以下、図面を用いて、本発明に係る円筒部材の成形方法及び成形装置の具体的な実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施例である成形方法及び成形装置により成形される円筒部材10を含む装置の断面図を示す。
本実施例において、円筒部材10は、後述の成形装置により、円盤板状のワークが形状変化(塑性変形)されることにより成形される。円筒部材10は、例えば、車両の自動変速機のCVT(Continuously Variable Transmission)などに用いられるシリンダスリーブである。円筒部材10は、ラジアルベアリング12を介してカバー14に連結されており、カバー14に対して軸中心回りに相対回転することが可能である。
円筒部材10は、断面形状がコの字状である形状や椀状に形成されている。円筒部材10は、円盤部20と、拡径部22と、を有している。円盤部20と拡径部22とは、一体的に形成される。円盤部20は、軸に直交する径方向に向けて広がる円形面を有する薄肉円盤状に形成された底部である。拡径部22は、径が大きくなりつつ軸方向に向けて延設される円筒状に形成された側壁である。拡径部22は、円盤部20の板厚(例えば、6mm〜9mm)t1に比して小さい板厚(例えば、5mm程度)t2を有している。
拡径部22の径は、軸方向位置に応じて異なる。具体的には、拡径部22の径は、円盤部20との接続部位から離れるほど大きくなる。拡径部22は、階段状に形成された段差24と、径が徐々に変化する断面斜め部26と、径方向に向けて広がる面を有する円環部であるフランジ部28と、を有している。段差24は、円盤部20との接続部位近傍に設けられる。フランジ部28は、円盤部20との接続部位から最も離れる軸方向端部に設けられる。断面斜め部26は、段差24とフランジ部28との間に設けられる。
次に、図2及び図3を参照して、本実施例の成形方法及び成形装置により円筒部材10を成形する手法を説明する。
図2は、本実施例の円筒部材10を成形する成形装置30の構成図を示す。また、図3は、本実施例の成形装置30を用いて円筒部材10を成形する成形方法の動作手順を表した工程図を示す。
本実施例において、成形装置30は、フローフォーミング技術を用いて、成形前部材であるワーク32から成形後部材である円筒部材10を成形・製造する装置である。ワーク32は、成形装置30による成形開始の前に円盤板状に形成されている部材である。ワーク32は、成形開始前、成形完了後の円筒部材10の外径よりも大きな外径を有していると共に、その円筒部材10の円盤部20の板厚t1と略同じ板厚を有している。また、ワーク32の軸中心には、成形装置30による成形中に成形装置30に自ワーク32を支持させるための貫通穴34が設けられている。
成形装置30は、主軸台に軸支される円柱状のスピンドル40と、心押台に軸支される円柱状のスピンドル42と、を備えている。主軸台は、地面に固定設置されている。心押台は、油圧式又は電動式のスライド装置によって主軸台に対してX軸方向に進退可能に構成されている。心押台は、スライド装置によって、ワーク32の成形時に主軸台に近づくように前進され、一方、ワーク32の成形完了後に主軸台から遠ざかるように後退される。尚、主軸台と心押台とは、軸方向に相対移動(スライド)することが可能であればよい。
スピンドル40,42は共に、モータなどを動力源として軸中心C0回りに回転駆動されることが可能である。スピンドル40,42は、軸中心C0上で同軸となるように配置されている。以下、主軸台のスピンドル40を主軸台スピンドル40と、心押台のスピンドル42を心押台スピンドル42と、それぞれ称す。
主軸台スピンドル40の軸方向先端には、マンドレル44が連結されている。マンドレル44の外周部には、凹凸部46が設けられている。凹凸部46は、ワークの成形完了後の形状である円筒部材10の所望形状に対応した転写形状に形成されている。具体的には、凹凸部46は、円盤対応部50と、段差対応部52と、断面斜め対応部54と、フランジ対応部56と、を有している。円盤対応部50は、円筒部材10の円盤部20に対応した円形面に形成された部位である。段差対応部52は、円筒部材10の拡径部22の段差24に対応した形状に形成されている。断面斜め対応部54は、円筒部材10の拡径部22の断面斜め部26に対応した形状に形成されている。フランジ対応部56は、円筒部材10の拡径部22のフランジ部28に対応した形状に形成されている。
心押台スピンドル42の軸方向先端には、テールストック60が連結されている。テールストック60は、円盤対応部62を有している。円盤対応部62は、円筒部材10の円盤部20に対応した円形面に形成された部位である。マンドレル44とテールストック60とは、その円盤対応部50,62の間において成形中のワーク32を把持する。円盤対応部50,62は、ワーク32の軸方向に向いた軸方向両面に接触し得る把持面である。
マンドレル44の円盤対応部50には、軸方向に向けて突出したセンタピン64が取り付けられている。また、テールストック60の円盤対応部62には、センタピン64を嵌合可能なセンタ穴66が設けられている。センタピン64は、センタ穴66の径及びワーク32の貫通穴34の径と同じ外径或いはそれらの径に比して僅かに小さな外径を有している。ワーク32は、成形開始前にその貫通穴34にマンドレル44側のセンタピン64が挿入されるようにマンドレル44にセットされる。ワーク32の成形中、マンドレル44側のセンタピン64は、そのワーク32の貫通穴34を貫通してテールストック60側のセンタ穴66に嵌合される。
センタピン64がワーク32の貫通穴34を貫通してセンタ穴66に嵌合されるまで心押台が主軸台側に向けて前進されると、ワーク32がマンドレル44とテールストック60との間にそれらの円盤対応部50,62と接触しながら挟持されることにより軸方向で把持される。マンドレル44及びテールストック60は、成形開始前、外周端からワーク32の外周部を径方向外側へ向けて突出させた状態でそのワーク32を把持する。以下、ワーク32が把持されるときに心押台が位置する軸方向位置を把持位置と、また、ワーク32が把持されないときに心押台が待機する軸方向位置を待機位置と、それぞれ称す。
成形装置30は、また、マンドレル44及びテールストック60により把持されているワーク32を塑性変形させるための工具としてのローラ70を備えている。ローラ70は、スピンドル40,42の径方向外側(より具体的には、マンドレル44及びテールストック60により把持されるワーク32の径方向外側)に配置されている。ローラ70は、ワーク32から円筒部材10を成形する工程に合わせて複数種類設けられている。複数種類のローラ70は、スピンドル40,42の径方向外側にスピンドル40,42ないしはワーク32の軸中心C0回りに環状に配置されている。尚、同じ種類のローラ70が複数設けられるときは、その同じ種類の複数のローラ70がその軸中心C0回りに環状かつ対称的に(例えば、対向位置に又は120°ごとに)配置されることとすればよい。
成形装置30は、また、ローラ70を移動させる移動機構80,82を備えている。移動機構80は、固定設置された主軸台に対してローラ70を径方向に移動させる機構である。移動機構82は、固定設置された主軸台に対してローラ70を軸方向に移動させる機構である。移動機構80,82にはそれぞれ、マイクロコンピュータを主体に構成されるコントローラ84が電気的に接続されている。移動機構80,82はそれぞれ、コントローラ84からの指令に従ってローラ70を移動させる。各ローラ70はそれぞれ、移動機構80により径方向に移動可能であると共に、移動機構82により軸方向に移動可能である。各ローラ70はそれぞれ、自ローラ70の軸中心C1,C2回りに回転(自転)可能である。
各ローラ70はそれぞれ、成形工程に合わせて、移動機構80,82により待機位置からマンドレル44及びテールストック60ないしはワーク32に対して径方向内側(軸中心C0側)及び軸方向に向けて移動されることで、マンドレル44及びテールストック60に把持されているワーク32(具体的には、そのワーク32の、マンドレル44及びテールストック60の軸方向先端の外周端から径方向外側へ向けて突出する外周部)に接触すると共に、そのワーク32への接触後、移動機構80,82によりワーク32に対して径方向及び軸方向に向けて移動されることで、順序どおりにそのワーク32を塑性変形させてワーク32の成形加工を行う。
本実施例において、円盤板状のワーク32から円盤部20と拡径部22とを有する円筒部材10への成形加工は、成形装置30を用いて、以下(1)〜(5)の工程順に行われる。すなわち、本実施例の成形方法は、(1)傾斜工程と、(2)増肉工程と、(3)肩張工程と、(4)肩仕上工程と、(5)スカート形成工程と、を備える。
(1)傾斜工程は、マンドレル44及びテールストック60に挟持されているワーク32の、マンドレル44及びテールストック60の軸方向先端の外周端から径方向外側へ向けて突出した外周部を、マンドレル44側の軸方向に倒して傾斜させる工程である。
(2)増肉工程は、外周部がマンドレル44側の軸方向に倒れたワーク32の、その傾斜した外周側の傾斜部32aの一部の肉片を、その傾斜部32aと円筒部材10の円盤部20に相当するその傾斜がなされていない軸中心C0側の平板部32bとの接続部位であるコーナ部32cに流動させて、そのコーナ部32cを増肉させる工程である。
(3)肩張工程は、ワーク32の傾斜部32aの一部の肉片が流動されたコーナ部32cを径方向外側から径方向内側へ向けて押圧して、径方向内側に向けてコーナ部32cの材料を押し出す工程である。
(4)肩仕上工程は、肩張工程後のコーナ部32cを、拡径部22の段差24に対応した形状に仕上げる工程である。
(5)スカート形成工程は、ワーク32の傾斜部32aを、拡径部22の断面斜め部26及びフランジ部28に対応した形状に仕上げる工程である。
上記した複数種類のローラ70は、上記(1)〜(5)の各工程に合わせて構成されたものである。具体的には、複数種類のローラ70としては、傾斜工程及び増肉工程にて用いる曲げ寄せローラ72と、肩張工程にて用いる肩成形ローラ74と、肩仕上工程及びスカート形成工程にて用いるチルトローラ76と、がある。
曲げ寄せローラ72は、マンドレル44及びテールストック60の軸中心C0回りに環状かつ対称的に(例えば、その軸中心C0を挟んだ対向位置に又は120°ごとに)複数配置されている。各曲げ寄せローラ72は、マンドレル44及びテールストック60の軸中心C0に平行に延びる軸中心C1を有している。各曲げ寄せローラ72は、径方向先端が丸みを帯びるように椀状に形成されたローラである。
各曲げ寄せローラ72は、軸方向で非対称の形状に形成されている。すなわち、各曲げ寄せローラ72は、自ローラ72の軸中心C1に直交する方向から見た断面的に、軸方向一方側(図3(A)〜(C)において右側)にて湾曲が生じるように形成された湾曲部72aを有している。湾曲部72aは、径が軸方向位置に応じて変化するように具体的には軸方向一方側の軸方向位置ほど径が小さくなるように形成されている。各曲げ寄せローラ72は、互いに同じ形状に形成されている。
肩成形ローラ74は、マンドレル44及びテールストック60の軸中心C0回りに環状かつ対称的に(例えば、その軸中心C0を挟んだ対向位置に又は120°ごとに)複数配置されている。各肩成形ローラ74は、マンドレル44及びテールストック60の軸中心C0に平行に延びる軸中心C1を有するように円柱状に形成されたローラである。各肩成形ローラ74は、互いに同じ形状に形成されている。
チルトローラ76は、マンドレル44及びテールストック60の軸中心C0回りに環状かつ対称的に(例えば、その軸中心C0を挟んだ対向位置に又は120°ごとに)複数配置されている。各チルトローラ76は、マンドレル44及びテールストック60の軸中心C0に対して斜め方向に向いた軸中心C2を有するように円盤状に形成されたローラである。
各チルトローラ76は、自ローラ76の軸中心C2側から径方向外側にかけてV字状に尖る尖り部78を有している。尖り部78は、自ローラ76の軸中心C2回りの外周面に環状に設けられている。尖り部78は、軸中心C2の延びる方向に対称となるV字状に形成されており、その軸方向の両側の面がなす角度(先端角)が例えば70°〜120°となるように設定されている。
本実施例において、成形装置30を用いて、円盤板状のワーク32から円盤部20と拡径部22とを有する円筒部材10を成形するうえでは、まず、心押台が待機位置に待機されかつ全ローラ70がスピンドル40,42に対する径方向外側の待機位置に待機される状態で、円盤板状のワーク32が、その貫通穴34にマンドレル44のセンタピン64が挿入されるようにマンドレル44にセットされる。
上記したワーク32のセット後、心押台がスライド装置により待機位置から主軸台に近づくように軸方向に前進移動される。そして、その心押台の前進移動が、センタピン64がワーク32の貫通穴34を貫通してセンタ穴66に嵌合されるまで行われると、ワーク32が、主軸台スピンドル40側のマンドレル44と心押台スピンドル42側のテールストック60との間にそれらの円盤対応部50,62と接触しながら挟持されることにより軸方向で把持される。このワーク32の把持は、マンドレル44及びテールストック60の外周端からワーク32の外周部が径方向外側へ向けて突出するように行われる。かかるワーク32の把持が実現されると、心押台の前進移動が停止される。
ワーク32が上記の如くマンドレル44及びテールストック60に把持されると、次に、全ローラ70のうち曲げ寄せローラ72が、待機位置からマンドレル44及びテールストック60に対して軸中心C0側の径方向内側に向けて移動される。この曲げ寄せローラ72の径方向内側への移動は、マンドレル44及びテールストック60に把持されているワーク32に対してテールストック60側(軸方向他方側)の軸方向位置において行われる(図2及び図3(A)に示す状態)。
かかる曲げ寄せローラ72の径方向内側への移動は、曲げ寄せローラ72がワーク32に重なる所定径方向位置まで行われたときに停止される。この移動停止の際、曲げ寄せローラ72は、ワークに接触しない。そして次に、曲げ寄せローラ72は、ワーク32に近づく側である軸方向一方側に移動される。所定径方向位置での曲げ寄せローラ72の軸方向一方側への移動が継続されると、その曲げ寄せローラ72がそのワーク32の外周側の部位に接触する。曲げ寄せローラ72の軸方向一方側への移動は、曲げ寄せローラ72がワーク32に接触した後も継続される。
スピンドル40,42の軸中心C0回りの回転駆動に伴ってマンドレル44及びテールストック60に挟持されるワーク32が回転されつつ、上記の如く曲げ寄せローラ72の軸方向一方側への移動が行われると、そのワーク32の外周側の部位が曲げ寄せローラ72との接触後に軸方向一方側に押圧される。この押圧により、マンドレル44及びテールストック60の外周端から径方向外側へ向けて突出するワーク32の外周部が軸方向一方側へ湾曲するように曲げられて傾斜される塑性変形が生ずる(図3(B))。この塑性変形は、傾斜されるワーク32の外周部が平板部32bに対して所定角度(例えば、45°程度)に曲げられ、かつ、そのワーク32の外周部の内周面とマンドレル44の外周面との間に隙間が確保される範囲すなわちそのワーク32の外周部がマンドレル44の外周面に接触する直前まで行われる。これにより、ワーク32の外周部を軸方向一方側へ傾斜させる上記傾斜工程が実現される。
上記の如く傾斜工程にて曲げ寄せローラ72を用いてワーク32の外周部が軸方向一方側へ傾斜されると、次に、その曲げ寄せローラ72が、移動方向の反転により軸方向他方側に移動されつつ軸中心C0側である径方向内側に移動されることで、ワーク32の傾斜部32aの表面にある程度沿うように軸中心C0に対して斜め方向(例えば、平板部32bに対して30°程度なす方向)に移動される。この際、曲げ寄せローラ72の斜め方向の移動は、曲げ寄せローラ72とワーク32とが接触したまま、そのワーク32の外周部である傾斜部32aの内周面(より詳細には、曲げ寄せローラ72に接触するワーク32の傾斜部32aの外周面の接触位置に対応するワーク32の内周面、すなわち、その傾斜部32aの外周面の接触位置にその傾斜部32a本体を挟んで対向する、その傾斜部32aの外周面に対する反対面である内周面上の位置部位)とマンドレル44の外周面との間に隙間を空けた状態で行われる。
かかる曲げ寄せローラ72の斜め方向の移動が行われると、ワーク32の傾斜部32aの一部の肉片がその曲げ寄せローラ72の移動方向に押圧される。この押圧により、ワーク32の傾斜部32aの一部の肉片がワーク32のコーナ部32cに流動される塑性変形が生ずる(図3(C))。この塑性変形は、傾斜部32aの一部の肉片の寄せ集めによってコーナ32cが所定量まで増肉されるときまで行われる。これにより、ワーク32のコーナ部32cを増肉させる上記増肉工程が実現される。
上記の如く増肉工程にて曲げ寄せローラ72を用いてワーク32のコーナ部32cが増肉されると、次に、ローラ70のジョブチェンジが実施される。具体的には、曲げ寄せローラ72がマンドレル44及びテールストック60に対して径方向外側に移動されると共に、肩成形ローラ74がマンドレル44及びテールストック60に対して径方向内側に移動される。この肩成形ローラ74の径方向内側への移動は、肩成形ローラ74の軸方向一方側の角部の外周面がマンドレル44及びテールストック60に把持されているワーク32のコーナ部32cに当接し得る軸方向位置において行われる。この肩成形ローラ74の径方向内側への移動は、肩成形ローラ74がワーク32のコーナ部32cに当接した後も継続される。
スピンドル40,42の軸中心C0回りの回転駆動に伴ってそれらのスピンドル40,42に挟持されるワーク32が回転されつつ、上記の如く肩成形ローラ74の径方向内側への移動が行われると、そのワーク32のコーナ部32cが肩成形ローラ74との当接後に径方向内側に押圧される。この押圧により、ワーク32のコーナ部32cが内周側において押し出される塑性変形が生ずる(図3(D))。この塑性変形は、ワーク32のコーナ部32cが内周側において押し出されつつ、そのコーナ部32cにテールストック60の外周端から径方向外側に僅かに突出する部位が残る程度まで行われる。これにより、ワーク32のコーナ部32cの材料を内周側において押し出す肩張工程が実現される。
上記の如く肩張工程にて肩成形ローラ74を用いてワーク32のコーナ部32cが内周側において押し出されると、次に、ローラ70のジョブチェンジが実施される。具体的には、肩成形ローラ74がマンドレル44及びテールストック60に対して径方向外側に移動されると共に、チルトローラ76がマンドレル44及びテールストック60に対して径方向内側に移動される。このチルトローラ76の径方向内側への移動は、マンドレル44及びテールストック60に把持されているワーク32に対してテールストック60側(軸方向他方側)の軸方向位置において行われる。
このチルトローラ76の径方向内側への移動は、チルトローラ76がテールストック60の外周面に接する直前まで行われる。そして次に、チルトローラ76は、ワーク32に近づく側である軸方向一方側に移動される。かかるチルトローラ76の軸方向一方側への移動が継続されると、そのチルトローラ76の径方向先端角部がそのワーク32のコーナ部32cに接触する。チルトローラ76の軸方向一方側への移動は、チルトローラ76がワーク32に接触した後も継続される。
スピンドル40,42の軸中心C0回りの回転駆動に伴ってマンドレル44及びテールストック60に挟持されるワーク32が回転されつつ、上記の如くチルトローラ76の軸方向一方側への移動が行われると、そのワーク32のコーナ部32cの、テールストック60の外周端から径方向外側に僅かに突出する部位がチルトローラ76に接触後に軸方向一方側に押圧される。この押圧により、ワーク32のコーナ部32cがマンドレル44の凹凸部46の段差対応部52に嵌る塑性変形が生ずる(図3(E))。この塑性変形は、ワーク32のコーナ部32cに、マンドレル44の凹凸部46の段差対応部52の径方向外側に向く面に当接する内周面が形成されるときまで行われる。これにより、ワーク32のコーナ部32cを円筒部材10の拡径部22の段差24に対応した形状に仕上げる肩仕上工程が実現される。
上記の如く肩仕上工程にてチルトローラ76を用いてワーク32のコーナ部32cの形状が仕上げられると、次に、そのチルトローラ76が、マンドレル44の凹凸部46の断面斜め対応部54及びフランジ対応部56の面に沿うようにその順にその面と所定間隔(具体的には、円筒部材10の拡径部22の所望板厚t2と同じ。)を空けつつ移動される。この際、チルトローラ76の移動は、ワーク32がマンドレル44の凹凸部46の表面に接触しつつ行われる。
かかるチルトローラ76の移動が行われると、ワーク32の傾斜部32aがマンドレル44の凹凸部46の断面斜め対応部54及びフランジ対応部56の面に沿うように引き延ばされる。この引き延ばしにより、ワーク32の傾斜部32aがマンドレル44の凹凸部46の断面斜め対応部54及びフランジ対応部56に嵌る塑性変形(しごき加工)が生ずる(図3(F))。この塑性変形は、ワーク32の傾斜部32aの引き延ばしが完了するときまで行われる。これにより、ワーク32の傾斜部32aを円筒部材10の拡径部22の断面斜め部26及びフランジ部28に対応した形状に仕上げるスカート形成工程が実現される。
そして、上記の如くスカート形成工程にてワーク32の傾斜部32aが円筒部材10の拡径部22の断面斜め部26及びフランジ部28に対応した形状に仕上げられると、次に、チルトローラ76がマンドレル44及びテールストック60に対して径方向外側に移動されると共に、その移動後、心押台がスライド装置により把持位置から待機位置へ軸方向に後退移動される。かかる後退移動が行われると、マンドレル44及びテールストック60によるワーク32の把持が解除される。
このように、本実施例の成形装置30による円筒部材10の成形方法によれば、傾斜工程、増肉工程、肩張工程、肩仕上工程、及びスカート形成工程をその順に実施することにより、円盤板状のワーク32から、円盤部20と拡径部22とを有する円筒部材10を成形することができる。
具体的には、曲げ寄せローラ72を用いて、円盤板状のワーク32の外周側を軸方向一方側に傾斜させると共に、そのワーク32の傾斜部32aの一部の肉片をコーナ部32cに流動させてそのコーナ部32cを増肉させ、また、肩成形ローラ74を用いて、ワーク32のコーナ部32cを内周側において押し出し、そして、チルトローラ76を用いて、ワーク32のコーナ部32cを円筒部材10の拡径部22の段差24に対応した形状に仕上げると共に、そのワーク32の傾斜部32aを円筒部材10の拡径部22の断面斜め部26及びフランジ部28に対応した形状に仕上げることにより、円盤部20と拡径部22とを有する円筒部材10を成形することができる。
本実施例においては、ワーク32の傾斜部32aの一部の肉片がコーナ部32cに流動されてそのコーナ部32cが増肉される際は、そのワーク32の傾斜部32aの内周面(特に、曲げ寄せローラ72に接触するワーク32の傾斜部32aの外周面の接触位置に対応するワーク32の傾斜部32aの内周面)とマンドレル44の外周面との間に隙間が空けられつつ曲げ寄せローラ72が斜め方向に移動される。この場合、ワーク32は、傾斜部32aが曲げ寄せローラ72とマンドレル44の外周面(特に凹凸部46)との間に挟まれることなく即ちしごき加工されることなく、自ワーク32の剛性を利用して塑性変形する。このワーク32の塑性変形は、傾斜部32a側からコーナ部32c側へ材料を寄せ集めるように移動させることで実現される。
このため、本実施例によれば、ワーク32の傾斜部32aからコーナ部32cへの肉片の流動によるコーナ部32cの増肉を適切に行うことができる。また、ワーク32の傾斜部32aが曲げ寄せローラ72とマンドレル44の外周面との間に挟まれることでワーク32の塑性変形(しごき加工)が行われる構成と比較して、コーナ部32cの増肉時に工具としての曲げ寄せローラ72に加わる加工負荷(荷重)を低く抑えることができる。また、ワーク32のしごき加工を行わないので、そのしごき加工に伴うワーク32の傾斜部32aの薄肉化を抑制することができる。
従って、本実施例の成形装置30による成形方法によれば、ワーク32のコーナ部32cへの増肉を、成形設備(特に、工具である曲げ寄せローラ72など)に大きな荷重をかけることなく適切に実現することができる。このため、成形設備や曲げ寄せローラ72などの早期破損が防止されてその長寿命化が図られる。
また、本実施例の成形方法によれば、ワーク32のコーナ部32cへの増肉を成形設備に大きな荷重をかけることなく適切に実現するうえで、ワーク32として成形開始前の板厚が小さいものを用いることは不要であり、板厚が比較的大きいワーク32を用いることは可能である。すなわち、ワーク32の板厚が比較的大きくても、ワーク32のコーナ部32cへの増肉を成形設備に大きな荷重をかけることなく適切に実現することができる。
一方、本実施例の成形方法によれば、上記したワーク32のコーナ部32cへの増肉によって、傾斜工程にて円盤板状のワーク32の外周側が傾斜される際に外周側に引張応力が作用しかつ内周側に圧縮応力が作用することによって生ずるコーナ部32cの肉厚の減少及び外周側のダレ量の増大を補うことができるので、そのコーナ部32cの肉厚を増大させかつダレ量を小さくすることができる。このため、ワーク32から所望形状の円筒部材10を成形するうえで、ワーク32の成形開始前の板厚を過剰に大きくすることは不要である。
また、本実施例において、円盤板状のワーク32の外周側を軸方向一方側に傾斜させる傾斜工程にて用いる工具と、ワーク32の傾斜部32aの一部の肉片をコーナ部32cに流動させてそのコーナ部32cを増肉させる増肉工程にて用いる工具と、は径方向先端が丸みを帯びた共通の曲げ寄せローラ72である。このため、傾斜工程と増肉工程とでワーク32を塑性変形するための工具を切り替えることは不要であるので、成形設備の簡素化・低コスト化並びに成形時間の短縮化を図ることができる。
更に、本実施例においては、チルトローラ76を軸方向一方側に移動させることで、ワーク32のコーナ部32cをマンドレル44の凹凸部46の段差対応部52に嵌めて、円筒部材10の拡径部22の段差24に対応した形状に仕上げることができる。このため、本実施例によれば、ワーク32の増肉後のコーナ部32cに階段状の段差24を形成することができる。また、円筒部材10の拡径部22の段差24における内周側に凹む部位の角部に小さな曲率半径を有するものが予定されている場合にも、その段差24の加工成形を適切に行うことができる。
尚、上記の実施例においては、マンドレル44及びテールストック60が特許請求の範囲に記載した「把持部材」に、ローラ70、曲げ寄せローラ72、肩成形ローラ74、及びチルトローラ76が特許請求の範囲に記載した「工具」に、それぞれ相当している。
ところで、上記の実施例において、円盤板状のワーク32の外周側を軸方向一方側に傾斜させるうえで、曲げ寄せローラ72を軸方向一方側に移動させることとしている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、曲げ寄せローラ72を少なくとも軸方向一方側を含む方向に移動させることとすればよく、軸方向一方側を含み径方向内側又は径方向外側にも移動させることとしてもよい。
また、上記の実施例においては、円盤板状のワーク32の外周側を軸方向一方側に傾斜させる傾斜工程にて用いる工具、及び、ワーク32の傾斜部32aの一部の肉片をコーナ部32cに流動させてそのコーナ部32cを増肉させる増肉工程にて用いる工具として、共通の曲げ寄せローラ72を用いることとしている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、両工具を互いに異なるローラを用いることとしてもよい。
更に、上記の実施例においては、ローラ70を軸中心C0回りに公転させることなくスピンドル40,42すなわちワーク32を軸中心C0回りに回転させることで、ローラ70とワーク32とを軸中心C0回りに相対回転させつつその相対回転に従動してローラ70を自転させながら、ワーク32の塑性変形を行うこととしている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、ワーク32を軸中心C0回りに回転させることなくローラ70を軸中心C0回りに公転させることで、ローラ70とワーク32とを軸中心C0回りに相対回転させつつその相対回転に従動してローラ70を自転させながら、ワーク32の塑性変形を行うこととしてもよい。
尚、以上の実施例に関し、更に以下を開示する。
[1]円盤板状のワーク(32)を軸方向で把持部材(44,60)に把持させた状態で、該ワーク(32)の径方向外側に配置された工具(70,72,74,76)を該ワーク(32)の軸中心回りに該ワーク(32)に対して相対回転させつつ該ワーク(32)に押し付けて、該ワーク(32)を塑性変形させることにより、円筒部材(10)を成形させる方法であって、前記工具(72)を前記ワーク(32)に対して少なくとも軸方向一方側を含む方向に移動させることにより、該ワーク(32)の外周部を軸方向一方側へ傾斜させる第1工程(傾斜工程)と、前記第1工程(傾斜工程)の後、前記工具(72)を、該工具(72)に接触する前記ワーク(32)の外周部の接触位置に対応する該ワーク(32)の内周面と前記把持部材(44)の外周面との間に隙間を空けつつ該ワーク(32)に対して軸方向他方側と径方向内側との双方を含む第1斜め方向に移動させることにより、該ワーク(32)の、軸中心側の平板部(32b)と外周側の傾斜部(32a)との接続部位であるコーナ部(32c)に該傾斜部(32a)の肉を流動させる第2工程(増肉工程)と、を備える円筒部材(10)の成形方法。
上記[1]記載の態様によれば、ワークのコーナ部に傾斜部の肉を流動させるうえで、工具が、工具に接触するワークの外周部の接触位置に対応するワークの内周面と把持部材の外周面との間に隙間を空けつつワークに対して軸方向他方側と軸中心側との双方を含む第1斜め方向に移動されるので、ワークはその傾斜部が工具と把持部材との間に挟まれることなく塑性変形する。従って、ワークコーナ部への増肉を、成形設備に大きな荷重をかけることなく適切に実現することができる。
[2]上記[1]記載の円筒部材(10)の成形方法において、前記第1工程(傾斜工程)において用いる前記工具(72)と前記第2工程(増肉工程)において用いる前記工具(72)とは、径方向先端が丸みを帯びた共通の工具である円筒部材(10)の成形方法。
上記[2]記載の態様によれば、ワークの外周部を軸方向一方側へ傾斜させる際とワークのコーナ部を増肉させる際とで工具の切り替えを行う必要がないので、成形設備の簡素化・低コスト化を図ることができる。
[3]上記[1]又は[2]記載の円筒部材(10)の成形方法において、前記第2工程(増肉工程)の後、前記第1工程(傾斜工程)において用いる前記工具(72)及び前記第2工程(増肉工程)において用いる前記工具(72)とは異なる工具としてのチルトローラ(76)を軸方向一方側を含む方向に移動させることにより、前記コーナ部(32c)に階段状の段差(24)を形成する第3工程(肩仕上工程)を備える円筒部材(10)の成形方法。
上記[3]記載の態様によれば、ワークのコーナ部の増肉後、そのコーナ部に階段状の段差を形成することができる。
[4]円盤板状のワーク(32)を軸方向で把持する把持部材(44,60)と、前記把持部材(44,60)に把持された前記ワーク(32)の径方向外側に配置され、該ワーク(32)の軸中心回りに該ワーク(32)に対して相対回転されつつ該ワーク(32)に押し付けられる工具(70,72,74,76)と、を備え、前記工具(70,72,74,76)を用いて前記ワーク(32)を塑性変形させることにより、円筒部材(10)を成形させる装置(30)であって、前記ワーク(32)の外周部を軸方向一方側へ傾斜させるべく、前記工具(72)を前記ワーク(32)に対して少なくとも軸方向一方側を含む方向に移動させる第1移動手段(82)と、前記第1移動手段による移動後、前記ワーク(32)の、軸中心側の平板部(32b)と外周側の傾斜部(32a)との接続部位であるコーナ部(32c)に該傾斜部(32a)の肉を流動させるべく、前記工具を、該工具に接触する前記ワークの外周部の接触位置に対応する該ワークの内周面と前記把持部材の外周面との間に隙間を空けつつ該ワーク(32)に対して軸方向他方側と径方向内側との双方を含む第1斜め方向に移動させる第2移動手段(80,82)と、を備える円筒部材(10)の成形装置(30)。
上記[4]記載の態様によれば、ワークのコーナ部に傾斜部の肉を流動させるうえで、工具が、工具に接触するワークの外周部の接触位置に対応するワークの内周面と把持部材の外周面との間に隙間を空けつつワークに対して軸方向他方側と軸中心側との双方を含む第1斜め方向に移動されるので、ワークが工具と把持部材との間に挟まれることなく塑性変形する。このため、ワークコーナ部への増肉を、成形設備に大きな荷重をかけることなく適切に実現することができる。
[5]上記[4]記載の円筒部材(10)の成形装置(30)において、前記第1移動手段(82)により移動される前記工具(72)と前記第2移動手段(80,82)により移動される前記工具(72)とは、径方向先端が丸みを帯びた共通の工具である円筒部材(10)の成形装置(30)。
上記[5]記載の態様によれば、ワークの外周部を軸方向一方側へ傾斜させる際とワークのコーナ部を増肉させる際とで工具の切り替えを行う必要がないので、成形設備の簡素化・低コスト化を図ることができる。
[6]上記[4]又は[5]記載の円筒部材(10)の成形装置(30)において、前記第2移動手段(80,82)による移動後、前記コーナ部(32c)に階段状の段差(24)を形成すべく、前記第1移動手段(82)により移動される前記工具(72)及び前記第2移動手段(80,82)により移動される前記工具(72)とは異なる工具としてのチルトローラ(76)を軸方向一方側を含む方向に移動させる第3移動手段(80,82)を備える円筒部材(10)の成形装置(30)。
上記[6]記載の態様によれば、ワークのコーナ部の増肉後、そのコーナ部に階段状の段差を形成することができる。