以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
まず本実施の形態の半導体装置の構成としてパワー半導体装置の構成について図1を用いて説明する。なお、説明の便宜のため、X方向、Y方向、Z方向が導入されている。X方向およびY方向はそれぞれ平面視における横方向および縦方向を意味し、Z方向はX方向およびY方向に交差する、厚み(高さ)方向を意味するものとする。
図1(A)は後述するフタ13を含まない本実施の形態のパワー半導体装置の内部の構成を示す平面図であり、図1(B)は当該フタ13を含めた本実施の形態のパワー半導体装置の内部の構成を、図1(A)中の点線L1から図の上側向きに見た透視図(側面図)である。また図1(C)は当該フタ13を含めた本実施の形態のパワー半導体装置の内部の構成を、図1(A)中の点線L2から図の左側向きに見た透視図(側面図)である。なお各透視図においては、見える部材の一部を省略し主要な部材(要部)のみを抜きとって図示している場合があるとともに、図の理解を容易にするために一部において平面図と整合しない箇所が存在する場合がある(以下の各図においても同じ)。
図1(A),(B),(C)を参照して、本実施の形態のパワー半導体装置は、ケース1と、基板3と、半導体素子5と、電極部材7と、封止部材9と、ガイド部材11とを主に有している。
ケース1は、パワー半導体装置を構成する基板3などの各種部材をその内部に収納可能な形状を有する、たとえば直方体状の部材である。ケース1は、たとえばポリ・フェニレン・スルファイドなどの樹脂材料により形成されている。
基板3は、パワー半導体装置の土台となる構成部材であり、ケース1内に配置されている。特に図1(B),(C)を参照して、基板3は、絶縁基板3aと、裏面電極3bと、表面電極3cとを含んでいる。
絶縁基板3aは、たとえばセラミックスなどの絶縁性の材料からなる平板形状の部材であり、たとえば平面視において矩形状を有しており、Z方向に一定の厚みを有している。より具体的には、絶縁基板3aを構成するセラミックス材料として、たとえば窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化珪素(SiO2)、ガラスセラミックスからなる群から選択されるいずれか1つが用いられることが好ましい。ただし絶縁基板3aは、これを含むパワー半導体装置が求める絶縁特性、放熱性、線膨張率などの特性を満たす任意の材質およびZ方向厚みとすることができる。
裏面電極3bは、絶縁基板3aのZ方向下側の主表面の少なくとも一部に、たとえばろう付けにより貼り合わせられるように形成されており、たとえば平面視において矩形状を有し、Z方向に一定の厚みを有する薄膜のパターンである。同様に表面電極3cは、絶縁基板3aのZ方向上側の主表面の少なくとも一部に、たとえばろう付けにより貼り合わせられるように(絶縁基板3aの上記上側の主表面を直接覆うように)形成されており、たとえば平面視において矩形状を有し、Z方向に一定の厚みを有する薄膜のパターンである。裏面電極3bおよび表面電極3cは、一般公知のアルミニウム、銅、またはこれらを組み合わせた金属材料により形成される。なお裏面電極3bおよび表面電極3cを構成する金属材料は、酸化防止のためその表面にニッケルめっきなどの処理がなされてもよい。
半導体素子5を構成する材料は、シリコン、炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド、からなる群から選択されるいずれか1つであるが、あるいは炭化珪素と窒化ガリウムとダイヤモンドとの複合材料であってもよい。これにより半導体素子5を、高電圧を印加するパワー半導体素子として用いることができる。
半導体素子5は、上記の材料からなるチップ状(薄板形)を有しており、基板3の一方の主表面(Z方向上側の主表面)上に、たとえば互いに間隔をあけて複数(図1(A)においてはX方向およびY方向のそれぞれに関して2列ずつ、合計4つ)載置されている。すなわち半導体素子5は、そのZ方向下側の主表面が基板3のZ方向上側の主表面(表面電極3cの表面)と互いに接するように、図示されないはんだなどの接合材料により接合されるように搭載されている。
半導体素子5は、シリコンまたは炭化珪素(SiC)からなる半導体チップの(図1のZ方向上側の)表面上に微細な素子が複数形成されることにより集積回路を構成する部材である。ここでの微細な素子として、たとえばMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)およびIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの電力制御用半導体素子、または還流ダイオードなどのいわゆるパワー半導体素子が用いられる。しかしこれに限らず、微細な素子として、動作時の温度が125℃を超える数々の半導体素子のうちのいずれかが少なくとも1つ以上用いられればよい。
電極部材7は、当該パワー半導体装置(半導体素子5)とその外部の配線などとを電気的に接続(導電)するために配置されている。電極部材7は、ソース電極7aと、ドレイン電極7bと、ゲート電極7cとを含んでいる。
ソース電極7aは、半導体素子5に含まれる微細な素子を構成するソース電極と電気的に接続されており、かつ当該基板3を含む半導体素子5の外部と電気的に接続するためのものであり、当該パワー半導体装置の全体に対する1つの大きなソース電極に相当する。同様に、ドレイン電極7b(ゲート電極7c)は、半導体素子5に含まれる微細な素子を構成するドレイン電極(ゲート電極)と電気的に接続されており、かつ当該基板3を含む半導体素子5の外部と電気的に接続するためのものであり、当該パワー半導体装置の全体に対する1つの大きなドレイン電極(ゲート電極)に相当する。
図1においては基板3の表面電極3cは、X方向に関して互いに間隔をあけて複数(3つ)配置されている。そのうち最も左側の表面電極3cにソース電極7aが、中央の表面電極3cにドレイン電極7bが、最も右側の表面電極3cにゲート電極7cが、それぞれ接続されている。したがって当該3つの表面電極3cのそれぞれは、電極部材7のそれぞれと同電位になっている。しかしここでは当該3つの表面電極3cのそれぞれは基板3を構成するものとし、電極部材7は基板3(3つの表面電極3cのそれぞれ)に接続された各電極7a,7b,7cを意味するものとする。
図1に示すように、ソース電極7a、ドレイン電極7bおよびゲート電極7cのそれぞれは、表面電極3cと接続される領域(Z方向最下部)において、基板3(表面電極3c)上からZ方向上側に延びるようにほぼ直角に屈曲した形状を有していてもよい。これにより、ソース電極7a、ドレイン電極7bおよびゲート電極7cのそれぞれは、その大半の領域がZ方向上側に延びる構成を有している。
ソース電極7a、ドレイン電極7bおよびゲート電極7cは、たとえば銅の土台の表面にニッケルめっきなどの処理がなされた構成を有しており、たとえば超音波接合により基板3の表面電極3cと互いに接続される。ただしソース電極7a、ドレイン電極7bおよびゲート電極7cは電気伝導性が高い任意の材質により形成可能であり、また超音波接合の他、はんだまたはかしめ接合などにより基板3の表面電極3cと互いに接続されてもよい。
また各電極7a,7b,7cのサイズおよび位置についても特に限定されるものではなく、所望の電流を流すことが出来るだけのサイズを有していればよい。なお、図1における電極7a〜7cの名称は装置構成の説明の便宜上名付けられたもので、用いる素子によってたとえばソース電極とドレイン電極の位置および機能などが図1の構成と入れ替わったり、たとえばソース電極とドレイン電極との双方の機能を有するように共用された電極が配置されたりしてもよい。
封止部材9は、特に図1(B),(C)に示すようにケース1内を充填するように配置されており、たとえば一般公知の封止用の樹脂材料が硬化したものであるが、必ずしも樹脂材料でなくてもよい。したがって封止部材9は、ケース1内に配置される基板3、半導体素子5、電極部材7などの各部材の表面の少なくとも一部と互いに接しながらこれらの各部材を覆うように配置されている。
封止部材9としての樹脂材料は、成形性、硬化性、貯蔵安定性、特に長期耐熱性に優れ、良好な耐クラック性を有する材料を用いることが好ましい。具体的には封止部材9として、たとえば熱硬化性オルガノポリシロキサンを主成分としたシリコーン系の樹脂(シリコーンゲルなどの2液混合型の反応材料)が一般的に用いられる。また封止部材9として、エポキシ系またはフッ素系などの樹脂材料が用いられてもよいし、上記の成形性などの特性を損なわない範囲で硬化促進剤や消泡剤、無機充填剤などを添加して用いることもできる。
封止部材9は、複数種類(2液)の所定量が計量されたものが混合され、それが約13.3Paの真空状態下で10分間一次脱泡された後にケース1内に注型されることにより形成(ケース1内に供給)される。その後当該封止部材9は、13.3Paの真空状態下で10分間二次脱泡され、70℃で1時間加熱硬化される。
封止部材9のZ方向の最上面は、互いに高さ(Z方向の座標)が異なる第1封止部材最上面9aと第2封止部材最上面9bとを有している。具体的には、第1封止部材最上面9aは第2封止部材最上面9bよりもZ方向の上方に配置されている。そして封止部材9は、第1封止部材最上面9aを有する第1領域9aaと、第2封止部材最上面9bを有する第2領域9bbとを有している。第1領域9aa、第2領域9bbともに、Z方向最下面の高さ(Z方向の座標)は等しく、その最下面は互いにほぼツライチとなっている。
したがって第2領域9bbは第1領域9aaよりも、Z方向に関する厚みが薄くなっている。具体的には、第2領域9bbは第1領域9aaよりも少なくとも1mm以上、Z方向に関して薄くなっている。ただし後述するように第2領域9bbは第1領域9aaよりも3mm以上(Z方向に関して)薄くなっていることがより好ましい。
基本的に第2領域9bbは、平面視におけるケース1内の領域の縁部の近くに配置されることが好ましく、図1(A)におけるY方向下方(図1(C)におけるY方向左方)に配置されている。第2領域9bbは、半導体素子5および電極部材7と平面視において重なる領域以外の領域に設けられている。図1(A)においてはY方向に関する比較的上方に(第1領域9aaとしての)半導体素子5および電極部材7の配置された領域が存在し、そのY方向下方に、ガイド部材11を隔てて、第2領域9bbが存在する。
第2封止部材最上面9bに接するように、当該表面上には透湿膜10が配置されている。言い換えれば、第2領域9bbの上側の表面である第2封止部材最上面9b(基板3の一方の主表面と同じ側の表面)は透湿膜10に覆われている。さらに言い換えれば、第2領域9bbにおいて透湿膜10を除いたときの封止部材9の最上面が第2封止部材最上面9bに相当する。したがって、透湿膜10は第2領域9bbと平面視において重なるように配置され、平面視においてたとえばX方向に延びる矩形状を有している。
透湿膜10は耐熱性を有しており封止樹脂を通さないものであれば特に限定されないが、透湿膜10としてたとえば透湿性を持たせたフィルムを用いることができる。具体的には、たとえばポリテトラフルオロエチレンを延伸加工して透湿性を持たせたフィルム、またはポリプロピレンに有機フィラーを混合させてシート化したのち有機フィラーを溶解除去して透湿性を持たせたフィルムなどが用いられる。なお透湿膜10のZ方向に関する厚みは、たとえば10μm以上3mm以下とすることが好ましい。
ケース1内における封止部材9の第1領域9aaと第2領域9bbとの境界には、Y方向に関して第1領域9aaと第2領域9bbとを区画するように、ガイド部材11が配置されている。ガイド部材11はZ方向とX方向とのなす平面においてX方向に延びる矩形状を有し、Y方向に厚みを、Z方向に幅(高さ)を有する平板形状を有している。ガイド部材11は、たとえばポリ・フェニレン・スルファイドなどの樹脂材料により形成されている。
また、ガイド部材11と透湿膜10とが同一の部材であってもよい。たとえば透湿膜10の厚みが10μmの場合は透湿膜10そのものに形状維持特性を有しないため、たとえばポリ・フェニレン・スルファイドなどの樹脂材料を用いて第2領域9bbが形成される必要がある。しかし透湿膜10の厚みが1mmの場合は透湿膜10そのものに形状維持特性があるため、透湿膜10そのものだけが配置されてもそれがガイド部材11としての機能を兼ねることができる。この場合、ガイド部材11に接した封止部材9の部分においても透湿できるため、信頼性のさらなる向上が期待できる。
ガイド部材11は、封止部材9の比較的薄い第2領域9bbを形成しようとする領域に透湿膜10を設置するために用いられる部材であり、たとえば透湿膜10を設置する箇所と設置しない箇所との境界部に配置される。ガイド部材11は、ケース1の形成時にこれと一体となるように形成されていてもよいし、ケース1の形成後に後付けとなるように形成されていてもよい。
本実施の形態のパワー半導体装置は、上記の各部材の他にも、たとえばフタ13と、ベース板15と、ワイヤ17とを有している。
フタ13は、ケース1の内部の、封止部材9により充填された領域がケース1の外側に露出しないようにするように、ケース1のZ方向最上部の開口部を塞ぐように設置される。フタ13は基本的にケース1と同様の樹脂材料により形成される平板形状の部材であることが好ましい。
ここで、特に図1(B),(C)に示すように、封止部材9はケース1内の全体を充填するわけではなく、ケース1内の最上部よりもZ方向のやや下方にその最上面9aを有するように供給されている。すなわちケース1内において、封止部材最上面9a,9bとフタ13との間には空隙14(空気などによる隙間)が存在している。空隙14は、封止部材9の第1領域9aa(第1封止部材最上面9a)の真上よりも第2領域9bb(第2封止部材最上面9b)の真上において、そのZ方向の厚みが大きくなっている。
フタ13によるケース1内の密閉は、封止部材9が加熱硬化された後に取り付けられ、それによりパワー半導体装置として完成する。
ベース板15は、ケース1を構成する外枠およびその内部の、Z方向下側を塞ぐように配置されることによりケース1の底部を構成する部材である。つまりベース板15は、基板3の、上記一方の主表面とは反対側の他方の主表面(Z方向下側の主表面)に接続されるように配置されている。より具体的にはベース板15は、そのZ方向上側の主表面が基板3のZ方向下側の主表面(裏面電極3bの表面)と互いに接するように、図示されないはんだなどの接合材料により接合されるように搭載されている。ベース板15はたとえば平面視において矩形状を有する平板形状の部材であり、ケース1の底部に、図示されない接着剤等で貼り付けられている。
ベース板15は、半導体素子5の駆動時に発する熱をそのZ方向下側からパワー半導体装置の外側へ放熱する機能を有している。ベース板15は、これを含むパワー半導体装置が求める電気特性、放熱性、線膨張率などの特性を満たす任意のZ方向厚み、および材質とすることができる。
たとえば、一般的にベース板15は銅により形成されるが、たとえばモリブデンまたはタングステンにより形成されてもよいし、銅とタングステンとの合金、または銅とモリブデンとの合金(銅モリブデン:CuMo)により形成されてもよい。あるいはベース板15はアルミニウムと炭化珪素(SiC)との合成材料(アルミニウム炭化珪素:AlSiC)、珪素と炭化珪素(SiC)との合成材料などのセラミック金属系の材料により形成されてもよいし、さらに合成ダイヤモンド、あるいはダイヤモンドと銅との複合材料により形成されてもよい。またベース板15は裏面電極3bと電気的に接続されることにより、半導体素子5などと電気的に接続されてもよい。このような材質により形成されたベース板15は、放熱性などの特性を十分に満たすことができる。
以上により、当該パワー半導体装置におけるケース1内を充填する上記の封止部材9は、ケース1の側面と、フタ13と、ベース板15とで囲まれた空間内の一部を充填している。これにより封止部材9は、当該空間内に配置された半導体素子5などを外部の汚染等から保護する機密性を確保したり、パワー半導体装置全体の成型による形状精度を高めたりしている。また特にベース板15により半導体素子5などの発生する熱が高効率に外部に放熱される。
ワイヤ17は、たとえば複数の半導体素子5同士を電気的に接続したり、半導体素子5と、半導体素子5が載置される表面電極3c以外の(たとえば当該表面電極3cに隣り合う)表面電極3cとを電気的に接続したりするために半導体素子5の表面などに接続された細い配線である。
ワイヤ17は、これにより接続される2つの領域間を電気的に接続することが可能な任意の材質により形成され得る。具体的にはワイヤ17は、通常はアルミニウム、銅、金などの金属材料の細線により形成されるが、たとえばアルミニウムによりその表面が被覆された銅からなるワイヤ17が用いられてもよい。
ワイヤ17の表面電極3cなどへの接続に用いる材料は、図示しないがたとえばはんだまたは銀などの熱溶融部材であることが好ましい。なおワイヤ17の表面電極3cなどへの接続方法は、ワイヤ17と表面電極3cなどとの電気的な接続を可能とする任意の方法によりなされる。たとえば表面電極3cとワイヤ17とが超音波接合により互いに接続されてもよい。
以上の構成を有する本実施の形態のパワー半導体装置は冷却装置などに取り付けて用いられる場合がある。その場合、当該冷却装置などへの設置のために、たとえばケース1に取付ネジ穴19が加工されてもよい。なお図1(A)においてはX方向の一方および他方の端部に1つずつの取付ネジ穴19が形成されているが、その形状および数には特に制限は無く、必要な取付け強度や製品規格などを考慮のうえ形状および数を適宜決定することができる。
より具体的には、パワー半導体装置は図示しない冷却フィンの上に載置され、取付ネジ穴19内に挿入されるネジなどにより、冷却フィンの上に固定される。このとき、パワー半導体装置と冷却フィンとの間には図示しない放熱グリースなどの放熱部材が介在することが好ましい。
次に、図2および図3を用いて、本実施の形態のパワー半導体装置の製造方法について説明する。
図2(A)I,IIを参照して、製造方法の第1例として、ガイド部材11とケース1との間の領域となるべき領域(透湿膜10を設置すべき領域)にあらかじめ透湿膜10が配置される。この状態で、上記の樹脂材料が注型されることにより、ケース1とガイド部材11とが同時に形成される。ガイド部材11はケース1の縁部とともに透湿膜10を挟みながら固定することが可能な位置に形成される。
図2(B)I,II,III,IVを参照して、製造方法の第2例として、上記第1例と同様の材料、位置および形状のケース1とガイド部材11とが先に注型により形成された後に、これとは別の工程により透湿膜10のみが形成されてもよい。この場合、後付けによりケース1(とガイド部材11との間の領域)に容易に透湿膜10が形成可能となるように、透湿膜10には、平面視におけるその周囲に、たとえばケース1を構成する材料と同じ樹脂材料により透湿膜外枠10aが形成されることが好ましい。
図2(C)を参照して、ケース1の、半導体素子5などを収納する内側領域の壁面の一部に、透湿膜10を設置するための溝部1aが形成され、当該溝部1aに嵌めるように、図2(B)にて形成された透湿膜10(透湿膜外枠10aを含む)が設置される。
図3(A)〜(C)の各工程は、上記の第1例、または第2例の双方に共通の工程である。図3(A)を参照して、図2(A)の第1例、または図2(B),(C)の第2例により形成された、透湿膜10のセットされたケース1の底部にベース板15が接着され、ベース板15の上面上(ケース1内)に基板3、半導体素子5、電極部材7などの各部材が載置される。
図3(B)を参照して、上記の封止部材9が形成される。具体的には、上記のように複数種類(2液)の所定量が計量されたものが混合され、それが約13.3Paの真空状態下で10分間一次脱泡されたゲル20が、基板3、半導体素子5、電極部材7などの各部材が載置されたケース1内に注入される。ただしゲル20は真空状態下でない状態で注入されてもよい。
このときゲル20は、第2領域9bbとなるべき領域においてはZ方向に関して透湿膜10の高さに達したところでその供給がストップする。これに対して第1領域9aaとなるべき領域においては透湿膜10が配置されないため、透湿膜10よりもZ方向上方にまで達するように高く供給される。このため透湿膜10を所望の領域に形成すれば、透湿膜10の配置される領域(第2領域9bbとなるべき領域)において、透湿膜10の配置されない領域(第1領域9aaとなるべき領域)に比べてその最上面が低くなるように(段差ができるように)ゲル20が供給される。その後当該ゲル20は、13.3Paの真空状態下で10分間二次脱泡され、70℃で1時間加熱硬化される。
図3(C)を参照して、上記の加熱硬化により、第2領域9bbの第2封止部材最上面9bは透湿膜10に接し、かつそれは第1領域9aaの第1封止部材最上面9aよりも1mm以上Z方向下方に配置されるように、封止部材9が形成される。
その後、図に示すようにフタ13が取り付けられることにより、封止部材9がケース1内に密閉され、パワー半導体装置が完成する。なお封止部材9の最上面9a,9bとフタ13との間に空隙14(最上面9b上において最上面9a上よりも広い)が形成されることが好ましい。
以上より、本実施の形態においては、図2(A)に示す第1例、および図2(B),(C)に示す第2例のいずれが採用されてもよい。要は封止部材9の透湿性を維持したまま、第2領域9bbを第1領域9aaよりも1mm以上薄く形成することが可能な位置に透湿膜10を配置することが可能であればどのような方法により形成されてもよい。
次に、図4〜図6の比較例の構成、動作および課題等を説明しながら、本実施の形態の作用効果、およびより好ましい構成等について説明する。
図4(A)はフタ13を含まない比較例のパワー半導体装置の内部の構成を示す平面図であり、図4(B)は当該フタ13を含めた本実施の形態のパワー半導体装置の内部の構成を、図4(A)中の点線L1から図の上側向きに見た透視図(側面図)である。
図4(A),(B)を参照して、比較例のパワー半導体装置は、基本的に図1の本実施の形態のパワー半導体装置と同様の構成を有しているが、ガイド部材11を有さず、封止部材9が厚みの異なる2つの領域9aa,9bbを有さない点において図4は図1と異なっている。これ以外の比較例(図4)の構成は、実施の形態1(図1)の構成とほぼ同じであるため同一の要素については同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
パワー半導体装置の動作時は、半導体素子5および基板3(表面電極3c)で形成される回路パターンには高電圧が印加される。図4の比較例のパワー半導体装置においては、シリコーンゲルにより封止部材9が形成されるため、このような高電圧が印加されても、短い沿面長で基板3などの高い沿面絶縁耐圧を確保することができる。また当該封止部材9により、たとえば半導体素子5と電極部材7とワイヤ17との間を互いに電気的に絶縁することができる。
図4に示す比較例のパワー半導体装置の半導体素子5などに高電圧が印加されて半導体素子5が高温になれば、基板3および電極部材7と、これらに接するように覆う封止部材9との界面にて気泡が発生し、その結果として基板3などの沿面絶縁耐圧が低下し、パワー半導体装置の信頼性が低下する不具合を起こす場合がある。これは、封止部材9の内部、および封止部材9とこれに接する基板3などの各部材との界面に存在する水分が、半導体素子5の動作時の熱で気化し、封止部材9内へのガス拡散速度よりも発生ガス量が増大した場合に生じるものと考えられる。このような現象は、特に炭化珪素からなる半導体素子5(チップ)を用いて、当該半導体素子5の最大接合温度(Tjmax)が150℃を超える動作を行なった場合に顕著に生じる。
このような現象を抑制するために、たとえば半導体素子5を収納したケース1内に高耐熱性を有する液体の絶縁油を充填することが考えられるが、液体の絶縁油を用いるためケース1内の密封が難しく製品の歩留りが向上できないという不具合を来す可能性がある。
そこで、このような現象を抑制するために、本願発明の発明者は鋭意研究を行った結果、昇温による上記気泡の発生は封止部材9を構成するシリコーンゲルの透湿度がシリコーンゲルの温度によって変化することに着目した。
ここで図5(A),(B)は図4(A)中の点線L2から図の左側向きに見た透視図(側面図)である。図5(A)を参照して、たとえば図の比較的右側の領域は、高温となる半導体素子5の真上に相当するため、封止部材9が比較的高温となる(このことを図中「H」で示している)。これに対して、たとえば図の比較的左側の領域には半導体素子5が配置されないため、封止部材9が比較的低温となる(このことを図中「L」で示している)。
封止部材9が十分温められている領域Hにおいては、封止部材9のガス拡散速度が大きいため、矢印で示すようにガスGs(水蒸気)が盛んに半導体素子5上から封止部材9内をZ方向上側へ移動する。つまり半導体素子5の高温動作により水分が気化して発生したガスGsは、盛んに封止部材9の上方へ移動して封止部材9の外部に排出される。
一方、封止部材9が冷えた領域Lにおいては、封止部材9のガス拡散速度が小さく、半導体素子5の高温動作により水分が気化して発生したガスGsは封止部材9内を移動してその外部に排出されにくい。このことから図5(B)に示すように、封止部材9の低温領域21においては、特に封止部材9と基板3との界面などに気泡25が発生しやすくなる。
そこで図5(A),(B)と同様に図1(A)中の点線L2から図の左側向きに見た透視図(側面図)である図6(A),(B)を参照して、本実施の形態(図1)に示すように、ケース1内の封止部材9が、その一部の領域(具体的には低温領域21:第2領域9bb)において、他の領域(第1領域9aa)よりもZ方向の厚みが1mm以上薄くなるように形成される。
これにより、ケース1内の半導体素子5の動作時に生じる熱による昇温が起こりにくい低温領域21においては、封止部材9が他の領域よりも薄いために、他の領域よりも気泡25がZ方向に移動すべき距離が短くなる。このため、図6(B)中に太い矢印で示すように、低温領域21においても加熱による気泡25は速やかに封止部材9の外部に排出される。したがって低温領域21においても気泡25が上記界面の近傍に滞留することによる基板3などの沿面絶縁耐圧の低下を抑制することができ、パワー半導体装置の信頼性を高めることができる。
一方、第1領域9aaにおいては、第2領域9bbよりも1mm以上厚い封止部材9が形成されることにより、半導体装置を外部から保護する機能などをより確実にすることができ、半導体素子5と電極部材7およびワイヤ17などとの間の絶縁性を確実にすることができる。
第1領域9aaと第2領域9bbとの段差が大きいほど、第2領域9bbは基本的により薄くなるため、上記の効果が大きくなる。
本実施の形態においては、半導体素子5の駆動により発生する熱を利用して封止部材9を温めるため、たとえば外部から封止部材9を加熱するための電力等を供給する必要がない。このため低コストで高効率に封止部材9を温め、気泡25の滞留による不具合の発生を抑制することができる。
本実施の形態においては、封止部材9が薄い第2領域9bbは、半導体素子5および電極部材7と平面視において重なる領域以外の領域に設けられている。半導体素子5および電極部材7と重なる領域は、これらの発熱により封止部材9が温まりやすいが、それ以外の領域においては半導体素子5などから発生する熱が伝わりにくい。このため、その熱が伝わりにくい領域の封止部材9を薄くすることにより、上記のように気泡25を排出させる効果を高めることができる。
また第2領域9bbを薄くすれば、当該領域を温めるのに必要な熱量が少なくなる分、当該領域が温まりやすくなる。このため、第2領域9bbの形成により、ガスGs(水蒸気)をより効率的に外部に排出させやすくすることができる。
また本実施の形態においては、透湿膜10により封止部材9が2つの厚みの異なる領域9aa,9bbに分かれるように形成される。これにより、たとえば後述する実施の形態2のように補助部材27を用いて封止部材9に2つの厚みの異なる領域を形成する場合に比べて、封止部材9による封止工程が簡便になる。これは補助部材27のように封止工程の完了後に除去する必要がなく、最終製品においても残存させ得るためである。
本実施の形態のパワー半導体装置において、表面電極3cの表面の(Z方向に関する)高さと、第2領域9bbにおける基板3の一方の主表面と同じ側(Z方向上側)の表面(第2封止部材最上面9bであり透湿膜10が載置される位置に相当)の(Z方向に関する)高さとの差は25mm以下であることが好ましい。これにより、第2領域9bbにおける封止部材9のZ方向の厚みが、ガスGsの排出効果を高めるために十分な薄さとなるため、ガスGsの排出効果がいっそう高められる。なおこのときの、表面電極3cの表面の(Z方向に関する)高さと、第1封止部材最上面9aとのZ方向に関する高さの差は25mmを超えるものであるとし、通常は28mm以上である。
さらに、本実施の形態のパワー半導体装置においては、その駆動時において、半導体素子5(チップ)の動作時における(Z方向上側の)表面の温度と、封止部材9における基板3の一方の主表面と同じ側(Z方向上側)の表面(すなわち第1封止部材最上面9aまたは第2封止部材最上面9b)の温度の最小値との差が120℃以下であることが好ましい。つまり図1(B)を再度参照して、半導体素子5の(微細な素子が多数実装された)Z方向上側の表面の温度T1と、封止部材最上面9a,9bの温度の最小値T2(T1>T2)との差が120℃以下である。このようにすれば、封止部材9の全体が比較的温まっていると言えるために気泡25が排出しやすくなっており、パワー半導体装置の信頼性を高めることができる。なお、これらの特徴については後に実施例として詳述する。
なお上記のパワー半導体装置は、ベース板15および、その上の絶縁基板3aを含む基板3により形成された、いわゆるケース型パワー半導体装置である。しかしこれに限らず、たとえばベース板15に有機絶縁膜を介在して金属性の基板が載置された構成のいわゆるケース型パワーモジュール構造についても、上記の本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
(実施の形態2)
図7(A),(B),(C)は本実施の形態2のパワー半導体装置を、それぞれ実施の形態1の図1(A),(B),(C)と同じように(同じ場所で、かつ同じ方向から)見た態様を示している。図7(A),(B),(C)を参照して、本実施の形態のパワー半導体装置は、基本的に図1の実施の形態1のパワー半導体装置と同様の構成を有しているが、透湿膜10およびガイド部材11が設置されることなく、互いに厚みが1mm以上異なる第1領域9aaおよび第2領域9bbが形成されている。この点において図7は図1と異なっているが、これ以外の本実施の形態(図7)の構成は、実施の形態1(図1)の構成とほぼ同じであるため同一の要素については同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
次に、図8を用いて、本実施の形態のパワー半導体装置の製造方法について説明する。
図8(A)を参照して、たとえば図3(A)と同様に、底部にベース板15が接着されたケース1が準備され、そのベース板15の上面上(ケース1内)に基板3、半導体素子5、電極部材7などの各部材が載置される。
次に、たとえばケース1内のY方向に関する縁部の近くなど、封止部材9の薄い第2領域9bbを形成したい領域に、補助部材27が設置される。補助部材27は、たとえばテフロンにより形成された直方体状の部材であることが好ましく、その表面に離型剤が塗布されていてもよい。補助部材27は、第2領域9bbを形成しようとする領域の、第2封止部材最上面9bとなる領域の真上の空隙14が配置される領域に設置される。その状態で、図3(B)と同様に、封止部材9を形成するためのゲル20が供給される。
このときゲル20は、第2領域9bbとなるべき領域においてはZ方向に関して補助部材27最下部の高さに達したところでその供給がストップする。これに対して第1領域9aaとなるべき領域においては補助部材27が配置されないため、補助部材27のZ方向最下部よりもZ方向上方にまで達するように高く供給される。このため補助部材27の配置される領域(第2領域9bbとなるべき領域)において、補助部材27の配置されない領域(第1領域9aaとなるべき領域)に比べてその最上面が低くなるように(段差ができるように)ゲル20が供給される。
図8(B)を参照して、その後、補助部材27が設置されたままの状態で、当該ゲル20は13.3Paの真空状態下で10分間二次脱泡され、70℃で1時間加熱硬化されることにより封止部材9となる。図8(C)を参照して、硬化後に補助部材27が取り外される。図8(D)を参照して、図3(C)と同様にフタ13が取り付けられることにより、封止部材9がケース1内に密閉され、パワー半導体装置が完成する。
なお、図7および図8の各図においては、封止部材最上面9a,9bが平面状に形成されているが、これに限らず、たとえば封止部材最上面9a,9bは曲面状であってもよい。また図7および図8の各図においては互いにZ方向の高さが異なる2つの封止部材最上面9a,9bが形成されるが、これに限らず、たとえば3つ以上の互いにZ方向の高さが異なる封止部材最上面(すなわち3つ以上の互いに厚みの異なる封止部材9の各領域)が形成されてもよい。要はパワー半導体装置の動作時に、封止部材9の温まりにくい領域を薄く形成するなどすることにより減らすことができれば、封止部材9の最上面の態様は不問である。
本実施の形態のように透湿膜10およびガイド部材11を用いることなく、最終の製品においては除去される補助部材27を用いて第1および第2領域9aa,9bbが形成される場合においても、実施の形態1の場合と同様に、第2領域9bbにおいて気泡25を速やかに封止部材9の外部に排出させることができる。したがって低温領域21においても気泡25が上記界面の近傍に滞留することによる基板3などの沿面絶縁耐圧の低下を抑制することができ、パワー半導体装置の信頼性を高めることができる。その他の本実施の形態の作用効果についても、基本的に実施の形態1と同様である。
(実施の形態3)
図9(A)は図7(A)と同様の平面図であり、図9(B)は図9(A)中の点線L3から図の上側向きに見た透視図である。また図9(C)は図9(A)中の点線L4から図の左側向きに、図9(D)は図9(A)中の点線L5から図の右側向きに見た透視図である。
図9(A),(B),(C),(D)を参照して、本実施の形態のパワー半導体装置の基本構成は図7の実施の形態2のパワー半導体装置と同様である。しかし本実施の形態においては、ケース1が大型になっており、ケース1内に収納される基板3および半導体素子5の数が実施の形態1に比べて増えている。
具体的には、図9においては1つの大きなケース1の内部の収納スペースに、互いに間隔をあけて複数(たとえばここでは合計8つ)の基板3が配置されている。つまりX方向に4列、Y方向に2列の基板3が行列状に並んでおり、図9(A)のY方向上段の4つの基板3は左側から順に基板31、基板32、基板33、基板34となっており、図9(A)のY方向下段の4つの基板3は左側から順に基板35、基板36、基板37、基板38となっている。
図9(B),(C),(D)に示すように、基板31〜38は、基板3と同様に、絶縁基板31a〜38aと、そのZ方向下側の主表面上の裏面電極31b〜38bと、絶縁基板31a〜38aのZ方向上側の主表面上の表面電極31c〜38cとにより構成されている。
なお基板31〜38のそれぞれは、実施の形態1などの基板3と同様に、たとえば4つの半導体素子5が搭載され、ワイヤ17を用いた電気的接続がなされている。これらの基板31〜38のすべての裏面電極31b〜38bと互いに接するように、単一の大型のベース板15が接合されることにより、大型のケース1を含むパワー半導体装置が構成されている。
図9(A)などに示すように、ケース1内の領域の比較的外側の領域の一部に複数(ここでは6つ)のガイド部材11が互いに間隔をあけて配置されている。これにより、ケース1の壁面とガイド部材11とに囲まれた複数(ここでは6つ)の領域内は、他の領域9aaに比べて封止部材9の最上面9bが(たとえば1mm以上)低い第2領域9bbとなっている。
このような構成は、ガイド部材11を有しているものの、実施の形態2の図8に示す工程と同様の工程により形成される。すなわち図8(A)と同様に最終的に除去する補助部材27が、ガイド部材11とケース1とに囲まれた領域に宛がわれた状態で、封止部材9を形成するためのゲル20が供給されることにより、ガイド部材11とケース1とに囲まれた領域において、他の領域よりもZ方向の厚みが薄い第2領域9bbが形成される。
このようにガイド部材11と補助部材27(図8(A)参照)とを併用すれば、補助部材27を用いてガイド部材11を形成すべき位置を高精度に合わせることができるため、封止部材9の第2領域9bbの範囲の製造ばらつきを抑制することができる。しかし本実施の形態においても、たとえば実施の形態1と同様に、ガイド部材11とケース1とに囲まれた領域に最終的に製品に残る透湿膜10を設置した状態でゲル20が供給されてもよいし、たとえば実施の形態2と同様に、ガイド部材11および透湿膜10を用いずに2つの領域9aa,9bbが形成されてもよい。
図9においては、単一のソース電極7aおよびドレイン電極7bが、各基板31〜38(の表面電極3c)と接続されている。そしてソース電極7aはそれに接続されるたとえば3つのソース端子7a1,7a2,7a3により、当該パワー半導体装置の外部と導電可能となっている。同様に、ドレイン電極7bはそれに接続されるたとえば3つのドレイン端子7b1,7b2,7b3により、当該パワー半導体装置の外部と導電可能となっている。ソース端子7a1,7a2,7a3およびドレイン端子7b1,7b2,7b3は、ケース1外に露出するように配置されている。一方、ゲート電極7cについては基板31〜38のそれぞれに対して1本ずつ、ケース1外に露出するようにZ方向上部に延びるように接続、配置されている。
以上の点において図9は図7と異なっているが、これ以外の本実施の形態(図9)の構成は、実施の形態2(図7)の構成とほぼ同じであるため同一の要素については同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
大電流が流れるインバータを駆動させるための、たとえば電車向けパワーモジュールにおいては、本実施の形態のように大きなパワー半導体装置(大きなケース1を有するパッケージ)を用いる場合がある。この場合、封止部材9内の温度分布のばらつきが、実施の形態1などよりもさらに大きくなり、図4および図5の低温領域21のようなガスの拡散が困難な領域が拡大する可能性がある。このため、本実施の形態のように大型のパワー半導体装置に対して2つの厚みの異なる領域9aa,9bbを有する封止部材9を形成すれば、2つの厚みの異なる領域9aa,9bbが存在しない場合に比べていっそう大きな作用効果を得ることができる。
本実施の形態においても、他の実施の形態と同様に、表面電極3cの表面の(Z方向に関する)高さと、第2封止部材最上面9bの高さとの差は25mm以下であることが好ましい。また本実施の形態においても、半導体素子5の上側の表面の温度T1と、封止部材最上面9a,9bの最小温度T2との差が120℃以下であることが好ましい。
なお図9(B)においては、その左側の第2領域9bbと右側の第2領域9bbとの封止部材9の厚みが互いに異なっており、右側の第2領域9bbの方が厚くなっている(右側の第2領域9bbの最上面9bの方が、左側の第2領域9bbの最上面9bよりもZ方向上方に配置されている)。このように封止部材9は、互いに厚みの異なる複数の第2領域9bbを有していてもよい。たとえば特に封止部材9の温度が上がりにくい領域において、他の第2領域9bbよりも特に薄い第2領域9bbを形成するなどすることにより、本実施の形態の作用効果をいっそう高めることができる。
本実施例においては、特に実施の形態2に示すような小型のパワー半導体装置であり、かつ補助部材27を用いて(透湿膜10およびガイド部材11を用いずに)封止部材9に2つの領域9aa,9bbが形成されている。このようなパワー半導体装置を駆動させたときの封止部材9内の熱拡散、および沿面絶縁耐性(パワー半導体装置の信頼性)を調べている。まず図10(A)〜(C)を用いて、本実施例の調査に用いたサンプルについて説明する。
図10(A)〜(C)を参照して、これらはそれぞれ調査用のパワー半導体装置のサンプル1,2〜4,5に相当する。具体的には、サンプル1は、図10(A)に示す図4(A)の比較例のパワー半導体装置に相当し、封止部材9が厚みの異なる2つの領域9aa,9bbを有さずその全体がほぼ均一な厚みを有する構成である。サンプル1の表面電極3cのZ方向上側の表面と、封止部材9のZ方向に関する最上面9aとのZ方向に関する高さの差Xが28mmとなっている。
サンプル2は、図10(B)に示す図1(A),(C)の実施の形態1のパワー半導体装置に相当し、透湿膜10およびガイド部材11を有することにより封止部材9に厚みの異なる2つの領域が形成されている。なお透湿膜10はケース1の形成後に後付けで設置されており、そのZ方向の厚みが1.7mmである。そして表面電極3cのZ方向上側の表面と、厚みの薄い第2領域9bbの最上面9bとのZ方向に関する高さの差Xが27mmとなっている。
またサンプル3は、サンプル2と同様に図10(B)に示す図1(A),(C)の実施の形態1のパワー半導体装置に相当するが、上記高さの差Xが25mmとなっている。またサンプル4は、サンプル2と同様に図10(B)に示す図1(A)の実施の形態1のパワー半導体装置に相当するが、上記高さの差Xが20mmとなっている。
サンプル5は、図10(C)に示す図7(A),(C)の実施の形態2のパワー半導体装置に相当し、透湿膜10およびガイド部材11を有さずに封止部材9に厚みの異なる2つの領域が形成されている。そして表面電極3cのZ方向上側の表面と、厚みの薄い第2領域9bbの最上面9bとのZ方向に関する高さの差Xが25mmとなっている。
各サンプル1〜5の基板3は、絶縁基板3aが窒化珪素(Si3N4)により、裏面および表面電極3b,3cが銅のパターンとして形成された。表面電極3cに接するように接合される半導体素子5(チップ)は炭化珪素(SiC)により形成されており、その表面上にはMOSFETおよびショットキーバリアダイオードが多数実装された。また裏面電極3bに接するように接合されるベース板15は、アルミニウム炭化珪素により形成された。また電極部材7は超音波接合により表面電極3c上に接続された。ワイヤ17は超音波接合により表面電極3c上および半導体素子5上などに接続された。
ベース板15の平面視における周囲を囲むように形成されたポリフェニレンサルファイド製のケース1が、ベース板15に接着されることにより、基板3および半導体素子5などがケース1内に配置された態様となった。なおベース板15とケース1との接着は、シリコーン系の接着剤によりなされた。ここへ上記の図3または図8に示す方法で、特にサンプル2〜5については厚みの異なる2つの領域が形成されるように、封止部材9が供給され、これにより基板3および半導体素子5などがケース1内にて封止された。
本実施例において封止部材9としての封止樹脂としてはベースポリマー(重量平均分子量38700)が用いられ、これに白金とジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯体(本組成物中の白金金属が重量単位で5ppmとなる量)を均一に混合してシリコーンゲル組成物を調製したものが用いられた。このシリコーンゲル組成物が真空脱泡された後に、当該シリコーンゲル組成物を、上記のベース板15とケース1とが接着された中間段階のパワー半導体装置に流し込み、70℃で60分間加熱した。
なお、このシリコーンゲルの針入度は40、tanδ(0.1Hz)は0.30であった。ここでのtanδとは損失係数と呼ばれ、レオメータにより測定できる値である。この値が小さいほど衝撃吸収性に優れることを意味している。また封止部材9の厚みの異なる2つの領域のうち厚い方の領域の封止部材最上面9aの、表面電極3cの最上面に対するZ方向の高さは28mmとした。
以上の中間段階のパワー半導体装置にフタ13を取り付けることにより、パワー半導体装置のサンプル1〜5が形成され、当該サンプル1〜5に対して信頼性試験がなされた。次に、当該信頼性試験の手法について説明する。
パワー半導体装置の信頼性試験は、サンプル1〜5を恒温恒湿槽に投入した後、パワーサイクル試験を実施し、その後のサンプル1〜5の絶縁耐性を評価することにより行なわれた。恒温恒湿槽内においては85℃85%の温湿度条件下に16時間、パワー半導体装置を投入し、その後85℃60分で結露水を乾燥除去する。結露水を除去後、室温までパワー半導体装置を冷却し、パワーサイクル試験を実施した。パワーサイクル試験中の規定回数おきに基板3とベース板15との間に8000Vの高電圧を印加し、絶縁耐性を測定した。パワーサイクル試験は300kサイクルまで実施し、上記の高電圧の印加時に絶縁耐性の劣化に起因する沿面の絶縁破壊の有無を確認することによって、サンプル1〜5の信頼性を確認した。
図10(D)を参照して、封止部材9の温度は、図10(D)に示すX座標が1〜4の4点のいずれかであり、かつY座標が1〜3の3点のいずれかである合計12点(12か所)における封止部材最上面9aまたは封止部材最上面9bの温度として、熱電対を用いて測定した。互いに隣り合うX座標1,2,3,4の間隔、および互いに隣り合うY座標1,2,3の間隔は25mmとなっている。以下においては、封止部材9の最上面の温度を測定する点のうち、たとえばX座標が1、Y座標が2の点を(1,2)と表記することにする。
また、連続動作時温度(Tj(op))の測定は、MOSFETの温度センサを用いて実施した。定格の6500Vでモジュールを動作させ、このときの半導体素子5の表面温度(チップ温度)を測定し、定格動作時のチップ温度(TOPmax)が175℃を超えないように動作制御した。またこのように高電圧の6500Vでモジュールを動作させたときの封止部材9の各点の温度を調べた。したがって基本的に、封止部材最上面9a,9bの温度を測定する時点における半導体素子5の表面の温度は175℃であり、この温度と封止部材最上面9aまたは封止部材最上面9bの各点(12点)の温度との差を調べた。その結果を以下の表1に示す。
表1における「熱電対温度」は封止部材最上面9a(または封止部材最上面9b)の各点(12点)の温度を熱電対で測定した値を示しており、「チップとの温度差」は上記封止部材最上面9a,9bの各点(12点)の温度と半導体素子5の表面(175℃)との温度差を示している。また表中の下線は、各サンプルにて計測された最低温度を示している。
表1を参照して、比較例(図4)に相当する、封止部材9に厚みの異なる2つの領域を設けず均一の厚みとするサンプル1においては(4,3)における温度が47℃となり、チップとの温度差が128℃となった。またパワーサイクル試験を120kサイクル行なった時点で、ちょうど(4,3)の位置のZ方向真下の基板3の部分に気泡の発生および絶縁破壊痕を確認した。
サンプル1のパワー半導体装置は、半導体素子5の加熱によりその周囲の水分が気化するが、封止部材9の温度が上がっていない(4,3)の位置においてこの気化速度よりも周囲のシリコーンゲルの拡散速度が小さいために気泡が発生していると考えられる。またその結果、その後の絶縁耐性評価の際に気泡の発生した部位において絶縁破壊を生じたものと考えられる。また、気泡の発生した部位はシリコーンゲルの表面温度が低いことから、この領域のシリコーンゲルの透湿度が他のエリアよりも特に低かったこともこの部分で気泡発生した要因であると思われる。
サンプル2は、透湿膜10により第2領域9bbが形成された例であるが、第2封止部材最上面9の表面電極3cからの高さXが27mmであり、第1封止部材最上面9aの表面電極3cからの高さが28mmであるため、これらの段差が1mmとなっている。この場合、サンプル1のように段差が設けられない場合に比べて絶縁破壊までのパワーサイクルのサイクル数が240kにまで増加し、チップとの温度差が124℃にまで減少しているため、一定の効果を有しているといえる。しかしこの場合においても、Xの値が大きいため(第2封止部材最上面9bの表面電極3cからの距離が大きいため)、(4,3)の位置における第2封止部材最上面9bの温度が十分に上昇せず(51℃)、当該位置の絶縁基板3aの部分に気泡25の発生および絶縁破壊痕を確認した。
一方、サンプル3,4については、サンプル2と同様に領域9aa,9bbを形成しているが、第2封止部材最上面9bの表面電極3cからの高さXをサンプル2(27mm)よりも短く(25mm以下)している。このようにすれば、所定のパワーサイクル回数を経た後でなお絶縁破壊が起きておらず、サンプル2よりも信頼性がいっそう向上している。またこのときのチップとの温度差はすべて120℃以下になっており、第2封止部材最上面9bの温度がサンプル2よりもさらに上昇したことから、低温領域21(図4参照)においても封止部材9内での気泡の拡散がいっそう進み、絶縁破壊が抑制されたものと考えられる。
このようにXを25mm以下にし、2つの領域9aa,9bb間の封止部材9の段差を3mm以上にすることにより、パワー半導体装置の駆動時に昇温してもその信頼性を確保できることが明らかとなった。また、封止部材9を構成するシリコーンゲルの表面温度とチップ温度との差が120℃以下であればパワー半導体装置の信頼性を確保できることも明らかとなった。
なお表1中に示されないが、少なくともXが25mm以下の場合、2つの領域9aa,9bb間の封止部材9の段差が1mm以上あれば、領域9bbを封止部材9の厚みが薄い領域としてその温度を高め、気泡の拡散を進めてパワー半導体装置の信頼性を高めることができる。
またサンプル5については、透湿膜10およびガイド部材11が設けられていないが、この場合においても、サンプル3と同様にXを25mmに(封止部材9の段差を3mmに)することにより、サンプル3と同様にその信頼性を確保できることが明らかとなった。またこの場合においても、封止部材9を構成するシリコーンゲルの表面温度とチップ温度との差が120℃以下であればパワー半導体装置の信頼性を確保できることも明らかとなった。
なお、サンプル4においてチップ温度との差が最も小さくなっているのは、Xが最も小さくなっているために、封止部材9の表面がより暖められやすかったためであると考えられる。
本実施の形態においては、特に実施の形態3に示すような1つのケース1内に複数(たとえば8つ)の基板3を有する大型のパワー半導体装置を駆動させた時の封止部材9内の熱拡散、および沿面絶縁耐性について調べている。まず図11〜12を用いて、本実施例の調査に用いたサンプルについて説明する。
図11(A)〜(D)を参照して、これは調査用のパワー半導体装置のサンプル6に相当する。図11(A)〜(D)は図9(A)〜(D)に示す実施の形態3のパワー半導体装置と基本的に同様の構成を有しているが、封止部材9が厚みの異なる2つの領域9aa,9bbを有さない点において図11は図9と異なっている。この意味で図11のサンプル6は実施の形態3に対する比較例のサンプルとなっている。これ以外の図11(A)〜(D)のサンプル6(比較例)の構成は、図9(A)〜(D)の実施の形態3の構成とほぼ同じであるため同一の要素については同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
図12(A)〜(D)を参照して、これは調査用のパワー半導体装置のサンプル7に相当する。図12(A)〜(D)は図9(A)〜(D)に示す実施の形態3のパワー半導体装置と基本的に同様の構成を有しており、図9と同様にガイド部材11を有し、かつ透湿膜10を有さない第2領域9bbが複数(ここでは6つ)配置されている。
ところで再度図11(A)および図12(A)を参照して、図11(A),図12(A)においては、電極部材7のソース電極7a、ドレイン電極7b、ゲート電極7cのいずれからの最短距離もが25mmを超える領域を、領域51として示している。
図12(A)において、ガイド部材11とケース1とに囲まれた第2領域9bbは、領域51と概ね重なる領域に形成されており、少なくとも第2領域9bbは領域51の一部と重なるように形成されている。なお図12(A)においては第2領域9bbは、その一部の領域が半導体素子5と平面視において重なっているが、(実施の形態1と異なり)このような構成となっていてもよい。
これらのサンプルを構成する各種部材の材質、各サンプルの製造方法、および信頼性試験の方法は、実施例1と同様であるため、その説明を繰り返さない。なお再度図11(A)を参照して、サンプル6,7のいずれについても、封止部材9の温度は、図11(A)に示すA,B,Cの3点における封止部材最上面9a,9bの温度として、熱電対を用いて測定した。
サンプル6,7に対してサンプル1〜5と同様の調査を行なった結果を以下の表2に示す。
表2を参照して、比較例(図11)に相当するサンプル6のパワー半導体装置は、点Bにおける温度が45℃となり、チップとの温度差が130℃となった。またパワーサイクル試験を60kサイクル行なった時点で絶縁破壊痕が確認された。
これに対してサンプル7のように封止部材9に厚みの異なる2つの領域9aa,9bbを設けることにより、チップとの温度差が小さくなり、かつ所定のパワーサイクル回数を経た後でなお絶縁破壊が起きなかった。本実施例においても、実施例1と同様の理論に基づき、封止部材9に厚みの異なる2つの領域9aa,9bbを形成することによりパワー半導体装置の信頼性を向上させることができた。
領域51はいずれの電極部材7からも離れた領域であり、封止部材9の低温領域21(図4、図5参照)になりやすい領域である。そこでこの領域に封止部材9の厚みの薄い第2領域9bbを設けることにより、領域51における気泡の移動すべき距離を短くすることができ、気泡の滞留の抑制等の作用効果を奏することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。