以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、自動車用4気筒ガソリンエンジン(内燃機関)に本発明を適用した場合について説明する。
−エンジン−
図1および図2は本実施形態に係るエンジン1の概略構成を示す図である。なお、図2ではエンジン1の1気筒の構成のみを示している。
これらの図に示すように、エンジン1は、火花点火式4気筒レシプロエンジンであり、各気筒11(♯1〜♯4)毎に備えられたポート噴射式のインジェクタ10aを備え、このインジェクタ10aから噴射された燃料により混合気を生成するようになっている。
また、エンジン1の各気筒11内にはピストン13が設けられており、前記混合気の燃焼に伴ってこのピストン13が気筒11内で往復運動する。
前記各インジェクタ10a,10a,…は、それぞれデリバリパイプ10bに接続されており、このデリバリパイプ10bから燃料が供給されるようになっている。
また、インジェクタ10aによって燃焼室12内に向けて噴射された燃料は、吸気通路14の一部を構成するインテークマニホールド14aを通り、吸気バルブ16の開弁動作に伴って燃焼室12内へ導入される空気Aと共に混合気を形成し、点火プラグ15で着火されて燃焼する。混合気の燃焼圧力はピストン13に伝えられ、ピストン13を往復運動させる。
ピストン13の往復運動はコネクティングロッド13aを介してクランクシャフト18に伝えられ、ここで回転運動に変換されて、エンジン1の出力として取り出される。
また、燃焼後の混合気は排気ガスExとなり、排気バルブ17の開弁動作に伴って排気通路19の一部であるエキゾーストマニホールド19aへ排出される。エキゾーストマニホールド19aへ排出された排気ガスは、排気通路19に排出され、三元触媒19b,19cにおいて浄化された後、外部に放出される。
また、エンジン1は、吸気通路14におけるエアクリーナ14bの下流側に設けられたスロットルボディ8により吸入空気量が調整される。このスロットルボディ8は、スロットルバルブ81と、このスロットルバルブ81を開閉駆動するスロットルモータ82と、スロットルバルブ81の開度を検出するスロットル開度センサ103とを備えている。
ECU100は、ドライバ(運転者)により操作されるアクセルの開度を検知するアクセル開度センサ101からの出力を取得して、スロットルモータ82に制御信号を送り、スロットル開度センサ103からのスロットルバルブ81の開度のフィードバック信号に基づいて、スロットルバルブ81を適切な開度に制御する。これにより、エンジン1の気筒11内へ導入する空気Aの量を制御する。
エンジン1の排気通路19には2つの三元触媒19b,19cが備えられている。これら三元触媒19b,19cは、酸素を貯蔵(吸蔵)するO2ストレージ機能(酸素貯蔵機能)を有しており、この酸素貯蔵機能により、空燃比が理論空燃比からある程度まで偏移したとしても、HC,COおよびNOxを浄化することが可能となっている。即ち、エンジン1の空燃比がリーンとなって、三元触媒19b,19cに流入する排気ガス中の酸素およびNOxが増加すると、酸素の一部を三元触媒19b,19cが吸蔵することでNOxの還元・浄化を促進する。一方、エンジン1の空燃比がリッチになって、三元触媒19b,19cに流入する排気ガスにHC,COが多量に含まれると、三元触媒19b,19cは内部に吸蔵している酸素分子を放出し、これらのHC,COに酸素分子を与え、酸化・浄化を促進する。
これら三元触媒19b,19cのうち上流側に位置している三元触媒はスタート触媒19bである。このスタート触媒19bは、排気通路19の上流部分(燃焼室12に近い部分)に設けられているため、エンジン1の始動後、短時間のうちに活性温度まで上昇するといった特徴がある。また、下流側に位置している三元触媒はアンダーフロア触媒19cである。このアンダーフロア触媒19cは、前記スタート触媒19bで浄化することのできなかったHC,COおよびNOxを浄化するためのものであり、車体を構成するフロアパネルの下側に配設されている。
前記排気通路19におけるスタート触媒19bの上流側には、A/Fセンサ(空燃比センサ)110が配置されている。このA/Fセンサ110は、例えば限界電流式の酸素濃度センサが適用されており、広い空燃比領域に亘って空燃比に対応した出力電圧を発生する構成となっている。
また、排気通路19におけるスタート触媒19bの下流側であって且つアンダーフロア触媒19cの上流側には、O2センサ(酸素センサ)111が配置されている。このO2センサ111は、例えば起電力式(濃淡電池式)の酸素濃度センサが適用されており、その出力値が理論空燃比付近でステップ状に変化する構成となっている。なお、このスタート触媒19bの下流側に配設されるセンサとしてはA/Fセンサであってもよい。
−ECU−
ECU100は、エンジン1の運転制御を含む各種制御を実行する電子制御装置であって、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)およびバックアップRAMなどを備えている。
ECU100には、図3に示すように、前記アクセル開度センサ101、クランクポジションセンサ102、スロットル開度センサ103、水温センサ104、エアフローメータ105、吸気温センサ106、前記A/Fセンサ110、O2センサ111等が接続されており、これらの各センサからの信号がECU100に入力されるようになっている。
また、ECU100には、スロットルモータ82、インジェクタ10a、点火プラグ15の点火タイミングを調整するイグナイタ15aなどが接続されている。
そして、ECU100は、前記した各種センサの出力信号に基づいて、エンジン1のスロットル開度制御(吸入空気量制御)、燃料噴射量制御、および、点火時期制御などのエンジン1の各種制御を実行する。また、ECU100は、A/Fセンサ110およびO2センサ111の出力に基づいて空燃比フィードバック制御(ストイキ制御)を実行する。この空燃比フィードバック制御にあっては、A/Fセンサ110によって検出された排気空燃比を所定の目標空燃比であるストイキに一致させるメインフィードバック制御と、O2センサ111によって検出された排気空燃比をストイキに一致させるようなサブフィードバック制御とが行われる。
−S被毒回復制御−
次に、本実施形態の特徴であるS被毒回復制御について説明する。ここでは、前記スタート触媒19bに対するS被毒回復制御を例に挙げて説明する。
燃料中には硫黄成分が含まれている場合が多い。このため、エンジン1の運転中には、SO2やSO3などといった硫黄酸化物(SOx)が生成され、これが排気中に含まれることになる。このSOxは触媒19bに吸収される。そして、触媒19bに吸収されたSOxは、エンジン運転時間の経過とともに硫酸塩等の化学的に安定した物質となって触媒19bに徐々に蓄積されるため、いわゆる硫黄被毒(以下、「S被毒」という場合もある)が生じることになる。
S被毒が進行すると、触媒19bによる酸素の吸蔵量の限界値や酸素の吸蔵効率が低下し、結果として排気浄化効率が低下する。これを解消するため、エンジン運転中の所定のタイミングでSOxを触媒19bから放出させる(S被毒を解消する)S被毒回復制御が行われる。
このS被毒回復制御は、エンジンの運転状態の履歴に基づいて触媒19bのSOx堆積量(S堆積量)を算出し、そのS堆積量の積算値が所定値に達したこと、および、触媒温度が所定の範囲内に達したことを条件に実行される。このS被毒回復制御では、排気ガスの空燃比をリッチとリーンとの間で変化させ、触媒19bでの酸化還元反応(いわゆる触媒19bでの後燃え)を行わせることで触媒温度を上昇させると共に、その高温環境下で、触媒19bの周りをリッチ雰囲気とすることで触媒19bからの硫黄成分の放出およびその還元を促進するものである。
また、本実施形態におけるS被毒回復制御では、エンジン1の複数(4つ)の気筒のうち一部の気筒における空燃比を理論空燃比(A/F=14.7)よりもリッチにすると共に他の気筒における空燃比を理論空燃比よりもリーンにするインバランス制御を行うものとなっている。つまり、一部の気筒におけるインジェクタ10aからの燃料噴射量を増量(理論空燃比が得られる燃料噴射量よりも増量)することで、その気筒の空燃比をリッチ(例えば、空燃比=9〜12程度)にすると共に、他の気筒におけるインジェクタ10aからの燃料噴射量を減量(理論空燃比が得られる燃料噴射量よりも減量)することで、その気筒の空燃比をリーン(例えば、空燃比=15〜16程度)にする。
そして、本実施形態におけるインバランス制御の特徴としては、この制御を実施する期間中、全ての気筒11(♯1〜♯4)において、空燃比が理論空燃比よりもリッチになる状態とリーンになる状態との間で切り替わるように、複数回の燃焼行程が行われる所定期間毎に、空燃比が理論空燃比よりもリッチになる気筒11を切り替えていくようにしている。この空燃比を切り替えていく制御は、前記ECU100において行われる。このため、このECU100において、空燃比を切り替えていく制御(複数回の燃焼行程が行われる所定期間毎に、空燃比が理論空燃比よりもリッチになる気筒を切り替えていく制御)を実施する機能部分が本発明でいう空燃比変更部に相当することになる。
以下、S被毒回復制御の具体的な制御手順についてフローチャートを用いて説明する。図4はS被毒回復制御(インバランス制御によるS被毒回復制御)を実施するか否かに当たって切り替えられるインバランス制御実行フラグの切り替え動作の手順を示すフローチャートである。図5は触媒19bにおける硫黄分の堆積量(推定S堆積量)の算出動作の手順を示すフローチャートである。図6は触媒19bの温度(触媒推定温度)の算出動作の手順を示すフローチャートである。図7はインバランス制御実行時における制御手順を示すフローチャートである。
(インバランス制御実行フラグの切り替え動作)
インバランス制御実行フラグは、「ON」である場合にインバランス制御(S被毒回復制御)を実行し、「OFF」である場合にインバランス制御を非実行とするためのフラグである。
このインバランス制御実行フラグの切り替え動作では、図4のフローチャートに示すように、先ず、ステップST11でインバランス制御が既に実行されているか否かを判定する。具体的には、インバランス制御実行フラグが既に「ON」となっており、インバランス制御が実行されているか否かを判定する。
インバランス制御が実行されておらず、ステップST11でNO判定された場合には、ステップST12に移り、触媒19bにおける硫黄分の堆積量(推定S堆積量)が所定値A以上となっているか否かを判定する。この所定値Aとしては例えば200mgが挙げられる。この所定値Aは、S被毒回復制御を必要とするS堆積量として予め設定されている。前記の値は、これに限定されるものではなく、触媒19bの容量等に応じて適宜設定される。
ここで、図5のフローチャートを用いて推定S堆積量の算出動作について説明する。また、図6のフローチャートを用いて触媒19bの温度(触媒推定温度)の算出動作について説明する。
推定S堆積量の算出動作(図5のフローチャート)は、触媒19bの温度(触媒推定温度)に基づいて推定S堆積量を算出する。硫黄分の堆積は、触媒19bの温度が所定値以下である場合に生じ、触媒19bの温度が所定値を超えている場合には前述したように硫黄分が触媒19bから放出されやすくなる。そこで、以下の推定S堆積量の算出動作では、この触媒19bの温度に基づいて硫黄分の堆積量(S堆積量)を推定する。
具体的には、先ず、ステップST21において、触媒19bの温度(触媒推定温度;後述する触媒推定温度算出動作(図6に示したフローチャート)によって得られた触媒推定温度)が所定値a以下であるか否かを判定する。この所定値aとしては例えば600℃が挙げられる。この値はこれに限定されるものではなく適宜設定される。
触媒推定温度が所定値a以下であり、ステップST21でYES判定された場合には、ステップST22に移り、以下の式(1)で推定S堆積加算量を算出する。
推定S堆積加算量=空気量×S加算係数 …(1)
この空気量は前記エアフローメータ105によって検出される。また、S加算係数としては例えば「0.001」に設定されている。この値はこれに限定されるものではなく、適宜設定される。
このようにして推定S堆積加算量を算出した後、ステップST23に移り、前回ルーチンで算出されていた推定S堆積量(推定S堆積量の前回値)に、今回算出された推定S堆積加算量を加算し、これを現在の推定S堆積量として設定する。
一方、触媒推定温度が所定値aを超えており、ステップST21でNO判定された場合には、ステップST24に移り、触媒19bの温度(触媒推定温度)が所定値f以下であるか否かを判定する。この所定値fとしては例えば730℃が挙げられる。この値はこれに限定されるものではなく適宜設定される。
触媒推定温度が所定値f以下であり、ステップST24でYES判定された場合には、そのままリターンされる。つまり、触媒推定温度としては、触媒19bに硫黄が堆積されたり、触媒19bから硫黄が放出されたりする温度にはなっていないと判断し、現在の推定S堆積量を変更することなくリターンされる。
一方、触媒推定温度が所定値fを超えており、ステップST24でNO判定された場合には、ステップST25に移り、以下の式(2)で推定S堆積減算量を算出する。
推定S堆積減算量=空気量×S減算係数 …(2)
S減算係数は、前記S加算係数よりも大きな値であって、例えば「0.005」に設定されている。この値はこれに限定されるものではなく、適宜設定される。
このようにして推定S堆積減算量を算出した後、ステップST26に移り、前回ルーチンで算出されていた推定S堆積量(推定S堆積量の前回値)から、今回算出された推定S堆積減算量を減算し、これを現在の推定S堆積量として設定する。
以上の動作が繰り返されることにより、推定S堆積量が算出されていく。
また、触媒推定温度の算出動作(図6のフローチャート)では、ステップST31でインバランス制御が既に実行されているか否かを判定する。具体的には、インバランス制御実行フラグが既に「ON」となっており、インバランス制御が実行されているか否かを判定する。
インバランス制御が実行されておらず、ステップST31でNO判定された場合には、ステップST32に移り、現在のエンジン回転速度やエンジン負荷率をパラメータとする触媒温度推定マップを利用して触媒推定温度を求めてリターンされる。エンジン回転速度は、前記クランクポジションセンサ102からの出力信号に基づいて算出される。また、エンジン負荷率は、前記アクセル開度センサ101からの出力信号に基づいて算出される。
一方、インバランス制御が実行されており、ステップST31でYES判定された場合には、ステップST33に移り、前記触媒温度推定マップによって、インバランス制御の実行に伴う温度上昇分が加算された触媒推定温度を求めてリターンされる。
図8は、インバランス制御の実行時および非実行時それぞれにおけるエンジン負荷率と触媒推定温度との関係を規定する触媒温度推定マップを示している。この触媒温度推定マップは、実験またはシミュレーションに基づいて作成されてECU100のROMに記憶されている。この図8に示すように、インバランス制御の実行時および非実行時の何れにおいてもエンジン負荷率が高いほど触媒推定温度は高い値として求められる。また、同一エンジン負荷率の場合、インバランス制御の非実行時に比べてインバランス制御実行時の方が触媒推定温度は高い値(インバランス制御の実行に伴う温度上昇分だけ高い値;例えば100〜150℃程度高い値)として求められる。なお、これは、エンジン回転速度と触媒推定温度との関係(エンジン回転速度と触媒推定温度との関係を規定する図示しない触媒温度推定マップ)においても同様である。このようなマップ(図8に示したエンジン負荷率と触媒推定温度との関係を規定する触媒温度推定マップ、および、エンジン回転速度と触媒推定温度との関係を規定する触媒温度推定マップ)を利用することで(例えば各マップで得られた値の平均値を求めて)、インバランス制御の実行時および非実行時それぞれにおいて触媒推定温度を求めるようになっている。
以上の動作が繰り返されることにより、触媒推定温度が算出されていく。
図4(インバランス制御実行フラグの切り替え動作)に戻り、ステップST12において触媒19bの推定S堆積量(図5に示した算出動作によって求められた推定S堆積量)が所定値A未満である場合には、ステップST12でNO判定され、そのままリターンされる。つまり、触媒19bの推定S堆積量は比較的少なく、未だS被毒回復制御(インバランス制御によるS被毒回復制御)は必要ないとしてリターンされる。
一方、触媒19bの推定S堆積量が所定値A以上となっており、ステップST12でYES判定された場合には、ステップST13に移り、触媒19bの温度(触媒推定温度;図6に示した算出動作によって求められた触媒推定温度)が所定値b以上で且つ所定値c以下の範囲内となっているか否かを判定する。この所定値bとしては例えば650℃が挙げられる。また、所定値cとしては例えば700℃が挙げられる。これらの値はこれに限定されるものではなく適宜設定される。
触媒推定温度が前記範囲内(b≦触媒推定温度≦c)でない場合には、ステップST13でNO判定され、そのままリターンされる。つまり、触媒推定温度がS被毒回復制御を実施できる温度にはない(b>触媒推定温度の場合)、または、インバランス制御を実施しなくても触媒19bから硫黄が放出される可能性がある(触媒推定温度>cの場合)としてリターンされる。
一方、触媒推定温度が前記範囲内(b≦触媒推定温度≦c)にある場合には、ステップST13でYES判定され、ステップST17に移り、インバランス制御実行フラグを「ON」に切り替えてリターンされる。つまり、触媒推定温度が、インバランス制御によってS被毒を解消できる温度範囲内にあるとして、インバランス制御を実施するべくインバランス制御実行フラグを「ON」に切り替える。
前記ステップST11の判定において、インバランス制御が既に実行されており、YES判定された場合には、ステップST14に移り、触媒19bの推定S堆積量が所定値B以上となっているか否かを判定する。この所定値Bとしては例えば50mgが挙げられる。この値はこれに限定されるものではなく、触媒19bの容量等に応じて適宜設定される。
触媒19bの推定S堆積量が所定値B未満である場合には、ステップST14でNO判定され、ステップST15において、インバランス制御実行フラグを「OFF」に切り替えた後、リターンされる。つまり、インバランス制御によるS被毒回復制御の実施によって推定S堆積量が少なくなり、S被毒回復制御を終了させるべく、インバランス制御実行フラグを「OFF」に切り替える。
一方、触媒19bの推定S堆積量が所定値B以上であり、ステップST14でYES判定された場合には、ステップST16に移り、触媒推定温度が所定値d以上で且つ所定値e以下の範囲内となっているか否かを判定する。この所定値dとしては例えば600℃が挙げられる。また、所定値eとしては例えば850℃が挙げられる。これらの値はこれに限定されるものではなく適宜設定される。
触媒推定温度が前記範囲内(d≦触媒推定温度≦e)でない場合には、ステップST16でNO判定され、ステップST15において、インバランス制御実行フラグを「OFF」に切り替えた後、リターンされる。つまり、触媒推定温度がS被毒回復制御を効果的に実施できる温度にはない(d>触媒推定温度の場合)、または、触媒推定温度が過上昇する可能性があるとして(触媒推定温度>eの場合)、S被毒回復制御を停止させるべく、インバランス制御実行フラグを「OFF」に切り替える。
一方、触媒推定温度が前記範囲内(d≦触媒推定温度≦e)にある場合には、ステップST16でYES判定され、ステップST17に移り、インバランス制御実行フラグを「ON」にしてリターンされる。つまり、触媒19bの推定S堆積量が未だ多く、且つ触媒推定温度が、インバランス制御によってS被毒を解消できる温度範囲内にあるとして、インバランス制御を継続するべくインバランス制御実行フラグを「ON」にする。
以上のようにして、インバランス制御実行フラグの切り替え動作が行われる。
次に、図7のフローチャートを用いてインバランス制御の手順について説明する。
このインバランス制御では、先ず、ステップST41でインバランス制御が既に実行されているか否かを判定する。具体的には、前記インバランス制御実行フラグが「ON」となっており、インバランス制御が実行されているか否かを判定する。
インバランス制御が実行されておらず、ステップST41でNO判定された場合には、ステップST42に移り、エンジンの通常制御を実施する。つまり、燃料噴射制御にあっては、エンジン回転速度やエンジン負荷率等に応じた燃料噴射量が、前述したメインフィードバック制御およびサブフィードバック制御によって各インジェクタ10aから燃焼室12内に向けて噴射される。
一方、インバランス制御が既に実行されており、ステップST41でYES判定された場合には、ステップST43に移り、リッチ気筒変更処理(本発明でいう空燃比変更部による制御(複数回の燃焼行程が行われる所定期間毎に、空燃比が理論空燃比よりもリッチになる気筒を切り替えていく制御))を実施する。このリッチ気筒変更処理は、前述したように、複数回の燃焼行程が行われる所定期間毎に、空燃比が理論空燃比よりもリッチになる気筒11を切り替えていくものである。つまり、この所定期間毎に、複数の気筒11(♯1〜♯4)のうち空燃比をリッチ(理論空燃比よりもリッチ)にする気筒を変更する処理である。本実施形態におけるインバランス制御では、4つの気筒のうち1つの気筒のみに対して空燃比をリッチに設定し、他の3つの気筒に対しては空燃比をリーンに設定するものとなっている。そして、このステップST43では、この所定期間の終了時期を迎えたタイミングで、それまで空燃比がリッチに設定されていた気筒の空燃比をリーンにすると共に、他の気筒(それまで空燃比がリーンに設定されていた気筒)のうちの1つの気筒の空燃比をリッチにする。このようにして空燃比を変更した後、ステップST44に移る。
以下では、空燃比がリッチに設定される気筒を「リッチ気筒」と呼び、空燃比がリーンに設定される気筒を「リーン気筒」と呼ぶこととする。つまり、このリッチ気筒変更処理では、所定期間の終了時期を迎えたタイミングで、「リッチ気筒」であった1つの気筒を「リーン気筒」に切り替えると共に、「リーン気筒」であった3つの気筒のうちの1つの気筒を「リッチ気筒」に切り替える。例えば第1番気筒(♯1)のみがリッチ気筒であった場合には、第3番気筒(♯3)のみがリッチ気筒となるように気筒の変更処理(リッチ気筒変更処理)を実施する。
図9は、このインバランス制御の実行時において各気筒毎に設定される空燃比の推移を示す図である。この図9では、縦軸が各気筒11(♯1〜♯4)であり、横軸が時間(各気筒11が順に燃焼行程を迎える時間)となっている。また、この図9では、リッチ気筒の燃焼タイミングを「リッチ」と表記し、リーン気筒の燃焼タイミングを「リーン」と表記している。
この図9に示すように、リッチ気筒変更処理では、連続する5回の燃焼行程を1つの制御単位とし、この制御単位において、1つの燃焼行程をリッチに設定し、4つの燃焼行程をリーンに設定している。
具体的には、第1番気筒(♯1)→第3番気筒(♯3)→第4番気筒(♯4)→第2番気筒(♯2)→第1番気筒(♯1)の順で燃焼行程を迎える場合に、第1回目の第1番気筒(♯1)の燃焼行程での空燃比をリッチにする。つまり、この第1番気筒(♯1)をリッチ気筒に設定する。その後の第3番気筒(♯3)、第4番気筒(♯4)、第2番気筒(♯2)、第1番気筒(♯1)それぞれの燃焼行程での空燃比をリーンにする。つまり、これらの気筒をリーン気筒に設定する。
また、その後に連続する5回の燃焼行程の制御単位に対しては、第3番気筒(♯3)→第4番気筒(♯4)→第2番気筒(♯2)→第1番気筒(♯1)→第3番気筒(♯3)の順で燃焼行程を迎えることになるが、この場合には、第1回目の第3番気筒(♯3)の燃焼行程での空燃比をリッチにする。つまり、この第3番気筒(♯3)をリッチ気筒に設定する。その後の第4番気筒(♯4)、第2番気筒(♯2)、第1番気筒(♯1)、第3番気筒(♯3)それぞれの燃焼行程での空燃比をリーンにする。つまり、これらの気筒をリーン気筒に設定する。
このようにして、5回の燃焼行程の制御単位毎に、リッチ気筒を、第1番気筒(♯1)、第3番気筒(♯3)、第4番気筒(♯4)、第2番気筒(♯2)の順で切り替えていくことになる(このリッチ気筒変更処理が、本発明でいう空燃比変更部によって行われる「硫黄被毒回復制御を実施する期間中、全ての気筒において、空燃比が理論空燃比よりもリッチになる状態とリーンになる状態との間で切り替わるように、複数回の燃焼行程が行われる所定期間毎に、空燃比が理論空燃比よりもリッチになる気筒を切り替えていく」動作に相当する)。
また、本実施形態では、リッチ気筒に対して噴射する燃料の噴射量のうち理論空燃比を得るための燃料噴射量に対する余剰分をQrとし、リーン気筒に対して噴射する燃料の噴射量において理論空燃比を得るための燃料噴射量に対する不足分をQlとした場合、以下の式(3)が成り立つように設定されている。
Qr=4×Ql …(3)
このように、5回の燃焼行程の制御単位毎において、理論空燃比を得るための燃料噴射量に対する余剰分と不足分の総量とが互いに相殺されて、この5回の燃焼行程の制御単位全体としての総燃料噴射量は、理論空燃比が得られる量となるように、各気筒の燃料噴射量が設定される。一例として、リッチ気筒における余剰分(理論空燃比を得るための燃料噴射量に対する余剰分)は20mm3に設定され、リーン気筒における不足分(理論空燃比を得るための燃料噴射量に対する不足分)はそれぞれ5mm3に設定されている。これら値はこれに限定されるものではなく、適宜設定される。
ステップST44では、前記リッチ気筒変更処理に伴って、燃料増量補正処理を実施する。前記インバランス制御を実行した場合、排気ガス中の水素量の変動の影響によってA/Fセンサ110の出力値にズレが生じる可能性がある。例えば、排気ガス中の水素量の変動に伴って、実際の空燃比よりもリッチとなる出力値がA/Fセンサ110から出力されてしまう可能性がある。
この点を考慮し、このステップST44では、吸入空気量に応じて燃料噴射量を増量補正し、前記A/Fセンサ110の出力値にズレが生じても、実際の空燃比が適正に得られるようにしている。
図10は、この燃料増量補正処理を実施する際に参照される燃料増量補正マップを示す図である。この燃料増量補正マップは、吸入空気量が多いほど、燃料噴射量の増量補正を多く設定するものとなっており、実験またはシミュレーションに基づいて作成されてECU100のROMに記憶されている。このため、実際に各インジェクタ10aから噴射される燃料量としては、前記リッチ気筒変更処理(ステップST43)で設定された燃料噴射量に、この燃料増量補正処理(ステップST44)で設定された燃料噴射補正量を加算した量となる。
ステップST45では、前記リッチ気筒変更処理に伴って、スロットル開度補正処理を実施する。前記インバランス制御を実行した場合、リーン気筒での燃焼行程が4回連続するため、エンジン1のトルクが低下する可能性がある。この点を考慮し、このステップST45では、インバランス制御の実行時には、インバランス制御の非実行時に比べてスロットル開度を大きくする(吸入空気量を多くする)ように補正し、ドライバの要求トルクが得られるようにしている。
図11は、このスロットル開度補正処理を実施する際に参照されるスロットル開度補正マップを示す図である。この図11に示すように、インバランス制御の実行時および非実行時の何れにおいても要求トルクが高いほどスロットル開度は大きな値(吸入空気量が多くなる値)として求められる。また、同一要求トルクの場合、インバランス制御の非実行時に比べてインバランス制御実行時の方がスロットル開度は大きな値(吸入空気量が多くなる値)として求められる。つまり、インバランス制御の非実行時に比べてインバランス制御実行時の方がスロットル開度が大きくなるように補正される。このスロットル開度補正マップも、実験またはシミュレーションに基づいて作成されてECU100のROMに記憶されている。
以上の動作が繰り返されることにより、インバランス制御(S被毒回復制御)を実施する期間中、全ての気筒11(♯1〜♯4)において、空燃比が理論空燃比よりもリッチになる状態とリーンになる状態との間で切り替わるように、複数回の燃焼行程(本実施形態では5回の燃焼行程)が行われる所定期間毎に、空燃比が理論空燃比よりもリッチになる気筒11を切り替えていくと共に、それに伴って、燃料増量補正処理およびスロットル開度の補正処理が行われることになる。
このようなインバランス制御が行われるため、前記ECU100によって本発明に係る内燃機関の制御装置が構成される。この制御装置は、前記アクセル開度センサ101、クランクポジションセンサ102、エアフローメータ105等からの各信号を入力信号として受信する構成となっている。また、この制御装置は、各インジェクタ10aに燃料噴射量信号を出力信号として出力する構成となっている。
このように本実施形態では、全ての気筒11(♯1〜♯4)において、空燃比が理論空燃比よりもリッチになる状態とリーンになる状態との間で切り替わるように、複数回の燃焼行程が行われる所定期間毎に、空燃比が理論空燃比よりもリッチになる気筒を切り替えていくことにより、排気通路19において空燃比がリッチとなっている排気ガスが流れる領域が所定期間毎に変更されていくことになる。つまり、空燃比がリーンとなっている排気ガスが流れていた領域には、前記リッチ気筒が切り替えられることに伴って、空燃比がリッチとなっている排気ガスが流れることになる。このため、触媒19bの内部においても、空燃比がリッチとなっている排気ガスが流れる領域が所定期間毎に変更されていくことになる。従って、触媒19bの内部において、一部の領域に、空燃比がリッチな排気ガスがS被毒回復制御の実施期間中継続して流れる状況や、空燃比がリーンな排気ガスがS被毒回復制御の実施期間中継続して流れる状況を生じさせないことができ、触媒19bの一部分で劣化が進行してしまうことを抑制できる。
図12は、前記インバランス制御の実行時における、車速、触媒推定温度、インバランス制御実行フラグ、リッチ気筒目標空燃比、リーン気筒目標空燃比それぞれの推移の一例を示すタイミングチャート図である。
この図12では、タイミングT1において触媒推定温度が所定値(インバランス制御を実行する温度:前記温度b)に達したことで、インバランス制御実行フラグが「ON」となってインバランス制御が開始している。これにより、触媒19bの温度は、このインバランス制御の実行に伴う上昇分(1サイクル中における排気ガスの空燃比がリッチとリーンとの間で変化し、触媒19bでの酸化還元反応が行われることによる上昇分)だけ上昇している。図中における触媒推定温度の破線はインバランス制御を実施しなかった場合の温度の推移であり、実線はインバランス制御を実施した場合の温度の推移である。
また、この図12では、タイミングT2において触媒推定温度が所定値(インバランス制御を停止する温度:前記温度d)まで低下したことで、インバランス制御実行フラグが「OFF」となってインバランス制御が終了している。
−変形例−
次に、変形例について説明する。本変形例は、インバランス制御の実行時において各気筒毎に設定される空燃比が前記実施形態のものとは異なっている。その他の構成および制御は、前記実施形態のものと同様である。このため、ここでは、インバランス制御の実行時において各気筒毎に設定される空燃比について主に説明する。
図13は、本変形例のインバランス制御の実行時において各気筒毎に設定される空燃比の推移を示す図である。この図13では、前述した図9と同様に、縦軸が各気筒11(♯1〜♯4)であり、横軸が時間(各気筒11が順に燃焼行程を迎える時間)となっている。また、この図13でも、リッチ気筒の燃焼タイミングを「リッチ」と表記し、リーン気筒の燃焼タイミングを「リーン」と表記している。
この図13に示すように、本変形例におけるリッチ気筒変更処理では、連続する10回の燃焼行程を1つの制御単位とし、この制御単位において、2つの燃焼行程をリッチに設定し、8つの燃焼行程をリーンに設定している。
具体的には、第1番気筒(♯1)→第3番気筒(♯3)→第4番気筒(♯4)→第2番気筒(♯2)→第1番気筒(♯1)→第3番気筒(♯3)→第4番気筒(♯4)→第2番気筒(♯2)→第1番気筒(♯1)→第3番気筒(♯3)の順で燃焼行程を迎える場合に、第1回目の第1番気筒(♯1)の燃焼行程での空燃比および第1回目の第3番気筒(♯3)の燃焼行程での空燃比それぞれをリッチにする。つまり、この第1番気筒(♯1)および第3番気筒(♯3)をそれぞれリッチ気筒に設定する。その後の第4番気筒(♯4)〜第3番気筒(♯3)までの8回の燃焼行程での空燃比をリーンにする。つまり、これらの気筒をリーン気筒に設定する。
また、その後に連続する10回の燃焼行程の制御単位に対しては、第1回目の第4番気筒(♯4)の燃焼行程での空燃比および第1回目の第2番気筒(♯2)の燃焼行程での空燃比それぞれをリッチにする。つまり、この第4番気筒(♯4)および第2番気筒(♯2)をそれぞれリッチ気筒に設定する。その後の各気筒の燃焼行程での空燃比をリーンにする。つまり、これらの気筒をリーン気筒に設定する。
このようにして、10回の燃焼行程の制御単位毎に、第1番気筒(♯1)および第3番気筒(♯3)をそれぞれリッチ気筒にする状態と、第4番気筒(♯4)および第2番気筒(♯2)をそれぞれリッチ気筒にする状態とを切り替えていくことになる(このリッチ気筒変更処理が、本発明でいう空燃比変更部によって行われる「硫黄被毒回復制御を実施する期間中、全ての気筒において、空燃比が理論空燃比よりもリッチになる状態とリーンになる状態との間で切り替わるように、複数回の燃焼行程が行われる所定期間毎に、空燃比が理論空燃比よりもリッチになる気筒を切り替えていく」動作に相当する)。
本変形例においても、前述した実施形態の場合と同様の作用効果を奏することができる。つまり、触媒19bの内部において、一部の領域に、空燃比がリッチな排気ガスがS被毒回復制御の実施期間中継続して流れる状況や、空燃比がリーンな排気ガスがS被毒回復制御の実施期間中継続して流れる状況を生じさせないことができ、触媒19bの一部分で劣化が進行してしまうことを抑制できる。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態では、連続する5回の燃焼行程を1つの制御単位とし、この制御単位において、1つの燃焼行程をリッチに設定し、4つの燃焼行程をリーンに設定していた。また、前記変形例では、連続する10回の燃焼行程を1つの制御単位とし、この制御単位において、2つの燃焼行程をリッチに設定し、8つの燃焼行程をリーンに設定していた。本発明は、これに限らず、気筒数とは異なる数の燃焼行程を1つの制御単位として、この制御単位において、リッチ気筒を切り替えるものであればよい。
また、前記実施形態および変形例では、自動車用4気筒ガソリンエンジンに本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、自動車以外のものに搭載されるエンジンに対しても適用することが可能である。また、気筒数やエンジンの形式(V型や水平対向型等)は特に限定されるものではない。なお、V型エンジンに適用される場合には、各バンクそれぞれにおいて前述したインバランス制御が独立して行われることになる。
また、前記実施形態および変形例ではコンベンショナル車両(駆動力源としてエンジンのみを搭載した車両)に本発明を適用した場合について説明したが、ハイブリッド車両(駆動力源としてエンジンおよび電動モータを搭載した車両)に対しても本発明は適用可能である。
また、前記実施形態および変形例ではスタート触媒19bに対するS被毒回復制御を例に挙げて説明したが、アンダーフロア触媒19cに対するS被毒回復制御に対しても本発明は適用が可能である。