<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係るロボット装置650について、図1から図7を参照しながら説明する。まず、第1実施形態に係るロボット装置650の概略構成について、図1を参照しながら説明する。
ロボット装置650は、産業用ロボットであり、ワークWの組み立て等の作業を行う多関節ロボット600と、多関節ロボット600を制御する制御装置630と、制御装置630に接続可能なティーチングペンダント640と、を備えている。
多関節ロボット600は、6軸の多関節ロボットアーム(以下、単にロボットアームと呼ぶ)601と、ロボットアーム601の先端に接続されたエンドエフェクタ602と、を備えている。
ロボットアーム601は、作業台に固定されるベース部603と、変位や力を伝達する複数のリンク621〜626と、複数のリンク621〜626の各々を旋回又は回転可能に連結する複数の関節611〜616と、を備えている。複数の関節611〜616は、アクチュエータ10と、アクチュエータ10の出力により各関節611〜616を動作させるためのベルトやギヤ等の不図示の関節駆動機構とをそれぞれ備えている。尚、アクチュエータ10は、駆動モータ8と、減速機(変速機)9と、不図示のエンコーダとを備えており(図2(a)参照)、これらについては後述する。
エンドエフェクタ602はロボットハンドであり、ワークWを把持する把持爪604と、把持爪604を駆動する不図示の駆動モータと、駆動モータの回転角度を検出する不図示のエンコーダと、駆動モータの出力を減速する不図示の減速機と、を備えている。また、エンドエフェクタ602は、把持爪604等に作用する応力(反力)を検出可能な不図示の力覚センサを備えている。
制御装置630は、コンピュータにより構成され、多関節ロボット600を制御するようになっている。制御装置630を構成するコンピュータは、例えばCPUと、データを一時的に記憶するRAMと、各部を制御するためのプログラムを記憶するROMと、入出力インタフェース回路とを備えている。制御装置630は、駆動モータ8の動作に要求される要求電力を、不図示の電源本体から駆動モータ8に供給させて、ロボットアーム601やエンドエフェクタ602の位置姿勢を移動させるようになっている。ティーチングペンダント640は、制御装置630に接続可能になっており、ロボットアーム601やエンドエフェクタ602を駆動制御する際の指示を入力可能になっている。
上述のように構成されたロボット装置650では、入力された設定等に従って、制御装置630がロボットアーム601の複数の関節611〜616のアクチュエータ10を駆動することでエンドエフェクタ602を任意の位置姿勢に移動あるいは停止させる。そして、任意の位置姿勢で、把持爪604に作用する応力を力覚センサで検出しながらエンドエフェクタ602にワークWや部品等を把持させて、ワークWの組み立て等の作業を行うようになっている。
次に、第1実施形態に係るアクチュエータ10の概略構成について、図2から図5を参照しながら説明する。アクチュエータ10は、駆動モータ8と、駆動モータ8の回転軸の回転角度を検出する不図示のエンコーダと、駆動モータ8のトルクを増大させるために駆動モータ8の出力を減速する減速機9と、を備えている。駆動モータ8としては、例えば、インナーロータ型のブラシレスモータの他、アウターロータ型やコアレスモータ等、各種の形式を適用することができる。尚、本実施形態では、本発明の変速機を減速機9に適用している場合について説明しているが、これには限定されず、変速機を増速機に適用するようにしてもよい。
図2に示すように、減速機9は、ケーシング11と、1組の揺動歯車機構から成る歯車機構12とを備えている。歯車機構12は、入力軸(第1の軸、一方の軸)20と、傾斜軸21と、出力軸(第2の軸、他方の軸)30と、第1の歯車(第1の傘歯車)40と、第2の歯車(第1の傘歯車)50と、揺動歯車(第2の傘歯車)60とを備えている。
入力軸20は、駆動モータ8の駆動軸8aに接続されており、例えば転がり軸受から成る軸受22を介して第1の歯車40及び第2の歯車50と同軸に回転自在に設けられている。出力軸30は、複数のリンク621〜626のいずれかに接続されており、入力軸20と同軸になるように、例えば転がり軸受から成る軸受31を介してケーシング11に回転自在に設けられている。また、出力軸30は、第2の歯車50又は揺動歯車60のいずれか一方と一体回転するようになっており、本実施形態では第2の歯車50と一体回転するようになっている。各減速機9は、駆動モータ8から入力される回転を減速して、連結されたリンク621〜626に各々伝達するようになっている。即ち、減速機9は、歯車機構12を1組以上備え、入力軸20に入力された回転を減速し、出力軸30から出力するようになっている。
第1の歯車40は、軸方向の一方側を指向する歯41を有すると共に、ケーシング11に固定されている。歯41は、歯数がZ1で、後述する所定高さ(図4中、基準点42)より先端側に形成される歯先部41aと、所定高さより歯元側で歯先部41a同士の間に形成される歯底部41bと、を複数有して円環状に形成されている(図5参照)。第2の歯車50は、第1の歯車40に対向する歯51を有すると共に、第1の歯車40と同軸に設けられ、出力軸30に固定されている。また、歯41の歯底部41bには、後述する逃げ部44が形成されている。これらの歯車40,50を構成する材質としては、高強度歯車鋼から低コストの一般鋼、非鉄金属や焼結材や樹脂等、一般的に使用される材質を適用することができる。尚、図2(b)においては、逃げ部44を形成する前の状態を示している。
歯51は、歯数がZ2で、所定高さより先端側に形成される歯先部51aと、所定高さより歯元側で歯先部51a同士の間に形成される歯底部51bと、を複数有して円環状に形成されている。歯51の歯底部51bには、後述する逃げ部54が形成されている。また、図2(b)においては、逃げ部54を形成する前の状態を示している。尚、第1の歯車40の歯41の歯数Z1と、第2の歯車50の歯51の歯数Z2とは、異なっていても同数でもよい。また、各歯面に対して、歯形の寸法誤差や組立誤差等による片当たりを軽減するクラウニング加工等を施してもよい。
揺動歯車60は、第1の歯車40及び第2の歯車50の間に配置され、傾斜軸21に対して回転自在に設けられ、第1の歯車40及び第2の歯車50に噛合して相対回転可能になっている。揺動歯車60は、第1の歯車40の歯41に噛合する第1の歯61と、第2の歯車50の歯51に噛合する第2の歯62とを備え、両面に歯面が円環状に形成されている。第1の歯61は、歯数がZ1+1(第1の歯車40との歯数差が1)となっており、所定高さ(図4中、基準点63)より先端側に形成される歯先部61aと、所定高さより歯元側で歯先部61a同士の間に形成される歯底部61bとを備えている。第2の歯62は、歯数がZ2+1(第2の歯車50との歯数差が1)となっており、所定高さより先端側に形成される歯先部62aと、所定高さより歯元側で歯先部62a同士の間に形成される歯底部62bとを備えている。更に、第2の歯62は、第1の歯61の第1の歯車40の歯41との噛合部位の径方向及び軸方向の反対側で、第2の歯車50に噛合するようになっている。
揺動歯車60は、略円筒形状のホルダ90の外周側に、ホルダ90と同軸になるようにねじ止め、あるいは溶接や接着等によって固着されている。ホルダ90は、傾斜軸21に対して、例えば転がり軸受から成る軸受91,92を介して回転自在に軸支されている。傾斜軸21は、入力軸20に対して傾斜角θ1だけ傾斜し、入力軸20の出力軸30側の端部に一体形成されている。あるいは、傾斜軸21を入力軸20とは別部材として形成し、入力軸20に対して溶接等により一体化してもよい。軸受91,92の内輪部は、傾斜軸21の基端部の段部21aに当接して軸方向に固定されている。また、軸受91,92の外輪部は、ホルダ90の出力軸30側に形成されたストッパ90aに当接して軸方向に固定されている。これにより、軸受91,92は、軸方向の両側から挟まれて保持されている。
ここで、揺動歯車60の自転の回転中心軸である傾斜回転軸71、即ち傾斜軸21の中心軸である傾斜回転軸71は、入力軸20の回転中心軸である入力回転軸70に対して、一定の傾斜角θ1だけ傾斜している。また、これら傾斜回転軸71と入力回転軸70との交点である基準点72は、揺動歯車60の軸方向の中心位置に配置されている。このため、入力軸20が回転すると、傾斜軸21は傾斜角θ1だけ傾斜したまま基準点72(入力回転軸70)を中心に公転する。同時に、傾斜軸21に回転可能に支持される揺動歯車60は、傾斜回転軸71を中心に自転しながら入力回転軸70を中心に揺動しながら公転する。これにより、揺動歯車60は、第1の歯車40及び第2の歯車50に対して、常に一定の傾斜角θ1だけ傾斜して噛合するようになっている。
図2(b)は、逃げ部44,54を形成する前の歯車機構12を示している。第1の歯車40と揺動歯車60とは、傾斜角θ1だけ傾斜した状態で配置されている。これにより、歯41及び第1の歯61は、歯先部41a,61aと歯底部41b,61bとが最も深く噛み合う最噛合位置と、最噛合位置の反対側で歯先部41a,61a同士がすれ違うすれ違い位置と、を形成するようになっている。更に、これら歯41及び第1の歯61は、すれ違い位置の両側で歯先部41a,61a同士が接触する第1噛合領域と、第1噛合領域よりも最噛合位置側で互いの歯先部41a,61aと歯底部41b,61bとが接触する第2噛合領域と、を形成する。
同様に、第2の歯車50の歯51と揺動歯車60の第2の歯62とは、歯先部51a,62aと歯底部51b,62bとが最も深く噛み合う最噛合位置と、最噛合位置の反対側で歯先部51a,62a同士がすれ違うすれ違い位置と、を形成する。更に、これら歯51及び第2の歯62が、すれ違い位置の両側で歯先部51a,62a同士が接触する第1噛合領域と、第1噛合領域よりも最噛合位置側で互いの歯先部51a,62aと歯底部51b,62bとが接触する第2噛合領域と、を形成する。
具体的には、第1の歯車40の歯41と揺動歯車60の第1の歯61とは、半ピッチ位相がずれて配置されており、図2(b)の紙面上方の基準位相(最噛合位置)では、半ピッチ位相がずれて深く噛み合っている。また、図2(b)で正面となる基準位相に対して±90度(第1噛合領域と第2噛合領域との境界位置)の近傍では、歯41及び第1の歯61は、1/4ピッチ位相がずれて浅く噛み合っている。
更に、図2(b)の紙面下方である基準位相に対して±180度(すれ違い位置)では、第1の歯車40の歯41と揺動歯車60の第1の歯61とは、同位相となって歯先部41a,61aの先端同士が接触している。そして、これらの間の位相においては、徐々に歯41と第1の歯61とが位相を変化させて噛み合い深さを変化させることで、第1の歯車40の歯41と揺動歯車60の第1の歯61とは、ほぼ全周において接触するようになっている。同様に、第2の歯車50の歯51と揺動歯車60の第2の歯62も、徐々に歯51と第2の歯62とが位相を変化させて噛み合い深さを変化させることで、歯51及び第2の歯62が、ほぼ全周において接触するようになっている。
ここで、第1の歯車40及び揺動歯車60のほぼ全周において、第1の歯車40の歯41と相手側である揺動歯車60の第1の歯61とが接触する原理について、図3を参照しながら説明する。尚、ここでは、第1の歯車40の歯41と揺動歯車60の第1の歯61との接触について説明するが、第2の歯車50の歯51と揺動歯車60の第2の歯62との接触についても同様である。
図3に示すように、第1の歯車40の入力回転軸70をZp軸、揺動歯車60の傾斜回転軸71をZq軸とし、Zq軸のZp軸に対する傾斜角度をη、基準点72を原点O、Zp軸,Zq軸を含む面と直交する方向に共通のX軸をとる。そして、XYpZp座標系と、XYqZq座標系と、を設定する。すると、第1の歯車40及び揺動歯車60を半径Rとしたときの交差断面の外周が楕円Sとなる。
次に、XYp面、XYq面上の半径Rの円周(基準ピッチ円と呼ぶ)上をYp軸、Yq軸上から時計回りに等速運動する点P,Q(歯の基準点と呼ぶ)を考え、楕円S上を運動する点C、点CからXYp面、XYq面に下ろした垂線の足を点P´,Q´とする。第1の歯車40の歯数をZ、揺動歯車60の歯数をZ+n(歯数差n=1)とすると、点Pの位相は、φp=2πt/Z(t:媒介変数)と表すことができ、点Qの位相は、φq=2πt/(Z+1)(t:媒介変数)と表すことができる。
ここで、点P´,点Q´の位相を、共に、φc=2πt/(Z+1/2)とする。そして、点P,点Qを原点とする円柱面上の移動座標系xpyp,xqyqを考える。これらの座標系上で点Cの描く軌跡は、(2πt/(Z(Z+1/2)),Rtan(η/2)cos(2πt/(Z+1/2)))、(−2πt/((Z+1)(Z+1/2)),−Rtan(η/2)cos(2πt/(Z+1/2)))となる。即ち、yp=Rtan(η/2)cos(xpZ)、yq=−Rtan(η/2)cos(xq(Z+1))である。これを第1の歯車40と揺動歯車60の歯形とすると、点Cを噛み合い点として連続して接触させることができる。つまり、第1の歯車40の歯41と揺動歯車60の第1の歯61とを、ほぼ全周において接触させることができる。尚、これらの歯形は設計上の歯形であり、後述するように、それぞれ第1の歯車40の歯41の基準歯形43、揺動歯車60の第1の歯61の基準歯形64となる。
次に、第1の歯車40の歯41の歯先部41aと、揺動歯車60の第1の歯61の歯底部61bと、を接触させる原理について、図4を参照しながら説明する。
上記に従って、第1の歯車40と揺動歯車60の基準歯形43,64を形成する。その場合、図4(a)に示すように、Yp,Yq方向の位相(すれ違い位置)では、基準点(所定高さ)42,63から高さRtan(η/2)の歯先部41a,61a同士が噛み合い点81で接するようになる。そして、すれ違い位置の両側からX軸方向に回るにつれて、図4(b)(c)のように第1噛合い領域を推移する(歯先部41a,61a同士が1点接触)。しかし、X軸方向での境界位置の近傍(図4(c)参照)までの歯先部41a,61aは凸形状であるが、これより歯元側の歯底部41b,61bは上述のコサイン関数は凹形状になっており、干渉が起きる。そこで、本実施形態では、境界位置の近傍での噛み合い点81を噛み合い基準点(基準位置)とする。そして、これより歯元側の歯底部41b、61bの歯型曲線は、噛み合い基準点より先端側の歯先部41a,61aが互いの相手の歯先部41a,61aの周りを動く軌跡の外接線(通過領域に倣わせた凹形状)として求めた曲線としている。
そのため、図4(d)(e)に示すように、第2噛合い領域での噛み合い点は互いの歯先部41a,61aと歯底部41b,61bとが噛み合うので、接触点83,84で示す2点が同時に噛み合うようになる。尚、厳密に言えば、相互の歯先部41a,61aの凸歯形は同一円柱面上にあるわけではないので、歯形曲線と原点を結んだ曲面を歯形として、その外接曲面と円柱面の交線を歯元側の歯底部41b,61bの歯形としている。
このように、本実施形態に係る歯車機構の第1の歯車40と揺動歯車60とをほぼ全周に亘って接触させることで、伝達トルクが分担され、非常に大きな負荷容量を小型軽量の歯車機構で得ることができる。また、圧力角は、歯数Zを大きくするほど、傾斜角ηを大きくするほど小さくなるので、適切な圧力角を設定することが可能になる。更に、図4(a)〜(e)に示すように、ここでの基準歯形43,64は噛み合い基準点前後の曲線がほぼ直線に近い。特に噛み合い基準点より深く噛み合う位相では、歯先部41a,61aと歯底部41b,61b同士が2点でしかも凸面と凹面で噛み合うため、接触面圧が低くなる。したがって、歯面応力が小さく摩耗が少ない歯形とすることができる。
また、噛み合い基準点での歯厚は上記の式から各歯のピッチ2π/Z、2π/(Z+1)の約1/4となっており、歯強度がほぼ等しくなっている。従って、どちらか弱い方によって負荷トルクが制限されることがなく最適なバランスが得られる。尚、歯先部41a,61aの歯形を求めるための点Cの位相角度φcは、前述の式に限らない。例えば、φc=(2Z+1)πt/(Z(Z+1))とすれば、yp=Rtan(η/2)cos(xp(Z+1/2)),yq=−Rtan(η/2)cos(xq(Z+1/2))となり、両歯車40,60の噛み合い基準点での歯厚を等しくできる。その他、φp>φc>φqで連続でさえあればよい。
尚、第2の歯車50の歯51と揺動歯車60の第2の歯62についても、歯数が異なるだけで、同様の作用及び効果を得ることができるので、詳細な説明は省略する。
以上の説明は、歯数差nが1の場合についてのものであるが、歯数差nを2とした場合についても、例えば、±180/n度の範囲に亘って連続的に噛み合う歯車機構12を実現可能である。即ち、各歯車の基準歯形において、各歯車の歯同士が最も接近する方向を基準位相(0度方向)とする。そして、歯数差をnとした場合に、基準位相に対して±90/n度方向付近で噛み合う凸面状の歯形の歯先部を設ける。更に、基準位相に対して±90/n度方向付近より基準位相側では各歯車の少なくとも一方の歯先部と連続的に噛み合う歯形の歯元部を設ける。また、歯先部の凸面状の歯形は、±180/n度方向付近から±90/n度方向付近まで歯先部同士が連続的に噛み合う形状にする。但し、歯数差nが大きいと、通常の歯車機構と噛み合う歯数が変わらなくなってしまうので、歯数差nは、1又は2が好ましい。
尚、本実施形態では、第1の歯車40の歯41における上述の歯形を、第1の歯車40の歯41の基準歯形43としている。また、揺動歯車60の第1の歯61における上述の歯形を、揺動歯車60の第1の歯61の基準歯形64としている。即ち、これら基準歯形43,64は、第1の歯車40と揺動歯車60とが、互いに最も深く噛み合う際に互いの歯先部41a,61aと歯底部41b,61bとが接触する形状である(図4(e)参照)。換言すると、第1の歯車40の歯41の基準歯形43は、揺動歯車60の第1の歯61の第1の歯車40に対する相対的な移動軌跡、即ち第1の歯61の動く軌跡の外接線(通過領域に倣わせた形状)となっている。また、揺動歯車60の第1の歯61の基準歯形64は、第1の歯車40の歯41の揺動歯車60に対する相対的な移動軌跡、即ち歯41の動く軌跡の外接線(通過領域に倣わせた形状)となっている。また、基準歯形43,64と実際の歯形とは必ずしも一致はせず、本実施形態では、第1の歯車40の実際の歯形は、基準歯形43に対して後述する逃げ部44を有する点で形状を異にしている。
上述した歯車機構12を有するアクチュエータ10の減速機9による減速動作について、図2を援用して説明する。まず、入力軸20が1回転すると、揺動歯車60が1回揺動運動する。このとき、揺動歯車60は固定された第1の歯車40に対して360/(Z1+1)だけ公転する。一方、第2の歯車50と揺動歯車60との間にも、揺動による公転が生じる。即ち、この構成は、揺動歯車60の公転を第2の歯車50により取り出すようにした構成である。このようなタイプの減速比は、1−(Z1(Z2+1))/((Z1+1)Z2)で計算できることが知られている。例えば、Z1=24、Z2=48の時、1/50の減速比が得られる。また、例えば、Z1=48、Z2=49とすれば、1/2401という大減速比も可能であり、このタイプの減速機は、1/20程度の低減速比から数千分の1という大減速比まで、広い範囲の減速比を一段で実現することが可能になる。
次に、本発明の特徴的部分である歯車機構12の各歯車の歯形について、図5を用いて詳細に説明する。図5(a)に示すように、第1の歯車40の歯41の基準歯形43の歯底部41bには、逃げ部44が形成されている。逃げ部44は、図5(b)に示すように、歯底部41bにおける内接球41cの直径d1よりも周方向に広い範囲(幅W1)で、揺動歯車60の第1の歯61の歯先部61aが接触しないように窪んだ形状となっている。逃げ部44の深さは、基準歯形43の歯底部41bの最も低い位置から深さD1としている。また、歯底部41bにおける内接球41cは、歯底部41bの最も急峻な位置(最下の歯底)における最大の内接球41cとしている。本実施形態では、逃げ部44は断面矩形状で、歯41に沿って歯幅方向の全体に亘って形成されている。
本実施形態では、逃げ部44の深さD1は、0を超えた適宜な一定値としている。また、逃げ部44の幅W1も一定値としている。このため、逃げ部44の底面及び側面は互いに直交した平面となっている。但し、これには限られず、深さD1及び幅W1は適宜異なるようにしてもよく、例えば、内径側から外径側に向けて深さD1及び幅W1の少なくとも一方を拡大あるいは縮小させた形状としてもよい。
また、本実施形態では、逃げ部44は、基準歯形43における圧力角α1が所定角度、例えば45度より大きい領域に形成されている。ここで、圧力角α1が略45度を超える範囲における歯の噛合部では、歯のトルク伝達への寄与が漸減し、圧力角α1が90度になる歯底では、トルク伝達が行われなくなる。このため、逃げ部44を圧力角α1が45度より大きい領域に形成することにより、逃げ部44の形成による噛合い領域の減少がトルク伝達へ与える影響を抑えながら、逃げ部44の幅W1を最大限大きくすることができる。尚、本実施形態では、逃げ部44は、圧力角α1の所定角度を45度として、それより大きい領域に形成されているが、45度に限られないのは勿論であり、適宜変更することができる。
上述した本実施形態の歯車機構12の第1の歯車40の作製手順について、図6(a)に基づいて説明する。まず、基準歯形43の歯底部41bにおける内接球41cの直径d1よりも太いエンドミルを利用して、エンドミルの長手方向を第1の歯車40の径方向にした状態で歯底部41b以外の基準歯形43を切削加工する。内接球41cの直径d1よりも太いエンドミルでは、基準歯形43の歯底部41bを切削加工することはできないので、歯底部41bは適宜切削する。
図6(a)に示すように、逃げ部44の幅W1と同等の直径を有するフラットエンドミル100を用いて、フラットエンドミル100の長手方向を第1の歯車40の軸方向に平行にした状態で、歯底部41bを1箇所ずつ切削加工して逃げ部44を形成する。この時のフラットエンドミル100の移動方向は、図6(a)の矢印に示すように外周側から内周側としたり、あるいは内周側から外周側にすることができる。全ての歯底部41bについて逃げ部44を切削することにより、第1の歯車40が作製される。
尚、本実施形態では、第1の歯車40を作製する際に、まず歯底部41bを有する歯車を作製し、その歯底部41bを切削加工して逃げ部44を形成する手順について説明した。しかしながら、第1の歯車40の作製手順としては、これに限られず、一旦歯底部41bを作製することなく、最初から歯先部41aと逃げ部44とを並行して削り出すようにしてもよい。
上述したように、本実施形態の歯車機構12によれば、基準歯形43の歯底部41bにおける内接球41cの直径d1よりも周方向に広い逃げ部44を有している。このため、逃げ部44を有さずに内接球41cの直径d1よりも太い工具を使用できない場合に比べて、歯41を作製する際の工具サイズを大型化することができる。
加工に使用する工具の刃径を太くすると、工具剛性が高くなり、加工時の工具の倒れ、ブレ等を小さく抑えることができ、安定した切削が可能となる。よって、安定した切削により適切な切削速度で加工することで加工面精度が向上し、歯形精度を向上することができる。また、歯形精度が向上することにより、噛合部のバックラッシの発生や、噛み合い歯数が減少することによる伝達トルクの低下等を抑制することができる。加工に使用する工具の刃径を太くすることにより、工具寿命を向上することができる。また、工具の刃径を太くすることで切削速度を上げることも可能になり、その場合は生産性の向上に寄与する。
また、本実施形態の歯車機構12によれば、第1の歯車40は、揺動歯車60の第1の歯61の歯先部61aが接触しないように窪んだ形状の逃げ部44を有している。このため、逃げ部44を有さずに第1の歯61の歯先部61aを縮小する場合に比べて、十分な予圧を確保することができる。即ち、第1の歯61の歯先部61aを縮小すると、第1の歯車40の歯41の全てに対して接触できなくなる。これに対し、歯先部61aを縮小せず歯41に逃げ部44を形成すると、歯先部61aは歯41の逃げ部44に対してのみ接触せず、それ以外の領域では歯41に対して接触可能になる。これにより、噛み合い歯数が確保されるので、噛み合い歯数が減少することによる伝達トルクの低下や、噛合部のバックラッシの発生等を抑制することができる。また、歯先部61aを縮小しないので、圧力角に対する影響も最小限に抑えることができ、性能低下を抑えることができる。
また、本実施形態の歯車機構12によれば、第1の歯車40の歯41と揺動歯車60の第1の歯61との間に潤滑剤を塗布する場合、逃げ部44を潤滑剤溜まりとして作用させることができる。これにより、逃げ部44を有しない場合に比べて、潤滑性能を長期間維持することができる。
また、本実施形態の歯車機構12によれば、逃げ部44は、基準歯形43における圧力角α1が45度より大きい領域に形成されている。このため、逃げ部44の形成による噛合い領域の減少がトルク伝達へ与える影響を抑えながら、逃げ部44の幅W1を最大限大きくすることで、加工に使用する工具の刃径を太くすることができる。
尚、上述した歯車機構12では、第1の歯車40の歯41と揺動歯車60の第1の歯61との関係についての効果を述べているが、第2の歯車50の歯51と揺動歯車60の第2の歯62との関係についても同様の効果を奏することができる。
本実施形態の歯車機構12では、逃げ部44は断面矩形状である場合について説明したが、これには限定されない。例えば、図6(b)に示すように、歯幅方向に沿った断面円弧形状の角部44aを有する逃げ部44としてもよい。この場合、同じ断面形状の先端部を有するラジアスエンドミル101を使用して、逃げ部44を切削加工することができ、加工工具の選択肢を増やすことができる。
また、例えば、図7(a)に示すように、歯底部41bの内接球41cの直径d1より大きな直径を有する内接球41dの移動軌跡により逃げ部44を形成するようにしてもよい。この場合、図7(b)に示すように、直径d1より大きな直径の先端部を有するボールエンドミル102を使用して、逃げ部44を切削加工することができ、加工工具の選択肢を増やすことができる。
また、本実施形態の歯車機構12では、逃げ部44,54は第1の歯車40及び第2の歯車50のみに形成された場合について説明したが、これには限定されない。例えば、第1の歯車40及び第2の歯車50に加えて、揺動歯車60に形成してもよい。即ち、第1の歯車40の歯41、第2の歯車50の歯51、揺動歯車60の第1の歯61及び第2の歯62の4箇所の歯のうち、少なくとも1つに逃げ部が形成されていればよい。
例えば、図8(a)に示すように、第1の歯車40の歯41と揺動歯車60の第1の歯61との両方の歯車に、逃げ部44,65が形成されるようにしてもよい。この場合、例えば、図8(b)に示すように、フラットエンドミル100により第1の歯61の歯底部61bに逃げ部65を形成する。これにより、逃げ部44,65を有さずに歯41の歯先部41a及び第1の歯61の歯先部61aを縮小する場合に比べて、十分な予圧を確保することができる。これにより、噛合部のバックラッシの発生や、噛み合い歯数が減少することによる伝達トルクの低下等を抑制することができる。
また、本実施形態の歯車機構12では、揺動歯車機構として、出力軸30が第2の歯車50に直結された構成である場合について説明したが、これには限定されない。例えば、出力軸30は、揺動歯車60に自在継手等により連結されて回転されるようにしてもよい。この場合、第2の歯車50はケーシング11に固定し、第1の歯車40と第2の歯車50の歯数は同じにし、揺動歯車60の第1の歯61と第2の歯62との歯数も同じにする。あるいは、例えば、第2の歯車50を有さずに、出力軸30は揺動歯車60に自在継手等により連結されて回転されるようにしてもよい。
尚、本実施形態の歯車機構12では、歯形の加工を、エンドミル等の工具の回転により切削加工する例を示したが、これには限定されず、放電加工や歯切り盤、鍛造等による加工を適用してもよい。例えば、ワイヤ放電加工を適用した場合は、ワイヤ径を太くすることができるので、エンドミルを適用した場合と同様に歯形精度の向上を図ることができる。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係るロボット装置650について、図1を援用すると共に、図9を参照しながら説明する。第2実施形態に係るロボット装置650は、アクチュエータ110の減速機109の構成が第1実施形態と相違する。そのため、第2実施形態においては、第1実施形態と相違する減速機109を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略する。
図9に示すように、本実施形態の減速機109は、第1実施形態に対して、揺動歯車160の第1の歯161と第2の歯162とが薄肉化されたフランジ(弾性支持部)166,167により別々に支持されている点で異なっている。即ち、第1の歯161はフランジ166により支持され、第2の歯162はフランジ166に軸方向に間隔を空けて設けられるフランジ167に支持されており、第1の歯161と第2の歯162とが軸方向に互いに接離可能に弾性的に移動可能になっている。また、第1の歯車40と第2の歯車50とは、揺動歯車160を軸方向に挟み込んで予圧を与えるように設置されている。
本実施形態の歯車機構112によれば、第1の歯車40と第2の歯車50とから揺動歯車160に与えられた予圧により、第1の歯161及び第2の歯162が軸方向に押圧され、各フランジ166,167が弾性変形する。これにより、予圧を吸収できると共に、各歯の間での予圧を適切な大きさに維持することができる。このため、フランジ166,167を有さない場合に比べて、適切な予圧を維持することができ、噛合部のバックラッシの発生や、噛み合い歯数が減少することによる伝達トルクの低下等を抑制することができる。
上述したように、第1及び第2実施形態のアクチュエータ10,110によれば、小型で高負荷容量、高剛性、高効率な減速機9,109と駆動モータ8とを一体化しているので、小型で高性能なアクチュエータ10,110を得ることができる。また、ロボットアーム601として垂直多関節型の6軸多関節ロボットアームを適用した場合について説明したが、これには限られない。例えば、5軸や7軸、あるいは水平多関節ロボット、直交ロボット、多関節ロボット以外のロボットにおいても、適用することができる。更に、このアクチュエータ10,110をロボットアーム601の関節611〜616に用いることで、ロボットアーム601を高性能化することが可能になる。また、本発明はロボットアーム601にかぎらず、他の用途、例えば電動車両の駆動やベルトコンベヤ等、小型大トルクが必要なものに好適である。
また、第1及び第2実施形態のように減速機9,109と駆動モータ8とを一体化せずに、減速機9,109の入力軸20にベルトとプーリ等の伝達部材を用いて、別体のモータで駆動するようにして、アクチュエータを構成してもよい。この場合、一体化する場合よりも多種類のモータと組み合わせることが容易になる。
また、上述した第1及び第2実施形態では、減速機9,109は1組の歯車機構12,112を備えているが、これには限られず複数の歯車機構を備えるようにしてもよい。
また、上述した第1及び第2実施形態では、歯車機構12,112を揺動歯車機構として減速機9,109に適用しているが、これには限られず、揺動歯車機構以外の歯車機構の全般に適用することができる。