以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一の記号及び同一の符号は、実施の形態中の同一または相当する機能部分を意味するものであるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
本発明の実施の形態に係る塗布型補強材組成物は、少なくとも塩化ビニル樹脂と、エポキシ樹脂と、エポキシ系希釈剤と、可塑剤と、硬化剤とを含有するものである。
従来、自動車のコーティング塗料としてポリ塩化ビニル系樹脂を可塑剤によってゾル化したポリ塩化ビニル系プラスチゾル(PVCプラスチゾル)が使用されてきたが、塩化ビニル樹脂のプラスチゾルでは、塗布性や接着性等を確保するために多量の可塑剤が必要であることから、形成された塗膜は剛性が低く、また、マイナス20℃〜マイナス60℃付近で振動を抑制できる制振性能が発現されるも、常温域で制振性能を有するものではなかった。
しかし、本発明者らは、鋭意実験研究を積み重ねた結果、塩化ビニル樹脂及び可塑剤に、室温で液状のエポキシ樹脂と、エポキシ系希釈剤と、エポキシ樹脂用の潜在性硬化剤を配合することで、液状エポキシ樹脂及びエポキシ系希釈剤によって可塑剤の配合量を大幅に減量しても組成物がゾル−ゲル化されて塗布対象(パネル)に塗布可能となり、更に、エポキシ樹脂用の潜在性硬化剤によって塗布対象(パネル)への塗布後の加熱により硬化され、組成物硬化後の補強材は、単層構造でも常温域で制振性能が発現され、かつ、剛性が高くなることを見出した。つまり、単層構造にて補強性及び常温域の制振性を両立させた補強材を形成できることが判明した。
そこで、本発明では、塩化ビニル樹脂と、エポキシ樹脂と、エポキシ系希釈剤と、可塑剤と、潜在性硬化剤を配合し、エポキシ樹脂とエポキシ系希釈剤により可塑剤の配合量を少なくするも組成物をゾル−ゲル化させて塗布可能とし、更に、組成物をパネル塗布後に加熱して潜在性硬化剤によりエポキシ樹脂を硬化させることで、組成物硬化後の補強材において、単層構造とされるも、可塑剤の配合量を大幅に減量したことによる塩化ビニル樹脂の適度に硬質な粘弾性によって、また、ポリマーの運動性を有するエポキシ樹脂の架橋構造等によって、剛性と常温域での制振性との両立を可能としている。
特に、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、エポキシ樹脂の配合量が50重量部〜200重量部の範囲内であり、エポキシ系希釈剤及び可塑剤の合計配合量が120重量部以下であれば、より好ましくは、エポキシ系希釈剤と可塑剤の配合比がエポキシ系希釈剤:可塑剤=1:4〜4:1の範囲内であれば、剛性と制振性のバランスがとれて剛性と制振性の双方を満足させることができ、薄厚化されたパネルの補強材として十分な補強性及び常温域での十分な制振性能が両立する。
ここで、本実施の形態に係る塗布型補強材組成物に配合される塩化ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル)としては、塩化ビニルモノマの単独重合体、または、塩化ビニルモノマと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、或いはそれら単独重合体及び共重合体の混合物を用いることができる。共重合体を形成しうる塩化ビニルモノマと共重合可能なモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類、ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類、ジエチルマレエート等のマレイン酸エステル類、ジブチルフマレート等のフマル酸エステル類、メチルアクリレート、エチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸アルキルエステル類、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−ジヒドロキシエチルメタクリルアミド等のアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシアルキルアミド類、アクリロニトリル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
エポキシ樹脂としては、室温で液状のものが使用され、一般にエポキシ基を2個以上有する化合物であればよく、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型等のビスフェニル基を有するエポキシ化合物、ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型等のエポキシ化合物、ナフタレン環を有するエポキシ化合物、フルオレン基を有するエポキシ化合物等の二官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型等のノボラック型エポキシ樹脂、多官能グリシジルエーテル、テトラフェニロールエタン型等の多官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ダイマー酸等の合成脂肪酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂、N,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N−ジグリシジルアニリン等のグリシジルアミノ基を有する芳香族エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、トリシクロデカン環を有するエポキシ化合物(例えば、ジシクロペンタジエンとm−クレゾールのようなクレゾール類またはフェノール類を重合させた後、エピクロルヒドリンを反応させる製造方法によって得られるエポキシ化合物)、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、ソルビトール型エポキシ樹脂、ポリグリセロール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、ジアリールスルホン型エポキシ樹脂、ペンタエリスリトール型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、ウレタン変性、ダイマー酸変性、NBR等のゴム変性等の変性エポキシ樹脂を用いることも可能である。これらエポキシ樹脂はそれぞれを単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
中でも粘度調節が容易なビスフェノールA型、ビスフェノールF型を始めとする汎用エポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ系希釈剤としては、エポキシ基を有する反応性希釈剤が使用され、具体的には、一官能基型のn−ブタノールグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、テトラヒドロフルフリルグリシジルエーテル、フルフリルグリシジルエーテル、トリメトキシシリルグリシジルエーテル、その他高級アルコール系グリシジルエーテル、メタアクリル酸グリシジルエステル、グリシジルメタクリレート等や、多官能基型の1,4−ブタンジオール・ジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオール・ジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパン・トリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール・ジグリシジルエーテル、ダイマー酸・ジグリシジルエステルや、オレフィンオキサイド等が挙げられる。このような反応性希釈剤では、組成物の硬化時に化学反応によって分子中に組み込まれるから、組成物の特性の低下を抑えつつ粘度調節ができる。なお、エポキシ系希釈剤は、例えば、エポキシ樹脂100重量部に対する配合量で20重量部〜100重量部の範囲内、塩化ビニル樹脂100重量部に対する配合量で20〜80重量部の範囲内で配合される。当該範囲内であれば、塗布性を確保しつつ、確実に剛性及び制振性の両立を確保できる。
また、可塑剤は、主に、塩化ビニル樹脂を可塑化するために一般に使用されている任意のものを使用することができる。例えば、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘキシルフタレート(DHP)、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジ−n−オクチルフタレート(DnOP)、ジイソオクチルフタレート(DIOP)、ジデシルフタレート(DDP)、ジノニルフタレート(DNP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ビス−2−エチルヘキシルフタレート(DEHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、C6〜C10混合高級アルコールフタレート、ブチルベンジルフタレート(BBP)、オクチルベンジルフタレート、ノニルベンジルフタレート等のアルキルベンジルフタレート類、ジメチルシクロヘキシルフタレート(DMCHP)等のフタル酸エステル系や、ジオクチルアジペート(DOA)、ジオクチルアゼレート(DOZ)、ジオクチルセバケート(DOS)等の直鎖二塩基酸エステル類や、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリオクチルホスフェート(TOF)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、モノオクチルジフェニルホスフェート、モノブチル−ジキシレニルホスフェート(B−Z−X)等のリン酸エステル系や、トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート(TOTM)、トリ−n−オクチルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、トリイソオクチルトリメリテート等の安息香酸エステル系や、ブチルフタルブチルグリコレート(BPBG)、トリブチル・クエン酸エステル、トリオクチル・アセチルクエン酸エステル、トリメット酸エステル、クエン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステルC6〜C10脂肪酸のトリまたはテトラエチレングリコールエステル、アルキルスルホン酸エステル、メチルアセチルリシノレート等のエステル類や、大豆油等の不飽和脂肪酸グリセライドの二重結合を過酸化水素や過酢酸でエポキシ化したもの(ESBO)、ブチルまたはオクチルのアルキルオレイン酸エステル等のエポキシ化合物等のエポキシ化植物油、アジピン酸のような二塩基酸のプロピレングリコールエステル単位を直鎖状に連結した平均分子量500〜8000程度の粘稠な低重合度ポリエステル系(例えば、アジピン酸ポリエステル、フタル酸系ポリエステル)等が挙げられ、これらは1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用することが可能である。
中でも、フタル酸エステルは最も一般的な可塑剤で入手も容易であるため低コスト化でき、特に、環境負荷とならない点、取り扱い易さ、溶解性、塗装性、貯蔵安定性等を考えると、フタル酸エステルの中でもフタル酸ジイソノニル(DINP)やジオクチルフタレート(DOP)が最も一般的に使用される。
可塑剤は、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、例えば、10重量部〜100重量部、好ましくは、20重量部〜80重量部配合される。可塑剤が多すぎると得られる補強材の剛性及び常温での制振性が低下し、可塑剤が少な過ぎる場合には、組成物の粘度が高くて塗布が困難である。また、補強材が硬くなり過ぎてパネル歪みが生じやすくなる。
エポキシ樹脂用の潜在性硬化剤とは、加熱によってエポキシ樹脂と反応して硬化するものをいい、例えば、ジシアンジアミド(DICY)、グアニジン誘導体、トリアジン誘導体、ピリミジン誘導体、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(DDS)、ジアミノジフェニルメタン等のポリアミン、アジピン酸ジヒドラジド、ステアリン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、二塩基酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等の酸ヒドラジド化合物、2−n−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、N,N−ジアルキル尿素誘導体やN,N−ジアルキルチオ尿素誘導体等の尿素系化合物、テトラヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロフタル酸等の酸無水物、三フッ化ホウ素錯化合物、フェノールノボラック樹脂等の加熱(好ましくは、80〜250℃で活性化)によって硬化剤としての作用を示す(活性化される)潜在性硬化剤として一般に用いられるものを、1種あるいは2種以上混合して用いることができる。中でも潜在性に優れるジシアンジアミド(DICY)が好適である。その配合量は、エポキシ樹脂のエポキシ当量に応じて適宜決められる。配合量が少なすぎると硬化不良により、得られる補強材において剛性やパネルへの密着性を確保できず、配合量が多すぎると、パネル歪みが生じやすく、また、制振性を確保できない。更に、硬化時の過剰な発熱により樹脂の分解、熱劣化等を生じる可能性もある。
本発明を実施する場合には、必要に応じ、硬化速度を高めて生産性を上げるために、または、硬化温度や硬化性を調整するために硬化促進剤を配合することも可能である。
この硬化促進剤としては、アミン系(例えば、3−(3,4−ジクロロフェニル)−N,N−ジメチル尿素(DCMU)、三級アミン、三フッ化モノエチルアミン、三塩化アミン錯体等のアミン錯体、アミンアダクト化合物等)、イミダゾール系(例えば、2−ペプタデシルイミダゾール(C17Z)、2−ウンデシルイミダゾール(C11Z)、2−フェニルイミダゾール(2PZ)、1,2−ジメチルイミダゾール(1,2DMZ)、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、イミダゾールアダクト化合物等)、ヒドラジッド化合物(例えば、アジピン酸ジヒドラジッド、ドデカン二酸ジヒドラジッド)、尿素化合物(例えば、1,1’−(4−メチル−1,3−フェニレン)ビス(3,3−ジメチル尿素)、フェニル−ジメチル尿素、メチレン−ジフェニル−ビスジメチル尿素、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素等の尿素誘導体、フェニルジメチルウレア(PDMU))、ホスフィン、ホスホニウム塩等が挙げられる。
更に、本発明を実施する場合には、必要に応じて、フィラ(充填材)、チキソ剤(チキソ性付与剤)、発泡剤、安定剤、顔料、着色剤等を配合することも可能である。
フィラ(充填材)としては、例えば、炭酸カルシウム、ワラストナイト、メタケイ酸カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩及び硫酸塩、マイカ、酸化チタン、ケイ酸、シリカ、タルク、珪藻土、カオリン、クレイ、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、グラファイト、ヒル石、ゼオライト、カーボンブラック、ゾノライト、チタン酸カリウム、ケイ酸カルシウム、ロックウール、ガラスファイバー、カーボンファイバー、アルミニウムシリケート、ノボロイドファイバー、アルミナ−シリカ系、アラミドファイバー等が挙げられ、これらは、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。中でも、炭酸カルシウムは安価であるため、低コスト化が可能である。
チキソ剤としては、例えば、表面処理炭酸カルシウム、超微粒子シリカ粉末、超微粒子炭酸カルシウム(コロイダル炭酸カルシウム)等が挙げられる。
また、有機発泡剤等の発泡剤を添加することで、補強性を向上させることが可能となる。
ところで、従来、エポキシ樹脂及び潜在性硬化剤が配合された組成物においては、組成物を鋼板パネルに塗布して硬化させると、樹脂の硬化収縮によってパネル歪み(パネル及び補強材の全体の歪み)が生じてしまっていた。
しかし、本発明者らの鋭意実験研究の結果、特定の繊維状フィラを配合することでパネル歪みを抑えることができることを見出した。具体的には、炭素繊維をエポキシ樹脂100重量部に対して12〜190重量部配合することにより、パネル歪みを抑制できた。
そこで、本実施の形態に係る塗布型補強材組成物においては、炭素繊維をエポキシ樹脂100重量部に対して12〜190重量部配合することによって、パネル塗布後の加熱硬化時において、エポキシ樹脂の硬化収縮を緩和し、パネル歪みの発生を抑制可能としている。
特に、繊維長が50μm〜1000μmの範囲内の炭素繊維であれば、塗布性及び剛性を低下させることなく、パネル歪みの発生を抑制できる。より好ましくは、500μm〜1000μmの範囲内であれば、制振性及び剛性を強化できる。
このような炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維等が挙げられ、1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。なお、炭素繊維の径としては適宜選択することができるが、分散性、得られる補強材の剛性を考慮すると、例えば、平均繊維径が1〜60μm、好ましくは、5〜30μmである。また、高弾性の炭素繊維が好ましく、例えば、引張弾性率が200〜800Gpa、より好ましくは、500〜700GPaの炭素繊維の使用により、効果的にパネル歪みを抑制できる。
上述したような塩化ビニル樹脂と、エポキシ樹脂と、エポキシ系希釈剤と、可塑剤と、潜在性硬化剤、炭素繊維等を含有する本実施の形態の塗布型補強材組成物は、車両の鋼板パネル等の表面に塗布されたのち、加熱されることで、硬化して単層型のパネル補強材となる。即ち、パネル上に塗布型補強材組成物からなる連続層の補強塗膜(補強層)を形成する。そして、この単層型のパネル補強材においては、塩化ビニル樹脂の適度に硬質な粘弾性によって、また、ポリマーの運動性を有するエポキシ樹脂の架橋構造等によって、剛性と常温域での制振性とが両立されている。つまり、塗布型補強材組成物から得られた補強材単独で優れた剛性及び制振性を有し、パネルに形成された補強材により補強性が高められると共に制振性が発現され、パネルに高い剛性及び制振特性が付与される。更には、炭素繊維の配合によって、硬化収縮が抑制され、パネル歪みが抑えられる。
なお、塗布型補強材組成物を鋼板パネルに塗布する際には、各材料を配合後、ミキサー、ディゾルバー、グレンミル、ニーダー等の混合分散機や高速攪拌機を用いて材料を均一に混合分散、脱泡して調製したのち、従来公知の塗装方法、例えば、スプレー、刷毛塗り、ビード塗装、ローラー塗装等により、鋼板パネル等へ塗装される。そして、塗布型補強材組成物を鋼板パネル等に塗布した後は、焼付(加熱乾燥)されることにより、塗布型補強材組成物が加熱硬化され鋼板パネルの表面上に補強塗膜が形成される。このときの加熱温度は、エポキシ樹脂の種類や配合量、潜在性硬化剤・硬化促進剤の種類や配合量等を考慮して、エポキシ樹脂が硬化する温度に設定される。後述するように、自動車の製造工程における塗装乾燥時の熱(例えば、120℃〜220℃で、10分〜60分間)を利用して加熱硬化させることも可能である。
このように本実施の形態の塗布型補強材組成物によれば、シート状ではなく塗布型であるから施工の自動化が容易であるうえ、単層構造で剛性と常温域での制振性とが両立したパネル補強材となるから、即ち、1液の塗布剤のみで剛性と常温域での制振性とが両立したパネル補強材を形成できることから、塗布剤の作製も1液のみで済んで取扱性もよく、塗布剤の作製にかかる時間や手間が少なくて済む。更に1液の塗布のみで補強材をパネルに施工できて作業性や作業精度が向上され、補強材の作製にかかる時間や手間も少なくて済み、塗装ロボット等による自動塗装が容易でパネル面への施工に多大な時間及び煩雑な作業を必要とせず、車両の製造工程における工程時間が短縮され、ひいては、車両の生産性を向上させることができる。
また、本実施の形態の塗布型補強材組成物から得られた補強材によれば、常温域での制振性が発現されることで、振動(エンジンルームから伝わる振動、ロードノイズに起因する振動等)や騒音(エンジンノイズ、ロードノイズ、風切り音、雨音、雨滴の衝突音等)を抑制でき、ドア閉め音についてもそれを低減化でき、重厚感のある低い音で収まり感の良い心地よい音にすることができる。また、スピーカーエンクロージャーとしての制振効果による不要共振防止によって、オーディオ音質が向上するという効果も得られる。
更に、本実施の形態の塗布型補強材組成物から得られた補強材の剛性により、補強材が形成されたパネルにおいて、外部応力による凹みや、撓みによるいわゆるベコベコ感が生じることもない。
なお、補強材の厚みは、車両パネルの部位に応じて必要な剛性、制振性等の特性によって設定される。そして、本実施の形態の塗布型補強材組成物から得られる補強材によれば単層構造で剛性と制振性を両立させているが、従来の複層型パネル補強材と比較して、重量を大幅に増大させることのない塗装で、車両パネルの部位に応じて必要な剛性及び制振性を確保できる。即ち、車体パネルの軽量化という要請に反することなく、剛性と制振性を両立することができる。例えば、1mm〜10mmの範囲内の乾燥厚さで補強性を確保でき、かつ、制振性も発現できる。更に、該範囲内の乾燥膜厚であれば、硬化が均質になされており、車内空間を狭くすることもない。
そして、シート状のものでは施工部位に応じた形状の成形加工が必要となりコスト高となるが、塗布型のものでは、施工部位の形状に追従できるためによりコストを抑えることができる。また、施工部位への形状追従性に優れ施工部位が曲面でも塗布できることから、シート型では施工が困難であった場所への施工も容易に可能であり、パネルへの適用範囲が広い。更に、塗布型では、セパレータ(剥離紙)が不要であることで、その廃棄コストもかからず、セパレータ(剥離紙)からの剥離性を考慮しなくてもよいことから、所望の特性の調節が容易にできる。加えて、単層構造で剛性と制振性を両立させているため、複層構造のように層間の界面に応力がかかりやすいことによるズレ、剥離、脱落等が生じる恐れもなく、エポキシ樹脂を配していることで鋼板パネルとの付着性も良い。
また、本実施の形態に係る塗布型補強材組成物においては、塩化ビニル樹脂及び可塑剤を配するも、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂希釈剤の配合によって可塑剤を少なくして組成物をゾルーゲル化させており、更に、炭素繊維が配合されることで流動性も低いことから、鋼板パネルへの粘着性も良く、パネルへの塗布後においても、適度な粘性(粘着性)を有し垂れ落ちたりずれたりすることがなく、車体ボディー洗浄のシャワー等によっても飛散し難いものとなっている。したがって、自動車のボディー、ドア等の塗布型鋼板補強材として用いられた場合、加熱硬化前でもボディー洗浄シャワーの圧力に耐えることができることから、加熱硬化は最終のボディー塗装の加熱乾燥時に同時に行うことによって、自動車生産工程の短縮化を図ることができる。つまり、車両のボディ組立前の塗装乾燥ラインによる加熱乾燥炉の熱を利用して硬化させることが可能であり、効率的な車両生産に貢献できる。
次に、本実施の形態に係る塗布型補強材組成物の実施例を具体的に説明する。
表1に実施例1乃至実施例8に係る塗布型補強材組成物の配合を示すように、実施例1乃至実施例8に係る塗布型鋼板補強材は、塩化ビニル樹脂(PVC)と、エポキシ樹脂としての室温で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂と、エポキシ系希釈剤としてのグリシジルエーテルと、可塑剤としてのジイソノニルフタレートと、潜在性硬化剤としてのジシアンジアミドと、硬化促進剤と、充填剤(フィラ)としての炭酸カルシウムと、チキソ剤としての表面処理炭酸カルシウムと、炭素繊維(引張弾性率640Gpa、繊維長1000μm)を配合してなる。なお、鋼板パネルに塗布する際には高速攪拌器を用いて脱泡攪拌する調製を行った。
ここでは、エポキシ樹脂としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂と、エポキシ系希釈剤としてのグリシジルエーテルと、可塑剤としてのジイソノニルフタレートの配合量、配合比を変えて実施例1乃至実施例8まで製造し、更に比較のために比較例1乃至比較例4をも製造した。
そして、これら実施例1乃至実施例8、比較例1乃至比較例4に係る塗布型補強材組成物を鋼板パネルに塗布し、熱硬化させて試験片を作製し、この試験片について、曲げ剛性(補強性)、制振性及び歪み性の評価試験を行った。なお、実施例1乃至実施例8、比較例1乃至比較例4に係る塗布型補強材組成物を鋼板パネルに塗布し、熱硬化させることにより鋼板パネル上に形成された補強材、つまり、塗布型補強材組成物から得られた補強塗膜は、単層構造である。
曲げ剛性(補強性)試験は、幅25mm×長さ200mm×厚さ0.8mmの鋼板Fの片面に塗布型補強材組成物を25mm×150mmの面積にて、面密度が2.5kg/m2になるように塗布し、130℃×30分の焼付けを2回実施して熱硬化させ補強材1を形成し、この鋼板Fに補強材1が形成されたものを試験片とし、この試験片について、図1に示されるように、100mm間隔に調整した支持点S1,S2の2点支持の中央において鋼板F側よりくさびK(先端丸みR=5mm)にて押圧(試験速度(押圧速度)1mm/min)して3点曲げを行い、1mm変位時点での曲げ応力(荷重)を測定した。曲げ応力が大きいほど曲げ剛性が高く補強性が高いことになる。曲げ応力が13N以上を合格(○)とし、13N未満を不合格(×)とした。なお、同じ試験条件における厚さ0.8mmの鋼板F単独での曲げ応力は10Nであった。
制振性試験は、幅10mm×長さ220mm×厚さ0.8mmの鋼板の片面に塗布型補強材組成物を10mm×200mmの面積にて、面密度が2.5kg/m2になるように塗布し、130℃×30分の焼付けを2回実施して熱硬化させたものを試験片とし、この試験片について、片持ち梁法による損失係数測定を行って、20℃における二次共振点での損失係数ηを半値幅法によって算出した。損失係数が大きいほど、振動減衰効果があり、振動放射音を抑制できることとなる。損失係数ηが0.03以上を合格(○)とし、0.03未満を不合格(×)とした。
歪み性試験は、幅25mm×長さ200mm×厚さ0.8mmの鋼板の片面に塗布型補強材組成物を25mm×150mmの面積にて、面密度が2.5kg/m2になるように塗布し、130℃×30分の焼付けを2回実施して熱硬化させたものを試験片とし、この試験片について、水平な平面に置き、室温(20℃)で縦長方向の試験片端部を押さえたときの反対側の試験片端部の浮き上がり量(mm)を測定した。浮き上がり量が小さいほど、歪みが小さいこととなる。浮き上がり量が1mm以下を合格(○)とし、浮き上がり量が1mmを超える場合は不合格(×)とした。
実施例1乃至実施例8及び比較例1乃至比較例4の各配合(重量部)を表1の上段に、また、実施例1乃至実施例8及び比較例1乃至比較例4について曲げ剛性(補強性)、制振性及び歪み性の評価試験を行ったその結果を表1の下段にまとめて示す。
表1に示されるように、実施例1乃至実施例8は、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、エポキシ樹脂が50〜200重量部の範囲内、エポキシ系希釈剤が20重量部〜80重量部の範囲内、可塑剤が20重量部〜80重量部の範囲内で配合されており、エポキシ系希釈剤及び可塑剤の合計配合量が120重量部以下となっている。エポキシ系希釈剤と可塑剤の配合比はエポキシ系希釈剤/可塑剤=1/4〜4/1の範囲内である。また、潜在性硬化剤が12重量部、硬化促進剤が12重量部、充填材が70重量部、チキソ剤が80重量部、炭素繊維が30重量部配合されている。
その結果、実施例1乃至実施例8では、何れも、補強性について、曲げ応力が13N以上と曲げ剛性が高く○(合格)の評価であり、更に、制振性についても、20℃における損失係数が0.03以上と高い制振性能が発現され、○(合格)の評価であった。また、歪み性についても、何れも浮き上がりが認められず(歪みが発生しておらず)、○(合格)の評価であった。
特に、実施例1乃至実施例3は、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、エポキシ樹脂が80〜180重量部の範囲内、エポキシ系希釈剤及び可塑剤の合計配合量が100重量部以下となっており、エポキシ樹脂希釈剤と可塑剤の配合比が、エポキシ系希釈剤:可塑剤=2:3〜4:1の範囲内である。
その結果、実施例1乃至実施例3では、何れも曲げ応力が25N以上、32N以下で、かつ、20℃における損失係数が0.05以上、0.07以下となっており、補強性(剛性)及び制振性のバランスが良い。
このように実施例1乃至実施例8は、補強性及び制振性を兼ね備えた単層構造の補強塗材層を形成でき、かつ、パネル歪みの発生を抑制できる塗布型補強材組成物である。
これに対して、比較例1は、エポキシ樹脂以外は実施例1、実施例2、実施例5及び実施例6と同じ配合量であるも、即ち、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、エポキシ系希釈剤が40重量部、可塑剤が60重量部、エポキシ系希釈剤及び可塑剤の合計配合量が100重量部、硬化剤が12重量部、硬化促進剤が12重量部、充填材が70重量部、チキソ剤が80重量部、炭素繊維が30重量部配合されているも、塩化ビニル樹脂100重量部に対するエポキシ樹脂の配合量が30重量部と実施例5よりも更に少なくなっている。
この結果、比較例1では、制振性及び歪み性については○(合格)の評価であるも、補強性については曲げ応力が13N未満で不合格(×)の評価であり、曲げ剛性が不足している。
また、比較例2は、エポキシ樹脂以外は実施例1、実施例2、実施例5及び実施例6と同じ配合量であるも、即ち、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、エポキシ系希釈剤が40重量部、可塑剤が60重量部、エポキシ系希釈剤及び可塑剤の合計配合量が100重量部、硬化剤が12重量部、硬化促進剤が12重量部、充填材が70重量部、チキソ剤が80重量部、炭素繊維が30重量部配合されているも、塩化ビニル樹脂100重量部に対するエポキシ樹脂の配合量が250重量部と実施例6よりも更に多くなっている。
この結果、比較例2では、補強性及び歪み性については○(合格)の評価であるも、制振性については20℃での損失係数が0.03未満で不合格(×)の評価であり、制振性が不足している。
更に、比較例3は、エポキシ系希釈剤及び可塑剤以外は実施例1、実施例3、実施例4、実施例7及び実施例8と同じ配合量であるも、即ち、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、エポキシ樹脂が80重量部、硬化剤が12重量部、硬化促進剤が12重量部、充填材が70重量部、チキソ剤が80重量部、炭素繊維が30重量部配合されているも、エポキシ系希釈剤が80重量部、可塑剤が60重量部で、塩化ビニル樹脂100重量部に対するエポキシ系希釈剤及び可塑剤の合計配合量が140重量部と実施例7及び実施例8よりも更に多くなっている。
この結果、比較例3では、制振性及び歪み性については○(合格)の評価であるも、補強性については曲げ応力が13N未満で不合格(×)の評価であり、曲げ剛性が不足している。
比較例4についても、エポキシ系希釈剤及び可塑剤以外は実施例1、実施例3、実施例4、実施例7及び実施例8と同じ配合量であるも、即ち、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、エポキシ樹脂が80重量部、硬化剤が12重量部、硬化促進剤が12重量部、充填材が70重量部、チキソ剤が80重量部、炭素繊維が30重量部配合されているも、比較例4ではエポキシ系希釈剤よりも可塑剤の配合量が多くてエポキシ系希釈剤が40重量部、可塑剤が100重量部で、塩化ビニル樹脂100重量部に対するエポキシ系希釈剤及び可塑剤の合計配合量が140重量部と実施例7及び実施例8よりも更に多くなっている。
この結果、比較例4についても、制振性及び歪み性は○(合格)の評価であるも、補強性については曲げ応力が13N未満で不合格(×)の評価であり、剛性が不足している。
このように比較例1乃至比較例4の配合では、補強性(曲げ剛性)、制振性の何れかについて実用性に欠けるものとなっている。
即ち、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、液状エポキシ樹脂が50重量部未満では、組成物硬化後の剛性が不足して、補強性が低くなる。一方、液状エポキシ樹脂が200重量部を超えると、十分な制振性を発現することができない。エポキシ樹脂が配合が多すぎると、エポキシ樹脂の過密な3次元架橋によってポリマーの運動性が阻害されるためと思われる。
また、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、エポキシ系希釈剤及び可塑剤の総量が120重量部を超えても、組成物硬化後の剛性が低く、薄厚化されたパネルの補強材として十分な補強効果が得られない。エポキシ系希釈剤及び可塑剤の配合が多すぎると、液状エポキシ樹脂の硬化性が低下したり塩化ビニル樹脂が軟化したりするためである。
これに対し、実施例1乃実施例8の配合では、単層構造で補強性及び制振性を兼ね備えた補強材を形成でき、かつ、パネル歪みの発生を抑制できる塗布型補強材組成物が得られている。
即ち、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、エポキシ樹脂の配合量が50重量部〜200重量部の範囲内であり、エポキシ系希釈剤及び可塑剤の合計配合量が120重量部以下であれば、薄厚パネルの補強材として十分な剛性及び常温域での十分な制振性能が両立し、剛性と制振性の双方を満足させることができる。
より好ましくは、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、エポキシ樹脂が80〜180重量部の範囲内、エポキシ樹脂希釈剤及び可塑剤の合計配合量が100重量部以下で、エポキシ樹脂希釈剤と可塑剤の配合比が、2:3〜4:1の範囲内であれば、剛性と制振性のバランスが良い。
また、炭素繊維によって硬化収縮によるパネル歪みの発生が抑えられる。
こうして、実施例1乃実施例8の配合に係る塗布型補強材組成物によって得られた補強材(補強塗膜)は、補強性(曲げ剛性)及び制振性が両立して何れも優れたものであり、更にパネル歪みを発生させることもない。
ここで、本実施の形態に係る塗布型補強材組成物において、エポキシ樹脂の硬化収縮によるパネル歪みの発生を抑制するために配合された繊維状フィラとしての炭素繊維について、炭素繊維の繊維長や配合量を変えた実験例1乃実験例6を説明する。更に比較のために、実験例1乃実験例6とは繊維状フィラの種類、繊維長、配合量が異なる実験例7乃実験例9をも製造した。表2の上段に、各実験例の繊維状フィラの種類、配合量、繊維長の詳細を示す。なお、表2の実験例1は、繊維長の比較として上述の表1に示した実施例1を挙げている。また、表2において繊維状フィラの配合量は、塩化ビニル樹脂100重量部に対しての配合量(重量部)を示している。
表2に示す実験例は、繊維状フィラ以外、上述した実施例1に係る塗布型補強材組成物と同じ配合組成で、塗布型補強材組成物を作製したものである。即ち、実験例においても、実施例1と同様、塩化ビニル樹脂(PVC)と、エポキシ樹脂としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂と、エポキシ系希釈剤としてのグリシジルエーテルと、可塑剤としてのジイソノニルフタレートと、潜在性硬化剤としてのジシアンジアミドと、硬化促進剤と、フィラ(充填材)としての炭酸カルシウムと、チキソ剤としての表面処理炭酸カルシウムと、各種繊維状フィラが配合されてなり、鋼板パネルに塗布する際には高速攪拌器で脱泡攪拌して調製している。配合量については、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、エポキシ樹脂が80重量部、エポキシ系希釈剤が40重量部、可塑剤が60重量部、エポキシ系希釈剤及び可塑剤の合計配合量が100重量部、硬化剤が12重量部、硬化促進剤が12重量部、充填材(フィラ)が70重量部、チキソ剤が80重量部配合されている。
そして、実験例についても、上記実施例1乃至実施例8、比較例1乃至比較例4のときと同様、各塗布型補強材組成物を鋼板に塗布し、熱硬化させて試験片を作製し、この試験片について、曲げ剛性(補強性)、制振性、歪み性の評価試験を行った。各試験方法については、上述した通りである。なお、実験例についても、塗布型補強材組成物を鋼板に塗布し、熱硬化させることにより鋼板上に形成された補強材(補強塗膜)は、単層構造である。曲げ剛性(補強性)、制振性及び歪み性の評価試験の結果は表2の下段に示している。
表2に示されるように、実験例1乃至実験例6においては、繊維状フィラに炭素繊維が使用され、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、繊維長が50μm〜1000μmの範囲内である炭素繊維が10〜150重量部の範囲内で配合されている。
ここで、実験例1乃至実験例6においては、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、エポキシ樹脂が80重量部、炭素繊維が10〜150重量部の範囲内で配合されていることから、エポキシ樹脂100重量部に対する炭素繊維の配合量は、約12重量部〜190重量部の範囲内となる。
その結果、実験例1乃至実験例6においては、何れも、歪み性について浮き上がり量が1mm以下で○(合格)の評価であった。また、補強性についても、曲げ応力が13N以上と曲げ剛性が高く○(合格)の評価であり、更に、制振性についても、20℃での損失係数が0.03以上と高い制振性能が発現され、○(合格)の評価であった。
特に、繊維長が50μm〜1000μmの範囲内である炭素繊維の配合量が30重量部〜150重量部の範囲内で配合された実験例1乃至実験例3、実験例5、及び実験例6では、パネルの歪み性について何れも浮き上がりが認められず(歪みが発生しておらず)、パネル歪みの抑制効果に優れており、硬化収縮等に起因するパネル歪みが認められなかった。
このように実験例1乃至実験例6も、単層構造で補強性及び制振性を兼ね備えた補強塗層を形成でき、かつ、パネル歪みの発生を抑制できる塗布型補強材組成物である。
これに対して、実験例7は、実験例1、実験例4及び実験例5と同じ繊維長が1000μmの炭素繊維を使用するも、塩化ビニル樹脂100重量部に対しての炭素繊維の配合量が5重量部であり、実験例4よりも更に少なくなっている。つまり、エポキシ樹脂100重量部に対しての炭素繊維の配合量が12重量部未満である。
この結果、実験例7では、補強性(曲げ剛性)及び制振性は○(合格)の評価であるも、歪み性については浮き上がり量が1mmを超えて不合格(×)の評価であり、歪みの抑制効果が低かった。
また、炭素繊維に代えて、繊維長が150μmのガラス繊維を配合した実験例8及び繊繊維長が0.3μm〜0.6μmのチタン酸カリウムを配合した実験例9においても、補強性(曲げ剛性)及び制振性は○(合格)の評価であるも、歪み性については浮き上がり量が1mmを超えて不合格(×)の評価であり、歪みの抑制効果が殆ど認めらなかった。
このように、実験例7乃至実験例9では、歪み性について実用性に欠けるものとなっている。
即ち、炭素繊維がエポキシ樹脂100重量部に対する配合量で12重量部未満であると、炭素繊維による硬化収縮の抑制力が弱く、組成物の硬化収縮によってパネル歪みが発生する。また、ガラス繊維やチタン酸カリウムの配合では、組成物の硬化収縮を効果的に抑制することができない。
更に、本発明者らの実験研究によって、エポキシ樹脂100重量部に対して炭素繊維の配合量が190重量部を超えると、組成物の流動性が悪くなり塗布性(塗布作業性)が低下することが判明している。
これに対し、実験例1乃至実験例6の配合では、単層構造で補強性及び制振性を兼ね備えた補強材を形成でき、かつ、パネル歪みの発生を抑制できる塗布型補強材組成物が得られている。
ここで、本発明者らの実験研究によれば、炭素繊維の繊維長が50μm未満では、繊維による補強効果が低く、エポキシ樹脂の配合量が少ない場合に高い補強性(曲げ剛性)が確保できない恐れもあり、一方で、炭素繊維の繊維長が1000μmを超えると、組成物の流動性が悪くなり塗布性が低下することが判明し、繊維長が50μm〜1000μmの範囲内であれば、塗布性(塗布作業性)を確保しつつ、パネル歪みを抑制でき、また、剛性を強化できることを確認している。
特に、実験例1乃至実験例6から炭素繊維の繊維長によっても、塗布型補強材組成物により形成される補強材の補強性(曲げ剛性)や制振性の特性、バランスを調節できることが分かる。繊維長が長いほど剛性が強くなり、特に、実験例1乃至実験例3、実験例6から、繊維長が500μm〜1000μmの範囲内の炭素繊維によれば、炭素繊維の繊維長が長いほど、制振性及び剛性が高くなっている。即ち、繊維長が500μm〜1000μmの範囲内の炭素繊維によれば、制振性及び剛性を強化できる。より好ましくは、繊維長が750μm〜1000μmの範囲内の炭素繊維の使用により高い制振性を確保しつつ、更なる補強効果が得られる。
したがって、繊維長が50μm〜1000μの範囲内である炭素繊維をエポキシ樹脂100重量部に対して12〜190重量部の範囲内で配合することにより、補強性(曲げ剛性)、制振性、及び塗布性を確保しつつ、樹脂の硬化収縮等に起因するパネル歪みを効果的に抑えることができる。また、炭素繊維であれば比重も小さく、軽量化を図ることができる。
このように塩化ビニル樹脂と、エポキシ樹脂と、エポキシ系希釈剤と、可塑剤と、硬化剤、炭素繊維を少なくとも含有し、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、液状エポキシ樹脂の配合量が50重量部〜200重量部の範囲内であり、エポキシ系希釈剤及び可塑剤の合計配合量が120重量部以下であり、繊維長50μm〜1000μmの範囲内の炭素繊維がエポキシ樹脂100重量部に対する配合量で12重量部〜190重量部配合された実施例1(実験例1)乃至実施例8、及び、実験例2乃至実験例6の配合に係る塗布型補強材組成物によれば、曲げ剛性試験における曲げ応力が13N〜35Nであり、制振性試験における20℃の損失係数が0.03〜0.1であり、歪み性試験における浮き上がり量が1mm以下の補強材が得られる。
こうして、実施例1(実験例1)乃至実施例8、及び、実験例2乃至実験例6の配合に係る塗布型補強材組成物から得られた補強材においては、補強性(曲げ剛性)及び制振性が両立して何れも優れており、更に、歪みの発生が抑制されている。
以上説明してきたように、本実施の形態の塗布型補強材組成物は、少なくとも塩化ビニル樹脂と、エポキシ樹脂と、エポキシ系希釈剤と、可塑剤と、潜在性硬化剤とを含有し、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、エポキシ樹脂の配合量が50重量部〜200重量部の範囲内であり、エポキシ系希釈剤及び可塑剤の総量が120重量部以下であるものである。
このような本実施の形態の塗布型補強材組成物によれば、エポキシ樹脂とエポキシ系希釈剤によって、可塑剤の配合量を少なくしても塩化ビニル樹脂を含む組成物がゾル−ゲル化されて塗布可能とされ、また、可塑剤の配合量を少なくすることで塩化ビニル樹脂の適度に硬質な粘弾性が確保され、更に、潜在性硬化剤によってエポキシ樹脂が硬化されてポリマーの運動性を有するエポキシ樹脂の架橋構造が確保されることにより、高い剛性を有し、かつ、常温域での制振性を発現し、単層構造で剛性と制振性との両立を可能とした補強材を形成できる。
本実施の形態の塗布型補強材組成物は、更に、繊維長が50μm〜1000μmの範囲内の炭素繊維が、エポキシ樹脂100重量部に対する配合量で12重量部〜190重量部配合されていることで、剛性及び塗布性を確保しつつ、エポキシ樹脂の硬化による収縮を抑制し、パネル歪みの発生を抑制できる。
こうして、本実施の形態の塗布型補強材組成物によれば、単層構造で剛性と制振性との両立を可能とした補強材を形成できるうえ、パネル歪みの発生を抑制できる。
また、上記実施の形態は、少なくとも塩化ビニル樹脂100重量部と、エポキシ樹脂と、エポキシ系希釈剤と、可塑剤と、エポキシ樹脂用の潜在性硬化剤とを含有し、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、液状エポキシ樹脂の配合量が50重量部〜200重量部の範囲内であり、エポキシ系希釈剤及び可塑剤の合計配合量が120重量部以下である塗布型補強材組成物が、加熱硬化されてなる補強材の発明と捉えることもできる。
このように、少なくとも塩化ビニル樹脂100重量部と、エポキシ樹脂と、エポキシ系希釈剤と、可塑剤と、エポキシ樹脂用の潜在性硬化剤とを含有し、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、液状エポキシ樹脂の配合量が50重量部〜200重量部の範囲内であり、エポキシ系希釈剤及び可塑剤の合計配合量が120重量部以下である塗布型補強材組成物が加熱硬化されてなる補強材によれば、塩化ビニル樹脂の適度に硬質な粘弾性が確保され、更に、潜在性硬化剤によってエポキシ樹脂が硬化されてポリマーの運動性を有するエポキシ樹脂の架橋構造が確保されることにより、かかる補強材の単層のみで(単独で)、優れた剛性及び常温域での制振性を併せ持つ。
なお、本発明を実施する場合には、塗布型補強材組成物のその他の組成、成分、配合量、材質、大きさ、製造方法等については、上記実施の形態に限定されるものではない。