JP6452265B2 - 導電性高分子分散液及び導電性塗膜 - Google Patents
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Description
一般に、主鎖がπ電子を含む共役系で構成されているπ共役系導電性高分子は、ドーパントがドープした状態でも不溶の固形粉体である。そのため、基材の表面に、塗布によってπ共役系導電性高分子を含む塗膜を均一に形成することが困難であった。
そこで、π共役系導電性高分子にポリアニオンを配位させることにより溶媒に可溶化して塗布を可能にする方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、水への分散性を向上させるために、分子量が2,000〜500,000の範囲のポリスチレンスルホン酸の存在下で、酸化剤を用いて、3,4−ジアルコキシチオフェンを化学酸化重合して、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)−ポリスチレンスルホン酸を含む導電性高分子分散液を得る方法が提案されている。この導電性高分子分散液を用いることにより、π共役系導電性高分子の利用分野を広げることが可能になった。
しかし、特許文献1に記載の導電性高分子分散液においては、剛直なポリスチレンスルホン酸をπ共役系導電性高分子のドーパント兼分散剤として使用しているため、ドーピング密度が低く、π共役系導電性高分子の導電性を充分に引き出すことができなかった。
そこで、導電性高分子分散液にp−トルエンスルホン酸等の低分子ドーパントを添加して、ドーピング密度を向上させることがあった。しかし、低分子ドーパントを添加すると、導電性高分子分散液が不安定になって沈殿物を生じることがあった。そのため、π共役系導電性高分子を均一に含む塗膜を形成できないことがあった。
[1] π共役系導電性高分子と、ポリアニオンと、下記化学式(1)で表されるスルホン酸エステルと、分散媒とを含有する、導電性高分子分散液であって、前記スルホン酸エステルは、光照射処理又は加熱処理によってスルホン酸エステルが解離し、スルホン酸基を有する化合物を生じるものである、導電性高分子分散液。
(1) R1(SO3R2)n
(化学式(1)中、R1、R2は、各々独立して、任意の置換基である。nは1以上の整数である。)
[2] 前記スルホン酸エステルの含有割合が、前記π共役系導電性高分子と前記ポリアニオンとの合計質量100質量部に対して1〜500質量部である、[1]に記載の導電性高分子分散液。
[3] 前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)又はポリピロールである、[1]又は[2]に記載の導電性高分子分散液。
[4] 前記ポリアニオンがスルホン酸基を有する、[1]〜[3]のいずれかに記載の導電性高分子分散液。
[5] 前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアクリル酸アルキレンスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)、およびこれらのうちの2つ以上の共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[4]に記載の導電性高分子分散液。
[6] 前記ポリアニオンのアニオン基に3級アミン又は4級アンモニウムが配位している、[1]〜[5]のいずれかに記載の導電性高分子分散液。
[7] 前記ポリアニオンのアニオン基にエポキシ化合物のエポキシ基又はオキセタン化合物のオキセタン基が反応してエステル結合が形成されている、[1]〜[6]のいずれかに記載の導電性高分子分散液。
[8] [1]〜[7]のいずれかに記載の導電性高分子分散液が塗布されて形成されたことを特徴とする導電性塗膜。
本発明の導電性塗膜は、導電性及び信頼性(特に高温環境下での信頼性)が高い。
本発明の導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとスルホン酸エステルと分散媒とを含有する。
π共役系導電性高分子は、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であり、例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、及びこれらの共重合体等が挙げられる。なかでも、重合の容易さ、空気中での安定性の点からは、ポリチオフェン類、ポリピロール類及びポリアニリン類が好ましい。さらに、溶剤に対する可溶性及び透明性の点から、ポリチオフェン類が好ましい。
ポリピロール類としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン類としては、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記π共役系導電性高分子の中でも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)又はポリピロールが好ましい。
ポリアニオンとは、アニオン基(スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基等)を有する構成単位を有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。また、π共役系導電性高分子を水に可溶化させる機能も有する。
ポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)、ポリメタリルオキシベンゼンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよいが、好ましくは、スルホン酸基含有ポリアニオンである。
スルホン酸基含有ポリアニオンの中でも、導電性向上効果の点で、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアクリル酸アルキレンスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)、およびこれらのうちの2つ以上の共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
上記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
導電性高分子分散液中の導電性複合体(π共役系導電性高分子とポリアニオンとの複合体)の含有量は0.05〜5.0質量%であることが好ましく、0.1〜4.0質量%であることがより好ましい。導電性複合体の含有量が前記下限値未満であると、充分な導電性が得られないことがあり、前記上限値を超えると、均一な導電性塗膜が得られないことがある。
4級アンモニウムとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラフェニルアンモニウム、テトラベンジルアンモニウム、テトラナフチルアンモニウム等が挙げられる。
エポキシ化合物としては、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、脂肪酸変性エポキシ、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル、エチレンオキシドフェノールグリシジルエーテル、アジピン酸グリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート等が挙げられる。
オキセタン化合物としては、例えば、キシリレンビスオキセタン、3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン、4,4’−(3−エチルオキセタン−3−イルメチルオキシメチル)ビフェニル、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、ジ{1−エチル(3−オキセタニル)}メチルエーテル、1,6−ビス{(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ}ヘキサン、9,9−ビス{2−メチル−4−[2−(3−オキセタニル)]ブトキシフェニル}フルオレン、9,9−ビス{4−{2−[2−(3−オキセタニル)]ブトキシ}エトキシフェニル}フルオレンなど2官能のオキセタン環を有する化合物、オキセタン化ノボラック樹脂などの多官能オキセタン化合物、3−エチル−3−(ヒドロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン、3−(メタクリロイルオキシメチル)オキセタン、3−(メタクリロイルオキシメチル)−2−フェニルオキセタン等の1官能のオキセタン環を有する化合物が挙げられる。
本発明におけるスルホン酸エステルは、化学式(1)で表される化合物である。
(1) R1(SO3R2)n
化学式(1)中のR1,R2は、各々独立して、任意の置換基である。置換基としては特に制限はなく、例えば、炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、フェニル基、ベンジル基、トリル基、キシリル基、ナフタレン基、アルキルナフタレン基等)、パーフルオロアルキル基等が挙げられる。また、R2においては、(C6H5)COCH(C6H5)O−で表される置換基でもよい。
nは1以上の整数であり、1〜4のいずれかの整数が好ましく、1又は2であることがより好ましい。
芳香族スルホン酸のエステルとしては、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸エチル、p−トルエンスルホン酸ブチル、1,2,3−トリ(p−トルエンスルホニルオキシ)ベンゼン、p−トルエンスルホン酸ベンゾインエステル、ドデシルベンゼンスルホン酸メチル、ドデシルベンゼンスルホン酸エチル、ナフタレンジスルホン酸ジメチル、ナフタレンジスルホン酸ジエチル、ナフタレンスルホン酸メチル、ナフタレンスルホン酸エチル、ジノニルナフタレンスルホン酸メチル、ジノニルナフタレンスルホン酸エチル、ジノニルナフタレンジスルホン酸エチル等が挙げられる。
脂肪族スルホン酸のエステルとしては、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸ブチル、1,2,3−トリ(メタンスルホニルオキシ)ベンゼン、メタンスルホン酸フェニル、メタンスルホン酸ベンゾインエステル等が挙げられる。
パーフルオロアルキルスルホン酸のエステルとしては、トリフルオロメタンスルホン酸メチル、トリフルオロメタンスルホン酸エチル、トリフルオロメタンスルホン酸ブチル、1,2,3−トリ(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)ベンゼン、トリフルオロメタンスルホン酸フェニル、トリフルオロメタンスルホン酸ベンゾインエステル等が挙げられる。
上記スルホン酸エステルは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
スルホン酸エステルは、例えば、カチオン重合開始剤として機能する酸発生剤として市販されており、その市販品を使用することができる。しかし、本発明においては、スルホン酸エステルをカチオン重合開始剤として使用することはない。
導電性高分子分散液に含まれる分散媒としては、例えば、水、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド、アセトニトリル、ベンゾニトリル等の極性溶媒、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類、ギ酸、酢酸等のカルボン酸類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類、3−メチル−2−オキサゾリジノン等の複素環化合物、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物としてもよいし、他の有機溶媒との混合物としてもよい。
導電性高分子分散液は、該導電性高分子分散液から形成される導電性塗膜の耐久性および透明性の向上、基材との密着性向上を目的として、バインダを含有してもよい。
バインダは、熱硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12、ポリアミド11等のポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、キシレン樹脂、アラミド樹脂、ポリイミドシリコーン、ポリウレタン、ポリウレア、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテル、アクリル樹脂およびこれらの共重合体等が挙げられる。
バインダの中でも、基材との密着性が高いことから、ポリエステル、ポリウレタン、メラミン樹脂、オキセタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂が好ましい。
導電性高分子分散液は、得られる導電性塗膜の導電性をより向上させるために、導電性向上剤を含んでもよい。
導電性向上剤は、導電性高分子分散液から形成される導電性塗膜の導電性を向上させる成分である。
具体的に、導電性向上剤は、前記アクリル化合物、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物、2個以上のカルボキシル基を有する化合物、1個以上のヒドロキシル基および1個以上のカルボキシ基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物、水溶性有機溶剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である。
これら化合物の具体例は、例えば、特開2010−87401号公報に記載されている。
導電性高分子分散液には、必要に応じて、添加剤が含まれてもよい。
添加剤としてはπ共役系導電性高分子及びポリアニオンと混合しうるものであれば特に制限されず、例えば、無機導電剤、界面活性剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。
無機導電剤としては、金属イオン(金属塩を水に溶解させて形成する)類、導電性カーボン等が挙げられる。
界面活性剤としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤; アミン塩、4級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤;カルボキシベタイン、アミノカルボン酸塩、イミダゾリウムベタイン等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド等の非イオン界面活性剤等が挙げられる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンレジン等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基、アミノ基、エポキシ基等を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類、ビタミン類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オギザニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。酸化防止剤と紫外線吸収剤とは併用することが好ましい。
上記導電性高分子分散液を製造する方法としては、例えば、ポリアニオンと分散媒の存在下でπ共役系導電性高分子の前駆体モノマーを化学酸化重合して、π共役系導電性高分子がポリアニオンによって分散媒に可溶化した分散液を得た後、その分散液にスルホン酸エステルを添加する方法が挙げられる。
本発明の導電性高分子分散液に含まれるスルホン酸エステルは、導電性高分子分散液中ではスルホン酸基を有さないため、π共役系導電性高分子にドープしない。スルホン酸基を有する低分子のスルホン酸化合物のπ共役系導電性高分子へのドーピングは分散液を不安定化させるが、スルホン酸エステルはドーピングしないため、導電性高分子分散液を安定な状態に保つことができる。そのため、凝集物を形成せず、沈殿物等の発生が抑制されている。すなわち、本発明の導電性高分子分散液は安定性に優れている。
本発明の導電性高分子分散液は、基材に塗布された後に塗膜化のために光照射処理又は加熱処理等が施されると、スルホン酸エステルが解離を起こし、スルホン酸基を有する化合物を生じる。そのスルホン酸基を有する化合物はπ共役系導電性高分子にドープするため、ドープ密度を向上させることができ、塗膜の導電性を高めることができる。しかも、スルホン酸基を有する化合物の塗膜中の濃度が上昇すると、高温下でも、スルホン酸基を有する化合物はπ共役系導電性高分子から脱ドープしにくくなる。したがって、本発明の導電性高分子分散液によれば、信頼性(密着性、耐熱性、耐湿熱性等)、特に高温環境下での信頼性が高い導電性塗膜を容易に形成できる。
本発明の導電性塗膜は、上述した導電性高分子分散液が塗布されて形成されたものである。導電性高分子分散液の塗布方法としては、例えば、浸漬、コンマコート、スプレーコート、ロールコート、グラビア印刷などが挙げられる。
塗布後、加熱処理や紫外線照射処理により塗膜を硬化することが好ましい。
加熱処理としては、例えば、熱風加熱や赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。紫外線照射処理としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源から紫外線を照射する方法を採用できる。
樹脂フィルムを構成する樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリル、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらの樹脂材料の中でも、透明性、可撓性、汚染防止性及び強度等の点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
紙としては、上質紙、クラフト紙、コート紙等を用いることができる。
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000ml溶液を除去し、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約20000ml溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。
さらに、得られたろ液に約2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。そして、得られた溶液中の水を減圧除去して、無色固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
14.2gの3,4−エチレンジオキシチオフェンと、36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合させた。
これにより得た混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液をゆっくり加え、3時間攪拌して反応させた。
これにより得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、得られた溶液に10質量%に希釈した200mlの硫酸と2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を5回繰り返して、1.2質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)分散液(以下、「PEDOT−PSS分散液」という。)を得た。
6.7gのピロールと、36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合させた。
これにより得た混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液をゆっくり加え、3時間攪拌して反応させた。
これにより得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、得られた溶液に10質量%に希釈した200mlの硫酸と2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を5回繰り返して、1.2質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリピロール分散液(以下、「PPY−PSS分散液」という。)を得た。
前記PEDOT−PSS分散液50gにメチルエチルケトン50gを添加した後、トリオクチルアミン105mgを添加し、高圧分散処理して、PEDOT−PSSのトリオクチルアンモニウム塩の0.6質量%水・メチルエチルケトン分散液を得た。
400gのメタノールと50gのC12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテルとを混合した。次に、その混合液に、前記PEDOT−PSS分散液100gを加え、室温で攪拌して紺色の析出物を得た。この析出物を濾過回収し、メチルエチルケトンに分散させ、1質量%のエポキシ変性PEDOT−PSSのメチルエチルケトン分散液を得た。
製造例2により得たPEDOT−PSS分散液100gに、エタノール50gと、1,5−ナフタレンジスルホン酸ジメチル0.2g(π共役系導電性高分子とポリアニオンとの合計質量100質量部に対して16.7質量部)を添加し、攪拌して導電性高分子分散液Aを得た。
導電性高分子分散液Aをポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡製A4300、厚さ:188μm)にバーコーターで塗布し、120℃、3分間、赤外線加熱により乾燥し、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。
導電性塗膜の耐熱性を以下の方法により評価した。その結果を表1に示す。
得られた導電性シートの導電性塗膜の初期の表面抵抗を測定した後、導電性シートを85℃の恒温槽内に、144時間保存し、その後に取り出した。そして、加熱後の導電性塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表1に示す。表面抵抗の上昇率が小さい程、耐熱性に優れる。
表面抵抗は、三菱化学社製ハイレスタMCP−HT450を用い、JIS K6911に準じて測定した。
1,5−ナフタレンジスルホン酸ジメチル0.2gをドデシルベンゼンスルホン酸エステル(キングインダストリーズ社製K−PURE TAG2507)0.2gに変更した以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液Bを得た。導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Bを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐熱性を評価した。
1,5−ナフタレンジスルホン酸ジメチル0.2gをジノニルナフタレンスルホン酸エステル(キングインダストリーズ社製K−PURE CXC1762)0.2gに変更した以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液Cを得た。導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Cを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐熱性を評価した。
1,5−ナフタレンジスルホン酸ジメチル0.2gをジノニルナフタレンジスルホン酸エステル(キングインダストリーズ社製K−PURE CXC1764)0.2gに変更した以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液Dを得た。導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Dを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐熱性を評価した。
1,5−ナフタレンジスルホン酸ジメチル0.2gを1.2g(π共役系導電性高分子とポリアニオンとの合計質量100質量部に対して100質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液Eを得た。導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Eを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐熱性を評価した。
1,5−ナフタレンジスルホン酸ジメチル0.2gを3.6g(π共役系導電性高分子とポリアニオンとの合計質量100質量部に対して300質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液Fを得た。導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Fを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐熱性を評価した。
1,5−ナフタレンジスルホン酸ジメチル0.2gを0.04g(π共役系導電性高分子とポリアニオンとの合計質量100質量部に対して3.3質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液Gを得た。導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Gを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐熱性を評価した。
1,5−ナフタレンジスルホン酸ジメチル0.2gを0.06g(π共役系導電性高分子とポリアニオンとの合計質量100質量部に対して5.0質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液Hを得た。導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Hを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐熱性を評価した。
製造例3により得たPPY−PSS分散液100gに、エタノール50gと、1,5−ナフタレンジスルホン酸ジメチル0.2gを添加し、攪拌して導電性高分子分散液Iを得た。
導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Iを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐熱性を評価した。
製造例4により得たアミン変性PEDOT−PSS分散液100gに、エタノール50gと、1,5−ナフタレンジスルホン酸ジメチル0.1gを添加し、攪拌して導電性高分子分散液Jを得た。
導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Jを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐熱性を評価した。
製造例5により得たエポキシ変性PEDOT−PSS分散液100gに、エタノール50gと、1,5−ナフタレンジスルホン酸ジメチル0.2gを添加し、攪拌して導電性高分子分散液Kを得た。
導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Kを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐熱性を評価した。
1,5−ナフタレンジスルホン酸ジメチル0.2gを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、導電性塗膜を形成し、導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐熱性を評価した。
1,5−ナフタレンジスルホン酸ジメチル0.2gを1,5−ナフタレンジスルホン酸四水和物0.2gに変更した以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得ようとしたところ、ゲル化した。すなわち、導電性高分子分散液を得ることができなかった。そのため、導電性塗膜を形成できず、耐熱性を評価しなかった。
1,5−ナフタレンジスルホン酸ジメチル0.2gをサンエイドSI110(三新化学工業社製、PF6系スルホニウム塩)0.2gに変更した以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得ようとしたところ、ゲル化した。すなわち、導電性高分子分散液を得ることができなかった。そのため、導電性塗膜を形成できず、耐熱性を評価しなかった。
1,5−ナフタレンジスルホン酸ジメチル0.1gを添加しなかった以外は実施例10と同様にして、導電性塗膜を形成し、導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐熱性を評価した。
1,5−ナフタレンジスルホン酸ジメチル0.2gを添加しなかった以外は実施例11と同様にして、導電性塗膜を形成し、導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐熱性を評価した。
スルホン酸エステルを含まない導電性高分子分散液から形成した比較例1の導電性塗膜は、初期の表面抵抗値が大きく、導電性が低かった。また、加熱後の表面抵抗の上昇倍率が大きく、耐熱性も低かった。
スルホン酸エステルを含まず、スルホン酸化合物を含む比較例2の導電性高分子分散液はゲル化して、使用不能であった。
スルホン酸エステルを含まず、スルホニウム塩を含む比較例3の導電性高分子分散液はゲル化して、使用不能であった。
スルホン酸エステルを含まない導電性高分子分散液から形成した比較例4,5の導電性塗膜は、加熱後の表面抵抗の上昇倍率が大きく、耐熱性が低かった。
Claims (8)
- π共役系導電性高分子と、ポリアニオンと、下記化学式(1)で表されるスルホン酸エステルと、分散媒とを含有する、導電性高分子分散液であって、
前記スルホン酸エステルは、光照射処理又は加熱処理によってスルホン酸エステルが解離し、スルホン酸基を有する化合物を生じるものである、導電性高分子分散液。
(1) R1(SO3R2)n
(化学式(1)中、R 1 が炭化水素基又はパーフルオロアルキル基であり、R 2 が炭化水素基、パーフルオロアルキル基又は(C 6 H 5 )COCH(C 6 H 5 )O−基であり、nが1〜4のいずれかの整数である。)
- 前記スルホン酸エステルの含有割合が、前記π共役系導電性高分子と前記ポリアニオンとの合計質量100質量部に対して1〜500質量部である、請求項1に記載の導電性高分子分散液。
- 前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)又はポリピロールである、請求項1又は2に記載の導電性高分子分散液。
- 前記ポリアニオンがスルホン酸基を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性高分子分散液。
- 前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアクリル酸アルキレンスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)、およびこれらのうちの2つ以上の共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の導電性高分子分散液。
- 前記ポリアニオンのアニオン基に3級アミン又は4級アンモニウムが配位している、請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性高分子分散液。
- 前記ポリアニオンのアニオン基にエポキシ化合物のエポキシ基又はオキセタン化合物のオキセタン基が反応してエステル結合が形成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性高分子分散液。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性高分子分散液が塗布されて形成されたことを特徴とする導電性塗膜。
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