JP6466826B2 - 溶銑の脱硫方法 - Google Patents
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Description
ところが近年では、鋼材の高級化などの高付加価値化に伴い、ユーザーからの品質要求が、ますます厳しくなってきている状況である。
溶銑の脱硫処理方法としては、例えば、取鍋(KR法、インジェクション法など)を用いるのが主流であり、その取鍋を用いた脱硫処理方法が多数提案されている。
特許文献1に開示の溶銑の脱硫処理方法は、添加した脱硫剤の反応効率を向上させることを目的としている。詳しくは、脱硫剤を添加した溶銑を攪拌することで、その脱硫剤を分散させて溶銑の脱硫処理を行う溶銑の脱硫処理方法において、脱硫剤を複数回に分けて溶銑に添加し、2回目以降の脱硫剤の添加のうち、少なくとも1回の添加においては、一時的に上記攪拌を停止若しくは攪拌力を弱めることで溶銑表面にスラグを浮上させ、その浮上したスラグ上に脱硫剤を添加して実施することを目的としている。
特許文献2では、脱硫剤の投入方法に関して、インペラを所定の設定回転数まで上昇させる期間、あるいは、120〜140(rpm)の強攪拌条件において、脱硫剤が溶銑に添加されているが、この方法は脱硫剤の取鍋内歩留や、脱硫剤の加熱・滓化の観点から好ましくなく、安定した脱硫結果が得られないと考えられる。
特許文献4では、インペラ回転数を所定の設定回転数X0まで上昇させる期間に脱硫剤が添加されているが、この方法の結果、すなわち脱硫剤条件(粒度、投入量など)次第では、安定した脱硫結果が得られず、従って、脱硫結果のばらつきが大きくなる虞がある。また、同文献には、所定の回転数や待機時間については具体的な設定条件の記載が無い。
また、取鍋内の溶銑の脱硫処理を行う際に、インペラの攪拌条件や脱硫剤の投入条件(粒度、投入量など)等、同じ処理条件にしているにもかかわらず、取鍋内に混入する前工程のスラグ、脱硫剤投入時の集塵ロス、投入後の溶銑浴内への巻き込み状況等に起因して、処理後の溶銑中の硫黄[S]濃度にばらつきが生じる虞がある。
なお、脱硫剤を多量(過剰)に投入すると、脱硫結果のばらつきは低減するが、その場合、脱硫処理前後での溶銑温度低下量(所謂、熱ロス)が大きくなり、後工程の昇熱コストが増加する虞がある。また、脱硫剤を多量投入した場合、発生するスラグ量が多くなるため、スラグ中に取り込まれる鉄量(所謂、鉄ロス)が多くなり、スラグ処理時の鉄分回収コストが加わるだけでなく、攪拌処理後のスラグ除去時間が長くなり、操業の阻害(生産性の低下、製造コストの上昇など)に繋ってしまう虞がある。
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、インペラの攪拌条件、脱硫剤投入終了後もインペラの攪拌条件を維持する時間を規定することで、脱硫結果のばらつきを低減させるとともに、低硫域まで安定して脱硫することができる溶銑の脱硫方法を提供することを目的とする。
すなわち、本発明の溶銑の脱硫方法は、取鍋に装入され且つインペラによって攪拌されている溶銑に対して、浴面上方から石灰系脱硫剤を投入することで添加して脱硫処理をする機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法において、前記石灰系脱硫剤の投入時のインペラの回転数N1とインペラの羽根の外径Dの関係を、式(1)を満たすようにし、前記石灰系脱硫剤の投入が終了した後、式(1)を満たすインペラの回転数N1を維持する時間tを、式(2)で算出される、式(1)を満たすインペラの回転数N1を維持する最小時間tmを用いて、式(3)を満たすようにし、前記インペラの回転数N1を維持する時間tを経過した以降の前記インペラの回転数N2を、式(4)且つ式(5)を満たすように変更することを特徴とする。
まず、本発明の溶銑5の脱硫方法を詳説する前に、溶銑5の精錬工程について、一例を挙げて説明する。
高炉から出銑された溶銑5は、混銑車にて受銑された後、製鋼工場に運搬され、そこで混銑車から溶銑鍋1(取鍋)へ払い出される。取鍋1においては、除滓位置に移され、この取鍋1中の溶銑5表面に存在する高炉スラグが除去(除滓)される。その後、溶銑5に対して脱硫処理が行われ、脱硫反応により生じたスラグが除去される。除滓された溶銑5は、転炉正面に運ばれて、取鍋1から転炉へ装入される。なお、空となった取鍋1は、払出位置に戻されて、混銑車から取鍋1へ次チャージの溶銑5が払い出される。
本実施形態では、このような精錬工程において行われる溶銑5の脱硫処理では、取鍋1内で、機械式攪拌(KR攪拌)装置を用いて行われている。
具体的には、図2A〜図3Bに示すように、取鍋1において、取鍋1に装入され且つ、耐火物で形成された羽根であるインペラ2の回転によって攪拌されている溶銑5に対して、浴面上方から石灰系脱硫剤6を投入して溶銑5浴内に巻き込ませて添加し、その脱硫剤6が添加された溶銑5を強制攪拌しながら脱硫反応を促進させる処理を行う機械攪拌式脱硫装置を用いて溶銑5の脱硫処理を行っている。
ここで、本実施形態の溶銑5の脱硫方法で用いられる脱硫剤6に関して、説明する。
本実施形態の脱硫剤6は、脱硫に必要な生石灰(CaO)を主成分とした石灰系脱硫剤6である。以降、単に脱硫剤6と呼ぶこともある。なお、滓化促進や脱酸を目的として、一般的なアルミ灰(アルミ精錬滓で、Al2O3、金属Alを含む)や蛍石(CaF2)を添加した、生石灰−アルミ灰−蛍石系を新規剤として使用してもよい。また、新規剤に比べて脱硫能は低いが、脱硫能が残っている脱硫処理後のスラグ(CaO含有再生スラグ)を一部使用してもよい。また近年では、スラグ中のフッ素に対する環境規制の観点から、フッ素レス脱硫剤を使用することが好まれている。
ところで、鋼種ごとに硫黄[S]濃度が規定されている。その多くは、[S]≦0.005(%)、すなわち、[S]≦50(ppm)である。鋼を製造するには、その規定を満たす必要がある(例えば、特許5145803号、特許5194807号、特許5189959号、特許5094272号、特許4807088号参照)。
次に、本実施形態の溶銑5の脱硫方法で用いられるパラメータの定義について、説明する。
Wmは溶銑5の重量(ton)を表す。なお、溶銑重量Wmは脱硫処理中に若干変化するが、本実施形態では脱硫処理前に測定した値を用いている。Tmは溶銑5の温度(K)を表す。なお、溶銑温度Tmは脱硫処理中に若干変化するが、本実施形態では処理前に測定した値を用いている。
τは、脱硫剤6を投入することを開始するとき〜脱硫処理を終了するまでの時間、すなわち脱硫時間(min)を表す。なお、脱硫処理の終了時とは、インペラ2の上昇を開始した時点、または、後述する式(4)の範囲外となった時点のことを指す。
tは、石灰系脱硫剤6の投入が終了した後、式(1)を満たした上でインペラ2の回転数N1を維持する時間(sec)を表す。tmは、脱硫剤6の投入が終了した後、式(1)を満たした上でインペラ2の回転数N1を維持する最小時間(sec)を表す。
d50は、脱硫剤6の粒度[質量中位径(質量累積頻度粒度)で50%となる粒度を示したもの](μm)を表す。
なお、脱硫剤6の粒度を示すために用いられる質量中位径(質量累積頻度粒度)d50は、[JIS Z 8901 (2006年) の「試験用粉体及び試験用粒子」]に規定されるように、「粉体の粒子径分布において、ある粒子径より大きい質量が、全粉体の質量の50%を占めるときの粒子径」と記載されており、本実施形態では(μm)の単位で示している。
ηS,CaO=([S]initial−[S]final)/10・(MCaO/MS)/(WCaO)
Miは、成分iの分子量(g/mol)を表す。(i=CaO,S)
Wfは、溶銑1(ton)あたりの脱硫剤6の投入量(脱硫剤原単位)(kg/t)を表す。CCaOは、脱硫剤6に含まれるCaO濃度(mass%)を表す。CAl2O3は、脱硫剤6に含まれるAl2O3濃度(mass%)を表す。CAlは、脱硫剤6に含まれるAl濃度(mass%)を表す。
WCaO=Wf・CCaO/100
σは、標準偏差を表す。なお、標準偏差σは、脱硫結果の測定値のばらつきの度合いを表すものであり、標準偏差σが小さいということは全体のばらつきが小さいということ、つまり、脱硫結果の測定値の分布が平均値の周りに集まっているということである。逆に、標準偏差σが大きいということは、平均値から遠く離れている測定値が多くあることを意味する。
なお、脱硫結果のばらつきに関しては、平均値、最大値、最小値、標準偏差σを用いて評価している。
本発明の溶銑5の脱硫方法では、まず石灰系脱硫剤6の投入時におけるインペラ2の回転数N1(rpm)とインペラ2の羽根の外径D(m)の関係を、式(1)を満たすようにする。すなわち、石灰系脱硫剤6の投入時におけるインペラ2の攪拌条件を式(1)の範囲内としている。
なお、実際の生産工程においては、反応容器の形状、インペラ2の形状、溶銑5の規模等、様々な処理条件で処理されるため、同じ攪拌効果を得るための指標(条件)で整理されることが望ましく、本発明においては、指標として攪拌フルード数(N1・D0.5)を用いた。また、詳細は後述する、回転数N1維持時間tを経過した以降のインペラ2の回転数N2を示す指標も同様に、攪拌フルード数(N2・D0.5)を用いている。
インペラ2の回転数N1を(N1・D0.5)<65とした場合、脱硫処理の前半(例えば、図2Bの期間1に相当)において、溶銑5の攪拌が弱くなり過ぎてしまい(インペラ2の回転数が遅い)、溶銑5浴内への脱硫剤6の巻き込み・分散が起こらず、溶銑5と脱硫剤6の混合が不十分となる。また、脱硫剤6の凝集(攪拌時間の経過と共に、初期粒径よりも粗大化する現象)に伴い脱硫剤6と溶銑5の接触面積が低下し、この期間及びその後の脱硫反応が進行しにくい。
投入された脱硫剤6は、溶銑5の表面(スラグ表面)に自由落下してゆき、その後、溶銑5浴内へ巻き込まれてゆく。このような、脱硫剤6の投入を終了する直前に投入された脱硫剤6に対しても、取鍋1内の歩留が低下することなく、脱硫反応に寄与させる必要がある。
従って、回転数N1維持時間t(石灰系脱硫剤6の投入が終了した後におけるインペラ2の攪拌条件)の最適範囲が存在することが分かった。
ここで、本願発明者は、脱硫反応が停滞することなく、速やかに進行する、回転数N1維持時間tの最適範囲に関して、脱硫剤6の投入条件(粒度、投入量など)の観点から検討を行った。
そこで、本願発明者は、溶銑5よりも低密度である脱硫剤6を、溶銑5浴中に効率良く巻き込ませるためのパラメータとして、脱硫剤6の粒度(質量中位径)と脱硫剤6の投入量を見出し、回転数N1維持最小時間tm(sec)を、tm=f(d50,wf)と仮定して、ラボ0.30tonの溶銑5で求めた(詳細は後述の実施例で説明)。
図1A,Bは、脱硫処理後の硫黄[S]final≦50(ppm)となる、脱硫剤6の投入が終了した後、回転数N1維持最小時間tmに及ぼす、脱硫剤6の条件の影響をまとめたグラフである。
以上の結果より、(tm∝d50 −0.8)、及び、(tm∝wf 0.5)の関係が得られた。その比例係数を平均して求めた結果を用いて、式(2)を導出した。
従って、式(2)で算出される、回転数N1維持最小時間tmが、式(3)の時間、すなわち回転数N1維持時間tの下限値となる。
一方で、回転数N1維持時間tが長くなれば、その後の脱硫処理の後半における強攪拌の時間が短くなることを意味し、KR法での処理時間が10〜15(min)(例えば、特許5457945号(処理時間:10min)、特許3772725号(処理時間:12min)参照)であることを考慮して、回転数N1維持最小時間tmに180(sec)を足した形で評価した。
従って、式(2)で算出される(tm+180)が、式(3)の回転数N1維持時間tの上限値となる。
すなわち、石灰系脱硫剤6の投入が終了した後、式(1)を満たすインペラ2の回転数N1を維持する時間t(回転数N1維持時間t)を、式(2)で算出される、式(1)を満たすインペラの回転数N1を維持する最小時間tmを用いて、式(3)を満たすようにする。
インペラ2の回転数N2を(N2・D0.5)<120とした場合、脱硫処理の後半(図2Bの期間2)としては溶銑5の攪拌が弱く、脱硫反応が停滞する。一方、インペラ2の回転数N2を(N2・D0.5)>240とした場合、溶銑5の攪拌が強すぎて、安定操業(溶銑飛散抑制(スピッティング、スプラッシュ、漏銑)、インペラ2・取鍋異常溶損防止、等)の観点から好ましくないばかりか、溶銑5の表面渦の深さが大きくなり、溶銑5の表面が大気に暴露され、脱硫を阻害するO2を含む大気の巻き込みが多くなり、脱硫反応が停滞する。
前述の通り、脱硫反応が進行し、低硫銑となった脱硫処理の後半に溶銑5の攪拌を強化する。
本発明では、脱硫処理の前半(図2Bでの期間1に相当)と脱硫処理の後半(図2Bでの期間2に相当)において、インペラ2の攪拌条件、すなわちインペラ2の回転数N1を回転数N2に変えて、溶銑5の攪拌強化を図る(N1≠N2)。
なお、インペラ2の回転数の比を(N2/N1)<1.2とした場合、脱硫処理の前半(期間1)と脱硫処理の後半(期間2)とで、インペラ2の攪拌条件が大きく変わらず、脱硫反応が進行しにくいものとなっている。
以下に、本発明の溶銑5の脱硫方法の実施例(ラボ実験と実機実験)について、図と表に基づいて説明する。
(ラボ実験)
まず、ラボ実験における脱硫処理の実施条件について、以下に述べる。なお、ラボ実験では、0.30(ton)の溶銑5を用いている。
実操業では、高炉等で製造された溶銑5は、取鍋1に装入されて脱硫処理が行われるが、ラボ実験では、取鍋1の代わりに高周波誘導溶解炉を用いた。なお、銑鉄が溶解した時に生成される不純物のスラグは脱硫の阻害要因となるため、鉄製の回収治具を用いて、溶銑5の攪拌処理を開始する前に、そのスラグを取り除いた。
機械式攪拌装置は、溶銑5を攪拌するインペラ2と、インペラ2を回転させるモータとを有し、インペラ2は、耐火物製であって、棒状の回転軸3と、その回転軸3の先端に設けられた溶銑攪拌用の羽根4とで構成されている。インペラ2を下降させて、高周波誘導溶解炉内の溶銑5中に浸漬させて、その溶銑5を攪拌した。
また、インペラ2の形状に関しては、多数あるインペラ2に関する技術より、例えば、特許5457945号、[ISIJ International, 50(2010), pp.403-410.]、[CAMP-ISIJ, 25(2012), pp.317.]、[CAMP-ISIJ, 27(2014), pp.749.]などを参考にして、決定した。
また、インペラ2は、銑鉄が溶解する前に測定した高周波誘導溶解炉の底部から、羽根4の下端までの距離に基づいて、溶銑5に浸漬させた。非接触式デジタル回転計を用いて、インペラ2の回転数を測定した。
高炉から出銑された溶銑5は、一般的に高炉〜鋳床脱珪(任意)〜溶銑処理(脱硫、脱珪・脱りん)〜転炉(脱炭)の工程を経る。なお、脱硫反応は吸熱反応であり、且つ還元反応でもあるので、高温になる程、また低O2雰囲気になる程有利となるため、溶銑処理の順序としては、脱硫〜脱珪・脱りんの場合が多い。このように、ラボ実験での脱硫処理の条件として、脱硫〜脱珪・脱りんの場合を想定して、Tm=1623(K)と決定した。
脱硫処理を行う前における溶銑5中の炭素[C]濃度を、インペラ2による溶銑5の攪拌処理を開始する直前に、炉内から溶銑5の一部を採取し、化学分析に供して、[C]initial=4.50(mass%)とした。通常、高炉から出銑された溶銑5中[C]濃度は、4.50(mass%)程度であり、ラボ実験における脱硫処理の条件についても、[C]initial=4.50(mass%)とした。
脱硫剤6に含まれるCaO濃度を、CCaO=85(mass%)とし、脱硫剤6に含まれるAl2O3濃度を、CAl2O3=10(mass%)とし、脱硫剤6に含まれるAl濃度を、CAl=5(mass%)とした。
また、ラボ実験前に粒度調整(ふるい分け)と粒度測定を実施し、脱硫剤6の粒度d50が46〜938(μm)のものを用いた。
溶銑1(ton)に対する石灰の投入量WCaOを、[WCaO=Wf・CCaO/100]の関係から、3.4〜8.5(kg/t)とした。
溶銑5の脱硫処理後の条件については、インペラ2による攪拌処理が終了した後に、炉内から溶銑5の一部を採取し、化学分析に供した。その結果、溶銑5の脱硫処理後における溶銑5中の硫黄[S]濃度が、[S]final=5〜196(ppm)と得られた。
次いで、式(2)より回転数N1維持最小時間tmは29(sec)と算出され、(tm+180)は209(sec)となる。そして、回転数N1維持時間tは120(sec)であり、式(3)を満たしている。
その結果、脱硫処理後の硫黄[S]finalが33(ppm)となり、50(ppm)を下回っていて、硫黄[S]濃度が低減されていることが分かる。また、脱硫石灰効率ηS,CaOが5.6(%)であり高効率であることが分かる。
次いで、式(2)より回転数N1維持最小時間tmは29(sec)と算出され、(tm+180)は209(sec)となる。そして、回転数N1維持時間tは120(sec)であり、式(3)を満たしている。
その結果、脱硫処理後の硫黄[S]finalが8(ppm)となり、50(ppm)を下回っていて、硫黄[S]濃度が低減されていることが分かる。また、脱硫石灰効率ηS,CaOが6.2(%)であり高効率であることが分かる。
次いで、式(2)より回転数N1維持最小時間tmは29(sec)と算出され、(tm+180)は209(sec)となる。そして、回転数N1維持時間tは120(sec)であり、式(3)を満たしている。
その結果、脱硫処理後の硫黄[S]finalが5(ppm)となり、50(ppm)を下回っていて、硫黄[S]濃度が低減されていることが分かる。また、脱硫石灰効率ηS,CaOが6.3(%)であり高効率であることが分かる。
表3の比較例98を参照すると、(N2・D0.5)が90であり、式(4)を満たしていない。そして、インペラ2の回転数比(N2/N1)も1.0となり、式(5)を満たしていない。その結果、脱硫処理後の硫黄[S]finalが180(ppm)となり、硫黄[S]濃度が高いことが分かる。
図4A,Bは、精錬特性(脱硫処理後の硫黄 [S]final、脱硫石灰効率ηS,CaO)
に及ぼすインペラ2の攪拌条件(期間1)の影響を示す図である。図4A,Bには、表1〜3の実施例、No.1〜No.8、比較例No.58〜No.65を例示している。また、脱硫剤6の粒度d50=216(μm)とし、脱硫剤6の投入量wf=8(kg/t)とした。
すなわち、(N1・D0.5)の範囲を(65≦N1・D0.5≦120)、式(1)とすることが望ましい。
すなわち、式(2)で算出される回転数N1維持最小時間tmを用いて、回転数N1維持時間tの範囲を(tm≦t≦tm+180)、式(3)とすることが望ましい。
すなわち、(N2・D0.5)の範囲を(120≦N2・D0.5≦240)、式(4)とすることが望ましい。
しかし、(N2/N1)<1.2とした場合には、脱硫処理後の硫黄[S]finalが急激に高くなり、脱硫石灰効率ηS,CaOも低下(悪化)していることが分かる。
(実機実験)
以下に、実機実験における脱硫処理の実施条件について、以下に述べる。なお、実機実験では、250(ton)の溶銑5を用いている。
取鍋1(溶銑鍋)については、内周径が3.62(m)のものを用いている。また、取鍋1内に装入されている250.0(ton)の溶銑5の深さは3.57(m)である。また、取鍋1内の耐火物の状態(厚み)は、操業における損耗状況により若干変化するが、新鍋の時と同じように、一律的に3.62(m)とした。
インペラ2の攪拌に関しては、ラボ実験と同様に機械式攪拌装置を用いている。
機械式攪拌装置は、溶銑5を攪拌するインペラ2と、インペラ2を回転させるモータとを有し、インペラ2は、耐火物製であって、棒状の回転軸3と、その回転軸3の先端に設けられた溶銑攪拌用の羽根4とで構成されている。インペラ2を下降させて、取鍋内の溶銑5中に浸漬させて、その溶銑5を攪拌した。
また、インペラ2の形状に関しては、ラボ実験でのインペラ2の形状と、幾何学的にほぼ相似となるように設計した。
実機実験についても、ラボ実験と同様に、脱硫処理時間τを12(min)とし、その脱硫処理時間τ=12(min)での脱硫特性(脱硫処理後の硫黄[S]final、脱硫石灰効率ηS,CaO)を評価した。なお、脱硫処理時間τに関し、通常、脱硫に要する処理時間が10〜15(min)であるので、そのことに基づいて、決定した(例えば、特許5457945号(処理時間:10min)、特許3772725号(処理時間:12min)など参照)。
脱硫処理を行う前における溶銑5中の炭素[C]濃度を、インペラ2による溶銑5の攪拌処理を開始する直前に、取鍋1内から溶銑5の一部を採取し、カントバック分析に供して、[C]initial=4.50(mass%)とした。
なお、カントバック分析(発光分光分析)とは、試料中の対象元素を放電プラズマによって蒸発気化励起し、得られる元素固有の輝線スペクトル(原子スペクトル)の波長を定性し、発光強度から定量を行う方法である。サンプルを採取した後、数分程度で分析結果の判明が可能である。
脱硫剤6に含まれるCaO濃度を、CCaO=85(mass%)とし、脱硫剤6に含まれるAl2O3濃度を、CAl2O3=10(mass%)とし、脱硫剤6に含まれるAl濃度を、CAl=5(mass%)とした。
また、実機実験の前に粒度調整(ふるい分け)と粒度測定を実施し、脱硫剤6の粒度d50が216(μm)のものを用いた。
溶銑1(ton)に対する石灰の投入量WCaOを、[WCaO=Wf・CCaO/100]の関係から、5.1(kg/t)とした。
脱硫剤6の投入方法は、所定の条件下でインペラ2による溶銑5の攪拌を実施した後、炉内上方から溶銑5中の攪拌渦に向けて、250〜500(kg/min)で連続的に投入した(例えば、特許4984928号参照)。
表4〜表6に、溶銑5の脱硫方法の実機実験(溶銑5、250.0(ton))で得られた実験結果を示す。
次いで、式(2)より回転数N1維持最小時間tmは25(sec)と算出され、(tm+180)は205(sec)となる。そして、回転数N1維持時間tは120(sec)であり、式(3)を満たすこととなる。
その結果、脱硫石灰効率ηS,CaOが8.2(%)となり高効率であるとともに、脱硫処理後の硫黄[S]finalが10(ppm)となり、50(ppm)を下回っていて、硫黄[S]濃度が低減されていることが分かる。
次いで、式(2)より回転数N1維持最小時間tmは25(sec)と算出され、(tm+180)は205(sec)となる。そして、回転数N1維持時間tは120(sec)であり、式(3)を満たすこととなる。
その結果、脱硫石灰効率ηS,CaOが7.9(%)となり高効率であるとともに、脱硫処理後の硫黄[S]finalが20(ppm)となり、50(ppm)を下回っていて、硫黄[S]濃度が低減されていることが分かる。
次いで、式(2)より回転数N1維持最小時間tmは25(sec)と算出され、(tm+180)は205(sec)となる。そして、回転数N1維持時間tは120(sec)であり、式(3)を満たすこととなる。
その結果、脱硫石灰効率ηS,CaOが7.2(%)となり高効率であるとともに、脱硫処理後の硫黄[S]finalが40(ppm)となり、50(ppm)を下回っていて、硫黄[S]濃度が低減されていることが分かる。
表6の比較例299を参照すると、回転数N1維持最小時間tmが25(sec)と算出され、(tm+180)は205(sec)となるが、回転数N1維持時間tは0(sec)であり、式(3)を満たさない。その結果、脱硫処理後の硫黄[S]finalが140(ppm)となっており、硫黄[S]濃度が低減されていないことが分かる。
次に、図9A〜図10B、表7を参照しながら、実機実験における溶銑5の脱硫結果について、説明する。
しかし比較例においては、脱硫処理後の硫黄[S]final≦50(ppm)が一部実現されているものの、[S]finalのほとんどが50(ppm)以上となっており、硫黄[S]濃度が低減されていない。すなわち、比較例においては、脱硫処理後の硫黄[S]final≦50(ppm)をねらって実現させることは不可能である。また、比較例においては、脱硫剤6の投入量wfを増加させる必要があり、コスト面で不利であることが分かる。
図10Aは、実機における脱硫処理後の硫黄[S]finalの平均値の実績をまとめた図である。図10Bは、実機における脱硫処理後の硫黄[S]finalの標準偏差σの実績をまとめた図である。図10A,Bには、表4〜6の実施例、No.201〜No.250、比較例No.251〜No.300を例示している。また、脱硫剤6の粒度d50=216(μm)とし、脱硫剤6の投入量wf=6(kg/t)とした。
表7は、実機における脱硫処理後の硫黄[S]final及び脱硫石灰効率ηS,CaOの実績をまとめたグラフであり、表4〜6の実施例、No.201〜No.250、比較例No.251〜No.300をまとめたものである。なお、脱硫剤6の粒度d50=216(μm)とし、脱硫剤6の投入量wf=6(kg/t)である。
また、実施例において、例えば脱硫石灰効率7.5<ηS,CaO≦8.0(%)が56(%)の発生頻度であり、脱硫石灰効率8.0<ηS,CaO≦8.5(%)が22(%)の発生頻度である。このように、本発明によれば、脱硫処理のときにおける石灰の使用を効率よくすることが可能である。
一方で、本発明の構成要件の一部、あるいは全て満たさない場合、脱硫処理後の硫黄[S]finalは実施例と比べると高く、且つ脱硫石灰効率ηS,CaOも低下傾向(効率悪化)を示し、脱硫のばらつきも大きく(比較例におけるそれぞれの標準偏差、σ=23、σ=0.8)なっていることがわかる。
また、本発明は、過剰に脱硫剤6を投入しなくても、再脱硫処理を行うことがないため、脱硫コストと脱硫スラグ中に取り込まれていた鉄分損失の大幅な低減が可能となる。更に、投入時の脱硫剤6の飛散が減少するため、攪拌装置周囲における作業性の改善にも寄与する。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
2 インペラ
3 回転軸
4 羽根
5 溶銑
6 脱硫剤
Claims (1)
- 取鍋に装入され且つインペラによって攪拌されている溶銑に対して、浴面上方から石灰系脱硫剤を投入することで添加して脱硫処理をする機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法において、
前記石灰系脱硫剤の投入時のインペラの回転数N1とインペラの羽根の外径Dの関係を、式(1)を満たすようにし、
前記石灰系脱硫剤の投入が終了した後、式(1)を満たすインペラの回転数N1を維持する時間tを、式(2)で算出される、式(1)を満たすインペラの回転数N1を維持する最小時間tmを用いて、式(3)を満たすようにし、
前記インペラの回転数N1を維持する時間tを経過した以降の前記インペラの回転数N2を、式(4)且つ式(5)を満たすように変更する
ことを特徴とする溶銑の脱硫方法。
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