JP6437747B2 - 光ファイバの処理方法および光ファイバ処理における推定方法 - Google Patents
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Description
そこで、従来から、石英系光ファイバの紡糸後、水素による伝送損失の悪化が発生する以前の段階で、光ファイバに重水素処理を行うことによって、波長1380nm付近での伝送損失増大を防止し得ることが知られている。
特許文献1は、重水素処理に関する基礎的な特許であり、この特許文献1には、重水素を含む混合ガスに光ファイバを接触させるステップと、その後に該ガスを空気または窒素中で前記混合ガスを抜くステップとを有し、重水素を含む混合ガスに光ファイバを接触させるステップを、20〜40℃の範囲内の温度で行う方法が示されている。
これらの記載からすれば、重水素の光ファイバ内への浸透に引き続き光ファイバ内で重水素を拡散させる段階まで、すなわち重水素処理が完了するまで、重水素を含む混合ガスに光ファイバを曝しておくと読み取ることができる。
コアとそれを取り囲むクラッドを有する石英系ガラスからなる光ファイバを対象とし、その光ファイバを、光ファイバ内の非架橋酸素と結合(架橋)して非架橋酸素欠陥(NBOHC)を処理し得る酸素架橋性元素を含有するガスに暴露して、前記酸素架橋性元素を光ファイバ中に浸透させる酸素架橋性元素含有ガス暴露工程と、
引き続いて光ファイバを酸素架橋性元素を含有しない非酸素架橋性雰囲気中に放置して、前記酸素架橋性元素を光ファイバ内で拡散させる拡散工程、
とを有する光ファイバの処理方法において、
さらに前記酸素架橋性元素含有ガス暴露工程を実施する以前の段階で、酸素架橋性元素含有ガス暴露後の前記非酸素架橋性雰囲気中放置による拡散処理の条件のうち、少なくとも雰囲気温度を決定する非酸素架橋性雰囲気中放置条件決定工程を備え、
その非酸素架橋性雰囲気中放置条件決定工程は、
光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥の量を推定して、光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥を処理するために必要な酸素架橋性元素の量を推定する第1の段階と、
酸素架橋性元素の気体分子拡散モデルに基づいて、光ファイバ内に供給された酸素架橋性元素についての、非酸素架橋性雰囲気中放置期間における非酸素架橋性雰囲気中放置雰囲気温度および非酸素架橋性雰囲気中放置時間と光ファイバ内の酸素架橋性元素量との相関関係を求める第2の段階と、
前記第2の段階で求められた相関関係に基づいて、非酸素架橋性雰囲気中放置雰囲気温度を決定する第3の段階、
とを有してなり、
前記拡散工程では、前記非酸素架橋性雰囲気中放置条件決定工程の前記第3の段階において決定された非酸素架橋性雰囲気中放置雰囲気温度で、光ファイバを非酸素架橋性雰囲気中に放置することを特徴とするものである。
前記非酸素架橋性雰囲気中放置条件決定工程の前記第3の段階において、前記第2の段階で求められた相関関係に基づいて、最も短時間で前記必要な酸素架橋性元素量を非酸素架橋性雰囲気中放置後に光ファイバ内に存在させることができる放置温度とそれに対応する放置時間を求め、それらを前記拡散工程における非酸素架橋性雰囲気中放置の温度および時間として決定し、
その決定された温度および時間の条件で、前記拡散工程を実施することを特徴とするものである。
前記非酸素架橋性雰囲気中放置条件決定工程の前記第1の段階が、
前記暴露工程を実施する前に測定した光ファイバの伝送損失測定データから、コア内の非架橋酸素欠陥の量を推定する第1の過程と、
光ファイバの累積実績データから求められた光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥の量とコア内非架橋酸素欠陥の量との相関関係に基づいて、前記推定されたコア内非架橋酸素欠陥の量から光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥の量を推定する第2の過程と、
前記推定された光ファイバ全体のNBOHC量から、光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥を処理するために必要な酸素架橋性元素量を推定する第3の過程、
とを有してなることを特徴とするものである。
前記非酸素架橋性雰囲気中放置条件決定工程の前記第1の段階における前記第1の過程で、
前記暴露工程を実施する前に測定した光ファイバの伝送損失測定データにおける、非架橋酸素欠陥による吸収ピークを避けた波長域のデータを、前記吸収ピークが存在する波長域に外挿することによって、非架橋酸素欠陥による吸収ピークでの、非架橋酸素欠陥による伝送損失を求め、それに基づいてコア内の非架橋酸素欠陥の量を推定することを特徴とするものである。
前記非酸素架橋性雰囲気中放置条件決定工程の前記第1の段階における前記第1の過程において、
光ファイバの波長λが1000nm以下の短波長域における波長λ対伝送損失の測定データを、波長λ(単位:μm)の−4乗(λ−4)に換算したときの、λ−4が4〜8の波長域を除いた領域でかつ少なくともλ−4が2〜3の領域を含む波長域の損失データを直線近似して、その近似直線延長線上における630nmでの伝送損失の値と、実際に測定された630nmでの伝送損失の値との差分を、非架橋酸素欠陥による伝送損失とみなし、それに基づいてコア内のNBOHC量を推定することを特徴とするものである。
コアとそれを取り囲むクラッドを有する石英系ガラスからなる光ファイバを対象とし、その光ファイバを、光ファイバ内の非架橋酸素と結合(架橋)して非架橋酸素欠陥を処理し得る酸素架橋性元素を含有するガスに暴露して、前記酸素架橋性元素を光ファイバ中に浸透させるにあたり、光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥を処理するために必要な酸素架橋性元素量を推定するための推定方法であって、
光ファイバを前記酸素架橋性元素含有ガスに暴露する以前に光ファイバの伝送損失を測定して、その伝送損失データからコア内の非架橋酸素欠陥の量を推定する第1の過程と、
光ファイバの過去の累積実績データから求められた光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥の量とコア内非架橋酸素欠陥の量との相関関係に基づいて、前記推定されたコア内非架橋酸素欠陥の量から光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥の量を推定する第2の過程と、
前記推定された光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥の量から、光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥を処理するために必要な酸素架橋性元素量を推定する第3の過程、
とを有してなることを特徴とするものである。
予め測定した光ファイバの伝送損失測定データにおける、非架橋酸素欠陥による吸収ピークを避けた波長域のデータを、前記吸収ピークが存在する波長域に外挿することによって、非架橋酸素欠陥による吸収ピークでの、非架橋酸素欠陥による伝送損失を求め、それに基づいてコア内の非架橋酸素欠陥の量を推定することを特徴とするものである。
前記第1の過程において、光ファイバの波長λが1000nm以下の短波長域における波長λ対伝送損失の測定データを、波長λ(単位:μm)の−4乗(λ−4)に換算したときの、λ−4が4〜8の波長域を除いた領域でかつ少なくともλ−4が2〜3の領域を含む波長域の損失データを直線近似して、その近似直線延長線上における630nm域での伝送損失の値と、実際に測定された630nmでの伝送損失の値との差分を、非架橋酸素欠陥による伝送損失とみなし、それに基づいてコア内の非架橋酸素欠陥の量を推定することを特徴とするものである。
さらに本発明の光ファイバ処理における推定方法によれば、光ファイバ全体のNBOHCを処理するために必要な酸素架橋性元素の量を、特殊かつ高価な測定装置を用いることなく、低コストで簡単かつ容易に推定することができる。
本発明の光ファイバの処理方法は、基本的には、コアとそれを取り囲むクラッドを有する石英系ガラスからなる光ファイバを対象としている。ここで、具体的な光ファイバの構造、種類は限定されず、最も一般的な通信用光ファイバであるシングルモード光ファイバのほか、マルチモード光ファイバなど、任意の光ファイバに適用される。また対象となる光ファイバの製造方法も、特に限定されるものではなく、VAD法、OVD法のほか、CVD法など、任意の方法で製造された光ファイバが対象となる。また本発明の処理方法を実施する際の光ファイバの形態は、通常はガラス母材から線引き(紡糸)して光ファイバ裸線とし、さらにUV樹脂被覆などの保護被覆(コーティング)を施したもの、すなわちいわゆる光ファイバ素線の形態のものであるが、これに限らず、光ファイバ裸線の形態のものにも適用可能である。
本実施形態の処理方法では、光ファイバを、光ファイバ内の非架橋酸素と結合(架橋)して非架橋酸素欠陥(NBOHC)を処理し得る酸素架橋性元素としての重水素を含有するガスに暴露して、重水素を光ファイバ中に浸透させる重水素含有ガス暴露工程(酸素架橋性元素含有ガス暴露工程)S1と、引き続いて光ファイバを大気(非酸素架橋性雰囲気)中に放置して、重水素を光ファイバ内で拡散させる拡散工程S2とを有することを前提としている。
そしてその前提下において、重水素含有ガス暴露工程S1を実施する以前の段階で、重水素含有ガス暴露後の大気中放置による拡散工程S2の条件のうち、少なくとも雰囲気温度を決定する大気中放置条件決定工程(非酸素架橋性雰囲気中放置条件決定工程)S0を備えている点が重要である。
第1の段階S01:光ファイバ全体の非架橋酸素空孔の量を推定して、コアとクラッドを含む光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥(NBOHC)を処理するために必要な重水素(酸素架橋性元素)の量を推定する段階。
第2の段階S02:酸素架橋性元素の気体分子拡散モデルに基づいて、光ファイバ内に供給された重水素(酸素架橋性元素)についての、大気中放置期間(非酸素架橋性雰囲気中放置期間)における大気中放置雰囲気温度(非酸素架橋性雰囲気中放置雰囲気温度)および大気中放置時間(非酸素架橋性雰囲気中放置時間)と光ファイバ内の重水素量との相関関係を求める段階。
第3の段階S03:第2の段階で求められた相関関係に基づいて、大気中放置雰囲気温度を決定する段階。
第1の過程S011:前記暴露工程S1を実施する前に測定した光ファイバの伝送損失測定データから、コア内のNBOHC量を推定する過程。
第2の過程S022:光ファイバの累積実績データから求められた光ファイバ全体のNBOHC量とコア内NBOHC量との相関関係に基づいて、前記推定されたコア内NBOHC量から光ファイバ全体のNBOHC量を推定する過程。
第3の過程S03:前記推定された光ファイバ全体のNBOHC量から、光ファイバ全体の非架橋酸素空孔を処理するために必要な重水素量(酸素架橋性元素量)を推定する過程。
各過程S011〜S013の詳細について、図2〜図10を参照しながら、項分けして説明する。
本実施形態においては、先ずコアとクラッドを含む光ファイバ全体のNBOHC量を推定し、それに基づいて、NBOHCを消滅させるに必要な重水素量を推定する。
光ファイバ全体のNBOHC量を推定するための具体的手法としては、本実施形態では、一般的な光信号伝送用(通信用)光ファイバの短波長域(例えば600〜1000nm)での損失特性(短波長損失)の一般的な傾向を利用し、重水素処理前の短波長損失の測定のみによって、重水素処理後の短波長損失を推定し、その差分から、必要な重水素量を推定する手法を適用している。このような推定方法自体、本発明者等が見出した新規な方法であり、以下にさらにその必要重水素量推定方法を詳細に説明する。
このような光ファイバに重水素処理を施した後に短波長損失を測定すれば、図2の破線B0で示すように、重水素処理前に存在していた630nm帯の短波長損失のピークが消滅する。
これは、重水素処理前に存在していたNBOHCの630nm付近の吸収帯が、重水素処理によって消失したことに由来する。すなわち、重水素処理を行うことによって、630nm帯のNBOHCは−OD基となり、全く異なる波長域(通常は1900nm付近)に吸収ピークを持つようになったため、630nm帯の吸収ピークが消滅するからである。
そしてその一つの具体例として、前記第7の態様として記載したように、光ファイバの波長λが1000nm以下の短波長域における波長λ対伝送損失の測定データを、波長λ(単位:μm)の−4乗(λ−4)に換算したときの、λ−4が4〜8の波長域を除いた領域でかつ少なくともλ−4が2〜3の領域を含む波長域の損失データを直線近似して、その近似直線延長線上における630nmでの伝送損失の値と、実際に測定された630nmでの伝送損失の値との差分を、NBOHCによる伝送損失とみなし、それに基づいてコア内の非架橋酸素欠陥の量を推定することができるのである。
y=9.91x+13.68
であらわされる一次関数にほぼ従った相関関係を示している。
このようにして、同じ工程、同じ条件で製造された光ファイバの重水素処理を行ったいくつかの実績さえあれば、重水素処理前に短波長損失を測るだけで、どのような条件で重水素処理を行えばよいかが推定できる。また、同じ工程、同じ条件で光ファイバを作り続けていく場合、それらのデータをフィードバックすることによって、推定の精度が、より向上していくのである。
前述のようにして、大気中放置条件決定工程S0における第1の段階S01で光ファイバ全体のNBOHC量が推定されれば、続いて、円筒座標系における気体分子拡散モデルに基づいて、光ファイバ内に供給された重水素についての、大気中放置期間における温度および時間と光ファイバ内の酸素架橋性元素量との相関関係を求める(第2の段階S02)。
ここで、先ず光ファイバを重水素含有雰囲気に曝した時の重水素拡散状況の把握について説明する。
一般に重水素処理は、光ファイバの外周面から重水素を内部へ浸透させていくことによって達成される。このときの重水素の浸透具合は、円筒座標系での気体分子の拡散モデルを用いて記述することが可能と考えられる。すなわち、光ファイバ外周面(円筒面)から内部に気体分子が拡散する際の拡散モデルは、円筒座標系での気体分子の拡散モデルにしたがって、次の(1)式、(2)式によってあらわされる。
なお、拡散ガスの種類が定まっていれば、拡散ガス固有値として次の(3)式により拡散係数D(T)が一意的に決まる。
具体的には、例えば外径が125μmの光ファイバについて、室温(23℃)、分圧0.02atmで重水素を含有する気体(重水素以外は実質的に空気成分)に3時間曝した後、種々の温度で大気放置した場合の、光ファイバ中心における重水素濃度の変化を、前述の拡散モデルにしたがって調べた結果を図6に示す。なおここで、光ファイバは、中心にコア領域が位置し、そのコア領域の周囲をクラッド領域が取り囲んでいる単純な光ファイバであって、コア領域の半径は5μmとする。またここで、図6の横軸は、上記の重水素含有気体への暴露を打ち切って、引き続き大気中放置を開始してからの経過時間を示す。
以上のようにして、事前工程としての大気中放置条件決定工程S0によって、ある光ファイバについての大気中放置による拡散工程における最適温度およびそれに応じた放置時間が決定すれば、その光ファイバについて本来の重水素処理を開始する。すなわち重水素含有ガス暴露工程S1を実施する。
重水素含有ガス暴露工程S1は、光ファイバを、重水素を含有するガス雰囲気に曝して、光ファイバの外側から内部に重水素を侵入(浸透)させる工程である。この重水素含有ガス暴露工程S1において使用される処理装置の一例を図11に示す。
処理装置10の反応槽11は、内部に光ファイバ20を収容できる密閉可能な容器であり、0.1kPa程度の真空状態や、常圧〜250kPa以下の加圧状態に耐えられる耐圧性や密封性を有する。反応槽11のガス導入口12には、ガス導入用開閉バルブ13を介してガス供給用配管14が接続されており、このガス供給用配管14から反応槽11内に重水素含有ガスが供給可能とされている。
すなわち重水素含有ガスとしては、空気もしくは窒素などの中性ガスに、重水素を1〜5%程度添加したガスを用いることが好ましい。暴露温度は、高いほど暴露時間が短くて済むが、コストなどの面からは、通常は室温(例えば23℃程度)で充分である。暴露時間は、光ファイバの暴露時の形態や線径、あるいは製造工程の能力等によっても異なるが、ガラス径が125μmの一般的な光ファイバでは、3〜48時間程度である。さらに暴露時のガス圧力も特に限定されないが、通常は、全圧で大気圧とすれば充分である。
重水素含有ガス暴露工程の後には、直ちに拡散工程S3として、大気中放置を行う。この大気中放置によって、光ファイバ内に侵入した重水素が、内部で拡散し、中心部(コア中心)まで十分に重水素が供給された状態となる。そして光ファイバ中心までNBOHCが重水素によって処理されて、630nm付近のNBOHC吸収ピークが消滅し、その後の製品使用時における1383nm付近での水素吸収による伝送損失の低下を防止することができる。そのため、1383nm付近を伝送帯として含む一般的な通信用光ファイバとして、水素特性を向上させることが可能となる。
なお本実施形態において、大気中放置の時間が、大気中放置直後の時点で必要な量の重水素を光ファイバ内に存在させておくための最短の時間となるように放置温度を定めておけば、過剰な重水素が光ファイバ内に残ることを回避できる。
すなわち、本発明の光ファイバの処理方法を用いれば、事前に必要な重水素量が推定できることから、重水素ガス暴露を必要最小限に抑えることができ、その場合には、大気中大気中放置(拡散工程)の後に改めてガス抜き工程(過剰重水素を光ファイバ内から除去する工程)を省略することができる。もちろん場合によっては、改めてガス抜き工程を実施してもよい。
さらに前述の実施形態では、酸素架橋性元素含有ガスとして、水素同位体のうち特に重水素を用いることとして説明したが、既に述べたように、特殊な光ファイバ、すなわち伝送帯が1383nm付近にない光ファイバ、例えば伝送帯が600nm付近の特殊な用途の光ファイバなどにおいては、重水素の代わりに水素を用いて処理してもよい。この場合も、大気中放置条件決定工程、水素含有ガス暴露工程、拡散工程(大気中放置)の各工程は、既に述べた重水素による処理の場合と同様であればよく、既に説明した各工程に記載した重水素を水素と読み替えればよいから、水素処理の場合の詳細な説明は省略する。
但し、大気中放置条件決定工程の第2の段階(円筒座標系による気体分子拡散モデルに基づいて、大気中放置の温度・時間と光ファイバ内水素量との相関関係を導く段階)における、気体分子拡散モデルとしては、重水素ではなく水素についてのモデル(分散方程式)に基づく必要がある。その場合、円筒座標系気体分子拡散モデルについての前記(1)〜(3)式において、気体定数R0として、8.31J/K・molの値、活性化エネルギーEdとして、8.83kcal/molの値、拡散定数D0として、2.0×10−7cm2/s程度の値を用いればよい。
この実施例1は、酸素架橋性元素として重水素を用いた場合の実施例である。
さらにNBOHCの吸収ピークの範囲外となるλ−4=1〜4μm−4となる領域で直線近似した結果を、図3の鎖線A2で示す。この近似直線(鎖線)A2が、レイリー散乱による損失を表す。したがってA1とA2との差分ΔPを求めれば、NBOHCによる吸収損失のみを抜き出せる。その差分ΔP、したがってNBOHCの吸収損失は、図4に示す結果となった。ここで、吸収ピークとなる630nmにおいては、損失は2.2dB/kmであった。
y=9.91x+13.68
であらわされる一次関数にほぼ従った相関関係を示している。
したがって、図5に示した相関関係から、コア領域のNBOHC量とクラッド領域のNBOHC量とは相関関係を有する、と言うことができ、このような相関関係に基づいて、コア領域のNBOHC量(重水素処理前の測定で推定し得る量)にクラッド領域分の重み付けを行うことによって、光ファイバ全体のNBOHC量を推定し得る。
そして実際にこの光ファイバを、重水素濃度2%、重水素暴露時間3hr、重水素暴露温度室温(23℃)で重水素処理をおこなったところ、大気放置に必要な時間は35.9時間であった。したがって、短波長損失を測定して、実績相関と比較することによって、重水素処理する以前に重水素処理が完了するまでの時間を見積もることが可能であることが明らかである。
放置時間全体で光ファイバ中心に向かった重水素を求めるため、図6の結果を時間積分すれば、図7に示す結果が得られた。図7における35.5時間付近を拡大したのが図8である。
その結果、630nmのピークが存在しないこと、すなわち本実施例の重水素処理によって実質的にNBOHを消滅させることができたことが確認された。そして本実施形態では、大気中放置時間を約15時間短縮することができ、これは推定通りであった。
Claims (14)
- コアとそれを取り囲むクラッドを有する石英系ガラスからなる光ファイバを対象とし、その光ファイバを、光ファイバ内の非架橋酸素と結合(架橋)して非架橋酸素欠陥を処理し得る酸素架橋性元素を含有するガスに暴露して、前記酸素架橋性元素を光ファイバ中に浸透させる酸素架橋性元素含有ガス暴露工程と、
引き続いて光ファイバを、酸素架橋性元素を含有しない非酸素架橋性雰囲気中に放置して、前記酸素架橋性元素を光ファイバ内で拡散させる拡散工程、とを有する光ファイバの処理方法において、
さらに前記酸素架橋性元素含有ガス暴露工程を実施する以前の段階で、酸素架橋性元素含有ガス暴露後の非酸素架橋性雰囲気中放置による拡散処理の条件のうち、少なくとも雰囲気温度を決定する非酸素架橋性雰囲気中放置条件決定工程を備え、
その非酸素架橋性雰囲気中放置条件決定工程は、
光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥の量を推定して、光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥を処理するために必要な酸素架橋性元素の量を推定する第1の段階と、
酸素架橋性元素の気体分子拡散モデルに基づいて、光ファイバ内に供給された酸素架橋性元素についての、非酸素架橋性雰囲気中放置期間における非酸素架橋性雰囲気中放置雰囲気温度および非酸素架橋性雰囲気中放置時間と光ファイバ内の酸素架橋性元素量との相関関係を求める第2の段階と、
前記第2の段階で求められた相関関係に基づいて、非酸素架橋性雰囲気中放置雰囲気温度を決定する第3の段階、
とを有してなり、
前記第1の段階が、
前記暴露工程を実施する前に測定した光ファイバの伝送損失測定データから、コア内の非架橋酸素欠陥量を推定する第1の過程と、
光ファイバの累積実績データから求められた光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥の量とコア内非架橋酸素欠陥の量との相関関係に基づいて、前記推定されたコア内非架橋酸素欠陥の量から、光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥の量を推定する第2の過程と、
前記推定された光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥の量から、光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥を処理するために必要な酸素架橋性元素量を推定する第3の過程、とを有し、
前記第2の過程における、前記光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥の量とコア内非架橋酸素欠陥の量との相関関係は、別途行われた実験によって得られる、非酸素架橋性雰囲気中放置時間とコア伝送損失との相関関係に基づいて定められ、
前記実験は、同じ製造工程、同じ製造条件で製造された複数の実験用光ファイバを、酸素架橋性元素を含む雰囲気中に所定時間曝す第1工程と、前記第1工程を経た実験用光ファイバを、前記実験用光ファイバ中の非架橋酸素欠陥が実質的にゼロとなるまで非酸素架橋性雰囲気中に放置する第2工程とを有し、
前記非酸素架橋性雰囲気中放置時間は、前記第2工程において前記実験用光ファイバ中の非架橋酸素欠陥が実質的にゼロとなるまでに要する時間であり、
前記コア伝送損失は、前記複数の実験用光ファイバにおける伝送損失であり、
前記拡散工程では、前記非酸素架橋性雰囲気中放置条件決定工程の前記第3の段階において決定された非酸素架橋性雰囲気中放置雰囲気温度で、光ファイバを非酸素架橋性雰囲気中に放置することを特徴とする光ファイバの処理方法。 - 前記非酸素架橋性雰囲気中放置時間と前記コア伝送損失との相関関係は、一次関数に従う、請求項1に記載の光ファイバの処理方法。
- 前記酸素架橋性元素を含有するガスとして、重水素を含有するガスを用いる、請求項1または2に記載の光ファイバの処理方法。
- 前記非酸素架橋性雰囲気が大気である、請求項1または2に記載の光ファイバの処理方法。
- 前記非酸素架橋性雰囲気中放置条件決定工程の前記第3の段階において、前記第2の段階で求められた相関関係に基づいて、最も短時間で前記必要な酸素架橋性元素量を非酸素架橋性雰囲気中放置後に光ファイバ内に存在させることができる放置温度とそれに対応する放置時間を求め、それらを前記拡散工程における非酸素架橋性雰囲気中放置の温度および時間として決定し、
その決定された温度および時間の条件で、前記拡散工程を実施することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかの請求項に記載の光ファイバの処理方法。 - 前記非酸素架橋性雰囲気中放置条件決定工程の前記第1の段階における前記第1の過程において、
前記暴露工程を実施する前に測定した光ファイバの伝送損失測定データにおける、非架橋酸素欠陥による吸収ピークを避けた波長域のデータを、前記吸収ピークが存在する波長域に外挿することによって、非架橋酸素欠陥による吸収ピークでの、非架橋酸素欠陥による伝送損失を求め、それに基づいてコア内の非架橋酸素欠陥の量を推定することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかの請求項に記載の光ファイバの処理方法。 - 前記非酸素架橋性雰囲気中放置条件決定工程の前記第1の段階における前記第1の過程において、
光ファイバの波長λが1000nm以下の短波長域における波長λ対伝送損失の測定データを、波長λ(単位:μm)の−4乗(λ−4)に換算したときの、λ−4が4〜8の波長域を除いた領域でかつ少なくともλ−4が2〜3の領域を含む波長域の損失データを直線近似して、その近似直線延長線上における630nmでの伝送損失の値と、実際に測定された630nmでの伝送損失の値との差分を、NBOHCによる伝送損失とみなし、それに基づいてコア内の非架橋酸素欠陥の量を推定することを特徴とする請求項6に記載の光ファイバの処理方法。 - 前記石英系ガラスからなる光ファイバは、過去に製造された光ファイバと同じ製造条件で製造され、
前記石英系ガラスからなる光ファイバのデータを、前記累積実績データにフィードバックする、請求項1〜請求項7のいずれかの請求項に記載の光ファイバの処理方法。 - コアとそれを取り囲むクラッドを有する石英系ガラスからなる光ファイバを対象とし、その光ファイバを、光ファイバ内の非架橋酸素と結合(架橋)して非架橋酸素欠陥を処理し得る酸素架橋性元素を含有するガスに暴露して、前記酸素架橋性元素を光ファイバ中に浸透させるにあたり、光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥を処理するために必要な酸素架橋性元素の量を推定するための推定方法であって、
光ファイバを前記酸素架橋性元素含有ガスに暴露する以前に光ファイバの伝送損失を測定して、その伝送損失データからコア内の非架橋酸素欠陥の量を推定する第1の過程と、
光ファイバの過去の累積実績データから求められた光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥の量とコア内非架橋酸素欠陥の量との相関関係に基づいて、前記推定されたコア内非架橋酸素欠陥の量から光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥の量を推定する第2の過程と、
前記推定された光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥の量から、光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥を処理するために必要な酸素架橋性元素量を推定する第3の過程、とを有し、
前記第2の過程における、前記光ファイバ全体の非架橋酸素欠陥の量とコア内非架橋酸素欠陥の量との相関関係は、別途行われた実験によって得られる、非酸素架橋性雰囲気中放置時間とコア伝送損失との相関関係に基づいて定められ、
前記実験は、同じ製造工程、同じ製造条件で製造された複数の実験用光ファイバを、酸素架橋性元素を含む雰囲気中に所定時間曝す第1工程と、前記第1工程を経た実験用光ファイバを、前記実験用光ファイバ中の非架橋酸素欠陥が実質的にゼロとなるまで非酸素架橋性雰囲気中に放置する第2工程とを有し、
前記非酸素架橋性雰囲気中放置時間は、前記第2工程において前記実験用光ファイバ中の非架橋酸素欠陥が実質的にゼロとなるまでに要する時間であり、
前記コア伝送損失は、前記複数の実験用光ファイバにおける伝送損失であることを特徴とする、光ファイバ処理における推定方法。 - 前記酸素架橋性元素を含有するガスが、重水素を含有するガスである請求項9に記載の光ファイバ処理における推定方法。
- 前記非酸素架橋性雰囲気が大気である請求項9に記載の光ファイバ処理における推定方法。
- 前記第1の過程において、
予め測定した光ファイバの伝送損失測定データにおける、非架橋酸素欠陥による吸収ピークを避けた波長域のデータを、前記吸収ピークが存在する波長域に外挿することによって、非架橋酸素欠陥による吸収ピークでの、非架橋酸素欠陥による伝送損失を求め、それに基づいてコア内の非架橋酸素欠陥の量を推定することを特徴とする請求項9〜請求項11のいずれかの請求項に記載の光ファイバ処理における推定方法。 - 前記第1の過程において、光ファイバの波長λが1000nm以下の短波長域における波長λ対伝送損失の測定データを、波長λ(単位:μm)の−4乗(λ−4)に換算したときの、λ−4が4〜8の波長域を除いた領域でかつ少なくともλ−4が2〜3の領域を含む波長域の損失データを直線近似して、その近似直線延長線上における630nmでの伝送損失の値と、実際に測定された630nmでの伝送損失の値との差分を、非架橋酸素欠陥による伝送損失とみなし、それに基づいてコア内の非架橋酸素欠陥の量を推定することを特徴とする請求項12に記載の光ファイバ処理における推定方法。
- 前記石英系ガラスからなる光ファイバは、過去に製造された光ファイバと同じ製造条件で製造され、
前記石英系ガラスからなる光ファイバのデータを、前記累積実績データにフィードバックする、請求項9〜請求項13のいずれかの請求項に記載の光ファイバ処理における推定方法。
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