JP6489517B2 - ガン幹細胞に対する分化促進薬及び脳腫瘍治療薬 - Google Patents

ガン幹細胞に対する分化促進薬及び脳腫瘍治療薬 Download PDF

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Description

本発明は、ガン幹細胞に対する分化促進薬及び脳腫瘍治療薬に関する。
各種腫瘍を構成するガン細胞は、正常な体細胞と比較して、いずれも等しく細胞分裂の回数に制限がなく高い増殖力を有すると共に、周辺組織への浸潤や、体内の他の部位へ転移するといった特徴を有していると考えられていた。一方、最近の研究により、一つの腫瘍を構成する多数のガン細胞には多様性があり、ガン細胞のうちごく一部を占める小集団が「ガン幹細胞」として機能し、自己複製能と、多種類の細胞に分化しうる多分化能を有することにより、腫瘍形成能を発揮することが明らかになりつつある。そして、ガン幹細胞が分化して生じる非ガン幹細胞は腫瘍形成能をもたないと共に、もはやガン幹細胞に戻ることはできないとする不可逆性の考え方がガン幹細胞の基本概念となっている(非特許文献1)。
上記の知見に基づき、ガン幹細胞を殺傷したり、ガン幹細胞を非ガン幹細胞に分化したりすることにより、各種腫瘍の進行を抑制し、転移を防止するための各種薬剤の開発が行われている(例えば、特許文献1〜3)。
特許文献1、2においては、それぞれ所定のポリエーテル化合物、アセトアミノフェン誘導体が、所定の培地において乳ガンや肺ガン等のガン幹細胞を減少させたことが記載されている。また、特許文献3においては、抗ガン剤であるドキソルビシンに対して経口血糖低下剤であるメトホルミンを併用することにより、培養された乳ガン由来のガン幹細胞及び非ガン幹細胞を死滅させることが記載されている。
特開2011−213612号公報 特開2012−31076号公報 特表2013−503171号公報
Medema,Nat Cell Biol 2013;15:338−344
しかしながら、現在までにガン幹細胞を標的とする治療法に関しての報告はわずかであり、いずれも生体外での予備的な検討に留まるなど、必ずしもガン幹細胞に関する知見を活かした各種腫瘍の治療方法は確立されていない。ガン幹細胞を非ガン幹細胞化等する薬剤が見出されることにより、各種腫瘍における腫瘍再発の抑制が可能となり、各種腫瘍の進行の遅延や消滅、転移の防止などが図られる結果、腫瘍の根治や延命治療が推進されると考えられる。特に、外科的な処置によっては完全切除が困難な腫瘍や、腫瘍再発が予後に大きな影響を与える腫瘍では、ガン幹細胞の非ガン幹細胞化は非常に有効な治療方法になることが期待される。
そこで、本発明は、各種腫瘍におけるガン幹細胞を非ガン幹細胞に分化する過程を介した治療薬を提供することを課題とし、特に、浸潤性の腫瘍であり正常組織との境界が不明瞭であるために外科的な処置のみによっては根治が困難な脳腫瘍に有効な治療薬を提供することを課題とする。更に脳腫瘍の中でも急速な腫瘍の増大により極めて進行が速いグリオブラストーマ等の神経膠腫を含む原発性脳腫瘍に有効性を有する治療薬を提供することを課題とする。
本発明者らは、詳細な検討をおこなった結果、メトホルミンが脳腫瘍の治療薬として有用であるとの知見を得た。また、本発明者らは、この他にもメトホルミンの様々な新規用途を見出した。
本発明は、このような新しい知見に基づいて達成されたものである。
本発明は以下のとおりである。
[1] メトホルミン又はその薬理学的に許容される塩の少なくとも1種を有効成分として含有し、脳腫瘍に含まれるガン幹細胞の非ガン幹細胞への分化促進作用を示す分化促進薬。
[2] 前記ガン幹細胞がムサシ(musashi)、ネスチン(nestin)、bmi1及びsox2からなる群より選ばれる少なくとも1種の分子マーカーを発現するものである[1]に記載の分化促進薬。
[3] メトホルミン又はその薬理学的に許容される塩の少なくとも1種を有効成分として含有する脳腫瘍の治療薬。
[4] 前記脳腫瘍は、ムサシ(musashi)、ネスチン(nestin)、bmi1及びsox2からなる群より選ばれる少なくとも1種の分子マーカーを発現するガン幹細胞が含まれる[3]に記載の脳腫瘍の治療薬。
[5] 有効成分の投与量が500mg/日〜3000mg/日である[3]又は[4]に記載の脳腫瘍の治療薬。
[6] さらに、血中グルコース濃度を4.44mmol/L〜6.06mmol/Lに制御可能な成分を含む[3]〜[5]のいずれか1つに記載の脳腫瘍の治療薬。
[7] さらに、グルコース代謝拮抗薬を有効成分として含有する[3]〜[6]のいずれか1つに記載の脳腫瘍の治療薬。
[8] 前記グルコース代謝拮抗薬として、2−deoxyglucose、3−bromopyruvate及び3−bromo−2−oxopropionate−1−propyl esterからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する[7]に記載の脳腫瘍の治療薬。
[9] さらに、脳腫瘍に対する化学療法薬剤を有効成分として含有する[3]〜[6]のいずれか1つに記載の脳腫瘍の治療薬。
[10] 前記化学療法薬剤として、テモゾロミド、ニムスチン、カルムスチン、ロムスチン、ラニムスチン、プロカルバジン、ベバシズマブ、シスプラチン、カルボプラチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、インターフェロン、メソトレキセート、シタラビンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する[9]に記載の脳腫瘍の治療薬。
[11] メトホルミン又はその薬理学的に許容される塩の少なくとも1種を有効成分として用いる脳腫瘍の治療方法。
[12] 前記脳腫瘍は、ムサシ(musashi)、ネスチン(nestin)、bmi1及びsox2からなる群より選ばれる少なくとも1種の分子マーカーを発現するガン幹細胞が含まれる[11]に記載の脳腫瘍の治療方法。
[13] 有効成分の投与量が500mg/日〜3000mg/日である[11]又は[12]に記載の脳腫瘍の治療方法。
[14] さらに、血中グルコース濃度を4.44mmol/L〜6.06mmol/Lに制御可能な成分を含む[11]〜[13]のいずれか1つに記載の脳腫瘍の治療方法。
[15] さらに、グルコース代謝拮抗薬を有効成分として用いる[11]〜[14]のいずれか1つに記載の脳腫瘍の治療方法。
[16] 前記グルコース代謝拮抗薬として、2−deoxyglucose、3−bromopyruvate及び3−bromo−2−oxopropionate−1−propyl esterからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる[15]に記載の脳腫瘍の治療方法。
[17] さらに、脳腫瘍に対する化学療法薬剤を有効成分として用いる[11]〜[14]のいずれか1つに記載の脳腫瘍の治療方法。
[18] 前記化学療法薬剤として、テモゾロミド、ニムスチン、カルムスチン、ロムスチン、ラニムスチン、プロカルバジン、ベバシズマブ、シスプラチン、カルボプラチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、インターフェロン、メソトレキセート、シタラビンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる[17]に記載の脳腫瘍の治療方法。
本発明によれば、従来から人体に投与されてきた成分を有効成分とする腫瘍の治療薬が提供されると共に、特に脳腫瘍についての新規の治療薬を提供することができる。
実施例1にかかる結果を示したグラフである。 実施例2にかかる結果を示したグラフである。 実施例3にかかる電気泳動写真である。 実施例4にかかる結果を示したグラフである。 実施例5にかかる結果を示したグラフである。 実施例6にかかる電気泳動写真である。 実施例7にかかる結果を示したグラフである。 実施例8にかかる結果を示したグラフである。 実施例9にかかる結果を示したグラフである。 実施例10にかかる結果を示したグラフである。 実施例11にかかる結果を示したグラフである。 実施例12にかかる結果を示したグラフである。 実施例13にかかる結果を示したグラフである。
本発明は、手術摘出組織から樹立したガン幹細胞の培養細胞株に対して、糖尿病治療薬として知られるメトホルミンを単独で作用させることにより、ガン幹細胞が特有に有する増殖能が低下し、またガン幹細胞に特有の分子マーカーが減少、消失すること、及び、メトホルミンを作用させたガン細胞を移植したマウスにおいて、通常のガン幹細胞を移植したマウスと比較して長い生存期間が確保されたことに基づくものである。また、ガン幹細胞を移植したマウスに対してメトホルミンを単独投与することにより、生存期間を延長可能であることに基づくものである。
本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示すものとする。
本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
以下、本発明について説明する。
<メトホルミン>
メトホルミンは、N,N−dimethylimidodicarbonimidic diamide(IUPAC命名法による物質名)(CAS登録番号;657−24−9)の別称であり、1,1−dimethylbiguanideとも呼ばれ、化学式C11(分子量129.164 g/mol)で表される。
また、メトホルミンの薬理学的に許容される塩としては、例えば、メトホルミン塩酸塩が挙げられる。下記構造で示されるメトホルミン塩酸塩は、商品名 メトグルコ(登録商標)として、大日本住友製薬株式会社等から販売されている。
本発明においては、メトホルミン及びその薬理学的に許容される塩のいずれかの種類を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本明細書では、メトホルミン及びその薬理学的に許容される塩を、以下「メトホルミン」と総称することもある。
本発明において標的とするガン幹細胞(Cancer Stem Cell)は、高い腫瘍形成能を有する未分化な細胞であり、未分化な状態で自己複製をする(細胞分裂によりガン幹細胞を生み出す)能力と、より分化度が高く腫瘍形成能をもたない非ガン幹細胞へと変化(分化)する能力に特徴づけられるガン細胞である。ガン幹細胞の存在や頻度を検出するための方法として、実験動物に腫瘍細胞を移植して腫瘍形成能を観察する移植実験方法が当業者に広く行われている。
また、ガン幹細胞は、胚性幹細胞をはじめとする種々の幹細胞の維持に関与するタンパク質であり、分子マーカーの一種として使用されるbmi1(B lymphoma Mo−MLV insertion region 1 homolog)や、胚性幹細胞をはじめとする種々の幹細胞の維持に関与する転写因子であり、同様に分子マーカーの一種として使用されるsox2を発現することによっても特徴づけられる。
一方、本発明における非ガン幹細胞とは、腫瘍組織を形成する細胞であるガン幹細胞以外のガン細胞を意味する。非ガン幹細胞は腫瘍形成能をもたず、ガン幹細胞と比較してガン幹細胞が特異的に発現する分子マーカーの発現が低いことで特徴づけられる。
ガン幹細胞から、非ガン幹細胞への分化は、ガン幹細胞が特異的に発現する分子マーカーと、非ガン幹細胞特異的に発現する分子マーカーとの発現量を通常用いられる方法により測定すること等によって確認することができる。具体的には、Piccirillo, Nature 2006;444:761−765に記載の方法等により、分子マーカーのフローサイトメトリー、免疫細胞化学、ウエスタンブロット解析等をすることにより測定することができる。本発明の実施例で使用される脳腫瘍のガン幹細胞については、脳腫瘍のガン幹細胞が分化して生じる非ガン幹細胞に特異的に発現するβIII−tubulin、GFAP等の分化マーカーの発現によって、ガン幹細胞の分化を確認することができる。
また、ガン幹細胞の基本概念として、ガン幹細胞から非ガン幹細胞への変化(分化)は不可逆的であることが前提とされている(Medema,Nat Cell Biol 2013;15:338−344)
以下に示す実施例において明らかにされるように、脳腫瘍におけるガン幹細胞の一種であるグリオブラストーマ(膠芽腫)の手術摘出組織から直接樹立したガン幹細胞培養細胞株(Matsuda, Sci Rep. 2012;2:516)をメトホルミンの存在下と非存在下において、それぞれ一定期間培養した細胞について種々の検討を行ったところ、メトホルミンの存在下での培養によりガン幹細胞の非ガン幹細胞への分化が促進されていることを示す結果が得られた。
つまり、ガン幹細胞をメトホルミンの存在下で培養することにより、メトホルミンを使用せずに培養した場合と比較して、A)その後の培養における浮遊細胞塊(sphere)形成能が低下、B)各種のガン幹細胞マーカーの発現が減少及び/又は消失、C)各種の分化マーカーの発現が上昇することが確認された。また、同様にメトホルミンの存在下と非存在下において一定期間培養した細胞をヌードマウスの脳内に移植したところ、メトホルミンの存在下で培養した細胞を移植した群において、有意に長い生存期間が観察された。
上記の結果は、いずれもメトホルミンの存在下で培養された細胞群においてガン幹細胞の割合(量)が低いことを示しており、メトホルミンがガン幹細胞の非ガン幹細胞への分化を促進した結果であると理解することができる。このことから、メトホルミンはガン幹細胞の非ガン幹細胞への分化を促進させる分化促進薬として機能することが把握される。
上記で用いたグリオブラストーマの手術摘出組織から直接樹立したガン幹細胞培養細胞株は、種々の幹細胞に関連する分子マーカーであるbmi1、sox2の他に、神経前駆細胞に強く発現するRNA結合タンパク質であって、分子マーカーの一種とされるムサシ(musashi)や、神経外胚葉の前駆細胞(幹細胞)に特有の中間径フィラメントであって、同様に分子マーカーの一種とされるネスチン(nestin)によって特徴づけられることが明らかになっており、これらの幹細胞マーカーの発現を特徴とするガン幹細胞に対して、メトホルミンは同様の効果を示すことが考えられる。
つまり、メトホルミンは原発性脳腫瘍の内の神経膠腫に相当するグリオブラストーマの組織に含まれるガン幹細胞に限定されることなく、bmi1、sox2、musashi、nestin等の分子マーカーが発現する脳腫瘍であれば、転移性脳腫瘍等の脳腫瘍においてもガン幹細胞の非ガン幹細胞への分化を促進させる分化促進薬として機能することが把握される。
脳腫瘍は、浸潤性の腫瘍であり、正常組織との境界が不明瞭であるため、全腫瘍部を摘出することが極めて困難であるといわれている。そのため、脳腫瘍の基本的な治療法として、手術による腫瘍の摘出後に、放射線治療法又は化学療法が必要とされている(Stupp,New England J. Med. 2005;352:987−96)。特に、本発明で評価に使用したグリオブラストーマは、脳腫瘍の中でも急速な腫瘍の増大により極めて進行が速い悪性の神経膠腫であり、数週間単位で症状が悪化すると共に、すべての悪性腫瘍の中でも予後の悪いことが知られるものであり、有効な治療が困難であった。また悪性星状細胞腫等の悪性の神経膠腫においても、グリオブラストーマと共通の遺伝子異常をもつことが多く、組織型間での共存や一方から他方への変化が見られるなどの共通性のため一般的治療方法が類似し、同様の問題を有している。
本発明は、メトホルミンが脳腫瘍の中でも悪性度の高いグリオブラストーマ等に由来するガン幹細胞に対しても分化促進作用を有意に示すことを見出しものであり、神経膠腫等の原発性脳腫瘍の治療に貢献することが期待される。
また、以下に示す実施例における検討から、ガン幹細胞を脳内に移植したヌードマウスに対してメトホルミンを腹腔内に投与することにより、その後の生存期間を有意に延長できることが示され、ガン幹細胞を含む腫瘍の治療においてメトホルミンが有効であることが明らかにされた。このことから、メトホルミンがガン幹細胞を含む腫瘍の治療薬として機能することが把握される。なお、本明細書において、「治療」の語は、病状の根治の他に、病状の進行を遅らせ、生存期間を延長し、また外科的手術の後などの再発防止等の効果を生じさせることを意味するものとして使用する。
メトホルミンの投与により、ガン幹細胞を移植したヌードマウスが延命する理由は必ずしも明らかでないが、上記で説明したように、メトホルミンがガン幹細胞の分化促進効果を示すことが明らかであることから、ヌードマウスの体内においてもガン幹細胞の非ガン幹細胞への分化が促進され、この結果として腫瘍形成能力を喪失させ、腫瘍の増大が抑制された結果であると推察される。
メトホルミンがガン幹細胞に作用してその腫瘍形成能力を喪失させ、脳腫瘍の動物モデルにおいてその全身投与が治療的効果をもたらすことはこれまで全く知られておらず、今回の知見はメトホルミンを利用したガン幹細胞を標的とする新規脳腫瘍治療の開発につながるものである。また、単にガン幹細胞を殺傷するのではなく、ガン幹細胞を非ガン幹細胞へと変容させることで不可逆的に腫瘍形成能力を喪失させる機構が機能する点も本発明に特徴的である。尚、本発明ではメトホルミンが単独でもガン幹細胞を標的とした治療効果をもつことが示された。
なお、メトホルミンを特に脳腫瘍の薬物治療に用いようとした場合、血液脳関門の存在が問題となるが、この点については、メトホルミンが血液脳関門を通過可能であることは公知である(Labuzek, Pharmacol Rep. 2010 Sep−Oct;62(5):956−65)。この点からも、メトホルミンは脳腫瘍の治療薬としても期待される。
腫瘍の治療薬としてのメトホルミン、またはその薬学的に許容される塩の投与量及び投与回数は、投与形態、患者の年齢、体重、治療すべき症状の性質もしくは重篤度等により異なるが、副作用が問題にならない範囲で多いことが好ましい。具体的には、腫瘍の治療の観点からは3000mg/日程度を上限として一日一回ないし数回投与することが好ましい。しかしながら、これら投与量及び投与回数に関しては、前述の種々の条件に応じて調整されることが望ましいことはいうまでもない。
上記のとおり、腫瘍の治療薬としてのメトホルミンの投与量は副作用が問題にならない範囲で多いことが好ましいが、具体的には、糖尿病治療薬として米国FDAで認める上限である2550mg/日、又は、日本国内で認められる2250mg/日程度以下であれば、顕著な副作用がなく安全に投与できると考えられる点で好ましい。また、腫瘍の治療薬として実質的な薬効を生じるために、500mg/日程度以上の投与が好ましい。
なお、上記ガン幹細胞を移植したヌードマウスにおいて生存期間の延長効果が見られた際のメトホルミンの投与量は、ヒト(体重60kg)に換算して2500mg/日程度に相当する量であるのに対し、米国FDAで糖尿病治療薬として認められる使用量は2550mg/日、日本国内で認められた使用量は2250mg/日であり、メトホルミンの単独投与によっても、十分に副作用が抑制される範囲内の投与により腫瘍の治療効果が期待される。
メトホルミンの投与方法は、任意である。例えば、経口投与だけではなく、非経口投与であってもよい。非経口投与の方法としては、皮下注射、静脈内注射、筋肉注射、腹腔内注射等が挙げられる。
メトホルミンを経口投与する場合は、錠剤、カプセル剤、粉剤、液剤、エリキシル剤等の形態で、また、非経口投与する場合は、液剤又は懸濁化剤等の殺菌した液状の形態で用いられる。
メトホルミンが、上述のような形態で用いられる場合、固体又は液体の毒性のない製剤的担体が組成に含まれ得る。
固体担体の例としては通常のゼラチンタイプのカプセルが用いられる。
これらのカプセル、錠剤、粉末は一般的に、製剤全質量に対して、5質量%〜95質量%、好ましくは5質量%〜90質量%の有効成分を含む。
液状担体としては、水、石油、ピーナツ油、大豆油、ミネラル油、ゴマ油、生理食塩水、デキストロール、類似のショ糖溶液、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を用いることができる。
先に検討したように、メトホルミンの腫瘍の治療薬としての作用は、メトホルミンがガン幹細胞の分化促進効果を示すことに由来するものと推察され、腫瘍組織内で腫瘍形成能力を減退・喪失させる結果であると推察される。一方、実施例の結果に示されるように、メトホルミンはガン細胞に対する積極的な殺傷効果は有していないと考えられる。このため、メトホルミンを用いた治療方法としては、外科的処置により腫瘍を除去した後であって、残存腫瘍をわずかにした状態でメトホルミン投与を行い、残存腫瘍によるマクロ的な腫瘍組織の再発や転移の防止を主目的とした用法を採ることが好ましいと考えられる。
また、以下に示す実施例における検討から、メトホルミンがガン幹細胞を非ガン幹細胞へと分化促進する際に、細胞培養環境に存在するグルコース濃度が影響し、グルコース濃度の低下により分化促進が増強されることが明らかになっている。このような現象を生じる機構は必ずしも明らかでないが、腫瘍治療薬としてメトホルミンを人体に投与する際に適宜の手段により体内のグルコース濃度を低下させることにより、メトホルミンの腫瘍治療薬としての効果が高まると期待される。
ガンを含め種々の疾患に付随する様々なストレスが高血糖状態を将来することはよく知られたところであり(Nomikos,J Clin Med Res. 2012 Aug;4(4):237−41)、こういった高血糖状態がメトホルミンのガン幹細胞への治療効果を阻害する可能性は十分に推察される。メトホルミン自体も糖尿病治療薬であることから血糖降下作用が期待されるが、本発明による結果に示されるとおり、他の血糖降下作用をもつ薬剤の併用や、あるいはグルコース代謝拮抗物質により細胞へのグルコース取り込みを阻害し血糖降下疑似状態を作り出すことで、メトホルミンのガン幹細胞に対する治療効果を増強することが可能である。本発明はこのようなグルコース代謝を標的とする治療薬とメトホルミンとを組み合わせた、ガン幹細胞に対する新規治療法をその一部として含む。
腫瘍治療薬としてメトホルミンを人体に投与する際の体内のグルコース濃度は、人体に悪影響の無い範囲で低いことが望ましく、血中グルコース濃度として、4.44mmol/L〜6.06mmol/L(80mg/dL〜109mg/dL)に制御することが好ましい。
血中グルコース濃度を、4.44mmol/L〜6.06mmol/L(80mg/dL〜109mg/dL)に制御することにより、血中グルコース濃度が110mg/dL以上である場合に比べて、メトホルミンのガン幹細胞を標的とする治療効果が増強することが期待される。
また、特に血中グルコース濃度は、4.44mmol/L〜5.22mmol/L(80mg/dL〜94mg/dL)に制御することがより好ましい。
ここで、本明細書において、血中グルコース濃度とは、空腹時血中グルコース濃度を意味する。なお、血中グルコース濃度は、採血後、通常の方法に従い、測定すればよい。
腫瘍治療薬としてメトホルミンを人体に投与する際の体内のグルコース濃度は、食事の制限等による他、グルコース濃度を低下させる効果のある薬剤をメトホルミンに組み合わせて用いることもできる。
また、メトホルミンに、グルコース代謝拮抗薬を併用することがより好ましい。これにより、ガン幹細胞を標的とする腫瘍治療薬の治療効果を相乗的に向上できると期待される。
グルコース代謝拮抗薬としては、体内でのグルコース代謝を抑制する成分であれば特に制限はされない。グルコース代謝拮抗薬としては、具体的には、2−deoxyglucose、3−bromopyruvate及び3−bromo−2−oxopropionate−1−propyl ester等を挙げることができる。
メトホルミン及びグルコース代謝拮抗薬の投与方法は、任意である。例えば、経口投与だけではなく、非経口投与であってもよい。非経口投与の方法としては、皮下注射、静脈内注射、筋肉注射、腹腔内注射等が挙げられる。
また、本発明においては、前記と同様にグリオブラストーマの組織から樹立したガン幹細胞を脳内に移植したヌードマウスに対して、当該グリオブラストーマ等の悪性の神経膠腫に対して第1選択の化学療法薬剤として使用されるテモゾロミドをメトホルミンと併用投与することにより、ガン幹細胞の脳内移植からヌードマウスが脳腫瘍死するまでの生存期間が更に延長され、メトホルミンが単独のみならずテモゾロミド等の化学療法薬剤との併用でもその治療効果を発揮しうることが示された。
これにより、本発明ではメトホルミンが単独でもガン幹細胞を標的とした治療効果をもつことが示された他、化学療法薬剤等の他の抗がん剤との併用療法が有効であることを示され、本発明はメトホルミンの単独使用と共に、他の抗がん剤との併用による神経膠腫等の脳腫瘍の治療をその一部として含んでいる。
メトホルミンと化学療法薬剤の併用により、ガン幹細胞を脳内移植されたヌードマウスに対する治療効果が高まる理由は必ずしも明らかでないが、メトホルミンによるガン幹細胞の分化促進効果と化学療法薬剤による非ガン幹細胞の殺傷効果が相乗的に作用する機構や、メトホルミンが存在することによるガン幹細胞や非がん幹細胞の化学療法薬剤に対する感受性が変化する等の機構が考えられる。
メトホルミンと併用される化学療法薬剤は、治療の対象とされる腫瘍の治療効果が見込まれるものであれば特に制限はされない。メトホルミンと併用される化学療法薬剤としては、具体的には、神経膠腫に対する場合にはテモゾロミドの他、一般に脳腫瘍等に対して使用されるニムスチン、カルムスチン、ロムスチン、ラニムスチン、プロカルバジンなどのアルキル化剤、ベバシズマブなどの分子標的薬、シスプラチン、カルボプラチンなどの白金製剤、ブレオマイシン、インターフェロン及びメソトレキセート・シタラビン、ビンクリスチン等が挙げられる。
メトホルミンと併用される化学療法薬剤の投与量は、使用する化学療法薬剤の種類に応じて適宜設定することができるが、メトホルミンとの併用により生じる作用を考慮して、適宜調整されることが望ましい。
また、メトホルミンがガン幹細胞の非がん幹細胞への分化を促進していると考えられることから、上記化学療法薬剤の併用投与以外にも、放射線療法のような特に非がん幹細胞の殺傷を目的とする従来のガン治療法との併用も効果的であると考えられる。更に、メトホルミンをガン幹細胞の非がん幹細胞への分化を促進する他の分化促進薬と併用することも有効と考えられる。
また、メトホルミンがガン幹細胞の非がん幹細胞への分化を促進すること、及び、顕著な副作用を有しないことを利用して、特に、脳腫瘍等の外科的な処置のみによっては根治が困難な腫瘍に対して外科的処置、放射線治療、化学療法、その他従来一般的に施行されているガン治療法のみによっては根治が困難な脳腫瘍に対して、これらの治療を行った後の再発を防止するために、適宜の量を投与することも有効である。
また、本発明の脳腫瘍の治療薬は、ヒトだけではなく、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、トリ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー等の温血動物に対しても有効である。
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。
[実施例1]
脳腫瘍のガン幹細胞の分化促進に対するメトホルミンの効果を調べるため、特に、原発性脳腫瘍を代表する神経膠腫、その中でも最も悪性度の高いグリオブラストーマの手術摘出組織から直接樹立したガン幹細胞培養細胞株(Matsuda, Sci Rep. 2012;2:516)を用いて以下の検討を行った。
脳腫瘍由来のガン幹細胞の重要な特徴の一つに通常の幹細胞培養条件下では培養皿に接着することなく浮遊細胞塊(sphere)を形成することが挙げられる(Dirks, Mol Oncol. 2010 Oct;4(5):420−30)。そこで、以下の検討では、この性質を指標にメトホルミンのガン幹細胞の分化促進効果を検討した。
Matsuda, Sci Rep. 2012;2:516に記載の方法に従いグリオブラストーマ手術摘出組織から直接樹立したガン幹細胞を、1mMのメトホルミンを含む培地(Metformin)と含まない培地(Control)で3日間培養、メトホルミンを含まない培地を用いてメトホルミンを洗浄除去後、各培養条件の細胞から1x10個を採取してsphere形成条件(Matsuda, Sci Rep. 2012;2:516に記載の条件)で培養を行った。なお、培地は、グルコース濃度が17.5mMの市販の培養液(Invitrogen社から販売されているDMEM/F12培地、製品番号17504−044)にグルコースを添加して26.2mMに調整して使用した。
結果を図1に示す。図1中、「1st passage」はsphere形成培養3日後のsphere数を示している。sphere形成培養開始3日後に細胞を分離し、1x10個の細胞を再度sphere形成条件で3日間培養した後のsphere数を「2nd passage」のsphere数として計測した。図中、「*」は統計学的有意差(P<0.05)があることを示す。
図1に示された結果から明らかである通り、メトホルミンを洗浄により除去した後も、メトホルミンを含む培地で培養された細胞は、ガン幹細胞のsphere形成能を持続的に抑制していることが示されている。すなわち、メトホルミンはガン幹細胞によるsphere形成を抑制することが明らかとなった。この結果はメトホルミンがガン幹細胞を非ガン幹細胞に分化誘導している可能性、ガン幹細胞の増殖を著しく抑制している可能性の他、細胞を殺傷している可能性を示している。
[実施例2]
メトホルミンによる細胞殺傷の有無について検討を行った。
実施例1に記載の方法と同様の方法によりグリオブラストーマ手術摘出組織から直接樹立したガン幹細胞を、グルコース濃度を26.2mMとした培地で3日間培養する際に、メトホルミンを含まない培地、及び1mM〜10mMの各濃度のメトホルミンを含む培地を使用し、培養後の生細胞数、死細胞数を計測した。細胞の生死は色素排除法により行い、細胞の生存率(cell viability)は生細胞数/(生細胞数+死細胞数)により算出した。
メトホルミン濃度を0mM,1mM,10mMとした培地における結果を図2に示す。本検討によれば、メトホルミン濃度が6mM以下の場合には細胞の生存率の低下は認められず、図2に示された結果から明らかである通り、実施例1で採用したメトホルミン濃度(1mM)では細胞の生存率の低下は認められなかった。
この結果を考慮すれば、実施例1の結果は、メトホルミンによる細胞の殺傷に起因したものでなく、ガン幹細胞が非ガン幹細胞に分化誘導され、及び/又は、ガン幹細胞の増殖が著しく抑制された結果であると推察される。
[実施例3]
メトホルミンの存在下でのガン幹細胞の培養後における、ガン幹細胞の分化度に関する検討を行った。
脳腫瘍のガン幹細胞は一般的にsphereを形成するが、sphereを形成する脳腫瘍細胞が必ずしもガン幹細胞とは限らない。そこで実験に用いたガン幹細胞におけるガン幹細胞マーカー(Dahlrot,Int J Clin Exp Pathol. 2013;6(3):334−48)の発現を調べた。
実施例1に記載の方法と同様の方法によりグリオブラストーマ手術摘出組織から直接樹立したガン幹細胞を1mMのメトホルミンを含む培地(Met)と含まない培地(Cont.)で3日間培養したのち細胞を回収した。Matsuda, Sci Rep. 2012;2:516に記載の方法に従い細胞中のタンパク質を溶出させ、各種タンパク質(Nestin、Musashi、Bmi1、GFAP、βIII−tubulin、Actin)の発現量をウエスタンブロット法により解析した。なお、Actinの発現量は等量のタンパク質が泳動されていることを確認するために解析した。
結果を図3に示す。図3に示された結果より明らかである通り、メトホルミンを含まない培地で培養したグリオブラストーマガン幹細胞(図3中、Cont.のレーン)は、Nestin、Bmi1、Musashiなどの幹細胞マーカーを発現していることが確認された。これに対し、メトホルミンを含む培地で培養したガン幹細胞(図3中、Metのレーン)では、これら幹細胞マーカーの発現が減少又は消失していた(図3中、Metのレーン)。また、ガン幹細胞をメトホルミンを含む培地で培養した場合には、神経細胞の分化マーカー(βIII−tubulin)、アストロサイトの分化マーカー(glial fibrillary acidic protein;GFAP)(Singh, Cancer Res. 2003 Sep 15;63(18):5821−8)が発現した。
[実施例4]
さらにメトホルミンを含む培地での培養による、神経細胞の分化マーカー(βIII−tubulin)、アストロサイトの分化マーカー(GFAP)の発現に対する影響を、免疫細胞化学法により検討した。
実施例1に記載の方法と同様の方法によりグリオブラストーマ手術摘出組織から直接樹立したガン幹細胞を1mMのメトホルミンを含む培地(Metformin)と含まない培地(Control)で3日間、6日間培養したところで固定を行い、免疫細胞化学法によりGFAP、及びβIII−tubulinの免疫染色を行った。同時に、ヘキスト染色により細胞核を染色することで、染色を受けた全細胞数を計数した。
結果を図4に示す。図4は全細胞数に対するGFAP、βIII−tubulin陽性細胞の割合を示している。なお、図中「*」は統計学的有意差(P<0.05)があることを示す。
図4の結果から明らかである通り、メトホルミンを含む培地での培養によりβIII−tubulin及びGFAPのいずれの分化マーカーも発現の上昇が認められ、実施例3における結果と同様の傾向が確認された。
実施例3,4の結果は、いずれもメトホルミンが本来未分化なガン幹細胞を分化したガン細胞、すなわち非ガン幹細胞へと変質させていることを示している。このため実施例1で確認されたメトホルミンを含む培地での培養によるガン幹細胞によるsphere形成の抑制は、メトホルミンによりガン幹細胞が非ガン幹細胞へと分化した結果、sphere形成能を失ったことによると解される。
[実施例5]
上記実施例1〜4において、メトホルミンによる分化誘導によりガン幹細胞がsphere形成能を失うことが推察された。一方、上記のとおり、ガン幹細胞は未分化であるとともに、腫瘍形成能をもつことを特徴とするガン細胞である。そこで、本実施例においては、メトホルミンによる分化誘導により、実際にガン幹細胞がその重要な性質である腫瘍形成能を失っているか否かについて検討を行った。なお、ガン幹細胞の基本概念において、ガン幹細胞から非ガン幹細胞への変化は不可逆的であることが前提とされている。
具体的には、ガン幹細胞をメトホルミンを含む培地での培養したものを、マウス脳内に移植して、その後の生存期間の変化により移植したガン細胞の腫瘍形成能を検討した。
実施例1に記載の方法と同様の方法によりグリオブラストーマ手術摘出組織から直接樹立したガン幹細胞を1mMのメトホルミンを含む培地(Metformin)と含まない培地(Control)で3日間培養し、その後にメトホルミンを洗浄除去後、各々1x10個の細胞をヌードマウス脳内(各群5匹)に移植し、ヌードマウスが脳腫瘍死するまでの生存期間をカプランマイヤー生存曲線にて表した。なお、本明細書に記載したヌードマウスを用いた各種検討は、山形大学動物実験委員会の承認を得て行った。
結果を図5に示す。図中「*」は統計学的有意差(P<0.05)があることを示す。
図5に示された結果より明らかである通り、メトホルミンを含まない培地で培養したガン幹細胞を移植した場合と比較して、メトホルミンを含む培地で培養したガン幹細胞を移植した場合のほうが、マウスが細胞移植後脳腫瘍により死亡するまでの期間、すなわち生存期間が延長することが示された。
なお、実施例2で示された通り、本実施例において作用させたメトホルミンの濃度が細胞死を誘導する濃度ではないことは明らかである。また、メトホルミン暴露は一時的であり移植時にはメトホルミンが除去されている。これらを考慮に入れると、実施例5で得られた結果は一過的なメトホルミンとの接触が、多くのガン幹細胞を、腫瘍形成能力をもたない非ガン幹細胞へと不可逆的に変化させたという考え方を支持している。つまり、メトホルミンを含む培地での培養によりガン幹細胞が非ガン幹細胞へと分化する結果、通常の幹細胞培養条件下におけるsphere形成能を失うと共に、生体内における腫瘍形成能力が失われると解される。
[実施例6]
本実施例においては、上記で検討したメトホルミンが示すガン幹細胞の分化促進作用に関して、メトホルミンを作用させる際のグルコース濃度の影響を検討する。つまり、実施例1〜実施例5ではグルコース濃度が26.2mMの培養液を用いたのに対し、更に低いグルコース濃度におけるメトホルミンの効果を検証する。このグルコース濃度の培養液はグルコース濃度が17.5mMの市販の培養液(Invitrogen社から販売されているDMEM/F12培地、製品番号11320−082)にグルコースを添加して調製している。
実施例1に記載の方法と同様の方法によりグリオブラストーマ手術摘出組織から直接樹立したガン幹細胞を1mMのメトホルミンを含む培地(Metformin+)と含まない培地(Metformin−)で培養した。その際、それぞれの場合の培養液として、グルコース濃度が17.5mMの市販の培養液(Invitrogen社から販売されているDMEM/F12培地、製品番号11320−082)、及び、当該培養液にグルコースを添加してグルコース濃度を26.2mMとした培養液の2種類を用いて培養を行った。それぞれ、3日間の培養の後に細胞を回収、細胞中のタンパク質を溶出し、各種タンパク質(βIII−tubulin、GFAP、Musashi、Sox2、Actin)の発現量をウエスタンブロット法により解析した。Actinの発現量は等量のタンパク質が泳動されていることを確認するために解析した。
結果を図6に示す。図6に示された結果より明らかである通り、グルコース濃度が26.2mMの場合と比較して、グルコース濃度17.5mMの条件下では幹細胞マーカー(Musashi、Sox2)の発現減少の程度と、分化マーカー(βIII−tubulin、GFAP)の発現亢進の程度が共に増強された。この結果は、メトホルミンを含む培地での培養によりガン幹細胞が非ガン幹細胞へと分化する程度は、培地中のグルコース濃度に影響を受け、グルコース濃度が低い場合に分化促進が増強されることが明らかとなった。
[実施例7]
本実施例では、ガン幹細胞の培地での培養後における非ガン幹細胞の割合について、メトホルミンの有無、及びグルコース濃度の影響を免疫細胞化学法により調べた。
実施例6に記載の方法と同様の方法によりグリオブラストーマ手術摘出組織から直接樹立したガン幹細胞を1mMのメトホルミンを含む培地(Metformin+)と含まない培地(Metformin−)で培養した。その際、それぞれの場合につき培地中のグルコース濃度を26.2mMと17.5mMとの2種類とした。それぞれ、3日間の培養の後に固定を行い、免疫細胞化学法によりβIII−tubulin、glial fibrilary acidic protein(GFAP)の免疫染色を行った。同時に、ヘキスト染色により細胞核を染色することで、染色を受けた全細胞数を計数した。
結果を図7に示す。図は全細胞数に対するGFAP、βIII−tubulin陽性細胞の割合を示している。図中「*」は統計学的有意差(P<0.05)があることを示す。また、「n.s.」は統計学的有意差がないことを示す。
図7に示された結果より明らかである通り、メトホルミンを含まない培地においては、グルコース濃度によらず非ガン幹細胞の割合が1割程度であった。これに対して、メトホルミンを含む培地においては、グルコース濃度26.5mMでは4割程度のガン幹細胞が非ガン幹細胞に変化し、更に、グルコース濃度17.5mMでは8割近い細胞がこの時点で非ガン幹細胞へと変化していることが示唆された。
この結果から、メトホルミンがガン幹細胞を非ガン幹細胞へと分化促進する際に、細胞培養環境に存在するグルコース濃度が影響し、低いグルコース濃度において分化促進が増強されると解される。
[実施例8]
上記の各実施例の結果から、メトホルミンはガン幹細胞を含む細胞群のsphere形成能を低下させること、及び、当該作用はメトホルミンがガン幹細胞の非ガン幹細胞への分化を促進することに起因することが明らかになった。本実施例では、特にメトホルミンがガン幹細胞を含む細胞群に対して長期的に示すsphere形成能の低下作用について試験を行った。
実施例6に記載の方法と同様の方法によりグリオブラストーマ手術摘出組織から直接樹立したガン幹細胞を1mMのメトホルミンを含む培地(Metformin+)と含まない培地(Metformin−)で培養した。その際、それぞれの場合につき培地中のグルコース濃度を26.2mMと17.5mMの2種類とした。それぞれ、3日間の培養の後にメトホルミンを洗浄除去し、1x10個の細胞をsphere形成条件での培養試験に用いた。
図8中、「1st passage」は、上記1x10個の細胞を用いてsphere形成培養を3日間行った後のsphere数を示している。更に、「2nd passage」は、当該「1st passage」でsphere数を計測した培地から1x10個の細胞を分離して再度sphere形成条件で3日間培養した後のsphere数を示す。以下、「3rd passage」、「4th passage」についても同様の要領でsphere数を計測した。なお、メトホルミンを除去した後の各培養試験においては、グルコース濃度を26.2mMで統一した。図中「*」は統計学的有意差(P<0.05)があることを示し、「n.s.」は統計学的有意差がないことを示す。
図8に示された結果より明らかである通り、メトホルミンを含む培地のグルコース濃度が26.2mMの場合は、メトホルミンにより明らかなsphere形成能の低下効果が観察されるが、sphere形成実験を繰り返すとメトホルミンによって一旦抑制されたsphere形成能に回復傾向が見られる。これに対し、グルコース濃度が17.5mMの場合は、メトホルミンによるsphere形成抑制効果が、sphere形成実験を繰り返しても持続することが確認できた。
実施例6〜実施例8で示された結果はいずれも、メトホルミンがガン幹細胞を非ガン幹細胞に安定的に変化させる効率がグルコース濃度により大きく影響を受けるという考え方を支持している。また、低グルコース濃度環境等のメトホルミン暴露に適した環境でメトホルミンに暴露されたガン幹細胞を含む細胞群において、その後にも本来のsphere形成能を回復しにくいことは、メトホルミンが身体に対して低負担で有効に腫瘍の増殖を抑制できる可能性を示すものと考えられる。
[実施例9]
上記実施例6〜8において、メトホルミンによるガン幹細胞の分化誘導によるsphere形成能の低下に、メトホルミン暴露の際のグルコース濃度が関連することが示された。そこで、本実施例では、ガン幹細胞をメトホルミンに暴露する際の培養液中のグルコース濃度が、実際の生体内でのガン幹細胞の腫瘍形成能の抑制に影響を与えるか否かについて検討を行った。
実施例6に記載の方法と同様の方法によりグリオブラストーマ手術摘出組織から直接樹立したガン幹細胞を1mMのメトホルミンを含む培地(Metformin+)と含まない培地(Metformin−)で培養した。その際、それぞれの場合につき培地中のグルコース濃度を26.2mMと17.5mMの2種類とした。それぞれ、3日間の培養の後にメトホルミンを洗浄除去し、各々の培地に含まれる1x10個の細胞をヌードマウス脳内に移植し(各群5匹)、ヌードマウスが脳腫瘍死するまでの生存期間をカプランマイヤー生存曲線にて表した。
結果を図9に示す。図中「*」は統計学的有意差(P<0.05)があることを示す。
図9に示された結果より明らかである通り、メトホルミンに暴露しない場合はグルコース濃度の如何にかかわらず40日程度の生存期間であったのに対し、メトホルミンに暴露した場合は、グルコース濃度が26.2mMの場合は約50日程度までの生存期間の延長が見られた。更に、グルコース濃度が17.5mMの場合は約70日にまで延長した。
この結果は、ガン幹細胞を非ガン幹細胞へと変化させることで腫瘍形成能を低下・喪失させるメトホルミンの効果が、細胞培養環境中のグルコース濃度の低下により増強されることを示し、実施例6〜8におけるsphere形成能についての検討結果を支持するものである。
[実施例10]
上記実施例においては、培地において、メトホルミンがガン幹細胞を非ガン幹細胞へと分化させ、その結果としてガン幹細胞が示すsphere形成能や腫瘍形成能を低下・喪失させることが示された。本実施例では、実際の治療の観点から、全身的に投与されたメトホルミンが、生体内において上記実施例から期待される治療的効果をもつことができるかを検討した。
ガン幹細胞が元来移植により腫瘍を形成可能な細胞として定義されていることからも明らかなように、生体に形成された腫瘍中に存在するガン幹細胞の頻度を、信頼性をもって推定することのできる唯一広く認知された方法は腫瘍再移植実験である(Nguyen et, Nat Rev Cancer. 2012 Jan 12;12(2):133−43)。
そこで次に腫瘍再移植実験によりメトホルミンの効果を検証した。
まず腫瘍の形成を目視下に確認できるようにするためガン幹細胞をマウス皮下に移植し、腫瘍の形成が確認された後メトホルミンを10日間にわたり全身投与した。10日間のメトホルミン投与終了後、皮下腫瘍を摘出し、分離した腫瘍細胞の細胞数を変化させながら別のマウスの脳内に再移植した。
皮下腫瘍中にはガン幹細胞と非ガン幹細胞が存在し、再移植した腫瘍細胞の中にガン幹細胞が含まれる場合は脳腫瘍が形成され、マウスは脳腫瘍死することになる。そこでマウス脳内への腫瘍細胞の再移植後、マウスが脳腫瘍死するまでの生存期間を調べた。
実施例1に記載の方法と同様の方法によりグリオブラストーマ手術摘出組織から直接樹立したガン幹細胞をヌードマウス皮下に移植し、腫瘍が形成された時点でメトホルミン治療群(Metformin)と対象群(Control)の2群に分けた。
メトホルミン治療群は500mg/kgのメトホルミンを1日1回腹腔内に投与した。
対照群は溶媒に用いたリン酸緩衝生理食塩水を1日1回腹腔内投与した。
両群とも10日間投与を行った後、最終投与の翌日皮下腫瘍を摘出、腫瘍細胞を分離した。
その後、1,000個、10,000個、100,000個の分離した細胞(No. of cells transplanted)を別に用意したヌードマウス脳内に移植した(各群5匹を使用)。結果を表1に示す。表1は脳内移植後160日の時点での各群の生存ヌードマウス数と、生存期間中央値(Median)を示す。
また、上記メトホルミン治療群と対象群の各々1x10個の分離した腫瘍細胞をヌードマウス脳内に移植した各群について、ヌードマウスが脳腫瘍死するまでの生存期間をカプランマイヤー生存曲線にて表した。結果を図10に示す。
表1及び図10に示す通り、対照群としてメトホルミン全身投与を行わなかったマウスの皮下腫瘍細胞を移植した場合、10個の腫瘍細胞の再移植によっても確実に脳腫瘍が形成されマウスは死亡した。これに対し、メトホルミン全身投与群の皮下腫瘍に由来する腫瘍細胞を再移植した場合、10個を移植しても5個体中2個体、10個を移植した場合は5個体中3個体で脳腫瘍の形成がみられず、試験期間中の生存が確認された。
これらの結果はメトホルミンの全身投与が皮下腫瘍中に存在するガン幹細胞の割合を減少させたこと、ならびに10日間という期間限定のメトホルミン投与の効果が可逆的なものでなく、ガン幹細胞の腫瘍形成能力を長期安定的に喪失させるものであるという考えを裏付けるものであり、メトホルミンが生体内でガン幹細胞に作用し、治療的効果をもたらしうることを実証している。特に、メトホルミン全身投与群の皮下腫瘍に由来する腫瘍細胞を10000個程度、脳内に再移植した群において、その後に脳腫瘍の形成が見られなかった固体が有意に存在することは、当該再移植された腫瘍細胞内にガン幹細胞がほぼ含まれなかった結果であると推察される。つまり、上記結果は、メトホルミン単独のマウス全身投与により、ガン幹細胞の移植に起因する皮下腫瘍内において、ガン幹細胞が分化等により著しく減少したことを示すと推察される。
[実施例11]
メトホルミンの全身投与が皮下腫瘍に与える作用を検証するため、本実施例では、実施例10に記載した方法でガン幹細胞を皮下に移植したヌードマウスに対して、メトホルミンを短期間(10日間)投与した際の、投与前後の皮下腫瘍の体積変化を検討した。
実施例1に記載の方法と同様の方法によりグリオブラストーマ手術摘出組織から直接樹立したガン幹細胞をヌードマウス皮下に移植し、腫瘍が形成された時点でメトホルミン治療群(Metformin)と対象群(Control)の2群に分けた。
メトホルミン治療群は500mg/kgのメトホルミンを1日1回腹腔内に投与した。対照群は溶媒に用いたリン酸緩衝生理食塩水を1日1回腹腔内投与した。投与は10日間行った。メトホルミン治療開始時(Pre−treatment)と終了時(Post−treatment)に腫瘍体積([最長径]x[最短径]/2)を測定した。
結果を図11に示す。図11に示された結果より明らかである通り、10日間の短期の試験においては、メトホルミン治療群においても腫瘍体積が3倍程度に増大することが観察された。増大の程度は、対象群と比較して小さいものの、その差は軽微であった。このことから、実施例10で観察されたメトホルミン投与による大幅な延命効果は、直接的なガン細胞の殺傷による腫瘍体積の縮小でなく、腫瘍内のガン幹細胞の割合の減少による、長期的観点での腫瘍体積の増大抑制にあると推察される。
[実施例12]
実施例10においては、脳腫瘍に起因する腫瘍が皮下に形成されたヌードマウスにおいて、メトホルミンの全身投与により当該腫瘍組織に特定の変化が生じ、再び脳内に移植されて生じる脳腫瘍の進展を抑制可能であることが示され、当該腫瘍組織にメトホルミンが一定の治療効果を示すことが明らかにされた。
しかしながら、特に脳腫瘍の治療薬としてのメトホルミンの適用性を確認するためには、メトホルミンが血液脳関門を通過可能であることに加えて、メトホルミンが実際に治療効果を発揮するに足る濃度、持続時間で脳組織内の腫瘍細胞に作用できることが示される必要がある。
また、ガン幹細胞本来の性質として、移植時にはガン幹細胞であったとしても、腫瘍形成の過程で細胞分裂によりガン幹細胞のみならず多くの非ガン幹細胞を生み出すことで腫瘍の形成を行う(Reya, Nature. 2001 Nov 1;414(6859):105−11)ため、ガン幹細胞に対するメトホルミンの効果を確認するためには、ガン幹細胞であることがより確からしい細胞群に対してメトホルミンを投与することが好ましい。
このため、本実施例では、脳実質内に移植した直後のガン幹細胞による脳腫瘍形成に対して、全身投与されたメトホルミンが示す治療効果を検討した。
このため、本実施例では、脳組織内に存在するガン幹細胞による脳腫瘍形成に対して全身投与されたメトホルミンが示す作用を調べるため、ヌードマウス脳内にガン幹細胞を移植後、翌日からすみやかにメトホルミンの全身投与を開始し、5日間ないし10日間で投与を中止した後ヌードマウスが脳腫瘍死するまでの生存期間を調べた。
具体的には、以下の方法により、生存期間の検討を行った。
すなわち、実施例1に記載の方法と同様の方法によりグリオブラストーマ手術摘出組織から直接樹立したガン幹細胞(1x10個)をヌードマウス脳内に移植し、対象群(Control)、メトホルミン5日間治療群(Metformin,5days)とメトホルミン10日間治療群(Metformin,10days)の3群(各群5匹)に分け移植翌日から治療を開始した。
メトホルミン治療群は500mg/kgのメトホルミンを1日1回5日間又は10日間腹腔内に投与した。対照群は溶媒に用いたリン酸緩衝生理食塩水を1日1回10日間腹腔内投与した。ガン幹細胞の脳内移植から脳腫瘍死するまでの生存期間をカプランマイヤー生存曲線にて表した。結果を図12に示す。図中「*」は統計学的有意差(P<0.05)があることを示し、「**」は統計学的有意差(P<0.01)があることを示す。
図12に示された結果より明らかである通り、未治療群のヌードマウスが20〜30日以内に脳腫瘍死するのに対し、5日治療群ではさらに約2週間、10日治療群では約1ヶ月の生存期間延長が示された。この結果は全身投与されたメトホルミンが脳実質に存在するガン幹細胞に対しても腫瘍形成能を抑制する効果をもち、治療効果を発揮できることを明示し、脳腫瘍の治療薬として作用することを示している。
[実施例13]
実施例6〜実施例12で得られた結果は、メトホルミンが単独でガン幹細胞を標的とする治療に有用であり、特に脳腫瘍の治療に対しても有効であることを示している。
しかしながら実臨床では他の治療法と併用が必要となる状況、特に残存腫瘍が存在し殺細胞的な化学療法等を併用する必要がある状況が想定される。このため、このような他の治療法と併用される場合について、メトホルミンがガン幹細胞を標的とする治療薬として示す有効性についての情報は有用である。
そこで、本実施例においては、上記メトホルミンの有効性の検討に用いたグリオブラストーマ等の悪性神経膠腫に対する第1選択の化学療法薬剤であるテモゾロミドと併用した場合の、メトホルミンが治療薬として示す有用性を検討した。ここでは特にテモゾロミド投与が必要と考えられる状況、すなわち初期治療あるいは残存腫瘍に対する追加治療の状況を想定し、実施例12とは異なってヌードマウス脳内にガン幹細胞を移植して10日間経過させることで腫瘍を形成させてから、各種の投薬を行ってヌードマウスが脳腫瘍死するまでの生存期間を調べた。
具体的には、以下の方法により、生存期間の検討を行った。
すなわち、実施例1に記載の方法と同様の方法によりグリオブラストーマ手術摘出組織から直接樹立したガン幹細胞(1x10個)をヌードマウス脳内に移植し、対象群(Vehicle)、テモゾロミド単独治療群(TMZ)、メトホルミン単独治療群(Metformin)、テモゾロミドおよびメトホルミンの併用治療群(Met+TMZ)の4群(各群5匹)に分け、移植後10日の時点から治療的介入を開始した。
対照群は15日間にわたり1日1回溶媒であるリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内に、テモゾロミド単独治療群は1日1回テモゾロミド50mg/kgを5日間、続いてリン酸緩衝生理食塩水を10日間腹腔内に、メトホルミン治療群は1日1回メトホルミン500mg/kgを10日間、続いてリン酸緩衝生理食塩水を5日間腹腔内に、併用治療群はメトホルミン500mg/kgを10日間、続いてテモゾロミド50mg/kgを5日間腹腔内に、投与を行った。
結果を図13に示す。図13の結果は、ガン幹細胞の脳内移植からヌードマウスが脳腫瘍死するまでの生存期間をカプランマイヤー生存曲線にて表している。
図13に示された結果からも明らかである通り、併用治療群の生存率の高さは、テモゾロミド単独治療群、メトホルミン単独治療群、対照群のいずれと比較しても統計学的に有意であった(P<0.05)。この所見は、メトホルミンは単独のみならずテモゾロミドとの併用でもその治療効果を発揮しうることを示している。

Claims (13)

  1. メトホルミン又はその薬理学的に許容される塩の少なくとも1種を有効成分として含有し、生体内において脳腫瘍に含まれるガン幹細胞の非ガン幹細胞への分化を促進するために使用される分化促進薬。
  2. 前記ガン幹細胞がムサシ(musashi)、ネスチン(nestin)、bmi1及びsox2からなる群より選ばれる少なくとも1種の分子マーカーを発現するものである請求項1に記載の分化促進薬。
  3. 有効成分の投与量が500mg/日〜3000mg/日である請求項1又は請求項2に記載の分化促進薬。
  4. さらに、血中グルコース濃度を4.44mmol/L〜6.06mmol/Lに制御可能な成分を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の分化促進薬。
  5. さらに、グルコース代謝拮抗薬を有効成分として含有する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の分化促進薬。
  6. メトホルミン又はその薬理学的に許容される塩の少なくとも1種を有効成分として含有し、前記有効成分の投与量が500mg/日〜3000mg/日である脳腫瘍の治療薬。
  7. 前記脳腫瘍は、ムサシ(musashi)、ネスチン(nestin)、bmi1及びsox2からなる群より選ばれる少なくとも1種の分子マーカーを発現するガン幹細胞が含まれる請求項6に記載の脳腫瘍の治療薬。
  8. 脳腫瘍に含まれるガン幹細胞の非ガン幹細胞への分化を促進することにより脳腫瘍を治療する請求項6又は請求項に記載の脳腫瘍の治療薬。
  9. さらに、血中グルコース濃度を4.44mmol/L〜6.06mmol/Lに制御可能な成分を含む請求項6〜請求項のいずれか1項に記載の脳腫瘍の治療薬。
  10. さらに、グルコース代謝拮抗薬を有効成分として含有する請求項6〜請求項のいずれか1項に記載の脳腫瘍の治療薬。
  11. 前記グルコース代謝拮抗薬として、2−deoxyglucose、3−bromopyruvate及び3−bromo−2−oxopropionate−1−propyl esterからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する請求項10に記載の脳腫瘍の治療薬。
  12. さらに、脳腫瘍に対する化学療法薬剤を有効成分として含有する請求項6〜請求項11のいずれか1項に記載の脳腫瘍の治療薬。
  13. 前記化学療法薬剤として、テモゾロミド、ニムスチン、カルムスチン、ロムスチン、ラニムスチン、プロカルバジン、ベバシズマブ、シスプラチン、カルボプラチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、インターフェロン、メソトレキセート、シタラビンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する請求項12に記載の脳腫瘍の治療薬。
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