1.積層シート
本発明の積層シートは、少なくとも、顔料を含む高輝度インキ層と、熱可塑性樹脂を含むアンカー層とが隣接するように積層されており、アンカー層が、高輝度インキ層の上に部分的に形成されており、アンカー層に含まれる熱可塑性樹脂の平均酸価が30mgKOH/g以上であることを特徴とする。本発明の積層シートは、このような構成を有することにより、ホログラム、エンボスなどの従来の手法によらず、見る角度によって意匠が変化するフリップフロップ性の意匠を簡便かつ好適に発現し得る。本発明の積層シートは、このような意匠を発現することができるため、意匠性が要求される各種の用途、例えば、カタログやチラシ等の印刷物;カード類;包装材;家具や建材、日用品に貼着して用いる装飾シート等に使用することができるが、中でも成形樹脂を加飾して加飾成形品を製造するための加飾シートとして好適に使用することができる。フリップフロップ性の意匠は、曲面部分において、特に効果的に発現しやすいため、本発明の積層シートは、三次元成形用加飾シートとして特に好適に使用することができる。以下、本発明の積層シートについて詳述する。
積層シートの積層構造
本発明の積層シートは、少なくとも、顔料を含む高輝度インキ層2と、熱可塑性樹脂を含むアンカー層3とが隣接するように積層されている。また、アンカー層3は、高輝度インキ層2の上に部分的に形成されている。本発明の積層シートは、積層シートの保形性を高めることなどを目的として、必要に応じて、基材層1を有していてもよい。また、本発明の積層シートは、積層シートの表面を保護することなどを目的として、必要に応じて、表面保護層4を設けてもよい。また、表面保護層4と、これに隣接する層との密着性を高めることなどを目的として、必要に応じて、表面保護層4の下にプライマー層7を設けてもよい。また、積層シートの装飾性を高めることなどを目的として、必要に応じて、装飾層5を有していてもよい。また、積層シートの層間(例えば、基材層1と高輝度インキ層2との間など)や、積層シートと成形樹脂層9との間(例えば、高輝度インキ層2と成形樹脂層9との間など)の密着性を高めることなどを目的として、必要に応じて、接着層6を有していてもよい。
後述の通り、本発明の積層シートを用いて加飾樹脂成形品を製造する場合において、成形樹脂層9が積層される側とは反対側の表面に形成された基材層1(加飾樹脂成形品から剥離される転写用の基材シートであって、転写用基材層1aということがある)を有しない積層シートを第1の態様の積層シートとする。第1の態様の積層シートでは、成形樹脂層9を基材層1側に形成することにより、図3または図4に示すように、基材層1が加飾樹脂成形品に含まれる。一方、基材層1(転写用基材層1a)を有しており、基材層1(転写用基材層1a)が剥離されて、加飾樹脂成形品に含まれない積層シートを、第2の態様の積層シートとする。第2の態様の積層シートでは、成形樹脂層9を基材層1とは反対側に形成して、例えば図6のような支持体付きの加飾樹脂成形品を得た後、高輝度インキ層2を含む転写層11から転写用基材層1aを含む支持体10を剥離するため、図7のように基材層1が加飾樹脂成形品に含まれない。第2の態様の積層シートにおいては、加飾樹脂成形品からの基材層1の剥離性を高めることなどを目的として、必要に応じて、転写用基材層1aと表面保護層4などとの間に離型層8を有していてもよい。
本発明の第1の態様の積層シートの積層構造として、基材層/高輝度インキ層/アンカー層がこの順に積層された積層構造;基材層/高輝度インキ層/アンカー層/表面保護層がこの順に積層された積層構造;基材層/接着層/高輝度インキ層/アンカー層/表面保護層がこの順に積層された積層構造;基材層/接着層/高輝度インキ層/アンカー層/装飾層/表面保護層がこの順に積層された積層構造;基材層/アンカー層/高輝度インキ層がこの順に積層された積層構造;基材層/アンカー層/高輝度インキ層/表面保護層がこの順に積層された積層構造;基材層/アンカー層/高輝度インキ層/プライマー層/表面保護層がこの順に積層された積層構造;基材層/アンカー層/高輝度インキ層/装飾層/プライマー層/表面保護層がこの順に積層された積層構造などが挙げられる。図1に、本発明における第1の態様の積層シートの積層構造の一態様として、基材層/接着層/高輝度インキ層/アンカー層/装飾層/表面保護層がこの順に積層された積層シートの一例の略図的断面図を示す。図2に、本発明における第1の態様の積層シートの積層構造の一態様として、基材層/アンカー層/高輝度インキ層/装飾層/プライマー層/表面保護層がこの順に積層された積層シートの一例の略図的断面図を示す。なお、本発明の積層シートにおいて、基材層を有しない場合、接着層/高輝度インキ層/アンカー層/装飾層/表面保護層がこの順に積層された積層構造などが挙げられる。
本発明において、第2の態様の積層シートでは、例えば図5に示されるように、基材層1(転写用基材層1a)及び必要に応じて設けられる離型層8を有する支持体10の上に、高輝度インキ層2及びアンカー層3を含む転写層11を有する。第2の態様において、基材層1及び必要に応じて設けられる離型層8は支持体10を構成し、当該支持体10は、転写層11の支持部材としての役割を果たす。すなわち、第2の態様の積層シートを成形樹脂と一体化して図6に示されるような支持体付き加飾樹脂成形品を得た後、当該支持体付き加飾樹脂成形品から支持体10を引き剥がすことにより、図7に示されるような加飾樹脂成形品となる。本発明の第2の態様の積層シートの積層構造としては、高輝度インキ層/アンカー層/転写用基材層がこの順に積層された積層構造;高輝度インキ層/アンカー層/離型層/転写用基材層がこの順に積層された積層構造;高輝度インキ層/アンカー層/表面保護層/離型層/転写用基材層がこの順に積層された積層構造;高輝度インキ層/アンカー層/プライマー層/表面保護層/離型層/転写用基材層がこの順に積層された積層構造;高輝度インキ層/アンカー層/装飾層/プライマー層/表面保護層/離型層/転写用基材層がこの順に積層された積層構造;接着層/高輝度インキ層/アンカー層/装飾層/プライマー層/表面保護層/離型層/転写用基材層がこの順に積層された積層構造などが挙げられる。図5に、本発明における第2の態様の積層シートの積層構造の一態様として、接着層/高輝度インキ層/アンカー層/装飾層/プライマー層/表面保護層/離型層/転写用基材層がこの順に積層された積層シートの一例の略図的断面図を示す。
積層シートを形成する各層の組成
[高輝度インキ層2]
高輝度インキ層2は、後述するアンカー層3と接するように積層され、本発明の積層シートにフリップフロップ性の意匠を付与するために設けられる層である。高輝度インキ層2は、高輝度の意匠を発現するために、顔料を含んでいる。高輝度インキ層2は、通常、顔料、バインダー樹脂、溶剤を含み、必要に応じて、体質顔料、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤等を適宜混合した高輝度インキ組成物を、後述するアンカー層3(部分的に形成されている)の上に印刷することにより形成することができる。後述の通り、本発明においては、高輝度インキ層のうち、高い酸価を有する熱可塑性樹脂を含むアンカー層3の上に形成された部分は、アンカー層3の上に形成されていない部分に比して、高輝度を有している。この輝度の相違により、積層シートにフリップフロップ性の意匠が付与される。
高輝度インキ層2に含まれる顔料としては、高輝度の意匠を発現するものあれば特に制限されないが、好ましくは金属顔料が挙げられる。金属顔料としては、特に制限されないが、好ましくは、アルミニウム粉、真鍮粉、ステンレス鋼粉、錫粉、亜鉛粉、ブロンズ粉、ニッケル粉、銅粉、金粉、銀粉等や、これらの混合粉、これらの金属の合金粉などからなる顔料が挙げられる。これらの中でも、後述のアンカー層3の上に高輝度インキ層2を形成することにより、より高い輝度を発現させる観点からは、好ましくはアルミニウム粉が挙げられる。顔料は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
顔料の粒子径としては、特に制限されないが、積層シートの輝度を高める観点からは、好ましくは20μm以下、より好ましくは10〜15μm程度が挙げられる。また、同様の観点から、顔料の厚みとしては、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下が良い。なお、本発明において、顔料の粒子径は、レーザー回折散乱法によって測定した値である。また、顔料の厚みについては、製造途中の薄膜状態での透過率から算出した値である。
高輝度インキ層2中の顔料の形状としては、特に制限されず、鱗片状、粒子状などが挙げられ、輝度をより一層高める観点からは、好ましくは鱗片状が挙げられる。上記の金属顔料のうち、鱗片状のものは、例えば、フィルム上に蒸着により金属薄膜を形成し、当該金属薄膜をフィルムから剥離後、粉砕することにより作製することができる。
高輝度インキ層2中の顔料の含有量としては、特に制限されないが、高輝度インキ層2中のバインダー樹脂100質量部に対して、好ましくは50〜100質量部程度、より好ましくは60〜80質量部程度が挙げられる。
バインダー樹脂としては、特に制限されないが、例えば、塩素系樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ブチラール樹脂、ポリスチレン、ニトロセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂等が挙げられ、好ましくは塩素系樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。これらのバインダー樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
高輝度インキ組成物の転移性をより高める観点からは、バインダー樹脂は、アクリル樹脂と塩素系樹脂との混合樹脂であることが好ましい。同様の観点から、バインダー樹脂中におけるアクリル樹脂と塩素系樹脂との質量比は、特に制限されないが、好ましくは3/7〜8/2程度の範囲、より好ましくは5/5〜8/2程度の範囲、さらに好ましくは5/5〜7/3程度の範囲である。
塩素系樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、エチレン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−(メタ)アクリル共重合体などのポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化プロピレン、塩素化ポリプロピレンなどが挙げられる。インキ組成物の転移性を高める観点からは、塩素系樹脂としては、これらの中でも、好ましくはポリ塩化ビニル系樹脂が挙げられ、より好ましくは塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体が挙げられる。塩素系樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本明細書において(メタ)アクリルとはアクリル又はメタクリルを意味するものとし、他の類する表現も同様とする。
溶剤としては、高輝度インキ組成物中で顔料などの成分を均一に分散させ、印刷に適したものであれば特に制限されないが、好ましくはメチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエンなどが挙げられる。溶剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。特にアルミニウム粉などの金属顔料の分散性、樹脂の溶解性などの観点から、高輝度インキ層2は、主としてメチルエチルケトンを含む溶剤を用いて形成することが好ましい。
高輝度インキ層2の厚みとしては、特に制限されないが、例えば1〜20μm程度、好ましくは1〜10μm程度が挙げられる。高輝度インキ層は、輝度を高くする観点から、例えば前述の厚みとなるように一度に印刷することが望ましいが、厚塗りのできない印刷方法を用いる場合には、二度に分けて印刷してもよい。また、二度に分けて印刷する場合は、総厚が例えば上記の厚みの範囲内となればよい。
高輝度インキ層2は、例えば、高輝度インキ組成物を用いて印刷することにより形成される。高輝度インキ層2を形成するための印刷方法については、特に制限されないが、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写による印刷、インクジェット印刷等が挙げられる。
[アンカー層3]
アンカー層3は、本発明の積層シートにおいて、アンカー層3と接するように積層された高輝度インキ層2に高輝度な意匠を発現させるために、高輝度インキ層2と隣接して設けられる層である。アンカー層3は、フリップフロップ性の意匠を発現する柄となるように、部分的に積層されている。すなわち、高輝度インキ層2のアンカー層3と接している部分は、接していない部分に比してより高輝度となるため、アンカー層3を形成した部分と形成していない部分とで輝度の差が発生し、例えば、積層シートを真正面から見たときには、輝度の差に基づく柄がはっきりと見え、真正面から斜めにずらして見た場合には、輝度の差に基づく柄が薄くなり、見る角度によって意匠が変化するフリップフロップ性の意匠が好適に発現する。
アンカー層3は、平均酸価が30mgKOH/g以上の熱可塑性樹脂を含んでいる。なお、アンカー層3に含まれる熱可塑性樹脂の平均酸価は、JIS K2501:2003の規定に準拠して測定した値である。アンカー層3は、例えば、酸価が30mgKOH/g以上の1種類または複数種類の熱可塑性樹脂が混合され、アンカー層3に含まれる熱可塑性樹脂全体としての平均酸価が30mgKOH/g以上になっていてもよい。また、例えば、1種類または複数種類の酸価が30mgKOH/g以上の熱可塑性樹脂と、1種類または複数種類の酸価が30mgKOH/g未満の熱可塑性樹脂とが混合され、アンカー層3に含まれる熱可塑性樹脂全体としての平均酸価が30mgKOH/g以上になっていてもよい。なお、アンカー層3は、平均酸価が30mgKOH/g以上の熱可塑性樹脂以外の成分を含んでいてもよいが、実質的に平均酸価が30mgKOH/g以上の熱可塑性樹脂のみにより形成されていることが好ましい。
本発明においては、平均酸価が30mgKOH/g以上の熱可塑性樹脂を含むアンカー層3に隣接するようにして高輝度インキ層2が形成されているため、高輝度インキ層2のアンカー層3と接している部分の輝度が高められている。このような構成を採用することにより、高輝度インキ層2のアンカー層3と接している部分の輝度が高められることの機序の詳細は明らかではないが、例えば次のように考えることができる。すなわち、積層シートを製造する際に、装飾層や表面保護層などの上に高輝度インキ層を積層すると、通常、高輝度インキ組成物に含まれるメチルエチルケトンなどの溶剤によって、これらの層の表面が溶解して、平滑性が低下する。高輝度インキ層は、平滑な表面上に形成されることによって、高い輝度を発現するため、平滑性が低下した表面上に高輝度インキ層が形成されると、積層シートの輝度が低くなる。これに対して、本発明の積層シートにおいて、上記特定の平均酸価以上の高い酸価を有する熱可塑性樹脂を含むアンカー層3は、高輝度インキ組成物に含まれるメチルエチルケトンなどの溶剤にも溶解し難いため、この上に高輝度インキ組成物を印刷した場合にも、アンカー層3を形成した際の高い平滑性を維持することができる。また、特にアルミニウム粉などの鱗片状の金属顔料では、このような高い酸価を有する熱可塑性樹脂の表面の高い極性により、光を反射する大きな面が上を向くようにして配向性高く配列され、配向性の低下による白化が効果的に抑制されていると考えられる。以上のような要因により、本発明の積層シートでは、アンカー層3と接している高輝度インキ層2は、高輝度な意匠を実現しているものと考えられる。そして、本発明においては、高輝度インキ層2のアンカー層3と接している部分の輝度が高められる一方、アンカー層3と接していない部分の輝度が低くなるため、高輝度インキ層2のアンカー層3と接している部分と接していない部分との輝度の差が大きくなる。このため、本発明においては、フリップフロップ性の意匠が好適に発現する。さらに、アンカー層3は、熱可塑性樹脂を含むため、熱硬化性樹脂などに比して柔軟性が高く、積層シートの成形性を高めることができる。
アンカー層3に含まれる熱可塑性樹脂の平均酸価としては、30mgKOH/g以上であれば特に制限されないが、フリップフロップ性が発現しにくい平面部分での効果を得るという観点からは、好ましくは60mgKOH/g以上、アンカー層3と接している高輝度インキ層2の輝度をより一層高め、フリップフロップ性の意匠をより一層効果的に発現する観点からは、より好ましくは80〜250mgKOH/g程度が挙げられる。なお、アンカー層3に含まれる熱可塑性樹脂の平均酸価が250mgKOH/gを超えると、熱可塑性樹脂が溶剤に溶けにくくなるため、印刷によってアンカー層3を形成し難くなる。
アンカー層3に含まれる熱可塑性樹脂としては、平均酸価が30mgKOH/g以上の熱可塑性樹脂であれば、特に制限されないが、アクリル系樹脂を含むことが好ましい。
アクリル系樹脂の具体例としては、好ましくはアクリル樹脂、アクリルポリオール樹脂などが挙げられる。アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸モノマーを構成単位とするアクリル樹脂、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを構成単位とするアクリル樹脂が好ましい。なお、これらのアクリル樹脂は、1種類のモノマーの単独重合体であってもよいし、2種類以上のモノマーのブロック共重合体またはランダム共重合体であってもよい。
アンカー層3に含まれる熱可塑性樹脂中における(メタ)アクリル酸モノマーを構成単位とするアクリル樹脂の割合を高めることにより、熱可塑性樹脂の平均酸価を高めることができる。(メタ)アクリル酸モノマーを構成単位とするアクリル樹脂をアンカー層3の熱可塑性樹脂に用いる場合、当該熱可塑性樹脂中における当該アクリル樹脂の割合としては、好ましくは50〜100質量%程度、より好ましくは80〜100質量%程度が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ノルマルブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸セカンダリーブチル、(メタ)アクリル酸ターシャリーブチル、(メタ)アクリル酸イソボニル、2−メチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート、2−エチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
上記の(メタ)アクリル酸モノマーを構成単位とするアクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸モノマーと(メタ)アクリル酸エステルモノマーとのブロック共重合体またはランダム共重合体であってもよい。
また、(メタ)アクリル酸モノマーを構成単位とするアクリル樹脂、及び(メタ)アクリル酸エステルモノマーを構成単位とするアクリル樹脂は、それぞれ、他のモノマーとのブロック共重合体またはランダム共重合体であってもよい。他のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能なものであれば特に限定されないが、本発明では、スチレン、(無水)マレイン酸、フマル酸、ジビニルベンゼン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニルアルコール、アクリロニトリル、アクリルアミド、ブタジエン、イソプレン、イソブテン、1−ブテン、2−ブテン、N−ビニル−2−ピロリドン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、ノルボルネン類などの脂環式オレフィンモノマー、ビニルカプロラクタム、シトラコン酸無水物、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド類、ビニルエーテル類などが好ましく挙げられる。
また、アクリルポリオール樹脂としては、特に制限されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等の分子中に水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルとを共重合させて得られるものが挙げられる。
アクリル系樹脂の重量平均分子量としては、特に制限されないが、好ましくは1万以上、より好ましくは1.5万以上、さらに好ましくは2万以上が挙げられる。アクリル系樹脂の重量平均分子量の上限値としては、通常5万程度である。なお、本明細書におけるアクリル系樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、ポリスチレンを標準物質として測定した値である。
熱可塑性樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
好適なフリップフロップ性の意匠を発現させる観点から、アンカー層3は、無色透明であることが好ましく、実質的に着色剤などを含まないことが好ましい。
アンカー層3の厚みとしては、特に制限されないが、例えば1〜20μm程度、好ましくは1〜10μm程度が挙げられる。
アンカー層3は、平均酸価が30mgKOH/g以上である熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を用いて形成することができる。具体的には、アンカー層を形成する上記の熱可塑性樹脂を溶剤などに溶解または分散させた樹脂組成物を印刷することにより形成することができる。アンカー層3を形成するための印刷方法については、特に制限されないが、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写による印刷、インクジェット印刷等が挙げられる。
[基材層1]
基材層1は、本発明の積層シートの保形性を高めることなどを目的として、必要に応じて設けられる層である。基材層1は、好ましくは樹脂シート(樹脂フィルム)により形成されている。上述の通り、本発明の第1の態様においては、成形樹脂層9を基材層1側に形成することにより、基材層1は、加飾樹脂成形品に含まれる。一方、本発明の第2の態様においては、高輝度インキ層2及びアンカー層3を含む転写層11から基材層1を含む支持体10を剥離するため、基材層1は加飾樹脂成形品に含まれない。第2の態様において、基材層1は、高輝度インキ層2及びアンカー層3を含む転写層11を成形樹脂層9に転写させるための転写用基材層1aとして機能する。
基材層1に使用される樹脂成分については、特に制限されず、三次元成形性や、第1の態様では成形樹脂層9との相性、第2の態様では表面保護層4からの剥離性等に応じて適宜選定すればよいが、好ましくは、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、具体的には、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(以下「ABS樹脂」と表記することもある);アクリロニトリル−スチレン−アクリル酸エステル樹脂;アクリル樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;塩化ビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂等が挙げられる。これらの中でも、本発明の第1の態様においてはABS樹脂が三次元成形性の観点から好ましく、本発明の第2の態様においてはPET樹脂が転写用基材層1a自身の平滑性が高いため、高輝度インキ層2における顔料の配向性が良好となり、高輝度を発現しやすいという観点から好ましい。基材層1を形成する樹脂成分としては、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。また、基材層1は、これら樹脂の単層シートで形成されていてもよく、また同種又は異種樹脂による複層シートで形成されていてもよい。
基材層1は、隣接する層との密着性を向上させるために、必要に応じて、片面又は両面に酸化法や凹凸化法等の物理的又は化学的表面処理が施されていてもよい。基材層1の表面処理として行われる酸化法としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン紫外線処理法等が挙げられる。また、基材層1の表面処理として行われる凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理は、基材層1を構成する樹脂成分の種類に応じて適宜選択されるが、効果及び操作性等の観点から、好ましくはコロナ放電処理法が挙げられる。
また、基材層1には、着色剤などを配合した着色、色彩を整えるための塗装、デザイン性を付与するための模様の形成などがなされていてもよい。
基材層1の厚みは、特に制限されず、積層シートの用途等に応じて適宜設定されるが、本発明の第1の態様であれば通常50〜800μm程度、好ましくは100〜600μm程度、さらに好ましくは200〜500μm程度が挙げられる。基材層1の厚みが上記範囲内であると、積層シートに対してより一層優れた三次元成形性、意匠性などを備えさせることができる。また、本発明の第2の態様であれば通常10〜250μm程度、好ましくは20〜100μm程度が挙げられる。基材層1の厚みが上記範囲内であると、積層シートの印刷適性とコストの両立を図ることができる。
[表面保護層4]
表面保護層4は、加飾樹脂成形品の耐傷付き性、耐候性などを高めることを目的として、必要に応じて、加飾樹脂成形品の最表面に位置するようにして、積層シートに設けられる層である。表面保護層4を形成する素材は、特に限定されないが、通常は樹脂が用いられ、好ましくは電離放射線硬化性樹脂が用いられる。また、表面保護層4は、樹脂フィルムにより形成することも好ましい。樹脂フィルムとしては、特に制限されず、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂などのフィルムが挙げられ、これらの中でも特にアクリル樹脂のフィルムを用いることが好ましい。また、基材層1を別途設けない態様の積層シートの場合、表面保護層4として樹脂フィルムを用いることで積層シートの保形性を確保することが好ましい。表面保護層4は、例えば電離放射線硬化性樹脂または樹脂フィルムの1層により形成されていてもよいし、これらの2層以上により形成されていてもよい。以下、表面保護層4の形成に用いられる電離放射線硬化性樹脂について詳述する。
(電離放射線硬化性樹脂)
表面保護層4の形成に使用される電離放射線硬化性樹脂とは、電離放射線を照射することにより、架橋、硬化する樹脂であり、具体的には、分子中に重合性不飽和結合又はエポキシ基を有する、プレポリマー、オリゴマー、及びモノマーなどのうち少なくとも1種を適宜混合したものが挙げられる。ここで電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋しうるエネルギー量子を有するものを意味し、通常紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線等の電磁波、α線、イオン線等の荷電粒子線も含むものである。電離放射線硬化性樹脂の中でも、電子線硬化性樹脂は、無溶剤化が可能であり、光重合用開始剤を必要とせず、安定な硬化特性が得られるため、表面保護層4の形成において好適に使用される。
電離放射線硬化性樹脂として使用される上記モノマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレートモノマーが好適であり、中でも多官能性(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。多官能性(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子内に重合性不飽和結合を2個以上(2官能以上)、好ましくは3個以上(3官能以上)有する(メタ)アクリレートモノマーであればよい。多官能性(メタ)アクリレートとして、具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマーは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、電離放射線硬化性樹脂として使用される上記オリゴマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレートオリゴマーが好適であり、中でも分子内に重合性不飽和結合を2個以上(2官能以上)有する多官能性(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。多官能性(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、アクリルシリコーン(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマー(例えば、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテル等)等が挙げられる。ここで、ポリカーボネート(メタ)アクリレートは、ポリマー主鎖にカーボネート結合を有し、かつ末端または側鎖に(メタ)アクリレート基を有するものであれば特に制限されず、例えば、ポリカーボネートポリオールを(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリカーボネート(メタ)アクリレートは、例えば、ポリカーボネート骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートなどであってもよい。ポリカーボネート骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、ポリカーボネートポリオールと、多価イソシアネート化合物と、ヒドロキシ(メタ)アクリレートとを反応させることにより得られる。アクリルシリコーン(メタ)アクリレートは、シリコーンマクロモノマーを(メタ)アクリレートモノマーとラジカル共重合させることにより得ることができる。ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネート化合物の反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。エポキシ(メタ)アクリレートは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシ(メタ)アクリレートを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシ(メタ)アクリレートも用いることができる。ポリエステル(メタ)アクリレートは、例えば多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、或いは多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリエーテル(メタ)アクリレートは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリブタジエン(メタ)アクリレートは、ポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリル酸を付加することにより得ることができる。シリコーン(メタ)アクリレートは、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーンの末端又は側鎖に(メタ)アクリル酸を付加することにより得ることができる。これらの中でも、多官能性(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートなどが特に好ましい。これらのオリゴマーは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記した電離放射線硬化性樹脂の中でも、優れた三次元成形性を得る観点からは、ポリカーボネート(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。また、三次元成形性と耐傷付き性を両立する観点からは、ポリカーボネート(メタ)アクリレートとウレタン(メタ)アクリレートを組み合わせて使用することがより好ましい。
(他の添加成分)
表面保護層4を形成する電離放射線硬化性樹脂組成物には、表面保護層4に備えさせる所望の物性に応じて、各種添加剤を配合することができる。この添加剤としては、例えば紫外線吸収剤や光安定剤等の耐候性改善剤、耐摩耗性向上剤、重合禁止剤、架橋剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、接着性向上剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、溶剤、着色剤、マット剤等が挙げられる。これらの添加剤は、常用されるものから適宜選択して用いることができ、例えばマット剤としてはシリカ粒子や水酸化アルミニウム粒子等が挙げられる。また、紫外線吸収剤や光安定剤として、分子内に(メタ)アクリロイル基等の重合性基を有する反応性の紫外線吸収剤や光安定剤を用いることもできる。
(表面保護層4の厚み)
表面保護層4の厚みについては、特に制限されないが、表面保護層4を電離放射線硬化性樹脂を用いて形成する場合には、例えば、1〜1000μm、好ましくは1〜50μm、更に好ましくは1〜30μmが挙げられる。このような範囲の厚みを満たすと、耐傷付き性、耐候性等の表面保護層としての十分な物性が得られると共に、電離放射線を均一に照射することが可能であるため、均一に硬化することが可能となり、経済的にも有利になる。また、表面保護層4を樹脂フィルムにより形成する場合には、例えば、25〜1000μm、好ましくは50〜200μm程度が挙げられる。更に、表面保護層4の厚みが前記範囲を充足することによって、積層シートの三次元成形性が一層向上するため自動車内装用途等の複雑な三次元形状に対して高い追従性を得ることができる。
(電離放射線硬化性樹脂を用いる場合の表面保護層4の形成)
表面保護層4の形成は、例えば、電離放射線硬化性樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物を調製し、これを塗布し、架橋硬化することにより行われる。なお、電離放射線硬化性樹脂組成物の粘度は、後述の塗布方式により、装飾層5やプライマー層7などの表面に未硬化樹脂層を形成し得る粘度であればよい。
本発明においては、調製された塗布液を、前記厚みとなるように、装飾層5やプライマー層7などの上に、グラビアコート、バーコート、ロールコート、リバースロールコート、コンマコート等の公知の方式、好ましくはグラビアコートにより塗布し、未硬化樹脂層を形成させる。
このようにして形成された未硬化樹脂層に、電子線、紫外線等の電離放射線を照射して該未硬化樹脂層を硬化させて表面保護層4を形成する。ここで、電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いる樹脂や層の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70〜300kV程度が挙げられる。
なお、電子線の照射において、加速電圧が高いほど透過能力が増加するため、表面保護層4の下に電子線照射によって劣化しやすい樹脂を使用する場合には、電子線の透過深さと表面保護層4の厚みが実質的に等しくなるように、加速電圧を選定する。これにより、表面保護層4の下に位置する層への余分の電子線の照射を抑制することができ、過剰電子線による各層の劣化を最小限にとどめることができる。
また、照射線量は、表面保護層4の架橋密度が飽和する量が好ましく、通常5〜300kGy(0.5〜30Mrad)、好ましくは10〜50kGy(1〜5Mrad)の範囲で選定される。
更に、電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を用いることができる。
電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190〜380nmの紫外線を含む光線を放射すればよい。紫外線源としては、特に制限されないが、例えば、高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈、紫外線発光ダイオード(LED−UV)等が挙げられる。
かくして形成された表面保護層4には、各種の添加剤を添加することにより、ハードコート機能、防曇コート機能、防汚コート機能、防眩コート機能、反射防止コート機能、紫外線遮蔽コート機能、赤外線遮蔽コート機能等の機能を付与する処理を行ってもよい。
なお、表面保護層4を樹脂フィルムにより形成する場合には、装飾層5やプライマー層7などの上に樹脂フィルムを積層すればよい。なお、樹脂フィルムとしては、マット剤等の添加剤を含む樹脂フィルムや、サンドブラスト加工等の表面加工を施された樹脂フィルムを用いることもできる。
[プライマー層7]
プライマー層7は、表面保護層4とその下に位置する層との密着性を高めることなどを目的として、必要に応じて含まれる層である。プライマー層7は、樹脂により形成することができる。
プライマー層7を形成する樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、(メタ)アクリル−ウレタン共重合体樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂等が挙げられる。これらの樹脂の中でも、好ましくは、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、及び(メタ)アクリル−ウレタン共重合体樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記ウレタン樹脂としては、ポリオール(多価アルコール)を主剤とし、イソシアネートを架橋剤(硬化剤)とするポリウレタンを使用できる。ポリオールとしては、分子中に2個以上の水酸基を有する化合物であればよく、具体的には、ポリエステルポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アクリルポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられる。上記イソシアネートとしては、具体的には、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する多価イソシアネート;4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂肪族(又は脂環族)イソシアネートが挙げられる。
上記ウレタン樹脂の中でも、架橋後の密着性の向上等の観点から、好ましくは、ポリオールとしてアクリルポリオール、又はポリエステルポリオールと、架橋材としてヘキサメチレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートとから組み合わせ;さらに好ましくは、アクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートとを組み合わせが挙げられる。
上記アクリル樹脂としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、2種以上の異なる(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体、又は(メタ)アクリル酸エステルと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。(メタ)アクリル樹脂として、より具体的には、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸エチル−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらのアクリル樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
(メタ)アクリル−ウレタン共重合体樹脂としては、特に制限されないが、例えば、アクリル−ウレタン(ポリエステルウレタン)ブロック共重合系樹脂が挙げられる。また、硬化剤としては、前述する各種イソシアネートが用いられる。アクリル−ウレタン(ポリエステルウレタン)ブロック共重合系樹脂におけるアクリルとウレタン比の比率については、特に制限されないが、例えば、アクリル/ウレタン比(質量比)として、9/1〜1/9、好ましくは8/2〜2/8が挙げられる。
プライマー層7の厚みについては、特に制限されないが、例えば0.1〜10μm程度、好ましくは1〜10μm程度が挙げられる。プライマー層7がこのような厚みを充足することにより、積層シートの耐候性をより高めると共に、表面保護層4の割れ、破断、白化等を有効に抑制することができる。
プライマー層7は、プライマー層7を形成する樹脂を用いて、グラビアコート、グラビアリバースコート、グラビアオフセットコート、スピンナーコート、ロールコート、リバースロールコート、キスコート、ホイラーコート、ディップコート、シルクスクリーンによるベタコート、ワイヤーバーコート、フローコート、コンマコート、かけ流しコート、刷毛塗り、スプレーコート等の通常の塗布方法や転写コーティング法により形成される。ここで、転写コーティング法とは、薄いシート(フィルム基材)にプライマー層や接着層の塗膜を形成し、その後に積層シート中の対象となる層表面に被覆する方法である。
[装飾層5]
装飾層5は、例えば、積層シートの装飾性を高める目的で、高輝度インキ層2とは別に必要に応じて設けられる層である。装飾層5は、絵柄層及びベタ印刷層の少なくとも一方により形成される。
絵柄層は、例えば絵柄層用インキ組成物を用いて形成され、所望の絵柄を有している。絵柄層の形成に用いられる絵柄層用インキ組成物としては、バインダー樹脂に、顔料、染料等の着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤等を適宜混合したものが使用される。
絵柄層用インキ組成物のバインダー樹脂としては、例えば、塩素系樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ブチラール樹脂、ポリスチレン、ニトロセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂等が挙げられ、好ましくは塩素系樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。これらのバインダー樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
絵柄層用インキ組成物の転移性をより高める観点からは、バインダー樹脂は、アクリル樹脂と塩素系樹脂との混合樹脂であることが好ましい。同様の観点から、バインダー樹脂中におけるアクリル樹脂と塩素系樹脂との質量比は、特に制限されないが、好ましくは3/7〜8/2程度の範囲、より好ましくは5/5〜8/2程度の範囲、さらに好ましくは5/5〜7/3程度の範囲である。なお、塩素系樹脂としては、高輝度インキ層2で例示したものが挙げられる。
絵柄層用インキ組成物に含まれる着色剤としては、特に制限されないが、例えば、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料;キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー等の有機顔料又は染料等が挙げられる。
絵柄層によって形成される模様についても、特に制限されないが、例えば、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様等が挙げられ、これらを複合した寄木、パッチワーク等の模様であってもよい。これらの模様は、通常の黄色、赤色、青色、及び黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成されるが、模様を構成する個々の色の版を用意して行う特色による多色印刷等によっても形成することができる。
絵柄層は、例えば、絵柄層用インキ組成物を用いて所望の絵柄となるように印刷することにより形成される。絵柄層を形成するための印刷方法については、特に制限されないが、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写による印刷、インクジェット印刷等が挙げられる。
全面ベタ層は、通常、隠蔽層、着色層、着色隠蔽層等として使用される。また、全面ベタ層は、積層シートの光沢性などを向上させるためのカラークリア層を構成していてもよい。全面ベタ層をカラークリア層とする場合、全面ベタ層は、有色透明の層となる。なお、装飾層5は、木目模様等の模様を表現する柄パターン層と、全面ベタ層との組み合わせでも使用される。全面ベタ層は、絵柄層と同様にして、インキ組成物を印刷することにより形成される。
なお、装飾層5を、高輝度インキ層2及びアンカー層3よりも表側(積層シートの使用時の表側)に設ける場合には、装飾層5の透明度や絵柄の形状や範囲を調整して、フリップフロップ性の意匠が視認できるようにする。
装飾層5の厚みとしては、特に制限されないが、例えば1〜30μm程度、好ましくは1〜20μm程度が挙げられる。
[接着層6]
接着層6は、例えば、基材層1と高輝度インキ層2との間などの積層シートの層間や、例えば、高輝度インキ層2と成形樹脂層9との間などの積層シートと成形樹脂層9との間の密着性を高めることなどを目的として、必要に応じて設けられる層である。接着層6を形成する樹脂としては、積層シートの層間や、積層シートと成形樹脂層9との密着性、接着性を向上させることができるものであれば、特に制限されず、例えば、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アクリル変性ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ウレタン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ゴム系樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等挙げられる。熱硬化性樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
接着層6は必ずしも必要な層ではないが、本発明の積層シートを、後述する真空圧着法など、予め用意された樹脂成形体上へ貼着による加飾方法に適用することを想定した場合は、積層シートの樹脂成形体と接する側の面に設けられていることが好ましい。真空圧着法に用いる場合、上記した各種の樹脂のうち、加圧又は加熱により接着性を発現する樹脂として慣用のものを使用して接着層6を形成することが好ましい。
接着層6の厚みは、特に制限されず、接着層6を設ける位置及び隣接する層に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.1〜30μm程度、好ましくは0.5〜20μm程度、さらに好ましくは1〜8μm程度が挙げられる。
[離型層8]
離型層8は、上述の第2の態様の積層シートにおいて、必要に応じて転写用基材層1aの上に設けられ、転写用基材層1aと共に支持体10を構成する。離型層8は、転写用基材層1aの転写層11からの剥離性を高める役割を有する層である。
離型層8は、転写用基材層1aの全面を被覆(全面ベタ状)しているベタ離型層であっても良いし、一部に設けられるものであっても良い。通常は、剥離性を考慮して、ベタ離型層が好ましい。
離型層8は、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル−メラミン系樹脂が含まれる。)、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体樹脂、硝化綿などの熱可塑性樹脂、該熱可塑性樹脂を形成するモノマーの共重合体、あるいはこれらの樹脂を(メタ)アクリル酸やウレタンで変性したものを、単独で又は複数を混合した樹脂組成物を用いて形成することができる。なかでも、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、これらの樹脂を形成するモノマーの共重合体、及びこれらをウレタン変性したものが好ましく、より具体的には、アクリル−メラミン系樹脂単独、アクリル−メラミン系樹脂含有組成物、ポリエステル系樹脂とエチレン及びアクリル酸の共重合体をウレタン変性したものとを混合した樹脂組成物、アクリル系樹脂とスチレン及びアクリルとの共重合体のエマルションとを混合した樹脂組成物などが挙げられる。これらの内、アクリル−メラミン系樹脂単独又はアクリル−メラミン系樹脂を50質量%以上含有組成物で離型層8を構成することが特に好ましい。
離型層8の厚みは、通常、0.01〜5μm程度、好ましくは0.05〜3μm程度である。
本発明の積層シートは、以上のような各層を積層することにより製造することができる。本発明では、特に、平均酸価が30mgKOH/g以上である熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物によりアンカー層3を形成した後に、顔料を含む高輝度インキ層2を当該アンカー層3の上に積層する工程を備える製造方法を採用することにより、フリップフロップ性の意匠を好適に発現し得る積層シートが得られる。この機序の詳細としては、例えば、上述のようなものが考えられる。
2.積層シートを製造するためのシート
本発明においては、上記のような積層シートは、次のような構成を有する、積層シートを製造するためのシートを用いて製造することもできる。
顔料を含む高輝度インキ層2と、熱可塑性樹脂を含むアンカー層3と、転写用基材層1aとがこの順に積層されたシートであって、アンカー層3と、高輝度インキ層2とが隣接するように積層されており、アンカー層3は、高輝度インキ層2の上に部分的に形成されており、アンカー層3に含まれる熱可塑性樹脂の平均酸価が30mgKOH/g以上である、積層シートを製造するためのシート。
当該シートを構成する各層の組成などについては、上記と同様である。当該シートの積層構造としては、例えば、図8に示されるように、転写用基材層1a及び離型層8が積層された支持体10の上に、プライマー層7、アンカー層3、及び高輝度インキ層2がこの順に積層された構造が挙げられる。例えば図8に示されるように、プライマー層7とアンカー層3との間などに、必要に応じて、装飾層5が積層されていてもよい。本発明の積層シートを製造するためのシートの積層構造として、転写用基材層/離型層/プライマー層/アンカー層/高輝度インキ層がこの順に積層された積層構造;転写用基材層/離型層/プライマー層/装飾層/アンカー層/高輝度インキ層がこの順に積層された積層構造などが挙げられる。図8に、本発明における積層シートを製造するためのシートの積層構造の一態様として、転写用基材層/離型層/プライマー層/装飾層/アンカー層/高輝度インキ層がこの順に積層されたシートの一例の略図的断面図を示す。当該シートにおいて、転写用基材層1a及び離型層8が、支持体10を形成している。
このような積層シートを製造するためのシートを用いた、本発明の積層シートの製造方法を、図8〜図11を参照しながら説明する。
まず、図8に示されるような本発明の積層シートを製造するためのシートの高輝度インキ層2側を、基材層1を構成する上記のような樹脂フィルムなどの上に積層する。積層方法としては鏡面板を用いた熱プレス加工や鏡面ロールを用いたエンボス加工を用いることが好ましい。具体的には、公知の熱プレス機、エンボス加工機を用い、上記のシートと基材層1を構成する樹脂フィルムとを加熱軟化させ、重ねた状態で加圧し貼り合わせる。これにより、図9に示すようなシートが得られる。
次に、図9に示されるようなシートから支持体10を剥離する。支持体10を離型層8とプライマー層7との間において剥離することにより、図10に示すような、基材層1の上に高輝度インキ層2、アンカー層3、プライマー層7などが順に積層されたシートが得られる。
次に、図10に示されるシートのプライマー層7の上に表面保護層4を形成することにより、図11に示されるような本発明の積層シートを製造することができる。表面保護層4の形成は、上記と同様とすることができる。
なお、本発明の積層シートを製造するためのシートとして、図8に示される積層構造を有するシートの代わりに、転写用基材層/離型層/装飾層/アンカー層/高輝度インキ層がこの順に積層されたシートを用い、当該シートの高輝度インキ層2側を、基材層1を構成する上記のような樹脂フィルムなどの上に積層し、次に、支持体10を剥離した後、装飾層5の上に、プライマー層7、表面保護層4を順に積層することによって、図11に示されるような本発明の積層シートを製造することもできる。
なお、本発明の積層シートを製造するためのシートは、転写用基材層1a及び離型層8を有する支持体10の上に、プライマー層7、アンカー層3、高輝度インキ層2などを順次積層することにより製造することができる。
3.加飾樹脂成形品
本発明の加飾樹脂成形品は、本発明の積層シートに成形樹脂を一体化させることにより成形されてなるものである。即ち、本発明の加飾樹脂成形品は、少なくとも、成形樹脂層の上に、顔料を含む高輝度インキ層と、熱可塑性樹脂を含むアンカー層とが隣接するように積層された積層体からなり、アンカー層は、高輝度インキ層の上に部分的に形成されており、アンカー層に含まれる熱可塑性樹脂の平均酸価が30mgKOH/g以上であることを特徴とする。本発明の加飾樹脂成形品では、必要に応じて、積層シートに上述の表面保護層4、プライマー層7、装飾層5、接着層6などの少なくとも1層がさらに設けられていてもよい。図3、図4、図12に示されるような上述の第1の態様においては、加飾樹脂成形品に基材層1が設けられていてもよい。また、図6に示されるような上述の第2の態様においても、加飾樹脂成形品に転写用基材層1aを含む支持体10が設けられていてもよい(このような状態の加飾樹脂成形品を支持体付き加飾樹脂成形品ともいう)。なお、図3は、図1に示される積層シートに成形樹脂が積層された加飾樹脂成形品の断面図であり、図4は、図2に示される積層シートに成形樹脂が積層された加飾樹脂成形品の断面図である。
前述の通り、本発明の積層シートは、フリップフロップ性の意匠を好適に発現することができるため、当該積層シートは、意匠性が要求される各種の用途、例えば、カタログやチラシ等の印刷物;カード類;包装材;家具や建材、日用品に貼着して用いる装飾シート等に使用することができるが、中でも成形樹脂を加飾するための加飾シートとして好適に使用することができる。本発明の加飾樹脂成形品は、このような加飾シートによって加飾されたものである。
本発明の加飾樹脂成形品は、例えば、本発明の積層シートを用いて、インサート成形法、射出成形同時加飾法、ブロー成形法、ガスインジェクション成形法等の各種射出成形法により作製される。これらの射出成形法の中でも、好ましくはインサート成形法及び射出成形同時加飾法が挙げられる。また、本発明の加飾樹脂成形品は、真空圧着法等の、予め用意された立体的な樹脂成形体(成形樹脂層)上に、本発明の積層シートを貼着する加飾方法によっても作製することができる。
インサート成形法では、まず、真空成形工程において、本発明の積層シートを真空成形型により予め成形品表面形状に真空成形(オフライン予備成形)し、次いで必要に応じて余分な部分をトリミングして成形シートを得る。この成形シートを射出成形型に挿入し、射出成形型を型締めし、流動状態の樹脂を型内に射出し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に積層シートを一体化させることにより、加飾樹脂成形品が製造される。
より具体的には、下記の工程を含むインサート成形法によって、本発明の加飾樹脂成形品が製造される。
本発明の積層シートを真空成形型により予め立体形状に成形する真空成形工程、
真空成形された積層シートの余分な部分をトリミングして成形シートを得るトリミング工程、及び
成形シートを射出成形型に挿入し、射出成形型を閉じ、流動状態の樹脂を射出成形型内に射出して樹脂と成形シートを一体化する一体化工程。
インサート成形法における真空成形工程では、積層シートを加熱して成形してもよい。この時の加熱温度は、特に限定されず、積層シートを構成する樹脂の種類や、積層シートの厚みなどによって適宜選択すればよいが、例えば基材層としてABS樹脂フィルムを使用する場合であれば、通常120〜200℃程度とすることができる。また、一体化工程において、流動状態の樹脂の温度は、特に限定されないが、通常180〜320℃程度とすることができる。
また、射出成形同時加飾法では、本発明の積層シートを射出成形の吸引孔が設けられた真空成形型との兼用雌型に配置し、この雌型で予備成形(インライン予備成形)を行った後、射出成形型を型締めして、流動状態の樹脂を型内に射出充填し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に本発明の積層シートを一体化させることにより、加飾樹脂成形品が製造される。
より具体的には、下記の工程を含む射出成形同時加飾法によって、本発明の加飾樹脂成形品が製造される。
本発明の積層シートを、所定形状の成形面を有する可動金型の当該成形面に対し、積層シートが対面するように設置した後、当該積層シートを加熱、軟化させると共に、可動金型側から真空吸引して、軟化した積層シートを当該可動金型の成形面に沿って密着させることにより、積層シートを予備成形する予備成形工程、
成形面に沿って密着された積層シートを有する可動金型と固定金型とを型締めした後、両金型で形成されるキャビティ内に、流動状態の樹脂を射出、充填して固化させることにより樹脂成形体を形成し、樹脂成形体と積層シートを積層一体化させる一体化工程、及び
可動金型を固定金型から離間させて、積層シート全層が積層されてなる樹脂成形体を取り出す取出工程。
射出成形同時加飾法の予備成形工程において、積層シートの加熱温度は、特に限定されず、積層シートを構成する樹脂の種類や、積層シートの厚みなどによって適宜選択すればよいが、基材層としてポリエステル樹脂フィルムやアクリル樹脂フィルムを使用する場合であれば、通常70〜130℃程度とすることができる。また、射出成形工程において、流動状態の樹脂の温度は、特に限定されないが、通常180〜320℃程度とすることができる。
真空圧着法では、まず、上側に位置する第1真空室及び下側に位置する第2真空室からなる真空圧着機内に、本発明の積層シート及び樹脂成形体を、積層シートが第1真空室側、樹脂成形体が第2真空室側となるように、且つ積層シートの基材層1側が樹脂成形体側に向くように真空圧着機内に設置し、2つの真空室を真空状態とする。樹脂成形体は、第2真空室側に備えられた、上下に昇降可能な昇降台上に設置される。次いで、第1の真空室を加圧すると共に、昇降台を用いて成形体を積層シートに押し当て、2つの真空室間の圧力差を利用して、積層シートを延伸しながら樹脂成形体の表面に貼着する。最後に2つの真空室を大気圧に開放し、必要に応じて積層シートの余分な部分をトリミングすることにより、本発明の加飾樹脂成形品を得ることができる。
真空圧着法においては、上記の成形体を積層シートに押し当てる工程の前に、積層シートを軟化させて成形性を高めるため、積層シートを加熱する工程を備えることが好ましい。当該工程を備える真空圧着法は、特に真空加熱圧着法と呼ばれることがある。当該工程における加熱温度は、積層シートを構成する樹脂の種類や、積層シートの厚みなどによって適宜選択すればよいが、基材層としてポリエステル樹脂フィルムやアクリル樹脂フィルムを使用する場合であれば、通常60〜200℃程度とすることができる。
本発明の加飾樹脂成形品において、成形樹脂層は、用途に応じた樹脂を選択して形成すればよい。成形樹脂層を形成する樹脂としては、熱可塑性樹脂であってもよく、また熱硬化性樹脂であってもよい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、熱硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらの熱硬化性樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、第2の態様においては、上記のような方法により積層シートと成形樹脂とを一体化して得られた支持体付き加飾樹脂成形品から支持体10を剥離除去することにより、加飾樹脂成形品が得られる。支持体10を剥離除去する工程は任意の時期に行うことができ、例えば得られた支持体付き積層樹脂成形品を成形装置から取り出すと同時に支持体10を剥離除去することができる。また、支持体付き積層樹脂成形品において、支持体中の基材層は、積層樹脂成形品の保護シートとしての役割を果たすので、支持体付き積層樹脂成形品の製造後に剥離させずにそのまま保管しておき、用時に支持体を剥がしてもよい。このような態様で使用することにより、輸送時の擦れ等によって積層樹脂成形品に傷付きが生じるのを防止することができる。
本発明の積層樹脂成形品は、フリップフロップ性の意匠が好適に形成されているため、例えば、自動車等の車両の内装材又は外装材;窓枠、扉枠等の建具;壁、床、天井等の建築物の内装材;テレビ受像機、空調機等の家電製品の筐体;容器等として利用することができる。
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。なお、実施例及び比較例において、アンカー層に含まれる熱可塑性樹脂の平均酸価は、JIS K2501:2003の規定に準拠して測定した値である。
(積層シートの作製)
<実施例1〜2及び比較例1〜3>
表面保護層としてアクリル樹脂フィルム(厚さ;75μm)を用い、アクリル樹脂フィルムの上に、バインダー樹脂として塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂/アクリル樹脂を含むインキをグラビアコートにより印刷し、装飾層(カラークリア層、厚さ;1μm、ブラウン色)を形成した。次に、アンカー層として表1に示す樹脂をグラビア印刷により形成した(厚さ1μm)。アンカー層は、装飾層の表面上に部分的(ライン調の柄)に印刷した。次に、粒子径が10μm程度、厚さが50nm程度のアルミニウム顔料(蒸着により形成された金属薄膜を粉砕して作製されたフレーク状、100質量部)及び塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(100質量部)を含む高輝度インキ組成物を、主としてメチルエチルケトンを含む溶剤に溶解し、グラビアコートにより印刷し、高輝度インキ層を形成した。なお、隠蔽性の向上のため、高輝度インキは2層印刷した(高輝度インキ層の総厚み2μm)。次に、ポリエステルポリオールからなる接着剤をグラビアコートにより印刷し、ドライラミネートによりABS樹脂からなる基材層(厚さ400μm)と貼り合わせることで、積層シートを得た。実施例1〜2及び比較例1〜3の積層シートの層構成は、図1に示すような構成である。なお、比較例3では、アンカー層を設けなかった。
次に、実施例1〜2及び比較例1〜3で得られた積層シートについて、それぞれ、以下の方法でフリップフロップ性の意匠を評価した。結果を表1に示す。
(フリップフロップ性の意匠の評価)
積層シートを成形し、平面部分と曲面部分(R=1cm)の2箇所でフリップフロップ性の評価を行った。各箇所について、真正面から見た時を90°とし、90°、25°の方向から積層シートを見た時の見え方を表1に示す。また、意匠のフリップフロップ性は、90°と25°の方向での柄の見え方の差の大きさについて、以下の基準により評価した。
〇:見え方にはっきりとした差がある
△:見え方にやや差がある
×:見え方に差が無い
(積層シートの作製)
<実施例3〜4及び比較例4〜6>
基材層として、ABS樹脂フィルム(厚さ400μm)を用い、ABS樹脂フィルムの上に、アンカー層として表2に示す樹脂をグラビアコートにより印刷した(厚さ1μm)。アンカー層は、ABS樹脂フィルムの表面上に部分的(ライン調の柄)に印刷した。次に、粒子径が10μm程度、厚さが50nm程度のアルミニウム顔料(蒸着により形成された金属薄膜を粉砕して作製されたフレーク状、100質量部)及び塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(100質量部)を含む高輝度インキ組成物を、主としてメチルエチルケトンを含む溶剤に溶解し、グラビアコートにより印刷し、高輝度インキ層を形成した。なお、隠蔽性の向上のため、高輝度インキは2層印刷した(高輝度インキ層の総厚み2μm)。次に、高輝度インキ層の表面に、バインダー樹脂として塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂/アクリル樹脂を含むインキをグラビアコートにより印刷し、装飾層(カラークリア層、厚さ;1μm、ブラウン色)を形成した。次に、装飾層の表面にアクリル樹脂からなるプライマー層を厚さ1μmとなるようグラビアコートにより印刷した。次に、プライマー層の表面に表面保護層として下記の電離放射性硬化型(EB)樹脂組成物を樹脂組成物の硬化後の厚さが10μmとなるようにグラビアコートにより印刷し、この未硬化樹脂層に加速電圧165kV、照射強度50kGy(5Mrad)の電子線を照射して、電離放射性硬化型樹脂組成物を硬化させて積層シートを得た。実施例3〜4及び比較例4〜6の積層シートの層構成は、図2に示すような構成である。なお、比較例6では、アンカー層を設けなかった。
[電離放射性硬化型樹脂組成物]
アクリルシリコーンアクリレート(重量平均分子量20,000):70質量部
6官能のウレタンアクリレートオリゴマー(重量平均分子量5,000):30質量部
次に、実施例3〜4及び比較例4〜6で得られた積層シートについて、それぞれ、上記と同様の方法で高輝度及び成形性を評価した。結果を表2に示す。
表1及び表2に示される結果から明らかな通り、酸価の高い熱可塑性樹脂を含むアンカー層を高輝度インキ層と隣接するようにして部分的に積層させた実施例1〜4の積層シートでは、成形後の曲面部分及び平面部分において、アンカー層を形成した部分と形成していない部分とで輝度の差が大きく、フリップフロップ性の意匠が好適に発現していた。特に、成形後の曲面部分において、フリップフロップ性が効果的に発現していた。また、実施例1〜4の積層シートは、高輝度インキ層と接するようにして、アンカー層を部分的に形成して柄を形成するという簡便な方法により、積層シートにフリップフロップ性の意匠を好適に発現させることができた。
一方、酸価の低い熱可塑性樹脂を含むアンカー層を高輝度インキ層と隣接するようにして積層させた比較例1及び4の積層シートについては、成形後の曲面部分及び平面部分において、フリップフロップ性の意匠がほとんど発現しなかった。また、白インキにより形成されたアンカー層を高輝度インキ層と隣接するようにして積層させた比較例2及び5の積層シートにおいても、成形後の曲面部分及び平面部分において、フリップフロップ性の意匠がほとんど発現しなかった。さらに、アンカー層を設けなかった比較例3及び6の積層シートにおいても、成形後の曲面部分及び平面部分において、フリップフロップ性の意匠がほとんど発現しなかった。