JP6395184B2 - 陽イオン交換能を発現する両性イオン導入樹脂 - Google Patents
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一方、液体クロマトグラフィーは、液体クロマトグラフィーに用いる担体自身の特性、担体に修飾された官能基の性質および多孔性構造が複合的に作用することにより物質を分離・精製する方法で、低分子医薬品のみならず、抗体医薬などのバイオ医薬品の分離分析・精製に利用されるなど、医学、生物学、その他、環境学分野等に幅広く利用されている技術である。
また、本発明者らは、本発明の両性イオン導入樹脂を用いることにより、極性物質を効果的に分離できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、次の[1]〜[5]である。
[2]前記重合溶媒がメタノールあるいはエタノールである[1]に記載の両性イオン導入樹脂。
[3]前記架橋剤がグリセリンジメタクリレートあるいはエチレンジメタクリレートである[1]または[2]に記載の両性イオン導入樹脂。
および
[4]溶媒を移動相として使用して、[1]〜[3]のいずれかに記載の両性イオン導入樹脂が充填されたカラムによって極性物質を分離する方法。
[5]前記溶媒は、水を含まない有機溶媒である[4]に記載の極性物質を分離する方法。
本発明の基材は、架橋剤、あるいは、架橋剤および一官能性重合性単量体を重合して得られる樹脂成分により構成される。樹脂成分としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂などがあげられる。好ましくは、ポリスチレン系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂である。
基材樹脂1g中に含まれる不飽和二重結合は、1×10-5〜1×10-2molであり、好ましくは、1×10-4〜8×10-3molであり、さらに好ましくは、1×10-3〜5×10-3molである。1×10-5mol未満の場合、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを重合する量が低下してしまう。なお、基材樹脂表面に存在する不飽和二重結合量は、臭素の付加反応を利用して測定することができる。
なお、基材樹脂は、多孔質状であることが好ましい。多孔質状とすることにより、表面積が大きくなるため、基材表面に付加する不飽和二重結合の量を増加することができる。多孔質状の基材樹脂は、ポリスチレン等の種粒子を用いた膨潤重合法等により得ることができる。
本発明の両性イオン導入樹脂は、上記の架橋剤、あるいは、架橋剤および一官能性重合性単量体を重合して得られた基材樹脂に2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが重合反応により導入されたものであり、さらには、陽イオン交換能を有するものである。
両性イオン導入樹脂の形状、大きさ等に制限はなく、上記の基材樹脂の形状に応じて適宜設計される。カラム等への均一な充填性を得るという観点から、球状の粒子、あるいはモノリス型の構造であることが好ましい。
δ={(ΔH−RT)/V}1/2
(ΔH:モル蒸発潜熱、R:ガス定数、T:温度、V:モル体積)
このような溶媒の性質としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンおよびその重合物をともに溶解することがわかっている。
このように、本発明によれば、基材樹脂に2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを特定の溶媒下でラジカル重合反応させて導入することにより、目的の電気的特性を有する、すなわち、陽イオン交換能を発現する両性イオン導入樹脂の製造が可能となる。しかも、操作性が簡単で、量産、再現性に優れた製造方法を提供することができる。
本発明の極性物質を分離する方法とは、上記両性イオン導入樹脂を充填したカラムを用いたカラムクロマトグラフィーである。移動相としては、水、あるいは、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、ベンゼン等の有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を用いることができ、水を含まない有機溶媒を利用することもできる。ここで、「水を含まない」とは、水が1質量%以下であることを意味する。
カラムクロマトグラフィーは、オープンカラムクロマトグラフィーのように重力落下により移動相を送液する方法でも、高速液体クロマトグラフィーのようにポンプにより移動相を送液する方法でもよい。
〔重合溶媒の特性確認方法〕
本発明で用いる溶解度パラメーター(SP値)が12.0〜15.0の溶媒は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、「MPC」という。)、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン重合物(以下、「MPC重合物」という。)を共に溶解する溶媒であった。その確認は下記の方法に従って実施した。
なす型フラスコに溶媒25mLを入れ、MPC 0.75gを分散した。この分散液を3000rpmで遠心分離し、上澄み液を得た。用いたMPC重量、上澄み液量およびその上澄み液を乾燥して得られた重量を秤量し、MPCの溶媒への溶解性を下式により算出した。
MPCの溶解性(%)={上澄み液を乾燥して得られた重量(g)/上澄み液の回収量(mL)×25(mL)}/0.75(g)×100
[MPC重合物の溶解性の確認]
なす型フラスコに溶媒25mLを入れ、MPC 0.75gおよび重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(以下、「ADVN」という。) 0.03gを分散し、24時間還流重合した。還流重合後の液を3000rpmで遠心分離し、上澄み液を得た。用いたMPC重量、上澄み液量およびその上澄み液を乾燥して得られた重量を秤量し、MPC重合物の溶媒への溶解性を下式にて算出した。
MPC重合物の溶解性(%)={上澄み液を乾燥して得られた重量(g)/上澄み液の回収量(mL)×25(mL)}/0.75(g)×100
上記〔重合溶媒の特性確認方法〕にて、溶媒をメタノールとして試験を実施した。結果を表1に示した。なお、メタノールのSP値は14.5−14.8である。
(参考例2)
上記〔重合溶媒の特性確認方法〕にて、溶媒をエタノールとして試験を実施した。結果を表1に示した。なお、エタノールのSP値は12.7である。
(比較参考例1)
上記〔重合溶媒の特性確認方法〕にて、溶媒をイソプロピルアルコールとして試験を実施した。結果を表1に示した。なお、イソプロピルアルコールのSP値は11.5である。
(比較参考例2)
上記〔重合溶媒の特性確認方法〕にて、溶媒をアセトニトリルとして試験を実施した。結果を表1に示した。なお、アセトニトリルのSP値は11.9である。
〈ポリスチレンシード粒子の調製〉
[スチレンの洗浄]
最初に、100mLの分液漏斗にスチレン 80mLを入れ、亜硫酸水素ナトリウム飽和水溶液 60mLで洗浄、次に5%の水酸化ナトリウム水溶液 60mLを用いて洗浄、最後に塩化ナトリウム飽和水溶液 60mLを用いて洗浄した。その後塩化カルシウムを1g加え、15分間脱水を行った。脱水後、蒸留して洗浄スチレンを得た。
[精製水の脱気]
三角フラスコに精製水500mLと攪拌子を入れ、アルゴンガスをバブリングしながらホットスターラーを用いて精製水を沸騰させた。沸騰開始後、40分間加熱し、その後アルゴンガスをバブリングしたまま放冷し、脱気精製水を得た。
[ポリスチレンシード粒子の重合]
ポリスチレンシード粒子は、ソープフリー乳化重合により調製した。
セパラブルフラスコに脱気した精製水 320mLと塩化ナトリウム 0.4gを入れ、攪拌しながら70℃に加温した。アルゴンガスで装置内を置換後、洗浄スチレン 6mLを加え、30mLの精製水に溶解したペルオキソ二硫酸ジカリウム(重合開始剤)0.27gを加えた。1時間毎に7回洗浄スチレンを6mLずつ加え(計42mL)、その後70℃で24時間攪拌して、ポリスチレン粒子分散液を得た。
放冷後、ポリスチレン粒子分散液を3000rpmで30分間遠心分離し、上澄みを除去した。水を加えて再分散後、再び同様に遠心分離を行い、上澄みが透き通るまで繰り返してポリスチレンシード粒子を調製した。なお、ポリスチレンシード粒子の濃度は乾燥重量により測定したところ、0.53mg/mLであった。
[1次膨潤]
ビーカーにドデシル硫酸ナトリウム(以下、「SDS」という。) 0.025g、フタル酸ジブチル 0.41mL、精製水 10mLを入れ、氷冷しながら超音波ホモジナイザーUD−200(株式会社トミー精工、東京、日本)を用いて分散した。分散液をポリスチレンシード粒子0.27mLに加え、マグネチックスターラーを用いて室温下125rpmで一晩攪拌した。膨潤の完結は光学顕微鏡BH2・BHS(オリンパス株式会社)を用いて微分散液滴の消失により判断した。
[2次膨潤]
ビーカーにADVN 0.15g、トルエン 5mLを加えた。ADVNを溶解後、SDS 0.025g、精製水5mL、3%ポリビニルアルコール(重合度約2000、ケン化度98%)水溶液(以下、「PVA水溶液」という。) 20mLを加え、氷冷しながら超音波ホモジナイザーを用いて分散した。これを1次膨潤が終了した混合液に加え、マグネチックスターラーを用いて室温下125rpmで一晩攪拌した。膨潤の完結は上記光学顕微鏡を用いて微分散液滴の消失により判断した。
続いてビーカーにSDS 0.025g、精製水 15mL、3%PVA水溶液 20mL、グリセリンジメタクリレート 5mLを順に加え,氷冷しながら超音波ホモジナイザーを用いて分散した。これを上記の2次膨潤前半が終了した混合液に加え、マグネチックスターラーを用いて室温下125rpmで一晩攪拌した。膨潤の完結は上記光学顕微鏡を用いて微分散液滴の消失により判断した。
[重合]
2次膨潤が終了した混合液を300mLのなす型フラスコに入れ、アルゴン雰囲気下で75℃、24時間加熱した。攪拌は重合初期にのみ穏やかに行い、その後は静置した。重合後の溶液は水に分散し、その後、デカンテーションを3回行った。同様にメタノール、テトラヒドロフランを用いて洗浄し乾燥させ、多孔質状のポリスチレン骨格グリセリンジメタクリレートポリマー担体(以下、「GDMA担体」という。)を得た。なお、GDMA担体表面に存在するビニル基量をビニル基と臭素の付加反応を利用して測定し、GDMA担体1g中に重合可能なビニル基が1.97×10-3mol存在することを確認した。
なす型フラスコにメタノール 25mLを入れ、MPC 0.75gおよび重合開始剤としてADVN 0.03g、GDMA担体 2.5gを分散し、24時間還流重合した。還流重合終了後の溶液を水に分散し、その後、デカンテーションを3回行った。同様にメタノールを用いて洗浄を行った後乾燥し、MPC重合物導入樹脂を得た。
[赤外吸収スペクトルの測定]
フーリエ変換赤外分光光度計(Fourier Transform Infrared Spectroscopy、FT−IR)FT/IR−4200(日本分光株式会社)を用い、KBr錠剤法により、作製したMPC重合物導入樹脂の透過スペクトルを積算回数は16回として測定した。結果を図1に示した。
自動比表面積測定装置 Gemini 2360(マイクロメリティックス)を用い、作製したMPC重合物導入樹脂の比表面積および全細孔容量の測定を行った。結果を表2に示した。
〈GDMA担体へのMPCの重合〉で、メタノールをイソプロピルアルコールとする以外は実施例1と同様にしてMPC重合物導入樹脂を得、担体の特性を確認した。赤外吸収スペクトルの結果を図1に示し、比表面積および全細孔容量を表2に示した。
MPC未導入の、単なるGDMA担体を用いる以外は実施例1と同様にして特性を確認した。赤外吸収スペクトルの結果を図1に示し、比表面積および全細孔容量を表2に示した。
〈MPC重合物導入樹脂の表面特性の確認〉
実施例1で得られたMPC重合物導入樹脂の表面特性を確認するために、HPLC用のステンレスカラムに充てんし、ベンゼン(benzene)、トルエン(toluene)、フェノール(phenol)、安息香酸(benzoic acid)、ピリジン(pyridine)の分離を行った。なお、カラムサイズは長さ150mm×内径4.6mm、移動相はアセトニトリル、流速0.8mL/分、カラム温度35℃として分析した。各被試験物質の分離特性の結果を表3に示した。なお、表中の相対保持因子κとは、被試験物質のカラムへの相互作用の指標で、下式により計算した。
相対保持因子κ=(TR−T0)/T0
(式中、相互作用のないと考えられるアセトンの溶出時間をT0、被試験物質の溶出時間をTRとする。)
実施例1で得られた樹脂の代わりに、比較例1−1で得られたMPC重合物導入樹脂を用いた以外は実施例と同様にMPC重合物導入樹脂の表面特性を確認した。結果を表3に示した。
実施例1で得られた樹脂の代わりに、比較例1−2のMPC未導入の担体を用いた以外は実施例と同様に担体の表面特性を確認した。結果を表3に示した。
表2において、実施例1の重合溶媒をSP値14.5−14.8のメタノールとして調製したMPC重合物導入樹脂は、比較例1−2のMPC未導入の担体と比較して、比表面積、細孔容量ともに小さくなっており、MPCが導入されたことが示され、また、図1の赤外吸収スペクトルの結果からも、実施例1の重合溶媒をメタノールとして調製したMPC重合物導入樹脂は、比較例1−2のMPC未導入の担体と比較して、−N+(CH3)3由来の960cm-1の吸収が増大していることからもMPCが重合導入されたことが示された。
また、表3の結果より明らかなように、実施例1のように、メタノールを重合溶媒として調製したMPC重合物導入樹脂は、比較例1−2のMPC未導入の担体と比較して、ピリジンの相対保持能が高くなっており、陽イオン交換能が発現されることが示された。なお、SP値が12未満であるイソプロピルアルコールを重合溶媒として調製したMPC重合物導入樹脂は、比較例1−2のMPC未導入の担体と比較して、安息香酸の相対保持性能が高くなっており、MPC重合物を導入するだけでは陽イオン交換能が発現されないことは明らかである。
Claims (5)
- 架橋剤、あるいは、架橋剤および一官能性重合性単量体を重合して得られた基材表面にラジカル重合によって2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが重合されている両性イオン導入樹脂であって、前記ラジカル重合の重合溶媒として溶解度パラメーターが12.0〜15.0の溶媒を使用して調製される陽イオン交換能を発現する両性イオン導入樹脂。
- 前記重合溶媒がメタノールあるいはエタノールである請求項1に記載の両性イオン導入樹脂。
- 前記架橋剤がグリセリンジメタクリレートあるいはエチレンジメタクリレートである請求項1または2に記載の両性イオン導入樹脂。
- 溶媒を移動相として使用して、請求項1〜3のいずれか1項に記載の両性イオン導入樹脂が充填されたカラムによって極性物質を分離する方法。
- 前記溶媒は、水を含まない有機溶媒である請求項4に記載の極性物質を分離する方法。
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