JP6409611B2 - p−トルイル酸の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、バイオマス資源から誘導可能な物質を原料として、簡単な固液分離操作により、高純度のp−トルイル酸を製造する方法に関する。
p−トルイル酸は、感光色素、蛍光染料、防錆剤、顔料、農薬等の製造原料として広く使用されている重要な化学品の一つである。p−トルイル酸は、標準品質が純度98%といわれており、一般に高い純度が求められる化学品である。なかでも医薬品用途では、特に高純度のp−トルイル酸が必要とされている。
p−トルイル酸は、コバルト塩、マンガン塩またはセリウム塩触媒の存在下、150℃から200℃でp−キシレンを空気酸化し、得られた反応粗液からp−トルイル酸を分離・精製することで工業的に製造される(特許文献1)。
簡単な分離操作により、p−トルイル酸を製造する方法が、特許文献2に開示されている。この方法では、p−キシレンの空気酸化を水存在下で行い、冷却してから、生成物を濾過により回収してトルエン洗浄することにより、p−トルイル酸を主に含む固形物が得られる。
純度の高いp−トルイル酸を製造する方法がいくつか開示されている。例えば、p−キシレン酸化反応粗液よりp−キシレンを留去し、200℃で熱硫酸処理、200℃でエステル化処理、230℃で水蒸気蒸留を行うことによる製造方法が開示されている(特許文献3)。また、p−キシレンの酸化反応粗液よりp−キシレンを留去し、138℃で塩基処理、水抽出により生じた塩を除去した後、冷却して析出させたp−トルイル酸をヘキサンで洗浄することによる製造方法が開示されている(特許文献4)。また、p−キシレンの酸化反応粗液を、120℃で塩基水溶液および水と接触させた後、有機相を冷却して析出させたp−トルイル酸をp−キシレンで洗浄することによる製造方法が開示されている(特許文献5)。
近年、将来的な化石資源の枯渇や温室効果ガス排出による地球温暖化等の問題より、再生可能資源であるバイオマス資源から誘導可能な物質を原料として化学品を製造する方法が求められている。このような方法として、特許文献6には、グリセルアルデヒド−3−リン酸及びピルビン酸からp−トルイル酸を生合成する能力を有する微生物および該微生物を使用する方法が開示されている。グリセルアルデヒド−3−リン酸及びピルビン酸はバイオマス資源の発酵によって生産される化合物である。
米国特許第2712551号明細書 特表2008−534577号公報 特開昭56−53635号公報 特開昭54−79244号公報 特開平9−301918号公報 国際公開第2011/094131号
上述のように、p−トルイル酸の製造には、p−キシレンを空気酸化する工程が含まれるのが一般的である。ところが、p−キシレンの空気酸化は、p−キシレン→p−トルアルデヒド→p−トルイル酸→4−カルボキシベンズアルデヒド→テレフタル酸というように逐次酸化が進行する反応であるため、目的とするp−トルイル酸を、他のp−キシレン酸化生成物との混合物にならないように得ることは通常困難である。
特許文献2に開示されている方法で製造されたp−トルイル酸を含む固形物は、ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、p−トルイル酸96.6モル%、テレフタル酸0.4モル%、その他の酸化生成物3.0モル%を含んでいると記載されているが、該固形物中のp−トルイル酸の純度は記載されていない。そこで、該固形物にガスクロマトグラフィーで検出されない生成物等が含まれず、その他の酸化生成物が全てp−トルアルデヒドであると仮定して、p−トルイル酸の純度(重量基準)を計算したところ、最大でも96.9%であることが分かった。一方、この方法では原料であるp−キシレンの80%が未反応であることが記載されており、収率がよくないという課題がある。
特許文献3−5には、p−キシレン酸化反応粗液から純度99%以上のp−トルイル酸が得られる方法が記載されているが、いずれも精製工程が多段階であり、また高温域での正確な温度制御を必要とする。
以上のとおり、p−キシレンを空気酸化する工程を含むp−トルイル酸の従来の製造方法において、簡単な精製操作で十分な純度のp―トルイル酸を高収率で得ることができる方法は存在しない。すなわち、これら従来の方法を用いて高い純度のp−トルイル酸を得るには、精製工程に大掛かりな設備とそれにともなう大きな経済的負担を必要とする。
特許文献6には、グリセルアルデヒド−3−リン酸及びピルビン酸から、後述の化合物(1)を経由して、p−トルイル酸を生合成する能力を有する微生物及び該微生物を使用することによりp−トルイル酸を製造することができるとされる方法が開示されている。しかしながら、この方法でp−トルイル酸を製造した例は記載されておらず、p−トルイル酸を実際に製造できるかどうかは不明である。一般に、微生物を用いて物質生産を行う場合、細胞内のNADHとNADの比によって決定される酸化還元バランスが維持されることが望ましいとされるところ、特許文献6には、この方法でp−トルイル酸を製造する場合には、NADが蓄積されると記載されており、酸化還元バランスが維持されないと考えられることから、この方法でp−トルイル酸を製造することは困難であると推測される。
以上の現状を踏まえ、バイオマス資源から誘導可能であり、微生物による発酵生産に適した物質を原料として用いて、簡単な精製操作により高い純度のp−トルイル酸を製造する方法が求められている。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、バイオマス資源から誘導可能な物質である化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)及び化合物(4)から選ばれる1又は2以上の化合物を原料として用いることにより、簡単な固液分離により高い純度のp−トルイル酸を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
Figure 0006409611
すなわち、本発明は、スキーム1に示すとおり、化合物(1)−化合物(4)から選ばれる1又は2以上の化合物の脱水反応を行う脱水反応工程と、該脱水反応工程で生成した固体を固液分離する工程を含むp−トルイル酸の製造方法を提供する。
Figure 0006409611
本発明の一つの態様では、前記脱水反応工程が、前記化合物に水溶液中で酸を作用させる工程である。
本発明によれば、バイオマス資源から誘導可能であり、微生物による発酵生産に適した物質である化合物(1)−(4)を原料として用いることにより、簡単な固液分離により高い純度のp−トルイル酸を製造することができる。
本発明において、バイオマス資源とは、再生可能な生物由来の有機性資源を意味し、植物が太陽エネルギーを用いて二酸化炭素を固定化して生成した有機物からなる資源を指す。具体的には、コーヒー豆、キナ皮、サトウダイコン、タラ豆、タバコ葉、ナシ葉、茶葉、リンゴ、クランベリー、サンザシ、サトウキビ、トウモロコシ、イモ類、小麦、米、大豆、パルプ、ケナフ、稲わら、麦わら、バガス、コーンストーバー、スイッチグラス、雑草、古紙、木材、木炭、天然ゴム、綿花、大豆油、パーム油、サフラワー油、ヒマシ油などが挙げられる。
本発明において、バイオマス資源から誘導可能な物質とは、上記のバイオマス資源から生物学的変換や化学的変換等により誘導される物質、誘導され得る物質又は誘導された物質を意味する。
本発明においてp−トルイル酸の原料である化合物(1)−(4)は、バイオマス資源から誘導することができる。例えば、スキーム2に示すように、化合物(1)及び化合物(2)はキナ酸(化合物(5))から誘導することができる。キナ酸は、コーヒー豆、キナ皮、サトウダイコン等を原料として、生物学的変換(例えば、特開2009−201473号公報に開示)又は化学的変換(例えば、特開平7−8169号公報に開示)により製造できる。具体的には、特開2009−201473号公報には、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)等の糸状菌から調製したコーヒー粕麹を微生物触媒として利用し、コーヒー粕に含まれるクロロゲン酸からキナ酸を製造する方法が開示されている。また、特開平7−8169号公報には、コーヒー生豆及び/又はコーヒー抽出滓をアルカリ加水分解、強塩基性陰イオン交換樹脂処理、強酸性陽イオン交換樹脂処理、及び、イオン交換膜電気透析処理することによりキナ酸を抽出、精製する方法が開示されている。
Figure 0006409611
また、化合物(1)は、スキーム3に示すように、イソプレンから誘導することができる。イソプレンは、オーク、ポプラ、ユーカリなどの樹木に代表される植物の葉緑体内において生合成される化合物である(Atomospheric Chemistry and Physics、6巻、3181−3210ページ(2006年))。イソプレンはグルコースの微生物発酵によっても製造することができる(例えば、国際公開第2012/149491号に開示)。
Figure 0006409611
化合物(3)及び(4)は、スキーム4に示すように、化合物(1)又は(2)を生物学的又は化学的に脱水することにより製造できる。化合物(1)又は(2)を化合物(3)及び(4)に変換しうる酵素としては、3−デヒドロキナ酸デヒドラターゼ(EC 4.2.1.10)、4α−カルビノールアミンデヒドラターゼ(EC 4.2.1.96)、5α−ヒドロキシステロールデヒドラターゼ(EC 4.2.1.62)、myoイノソース−2デヒドラターゼ(EC 4.2.1.44)、プレフェン酸デヒドラターゼ(EC 4.2.1.51)、シタロンデヒドラターゼ(EC 4.2.1.94)等が挙げられる。また、塩酸、硫酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、ギ酸、リン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸や、ゼオライト、シリカ−アルミナ、アルミナ、硫化ジルコニア、ヘテロポリ酸、イオン交換樹脂等の酸をゆるやかに化合物(1)又は(2)に作用させることにより、化合物(3)及び(4)を合成しうる。
Figure 0006409611
以上のように、化合物(1)−(4)は、バイオマス資源から誘導可能な物質である。
本発明で使用する化合物(1)−(4)は、バイオマス資源から誘導されたものでも、石油、石炭、天然ガスなどの化石資源から誘導されたもののいずれでもよいが、原料の持続可能性の観点から、バイオマス資源から誘導されたものを用いることが好ましい。
ここで、化合物(1)には、不斉炭素が3個あり、理論上8種類の立体異性体が存在しうるが、いずれの立体異性体も本発明の製造方法における原料である化合物(1)に含まれ、本発明においてこれを用いることができる。同様に、化合物(2)には、不斉炭素が4個あり、理論上8種類の立体異性体が存在しうるが、いずれの立体異性体も本発明の製造方法における原料である化合物(2)に含まれ、本発明においてこれを用いることができる。
本発明は、化合物(1)−(4)の脱水反応を行う脱水反応工程と、該脱水反応工程で生成した固体の固液分離工程によって、高い純度のp−トルイル酸を製造するものである。
本発明における脱水反応工程は、化合物(1)−(4)に酸を作用させて行うことができる。脱水反応工程において作用させる酸は、化合物(1)−(4)の分子内脱水反応を進行させるものであればよく、例えば、塩酸、硫酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、ギ酸、リン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の均一酸触媒や、ゼオライト、シリカ−アルミナ、アルミナ、硫化ジルコニア、ヘテロポリ酸、イオン交換樹脂等の不均一酸触媒が挙げられる。
本発明の脱水反応工程で使用する化合物(1)−(4)は、塩の形態でもよく、フリー体と塩の混合物でもよい。塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などいずれでもよく、また、これらの混合物でもよい。
本発明の脱水反応工程では、原料として、化合物(1)−(4)から選択されるいずれか1の化合物を単独で使用することができるが、化合物(1)−(4)から選択される2以上の化合物の混合物を用いることもできる。
本発明における脱水反応工程で使用する溶媒は、反応に影響しないものであれば特に制限されず、水、ヘキサンなどの炭化水素類、酢酸エチルなどの酢酸エステル類、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素類の溶媒を用いることができる。これらのなかでも、原料である化合物(1)−(4)の溶解性が高く、生成物であるp−トルイル酸の溶解度が低い溶媒を用いることが好ましい。化合物(1)−(4)の溶解性が高いと、反応速度向上のために、反応温度制御が容易になり、また原料の仕込み量(濃度)を増加できる。一方で、生成物であるp−トルイル酸の溶解性が低いと、反応系中にp−トルイル酸が固体(結晶)として析出し易くなり、その場合に反応速度が向上し、また簡便な固液分離操作で生成物であるp−トルイル酸を分離(単離)することができる。
このような溶媒として、具体的には水が挙げられる。化合物(1)及び(2)の水への溶解度は、pH7、25℃において50g/L以上であり、高いことが本発明者らの検討によって明らかになった。一方、p−トルイル酸の水への溶解度は、pH7、25℃において0.3g/Lであることが知られており、また、pH0、25℃において0.1g/L以下であることが本発明者らの検討によって明らかになった。したがって、脱水反応工程において、特に化合物(1)又は(2)を原料として用いる場合には、水を溶媒に用いることが、経済的、環境的にも好適である。
本発明における脱水反応工程の反応温度は特に制限されないが、溶媒として水を用いる場合には80℃から140℃が好ましく、さらに好ましくは90℃から120℃であり、より好ましくは95℃から110℃である。
本発明における脱水反応工程の圧力は特に制限されないが、溶媒として水を用いる場合には0.1気圧から10気圧が好ましく、より好ましくは0.5気圧から3気圧である。特に、減圧又は加圧用の装置や操作が不要な大気圧下において行うのが簡便で好ましい。
本発明における脱水反応工程の雰囲気は特に制限されず、空気、酸素、窒素、ヘリウム、アルゴン、水素、水蒸気、又はこれらの混合気体を用いることができるが、空気を用いることが簡便性の点から好ましい。
本発明において、脱水反応工程の結果、反応系中に固体(結晶)として生成したp−トルイル酸は、固液分離工程によって反応粗液中から分離して回収することができる。
本発明の固液分離工程における固液分離方法は特に制限されず、一般的な固液分離操作を用いることができる。例えば、濾過分離、遠心分離、沈降分離、膜分離などを用いることができるし、これらを組み合わせて用いることもできる。
本発明における固液分離工程の温度は、特に制限されないが、好ましくは−10℃から70℃、より好ましくは0℃から50℃である。脱水反応工程における反応温度より下げることにより、p−トルイル酸の析出を促進できる。特に昇温又は降温用の装置や操作が不要な常温下において行うのが簡便である。
本発明における固液分離工程の雰囲気は特に制限されず、空気、酸素、窒素、ヘリウム、アルゴン、水素、水蒸気、又はこれらの混合気体を用いることができるが、空気を用いることが簡便性の点から好ましい。
固液分離したp−トルイル酸は、適当な溶媒で洗浄することができる。p−トルイル酸を洗浄する溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタン、などを用いることができるが、水を用いることが好ましい。水に対するp−トルイル酸の溶解性が高くないため、水で洗浄することにより、高い純度のp−トルイル酸の回収量を増加できる。
固液分離工程で生じたp−トルイル酸を含む母液は、脱水反応工程及び/又は固液分離工程にリサイクルして用いてもよい。リサイクルを行うことで、酸と溶媒の使用量を削減できるし、また、p−トルイル酸の回収率を上げることができる。母液のリサイクル方法に特に限定はないが、例えば、母液の全量をリサイクルしてもよいし、濃縮してリサイクルしてもよい。
本発明は、簡単な固液分離工程で高純度p−トルイル酸が得られることを特徴とするが、固液分離工程を、ガス吸収、吸着・イオン交換、抽出、蒸留、晶析等の従来公知の分離操作と組み合わせて用いてもよい。
以下に、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(参考例1)化合物(1)および化合物(2)の合成
化合物(1)および化合物(2)は、以下の(A)−(J)のとおり、スキーム2に示す経路に従い合成した。
(A)化合物(6):(1S,3R,4S,5R)−1,3,4,5−テトラヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸メチルの合成
キナ酸(東京化成工業株式会社製、5g、26mmol)(化合物(5))をメタノール(国産化学株式会社製、40mL)に溶解し、10%塩酸メタノール溶液(東京化成工業株式会社製、10mL)を加え、40℃で9.5時間撹拌した。ロータリーエバポレーター(東京理化機械株式会社製)により濃縮した後、トルエン(和光純薬工業株式会社製、100mL)を加え、ロータリーエバポレーターにより濃縮し、減圧下乾燥した。得られた化合物(6)の粗精製物をそのまま次反応に用いた(収量6.54g)。
(B)化合物(7):(1S,3R,4S,5R)−3,5−ビス(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)−1,4−ジヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸メチルの合成
化合物(6)の粗精製物(6.54g)をジメチルホルムアミド(和光純薬工業株式会社製、50mL)に溶解し、tert−ブチルジメチルクロロシラン(東京化成工業株式会社製、4.75g、31.5mmol)、トリエチルアミン(和光純薬工業株式会社製、5.47mL、39.5mmol)を加え、室温で17.5時間撹拌した後、tert−ブチルジメチルクロロシラン(4.75g、31.5mmol)、トリエチルアミン(5.47mL、39.5mmol)を追加し、40℃で3時間撹拌した。蒸留水(150mL)、エーテル(250mL)を加え、分液した。有機層を蒸留水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)で乾燥し、濃縮した(9.42g)。得られた粗精製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中圧、シリカゲル100g、ヘキサン(国産化学株式会社製):酢酸エチル(和光純薬工業株式会社製)=80:20〜30:70)で精製し、化合物(7)(1.70g、2段階15%)及び化合物(6)にtert−ブチルジメチルシリルオキシ基が1個導入されたもの(1.86g、2段階22%)を得た。
化合物(6)にtert−ブチルジメチルシリルオキシ基が1個導入されたもの(1.86g)に上記と同様な手順でtert−ブチルジメチルシリルオキシ基を導入し、化合物(7)を得た(2.14g、85%)。
(C)化合物(8):(3R,5R)−3,5−ビス(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)−1−ヒドロキシ−4−オキソシクロヘキサンカルボン酸メチルの合成
化合物(7)(10.63g、24.5mmol)を塩化メチレン(和光純薬工業株式会社製、60mL)と飽和重曹水(60mL)の混液に溶解し、臭化カリウム(和光純薬工業株式会社製、0.292g、2.45mmol)、2−ヒドロキシ−2−アザアダマンタン(東京化成工業株式会社製、37.5mg、0.245mmol)を加え、室温で撹拌した。塩素酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、6.05g、36.8mmol)を少量ずつ加え、2時間撹拌した。0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液(6mL)を加え、30分撹拌して得られた反応液を蒸留水中に加え、塩化メチレンで抽出した。有機層を集めて無水硫酸マグネシウム(和光純薬工業株式会社製)で乾燥し、濃縮することにより化合物(8)を得た(10.49g、99%)。
(D)化合物(9):(3R,5R)−3,5−ビス(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)−1−ヒドロキシ−4−メチレンシクロヘキサンカルボン酸メチルの合成
臭化メチルトリフェニルホスホニウム(東京化成工業株式会社製、2.36g)をテトラヒドロフラン(和光純薬工業株式会社製、25mL)に溶解し、0℃でn−ブチルリチウム(2.65mol/L、n−ヘキサン溶液、2.31mL)を加え、室温で30分撹拌した。−14℃(エタノール/氷浴)に冷却し、化合物(8)(1.06g、2.45mmol)のテトラヒドロフラン(15mL)溶液を滴下し、室温で3.5時間撹拌した。反応液を0℃で蒸留水と飽和食塩水の混液に加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を集め、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(中圧、ヘキサン/酢酸エチル=97/3〜85/15)で精製し、化合物(9)(257mg、24%)を得た。
(E)化合物(10):(1S,3R,4S,5R)−3,5−ビス(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)−1−ヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸メチルの合成
化合物(9)(257mg、0.597mmol)をメタノール(10mL)に溶解し、10%パラジウム/活性炭(シグマアルドリッチ株式会社製、70mg)を加え、水素雰囲気下、室温で15時間撹拌した。反応液をろ過し、ろ液を濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(中圧、ヘキサン/酢酸エチル=95/5〜90/10)で精製し、化合物10(89mg、34%)を得た。化合物(10)の立体化学は、X線結晶構造解析装置(リガク株式会社製)を用いる分析により確認した。
(F)化合物(11:(3R,4S,5R)−3,5−ビス(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)−4−メチル−1−シクロヘキセンカルボン酸メチルの合成
化合物(10)(236mg、0.545mmol)を塩化メチレン(5mL)に溶解し、ビス[α,α−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンメタノラト]ジフェニルサルファー(東京化成工業株式会社製、513mg、0.763mmol)の塩化メチレン(2mL)溶液を加え、室温で17時間撹拌した。反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中圧、ヘキサン/酢酸エチル=100/0〜92/8)で精製した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(中圧、ヘキサン/酢酸エチル=100/0〜92/8)で再精製し、化合物(11)(208mg、92%)を得た。
(G)化合物(12):(3R,4S,5R)−3,5−ジヒドロキシ−4−メチル−1−シクロヘキセンカルボン酸メチルの合成
化合物(11)(1.00g、2.41mmol)をメタノール(18mL)に溶解し、10%塩化水素メタノール溶液(2mL)を加え、室温で2.5時間撹拌した。反応液を濃縮し、化合物(12)の粗精製物(566mg)を得た。
(H)化合物(1)の合成
化合物(12)の粗精製物(566mg)をメタノール(20mL)に溶解し、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(ナカライテスク株式会社製、4.8mL)を加え、室温で13時間撹拌した。0℃に冷却し、1mol/L塩酸(ナカライテスク株式会社製、4.8mL)を加え(pH3〜4)、濃縮した。得られた混合物をHPLC(アジレントテクノロジー社製)によって精製し、化合物(1)を得た(356mg、2段階76%)。
化合物(1):H−NMR(400MHz,CDOD)δ:0.97−1.01(3H,d),1.81−1.87(1H,m),2.07−2.14(1H,m),2.60−2.67(1H,m),3.77−3.82(1H,m),4.37(1H,s),6.83−6.85(1H,m).ESI−MS:m/z=171(M−H)
(I)化合物(13):(1S,3R,4S,5R)−1,3,5−トリヒドロキシ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸メチルの合成
化合物(10)(0.25g、2.41mmol)をメタノール(10mL)に溶解し、10%塩化水素メタノール溶液(1mL)を加え、室温で3.5時間撹拌した。反応液を濃縮し、化合物(13)の粗精製物(130mg)を得た。
(J)化合物(2)の合成
化合物(13)の粗精製物(130mg)をメタノール(6mL)に溶解し、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(0.6mL)を加え、室温で17時間撹拌した。0℃に冷却し、1mol/L塩酸(0.6mL)を加え、濃縮した。得られた混合物をHPLCによって精製し、化合物(2)の白色結晶を得た(74mg、2段階61%)。
化合物(2):H−NMR(400MHz,CDOD)δ:1.14−1.15(3H,d),1.45−1.54(1H,m),1.75−1.81(1H,m),1.98−2.00(2H,m),2.11−2.15(1H,m),3.74−3.82(1H,m),3.94−3.97(1H,m).ESI−MS:m/z=189(M−H)
[p−トルイル酸の純度・収率]
以下の実施例1に示すp−トルイル酸純度は、固液分離により回収した白色結晶10mgを水/アセトニトリル(1:1)10mLに溶かした溶液を、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)で分析することにより行った。p−トルイル酸の純度(%)は下記の計算式(式1)によって算出した。
(式1)p−トルイル酸純度(%)=(p−トルイル酸の重量)(g)/(白色結晶の重量)(g)×100。
また、以下の実施例2から5に示すp−トルイル酸収率は、脱水反応工程後の反応溶液を中和後、水/アセトニトリル(1:1)を加えて全量10mLにした溶液をHPLCで分析することにより行った。p−トルイル酸の収率(%)は下記の計算式(式2)によって算出した。
(式2)p−トルイル酸収率(%)=(p−トルイル酸の物質量/原料の物質量)×100。
上記測定における溶液中のp−トルイル酸濃度は、p−トルイル酸(オークウッド・プロダクツ社製、純度99%以上)より調製した標準溶液を用いる外部標準法により分析した。HPLC分析条件を下記に示す。
カラム:アジレントテクノロジー社製 ZORBAX SB−Aq
カラム温度:40℃
移動相:0.1%リン酸水溶液:アセトニトリル(95:5)
移動相流速:1mL/min
検出器:フォトダイオードアレイ(検出波長210nm)。
[実施例1]
300mLナスフラスコに化合物(1)(1.0g)、35%塩酸(100mL)を加え、95℃で3時間撹拌した後、0℃に冷却した。析出した固体をろ過により分離し、冷水(10mL)で洗浄し、減圧下乾燥することにより、白色結晶(0.62g)としてp−トルイルを得た。p−トルイル酸収率は78%、p−トルイル酸純度は99%以上(HPLC)であった。
[実施例2]
10mL試験管に化合物(1)(10mg)、35%塩酸(1mL)を加え、95℃で7時間撹拌した後、0℃に冷却したところ、白色結晶が析出した。実施例1と同様にして析出した結晶を分離し、p−トルイルを得た。p−トルイル酸収率は97%(HPLC)であった。
[実施例3]
35%塩酸の代わりに18%塩酸を用いたことを除き、実施例2と同様の実験を行ったところ、白色結晶としてp−トルイルを得た。p−トルイル酸収率は96%(HPLC)であった。
[実施例4]
35%塩酸の代わりに30%硫酸を用いたことを除き、実施例2と同様の実験を行ったところ、白色結晶としてp−トルイルを得た。p−トルイル酸収率は27%(HPLC)であった。
[実施例5]
小型オートクレーブ容器(耐圧硝子工業株式会社製)に化合物(2)(10mg)、35%塩酸(1.5mL)を加え、封入してから130℃で2時間撹拌してから0℃まで冷却したところ、結晶が析出した。実施例1と同様にして析出した結晶を分離し、p−トルイルを得た。p−トルイル酸収率は54%であった。
実施例1に示したとおり、化合物(1)を水溶液中で酸と作用させることにより脱水反応を行い、生成した固体(結晶)を簡単な固液分離で回収することにより、純度(重量基準)99.0%以上のp−トルイル酸を製造できた。これは、特許文献2に開示された方法で製造されたp−トルイル酸の純度(最大でも96.9%と算出される。)よりも高かった。
また、実施例2から5に示したとおり、化合物(1)又は化合物(2)を水溶液中で酸と作用させることにより、p−トルイル酸が高い収率で得られることが示された。また、反応後にはp−トルイル酸は固体(結晶)として析出することが示された。
上記の実施例1−5においては、原料として化合物(1)又は(2)を用いてp−トルイル酸を製造した例を示したが、その代わりに化合物(3)又は化合物(4)を原料として用いる場合にも、同様にp−トルイル酸を製造することができる。
本発明によれば、バイオマス資源から誘導可能であり、微生物による発酵生産に適した物質を原料として用いて、簡単な固液分離操作により、高い純度のp−トルイル酸を製造することができる。本発明によって、p−トルイル酸から製造される感光色素、蛍光染料、防錆剤、顔料、農薬等、医薬品等の化学品の原料を、化石資源からバイオマス資源に転換することが可能となり、持続可能な循環型社会への転換に寄与することができるため、本発明は産業上極めて有用である。

Claims (2)

  1. 化合物(1)−化合物(4)から選ばれる1又は2以上の化合物の脱水反応を行う脱水反応工程及び該脱水反応工程で生成した固体を固液分離する工程を含む、p−トルイル酸の製造方法。
    Figure 0006409611
  2. 前記脱水反応工程が、前記化合物に水溶液中で酸を作用させることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
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