JP6373550B2 - ガスシールドアーク溶接方法 - Google Patents
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一方、衝突安全性については、その基準が年々厳しくなっており、車体強度および剛性の向上や強度の最適配分による乗員および歩行者の安全性の確保が必要となっている。
しかし、発明者らが更に検討した結果、溶接ビード止端部のスラグ形成を抑制するためには、低酸化性ガスの使用や溶接ワイヤの組成を調整するだけでは不十分であり、上記シールドガス中の酸化性ガスの含有量が所定の要件を満足する必要があることに加えて、鋼板中のSi、TiおよびAl含有量が所定の範囲内となるよう制御することが肝要であることを見出し、本発明を完成させるに到った。
記
3≦2X+Y≦15 (A)
ただし、X:O2量〔体積%〕、Y:CO2量〔体積%〕である。
本発明によるガスシールドアーク溶接方法は、質量%でSi:0.01〜0.10%、Ti:0.05〜0.30%およびAl:0.005〜0.30%を含む鋼板に対して、溶接ワイヤを用い、不活性ガスと酸化性ガスとからなるシールドガスを供給してガスシールドアーク溶接を行う方法である。その際、シールドガス中に含まれる酸化性ガスは、体積%で3〜12%のCO2または1.5〜5%のO2もしくはその両方からなり、該酸化性ガスは下記式(1)を満足することが肝要である。
3≦2X+Y≦15 (1)
ただし、X:O2量〔体積%〕、Y:CO2量〔体積%〕である。
Si:0.01〜0.10%
Siは、溶接金属のぬれ性を良好にさせ、鋼板表面に対する溶接ビード止端部の角度を低減させる効果があるが、0.10%を超えると、鋼板としての亜鉛めっきの均一な付着を妨げる、粗大なSi化合物を生成する。また、微細なTi化合物分散析出を抑制するため、鋼板としての穴広げ性および伸びを確保できない。更に、溶接シールド雰囲気を3〜12%のCO2または1.5〜3.0%のO2に制御してもその酸化物であるSiO2を主体とするスラグの溶接ビード止端部への凝集によって止端部が凸となる。また、溶接線方向の形状の連続性が損なわれることから疲労強度が向上しない。一方、Si含有量が0.01質量%未満では、アーク溶接方法を如何に工夫しても良好な溶接ビード形状を得ることが出来ない。このことから、鋼板中のSi含有量は、0.01〜0.10%とする。
Tiは、微細析出による鋼の高強度化と伸び確保に不可欠な元素であり、0.05%未満では、鋼板としての穴広げ性および伸びの確保と、590 MPa以上の強度の確保とを両立させることができない。また、溶けた金属の粘性と表面張力を僅かではあるが強める効果があり、溶接ビードの溶接線方向の均一性確保に有効な元素であるが、これらの効果についても0.05%未満では得られない。一方、0.30%を超えると、脆く、プレス成形性における穴広げ性を著しく低下させる。このことから、鋼板中のTi含有量は、0.05%〜0.30%とする。
Alは、鋼材中の酸素低減によるミクロ組織の調整、すなわち酸化物、硫化物の介在形態と分布の改善、オーステナイト結晶粒の微細化に効果があり、また、脱酸調整元素としても必要な元素である。上記鋼材中のミクロ組織の調整のためには、0.005%以上の添加が必要である。ただし、Alは、Nと結合してAlNを形成して溶接継手部の疲労強度向上効果を低減させ、含有量が0.30%を超えると、プレス成形性における穴広げ性を著しく低下させる。このことから、鋼板のAl含有量は、0.005〜0.30%とする。
C:0.01〜0.3%
Cは、鋼の強度を向上させ、また、溶接ビードの酸化を抑制する効果を有する。これらの効果を十分に得るためには、0.01%以上添加することが好ましい。しかし、0.3%を超える量を添加すると、常温で時効性を発現させ成形性を低下させる。このため、鋼板中のCの添加量は、0.01%〜0.3%とすることが好ましい。
Mnは、強度と靭性の確保に必須な元素であり、0.1%以上の添加を必要とする。しかし、3.0%を超えて添加すると、ミクロ偏析、マクロ偏析が起こりやすく、材料の加工性を大きく劣化させる他、アーク溶接によって形成するスラグが凝集し、溶接ビードの均一性を大きく低下させる。このことから、鋼板中のMnの添加量は、0.1〜3.0%とすることが好ましい。
Pは、フェライトに固溶してその延性を低下させるため、0.05%を超える量の添加は、鋼板のプレス成形性における穴広げ性を著しく低下させる。このことから、鋼板中のPの添加量は、0.05%以下とすることが好ましい。ただし、0.0005%未満まで低下させるためには、非常に生産コストがかかる。
Sは、MnSを形成して破壊の起点として作用し、鋼板のプレス成形性における穴広げ性を著しく低下させるため、鋼板中のSの添加量は、0.01%以下とすることが好ましい。一方、溶鋼の表面張力を低下させ溶接ビード止端部を平滑にする効果がある。しかし、0.005%未満ではこの効果が得られない。よって、Sは、0.005〜0.01%とすることが好ましい。
Crは、その添加によって溶接熱影響によってビード止端部の強度を上昇させる効果がある。しかし、0.05%未満の添加量ではこれらの効果がなく、また0.5%を超える量を添加すると、鋼板の成形性を大きく低下させる。このことから、鋼板中のCrの添加量は、0.05〜0.5%とすることが好ましい。
Nb、V、Mo、SbおよびWの添加は、それぞれCrと同様の効果を有するが、MoおよびWは原料コストがCrに比べて高く、NbおよびVはTiの微細析出を阻害し、鋼板の成形性を大きく低下させる。このことから、鋼板中のNb、V、Mo、SbおよびWの添加量は、それぞれ0.005〜0.5%とすることが好ましい。
なお、上記Nb、V、Mo、SbおよびWは、組み合わせて用いてもよい。
Nは、鋼のミクロ組織の制御に重要な元素であり、強度の向上に有効であり、通常の鋼には0.003%程度が含まれている。しかしながら、その程度の含有量では、溶接継手部の疲労強度を向上させる効果は低く、溶接継手部の疲労強度を向上させるためには0.005%以上の添加が必要である。一方、0.02%を超える量を添加すると加工性が低下し、プレス加工時に割れを生じる等の問題が生じる。このことから、鋼板のNの添加量は、0.005〜0.02%とすることが好ましい。
また、本発明によるガスシールドアーク溶接方法が対象とする鋼材の引張り強さは特に限定されないが、特に590〜1480 MPaの鋼材に有効である。
更に、IpおよびTpが上記範囲を満足していても、Ip×Tpが250未満、500超えの場合には、安定なアークと1パルス1溶滴移行および平滑な溶接ビードを得ることが難しい。よって、IP×Tpは、250〜500とすることが好ましい。
Sは、溶鋼の粘性および表面張力を低下させて、溶接ビード形状を平滑にする働きがある。また、生成するスラグを溶接ビード中央に集め、溶接ビード止端部のスラグ形成を抑制し、疲労強度を向上させる効果がある。この効果は0.020%未満の添加量では得られない。一方、0.050%を超えて添加すると、溶接金属の靭性を著しく低下させる。よって、ガスシールドアーク溶接に用いる鋼ワイヤ中のSの添加量は、0.020〜0.050%とすることが好ましい。
Cは、溶接金属の強度を確保するために重要な固溶強化元素であることから低く抑制することで溶接金属強度を抑制し溶接割れを抑制することができる。0.10%超えでは、溶接金属のビッカース硬さが270を超え易く応力抑制の効果が得られない。よって、ガスシールドアーク溶接に用いる鋼ワイヤ中のC添加量は、0.10%以下とすることが好ましい。
Siは、強い脱酸作用を有し、溶接金属の脱酸のためには不可欠な元素であり、かつ、溶接金属の強度を確保するために重要な固溶強化元素である。また、Siは、溶接金属のぬれ性を良好にさせ、鋼板表面に対する溶接ビードの止端部の角度を低減させる効果がある。しかし、この効果は、0.25%未満では得られ難く、反対に1.00%を超えて添加すると、酸化物であるSiO2が溶接ビード止端部に集まって溶接ビード形状の平滑性を阻害し、溶接ビードの平滑性を阻害する。よって、ガスシールドアーク溶接に用いる鋼ワイヤ中のSiの添加量は、0.25〜1.00%とすることが好ましい。より好ましくは0.25%〜0.50%である。
溶接金属中のOの添加量を高めることにより、溶接ビード形状を平滑にすることができる。しかし、溶接ワイヤ中に0.005%を超えて添加すると、溶接金属中のSi含有量を低下させ、ぬれ性を低下させるため、溶接ビード止端部の平滑性を損ねる。一方、0.0005%未満の添加量では、粘性と表面張力が下がらないため、溶接ビード止端部の平滑性を低下させる。よって、ガスシールドアーク溶接に用いる鋼ワイヤ中のOの添加量は、0.0005〜0.005%とすることが好ましい。より好ましくは0.0010〜0.0035%である。
Mnは、Siと同様に、脱酸作用を有し、溶接金属の脱酸のためには不可欠な元素であり、溶接金属の強度を確保するために0.50%以上の添加が好ましい。一方、2.50%を超える過剰な添加は、溶接金属靭性を著しく低下させる。よって、ガスシールドアーク溶接に用いる鋼ワイヤ中のMnの添加量は、0.50〜2.50%とすることが好ましい。
なお、上記成分以外の残部は、製造工程において混入する不可避的不純物およびFeであ
る。
引張り強さ590 MPa以上で、穴広げ性、伸びに優れるTi添加微細析出鋼のガスシールドメタルアーク溶接方法に関し、シールドガス中の酸化性ガス量が溶接継手部の形状および疲労強度特性に及ぼす影響を、以下の実施例により明らかにした。
まず、供試鋼板として表1に成分を示す2.3 mm厚の熱延鋼板および表2に成分を示す溶接ワイヤ(直径1.2 mm)を用いて、表3に示す溶接条件の下で、パルスマグ溶接法により重ね隅肉溶接を行い、機械加工により溶接ビード止端部を中心とする平行部幅22mm疲労強度試験片を得た。ここで、シールドガスとしては、Arに0〜15%のCO2および0〜6%のO2を加えた混合ガスを用いた。
作製した上記疲労強度試験片の疲労試験として、片振り疲労試験を採用した。ここで、疲労強度試験片に与えた荷重は100〜500 MPa、繰り返し周波数は20 Hzとし、また繰り返し回数は1,000,000回とした。得られた破断応力を表4にまとめる。
また、溶接金属中の酸素含有量を100〜250 ppmとすることにより、破断応力は更に向上し、疲労強度が向上することが分かる。
更に、本発明におけるガスシールドアーク溶接方法において酸化性ガスを制限した条件下にて、本発明において規定したS添加量を有する溶接ワイヤを用いてガスシールドアーク溶接を行うことにより、破断応力が向上し、疲労強度が向上することが分かる。
更にまた、パルス電流を450〜600Aとし、パルス電流期間を0.4〜1.0 msとすることにより、疲労強度が向上することが分かる。
Claims (5)
- 質量%でSi:0.01〜0.10%、Ti:0.05〜0.30%(但し、0.05%は除く)、Al:0.005〜0.30%、C:0.01〜0.3%、Mn:0.1〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.0005〜0.01%、Cr:0.05〜0.5%およびN:0.005〜0.02%を含み、残部は鉄および不可避的不純物からなる鋼板に対して、溶接ワイヤを用い、不活性ガスと酸化性ガスとからなるシールドガスを供給してガスシールドアーク溶接を行う方法であって、
前記シールドガス中に含まれる前記酸化性ガスは、体積%で3〜12%のCO2または1.5〜5.0%のO2もしくはこれらの両方からなり、該酸化性ガスは下記式(A)を満足することを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。
記
3≦2X+Y≦15 (A)
ただし、X:O2量〔体積%〕、Y:CO2量〔体積%〕である。 - 前記鋼板は、更にNb、V、Mo、SbおよびWのうちの1種または2種以上を0.005〜0.5%含むことを特徴とする、請求項1に記載のガスシールドアーク溶接方法。
- 前記ガスシールドアーク溶接後の溶接継手部は、O:100〜250 ppmを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のガスシールドアーク溶接方法。
- 前記溶接ワイヤは、質量%でS:0.02〜0.05%を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接方法。
- 前記ガスシールドアーク溶接における溶接電流がパルス型溶接電流であり、該パルス型溶接電流のピーク値は450〜600A、パルス電流期間は0.4〜1.0 msecであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接方法。
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