以下、遠隔状態監視システム及び監視方法の実施形態について、図を用いて説明する。なお、以下の実施形態に限定されるものではない。
図1は、遠隔状態監視システム10の構成を示す図である。遠隔状態監視システム10は、建築物、橋、トンネル、設備機器、船舶、電柱、交通管制施設、土構造物、道路、配管、パイプラインなど構造物(図示せず)の状態を遠隔から監視するシステムである。このシステムは、構造物の経年劣化の状態および進行の把握、事故の未然予防、地震や災害や火災時における損傷状態や範囲の把握、事故防止、予防保全、工事計画立案などに利用される。以下、遠隔状態監視システム10のことを単にシステム10と記す。
システム10は、構造物に設けられ、構造物の状態に関する情報を収集する情報収集部12と、構造物を遠隔で監視する監視部14とを有する。情報収集部12と監視部14は、通信回線16を介して接続されている。情報収集部12は、いわゆるIoTデバイスであり、単数個、あるいは、複数個設置され、各種センサから出力された測定データを監視部14に送信する。
通信回線16は、SIGFOX(登録商標)、LoRa(登録商標)、NB−IoT、NB−Fi Protocol、GreenOFDM、DASH7、RPMA、Wi−SUN、LTE−MTCなどの省電力型広域無線の通信回線(LPWA(Low Power Wide Area))、Bluetooth(登録商標)、Wi−Fi(登録商標)、EnOcean(登録商標)、ZigBee(登録商標)などの近距離無線通信方式、セルラー系LPWA、通信3GやLTEなどの携帯電話回線の通信回線がある。例えばSIGFOXは、伝送距離が数十kmと長距離であり、伝送速度が100bps(上り)と超低速であり、データは12バイト(上り)とイーサネットデータの100分の1以下の大きさである。
情報収集部12は、物理量を示すデータを計測するセンサ部18として、ひずみ量を計測するひずみセンサ28と加速度を計測する加速度センサ30と温度を計測する温度センサ32と、センサ部18が計測したデータを処理するデータ処理部20と、データ処理部20が処理したデータを監視部14に送信する第一通信部22と、計時機能を有するタイマー部24と、情報収集部12内の各機器に電力を供給する電源部26とを含む。
ひずみセンサ28は、構造物のひずみ量、すなわちひずみや変位の物理量を計測するセンサであり、例えばひずみゲージである。加速度センサ30は、構造物の振動情報を計測するセンサであり、微小振動を検出可能な1軸、あるいは、多軸加速度計である。温度センサ32は、構造物の温度を計測するセンサであり、例えばサーミスタである。センサ部18は、図示していないが、角度センサ、音響センサ、超音波センサ、湿度センサ、GPSセンサ、距離センサを含んでいてもよい。
データ処理部20は、センサ部18が計測したデータを、通信回線16を利用可能なデータ、かつ構造物の状態を把握できるデータに処理する。具体的には、データ処理部20は、所定時刻のひずみ量、加速度および温度を抽出する。また、湿度も計測された場合、データ処理部20は、所定時刻の湿度も抽出する。
第一通信部22は、通信回線16との通信を実現するためのアプリケーションが実装されたチップとアンテナとを有する通信インターフェイスである。一例として、通信回線16がSIGFOXである場合における通信内容について説明する。SIGFOXは、現状、1回のデータ量は12バイトまでである。本実施形態における物理量を示す各データは、ひずみ量が3バイト、1軸の加速度が2バイト、温度が2バイトであり、通信時に付加されるヘッダー5バイトを含めると、計12バイトある。この場合、1回の通信で、全てのデータを送信可能である。また、物理量を示すデータとして、さらに2軸の加速度と湿度を使用する場合、6バイト増となる。この場合には、2回の通信に分けて、全てのデータを送信することになる。
タイマー部24は、上述の所定時刻を任意に設定でき、その時刻になると制御信号をデータ処理部20に出力する。所定時刻は、1日に昼と夜の2回であってもよく、1日に3回以上であってもよく、数日に1つであってもよい。
電源部26は、データ処理部20、第一通信部22及びタイマー部24に電力を供給できればよく、外部のエネルギから電力を発電する発電機能とバッテリの組み合わせ、構造体の振動を電力に変換する圧電素子、熱を電力に変換する熱変換素子、着脱可能な乾電池、太陽光電池、色素増感太陽電池が挙げられる。電源部26は、配線や充電が不要である独立型電源であることが好ましい。
次に、構造物を遠隔から監視する装置について説明する。監視部14には、このシステムを利用する利用者の端末(図示せず)に対して有線又は無線の通信回線を介して接続されており、利用者は、監視部14から出力される情報に基づいて、構造物の状態を把握することができる。監視部14は、情報収集部12のデータを受信する第二通信部34と、第二通信部34が受信したデータを記憶する記憶部36と、記憶部36に記憶されたデータに基づいて、構造物の状態を示す情報を抽出する情報抽出部38とを有する。
第二通信部34は、第一通信部22と同様、通信回線16との通信を実現するためのアプリケーションが実装されたチップとアンテナとを有する通信インターフェイスであり、第一通信部22からのデータを受信する。
記憶部36は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等のストレージ装置である。記憶部36は、情報収集部12から送られた上述の各種データを記憶する。また、センサ部18に温湿度センサが含まれる場合、湿度のデータも記憶される。また、記憶部36は、情報収集部12から送られたデータの内、ひずみ量と加速度との相関関係を示す相関関係データとし、これを記憶することができる。また、記憶部36は、情報抽出部38の演算結果、OS(Operating System)や、各種のアプリケーションプログラム等を記憶することもできる。
情報抽出部38は、記憶部36に記憶される各種データを演算して、構造物の状態を示す情報を出力する。また、情報抽出部38は、情報収集部12から送られたデータを直接に演算に用いることができる。
情報抽出部38は、ひずみ量が所定値を超えた場合、このひずみ量または異常状態を示す情報の少なくとも一方を出力する。所定値は、情報収集部12が設けられている箇所においてクラックなどの欠陥が生じる程度のひずみ量である。異常状態を示す情報は、利用者が認識できる情報であり、例えばテキスト情報である。これにより、欠陥が生じたことを遠隔で把握することができる。また、過去のデータより、上記箇所における損傷の進行度合いが把握されている場合、その損傷に至る前のひずみ量を、所定値として設定することも可能である。これにより、事故を未然に予防することができる。
また、情報抽出部38は、ひずみ量と、記憶部36に記憶されたひずみセンサ28のゲージ長とに基づいて変位量を算出することができる。そして、情報抽出部38は、この変位量が所定値を超えた場合、この変位量または異常状態を示す情報の少なくとも一方を出力することもできる。この場合、所定値は、情報収集部12が設けられている箇所においてクラックなどの欠陥が生じる程度の変位量である。変位量は、記憶部36に記憶され、ひずみ量の代替パラメータとして用いることができる。
また、情報抽出部38は、記憶部36に記憶された過去のひずみ量に基づいて近似曲線を算出し、その曲線から前記所定値に到達する時期を算出することもできる。損傷程度と損傷時期を把握することで、余裕をもって、しかも過不足のない修繕計画を立てることができる。
また、情報抽出部38は、所定時刻における、ひずみ量と温度との相関関係と、ひずみ量と湿度の相関関係と、ひずみ量と温湿度の相関関係と、ひずみ量と加速度の相関関係とをマッピングし記憶部36に記憶する。この動作は、情報収集部12から新たにデータが送られるたびに行われ、それぞれのマッピングに上書きされる。
そして、情報抽出部38は、情報収集部12から送られてきたひずみ量と温度が、過去のひずみ量と温度との相関関係に比べて所定の乖離がある場合、その相関関係または異常状態を示す情報の少なくとも一方を出力する。相関関係を示す情報は、表、グラフなどである。ひずみ量は、通常、1日単位または季節単位での温度変化に応じて変化する。また、構造物の経年劣化により、ひずみ量の変化量や変化の軌跡が過去のものとは異なり、またはひずみ量の変化領域の分布が過去のものとは異なってしまう。このような違いは、相関関係のマッピング上に閾値または領域を設け、最新データがそれらの設定された所定値を超えた場合、所定の乖離として扱われ、情報抽出部38により異常状態を示す情報として出力される。所定の乖離としての所定値は、構造物固有のものであるので、運用中に、損傷に至るまでのデータを分析することで任意に設定することができる。これにより、遠隔から構造物が損傷したこと、または損傷に至る危険性があることを把握することができる。また、相関関係のパラメータの1つである温度の代わりに湿度、または温湿度を用いることができる。ひずみ量は、通常、1日単位または季節単位での湿度または温湿度変化に応じて変化するからである。情報抽出部38は、過去のひずみ量と湿度の相関関係、または過去のひずみ量と温湿度の相関関係に比べて所定の乖離がある場合、その相関関係または異常状態を示す情報の少なくとも一方を出力する。相関関係のマッピング上における閾値または領域の設定方法および異常状態を示す情報の出力方法は、パラメータが温度である場合と同じである。これにより、遠隔から構造物が損傷したこと、または損傷に至る危険性があることを把握することができる。
また、情報抽出部38は、情報収集部12から送られてきたひずみ量と加速度が、過去のひずみ量と加速度との相関関係に比べて所定の乖離がある場合、その相関関係または異常状態を示す情報を出力する。相関関係を示すデータは、表、グラフなどであり、そのデータ(以降、相関関係データと記す)は記憶部36に記憶されている。ひずみ量と加速度は、一定の相関関係があり、加速度が大きいとひずみ量も大きくなる傾向がある。構造物が経年劣化すると、ひずみ量と加速度の関係が過去の相関関係の領域とは異なる領域にプロットされる。過去の相関関係の領域の外縁に閾値または境界線を設け、最新の相関関係データがそれらの設定された所定値を超えた場合、所定の乖離として扱われ、情報抽出部38が異常状態を示す情報を出力する。所定の乖離としての所定値は、構造物固有のものであるので、運用中に、損傷に至るまでの相関関係データを分析することで任意に設定することができる。これにより、遠隔から構造物が損傷したこと、または損傷に至る危険性があることを把握することができる。
また、情報抽出部38は、複数の情報収集部12における相関関係データをそれぞれ比較し、相関関係データ間の乖離が所定値を超えた場合、相関関係データまたは異常状態を示す情報の少なくとも一方を出力することもできる。先の段落で説明した相関関係データは、同じ情報収集部12に計測されたひずみ量と加速度に関するものであり、情報抽出部38は、この相関関係データと過去の同データとを比較し、乖離状況を抽出している。一方、情報抽出部38は、各情報収集部12における相関関係データをそれぞれ比較し、乖離状況を抽出することもできる。各情報収集部12における相関関係データにおいても、一定の相関関係があり、構造物が経年劣化すると、相関関係データ間の乖離に変化が生じる。情報抽出部38は、この乖離が所定値を超えた場合、異常状態を示す情報を出力する。所定の乖離としての所定値は、構造物固有のものであるので、運用中に、損傷に至るまでのデータを分析することで任意に設定することができる。これにより、遠隔から構造物の損傷状態を把握、あるいは、将来における損傷を推定することができる。
具体的には、データ処理部20は、計測された加速度が所定値以上のときに地震の発生を検出し、この検出時刻における計測データを処理して監視部14に送信する。
また、データ処理部20は、計測された温度が所定値以上のときに火災の発生を検出し、この検出時刻における計測データを処理して監視部14に送信する。なお、これらの態様においては、災害検出をトリガーにタイマー部24を動作させ、平時より、短いスパンで詳細なデータを定期的に計測データとして監視部14に送信するようにしてもよい。
本発明の特徴的な原理の一つは、構造物(固体材料)が外力を受けたときの応力とひずみ(変形)の関係性を利用するものであり、その構造物が有する力学的特性と温湿度や環境などによる変化量とを数値化して比較することである。構造体の劣化は、一般的に、外力、化学反応、クリープ、熱などにより進行する。そこで、劣化状態の変化量、すなわち、物理法則を利用することで変化量を継続的にモニタリングする。このように、膨大かつ長期にわたるデータを分析・解析して損傷状態を把握、あるいは、推定するなど各種用途への利用が期待される。
構造物としては、コンクリート、プラスチック、金属がある。振動など外力が加わる構造体に対してはひずみ量と加速度センサとの相関関係データを、静置された構造体に対してはひずみ量と温度または湿度との相関関係データを用いることが精度向上の点でよい。なお、ひずみセンサ28は、構造体表面にコーティング剤が被覆されている場合は、除去後、構造体に粘着剤を介して貼付される。
次に、図2を用いて、システム10を用いた遠隔状態監視方法の一態様について説明する。
まず、ステップS01において、構造物に設けられたセンサ部18が物理量を示すデータを計測する。具体的には、ひずみセンサ28がひずみ量を計測し、加速度センサ30が加速度を計測し、温度センサ32が温度を計測する。
ステップS02では、データ処理部20が、計測されたデータを処理する。具体的には、データ処理部20が、所定時刻のひずみ量、加速度、温度を抽出する。
そして、ステップS03において、第一通信部22が、処理されたデータを遠隔の監視部14に送信し、ステップS04においては、監視部14において、第二通信部34が、送信されたデータを受信する。そして、ステップS05で、記憶部36が、受信されたデータを記憶する。
最後に、ステップS06では、情報抽出部38が、記憶部36に記憶されたデータに基づいて、構造物の状態を示す情報を抽出する。具体的には、ひずみ量が所定値を超えた場合、そのひずみ量または異常状態を示す情報を出力する。
本発明は、上述した監視方法を実行することができる機能をシステム10が備えていればよく、図1に示す構成に限定されない。上記一連のステップは、ハードウェアにより実行させることも、ソフトウェアにより実行させることもできる。また、1つの機能ブロックは、ハードウェア単体で構成されてもよいし、ソフトウェア単体で構成されてもよく、またはこれらの組み合わせで構成されてもよい。また、本実施形態の監視部14は、上記構成に限定されず、少なくとも一部の機能が利用者の端末にインストールされたアプリケーションにより動作してもよい。
所定時刻を含む数分の時間帯において、加速度の最大値を抽出することもできる。加速度センサ30の検出軸数が3つである場合、それぞれの軸において計測値が抽出される。この場合、通信データ量が多くなるので、第一通信部22は複数回に分けて送信する。これにより、監視部14においては、構造物の状態をより詳細に把握することができる。
また、データ処理部20は、計測された加速度に基づいて構造物の固有振動数を算出し、そのデータを監視部14に送信することができる。監視部14においては、構造物の経年劣化や損傷による固有振動数の変化により、構造物の異常状態を検出することができる。
本実施形態においては、第一通信部22と第二通信部34の間で双方向通信できる構成としても良い。この構成により、監視部14から、データ処理部20の処理内容を変更することができる。また、監視部14から、タイマー部24における所定時刻を設定することもできる。
本実施形態においては、利用者は、必要な情報または履歴について、監視部14にアクセスすることで閲覧またはダウンロードすることができる。これにより、構造物が異常状態に至る前であっても、利用者は、構造物の状態について劣化の傾向を把握することができる。