JP4341132B2 - インペラーによる溶融金属と添加剤との攪拌、混合方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融金属の攪拌方法に関し、特に高温の溶銑や溶鋼等の溶融金属中にインペラーを浸漬して回転させ、添加剤と溶融金属とを効率良く攪拌、混合する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
溶融金属の精錬に際して、回転翼(以下、インペラーという)を溶融金属に浸漬して溶融金属中で回転させ、溶融金属を攪拌する方法が知られている。たとえば溶銑鍋に収納した溶銑に脱硫剤を添加し、インペラーを用いて攪拌して脱硫処理を行なう等の方法が行なわれている。
【0003】
特公昭42-12343号公報には、インペラーによる溶銑の脱硫方法が開示されている。この方法は、溶銑鍋の溶銑浴面の中央部を小型インペラーによって局部的に高速回転攪拌し、溶銑浴面の中央部に局部的渦流を生ぜしめ、溶銑表面に浮上している脱硫剤を渦流に巻込ませることにより、脱硫を進行させようとするものである。しかしこの方法は、インペラーを用いて溶銑浴面を高速回転攪拌するため、溶銑の飛散が増加し、かつインペラーを構成する耐火物の溶損速度も増大するという問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記のような問題を解消し、溶融金属と添加剤との反応効率を損なわず、しかも溶融金属の飛散およびインペラー耐火物の溶損を抑制する攪拌方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、溶融金属に添加剤を添加し、該溶融金属にインペラーを浸漬して回転させる溶融金属と添加剤との攪拌、混合方法において、溶融金属の浴面からインペラーの上端までの浸漬深さh(m)、インペラーの回転直径d(m)および回転数N(回/分)が下記の (1)式の関係を満足する溶融金属と添加剤との攪拌、混合方法である。
【0006】
163.3 ×h1/2 /d≦N≦ 200×h1/2 /d ・・ (1)
h:溶融金属の浴面からインペラーの上端までの浸漬深さ(m)
d:インペラーの回転直径(m)
N:インペラーの回転数(回/分)
前記した発明においては、好適態様として、溶融金属が溶銑または溶鋼であることが好ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】
図1は、容器1内に収納された溶融金属4中にインペラー2を浸漬して、静止させた状態の例を示す断面図である。インペラー2はインペラー回転軸3の下端部に配設されている。溶融金属4の浴面からインペラー2の上端までの浸漬深さをh(m)とし、インペラー回転軸3が回転することによって形成されるインペラー2の回転体の直径すなわちインペラー回転軸3の中心からインペラー2の翼端までの距離の2倍(以下、回転直径という)をd(m)とする。
【0008】
図2は、溶融金属4中でインペラー2を回転させた状態の例を示す断面図である。
溶融金属4に脱硫剤等の粉粒状の添加剤を投入した場合、特に溶銑や溶鋼等の溶融鉄合金(比重7程度)にソーダ灰や石灰等のフラックス(比重2程度)を添加する場合のように、比重が2倍以上も相違する物質を混合する場合に、浴面上に浮遊した添加剤を効率良く溶融金属4に混合するために、インペラー2を回転させて渦を発生し、浴面に窪みを生じさせる。添加剤は浴面の窪みに巻き込まれ、さらに添加剤が窪み直下で回転しているインペラー2に到達すると、インペラー2の回転によって添加剤は溶融金属4中へ弾き出されるように分散する。
【0009】
インペラー2によって添加剤を溶融金属4中へ弾き出すためには、インペラー2の回転数を高める必要がある。しかし、発明者らは添加剤が溶融金属4中へ弾き出される状態になれば、それ以上インペラー2の回転数を高めても溶融金属4と添加剤との混合の度合いは変化しないことを見出した。したがってインペラー2を回転させて溶融金属4を攪拌する際に、溶融金属4と添加剤とを混合し、溶融金属4と添加剤との反応を進行させるための最小限の回転数に抑えることによって、溶融金属4の飛散を抑制し、かつインペラー2の耐火物の溶損を抑制することが可能であると考えた。
【0010】
そこで添加剤がインペラー2によって溶融金属4中へ弾き出され、溶融金属4と添加剤との反応が進行する状態となる回転数N(回/分)の範囲を求めるために、溶融金属4の浴面からインペラー2の上端までの浸漬深さh(m),インペラー2の回転直径d(m)およびインペラー2の回転数N(回/分)を種々の条件にして溶融金属4の攪拌を行ない、溶融金属4と添加剤との混合の度合い,溶融金属4の飛散量,インペラー2の耐火物の寿命を調査した。
【0011】
その結果、溶融金属4と添加剤を効率良く混合して反応を進行させ、かつ溶融金属4の飛散やインペラー2の耐火物の溶損を抑制するためのインペラー2の回転数Nの範囲として、下記の (1)式の関係が得られた。
163.3 ×h1/2 /d≦N≦ 200×h1/2 /d ・・ (1)
h:溶融金属の浴面からインペラーの上端までの浸漬深さ(m)
d:インペラーの回転直径(m)
N:インペラーの回転数(回/分)
すなわち、インペラー2の回転数Nが 163.3×h1/2 /dで算出される値未満の場合は、溶融金属4と添加物とは十分に混合されず、反応が進行しない。インペラー2の回転数Nが 200×h1/2 /dで算出される値を超える場合は、溶融金属4の飛散量が増大し、かつインペラー2の耐火物の寿命が短くなる。したがってインペラー2の回転数Nは、 (1)式から算出される範囲を満足する必要がある。
【0012】
【実施例】
溶銑鍋に溶銑を 300t収納し、CaOを主体とする石灰系脱硫剤を添加した。脱硫剤の添加量は、溶銑1tあたり 7.5kgであった。そして図1に示すような、4枚のインペラー2が十文字形状になるようにインペラー回転軸3の下端部に配設された攪拌装置を用いて、溶銑を攪拌した。攪拌時間は15分であった。
【0013】
その際、溶融金属の浴面からインペラー2の上端までの浸漬深さh(m),インペラー2の回転直径d(m)およびインペラー2の回転数N(回/分)を変化させて、脱硫率(%),溶銑飛散量(kg),インペラー2の耐火物の寿命(回)を調査した。その結果を表1に示す。
なお脱硫率(%)は下記の (2)式で算出され、溶銑飛散量(kg)は下記の (3)式で算出される。
【0014】
脱硫率(%)= 100×(〔S1 〕−〔S2 〕)/〔S1 〕 ・・ (2)
〔S1 〕:攪拌前の溶銑中のS含有量
〔S2 〕:攪拌後の溶銑中のS含有量
溶銑飛散量(kg)=(攪拌前の溶銑重量)−(攪拌後の溶銑重量) ・・ (3)
また、インペラー2の耐火物の寿命(回)は、耐火物が使用できなくなるまでに溶銑の攪拌で使用した回数である。
【0015】
【表1】
【0016】
発明例1および2は、溶融金属の浴面からインペラー2の上端までの浸漬深さh(m),インペラー2の回転直径d(m)およびインペラー2の回転数N(回/分)が (1)式の関係を満足する例である。すなわち発明例1では、d=1.3 m,h=0.8 mであり、 (1)式から算出されるN(回/分)の範囲 112.4≦N≦137.6 を満足する回転数N=125 (回/分)で攪拌した。発明例2では、d=1.0 m,h=0.5 mであり、 (1)式から算出されるN(回/分)の範囲 115.5≦N≦141.4 を満足する回転数N=125 (回/分)で攪拌した。
【0017】
比較例1〜4は、h(m),d(m)およびN(回/分)が (1)式の関係を満足しない例である。たとえば比較例1では、d=1.3 m,h=0.8 mであるから、 (1)式から算出されるN(回/分)の範囲は 112.4≦N≦137.6 となるのに対して、回転数N=150 (回/分)で攪拌した。すなわち比較例1は、溶銑を攪拌するときのインペラー2の回転数Nが、 (1)式から算出される範囲の上限より大きい例である。
【0018】
また比較例2では、d=1.3 m,h=1.2 mであるから、 (1)式から算出されるN(回/分)の範囲は 137.6≦N≦168.5 となるのに対して、回転数N=125 (回/分)で攪拌した。比較例3では、d=1.3 m,h=0.8 mであるから、 (1)式から算出されるN(回/分)の範囲は 112.4≦N≦137.6 となるのに対して、回転数N=100 (回/分)で攪拌した。比較例4では、d=1.0 m,h=0.8 mであるから、 (1)式から算出されるN(回/分)の範囲は 146.1≦N≦178.9 となるのに対して、回転数N=125 (回/分)で攪拌した。すなわち比較例2〜4は、溶銑を攪拌するときのインペラー2の回転数Nが、 (1)式から算出される範囲の下限より小さい例である。
【0019】
発明例1と比較例1〜3を比べると、発明例1は (1)式の関係を満足する範囲で攪拌したので、脱硫率は90%と高くなり、しかも溶銑飛散量は 100kgと低く抑えられている。またインペラー2の耐火物の寿命は50回と長く、耐火物の溶損も低く抑えられている。
一方、比較例1は、dおよびhは発明例1と同じであるが、Nは (1)式から算出される範囲の上限より大きい。Nを過大に設定しても脱硫反応は促進されず、脱硫率は発明例1と同等である。しかしNが過大であるために、溶銑飛散量が増大し、インペラー2の耐火物の寿命が短くなっている。
【0020】
比較例2は、dおよびNは発明例1と同じであるが、hは発明例1より大きい。つまり比較例2ではインペラー2が溶銑中に深く浸漬されており、Nは (1)式から算出される範囲の下限より小さい。そのため、溶銑飛散量およびインペラー2の寿命は発明例1と同等であるが、脱硫率は発明例1より低下している。
比較例3は、dおよびhは発明例1と同じであるが、Nは発明例1より小さい。つまり比較例3ではインペラー2の回転数が少なく設定されており、Nは (1)式から算出される範囲の下限より小さい。そのため、溶銑飛散量およびインペラー2の寿命は発明例1と同等であるが、脱硫率は発明例1より低下している。
【0021】
発明例2と比較例4を比べると、発明例2は (1)式の関係を満足する範囲で攪拌したので、脱硫率は90%と高くなり、しかも溶銑飛散量は 100kgと低く抑えられている。またインペラー2の耐火物の寿命は50回と長く、耐火物の溶損も低く抑えられている。一方、比較例4は、dおよびNは発明例1と同じであるが、hは発明例2より大きい。つまり比較例4ではインペラー2が溶銑中に深く浸漬されており、Nは (1)式から算出される範囲の下限より小さい。そのため、溶銑飛散量およびインペラー2の寿命は発明例1と同等であるが、脱硫率は発明例2より低下している。
【0022】
つまり、発明例1および2は、比較例1〜4と比べて、溶銑の飛散およびインペラー2の耐火物の溶損を抑制し、しかも脱硫反応を促進することができる。
なお、ここでは4枚の長方形のインペラー2が十文字形状にインペラー回転軸3の下端部に配設された攪拌装置を用いる例について説明したが、本発明においては、インペラー2の数や形状は特定の構成に限定しない。たとえば半円形のインペラー2を3枚配設した攪拌装置、あるいは門型の攪拌装置を用いても、同様の効果が得られる。
【0023】
【発明の効果】
本発明では、溶融金属と添加剤との反応効率を損なわず、しかも溶融金属の飛散およびインペラー耐火物の溶損の抑制が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶融金属にインペラーを浸漬して静止させた状態の例を示す断面図である。
【図2】溶融金属中でインペラーを回転させた状態の例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 容器
2 インペラー
3 インペラー回転軸
4 溶融金属
Claims (2)
- 溶融金属に添加剤を添加し、該溶融金属にインペラーを浸漬して回転させる溶融金属と添加剤との攪拌、混合方法において、前記溶融金属の浴面から前記インペラーの上端までの浸漬深さh(m)、前記インペラーの回転直径d(m)および回転数N(回/分)が下記の関係を満足することを特徴とする溶融金属と添加剤との攪拌、混合方法。
163.3 ×h1/2 /d≦N≦ 200×h1/2 /d
h:溶融金属の浴面からインペラーの上端までの浸漬深さ(m)
d:インペラーの回転直径(m)
N:インペラーの回転数(回/分) - 前記溶融金属が溶銑または溶鋼であることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属と添加剤との攪拌、混合方法。
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