実施例31〜42の試験片を、EBSDを用いて測定したε相の割合は、実施例31は0.5%、実施例35は0.4%、実施例39は0.7%で、それ以外の実施例では0%であった。以上の結果より、熱間加工を施すことにより、同じ組成であってもγ相が安定化し、合金に更にNを添加することで、γ相が安定化することがわかった。
図31は、実施例39〜42で得られた試験片のSEM−BSE像である。N含有量が不純物レベルである合金から作製された実施例39の試験片では金属間化合物(Laves相)の析出が確認されたが、その他の試験片では析出物は確認されなかった。なお、図中で黒いコントラストとして観察される析出物は介在物として存在する酸化物である。なお、図31中のRDは引張軸が圧延方向と平行であること、TDは引張軸が圧延方向と垂直であることを意味する。
図32は、実施例39の試験片のTEM像である。(a)に示した明視野像及び制限視野回折パターンより、γ相内にはひずみコントラストとバンド状の下部組織が形成されていることがわかる。このバンド状組織は電子回折により熱間加工中に導入された変形双晶と熱間加工後の冷却中に形成したεマルテンサイトであることがわかった。変形双晶とεマルテンサイトの暗視野像をそれぞれ(b)および(c)に示す。いずれもナノスケールで非常に微細に形成されており、合金の高強度化に寄与している。なお、N添加材ではγ→εマルテンサイト変態は抑制されており、変形双晶のみが形成していた。
実施例31〜42で得られた試験片の室温における引張特性を表8に示す。なお、実施例39〜42については引張軸を圧延方向と平行(RD)および垂直(TD)とした2種類の試験片にて評価した。実施例31〜34の熱間鍛造材における結果からN添加量の増加に伴い強度が著しく増加しているが、高強度化に伴う延性の低下は認められず、Nは本発明のCを添加したCo−Cr−W基合金の強度−延性バランスを飛躍的に向上させることが可能な添加元素であることが明らかとなった。また、熱間鍛造材と比較して、焼鈍材では強度は低下するものの40%を越える優れた引張伸びが得られている。一方、熱間圧延材は熱間鍛造材の場合と同様に延性の大きな低下を伴うことなく著しく高い強度を有している。特に、0.17N合金では0.2%耐力が1400MPaを越えていた。これは、図32に示すような多量の格子欠陥とN添加に起因するものであると考えられる。
図33は、実施例39の試験片のEBSDにより得られた極点図を示す。熱間圧延により集合組織が形成されていることがわかった。
の混在した集合組織が確認された。このような集合組織は、代表的な低積層欠陥エネルギーを有する代表的な合金である304系オーステナイト系ステンレス鋼の冷間圧延材において観察されるものであり、熱間圧延集合組織としては一般的ではない。すなわち、実施例39では、試料を1230℃に加熱して熱間圧延を行っているにも関わらず上記のような集合組織が形成された点は極めて特異的である。この集合組織形成は、本発明のCo−Cr−W基合金が高温においても低い積層欠陥エネルギーを有するという発明者らの知見に基づいた結果である。なお、熱間圧延集合組織が強く発達することで引張特性に異方性が生じたものと考えられる。
図34は、実施例31〜34の熱間鍛造材、実施例35〜38の焼鈍材、実施例39〜42の熱間圧延材(熱間圧延材については、RD及びTDの2種類)の強度−延性バランスを0.2%耐力と伸びを用いて示したものである。比較のため、実施例27及び実施例30の鋳造材と、実施例26及び実施例29の均質化熱処理材における結果も合わせて示した。熱間圧延材は、鋳造材、均質化熱処理材よりも高い強度を有していた。これは、Cの添加に加え、前述のように熱間加工による結晶粒微細化、あるいは格子欠陥の導入に起因している。また、熱間加工条件およびその後の熱処理条件を変えることで、0.2%耐力で500〜1500MPa、引張伸びで20〜50%と幅広い強度・延性レベルに調整することが可能であった。なお、熱間加工条件を適切に選択し、結晶粒の更なる微細化、あるいは格子欠陥密度の増加により更なる高強度化が可能である。
上記実施例31〜42に示すとおり、本発明のCに加え、さらにNを添加したCo−Cr−W基合金は、γ相安定温度を保ちながら熱間加工を行うことで、加工中に割れ等を起こさず、優れた熱間加工性を示した。
次に、六方晶窒化ホウ素の分散による切削性の向上について検討を行った。
<実施例43、44>
切削性向上を目的とし、γ相中に六方晶窒化ホウ素(以下h−BNと呼称する)を分散させるためN及びB添加量の異なる3種類のCo−28Cr−9W−1Si(質量%)合金の1kg鋳塊をAr雰囲気中で溶製した。合金中のN量は溶湯中に窒化クロム(Cr2N)を投入することで変化させた。また、B粉末原料を添加することでB含有量を調整した。各合金の分析組成を表9に示す。B含有量が約0.65質量%を実施例43、約0.96質量%を実施例44とした。被削性は切削加工時にチップに働く荷重を測定することで評価した。各鋳造材をφ28mm×50mmの形状に切断し、切削荷重測定用サンプルとした。図35に切削荷重測定の模式図を示す。まず、フライス盤上にKISTLER社製切削動力計を設置し、その上に測定用サンプルを固定し、エンドミルをY軸方向に10mm、Z軸方向に0.2mm切り込んだ状態からX軸方向に100mm/minの速度で切削加工を行った際のX・Y・Z軸にかかる荷重を測定した。このとき、主軸の回転速度を600rpmとし、荷重測定を行う際にはその都度新品のチップ(KYOCERA BDMT11T308ER−JT)に取り替えた。また、Bが添加された実施例43及び実施例44合金の元素分布を電解放出型電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:JEOL JXA−8530F)を用いて調査した。組織観察用サンプルはエメリー紙、アルミナおよびコロイダルシリカを用いて鏡面に仕上げた。
また、Bの含有量が0質量%、Cの含有量が0.004%の合金成分を比較例4とした。
表10に、切削荷重の測定データから各軸の最大荷重及び最大合力を読み取った結果を示す。
切削荷重の合力(R)は
により計算され、(Fx)、(Fy)および(Fz)はそれぞれ、X、Y、Z軸方向の荷重である。上式により求まる合力が小さいほど被削性がよいと判断される。表10から明らかなようにB(およびN)添加量の増加に共に最大合力は低下し、表9に示した3種類の組成の中では実施例44の最大合力が最も低い値となった。なお、比較例4と比較すると、実施例44の最大合力は約60%の荷重が低減されたことになる。
図36は、実施例43及び44の鋳造材のEPMA元素マッピングである。実施例43と比較して実施例44ではh−BNの析出に対応したB、Nの濃化が明瞭に観察された。以上より、BとNを同時添加することで、本発明のCo−Cr−W基合金の被削性をさらに改善することが可能であり、その添加量の増加に伴いより一層、被削性を向上させることができる。
上記の各合金の鋳造材の耐食性を分極試験により調査した。各試験片の長手方向に垂直な断面を#800のエメリー紙で研磨した。試験片は蒸留水、エタノールおよびアセトンを用いて洗浄後、大気酸化皮膜生成を目的として大気中に1日以上放置した。分極試験は37℃の生理食塩水(0.9%NaCl水溶液)中で行った。対極及び参照電極にはPt板及び飽和カロメル電極(SCE)を用いた。試験片を生理食塩水中に10〜30分間浸漬し、浸漬電位を測定した。アノード分極試験は上記の浸漬電位より−50mV低い電位から、走査速度1mV/sでアノード方向に電位をスイープし、最終電位1.5V(SCE基準)まで行った。測定はそれぞれの試験片について3回ずつ行った。
図37に、実施例43、44及び比較例4の各試験片のアノード分極曲線を示す。BおよびNの含有量が増加するに伴い腐食電位が増加し、耐食性が更に改善する傾向が確認された。すなわち、これらの元素を添加することにより被削性と耐食性がともに向上し、より生体材料として、あるいは耐食性材料として一般産業用に使用する上で優れた特性が得られることがわかった。
次に、鍛造加工によるh−BNの析出について検討を行った。
<実施例45>
実施例43の鋳造材を1150℃に加熱し、3時間保持する均質化熱処理を施した後、相当ひずみ0.21の据え込み鍛造加工を1パスで行った。鋳造材および熱間鍛造材の元素分布を電解放出型電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:JEOL JXA−8530F)を用いて調査した。組織観察用サンプルはエメリー紙、アルミナおよびコロイダルシリカを用いて鏡面に仕上げた。
図38は、実施例43(鋳造材)と実施例45(熱間鍛造材)のEPMA元素マッピングの結果を示す。これより、熱間鍛造材は鋳造材と比較してBとNが共に濃化した箇所が明瞭に観察され、より多くのh−BNが析出していることが明らかとなった。この結果、適切な溶体化熱処理を施し、熱間鍛造を行うことでh−BNをより多く析出させることが可能であることがわかった。h−BNの析出は必ずしも熱間加工を必要とせず、熱処理のみでもその析出量を増加させることが可能である。
次に、実施例43、44の合金中のB成分を少なくした合金組成で引張特性、被削性を評価した。
<実施例46>
Co−28Cr−9W−1Si−0.2N−0.05C−0.004B(質量%)合金をN2雰囲気中で溶解し、φ30mmの1kg鋳塊を作製した。これらの鋳塊は1100℃、1時間の条件で大気中にて均質化熱処理を行った後、熱間鍛造により鍛造後の試験片断面が15mm×15mmとなるまで加工した。この熱間鍛造で付加した相当ひずみは2.53であった。熱間加工後は水冷した。
<実施例47〜50>
実施例46のBの添加量を変えたもの(0.008、0.012、0.016、0.020質量%)を、それぞれ、実施例47〜50とした。
<実施例51〜55>
実施例46〜50で作製した熱間鍛造材を、1000℃で1時間(h)の焼鈍を行い、次いで水冷することで、実施例51〜55の焼鈍材を作製した。
<実施例56〜60>
焼鈍温度を1050℃とした以外は、実施例51〜55と同様の手順で、実施例56〜60の焼鈍材を作製した。
<実施例61〜65>
焼鈍温度を1100℃とした以外は、実施例51〜55と同様の手順で、実施例61〜65の焼鈍材を作製した。
<実施例66〜70>
焼鈍温度を1150℃とした以外は、実施例51〜55と同様の手順で、実施例66〜70の焼鈍材を作製した。
実施例46〜70の各試験片の組織は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。SEM観察は加速電圧15kVで行い、組織観察用サンプルはエメリー紙、アルミナおよびコロイダルシリカを用いて鏡面に仕上げたものを用いた。
また、室温における機械的特性は、引張試験およびVickers硬さ試験により評価した。引張試験片は評点間長さ11mm、幅1.6mm、厚さ0.7mmで、荷重軸が熱間鍛造材の長手方向に平行となるように作製した。引張試験はインストロン型引張試験機を用いて、初期ひずみ速度1.5×10-4-1で行った。Vickers硬さ試験は荷重9.8N、印加時間10sで各試験片について10点測定し、平均値を計算した。
被削性は、切削加工時にチップに働く荷重を測定することで評価した。各試験片を15mm×20mmの形状に切断し、切削荷重測定用サンプルとした。まず、フライス盤上にKISTLER社製切削動力計を設置し、その上に測定用サンプルを固定し、エンドミルをY軸方向に10mm、Z軸方向に0.2mm切り込んだ状態からX軸方向に37mm/minの速度で切削加工を行った際のX・Y・Z軸にかかる荷重(それぞれFx、Fy、Fz)を測定した。このとき、主軸の回転速度を600rpmとし、荷重測定を行う際にはその都度新品のチップ(KYOCERA BDMT11T308ER−JT)に取り替えた。切削荷重の合力(R)を次式により求めた。
図39は実施例46〜70の熱間鍛造材および焼鈍材のSEM−反射電子(BSE)像である。Bの含有量にかかわらず金属間化合物(Laves相、σ相)、あるいは窒化物・炭化物の析出が確認されたが、1100℃以上の熱処理を行うことにより析出量は減少し、1150℃で焼鈍を行った場合にはそのほとんどが消失した。なお、これらの析出物の形成は主に凝固偏析に起因しており、熱間加工を行う前の均質化熱処理を適正化することでその形成を抑制することも可能である。
表11は、実施例46〜70の合金中のBの組成比、試験片の熱処理条件、室温における引張特性を示す。
熱間鍛造材および1時間の焼鈍を行った試験片における結果からは、B添加による強度・延性への明確な影響は認められなかった。また、熱処理を行うことで0.2%耐力は600〜800MPaに低下するものの、いずれの条件においても優れた引張延性を示し、多くの条件において40%を超える破断伸びが得られた。すなわち、熱間加工により得られた材料を適切な条件の下で焼鈍することにより、歯科材料に関するISO22674(Type5、0.2%耐力500MPa以上)を満たす十分な強度と優れた引張延性を両立することができることがわかった。このような強度・延性バランスに優れ、降伏比(0.2%耐力/最大引張強度)が低い材料は歯科材料ばかりではなく、ステント材料としても適している。
表11には、各試験片において測定したVickers硬度も併せて示した。熱間鍛造材においてはHv430〜500程度の硬度を示しているが、焼鈍を行うことにより、特に高温熱処理条件ではHv350以下に軟化させることが可能である。このような硬さの低下は被削性の観点から機械加工を利用した歯科補綴物の製造に適している。
表12は、実施例46〜70の合金の切削荷重の合力値(R)を、B添加量および熱処理条件ごとに示している。
また、同じデータを熱処理条件ごとにB添加量に対してプロットしたものを図40に示す。なお、比較のため、市販のレマニウムと同じ組成(Co−28Cr−9W−1.5Si)の鋳造材において同様の試験で測定した結果、切削荷重の合力は194Nであった。表12および図40から明らかなように、熱間鍛造材においてはB添加量の増加に伴い合力値が低下し、0.012質量%以上では200N程度でほぼ一定の値となった。すなわち、従来のレマニウムと比較して高強度・高硬度である熱間鍛造材であってもB添加により同等レベルの被削性が得られることがわかった。一方、焼鈍材では、低B組成において1000℃で焼鈍を行った場合に硬さの増加が見られる試験片もあったが、1050℃以上の条件で焼鈍した場合には切削荷重が大きく低下し、従来のレマニウムと同等以上の被削性が得られた。
以上の結果より、低B組成であっても熱間鍛造材の被削性改善効果が確認できた。また、熱間鍛造材に対して熱処理を行うことで強度(硬さ)が低下し、被削性が向上することも明らかになった。したがって、いずれの組成においても本発明のCo−Cr−W基合金はγ相安定温度を保ちながら熱間加工を行うことで、加工中に割れ等を起こさず、製品製造に必要な十分熱間加工性を示した。
本発明のCo−Cr−W基合金は、高強度で機械加工性に富み、同時に、生体適合性に優れていることから、良質のCAD/CAM製造に最適なコバルト合金製ディスクとして利用することができる。また、本発明のCo−Cr−W基合金は、耐熱性、耐酸化性等にも優れていることから、医療用ステント、耐熱部材、アルミダイカスト用金属金型材料等にも利用することができる。

Claims (16)

  1. Cを0.02〜0.5質量%、Crを25〜35質量%、Wを5〜20質量%、Nを0.001〜0.8質量%、残部がCoおよび不可避的不純物からなるCo−Cr−W基合金に熱間加工を施し、面心立方構造のγ相の割合が90面積%以上で、平均結晶粒径が0.1〜80μmであることを特徴とするCo−Cr−W基合金熱間加工材。
  2. 前記Co−Cr−W基合金中に質量比で0〜2%のBを更に含むことを特徴とする請求項1に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材。
  3. 前記Co−Cr−W基合金中にBを含み、h−BNが分散していることを特徴とする請求項2に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材。
  4. 前記Co−Cr−W基合金中に質量比で0.1〜5%のSiを更に含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材。
  5. 請求項1〜4の何れか1項に記載されているCo−Cr−W基合金熱間加工材を、1000〜1250℃で1分〜6時間、更に熱処理を施したことを特徴とするCo−Cr−W基合金焼鈍材の製造方法。
  6. Cを0.02〜0.5質量%、Crを25〜35質量%、Wを5〜20質量%、Nを0.001〜0.8質量%、残部がCoおよび不可避的不純物からなり、面心立方構造のγ相の割合が90面積%以上で、平均結晶粒径が0.1〜80μmであることを特徴とするCo−Cr−W基合金鋳造材。
  7. 質量比で0〜2%のBを更に含むことを特徴とする請求項6に記載のCo−Cr−W基合金鋳造材。
  8. を含み、h−BNが分散していることを特徴とする請求項7に記載のCo−Cr−W基合金鋳造材。
  9. 量比で0.1〜5%のSiを更に含むことを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載のCo−Cr−W基合金鋳造材。
  10. 請求項6〜9の何れか1項に記載されているCo−Cr−W基合金鋳造材を、1000〜1250℃で1〜24時間熱処理を施したことを特徴とするCo−Cr−W基合金均質化熱処理材の製造方法。
  11. Cを0.02〜0.5質量%、Crを25〜35質量%、Wを5〜20質量%、Nを0.001〜0.8質量%、残部がCoおよび不可避的不純物からなるCo−Cr−W基合金を、相当ひずみを0.15以上で熱間加工する工程を含み、面心立方構造のγ相の割合が90面積%以上で、平均結晶粒径が0.1〜80μmであることを特徴とするCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法。
  12. 前記Co−Cr−W基合金が、質量比で0〜2%のBを更に含むことを特徴とする請求項11に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法。
  13. 前記Co−Cr−W基合金が、質量比で0.1〜5%のSiを更に含むことを特徴とする請求項11又は12に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法。
  14. 前記熱間加工する工程の前に、Co−Cr−W基合金から鋳造材を作製する工程を含むことを特徴とする請求項11〜13の何れか1項に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法。
  15. 前記Co−Cr−W基合金から鋳造材を作製する工程の後に、鋳造材を1000〜1250℃で1〜24時間処理することで組織を均質化する工程を含むことを特徴とする請求項14に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法。
  16. 請求項11〜15の何れか1項に記載のCo−Cr−W基合金熱間加工材の製造方法における前記熱間加工する工程の後に、1000〜1250℃で1分〜6時間、更に熱処理する工程を含むことを特徴とするCo−Cr−W基合金焼鈍材の製造方法。
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