以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
1.回路装置
図1に本実施形態の回路装置の基本的な構成例を示す。本実施形態の回路装置は、第1、第2の演算増幅器OPD1、OPD2と、第1、第2の電圧分割回路77、78を含む。これらの第1、第2の演算増幅器OPD1、OPD2と第1、第2の電圧分割回路77、78によりゲイン調整アンプ76(広義には差動信号処理回路)が構成される。更に本実施形態の回路装置は故障検出回路160を含む。
第1の演算増幅器OPD1は、差動信号を構成する第1、第2の信QC1、号QC2のうち第1の信号QC1が、非反転入力端子(第1の入力端子)に入力される。第2の演算増幅器OPD2は、第2の信号QC2が、非反転入力端子(第1の入力端子)に入力される。
第1の電圧分割回路77は、第1のノードND5の電圧(VA)と、第1の演算増幅器OPD1の出力端子の電圧(出力信号QD1の電圧)を電圧分割する。そして電圧分割により得られた電圧VD1に、第1の演算増幅器OPD1の反転入力端子を設定する。例えば、第1の電圧分割回路77は、第1のノードND5と第1の演算増幅器OPD1の出力端子のノードND1との間に設けられ、電圧分割により得られた電圧VD1を、第1の演算増幅器OPD1の反転入力端子のノードND3に生成する。ここで電圧VD1は、第1の演算増幅器OPD1による仮想接地(バーチャルショート)により、第1の信号QC1の電圧と等しくなる。
第2の電圧分割回路78は、第1のノードND5の電圧(VA)と、第2の演算増幅器OPD2の出力端子の電圧(出力信号QD2の電圧)を電圧分割する。そして電圧分割により得られた電圧VD2に、第2の演算増幅器OPD2の反転入力端子を設定する。例えば、第2の電圧分割回路78は、第1のノードND5と第2の演算増幅器OPD2の出力端子のノードND2との間に設けられ、電圧分割により得られた電圧VD2を、第2の演算増幅器OPD2の反転入力端子のノードND4に生成する。ここで電圧VD2は、第2の演算増幅器OPD2による仮想接地により、第2の信号QC2の電圧と等しくなる。
本実施形態では、これらの第1の演算増幅器OPD1と第1の電圧分割回路77とにより、例えば第1のアンプAMD1が構成される。また第2の演算増幅器OPD2と第2の電圧分割回路78とにより、例えば第2のアンプAMD2が構成される。また、第1のアンプAMD1の第1の電圧分割回路77の一端と、第2のアンプAMD2の第2の電圧分割回路78の一端とが、ノードND5に共通接続される。このようにして、これらの第1のアンプAMD1と第2のアンプAMD2により、計測アンプ(instrumentation amplifier)が構成されることになる。
そして故障検出回路160は、第1のノードND5の電圧である監視電圧VAに基づいて故障検出を行う。即ち、第1の電圧分割回路77の一端と第2の電圧分割回路78の一端とが共通接続されるノードND5の電圧を、監視電圧VAとして、故障検出を行う。
例えばゲイン調整アンプ76に入力される第1の信号QC1は、アナログコモン電圧を基準(中心)として正極側又は負極側に変化する信号である。第2の信号QC2も、アナログコモン電圧を基準(中心)として正極側又は負極側に変化する信号である。例えば第1の信号QC1が、アナログコモン電圧を基準として正極性の電圧である場合には、第2の信号QC2は、アナログコモン電圧を基準として負極性の電圧になる。第1の信号QC1が、アナログコモン電圧を基準として負極性の電圧である場合には、第2の信号QC2は、アナログコモン電圧を基準として正極性の電圧になる。
このようにゲイン調整アンプ76に入力される第1、第2の信号QC1、QC2が、アナログコモン電圧を基準として正極側又は負極側に変化する信号である場合に、ゲイン調整アンプ76の出力信号QD1、QD2も、アナログコモン電圧を基準(中心)として正極側又は負極側に変化する信号になる。例えば、出力信号QD1が、アナログコモン電圧を基準として正極性の電圧である場合には、出力信号QD2は、アナログコモン電圧を基準として負極性の電圧になる。出力信号QD1が、アナログコモン電圧を基準として負極性の電圧である場合には、出力信号QD2は、アナログコモン電圧を基準として正極性の電圧になる。
そして故障検出回路160は、監視電圧VAが、アナログコモン電圧を基準(中心)とした判定電圧範囲内にあるか否かを検出することで、故障検出を行う。例えば故障検出回路160は、監視電圧が、高電位側の閾値電圧と低電位側の閾値電圧との間の判定電圧範囲内にあるか否かを検出することで、故障検出を行う。そして監視結果信号DGD(診断信号、故障検出信号)を出力する。
このように本実施形態では、ゲイン調整アンプ76(差動信号処理回路)を、2つのアンプAMD1、AMD2により構成される計測アンプにより実現している。
即ち、通常は、1つの全差動アンプを用いて、差動入力・差動出力のゲイン調整アンプ76を実現するのが一般的である。
本実施形態では、これに敢えて反して、シングルエンド入力・シングルエンド出力の2つのアンプAMD1、AMD2により構成される計測アンプを用いて、差動入力・差動出力のゲイン調整アンプ76を実現する。
そして、アンプAMD1、AMD2が有する第1、第2の電圧分割回路77、78を有効活用して、第1、第2の電圧分割回路77、78の一端が共通接続されるノードND5の電圧を、監視電圧VAとして、故障検出を行う。こうすることで、ゲイン調整アンプ76の適正な故障を検出できる。例えば通常の差動入力・差動出力の全差動アンプでは、回路に故障があっても、その差動成分については適正に増幅しているように見えるケースがあり、このようなケースの場合には、ゲイン調整アンプ76の適正な故障検出を実現できないおそれがある。
この点、本実施形態では、ゲイン調整アンプ76を、2つのシングルエンド入力・シングルエンド出力のアンプAMD1、AMD2により構成される計測アンプにより実現しているため、故障検出回路160が、ノードND5の監視電圧VAに基づき故障検出を行うことで、上記のようなケースの故障も適正に検出することが可能になる。
図2に本実施形態の回路装置の詳細な構成例を示す。図2では、第1の電圧分割回路77は、第1、第2の抵抗素子RD1、RD2を有し、第2の電圧分割回路78は、第3、第4の抵抗素子RD3、RD4を有する。
第1の抵抗素子RD1は、ノードND5と、第1の演算増幅器OPD1の反転入力端子(ND3)との間に設けられる。第2の抵抗素子RD2は、第1の演算増幅器OPD1の反転入力端子(ND3)と、第1の演算増幅器OPD1の出力端子(ND1)との間に設けられる。これらの第1、第2の抵抗素子RD1、RD2は、抵抗値が可変の抵抗素子である。なお、RD1、RD2の両方が、抵抗値が可変な抵抗素子である必要は無く、RD1、RD2の少なくとも一方の抵抗素子が、抵抗値が可変な抵抗素子であればよい。またゲイン調整機能が不要である場合には、RD1、RD2の抵抗値は固定値であってもよい。
そして、これらの第1、第2の抵抗素子RD1、RD2により、ノードND5の電圧(VA)と、第1の演算増幅器OPD1の出力端子の電圧(信号QD1の電圧)を電圧分割し、電圧分割により得られた電圧VD1に、第1の演算増幅器OPD1の反転入力端子を設定できる。
第3の抵抗素子RD3は、ノードND5と、第2の演算増幅器OPD2の反転入力端子(ND4)との間に設けられる。第4の抵抗素子RD4は、第2の演算増幅器OPD2の反転入力端子(ND4)と、第2の演算増幅器OPD2の出力端子(ND2)との間に設けられる。これらの第3、第4の抵抗素子RD3、RD4は抵抗値が可変の抵抗素子である。なお、RD3、RD4の両方が、抵抗値が可変な抵抗素子である必要は無く、RD3、RD4の少なくとも一方の抵抗素子が、抵抗値が可変な抵抗素子であればよい。またゲイン調整機能が不要である場合には、RD3、RD4の抵抗値は固定値であってもよい。また抵抗素子RD1〜RD4は例えばポリ抵抗(ポリシリコン抵抗)などにより実現できる。
これらの第3、第4の抵抗素子RD3、RD4により、ノードND5の電圧(VA)と、第2の演算増幅器OPD2の出力端子の電圧(信号QD2の電圧)を電圧分割し、電圧分割により得られた電圧VD2に、第2の演算増幅器OPD2の反転入力端子を設定できる。
このように本実施形態では、ゲイン調整アンプ76を、アンプAMD1、AMD2により構成し、アンプAMD1の抵抗素子RD1の一端とアンプAMD2の抵抗素子RD3の一端とを、ノードND5に共通接続している。
このような構成にすることで、ゲイン調整アンプ76は、差動の信号QC1、QC2が入力された場合に、差動の信号QD1、QD2を後段の回路に出力できるようになる。即ち、ゲイン調整アンプ76は、アナログコモン電圧を基準として正極側又は負極側に変化する差動の信号QC1、QC2が入力され場合に、アナログコモン電圧を基準として正極側又は負極側に変化する差動の信号QD1、QD2を出力する。これにより、差動入力・差動出力のゲイン調整アンプ76を実現できる。即ち、全差動アンプを用いなくても、アンプAMD1、AMD2により構成される計測アンプにより、差動入力・差動出力のゲイン調整アンプ76を実現できるようになる。
また本実施形態では、アンプAMD1の抵抗素子RD1の一端とアンプAMD2の抵抗素子RD3の一端とが共通接続されるノードND5の電圧を、監視電圧VAとして、故障検出回路160に入力している。そして故障検出回路160は、この監視電圧VAに基づいて、ゲイン調整アンプ76の故障検出を行っている。
このように本実施形態では、アンプAMD1が有する抵抗素子RD1及びRD2と、アンプAMD2が有する抵抗素子RD3及びRD4を有効活用した電圧分割により、監視電圧VAを生成している。
即ち、本実施形態の比較例の手法として、ゲイン調整アンプ76の出力信号QD1の電圧とQD2の電圧を電圧分割する回路を、別個に設けて、この電圧分割により得られた電圧を監視電圧として、故障検出を行う手法が考えられる。
しかしながら、この比較例の手法では、ゲイン調整アンプ76とは別に、複数の抵抗素子により構成される電圧分割回路を用意する必要があり、回路規模が増加してしまう。特に、電圧分割回路の抵抗素子は、貫通電流の経路となるため、低消費電力化のためには、その抵抗値を大きくする必要がある。そして、抵抗素子の抵抗値を大きくすると、抵抗素子のレイアウト面積が増加して、回路規模が大幅に増加する。
この点、本実施形態では、ゲイン調整のために使用される抵抗素子RD1及びRD2と抵抗素子RD3及びRD4を有効活用して、監視電圧VAを生成している。即ち、ゲイン調整アンプ76の出力信号QD1の電圧と、出力信号QD2の電圧とを、アンプAMD1の抵抗素子RD1及びRD2と、アンプAMD2の抵抗素子RD3及びRD4とを用いて、電圧分割することで、ノードND5に監視電圧VAを生成し、故障検出回路160に入力する。従って、電圧分割回路を実現するための新たな抵抗素子を設ける必要がなくなり、回路規模をそれほど増加させることなく、監視電圧VAに基づく故障検出を実現できるようになる。
そして故障検出回路160は、ノードND5の監視電圧VAに基づいて、ゲイン調整アンプ76の故障検出を行っている。即ち故障検出回路160は、抵抗素子RD1及びRD2と抵抗素子RD3及びRD4との電圧分割により得られた監視電圧VAが、アナログコモン電圧VCMを基準(中心)とした判定電圧範囲内にあるか否かを検出することで、故障検出を行う。例えば、監視電圧VAが、高電位側の閾値電圧VTHと低電位側の閾値電圧VTLとの間の判定電圧範囲内にあるか否かを検出することで、故障検出を行う。
具体的には故障検出回路160は、コンパレーターCPD1、CPD2と、OR回路ORD1を有する。コンパレーターCPD1の反転入力端子には、高電位側の閾値電圧VTHが入力され、非反転入力端子には、監視電圧VAが入力される。コンパレーターCP22の反転入力端子には、監視電圧VAが入力され、非反転入力端子には、低電位側の閾値電圧VTLが入力される。OR回路ORD1は、コンパレーターCPD1、CPD2の出力信号が入力され、監視結果信号DGD(診断信号、故障検出信号)を出力する。
例えば監視電圧VAが、閾値電圧VTHと閾値電圧VTLとの間の判定電圧範囲内である場合には、監視結果信号DGDがLレベルになり、故障が非検出であることが伝えられる。一方、監視電圧VAが、判定電圧範囲外である場合には、監視結果信号DGDがHレベルになり、故障が検出されたことが伝えられる。
例えば図2において抵抗素子RD1〜RD4は抵抗値が可変の抵抗素子になっており、これらの抵抗素子の抵抗値を調整することで、ゲイン調整アンプ76におけるゲインGDが調整される。例えば抵抗素子RD1、RD3の抵抗値をR1とし、抵抗素子RD2、RD4の抵抗値をR2とし、基準抵抗値をRとする。すると、ゲインGDに設定するための抵抗値R1、R2は、R1=R/GD、R2=R×(1−1/GD)と表すことができる。
そして、演算増幅器OPD1による仮想接地により、演算増幅器OPD1の反転入力端子のノードND3の電圧VD1は、信号QC1の電圧と等しくなる。従って、下式(1)が成り立つ。
QD1=VA+{(R1+R2)/R1}×(VD1−VA)
=VA+{(R1+R2)/R1}×(QC1−VA) (1)
また、演算増幅器OPD2による仮想接地により、演算増幅器OPD2の反転入力端子のノードND4の電圧VD2は、信号QC2の電圧と等しくなる。従って、下式(2)が成り立つ。
QD2=VA+{(R1+R2)/R1}×(VD2−VA)
=VA+{(R1+R2)/R1}×(QC2−VA) (2)
また、上述のように、ゲイン調整アンプ76のゲインGDにより、R1=R/GD、R2=R×(1−1/GD)と表されるため、下式(3)が成り立つ。
(R1+R2)/R1=GD (3)
従って、上式(1)、(2)は、下式(4)、(5)のように表すことができる。
QD1=VA+GD×(QC1−VA)
=(1−GD)×VA+GD×QC1 (4)
QD2=VA+GD×(QC2−VA)
QD2=(1−GD)×VA+GD×QC2 (5)
ここで監視電圧VAは、信号QD1の電圧と信号QD2の電圧を、抵抗値がR1+R2となる抵抗素子RD1及びRD2と、抵抗値がR1+R2となる抵抗素子RD3及びRD4とで、電圧分割した電圧である。即ち、監視電圧VAは、信号QD1の電圧と信号QD2の電圧の中点電圧であり、VA=(QD1+QD2)/2と表される。従って、下式(6)が成り立つ。
QD1+QD2=2×VA (6)
また上式(4)、(5)より、下式(7)が導かれる。
QD1−QD2
={(1−GD)×VA+GD×QC1}−{(1−GD)×VA+GD×QC2}
=GD×(QC1−QC2) (7)
また上式(6)、(7)より、下式(8)、(9)が導かれる。
QD1=VA+(GD/2)×(QC1−QC2) (8)
QD2=VA−(GD/2)×(QC1−QC2) (9)
また、信号QC1、QC2は、アナログコモン電圧VCMを中点電圧とする差動の信号であり、VCM=(QC1+QC2)/2と表される。従って、下式(10)が成り立つ。
QC1+QC2=2×VCM (10)
そして、上式(4)、(5)、(6)、(10)より、下式(11)が成り立つ。
QD1+QD2=2×(1−GD)×VA+GD×(QC1+QC2)
=2×(1−GD)×VA+GD×2×VCM
=2×VA (11)
従って、上式(11)より、VA=VCMが成り立つ。即ち、ゲイン調整アンプの入力信号QC1、QC2が、アナログコモン電圧VCMを中点電圧とする差動の信号である場合には、ゲイン調整アンプの出力信号QD1、QD2も、アナログコモン電圧VCM=VAを中心とする差動の信号になる。従って、結局、下式(12)、(13)、(14)が成り立つことになる。
QD1=VCM+(GD/2)×(QC1−QC2) (12)
QD2=VCM−(GD/2)×(QC1−QC2) (13)
QD1−QD2=GD×(QC1−QC2) (14)
以上のように、ゲイン調整アンプ76は、アナログコモン電圧VCMを中点電圧とする差動の信号QC1、QC2が入力された場合に、QD1=VCM+(GD/2)×(QC1−QC2)、QD2=VCM−(GD/2)×(QC1−QC2)の信号を出力する。即ち、ゲイン調整アンプ76は、信号QC1、QC2の差動成分(QC1−QC2)がゲインGD倍され、且つ、アナログコモン電圧VCMを中点電圧とする差動の信号QD1、QD2を出力することになる。
図3(A)、図3(B)は本実施形態の回路装置の動作を説明する信号波形図である。図3(A)は、故障が発生していない場合の信号波形であり、図3(B)は、故障が発生した場合の信号波形である。
上述したようにゲイン調整アンプ76は、アナログコモン電圧VCMを中点電圧とする差動の信号QD1、QD2を出力する。このため、図3(A)に示すように、信号QD1と信号QD2は、アナログコモン電圧VCMを中心(基準)とした対称の信号波形になる。即ち、信号QD1がVCMに対して正極性の電圧となる場合には、信号QD2はVCMに対して負極性の電圧となり、信号QD1がVCMに対して負極性の電圧となる場合には、信号QD2はVCMに対して正極性の電圧となる。つまり、前述の式(12)、(13)において、QD1=VCM+(GD/2)×(QC1−QC2)、QD2=VCM−(GD/2)×(QC1−QC2)と表されるように、信号QD1、QD2は、信号QC1、QC2に応じて電圧レベルが変化すると共に、(QD1+QD2)/2=VCMの関係が成り立つ。
また、監視電圧VAは、信号QD1の電圧と信号QD2の電圧を、抵抗素子RD1及びRD2と、抵抗素子RD3及びRD4とで、電圧分割したものであり、信号QD1の電圧と信号QD2の電圧の中点電圧になっている。従って、VA=(QD1+QD2)/2=VCMとなり、監視電圧VAはアナログコモン電圧VCMと一致する。
また故障検出回路160による判定電圧範囲は、図3(A)に示すように、閾値電圧VTHとVTLで規定される電圧範囲であり、例えば、(VTH+VTL)/2=VCMが成り立っている。即ち、アナログコモン電圧VCMは、閾値電圧VTHとVTLの中点電圧である。
そして、故障が発生していない場合には、図3(A)に示すように、監視電圧VAは、閾値電圧VTHとVTLで規定される判定電圧範囲内にある。この結果、故障検出回路160は、Lレベルの監視結果信号DGDを出力する。
図3(B)は、例えば信号QD2がアナログコモン電圧VCMにショートしてしまったという故障が発生した場合の信号波形である。この場合には、信号QD1と信号QD2はアナログコモン電圧VCMを中心とした対称な信号波形にならないため、監視電圧VAの電圧レベルが変動する。
即ち、信号QD1については、QD1=VCM+(GD/2)×(QC1−QC2)と表されるように、信号QC1、QC2に応じて電圧レベルが変化する。しかしながら、信号QD2については、アナログコモン電圧VCMにショートしており、QD2=VCM−(GD/2)×(QC1−QC2)の関係が成り立たず、QD2=VCMになる。従って、図3(A)では、VA=(QD1+QD2)/2=VCMが成り立っていたが、図3(B)では成り立たない。即ち、VA=(QD1+QD2)/2=(QD1+VCM)/2=VCM+(GD/4)×(QC1−QC2)と表されるように、監視電圧VAの電圧レベルが変動する。
そして図3(B)の期間T1では、監視電圧VAが閾値電圧VTHを上回って、判定電圧範囲外の電圧になったため、監視結果信号DGDがHレベルになっている。期間T2では、監視電圧VAが閾値電圧VTLを下回って、判定電圧範囲外の電圧になったため、監視結果信号DGDがHレベルになっている。期間T3、T4、T5、T6も同様である。これらの判定結果から故障を検出できる。
具体的には、例えば監視電圧VAが判定範囲外になる時間が規定時間以上になった場合に、故障(異常)が発生したと判定する。例えば、監視結果である監視結果信号DGDを、周期的にモニターし、監視結果信号DGDがHレベルになった回数が、規定回数以上になった場合に、故障が発生したと判定してもよい。或いは、監視結果信号DGDのデューティー比(Hレベルの期間が占める割合)が規定のデューティー比以上になった場合に、故障が発生したと判定してもよい。
以上のように本実施形態では、ゲイン調整アンプ76の出力信号QD1の電圧と出力信号QD2の電圧の中点電圧である監視電圧VAが、アナログコモン電圧VCMを基準(中心)とした判定電圧範囲内にあるか否かを検出することで、故障検出を行っている。こうすることで、ゲイン調整アンプ76の個別的な故障検出を簡素な回路構成で適正に実現することが可能になる。
図4は本実施形態の回路装置の全体的なシステム構成例である。図4の回路装置は、駆動回路30、検出回路60、制御部140、レジスター部142、故障検出回路160を含む。
駆動回路30は、物理量トランスデューサー18を駆動する。例えば物理量トランスデューサー18からのフィードバック信号DIを受け、フィードバック信号DIに対応する駆動信号DQを出力することで、物理量トランスデューサー18を駆動する。例えば物理量トランスデューサー18からの第1、第2の検出信号IQ1、IQ2は端子PD1、PD2(パッド)を介して回路装置の検出回路60に入力される。また物理量トランスデューサー18からのフィードバック信号DIは端子PD3(パッド)を介して回路装置の駆動回路30に入力され、駆動回路30は端子PD4(パッド)を介して駆動信号DQを物理量トランスデューサー18に出力する。
検出回路60は、増幅回路61と、A/D変換回路100と、DSP部110(デジタル信号処理部)を含む。増幅回路61は、図1、図2で説明したゲイン調整アンプ76を有する。このように本実施形態の回路装置は、物理量トランスデューサー18を駆動する駆動回路30と、物理量トランスデューサー18からの第1、第2の検出信号IQ1、IQ2が入力される検出回路60を含む。そして検出回路60は、図1、図2に示すように、第1、第2の演算増幅器OPD1、OPD2及び第1、第2の電圧分割回路77、78により構成され、第1、第2の検出信号IQ1、IQ2に対応する第1、第2の信号QC1、QC2が入力されるゲイン調整アンプ76を含む。増幅回路61、A/D変換回路100、DSP部110の詳細については後述する。
なお検出回路60は図4の構成に限定されず、その構成要素の一部を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。例えばA/D変換回路100やDSP部110を設けずに、アナログの検出結果を出力するタイプの検出回路60であってもよい。
制御部140は各種の制御処理を行う。例えば制御部140は駆動回路30の制御処理や検出回路60の制御処理を行う。また制御部140は故障検出回路160からの監視結果信号DGDを受けて、故障判定処理を行う。即ち、図3(A)、図3(B)で説明したような種々の故障判定処理を行う。この制御部140は、例えばゲートアレイ等の自動配置配線手法で生成されたロジック回路や、或いはファームウェアー等に基づいて動作するプロセッサー等により実現できる。
レジスター部142は各種の情報が設定されるレジスターを有する。レジスター部142は例えばSRAM等のメモリーやフリップフロップ回路等により実現できる。例えば制御部140での故障判定結果情報は、このレジスター部142に記憶される。そして、外部のコントローラー等は、このレジスター部142にアクセスすることで、故障判定結果情報を読み出すことができる。
図5に検出回路60の構成例を示す。なお、検出回路60は図5の構成に限定されず、その構成要素の一部を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
検出回路60は、Q/V変換回路62、64(第1、第2の電荷/電圧変換回路)を含む。Q/V変換回路62は、第1の検出信号IQ1が入力され、第1の信号QB1を出力する。Q/V変換回路64は、第2の検出信号IQ2が入力され、第2の信号QB2を出力する。
Q/V変換回路62、64(チャージアンプ)は、物理量トランスデューサー18からの電荷信号(微少電荷信号、微少電流信号)を電圧信号に変換する回路であり、I/V変換回路の一種と考えることもできる。例えばQ/V変換回路62は、微少電荷信号である第1の検出信号IQ1を、電圧信号である第1の信号QB1に変換し、Q/V変換回路64は、微少電荷信号である第2の検出信号IQ2を、電圧信号である第2の信号QB2に変換する。変換後の第1、第2の信号QB1、QB2も互いに逆相の差動信号になる。これらのQ/V変換回路62、64は例えば演算増幅器と帰還キャパシターを含む。またQ/V変換回路62、64は帰還抵抗素子を含んでもよい。
また検出回路60は、ゲイン調整アンプ76の前段側に設けられ、第1、第2の信号QC1、QC2をゲイン調整アンプ76に出力する差動増幅回路70を含む。差動増幅回路70は、Q/V変換回路62、64から出力される信号QB1、QB2の差動増幅を行い、差動増幅後の信号QC1、QC2を出力する。例えば差動増幅回路70は、信号QB1、QB2の差動成分(差分)を増幅する差動増幅を行い、差動信号である信号QC1、QC2を出力する。このような差動増幅を行うことで、所望信号と位相が同相となる不要信号を除去できる。
また検出回路60は、ゲイン調整アンプ76の後段側に設けられ、駆動回路30からの同期信号SYCに基づいて同期検波を行う同期検波回路81を含む。同期検波回路81は、ゲイン調整アンプ76からの出力信号QD1、QD2に対して同期信号SYCに基づく同期検波を行い、不要信号を除去しながら、所望信号を抽出する同期検波を行う。
以上のように本実施形態の回路装置によれば、2つのアンプAMD1、AMD2を組合わせることで、差動入力・差動出力のゲイン調整アンプ76を実現している。そして、アンプAMD1、AMD2の抵抗素子RD1の一端と抵抗素子RD3の一端とが共通接続されるノードND5の電圧を、監視電圧VAとして故障検出回路160により監視することで、ゲイン調整アンプ76の個別的な故障検出を実現している。これにより、ゲイン調整アンプ76の適正な故障検出が可能になり、信頼性等の向上を図れる。
例えば、図5に示すような検出回路60において、全体の故障診断を行うだけの手法では、ゲイン調整アンプ76が個別的に故障してしまった場合に、これを見逃すおそれがある。
この点、本実施形態では、アンプAMD1、AMD2の抵抗素子RD1〜RD4を有効活用し、抵抗素子RD1の一端と抵抗素子RD3の一端とが共通接続されるノードND5の監視電圧VAをモニターして、故障検出を行うため、ゲイン調整アンプ76の個別的な故障検出が可能になる。従って、ゲイン調整アンプ76に経時的に故障が発生した場合等においても、これに適切に対処することができ、経時的な故障に対する信頼性を大幅に向上できるようになる。
2.電子機器、ジャイロセンサー、回路装置の詳細な構成
図6に、本実施形態の回路装置20、この回路装置20を含むジャイロセンサー510(広義には物理量検出装置)、このジャイロセンサー510を含む電子機器500の詳細な構成例を示す。
なお回路装置20、電子機器500、ジャイロセンサー510は図6の構成に限定されず、その構成要素の一部を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。また本実施形態の電子機器500としては、デジタルカメラ、ビデオカメラ、スマートフォン、携帯電話機、カーナビゲーションシステム、ロボット、生体情報検出装置、ゲーム機、時計、健康器具、或いは携帯型情報端末等の種々の機器を想定できる。また以下では、物理量トランスデューサーが圧電型の振動片(振動ジャイロ)であり、センサーがジャイロセンサーである場合を例にとり説明するが、本発明はこれに限定されない。例えばシリコン基板などから形成された静電容量検出方式の振動ジャイロや、角速度情報と等価な物理量や角速度情報以外の物理量を検出する物理量トランスデューサー等にも本発明は適用可能である。
電子機器500は、ジャイロセンサー510と処理部520を含む。またメモリー530、操作部540、表示部550を含むことができる。CPU、MPU等で実現される処理部520(コントローラー)は、ジャイロセンサー510等の制御や電子機器500の全体制御を行う。また処理部520は、ジャイロセンサー510により検出された角速度情報(広義には物理量)に基づいて処理を行う。例えば角速度情報に基づいて、手ぶれ補正、姿勢制御、GPS自律航法などのための処理を行う。メモリー530(ROM、RAM等)は、制御プログラムや各種データを記憶したり、ワーク領域やデータ格納領域として機能する。操作部540はユーザーが電子機器500を操作するためのものであり、表示部550は種々の情報をユーザーに表示する。
ジャイロセンサー510(物理量検出装置)は、振動片10と回路装置20を含む。振動片10(広義には物理量トランスデューサー)は、水晶などの圧電材料の薄板から形成される圧電型振動片である。具体的には、振動片10は、Zカットの水晶基板により形成されたダブルT字型の振動片である。
回路装置20は、駆動回路30、検出回路60、制御部140、レジスター部142、診断回路150、故障検出回路160を含む。なお、これらの構成要素の一部を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
駆動回路30は、駆動信号DQを出力して振動片10を駆動する。例えば振動片10からフィードバック信号DIを受け、これに対応する駆動信号DQを出力することで、振動片10を励振させる。検出回路60は、駆動信号DQにより駆動される振動片10から検出信号IQ1、IQ2(検出電流、電荷)を受け、検出信号IQ1、IQ2から、振動片10に印加された物理量に応じた所望信号(コリオリ力信号)を検出(抽出)する。
診断回路150は、診断モード(診断期間)において検出回路60(回路装置)を診断(自己診断)するための回路である。例えば診断回路150は、検出回路60を診断するための疑似的な所望信号(疑似角速度信号等)を生成し、検出回路60に供給するための動作を行う。そして、この疑似的な所望信号の検出結果に基づいて、検出回路60等が正常に動作しているか否かを判断する診断が行われる。なお、診断回路150の詳細については後述する。
振動片10は、基部1と、連結腕2、3と、駆動腕4、5、6、7と、検出腕8、9を有する。矩形状の基部1に対して+Y軸方向、−Y軸方向に検出腕8、9が延出している。また基部1に対して−X軸方向、+X軸方向に連結腕2、3が延出している。そして連結腕2に対して+Y軸方向、−Y軸方向に駆動腕4、5が延出しており、連結腕3に対して+Y軸方向、−Y軸方向に駆動腕6、7が延出している。なおX軸、Y軸、Z軸は水晶の軸を示すものであり、各々、電気軸、機械軸、光学軸とも呼ばれる。
駆動回路30からの駆動信号DQは、駆動腕4、5の上面に設けられた駆動電極と、駆動腕6、7の側面に設けられた駆動電極に入力される。また駆動腕4、5の側面に設けられた駆動電極と、駆動腕6、7の上面に設けられた駆動電極からの信号が、フィードバック信号DIとして駆動回路30に入力される。また検出腕8、9の上面に設けられた検出電極からの信号が、検出信号IQ1、IQ2として検出回路60に入力される。なお検出腕8、9の側面に設けられたコモン電極は例えば接地される。
駆動回路30により交流の駆動信号DQが印加されると、駆動腕4、5、6、7は、逆圧電効果により矢印Aに示すような屈曲振動(励振振動)を行う。即ち、駆動腕4、6の先端が互いに接近と離間を繰り返し、駆動腕5、7の先端も互いに接近と離間を繰り返す屈曲振動を行う。このとき駆動腕4、5と駆動腕6、7とが、基部1の重心位置を通るY軸に対して線対称の振動を行っているので、基部1、連結腕2、3、検出腕8、9はほとんど振動しない。
この状態で、振動片10に対してZ軸を回転軸とした角速度が加わると(振動片10がZ軸回りで回転すると)、コリオリ力により駆動腕4、5、6、7は矢印Bに示すように振動する。即ち、矢印Aの方向とZ軸の方向とに直交する矢印Bの方向のコリオリ力が、駆動腕4、5、6、7に働くことで、矢印Bの方向の振動成分が発生する。この矢印Bの方向の振動が連結腕2、3を介して基部1に伝わり、検出腕8、9が矢印Cの方向で屈曲振動を行う。この検出腕8、9の屈曲振動による圧電効果で発生した電荷信号が、検出信号IQ1、IQ2として検出回路60に入力される。ここで、駆動腕4、5、6、7の矢印Bの振動は、基部1の重心位置に対して周方向の振動であり、検出腕8、9の振動は、矢印Bとは周方向で反対向きの矢印Cの方向での振動である。このため、検出信号IQ1、IQ2は、駆動信号DQに対して位相が90度だけずれた信号になる。
例えば、Z軸回りでの振動片10(ジャイロセンサー)の角速度をωとし、質量をmとし、振動速度をvとすると、コリオリ力はFc=2m・v・ωと表される。従って検出回路60が、コリオリ力に応じた信号である所望信号を検出することで、角速度ωを求めることができる。そして求められた角速度ωを用いることで、処理部520は、手振れ補正、姿勢制御、或いはGPS自律航法等のための種々の処理を行うことができる。
なお図6では、振動片10がダブルT字型である場合の例を示しているが、本実施形態の振動片10はこのような構造に限定されない。例えば音叉型、H型等であってもよい。また振動片10の圧電材料は、水晶以外のセラミックスやシリコン等の材料であってもよい。
図7に回路装置の駆動回路30、検出回路60の詳細な構成例を示す。
駆動回路30は、振動片10からのフィードバック信号DIが入力される増幅回路32と、自動ゲイン制御を行うゲイン制御回路40と、駆動信号DQを振動片10に出力する駆動信号出力回路50を含む。また同期信号SYCを検出回路60に出力する同期信号出力回路52を含む。なお、駆動回路30の構成は図7に限定されず、これらの構成要素の一部を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
増幅回路32(I/V変換回路)は、振動片10からのフィードバック信号DIを増幅する。例えば振動片10からの電流の信号DIを電圧の信号DVに変換して出力する。この増幅回路32は、演算増幅器、帰還抵抗素子、帰還キャパシターなどにより実現できる。
駆動信号出力回路50は、増幅回路32による増幅後の信号DVに基づいて、駆動信号DQを出力する。例えば駆動信号出力回路50が、矩形波(又は正弦波)の駆動信号を出力する場合には、駆動信号出力回路50はコンパレーター等により実現できる。
ゲイン制御回路40(AGC)は、駆動信号出力回路50に制御電圧DSを出力して、駆動信号DQの振幅を制御する。具体的には、ゲイン制御回路40は、信号DVを監視して、発振ループのゲインを制御する。例えば駆動回路30では、ジャイロセンサーの感度を一定に保つために、振動片10(駆動用振動片)に供給する駆動電圧の振幅を一定に保つ必要がある。このため、駆動振動系の発振ループ内に、ゲインを自動調整するためのゲイン制御回路40が設けられる。ゲイン制御回路40は、振動片10からのフィードバック信号DIの振幅(振動片の振動速度v)が一定になるように、ゲインを可変に自動調整する。このゲイン制御回路40は、増幅回路32の出力信号DVを全波整流する全波整流器や、全波整流器の出力信号の積分処理を行う積分器などにより実現できる。
同期信号出力回路52は、増幅回路32による増幅後の信号DVを受け、同期信号SYC(参照信号)を検出回路60に出力する。この同期信号出力回路52は、正弦波(交流)の信号DVの2値化処理を行って矩形波の同期信号SYCを生成するコンパレーターや、同期信号SYCの位相調整を行う位相調整回路(移相器)などにより実現できる。
また同期信号出力回路52は信号DSFDを診断回路150に出力する。信号DSFDは、同期信号SYCと位相が同じ信号であり、例えば正弦波の信号DVの2値化処理を行うコンパレーターなどにより生成される。なお、同期信号SYCそのものを信号DSFDとして診断回路150に出力してもよい。
検出回路60は、増幅回路61、同期検波回路81、フィルター部90、A/D変換回路100、DSP部110を含む。増幅回路61は、振動片10からの第1、第2の検出信号IQ1、IQ2を受けて、電荷−電圧変換や差動の信号増幅やゲイン調整などを行う。同期検波回路81は、駆動回路30からの同期信号SYCに基づいて同期検波を行う。フィルター部90(ローパスフィルター)は、A/D変換回路100の前置きフィルターとして機能する。またフィルター部90は、同期検波によっては除去しきれなかった不要信号を減衰する回路としても機能する。A/D変換回路100は、同期検波後の信号のA/D変換を行う。DSP部110はA/D変換回路100からのデジタル信号に対してデジタルフィルター処理やデジタル補正処理などのデジタル信号処理を行う。
なお、例えば振動片10からの電荷信号(電流信号)である検出信号IQ1、IQ2は、電圧信号である駆動信号DQに対して位相が90度遅れる。また増幅回路61のQ/V変換回路等において位相が90度遅れる。このため、増幅回路61の出力信号は駆動信号DQに対して位相が180度遅れる。従って、例えば駆動信号DQ(DV)と同相の同期信号SYCを用いて同期検波することで、駆動信号DQに対して位相が90度遅れた不要信号等を除去できるようになる。
制御部140は、回路装置20の制御処理を行う。この制御部140は、ロジック回路(ゲートアレイ等)やプロセッサー等により実現できる。回路装置20での各種のスイッチ制御やモード設定等はこの制御部140により行われる。
なお図7には、検出した角速度をデジタルデータで出力するデジタルジャイロの回路装置の構成例を示したが、本実施形態はこれに限定されず、検出した角速度をアナログ電圧(DC電圧)で出力するアナログジャイロの回路装置の構成であってもよい。
3.検出回路の詳細な回路構成例
図8に検出回路60の更に詳細な構成例を示す。なお、検出回路60は図8の構成に限定されず、その構成要素の一部を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
診断回路150は第1、第2のキャパシターC1、C2を有する。第1のキャパシターC1は、検出信号IQ1が入力されるQ/V変換回路62の入力ノードNA1と、第1のノードN1との間に設けられる。第2のキャパシターC2は、検出信号IQ2が入力されるQ/V変換回路64の入力ノードNA2と、第1のノードN1との間に設けられる。入力ノードNA1、NA2は、第1、第2のキャパシターC1、C2の一端側のノードであり、第1のノードN1は、第1、第2のキャパシターC1、C2の他端側のノードである。
そして第2のキャパシターC2の容量値は第1のキャパシターC1の容量値とは異なっている。例えば第1のキャパシターC1の容量値をCとした場合に、第2のキャパシターC2の容量値はC+ΔCとなっている。ここでΔCは正の値の容量値であってもよいし、負の値の容量値であってもよい。容量値Cに対するΔC(ΔCの絶対値)の割合は、例えば5%〜30%程度に設定できる。
診断モード時(診断期間)には、第1のノードN1に診断用信号SFDが入力される。例えば電源投入後、通常動作期間の前において、第1のノードN1に診断用信号SFDが供給されて、検出回路60(回路装置)の診断処理(自己診断)が実行される。この診断用信号SFDは、例えば、回路装置の外部から供給される信号ではなく、回路装置の内部で生成される信号である。例えば図7に示すように、診断用信号SFDは、駆動回路30からの信号DSFDに基づき生成される信号である。具体的には駆動回路30が出力する同期信号SYC(参照信号)と位相が同じ(略同一を含む)の信号である。
このように、診断モードにおいて第1のノードN1に診断用信号SFDが入力されることで、Q/V変換回路62は、第1のキャパシターC1とQ/V変換回路62の帰還キャパシターとの第1の容量比に応じた第1の電圧振幅の信号QB1を、出力することになる。またQ/V変換回路64は、第2のキャパシターC2とQ/V変換回路64の帰還キャパシターとの第2の容量比に応じた第2の電圧振幅の信号QB2を、出力することになる。第1、第2のキャパシターC1、C2の容量値は異なっているため、第1、第2の容量比も異なった容量比となる。このため、Q/V変換回路62が出力する信号QB1の第1の電圧振幅と、Q/V変換回路64が出力する信号QB2の第2の電圧振幅も異なった電圧になる。従って、後段の差動増幅回路70等で、第1、第2の電圧振幅の電圧差が差動増幅されることで、診断モードにおいて、擬似的な所望信号である診断用の所望信号を検出回路60に供給することが可能になる。そして、この診断用の所望信号に対する検出回路60の検出結果に基づいて、検出回路60が正常に動作しているか否かの診断が可能になる。
また診断回路150は、第1、第2、第3、第4のスイッチ素子SW4を有する。また診断用信号SFDを第1のノードN1に入力するための第5のスイッチ素子SW5を有する。第1のスイッチ素子SW1は、第1のキャパシターC1の一端と入力ノードNA1との間に設けられる。第2のスイッチ素子SW2は、第2のキャパシターC2の一端と入力ノードNA2との間に設けられる。
第3のスイッチ素子SW3は、回路装置の端子PD1(図4)と入力ノードNA1との間に設けられる。第4のスイッチ素子SW4は、端子PD2と入力ノードNA2との間に設けられる。
診断モード時(診断期間)には、第1、第2のスイッチ素子SW1、SW2がオンになり、第3、第4のスイッチ素子SW3、SW4がオフになる。これにより、第1、第2の端子PD1、PD2側との電気的な接続を、オフになった第3、第4のスイッチ素子SW3、SW4により遮断しながら、オンになった第1、第2のスイッチ素子SW1、SW2を介して、診断用信号SFDを用いた診断用の所望信号(疑似所望信号)を検出回路60に供給できる。
また通常動作期間においては、第1、第2のスイッチ素子SW1、SW2がオフになり、第3、第4のスイッチ素子SW3、SW4がオンになる。ここで通常動作期間は、検出回路60が検出動作を行う期間である。即ち、検出回路60が、検出信号IQ1、IQ2を用いて所望信号の検出処理を行う期間である。このようにすることで、通常動作期間においては、第1、第2のキャパシターC1、C2側との電気的な接続を、オフになった第1、第2のスイッチ素子SW1、SW2により遮断しながら、オンになった第3、第4のスイッチ素子SW3、SW4を介して入力される第1、第2の検出信号IQ1、IQ2を用いた検出処理を実現できる。
Q/V変換回路62は、演算増幅器OPB1、帰還キャパシターCB1、帰還抵抗素子RB1を含む。演算増幅器OPB1の非反転入力端子はアナログコモン電圧VCMに設定される。帰還キャパシターCB1は演算増幅器OPB1の出力端子と反転入力端子との間に設けられる。帰還抵抗素子RB1も演算増幅器OPB1の出力端子と反転入力端子との間に設けられる。帰還抵抗素子RB1は、演算増幅器OPB1の出力信号のDCバイアス点を設定するためのものであり、帰還抵抗素子RB1を省略する構成としてもよい。
Q/V変換回路64は、演算増幅器OPB2、帰還キャパシターCB2、帰還抵抗素子RB2を含む。演算増幅器OPB2の非反転入力端子はアナログコモン電圧VCMに設定される。帰還キャパシターCB2は演算増幅器OPB2の出力端子と反転入力端子との間に設けられる。帰還抵抗素子RB2も演算増幅器OPB2の出力端子と反転入力端子との間に設けられる。帰還抵抗素子RB2は、演算増幅器OPB2の出力信号のDCバイアス点を設定するためのものであり、帰還抵抗素子RB2を省略する構成としてもよい。
Q/V変換回路62、64は、振動片10からの検出信号IQ1、IQ2である電荷信号の電荷を、帰還キャパシターCB1、CB2に蓄積することで、電荷信号を電圧信号に変換する。Q/V変換回路62、64は、ローパスフィルター特性を有し、例えば、そのカットオフ周波数が、物理量トランスデューサー18の駆動周波数(共振周波数)よりも十分に低くなるように、帰還キャパシターCB1、CB2の容量値等が設定される。
Q/V変換回路62、64の後段には差動増幅回路70が設けられている。この差動増幅回路70は、第1のアンプAMC1と第2のアンプAMC2を含む。第1のアンプAMC1は、差動入力・シングルエンド出力のアンプである。第2のアンプAMC2も、差動入力・シングルエンド出力のアンプである。
第1のアンプAMC1は、第1の演算増幅器OPC1と第1〜第4の抵抗素子RC1〜RC4を有する。
第1の抵抗素子RC1は、第1のアンプAMC1の反転入力端子TM1(ノードNB1)と、第1の演算増幅器OPC1の反転入力端子(ノードNC3)との間に設けられる。第2の抵抗素子RC2は、第1の演算増幅器OPC1の反転入力端子と、第1の演算増幅器OPC1の出力端子(第1のアンプAMC1の出力端子。ノードNC1)との間に設けられる。即ち、第1、第2の抵抗素子RC1、RC2は、第1のアンプAMC1の反転入力端子TM1と第1の演算増幅器OPC1の出力端子(NC1)との間に直列接続される。第1のアンプAMC1の反転入力端子TM1(−)には、前段のQ/V変換回路62からの信号QB1が入力される。
第3の抵抗素子R3は、第1のアンプAMC1の非反転入力端子TP1(ノードNB2)と、第1の演算増幅器OPC1の非反転入力端子(ノードNC4)との間に設けられる。第4の抵抗素子RC4は、第1の演算増幅器OPC1の非反転入力端子(NC4)と、アナログコモン電圧VCMのノードNC7との間に設けられる。即ち、第3、第4の抵抗素子RC3、RC4は、第1のアンプAMC1の非反転入力端子TP1とノードNC7との間に直列接続される。第1のアンプAMC1の非反転入力端子TP1(+)には、前段のQ/V変換回路64からの信号QB2が入力される。
第2のアンプAMC2は、第2の演算増幅器OPC2と第5〜第8の抵抗素子RC5〜RC8を有する。
第5の抵抗素子RC5は、第2のアンプAMC2の反転入力端子TM2(ノードNB2)と、第2の演算増幅器OPC2の反転入力端子(ノードNC5)との間に設けられる。第6の抵抗素子RC6は、第2の演算増幅器OPC2の反転入力端子(NC5)と、第2の演算増幅器OPC2の出力端子(第2のアンプAMC2の出力端子。ノードNC2)との間に設けられる。即ち、第5、第6の抵抗素子RC5、RC6は、第2のアンプAMC2の反転入力端子TM2と第2の演算増幅器OPC2の出力端子(NC2)との間に直列接続される。第2のアンプAMC2の反転入力端子TM2(−)には、前段のQ/V変換回路64からの信号QB2が入力される。
第7の抵抗素子R7は、第2のアンプAMC2の非反転入力端子TP2(ノードNB1)と、第2の演算増幅器OPC2の非反転入力端子(ノードNC6)との間に設けられる。第8の抵抗素子RC8は、第2の演算増幅器OPC2の非反転入力端子(NC6)と、アナログコモン電圧VCMのノードNC7との間に設けられる。即ち、第7、第8の抵抗素子RC7、RC8は、第2のアンプAMC2の非反転入力端子TP2とノードNC7との間に直列接続される。第2のアンプAMC2の非反転入力端子TP2には、前段のQ/V変換回路62からの信号QB1が入力される。
このように図8の差動増幅回路70は、2つの差動入力・シングルエンド出力のアンプにより構成される。即ち、差動増幅回路70は、差動信号を構成する信号QB1、QB2のうち信号QB1が反転入力端子TM1(−)に入力され、信号QB2が非反転入力端子TP1(+)に入力される差動入力・シングルエンド出力の第1のアンプAMC1と、信号QB1が非反転入力端子TP2(+)に入力され、信号QB2が反転入力端子TM2(−)に入力される差動入力・シングルエンド出力の第2のアンプAMC2とにより構成される。
このような構成にすることで、差動増幅回路70からは、アナログコモン電圧VCM(アナロググランド)を基準として正極側又は負極側に電圧が変化する差動の信号QC1、QC2が出力されるようになる。例えば信号QC1が、アナログコモン電圧VCMに対して正極性の電圧である場合に、信号QC2は、VCMに対して負極性の電圧となる。信号QC1が、VCMに対して負極性の電圧である場合に、信号QC2は、VCMに対して正極性の電圧となる。
例えば抵抗素子RC1、RC3、RC5、RC7の抵抗値をR1とし、抵抗素子RC2、RC4、RC6、RC8の抵抗値をR2とし、差動増幅回路70の差動増幅のゲインをGCとすると、GC/2=R2/R1の関係が成り立つ。そして差動増幅回路70は、信号QB1、QB2が入力された場合に、下記の式に示すような信号QC1、QC2を出力する。
QC1=VCM−(GC/2)×(QB1−QB2)
QC2=VCM+(GC/2)×(QB1−QB2)
QC1−QC2=−GC×(QB1−QB2)
即ち、差動増幅回路70は、差動成分(QB1−QB2)がゲインGC倍され、且つ、アナログコモン電圧VCMを基準に極性が反転した差動の信号QC1、QC2を出力する。
またアンプAMC1の出力信号QC1の出力ノードNC1と、アンプAMC2の出力信号QC2の出力ノードNC2との間には、抵抗素子RC9、RC10が設けられている。これらの抵抗素子RC9、RC10により電圧分割回路が構成される。そして、抵抗素子RC9と抵抗素子RC10の接続ノードNC8には、アンプAMC1の出力信号QC1の電圧とアンプAMC2の出力信号QC2の電圧を電圧分割することで得られた監視電圧VBが生成される。例えば抵抗素子RC9、RC10の抵抗値が等しい場合には、監視電圧VBは、信号QC1の電圧と信号QC2の電圧の中点電圧になる。従って、信号QC1の電圧をVQC1とし、信号QC2の電圧をVQC2とすると、監視電圧はVB=(VQC1+VQC2)/2と表すことができる。なお抵抗素子RC9、RC10の抵抗値は任意である。
そして故障検出回路160は、この監視電圧VBに基づいて、差動増幅回路70の故障検出を行っている。即ち故障検出回路160は、信号QC1とQC2の電圧分割により得られた監視電圧VBが、アナログコモン電圧VCMを基準(中心)とした判定電圧範囲内にあるか否かを検出することで、故障検出を行う。例えば、監視電圧VBが、高電位側の閾値電圧VTHと低電位側の閾値電圧VTLとの間の判定電圧範囲内にあるか否かを検出することで、故障検出を行う。
具体的には故障検出回路160は、図2で説明した構成に加えて、コンパレーターCPC1、CPC2と、OR回路ORC1を有する。コンパレーターCPC1の反転入力端子には、高電位側の閾値電圧VTHが入力され、非反転入力端子には、抵抗素子RC9、RC10による分割電圧(中点電圧)である監視電圧VBが入力される。コンパレーターCPC2の反転入力端子には、監視電圧VBが入力され、非反転入力端子には、低電位側の閾値電圧VTLが入力される。OR回路ORC1は、コンパレーターCPC1、CPC2の出力信号が入力され、監視結果信号DGC(診断信号、故障検出信号)を出力する。
例えば監視電圧VBが、閾値電圧VTHと閾値電圧VTLとの間の判定電圧範囲内である場合には、監視結果信号DGCがLレベルになり、故障が非検出であることが制御部140等に伝えられる。一方、監視電圧VBが、判定電圧範囲外である場合には、監視結果信号DGCがHレベルになり、故障が検出されたことが制御部140等に伝えられる。
このようにすることで、図8では、差動増幅回路70の個別的な故障検出についても実現している。即ち、差動増幅回路70の出力信号QC1、QC2も、正常状態の場合には図3(A)に示すようにアナログコモン電圧VCMを中心とした対称な信号波形になり、QC1、QC2の中点電圧となる監視電圧VBは、アナログコモン電圧VCMと一致する。一方、故障が発生すると、この対称性が崩れて、図3(B)に示すような信号波形になり、監視電圧VBの電圧レベルが変動する。この監視電圧VBの変動を、故障検出回路160(CPC1、CPC2、ORC1)により検出する。即ち、監視電圧VBが判定電圧範囲内にあるか否かを検出することで、故障検出を行う。こうすることで、差動増幅回路709の個別的な故障検出を実現できる。
なお、差動増幅回路70の故障検出を行う際の判定電圧範囲と、ゲイン調整アンプ76の故障検出を行う際の判定電圧範囲とは異なっていてもよい。即ち、判定電圧範囲を規定する高電位側、低電位側の閾値電圧VTH、VTLは異なった電圧に設定されていてもよい。
差動増幅回路70の後段にはハイパスフィルター部74が設けられている。このハイパスフィルター部74は、キャパシターCK1、CK2と抵抗素子RK1、RK2を有する。キャパシターCK1の一端は、差動増幅回路70の出力ノードNC1に接続される。キャパシターCK1の他端は、抵抗素子RK1の一端に接続される。キャパシターCK2の一端は、差動増幅回路70の出力ノードNC2に接続される。キャパシターCK2の他端は、抵抗素子RK2の一端に接続される。抵抗素子RK1の他端と抵抗素子RK2の他端はノードNK1に接続され、このノードNK1はアナログコモン電圧VCMに設定される。
差動増幅回路70の後段にハイパスフィルター部74を設けることで、信号QC1、QC2のDCバイアス成分等の除去が可能になる。またノードNK1がアナログコモン電圧VCMに設定されているため、差動増幅回路70からの信号QC1、QC2は、ハイパスフィルター部74を通過した後も、アナログコモン電圧VCMを中心とした対称の信号波形になる。
ハイパスフィルター部74の後段にはゲイン調整アンプ76が設けられている。ゲイン調整アンプ76の構成は、図2等で説明した通りであるため、説明を省略する。なお、信号の差動増幅をゲイン調整アンプ76だけで行う場合等には、差動増幅回路70の構成を省略してもよい。
ゲイン調整アンプ76の後段には同期検波回路81が設けられている。同期検波回路81は、スイッチングミキサー82とスイッチングミキサー84を含む。スイッチングミキサー82は所望信号(角速度)の抽出用(通常動作用)のミキサーである。即ち、スイッチングミキサー82は、駆動回路30からの同期信号SYCに基づいて差動の同期検波を行って、所望信号を検出する。スイッチングミキサー84は不要信号の抽出用(診断用)のミキサーである。
例えば振動片10に恣意的に振動漏れ信号を発生させ、スイッチングミキサー84がこの振動漏れ信号を検波することで、検出回路60の故障診断を行う。
例えば図6において、駆動腕4、5と駆動腕6、7とが屈曲振動を行うときの両者の振動エネルギーのバランスがとれていれば、振動片10に角速度がかかっていない状態においては、検出腕8、9は屈曲振動を行わない。一方、両者の振動エネルギーのバランスが崩れていると、振動片10に角速度がかかっていない状態においても、検出腕8、9の屈曲振動が発生する。この屈曲振動は漏れ振動と呼ばれ、コリオリ力に基づく振動と同様に矢印Cの方向の屈曲振動である。コリオリ力に基づく振動(検出信号IQ1、IQ2)は、駆動信号DQに対して位相が90度ずれた信号になるが、漏れ振動は駆動信号DQと同位相の振動になる。なお、Q/V変換回路62、64において位相が90度ずれるため、同期検波の段階では、漏れ振動に基づく信号は同期信号SYCに対して位相が90度ずれた信号になる。
そして本実施形態では、駆動腕4、5と駆動腕6、7の振動エネルギーのバランスがわずかに崩れるようにして、所望レベルの振動漏れ成分を積極的に発生させる。例えばレーザー加工等により、駆動腕4、5の先端の錘部と、駆動腕6、7の先端の錘部とで、質量に差をつけることで、振動エネルギーのバランスを崩し、恣意的な振動漏れを発生させる。この振動漏れのレベルは、既知の値となるため、スイッチングミキサー84により、この振動漏れの信号を検波することで、検出回路60の故障診断が可能になる。
スイッチングミキサー82には、前段のゲイン調整アンプ76からの信号QD1が、第1の入力ノードND1に入力され、信号QD2が、第2の入力ノードND2に入力される。そして駆動回路30からの同期信号SYC(CK0)により差動の同期検波を行って、差動の信号QF1、QF2を第1、第2の出力ノードNF1、NF2に出力する。
スイッチングミキサー82は、スイッチ素子SF1、SF2、SF3、SF4を有する。スイッチ素子SF1は、スイッチングミキサー82の第1の入力ノードND1と、第1の出力ノードNF1との間に設けられる。スイッチ素子SF2は、スイッチングミキサー82の第2の入力ノードND2と、第2の出力ノードNF2との間に設けられる。スイッチ素子SF3は、第2の入力ノードND2と、第1の出力ノードNF1との間に設けられる。スイッチ素子SF4は、第1の入力ノードND1と、第2の出力ノードNF2との間に設けられる。これらのスイッチ素子SF1〜SF4は、例えばMOSトランジスター(例えばNMOS型トランジスター或いはトランスファーゲート)により構成できる。
スイッチ素子SF1、SF2は、クロック信号CK0によりオン・オフし、スイッチ素子SF3、SF4は、クロック信号XCK0によりオン・オフする。クロック信号CK0は前述の同期信号SYCに相当するものであり、クロック信号XCK0は、クロック信号CK0の反転信号(位相が180度異なる信号)である。従って、スイッチ素子SF1とSF3は排他的にオン・オフし、スイッチ素子SF2とSF4は排他的にオン・オフする。例えばクロック信号CK0(SYC)がHレベル(広義には第1の電圧レベル)の場合に、スイッチ素子SF1、SF2がオンになり、スイッチ素子SF3、SF4がオフになる。クロック信号CK0がLレベル(広義には第2の電圧レベル)の場合に、スイッチ素子SF1、SF2がオフになり、スイッチ素子SF3、SF4がオンになる。
これにより、ゲイン調整アンプ76からの差動の信号QD1、QD2が、差動信号の状態で同期検波されて、同期検波後の信号が差動の信号QF1、QF2として出力されるようになる。このスイッチングミキサー82により、前段の回路(Q/V変換回路、差動増幅回路、ゲイン調整アンプ)が発生したノイズ(1/fノイズ)などの不要信号が高周波帯域に周波数変換される。また、コリオリ力に応じた信号である所望信号が直流信号に落とし込まれる。そして、スイッチングミキサー82により高周波帯域に周波数変換された1/fノイズ等の不要信号は、後段に設けられたフィルター部90(図7)により除去される。このフィルター部90は、例えばパッシブ素子で構成されるパッシブフィルターである。即ち、フィルター部90としては、演算増幅器を用いずに、抵抗素子やキャパシターなどのパッシブ素子で構成されるパッシブフィルターを採用できる。
スイッチングミキサー84には、前段のゲイン調整アンプ76からの信号QD1が、第1の入力ノードND1に入力され、信号QD2が、第2の入力ノードND2に入力される。そして差動の信号QG1、QG2を第1、第2の出力ノードNG1、NG2に出力する。
スイッチングミキサー84は、スイッチ素子SG1、SG2、SG3、SG4を有する。スイッチ素子SG1は、第1の入力ノードND1と、第1の出力ノードNG1との間に設けられる。スイッチ素子SG2は、第2の入力ノードND2と、第2の出力ノードNG2との間に設けられる。スイッチ素子SG3は、第2の入力ノードND2と、第1の出力ノードNG1との間に設けられる。スイッチ素子SG4は、第1の入力ノードND1と、第2の出力ノードNG2との間に設けられる。これらのスイッチ素子SG1〜SG4は、例えばMOSトランジスター(例えばNMOS型トランジスター或いはトランスファーゲート)により構成できる。
スイッチ素子SG1、SG2は、クロック信号CK90によりオン・オフし、スイッチ素子SG3、SG4は、クロック信号XCK90によりオン・オフする。クロック信号CK90は、クロック信号CK0(同期信号SYC)に対して位相が90度異なる信号である。クロック信号XCK90は、クロック信号CK90の反転信号(位相が180度異なる信号)である。従って、スイッチ素子SG1とSG3は排他的にオン・オフし、スイッチ素子SG2とSG4は排他的にオン・オフする。例えばクロック信号CK90がHレベルの場合に、スイッチ素子SG1、SG2がオンになり、スイッチ素子SG3、SG4がオフになる。クロック信号CK90がLレベルの場合に、スイッチ素子SG1、SG2がオフになり、スイッチ素子SG3、SG4がオンになる。
振動片10において恣意的に発生させる振動漏れの信号(広義には不要信号)は、同期信号SYC(所望信号)とは位相が90度異なる。従って、スイッチングミキサー84が、同期信号SYCであるクロック信号CK0と位相が90度異なるクロック信号CK90に基づき、信号QD1、QD2を同期検波することで、恣意的に混入された振動漏れ信号を抽出できる。この場合の振動漏れ信号のレベルは既知となっているため、スイッチングミキサー84による検出結果をA/D変換して、期待値と比較することで、期待する振動漏れ信号がQD1、QD2に混入されていることを検出できる。そして、期待する振動漏れ信号が検出された場合には、検出回路60は正常に動作している判定できる。このスイッチミキサー84を用いた診断処理は、後述する図11の常時診断の期間において実行される。
図9は、VCMを生成するアナログコモン電圧生成回路の構成例である。このアナログコモン電圧生成回路は、演算増幅器OPH、抵抗素子RH1、RH2、RH3、キャパシターCH1、CH2を有する。抵抗素子RH1、RH2は電源VDD、VSSとの間に直列接続され、分割電圧をノードNH3に生成する。分割電圧は例えばVDDとVSSの間の中点電圧である。この分割電圧は、抵抗素子RH3、キャパシターCH2により構成されるノイズ低減用のローパスフィルターを介して、演算増幅器OPHの非反転入力端子のノードNH2に供給される。演算増幅器OPHは、いわゆるボルテージフォロワー接続になっており、分割電圧に対応する電圧をアナログコモン電圧VCMとして、ノードNH1に出力する。キャパシターCH1は電位安定化用のキャパシターである。
図10は診断回路150による自己診断について説明するための信号波形図である。図10では、電圧振幅がVBである診断用信号SFDが、図8の第1のノードN1に入力される。すると、Q/V変換回路62は、電圧振幅がVB1である信号QB1を出力し、Q/V変換回路64は、電圧振幅がVB2である信号QB2を出力する。なお図10では、診断用信号SFDは矩形波となっているが、正弦波等の周期信号であってもよい。
例えば、帰還キャパシターCB1とCB2の容量値は等しく、キャパシターC2の容量値はキャパシターC1の容量値よりも大きい。キャパシターCB1、CB2の容量値は例えば0.5pF〜1.5pF程度であり、キャパシターC1の容量値Cは例えば250fF〜750fF程度である。キャパシターC1とC2の容量値の差ΔCは例えば50fF〜150fF程度である。なお、C1、C2、CB1、CB2は例えばポリシリコンによるキャパシター(ポリ2層キャパシター)やMIM(Metal-Insulator-Metal)によるキャパシターなどにより実現できる。
このように、キャパシターC1に比べて、キャパシターC2の方が容量値が大きい場合には、図10に示すように、Q/V変換回路62、64は、VB1<VB2の関係が成り立つ信号QB1、QB2を出力する。具体的には、Q/V変換回路62、64は反転アンプである。従って図10に示すように、診断用信号SFDが正極性である場合には、Q/V変換回路62、64は、アナログコモン電圧VCMを基準(中心)として負極性となり、且つ、電圧振幅についてVB1<VB2の関係が成り立つ信号QB1、QB2を出力する。
即ち、Q/V変換回路62、64の演算増幅器OPB1、OPB2による仮想接地(バーチャルショート)により、入力ノードNA1、NA2の電位は共にアナログコモン電圧VCMに設定される。そして、キャパシターC1に比べて、キャパシターC2の方が容量値が大きいため、電圧振幅がVBである診断用信号SFDがキャパシターC1、C2の他端に印加された場合に、キャパシターC1の蓄積電荷量よりもキャパシターC2の蓄積電荷量の方が大きくなる。そして、Q/V変換回路62、64の帰還キャパシターCB1、CB2の容量値は等しいため、信号QB1、QB2の電圧振幅については、VB1<VB2の関係が成り立つ。即ち、信号QB1の電圧振幅VB1は、キャパシターC1と帰還キャパシターCB1の容量比(C1/CB1)に応じた振幅に設定され、信号QB2の電圧振幅VB2は、キャパシターC2と帰還キャパシターCB2の容量比(C2/CB2)に応じた振幅に設定される。そして、C1に比べてC2の方が容量値が大きいため、VB1<VB2の関係が成り立つ。
差動増幅回路70は、信号QB1、QB2の差動成分を増幅する。従って、図10に示すように、信号QB1、QB2の差分がゲイン倍され且つ反転された信号が、差動の信号QC1、QC2として出力される。例えば差動増幅回路70の差動増幅のゲインをGCとした場合に、信号QC1と信号QC2との間の差分電圧はVDF=GC×(VB2−VB1)と表すことができる。
このように、キャパシターC1の他端側のノードN1に診断用信号SFDを入力することで、信号QC1、QC2に示すような診断用の所望信号(疑似所望信号)を検出回路60に供給できる。そして検出回路60がこの診断用の所望信号の検出動作を行い、その検出結果をモニターすることで、検出回路60が正常に動作している否かの診断(自己診断、故障診断)が可能になる。具体的には、図10の信号QC1、QC2の差分電圧VDFを検出することで、検出回路60の診断が可能になる。
例えば、キャパシターC1、C2、CB1、CB2の容量値や診断用信号SFDの電圧振幅は既知であるため、信号QC1、QC2の差分電圧VDFも既知となる。従って、差分電圧VDFに対応する検出回路60の検出結果が、期待値の範囲内であれば、検出回路60が正常に動作していると診断できる。具体的には、例えば同期検波回路81の同期検波により、同期信号SYCと位相が異なる不要信号(例えば90度位相がずれた不要信号)が除去される一方で、同期信号SYCと位相が同じ診断用の所望信号が抽出されるようになる。つまり、周波数スペクトルにおいてDC等の周波数帯域に診断用の所望信号の成分が現れるようになる。従って、この診断用の所望信号のDC成分の値(DC電圧値やDC電圧のA/D変換値)が期待値の範囲内であれば、検出回路60が正常に動作していると診断できる。
図11は本実施形態の回路装置の動作を説明する動作シーケンス図である。図11に示すように、回路装置に電源が投入されて、電源がオンになった後、回路装置が診断モードに設定されて、初期診断が行われる。即ち、検出回路60が正常に動作しているか否かを検証する診断が行われる。この初期診断(診断モード)時には、診断回路150のスイッチ素子SW1、SW2はオンになる一方で、スイッチ素子SW3、SW4はオフになる。これにより振動片10からの検出信号IQ1、IQ2の入力は電気的に遮断され、駆動回路30からの信号を電圧レベル変換した信号が、診断用信号SFDとして、キャパシターC1、C2の他端のノードN1に入力されるようになる。これにより、図10で説明したように、診断用の擬似的な所望信号を検出回路60に供給して、検出回路60の各回路が正常に動作しているか否かを診断できるようになる。
一方、このような初期診断が終了して、所望信号を検出する通常動作期間になると、スイッチ素子SW3、SW4はオンになる一方で、スイッチ素子SW1、SW2がオフになる。これにより振動片10からの検出信号IQ1、IQ2が検出回路60に入力されて、所望信号の検出処理が行われる。この際、スイッチ素子SW1、SW2がオフになることで、例えば駆動回路30からの信号に基づくノイズ等が、検出回路60の入力ノードNA1、NA2に伝達してしまうなどの事態を抑制できる。
このように図11では、電源投入後、通常動作期間の前において、診断モードに設定される。この診断モードの設定は、例えば回路装置の外部のコントローラー等が診断モード(初期診断)を開始するためのコマンドを発行し、このコマンドが回路装置のインタフェースを介して受け付けられることで実現される。或いは、電源投入後に、自動的に回路装置の動作モードを診断モードに設定するようにしてもよい。なお、通常動作の開始後に、一旦、通常動作を停止し、例えば回路装置の外部のコントローラーからのコマンドの発行等に基づいて、回路装置の診断処理を行ってもよい。
また図11に示すように、通常動作期間においては、検出回路60が正常に動作しているか否かを常時確認するための常時診断が行われている。
この常時診断においては、故障検出回路160が、差動増幅回路70やゲイン調整アンプ76の故障検出を行う。即ち、故障検出回路160は、監視電圧VB、VAが判定電圧範囲内にあるか否かを検出する。そして制御部140は、故障検出回路160からの監視結果信号DGC、DGDに基づいて、差動増幅回路70、ゲイン調整アンプ76の故障診断を行う。
また、この常時診断において、スイッチングミキサー84が、恣意的に発生させた振動漏れ信号を抽出する同期検波を行う。そして制御部140は、抽出された振動漏れ信号の成分が、期待値の範囲内にあるか否かを検出することで、検出回路60の全体の故障診断を行う。この際に、スイッチングミキサー82は、所望信号を抽出するための通常の同期検波を行っている。従って、振動漏れ信号の抽出による故障診断と、同期検波による所望信号の抽出処理を、同時に実行することが可能になり、常時診断が実現される。
以上のように本実施形態では、同期検波による所望信号の抽出処理を行いながら、これと並行して、故障検出回路160による差動増幅回路70、ゲイン調整アンプ76の故障診断や、スイッチングミキサー84による検出回路60の全体の故障診断を実行することができ、回路装置の実動作中の常時診断を実現できる。従って、経時変化による故障や性能劣化に対する信頼性を、大幅に向上することが可能になる。
4.移動体、電子機器
図12(A)に本実施形態の回路装置20を含む移動体の例を示す。本実施形態の回路装置20は、例えば、車、飛行機、バイク、自転車、或いは船舶等の種々の移動体に組み込むことができる。移動体は、例えばエンジンやモーター等の駆動機構、ハンドルや舵等の操舵機構、各種の電子機器を備えて、地上や空や海上を移動する機器・装置である。図12(A)は移動体の具体例としての自動車206を概略的に示している。自動車206には、振動片10と回路装置20を有するジャイロセンサー510(センサー)が組み込まれている。ジャイロセンサー510は車体207の姿勢を検出することができる。ジャイロセンサー510の検出信号は車体姿勢制御装置208に供給される。車体姿勢制御装置208は例えば車体207の姿勢に応じてサスペンションの硬軟を制御したり個々の車輪209のブレーキを制御したりすることができる。その他、こういった姿勢制御は二足歩行ロボットや航空機、ヘリコプター等の各種の移動体において利用されることができる。姿勢制御の実現にあたってジャイロセンサー510は組み込まれることができる。
図12(B)、図12(C)に示すように、本実施形態の回路装置はデジタルスチルカメラや生体情報検出装置(ウェアラブル健康機器。例えば脈拍計、歩数計、活動量計等)などの種々の電子機器に適用できる。例えばデジタルスチルカメラにおいてジャイロセンサーや加速度センサーを用いた手ぶれ補正等を行うことができる。また生体情報検出装置において、ジャイロセンサーや加速度センサーを用いて、ユーザーの体動を検出したり、運動状態を検出できる。また図12(D)に示すように、本実施形態の回路装置はロボットの可動部(アーム、関節)や本体部にも適用できる。ロボットは、移動体(走行・歩行ロボット)、電子機器(非走行・非歩行ロボット)のいずれも想定できる。走行・歩行ロボットの場合には、例えば自律走行に本実施形態の回路装置を利用できる。
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語(物理量検出装置、物理量トランスデューサー等)と共に記載された用語(ジャイロセンサー、振動片等)は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、回路装置や物理量検出装置や電子機器や移動体の構成、振動片の構造等も、本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。