本発明に係る製造方法では、シクロオレフィンポリマー基材上に第5族金属含有層を気相成膜法により形成する工程;および前記第5族金属含有層上に形成したポリシラザン含有塗膜を乾燥し、ガスバリア層を形成する工程;を含む。当該製造方法を採用することにより、高温高湿環境での耐久性に優れたガスバリア性フィルムを、効率的に製造することができる。以下、本発明において推測されるメカニズムを記載するが、本発明の技術的範囲をなんら制限するものでは無い。
シクロオレフィンポリマー基材(シクロオレフィンポリマーまたはシクロオレフィンコポリマーを主成分とするフィルム基材;以下、「シクロオレフィンポリマー」を「COP」と、「シクロオレフィンコポリマー」を「COC」とも称する)は可撓性があるだけでなく、電子デバイス用ガスバリア性フィルムの基材として用いた場合、リターデーションが低く、また、透湿性がPETの0.1倍、トリアセチルセルロースフィルムの0.001倍程度と低いという利点がある。しかしながら、従来、シクロオレフィンポリマー基材を用いたガスバリア性フィルムは、高温高湿環境においてシリカ等のガスバリア層が剥がれやすく、密着性が十分ではなかった。このため、かようなガスバリア性フィルムは、圧力等により品質が劣化しやすく、品質を維持することが困難であった。また、シクロオレフィンポリマー基材を用いたガスバリア性フィルムは、おそらくは密着性が低いことに起因し、有機EL素子などに用いた場合にダークスポットが発生しやすいという課題があった。
本発明者は、高温高湿環境における密着性の低下は、ガスバリア層におけるSi−O間の結合の弱さに起因するのではないかと推測した。すなわち、シクロオレフィンポリマー基材上にシリカ等のガスバリア層を形成した場合、シクロオレフィンポリマー基材の炭素(C)と、ガスバリア層の酸素(O)やケイ素(Si)とが、C−O−Siの結合を形成すると考えられる。本発明者は、水の存在下においてシロキサン結合が容易に加水分解される(Si−O−Si + H2O → Si−OH + HO−Si)ように、C−O−Siの結合についても高温高湿環境においてC−O間の結合が容易に切断されるのではないかと推測した。また、シクロオレフィンポリマー基材が疎水性であることも、シリカ等の親水性のガスバリア膜との密着性を低下させる一因となっているのではないかと推測した。上記推測に基づき、鋭意検討を重ねたところ、本発明者は、シクロオレフィンポリマー基材とガスバリア層との間に第5族金属含有層を設けることにより、85℃85%RHというような高温高湿環境においても優れた密着性を有するガスバリア層が得られることを見出した。これは、第5族金属含有層はガスバリア層よりも酸化されやすいため、第5族金属含有層が先に酸化されることにより、ガスバリア層酸化が抑制されるためではないかと考えられる。
また、シクロオレフィンポリマー基材のような疎水表面上にガスバリア層を形成する場合と異なり、第5族金属含有層のような結合種が多い非疎水性表面上にガスバリア層を形成することも、密着性の向上に関係しているものと推測される。
また、気相成膜法を採用することにより、シクロオレフィンポリマー基材上に第5族金属含有層を効率的に形成することができる。従って、本発明に係る製造方法においては、特許文献1に記載の製造方法のようにシクロオレフィンポリマー基材の親水化処理やクリアハードコート層の硬化を行わなくとも、密着性に優れたガスバリア性フィルムを製造することができることから、製造効率の向上を図ることができる。
本発明の好ましい一実施形態では、ポリシラザン含有塗膜の表面に印加されるエネルギーが、0.1mJ/cm2未満である。例えば、特許文献2に記載のように、ポリシラザン含有塗膜にエネルギー線照射等の改質処理を行うことにより、ガスバリア層のガスバリア性を向上させ得る。しかしながら、本発明者は、上記の第5族金属含有層上に形成したポリシラザン含有塗膜を乾燥しガスバリア層を形成する工程において、実質的に改質処理を行わない、すなわち、ポリシラザン含有塗膜の表面に印加されるエネルギーを0.1mJ/cm2未満とすることにより、密着性がさらに向上し得ることをも見出した。これは、詳細は不明ではあるが、以下のようなメカニズムではないかと推測される。すなわち、シクロオレフィンポリマー基材のような吸湿しにくい基材を用いた場合、エネルギーを印加してポリシラザン含有塗膜に対して改質処理を施すと、ポリシラザン塗膜が収縮し、ひずみが生じやすいと考えられる。従って、ポリシラザン含有塗膜の表面に印加されるエネルギーを0.1mJ/cm2未満とすることにより、上記のようなポリシラザン塗膜の収縮や、ひずみの発生を防止し得るためではないかと考えられる。さらに、ガスバリア層を形成する工程において実質的に改質処理を行わないことで、製造効率をさらに向上できるという利点がある。
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で測定する。
図1は本発明の一実施形態に係る製造方法により製造されたガスバリア性フィルムを示す断面模式図である。図1のガスバリア性フィルム10は、基材11、第5族金属含有層12、およびガスバリア層13がこの順に配置される。ガスバリア性フィルム10では基材11、第5族金属含有層12およびガスバリア層13の3層から構成されるが、本発明に係る製造方法により製造されるガスバリア性フィルムが、当該3層のみからなる構成に限定されるものではない、例えば、ガスバリア性フィルム10では基材11に隣接して第5族金属含有層12が形成されているが、基材11と第5族金属含有層12との間に、後述する種々の機能を有する層が含まれてもよい。また、ガスバリア層の表層に、ハードコート層等の他の機能層が形成されてもよい。
<第5族金属含有層を形成する工程>
本発明に係る製造方法は、シクロオレフィンポリマー基材上に第5族金属含有層を気相成膜法により形成する工程(以下、単に「第5族金属含有層を形成する工程」とも称する。)を含む。
(シクロオレフィンポリマー基材)
本発明に係る製造方法では、シクロオレフィンポリマーまたはシクロオレフィンコポリマーを主成分とする、シクロオレフィンポリマー基材を用いる。シクロオレフィンポリマー基材は、可撓性があるだけでなく、リターデーションや透湿性が低いという利点がある。
本発明において、「主成分とする」とは、基材を構成する樹脂成分のうち、COPおよびCOCの割合が60質量%以上であることをいう。シクロオレフィンポリマー基材に含まれるCOPおよびCOCの割合は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上である(上限は100質量%)。
本発明に用いられるシクロオレフィンポリマー基材は、従来広く使用されてきたポリエチレンテレフタレート製のフィルムと比較して低い透湿性能を有し、優れた光線透過性(透明性)を有する。このため、有機EL素子に用いた場合、発光効率が向上し得る。更に、シクロオレフィンポリマー基材はリターデーションが低いため、有機EL素子に用いた場合、色の視野角依存性が小さいという利点がある。
シクロオレフィンの重合方法としては、シクロオレフィンをα−オレフィン等と付加重合する方法(方法A)、およびシクロオレフィンの開環重合による方法(方法B)が知られている。方法Aによりシクロオレフィンコポリマー(COC)を、方法Bによりシクロオレフィンポリマー(COP)を得ることができる。重合反応は、通常、触媒の存在下で行われる。
本発明に用いられるフィルム基材の主成分としては、シクロオレフィンを重合または共重合した樹脂が用いられる。シクロオレフィンとしては、例えば、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン、エチルテトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、テトラシクロ〔7.4.0.110,13.02,7〕トリデカ−2,4,6,11−テトラエンなどの多環構造の不飽和炭化水素およびその誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−(2−メチルブチル)−1−シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデン、シクロヘプテン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの単環構造の不飽和炭化水素およびその誘導体等が挙げられる。これらシクロオレフィンは、置換基として極性基を有していてもよい。当該極性基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシル基、エポキシ基、グリシジル基、オキシカルボニル基、カルボニル基、アミノ基、エステル基、カルボン酸無水物基などが挙げられ、特に、エステル基、カルボキシ基またはカルボン酸無水物基が好ましい。
本発明に用いられるフィルム基材の主成分としては、シクロオレフィン以外の単量体を付加共重合したシクロオレフィンコポリマーも好ましく用いられる。付加共重合可能な単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテンなどの鎖状オレフィン;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどのジエン等が挙げられる。
本発明に用いられるフィルム基材の主成分としては、シクロオレフィンを重合または共重合させた後、水素添加反応させて、分子中の不飽和結合を飽和結合に変換したものであることが好ましい。水素添加反応は、公知の水素化触媒の存在下で、水素を吹き込んで行えばよい。
シクロオレフィンポリマーやシクロオレフィンコポリマーとしては、市販品を用いることもできる。かような市販品としては、例えば、ゼオノア(登録商標)、ゼオネックス(登録商標)(以上、日本ゼオン株式会社)、アートン(登録商標)(JSR株式会社)、エスシーナ(登録商標)(積水化学工業株式会社)、アペル(登録商標)(三井化学株式会社)などが例示できる。
シクロオレフィンポリマー基材の製造方法としては、通常のインフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルジョン法、ホットプレス法等の製造法が使用でき、フィルム製膜方法としては、従来公知の溶液流延製膜法、または溶融流延製膜法が選択できる。
シクロオレフィンポリマー基材の表面は、密着性向上のための公知の種々の処理、例えば紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸化処理、またはプラズマ処理等を行っていてもよく、必要に応じて上記処理を組み合わせて行っていてもよい。
シクロオレフィンポリマー基材の厚さは、例えば10〜500μmであり、好ましくは25〜150μmである。
(第5族金属含有層)
本発明に係る製造方法では、上記のシクロオレフィンポリマー基材上に、第5族金属含有層(以下、「層(A)」とも称する。)を気相成膜法により形成する。
層(A)に含まれる第5族金属は、金属の状態であっても良いが、例えば、第5族金属の酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、または酸炭化物等の化合物の状態であっても良い。中でもガスバリア層の酸化をより効果的に抑制し得るという観点から、第5族金属化合物は第5族金属酸化物であることが好ましい。第5族金属は1種単独であっても2種以上併用してもよい。
また、層(A)は、第5族金属をM、化学量論的に得られる第5族金属酸化物をMOn2とした場合に、n1≦((3/5)×n2)である金属酸化物MOn1を含むことが好ましい。かような金属酸化物を含むことで、ガスバリア性フィルムのガスバリア性能が向上し、高温高湿条件下であっても高いガスバリア性能が維持される。n1≦((3/5)×n2)である金属酸化物MOn1を含むことによって、化学量論的な酸化度よりも低い酸化度である領域、つまりはさらなる酸化の余地がある領域が存在することとなるため、より高いガスバリア性能が発揮されると考えられる。
n1≦((3/5)×n2)である金属酸化物MOn1を含むとは、XPS等の組成分析方法で厚さ方向の組成プロファイルを測定した際に、n1≦((3/5)×n2)である測定点が得られるということ、Nbの場合は、n≦1.5である測定点が得られることを意味する。層(A)が複数種の金属を含有する場合であっても、それぞれの金属の比率とその合計から化学量論的なn2を計算して用いることができる。
n1/n2比の調整は、層(A)の形成をスパッタで行う場合を例に挙げると、ターゲットとして金属、もしくは、化学量論的に酸素が欠損した第5族金属酸化物を用い、スパッタの際に導入する酸素の量を適宜調整することで行うことができる。
n1は、厚さ方向のXPS分析を用いてMに対するOの原子比により求めることができる。n1の最小値がn1≦(3/5×n2)となれば、層(A)がn1≦(3/5×n2)である金属酸化物MOn1を含むといえる。
《XPS分析条件》
・装置:アルバックファイ製QUANTERASXM
・X線源:単色化Al−Kα
・測定領域:Si2p、C1s、N1s、O1s、その他測定する金属に応じて定法により設定
・スパッタイオン:Ar(2keV)
・デプスプロファイル:一定時間スパッタ後、測定を繰り返す。1回の測定は、SiO2換算で、約2.5nmの厚さ分となるようにスパッタ時間を調整する
・定量:バックグラウンドをShirley法で求め、得られたピーク面積から相対感度係数法を用いて定量した。データ処理は、アルバックファイ社製のMultiPakを用いる。
第5族金属としては、V、Nb、Ta、およびDbが挙げられる。第5族金属はケイ素よりも酸化還元電位が低く、ポリシラザン含有塗膜を乾燥して形成したガスバリア層の酸化を効果的に抑制し得る。中でも、光学特性の観点から、第5族金属としては、透明性が良好な化合物が得られるニオブ、タンタルが特に好ましい。すなわち、本発明の一実施形態では、第5族金属が、NbおよびTaからなる群から選択される1種以上である。ニオブ、タンタルとしては、Nb2O3、Nb2O5、Ta2O3、Ta2O5等の酸化物であっても良い。
主要な金属の標準酸化還元電位およびn2を下表に示す。
層(A)中における第5族金属の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されない。例えば、第5族金属の含有量(第5族金属化合物の場合、当該化合物として)は、層(A)の全質量に対して90質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましく、100質量%である(すなわち、層(A)は第5族金属または第5族金属化合物からなる)ことがさらに好ましい。
層(A)の形成方法は、金属元素と酸素との組成比を調整しやすいという観点から、気相成膜法である。気相成膜法としては、特に制限されず、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法等の物理気相成長(PVD)法、プラズマCVD(chemical vapordeposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)などの化学気相成長法が挙げられる。中でも、下層へのダメージを与えることなく成膜が可能となり、高い生産性を有することから、スパッタ法により形成することが好ましい。すなわち、本発明の一実施形態では、第5族金属含有層をスパッタ法により形成する。
スパッタ法による成膜は、2極スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、中間的な周波数領域を用いたデュアルマグネトロン(DMS)スパッタリング、イオンビームスパッタリング、ECRスパッタリングなどを単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。また、ターゲットの印加方式はターゲット種に応じて適宜選択され、DC(直流)スパッタリング、およびRF(高周波)スパッタリングのいずれを用いてもよい。また、金属モードと、酸化物モードの中間である遷移モードを利用した反応性スパッタ法も用いることができる。遷移領域となるようにスパッタ現象を制御することにより、高い成膜スピードで金属酸化物を成膜することが可能となるため好ましい。例えば、DCスパッタリングやDMSスパッタリングを行なう際には、そのターゲットに第5族金属を用い、さらに、プロセスガス中に酸素を導入することで、第5族金属酸化物の薄膜を形成することもできる。また、RF(高周波)スパッタ法で成膜する場合は、例えば、第5族金属酸化物のターゲットを用いることもできる。プロセスガスに用いられる不活性ガスとしては、He、Ne、Ar、Kr、Xe等を用いることができ、Arを用いることが好ましい。さらに、プロセスガス中に酸素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素を導入することで、第5族金属の酸化物、窒化物、窒酸化物、炭酸化物等の第5族金属化合物薄膜を作ることができる。
スパッタ法における成膜条件としては、印加電力、放電電流、放電電圧、時間等が挙げられるが、これらは、スパッタ装置や、膜の材料、膜厚等に応じて適宜選択することができる。成膜レートがより高く、より高い生産性を有することから、第5族金属、または第5族金属酸化物をターゲットとして用いるスパッタ法が好ましい。
ターゲットとしては、より具体的には、例えば、NbターゲットやTaターゲット等を用いることができる。本発明においては、Nbターゲットとして、導電性が向上しDCスパッタリングによる成膜ができ、高い成膜速度が得られるという観点で酸素欠損型(化学量論比よりも酸素欠損側の組成比を有する)Nbターゲットを用いることが好ましい。
層(A)は、単層でもよいし2層以上の積層構造であってもよい。層(A)が2層以上の積層構造である場合、各層(A)に含まれる第5族金属は同じものであってもよいし異なるものであってもよい。
層(A)は、ガスバリア層の酸化を抑制しガスバリア性を維持する機能を有すると考えられるため、必ずしもガスバリア性は必要ではない。したがって、層(A)は比較的薄い層でも効果を発揮し得る。具体的には、層(A)の厚さ(2層以上の積層構造である場合はその総厚)は、バリア性の面内均一性の観点から、1〜200nmであることが好ましく、2〜150nmであることがより好ましく、20〜150nmであることがさらに好ましい。
<ガスバリア層を形成する工程>
本発明に係る製造方法においては、上記の第5族金属含有層上にポリシラザン含有塗布液を塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥してガスバリア層を形成する。
(ポリシラザン)
ポリシラザンとは、ケイ素−窒素結合を有するポリマーであり、Si−N、Si−H、N−H等の結合を有し、SiO2、Si3N4、および両方の中間固溶体SiOxNy等のセラミック前駆体無機ポリマーとして知られる。
具体的には、ポリシラザンは、好ましくは下記の構造を有する。
上記一般式(I)において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基である。この際、R1、R2およびR3は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
また、上記一般式(I)において、nは、整数であり、一般式(I)で表される構造を有するポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められることが好ましい。
上記一般式(I)で表される構造を有する化合物において、好ましい態様の一つは、R1、R2およびR3のすべてが水素原子であるパーヒドロポリシラザンである。
または、ポリシラザンとしては、下記一般式(II)で表される構造を有する。
上記一般式(II)において、R1’、R2’、R3’、R4’、R5’およびR6’は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基である。この際、R1’、R2’、R3’、R4’、R5’およびR6’は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
また、上記一般式(II)において、n’およびpは、整数であり、一般式(II)で表される構造を有するポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められることが好ましい。なお、n’およびpは、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
上記一般式(II)のポリシラザンのうち、R1’、R3’およびR6’が各々水素原子を表し、R2’、R4’およびR5’が各々メチル基を表す化合物;R1’、R3’およびR6’が各々水素原子を表し、R2’、R4’が各々メチル基を表し、R5’がビニル基を表す化合物;R1’、R3’、R4’およびR6’が各々水素原子を表し、R2’およびR5’が各々メチル基を表す化合物が好ましい。
または、ポリシラザンとしては、下記一般式(III)で表される構造を有する。
上記一般式(III)において、R1”、R2”、R3”、R4”、R5”、R6”、R7”、R8”およびR9”は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基である。この際、R1”、R2”、R3”、R4”、R5”、R6”、R7”、R8”およびR9”は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
また、上記一般式(III)において、n”、p”およびqは、整数であり、一般式(III)で表される構造を有するポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められることが好ましい。なお、n”、p”およびqは、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
上記一般式(III)のポリシラザンのうち、R1”、R3”およびR6”が各々水素原子を表し、R2”、R4”、R5”およびR8”が各々メチル基を表し、R9”が(トリエトキシシリル)プロピル基を表し、R7”がアルキル基または水素原子を表す化合物が好ましい。
一方、そのSiと結合する水素原子部分の一部がアルキル基等で置換されたオルガノポリシラザンと、パーヒドロポリシラザンとを選択してよく、混合して使用することもできる。
パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と6および8員環を中心とする環構造とが存在する構造と推定されている。その分子量は数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ポリスチレン換算)で、液体または固体の物質があり、その状態は分子量により異なる。
ポリシラザンは有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、市販品をそのままポリシラザン含有塗布液として使用することができる。ポリシラザン溶液の市販品としては、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製のNN120−10、NN120−20、NAX120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL120−20、NL150A、NP110、NP140、SP140等が挙げられる。
本発明で使用できるポリシラザンの別の例としては、以下に制限されないが、例えば、上記ポリシラザンにケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(特開平5−238827号公報)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(特開平6−122852号公報)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(特開平6−240208号公報)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(特開平6−299118号公報)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(特開平6−306329号公報)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(特開平7−196986号公報)等の、低温でセラミック化するポリシラザンが挙げられる。
ガスバリア層中におけるポリシラザンの含有率としては、ガスバリア層の全固形分質量を100質量%としたとき、100質量%でありうる。また、ガスバリア層がポリシラザン以外の固形分を含む場合には、層中におけるポリシラザンの含有率は、10質量%以上99質量%以下であることが好ましく、40質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、特に好ましくは70質量%以上95質量%以下である。
ポリシラザン含有塗布液を調製するための溶剤としては、ポリシラザンを溶解できるものであれば特に制限されないが、ポリシラザンと容易に反応してしまう水および反応性基(例えば、ヒドロキシル基、あるいはアミン基等)を含まず、ポリシラザンに対して不活性の有機溶剤が好ましく、非プロトン性の有機溶剤がより好ましい。具体的には、溶剤としては、非プロトン性溶剤;例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターベン等の、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒;塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類:例えば、テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、モノ−およびポリアルキレングリコールジアルキルエーテル(ジグライム類)などを挙げることができる。上記溶剤は、ポリシラザンの溶解度や溶剤の蒸発速度等の目的にあわせて選択され、単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
ポリシラザン含有塗布液におけるポリシラザンの濃度は、特に制限されず、層の膜厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、好ましくは1〜80質量%、より好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは10〜40質量%である。
ポリシラザン含有塗布液には、必要に応じて下記に挙げる添加剤を用いることができる。例えば、セルロースエーテル類、セルロースエステル類;例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセトブチレート等、天然樹脂;例えば、ゴム、ロジン樹脂等、合成樹脂;例えば、重合樹脂等、縮合樹脂;例えば、アミノプラスト、特に尿素樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステルもしくは変性ポリエステル、エポキシド、ポリイソシアネートもしくはブロック化ポリイソシアネート、ポリシロキサン等である。
ポリシラザン含有塗布液を塗布する方法としては、従来公知の適切な湿式塗布方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、ダイコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
塗布厚さは、好ましい厚さや目的に応じて適切に設定され得る。一例を挙げれば、乾燥後の塗布液(塗膜)の厚さ(複数回塗膜形成を行う場合は1回当たりの厚さ)は、好ましくは40nm以上1000nm以下であり、より好ましくは100nm以上400nm以下である。
塗布液を塗布した後は、塗膜を乾燥させる。塗膜を乾燥することによって、塗膜中に含有される有機溶媒を低減または除去することができる。この際、塗膜に含有される有機溶媒は、すべてを乾燥させてもよいが、一部残存させていてもよい。一部の有機溶媒を残存させる場合であっても、好適なガスバリア層が得られうる。
塗膜の乾燥温度は、適用する基材によっても異なるが、50〜200℃であることが好ましい。乾燥温度は、熱による基材の変形等を考慮して150℃以下に設定することが好ましい。上記温度は、ホットプレート、オーブン、ファーネスなどを使用することによって設定されうる。乾燥時間は短時間に設定することが好ましく、例えば、乾燥温度が150℃である場合には30分以内に設定することが好ましい。また、乾燥雰囲気は、大気雰囲気下、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、真空雰囲気下、酸素濃度をコントロールした減圧雰囲気下等のいずれの条件であってもよい。
ポリシラザン含有塗布液を塗布して得られた塗膜は、任意に、水分を除去する工程を含んでいてもよい。水分を除去する工程は、エネルギーの印加中に行ってもよい。水分を除去する方法としては、低湿度環境を維持して除湿する形態が好ましい。低湿度環境における湿度は温度により変化するので、温度と湿度の関係は露点温度の規定により好ましい形態が示される。好ましい露点温度は4℃以下(温度25℃/湿度25%)で、より好ましい露点温度は−5℃以下(温度25℃/湿度10%)であり、維持される時間はガスバリア層の膜厚によって適宜設定することが好ましい。ガスバリア層の膜厚が1.0μm以下の条件においては、露点温度は−5℃以下で、維持される時間は1分以上であることが好ましい。なお、露点温度の下限は特に制限されないが、通常、−50℃以上であり、−40℃以上であることが好ましい。
(エネルギーの印加)
ポリシラザン含有塗膜を乾燥してガスバリア層を形成する場合、例えば上記の特許文献2に記載されるように、乾燥前または乾燥後のポリシラザン含有塗膜に対してプラズマ処理や紫外線照射処理等の改質処理が一般的に行われている。かような改質処理により、ポリシラザンが酸化ケイ素または酸窒化珪素へ転化し、ガスバリア性が向上し得る。本発明においても、ガスバリア性向上のため、改質処理を行っても良い。しかしながら、本発明に係る製造方法において、ポリシラザンの改質処理を行うと、シクロオレフィンポリマー基材に対するガスバリア層の密着性が低下する場合がある。従って、本発明に係る製造方法においては、実質的に改質処理を行わずにガスバリア層を形成すること、すなわち、ポリシラザン含有塗膜の形成後、乾燥し、ガスバリア性フィルムが得られるまでにポリシラザン含有塗膜に印加されるエネルギーが、0.1mJ/cm2未満であることが好ましい。すなわち、本発明の一実施形態は、ポリシラザン含有塗膜に印加されるエネルギーが、0.1mJ/cm2未満である。
ポリシラザン含有塗膜に印加されるエネルギーが0.1mJ/cm2未満であれば、製造工程においてポリシラザンの酸化転化反応が進行せず、密着性が向上し得る。ポリシラザン含有塗膜に印加されるエネルギーは、より好ましくは0.05mJ/cm2以下である(下限は0mJ/cm2)。
なお、上記の「実質的に改質処理を行わない」とは、ポリシラザン含有塗布液を塗布後、ガスバリア性フィルムを得るまでの工程において、後述するプラズマ処理、紫外線照射処理、および450℃以上の加熱処理を実施しないことをいい、例えばポリシラザン塗膜が400nm超の可視光に曝されるような、ポリシラザンの改質に影響しない程度のエネルギー付与が妨げられるものでは無い。実質的に改質処理が行われていないことは、得られたガスバリア性フィルムにおけるガスバリア層の原子比を測定し、ガスバリア層表層から10nm以内におけるケイ素に対する窒素の元素比(at%)が、0.9〜1.0の範囲内であることにより確認できる。
ポリシラザン含有塗膜の改質処理を行う場合、ポリシラザンの酸化ケイ素または酸窒化ケイ素等への転化反応は、公知の方法を適宜選択して適用することができる。改質処理としては、具体的には、プラズマ処理、紫外線照射処理、加熱処理が挙げられる。ただし、加熱処理による改質の場合、ケイ素化合物の置換反応による酸化ケイ素膜または酸窒化ケイ素層の形成には450℃以上の高温が必要であるため、プラスチック等のフレキシブル基板においては、適応が難しい。このため、熱処理は他の改質処理と組み合わせて行うことが好ましい。
したがって、改質処理としては、プラスチック基板への適応という観点から、より低温で、転化反応が可能なプラズマ処理や紫外線照射処理による転化反応が好ましい。以下、好ましい改質処理方法であるプラズマ処理、紫外線照射処理について説明する。
(プラズマ処理)
本発明において、改質処理として用いることのできるプラズマ処理は、公知の方法を用いることができるが、好ましくは大気圧プラズマ処理等を挙げることが出来る。大気圧近傍でのプラズマCVD処理を行う大気圧プラズマCVD法は、真空下のプラズマCVD法に比べ、減圧にする必要がなく生産性が高いだけでなく、プラズマ密度が高密度であるために成膜速度が速く、さらには通常のCVD法の条件に比較して、大気圧下という高圧力条件では、ガスの平均自由工程が非常に短いため、極めて均質の膜が得られる。
大気圧プラズマ処理の場合は、放電ガスとしては窒素ガスまたは長周期型周期表の第18族原子を含むガス、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。これらの中でも窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられ、特に窒素がコストも安く好ましい。
プラズマ処理において印加されるエネルギーは、例えば基材表面の強度で1〜5000mJ/cm2である。
(紫外線照射処理)
改質処理の方法の1つとして、紫外線照射による処理が挙げられる。紫外線(紫外光と同義)によって生成されるオゾンや活性酸素原子は高い酸化能力を有しており、低温で高い緻密性と絶縁性を有する酸化ケイ素膜または酸窒化ケイ素膜を形成することが可能である。
この紫外線照射により、基材が加熱され、セラミックス化(シリカ転化)に寄与するO2とH2Oや、紫外線吸収剤、ポリシラザン自身が励起、活性化されるため、ポリシラザンが励起し、ポリシラザンのセラミックス化が促進され、また得られるガスバリア層が一層緻密になる。紫外線照射は、塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。
紫外線照射処理においては、常用されているいずれの紫外線発生装置を使用することも可能である。
なお、本発明でいう紫外線とは、一般には、10〜400nmの波長を有する電磁波をいうが、後述する真空紫外線(10〜200nm)処理以外の紫外線照射処理の場合は、好ましくは210〜375nmの紫外線を用いる。
紫外線の照射は、照射されるガスバリア層を担持している基材がダメージを受けない範囲で、照射強度や照射時間を設定することが好ましい。
基材としてプラスチックフィルムを用いた場合を例にとると、例えば、2kW(80W/cm×25cm)のランプを用い、基材表面の強度が20〜300mW/cm2、好ましくは50〜200mW/cm2になるように基材−紫外線照射ランプ間の距離を設定し、0.1秒〜10分間の照射を行うことができる。
一般に、紫外線照射処理時の基材温度が150℃以上になると、プラスチックフィルム等の場合には、基材が変形したり、その強度が劣化したりする等、基材の特性が損なわれることになる。紫外線照射時の基材温度としては、基材の種類によって当業者が適宜設定することができる。また、紫外線照射雰囲気に特に制限はなく、空気中で実施すればよい。
このような紫外線の発生手段としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、エキシマランプ(172nm、222nm、308nmの単一波長、例えば、ウシオ電機株式会社製、株式会社エム・ディ・コム製など)、UV光レーザー等が挙げられるが、特に限定されない。また、発生させた紫外線をガスバリア層に照射する際には、効率向上と均一な照射を達成する観点から、発生源からの紫外線を反射板で反射させてからガスバリア層に当てることが好ましい。
紫外線照射は、バッチ処理にも連続処理にも適合可能であり、使用する基材の形状によって適宜選定することができる。例えば、バッチ処理の場合には、ガスバリア層を表面に有する積層体を上記のような紫外線発生源を具備した紫外線焼成炉で処理することができる。紫外線焼成炉自体は一般に知られており、例えば、アイグラフィクス株式会社製の紫外線焼成炉を使用することができる。また、ガスバリア層を表面に有する積層体が長尺フィルム状である場合には、これを搬送させながら上記のような紫外線発生源を具備した乾燥ゾーンで連続的に紫外線を照射することによりセラミックス化することができる。紫外線照射に要する時間は、使用する基材やガスバリア層の組成、濃度にもよるが、一般に0.1秒〜10分であり、好ましくは0.5秒〜3分である。
(真空紫外線照射処理:エキシマ照射処理)
本発明において、改質処理方法は、真空紫外線照射による処理(エキシマ照射処理)であってもよい。真空紫外線照射による処理は、ポリシラザン化合物内の原子間結合力より大きい100〜200nmの光エネルギーを用い、好ましくは100〜180nmの波長の光エネルギーを用い、原子の結合を光量子プロセスと呼ばれる光子のみの作用により、直接切断しながら活性酸素やオゾンによる酸化反応を進行させることで、比較的低温(約200℃以下)で、酸化ケイ素膜の形成を行う方法である。なお、エキシマ照射処理を行う際は、上述したように熱処理を併用することが好ましい。
本発明においての放射線源は、100〜180nmの波長の光を発生させるものであればよいが、好適には約172nmに最大放射を有するエキシマラジエータ(例えば、Xeエキシマランプ)、約185nmに輝線を有する低圧水銀蒸気ランプ、並びに230nm以下の波長成分を有する中圧および高圧水銀蒸気ランプ、および約222nmに最大放射を有するエキシマランプである。
このうち、Xeエキシマランプは、波長の短い172nmの紫外線を単一波長で放射することから、発光効率に優れている。この光は、酸素の吸収係数が大きいため、微量な酸素でラジカルな酸素原子種やオゾンを高濃度で発生することができる。
また、波長の短い172nmの光のエネルギーは、有機物の結合を解離させる能力が高いことが知られている。この活性酸素やオゾンと紫外線放射が持つ高いエネルギーによって、短時間でポリシラザン塗膜の改質を実現できる。
エキシマランプは光の発生効率が高いため、低い電力の投入で点灯させることが可能である。また、光による温度上昇の要因となる波長の長い光は発せず、紫外線領域で、すなわち短い波長でエネルギーを照射するため、解射対象物の表面温度の上昇が抑えられる特徴を持っている。このため、熱の影響を受けやすいとされるPETなどのフレシキブルフィルム材料に適している。
紫外線照射時の反応には、酸素が必要であるが、真空紫外線は、酸素による吸収がある。このため紫外線照射工程での効率が低下しやすいことから、真空紫外線の照射は、可能な限り酸素濃度および水蒸気濃度の低い状態で行うことが好ましい。すなわち、真空紫外線照射時の酸素濃度は、10〜20,000体積ppm(0.001〜2体積%)とすることが好ましく、50〜10,000体積ppm(0.005〜1体積%)とすることがより好ましい。また、転化プロセスの間の水蒸気濃度は、好ましくは1000〜4000体積ppmの範囲である。
真空紫外線照射時に用いられる、照射雰囲気を満たすガスとしては乾燥不活性ガスとすることが好ましく、特にコストの観点から乾燥窒素ガスにすることが好ましい。酸素濃度の調整は照射庫内へ導入する酸素ガス、不活性ガスの流量を計測し、流量比を変えることで調整可能である。
真空紫外線照射工程において、ポリシラザン塗膜が受ける塗膜面での該真空紫外線の照度は1mW/cm2〜10W/cm2であると好ましく、30mW/cm2〜200mW/cm2であることがより好ましく、50mW/cm2〜160mW/cm2であるとさらに好ましい。1mW/cm2以上であれば、改質効率が向上し、10W/cm2以下であれば、塗膜に生じ得るアブレーションや、基材へのダメージを低減することができる。
塗膜面における真空紫外線の照射エネルギー量(照射量)は、100mJ/cm2〜50J/cm2であることが好ましく、200mJ/cm2〜20J/cm2であることがより好ましく、500mJ/cm2〜10J/cm2であることがさらに好ましい。100mJ/cm2以上であれば、改質が十分となり、50J/cm2以下であれば、過剰改質によるクラック発生や、基材の熱変形を抑制することができる。
また、用いられる真空紫外線は、CO、CO2およびCH4の少なくとも一種を含むガスで形成されたプラズマにより発生させてもよい。さらに、CO、CO2およびCH4の少なくとも一種を含むガス(以下、炭素含有ガスとも称する)は、炭素含有ガスを単独で使用してもよいが、希ガスまたはH2を主ガスとして、炭素含有ガスを少量添加することが好ましい。プラズマの生成方式としては容量結合プラズマなどが挙げられる。
なお、ガスバリア層の厚さ方向の組成分布および厚さは、下記のようなXPS(光電子分光法)分析を用いた方法で測定して求めることができる。
ガスバリア層のエッチングレートは組成によって異なるため、本発明においては、XPS分析での厚さは、SiO2換算のエッチングレートを元にして一旦求めておき、同一試料の断面TEM画像をもとに、積層して形成した領域の各領域間の界面を特定して一領域当たりの厚さを求め、これをXPS分析から求めた厚さ方向の組成分布と比較しながら、厚さ方向の組成分布における各領域を特定し、それぞれに対応するXPS分析から求めた各領域の厚さと、断面TEM画像から求めた各領域の厚さが一致するように、XPS分析から求めた各領域の厚さに対して一律に係数をかけることで厚さ方向の補正を行っている。
本発明におけるXPS分析は、下記の条件で行ったものであるが、装置や測定条件が変わっても本発明の主旨に即した測定方法であれば問題なく適用できるものである。
本発明の主旨に即した測定方法とは、主に厚さ方向の解像度であり、測定点1点あたりのエッチング深さ(下記のスパッタイオンとデプスプロファイルの条件に相当)は1〜15nmであることが好ましく、1〜10nmであることがより好ましい。
《XPS分析条件》
・装置:アルバックファイ製QUANTERASXM
・X線源:単色化Al−Kα
・測定領域:Si2p、C1s、N1s、O1s
・スパッタイオン:Ar(2keV)
・デプスプロファイル:一定時間スパッタ後、測定を繰り返す。1回の測定は、SiO2換算で、約2.8nmの厚さ分となるようにスパッタ時間を調整する
・定量:バックグラウンドをShirley法で求め、得られたピーク面積から相対感度係数法を用いて定量した。データ処理は、アルバックファイ社製のMultiPakを用いる。
このようにして、ガスバリア層の膜厚方向の組成分布のプロファイルの一次データを得る。
また、各試料の断面をTEMで撮影し、積層構成の各膜厚を求める。上記で求めた膜厚方向の組成分布のプロファイルをTEM画像から求めた実膜厚データを用いて補正し、領域の膜厚方向の組成分布を得る。これを元に、領域(c)の厚さを求める。
TEM画像により一領域当たりの厚さを求める方法は、ガスバリア性フィルムを、以下のFIB加工装置により薄片を作製した後、定法に従い断面TEM観察を行えばよい。このようにして、各領域の厚さを算出できる。FIB加工およびTEM観察に用いることができる一例を以下に示す。
《FIB加工》
・装置:SII製SMI2050
・加工イオン:(Ga 30kV)
・試料厚み:100nm〜200nm
《TEM観察》
・装置:日本電子株式会社製JEM2000FX(加速電圧:200kV)。
本発明において形成されるガスバリア層は、単層でもよいし2層以上の積層構造であってもよい。ガスバリア層が2層以上の積層構造である場合、各ガスバリア層は同じ組成であってもよいし異なる組成であってもよい。
ガスバリア層の厚さ(2層以上の積層構造である場合はその総厚)は、10〜1000nmであることが好ましく、50〜600nmであることがより好ましい。この範囲であれば、ガスバリア性と耐久性とのバランスが良好となり好ましい。ガスバリア層の厚さは、TEM観察により測定することができる。
<種々の機能を有する層>
本発明に係る製造方法は、種々の機能を有する層を設ける工程を含むことができる。
(アンカーコート層)
ガスバリア層を形成する側の樹脂基材の表面には、密着性の向上を目的として、アンカーコート層を形成してもよい。
アンカーコート層に用いられるアンカーコート剤としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、およびアルキルチタネート等を単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
これらのアンカーコート剤には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記のアンカーコート剤は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法により支持体上にコーティングし、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりアンカーコーティングすることができる。上記のアンカーコート剤の塗布量としては、0.1〜5.0g/m2(乾燥状態)程度が好ましい。
また、アンカーコート層は、物理蒸着法または化学蒸着法といった気相法により形成することもできる。例えば、特開2008−142941号公報に記載のように、接着性等を改善する目的で酸化珪素を主体とした無機膜を形成することもできる。あるいは、特開2004−314626号公報に記載されているようなアンカーコート層を形成することで、その上に気相法により無機薄膜を形成する際に、基材側から発生するガスをある程度遮断して、無機薄膜の組成を制御するといった目的でアンカーコート層を形成することもできる。
また、アンカーコート層の厚さは、特に制限されないが、0.5〜10μm程度が好ましい。
(平滑層)
本発明に係る製造方法により製造されるガスバリア性フィルムは、基材と第5族金属含有層との間に、平滑層を有してもよい。本発明に用いられる平滑層は突起等が存在する樹脂基材の粗面を平坦化し、あるいは、樹脂基材に存在する突起により透明無機化合物層に生じた凹凸やピンホールを埋めて平坦化するために設けられる。このような平滑層は、基本的には感光性材料、または、熱硬化性材料を硬化させて作製される。
平滑層の感光性材料としては、例えば、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物を含有する樹脂組成物、アクリレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物を含有する樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、グリセロールメタクリレート等の多官能アクリレートモノマーを溶解させた樹脂組成物等が挙げられる。具体的には、JSR株式会社製のUV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR(登録商標)シリーズを用いることができる。また、上記のような樹脂組成物の任意の混合物を使用することも可能であり、光重合性不飽和結合を分子内に1個以上有する反応性のモノマーを含有している感光性樹脂であれば特に制限はない。
熱硬化性材料として具体的には、クラリアント社製のトゥットプロムシリーズ(有機ポリシラザン)、セラミックコート株式会社製のSP COAT耐熱クリアー塗料、株式会社アデカ製のナノハイブリッドシリコーン、DIC株式会社製のユニディック(登録商標)V−8000シリーズ、EPICLON(登録商標) EXA−4710(超高耐熱性エポキシ樹脂)、信越化学工業株式会社製の各種シリコン樹脂、日東紡株式会社製の無機・有機ナノコンポジット材料SSGコート、アクリルポリオールとイソシアネートプレポリマーとからなる熱硬化性ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。この中でも特に耐熱性を有するエポキシ樹脂ベースの材料であることが好ましい。
平滑層の形成方法は、特に制限はないが、スピンコーティング法、スプレー法、ブレードコーティング法、ディップ法等のウエットコーティング法、あるいは、蒸着法等のドライコーティング法により形成することが好ましい。
平滑層の形成では、上述の感光性樹脂に、必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等の添加剤を加えることができる。また、平滑層の積層位置に関係なく、いずれの平滑層においても、成膜性向上および膜のピンホール発生防止等のために適切な樹脂や添加剤を使用してもよい。
平滑層の厚さとしては、フィルムの耐熱性を向上させ、フィルムの光学特性のバランス調整を容易にする観点から、1〜10μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは、2μm〜7μmの範囲にすることが好ましい。
平滑層の平滑性は、JIS B 0601:2001で規定される表面粗さで表現される値で、十点平均粗さRzが、10nm以上、30nm以下であることが好ましい。この範囲であれば、バリア層を塗布形式で塗布した場合であっても、ワイヤーバー、ワイヤレスバー等の塗布方式で、平滑層表面に塗工手段が接触する場合であっても塗布性が損なわれることが少なく、また、塗布後の凹凸を平滑化することも容易である。
(CHC層)
本発明に係る製造方法により製造されるガスバリア性フィルムにおいては、基材面にクリアハードコート層(CHC層)を設けても良い。クリアハードコート層を設けることにより、ガスバリア性フィルムの耐久性や平滑性が向上し得る。
CHC層の形成に使用される硬化型樹脂としては、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ビニルベンジル樹脂等の熱硬化型樹脂や、紫外線硬化型ウレタンアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、または紫外線硬化型エポキシ樹脂等の活性エネルギー線硬化型樹脂が挙げられる。
また、クリアハードコート層には、耐傷性、滑り性や屈折率を調整するために、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム等の無機化合物の微粒子;または、ポリメタアクリル酸メチルアクリレート樹脂粉末、アクリルスチレン系樹脂粉末、ポリメチルメタクリレート樹脂粉末、シリコーン系樹脂粉末、ポリスチレン系樹脂粉末、ポリカーボネート樹脂粉末、ベンゾグアナミン系樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、もしくはポリ弗化エチレン系樹脂粉末等の紫外線硬化性樹脂組成物を加えることができる。また、クリアハードコート層の耐熱性を高めるために、光硬化反応を抑制しないような酸化防止剤を選んで用いることができる。更にクリアハードコート層は、シリコーン系界面活性剤またはポリオキシエーテル化合物や、フッ素−シロキサングラフトポリマーを含有させてもよい。
クリアハードコート層形成用塗布液に含有される有機溶媒としては、例えば、炭化水素類(例えば、トルエン、キシレン等)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル等)、グリコールエーテル類、その他の有機溶媒の中から適宜選択し、またはこれらを混合し利用できる。
クリアハードコート層形成用塗布液に含有される硬化型樹脂含量は、例えば、5〜80重量%である。
クリアハードコート層は、クリアハードコート層形成用塗布液を用いて、グラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、インクジェット法等公知の湿式塗布方法で塗設することができる。ハードコート層塗布液の層厚としては、例えば0.1〜30μmである。基材にクリアハードコート層を塗布する前に、あらかじめ基材に真空紫外線照射等の表面処理を行うことが好ましい。
クリアハードコート層形成用塗布液を塗布して形成した塗膜に対し、紫外線等の活性エネルギー線を照射して効果型樹脂を硬化させ、クリアハードコート層を形成する。硬化に用いる光源としては、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。照射条件は、例えば50〜2000mJ/cm2の範囲内である。
<電子デバイス>
本発明の製造方法により製造したガスバリア性フィルムは、空気中の化学成分(酸素、水、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等)によって性能が劣化するデバイスに好ましく適用できる。すなわち、本発明の一実施形態では、上記の製造方法により製造されたガスバリア性フィルムを含む、電子デバイスが提供される。
本発明の電子デバイスに用いられる電子デバイス本体の例としては、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)、液晶表示素子(LCD)、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池(PV)等を挙げることができる。本発明の効果がより効率的に得られるという観点から、該電子デバイス本体は有機EL素子または太陽電池が好ましく、有機EL素子がより好ましい。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
[比較例1]
以下の方法により、ガスバリア性フィルム1を得た。
(フィルム基材の表面処理とCHC層の形成)
シクロオレフィンポリマー基材として、ゼオノア(登録商標)ZF14(日本ゼオン株式会社、フィルム厚さ100μm)を用いた。
以下の方法により、シクロオレフィンポリマー基材を表面処理し、クリアハードコート層(CHC層)を形成した。すなわち、コロナ放電処理装置(AGI−080、春日電機社)の放電様電極とシクロオレフィンポリマー基材との間隙を1mmに設定し、処理出力が600mW/cm2の条件で10秒間の表面コロナ処理を行った。次いで、コロナ処理を施したシクロオレフィンポリマー基材上に、ポリウレタンアクリレートおよびアクリル酸エステルを主成分とした紫外線硬化型樹脂含有塗布液(日本合成化学社製 紫光UV−1700B)を、湿式コーターを用いて、ドライ膜厚4μmになるように塗布した。その後、80℃で3分乾燥した塗膜に、大気下で高圧水銀ランプを使用して、1.0J/cm2の条件で紫外線硬化型樹脂を硬化させ、クリアハードコート層(CHC層)を形成した。
(ガスバリア層の形成)
上記のクリアハードコート層(CHC層)上に、下記に示すようなポリシラザン含有塗布液を塗布して塗膜を形成した後、乾燥させた。
ポリシラザン含有塗布液として、パーヒドロポリシラザン(PHPS;アクアミカ NN120−10、無触媒タイプ、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社)の10質量%ジブチルエーテル溶液を調製した。調製したポリシラザン含有塗布液を、ワイヤレスバーにて、乾燥後の平均層厚が300nmとなるようにクリアハードコート層上に塗布し、温度85℃、湿度55%RHの雰囲気下で1分間処理して乾燥させた。更に、温度25℃、湿度10%RH(露点温度−8℃)の雰囲気下に10分間保持し、除湿処理を行って、ポリシラザン含有乾燥塗膜を形成した。
続いて、ポリシラザン含有乾燥塗膜に対し、下記の条件でエキシマ光照射処理を行って改質処理し、ガスバリア層を形成した;
紫外線照射装置:株式会社 エム・ディ・コム製エキシマ光照射装置
MODEL:MECL−M−1−200
照射波長:172nm
ランプ封入ガス:Xe
エキシマランプ光強度:130mW/cm2(172nm)
試料と光源の距離:1mm
ステージ加熱温度:70℃
照射装置内の酸素濃度:1.0%(v/v)
エキシマランプ照射時間:5秒。
[比較例2]
以下の方法により、ガスバリア性フィルム2を得た。
(ジルコニウム含有層の形成)
シクロオレフィンポリマー基材として、ゼオノア(登録商標)ZF14(日本ゼオン株式会社、フィルム厚さ100μm)を用いた。
上記のマグネトロンスパッタ装置を用い、下記の成膜条件No.M1の条件にて、シクロオレフィンポリマー基材上にジルコニウム含有層を形成した。
成膜条件No.M1:ZrOx、x=2条件
ターゲットとしてZrターゲットを用い、プロセスガスにはArとO2を用いたDCスパッタにより成膜した。事前にガラス基板を用いた成膜により、酸素分圧を調整することにより組成の条件出しを行い、表層から深さ10nm近傍の組成がZrO2となる条件を見出した。この条件を適用し、15nmの厚さで成膜を行った。
(ガスバリア層の形成)
比較例1の方法に従い、ジルコニウム含有層上にポリシラザン含有乾燥塗膜を形成し、改質処理を行ってガスバリア層を形成した。
[実施例1]
ジルコニウム含有層の代わりに、下記の成膜条件No.M2の条件にて、上記のシクロオレフィンポリマー基材上に第5族金属含有層を形成した以外は比較例2と同様の方法により、ガスバリア性フィルム3を得た。
成膜条件No.M2:NbOx、x=1.5条件
ターゲットとして酸素欠乏型Nbターゲット(導電性Nb2O5ターゲット(三菱マテリアル社製))を用い、プロセスガスにはArとO2を用いたDCスパッタにより成膜した。事前にガラス基板を用いた成膜により、酸素分圧を調整することにより組成の条件出しを行い、表層から深さ10nm近傍の組成がNbO1.5となる条件を見出した。この条件を適用し、15nmの厚さで成膜を行った。
[実施例2]
ポリシラザン含有乾燥塗膜の改質処理を行わなかった以外は実施例1と同様の方法により、ガスバリア性フィルム4を得た。
[実施例3]
シクロオレフィンポリマー基材としてFフィルム(グンゼ社製、フィルム厚さ100μm、シクロオレフィンコポリマーを主成分とする)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、ガスバリア性フィルム5を得た。
[実施例4]
第5族金属含有層の形成条件を成膜条件No.M3に変更した以外は実施例2と同様の方法により、ガスバリア性フィルム6を得た。
成膜条件No.M3:TaOx、x=2.5条件
ターゲットとしてTaターゲットを用い、プロセスガスにはArとO2を用いたDCスパッタにより成膜した。事前にガラス基板を用いた成膜により、酸素分圧を調整することにより組成の条件出しを行い、表層から深さ10nm近傍の組成がTaO2.5となる条件を見出した。この条件を適用し、15nmの厚さで成膜を行った。
[実施例5]
ポリシラザン含有乾燥塗膜の改質処理を行わなかった以外は実施例3と同様の方法により、ガスバリア性フィルム7を得た。
≪有機EL素子の作製方法≫
上記のガスバリア性フィルム1〜7を用い、下記に示すような方法で、発光領域の面積が5cm×5cmとなるように、ボトムエミッション型の有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)を作製した。
(下地層、第1電極の形成)
ガスバリア性フィルムを、市販の真空蒸着装置の基材ホルダーに固定し、化合物118をタングステン製の抵抗加熱ボートに入れ、これら基材ホルダーと加熱ボートとを真空蒸着装置の第1真空槽内に取り付けた。また、タングステン製の抵抗加熱ボートに銀(Ag)を入れ、真空蒸着装置の第2真空槽内に取り付けた。
次に、真空蒸着装置の第1真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、化合物118の入った加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒〜0.2nm/秒で第1電極の下地層を厚さ10nmで設けた。
次に、下地層まで形成した基材を真空のまま第2真空槽に移し、第2真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、銀の入った加熱ボートを通電して加熱した。これにより、蒸着速度0.1nm/秒〜0.2nm/秒で厚さ8nmの銀からなる第1電極を形成した。
(有機機能層〜第2電極)
引き続き、市販の真空蒸着装置を用い、真空度1×10−4Paまで減圧した後、基材を移動させながら化合物HT−1を、蒸着速度0.1nm/秒で蒸着し、20nmの正孔輸送層(HTL)を設けた。
次に、化合物A−3(青色発光ドーパント)、化合物A−1(緑色発光ドーパント)、化合物A−2(赤色発光ドーパント)および化合物H−1(ホスト化合物)を、化合物A−3が膜厚に対し線形に35質量%から5質量%になるように場所により蒸着速度を変化させ、化合物A−1と化合物A−2は膜厚に依存することなく各々0.2質量%の濃度になるように、蒸着速度0.0002nm/秒で、化合物H−1は64.6質量%から94.6質量%になるように場所により蒸着速度を変化させて、厚さ70nmになるよう共蒸着し発光層を形成した。
その後、化合物ET−1を膜厚30nmに蒸着して電子輸送層を形成し、さらにフッ化カリウム(KF)を厚さ2nmで形成した。さらに、アルミニウム110nmを蒸着して第2電極を形成した。
なお、上記化合物118、化合物HT−1、化合物A−1〜3、化合物H−1、および化合物ET−1は、以下に示す化合物である。
(固体封止)
次に、封止部材として厚さ25μmのアルミ箔を使用し、このアルミ箔の片面に封止樹脂層として熱硬化型のシート状接着剤(エポキシ系樹脂)を厚さ20μmで貼合した封止部材を用いて、第2電極までを作製した試料に重ね合わせた。このとき、第1電極および第2電極の引き出し電極の端部が外に出るように、封止部材の接着剤形成面と、素子の有機機能層面とを連続的に重ね合わせた。
次いで、試料を減圧装置内に配置し、90℃で0.1MPaの減圧条件下で、重ね合わせた基材と封止部材とに押圧をかけて5分間保持した。続いて、試料を大気圧環境に戻し、さらに120℃で30分間加熱して接着剤を硬化させた。
上記封止工程は、大気圧下、含水率1ppm以下の窒素雰囲気下で、JIS B 9920:2002に準拠し、測定した清浄度がクラス100で、露点温度が−80℃以下、酸素濃度0.8ppm以下の大気圧で行った。なお、陽極、陰極からの引き出し配線等の形成に関する記載は省略してある。
このようにして、発光領域が5cm×5cmサイズの電子デバイスを、各ガスバリア性フィルムについて4枚ずつ作製した。
(ダークスポット(DS)の評価)
上記のようにして得られた有機EL素子を85℃、85%RHの環境下で通電を行った。円換算直径が300μm以上であるダークスポットの発生個数を、4枚のデバイスの平均で求めた。
具体的には、上記有機EL素子1〜7について、1mA/cm2の電流を印加して発光させた。次いで、印加直後と、85℃、85%RHの環境下で発光時間として、200時間及び500時間で連続発光させた後の発光状態について、100倍の光学顕微鏡(株式会社モリテックス製 MS−804、レンズMP−ZE25−200)で、有機EL素子の一部分を拡大して撮影した。次いで、撮影画像を2mm四方に切り抜き、それぞれの画像について、ダークスポット発生の有無を観察した。観察結果より、発光面積に対するダークスポットの発生面積比率を求め、下記の基準に従って、ダークスポット耐性を評価した。
5:500時間発光後の試料でも、ダークスポットの発生は全く認められない
4:200時間発光後の試料でも、ダークスポットの発生は全く認められないが、500時間発光後の試料で、僅かにダークスポットの発生が認められる(発生面積0.1%以上、3.0%未満)
3:200時間発光後の試料で、僅かにダークスポットの発生が認められる(発生面積0.1%以上、3.0%未満)
2:200時間発光後の試料で、明らかなダークスポットの発生が認められる(発生面積3.0%以上、6.0%未満)
1:200時間発光後の試料で、多数のダークスポットの発生が認められる(発生面積6.0%以上)