以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、膝関節を人工膝関節に置換する人工膝関節置換術において用いられる人工膝関節置換術用手術器具として広く適用することができる。
[人工膝関節置換術用手術器具の概略]
図1及び図2は、本発明の一実施の形態に係る人工膝関節置換術用手術器具1と大腿骨100の一部とを示す斜視図である。図1及び図2に示す人工膝関節置換術用手術器具1は、膝関節を人工膝関節に置換する人工膝関節置換術において用いられる。
尚、図1は、人工膝関節置換術用手術器具1の切除ガイド本体部11等が大腿骨100の遠位側の端部に設置された状態を示す斜視図である。一方、図2は、人工膝関節置換術用手術器具1のサイザー15等が大腿骨100の遠位側の端部に設置された状態を示す斜視図である。ここで、「遠位側」とは、体幹からより遠い側である。尚、図1及び図2においては、大腿骨100の遠位側の端部及びその近傍以外の人体組織の図示が省略されており、大腿骨100の外形の凹凸形状が仮想の線で模式的に表されている。
図3は、切除ガイド本体部11等を示す斜視図である。図4は、切除ガイド本体部11等を示す斜視図であって、図3とは異なる方向から見た状態を示す斜視図である。図5は、切除ガイド本体部11等を示す正面図である。図6は、切除ガイド本体部11等を示す側面図である。
図1乃至図6に示すように、人工膝関節置換術用手術器具1は、切除ガイド本体部11、骨設置部12、位置調整機構13、大腿骨前面参照部14、サイザー15を備えて構成されている。切除ガイド本体部11、骨設置部12、位置調整機構13、大腿骨前面参照部14、サイザー15は、例えば、ステンレス鋼等の金属材料で形成されている。
[切除ガイド本体部]
図1、図3乃至図6に示す切除ガイド本体部11は、大腿骨100の遠位側の端部100aの切除面100bに対して後述する骨設置部12を介して設置される。尚、人工膝関節置換術においては、人工膝関節の大腿骨コンポーネント(図示省略)が大腿骨100に設置される際には、まず、大腿骨100の遠位側の端部100aが一部切除される。これにより、大腿骨100の遠位側の端部100aにおいて、大腿骨100の骨軸方向(骨の長手方向)に対して略垂直に広がる切除面100bが形成される。このため、切除面100bは、人体の上下方向に対して略垂直な面として形成される。
上記のように切除面100bが形成された後、切除ガイド本体部11が、骨設置部12を介して、切除面100bに設置される。このとき、人工膝関節置換術を行う術者は、後述するように人工膝関節置換術用手術器具1を操作し、切除面100bに対して切除ガイド本体部11の位置を調整する。そして、切除面100bに対して切除ガイド本体部11が設置された状態で、大腿骨コンポーネントの設置用の面を大腿骨100の遠位側の端部100aに形成する作業が行われる。
切除ガイド本体部11には、大腿骨設置面21、複数のスリット(22a、22b、22c、22d)、スライド溝23、位置決め部24、取り付け穴25、固定ピン孔26、等が設けられている。
大腿骨設置面21は、切除ガイド本体部11が後述する骨設置部12を介して大腿骨100の切除面100bに設置される際に切除面100bに対向して当接する平坦な端面として設けられている。尚、切除ガイド本体部11は、平坦な大腿骨設置面21に沿って広がるとともに大腿骨設置面21に対して垂直な方向の厚みを有するブロック状の基本形状を有している。そして、切除ガイド本体部11は、上記の基本形状に対して、更に、複数のスリット(22a、22b、22c、22d)などの凹凸形状等が形成されている。
複数のスリット(22a、22b、22c、22d)は、大腿骨100の遠位側の端部100aの切除面100bに対して交差する複数の方向に沿って大腿骨100を切除する切除刃の切除方向をガイドするように設けられている。上記の切除刃は、例えば、電動カッター等として構成される骨切除装置(図示省略)に設けられる切除刃として構成される。各スリット(22a、22b、22c、22d)は、大腿骨設置面21から切除ガイド本体部11における大腿骨設置面21とは反対側の面に亘って切除ガイド本体部11を貫通するスリットとして形成されている。
切除ガイド本体部11は、後述する骨設置部12を介して大腿骨100の切除面100bに設置される。そして、切除ガイド本体部11が切除面100bに設置された状態で、各スリット(22a、22b、22c、22d)のそれぞれに対して前述の骨切除装置の切除刃が挿入される。そして、各スリット(22a、22b、22c、22d)によって切除方向がガイドされながら、骨切除装置の切除刃による大腿骨100の端部100aの切除が行われる。
切除ガイド本体部11のスライド溝23は、大腿骨設置面21において凹み形成された溝として構成されている。スライド溝23は、大腿骨設置面21において、切除ガイド本体部11の左右方向の中央部分にて切除方向ガイド本体部11の左右方向と直交する方向に沿って延びる溝として設けられている。また、スライド溝23は、溝幅方向に対して溝深さが浅い幅広の溝として形成される。
尚、切除ガイド本体部11の左右方向は、図4及び図5において両端矢印Bで示されており、切除ガイド本体部11が大腿骨100の端部100aに設置された状態で人体の左右方向に対応する方向である。スライド溝23の溝幅方向は、切除ガイド本体部11の左右方向に対応している。また、スライド溝23が延びる方向は、図4及び図5において両端矢印Cで示されており、切除ガイド本体部11が大腿骨100の端部100aに設置された状態で人体の前後方向に対応する方向である。
スライド溝23に対しては、後述する骨設置部12のプレート部12aが嵌め込まれる。プレート部12aとスライド溝23とは、互いに摺動自在に設けられている。これにより、プレート部12aがスライド溝23に嵌め込まれた状態となることで、切除ガイド本体部11が、骨設置部12に対して、スライド移動自在に取り付けられることになる。
図7は、図5のA−A線矢視位置から見た状態を示す切除ガイド本体部11等の断面図である。図3、図4及び図7に示すように、スライド溝23には、その溝幅方向の中央部分において、スライド溝23と平行に延びる係合溝23aが設けられている。係合溝23aは、スライド溝23の溝幅方向の中央部分において凹み形成されている。係合溝23aには、骨設置部12のプレート部12aから幅広のレール状に突出して延びるように設けられたスライド係合部12b(図7を参照)がスライド移動自在の状態で嵌め込まれる。尚、スライド係合部12bは、プレート部12aにおいて、大腿骨100に対して設置される側の面と反対側の面に設けられている。
尚、係合溝23aの幅方向の両端部分は、溝の奥側に向かって、溝幅方向の寸法が少し大きくなるように構成されている(図3、図4及び図7を参照)。即ち、係合溝23aは、溝の開口側である大腿骨設置面21側に向かって、溝幅方向の寸法が少し狭まるように、形成されている。
一方、骨設置部12において係合溝23aに嵌め込まれる部分の形状、即ち、幅広のレール状に設けられたスライド係合部12bのレール幅方向の両端部分の形状は、係合溝23aの幅方向の両端部分の形状に対応している。より具体的には、スライド係合部12bのレール幅方向の両端部分は、プレート部12aから突出する凸状の先端側に向かって、レール幅方向の寸法が少し大きくなるように、形成されている。そして、スライド係合部12bのレール幅方向の両端部分は、係合溝23aの幅方向の両端部分に対してスライド移動自在に嵌まり込むように構成されている。また、このように嵌まり込んだ状態では、スライド係合部12bのレール幅方向の両端部分は、係合溝23aの幅方向の両端部分に対して、大腿骨設置面21に垂直な方向において係合している。
尚、骨設置部12に対して切除ガイド本体部11が取り付けられるときには、骨設置部12のプレート部12aは、切除ガイド本体部11に対して、スライド溝23に沿って相対的にスライド移動するように操作される。これにより、プレート部12aが、スライド溝23にスライド移動自在に嵌め込まれる。そして、スライド係合部12bが、係合溝23aに対して係合した状態でスライド移動自在に嵌め込まれる。
位置決め部24は、切除ガイド本体部11において、スライド溝23が延びる方向における一方の端部に形成された溝として設けられている。そして、位置決め部24は、大腿骨前面参照部14が切除ガイド本体部11に取り付けられる際に、大腿骨前面参照部14を切除ガイド本体部11に対して位置決めする部分として設けられている。
また、位置決め部24は、切除ガイド本体部11において、切除ガイド本体部11が大腿骨100の端部100aに設置された状態で人体の前方側に配置される端部に、設けられている。そして、位置決め部24は、切除ガイド本体部11の端部において、溝幅方向が切除ガイド本体部11の左右方向に対応した溝として形成されている。
取り付け孔25は、後述する位置調整機構13のカム軸部27が取り付けられる貫通孔として設けられている。後述するカム軸部27は、取り付け穴25に挿入され、切除ガイド本体部11に取り付けられる。また、取り付け孔25は、円形断面の部分を有している。そして、カム軸部27は、その外周部分において上記の円形断面の部分の内周に対して摺動自在の状態で、取り付け孔25に挿入されて取り付けられる。これにより、カム軸部27は、切除ガイド本体部11に対して、回転自在の状態で保持される。
固定ピン孔26は、切除ガイド本体部11を大腿骨100の端部100aに対して固定するための固定ピン(図示省略)が挿入される貫通孔として設けられている。固定ピン孔26は、複数設けられている。本実施形態では、切除ガイド本体部11の左右方向における両端側にそれぞれ2つずつ設けられている。
後述するように位置調整機構13が術者によって操作され、切除面100bに対する切除ガイド本体部11の位置の調整が完了すると、固定ピン(図示省略)が、固定ピン孔26に対して挿通されて嵌合する。更に、上記の固定ピンの先端部は、大腿骨100の端部100aに対して突き刺さるようにして打ち込まれ、大腿骨100に固定される。これにより、切除ガイド本体部11が大腿骨100の端部100aに対してより強固に固定される。
[骨設置部]
図4、図6及び図7に示す骨設置部12は、プレート部12a、スライド係合部12b、スパイクピン12c、等を備えて構成されている。プレート部12a、スライド係合部12b、スパイクピン12cは、一体に設けられている。
プレート部12aは、平板状の部分として設けられ、骨設置部12の基体部分を構成している。本実施形態では、プレート部12aの形態として、略T字型の外形の平板状の部分として設けられた形態が例示されている。プレート部12aは、切除ガイド本体部11のスライド溝23に対して、スライド移動自在に嵌め込まれる。
スライド係合部12bは、前述の通り、プレート部12aから幅広のレール状に突出して延びるように設けられた部分として構成されている。そして、スライド係合部12bは、前述の通り、切除ガイド本体部11の係合溝23aの断面形状に対応した形状に形成され、係合溝23aに対してスライド移動自在の状態で嵌め込まれる。
スパイクピン12cは、複数設けられ、本実施形態では、一対(即ち、2つ)設けられた形態が例示されている。一対のスパイクピン(12c、12c)のそれぞれは、大腿骨100の端部100aの切除面100bに刺し込まれる部分として設けられている。骨設置部12は、スパイクピン12cが大腿骨100の端部100aに刺し込まれて係合することで、大腿骨100に設置される。
各スパイクピン12cは、プレート部12aから片持ち状に突出した部分として設けられている。各スパイクピン12cは、プレート部12aが平板状に広がる面方向に対して垂直な方向に沿って片持ち状に突出して延びるように設けられている。尚、本実施形態では、スパイクピン12cの形態として、プレート部12aから角柱状の部分として片持ち状に突出し、先端部が四角錐状の部分として構成された形態が例示されている。
また、一対のスパイクピン(12c、12c)は、プレート部12aにおいて、スライド係合部12bが設けられる側の面と反対側の面に設けられている。そして、一対のスパイクピン(12c、12c)は、骨設置部12の左右方向における両端部分から片持ち状に突出するように設けられている。尚、骨設置部12の左右方向は、図4、図5及び図7において両端矢印Bで示されており、骨設置部12が大腿骨100の端部100aに設置された状態で人体の左右方向に対応する方向である。また、骨設置部12の左右方向は、切除ガイド本体部11の左右方向にも対応している。
[位置調整機構]
図1、図3乃至図8に示す位置調整機構13は、骨設置部12に対して切除ガイド本体部11の位置を大腿骨100の切除面100bと平行な方向に沿って変位させて位置調整を行う機構として設けられている。即ち、骨設置部12のスパイクピン12cが大腿骨100に係合して人工膝関節置換術用手術器具1が切除面100bに設置された状態で、位置調整機構13は、骨設置部12に対して切除ガイド本体部11の位置を人体の前後方向に沿って変位させるように構成されている。
位置調整機構13は、骨設置部12と切除ガイド本体部11とを連結する機構の一部を構成している。即ち、骨設置部12及び切除ガイド本体部11は、プレート部12a及びスライド係合部12bと、スライド溝23及び係合溝23aと、を介して連結されているとともに、位置調整機構13を介しても連結されている。
位置調整機構13は、カム軸部27と長孔28とを含んで構成されている。カム軸部27は、骨設置部12及び切除ガイド本体部11の一方に取り付けられる。本実施形態では、カム軸部27が、切除ガイド本体部11に取り付けられる形態が例示されている。そして、長孔28は、骨設置部12及び切除ガイド本体部11の他方に設けられる。本実施形態では、長孔28が、骨設置部12に設けられた形態が例示されている。
カム軸部27は、一体に形成された軸本体部27a及びカム27bを有して構成されている。軸本体部27aは、略円柱状の部分として設けられている。軸本体部27aは、切除ガイド本体部11の取り付け孔25に挿入される。軸本体部27aの外周の直径寸法は、軸本体部27aの外周が取り付け孔25の内周に対して摺動自在となるように、取り付け孔25の内周の直径寸法に対応して設定されている。これにより、軸本体部27aは、切除ガイド本体部11に対して、回転自在に取り付けられる。
軸本体部27aには、連結用穴27c及び外周溝27dが設けられている。連結用穴27cは、円柱状の軸本体部27aにおける軸方向の両端面のうちの一方の端面において開口する穴として設けられている。そして、連結用穴27cは、後述するトルクドライバー103(後述する図16を参照)の先端のトルク入力軸103aに連結される穴として設けられている。尚、トルクドライバー103は、位置調整機構13に入力される駆動トルクを発生させる器具として用いられる。連結用穴27cにトルク入力軸103aが挿入されて連結され、トルクドライバー103の操作が行われることで、軸本体部27aを回転させて位置調整機構13を作動させるための駆動トルクが人工膝関節置換術用手術器具1に入力される。
連結用孔27cは、円柱状の軸本体部27aの円柱軸心上に設けられ、軸本体部27aを軸方向に貫通する多角形断面の穴として設けられている。そして、トルクドライバー103のトルク入力軸103aの断面形状も、多角形断面に形成されている。連結用孔27cの内周の断面形状は、トルク入力軸103aの断面形状に対応した形状に形成されている。
図7に示すように、外周溝27dは、軸本体部27aの外周に沿って環状に延びる溝として設けられている。外周溝27dは、切除ガイド本体部11に嵌合する円柱状の位置決めピン29が部分的に嵌まり込む溝として構成されている。切除ガイド本体部11の取り付け孔25に挿入された軸本体部27aの外周溝27dに位置決めピン29が部分的に嵌まり込むことで、切除ガイド本体部11の厚み方向におけるカム軸部27の位置が位置決めされる。尚、切除ガイド本体部11の厚み方向は、図7において、両端矢印Dで示されている。
外周溝27dの溝幅寸法は、外周溝27dに対して位置決めピン29が摺動自在に嵌め込まれるように、位置決めピン29の直径寸法に対応して設定されている。外周溝27dに対して位置決めピン29が摺動自在に嵌め込まれることで、切除ガイド本体部11の厚み方向における位置が位置決めされた軸本体部27aが、取り付け孔25内で回転自在に保持される。即ち、カム軸部27が、切除ガイド本体部11に対して、回転自在の状態で保持される。尚、位置決めピン29は、切除ガイド本体部11に設けられた嵌合穴(図示省略)に挿入されて嵌合した状態で、外周溝27dに対しても摺動自在の状態で嵌め込まれる。
カム27bは、軸本体部27aと一体に設けられ、軸本体部27aの直径寸法よりも小径の円柱状の部分として設けられている。そして、カム27bは、円柱状の軸本体部27aにおける軸方向の両端面のうちの連結用穴27cが開口する端面とは反対側の端面から片持ち状に突出するように設けられている。
また、カム27bは、円柱状の軸本体部27aの円柱軸心からずれた位置において、軸本体部27aから突出するように設けられている。そして、円柱状のカム27bの軸心は、軸本体部27aの軸心から偏心した位置に配置されている。更に、カム27bは、軸本体部27aが取り付け孔25に挿入されて位置決めピン29によって位置決めされた状態で、スライド溝23に突出するように、設けられている。
長孔28は、骨設置部12のプレート部12aに貫通形成された孔として設けられている。そして、長孔28は、カム27bが挿入される孔として構成されている。尚、骨設置部12に切除ガイド本体部11が取り付けられ、更に、軸本体部27aが取り付け孔25に挿入されるとともに、カム27bが長孔28に挿入された状態で、軸本体部27aが位置決めピン29によって位置決めされる。
長孔28は、カム27bの直径寸法に対応する孔幅寸法を有する孔として設けられる。そして、カム27bは、その外周の一部が長孔28の内周の一部に摺動自在な状態で、長孔28に挿入される。また、長孔28の長手方向は、骨設置部12の左右方向に沿って延びるように設けられている。
前述の通り、カム27bの軸心は、軸本体部27aの軸心から偏心している。そして、骨設置部12は、切除ガイド本体部11に対して、スライド溝23及び係合溝23aに沿って相対的にスライド移動自在に配置されている。このため、取り付け孔25内で軸本体部27aが回転すると、カム27bは、長孔28内での長手方向における位置を変化させながら、骨設置部12に対して相対変位することになる。
上記により、骨設置部12が切除面100bに設置された状態において、取り付け孔25内で軸本体部27aが回転すると、カム27bの長孔28内での位置が変化し、骨設置部12に対する切除ガイド本体部11の位置が変化する。即ち、骨設置部12が設置された切除面100bに対して、切除ガイド本体部11の位置が変化する。
図8及び図9は、切除ガイド本体部11等を示す背面図であって、位置調整機構13の作動を説明するための図である。図8及び図9においては、切除ガイド本体部11、骨設置部12、位置調整機構13、及び大腿骨前面参照部14が組み立てられた状態が、図示されている。
尚、位置調整機構13は、骨設置部12のスパイクピン12cが大腿骨100に刺し込まれて係合し、人工膝関節置換術用手術器具1が大腿骨100に設置された状態で、術者によって操作されることになる。しかし、図8及び図9では、位置調整機構13の作動をより分かり易く示すため、大腿骨100の図示が省略されている。
スパイクピン12cが大腿骨100に刺し込まれて人工膝関節置換術用手術器具1が図8に示す状態で大腿骨100に設置されている場合、切除ガイド本体部11は、図9に示す状態の場合に比して、骨設置部12及び切除面100bに対して前方側に位置している。図8に示す状態において、位置調整機構13がトルクドライバー103によって操作され、軸本体部27aが図8にて矢印Eで示す方向に略90度回転すると、人工膝関節置換術用手術器具1は、図9に示す状態に移行することになる。尚、図8において矢印Eで示す方向は、切除ガイド本体部11の背面側(図8に示す側)から見て反時計周り方向であり、切除ガイド本体部11の正面側(図5に示す側)から見て時計周り方向である。
図8に示す状態においては、切除ガイド本体部11は、骨設置部12及び切除面100bに対して、最も前方側に位置している。そして、位置調整機構13が操作され、図9に示す状態になると、切除ガイド本体部11は、骨設置部12及び切除面100bに対して、最も後方側に位置することになる。
尚、図8に示す状態から図9に示す状態に移行する間においては、カム27bは、長孔28内における相対位置が変化する。より具体的には、軸本体部27aが略45度回転する間、カム27bは、長孔28内において、一旦、一方の端部から他方の端部へと相対的に移動する。そして、軸本体部27aが更に続けて略45度回転する間、カム27bは、長孔28内において、他方の端部から一方の端部へと相対的に移動する。
上記のように、軸本体部27aの軸心に対して偏心した位置にカム27bが設けられたカム軸部27が上記のように回転することで、切除ガイド本体部11が、切除面100bに固定された骨設置部12に対して、切除面100bと平行な方向に沿って、前方側から後方側へと変位することになる。一方、カム軸部27が上記とは反対方向に回転すると、切除ガイド本体部11は、骨設置部12に対して、切除面100bと平行な方向に沿って、後方側から前方側へと変位することになる。
上記のように、位置調整機構13は、カム軸部27が回転することで、骨設置部12に対して切除ガイド本体部11の位置を切除面100bと平行な方向に沿って人体の前後方向に変位させて位置調整を行う機構として、設けられている。よって、人工膝関節置換術用手術器具1を使用する術者は、位置調整機構13をトルクドライバー103を用いて操作することにより、切除ガイド本体部11の切除面100bに対する前後方向の位置を調整することができる。
[大腿骨前面参照部]
図10は、大腿骨前面参照部14を示す斜視図である。図11は、大腿骨前面参照部14を示す斜視図であって、図10とは異なる方向から見た状態を示す斜視図である。図1、図2、図8乃至図11に示す大腿骨前面参照部14は、基部30及びロッド31を備えて構成されている。大腿骨前面参照部14は、切除ガイド本体部11に対して、着脱可能に取り付けられる機構として設けられている。また、大腿骨前面参照部14は、術者が大腿骨100の遠位側の端部100aの前面の切除範囲を確認するために、術者によって参照されるための機構として、設けられている。
基部30は、切除ガイド本体部11に対して人体の前面側において取り付けられるとともに、ロッド31を支持する部材として設けられる。基部30が切除ガイド本体部11に取り付けられることで、大腿骨前面参照部14が、切除ガイド本体部11に対して人体の前面側において取り付けられることになる。
基部30には、ブロック状に設けられた本体部分30aと、この本体部分30aに一体に設けられた挿入部30bとが備えられている。本体部分30aには、矩形断面のロッド挿入孔30cが設けられている。ロッド挿入孔30cは、貫通孔として設けられ、ロッド31が挿入される。ロッド31は、ロッド挿入孔30cに挿入されて本体部分30aに保持された状態で、基部30に支持される。
基部30の挿入部30bは、切除ガイド本体部11の複数のスリットのうちのいずれかに挿入される部分として設けられている。より具体的には、挿入部30bは、切除ガイド本体部11のスリット22aに挿入される部分として設けられている。尚、スリット22aは、大腿骨100の端部100aの前面側が切除される際に前述の骨切除装置の切除刃が挿入されるスリットとして、構成されている。
挿入部30bは、本体部分30aと一体に設けられ、本体部分30aの端部30dの端面と平行な面に沿って二股状に延びる平板状の部分として設けられている。本体部分30aの端部30dと挿入部30bとは、架橋部分30eを介して一体に設けられている。図8及び図9に示すように、挿入部30bがスリット22aに挿入されることで、大腿骨前面参照部14が切除ガイド本体部11に対して着脱可能に取り付けられる。尚、挿入部30bは、スリット22aに対して、切除ガイド本体部11の正面側から背面側に向かって挿入される。
また、挿入部30bがスリット22aに挿入されて大腿骨前面参照部14が切除ガイド本体部11に取り付けられる際には、基部30aの端部30dが、位置決め部24に嵌め込まれる。基部30aの端部30dの幅寸法は、切除ガイド本体部11の端部の溝として設けられた位置決め部24の溝幅寸法よりも、少し小さい寸法に設定されている。このため、基部30aの端部30dは、位置決め部24に対して、遊嵌状態で嵌め込まれる。挿入部30bがスリット22aに挿入されて大腿骨前面参照部14が切除ガイド本体部11に取り付けられる際に、基部30aの端部30dが位置決め部24に嵌め込まれることで、大腿骨前面参照部14が切除ガイド本体部11に対して位置決めされることになる。
ロッド31は、軸状又は棒状の部材として設けられ、基部30aのロッド挿入孔30cに対してスライド移動自在の状態で挿入される矩形断面の部材として設けられている。図1に示すように、ロッド31は、人工膝関節置換術用手術器具1が大腿骨100の端部100aに設置された状態で、大腿骨100の前面に沿って延びるように配置される。
また、人工膝関節置換術用手術器具1が大腿骨100の端部100aに設置された状態で大腿骨100の前面に沿って延びるロッド31の先端側の部分には、大腿骨100の前面に向かって屈曲して延びる屈曲部31aが設けられている。より具体的には、屈曲部31aは、ロッド31の長手方向に対して大腿骨100の前面に向かって斜めに屈曲した後、その先端側にかけて、大腿骨100の前面に向かって真っすぐ延びるように、設けられている。
また、ロッド31は、切除ガイド本体部11に対して、基部30aを介して、揺動可能に設置される。挿入部30bがスリット22aに挿入されるとともに基部30aの端部30dが位置決め部24に嵌め込まれた状態においては、前述の通り、基部30aの端部30dは、位置決め部24に遊嵌状態で嵌め込まれている。このため、基部30は、切除ガイド本体部11に対して揺動可能に設置され、基部30aに支持されたロッド31も、切除ガイド本体部11に対して揺動可能に設置されることになる。
[サイザー]
図12は、サイザー15を示す正面図である。図13は、サイザー15等が大腿骨100の遠位側の端部100aに設置された状態を示す正面図である。
図2、図12、及び図13に示すサイザー15は、大腿骨100の遠位側の端部100aに設置される人工膝関節(図示省略)の大腿骨コンポーネント(図示省略)のサイズの決定のために用いられる。サイザー15は、大腿骨100の遠位側の端部100aに配置されて用いられる(図2及び図13を参照)。そして、サイザー15は、大腿骨100の遠位側の端部100aに配置された状態で大腿骨100の遠位側の端部100aに設置される上記大腿骨コンポーネントのサイズを指標可能な機構として構成されている。
図12及び図13によく示すように、サイザー15は、骨取付部32、揺動部33、及びスライド部34を備えて構成されている。
骨取付部32は、大腿骨100の端部100aに固定されて取り付けられる要素として設けられている。そして、骨取付部32は、中央本体部32a、一対の脚部(32b、32b)、一対の顆当接部(32c、32c)、等を備えて構成されている。中央本体部32a、一対の脚部(32b、32b)、一対の顆当接部(32c、32c)は、一体に設けられている。
中央本体部32aは、骨取付部32が大腿骨100の端部100aに取り付けられた状態で、大腿骨100の骨軸の軸心付近に配置されるとともに、切除面100bに対向して配置される。一対の脚部(32b、32b)は、中央本体部32aからそれぞれ突出するように設けられている。一対の脚部(32b、32b)は、骨取付部32が大腿骨100の端部100aに取り付けられた状態で、人体の左右方向に並んで配置されるように、中央本体部32aから突出している。
一対の顆当接部(32c、32c)は、大腿骨100の端部100aの後方側の両顆(両方の後顆)に対して当接する部分として設けられている。即ち、一方の顆当接部32cが、大腿骨100の端部100aにおける一方の後顆に当接する。そして、他方の顆当接部32cが、大腿骨100の端部100aにおける他方の後顆に当接する。各顆当接部32cは、平板状に広がるパドル状の部分として設けられている。各顆当接部32cにおける平坦な面が、大腿骨100の端部100aの各後顆に当接する。
また、一対の顆当接部(32c、32c)のそれぞれは、一対の脚部(32b、32b)のそれぞれの先端側において、一体に設けられている。即ち、一方の顆当接部32cが、一方の脚部32bの先端側に一体に設けられている。そして、他方の顆当接部32cが、他方の脚部32bの先端側に一体に設けられている。よって、一対の顆当接部(32c、32c)は、骨取付部32が大腿骨100の端部100aに取り付けられた状態においては、人体の左右方向に沿って並んで配置され、大腿骨100の端部100aの両顆に当接する。
また、骨取付部32には、一対の脚部(32b、32b)のそれぞれにおいて、ピン孔32dが設けられている。各ピン孔32dは、各脚部32bにおいて貫通形成されており、骨取付部32を大腿骨100の端部100aに取り付けて固定するためのピン35が挿通される孔として設けられている(図13を参照)。ピン35がピン孔32dを貫通する状態でピン孔32dに挿通され、更にそのピン35が切除面100bにおいて大腿骨100の端部100aに刺し込まれて係合することで、骨取付部32が大腿骨100に取り付けられて固定される。骨取付部32が大腿骨100に取り付けられる際、ピン孔32dは、1つのみが用いられてもよく、また、2つが用いられてもよい。図13においては、1つのピン孔32dにのみピン35が挿通され、1本のピン35によって骨取付部32が大腿骨100に固定された形態が例示されている。
揺動部33は、一対のサイズ表示部(33a、33a)、架橋部33b、等を備えて構成され、骨取付部32に対して揺動可能に支持される。一対のサイズ表示部(33a、33a)及び架橋部33bは、一体に設けられる。一対のサイズ表示部(33a、33a)は、一対の柱状の部分として設けられ、架橋部33bによって架橋されている。尚、架橋部33bは、一対のサイズ表示部(33a、33b)のそれぞれの端部を一体に架橋している。
一対のサイズ表示部(33a、33a)には、大腿骨100の端部100aに設置される前述の大腿骨コンポーネントのサイズを決定するために術者によって参照されるサイズ表示目盛が設けられている。サイズ表示目盛は、例えば、一対のサイズ表示部(33a、33a)において所定間隔で刻印された目盛として設けられている。サイズ表示目盛は、サイズ表示部33aの長手方向に沿って並んで刻印されている。そして、サイズ表示目盛の近傍には、対応する大腿骨コンポーネントのサイズを指標する数値が刻印されている。
また、一対のサイズ表示部(33a、33a)のそれぞれには、長孔状の窓33cが、上記のサイズ表示目盛に隣接する位置に設けられている。窓33cは、一対のサイズ表示部(33a、33a)のそれぞれに設けられている。各窓33cは、各サイズ表示部33aの長手方向に沿って延びる長孔状に設けられている。そして、各窓33cは、後述するスライド部34の各スライド軸34aの端部が視認可能に設けられている。
揺動部33は、骨取付部32に対して、カム機構或いはギヤ機構として構成された揺動駆動機構(図示省略)を介して、揺動可能に連結されている。揺動部33の架橋部33bには、揺動操作のために術者によって回転操作が行われる部分である操作ツマミ33dが設けられている。サイザー15は、操作ツマミ33dが術者によって回転操作されることで、上記の揺動駆動機構が作動し、揺動部33が骨取付部32に対して揺動するように構成されている。また、揺動部33は、骨取付部32が大腿骨100の端部100aに取り付けられた状態で操作ツマミ33dが操作されることで、大腿骨100の骨軸の軸心付近を中心として揺動するように、上記の揺動駆動機構を介して骨取付部32に連結されている。
また、揺動部33には、一対のサイズ表示部(33a、33a)のそれぞれにおいて、ピン孔33eが設けられている。各ピン孔33eは、各サイズ表示部33aにおいて貫通形成されている。各ピン孔33eは、骨設置部12の各スパイクピン12cを刺し込むための穴を大腿骨100の端部100aに形成するピン36が挿通される孔として設けられている(図13を参照)。ピン36がピン孔33eを貫通する状態でピン孔33eに挿通され、更にそのピン36が切除面100bにおいて大腿骨100の端部100aに刺し込まれることで、各スパイクピン12cを刺し込むための穴が大腿骨100の端部100aに形成される。
スライド部34は、揺動部33に対してスライド移動自在に支持されるとともに、大腿骨前面参照部14が着脱可能に取り付けられる要素として設けられている。よって、大腿骨前面参照部14は、切除ガイド本体部11に対して着脱可能に取り付けられるとともに、サイザー15に対しても、着脱可能に取り付けられるように構成されている。
スライド部34は、一対のスライド軸(34a、34a)、スライド軸連結部34b、等を備えて構成されている。一対のスライド軸(34a、34a)のそれぞれは、細長く延びる角柱状の部分として設けられている。そして、一対のスライド軸(34a、34a)のそれぞれは、揺動部33における一対のサイズ表示部(33a、33a)のそれぞれに対してスライド移動自在に支持される。尚、各サイズ表示部33aには、各スライド軸34aが挿入される挿入穴が設けられている。各サイズ表示部33aの挿入穴に対して、各スライド軸34aがスライド移動自在に挿入される。尚、サイザー15は、大腿骨100の端部100aに設置された状態において、各スライド軸34aが人体の前後方向に沿って各サイズ表示部33aに対してスライド移動するように、構成されている。
サイザー15においては、各サイズ表示部33aに挿入された各スライド軸34aの挿入先端側の端部は、各サイズ表示部33aの窓33cを通じて外部から視認できるように構成されている。術者は、窓33cを通じて視認できるスライド軸34aの端部の位置が対応するサイズ表示部33aのサイズ表示目盛を読み取ることで、大腿骨100の端部100aに設置することが適切な大腿骨コンポーネントのサイズを把握して決定することができる。このように、サイザー15においては、サイズ表示部33aのサイズ表示目盛とスライド軸34aの端部とによって、大腿骨100の端部100aに設置することが適切な大腿骨コンポーネントのサイズが指標されるように構成されている。
スライド軸連結部34bは、一対のスライド軸(34a、34a)を連結する部分として設けられている。スライド軸連結部34bは、一対のスライド軸(34a、34a)をそれらの一方の端部において、一体に連結している。また、スライド軸連結部34bは、一対のスライド軸(34a、34a)をそれらが互いに平行に延びた状態となるように、連結している。スライド部34は、一対のスライド軸(34a、34a)がスライド軸連結部34bによって連結された形態に構成されていることで、略門型の形状に形成されている。
また、スライド軸連結部34bには、挿入溝34c、取付軸34dが設けられている。挿入溝34cは、大腿骨前面参照部14の挿入部30bが挿入される溝として設けられている。取付軸34dは、スライド軸連結部34bにおいて、挿入溝34cの内側に設けられている。スライド軸連結部34bにおいては、取付軸34dの周囲がスリット状の空間として区画されており、この区画された空間が挿入溝34cとして構成されている。
また、取付軸34dは、挿入溝34cに挿入された挿入部30bが揺動自在に取り付けられる軸部分として設けられている。挿入溝34cに挿入部30bが挿入されると、挿入部30bにおいて二股状に延びる部分の間に、取付軸34dが揺動自在の状態で嵌まり込む。このように挿入部30bが取付軸34cに取り付けられることで、大腿骨前面参照部14が、スライド部34に対して揺動自在に取り付けられる。そして、大腿骨前面参照部14が、サイザー15に対して、揺動自在で且つ着脱可能に取り付けられる。
[人工膝関節置換術用手術器具の作動]
次に、人工膝関節置換術用手術器具1の作動について説明する。人工膝関節置換術用手術器具1は、前述のように、膝関節を人工膝関節に置換する人工膝関節置換術において、人工膝関節の大腿骨コンポーネントを大腿骨100に設置するために大腿骨コンポーネント設置用面を大腿骨100の遠位側の端部100aに形成する際に用いられる。
人工膝関節置換術において、大腿骨コンポーネント設置用面を大腿骨100の端部100aに形成する際には、まず、大腿骨100の遠位側の端部100aが一部切除される。これにより、大腿骨100の遠位側の端部100aにおいて、大腿骨100の骨軸方向に対して略垂直に広がる切除面100bが形成される。
大腿骨100の切除面100bが形成されると、次いで、サイザー15が切除面100bに設置される(図2及び図13を参照)。サイザー15が切除面100bに設置される際には、一対の顆当接部(32c、32c)が大腿骨100の端部100aの両顆に当接した状態で、サイザー15が大腿骨100の端部100aに配置される。そして、一方の脚部32b(又は両方の脚部32b)のピン孔32dにピン35が挿入されて嵌合する。ピン孔32dに挿入されて嵌合したピン35は、切除面100bから大腿骨100の端部100aに刺し込まれ、大腿骨100に係合する。これにより、骨取付部32が大腿骨100の端部100aに取り付けられて固定され、サイザー15が大腿骨100の端部100aに配置される。
サイザー15が大腿骨100の端部100aに配置されると、術者により、スライド部34の挿入溝34cに大腿骨前面参照部14の挿入部30bが挿入され、スライド部34に大腿骨前面参照部14が取り付けられる。そして、術者は、大腿骨コンポーネントが大腿骨100の端部100aに設置される際に大腿骨コンポーネントの前面側の部分が大腿骨100の端部100aの前面側に配置される状態を想定し、揺動部33の骨取付部32に対する角度を調整する。即ち、術者は、操作ツマミ33dを操作し、サイズ表示部33aの長手方向の向きが術者の所望の向きとなるように、揺動部33を骨取付部32に対して揺動させる。
上記の状態において、術者は、一対のスライド軸(34a、34a)を一対のサイズ表示部(33a、33a)に対してスライド移動させ、スライド部34を揺動部33に対して人体の前方側から後方側に向かって移動させる。そして、大腿骨前面参照部14のロッド31の屈曲部31aの先端部が大腿骨100の端部100aの前面に当接するまで、スライド部34を揺動部33に対してスライド移動させる。また、このとき、術者は、必要に応じて、スライド部34を揺動部33に対して人体の前後方向に沿って適宜変位させ、基部30とともにロッド31をスライド部34に対して取付軸34dを中心として揺動させる。
上記のように、ロッド31の屈曲部31aの先端部が大腿骨100の端部100aの前面に当接した状態で、術者は、サイズ表示部33aの窓33cから視認できるスライド軸34aの端部の位置が対応するサイズ表示部33aのサイズ表示目盛を読み取る。これにより、術者は、大腿骨100の端部100aに設置することが適切な大腿骨コンポーネントのサイズを把握して決定する。
また、上記のようにサイザー15が大腿骨100の端部100aに配置された状態において、揺動部33における一対のピン孔(33e、33e)のそれぞれに対して、ピン36が挿通される。各ピン孔33eに挿通された各ピン36は、切除面100bから大腿骨100の端部100aに刺し込まれる。これにより、骨設置部12における一対のスパイクピン(12c、12c)を刺し込むための穴が大腿骨100の端部100aに形成される。
大腿骨100の端部100aに設置される大腿骨コンポーネントのサイズが決定され、スパイクピン12cが刺し込まれる穴が形成されると、サイザー15及び大腿骨前面参照部14は、大腿骨100の端部100aから取り外される。また、このとき、大腿骨前面参照部14は、サイザー15から取り外される。
図14は、切除ガイド本体部11等が大腿骨100の端部100aに設置された状態を示す斜視図である。サイザー15及び大腿骨前面参照部14が大腿骨100の端部100aから取り外されると、次いで、図14に示すように、位置調整機構13を介して連結された切除ガイド本体部11及び骨設置部12が、大腿骨100の端部100aに設置される。このとき、骨設置部12の一対のスパイクピン(12c、12c)が、ピン36によって切除面100bに形成された前述の穴に対して刺し込まれる。そして、一対のスパイクピン(12c、12c)が大腿骨100の端部100aに係合することで、骨設置部12が大腿骨100の端部100aに設置される。また、骨設置部12とともに、切除ガイド本体部11も大腿骨100の端部100aに設置される。
図15は、切除ガイド本体部11等が大腿骨100の端部100aに設置された状態を示す平面図である。骨設置部12及び切除ガイド本体部11が大腿骨100の端部100aに設置されると、次いで、図1及び図15に示すように、大腿骨前面参照部14が、切除ガイド本体部11に対して人体の前面側において取り付けられる。即ち、前述の通り、挿入部30bがスリット22aに挿入され、基部30aの端部30dが、位置決め部24に対して遊嵌状態で嵌め込まれる。これにより、ロッド31が切除ガイド本体部11に対して揺動可能な状態で、大腿骨前面参照部14が切除ガイド本体部11に取り付けられる。
大腿骨前面参照部14が切除ガイド本体部11に取り付けられると、術者は、切除ガイド本体部11の切除面100bに対する位置の調整が必要な場合は、適宜、位置調整機構13を操作して作動させる。位置調整機構13が操作されて作動することで、骨設置部12に対する切除ガイド本体部11の位置が大腿骨100の切除面100bと平行な方向に沿って変位し、切除ガイド本体部11の位置調整が行われる。
図16は、切除ガイド本体部11等が大腿骨100の端部100aに設置された状態をトルクドライバー103とともに示す斜視図である。位置調整機構13の操作の際には、例えば、図16に示すトルクドライバー103が用いられる。位置調整機構13の操作の際には、まず、トルクドライバー103の先端のトルク入力軸103aが、位置調整機構13のカム軸部27の連結用穴27cに挿入されて連結される。カム軸部27にトルク入力軸103aが連結されると、術者は、トルクドライバー103のハンドル部103bの回転操作を行う。
上記のようにトルクドライバー103の操作が行われることで、駆動トルクがトルクドライバー103からカム軸部27に入力される。これにより、前述の通り、カム軸部27が回転し、骨設置部12に対して切除ガイド本体部11の位置が切除面100bと平行な方向に沿って人体の前後方向に変位する。術者は、切除ガイド本体部11が切除面100bに対して術者が所望する位置に達すると、トルクドライバー103の操作を停止する。尚、術者は、切除ガイド本体部11を骨設置部12及び切除面100bに対して変位させたい方向(即ち、前方側から後方側へと変位する方向、又は、後方側から前方側へと変位する方向)に応じて、トルクドライバー103の回転操作の方向を選択する。
術者は、切除ガイド本体部11を切除面100bに対して所望の位置まで変位させると、大腿骨前面参照部14により、大腿骨100の遠位側の端部100aの前面の切除範囲の確認を行う。このとき、術者は、切除ガイド本体部11に対して、基部30とともにロッド31を揺動させ、ロッド31の先端側の屈曲部31aの位置を参照する。これにより、術者は、大腿骨100の端部100aの前面の切除範囲の確認を行う。
大腿骨100の端部100aの前面の切除範囲の確認が終了すると、術者は、大腿骨前面参照部14を切除ガイド本体部11から取り外す。そして、術者は、切除ガイド本体部11の固定ピン孔26に対して固定ピン(図示省略)を挿入して嵌合させるとともに、この固定ピンを大腿骨100の端部100aに突き刺して係合させる。これにより、切除ガイド本体部11が大腿骨100の端部100aに対してより強固に固定される。
上記の状態において、大腿骨コンポーネントの設置用の面を大腿骨100の遠位側の端部100aに形成する作業が行われる。この作業においては、切除ガイド本体部11の各スリット(22a、22b、22c、22d)のそれぞれに対して電動カッター等の骨切除装置の切除刃が挿入される。そして、各スリット(22a、22b、22c、22d)によって切除方向がガイドされながら、骨切除装置の切除刃による大腿骨100の端部100aの切除が行われる。
図17は、人工膝関節置換術用手術器具1を用いて大腿骨100の端部100aの切除面100bに対して交差する複数の方向に沿って大腿骨100を切除する作業が行われた状態の大腿骨100の端部100aを示す側面図である。各スリット(22a、22b、22c、22d)によって切除方向がガイドされながら骨切除装置による大腿骨100の端部100aの切除が行われると、大腿骨100の端部100aには、大腿骨コンポーネント設置用面(101a、101b、101c、101d)が形成される。尚、図17においては、大腿骨コンポーネント設置用面(101a、101b、101c、101d)の形成が完了し、大腿骨100の端部100aから骨設置部12及び切除ガイド本体部11が取り外された状態が図示されている。
スリット22aによって切除刃の切除方向がガイドされて骨切除装置による切除が行われることで、大腿骨コンポーネント設置用面101aが形成される。スリット22bによって切除刃の切除方向がガイドされて骨切除装置による切除が行われることで、大腿骨コンポーネント設置用面101bが形成される。スリット22cによって切除刃の切除方向がガイドされて骨切除装置による切除が行われることで、大腿骨コンポーネント設置用面101cが形成される。スリット22dによって切除刃の切除方向がガイドされて骨切除装置による切除が行われることで、大腿骨コンポーネント設置用面101dが形成される。
大腿骨コンポーネント設置用面(101a、101b、101c、101d)の形成が完了すると、固定ピン孔26を貫通して大腿骨100に係合していた固定ピンが引き抜かれ、骨設置部12及び切除ガイド部本体11が大腿骨100の端部100aから取り外される。これにより、大腿骨100の端部100aは、図17に示す状態となる。そして、大腿骨コンポーネントが、大腿骨コンポーネント設置用面(101a、101b、101c、101d)と、大腿骨コンポーネント設置用面(101a、101b、101c、101d)が形成された状態で残された切除面100bとに対して嵌合するように取り付けられる。これにより、大腿骨コンポーネントが、大腿骨100の端部100aに設置されて固定される。
[人工膝関節置換術用手術器具の効果]
以上説明したように、本実施形態によると、位置調整機構13を介して切除ガイド本体部11が取り付けられた骨設置部12は、スパイクピン12cが大腿骨100に刺し込まれることで、大腿骨100の切除面100bに設置される。そして、位置調整機構13が術者によって操作されることにより、骨設置部12に対して切除ガイド本体部11が相対変位し、切除面100bに対する切除ガイド本体部11の位置の調整が行われる。これにより、術者は、大腿骨100を切除する切除刃の切除方向をガイドするスリット(22a、22b、22c、22d)が設けられた切除ガイド本体部11の大腿骨100の遠位側の端部100aにおける位置を、術者の所望する位置に容易に変更することができる。このため、人工膝関節置換術用手術器具1全体の大腿骨100への設置位置を再度設置し直すような作業は不要となり、人工膝関節置換術用手術器具1の大腿骨100への設置作業を容易にすることができる。
また、本実施形態によると、切除ガイド本体部11には、人体の前面側において、大腿骨100の前面に沿って延びるロッド31を有する大腿骨前面参照部14が取り付けられる。そして、人工膝関節置換術用手術器具1によると、術者は、細長いロッド31を切除ガイド本体部11に対して簡単に揺動させながら、ロッド31の先端側において大腿骨100の前面に向かって屈曲して延びる屈曲部31aの位置を容易に参照することができる。これにより、靭帯等の軟部組織が作業の妨げとなってしまうことが非常に少なく、大腿骨100の遠位側の端部100aの前面の切除範囲の確認作業を容易に行うことができる。
以上のように、本実施形態によると、人工膝関節置換術用手術器具1の大腿骨100への設置作業を容易にすることができ、更に、大腿骨100の遠位側の端部100aの前面の切除範囲の確認作業も容易にすることができる、人工膝関節置換術用手術器具1を提供できる。
また、本実施形態によると、大腿骨100の遠位側の端部100aの前面の切除範囲の確認作業が終了した後、術者は、切除面100bに対して交差する複数の方向に大腿骨100の端部100aを切除する前に、大腿骨前面参照部14を切除ガイド本体部11から容易に取り外すことができる。これにより、切除面100bに対して交差する複数の方向に大腿骨100の端部100aを切除する作業が行われる際に、大腿骨前面参照部14が作業の妨げとなり得る状態が全く発生しないことになる。このため、より円滑に、大腿骨100の切除作業を行うことができる。
また、本実施形態によると、切除ガイド本体部11のスリット22aに挿入部30bが挿入され、大腿骨前面参照部14が切除ガイド本体部11に着脱可能に取り付けられる。このため、大腿骨前面参照部14を切除ガイド本体部11に取り付けるための別途の機構が不要となる。よって、切除ガイド本体部11のスリット22aを効率よく活用し、大腿骨前面参照部14を切除ガイド本体部11に取り付けるための機構を簡素な構造で構成することができる。
また、本実施形態によると、切除ガイド本体部11に位置決め部24が設けられている。このため、術者は、大腿骨前面参照部14をスリット22aに挿入して切除ガイド本体部11に取り付ける際に、安定した位置への取り付け作業を容易に行うことができる。
また、本実施形態によると、切除ガイド本体部11に対して着脱可能に取り付けられる大腿骨前面参照部14が、サイザー15に対しても着脱可能に取り付けられる。このため、術者は、サイザー15を用いて大腿骨コンポーネントのサイズを決定する際、大腿骨前面参照部14を用い、ロッド31の先端側の屈曲部31aの位置を参照することができる。これにより、術者は、大腿骨100の遠位側の端部100aの前面に配置される大腿骨コンポーネントの端部の位置を容易に推定することができる。また、大腿骨前面参照部14は、サイザー15に対しても兼用されるため、部材使用の効率化及び部材点数の削減を図ることができる。
また、本実施形態によると、骨設置部12及び切除ガイド本体部11において、一方にカム軸部27を設け、他方に長孔28を設けた簡素な構造により、コンパクトな構造の位置調整機構13を容易に構成することができる。
[変形例]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。例えば、次のように変更して実施してもよい。
(1)前述の実施形態では、4つの大腿骨コンポーネント設置用面を形成するためのスリットが設けられた切除ガイド本体部の形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。3つ以下又は5つ以上の大腿骨コンポーネント設置用面を形成するためのスリットが設けられた切除ガイド本体部の形態が実施されてもよい。
(2)前述の実施形態では、骨設置部及び切除ガイド本体部において、一方にカム軸部が取り付けられ、他方に長孔が設けられたカム機構の形態の位置調整機構を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。例えば、ラックアンドピニオン機構の形態の位置調整機構が実施されてもよい。
(3)前述の実施形態では、切除ガイド本体部にカム軸部が取り付けられ、骨設置部に長孔が設けられた形態の位置調整機構を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。骨設置部にカム軸部が取り付けられ、切除ガイド本体部に長孔が設けられた形態の位置調整機構が実施されてもよい。
(4)前述の実施形態では、切除ガイド本体部に対して着脱可能に取り付けられる大腿骨前面参照部が、サイザーに対しても着脱可能に取り付けられる形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。サイザーに対して取り付けられる大腿骨前面参照部が、切除ガイド本体部に対して取り付けられる大腿骨前面参照部とは別個に設けられる形態が、実施されてもよい。
(5)前述の実施形態では、人工膝関節置換術用手術器具の構成要素としてサイザーも含まれる形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。サイザーが構成要素として含まれない形態の人工膝関節置換術用手術器具が実施されてもよい。
(6)前述の実施形態では、大腿骨前面参照部の基部の端部が切除ガイド本体部の位置決め部に遊嵌状態で嵌め込まれることで、ロッドが切除ガイド本体部に対して揺動可能に設置される形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。例えば、大腿骨前面参照部の基部の端部が円盤状の部分として設けられ、切除ガイド本体部の位置決め部に対して摺動して回転自在な状態で嵌め込まれることで、ロッドが切除ガイド本体部に対して揺動可能に設置される形態が、実施されてもよい。また、大腿骨前面参照部の基部において、ロッドを揺動可能に支持するロッド支持部が設けられる形態が、実施されてもよい。