以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[ガス化装置]
先ず、本発明の実施の形態に係るガス化炉102を備えたガス化装置100(ガス化システム)の全体構成について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るガス化炉102を備えたガス化装置100の全体構成を示す概略構成図である。
図1に示すように、ガス化装置100は、貯留ホッパ101と、ガス化炉102と、バグフィルタ103と、ガス冷却器104と、スクラバー105と、循環水槽106(貯水槽)と、冷却塔107と、ガスフィルター108と、誘引ブロワ109と、前処理ユニット110と、次工程の装置である次工程装置(この例ではガスエンジン111、より具体的にはガスエンジン発電装置)と、水封槽112と、余剰ガス燃焼装置113(フレアスタック)とを備えている。
貯留ホッパ101は、生成ガス(この例では燃料ガスG)の原料Fを貯溜する。ここで、原料としては、シリカおよびカリウムを含む原料を例示でき、例えば、稲や麦等の籾殻や藁等の非食用農作物を挙げることができる。この例では、原料は、シリカおよびカリウムを含む籾殻のバイオマスとされ、燃料ガスGは、バイオガスとされている。よって、ガス化装置100は、バイオガス化装置とされている。
ガス化炉102は、貯留ホッパ101に貯溜された原料Fを導入する原料導入部102aと、原料導入部102aにて導入された原料Fから燃料ガスGを生成する単一の炉102bとを備えている。
原料導入部102aは、この例では、原料導入コンベア102a1と、原料導入フィーダー102a2とを備えている。原料導入コンベア102a1は、貯留ホッパ101に貯溜された原料Fを原料導入フィーダー102a2に搬送する。原料導入フィーダー102a2は、原料導入コンベア102a1にて搬送されてきた原料Fを炉102bに導入する。なお、ガス化炉102については、後ほど詳しく説明する。
バグフィルタ103は、ガス化炉102にて生成された燃料ガスGに含まれる煤等の不要物を除去する。
ガス冷却器104は、ガス化炉102からガスエンジン111への燃料ガス供給経路に設けられている。ガス冷却器104は、バグフィルタ103にて不要物が除去された燃料ガスGを、洗浄水WWにより洗浄し、さらに冷却水CWにより冷却する。スクラバー105は、ガス冷却器104にて洗浄されて冷却された燃料ガスGを洗浄水WW中に潜らせることによりさらに洗浄する。
循環水槽106は、ガス冷却器104およびスクラバー105に供給する洗浄水WWを貯溜する。冷却塔107は、ガス冷却器104に供給する冷却水CWを貯留する。
ガスフィルター108は、スクラバー105にて洗浄された燃料ガスGに含まれるタール等の不要物を濾過により除去する。誘引ブロワ109は、ガス化炉102側の燃料ガス供給経路における燃料ガスGを吸入してガスエンジン111側の燃料ガス供給経路および余剰ガス燃焼装置113側の燃料ガス供給経路に吐出する。
前処理ユニット110は、誘引ブロワ109にてガスエンジン111側の燃料ガス供給経路に吐出された燃料ガスGにおける不純物を除去する。ガスエンジン111は、前処理ユニット110にて不純物が除去された燃料ガスGを燃焼する。
水封槽112は、誘引ブロワ109にてガスエンジン111側の燃料ガス供給経路に吐出された燃料ガスGの圧力を制御する。余剰ガス燃焼装置113は、燃料ガスGの圧力が水封槽112の圧力を超えた場合に流れ込む、ガスエンジン111に供給されなかった余剰燃料ガスSGを燃焼させる。
以上説明したガス化装置100では、原料導入部102aにてシリカおよびカリウムを含む原料F(この例では籾殻)がガス化炉102に導入されてガス化炉102で可燃性の燃料ガスGが生成される。ガス化炉102で生成された燃料ガスGは、バグフィルタ103、ガス冷却器104、スクラバー105、ガスフィルター108、誘引ブロワ109の順に流れ、誘引ブロワ109の下流側でガスエンジン111側と余剰ガス燃焼装置113側とに分岐して流れ、さらに、余剰ガス燃焼装置113で余剰燃料ガスSGが燃焼され、ガスエンジン111で燃料ガスGが燃焼される。
詳しくは、貯留ホッパ101には、原料Fが貯溜され、貯留ホッパ101内の原料Fが原料導入部102aにおける原料導入コンベア102a1および原料導入フィーダー102a2によりガス化炉102内に導入される。
ガス化炉102では、原料Fが不完全燃焼されて燃料ガスGが生成される。ガス化炉102で生成された燃料ガスGは、ガス管201を経てバグフィルタ103に導入される。ここで、燃料ガスGは、一酸化炭素を主成分とする燃料ガスであり、燃料ガスGには、煤やタール(ガス化炉102で発生した許容レベル以下のタール)、塵等の不要物が含まれている。
バグフィルタ103では、燃料ガスGに含まれる煤等の不要物が、濾布と呼ばれるフィルタによって除去される。バグフィルタ103で煤等の不要物が除去された燃料ガスGは、ガス管202を経てガス冷却器104に導入される。
ガス冷却器104内には、燃料ガスGが流れる図示しないガス管が設けられており、該ガス管内の燃料ガスGが、洗浄水WWで洗浄されると共に、該ガス管の周囲を流れる冷却水CWで冷却される。ガス冷却器104で洗浄、冷却された燃料ガスGは、ガス管203を経てスクラバー105に導入される。
ガス冷却器104に供給される冷却水CWは、冷却塔107に貯溜されており、冷却塔107内の冷却水CWは、配水管204を経てガス冷却器104に導入される。配水管204内の冷却水CWは、ポンプ205によりガス冷却器104側に圧送され、ガス冷却器104で燃料ガスGを冷却する。燃料ガスGを冷却した冷却水CWは、配水管206を経て冷却塔107に導出される。
スクラバー105内には、洗浄水WWが貯溜されており、燃料ガスGがスクラバー105内の洗浄水WW中を潜ることにより洗浄される。スクラバー105で洗浄された燃料ガスGは、ガス管207を経てガスフィルター108に導入される。
ガス冷却器104およびスクラバー105に供給される洗浄水WWは、循環水槽106に貯溜されている。循環水槽106内の洗浄水WWは、配水管209を経てガス冷却器104に導入されると共に、配水管209から分岐する配水管210を経てスクラバー105に導入される。配水管209,210内の洗浄水WWは、ポンプ211によりガス冷却器104側およびスクラバー105側に圧送され、ガス冷却器104およびスクラバー105で燃料ガスGを洗浄する。ガス冷却器104で燃料ガスGを洗浄した洗浄水WWは、配水管212を経て循環水槽106に導出される一方、スクラバー105で燃料ガスGを洗浄した洗浄水WWは、配水管213を経て循環水槽106に導出される。
ガスフィルター108では、燃料ガスGに含まれるタール等の不要物が、濾過によって除去される。ガスフィルター108でタール等の不要物が除去された燃料ガスGは、ガス管214を経て誘引ブロワ109に導入される。
誘引ブロワ109では、誘引ブロワ109よりも上流側の燃料ガス供給経路から吸入された燃料ガスGが誘引ブロワ109よりも下流側の燃料ガス供給経路に吐出される。つまり、誘引ブロワ109の上流側の燃料ガス供給経路は負圧となる一方、誘引ブロワ109の下流側の燃料ガス供給経路は正圧となるため、誘引ブロワ109の上流側の燃料ガス供給経路における燃料ガスGが誘引ブロワ109で下流側の燃料ガス供給経路に誘引される。
誘引ブロワ109で誘引された燃料ガスGは、ガス供給管215およびガス供給管215に設けられた前処理ユニット110を介してガスエンジン111に導入される。ガスエンジン111には、前処理ユニット110で不純物が除去された燃料ガスGが供給される。この例では、ガスエンジン111は、ガスエンジン部(図示省略)により駆動される発電装置(図示省略)を備え、該発電装置で発電し、かつ、該ガスエンジン部の排熱を給湯や空調等に利用するコージェネレーションシステムとされている。
一方、ガス化炉102で生成された燃料ガスGのうちガスエンジン111に供給されなかった余剰燃料ガスSGは、誘引ブロワ109からの燃料ガスGをガスエンジン111側へ供給するガス供給管215から分岐する余剰ガス供給管216および余剰ガス供給管216に設けられた水封槽112を介して余剰ガス燃焼装置113に導入される。
余剰ガス供給管216は、水封槽112の上流側に設けられて誘引ブロワ109と水封槽112とを接続する上流側ガス供給管216aと、水封槽112の下流側に設けられて水封槽112と余剰ガス燃焼装置113とを接続する下流側ガス供給管216bとを備えている。
水封槽112内には、所定の水位まで水が封入されている。水封槽112は、上流側ガス供給管216aから吐出される余剰燃料ガスSGに水圧を作用させることにより、水封槽112から余剰ガス燃焼装置113への下流側ガス供給管216bにおける余剰燃料ガスSGの供給量を制御する。これにより、水封槽112は、ガス供給管215内の燃料ガスGの圧力を制御することができる。
余剰ガス燃焼装置113では、上流側ガス供給管216a、水封槽112および下流側ガス供給管216bを経て送られてきた余剰燃料ガスSGが余剰ガス燃焼部113aで燃焼される。
次に、ガス化炉102について、図2および図3を参照しながら以下に説明する。
[ガス化炉]
本実施の形態に係るガス化炉102は、原料Fを酸化して燃料ガスGを生成するガス化炉である。
図2は、図1に示すガス化炉102の一部を破断状態にして示す概略側面図であって、原料Fを酸化してガス化する状態を示す図である。
ガス化炉102では、原料Fを熱分解して燃料ガスG(例えば一酸化炭素や水素)を生成する。燃料ガスGの生成過程において、原料Fを炭化し、炭化したチャーR(炭化物)を燃焼し、燃焼した灰Sを外部に排出する。この例では、原料Fを空気等の酸化剤Hと共に導入する。
ガス化炉102は、原料Fを導入する原料導入部102aと、酸化剤Hを導入する酸化剤導入部102dと、燃料ガスGを流出させる燃料ガス流出部102eとを備えている。
原料導入部102aは、予め定めた所定の想定チャー層δx(この例では想定チャー堆積層)の最上部δxaよりも上方に設けられている。酸化剤導入部102dは、原料導入部102aにおける開口102ah(この例では原料落下部)よりも下方に設けられている。燃料ガス流出部102eは、酸化剤導入部102dにおける開口102dhよりも上方に設けられている。
詳しくは、原料導入部102aは、炉102bの頂面102b1(上面)に設けられている。なお、原料導入部102aは、炉102bの側面102b2上部に設けられていてもよい。
ガス化炉102は、炉102b内を予熱する予熱部102c(この例では昇温バーナー)と、灰Sを排出してチャーRを下方へ移動させる排出部102fとをさらに備えている。
予熱部102cは、プロパンガス等の化石燃料の燃焼を利用して予熱する昇温バーナーとされている。予熱部102cは、炉102bの側面102b2に設けられたガス供給部102c1と、ガス供給部102c1に接続されて可燃性ガスg(この例ではプロパンガス)をガス供給部102c1に供給するガスボンベ102c2とを備えている。これにより、予熱部102cは、ガスボンベ102c2からガス供給部102c1を介して供給された可燃性ガスgの燃焼により炉102b内を予熱することができる。
酸化剤導入部102dは、炉102bの側面102b2に設けられている。酸化剤導入部102dにおける開口102dhは、酸化剤Hの導入方向が水平方向または略水平方向或いは上向き(例えば斜め上向き)に沿うように形成されている。
燃料ガス流出部102eは、炉102bの頂面102b1に設けられている。なお、燃料ガス流出部102eは、炉102bの側面102b2上部に設けられていてもよい。
排出部102fは、炉102bの底面102b3(下面)に設けられている。排出部102fは、炉102bから流出した灰Sを外部に排出する灰排出コンベア102f1を備えている。
ところで、従来のガス化炉においては、既述したとおり、タールの発生を抑制するべく、タールが熱分解するために必要な温度以上(具体的には800℃程度以上)とすると、結晶性シリカが生成する一方、結晶性シリカの生成を抑制するべく、酸化雰囲気を比較的低温(例えば800℃程度を下回る温度)にすると、タールの発生を抑制することができない。
この点、本実施の形態に係るガス化炉102の運転方法では、原料Fを酸化する酸化域αを予め定めた所定温度(例えば1050℃)または所定温度範囲(例えば1050℃を中央温度とする1000℃〜1100℃の所定温度範囲)に維持しつつ、原料Fを酸化域αに予め定めた所定時間範囲内(例えば2分程度)で通過させる。本実施の形態に係るガス化炉102は、原料Fを酸化する酸化域αを予め定めた所定温度(例えば1050℃)または所定温度範囲(例えば1050℃を中央温度とする1000℃〜1100℃の所定温度範囲)に維持する第1手段と、原料Fを酸化域αに予め定めた所定時間範囲内(例えば2分程度)で通過させる第2手段とを備えている。換言すれば、本実施の形態において、タールが熱分解するために必要な温度であるタール熱分解温度以上の酸化雰囲気下で原料Fを加熱した時点から該原料F自身の温度が結晶性シリカを生成する温度である結晶性シリカ生成温度または結晶性シリカ生成温度近傍の温度に達するまでにタールの発生を許容レベル以下に抑える。
ここで、「所定温度に維持する」とは、一定の温度に維持することだけでなく、略一定の温度に維持することも含む概念である。また、酸化剤Hとしては、酸素を含む気体(代表的には空気)を例示できる。酸化剤Hは、純粋または略純粋な酸素であってもよいが、この例では、空気とされている。また、「原料Fを酸化域αに通過させる」とは、チャーRを酸化域αに通過させることも含む概念である。また、「結晶性シリカ生成温度近傍の温度」とは、結晶性シリカ生成温度をたとえ超えたとしても結晶性シリカの生成を許容レベル以下とすることができる温度である。
ガス化炉102は、この例では、原料Fを所定時間以内(例えば2分程度)で酸化域αに通過させた後、酸化域αに隣接して酸化域αの所定温度または所定温度範囲の中央温度若しくは下限温度よりも低い温度(具体的には結晶性シリカ生成温度を下回る温度)の低温域βに到達させるようになっている。なお、ガス化炉102は、原料Fを低温域βに通過させた後、酸化域αに到達させるようになっていてもよい。
詳しくは、第1手段は、酸化剤導入部102dを含んでいる。第2手段は、原料導入部102aおよび排出部102fを含んでいる。
酸化剤導入部102dからの酸化剤Hの単位時間当たりの導入量は、予め設定した原料Fの導入量および予め設定した灰Sの排出量において、炉102b内が所定温度(例えば1050℃)または所定温度範囲(例えば1050℃を中央温度とする1000℃〜1100℃の所定温度範囲)に維持されるように、予め行った実験等により、予め定めた所定値に設定されている。
原料導入部102aからの原料Fの単位時間当たりの導入量、および、排出部102fからの灰Sの単位時間当たりの排出量、すなわちチャー層δ(この例ではチャーRが堆積したチャー堆積層)におけるチャーRの単位時間当たりの移動距離は、原料Fが酸化域αを通過する時間である酸化域通過時間tpが所定時間範囲内(この例では2分程度)となるように、予め定めた所定値に設定されている。
ここで、酸化域通過時間tpは、原料Fが導入されて酸化域αに突入した時点から酸化域αを抜け出るまでの時間であり、この例では、酸化剤導入部102dから炉102bに導入された原料Fがチャー層δに到るまで自由落下する時間も含む。なお、酸化域通過時間tpが所定時間範囲内となるように、原料導入部102aからの原料Fの落下距離を設定するようにしてもよい。
また、酸化域αとしては、それには限定されないが、例えば、酸化剤Hを導入する開口102dhから燃料ガスGの流出口102ehまでの領域を挙げることができる。
なお、図2において、説明していない制御装置102gおよび熱電対102h等については後ほど説明する。
図3は、酸化域αを説明するための説明図であって、図2に示す炉102b内の燃焼ガス層γとチャー層δとの境目付近を拡大して示す図である。図3(a)は、チャー層δが酸化剤Hと接触しない或いは表面と接触して炙られる位置に位置するようにチャー層δの頂部δaを設定した例を示している。図3(b)は、チャー層δの内側が酸化剤Hと接触して炙られる位置に位置するようにチャー層δの頂部δaを設定した例を示している。
ここで、チャー層δが酸化剤Hと頂部δaの表面と接触して炙られる位置(図3(a)参照)は、チャー層δの表面に向けて酸化剤Hを導入する位置である。また、チャー層δの内側が酸化剤Hと接触して炙られる位置(図3(b)参照)は、チャー層δの側方に向けて酸化剤Hを導入する位置である。
なお、チャー層δの頂部δaの位置は、原料導入部102aからの原料Fの導入量および排出部102fからの灰Sの排出量、すなわちチャー層δにおけるチャーRの単位時間当たりの移動距離を調整することで調整することができる。例えば、チャー層δの頂部δaの位置が一定または略一定に維持される原料Fの所定導入量および灰Sの所定排出量を予め調整しておき、チャー層δの頂部δaの位置を上昇させるときには、上昇させる距離だけ原料Fの所定導入量を灰Sの所定排出量よりも多くする或いは灰Sの所定排出量を所定導入量よりも少なくして運転した後、原料Fを所定導入量に或いは灰Sを所定排出量に戻す一方、チャー層δの頂部δaの位置を下降させるときには、下降させる距離だけ原料Fの所定導入量を灰Sの所定排出量よりも少なくする或いは灰Sの所定排出量を所定導入量よりも多くして運転した後、原料Fを所定導入量に或いは灰Sを所定排出量に戻す態様を例示できる。
図3に示すように、酸化域αは、燃焼ガス層γの領域(図3(a)および図3(b)参照)だけでなく、チャー層δ(チャー堆積層またはチャー流動層、この例ではチャー堆積層)が存在して酸化剤Hに曝される場合には、チャー層δの領域のうち酸化剤Hに曝される領域(図3(b)参照)も含む。
以上説明したガス化炉102では、先ず、予熱部102cにより炉102b内を所定温度または所定温度範囲に予め加熱して、酸化域αを事前に形成しておく。ここで、所定温度(例えば1050℃)または所定温度範囲(例えば1050℃を中央温度とする1000℃〜1100℃)は、原料Fの熱分解温度(例えば原料Fが籾殻の場合には400℃程度)以上の温度または温度範囲である。次に、原料導入部102aを稼動して原料導入部102aから原料Fを導入すると、原料Fが熱分解する。また、酸化剤導入部102dを稼動して酸化剤導入部102dから酸化剤Hを導入する。そして、所定温度(例えば1050℃)または所定温度範囲(例えば1050℃を中央温度とする1000℃〜1100℃)に酸化域αを維持し、原料Fを酸化域αに所定時間範囲内(この例では2分程度)で通過させる。このとき、原料Fを炭化し、炭化したチャーR(炭化物)を燃焼し、燃焼した灰Sを排出部102fにより外部に排出する一方、生成した燃料ガスGを燃料ガス流出部102eから流出させる。
本実施の形態によれば、原料Fを酸化する酸化域αを所定温度(例えば1050℃)または所定温度範囲(例えば1050℃を中央温度とする1000℃〜1100℃)に維持し、原料Fを酸化域αに所定時間範囲内(この例では2分程度)で通過させるので、換言すれば、タール熱分解温度以上の酸化雰囲気下で原料Fを加熱した時点から該原料F自身の温度が結晶性シリカ生成温度または結晶性シリカ生成温度近傍の温度に達するまでにタールの発生を許容レベル以下に抑えるので、原料Fとして、シリカおよびカリウムを含む原料(例えば籾殻)を用いて燃料ガスGを生成するに当たって、同一工程(同一時期にかつ同一空間)で、所定温度(例えば1050℃)または所定温度範囲(例えば1050℃を中央温度とする1000℃〜1100℃)の酸化雰囲気中で、原料Fを酸化しても、酸化域通過時間tpが所定時間範囲内(この例では2分程度)であれば、タールの発生を抑制すると共に、結晶性シリカの生成を抑制することができるという本発明者らの新たな知見に基づいたガス化炉を実現することができる。これにより、燃料ガスGを生成するに当たって、タールの発生と結晶性シリカの生成との双方の抑制を同時的に両立させることが可能となる。
次に、タールの発生と結晶性シリカの生成との双方が抑制できているか否かを確認したので、これについて以下に説明する。
図4は、籾殻を原料Fとして本実施の形態に係るガス化炉102で得られた灰S中のシリカのX線回折による回折パターンを結晶性シリカの場合と比較して示すグラフである。図4(a)は、チャー層δの頂部δaを図3(a)に示す位置で行った結果を示しており、図4(b)は、チャー層δの頂部δaを図3(b)に示す位置で行った結果を示している。図4において、実線は、本実施の形態に係るガス化炉102で生成したシリカのX線回折による回折パターンを表しており、破線は、結晶性シリカのX線回折による回折パターンを表している。
X線回折装置は、試料にX線を照射した際に、X線が試料の原子の周りにある電子によって散乱、干渉した結果起こる回折を解析するものである。従って、シリカが非晶質であれば、X線が散乱、干渉して回折パターンがなだらかな回折パターンとなり、結晶性シリカであれば、X線がある回折角度で反射して急峻なピークを有する回折パターンとなる。
図4に示すように、本実施の形態に係るガス化炉102で得られた灰S中のシリカは、チャー層δの頂部δaを図3(a)に示す位置(図4(a)参照)、および、図3(b)に示す位置(図4(b)参照)の何れの位置であっても、非晶質となっており、X線回折による回折パターンでは結晶性シリカを確認することができなかった。
また、結晶性シリカの定量分析を行った結果、許容レベル以下であることが分かった。
一方、籾殻を原料Fとして本実施の形態に係るガス化炉102で得られた燃料ガスG中のタールについても許容レベル以下であることが分かった。しかも、籾殻を原料Fとして本実施の形態に係るガス化炉102で生成した燃料ガスは、次工程(例えばガスエンジン111)で支障なく使用することができ、次工程のために必要な熱量(例えばガスエンジン111を稼動するために必要な熱量)を有していることが分かった。
なお、既述のとおり、結晶性シリカ生成温度は、カリウムの含有濃度に応じて変化する。
図5は、結晶性シリカ生成温度Tcとカリウムの含有濃度Kcとの関係を示すグラフである。
図5に示すように、例えば、カリウムが存在しない場合には、結晶性シリカ生成温度Tcが1350℃であるのに対して、カリウムの含有濃度Kcが増えるに従って、結晶性シリカ生成温度Tcが次第に低下していく(例えば750℃といった温度に低下する)。
詳しくは、本実施の形態に係るガス化炉102およびガス化炉102の運転方法において、所定温度または所定温度範囲は、タール熱分解温度以上の温度または該温度を中央温度とする温度範囲である。また、所定時間範囲は、タールの発生を許容レベル以下に抑えるために必要な時間であるタール発生許容時間以上、かつ、結晶性シリカの生成を許容レベル以下に抑えるための時間である結晶性シリカ生成許容時間以下である。
本実施の形態によると、原料として、シリカおよびカリウムを含む原料F(例えば籾殻)を用いて燃料ガスGを生成するに当たって、同一工程(同一時期にかつ同一空間)で、タール熱分解温度(例えば1000℃)以上の所定温度(例えば1050℃)または所定温度範囲(例えば1050℃を中央温度とする温度範囲)の酸化雰囲気下に原料Fを曝す時間が、タール発生許容時間以上で、かつ、結晶性シリカ生成許容時間以下の所定時間範囲内(例えば2分)であれば、タールの発生を確実に抑制すると共に、結晶性シリカの生成を確実に抑制することができる。
ここで、タール発生許容時間は、タールが生成しない、或いは、タールが生成したとしても許容できる発生量となる時間である。タールの許容レベルは、タールのレベルが実用上支障のないレベルとすることができ、後工程(例えばスクラバー105等の装置)でタールを除去する場合には、後工程で除去した後のタールのレベルが実用上支障のないレベルとすることができる。また、結晶性シリカ生成許容時間は、結晶性シリカが生成しない、或いは、結晶性シリカが生成したとしても許容できる生成量となる時間である。結晶性シリカの許容レベルは、結晶性シリカが及ぼす影響を考慮して規定されたレベルとすることができる。
所定温度または所定温度範囲としては、例えば、それには限定されないが、900℃〜1100℃の範囲のうち何れかの温度または該温度を中央温度とする温度範囲を挙げることができる。所定温度または所定温度範囲の中央温度が900℃を下回ると、タールの発生が許容レベルを超えてしまい易い。一方、所定温度または所定温度範囲の中央温度が1100℃を上回ると、酸化域通過時間tpが短くなり過ぎる。また、所定時間範囲内の酸化域通過時間tpとしては、シリカおよびカリウムを含む原料Fにおけるカリウムの含有濃度Kcにもよるが、例えば、結晶性シリカ生成温度Tcが750℃となるカリウムの含有濃度Kcの場合には、所定温度または所定温度範囲の中央温度が900℃のときで5分程度、所定温度または所定温度範囲の中央温度が1100℃のときで1分30秒程度を挙げることができる。
なお、ガス化炉102は、原料Fが酸化域αを通過するときに(通過中に)、次工程のために必要な予め定めた所定熱量(この例ではガスエンジン111を稼動するために必要な熱量)以上の燃料ガスを生成するようになっていてもよいし、原料Fが酸化域αを通過する前および/または通過した後に、低温域βで所定熱量以上の燃料ガスを生成するようになっていてもよい。
[酸化雰囲気温度と結晶性シリカ生成温度到達時間との相関関係について]
本実施の形態に係るガス化炉102の運転方法では、酸化域αの酸化雰囲気温度Tと、原料Fが酸化域αに入った時点から原料F自身の温度が結晶性シリカ生成温度Tcに達するまでの時間である結晶性シリカ生成温度到達時間tcとの相関関係ρ(後述する図6参照および[表1]参照)に基づいて所定温度または所定温度範囲の中央温度および所定時間範囲内の酸化域通過時間tpを決定する。本実施の形態に係るガス化炉102は、酸化雰囲気温度Tと結晶性シリカ生成温度到達時間tcとの相関関係ρに基づいて所定温度または所定温度範囲の中央温度および所定時間範囲内の酸化域通過時間tpを決定する第3手段をさらに備えている。
第3手段は、第1手段(具体的には酸化剤導入部102d)および第2手段(具体的には原料導入部102aおよび排出部102f)を作動制御する。
詳しくは、ガス化炉102は、ガス化炉102全体の制御を司る制御装置102g(図2参照)と、炉102b内における酸化域αの温度を検知する温度検知手段(この例では熱電対102h)とを備えている。第3手段は、制御装置102gの一部の制御手段を構成している。熱電対102hは、酸化域αに設けられている。
制御装置102gは、CPU(Central Processing Unit)等のマイクロコンピュータからなる処理部102g1(図2参照)と、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリ、RAM(Randam Access Memory)等の揮発性メモリを含む記憶部102g2(図2参照)とを備え、タイマー機能を有している。
制御装置102gは、処理部102g1が記憶部102g2のROMに予め格納された制御プログラムを記憶部102g2のRAM上にロードして実行することにより、各種構成要素の作動制御を行うようになっている。
制御装置102gは、原料導入部102aを作動制御して原料導入部102aからの原料Fの単位時間当たりの導入量(具体的には原料導入コンベア102a1の搬送速度)を調整する。制御装置102gは、酸化剤導入部102dを作動制御して酸化剤導入部102dからの酸化剤Hの単位時間当たりの導入量を調整する。また、制御装置102gは、排出部102fを作動制御して排出部102fからの灰Sの単位時間当たりの排出量(具体的には灰排出コンベア102f1の搬送速度)、すなわちチャー層δにおけるチャーRの単位時間当たりの下方への移動距離を調整する。熱電対102hは、検知した酸化域αの温度に関する電気信号を制御装置102gに送信する。制御装置102gは、酸化域αの温度に関する電気信号により酸化域αの温度を検出(認識)する。
そして、制御装置102gは、原料導入部102aからの原料Fの単位時間当たりの導入量、および、排出部102fからの灰Sの単位時間当たりの排出量により、所定時間範囲内の酸化域通過時間tpを設定することができる。
本実施の形態によると、たとえ所定温度または所定温度範囲或いは/さらに所定時間範囲内の酸化域通過時間tpを変更することがあっても、酸化雰囲気温度Tと結晶性シリカ生成温度到達時間tcとの相関関係ρを用いて酸化域αの酸化雰囲気温度Tに対応する所定温度または所定温度範囲、或いは/さらに、結晶性シリカ生成温度到達時間tcに対応する所定時間範囲内の酸化域通過時間tpを容易に(例えば自動的に或いはマニュアル操作で、この例では制御装置102gによる制御動作により自動的に)変更することができる。
(相関関数の式)
本発明者らの知見によると、酸化雰囲気温度Tが結晶性シリカ生成温度Tc(この例では750℃)より下回る場合には、結晶性シリカは生成されず、結晶性シリカ生成温度到達時間tcは理論上無限大になる。一方、結晶性シリカ生成温度到達時間tcは実際上0分になることはない。そして、実験結果のグラフ(図6参照)からすると、酸化雰囲気温度Tと結晶性シリカ生成温度到達時間tcとの相関関係ρは反比例の関係とみなすことができる。
図6は、結晶性シリカ生成温度が750℃の場合で実験を行った結果得られた酸化雰囲気温度Tと結晶性シリカ生成温度到達時間tcとの相関関係ρを示すグラフである。
図6に示すように、酸化雰囲気温度Tと結晶性シリカ生成温度到達時間tcとの相関関係ρは、以下の式[1]で示される相関関数の式κに対応させることができる。
但し、式[1]において、Tは、酸化雰囲気温度であり、tは、結晶性シリカ生成許容時間であり、tminは、タール発生許容時間であり、a,b,cは、原料Fの成分量(特にカリウムの含有濃度)により変化する定数である。
ここで、定数a,b,c,dは、予め行った実験および/またはシミュレーションによって算出することができる値であり、原料F(例えば籾殻)の成分量、特にカリウムの含有濃度に依存する。
定数a,b,c,dは、実験等により得られた4点の(T,t)の値を式[1]に代入して得られる4つの連立方程式、例えば、原料Fが、結晶性シリカ生成温度が750℃となるカリウムの含有濃度の原料の場合、T=900℃、t=5分としたときの式[1]から得られる第1方程式と、T=950℃、t=4分としたときの式[1]から得られる第2方程式と、T=1050℃、t=2分としたときの式[1]から得られる第3方程式と、T=1100℃、t=1分30秒としたときの式[1]から得られる第4方程式との4つの連立方程式を解くことで、得ることができる。
酸化雰囲気温度Tと結晶性シリカ生成温度到達時間tcとの相関関係ρを示す相関関数の式κは、記憶部102g2に予め記憶されている。
制御装置102gは、酸化雰囲気温度Tから結晶性シリカ生成温度到達時間tcを検出(認識)することができる。これにより、制御装置102gは、酸化雰囲気温度Tに応じた所定時間範囲(酸化域通過時間tp)を図6に示す斜線で囲む範囲とすることができる。一方、制御装置102gは、結晶性シリカ生成温度到達時間tcから酸化雰囲気温度Tを検出(認識)することができる。これにより、制御装置102gは、結晶性シリカ生成温度到達時間tcに応じた所定温度または所定温度範囲の中央温度(酸化雰囲気温度T)を図6に示す斜線で囲む範囲とすることができる。
そして、制御装置102gは、式[1]の関係を満たすように、所定時間範囲或いは/さらに所定温度または所定温度範囲を制御することができる。また、操作者は、式[1]の関係を満たすように、所定時間範囲或いは/さらに所定温度または所定温度範囲を設定することができる。
かかる構成によると、相関関数の式κを用いることで、所定時間範囲或いは/さらに所定温度または所定温度範囲を設定するための制御構成を簡単にかつ容易に実現させることができる。
(相関表)
また、酸化雰囲気温度Tと結晶性シリカ生成温度到達時間tcとの相関関係ρは、カリウムの所定の含有濃度の原料Fを基準とした以下の[表1]で示される相関表に対応させることができる。
但し、[表1]において、Tは、酸化雰囲気温度であり、tは、結晶性シリカ生成許容時間であり、t(K小)は、基準となる原料Fのカリウムの含有濃度よりも少ない原料Fでの結晶性シリカ生成許容時間を表しており、t(K大)は、基準となる原料Fのカリウムの含有濃度よりも多い原料Fでの結晶性シリカ生成許容時間tを表しており、A,B,C,D,Eは、酸化雰囲気温度Tに対する結晶性シリカ生成許容時間tの設定値であり、原料Fの成分量(特にカリウムの含有濃度)により変化する設定値であってタール発生許容時間tmin以上の設定値である。なお、A,B,C,D,Eは、A>B>C>D>Eの関係を満たす。
ここで、設定値A,B,C,D,Eは、予め行った実験および/またはシミュレーションによって設定することができる値であり、原料F(例えば籾殻)の成分量(特にカリウムの含有濃度)に依存する。
例えば、基準原料が、結晶性シリカ生成温度が750℃となるカリウムの含有濃度の原料の場合、[表1]中のAを5分または略5分とし、Bを4分または略4分とし、Cを2分50秒または略2分50秒とし、Dを2分または略2分とし、Eを1分30秒または略1分30秒とすることができる。
酸化雰囲気温度Tと結晶性シリカ生成温度到達時間tcとの相関関係ρを示す相関表は、記憶部102g2に予め記憶されている。
そして、制御装置102gは、[表1]の関係を満たすように、所定時間範囲或いは/さらに所定温度または所定温度範囲を制御することができる。また、操作者は、[表1]の関係を満たすように、所定時間範囲或いは/さらに所定温度または所定温度範囲を設定することができる。
かかる構成によると、相関表を用いることで、所定時間範囲或いは/さらに所定温度または所定温度範囲を設定するための制御構成を簡単にかつ容易に実現させることができる。
(相関関係の設定)
本実施の形態において、ガス化炉102の設置時または原料Fの調達地の決定時若しくは変更時に相関関係ρを設定または更新する。
本実施の形態では、ガス化炉102の設置場所または原料Fの調達地での原料Fについて相関関係ρを計測して、或いは、各種の成分量(特にカリウムの含有濃度)の原料Fに対して予め実験等を行って各種の成分量の原料Fに対する相関関係ρを取得しておき、ガス化炉102の設置場所または原料Fの調達地での原料Fの成分量(特にカリウムの含有濃度)を計測し、得られた原料Fの成分量(特にカリウムの含有濃度)により予め実験等により取得しておいた各種の相関関係ρ〜ρからガス化炉102の設置場所または原料Fの調達地での原料Fに適用する相関関係ρを選択して、ガス化炉102の設置場所または原料Fの調達地での原料Fの成分量(特にカリウムの含有濃度)に応じてタールの発生と結晶性シリカの生成との双方の抑制を同時的に両立させる酸化域αの酸化雰囲気温度Tと原料Fの酸化域通過時間tpとを調整することができる。なお、各種の相関関係ρ〜ρは、予め記憶部102g2に設定(記憶)しておくことができる。
[予熱について]
第6実施形態に係るガス化炉102の運転方法は、原料Fを導入するに先立ち、炉102b内を所定温度または所定温度範囲に予熱する。本実施の形態に係るガス化炉102は、原料Fを導入するに先立ち、炉102b内を所定温度または所定温度範囲に予熱する第4手段をさらに備えている。詳しくは、第4手段は、予熱部102cを含んでいる。
かかる構成によると、原料Fを導入するに先立ち、炉102b内を所定温度または所定温度範囲に予熱(事前に加熱)することで、ガス化処理を迅速に行うことができる。
なお、本実施の形態に係るガス化炉102において、制御装置102gは、熱電対102hからの検知温度により酸化域αの温度が所定温度に維持するように、または、所定温度範囲内に入るように原料導入部102aからの原料Fの単位時間当たりの導入量、酸化剤導入部102dからの酸化剤Hの単位時間当たりの導入量、排出部102fからの灰Sの単位時間当たりの排出量、すなわちチャー層δにおけるチャーRの単位時間当たりの下方への移動距離のうち少なくとも1つを調整する構成とされていてもよい。
本発明は、以上説明した実施の形態に限定されるものではなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、かかる実施の形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。