以下、本発明の各実施の形態について説明する。
本発明者らは、MoSiONに代表される金属シリサイド酸窒化物からなる単層構造の位相シフト膜の構成をベースとして、所定の位相差(150度以上190度以下)を確保しつつ透過率を10%以上とすることが可能である位相シフト膜であり、かつ、EB欠陥修正で修正を行ったときに位相シフト膜と透光性基板との境界を検出するためのエッチング終点の検出が容易である位相シフト膜について、鋭意研究を行った。
EB欠陥修正では、黒欠陥に対して電子線を照射したときに、照射を受けた部分から放出されるオージェ電子、2次電子、特性X線、後方散乱電子の少なくともいずれか1つを検出し、その変化を見ることでエッチング終点を検出している。例えば、電子線の照射を受けた部分から放出されるオージェ電子を検出する場合には、オージェ電子分光法(AES)によって、主に材料組成の変化を見ている。また、2次電子を検出する場合には、SEM像から主に表面形状の変化を見ている。さらに、特性X線を検出する場合には、エネルギー分散型X線分光法(EDX)や波長分散X線分光法(WDX)によって、主に材料組成の変化を見ている。後方散乱電子を検出する場合には、電子線後方散乱回折法(EBSD)によって、主に材料の組成や結晶状態の変化を見ている。
一般に、位相シフト膜を金属シリサイドの化合物で形成する場合、位相シフト膜に求められる光学特性の制約があるため、その材料における金属の含有量[原子%]を金属とケイ素の合計含有量[原子%]で除した比率[%](以下、この比率を「M/[M+Si]比率」という。)が少なくとも20%以下である必要がある。つまり、以前から位相シフト膜中の金属の含有量は多くはなかった。
従来のMoSiNに代表される金属シリサイド窒化物からなる単層構造の位相シフト膜の場合、金属の含有量は比較的少ない(M/[M+Si]比率が20%以下)が、EB欠陥修正において前記のいずれのエッチング終点検出方法を用いても、エッチング終点を検出することはできていた。しかし、金属シリサイド窒化物を用い、所定の位相差を有し、かつ透過率が10%以上である位相シフト膜を形成する場合、M/[M+Si]比率を5%未満にする必要がある。M/[M+Si]比率が5%未満の金属シリサイド窒化物で位相シフト膜を形成した場合、EB欠陥修正におけるエッチングレートが大幅に低下してしまい、酸化ケイ素を主成分とする透光性基板との間でエッチング選択性を確保することが難しくなるという問題がある。
一方、金属シリサイド酸窒化物からなる単層構造の位相シフト膜の場合、金属の含有量を多く(M/[M+Si]比率が5%以上)しても、所定の位相差を確保しつつ透過率を10%以上とすることができる。しかし、位相シフト膜のM/[M+Si]比率を5%以上としながらも、透過率が10%以上という光学特性を持たせるには、酸素を所定量以上は含有させる必要がある。このような金属シリサイド酸窒化物からなる位相シフト膜は、ケイ素と酸素を一定量以上含有しており、透光性基板もケイ素と酸素を主成分としており、両方の構成元素が比較的近い状態にある。このため、EB欠陥修正において前記のいずれのエッチング終点検出方法を用いても、エッチング終点の検出が難しいという問題を抱えている。
本発明者らは、金属シリサイド窒化物からなる層と金属シリサイド酸窒化物からなる層を積層した構造の位相シフト膜とすることによって、各材料の層のそれぞれが有するメリットを生かしつつ、デメリットを解消できるのはないかと考えた。まず、金属シリサイド窒化物からなる層を下層として透光性基板側に配置し、金属シリサイド酸窒化物からなる層をその下層の上に上層として積層した構造の位相シフト膜とすることとした。これにより、EB欠陥修正時に位相シフト膜と透光性基板との間におけるエッチング終点検出を容易にすることができるようになった。
次に、位相シフト膜の金属シリサイド窒化物からなる下層と金属シリサイド酸窒化物からなる上層をともに、M/[M+Si]比率が5%以上となるようにした。これにより、EB欠陥修正時におけるエッチングレートを上層および下層ともに速くすることができた。さらに、位相シフト膜の金属シリサイド窒化物からなる下層の厚さを位相シフト膜の全体厚さの1/3以下となるようにした。これにより、位相シフト膜の積層構造の中に、M/[M+Si]比率が5%以上である金属シリサイド窒化物からなる下層を備えていても、位相シフト膜全体で所定の位相差(150度以上190度以下)を確保しつつ10%以上の透過率を有するように調整することが可能となった。
また、位相シフト膜の下層および上層において、各層の材料中に金属、ケイ素、窒素および酸素に加え、これらの主構成元素以外の元素を含有させた場合であっても、位相シフト膜における主構成元素以外の元素の合計含有量が10原子%以下の範囲であれば、位相シフト膜の光学的な諸特性やEB欠陥修正に関連する諸特性に対する影響は小さく、許容できる範囲であることも分かった。以上のような位相シフト膜の構成とすることで、前記の技術的課題を解決できるという結論に至った。
すなわち、本発明は、透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を10%以上の透過率で透過させる機能と、位相シフト膜を透過した露光光に対して位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間で150度以上190度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、位相シフト膜は、透光性基板側から下層と上層が積層した構造を含み、下層は、金属、ケイ素および窒素を含有し、酸素を実質的に含有しない材料で形成され、上層は、金属、ケイ素、窒素および酸素を含有する材料で形成され、下層の厚さは、前記位相シフト膜の全体の厚さの1/3以下であり、上層および下層は、前記金属およびケイ素の合計含有量に対する前記金属の含有量の比率がともに5%以上であることを特徴とするマスクブランクである。
図1は、本発明の実施形態に係るマスクブランク100の構成を示す断面図である。図1に示す本発明のマスクブランク100は、透光性基板1上に、位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4がこの順に積層された構造を有する。
位相シフト膜2には、ArFエキシマレーザーのような波長が200nm以下の露光光(以下、ArF露光光という。)に対する透過率が10%以上であることが求められる。これにより、従来のハーフトーン型位相シフトマスクに比べ、高い位相シフト効果を得られる。また、位相シフト膜2は、ArF露光光に対する透過率が30%以下であることが好ましく、20%以下であるとより好ましい。
位相シフト膜2は、適切な位相シフト効果を得るために、透過するArF露光光に対し、この位相シフト膜2の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した光との間で生じる位相差が150度以上190度以下の範囲になるように調整されていることが求められる。位相シフト膜2における前記位相差の下限値は、160度以上であることが好ましく、170度以上であるとより好ましい。他方、位相シフト膜2における前記位相差の上限値は、180度以下であることが好ましく、179度以下であるとより好ましい。位相シフト膜2にパターンを形成するときのドライエッチング時に、透光性基板1が微小にエッチングされることによる位相差の増加の影響を小さくするためである。また、近年の露光装置による位相シフトマスクへのArF露光光の照射方式が、位相シフト膜2の膜面の垂直方向に対して所定角度で傾斜した方向からArF露光光を入射させるものが増えてきているためでもある。
位相シフト膜2は、透光性基板側から、下層21と上層22が積層した構造を有する。位相シフト膜2の下層21は、金属、ケイ素および窒素を含有し、酸素を実質的に含有しない材料で形成される。前記のとおり、下層21は、EB欠陥修正時に位相シフト膜2と透光性基板1との間におけるエッチング終点検出を容易にするために設けられたものであり、位相シフト膜2の全体での厚さを薄くすることにも寄与する層である。このため、下層21は、酸素を実質的に含有しない材料であることが必要とされる。ここで、酸素を実質的に含有しない材料とは、材料中の酸素含有量が少なくとも5原子%以下である材料である。下層21の形成する材料の酸素含有量は、3原子%以下であると好ましく、X線光電子分光法等による組成分析を行ったときに検出下限値以下であるとより好ましい。特に、下層21は、金属、ケイ素および窒素からなる材料で形成されていることが好ましい。
下層21を形成する材料中に含有させる金属元素としては、遷移金属元素であることが好ましい。この場合の遷移金属元素としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)およびパラジウム(Pd)のうちいずれか1つ以上の金属元素が挙げられる。また、下層21を形成する材料中に含有させる遷移金属元素以外の金属元素としては、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、スズ(Sn)およびガリウム(Ga)などが挙げられる。下層21を形成する材料には、前記の元素に加え、炭素(C)、水素(H)、ホウ素(B)、ゲルマニウム(Ge)およびアンチモン(Sb)等の元素が含まれてもよい。また、下層21を形成する材料には、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)等の不活性ガスが含まれてもよい。
下層21を形成する材料の窒素含有量は、30原子%以上であると好ましく、35原子%以上であるとより好ましく、40原子%以上であるとさらに好ましい。一方、下層21の形成する材料の窒素含有量は、60原子%以下であると好ましく、55原子%以下であるとより好ましく、50原子%以下であるとさらに好ましい。
下層21は、透光性基板1の表面に接して形成されていることが好ましい。EB欠陥修正時において、透光性基板1と下層21の間にEB欠陥修正がしにくい材料の膜(例えば、クロム系材料の膜)がない方が好ましいためである。また、位相シフト膜2に下層21を備えているため、ガラス材料の透光性基板1と下層21が接していても、EB欠陥修正時に位相シフト膜2と透光性基板1との間におけるエッチング終点検出が比較的容易であるためである。
一方、位相シフト膜2の上層22は、金属、ケイ素、窒素および酸素を含有する材料で形成される。前記のとおり、EB欠陥修正におけるエッチングレートを大幅に低下させないためには、位相シフト膜2のM/[M+Si]比率を5%以上とする必要があり、さらに位相シフト膜2の透過率が10%以上となるようにするには、上層22を形成する材料には、酸素を含有させる必要がある。これらの点を考慮すると、上層22の形成する材料の酸素含有量は、5原子%よりも多いことが好ましく、10原子%以上であるとより好ましく、15原子%以上であるとさらに好ましい。一方、上層22中の酸素含有量が多くなるにつれて、位相シフト膜2の全体におけるArF露光光に対する所定の透過率と位相差を確保するために必要となる位相シフト膜2の全体での厚さが厚くなっていく。これらの点を考慮すると、上層22を形成する材料の酸素含有量は、30原子%以下であると好ましく、25原子%以下であるとより好ましく、20原子%以下であるとさらに好ましい。
上層22を形成する材料の窒素含有量は、20原子%以上であると好ましく、25原子%以上であるとより好ましく、30原子%以上であるとさらに好ましい。一方、上層22の形成する材料の窒素含有量は、50原子%以下であると好ましく、45原子%以下であるとより好ましく、40原子%以下であるとさらに好ましい。
上層22を形成する材料中に含有させる金属元素に関する事項、上層22を形成する材料中に含有させる遷移金属元素以外の金属に関する事項、および上層22を形成する材料に含有させるその他の元素に関する事項については、下層21の場合と同様である。下層21を形成する材料と上層22を形成する材料は、ともに同じ金属元素を含有させることが好ましい。上層22と下層21は、同じエッチングガスを用いたドライエッチングによってパターニングされる。このため、上層22と下層21は、同じエッチングチャンバー内でエッチングすることが望ましい。上層22と下層21を形成する各材料に含有している金属元素が同じであると、上層22から下層21へドライエッチングする対象が変わっていくときのエッチングチャンバー内の環境変化を小さくすることができる。
上層22および下層21は、各層を形成する材料におけるM/[M+Si]比率がともに5%以上であることが求められる。上層22および下層21のM/[M+Si]比率を5%以上とすることにより、EB欠陥修正時のエッチングレートを所定以上にすることができ、酸化ケイ素を主成分とする透光性基板1との間におけるエッチング選択性を確保することができる。また、上層22および下層21のM/[M+Si]比率は、6%以上であると好ましく、7%以上であるとより好ましい。
下層21を形成する材料におけるM/[M+Si]比率は、少なくとも15%以下であることが求められる。下層21のM/[M+Si]比率を15%よりも大きくすると、下層21の消衰係数kが高くなりすぎて、位相シフト膜10の全体のおけるArF露光光に対する透過率を10%以上にすることが難しくなる。また、下層21におけるArF露光光の積算照射に対する耐性も低下する。下層21を形成する材料におけるM/[M+Si]比率は、12%以下であることが好ましく、10%以下であるとより好ましい。
一方、上層22を形成する材料におけるM/[M+Si]比率は、少なくとも20%以下であることが求められる。上層22のM/[M+Si]比率を20%よりも大きくすると、酸素含有量を増やしても上層22の屈折率nをあまり小さくならないようにしつつ消衰係数kを小さくすることが難しくなり、位相シフト膜10の全体のおけるArF露光光に対する透過率を10%以上にすることが難しくなる。また、上層22におけるArF露光光の積算照射に対する耐性も低下する。上層22を形成する材料におけるM/[M+Si]比率は、15%以下であることが好ましく、10%以下であるとより好ましい。
下層21におけるM/[M+Si]比率から上層22におけるM/[M+Si]比率を引いた差が少なくとも10%以下であることが求められる。下層21と上層22の間において、M/[M+Si]比率の差が10%よりも大きいと、下層21と上層22の間におけるEB欠陥修正におけるエッチングレートの差が大きくなってしまい、EB欠陥修正を行った部分の位相シフト膜2のパターン側壁形状に段差が生じやすくなる。下層21におけるM/[M+Si]比率から上層22におけるM/[M+Si]比率を引いた差は、8%以下であると好ましく、5%以下であるとより好ましく、実質同じ(1%以下)であると特に好ましい。
位相シフト膜2は、厚さが少なくとも90nm以下であることが求められる。電磁界効果に係るバイアス(EMFバイアス)を小さくするためである。位相シフト膜2の厚さは、85nm以下であることが好ましく、80nm以下であるとより好ましい。また、位相シフト膜2の厚さは、50nm以上であることが求められ、55nm以上であると好ましく、60nm以上であるとより好ましい。
下層21は、EB欠陥修正時に位相シフト膜2と透光性基板1との間におけるエッチング終点検出を容易にする機能等を発揮させるため、厚さが2nm以上であることが求められる。下層21は、3nm以上であると好ましく、5nm以上であるとより好ましい。一方、下層21は、厚すぎると、位相シフト膜2の全体におけるArF露光光に対する透過率を10%以下とすることが難しくなる。この点を考慮すると、下層21は、厚さが30nm以下であることが求められ、28nm以下であると好ましく、25nm以下であるとより好ましい。
位相シフト膜2における下層21の厚さは、位相シフト膜2の全体の厚さの1/3以下であることが求められる。EB欠陥修正時のエッチングレートを所定以上にするために、下層21および上層22ともに、M/[M+Si]比率が5%以上である材料を用いている。この場合においては、下層21の厚さを位相シフト膜2の全体の厚さの1/3よりも大きくすると、位相シフト膜2の全体でのArF露光光に対する透過率を10%以上にすることは難しくなる。位相シフト膜2における下層21の厚さは、位相シフト膜2の全体の厚さの3/10以下であることが好ましく、2/7以下であることが好ましい。
位相シフト膜2の全体において、前記の光学特性と膜の厚さに係る諸条件を満たすためには、下層21と上層22の光学特性を所定範囲内とすることが求められる。下層21の屈折率nは、2.25以上であると好ましく、2.35以上であるとより好ましい。また、下層21の屈折率nは、2.60以下であると好ましく、2.50以下であるとより好ましい。下層21の消衰係数kは、0.35以上であると好ましく、0.45以上であるとより好ましい。また、下層21の消衰係数kは、0.75以下であると好ましく、0.65以下であるとより好ましい。
一方、上層22の屈折率nは、1.90以上であると好ましく、2.00以上であるとより好ましい。他方、上層22の屈折率nは、2.65以下であると好ましく、2.55以下であるとより好ましい。上層22の消衰係数kは、0.20以上であると好ましく、0.30以上であるとより好ましい。他方、上層22の消衰係数kは、0.60以下であると好ましく、0.50以下であるとより好ましい。
位相シフト膜2を含む薄膜の屈折率nと消衰係数kは、その薄膜の組成だけで決まるものではない。その薄膜の膜密度や結晶状態なども屈折率nや消衰係数kを左右する要素である。このため、反応性スパッタリングで薄膜を成膜するときの諸条件を調整して、その薄膜が所望の屈折率nおよび消衰係数kとなるように成膜する。下層21と上層22を、上記の屈折率nと消衰係数kの範囲にするには、反応性スパッタリングで成膜する際に、希ガスと反応性ガス(酸素ガス、窒素ガス等)の混合ガスの比率を調整することだけに限られない。反応性スパッタリングで成膜する際における成膜室内の圧力、スパッタターゲットに印加する電力、ターゲットと透光性基板1との間の距離等の位置関係など多岐にわたる。また、これらの成膜条件は成膜装置に固有のものであり、形成される下層21および上層22が所望の屈折率nおよび消衰係数kになるように適宜調整されるものである。
位相シフト膜2における下層21および上層22は、スパッタリングによって形成されるが、DCスパッタリング、RFスパッタリングおよびイオンビームスパッタリングなどのいずれのスパッタリングも適用可能である。導電性が低いターゲットを用いる場合においては、RFスパッタリングやイオンビームスパッタリングを適用することが好ましいが、成膜レートを考慮すると、RFスパッタリングを適用するとより好ましい。
位相シフト膜2における下層21と上層22をスパッタリングでそれぞれ形成する工程においては、下層21と上層22を同じ成膜室で形成する場合と、異なる成膜室で形成する場合のいずれも適用できる。また、下層21と上層22を同じ成膜室で形成する場合においても、下層21と上層22を同じターゲットで形成する場合と、異なるターゲットで形成する場合があるが、これらのいずれも適用できる。なお、下層21と上層22を異なる成膜室で形成する場合においては、各成膜室同士をたとえば別の真空室を介して連結する構成とすることが好ましい。この場合、大気中の透光性基板を真空室内に導入する際に経由させるロードロック室を真空室に連結することが好ましく。また、ロードロック室、真空室および各成膜室の間で透光性基板を搬送するための搬送装置(ロボットハンド)を設けることが好ましい。
上層22は、表層にその表層を除いた部分の上層22よりも酸素含有量が多い層(以下、単に表面酸化層とういう。)を有することが望ましい。表層に酸素含有量が多い層を有する位相シフト膜2は、マスク作製プロセス時の洗浄工程や位相シフトマスクの繰り返し使用時に行われるマスク洗浄で使用される洗浄液に対する耐性が高い。上層22の表面酸化層を形成する方法としては、種々の酸化処理が適用可能である。この酸化処理としては、例えば、大気中などの酸素を含有する気体中における加熱処理、酸素を含有する気体中におけるフラッシュランプ等による光照射処理、オゾンや酸素プラズマを最上層に接触させる処理などがあげられる。特に、位相シフト膜2の膜応力を低減する作用も同時に得られる加熱処理やフラッシュランプ等による光照射処理を用いて、上層22に表面酸化層を形成することが好ましい。上層22の表面酸化層は、厚さが1nm以上であることが好ましく、1.5nm以上であるとより好ましい。また、上層22の表面酸化層は、厚さが5nm以下であることが好ましく、3nm以下であるとより好ましい。
透光性基板1は、合成石英ガラスのほか、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO2−TiO2ガラス等)などで形成することができる。これらの中でも、合成石英ガラスは、ArFエキシマレーザー光に対する透過率が高く、マスクブランクの透光性基板を形成する材料として特に好ましい。
マスクブランク100は、位相シフト膜2上に遮光膜3を備える。一般に、バイナリ型の転写用マスクでは、転写パターンが形成される領域(転写パターン形成領域)の外周領域は、露光装置を用いて半導体ウェハ上のレジスト膜に露光転写した際に外周領域を透過した露光光による影響をレジスト膜が受けないように、所定値以上の光学濃度(OD)を確保することが求められている。この点については、位相シフトマスクの場合も同じである。通常、位相シフトマスクを含む転写用マスクの外周領域では、ODが3.0以上あると望ましいとされており、少なくとも2.8以上は必要とされている。位相シフト膜2は所定の透過率で露光光を透過する機能を有しており、位相シフト膜2だけでは所定値の光学濃度を確保することは困難である。このため、マスクブランク100を製造する段階で位相シフト膜2の上に、不足する光学濃度を確保するために遮光膜3を積層しておくことが必要とされる。このようなマスクブランク100の構成とすることで、位相シフトマスク200(図2参照)を製造する途上で、位相シフト効果を使用する領域(基本的に転写パターン形成領域)の遮光膜3を除去すれば、外周領域に所定値の光学濃度が確保された位相シフトマスク200を製造することができる。
遮光膜3は、単層構造および2層以上の積層構造のいずれも適用可能である。また、単層構造の遮光膜および2層以上の積層構造の遮光膜の各層は、膜または層の厚さ方向でほぼ同じ組成である構成であっても、層の厚さ方向で組成傾斜した構成であってもよい。
図1に記載の形態におけるマスクブランク100は、位相シフト膜2の上に、他の膜を介さずに遮光膜3を積層した構成としている。この構成の場合の遮光膜3は、位相シフト膜2にパターンを形成する際に用いられるエッチングガスに対して十分なエッチング選択性を有する材料を適用する必要がある。この場合の遮光膜3は、クロムを含有する材料で形成することが好ましい。遮光膜3を形成するクロムを含有する材料としては、クロム金属のほか、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が挙げられる。一般に、クロム系材料は、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスでエッチングされるが、クロム金属はこのエッチングガスに対するエッチングレートがあまり高くない。塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスのエッチングガスに対するエッチングレートを高める点を考慮すると、遮光膜3を形成する材料としては、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が好ましい。また、遮光膜を形成するクロムを含有する材料にモリブデンおよびスズのうち一以上の元素を含有させてもよい。モリブデンおよびスズのうち一以上の元素を含有させることで、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスに対するエッチングレートをより速くすることができる。
一方、本発明では、別の実施形態のマスクブランク100として、位相シフト膜2と遮光膜3の間に別の膜(エッチングストッパ膜)を介する構成も含まれる。この場合においては、前記のクロムを含有する材料でエッチングストッパ膜を形成し、ケイ素を含有する材料で遮光膜3を形成する構成とすることが好ましい。
遮光膜3を形成するケイ素を含有する材料には、遷移金属を含有させてもよく、遷移金属以外の金属元素を含有させてもよい。これは、このマスクブランク100から位相シフトマスク200を作製した場合、遮光膜3で形成されるパターンは、基本的に外周領域の遮光帯パターンであり、転写パターン領域に比べてArF露光光が照射される積算量が少ないことや、この遮光膜3が微細パターンで残っていることは稀であり、ArF耐光性が低くても実質的な問題は生じにくいためである。また、遮光膜3に遷移金属を含有させると、含有させない場合に比べて遮光性能が大きく向上し、遮光膜3の厚さを薄くすることが可能となるためである。遮光膜3に含有させる遷移金属としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、ニオブ(Nb)、パラジウム(Pd)等のいずれか1つの金属またはこれらの金属の合金が挙げられる。
マスクブランク100において、遮光膜3の上に遮光膜3をエッチングするときに用いられるエッチングガスに対してエッチング選択性を有する材料で形成されたハードマスク膜4をさらに積層させた構成とすると好ましい。遮光膜3は、所定の光学濃度を確保する機能が必須であるため、その厚さを低減するには限界がある。ハードマスク膜4は、その直下の遮光膜3にパターンを形成するドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能することができるだけの膜の厚さがあれば十分であり、基本的に光学の制限を受けない。このため、ハードマスク膜4の厚さは遮光膜3の厚さに比べて大幅に薄くすることができる。そして、有機系材料のレジスト膜は、このハードマスク膜4にパターンを形成するドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能するだけの膜の厚さがあれば十分であるので、従来よりも大幅に厚さを薄くすることができる。レジスト膜の薄膜化は、レジスト解像度の向上とパターン倒れ防止に効果があり、微細化要求に対応していく上で極めて重要である。
このハードマスク膜4は、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合は、前記のケイ素を含有する材料で形成されることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、有機系材料のレジスト膜との密着性が低い傾向があるため、ハードマスク膜4の表面をHMDS(Hexamethyldisilazane)処理を施し、表面の密着性を向上させることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、SiO2、SiN、SiON等で形成されるとより好ましい。
また、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合におけるハードマスク膜4の材料として、前記のほか、タンタルを含有する材料も適用可能である。この場合におけるタンタルを含有する材料としては、タンタル金属のほか、タンタルに窒素、酸素、ホウ素および炭素から選らばれる一以上の元素を含有させた材料などが挙げられる。たとえば、Ta、TaN、TaO、TaON、TaBN、TaBO、TaBON、TaCN、TaCO、TaCON、TaBCN、TaBOCNなどが挙げられる。また、ハードマスク膜4は、遮光膜3がケイ素を含有する材料で形成されている場合、前記のクロムを含有する材料で形成されることが好ましい。
マスクブランク100において、ハードマスク膜4の表面に接して、有機系材料のレジスト膜が100nm以下の膜厚で形成されていることが好ましい。DRAM hp32nm世代に対応する微細パターンの場合、ハードマスク膜4に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)に、線幅が40nmのSRAF(Sub-Resolution Assist Feature)が設けられることがある。しかし、この場合でも、レジストパターンの断面アスペクト比が1:2.5と低くすることができるので、レジスト膜の現像時、リンス時等にレジストパターンが倒壊や脱離することを抑制される。なお、レジスト膜は、膜厚が80nm以下であるとより好ましい。
この実施形態の位相シフトマスク200は、マスクブランク100の位相シフト膜2に転写パターン(位相シフトパターン)が形成され、遮光膜3に遮光帯パターンが形成されていることを特徴としている。マスクブランク100にハードマスク膜4が設けられている構成の場合、この位相シフトマスク200の作成途上でハードマスク膜4は除去される。
本発明に係る位相シフトマスクの製造方法は、前記のマスクブランク100を用いるものであり、ドライエッチングにより遮光膜3に転写パターンを形成する工程と、転写パターンを有する遮光膜3をマスクとするドライエッチングにより位相シフト膜2に転写パターンを形成する工程と、遮光帯パターンを有するレジスト膜6bをマスクとするドライエッチングにより遮光膜3に遮光帯パターンを形成する工程とを備えることを特徴としている。以下、図2に示す製造工程にしたがって、本発明の位相シフトマスク200の製造方法を説明する。なお、ここでは、遮光膜3の上にハードマスク膜4が積層したマスクブランク100を用いた位相シフトマスク200の製造方法について説明する。また、遮光膜3にはクロムを含有する材料を適用し、ハードマスク膜4にはケイ素を含有する材料を適用している。
まず、マスクブランク100におけるハードマスク膜4に接して、レジスト膜をスピン塗布法によって形成する。次に、レジスト膜に対して、位相シフト膜に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)である第1のパターンを電子線で露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、位相シフトパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(図2(a)参照)。続いて、第1のレジストパターン5aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターンを形成(ハードマスクパターン4a)した(図2(b)参照)。
次に、レジストパターン5aを除去してから、ハードマスクパターン4aをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターンを形成(遮光パターン3a)する(図2(c)参照)。続いて、遮光パターン3aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターンを形成(位相シフトパターン2a)し、かつ同時にハードマスクパターン4aも除去した(図2(d)参照)。
次に、マスクブランク100上にレジスト膜をスピン塗布法によって形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜3に形成すべきパターン(遮光パターン)である第2のパターンを電子線で露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した(図2(e)参照)。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(図3(f)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図3(g)参照)。
前記のドライエッチングで使用される塩素系ガスとしては、Clが含まれていれば特に制限はない。たとえば、Cl2、SiCl2、CHCl3、CH2Cl2、CCl4、BCl3等があげられる。また、前記のドライエッチングで使用されるフッ素系ガスとしては、Fが含まれていれば特に制限はない。たとえば、CHF3、CF4、C2F6、C4F8、SF6等があげられる。特に、Cを含まないフッ素系ガスは、ガラス基板に対するエッチングレートが比較的低いため、ガラス基板へのダメージをより小さくすることができる。
本発明の位相シフトマスク200は、前記のマスクブランク100を用いて作製されたものである。このため、転写パターンが形成された位相シフト膜(位相シフトパターン)はArF露光光に対する透過率が10%以上であり、かつ位相シフトパターンを透過した露光光と位相シフトパターンの厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間における位相差が150度以上190度の範囲内となっており、高い位相シフト効果を生じさせることができる。それに加え、位相シフトマスク200の製造工程の途上で行われるマスク検査で発見された黒欠陥に対するEB欠陥修正時において、エッチング終点を比較的容易に検出することができる。
本発明の半導体デバイスの製造方法は、前記の位相シフトマスク200または前記のマスクブランク100を用いて製造された位相シフトマスク200を用い、半導体基板上のレジスト膜にパターンを露光転写することを特徴としている。本発明の位相シフトマスクやマスクブランクは、位相シフトパターンが高い位相シフト効果を生じさせるため、半導体デバイス上のレジスト膜に位相シフトパターンを露光転写しても、半導体デバイス上のレジスト膜に設計仕様を十分に満たす精度でパターンを転写することができる。また、その作成途上で黒欠陥部分をEB欠陥修正で修正した位相シフトマスクを用いて半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写した場合においても、その位相シフトマスクの黒欠陥が存在していたパターン部分に対応する半導体デバイス上のレジスト膜に転写不良が発生することがない。このため、このレジスト膜のパターンをマスクとして、下層膜をドライエッチングして回路パターンを形成した場合、精度不足や転写不良に起因する配線短絡や断線のない高精度の回路パターンを形成することができる。
以下、実施例により、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
[マスクブランクの製造]
主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.35mmの合成石英ガラスからなる透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面及び主表面を所定の表面粗さに研磨され、その後、所定の洗浄処理および乾燥処理を施されたものであった。
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=8原子%:92原子%)を用い、アルゴン(Ar)、窒素(N2)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、透光性基板1上に、モリブデン、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の下層21(MoSiN膜)を20nmの厚さで形成した。
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に下層21が成膜された透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=8原子%:92原子%)を用い、アルゴン(Ar)、窒素(N2)、酸素(O2)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、下層21上に、モリブデン、ケイ素、窒素および酸素からなる位相シフト膜2の上層21(MoSiON膜)を55nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1の表面に接して下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を75nmの厚さで形成した。
次に、この位相シフト膜2が形成された透光性基板1に対して、位相シフト膜2の膜応力を低減するため、および表層に酸化層を形成するための加熱処理を行った。具体的には、加熱炉(電気炉)を用いて、大気中で加熱温度を450℃、加熱時間を1時間として、加熱処理を行った。別の透光性基板1の主表面に対して、同条件で下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を成膜し、加熱処理を行ったものを準備した。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が12.2%、位相差が177.3度(deg)であった。また、この位相シフト膜2に対して、STEMとEDXで分析したところ、位相シフト膜2の上層22の表面から約1.5nm程度の厚さで酸化層が形成されていることが確認された。さらに、この位相シフト膜2に対し、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製 M−2000D)を用いて下層21および上層22の各光学特性を測定したところ、下層21は屈折率nが2.41、消衰係数kが0.51であり、上層22は、屈折率nが2.25、消衰係数kが0.37であった(以降に記載の各薄膜の屈折率nおよび消衰係数kは、同じ分光エリプソメーターで測定。)。
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に位相シフト膜2が形成された透光性基板1を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、位相シフト膜2上にCrOCNからなる遮光膜3の最下層を16nmの厚さで形成した。この最下層は、波長193nmの光に対する屈折率nが2.29、消衰係数kが1.00であった。次に、同じクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、遮光膜3の最下層上にCrOCNからなる遮光膜3の下層を41nmの厚さで形成した。この下層は、波長193nmの光に対する屈折率nが1.80、消衰係数kが1.22であった。
次に、同じクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N2)の混合ガスをスパッタリングガスとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、遮光膜3の下層上にCrNからなる遮光膜3の上層を6nmの厚さで形成した。この上層は、波長193nmの光に対する屈折率nが1.51、消衰係数kが1.60であった。以上の手順により、位相シフト膜2側からCrOCNからなる最下層、CrOCNからなる下層、CrNからなる上層の3層構造からなるクロム系材料の遮光膜3を合計膜厚63nmで形成した。なお、この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
さらに、枚葉式RFスパッタ装置内に、位相シフト膜2および遮光膜3が積層された透光性基板1を設置し、二酸化ケイ素(SiO2)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガスをスパッタリングガスとし、RFスパッタリングにより遮光膜3の上に、ケイ素および酸素からなるハードマスク膜4を5nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1上に、2層構造の位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備えるマスクブランク100を製造した。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例1のマスクブランク100を用い、以下の手順で実施例1の位相シフトマスク200を作製した。最初に、ハードマスク膜4の表面にHMDS処理を施した。続いて、スピン塗布法によって、ハードマスク膜4の表面に接して、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚80nmで形成した。次に、このレジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき位相シフトパターンである第1のパターンを電子線描画し、所定の現像処理および洗浄処理を行い、第1のパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(図2(a)参照)。なお、このとき電子線描画した第1のパターンには、位相シフト膜に黒欠陥が形成されるように、本来形成されるべき位相シフトパターンのほかにプログラム欠陥を加えておいた。
次に、第1のレジストパターン5aをマスクとし、CF4ガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図2(b)参照)。
次に、第1のレジストパターン5aを除去した。続いて、ハードマスクパターン4aをマスクとし、塩素と酸素の混合ガス(ガス流量比 Cl2:O2=4:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターンを形成(遮光パターン3a)した(図2(c)参照)。
次に、遮光パターン3aをマスクとし、フッ素系ガス(SF6+He)を用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターンを形成(位相シフトパターン2a)し、かつ同時にハードマスクパターン4aを除去した(図2(d)参照)。
次に、遮光パターン3a上に、スピン塗布法によって、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚150nmで形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜に形成すべきパターン(遮光パターン)である第2のパターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した(図2(e)参照)。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素と酸素の混合ガス(ガス流量比 Cl2:O2=4:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターンを形成(遮光パターン3b)した(図2(f)参照)。さらに、第2のレジストパターン5bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図2(g)参照)。
作製した実施例1のハーフトーン型の位相シフトマスク200に対してマスク検査装置によってマスクパターンの検査を行ったところ、プログラム欠陥を配置していた箇所の位相シフトパターン2aに黒欠陥の存在が確認された。その黒欠陥部分に対してEB欠陥修正を行ったところ、エッチング終点を容易に検出することができ、透光性基板1の表面へのエッチングを最小限にとどめることができた。
EB欠陥修正を行った後の実施例1のハーフトーン型位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションの露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。また、EB欠陥修正を行った部分の転写像は、それ以外の領域の転写像に比べてそん色のないものであった。この結果から、EB欠陥修正を行った後の実施例1の位相シフトマスクを露光装置のマスクステージをセットし、半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したとしても、最終的に半導体デバイス上に形成される回路パターンは高精度で形成できるといえる。
(比較例1)
[マスクブランクの製造]
この比較例1のマスクブランクは、位相シフト膜2以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この比較例1の位相シフト膜2は、モリブデン、ケイ素、窒素および酸素からなる単層構造の膜を適用した。具体的には、枚葉式DCスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合焼結ターゲット(Mo:Si=4原子%:96原子%)を用い、アルゴン(Ar)、窒素(N2)、酸素(O2)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、モリブデン、ケイ素、窒素および酸素からなる位相シフト膜2を66nmの厚さで形成した。
また、実施例1と同様の処理条件で、この位相シフト膜2に対しても加熱処理を行った。別の透光性基板1の主表面に対して、同条件でこの比較例1の位相シフト膜2を成膜し、加熱処理を行ったものを準備した。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が12.1%、位相差が177.1度(deg)であった。また、位相シフト膜2に対して、STEMとEDXで分析したところ、位相シフト膜2の表面から約1.7nm程度の厚さで酸化層が形成されていることが確認された。さらに、この位相シフト膜2に対し、分光エリプソメーターを用いて位相シフト膜2の各光学特性を測定したところ、屈折率nが2.48、消衰係数kが0.45であった。
以上の手順により、透光性基板上に、MoSiONからなる位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える比較例1のマスクブランクを製造した。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この比較例1のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、比較例1の位相シフトマスク200を作製した。
作製した比較例1のハーフトーン型の位相シフトマスク200に対してマスク検査装置によってマスクパターンの検査を行ったところ、プログラム欠陥を配置していた箇所の位相シフトパターン2aに黒欠陥の存在が確認された。その黒欠陥部分に対してEB欠陥修正を行ったところ、エッチング終点を検出することが難しく、透光性基板1の表面からエッチングが進んでしまった。
EB欠陥修正を行った後の実施例1のハーフトーン型位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションの露光転写像を検証したところ、EB欠陥修正を行った部分以外では、概ね設計仕様を十分に満たしていた。しかし、また、EB欠陥修正を行った部分の転写像は、透光性基板1へのエッチングの影響等に起因して転写不良が発生するレベルのものであった。この結果から、EB欠陥修正を行った後の比較例1の位相シフトマスクを露光装置のマスクステージをセットし、半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写した場合、最終的に半導体デバイス上に形成される回路パターンには、回路パターンの断線や短絡が発生することが予想される。