以下、本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。ここでは、複数枚の伝熱プレートを上下に重ね合わせてプレート式熱交換器を製造する場合について説明するが、これは説明の便宜上であって、プレート式熱交換器の姿勢(特に使用時の姿勢)を限定する趣旨ではない。
図1は、本発明の一実施例のプレート式熱交換器を構成する二種類の伝熱プレート1,2の一例を示す概略図である。
本実施例のプレート式熱交換器は、第一伝熱プレート1と第二伝熱プレート2とが交互に複数枚(典型的には四枚以上)重ね合わされて構成される。各伝熱プレート1,2は、上下に重ね合わされて、所要箇所をレーザ溶接されつつ組み立てられる。各伝熱プレート1,2は、略矩形の金属板から構成され、板面には適宜の凹凸や穴がプレス加工され、後述する外側フランジ5,12の幅寸法を除き、各部が互いに対応した寸法で形成されている。
各伝熱プレート1,2を構成する金属板として、好ましくは、厚さ1mm以下の薄板が用いられ、より好ましくは、厚さ0.2〜0.5mm(本実施例では0.3mm)の薄板が用いられる。
図2は、図1の左上部の積層状態を示す概略斜視図であり、第一伝熱プレート1の上に第二伝熱プレート2を重ね合わせて溶接後、さらにその上に第一伝熱プレート1を重ね合わせようとする状態を示している。また、図3は、図1の右上部の積層状態を示す概略斜視図であり、第一伝熱プレート1の上に第二伝熱プレート2を重ね合わせて溶接後、さらにその上に第一伝熱プレート1を重ね合わせようとする状態を示している。なお、各図において、符号3は、隅肉溶接継手による溶接部(溶け込み部)を示し、符号4は、重ね溶接継手による溶接部(溶け込み部)を示している。
以下、図1から図3に基づき、各伝熱プレート1,2について、具体的に説明する。
まず、第一伝熱プレート1について説明する。第一伝熱プレート1は、外周部に沿って設けられる外側フランジ5と、この外側フランジ5の内側に段差をもって設けられる内側フランジ6と、両フランジ5,6を連接する連接壁7とを備える。外側フランジ5と内側フランジ6とは、平板状で平行に配置され、これらフランジ5,6に対し好ましくは垂直に、連接壁7が設けられる。
第一伝熱プレート1は略矩形状であるため、外側フランジ5は略矩形枠状とされる。外側フランジ5は、第一伝熱プレート1の外周部に沿って、所定の幅寸法で形成される。外側フランジ5の内周縁には、外側フランジ5の板面に対し略垂直に屈曲されて、連接壁7が設けられる。そして、外側フランジ5から所定寸法だけ延出した連接壁7の端部には、連接壁7に対し略垂直に屈曲されて、内側フランジ6が設けられる。内側フランジ6は、連接壁7に沿って、外周部が少なくとも略矩形枠状に形成される。つまり、内側フランジ6は、それより内側の領域と連続的に同一平面に形成される箇所があるにしても、外周部には連接壁7に沿って連続的に、少なくとも所定の幅寸法を確保した帯状の部分を有する。
図面上、第一伝熱プレート1は、水平な外側フランジ5に対し、連接壁7が垂直下方へ延出して形成され、連接壁7の下端部に、内側フランジ6が水平に形成される。このようにして、内側フランジ6は、外側フランジ5より下方において、外側フランジ5と平行に配置される。
内側フランジ6の内側には、四つのノズルフランジ8(8A,8B)と熱交換部9とが設けられる。本実施例では、略矩形枠状の内側フランジ6の内側領域の内、四隅にノズルフランジ8が設けられ、それ以外の箇所が熱交換部9とされる。図1において、第一伝熱プレート1は、左上部と右下部の各ノズルフランジ8Aが互いに同一の構成とされ、右上部と左下部の各ノズルフランジ8Bが互いに同一の構成とされる。各伝熱プレート1,2の左上部と右下部を、それぞれ第一対応位置Aといい、右上部と左下部を、それぞれ第二対応位置Bということがある。
ノズルフランジ8は、典型的には略円形状に形成され、中央部に円形状のノズル穴10が形成されている。第一伝熱プレート1は、プレス成形により、ノズル穴10が貫通形成されると共に、これ以外の箇所に凹凸が屈曲形成されて、外側フランジ5、連接壁7、内側フランジ6、ノズルフランジ8および熱交換部9が一体形成される。
第一伝熱プレート1は、第一対応位置Aにおいて、ノズルフランジ8Aが、外側フランジ5と同じ高さに形成される。つまり、第一伝熱プレート1は、第一対応位置Aのノズルフランジ8Aが、内側フランジ6よりも、上方へ突出して形成され、外側フランジ5と同一平面に配置される。
第一伝熱プレート1は、第二対応位置Bにおいて、ノズルフランジ8Bが、内側フランジ6と同じ高さに形成される。つまり、第一伝熱プレート1は、第二対応位置Bのノズルフランジ8Bが、内側フランジ6と同一平面に配置され、内側フランジ6と連続的に形成される。なお、第一対応位置Aと第二対応位置Bの各ノズルフランジ8やノズル穴10の大きさは、同一に形成される。
内側フランジ6より内側領域には、ノズルフランジ8を除いた箇所に、適宜の凹凸が形成されて熱交換部9とされる。この凹凸の形状は、特に問わないが、図示例の場合、ヘリンボーン11とされている。具体的には、図1の平面視で略逆V字形状に、凹凸が等間隔に形成されており、その各凹凸は断面略半円形状(各凹部または各凸部の延出方向と直交した断面で見た場合に略半円形状)とされている。よって、図2および図3に示すように、熱交換部9の断面は波形となる。ヘリンボーン11の下方への凹部の最下部は、内側フランジ6と同じ高さに配置され、上方への凸部の最上部は、外側フランジ5と同じ高さに配置されている。
なお、ヘリンボーン11の端部を内側フランジ6に接触するように構成し、内側フランジ6内の流路をなくすことで、ノズル穴10間の流体のショートパスを防止することができる。つまり、内側フランジ6とヘリンボーン11の端部との間に、圧力損失の少ない流路が形成されると、熱交換すべき流体の一部が、熱交換部9の外周部をショートパスするおそれがあるので、そのような不都合を防止することができる。
次に、第二伝熱プレート2について説明する。第二伝熱プレート2も、第一伝熱プレート1と同様に、外周部に沿って設けられる外側フランジ12と、この外側フランジ12の内側に段差をもって設けられる内側フランジ13と、両フランジ12,13を連接する連接壁14とを備える。外側フランジ12と内側フランジ13とは、平板状で平行に配置され、これらフランジ12,13に対し好ましくは垂直に、連接壁14が設けられる。
第二伝熱プレート2は略矩形状であるため、外側フランジ12は略矩形枠状とされる。外側フランジ12は、第二伝熱プレート2の外周部に沿って、所定の幅寸法(ここでは第一伝熱プレート1の外側フランジ5よりも短い幅寸法)で形成される。外側フランジ12の内周縁には、外側フランジ12の板面に対し略垂直に屈曲されて、連接壁14が設けられる。そして、外側フランジ12から所定寸法(ここでは第一伝熱プレート1の連接壁7と同一の高さ)だけ延出した連接壁14の端部には、連接壁14に対し略垂直に屈曲されて、内側フランジ13が設けられる。内側フランジ13は、連接壁14に沿って、外周部が少なくとも略矩形枠状に形成される。つまり、内側フランジ13は、それより内側の領域と連続的に同一平面に形成される箇所があるにしても、外周部には連接壁14に沿って連続的に、少なくとも所定の幅寸法(ここでは第一伝熱プレート1の内側フランジ6と同一の幅寸法)を確保した帯状の部分を有する。
図面上、第二伝熱プレート2は、水平な外側フランジ12に対し、連接壁14が垂直上方へ延出して形成され、連接壁14の上端部に、内側フランジ13が水平に形成される。このようにして、内側フランジ13は、外側フランジ12より上方において、外側フランジ12と平行に配置される。
ところで、第一伝熱プレート1と第二伝熱プレート2とは、内側フランジ6,13の大きさが互いに同一とされると共に、連接壁7,14の大きさも互いに同一とされる。そして、前述したとおり、第二伝熱プレート2の外側フランジ12の幅寸法は、第一伝熱プレート1の外側フランジ5の幅寸法よりも短い。従って、第二伝熱プレート2の外寸は、第一伝熱プレート1の外寸よりも一回り小さく形成される。そして、両伝熱プレート1,2の内側フランジ6,13や連接壁7,14の位置を揃えて、外側フランジ5,12同士を重ね合わせると、第一伝熱プレート1の外側フランジ5の外周縁よりも内側に、第二伝熱プレート2の外側フランジ12の外周縁が配置される。外側フランジ5,12の幅方向で見た場合、第一伝熱プレート1の外側フランジ5の外端面と、第二伝熱プレート2の外側フランジ12の外端面との離隔距離Xは、各伝熱プレート1,2の板厚t以上であるのが好ましい(図5)。それにより、第二伝熱プレート2の外周縁に沿った隅肉溶接を有効に実施することができる。
なお、第一伝熱プレート1の外側フランジ5の幅寸法D1は、板厚tに対して3t≦D1≦15tの関係になるように設定するのが好ましい(図4)。第一伝熱プレート1の外側フランジ5の幅寸法D1を、板厚tの3倍以上にすることで、隅肉溶接を有効に実施することができる。また、第一伝熱プレート1の外側フランジ5の幅寸法D1を、板厚の15倍以下にすることで、連接壁7,14からの外側フランジ5,12の突出幅を小さくして、各伝熱プレート1,2が大型ワーク化しても、外側フランジ5,12の撓みや歪みを最小限に止めることができ、同時に軽量化を図ることもできる。
内側フランジ13の内側には、四つのノズルフランジ15(15A,15B)と熱交換部16とが設けられる。本実施例では、略矩形枠状の内側フランジ13の内側領域の内、四隅にノズルフランジ15が設けられ、それ以外の箇所が熱交換部16とされる。図1において、第二伝熱プレート2は、左上部と右下部の第一対応位置Aの各ノズルフランジ15Aが互いに同一の構成とされ、右上部と左下部の第二対応位置Bの各ノズルフランジ15Bが互いに同一の構成とされる。また、第一伝熱プレート1と第二伝熱プレート2とを揃えて(つまり内側フランジ6,13や連接壁7,14の位置を揃えて)重ね合わせた際、各伝熱プレート1,2のノズルフランジ8,15およびノズル穴10,17は、それぞれ互いに対面して配置され、しかも互いに同一の大きさで形成されている。
ノズルフランジ15は、典型的には略円形状に形成され、中央部に円形状のノズル穴17が形成されている。第二伝熱プレート2は、プレス成形により、ノズル穴17が貫通形成されると共に、これ以外の箇所に凹凸が屈曲形成されて、外側フランジ12、連接壁14、内側フランジ13、ノズルフランジ15および熱交換部16が一体形成される。
第二伝熱プレート2は、第一対応位置Aにおいて、ノズルフランジ15Aが、外側フランジ12と同じ高さに形成される。つまり、第二伝熱プレート2は、第一対応位置Aのノズルフランジ15Aが、内側フランジ13よりも、下方へ突出して形成され、外側フランジ12と同一平面に配置される。
第二伝熱プレート2は、第二対応位置Bにおいて、ノズルフランジ15Bが、内側フランジ13と同じ高さに形成される。つまり、第二伝熱プレート2は、第二対応位置Bのノズルフランジ15Bが、内側フランジ13と同一平面に配置され、内側フランジ13と連続的に形成される。なお、第一対応位置Aと第二対応位置Bの各ノズルフランジ15やノズル穴17の大きさは、同一に形成される。
内側フランジ13より内側領域には、ノズルフランジ15を除いた箇所に、適宜の凹凸が形成されて熱交換部16とされる。この凹凸の形状は、特に問わないが、図示例の場合、ヘリンボーン18とされている。具体的には、図1の平面視で略V字形状に、凹凸が等間隔に形成されており、その各凹凸は断面略半円形状(各凹部または各凸部の延出方向と直交した断面で見た場合に略半円形状)とされている。よって、図2および図3に示すように、熱交換部16の断面は波形となる。ヘリンボーン18の下方への凹部の最下部は、外側フランジ12と同じ高さに配置され、上方への凸部の最上部は、内側フランジ13と同じ高さに配置されている。
図4は、両伝熱プレート1,2を交互に重ね合わせてレーザ溶接しつつプレート式熱交換器を製造する際の概略断面図であり、図2の第一対応位置Aを示している。また、図5から図7は、図4の左下部の拡大図であり、図5は溶接前、図6は溶接後、図7は好適なレーザビーム照射位置を示している。
図4の下方二枚の伝熱プレート1,2と図5および図6に示すように、図示例では、まず、第一伝熱プレート1の上面に第二伝熱プレート2を重ね合わせて、所要箇所を上方からレーザ溶接して接合している。この際、両伝熱プレート1,2は、内側フランジ6,13や連接壁7,14の位置を揃えて重ね合わされる。つまり、両伝熱プレート1,2は、外側フランジ5,12の内周縁の位置を揃えて重ね合わされる。第二伝熱プレート2の外側フランジ12の幅寸法は、第一伝熱プレート1の外側フランジ5の幅寸法よりも短いので、両伝熱プレート1,2を揃えて外側フランジ5,12を重ね合わせた状態では、第二伝熱プレート2の外周縁が、第一伝熱プレート1の外周縁よりも所定距離Xだけ内側に配置される(図5)。この所定距離Xは、前述したとおり、各伝熱プレート1,2の板厚t以上を確保される。このようにして、両伝熱プレート1,2は、外側フランジ5,12同士が当接されると共に、第一対応位置Aのノズルフランジ8A,15A同士も当接される。なお、第一伝熱プレート1の上面に第二伝熱プレート2を重ね合わせた場合、第二対応位置Bのノズルフランジ8B,15B同士は、ノズル穴10,17の軸方向(プレート面と直交方向)に離隔して配置される(図3)。また、両伝熱プレート1,2は、熱交換部9,16のヘリンボーン11,18が、交差した状態に配置される(図1)。
両伝熱プレート1,2は、第二伝熱プレート2の外周縁に沿って連続的に(つまり環状に)、外側フランジ5,12同士がレーザ溶接にて、隅肉溶接継手で接合される(溶接部3)。つまり、第二伝熱プレート2の外側フランジ12の外周縁に沿って、第二伝熱プレート2の外側フランジ12の外周部と、第一伝熱プレート1の外側フランジ5の幅方向中途部との間が溶接される。その際、レーザビームは、上方から下方へ向けて、且つ、各伝熱プレート1,2の外周側から内周側へ傾けた状態で照射される。
水平に配置された伝熱プレート1,2に対するレーザビームの入射角度(図7における角度α)は、水平方向(プレート面と平行方向)に対して、15度以上90度未満とされる。これにより、第二伝熱プレート2の外側フランジ12の外周縁において、隅肉溶接継手の実施が確実に行える。なお、レーザビームは、先端側へ行くに従って外側フランジ5,12の幅方向内側に傾ける以外に、外側フランジ5,12の周方向(溶接時の進行方向)両側にもたとえば30度以内の角度で傾けてもよい。
外側フランジ5,12同士を重ね合わせて隅肉溶接を実施する場合、上板、つまり幅寸法の短い上側の外側フランジ12に、レーザビームのスポット中心(スポット径中心)を合わせるのが好ましい。本実施例では、第二伝熱プレート2の外側フランジ12の外周部の角部周辺(具体的には第二伝熱プレート2の外側フランジ12の外端面12aか、そこから板厚t程度の所定範囲内の上面12b)に、レーザビームのスポット中心がくるようにするのが好ましい。特に、図7に示すように、第二伝熱プレート2の外側フランジ12の外端面12aの上端縁に、レーザビームLBのスポット中心がくるようにするのがよい。この際、スポット径を、第二伝熱プレート2の板厚tよりも大きくすることで、レーザビームの一部が直接に第二伝熱プレート2にも当たるようにするのがよい。
このようにして、上板(第二伝熱プレート2の外側フランジ12)の一部を溶融させて、重力で下板(第一伝熱プレート1の外側フランジ5)と混合して一体化することができる。また、隅肉溶接しようとする上下の板材(外側フランジ12,5)にバランスよくエネルギーを分配することができ、また、下板(第一伝熱プレート1の外側フランジ5)に穴があくのが防止される。
また、外側フランジ5,12同士を隅肉溶接継手で接合する際、レーザビーム照射側となる第二伝熱プレート2の外側フランジ12の外端面12aまたは上面12bに、レーザビームの焦点を合わせてレーザ溶接するのが好ましい。これにより、重ね合わせ部の厚さ方向でビーム幅が変化し難く、比較的細く安定した溶接幅で接合することができる。但し、場合により、焦点位置を、前記重ね合わせ部の表面から、上方へずらすなどしてもよい。
外側フランジ5,12の幅寸法を揃えて外端面においてへり溶接継手で接合する場合と比較して、本実施例では外側フランジ5,12の幅寸法を変えて隅肉溶接継手で接合するため、レーザビームの狙い裕度を広く取れ、安定した品質で溶接可能である。
なお、外側フランジ5(12)と内側フランジ6(13)とを連接する連接壁7(14)は、各フランジ5,6(12,13)に対し垂直に設けられるので、伝熱プレート1(2)の積層方向の強度を確保し易い。これにより、たとえば、伝熱プレート1,2の溶接時に積層方向に治具で押え付けても、伝熱プレート1,2が撓みにくく、ひいては適正に溶接しやすい。また、プレート式熱交換器の使用時の耐圧性も向上する。
また、第一伝熱プレート1の上面に第二伝熱プレート2を重ね合わせた状態で、両伝熱プレート1,2は、第一対応位置Aにおいてノズルフランジ8A,15A同士が重ね合わされるが、そのノズルフランジ8A,15Aのノズル穴10,17を取り囲むように連続的に(つまり環状に)、ノズルフランジ8A,15A同士がレーザ溶接にて、重ね溶接継手で接合される(溶接部4)。この際、ノズルフランジ8A,15A内における溶接位置は、特に問わず、ノズルフランジ8A,15Aの外周側の設定領域、内周側の設定領域、またはこれらの中間領域のいずれでもよい。いずれにしても、好ましくはノズル穴10,17と同心円状に溶接される。なお、ノズルフランジ8A,15Aには、内外二箇所以上で溶接してもよく、その場合も、好ましくは同心円状に溶接される。
なお、第一対応位置Aおよび第二対応位置Bにおけるノズルフランジ8,15同士の溶接や、後述するその他の重ね溶接継手の箇所について、レーザビームの入射角度をプレート面と直交方向に対して±30度の範囲に設定するのが好ましい。この際、鉛直線に対し、周方向いずれの方向にレーザビームを傾けてもよい。±30度の範囲とする理由は、鉛直線に対し30度以上にレーザビームを傾け過ぎると、レーザビームによる熱が材料内に入りにくくなるためである。
外側フランジ5,12同士を隅肉溶接継手で接合する際、図6に示すように、外側フランジ5,12の幅方向の断面において、外側フランジ5,12同士の接合面(第一伝熱プレート1の外側フランジ5上面=第二伝熱プレート2の外側フランジ12下面)の溶け込み幅をd、外側フランジ5,12の板厚をtとしたとき、d≧0.8tの関係になるようにレーザ溶接するのが好ましい。つまり、溶接後の溶け込み部3についてd≧0.8tの関係が得られるように、たとえば、レーザビームのスポット径(材料表面におけるビーム径)、および/または、照射エネルギー(レーザの出力と時間(レーザをパルス発振する場合はパルス幅と周波数))を調整する。
d≧0.8tの関係を確保する理由は、次のとおりである。前提として、圧力容器の材料について、0.8σa=τaの関係式は知られている(圧力容器構造規格(平成元年労働省告示第六十六号)第八条)。ここで、σaは許容引張応力であり、τaは許容せん断応力である。さて、プレート式熱交換器が圧力容器という訳ではないし、前記関係式が溶接に関するものという訳でもないが、最も強度が要求される圧力容器としてプレート式熱交換器を構成できれば安心である。たとえば、プレート式熱交換器を蒸発器として使用する場合には、伝熱プレート1,2間で冷媒の気化・膨張が生じるため、溶接部にも優れた強度が望まれるからである。伝熱プレート1,2間に生じる力をPとして、外側フランジ5,12同士の接合面の溶け込み幅dにおいて、引張応力(σ=P/d)が生じ、各伝熱プレート1,2の板厚方向において、せん断応力(τ=P/t)が生じる。これらを前記関係式(0.8σa=τa)に適用すると、0.8t=dの関係となる。従って、板厚tの強度と同等以上で溶接するには、d≧0.8tを満たせばよいことになる。たとえば、各伝熱プレート1,2の板厚が0.3mmの場合、外側フランジ5,12同士の接合面の溶け込み幅dは0.24mm以上を確保するのが好ましい。
また、同様の理由から、外側フランジ5,12の幅方向の断面において、重ね合わせ部の裏面に生じる裏波の幅をd´、外側フランジ5,12の板厚をtとしたとき、d´≧0.8tの関係になるようにレーザ溶接にて貫通溶接されるのが好ましい。つまり、溶接後の裏波についてd´≧0.8tの関係が得られるように、たとえば、レーザビームのスポット径、および/または、照射エネルギーを調整する。なお、前述したとおり、本実施例では、レーザビームの焦点位置を、外側フランジ5,12の重ね合わせ部の表面またはそれより上方に配置して溶接するので、通常、d≧d´の関係にもある。照射エネルギーが材料の溶融に消費されるのに伴って、重ね合わせ部の表面から裏面に向かって漸次溶融量が減少するからである。
このような構成の場合、外側フランジ5,12同士の溶接部の裏波の幅d´を確認して、d´≧0.8tの関係にあるか否かにより、溶接不良がないか否かを容易に確認することができる。つまり、溶接後の外観検査において、d´≧0.8tであれば良品と判定し、d´<0.8tであれば不良品と判定することができる。
なお、d≧0.8tの関係になるように、また好ましくはさらにd´≧0.8tの関係になるように、レーザ溶接で接合することは、外側フランジ5,12同士の溶接に限らず、第一対応位置Aおよび第二対応位置Bにおけるノズルフランジ8,15同士の溶接など、その他の重ね溶接継手の箇所にも適用可能である。
以上のようにして、第一伝熱プレート1の上面に第二伝熱プレート2をレーザ溶接した後、図4の中央二枚の伝熱プレート2,1に示すように、第二伝熱プレート2の上面に第一伝熱プレート1を重ね合わせて溶接する。この際、両伝熱プレート2,1は、揃えて、つまり互いの中心を一致させて重ね合わされる。これにより、両伝熱プレート2,1は、内側フランジ13,6同士が当接されると共に、図3から分かるように、第二対応位置Bのノズルフランジ15B,8B同士も当接される。なお、第二伝熱プレート2の上面に第一伝熱プレート1を重ね合わせた場合、第一対応位置Aのノズルフランジ15A,8A同士は、ノズル穴17,10の軸方向(プレート面と直交方向)に離隔して配置される(図4)。また、両伝熱プレート2,1は、熱交換部16,9のヘリンボーン18,11が、交差した状態に配置される。
両伝熱プレート2,1は、外周部に沿って連続的に(つまり環状に)、内側フランジ13,6同士がレーザ溶接にて、フレア溶接継手で接合される(溶接部19)。つまり、内側フランジ13,6同士の重ね合わせ部の外周部がレーザ溶接される。また、第二対応位置Bのノズルフランジ15B,8B同士は、前述した第一対応位置Aのノズルフランジ15A,8A同士の場合と同様に、重ね溶接継手で接合される。なお、内側フランジ13,6同士を重ね合わせて外周部をフレア溶接する際、レーザビームのビーム照射角度は、プレート面と平行方向(水平)に対して、±5度の範囲に止めるのが好ましい。
その後、前述したのと同様に、第一伝熱プレート1の上面に、第二伝熱プレート2を重ね合わせて溶接し、その第二伝熱プレート2の上面に、第一伝熱プレート1を重ね合わせて溶接することを、所望枚数だけ繰り返せばよい。
以上のようにして、第一伝熱プレート1と第二伝熱プレート2とを交互に重ね合わせて、所要箇所をレーザ溶接しつつプレート式熱交換器を構成する。つまり、各伝熱プレート1,2は、積層方向両端部の伝熱プレートを除き、隣接する片方の伝熱プレートと、外側フランジ5,12同士が重ね合わされて、その重ね合わせ部がレーザ溶接される一方、隣接するもう片方の伝熱プレートと、内側フランジ6,13同士が重ね合わされて、その重ね合わせ部がレーザ溶接される。また、その際、第一対応位置Aで重ね合わされるノズルフランジ8A,15A同士がレーザ溶接されると共に、第二対応位置Bで重ね合わされるノズルフランジ8B,15B同士がレーザ溶接される。
このようにして、各伝熱プレート1,2は互いに重ね合わされ、隣接する伝熱プレート1,2間を流体流路とし、隣接する流体流路に熱交換すべき二流体が流れるように組み立てられる。具体的には、第一伝熱プレート1の上面と第二伝熱プレート2の下面との間の第一流路に、第一流体が通される一方、第二伝熱プレート2の上面と第一伝熱プレート1の下面との間の第二流路に、第二流体が通される。この際、第一流体と第二流体とが対向流になるように通すのが好ましい。なお、各ノズル穴10,17が、流体の出入口として機能する。
ところで、図示しないが、伝熱プレート1,2の積層方向両端部には、平板状のエンドプレートが重ね合わされて溶接される。この際、積層方向の端部に配置された伝熱プレート(第一伝熱プレート1または第二伝熱プレート2)が、その外側フランジ5(12)(または内側フランジ6(13))を、平板状のエンドプレートに重ね合わされて外周部を溶接される。
一方のエンドプレートには、ノズル穴10,17と対応した四隅に貫通穴が形成されると共に、その貫通穴に管(ニップル)の端部がはめ込まれて設けられる。他方のエンドプレートには、ノズル穴10,17と対応した四隅が閉塞されている。二つの流体を熱交換しようとする際、一方のエンドプレートの前記管を二流体の出入口として、左上部と右下部の二つの第一対応位置Aの内、一方から第一流体を供給して他方から排出させ、右上部と左下部の二つの第二対応位置Bの内、一方から第二流体を供給して他方から排出させればよい。この際、前述したとおり、第一流体と第二流体とが対向流になるように流すのが好ましい。たとえば、第一流体を第一流路の左上部から右下部へ流す場合、第二流体を第二流路の左下部から右上部へ流すのがよい。
図8は、前記実施例の変形例を示す図であり、図4と同様に、各伝熱プレート1,2の外周部を示している。ここでは、前記実施例と相違する箇所を中心に説明し、前記実施例と同様の箇所については説明を省略する。また、前記実施例と同等の箇所には同一の符号を付して説明する。
前記実施例では、各伝熱プレート1,2の外側フランジ5,12は、内側フランジ6,13と平行に(つまり水平に)形成されたが、本変形例では、次のように構成される。すなわち、外側フランジ5,12同士がレーザ溶接にて接合される一対の伝熱プレート1,2は、図8に示すように、内側フランジ6,13同士が離隔して平行に配置されると共に、外側フランジ5,12同士は外方へ行くに従って互いに近接する方向に傾斜して形成される。この傾斜角度は適宜に設定されるが、各伝熱プレート1,2について、好ましくは、外側フランジ5,12が内側フランジ6,13に対し2度以上の角度(たとえば2度〜5度)で、外方へ行くに従って内側フランジ面から離隔する方向へ傾斜するよう形成される。
本変形例でも、第二伝熱プレート2の外側フランジ12の幅寸法は、第一伝熱プレート1の外側フランジ5の幅寸法よりも短い。それ故、第二伝熱プレート2の外側フランジ12の外周縁は、第一伝熱プレート1の外側フランジ5の外周縁よりも内側に配置される。そして、前述したように、各外側フランジ5,12が同等角度で傾斜して形成されていることに伴い、第二伝熱プレート2の外側フランジ12の外周縁が第一伝熱プレート1の外側フランジ5の板面に接触された状態で、第二伝熱プレート2の外側フランジ12の外周縁に沿って隅肉溶接継手にて外側フランジ5,12同士がレーザ溶接により接合される。なお、伝熱プレート1,2を単に重ね合わせた状態では、図8のような状態になるが、そこからさらに外側フランジ5,12の板面同士を重ね合わせるように治具で締め付けて溶接することで、外側フランジ5,12同士を略重合させて一体化するのがよい。
本変形例のプレート式熱交換器によれば、外側フランジ5,12同士がレーザ溶接にて接合される一対の伝熱プレートは、内側フランジ6,13同士が離隔して平行に配置されると共に、外側フランジ5,12同士は外方へ行くに従って互いに近接する方向に傾斜して形成されるので、第二伝熱プレート2の外側フランジ12の外周縁を、第一伝熱プレート1の外側フランジ5の板面に、容易に確実に接触させることができる。これにより、第二伝熱プレート2の外側フランジ12の外周縁に沿って、隅肉溶接継手にて外側フランジ5,12同士をレーザ溶接により容易に確実に接合することができる。
図9は、前記実施例の他の変形例を示す図であり、図4と対応する。
前記実施例では、第二伝熱プレート2の上面に第一伝熱プレート1を重ね合わせて、内側フランジ13,6同士の重ね合わせ部の外周部をフレア溶接継手で接合したが、本変形例では、第二伝熱プレート2の上面に第一伝熱プレート1を重ね合わせて、内側フランジ13,6同士の重ね合わせ部を、重ね溶接継手で接合している(溶接部19´)。その他の構成は、前記実施例と同様のため、説明を省略する。
本発明のプレート式熱交換器は、前記実施例(変形例を含む)の構成に限らず適宜変更可能である。特に、次のような構成を備えれば、その他の構成は適宜に変更可能である。すなわち、伝熱プレート1,2が複数枚重ね合わされ、隣接する伝熱プレート1,2間を流体流路とし、隣接する流体流路に熱交換すべき二流体が流れるように組み立てられるプレート式熱交換器であって、各伝熱プレート1,2は、外周部に沿って設けられる外側フランジ5,12と、この外側フランジ5,12の内側に段差をもって設けられる内側フランジ6,13とを備え、少なくとも積層方向両端部の伝熱プレート以外の各伝熱プレート(つまり積層方向両端部の伝熱プレート間に挟まれた各伝熱プレート)1,2は、隣接する片方の伝熱プレートと外側フランジ5,12同士が重ね合わされると共に、一方の伝熱プレート2の外側フランジ12の外周縁が他方の伝熱プレート1の外側フランジ5の外周縁よりも内側に配置され、一方の伝熱プレート2の外側フランジ12の外周縁に沿って隅肉溶接継手にて外側フランジ5,12同士がレーザ溶接により接合されるのであれば、これ以外の構成は適宜に変更可能である。
たとえば、外側フランジ5,12同士が重ね合わされる一対の伝熱プレート1,2は、一方の伝熱プレート2の外側フランジ12の外周縁が他方の伝熱プレート1の外側フランジ5の外周縁よりも内側に配置されて隅肉溶接されるのであれば、その他の箇所の大きさ、形状、熱交換部9,16の構成は、適宜に変更可能である。
また、前記実施例において、重ね合わされた一対の外側フランジ5,12同士は、隅肉溶接されると共に、所望により、それより内側において、さらに重ね溶接されてもよい。
また、前記実施例では、第二伝熱プレート2の外側フランジ12の幅寸法(ひいては第二伝熱プレート2の外寸)を、第一伝熱プレート1の外側フランジ5の幅寸法(ひいては第一伝熱プレート1の外寸)よりも小さくしたが、これとは逆に、第一伝熱プレート1を第二伝熱プレート2よりも小さくして、第二伝熱プレート2の外側フランジ12に第一伝熱プレート1の外側フランジ5を重ね合わせて、第一伝熱プレート1の外側フランジ5の外周部に沿って隅肉溶接を行ってもよい。
また、前記実施例において、各伝熱プレート1,2は、内側フランジ6,13同士を重ね溶接継手またはフレア溶接継手で接合できるのであれば、内側フランジ6,13の大きさは必ずしも同一でなくてもよい。ノズルフランジ8,15についても同様に、場合により大きさを変えてもよい。
また、ノズルフランジ8,15(ノズル穴10,17)の位置は、伝熱プレート1,2の四隅に限らず、適宜に設定される。さらに、ノズルフランジ8,15(ノズル穴10,17)の個数も、少なくとも四つあればよい。ノズルフランジ8,15(ノズル穴10,17)の個数を増やすことで、二流体の熱交換に限らず、三流体の熱交換を可能としたり、一流体について複数の出入口を設けたりできる。
また、前記実施例において、第一対応位置Aと第二対応位置Bを入れ替えてもよい。つまり、図1における各伝熱プレート1,2について、左上部と右下部のノズルフランジ8A,15Aの構成と、右上部と左下部のノズルフランジ8B,15Bの構成とを入れ替えてもよい。
また、前記実施例では、各流体の入口と出口とが、略矩形状の伝熱プレート1,2の対角線上に配置されたが、これに限らず、たとえば略矩形状の伝熱プレート1,2の長辺に沿った位置に配置されてもよい。つまり、第一対応位置Aおよび第二対応位置Bは、それぞれ伝熱プレート1,2の対角線上に配置される以外に、伝熱プレート1,2の一辺の両端部に第一対応位置Aが配置され、もう一辺の両端部に第二対応位置Bが配置されてもよい。そして、前記実施例では、第一伝熱プレート1と第二伝熱プレート2との二種類の伝熱プレートを交互に用いて構成したが、場合により、一種類の伝熱プレートを用いて、180度反転させつつ重ね合わせて組み立ててもよい。但し、この場合も、両伝熱プレート1,2は、外側フランジ5,12の幅寸法を変えて、隅肉溶接を実施可能とされる。
また、前記実施例では、外側フランジ5(12)と内側フランジ6(13)とを連接する連接壁7(14)は、各フランジ5,6(12,13)に対し垂直に設けたが、場合により多少傾斜して設けてもよい。
さらに、前記実施例では、隅肉溶接継手や重ね溶接継手の箇所は、レーザ溶接による貫通溶接を行ったが、非貫通溶接など、各種のシーム溶接を行ってもよい。