以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係るシート給送装置を備えた画像形成装置の一例であるプリンタの概略構成を示す図である。図1において、100はプリンタ、101は画像形成装置本体であるプリンタ本体、102はプリンタ本体101に設けられ、電子写真方式により画像形成を行う画像形成部、53は画像形成部102にシートSを給送するシート給送装置である。
ここで、画像形成部102はレーザ露光装置5、トナー像を形成する感光体ドラム8、感光体ドラム8に形成されたトナー像をシートSに転写する転写ローラ9等を備えている。なお、7は感光体ドラム8、帯電ローラ7a、現像手段7b等を備えたプロセスカートリッジであり、このプロセスカートリッジ7は、プリンタ本体101に着脱自在に装着されている。
シート給送装置53は、給送ローラ2と、シート収納部である給紙トレイ1と、給紙トレイ1に昇降可能に設けられ、給紙トレイ1に収納されたシートSを支持して給送ローラ2に押圧するシート支持手段である昇降板22とを備えている。なお、16は給送ローラ2等を駆動する駆動モータである。
また、給紙トレイ1のシート給送方向下流側には、分離パッドバネ27により付勢されて給送ローラ2に圧接する分離パッド26が設けられている。そして、このようなシート給送装置53においては、画像形成の際には給送ローラ2により給紙トレイ1からシートSを送り出し、この後、シートSを給送ローラ2に圧接している分離パッド26により1枚ずつ分離する。
次に、このような構成のプリンタ100における画像形成動作について説明する。画像形成動作が開始されると、まずレーザ露光装置5から画像信号に応じたレーザ光が、表面が帯電処理されると共に、時計回りに回転駆動されている感光体ドラム8に照射される。そして、このような画像信号に応じた光が照射されることにより、感光体ドラム上に潜像が形成される。次に、この感光体ドラム上の潜像は、現像手段7bにより供給されたトナーにより現像され、トナー像として可視化される。
また、このトナー画像形成動作に並行して昇降板22が上昇し、給紙トレイ1にセットされたシートSが給送ローラ2により押し付けられ、この後、給送ローラ2の回転により、送り出される。送り出されたシートSは分離パッド20によって1枚ずつ分離され、略鉛直に給送され、給送ローラ2のシート給送方向下流に設けられたシート搬送手段である搬送ローラ対3(3a,3b)により転写部に搬送される。
そして、この後、可視化された感光体ドラム上のトナー像は転写部において、転写ローラ9に感光体ドラム8に形成されたトナー像と逆極性の電圧を印加することにより、シートSに転写される。次に、トナー像が転写されたシートSは搬送ガイド10によってプリンタ本体上部に配置された定着手段11へと搬送される。そして、この定着手段11を通過する際、シートSに熱及び圧力を加えられることにより、シート上に転写トナー像が定着される。この後、トナー像が定着されたシートSをガイド15により排出ローラ対12まで搬送し、プリンタ本体101の上面に形成した排出部14へと排出する。
図2は、シート給送装置53の構成を示す図であり、シート給送装置53は、既述したようにシートが積載される昇降板22を有する給紙トレイ1及び給紙トレイ1の上方に位置する給送ローラ2を備えている。昇降板22は給紙トレイ1に昇降板ボス22aを回動中心として上下方向に回動可能に取り付けられている。また、昇降板22は、プリンタ本体101との間に設けられ、昇降板22を給送ローラ2の方向に付勢する付勢手段である給送バネ23により、矢印R2に示す給送ローラ2の方向の付勢力が与えられている。そして、この圧縮バネである給送バネ23により、昇降板22は、シート給送動作が開始されると、積載したシートを給送ローラ2に所定の大きさの圧接圧で押し付けるようになっている。なお、この圧接圧は、満載からシート積載量が少なくなった少載の間で、シートの給送が可能な大きさに設定されている。
また、給送ローラ2は、後述するセレーション部材29が嵌合固定された駆動軸24に回転自在に設けられた給送ローラホルダ28に取り外し可能に保持されると共に、給送ローラホルダ28を介して駆動軸24に回転自在に取り付けられている。そして、給送ローラ2は、駆動軸24の回転に伴って後述する図5の(a)に示す給送初期位置から回転して昇降板22上(シート積載部上)のシートSを送り出す。ここで、駆動軸24は、プリンタ本体101の不図示のフレームに回転可能に取り付けられると共に、駆動軸24には不図示の駆動列を介して駆動モータ16からの回転駆動力が伝達される。なお、不図示の駆動列には駆動モータ16の駆動を給送ローラ2に一定期間伝達して給送ローラ2を1回転駆動するための不図示のソレノイドが設けられており、シートを給送する際、ソレノイドを作動させると、給送ローラ2が回転し、給送動作に入る。
さらに、駆動軸24には、カム部材である給送カム21が固定されている。なお、22bは昇降板22のシート給送方向下流側に設けられたカムフォロアであり、給送カム21は、給送ローラ2による給送時には駆動軸24と一体に回転して昇降板22を、カムフォロア22bを介して給送バネ23の付勢力により上昇させる。また、給送カム21は、給送ローラ2によるシート給送後、昇降板22を給送バネ23に抗して給送ローラ2から離間させる。このように、本実施の形態において、給送カム21と、給送バネ23により、昇降板22を上昇前の待機位置から給送ローラ2によるシートの給送が可能な位置まで上昇させる昇降手段531が構成される。なお、図2において、533は後述する復帰機構、534は融通機構である。
ここで、給送カム21は、図3に示すように駆動軸24の両端部に同じ位相となるように固定されており、カムフォロア22bは、昇降板22の幅方向両端部に設けられている。そして、昇降板22は、給送カム21の1回転毎に図2に示す矢印R2,R3方向に1往復の揺動運動をする。
なお、図3において、30は給送ローラ2の軸方向両側に同軸上に配置された2つの回転体である給送コロであり、29は駆動軸24に嵌合固定された円筒状のセレーション部材である。このセレーション部材29は、給送コロ30,30間に亘る程度に長さを有しており、このセレーション部材29に給送コロ30が回転自在に取り付けられている。
また、給送ローラホルダ28は、2つの給送コロ30の間に配置されており、給送ローラホルダ28と給送コロ30との間には、圧縮バネであるセレーションバネ31が設けられている。このセレーションバネ31は、後述するように給送コロ30が回転すると、給送コロ30の回転を給送ローラホルダ28に伝達し、給送ローラホルダ28を一定量の駆動力で駆動する。
つまり、この駆動力伝達部材を構成するセレーションバネ31により、給送コロ30が回転すると、給送ローラホルダ28に所定トルクが伝わり、給送ローラホルダ28と一体に給送ローラ2が回転する。このように本実施の形態においては、給送ローラホルダ28と給送コロ30との間にセレーションバネ31を設けることにより、簡便で安価な構成で給送コロ30の回転を給送ローラ2に伝達する回転伝達部530を実現することができる。
給送ローラ2は、図4に示すように、シートSと接触する湾曲した摩擦部材であるゴム部材200が円周上の一定角度間(所定角度の範囲)に設けられた、いわゆる半月形状のローラである。なお、給送ローラ2の円周の一部に設けられたゴム部材200は、曲率半径が給送コロ30の半径よりもやや大きく、外面が給送コロ30の外周面より外方に突出するように構成されている。また、セレーション部材29を介して駆動軸24に回転自在に支持されている給送コロ30は、給送ローラ2のゴム部材200が分離パッド26に圧接していない状態のときには分離パッド26に圧接する。
ここで、図4に示すように、セレーション部材29は、外周面に軸方向に延在する凸部29a,29aが対称的に形成されている。また、給送ローラホルダ28の中心部に形成されたセレーション部材貫通用の軸孔28bの内周面には、2つの凹部28a,28aが回転方向において所定角度θ(°)で、対称的に形成されている。そして、この給送ローラホルダ28の凹部28a,28aに、セレーション部材29の凸部29a,29aが入り込むように取り付けられており、これにより給送ローラホルダ28はセレーション部材29に対してθだけ回転自在となる。
以下、この凹部28a,28aにより給送ローラホルダ28が回転自在となる区間を、空転区間Arという。そして、このような空転区間Arを形成することにより、駆動軸24が回転を開始しても給送ローラ2が一定期間連動しないようにすることができる。言い換えれば、空転区間Arを形成することにより、駆動軸24の回転を給送初期位置にある給送ローラ2に所定時間遅らせて伝達することができる。つまり、セレーション部材29の凸部29a,29aと、給送ローラホルダ28の凹部28a,28aにより、給送ローラ2及び駆動軸24の間に設けられ、駆動軸24の回転を給送ローラ2に所定時間遅らせて伝達する駆動伝達手段532が構成される。
なお、本実施の形態においては、空転区間Arを形成するため給送ローラホルダ側に凹部を設けると共に、セレーション部材側(駆動軸側)に凸部を設けたが、給送ローラホルダ側に凸部を設け、空転区間Arを形成するため駆動軸側に凹部を形成しても良い。つまり、駆動軸24の回転を給送初期位置にある給送ローラ2に所定時間遅らせて伝達し、給送ローラ2を回転させる駆動伝達手段として給送ローラホルダ側及び駆動軸側の一方に凹部を、給送ローラホルダ側及び駆動軸側の他方に凸部を設けるようにしても良い。
このように構成されたシート給送装置53において、シート給送時、図1に示すように給紙トレイ1にセットされたシートSは、給送ローラ2の回転により分離パッド26で分離給送され、搬送ローラ対3(3a,3b)によって転写部へと搬送される。ここで、このようなシート給送動作の開始に際して、駆動軸24が回転を開始すると、駆動軸24と共に給送カム21が回転を開始する。
また、駆動軸24が回転すると、セレーション部材29の凸部29a,29aが空転区間Arを移動し、給送ローラホルダ28の凹部28a,28aの側壁面と係合し、給送ローラホルダ28と一体に給送ローラ2が回転を開始する。なお、図4において、2aは給送ローラ2(のゴム部材200)の回転方向下流側端部、2bは給送ローラ2(のゴム部材200)の回転方向上流側端部である。そして、給送ローラ2は、図4に示す給送初期位置から回転開始して回転方向下流側端部2aを昇降板22上のシートSに当接させ、このシートSを回転方向上流側端部2bにより送り出す。
ところで、シートを送り出した後、給送コロ30は搬送ローラ対3(3a,3b)によって下流側に搬送されるシートSと連れ回り回転する。ここで、給送コロ30が回転すると、給送コロ30の回転が既述したセレーションバネ31により給送ローラホルダ28に伝達され、給送ローラ2は給送ローラホルダ28と一体に回転する。これにより給送ローラ2は、次のシートを給送する前に、駆動軸24が所定時間回転したときに回転が伝達される給送初期位置に復帰する。
このように、搬送ローラ対3(3a,3b)によって搬送されるシートSにより、給送コロ30を、給送ローラ2を給送初期位置に戻す方向に回転させ、この回転を給送ローラ2に伝達することにより、給送ローラ2を給送初期位置に戻すことができる。つまり、搬送ローラ対3と給送コロ30とにより、昇降板22上のシートSの給送を終了した後、次のシートを給送する前に、給送ローラ2を、空転区間Arを越えて給送初期位置に戻す既述した図2に示す戻し手段である復帰機構533が構成される。また、この復帰機構533と、既述した駆動伝達手段532により、駆動軸24の回転を給送ローラ2に所定時間遅らせて伝達し、次のシートを給送する前に、給送ローラ2を、給送初期位置まで戻す既述した図2に示す融通機構534が構成される。
次に、このように構成されたシート給送装置53のシート給送動作について図5及び図6を用いて説明する。ここで、給送カム21の回転位置を明示するため、給送カム21上の点で、給送カム21の給送初期位置において昇降板22と接する点をP5として表示している。図5の(a)は、給送ローラ2、給送ローラホルダ28、セレーション部材29、給送カム21及び昇降板22がシートを給送する前の給送初期位置にあるときの状態を示している。
この状態で、駆動軸24を1回転駆動するため、不図示のソレノイドに信号が入力されてソレノイドが吸引(後退動作)されると、不図示の駆動列から駆動軸24に矢印R1方向の回転駆動力が伝達される。これにより、駆動軸24に固定されたセレーション部材29及び給送カム21が回転を始め、この給送カム21の回転により給送バネ23から付勢力を受けている昇降板22が、矢印R2方向に回動(上昇)し始める。
次に、駆動軸24、セレーション部材29、給送カム21がθ0(°)回転すると、図5の(b)に示すようにセレーション部材29と給送ローラホルダ28との間の空転区間Arはなくなる。ここで、この空転区間Arは、既述したように給送ローラ2が回転自在となる区間であることから、空転区間Arがなくなると、給送ローラホルダ28と共に給送ローラ2が回転を始める。昇降板22上にはシートSが積載されており、シートSの最上位シートS1が給送コロ30に当接することで昇降板22は停止する。そして、昇降板22が停止した後、図5の(c)に示すように、給送ローラ2の摩擦部の回転方向下流側端部2a(図4参照)が昇降板22上の最上位シートS1に当接して最上位シートS1の給送が開始される。
最上位シートS1の先端が搬送ローラ対3(3a,3b)のニップ位置まで給送された後、図6の(a)に示すように、給送カム21により昇降板22は矢印R3方向に押し下げられ始める。そして、図6の(b)に示すように、昇降板22が給送初期位置に戻った時点で、駆動軸24への回転駆動力の伝達が絶たれ、駆動軸24、セレーション部材29、そして給送カム21は回転を停止する。
このとき、給送ローラ2だけは、給送初期位置の直前、すなわち凹部28aが凸部29aの手前側にある位置(以下、直前位置という)に位置している。この状態のとき、給送カム21により昇降板22上のシートSが給送ローラ2から離間しているので、搬送ローラ対3(3a,3b)によって挟持されて搬送されるシートS1に作用する給送ローラ2によるバックテンションが解除されている。
一方、搬送ローラ対3(3a,3b)のニップ位置まで給送されたシートS1は、搬送ローラ対3(3a,3b)が回転し続けることにより搬送される。この際、シートS1は、分離パッド26と給送コロ30とで挟持(ニップ)されているため、給送コロ30には搬送されているシートS1からの力が作用し、給送コロ30は給送ローラ2を給送初期位置に戻す方向である矢印R1方向に連れ回り回転する。
ここで、既述したように給送コロ30は、セレーションバネ31により給送ローラホルダ28に一定量の駆動力を伝達するので、給送コロ30が回転すると、給送ローラホルダ28と給送ローラ2とが、矢印R1方向に回転する。そして、この給送ローラ2の矢印R1方向への回転により、凹部28a内の上流端が凸部29aに当接して停止し、給送ローラ2は、図5の(a)に示す給送初期位置に復帰する。この動作を繰り返すことで、給紙トレイ1に積載されたシートSは、給送ローラ2の1回転毎に、1枚ずつ分離給送される。
ここで、給送ローラ2が直前位置にある場合、給送ローラ2は、その回転方向上流側端部2bがシート搬送面に近接し、搬送されているシートSと接触する可能性がある。給送ローラ2と搬送されているシートSとが接触すると、接触部からシートSの摩耗による紙粉が発生する。紙粉が発生することで、給送ローラ2の摩擦力の低減や、シート搬送路下流にある各種ローラの汚れ等の問題が生じる。これを解消するため、本実施の形態では、給送ローラ2を直前位置から給送初期位置に移動させることにより、給送ローラ2とシート搬送面との距離を十分に確保するようにしている。
次に、このようなシート給送装置53のシート給送動作を実現するための給送ローラ2及び給送カム21の設計条件を、図7を用いて説明する。なお、図7は、シート給送装置53が給送初期位置にあるときの状態を示すものである。まず、空転区間Arが無い従来の設計条件について説明する。
図7において、P1は給送ローラ2の摩擦部開始点、P2は給送ローラ2の摩擦部終了点、P3は給送ローラ2によって、積載されたシートSの最上位シートが給送される給送ポイント、P4は搬送ローラ対3(3a,3b)のニップ位置である。ここで摩擦部開始点P1及び摩擦部終了点P2は給送ローラ2の回転に伴って動く点であり、給送ポイントP3及びニップ位置P4は固定点である。
P5は給送カム21上の点で給送初期位置において昇降板22と接する点、P6は給送カム21上の点で昇降板22が上死点に到達するときに接する点である。ここで、給送カム21が給送初期位置において昇降板22と接する点P5と、昇降板22が上死点に到達するときの給送カム21上の点P6は給送カム21の回転に伴って動く点である。
θ1(°)は給送ローラ2の摩擦部の摩擦部開始点P1から摩擦部終了点P2の角度、θ2(°)は摩擦部終了点P2から給送ローラ2の給送ポイントP3までの角度である。また、θ3(°)は、給送ポイントP3から給送ローラ2の摩擦部開始点P1までの角度、θ4(°)は給送カム21の、昇降板22が給送初期位置から上死点に到達するP5からP6までの回転角度とする。またφD(mm)は給送ローラ2の直径、ω(°/sec)は給送ローラ2の回転速度、L1(mm)は給送ローラ2の摩擦部の長さ、L2(mm)は、図7において一点鎖線で示す、給送ポイントP3からニップ位置P4までのシート搬送距離である。
ここで、シート給送動作を実現するためには、給送ローラ2は、給送したシートをニップ位置P4まで搬送しなければならない。また、給送されたシートの搬送量は、給送ローラ2の摩擦部とシートとのすべりを無視すれば、L1と等しくなる。よって、給送ローラ2の摩擦部長さL1はL2より大きい必要がある。これを式で表すと、下記の式(1)となる。また、給送ローラ2の摩擦部の長さL1は幾何学的な関係から、下記の式(2)となり、式(1)に式(2)を代入し、θ1についてまとめると、下記の式(3)となる。
L1>L2・・・(1)
L1=πD×(θ1/360)・・・(2)
θ1>360×(L2/πD)・・・(3)
次に、給送時のシート搬送距離を安定させるためには、昇降板22が図1の矢印R2方向に回動して最上位シートSの先端が給送ポイントP3に達した後に、給送ローラ2の摩擦部開始点P1が給送ポイントP3に到達する必要がある。このためには、θ4はθ3より小さい角度である必要がある。これを式で表すと、下記の式(4)となる。また、θ1、θ2及びθ3は1周内で完結しなければならないことから、これを式で表すと、下記の式(5)となる。さらに、式(5)に式(4)を代入し、θ4についてまとめると、下記の式(6)となる。また、昇降板22が給送初期位置からP6まで移動する時間τ(sec)は、次式(7)となる。
θ3>θ4・・・(4)
θ1+θ2+θ3=360・・・(5)
θ4<360−(θ1+θ2)・・・(6)
τ=θ4/ω・・・(7)
しかし、従来例では、式(6)の関係からθ4は、十分に大きな値とすることが困難であった。つまり、θ1は本体構成よりL2及びφDが決まることで、式(3)からその下限値が決定する。また、θ2は給送ローラ2の摩擦部終了点P2がシート搬送路から十分な距離退避するために、幾何学的な関係から必然的に決定する。すると、θ4は式(6)からその上限値が決定されてしまう。
一方、給送ローラ2の回転数ωは、画像形成装置のスループット向上のため、可能な限り高い値を設定する場合が多い。この結果、式(7)の関係から、昇降板22の上昇時間τは十分に長い時間を確保することが困難となり、昇降板22の上昇速度が増し、昇降板22に積載されたシートSと給送コロ30との衝突時に発生する騒音が高まる。
しかし、本実施の形態においては、既述したように駆動軸24と給送ローラホルダ282との間に空転区間Arを設けることで、駆動軸24が空転区間Arを回転する時間分だけ、給送ローラ2を給送初期位置に停止させておくことができる。つまり、従来例では式(6)の条件からθ4の上限値が決定されていたが、本実施の形態の構成を用いることにより、θ4は下記の式(8)に示すように表され、θ4の設計条件を緩和することができる。また、給送ローラ2を停止させる時間、つまり給送ローラ2への駆動伝達を遅らせる所定時間をτ0(sec)とすると、τ0(sec)は下記の式(9)となる。
θ4<(360+θ0)−(θ1+θ2)・・・(8)
τ0=θ0/ω・・・(9)
このように、本実施の形態によれば、給送ローラ2の直径φDと、給送ローラ2の回転速度ωを一定値とした場合、昇降板22が給送初期位置から給送位置まで上昇するまでの時間を従来よりもτ0(sec)、伸ばすことができる。そして、上記式(8)に示すようにθ4の設計条件が緩和されることにより、給送カム21のカム曲面を図8のように変更することができ、このように給送カム21のカム曲面を変更することにより、τ0だけ昇降板22の上昇時間を延長することができる。
図8において、φD0は、給送カム21のカム曲線がφD0内にある場合、昇降板22と接点を持たない直径である。つまり、給送カム21が矢印R1方向に回転する場合、φD0とカム曲線との交点が、昇降板22の上死点となる。なお、図8において、破線で示すカム曲線21bは従来のカム曲線を表し、実線で示すカム曲線21aは本実施の形態のカム曲線を表している。
ここで、従来のカム曲線21b及び本実施の形態のカム曲線21aと、φD0との交点を、それぞれP6’、P6とする。従来例では、P5からP6’の間、つまり角度θ4’の範囲内で昇降板22が上昇していた。これに対し、本実施の形態では、駆動軸24と給送ローラ2の間に空転区間Arを設けたことにより、P6’をP6まで移動させることができる。これにより、従来の角度θ4’よりも大きい角度θ4の範囲内で昇降板22を上昇させることができ、既述したように昇降板22の上昇時間を延長することができる。
以上、説明したように本実施の形態では、シート給送動作の開始に際して、給送カム21が回転を開始して空転区間Arを通過した時点から、給送ローラ2が回転を開始して昇降板22上のシートSを送り出すようにしている。また、シートを送り出した後、次のシートを給送する前に、給送ローラ2を給送初期位置に戻すようにしている。これにより、昇降板22の上昇時間を延長することができ、昇降板22の上昇速度を抑えることができる。
つまり、本実施の形態のように、空転区間Arを設け、駆動軸24の回転を所定時間遅らせて給送ローラ2に伝達して給送カム21による昇降板22の上昇時間を延長することにより、昇降板22の上昇速度を抑えることができる。これにより、昇降板22上のシートSと、給送コロ30との衝突時の騒音の発生を低減することができ、低騒音なプリンタ100を提供することができる。また、昇降板22の上昇速度を抑えることで、給送コロ30との衝突による昇降板22上のシートSの整列性の乱れを防ぐことができ、シートSを安定して給送することができる。この結果、シートの斜行による画像不良やジャム等の発生を抑えることができ、より信頼性の高いプリンタ100を提供することができる。
なお、これまでの説明において、給送ローラ2の直径φDを固定値としたが、φDを小径化する場合も同様に好適である。つまり、本実施の形態のように空転区間Arを設けることにより、φDを小径化した場合でも、昇降板22の上昇時間を同様にτ0(sec)伸ばすことができ、小型でかつ低騒音なプリンタ100を提供することができる。
また、本実施の形態では、給送ローラ2の回転速度ω(°/sec)は固定値としたが、給送ローラ2の回転速度を高速化する場合も同様に効果的である。つまり、本実施の形態のように空転区間Arを設けることにより、給送ローラ2の回転速度を高速化した場合でも昇降板22の上昇時間を同様にτ0(sec)伸ばすことができ、高速でかつ低騒音なプリンタ100を提供することができる。
さらに、これまでの説明においては、給送コロ30の回転を給送ローラホルダ28に伝達するため圧縮バネであるセレーションバネ31を用いた。しかし、セレーションバネ31の代わりに図9の(a)の斜線で示すゴム材料からなる摩擦部材32を設けるようにしても良く、図9の(b)の斜線で示す板バネ33を設けるようにしても良い。また、本実施の形態では、給送コロ30を給送ローラ2の軸方向の両側に設けていたが、給送コロ30を給送ローラ2の軸方向の片側のみに設けるようにしても良い。
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図10は、本実施の形態に係るシート給送装置の構成を説明する図である。なお、図10において、既述した図3と同一符号は、同一又は相当部分を示している。
図10において、40は給送ローラホルダ、41はセレーション部材、40bは給送ローラホルダ40に設けられた弾性部であり、この弾性部40bは、図11に示すように給送ローラホルダ40の凹部40aの一側壁面を形成している。なお、図11に示すように、セレーション部材41の外周面には軸方向に伸びた凸部41aが形成されている。また、弾性部40bの内周面には、図12に示すように係合凹部40cが形成されている。そして、この係合凹部40cには、セレーション部材41の凸部41aが係合可能となっている。さらに、図11に示すように、給送ローラホルダ40の外周面には、給送ローラ2を弾性的に着脱可能に保持する保持凹部40dが形成されている。そして、この保持凹部40dに、図10の(b)に示す軸部2dを取り付ける。
ここで、図12の(a)は、既述した図5の(a)で示す給送初期状態の時の給送ローラ2、給送ローラホルダ40、セレーション部材41の状態を示している。そして、シートの給送が開始され、既述した第1の実施の形態と同様に、駆動軸24が回転すると、図12の(b)に示すようにセレーション部材41がθ0回転して空転区間Arが無くなり、給送ローラ2がセレーション部材41の回転に追従して回転を始める。
この後、既述した第1の実施の形態と同様に、搬送されているシートSから駆動力を得ることで、給送コロ30がR1方向に連れまわり回転する。そして、給送コロ30の回転をセレーションバネ31が給送ローラホルダ40に一定量の駆動力(以下、復帰力という)を伝達し、給送ローラホルダ40と給送ローラ2とがR1方向に回転する。これにより、この後、弾性部40bの先端が、図12の(a)に示すようにセレーション部材の凸部41aに当接して停止し、給送ローラ2が給送初期状態に復帰する。なお、この時、給送ローラホルダ40の弾性部40bは、セレーション部材の凸部41aに突き当たっても、復帰力では、セレーション部材の凸部41aが乗り越えてしまわない強度に設定している。
次に、給送ローラ2の交換動作について説明する。給送ローラ2を交換する場合は、まず給送ローラ2に復帰力よりも大きい外力を加えて、給送ローラ2を図12の(a)のR1方向に回転させる。このとき、給送ローラ2は給送ローラホルダ40に保持されているため、給送ローラホルダ40も同時にR1方向に回転する。これにより、セレーション部材41の凸部41aに突き当たった弾性部40bが弾性変形し、凸部41aが凹部40aを通過して弾性部40b上に乗り上げる。この後、更に給送ローラ2を回転させると、図13に示すように、弾性部40bの係合凹部40cと、セレーション部材41の凸部41aとが弾性的に係合し、給送ローラホルダ40がセレーション部材41に対してロック状態となる。
ここで、空転区間Arを設けた場合、給送ローラ2を給送ローラホルダ40から着脱するときに、給送ローラ2が空転区間Ar分、回転するようになるため、給送ローラ2の交換性が悪くなる。しかし、本実施の形態のように、給送ローラ2を交換する際、給送ローラホルダ40をセレーション部材41によりロック状態とすることにより、給送ローラ2は、図12に示すR1及びR4方向に回転できなくなる。つまり、本実施の形態において、給送ローラホルダ40の弾性部40bと、セレーション部材41の凸部41aとにより、給送ローラ2を交換する際、給送ローラホルダ40を固定する固定手段535が構成される。
そして、このように給送ローラ2が回転しないようにした後、給送ローラホルダ40の保持凹部40dに保持されている軸部2dを取り外して給送ローラ2を交換する。つまり、本実施の形態においては、給送ローラホルダ40をセレーション部材41に対してロック状態とし、給送ローラ2が回転しないようにして給送ローラ2を交換するようにしており、これにより容易に給送ローラ2を交換することができる。
なお、給送ローラ2を交換した後、給送ローラ2を図13のR4方向に回転させると、給送ローラ2と共に給送ローラホルダ40も回転し、まず給送ローラホルダ40の係合凹部40cとセレーション部材の凸部41aとの係合が解除される。またさらに、給送ローラ2を回転させると、セレーション部材41の凸部41aが給送ローラホルダ40の凹部40a内に入り込むようになり、給送ローラホルダ40は回転自在となり、給送動作が可能な状態となる。
ところで、ユーザーが給送ローラ2を交換した後に、ロック状態の解除を忘れてしまう場合がある。この場合でも、給送動作が始まると、不図示の駆動列から駆動軸24、セレーション部材41に駆動力が伝達され、セレーション部材41が図13のR5方向に回転し、これに伴い給送ローラ2もR5方向に回転する。そして、給送ローラ2がシートSに接触するまで回転すると、シートによる抵抗力により給送ローラ2及び給送ローラホルダ40は回転を停止する。この後、駆動力により、さらにセレーション部材41が回転すると、セレーション部材41の凸部41aと給送ローラホルダの係合凹部40cとの係合が解除される。この状態で回転を続けることで、セレーション部材41と給送ローラホルダ40との位置関係は図12の(a)から(b)に示す形となり、給送動作が可能な状態になる。
以上説明したように、本実施の形態においては、給送ローラ2を交換する際に、給送ローラ2を回転させて給送ローラホルダ40をセレーション部材41に対してロック状態にすることにより、給送ローラ2を固定することができる。これにより、給送ローラホルダ40を手で保持することなく、両手を使って給送ローラ2の交換作業を行うことができるようになり、給送ローラ2の交換性を向上させることができる。
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。図14は、本実施の形態に係るシート給送装置の構成を説明する図である。なお、図14において、既述した図10と同一符号は、同一又は相当部分を示している。図14において、50は給送ローラホルダ、51はセレーション部材、52はレバー(レバー部材)であり、レバー52は、軸52aを介して給送ローラホルダ50に回転自在に保持されている。また、153はレバー52の軸52aに取り付けられ、レバー52を給送ローラ側である図15の(a)に示す矢印L1方向に付勢するレバー付勢手段である、ねじりコイルバネである。
図15に示すように、レバー52のセレーション部材51に臨む上面には、凸部52bが設けられている。そして、この凸部52bは空転区間Arを形成する給送ローラホルダ50の凹部50aの一側壁面を形成すると共に、凸部52bにはセレーション部材51の凸部51aと係合する係合凹部52cが形成されている。
ここで、図15の(a)は、既述した図5の(a)で示す給送初期状態の時の給送ローラ2、給送ローラホルダ50、セレーション部材51の状態を示している。そして、シートの給送が開始され、既述した第1の実施の形態と同様に、駆動軸24が回転すると、図15の(b)に示すようにセレーション部材51がθ0回転して空転区間Arが無くなり、給送ローラ2がセレーション部材51の回転に追従して回転を始める。
この後、既述した第1の実施の形態と同様に、搬送されているシートSから駆動力を得ることで、給送コロ30がR1方向に連れまわり回転する。そして、給送コロ30の回転をセレーションバネ31が給送ローラホルダ50に一定量の復元力を伝達し、給送ローラホルダ50と給送ローラ2とがR1方向に回転する。これにより、この後、レバー52の凸部52bが、図15の(a)に示すようにセレーション部材51の凸部51aに当接して停止し、給送ローラ2が給送初期状態に復帰する。この時、ねじりコイルバネ153は、凸部52bが、セレーション部材の凸部51aに突き当たっても、復帰力でレバー52をL2方向に回転させない強さに設定されているので、給送ローラ2は給送初期状態に保持される。
次に、給送ローラ2の交換動作について説明する。給送ローラ2を交換する場合は、まず給送ローラ2に復帰力よりも大きい外力を加えて、給送ローラ2を図15の(a)のR1方向に回転させる。このとき、給送ローラ2は給送ローラホルダ50に保持されているため、給送ローラホルダ50も同時にR1方向に回転する。これにより、レバー52の凸部52bがセレーション部材の凸部51aに突き当たる。この後、ねじりコイルバネ153の力に打ち勝ってレバー52がL2方向に回転し、セレーション部材51の凸部51aが凹部50aを通過し、レバー52の凸部52bに乗り上げる。
この後、更に給送ローラ2を回転させると、図16のように、レバー52の係合凹部52cとセレーション部材51の凸部51aとが係合する。そして、このようにレバー52にセレーション部材51が係合すると、この係合状態がねじりコイルバネ153の力により弾性的に保持され、レバー52を保持している給送ローラホルダ50が、セレーション部材51に対してロック状態となる。
ここで、給送ローラホルダ50をセレーション部材51によりロック状態とすることにより、給送ローラ2は、図16に示すR1及びR4方向に回転できなくなる。そして、このように給送ローラ2が回転しないようにした後、給送ローラホルダ50に保持されている給送ローラ2を交換する。つまり、本実施の形態において、レバー52の係合凹部52cとセレーション部材51の凸部51aとにより、給送ローラ2を交換する際、給送ローラホルダ50を固定する固定手段536が構成される。
なお、給送ローラ2を交換した後、給送ローラ2を図16のR4方向に回転させると、給送ローラ2と共に給送ローラホルダ50も回転し、レバー52の係合凹部52cとセレーション部材の凸部51aとの係合が解除される。またさらに、給送ローラ2を回転させると、セレーション部材51の凸部51aが給送ローラホルダ50の凹部50a内に入り込むようになり、給送ローラホルダ50は回転自在となり、給送動作が可能な状態となる。
ところで、ユーザーが給送ローラ2を交換した後に、ロック状態の解除を忘れてしまう場合がある。この場合、給送動作が始まると、不図示の駆動列から駆動軸24、セレーション部材51に駆動力が伝達され、セレーション部材51が図16のR5方向に回転する。そして、給送ローラ2がシートSに接触するまで回転すると、シートによる抵抗力により給送ローラ2及び給送ローラホルダ50は回転を停止する。この後、駆動力により、さらにセレーション部材51が回転すると、セレーション部材51の凸部51aとレバー52の係合凹部52cとの係合が解除される。この状態で回転を続けることで、セレーション部材51とレバー52と給送ローラホルダ50との位置関係は図15の(a)から(b)に示す形となり、給送動作が可能な状態になる。
以上説明したように、本実施の形態においては、給送ローラ2を交換する際に、給送ローラ2を回転させて給送ローラホルダ50をセレーション部材51に対してロック状態にすることで、給送ローラ2を固定することができる。これにより、給送ローラホルダ50を手で保持することなく、両手を使って給送ローラ2の交換作業を行うことができるようになり、給送ローラ2の交換性を向上させることができる。
さらに、本実施の形態においては、給送ローラホルダ50をロックするレバー52の回転付勢力の大きさはねじりコイルバネ153により調整可能なため、より詳細な力の設定が可能になり、装置の信頼性を向上することができる。なお、ねじりコイルバネ153のばね力を強く設定した場合、セレーション部材51の凸部51aとレバー52の凸部52bとが当接する面を、図15及び図16のように大きな角度を持った斜面にすることができる。これにより、セレーション部材51の凸部51aとレバー52の凸部52bとの当接時の音を小さくすることが可能になり、静音化が可能になる。