JP6409854B2 - 無機質板の固定方法およびそのための治具 - Google Patents

無機質板の固定方法およびそのための治具 Download PDF

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Description

本発明は、無機質板、とりわけ薄型で大型の陶磁器板を壁などの躯体に固定する方法およびそのための治具に関し、さらに詳しくは無機質板を接着剤などで貼着する固定手段に加えて実施され、その脱落などを防止する方法およびそのための治具に関する。
内装または外装材としてタイルなどの無機質板が広く用いられている。これら無機質板の躯体への施工は、接着剤やモルタルなどで張り付けることに行われる。さらに、最近では目地を少なくでき、施工の簡略化や意匠の多様化を実現可能な大型陶磁器板が実用化され広く利用されてきており、このような大型陶磁器板についてもその施工は接着剤などによる張付けが一般的である。
このような無機質板、とくに大型陶磁器板を壁面などに施工する場合、経年により剥離や割れが発生しても、脱落並びに脱落に伴う被害を抑止することが必要になる。大型陶磁器板は薄型とされ軽量化されているものが多いが、特に大型陶磁器板を外装材としてする場合には、脱落並びに脱落に伴う被害を抑止可能な施工システムが重要になる。
このような施工システムとして、接着剤などによる貼着に加えて、無機質板に穴をあけてタッピングビスなどで固定することが行われている。しかしながら、内装・外装材として化粧面を有するものである場合、穴およびビスの頭は化粧面の意匠を損なう恐れがある。
化粧面の意匠性を損ねない施工方法として、例えば、無機質板の片面に非貫通孔を設け、この孔に円筒形状のコイル状部の全体を挿入してコイル状部の拡開方向の弾発力に基づく摩擦力により該穴に固定する方法が提案されている(特開平8−68183号公報、特許文献1)。この方法では、コイルを孔に挿入するため、ある程度の深さの孔を必要とする。また、非貫通孔に特定構造の係止片を用いて建築板を固定する提案もされているが(特開2010−236262号公報、特許文献2)、この係止片は非貫通孔内壁と点で接触する構造であるため、その係止力には限度があると考えられる。従って、化粧面の意匠性を損ねない施工方法、とりわけ薄型で大型の無機質板の固定方法が依然として求められていると言える。
特開平8−68183号公報 特開2010−236262号公報 特開2015−10380号公報
本発明は、無機質板を躯体に固定し、その脱落を防止できるその固定方法およびそのための治具、その固定方法によって得られる構造物の提供を目的とする。
そして、本発明による大型無機質板を躯体に固定する方法は、
(a) その深さが、最も短いその幅と同じかそれよりも小である非貫通孔または溝を、一方の面に有する大型無機質板を用意する工程と、
(b) 前記躯体と接続する接続部と、前記非貫通孔または溝に係止される板状の係止部とを備えてなる固定部材を用意する工程であって、前記係止部が、前記面に沿った方向に変形可能であり、前記非貫通孔または溝に挿入可能であり、かつ、前記非貫通孔または溝の内壁に当接する当接面を備えてなるものを用意する工程と、
(c) 前記係止部に力を加えてその形を歪めて前記非貫通孔または溝に前記係止部を挿入し、前記係止部を前記非貫通孔または溝の内壁に面して当接し押圧させることにより、前記固定部材を前記大型無機質板に係止する工程と、
(d) 前記接続部を躯体に接続する工程と、
(e) 前記非貫通孔または溝を有する面と躯体とを接着する工程と
を含んでなる方法である。
また、本発明による固定部材は、本発明による大型無機質板を躯体に固定する方法に用いられる固定部材であって、
前記躯体と接続する接続部と、前記非貫通孔または溝に係止される板状の係止部とを備えてなり、前記係止部が、前記面に沿った方向に変形可能であり、前記非貫通孔または溝に挿入可能であり、かつ、前記非貫通孔または溝の内壁に当接する当接面を備えてなることを特徴とする。
また、本発明による構造物は、
躯体と、該躯体に固定された無機質板とを備えてなる構造物であって、
前記無機質板が、その深さが、最も短いその幅と同じかそれよりも小である非貫通孔または溝を、一方の面に有し、
当該貫通孔または溝には固定部材が挿入されてなり、ここで当該固定部材は、前記躯体と接続する接続部と、前記非貫通孔または溝に係止される板状の係止部とを備えてなり、前記係止部が、前記面に沿った方向に変形して非貫通孔または溝に挿入可能であり、かつ、前記非貫通孔または溝の内壁に当接する当接面を備えてなり、
前記固定部材が躯体に接続され、さらに
前記非貫通孔または溝を有する面と躯体とが接着されてなることを特徴とする。
第一の態様による無機質板の躯体への固定方法を説明する図である。 図2(a)は、図1の無機質板1に設けられた非貫通孔2の拡大図である。図2(b)は、非貫通孔2の拡大断面図であり、図2(c)は断面がアリ穴、つまり逆ハの字の形状の非貫通孔の断面図である。 本発明による方法において用いられる固定部材の一つの例を示す図であり、一部が切れた円形の係止部131が、接続部132の一端から延伸した構造を有する。(a)は上面図、(b)は側面図である。 本発明による方法において用いられる固定部材の一つの例を示す図であり、接続部132の二つ端部から2片の係止部131が延伸した構造を有する。(a)は上面図、(b)は側面図である。 本発明による方法において用いられる固定部材一つの例を示す図であり、図3に示される固定部材において、固定部材の接続部が、固定部材の一部から一体的に延伸された延伸部を備えてなるものとした態様の図である。(a)は上面図、(b)は側面図である。 本発明による方法において用いられる固定部材の一つの例を示す図であり、図4に示される固定部材において、固定部材の接続部が、固定部材の一部から一体的に延伸された延伸部を備えてなるものとした態様の図である。(a)は上面図、(b)は側面図である。 非貫通孔に係止された状態の固定部材の断面図である。 図3の固定部材を非貫通孔に挿入し、接続部132の穴135に接続材である線材41を通し、線材に線材固定材42を接合して線材41を接続部132に結合した態様の説明図である。 図8に示される固定部材が係止された無機質板1を、躯体51に接続した状態の説明図である。 躯体51の表面52に、複数の無機質板1を張り付けた状態の説明図である。 非貫通孔が三角形の場合の説明図であり、非貫通孔が(a)に示されるような三角形である場合、固定部材は(b)および(c)に示されるような形状とされてよい。 第二の態様による無機質板の躯体への固定方法を説明する図である。 無機質板の溝の模式図である。溝2は途中で閉じずに、無機質板の端部にまで至り、その側面に凹みを形成している。 溝2の拡大断面図であり、(a)無機質板の表面に対してほぼ垂直な内壁面を有し、(b)はアリ穴、つまり逆ハの字の形状を有し、(c)は入り口より深さ方向に一定の距離の間、幅が変化しない内壁面があり、さらに深い位置では、幅を入り口の幅よりも大とされた溝の断面図である。 固定部材の一つの例を示す模式図である。 第二の態様における固定部材の別の形状の例を示す模式図である。
定義
無機質板
本発明による方法によって固定される無機質板は、例えば陶磁器、石、またはガラスからなるものである。本発明の一つの態様によれば、本発明において無機質板は、平板として、外装または内装の壁、床、天井の仕上げ材や、キャビネット面材やカウンターの仕上げ材に好ましく用いられる。従って、無機質板は、好ましくは意匠が施された化粧面と、躯体等に貼り付けられる施工面とを備える。また、その大きさは限定されないが、本発明による固定方法は、後記するとおり、無機質板の躯体への二重化された固定方法とすることができることから、比較的大型の無機質板に対して好ましく適用される。本発明の一つの態様によれば、無機質板は短辺300mmを超えるものであり、900cmを超える面積を有するものである。無機質板の短辺の長さは、好ましくは600mm以上、より好ましくは900mm以上を有するものである。
さらに本発明による固定方法は、比較的薄い無機質板に好ましく適用できる。薄い無機質板においては非貫通孔または溝は浅くならざるを得ない。大型の陶磁器板では軽量化のため、例えば厚さは3mm以上15mm程度まで、好ましくは10mm程度まで、より好ましくは8mm程度までとされる。
本発明において無機質板は、その表面に釉薬層を有していてもよい。釉薬の成分は特に限定されない。釉薬層の形成は、成形後に施釉し、成形体と一体的に焼成するか、または、焼成体(仮焼体)に施釉した後に焼成するか、いずれかの方法を用いてもよい。さらに、施釉の前後に乾燥工程を設けてもよい。
非貫通孔または溝
本発明による方法が適用される無機質板は、非貫通孔または溝を一方の面、すなわち施工面に有する。非貫通とは、施工面から深さ方向に掘り下げられて孔または溝が形成されるが、化粧面にまで至らない状態を意味する。そして、本発明にあっては、この非貫通孔または溝の深さが、孔または溝の最も短いその幅と同じかそれよりも小であるとされる。
本発明において、無機質板が有する非貫通孔とは、典型的には円形の穴を意味するが、形状は、円形に止まらず、楕円、三角形、四角形、多角形様であってよい。また、溝とは線状の凹部を意味する。しかしながら、孔と溝とは、本発明において明確に区別される必要はなく、例えば楕円の非貫通孔が横長に形成されて溝と解されるような形状であってもよい。後記する固定部材が挿入かつ係止可能である限りにおいて、非貫通孔または溝と呼ぶ。また、溝はその端において閉じずに、無機質板の端部にまで至り、その側面に凹みを形成するものであってよいが、無機質板の強度を維持する観点からは、その端は閉じて、無機質板の端部にまで溝が至らない構成が好ましいと考えられる。
非貫通孔または溝は、深さ方向の形状は、施工面に対して垂直とされてもよく、また入り口、すなわち開口部の直径よりも孔の奥における直径が大とされた、アリ穴、つまり逆ハの字の形状であってもよい。また、入り口部より深さ方向に一定の距離の間、直径が変化せず、さらに深い位置では直径を入り口の直径より大とされた形状であってもよい。
無機質板の強度等への影響からすると、非貫通孔または溝の深さは無機質板の厚さのほぼ半分乃至それ以下とされることが望ましい。本発明による固定方法は、とりわけこのような薄い無機質板における比較的浅い非貫通孔または溝に対して有利に用いられる。具体的には、例えば、非貫通孔または溝の深さが7mm以下であるような場合に適用できる。また、非貫通孔または溝の最も短い幅は6mm以上80mm以下が好ましく、8mm以上60mm以下がより好ましく、10mm以上〜50mm以下が、さらに好ましい。最も短い幅は、非貫通孔の孔形状が円形の場合は直径と同義であり、また、孔形状が多角形の場合はその中心を通る最短の幅を意味する。また、溝の場合は、凹条の方向と直角方向の幅のうち、最も短い部位の幅である。
本発明による施工方法
本発明を非貫通孔と溝とに分けると、本発明による方法は、
第一の態様として非貫通孔に、無機質板の施工面の面方向に主に変形可能な固定部材を適用する態様、
第二の態様として溝に、無機質板の施工面の面方向に主に変形可能な固定部材を適用する態様
と表すことができる。以下、この態様に分けて本発明を説明する。なお、以下において単に「本発明」と述べてこれら態様に言及することがある。
第一の態様
以下、本発明の第一の態様について、図面を参照しながら説明する。
図1は、この態様による無機質板の躯体への固定方法を説明する図である。図1において、無機質板1に、非貫通孔2が設けられてなり、この非貫通孔に固定部材103を挿入して固定部材が係止される。係止された固定部材103には、接続材4が結合され、固定部材103に結合された端と反対側の端において壁などの躯体に接続される。この図の態様にあっては、接続材4の一端がリング状とされ、そのリングにビスやアンカーボルトなどの固定具5を躯体(図示せず)に打ち込み、無機質板1は接続される。この接続とは別に、無機質板1の非貫通孔2が設けられた面は、接着剤により躯体に接着される。本発明による固定方法によれば、接着と、固定部材との二つの手段により、無機質板と躯体とが固定される。無機質板1は、経時的な劣化などで接着力が十分でなくなった場合でも、固定部材を用いた接続手段が存在するため、脱落や、脱落に伴う被害を防ぐことができる。すなわち、本発明によれば、無機質板の躯体への二重化された固定方法が提供される。
この態様による固定方法を、工程ごとに以下説明する。
(a)無機質板を用意する工程
この工程は上記で定義した無機質板を用意する工程である。図2(a)は、図1の無機質板1に設けられた非貫通孔2の拡大図である。さらに、図2(b)は、非貫通孔2の拡大断面図である。図に示される態様において、非貫通孔2は円形であり、無機質板の表面に対してほぼ垂直な内壁面121を有する。本発明の一つの態様によれば、非貫通孔2の内壁面121はほぼ垂直に限らず、例えば、その断面が図2(c)に示されるようなアリ穴、つまり逆ハの字の形状であってもよく、この場合、内壁面121は無機質板の表面に対して垂直ではない。本発明にあっては、固定部材が円周方向に内壁面と接触して係止する。図2(a)および(b)のようなほぼ垂直な内壁面とは円周方向に面で固定部材は接触、押圧し、主に摩擦力により係止される。また図2(c)のような形状の孔の場合は、係止部の側面が、無機質板の表面に対して垂直ではない内壁面に面で接触、押圧するようにテーパー状になっている。さらにこの場合は、無機質板の表面付近の径の最も小さな部分の付近で円周方向に接触して、引っ掛かる力によっても係止される。いずれの態様も本発明に包含される。
図2(a)および(b)に示される非貫通孔2の底面222は平面であってよいが、送入された固定部材の係止を大きく阻害しない限り、特に限定されない。
(b)固定部材を用意する工程
図3は、本発明による方法において用いられる固定部材の一つの例を示す図である。図3(a)において、固定部材103は、一部が切れた円形の外周形状を有する板状の部材であって、弾性を備えた部材、例えば金属からなり、穴用スナップリングと同じ作用によって、非貫通孔に係止される。一部が切れた円形の係止部131は、無機質板1に設けられた非貫通孔の直径よりもやや大きな外径を有し、また所定の厚みを有し、その側面133を有する。係止部131の切れた端部のそれぞれには、穴(ラグ)134が設けられ、ここに、例えば、スナップリングプライヤーを差し込み、外径が小さくなるように、無機質板の面に沿った方向に力を加えて係止部を歪め、無機質板の非貫通孔に挿入する。プライヤーを外し、係止部131を解放すると、元の形に戻ろうとする力(弾力)が働き、係止部131が、非貫通孔の内壁面に向かって外径を拡大し、側面133を内壁面112に円周方向に押しつけ、側面133と内壁面112とは面で当接する。面で当接することにより発生する摩擦力によって、固定部材は非貫通孔に係止される。
また、非貫通孔が図2(c)のような形状の孔の場合は、上記のように側面を当接面として生じる摩擦力による係止に加えて、無機質板の表面付近の径の最も小さな部分の付近で、係止部131の側面133の一部が円周方向に接触して引っ掛かることによっても係止される。穴134を設けず、係止部131に設けられた、例えば起立片に直接外力を加え、外径が小さくなるように係止部を歪めることも可能である。
本発明にあっては、固定部材は躯体に接続するための接続部を備えてなる。例えば穴134を接続部として利用して、当該部位に接続材を結合しても良いが、躯体と接続した後で無機質板が躯体から離されたときに、躯体から固定部材に伝わる力によって係止が阻害されないような部位に接続部を設けることが好ましい。そのために、本発明の一つの好ましい態様によれば、固定部材は、接続部の一端から係止部が延伸した構造を有することが好ましい。従って、係止部は歪動が可能な可動端であることが好ましい。
図3(a)において、接続部132には、接続材を結合するための穴135が設けられ、例えば接続材である線材を貫通し、適切な手段により線材を接続部132に結合する。
本発明の他の好ましい態様によれば、固定部材は係止部と接続部との間にさらに支持部を備えてなり、支持部の一端から係止部が延在し、当該支持部の他端側に接続部を備えてなる。このような構成とすることによって、様々な孔形状に合わせた固定部材を得ることができる。例えば、図3に示されるように、支持部140は係止部の中央部から円中心に向かって延在し、その先に接続部132が存在する。接続部132は、好ましくは躯体との接続が容易となるように、係止部よりも躯体に近い位置にあることが好ましく、そのために、支持部140は、係止部と一体的に形成される支持基部141と立ち上がり部136とを有することが好ましい。本発明の好ましい態様によれば、接続部132は、固定部材が非貫通孔に挿入されたとき、非貫通孔の中心近傍に有するものとされることが好ましく、より好ましくは穴135が非貫通孔の中心近傍にあるものとすることが好ましい。すなわち、接続部132は、係止部131の側面133よりも固定部材の中心側に備えられていることが好ましく、さらに係止部131の外側の側面133ではなく、係止部131の固定部材の中心に向かう内側の側面の側から固定部材の中心に向けて延在することがより好ましい。このような構成とすることで、躯体に固定された接続材から固定部材に、無機質板1の非貫通孔2を有する面とほぼ平行な向きの上下左右からの引っ張り力が加わっても、固定部材はそれに耐えることができ、さらに当該面に対し垂直方向の引っ張り力が加わっても、固定部材は非貫通孔から脱落しにくくなる。この立ち上がり部136は、接続部132に印加された応力を、係止部131を変形させないように伝えるとの作用も有する。従って、脱落しにくくなる効果は、緩衝的効果が期待できる立ち上がり部136を備えることにより、いっそう高めることができる。
図4は、本発明による別の態様の固定部材を示す図であり、図3に示される固定部材と同一または対応する部分には同一の符号が付されている。すなわち、接続部132を中央にして、その両端の支持部140から2片の係止部131が延伸した構造を有する。二つのバネ本体131が作る円形は、無機質板1に設けられた非貫通孔の直径よりもやや大きな外径を有する。また係止部131は所定の厚みを有し、その側面133を有する。2片の係止部131の端部のそれぞれには、穴(ラグ)134が設けられ、ここに、例えば、スナップリングプライヤーを差し込み、外径が小さくなるように、無機質板の面に沿った方向に力を加えて係止部を歪め、無機質板の非貫通孔に挿入する。プライヤーを外し、係止部131を解放すると、元の形に戻ろうとする力(弾力)が働き、係止部131が、非貫通孔の内壁面に向かって外径を拡大し、側面133を内壁面112に円周方向に押しつけ、面で当接することにより発生する摩擦力により固定部材は非貫通孔に係止されることとなる。また、非貫通孔が図2(c)のような形状の孔の場合は、上記のように側面を当接面として生じる摩擦力による係止に加えて、無機質板の表面付近の径の最も小さな部分の付近で、係止部131の側面133の一部が円周方向に接触して引っ掛かることによっても係止される。
接続部132には、接続材を接続するための穴135が設けられ、例えば接続材である線材を貫通し、適切な手段により線材を接続部132に結合する。本発明の一つの好ましい態様によれば、図4(b)に示されるように、接続部132は、好ましくは躯体との接続が容易となるように、係止部よりも躯体に近い位置にあることが好ましく、そのために、係止部131aと接続部との間と、係止部131bと接続部との間には、それぞれ支持部140が設けられている。支持部140は係止部と一体的に形成され、支持基部141と立ち上がり部136とを有する。この態様にあっても、接続部132は、固定部材が非貫通孔に挿入されたとき、非貫通孔の中心近傍に有するものとされることが好ましく、より好ましくは穴135が非貫通孔の中心近傍にあるものとすることが好ましい。
図4に示される固定部材は、接続部132を挟むように2片の係止部131が延伸した構造を有する。すなわち、図3に記載の固定部材は、接続部132の一つ端部に支持部を備え、そこから延伸した2片の係止部を有し、他方、図4に記載の態様にあっては、接続部の二つ端部にそれぞれ支持部を備え、それぞれの支持部から延伸した2片の係止部を有する。さらに本発明によれば、支持部から2片を超える係止部131が延伸する構造を採用することも可能である。本発明による固定部材の外周円の直径は、6mm以上90mm以下が好ましく、8mm以上70mm以下がより好ましく、さらに好ましくは10mm以上55mm以下である。
以上の態様では固定部材の躯体との接続を、接続材を介して行うが、本発明の別の態様によれば、固定部材と躯体との接続が、接続材を用いることなく直接に行なわれるものとしてもよい。この態様にあっては、躯体に接続する接続部を、固定部材の支持部から一体的に延伸された部材として構成してもよい。すなわち、図3および4に示される固定部材において支持部と接続部と接続材とを一体化し、接続部は支持部から一体として延伸した延伸部を備えてもよい。図5および図6はそのような固定部材の例を示す図であり、(a)は上面図、(b)は側面図であって、図中、立ち上がり部136から一体的に延伸された延伸部137を有し、延伸部137の端には端部138があり、その中央には躯体への固定のための固定穴139が設けられてなる。すなわち、接続部132は、延伸部137、端部138および固定穴139から構成される。この態様にあっては、図3および4に示される態様における、接続材を固定部材の接続部に接続する後記する工程を省略することができる。
(c)固定部材を挿入して無機質板に係止する工程
固定部材の非貫通孔への挿入は、固定部材の係止部に力を加えて形を歪めてその外径を小さくして行う。上記したように、図3および4の態様の固定部材にあっては、その形を歪める力を加える起点としての穴134が設けられてなる。固定部材の挿入のための治具は、例えば、スナップリングプライヤーなどとして市販されており、そのような治具を用いてバネ本体に力を加えて外径を小さくすることができる。
固定部材の外径を非貫通孔よりも小さくしたところで、固定部材を非貫通孔に挿入する。挿入後、力を加えることを止め、係止部を解放する。すると、係止部がその弾力により非貫通孔の内壁面に向かって外径を拡大し、これにより非貫通孔の内壁面と固定部材の側面とが円周に沿って面で接触して、固定部材は係止される。図7は、非貫通孔に係止された状態の固定部材の断面図である。図において、無機質板1に設けられた非貫通孔2に、図3に示される態様の固定部材103が挿入され、固定部材103の係止部131の側面133が、非貫通孔2の内壁面122に円周方向で接触している。
(d)固定部材の躯体への接続、および(e)無機質板の躯体への接着
図3および4に示される態様において、固定部材の躯体への接続は、接続部に接続材を結合し、この接続材の接続部に結合されている端とは反対側の端を躯体に接続することにより行われる。固定部材の接続部への接続材の結合は、固定部材を非貫通孔に挿入する前に行われても、後に行われてもよい。つまり、予め接続材が結合された固定部材を用意し、これを非貫通孔に挿入しても、また非貫通孔に挿入された固定部材に、その後に接続材を結合してもよい。接続材は、結果として二重化された固定手段として、接着等の第一の固定手段が失われたときにも無機質板を係止することができる強度を有するものであればその形状は限定されないが、例えば、線材、テープ状鋼材などが好ましく挙げられる。
固定部材の接続部への結合の手段も、必要な強度が確保されるのであれば限定されない。例えば、図8に示されるように、図3の固定部材を非貫通孔に挿入した場合、接続部132の穴135に線材41を通し、線材に、線材固定材42を固定し、この線材固定材42は接続部132と、非貫通孔2の底面122との隙間を通ることができず、これにより線材41は接続部132に結合される。また結合は、線材を孔に通して接続部に巻きつけ、ロウ付け、リベット等で留め付けることにより行われてもよく、またこれらを組み合わせてもよい。
次に、上記のように固定部材の接続部に結合された接続材の、固定部材と結合されている端とは反対側の端を躯体に接続する。図9は、図8に示される固定部材が係止された無機質板1を、躯体51に接続した状態の説明図である。図において、線材41は、固定部材に結合された端と反対側の端において、躯体51に打ち込まれた固定点61に接続されている。続いて、無機質板1は、躯体51の表面52と接着剤により張り付けられる。以上により、無機質板1は、固定部材による接続と、接着剤による張り付けとの二つの手段により固定される。無機質板1には、経時的な劣化などで接着力が十分でなくなった場合でも、固定部材を用いた接続手段が存在するため、脱落や、脱落に伴う被害を防ぐことができる。
図5および6に示される態様の固定部材にあっては、線材などの接続材を用いることなく、延伸部137の端139の固定穴139を用いて無機質板を躯体に接続することができる。接続は例えば、ビス、タッピングビス、アンカーボルトなどを躯体に打ち込むことで行うことができる。
図10は、躯体51の表面52に、複数の無機質板1を張り付けた状態の説明図である。図において、無機質板1は、線材41を固定点61に接続し、さらに無機質板を接着剤で接着することにより固定される。非貫通孔2は、一つの無機質板1に複数設けられることが好ましく、図10にあっては、無機質板1枚あたり、三つの非貫通孔が設けられている。さらに、線材と、固定点の関係は、単に固定点から線材を吊下げるのみならず、例えば、図10にあるように、固定点62を非貫通孔2の上で横に設け、線材43を図の矢印の方向に引いて、無機質板1を持ち上げ、接続する態様であってもよい。また、図10にあって、無機質板1は2段に張り付けられており、下の段の無機質板についての固定点61は上の段の無機質板に隠れるよう構成されている。図10にあっては、固定点61は、それにより接続される無機質板の上端よりも上に設けられているが、上端よりも下、すなわち、それにより接続される無機質板に隠れる位置に設けられてもよい。
躯体51に設けられる固定点61は、結果として二重化された固定手段として、接着等の第一の固定手段が失われたときにも無機質板を係止することができる強度を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ビス、タッピングビス、アンカーボルトなどが挙げられる。
接着剤としては、無機質板を躯体に接着可能なものであれば限定されないが、合成高分子系の接着剤が好ましい。合成高分子系の接着剤としては、エポキシ系、シリコン系、ウレタン系、アクリル系などが好適に用いられる。これらの接着剤は、常温で液状またはペースト状の接着剤、ホットメルト接着剤、テープ状に成形されたもの、のいずれも好適に使用可能である。
なお、本発明において、無機質板1の非貫通孔を有する面と躯体51との接着剤による張り付けは、無機質板1と躯体表面52との間に下地材が介在する態様も含まれるものとする。この場合、例えば、躯体が鉄骨等の柱である場合には、板状の下地材が躯体に公知の方法で固定されており、この下地材の表面に無機質板を接着剤で張り付ける。また例えば、既設の壁をリフォームする際に本発明の方法を適用する場合、既設の壁面を下地材として、その上に接着剤を用いて無機質板を張り付けても良い。いずれの場合も、ビスやアンカーボルトは躯体に固定されていることが好ましい。
以上の例にあっては、非貫通孔は円形とされたが、孔の形状は円形に止まらず、楕円、三角形、四角形、多角形様であってよい。例えば、非貫通孔が図11(a)に示されるような三角形である場合、固定部材は例えば図11(b)および(c)に示されるような形状とされ、孔が設けられた面に沿った方向である、図中の矢印の方向に歪動して変形可能なものとされる。
第二の態様
本発明の第二の態様は、溝に、無機質板の施工面の面方向に主に変形可能な板状の係止部を有する固定部材を適用する態様である。
図12は、この態様による無機質板の躯体への固定方法を説明する図である。図12において、無機質板1に、溝2が設けられてなり、この溝に固定部材303を挿入して固定部材が係止される。係止される固定部材303には接続材4が結合され、接続材4は、固定部材303に結合された端と反対側の端において壁などの躯体に接続される。この図の態様にあっては、接続材4の一端がリング状とされ、そのリングにビスやアンカーボルトなどの固定具5を躯体(図示せず)に打ち込み、無機質板1は接続される。この接続とは別に、無機質板1の溝2が設けられた面は、接着剤により躯体に接着される。本発明による固定方法は、接続および接着の二つの手段により、無機質板と躯体とが固定される。無機質板1は、経時的な劣化などで接着力が十分でなくなった場合でも、固定部材を用いた接続手段が存在するため、脱落や、脱落に伴う被害を防ぐことができる。すなわち、本発明によれば、無機質板の躯体への二重化された固定方法が提供される。
本発明の第二の態様にあっては、上記工程(a)において溝を有する無機質板が用意される。図12および図13は、この態様において用意される無機質板の溝の模式図である。図12において、溝2は320において閉じているが、図13にあっては、溝2は閉じずに無機質板の端部にまで至り、その側面に凹みを形成している。上記したように、本発明にあっては、いずれの形状の溝であってもよいが、無機質板の強度を維持する観点からは、その端は閉じて、無機質板の端部にまで溝が至らない図12の構成が好ましいと考えられる。
さらに、図14は溝2の拡大断面図であり、溝2は(a)に示されるように、無機質板の表面に対してほぼ垂直な内壁面321を有する。また溝2は、例えば、その断面が(b)に示されるようなアリ穴、つまり逆ハの字の形状であってもよく、また(c)に示されるように、入り口より深さ方向に一定の距離の間、直径が変化しない内壁面322があり、さらに深い位置では直径を入り口の直径より大とされてもよい。すなわち、溝内において段が形成される。このような段の形成された溝であることで、固定部材を確実に非貫通孔に固定できるため有利である。
図15は、工程(b)において用意される固定部材の一つの例を示す図である。図は、固定部材303が溝2に挿入され、係止された状態を示す。固定部材303は、弾性を備えた金属からなる板状の部材であって、馬蹄形あるいは二股形状の係止部331から、支持部340を介して接続部332が一体的に形成された構造を有する。係止部331は、無機質板1に設けられた溝の幅よりもやや大きな幅を有し、また所定の厚みを有し、その側面333を有する。係止部331の端部のそれぞれには、穴(ラグ)334が設けられ、ここにプライヤー等を差し込み、幅が小さくなるように力を加えて形を歪め、無機質板の溝に挿入する。プライヤーを外し、係止部331を解放すると、元の形に戻ろうとする力(弾力)が働き、係止部331が、溝の内壁面に向かって外幅を拡大し、側面333を内壁面に押しつけ、面で当接することにより発生する摩擦力により固定部材303は溝2に係止されることとなる。
接続部332には、接続材を結合するための穴335が設けられ、例えば接続材である線材を貫通し、適切な手段により線材を接続部332に結合する。本発明の好ましい態様によれば、接続部332は、固定部材303が溝に挿入されたとき、溝の幅の中央近傍に有するものとされることが好ましく、より好ましくは穴335が溝の中央近傍にあるものとすることが好ましい。すなわち、接続部332は、係止部331の溝の内壁面321と接する側面よりも、固定部材の溝の中央側の側面の側に備えられてなることが好ましく、さらに係止部331の溝の内壁面321と接する側面ではなく、係止部331の固定部材の中心に向かう内側の側面の側から固定部材の中心に向けて延在することがより好ましく、さらに、係止部331の固定部材の中心に向かう内側の側面よりも固定部材の中心側に備えられていることが好ましい。このような構成とすることで、躯体に固定された接続材から固定部材に、無機質板1の溝2を有する面とほぼ平行な向きの上下左右からの引っ張り力が加わっても、固定部材はそれに耐えることができ、さらに当該面に対し垂直方向の引っ張り力が加わっても、固定部材は溝から脱落しにくくなる。本発明の一つの好ましい態様によれば、接続部332は、好ましくは固定部材から立ち上っており、そのために支持部は立ち上がり部336を備えてなる。この立ち上がり部336は、接続部332に印加された応力を、係止部であるバネ本体331を変形させないように伝えるとの作用も有する。従って、脱落しにくくなる効果は、緩衝的効果が期待できる立ち上がり部336を備えることにより、いっそう高めることができる。
図16は、この態様における固定部材の別の形状の例を示すものであり、図に示されるとおり、溝2に挿入可能であり、かつ溝の内壁に当接するものであれば種々の形態をとり得る。図示されるように、この態様にあって固定部材303は、係止部331と、支持部340と、接続部332を備えてなる。本発明の一つの好ましい態様によれば、図16に示されるように、接続部332は、係止部331の固定部材の中心に向かう内側の側面よりも溝の中央側に備えられ、好ましくは、固定部材の中心側に備えられており、さらに、支持部は立ち上がり部336を備えてなる。この態様にあっても、接続部332は、固定部材が溝に挿入されたとき、溝の幅の中央近傍にあるものとされることが好ましい。
本発明の第二の態様にあって、上記の工程(c)〜(e)は、本発明の第一の態様の工程(c)〜(e)と同様に行われてよい。とりわけ、接続材の接続、躯体への固定等についても同様とされてよい。
1・・無機質板、2・・非貫通孔または溝、4・・接続材、5・・固定具、103、203、303、403・・固定部材、51・・躯体

Claims (14)

  1. 大型無機質板を躯体に固定する方法であって、
    (a) その深さが、その直径と同じかそれよりも小である、円形の非貫通孔、一方の面に有する大型無機質板を用意する工程と、
    (b) 前記躯体と接続する接続部と、前記非貫通孔係止される板状の係止部とを備えてなる固定部材を用意する工程であって、
    前記固定部材は、一部が切れた円形の外周形状を有する板状の部材であり、前記係止部と前記接続部との間には、さらに支持部を備えてなり、当該支持部の一端から前記係止部が延在し、当該支持部の他端側に前記接続部を備え、
    前記支持部は前記係止部の中央部から前記円の中心に向かって延在し、その先に前記接続部が存在してなり、
    前記係止部が、前記面に沿った方向に変形可能であり、前記非貫通孔挿入可能であり、かつ、前記非貫通孔内壁に当接する当接面を備えてなるものを用意する工程と、
    (c) 前記係止部に力を加えてその形を歪めて前記非貫通孔前記係止部を挿入し、前記係止部を前記非貫通孔内壁に面して当接し押圧させることにより、前記固定部材を前記大型無機質板に係止する工程と、
    (d) 前記接続部を躯体に接続する工程と、
    (e) 前記非貫通孔有する面と躯体とを接着する工程と
    を含んでなる、方法。
  2. 前記係止部は、前記板状の係止部の面に沿った方向にその形が歪められる、請求項1に記載の方法。
  3. 前記係止部が、歪動が可能な可動端とされてなる、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記固定部材の前記係止部が、歪められた形からの、それ自身の復元力によって前記内壁を押圧するものとされてなる、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記係止部が、前記当接面の略全体で前記内壁を押圧するものとされてなる、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記接続部の前記躯体への接続が、前記固定部材の接続部に接続材を結合し、前記接続部に結合されている端とは反対側の前記接続材の端を前記躯体に接続することにより行なわれる、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記工程(b)において接続材が予め前記接続部に結合された固定部材を用意し、前記接続部の前記躯体への接続が、前記接続に結合されている端とは反対側の前記接続の端を前記躯体に接続することにより行なわれる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 前記接続材が線材である、請求項6または7に記載の方法。
  9. 前記大型無機質板が、陶磁器、石、またはガラスからなるものである、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
  10. 前記大型無機質板が一辺900mm以上、厚さ10mmまでのものである、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
  11. 前記非貫通孔深さが、前記無機質板の厚さの半分以下とされてなる、請求項10に記載の方法。
  12. 前記非貫通孔深さが6mm以下である、請求項11に記載の方法。
  13. その深さが、その直径と同じかそれよりも小である、円形の非貫通孔を、一方の面に有する大型無機質板を躯体に固定するために用いられる固定部材であって、
    前記固定部材は、一部が切れた円形の外周形状を有する板状の部材であり、
    前記躯体と接続する接続部と、前記非貫通孔係止される板状の係止部とを備えてなり、
    前記係止部と前記接続部との間には、さらに支持部を備えてなり、当該支持部の一端から前記係止部が延在し、当該支持部の他端側に前記接続部を備え、
    前記支持部は前記係止部の中央部から前記円の中心に向かって延在し、その先に前記接続部が存在してなり、
    前記係止部が、前記面に沿った方向に変形可能であり、前記非貫通孔挿入可能であり、かつ、前記非貫通孔内壁に当接する当接面を備えてなるものであることを特徴とする、固定部材。
  14. 躯体と、該躯体に固定された無機質板構造物であって、
    前記無機質板が、その深さが、その直径と同じかそれよりも小である、円形の非貫通孔を、一方の面に有し、
    当該貫通孔には固定部材が挿入されてなり、ここで当該固定部材は、一部が切れた円形の外周形状を有する板状の部材であり、前記躯体と接続する接続部と、前記非貫通孔に係止される板状の係止部とを備えてなり、
    前記係止部と前記接続部との間には、さらに支持部を備えてなり、当該支持部の一端から前記係止部が延在し、当該支持部の他端側に前記接続部を備え、
    前記支持部は前記係止部の中央部から前記円の中心に向かって延在し、その先に前記接続部が存在してなり、前記係止部が、前記面に沿った方向に変形して非貫通孔に挿入可能であり、かつ、前記非貫通孔の内壁に当接する当接面を備えてなり、
    前記固定部材が躯体に接続され、さらに
    前記非貫通孔を有する面と躯体とが接着されてなることを特徴とする、構造物。
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