A.接着シートの全体構成
図1(a)は、本発明の1つの実施形態による接着シートの概略断面図である。図1(a)に示す接着シート100は、接着層10を備える。図1(a)に示すように、接着層10のみからなる接着シートは、両面接着シートとして機能し得る。
本発明の接着シートは、接着層の他、任意の適切な層をさらに備え得る。図1(b)は、本発明の別の実施形態による接着シートの概略断面図である。図1(b)に示す接着シート200は、接着層10の片面に基材層20をさらに備える。図1(b)に示すように、接着層10の一方の面が基材層20により覆われた接着シートは、片面接着シートとして機能し得る。図1(c)は、本発明のさらに別の実施形態による接着シートの概略断面図である。図1(c)に示す接着シート300は、基材層20の両面に接着層10を備える。接着シート300は、両面接着シートとして機能し得る。基材層を備える接着シートは、巻回した際のブロッキングが生じがたい点で好ましい。
本発明の接着シートは、任意の適切な形状であり得る。例えば、長さが10m〜3000m程度の長尺状であってもよく、任意の適切な形状に打ち抜かれたまたは切断された形状であってもよい。長尺状の接着シートは、ロール状に巻回され得る。
本発明の接着シートを適用することが可能な被着体としては、十分な平滑性を有する限り、任意の適切な材料から形成される被着体が用いられ得る。当該被着体の貼着面の表面粗さRmaxは、好ましくは100μm未満であり、より好ましくは80μm未満であり、さらに好ましくは0.01μm〜50μmである。
本発明の接着シートは、電子デバイス用の部材(例えば、基板)を仮固定する接着シートとして好適に用いられ得る。本発明の接着シートは、電子デバイスに用いられる部材を加工、処理、搬送等するプロセスにおいて所定の台座に仮固定するのに十分な接着性を有する。上記部材としては、例えば、シリコン製の部材、サファイヤ製の部材、炭化ケイ素製の部材、ガラス製(例えば、ソーダライム製、強化ガラス製)の部材、樹脂製(例えば、ポリイミド製、ポリカーボネート製、ポリーテルスルホン製)の部材、金属製(例えば、ステンレス製)の部材、ガラス繊維を含む部材、有機無機ハイブリッド材料から構成される部材(例えば、シルセスキオキサンとポリカーボネート等の熱可塑性樹脂とから構成される基板)等が挙げられる。上記台座としては、ガラス製(例えば、ソーダライム製、強化ガラス製)の台座、シリコン製の台座、サファイヤ製の台座、金属製(例えば、ステンレス製)の台座等が挙げられる。また、本発明の接着シートは、上記部材同士を貼着するために用いることもできる。
本発明の接着シートは、当該接着シート上に被着体(例えば、上記基板)を貼り付け、さらに、所定の圧力で圧着することにより、接着性が発現し得る。圧着時の圧力は、好ましくは2MPa以上であり、より好ましくは2MPa〜100MPaであり、さらに好ましくは2MPa〜30MPaである。
本発明の接着シートのガラス板に対する接着力は、好ましくは0.5N/19mm以上であり、より好ましくは0.8N/19mm以上であり、さらに好ましくは1N/19mm〜30N/19mmであり、特に好ましくは2N/19mm〜25N/19mmである。なお、本明細書において、ガラス板に対する接着力は、所定のサイズ(19mm×250mm)に切り出した接着シートの全面を、ガラス板に、15MPaの圧力で貼り付けて作製した評価サンプルを、剥離試験に供して測定される。当該剥離試験の条件は、測定環境温度23℃、測定環境相対湿度50%、剥離角度180°、剥離速度300mm/minである。また、上記ガラス板としては、表面粗さRmaxが30μm〜40μmのガラス板が用いられる。このようなガラス板としては、例えば、松浪ガラス社製の商品名「MICRO SLIDE GLASS S200423」(65mm×165mm、厚み1.1mm)が用いられ得る。
本発明の接着シートは、結晶化度80%以上のポリテトラフルオロエチレンから形成され、特定の表面元素組成を有する接着層を備えることにより、上記のような優れた接着力を発現し得る。このような接着力を有する接着シートは、接着層がポリテトラフルオロエチレンにより形成されて柔軟性に優れることとも相まって、厚みが薄く変形しやすい被着体(例えば、基板、台座)に対しても優れた接着性を有し、当該被着体の変形に追従して貼着状態を維持することができる。
本発明の接着シートは、昇温速度10℃/分で25℃から300℃まで加熱した際の重量減少率が、1重量%以下であることが好ましく、0.2重量%未満であることがより好ましい。当該加熱による重量減少率が小さいことは、高温下において接着シートから発生するガス(例えば、接着層成分が熱分解されて発生するガス)が少ないことを意味する。このような接着シートは、高温下での使用に好適であり、例えば、基板等の部材を固定して高温下で処理する場合に、本発明の接着シートを用いれば、装置の汚染を防止することができる。
B.接着層
上記接着層は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEともいう)を含む樹脂シートを表面改質して形成される。このようにして形成され、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂(PTFE系樹脂)を主成分として含む接着層は、耐熱性、耐薬品性等に優れる。また、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂を主成分として含む接着層は、アウトガスが少ない。このような接着層を備える本発明の接着シートは、高温下(例えば、250℃以上)に曝されたり、各種薬品(例えば、フッ酸、王酸等の酸性薬品、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒)に接するような環境下でも、接着性、クリーン性および形状を維持することができる。
上記樹脂層中の上記PTFE系樹脂の含有割合は、接着層中の樹脂の全重量に対して、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%〜100重量%である。1つの実施形態においては、上記接着層は、樹脂としてPTFE系樹脂のみを含む。
上記PTFEを含む樹脂シート中の上記PTFE系樹脂の結晶化度は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。このような範囲であれば、優れた接着力を有する接着シートを得ることができる。PTFEの結晶部分はポリエチレンやポリプロピレンなどの結晶とは異なり、分子鎖は剛直ではあるが分子間の相互作用が小さく、配向した分子鎖間が滑りやすい状態になっている。そのため、結晶化度が高いほどPTFEを被着体に接着させたとき、被着体のミクロな凹凸にPTFEが追従し、その結果、高い接着力を得ることができると推定される。上記PTFE系樹脂の結晶化度の上限は、好ましくは100%以下であり、より好ましくは99%以下であり、さらに好ましくは98%以下である。完全に結晶化されたPTFE系樹脂(結晶化度が100%のPTFE系樹脂)を得ることは困難であり、生産性を考慮すれば、結晶化度が99%以下のPTFE系樹脂を用いることが好ましい。なお、本明細書において、結晶化度は、高温示差走査熱量計を用いて測定された、PTFE系樹脂試料を0℃〜400℃まで昇温させた時の融解熱量(J/g)から求められる。すなわち、PTFE系樹脂の結晶化度(%)は、(測定したPTFE系樹脂試料の融解熱量(J/g)/結晶化度100%のPTFE系樹脂の融解熱量(J/g))×100の式により求められる。
上記接着層の片面または両面における表面元素組成は、0.6<フッ素原子/炭素原子<2.0であることが好ましく、0.7<フッ素原子/炭素原子<1.95であることがより好ましく、0.8<フッ素原子/炭素原子<1.7であることがさらに好ましく、1.0<フッ素原子/炭素原子<1.7であることが特に好ましい。このような範囲であれば、接着力の高い接着層を備える接着シートを得ることができる。「フッ素原子/炭素原子」が0.6以下の場合、表面改質する時に与えるエネルギーを大きくする必要があり、その場合、接着層が過度のダメージを受けて最表層のみが剥がれて十分な接着力が得られないおそれがある。
上記のような表面元素組成を有する接着層は、例えば、後述のようにしてPTFEを含む樹脂シートを形成し、さらに、当該樹脂シートを表面改質して得ることができる。表面改質を行い、PTFEを含む樹脂シートの表面におけるフッ素元素比を小さくすること(例えば、フッ素原子をフッ素原子以外の原子または親水性官能基等の置換基に変換すること)により、接着層の接着力が格段に向上する。なお、本明細書において、「フッ素原子/炭素原子」とは、X線光電子分光(ESCA)によって測定される、炭素原子に対するフッ素原子の組成比を意味する。
1つの実施形態においては、接着層表面におけるPTFE系樹脂は、表面改質を行うことにより、PTFEのフッ素原子が、水酸基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アミド基、シアノ基、4級アンモニウム塩基、イミダゾール基、ピリジル基、4級ピリジニウム塩基、スルホン酸塩基、ホスホニウム塩基等を有する親水性官能基と置き換わっており、その結果、「フッ素原子/炭素原子」が上記範囲となっている。
「0.6<フッ素原子/炭素原子<2.0」の表面元素組成を有する面において、酸素原子/炭素原子は、0.01〜0.16であることが好ましく、0.05〜0.1であることがより好ましい。また、窒素原子/炭素原子は、0.01〜0.3であることが好ましく、0.01〜0.05であることがより好ましい。なお、本明細書において、「酸素原子/炭素原子」、「窒素原子/炭素原子」とは、X線光電子分光(ESCA)によって測定される、炭素原子に対する酸素原子または窒素原子の組成比を意味する。
上記接着層は、PTFE系樹脂以外の樹脂をさらに含んでいてもよい。PTFE系樹脂以外の樹脂としても、フッ素系樹脂が好ましく用いられる。PTFE系樹脂以外のフッ素系樹脂としては、例えば、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)等の部分フッ素化樹脂;ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素化樹脂共重合体;含フッ素アクリル系樹脂;フッ素ゴム等が挙げられる。PTFE系樹脂以外の樹脂の含有割合は、接着層中の樹脂の全重量に対して、好ましくは20重量%未満であり、より好ましくは10重量%未満である。
1つの実施形態においては、上記接着層は、PTFEを含む樹脂シート(以下、PTFEシートともいう)を表面改質して形成される。すなわち、本発明の接着シートが、接着層と基材層とを備える場合、当該接着シートは、基材層上に、接着層としての表面改質されたPTFEシートを貼着して形成され得る。また、本発明の接着シートが接着層のみから構成される場合、当該接着シートは、表面改質されたPTFEシートとして形成される。上記PTFEシートおよび表面改質されたPTFEシートは、それ自体の特性として、接着性を有する。そのため、経時での接着力低下が生じ難く、また、貼着と剥離とを繰り返しても接着力が低下し難い。なお、以下、本明細書において、表面改質されたPTFEシートを、表面改質PTFEシートともいう。また、単にPTFEシートと言う場合、これは表面改質前のPTFEシートを意味する。
上記接着層(すなわち、表面改質PTFEシート)の厚みは、好ましくは0.03mm以上であり、より好ましくは0.03mm〜20mmであり、さらに好ましくは0.05mm〜10mmであり、特に好ましくは0.07mm〜2mmであり、最も好ましくは0.1mm〜1mmである。このような範囲であれば、コストを抑えて、厚みの均一性が高い接着層を形成することができる。また、接着層の厚みを調整することにより、接着層の接着力を制御することができる。接着層の接着力は、接着層の厚みが厚いほど高くなる傾向がある。
上記接着層(すなわち、表面改質PTFEシート)の25℃におけるナノインデンテーション法による弾性率は、好ましくは0.5MPa以下であり、より好ましくは0.2MPa以下であり、さらに好ましくは0.001MPa以上0.2MPa未満であり、特に好ましくは0.002MPa以上0.15MPa未満である。このような範囲であれば、電子デバイス用の部材を固定する接着シートとして適切な接着力を有する接着シートを得ることができる。ナノインデンテーション法による弾性率とは、直径10μmの球状圧子を、負荷速度100mm/sec、押し込み深さ1μmの条件にて試料に押し込み、60秒間保持し、その後、徐荷速度100mm/secで徐荷したときの、圧子への負荷荷重と押し込み深さとを負荷時、除荷時にわたり連続的に測定し、得られた負荷荷重−押し込み深さ曲線から求められる弾性率をいう。
上記接着層(すなわち、表面改質PTFEシート)は、昇温速度10℃/分で25℃から300℃まで加熱した際の重量減少率が、1重量%以下であることが好ましく、0.2重量%未満であることがより好ましい。当該加熱による重量減少率が小さいことは、高温下において接着層から発生するガス(例えば、接着層成分が熱分解されて発生するガス)が少ないことを意味する。このような接着層を備える接着シートは、高温下での使用に好適であり、例えば、基板を仮固定して高温下で処理する場合に、装置の汚染を防止することができる。
上記接着層(すなわち、表面改質PTFEシート)の純水接触角は、好ましくは90°〜140°であり、より好ましくは100°〜130°であり、さらに好ましくは100°〜120°である。このような範囲であれば、接着力に優れる接着シートを得ることができる。上記範囲の接触角を示す接着層は、例えば、接着層の表面元素組成を適切に調整することにより得ることができる。なお、純水接触角は、接着層の表面に蒸留水4μlを滴下して10秒後、該蒸留水の液滴と接着層表面との接触角を、接触角測定装置(例えば、dataphysics社製の商品名「Contact Angle System OCA30」)により測定した値を意味する。
上記接着層は、多孔質であってもよく、無孔質であってもよい。すなわち、上記PTFEシートは、多孔質であってもよく、無孔質であってもよい。多孔質PTFEシートを用いれば、被着体を貼り付ける際に接着層が容易に変形するため、低い圧力で被着体を圧着しても、十分な接着力を得ることができる。一方、無孔質PTFEシートを用いる場合、所定の接着力を得るために多孔質PTFEシートを用いた場合に要する圧力よりも高い圧力で圧着する必要があるが、圧着した後は、より高い接着力が維持される。
上記PTFEシートが多孔質である場合、当該PTFEシートの気孔率は、好ましくは25%〜90%であり、より好ましくは30%〜70%である。また、表面改質PTFEシートの気孔率もこのような範囲であることが好ましい。気孔率が25%未満の場合、被着体を貼り付ける際に表面改質PTFEシートが変形し難くなり、十分な接着力を得ることができないおそれがある。気孔率が90%を超える場合、被着体を貼り付ける際の条件(例えば、プレスして圧着したときの厚み)を制御することが難しくなるおそれがある。なお、気孔率(%)は、{1−PTFEシート(または表面改質PTFEシート)の見かけ密度/PTFEシート(または表面改質PTFEシート)の真密度}×100の式から求めることができる。PTFEシートがPTFEのみから形成される場合、PTFEシートの真密度は2.18g/cm3である。
上記PTFEシートの製造方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。上記PTFEシートは、例えば、PTFEパウダーと液状潤滑剤とを含むペースト状の混和物を得、当該混和物を予備成形し、予備成形体をさらに押し出し成形し、当該押し出し成形体を加熱して得ることができる。当該加熱の前に、押し出し成形体を圧延してもよい。また、PTFEシートは、所定の延伸工程を経て、多孔質化されていてもよい。
上記PTFEパウダーの形態としては、ファインパウダー、モールディングパウダー、ディスパージョン等が挙げられる。好ましくは、PTFEパウダーとして、ファインパウダーが用いられる。ファインパウダーを用いれば、成形性よく、高結晶化度のPTFEシートを得ることができる。ファインパウダーとは、乳化重合法で得られたPTFEの水性分散液から、PTFEを凝集、分離、乾燥して得られる粉末を意味する。ファインパウダーの粒径は、例えば、100μm〜1000μmである。
上記液状潤滑剤としては、PTFEパウダー(例えば、PTFEファインパウダー)の表面を濡らすことができ、抽出や加熱により除去できるものであれば特に制限されず、任意の適切な液体を用いることができる。液状潤滑剤としては、例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイル等の炭化水素系溶剤が用いられる。上記液状潤滑剤の添加量は、PTFEパウダー100重量部に対して、好ましくは5重量部〜50重量部である。当該範囲内で液状潤滑剤の添加量が多いほど、接着力の高いPTFEシートを得ることができる。
上記ペースト状の混和物は、上述したPTFE以外の樹脂をさらに含んでいてもよい。
上記ペースト状の混和物を得た後、当該混和物を予備成形する。予備成形は、所定の圧力をかけて当該混和物を押し固めて成形される。予備成形時の圧力は、液状潤滑剤が絞り出されない程度の圧力であることが好ましい。予備成形により得られた予備成形体の形状は、例えば、棒状である。
上記予備成形体を、さらに押し出し成形して押し出し成形体を得る。押し出し成形体の形状は、例えば、長尺テープ状である。押し出し成形体の厚みは、所望とするPTFEシートの厚み、後工程としての延伸工程の有無等に応じて、調整され得る。押し出し成形体の厚みは、例えば、0.5mm〜4mmである。押し出し成形においては、例えば、50℃〜80℃の温度で加熱しながら、上記予備成形体を押し出すことが好ましい。加熱しながら押し出すことにより、接着力の高いPTFEシートを得ることができる。
所望とするPTFEシートの厚み、後工程としての延伸工程の有無等に応じて、上記押し出し成形体を圧延してもよい。圧延は、例えば、所定のギャップで配置された一対のロール間に押し出し成形体を通過させて行うことができる。圧延後の押し出し成形体の厚みは、圧延前の押し出し成形体の厚みに対して、好ましくは5%〜80%であり、より好ましくは10%〜60%である。
上記のようにして形成された押し出し成形体を加熱する。当該加熱により、液状潤滑剤が除去される。当該加熱の方法としては、例えば、所定の加熱温度に昇温したロール上で加熱する方法、所定の加熱温度に昇温した雰囲気内で加熱する方法等が挙げられる。好ましくは、当該加熱の後、任意の適切な条件で冷却する。1つの実施形態においては、当該加熱・冷却により得られた乾燥成形体が、PTFEシートとなる。この実施形態(すなわち、延伸工程を含まない実施形態)においては、無孔質PTFEシートを得ることができる。
押し出し成形体を加熱する際の加熱温度は、PTFEの融点以下であることが好ましい。具体的には、当該加熱温度は、340℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、25℃〜280℃であることがさらに好ましく、80℃〜250℃であることが特に好ましく、100℃〜200℃であることが最も好ましい。このような範囲であれば、結晶化度が高いPTFEを含むPTFEシート、具体的には結晶化度が80%以上のPTFEを含むPTFEシートを得ることができる。押し出し成形体の加熱は、加熱温度を段階的に昇温または降温させて行ってもよい。加熱時間は、押し出し成形体の厚み、押し出し成形体中の液状潤滑剤の量等に応じて、適切に設定され得る。加熱時間は、例えば、1秒〜10分である。
1つの実施形態においては、上記PTFEシートは、上記押し出し成形体、または、押し出し成形体を加熱して得られた乾燥成形体を延伸させて得られ得る。延伸工程を経れば、多孔質PTFEシートを得ることができる。
上記延伸工程における延伸は、一軸延伸であってもよく、二軸延伸であってもよい。延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。
一軸延伸を行う場合の延伸方法としては、例えば、ロール延伸機を用いて長手方向(MD)に延伸する方法、テンター延伸機を用いて幅方向(TD)に延伸する方法を用いた方法等が挙げられる。一軸延伸を行う場合、延伸倍率は、好ましくは2倍〜15倍であり、より好ましくは5倍〜10倍である。このような範囲であれば、延伸ムラまたは破断を防止して、安定的に、厚み等の特性が均一なPTFEシートを得ることができる。延伸温度は、PTFEの融点以下であることが好ましい。具体的には、延伸温度は、340℃以下であることが好ましく、240℃〜300℃であることがより好ましく、270℃〜290℃であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、結晶化度が高いPTFEを含むPTFEシート、具体的には結晶化度が80%以上のPTFEを含むPTFEシートを得ることができる。
二軸延伸を行う場合の延伸方法としては、例えば、MD延伸した一軸延伸シートをさらにTD延伸する方法、二軸延伸機を用いる方法等が挙げられる。二軸延伸を行う場合、面積延伸倍率(MD延伸倍率とTD延伸倍率との積)は、好ましくは50倍〜900倍であり、より好ましくは100倍〜300倍である。二軸延伸を行う場合においても、延伸温度は、340℃以下であることが好ましく、240℃〜300℃であることがより好ましく、270℃〜290℃であることがさらに好ましい。
延伸工程の後、任意の適切な条件でPTFEシートを冷却することが好ましい。
上記のように、PTFEシートは、PTFEの融点(340℃)以上の熱履歴を経ずに製造されることが好ましい。PTFEの融点以上の熱履歴を経ずに製造することにより、結晶化度の高いPTFEシートを得ることができる。より詳細には、PTFEの融点以上の熱履歴を経ずに製造することにより、原料としてのPTFEパウダーの結晶化度を低下させることなく、結晶化度の高いPTFEシートを得ることができる。PTFEシートを構成するPTFEの結晶化度は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。当該結晶化度の上限は、例えば、99%である。
上記接着層は、任意の適切な添加剤をさらに含み得る。添加剤の具体例としては、ガラスビーズ、バルーン、フィラー、顔料等が挙げられる。これらの添加剤は、例えば、PTFEパウダー(例えば、ファインパウダー)と混合し、その後、成形することにより添加され得る。添加剤の含有割合は、接着層の重量に対して、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下であり、さらに好ましくは30重量%以下であり、特に好ましくは20重量%以下である。また、上記接着層は、上記液状潤滑剤が残存していてもよい。接着層中の液状潤滑剤の含有割合は、接着層の重量に対して、例えば、0.01重量%〜5重量%である。
上記のとおり、接着層は、上記PTFEシートに、任意の適切な表面改質を行うことにより、形成され得る。表面改質を行い、PTFEシートの表面におけるフッ素元素比を小さくすること(例えば、フッ素原子を、フッ素原子以外の原子または親水性官能基等の置換基に変換すること)により、接着層の接着力が格段に向上する。当該表面改質は、PTFEシートの両面に施してもよく、片面に施してもよい。当該表面改質は、少なくとも、接着層としたときに貼着面となる面に施すことが好ましい。なお、多孔質の表面改質PTFEシートを得る場合、上記延伸の前に表面改質を行ってもよく、延伸の後に表面改質を行ってもよい。
上記表面改質方法としては、例えば、放射線グラフト重合法、化学開始剤グラフト重合法、光開始グラフト重合法等のグラフト重合法;プラズマ処理、コロナ処理、UV処理、UVオゾン処理等の表面処理;プラズマ重合法等の薄膜重合法;重クロム酸カリウム溶液、過マンガン酸カリウム溶液等による酸化処理;ナトリウム処理液等による化学的なエッチング処理;親水性ポリマー、界面活性剤等によるコーティング処理等が挙げられる。中でも好ましくは、グラフト重合法、表面処理または薄膜重合法であり、より好ましくはプラズマ処理、プラズマ重合法または放射線グラフト重合法である。
上記プラズマ処理は、例えば、PTFEシートをプラズマ装置内にセットし、所定のガスでプラズマ照射することにより行われ得る。プラズマ処理の条件は、本発明の効果が得られる限りにおいて、任意の適切な条件に設定され得る。上記プラズマ処理は、大気圧下で行われるプラズマ処理であってもよく、減圧下で行われるプラズマ処理であってもよい。プラズマ処理時の圧力(真空度)は、例えば0.05Pa〜200Paであり、好ましくは0.5Pa〜100Paである。プラズマ処理に用いる高周波電源の周波数は、例えば1MHz〜100MHzであり、好ましくは5MHz〜50MHzである。プラズマ処理時のエネルギー量は、好ましくは0.1J/cm2〜100J/cm2であり、より好ましくは1J/cm2〜20J/cm2である。プラズマ処理時間は、好ましくは1秒〜5分であり、より好ましくは5秒〜3分である。プラズマ処理時のガス供給量は、好ましくは1sccm〜150sccmであり、より好ましくは10sccm〜100sccmである。
上記プラズマ処理に用いる反応ガスとしては、例えば、水蒸気、空気、酸素、窒素、水素、アンモニア、アルコール(例えば、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール)等のガスが挙げられる。このような反応ガスを用いれば、接着性に優れる接着シートを得ることができる。また、反応ガスと併用して、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガスが用いられ得る。
上記プラズマ重合法は、例えば、PTFEシートをプラズマ装置内にセットし、プラズマ化した反応性モノマーを当該PTFEシートに接触させて行われ得る。プラズマ重合法における諸条件は、上記プラズマ処理と同様であり得る。上記反応性モノマーとしては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸等が挙げられる。このような反応性モノマーを用いれば、接着性に優れる接着シートを得ることができる。
1つの実施形態においては、上記放射線グラフト重合により、上記PTFEシートを親水化する。上記放射線グラフト重合法としては、例えば、上記PTFEシートに放射線を照射し、フッ素原子を解離させてフリーラジカルを発生させ、その後、親水性官能基を有するモノマーおよび/または親水性官能基を導入し得るモノマーを含むモノマー組成物を接触させ、当該フリーラジカルを起点としてグラフト重合させる方法(前照射法);PTFEシートと上記モノマー組成物とを共存させた状態に放射線を照射してグラフト重合させる方法(同時照射法)等が挙げられる。なお、グラフト重合反応させた後、親水性官能基を有する表面改質PTFEシートを、トルエン、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトン等の有機溶媒または水で洗浄し、その後、乾燥することが好ましい。
上記前照射法としては、不活性ガス中で放射線を照射し重合するポリマーラジカル法を用いてもよく、酸素存在下で放射線を照射し重合するパーオキサイド法を用いてもよい。好ましくは、ポリマーラジカル法である。ポリマーラジカル法を用いれば、モノマーがグラフト重合されずにポリマー化することを抑制することができる。上記放射線としては、例えば、α線、β線、γ線、電子線、紫外線などが挙げられる。好ましくは、γ線または電子線である。
上記放射線グラフト重合法における放射線照射線量は、通常1kGy〜120kGy(キログレイ:1グレイは1J/kgエネルギー吸収に相当する)であり、好ましくは5kGy〜100kGyである。照射線量が1kGyより少ないとグラフト重合に十分な数のフリーラジカルが生成されないおそれがある。また、照射線量が120kGyより多いとPTFEの劣化が進むおそれがある。
上記モノマー組成物は、有機溶媒を含む均一系溶液であってもよく、水溶性溶媒(例えば、水)を含むエマルジョン溶液であってもよい。上記有機溶媒としては、モノマー(親水性官能基を有するモノマーまたは親水性官能基を導入し得るモノマーを含むモノマー)を溶解することができ、かつ、PTFEシートに浸透し得る溶媒であれば、任意の適切な溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、好ましくは炭素数が1〜6の低級アルコール、より好ましくは炭素数が1〜4の低級アルコール、さらに好ましくはエタノールまたはメタノールが挙げられる。また、有機溶剤として、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサンまたはトルエンを用いてもよい。好ましくは、上記モノマー組成物は、減圧脱気、窒素などの不活性ガスによるバブリングを行い、脱酸素される。
上記モノマー組成物における、モノマー(親水性官能基を有するモノマーおよび親水性官能基を導入し得るモノマーを含むモノマー)の濃度は、好ましくは0.1重量%〜100重量%であり、より好ましくは5重量%〜70重量%である。当該モノマーの濃度が0.1重量%未満の場合、グラフト重合反応が十分に進行しないおそれがある。
上記親水性官能基を有するモノマーとしては、例えば、親水性官能基を有するビニル系化合物が挙げられ、下記一般式(1)で表されるビニル系化合物が好ましく用いられ得る。
H2C=C(X)R1 ・・・(1)
Xは水素原子、または直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表す。Xがアルキル基の場合、その炭素数は、好ましくは1〜10であり、より好ましくは1〜5である。R1は上記親水性官能基を有する直鎖状または分岐状のアルキル基であり、好ましくはヒドロキシル基、カルボン酸基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アミド基、シアノ基、4級アンモニウム塩基、イミダゾール基、ピリジル基および/または4級ピリジニウム塩基を有する直鎖状または分岐状のアルキル基である。R1は、炭素数が、好ましくは1〜20であり、より好ましくは1〜10であり、さらに好ましくは1〜6である。このような炭素数であれば、接着性に優れる接着シートを得ることができる。
上記親水性官能基を有するモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシメチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシメチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、酢酸ビニル、アリルアミン、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレートアクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、N−イソプロピルアクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、1−ビニルイミダゾール、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、メチルビニルピリジン、エチルビニルピリジン、ビニルピロリドン、ビニルカルバゾール、アミノスチレン、アルキルアミノスチレン、ジアルキルアミノスチレン、トリアルキルアミノスチレン、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。なかでも好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシメチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシメチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリルアミドまたはメタクリルアミドである。これらのモノマーは、単独で、または2種以上組み合わせて用いてもよい。
上記親水性官能基を導入し得るモノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸のアルキルエステル;ビニルスルホン酸のアルキルエステル;アクリルホスホン酸のアルキルエステル;スチレンスルホン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩またはアンモニウム塩;ビニルスルホン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩またはアンモニウム塩;アクリルホスホン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩またはアンモニウム塩等が挙げられる。スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸またはアクリルホスホン酸のアルキルエステルを用いる場合、グラフト重合した後、エステルを加水分解して酸型とすることにより表面改質することができる。スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸またはアクリルホスホン酸の塩を用いる場合は、グラフト重合した後、例えば約1規定の硝酸、塩酸または硫酸等を用いて、酸処理を行うことにより親水化することができる。
スチレンスルホン酸のアルキルエステルの具体例としては、スチレンスルホン酸エチルエステル、スチレンスルホン酸プロピルエステル、スチレンスルホン酸イソプロピルエステル、スチレンスルホン酸n−ブチルエステル、スチレンスルホン酸tertブチルエステル、スチレンスルホン酸イソブチルエステル、スチレンスルホン酸ペンチルエステル、スチレンスルホン酸ネオペンチルエステル、スチレンスルホン酸イソペンチルエステル、スチレンスルホン酸tertペンチルエステル等が挙げられる。ビニルスルホン酸のアルキルエステルの具体例としては、ビニルスルホン酸エチルエステル、ビニルスルホン酸メチルエステル等が挙げられる。
親水性官能基を導入し得るモノマーとして、ハロゲン化アルキルスチレンを用いてもよい。ハロゲン化アルキルスチレンの具体例としては、クロロメチルスチレン、ブロモメチルスチレン、ヨードメチルスチレン、クロロエチルスチレン、ブロモエチルスチレン、ヨードエチルスチレン、クロロペンチルスチレン、ブロモペンチルスチレン、ヨードペンチルスチレン、クロロヘキシルスチレン、ブロモヘキシルスチレン、ヨードヘキシルスチレン、クロロプロピルスチレン、ブロモプロピルスチレン、ヨードプロピルスチレン、クロロブチルスチレン、ブロモブチルスチレン、ヨードブチルスチレン等が挙げられる。ハロゲン化アルキルスチレンを用いる場合、グラフト重合した後、例えば、アンモニア水、またはアルキルアミン(例えば、ジアミン、トリアミン、テトラアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルエチルアミン)をアルコール、アセトンおよび/または水に溶解させた溶液等でハロゲン化アルキル基の4級アンモニウム化処理を行うことで親水化することができる。また、例えばトリブチルホスフィンをアルコールおよび/またはアセトンに溶解させた溶液で、ホスホニウム化処理を行うことで親水化することができる。
上記モノマー組成物中に、その他のモノマーが含まれていてもよい。その他のモノマーとしては、上記親水性官能基を有するモノマーおよび/または親水性官能基を導入し得るモノマーを含むモノマーと共重合可能なモノマーであれば、任意の適切なモノマーが用いられ得る。その他のモノマーの含有割合は、上記親水性官能基を有するモノマーおよび親水性官能基を導入し得るモノマーを含むモノマーの合計量に対して、好ましくは0.5重量%〜100重量%であり、より好ましくは1重量%〜50重量%である。上記モノマー組成物における全モノマーの濃度は、好ましくは1重量%〜200重量%であり、より好ましくは5重量%〜150重量%であり、さらに好ましくは10重量%〜100重量%である。
上記モノマー組成物中のその他のモノマーは架橋剤であってもよい。架橋剤を含むモノマー組成物を用いることにより、架橋構造を有し耐久性(例えば、耐水性、耐熱性)に優れる接着層を得ることができる。架橋剤としては、例えば、ビニル基を2つ以上有するビニル系化合物が挙げられる。架橋剤の具体例としては、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
C.基材層
上記基材層を構成する材料としては、任意の適切な材料が採用され得る。基材層を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のポリオレフィン系樹脂から形成される樹脂フィルム;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂から形成される樹脂フィルム;ポリアクリレートから形成される樹脂フィルム;ポリスチレンから形成される樹脂フィルム;ナイロン6、ナイロン6,6、部分芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂から形成される樹脂フィルム;ポリ塩化ビニルから形成される樹脂フィルム;ポリ塩化ビニリデンから形成される樹脂フィルム、ポリカーボネートから形成される樹脂フィルム;ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム等のフォーム基材;クラフト紙、クレープ紙、和紙等の紙;綿布、スフ布等の布;ポリエステル不織布、ビニロン不織布等の不織布;アルミニウム箔、銅箔等の金属箔等が挙げられる。
上記基材層の厚みは、好ましくは15μm〜50μmであり、より好ましくは25μm〜38μmである。
本発明の接着シートが基材層を備える場合、当該接着シートは、上記接着層と基材層とを圧着することにより形成され得る。圧着時の圧力は、例えば、0.001MPa〜15MPaである。
D.接着シートの貼り付け方法
本発明の別の局面によれば、貼り付け方法が提供される。本発明の貼り付け方法は、基板に、上記の接着シートを、23℃の温度下、2MPa以上の圧力で貼り付けることを含む。
本発明によれば、上記のように、結晶化度80%以上のポリテトラフルオロエチレンから形成され、特定の表面元素組成を有する接着層を備える接着シートを用いることにより、比較的低い圧力で、圧着しても十分な接着力を発現し得る貼り付け方法を提供することができる。
本発明の貼り付け方法において、圧着時の圧力は、好ましくは2MPa以上であり、より好ましくは2MPa〜15MPaである。
本発明の貼り付け方法に用いられる基板としては、上記A項で説明した基板が用いられ得る。当該基板を構成する材料として、金属、ガラス、シリコンまたはサファイヤが好ましく用いられ得る。
本発明の貼り付け方法に用いられる基板の厚みは、好ましく5μm〜10mmであり、より好ましくは20μm〜1mmである。本発明の接着シートは、接着力および柔軟性に優れるため、厚みの薄い、すなわち、変形しやすい基板に対しても優れた接着性を維持し得る。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。
[実施例1]
PTFEファインパウダー(商品名「ポリフロンPTFE F−104」、圧縮強さ(ASTM D695、1%変形、25℃)5〜6MPa、ダイキン工業社製)100重量部と、液状潤滑剤としてn−ドデカンを20重量部とを混合して、ペースト状の混和物を得た。得られた混和物をペースト押し出しにより成形して、押し出し成形体(厚み2mm)を得た。次いで、得られた押し出し成形体を、一対の金属ロール間に通して、厚み0.21mmまで圧延した。その後、150℃で60秒間加熱し、液状潤滑剤を乾燥除去して、乾燥成形体を得た。さらに、得られた乾燥成形体を、25℃の室温下で冷却して、厚み0.2mm、気孔率60%のPTFEシートを得た。
得られたPTFEシートの両面に対し、プラズマ処理(真空度:1.5kPa、周波数:13MHz、エネルギー量:5J/cm2、処理時間:30秒、ガス供給量:100sccm)を行い、接着シートを得た。なお、プラズマ処理には、反応ガスとして水蒸気を用いた。
[実施例2]
PTFEファインパウダー(商品名「ポリフロンPTFE F−104」、圧縮強さ(ASTM D695、1%変形、25℃)5〜6MPa、ダイキン工業社製)100重量部と、液状潤滑剤としてn−ドデカンを20重量部とを混合して、ペースト状の混和物を得た。得られた混和物をペースト押し出しにより成形して、押し出し成形体(厚み2mm)を得た。次いで、得られた押し出し成形体を、一対の金属ロール間に通して、厚み0.21mmまで圧延した。その後、150℃で60秒間加熱し、液状潤滑剤を乾燥除去して、乾燥成形体を得た。さらに、周速の異なる延伸ロールを用いて、得られた乾燥成形体を延伸温度280℃で長手方向に5倍延伸し、その後、25℃の室温下で冷却して、厚み80μm、気孔率31%のPTFEシートを得た。
得られたPTFEシートの両面に対し、プラズマ処理(真空度:1.5kPa、周波数:13MHz、エネルギー量:5J/cm2、処理時間:30秒、ガス供給量:100sccm)を行い、接着シートを得た。なお、プラズマ処理には、反応ガスとして水蒸気を用いた。
[実施例3]
実施例1と同様にして、PTFEシートを得た。
得られたPTFEシートを、メタクリル酸中に浸漬させた後、取り出し、2枚のPETフィルム(厚み:25μm)で空気泡が残らないように挟んでシールした。
このようにして得られた積層体の両面に、室温、窒素雰囲気下で電子線を照射して(加速電圧:250kV、照射線量:30kGy)、メタクリル酸を、PTFEシートを構成するPTFEにグラフト重合させて、表面改質PTFEシートを得た。次いで、上記積層体から表面改質PTFEシートを取り出し、60℃の水で2時間洗浄し、その後、40℃の乾燥機で2時間感想させて、接着シートを得た。
[比較例1]
プラズマ処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして接着シートを得た。
[比較例2]
PTFEファインパウダー(商品名「ポリフロンPTFE F−104」、圧縮強さ(ASTM D695、1%変形、25℃)5〜6MPa、ダイキン工業社製)100重量部と、液状潤滑剤としてn−ドデカンを20重量部とを混合して、ペースト状の混和物を得た。得られた混和物をペースト押し出しにより成形して、押し出し成形体(厚み2mm)を得た。次いで、得られた押し出し成形体を、一対の金属ロール間に通して、厚み0.21mmまで圧延した。その後、420℃で60秒間加熱し、液状潤滑剤を乾燥除去して、乾燥成形体を得た。さらに、得られた乾燥成形体を、25℃の室温下で冷却して、厚み0.2mm、気孔率60%のPTFEシートを得た。
得られたPTFEシートの両面に対し、プラズマ処理(真空度:1.5kPa、周波数:13MHz、エネルギー量:5J/cm2、処理時間:30秒、ガス供給量:100sccm)を行い、接着シートを得た。なお、プラズマ処理には、反応ガスとして水蒸気を用いた。
[評価]
実施例および比較例で得られた接着シートについて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
(1)結晶化度
PTFEシートの結晶化度を以下のようにして測定した。
高温示差走査熱量計「Q2000」(TAインスツルメント株式会社製)を用い、0℃〜400℃まで昇温させた時の融解熱量[J/g]を測定した。昇温速度は20℃/minで実施した。接着シートを構成するPTFEの結晶化度はPTFEの完全結晶時の融解熱量を92.84[J/g]として(測定した融解熱量/92.84)×100(%)の式から算出した。
(2)表面元素組成
接着シート表面の表面元素組成を、X線源がモノクロAIKαであるESCA装置(アルバック・ファイ社製Quantum2000)を用いて測定した。測定は、X線をビーム径200μm、出力30W(15kV)で照射し、光電子取り出し角度を試料表面に対して45度として行った。ナロースキャンスペクトルの光電子強度を算出し、感度係数等を用いてC、F、O、Nの4元素比率を算出し、さらにF/C比率、O/C比率およびN/C比率を算出した。
(3)熱分解評価(高温下での重量変化)
示差熱分析装置「TG/DTA220」(SII Nano Technology inc社製)を用いて、接着シートの300℃での熱分解率(25℃〜300℃まで昇温させた際の熱分解率)を測定した。測定条件は、昇温速度は10℃/分、大気雰囲気下、流量は200ml/分とした。熱分解率は、(昇温開始時の試料重量−昇温終了時の試料重量)/昇温開始時の試料重量×100の式により求められる。表1中、熱分解率が0.2重量%未満の場合を○とした。
(4)接着力(剥離力)
接着シート(19mm×250mm)をガラス(松浪ガラス社製、商品名「MICRO SLIDE GLASS S200423」、サイズ65mm×165mm、厚み1.1mm)の片面に、15MPaの圧力でプレスして貼着した。次いで、接着シートのガラスとは反対側の全面に、裏打ち材として、接着シートと同サイズのポリイミド粘着テープ(日東電工社製、商品名「No.360UL」)を貼着した。このようにして得られた試料を用いて接着シートのガラスに対する接着力を評価した。接着力は、島津製作所製オートグラフ応力試験装置による剥離試験により評価した。測定条件は、温度23℃、相対湿度50%、引っ張り速度300mm/分、剥離角度180°とした。
実施例から明らかなように、本発明の接着シートは、優れた接着力を有し、かつ、低い熱分解性を示す。なお、接着力の測定時、実施例1〜3においては接着層(表面改質PTFEシート)の層内で剥離し、比較例1および2においては接着層とガラスとの界面で剥離した。また、結晶化度が低いPTFEから形成される接着シートは、表面改質を行っても十分な接着力が発現しない(比較例2)。