上記のような歯車ポンプの一例について、以下、図9−図11を用いて説明する。図9及び図10は、ケーシング106のメガネ穴110と吸込通路132との間に形成される拡散通路133、及び、メガネ穴110と拡散通路133との境界に形成される開口134を説明するための図である。また、図11は、歯車の歯先とメガネ穴110の内周面110aとが当接するシール領域を説明するための図である。なお、図10では、ケーシング106に収容される駆動歯車102及び従動歯車103等の部材を省略して、ケーシング106のみを図示している。また、図10及び図11において、図中の範囲bは、歯車の歯先がメガネ穴内周面と当接する幅を示す。
上記のような歯車ポンプでは、図9に示すように、ケーシング106のメガネ穴110と吸込通路132との間において、駆動歯車102及び従動歯車103の軸方向に沿って延在し、吸込通路132よりも流路が大きい拡散通路133が形成されるとともに、メガネ穴110と拡散通路133との境界に、駆動歯車102及び従動歯車103の軸方向に沿って延在する開口134が形成されることが考えられる。この拡散通路133及び開口134により、吸込通路132に吸い込まれた作動流体が、拡散通路133内で拡散された後、メガネ穴110に流入するので、歯車の歯幅全体に作動流体が行き渡りやすくなる。図10に示すように、開口134は、加工が容易となるよう、開口幅が歯車の軸方向について一定とされることが考えられる。また、開口134は、吸込通路132が塞がれないように、幅方向両端部135、136が、それぞれ吸込通路132の外周面に接するように形成されることが考えられる。
ところで、吸込通路132からメガネ穴110に流入する作動流体は、歯車の歯面とメガネ穴110の内周面110aによって囲まれた空間に取り込まれて、高圧の吐出通路142側へ送られる。その際に、当該空間に取り込まれた作動流体が低圧の吸込通路132側へ漏れないためには、歯車の歯先とメガネ穴110の内周面110aとが当接(ごく狭い隙間を開けて近接している場合を含む)していなければならない。図9に示すように、歯車ポンプが高圧の作動流体を吐出している際は、駆動歯車102及び従動歯車103は、吐出通路142側の高圧空間124の高圧によって吸込通路132側に押圧されるので、駆動歯車102及び従動歯車103は吸込通路132側に寄っている。したがって、歯車の複数の歯先のうち、メガネ穴110の内周面110aに当接するのは、吸込通路132側に位置する歯先であり、この歯先によって、作動流体が吸込通路132側に漏れるのが防止されている。
この歯車ポンプでは、駆動歯車102及び従動歯車103にはすば歯車を用いている。駆動歯車102及び従動歯車103の歯すじは、ねじれ角が同じであるが、ねじれ方向が逆向きであるので、側面から見ると、2つの歯車の歯すじが近づく側と遠のく側が存在する。駆動歯車102及び従動歯車103のねじれ量は、例えば1正面ピッチ分(換言すれば、重なり噛みあい率が1)とされている。
上記のように、1正面ピッチ分ほど歯すじがねじれた歯車では、いかなる瞬間でも、少なくとも1つの歯先全幅がメガネ穴110の内周面110aと当接するためには、メガネ穴110の内周面110aに、最低限、2正面ピッチ分のシール領域が必要となる。例えば、図11(a)に示すように、駆動歯車102の歯先151が、シール可能な範囲で最も開口134側にある場合、メガネ穴110の内周面110aに必要なシール領域は、1正面ピッチ分となる。しかし、図11(b)に示すように、歯先151の一部が、開口134に対向する部分にある場合、歯車の歯面とメガネ穴110の内周面110aによって囲まれた空間に取り込まれた作動流体が、図11(b)中のハッチング部分から漏れてしまうので、歯先151を有する歯に隣接する歯の歯先152において、作動流体が漏れるのが防止されることとなる。そのため、シール領域がおよそ2正面ピッチ弱程度必要となる。したがって、1正面ピッチ分ほど歯すじがねじれた歯車では、図11(c)に示すように、メガネ穴110の内周面110aに、開口134から少なくとも2正面ピッチ分のシール領域が必要となる。なお、これに対し、平歯車を用いた歯車ポンプでは、最低限、1ピッチ分のシール領域があれば済む。
上記のような歯車ポンプでは、2正面ピッチ分がシール領域となるが、シール領域のうち開口134から離れた部分では、歯先がメガネ穴110の内周面110aに押圧されにくいので、歯車の歯面とメガネ穴110の内周面110aとによって囲まれた空間の取り込まれた作動流体が吸込通路132側に漏れやすい。したがって、作動流体が当該空間から吸込通路132側に漏れるのを防止するためには、開口134の開口幅をできるだけ狭くして、シール領域をメガネ穴側から見て吸込通路132側(吸込通路の軸中心側)に寄せることが望ましい。
一方で、開口134の開口幅を狭くすると、通過時の作動流体の流速が速くなって、キャビテーションが発生しやすくなるため、歯車ポンプの最高回転数を高くできない問題がある。そのため、歯車ポンプの最高回転数を所定以上確保するためには、開口134の開口幅を広くして、開口134の面積を所定面積以上確保する必要がある。したがって、上記のような歯車ポンプでは、シール領域をできるだけ吸込通路132側に寄せることと、開口134の面積を所定面積以上確保することのバランスを考えて、開口134の開口幅を決定することが求められる。その結果、シール領域を十分に吸込通路132側に寄せることができず、歯車の歯面とメガネ穴110の内周面110aとで囲まれた空間から作動流体が吸込通路132側へ漏れて、歯車ポンプの効率が低下するおそれがある。
また、従来の歯車モータとしては、従来の歯車ポンプと同様に構成されたものがある。この歯車モータにおいても、歯車の歯面とメガネ穴110の内周面110aとで囲まれた空間から作動流体が吸込通路132側に漏れるのを防止するために、開口134の開口幅をできるだけ小さくして、シール領域をできるだけ吸込通路132側に寄せることが望ましい。しかし、一方で、開口134の開口幅を狭くすると、拡散通路133の流路抵抗が増えて、歯車モータの効率が低下する問題があるので、開口134の開口幅を広くして、開口134の面積を所定面積以上確保する必要がある。したがって、歯車モータでも、シール領域をできるだけ吸込通路132側に寄せることと、開口134の面積を所定面積以上確保することのバランスを考えて、開口134の開口幅を決定することが求められる。その結果、シール領域を十分に吸込通路132側に寄せることができず、歯車の歯面とメガネ穴110の内周面110aとで囲まれた空間から作動流体が吸込通路132側へ漏れて、歯車モータの効率が低下するおそれがある。
そこで、本発明の目的は、歯車ポンプ又はモータの効率が低下するのを防止できる歯車ポンプ又はモータを提供することである。
上記の歯車ポンプのように、拡散通路とメガネ穴との境界に形成される開口の開口幅が、歯車の軸方向について一定とされるものでは、歯車の歯すじが歯車の軸に対して傾いているため、歯車の歯先がシール可能な範囲で最も開口側にある場合であっても、一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側において、メガネ穴の内周面に常にシールに用いられない領域(例えば、上記の歯車ポンプでは、図11(a)の網掛け部分)が存在する。本発明者らは、このシールに用いられない領域を活用することを検討し、本発明を完成させた。
第1の発明にかかる歯車ポンプ又はモータは、メガネ穴を有するケーシングと、前記メガネ穴に収容されるとともに、前記メガネ穴の内周面にそれぞれ当接して前記メガネ穴を高圧空間と低圧空間とに区画する一対のはすば歯車と、前記メガネ穴の低圧空間に連通する連通路とを備え、前記連通路は、前記ケーシングの外部に開口する第1流路と、前記メガネ穴の低圧空間と前記第1流路との間において前記はすば歯車の軸方向に沿って延在し、前記第1流路よりも流路が大きい第2流路とを有しており、前記メガネ穴の低圧空間と前記第2流路との境界には、前記はすば歯車の軸方向に沿って延在する開口が形成されており、前記開口は、前記メガネ穴から前記第1流路側を見たときに、前記一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側の開口幅が、前記一対のはすば歯車の歯すじが近付く側の開口幅よりも広く、前記一対のはすば歯車の歯すじが近付く側の開口幅が、前記第1流路の幅よりも狭いことを特徴とする。
この歯車ポンプ又はモータでは、一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側の開口幅を、一対のはすば歯車の歯すじが近付く側の開口幅よりも広くして、一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側のシールに用いられない領域を活用することで、一対のはすば歯車の歯すじが近づく側のシール領域をできるだけメガネ穴側から見て第1流路(吸込通路)側に寄せつつ、かつ開口の面積を大きくした。その結果、例えば歯車ポンプとして用いられる場合に、はすば歯車の歯面とメガネ穴の内周面とで囲まれた空間から作動流体が第1流路(吸込通路)側に漏れるのを防止しつつ、かつキャビテーションが発生するのを防止できる。また、歯車モータとして用いられる場合に、はすば歯車の歯面とメガネ穴の内周面とで囲まれた空間から作動流体が第1流路(吸込通路)側に漏れるのを防止しつつ、かつ第2流路(拡散通路)における圧力損失が増大するのを防止できる。したがって、歯車ポンプ又はモータの効率が低下するのを防止できる。
この歯車ポンプ又はモータでは、一対のはすば歯車の歯すじが近付く側の開口幅が、第1流路(吸込通路)の幅よりも狭いので、歯車の歯先とメガネ穴の内周面とが当接するシール領域をより第1流路(吸込通路)側に寄せることができる。
第2の発明にかかる歯車ポンプ又はモータは、第1または第2の発明にかかる歯車ポンプ又はモータにおいて、前記開口は、前記はすば歯車の歯先円筒における歯すじ(歯先円筒ねじれ角)に沿うように開口幅が変化することを特徴とする。
この歯車ポンプ又はモータでは、開口の開口幅が、はすば歯車の歯先円筒における歯すじに沿うように変化するので、開口の面積を効率よく大きくできる。
第3の発明にかかる歯車モータ又はポンプは、第3の発明にかかる歯車ポンプ又はモータにおいて、前記開口の幅方向端部が、前記はすば歯車の歯先円筒における歯すじに沿うように傾斜していることを特徴とする。
この歯車ポンプ又はモータでは、開口の幅方向端部が、はすば歯車の歯先円筒における歯すじに沿うように傾斜しているので、開口の面積をより効率よく大きくできる。
第4の発明にかかる歯車モータ又はポンプは、第1−第4のいずれかの発明にかかる歯車ポンプ又はモータにおいて、前記第2流路は、前記一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側における前記開口からの深さが、前記一対のはすば歯車の歯すじが近づく側における前記開口からの深さよりも深いことを特徴とする。
この歯車ポンプ又はモータでは、開口幅が大きい一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側において、第2流路(拡散通路)の流路容積を大きくできるので、作動流体の圧力損失を小さくできる。
以上の説明に述べたように、本発明によれば、以下の効果が得られる。
第1の発明では、一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側の開口幅を、一対のはすば歯車の歯すじが近付く側の開口幅よりも広くして、一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側のシールに用いられない領域を活用することで、一対のはすば歯車の歯すじが近づく側のシール領域をできるだけ第1流路(吸込通路)側に寄せつつ、かつ開口の面積を大きくした。その結果、例えば歯車ポンプとして用いられる場合に、はすば歯車の歯面とメガネ穴の内周面とで囲まれた空間から作動流体が第1流路(吸込通路)側に漏れるのを防止しつつ、かつキャビテーションが発生するのを防止できる。また、歯車モータとして用いられる場合に、はすば歯車の歯面とメガネ穴の内周面とで囲まれた空間から作動流体が第1流路(吸込通路)側に漏れるのを防止しつつ、かつ第2流路(拡散通路)における圧力損失が増大するのを防止できる。したがって、歯車ポンプ又はモータの効率が低下するのを防止できる。
第1の発明では、一対のはすば歯車の歯すじが近付く側の開口幅が、第1流路(吸込通路)の幅よりも狭いので、歯車の歯先とメガネ穴の内周面とが当接するシール領域をより第1流路(吸込通路)側に寄せることができる。
第2の発明では、開口の開口幅が、はすば歯車の歯先円筒における歯すじに沿うように変化するので、開口の面積を効率よく大きくできる。
第3の発明では、開口の幅方向端部が、はすば歯車の歯先円筒における歯すじに沿うように傾斜しているので、開口の面積をより効率よく大きくできる。
第4の発明では、開口幅が大きい一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側において、第2流路(拡散通路)の流路容積を大きくできるので、作動流体の圧力損失を小さくできる。
以下、図面を参照しつつ本発明に係る歯車ポンプの実施の形態について説明する。
[第1実施形態]
[歯車ポンプの全体構成]
まず、図1−図4を参照して、第1実施形態に係る歯車ポンプの全体構成について説明する。ここで、図1は、本実施形態の歯車ポンプ1の全体構成を説明する図である。図2は、はすば歯車として構成される駆動歯車2および従動歯車3の構成を説明する図である。図3及び図4は、本体7(ケーシング6)のメガネ穴10と拡散通路33(第2流路)との間に形成される開口34の形状を説明するための図である。なお、図4では、本体7(ケーシング6)に収容される駆動歯車2および従動歯車3等の部材を省略して、本体7(ケーシング6)のみを図示している。また、図4において、図中の範囲bは、歯車の歯先がメガネ穴内周面と当接する幅を示す。
図1に示すように、本実施形態の歯車ポンプ1は、互いに噛み合う一対の駆動歯車2及び従動歯車3と、駆動歯車2及び従動歯車3をそれぞれ軸支する駆動軸4a、4b及び従動軸5a、5bと、駆動歯車2、従動歯車3、駆動軸4a、4b及び従動軸5a、5bを収納するケーシング6とを備えている。本実施形態の歯車ポンプ1は、例えば作動流体(例えば作動油)を貯留するタンクから供給される作動流体を吸い込んで昇圧した後、その作動流体を吐出して液圧機器(例えば油圧機器)に供給するものである。
ケーシング6は、断面形状が略8の字状をした内部空間(メガネ穴10)を有する本体7と、本体7の一端面に螺着されたマウンティング8と、本体7の他端面に螺着されたカバー9とを有している。歯車ポンプ1において、マウンティング8及びカバー9によって、本体7の内部に形成されたメガネ穴10が閉塞されている。
図1−図3に示すように、駆動歯車2及び従動歯車3は、それぞれ、はすば歯車として構成されており、ケーシング6の内部に形成されたメガネ穴10に収容される。メガネ穴10において、駆動軸4a、4bが駆動歯車2の両端面から軸方向に沿ってそれぞれ延設され、従動軸5a、5bが従動歯車3の両端面から軸方向に沿ってそれぞれ延設される。駆動軸4aは、マウンティング8に形成された挿通穴8aに挿通されており、駆動軸4aの端部には、図示しない駆動手段が接続される。歯車ポンプ1において、駆動歯車2及び従動歯車3は、相互に噛合した状態で、メガネ穴10内に収容され、その歯先がメガネ穴10の内周面10aに当接(ごく狭い隙間を開けて近接している場合を含む)するようになっている。その結果、メガネ穴10は、駆動歯車2及び従動歯車3の噛み合い部、駆動歯車2の歯先とメガネ穴10の内周面10aとの当接部、従動歯車3の歯先とメガネ穴10の内周面10aとの当接部等を境に、高圧空間24と低圧空間25とに二分される。
駆動歯車2は、図示しない駆動手段によって、図3中の矢印Rの方向に回転する。一方、駆動歯車2に噛合する従動歯車3は、駆動歯車2の回転によって駆動歯車2の回転方向と反対方向、すなわち、図3中の矢印R’の方向に回転する。駆動歯車2及び従動歯車3の歯すじは、それぞれ駆動歯車2及び従動歯車3の軸に対して傾いている。駆動歯車2及び従動歯車3の歯すじは、ねじれ角が同じであるが、ねじれ方向が逆向きであるので、側面から見ると、一対の歯車の歯すじが近づく側と遠のく側が存在する。なお、駆動歯車2及び従動歯車3のねじれ量は、例えば歯車の1正面ピッチ分(換言すれば、重なり噛みあい率が1)とされている。ただし、ねじれ量は1正面ピッチ分より大きくてもよいし、小さくてもよい。
ケーシング6の内部に形成されたメガネ穴10には、図1において、駆動歯車2から左方に向かって延在する駆動軸4aを支持するベアリングケース11と、従動歯車3から左方に向かって延在する従動軸5aを支持するベアリングケース111が挿入される。ベアリングケース11、111は、それぞれ、1つの支持穴を有しており、その支持穴内には、駆動軸4aの軸受であるベアリング11a、従動軸5aの軸受であるベアリング111aが設けられている。したがって、ベアリングケース11は、駆動軸4aがベアリング11aに挿通されることで駆動軸4aを回転自在に支持するとともに、ベアリングケース111は、従動軸5aがベアリング111aに挿通されることで従動軸5aを回転自在に支持する。
同様に、ケーシング6の内部に形成されたメガネ穴10には、図1において、駆動歯車2から右方に向かって延在する駆動軸4bを支持するベアリングケース12と、従動歯車3から右方に向かって延在する従動軸5bを支持するベアリングケース112が挿入される。ベアリングケース12、112は、それぞれ、1つの支持穴を有しており、その支持穴内には、駆動軸4bの軸受であるベアリング12a、従動軸5bの軸受であるベアリング112aが設けられている。したがって、ベアリングケース12は、駆動軸4bがベアリング12aに挿通されることで駆動軸4bを回転自在に支持するとともに、ベアリングケース112は、従動軸5bがベアリング112aに挿通されることで従動軸5bを回転自在に支持する。
駆動歯車2及び従動歯車3の両側には、2つの側板15a、15bがそれぞれ配置される。側板15aは、2つの貫通穴が形成された板状の部材であり、2つの貫通穴に、駆動軸4a及び従動軸5aが挿通された状態で、駆動歯車2及び従動歯車3の端面に当接する。同様に、側板15bは、2つの貫通穴が形成された板状の部材であり、2つの貫通穴に、駆動軸4b及び従動軸5bが挿通された状態で、駆動歯車2及び従動歯車3の端面に当接する。したがって、側板15aは、駆動歯車2及び従動歯車3と、ベアリングケース11、111との間に配置されるとともに、側板15bは、駆動歯車2及び従動歯車3と、ベアリングケース12、112との間に配置される。
ベアリングケース11、111における側板15aと対向する端面には、弾性を有するシール部材11bが設けられている。シール部材11bは、ベアリングケース11、111と側板15aとの間の隙間を高圧側と低圧側とに区画するものである。ベアリングケース11の他方の端面は、マウンティング8の端面に当接しており、これにより、ベアリングケース11、111は、その軸方向への移動が制限される。同様に、ベアリングケース12、112における側板15bと対向する端面には、弾性を有するシール部材12bが設けられている。シール部材12bは、ベアリングケース12、112と側板15bとの間の隙間を高圧側と低圧側とに区画するものである。ベアリングケース12、112の他方の端面は、カバー9の端面に当接しており、これにより、ベアリングケース12、112は、その軸方向への移動が制限される。
歯車ポンプ1において、本体7には、図3に示すように、その一方の側面にメガネ穴10の低圧空間25に連通する吸込側連通路31(連通路)が形成されるとともに、これと相対する他方の側面に、メガネ穴10の高圧空間24に連通する吐出側連通路41が形成されている。吸込側連通路31は、本体7(ケーシング6)の外部に連通する吸込通路32(第1流路)と、吸込通路32よりも流路が大きい拡散通路33(第2流路)とを有しており、吐出側連通路41は、本体7(ケーシング6)の外部に連通する吐出通路42と、吐出通路42よりも流路が大きい集合通路43とを有している。吸込通路32及び吐出通路42は、それぞれの軸線が駆動歯車2及び従動歯車3の回転軸間の中心に位置するように設けられた円形の孔である。また、吸込通路32及び吐出通路42は、駆動歯車2及び従動歯車3の軸方向中央に位置するように設けられている。
拡散通路33は、メガネ穴10の低圧空間25と吸込通路32との間において、駆動歯車2及び従動歯車3の軸方向に沿って延在しており、メガネ穴10の低圧空間25と拡散通路33との境界には、駆動歯車2及び従動歯車3の軸方向に沿って延在する開口34が形成されている。この拡散通路33及び開口34により、吸込通路32に吸い込まれた作動流体が、拡散通路33内で駆動歯車2及び従動歯車3の軸方向に拡散された後、メガネ穴10に流入するので、駆動歯車2及び従動歯車3の歯幅全体に作動流体が行き渡りやすくなる。図3に示すように、拡散通路33は、水平断面視において通路の形状が略半円柱状となるように、本体7を駆動歯車2及び従動歯車3の軸方向にくり抜くことによって形成される。また、開口34は、駆動歯車2及び従動歯車3の軸方向全域に開口している。
集合通路43は、メガネ穴10の高圧空間24と吐出通路42との間において駆動歯車2及び従動歯車3の軸方向に沿って延在しており、メガネ穴10の高圧空間24と集合通路43との境界には、駆動歯車2及び従動歯車3の軸方向に沿って延在する開口(図示省略)が形成されている。図3に示すように、この集合通路43は、水平断面視において通路の形状が略半円柱状となるように、本体7を駆動歯車2及び従動歯車3の軸方向にくり抜くことによって形成される。この開口は、駆動歯車2及び従動歯車3の軸方向全域に開口している。
この歯車ポンプ1では、ケーシング6の吸込通路32に、作動流体を貯留するタンクからの配管が接続されるとともに、吐出通路42に、液圧機器へ向かう配管が接続され、駆動歯車2の駆動軸4aを図示しない駆動手段によって回転させる。これにより、駆動歯車2に噛み合った従動歯車3が回転し、駆動歯車2及び従動歯車3の歯面とメガネ穴10の内周面10aとによって囲まれた空間の作動流体が歯車の回転によって吐出通路42側に移送され、吐出通路42側が高圧側に、吸込通路32側が低圧側になる。
作動流体が吐出通路42側に移送されることによって吸込通路32側が負圧になると、タンク内の作動流体が配管及び吸込通路32を通ったあと、拡散通路33に流入して拡散し、低圧側のメガネ穴10内に吸い込まれる。そして、駆動歯車2及び従動歯車3の歯面とメガネ穴10の内周面10aとによって囲まれた空間の作動流体が歯車の回転によって吐出通路42側に移送され、液圧機器に送られる。
ところで、作動流体が、歯車の歯面とメガネ穴10の内周面10aによって囲まれた空間に取り込まれて、高圧の吐出通路42側へ送られる際に、当該空間に取り込まれた作動流体が低圧の吸込通路32側へ漏れないためには、歯車の歯先とメガネ穴10の内周面10aとが当接(ごく狭い隙間を開けて近接している場合を含む)していなければならない。図3に示すように、歯車ポンプ1が高圧の作動流体を吐出している際は、駆動歯車2及び従動歯車3は、吐出通路42側の高圧空間24によって吸込通路32側に押圧されるので、駆動歯車2及び従動歯車3は吸込通路32側に寄っている。したがって、駆動歯車2及び従動歯車3の複数の歯先のうち、メガネ穴10の内周面10aに当接するのは、それぞれ最も吸込通路32側に位置する歯先であり、この歯先によって、作動流体が吸込通路32側に漏れるのが防止されている。
[開口の詳細]
次に、図5−図7を参照して、メガネ穴10と拡散通路33との境界に形成された開口34の詳細について説明する。ここで、図5は、開口34の形状を説明するための図であって、メガネ穴10の内部から吸込通路32を見たときの歯先が当接する部分の拡大図である。図6は、本発明の実施形態にかかる歯車ポンプの開口34と、比較例に係る歯車ポンプの開口とを比較するための図である。図7は、駆動歯車2及び従動歯車3の軸方向における拡散通路33の深さの変化を説明するための図である。ここで、図5−図7において、図中の範囲bは、歯車の歯先がメガネ穴内周面と当接する幅を示す。また、図5及び図6は、歯車の軸方向においてメガネ穴のうち歯車の歯幅分のみを図示している。
図5に示すように、開口34は、メガネ穴10の内部から吸込通路32(第1流路)側を見たときに、一対のはすば歯車のそれぞれ最も吸込通路32側に位置する歯の歯すじ(駆動歯車2及び従動歯車3の歯先円筒における歯すじ51、61)が遠のく側(駆動歯車2及び従動歯車3の右側)の開口幅W2が、当該歯すじが近づく側(駆動歯車2及び従動歯車3の左側)の開口幅W1よりも広くされている。ここで、「一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側の開口幅が、一対のはすば歯車の歯すじが近づく側の開口幅よりも広い」とは、歯すじが最も近づく部分(駆動歯車2及び従動歯車3の左端)の開口幅が最も狭く、かつ、歯すじが近づく側から遠のく側に向かう方向において、歯すじが最も近づく部分の開口幅よりも開口幅が広い部分があることを意味する。
この開口34は、幅方向両端部35、36が、それぞれ1つの段差部35A、36Aを有することにより、歯すじが遠のく側の開口幅W2が、歯すじが近づく側の開口幅W1よりも広くされている。図5に示すように、この段差部35A、36Aは、歯車の軸方向について、例えば同一位置に配置されている。また、この段差部35A、36Aは、歯車の軸方向について、吸込通路32の軸中心よりも歯すじが近づく側に配置されている。したがって、吸込通路32の開口面積ができるだけ大きくされている。また、開口幅W1及び開口幅W2は、吸込通路32の幅D(直径)よりも狭くされている。図7に示すように、一対のはすば歯車のはすじが遠のく側における開口34からの深さW4は、歯すじが近づく側における開口34からの深さW5よりも深くされている。
ここで、歯すじ51は、シール可能な範囲で最も開口34側にあるときの駆動歯車2の歯先円筒における歯すじを示し、歯すじ61は、シール可能な範囲で最も開口34側にあるときの従動歯車3の歯先円筒における歯すじを示す。図5に示すように、歯すじ51、61の左端が、それぞれ開口34の幅方向両端部35、36の左端に略一致するときに、開口34の全域が歯すじ51と歯すじ61の内側に収まるように開口34が形成されている。したがって、歯すじ51、61の左端が、それぞれ開口34の幅方向両端部35、36の左端に略一致するときに、開口34によって、歯車の歯面とメガネ穴10の内周面10aによって囲まれた空間から作動流体が漏れることがないようにされているとともに、できるだけシール領域が吸込通路32側(吸込通路32の軸中心側)に寄るようにされている。
この歯車ポンプ1では、歯すじが遠のく側の開口幅W2を、歯すじが近づく側の開口幅W1よりも広くして、歯すじが遠のく側のシールに用いられない領域を活用する(開口にする)ことで、一対のはすば歯車の歯すじが近づく側のシール領域をできるだけ吸込通路32側に寄せつつ、かつ開口34の面積を大きくしている。図6に示すように、例えば、開口幅が軸方向について一定とされる場合において、比較例1のように開口の面積(S1)を、本実施形態の開口34の面積(S1)と同じにする場合、比較例1での開口の開口幅W3は、本実施形態での開口34の左端の開口幅W1よりも大きくなる。したがって、その分、シール領域が、吸込通路32から離れてしまい、歯車の歯面とメガネ穴10の内周面10aとで囲まれた空間から作動流体が吸込通路32側へ漏れやすい。また、同じく開口の幅方向両端部が軸方向について一定とされる場合において、比較例2のように開口の開口幅を、本実施形態の開口34の左端の開口幅W1と同じにする場合には、比較例2での開口の面積S2が、本実施形態での開口34の面積S1よりも小さくなってしまい、歯車の最大回転数を所定以上確保できないおそれがある。それに対し、本実施形態では、開口34の左端の開口幅W1が狭いので、シール領域をできるだけ吸込通路32側に寄せつつ、かつ、開口34の面積(S1)を、比較例1の場合と同じにすることができる。
<本実施形態にかかる歯車ポンプの特徴>
本実施形態にかかる歯車ポンプ1には、以下の特徴がある。
本実施形態にかかる歯車ポンプ1では、一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側の開口幅W2を、一対のはすば歯車の歯すじが近付く側の開口幅W1よりも広くして、一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側のシールに用いられない領域を活用することで、一対のはすば歯車の歯すじが近づく側のシール領域をできるだけメガネ穴10側から見て第1流路(吸込通路32)側に寄せつつ、かつ開口34の面積を大きくした。その結果、はすば歯車の歯面とメガネ穴10の内周面10aとで囲まれた空間から作動流体が第1流路(吸込通路32)側に漏れるのを防止しつつ、かつキャビテーションが発生するのを防止できる。したがって、歯車ポンプの効率が低下するのを防止できる。また、本実施形態にかかる歯車ポンプ1では、拡散通路33(第2流路)は、一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側において、一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側における開口34からの深さW4が、一対のはすば歯車の歯すじが近づく側における開口34からの深さW5よりも深いので、開口幅が大きい一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側において、第2流路(拡散通路33)の流路容積を大きくできる。したがって、作動流体の圧力損失を小さくでき、キャビテーションが発生をより防止できる。
また、本実施形態にかかる歯車ポンプ1では、一対のはすば歯車の歯すじが近付く側の開口幅W1が、第1流路(吸込通路32)の幅D(径)よりも狭いので、歯車の歯すじとメガネ穴10の内周面10aとが当接するシール領域をより第1流路(吸込通路32)側に寄せることができる。
[第2実施形態]
次に、図8を参照して、第2実施形態にかかる歯車ポンプについて説明する。図8において、図中の範囲bは、歯車の歯先がメガネ穴内周面と当接する幅を示す。
図8に示すように、本実施形態の歯車ポンプの開口44は、上記第1実施形態と同様に、一対のはすば歯車のそれぞれ最も吸込通路32側に位置する歯の歯すじ(駆動歯車2及び従動歯車3の歯先円筒における歯すじ51、61)が遠のく側の開口幅W12が、当該歯すじが近づく側の開口幅W11よりも広くされている。また、開口44の開口幅が、一対のはすば歯車の歯先円筒における歯すじに沿うように変化する。より詳しくは、この開口44の幅方向両端部45、46は、一対のはすば歯車の歯先円筒における歯すじに沿うように傾斜する傾斜部45A、46Aを有する。また、傾斜部45A、46Aよりも、歯すじが遠のく側には、歯車の軸方向について開口幅が一定とされる直線部45B、46Bが形成されている。その結果、歯すじが遠のく側で、開口幅が広くなりすぎて、本体7(ケーシング6)の強度が低下してしまうことが防止されている。また、開口幅W11は、吸込通路32の幅(直径)よりも狭くされている。また、図示は省略しているが、一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側における開口44からの深さは、歯すじが近づく側における開口44からの深さよりも深くされている。
<本実施形態にかかる歯車ポンプの特徴>
本実施形態にかかる歯車ポンプには、以下の特徴がある。
本実施形態にかかる歯車ポンプでは、開口44の開口幅が、はすば歯車の歯先円筒における歯すじに沿うように変化するので、開口44の面積を効率よく大きくできる。
また、本実施形態にかかる歯車ポンプでは、開口44の幅方向両端部45、46が、はすば歯車の歯先円筒における歯すじに沿うように傾斜しているので、開口44の面積をより効率よく大きくできる。
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
上述の第1及び第2実施形態では、一対のはすば歯車の歯すじが近づく側から遠のく側に向かう方向において、開口幅が狭くなる部分がない場合について説明したが、歯すじが近づく側の端部の開口幅が最も狭く、かつ、歯すじが近づく側から遠のく側に向かう方向において、当該端部の開口幅よりも開口幅が広い部分があれば、歯すじが近づく側から遠のく側に向かう方向において、開口幅が狭くなる部分があってもよい。
また、上述の第1及び第2実施形態では、開口がはすば歯車の歯幅全域にある場合について説明したが、開口が必ずしも歯幅全域にある必要はない。
また、上述の第1実施形態では、開口の幅方向両端部が、それぞれ段差を有する場合について説明し、上述の第2実施形態では、開口の幅方向両端部が、それぞれ歯車の歯すじに沿うように傾斜している場合について説明したが、段差または傾斜が、開口の幅方向一端部にのみ形成され、開口の幅方向他端部がはすば歯車の軸方向に延びた1本の直線であってもよい。
また、上述の第1及び第2実施形態では、一対のはすば歯車の歯すじが近づく側の開口幅が、吸込通路(第1流路)の幅(直径)よりも狭い場合について説明したが、吸込通路(第1流路)の幅(直径)と同じまたは広くてもよい。また、歯すじが近づく側の開口幅は0であってもよい。
また、上述の第1実施形態では、一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側の開口幅も、吸込通路(第1流路)の幅(直径)よりも狭い場合について説明したが、吸込通路(第1流路)の幅(直径)と同じまたは広くてもよい。
また、上述の第2実施形態では、はすば歯車の歯先円筒における歯すじに沿うように開口幅が変化する一例として、開口の幅方向端部が、はすば歯車の歯先円筒における歯すじに沿うように傾斜している場合について説明したが、本発明において、「はすば歯車の歯先円筒における歯すじに沿うように開口幅が変化する」とは、開口の幅方向端部が、はすば歯車の歯先円筒における歯すじに沿うように傾斜している場合に限られず、開口の幅方向端部が、はすば歯車の歯先円筒における歯すじに沿うように階段状(少なくとも段差が2段以上)に形成されてもよい。
また、上述の第1及び第2実施形態では、拡散通路(第2流路)が、一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側における開口からの深さが、歯すじが近づく側における開口からの深さよりも深い場合について説明したが、開口からの深さは同じであってもよいし、一対のはすば歯車の歯すじが遠のく側における開口からの深さが、歯すじが近づく側における開口からの深さよりも浅くてもよい。
また、上述の第2実施形態では、開口44の幅方向両端部が、直線部(直線部45B、46B)を有するが、開口の幅方向両端部の全域が、歯すじに沿って傾斜していてもよい。
また、上述の第1及び第2実施形態では、作動流体として作動油を使用する場合について説明したが、作動流体として、その他の流体(例えば、水)を使用するものであってよい。
また、上述の第1及び第2実施形態では、本発明が歯車ポンプに適用される場合について説明したが、本発明は、歯車ポンプと同様に構成された歯車モータに適用されてもよい。これにより、はすば歯車の歯面とメガネ穴の内周面とで囲まれた空間から作動流体が第1流路(吸込通路)側に漏れるのを防止しつつ、かつ第2流路(拡散通路)における圧力損失が増大するのを防止できる。