JP5130663B2 - 溶融鉄の精錬方法 - Google Patents

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Description

本発明は、攪拌羽根を備えた機械式攪拌装置を用い、攪拌羽根を回転して溶融鉄と精錬用フラックスとを攪拌混合させ、溶融鉄を精錬する方法に関するものである。
高炉から出銑された溶銑には、通常、鋼の品質に悪影響を及ぼす硫黄(S)が高濃度で含まれており、要求される品質水準に応じて、溶銑での脱硫処理、或いは溶銑での脱硫処理と溶鋼での脱硫処理との組み合わせなど、種々の方法で脱硫処理が行われている。このうち、溶銑の脱硫には、精錬用フラックスとして、安価なCaO(石灰)を主成分とする脱硫剤が広く用いられており、この場合の脱硫反応は、「CaO+S→CaS+O」に示される反応式に基づいて進行する。
この脱硫処理においては、蛍石(CaF2 )系造滓剤及びアルミナ(Al23 )系造滓剤などがCaOの滓化促進剤として使用されており、例えば、CaO源である生石灰に5質量%程度の蛍石を混合したCaO−CaF2系脱硫剤が広く使用されている。しかしながら、これらの滓化促進剤は、一般に高価であり、こうした滓化促進剤の配合率を増やすことは脱硫剤のコスト増大につながる。更に、滓化促進剤の配合率を高めた場合には、脱硫剤中のCaO濃度が低下し、反応効率の低下が懸念される。また、脱硫の反応効率を向上させるために、生石灰とカルシウムカーバイト系脱硫剤或いはソーダ系脱硫剤とを併用する方法や、生石灰に石灰石(CaCO3)を混合する方法などもあるが、これらは何れも、蛍石(CaF2 )系の滓化促進剤を添加することを前提とした脱硫剤であり、近年のフッ素の環境への影響が懸念されている状況下においては、フッ素系の滓化促進剤を使用しないで効率的に脱硫することが望まれている。
CaOや螢石を用いない脱硫剤の一例として、カルシウムカーバイド系脱硫剤及びソーダ系脱硫剤が実用化されているが、何れも長所と短所がある。カルシウムカーバイド系脱硫剤は、強力な脱硫能力を有しているが、脱硫処理後の脱硫スラグの後処理において、アセチレンガスが発生するなどの安全上の問題点がある。また、高価であり、危険物でもあるため、取り扱いが極めて困難である。ソーダ系脱硫剤は比較的安価であるが、高アルカリ性であるため、処理炉及び処理容器の耐火物への影響が大きい。また、排ガス中にはNaが含まれるため、その除去処理が必要となる。更に、スラグ中のNa2 Oの含有量が高くなるため、セメントなどへの再利用に制約があり、環境への影響からも望ましくない。
また、その他の脱硫剤として、金属Mgも良く知られている。金属Mgは、溶銑中の硫黄と容易に反応してMgSを生成するが、金属Mgの沸点が1100℃と低いため、1250〜1500℃の溶銑中では激しく気化し、溶銑を飛散させる危険性があり、また発生したMg蒸気が脱硫反応に十分に寄与しないまま大気中に放散されてしまうため、脱硫効率が悪い。しかも、金属Mg自体が非常に高価であるという問題点もある。
一般に、溶銑の脱硫処理は、脱硫剤を溶銑中に分散させることによって行っている。そのため、脱硫反応の効率を向上させるためには、上記のような脱硫剤の検討も重要であるが、脱硫剤の分散改善による反応界面積の増加がより一層効果的である。脱硫剤を分散させる方法としては、回転する攪拌羽根(「回転翼」或いは「インペラー」とも呼ぶ)により機械的に溶銑を攪拌する機械式攪拌装置を用いた脱硫方法がある。本方法においては、ホッパーなどから脱硫剤を切り出し、溶銑鍋などの処理容器の上部に設置された投入口から脱硫剤を投入し、処理容器内で回転する攪拌羽根により生成された溶銑の渦流によって脱硫剤を溶銑中に分散させている。
このような機械攪拌による分散手法は化学工学の分野では多大な知見があり、高密度の固体または液体、或いは、液と同等の密度を有する固体または液体での液中分散は良く知られているところである。しかしながら、溶銑の脱硫反応などの鉄鋼プロセスにおいては、巻き込み対象物(脱硫剤)が浴(溶鉄)と比較して極めて低密度であり、巻き込みが困難であること、また、浴が高温で取り扱いが特殊であることから、従来の知見をそのまま適用することは困難であり、独自の研究開発が行われている。
また、実際のプロセスにおいては、低密度粒子を分散させることの困難さに加えて、脱硫剤の添加・分散時、或いは溶銑中で、高温による焼結・凝集が生じる現象もあり、脱硫剤の反応効率は著しく低くなることがある。更なる脱硫効率の向上には、従来使用している粉体状の脱硫剤の粒径を更に細粒化することも考えられるが、脱硫剤の添加の際に、脱硫剤の飛散量が増加し、溶銑表面に達する脱硫剤の量が減少してしまう。また、前述した凝集現象も生じやすくなるため、脱硫反応の大幅な効率向上は期待できない。脱硫効率を高めるためには、凝集をいかに抑制しつつ効率的に脱硫剤を分散させるかが重要となる。
脱硫剤の溶銑中への分散を促進させる方法として、特許文献1には、攪拌羽根を用いた溶銑の脱硫処理において、溶銑浴中に整流板を浸漬させ、整流板に衝突する溶銑が形成する下降流によって脱硫剤を溶銑中に巻き込ませる方法が提案されている。また、特許文献2には、攪拌羽根を用いた溶銑の脱硫処理において、処理容器の側壁部に突起状の整流体を設け、整流体に衝突する溶銑の乱流を利用して脱硫剤を溶銑中に巻き込ませる方法が提案されている。
しかしながら、機械攪拌式脱硫法のような高温且つ強攪拌下において整流板や整流体などの障害物を用いる場合には、非常に強度の強い障害物を用いる必要があり、その作製及びメンテナンスに多額の費用と手間とを必要とするという問題がある。また、障害物を溶銑中へ浸漬することから、脱硫処理可能な溶銑量が減少してしまうという問題もある。
特開昭49−44927号公報 特開昭51−112416号公報
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、機械攪拌式脱硫法などのように、回転する攪拌羽根を有する機械式攪拌装置を用いて溶銑や溶鋼などの溶融鉄を精錬するに当たり、脱硫剤などの精錬用フラックスを効率良く溶融鉄中へ添加・分散させることができ、これにより、例えば、溶銑の脱硫処理においては、フッ素系の滓化促進剤を使用しなくても高い脱硫効率を確保することが可能になるなど、効率良く精錬を実施することのできる、溶融鉄の精錬方法を提供することである。
上記課題を解決するための第1の発明に係る溶融鉄の精錬方法は、攪拌羽根を備えた機械式攪拌装置を用い、攪拌羽根を回転させて溶融鉄と精錬用フラックスとを攪拌混合して溶融鉄を精錬するに際し、下記の(1)式の関係を満たすように前記攪拌羽根の回転数と攪拌羽根の直径のどちらか一方または両者を調整することを特徴とするものである。
F×R≧240 …(1)
但し、(1)式において、Fは、攪拌羽根の回転数(rpm)、Rは、攪拌羽根の直径(m)である。
第2の発明に係る溶融鉄の精錬方法は、第1の発明において、前記精錬用フラックスは、CaOを主成分とする精錬用フラックスであることを特徴とするものである。
第3の発明に係る溶融鉄の精錬方法は、第2の発明において、前記精錬用フラックスは、フッ素含有量が1質量%以下であることを特徴とするものである。
第4の発明に係る溶融鉄の精錬方法は、第1ないし第3の発明の何れかにおいて、精錬中、攪拌羽根が回転している期間の50%以上の期間で、攪拌羽根の回転数と攪拌羽根の直径とが(1)式の関係を満たすことを特徴とするものである。
第5の発明に係る溶融鉄の精錬方法は、第1ないし第4の発明の何れかにおいて、精錬開始時の攪拌羽根の回転開始から少なくとも5分間が経過するまでは、攪拌羽根の回転数と攪拌羽根の直径とが(1)式の関係を満たすことを特徴とするものである。
第6の発明に係る溶融鉄の精錬方法は、第1ないし第5の発明の何れかにおいて、前記溶融鉄が溶銑であり、前記精錬が脱硫処理であることを特徴とするものである。
本発明によれば、攪拌羽根を有する機械式攪拌装置を用いて溶融鉄を精錬するに際し、攪拌羽根の回転数と攪拌羽根の直径との積、つまり攪拌羽根の周速度を所定値以上に維持して溶融鉄を攪拌するので、脱硫剤などの精錬用フラックスを効率良く溶融鉄中に巻き込ませることができ、その結果、反応界面積が増大して、少ない精錬用フラックスの使用量であっても、効率良く溶融鉄を精錬することが可能となる。
以下、本発明について説明する。
機械式攪拌装置を用いた溶銑の脱硫工程における脱硫剤の利用効率は、従来、利用効率の高いCaO−CaF2 系脱硫剤を用いた場合であってもせいぜい10%程度で、残りの90%は未反応のままであり、非常に効率が低かった。本発明者等は、この利用効率の低い原因について種々解析を行った結果、以下の問題点があることが判明した。
即ち、機械式攪拌装置を用いた溶銑の脱硫工程では、脱硫剤は、回転羽根によって強力に攪拌された状態の溶銑の上へ、処理容器の上方から連続的或いは断続的に添加される。脱硫反応を促進させるには、反応界面積が高いほど有利であり、そのために、粒状または粉体状の脱硫剤を用いるが、細粒化し過ぎると添加時の飛散量つまりダストが増加し、歩留まりが悪化する。一方、添加時に飛散を考慮し、サイズの大きい脱硫剤を使用すると反応界面積が確保できず、脱硫反応が停滞する。また、脱硫剤として主に使用されるCaO系脱硫剤は溶銑との濡れ性が悪く、溶銑中へ巻き込まれにくい上に、溶銑上へ添加された脱硫剤が、強攪拌されている浴表面または浴中で焼結・凝集し、反応界面積が低下していく。特に、フッ素を含有しないCaO系脱硫剤でこれらの影響が大きい。このため、強攪拌下にある溶銑中へいかに凝集を抑制して脱硫剤を巻き込ませるか、即ち界面積を確保するかが課題となる。
このようなことから、飛散しにくい粒径の脱硫剤を使用し、脱硫剤の添加量を増加させることにより、反応界面積を確保し、脱硫能力を得ているのが現状である。また、蛍石などのフッ素を含有する滓化促進剤を使用しなかった場合には、低下する脱硫能力を、CaOの添加量を増加させる或いは処理時間を延長させることによって補っているのが現状である。しかし、脱硫剤使用量の増加は、コスト増加及び発生するスラグ量の増加に繋がり、また、処理時間の延長は、生産性の低下を来すことから、好ましくない。
これらを踏まえ、脱硫剤、特にフッ素を含有しないCaO系脱硫剤の利用効率を高めることを目的として、脱硫剤の使用量を増加することなく反応界面積を増加させるために、攪拌羽根の回転挙動と脱硫剤の反応界面積との関係について検討した。
機械式攪拌装置を用いた溶銑の脱硫処理においては、攪拌羽根の回転数を増加していくと、或る回転数から脱硫剤の溶銑中への巻き込みが発生し、脱硫能力が増大する。従って従来、この境界となる回転数近傍で脱硫処理を実施しているが、回転条件の詳細については未知の部分が多い。
そこで、攪拌羽根の回転数と脱硫能力との関係について研究を行った。その結果、脱硫能力は、攪拌羽根の回転数に影響されるが、単に攪拌羽根の回転数と相関するわけではなく、攪拌羽根の周速度と相関関係があることが分かった。
即ち、脱硫剤の浴中への巻き込みを増大させるには、攪拌羽根の周速度を大きくする、つまり、脱硫剤の運動エネルギーを大きくすればよいことが判明した。攪拌羽根の周速度は、攪拌羽根の半径r(m)と回転角速度ω(rad/秒)との積(r×ω)で表されるので、攪拌羽根の回転数F(rpm)を用いると、攪拌羽根の回転数F(rpm)と攪拌羽根の直径R(m)との積(F×R=F×2r:単位=「rpm・m」)が攪拌羽根の周速度のパラメータとなる。しかしながら、積(F×R)がどの程度になると脱硫剤の浴中への巻き込みが起こるかは、溶融金属の精錬などのような低密度粒子の分散に関してはよく分かっておらず、特に、高温下の粒子の凝集が生じる系においては全く情報がない。ましてや、溶銑の精錬プロセスへの適用例は皆無である。
そこで、先ず、低密度粒子の浴中分散挙動について、水モデル実験で検証した。直径0.5mのアクリル製円筒容器に約60kgの水を装入し、4枚翼の攪拌羽根による攪拌を行った。低密度粒子としては直径1mm以下の中空プラスチック粒子などを用い、攪拌前に水浴上に添加した。種々の回転速度で攪拌羽根を回転して水を攪拌させ、そのときの低密度粒子の挙動を観察した結果、容器内に形成される渦の下端が攪拌羽根に達した時点で、低密度粒子の水中分散が開始することが確認できた。更に、直径が異なる攪拌羽根を用い、種々の回転数で低密度粒子の巻き込み状況を調査した。その結果、低密度粒子の巻き込み状況(均一分散性)が著しく向上する条件について整理すると、低密度粒子の巻き込み発生は、そのときの攪拌羽根の周速度つまり積(F×R)に相関することを見出した。
これらの検証結果に基づき、次いで、実機の機械式攪拌装置を用いた溶銑の脱硫処理において、攪拌羽根の回転数及び攪拌羽根の直径を変更して脱硫剤の巻き込みを調査した。脱硫剤としては、フッ素を含有しないCaOを主成分とする脱硫剤を用いた。その結果、積(F×R)の増加に伴って大幅な脱硫効率の向上が認められ、特に積(F×R)が200rpm・m以上の場合に効果が大きく、積(F×R)が250rpm・m以上で更なる効果の増大が確認できた。
これらの結果に基づき、本発明においては、攪拌羽根を備えた機械式攪拌装置を用い、攪拌羽根を回転させて溶銑または溶鋼などの溶融鉄と、脱硫剤または脱燐剤などの精錬用フラックスとを攪拌混合して溶融鉄を精錬するに際し、攪拌羽根の回転数F(rpm)と攪拌羽根の直径R(m)との積(F×R)を200rpm・m以上として精錬する。積(F×R)を200rpm・m以上とするに当たり、攪拌羽根の回転数F及び攪拌羽根の直径Rのどちらか一方を調整しても、また両者を調整しても、どちらでも構わない。
本発明を機械式攪拌装置で行う溶銑の脱硫処理に適用した場合を例として、本発明の具体的な実施方法を、添付図面を参照して以下に説明する。図1は、本発明が適用される機械式攪拌型脱硫装置の1例を示す概略断面図である。尚、脱硫処理を行うための機械式攪拌装置を機械式攪拌型脱硫装置と称している。
図1に示すように、機械式攪拌型脱硫装置は、溶銑鍋2に収容された溶銑3に浸漬・埋没し、旋回して溶銑3を攪拌するための耐火物製の攪拌羽根4を備えており、この攪拌羽根4は、昇降装置(図示せず)によってほぼ鉛直方向に昇降し、且つ、回転装置(図示せず)によって軸4aを回転軸として旋回するようになっている。また、機械式攪拌型脱硫装置には、粒状または粉体状の脱硫剤7及び粒状または粉体状の脱酸源8を、精錬用フラックスとして溶銑鍋2に収容された溶銑3の浴面に上置き添加するための投入口6、並びに、粉体状の脱硫剤7A及び粉体状の脱酸源8Aを精錬用フラックスとして溶銑鍋2に収容された溶銑3に向けて上吹きして添加するための上吹きランス5が設置されている。更に、溶銑鍋2の上方位置には、集塵機(図示せず)に接続する排気ダクト口(図示せず)が備えられ、脱硫処理中に発生するガスやダストが排出されるようになっている。
投入口6は、粒状または粉体状の脱硫剤7を収容するホッパー9と、ホッパー9から定量切り出すためのロータリーフィーダー10とからなる供給装置、及び、粒状または粉体状の脱酸源8を収容するホッパー11と、ホッパー11から定量切り出すためのロータリーフィーダー12とからなる供給装置と接続しており、投入口6から、粒状または粉体状の脱硫剤7及び粒状または粉体状の脱酸源8を任意のタイミングで各々独立して調整して供給できる構造になっている。また、上吹きランス5は、粉体状の脱硫剤7Aを収容するホッパー13と、ホッパー13から定量切り出すための切出装置14とからなる供給装置、及び、粉体状の脱酸源8Aを収容するホッパー15と、ホッパー15から定量切り出すための切出装置16とからなる供給装置と接続しており、上吹きランス5から、窒素ガスやArガスなどの搬送用ガスとともに、粉体状の脱硫剤7A及び粉体状の脱酸源8Aを任意のタイミングで各々独立して調整して供給できる構造になっている。尚、上吹きランス5から吹き込むか、投入口6から添加するかは、使用する脱硫剤の大きさなどから、適宜選択すればよい。脱酸源8,8Aは、溶銑3の酸素濃度を低減し、脱硫反応を促進させるためのものであり、必ずしも必要ではないが、脱硫反応を促進させるには、使用することが好ましい。
このように構成される機械式攪拌型脱硫装置において、先ず、攪拌羽根4の位置が溶銑鍋2のほぼ中心になるように、溶銑鍋2を搭載した台車1の位置を調整し、次いで、攪拌羽根4を下降させて溶銑3に浸漬させる。攪拌羽根4が溶銑3に浸漬したならば、攪拌羽根4の旋回を開始し、攪拌羽根4の回転数F(rpm)と攪拌羽根4の直径R(m)との積(F×R)が200rpm・m以上となるまで、好ましくは250rpm・m以上となるまで、使用する攪拌羽根4の直径R(m)に応じて攪拌羽根4の回転数Fを昇速する。攪拌羽根4の回転数Fが所定の回転数に達したならば、脱硫剤7または脱硫剤7Aを連続的または断続的に添加する。この場合、脱硫剤7,7Aの添加と並行して、または、脱硫剤7、7Aの添加の前後に、脱硫反応を促進させるために、脱酸源8,8Aを溶銑鍋2に供給することが好ましい。尚、攪拌羽根4の直径Rは、攪拌羽根4の形状に如何に拘わらず攪拌羽根4の上端面における回転直径とする。
所定量の脱硫剤7,7Aの供給終了後も更に攪拌羽根4により溶銑3を攪拌し、所定時間の攪拌が行われたなら、攪拌羽根4の回転数を減少させて停止させる。攪拌羽根4の旋回が停止したなら、攪拌羽根4を上昇させ、溶銑鍋2の上方に待機させる。生成したスラグが浮上して溶銑表面を覆い、静止した状態で溶銑3の脱硫処理が終了する。脱硫処理後に生成したスラグを溶銑鍋2から排出し、次の精錬工程に溶銑鍋2を搬送する。
このようにして、溶銑3の脱硫処理を実施する。脱硫反応を促進させるために、脱硫処理の全期間に亘って攪拌羽根4の回転数Fと攪拌羽根4の直径Rとの積(F×R)を200rpm・m以上に維持することが好ましいが、脱硫処理の全期間の50%以上の範囲であれば脱硫反応を促進させることができる。特に、脱硫剤7,7Aの溶銑3への巻き込みが行われる処理開始から5分間について本発明を適用することにより、脱硫反応を効率良く促進させることができる。
使用する脱硫剤7,7Aとしては、CaO系の脱硫剤のみならず、カルシウムカーバイド系の脱硫剤、ソーダ系の脱硫剤、及び金属Mgなど種々の脱硫剤を用いることができるが、安価であることから、CaO系の脱硫剤を使用することが好ましい。しかも、環境対策や発生するスラグの再利用が容易であることから、蛍石などのフッ素源を併用せずに、CaO系の脱硫剤のみを使用することが好ましい。つまり、フッ素含有量が1質量%以下であるCaO系の脱硫剤とすることが好ましい。CaO系の脱硫剤としては、生石灰(CaO)、ドロマイト(MgCO3 ・CaCO3 )、消石灰(Ca(OH)2)、石灰石(CaCO3 )などを使用することができる。本発明では、脱硫剤7,7Aを強制的に溶銑3に巻き込ませることができるので、フッ素源を使用しなくても、十分に脱硫することができる。
また、脱酸源8,8Aとしては、金属Al、または、アルミ源として安価に入手できることからアルミドロス粉末が望ましい。また、アルミニウム融液をガスでアトマイズして得られるアトマイズ粉末や、アルミニウム合金を研磨、切削する際に発生する切削粉など、他のAl源であってもよい。また、フェロシリコンのようなSi合金や、Mg合金などを用いることもできる。これらは、搬送用ガスとともに溶銑3の表面へ上吹き添加する場合には、粉末状が望ましく、そして、上吹き添加する場合には、通常であれば飛散するような微細な粉末でも、問題なく使用することが可能である。
以上説明したように、本発明によれば、脱硫剤7,7Aを効率良く溶銑3に巻き込ませることができるので、脱硫反応の界面積が増大し、少ない脱硫剤7,7Aの使用量であっても、更には、フッ素系の滓化促進剤を使用しなくても、溶銑3を効率良く脱硫処理することが可能となる。
尚、上記説明は溶銑の脱硫処理について行ったが、本発明は溶銑の脱硫処理に限らず、溶銑の脱珪処理、脱燐処理、脱炭処理にも適用できる。要は、機械式攪拌装置を用いて溶融金属を精錬する方法である限り、上記に沿って本発明を実施することができる。
図1に示す機械式攪拌型脱硫装置を用い、溶銑鍋内の約150トンの溶銑を脱硫処理した。
高炉から出銑された溶銑に、高炉鋳床と受銑後の溶銑鍋内との2回の脱珪処理を実施した後に、図1に示す機械式攪拌型脱硫装置に搬送し、脱硫処理を実施した。使用した溶銑の組成は、炭素:4.0〜4.6質量%、珪素:0.05〜0.15質量%、Mn:0.10〜0.15質量%、燐:0.10〜0.13質量%であり、脱硫処理前の硫黄濃度は0.02〜0.04質量%であった。脱硫処理前の溶銑温度は、1320〜1450℃であり、脱硫剤としては、CaOを主成分とする脱硫剤を使用し、脱酸源としては、金属Alを50質量%程度含有するアルミドロスの粉末を用いた。
直径の異なる耐火物製の攪拌羽根を種々用い、溶銑に浸漬させた後、回転させて溶銑に渦を形成させた。その後、脱硫剤を脱硫処理前の硫黄濃度に応じて5〜10kg/t添加し、10分間の脱硫処理を実施した。その際に、攪拌羽根の回転数Fと攪拌羽根の直径Rとの積(F×R)を130〜260rpm・mの範囲で変更した。
脱硫処理の結果、積(F×R)が130、160、190、210、240、260rpm・mにおいて、脱硫率は、それぞれ、8%、9%、11%、15%、16%、21%となり、積(F×R)の増加に伴って脱硫効率が向上することが確認できた。特に、積(F×R)が200rpm・m以上の場合に脱硫効率が高く、積(F×R)が250rpm・m以上の場合に更なる脱硫効率の向上が確認できた。
本発明が適用される機械式攪拌型脱硫装置の1例を示す概略断面図である。
符号の説明
1 台車
2 溶銑鍋
3 溶銑
4 攪拌羽根
5 上吹きランス
6 投入口
7 脱硫剤
8 脱酸源
9 ホッパー
10 ロータリーフィーダー
11 ホッパー
12 ロータリーフィーダー
13 ホッパー
14 切出装置
15 ホッパー
16 切出装置

Claims (6)

  1. 攪拌羽根を備えた機械式攪拌装置を用い、攪拌羽根を回転させて溶融鉄と精錬用フラックスとを攪拌混合して溶融鉄を精錬するに際し、下記の(1)式の関係を満たすように前記攪拌羽根の回転数と攪拌羽根の直径のどちらか一方または両者を調整することを特徴とする、溶融鉄の精錬方法。
    F×R≧240 …(1)
    但し、(1)式において、Fは、攪拌羽根の回転数(rpm)、Rは、攪拌羽根の直径(m)である。
  2. 前記精錬用フラックスは、CaOを主成分とする精錬用フラックスであることを特徴とする、請求項1に記載の溶融鉄の精錬方法。
  3. 前記精錬用フラックスは、フッ素含有量が1質量%以下であることを特徴とする、請求項2に記載の溶融鉄の精錬方法。
  4. 精錬中、攪拌羽根が回転している期間の50%以上の期間で、攪拌羽根の回転数と攪拌羽根の直径とが(1)式の関係を満たすことを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載の溶融鉄の精錬方法。
  5. 精錬開始時の攪拌羽根の回転開始から少なくとも5分間が経過するまでは、攪拌羽根の回転数と攪拌羽根の直径とが(1)式の関係を満たすことを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れか1つに記載の溶融鉄の精錬方法。
  6. 前記溶融鉄が溶銑であり、前記精錬が脱硫処理であることを特徴とする、請求項1ないし請求項5の何れか1つに記載の溶融鉄の精錬方法。
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