JP2002283095A - 大入熱サブマージアーク溶接用鋼ワイヤおよびサブマージアーク溶接継手の製造方法並びにサブマージアーク溶接継手 - Google Patents

大入熱サブマージアーク溶接用鋼ワイヤおよびサブマージアーク溶接継手の製造方法並びにサブマージアーク溶接継手

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 優れた靱性の溶接金属が得られる大入熱サブ
マージアーク溶接用鋼ワイヤおよび溶接継手の製造方法
並びに溶接継手を提供する。 【解決手段】 Ti:0.006 質量%以下、Nb:0.012 質量
%以下の母材組成を有する鋼材を入熱150kJ/cm以上の大
入熱サブマージアーク溶接により溶接するにあたり、溶
接ワイヤを、C:0.03〜0.10%、N:0.0035%以下、S
i:0.40%以下、Mn:1.0 〜2.5 %、Ti:0.03%以上を
含み、かつTi/N:15〜50を満足する鋼ワイヤとする。
なお、鋼ワイヤはMo、Nb、B、Niのうちの1種または2
種以上をさらに含有してもよい。フラックスは、ボロン
酸化物あるいはさらにN:0.0030質量%以下の鉄粉を含
有するものを用いるのが好ましい。これにより、溶接金
属が、粒界フェライト量が15面積%以下の組織を有し、
高靭性の溶接金属となる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、サブマージアーク
溶接用鋼ワイヤに係り、とくに入熱150kJ/cm以上の大入
熱サブマージアーク溶接に好適な鋼ワイヤおよび、それ
ら鋼ワイヤを用いた入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマー
ジアーク溶接継手の製造方法および溶接継手に関する。
【0002】
【従来の技術】溶接施工においては、従来から、溶接能
率の向上が強く要望されている。溶接能率を高めるため
には、溶接入熱を高くするのが一般的であるが、通常、
溶接入熱を高めると、溶接金属の靱性が低下する。これ
は、溶接入熱の増加に伴い溶接部の冷却速度が低下し、
溶接金属の組織が粗大化しやすいことにその原因があ
る。
【0003】サブマージアーク溶接法は、溶接開先内に
散布したフラックス中でアークを発生させ連続溶接を行
う方法であり、大電流でも安定したアークが形成でき、
深い溶け込みと大きな溶着量が得られる高能率な溶接方
法として、造船、橋梁、圧力容器、産業機械等の厚鋼板
を接合する分野で広く利用されている。しかし、サブマ
ージアーク溶接法は、大電流で溶接を行うため、溶接入
熱が高くなり、溶接金属の靱性が低下しやすいという傾
向を有していた。
【0004】このような問題に対し、例えば、特開平7-
328793号公報には、サブマージアーク溶接において、フ
ラックスにボロン(B)酸化物を添加し、フラックスを
介し溶接金属にBを含有させ溶接金属の靱性を改善する
技術が開示されている。特開平7-328793号公報に記載さ
れた技術は、サブマージアーク溶接用フラックスを、B2
O3:0.7 〜2.0 %を含む組成とし、ワイヤのSi含有量を
低くし、フラックスとワイヤ中のMn含有量を最適化する
ことにより、溶接金属の靱性を向上させる溶接方法であ
る。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特開平
7-328793号公報に記載された技術によっても、大入熱サ
ブマージアーク溶接で得られる溶接金属の靱性は、使用
する鋼材、および/または溶接ワイヤによって、著しく
劣化する場合があり、安定して高靱性の大入熱溶接金属
を得ることができないという問題が明らかとなった。
【0006】本発明は、上記した従来技術の問題点を解
決し、溶接入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク
溶接で鋼材を溶接した場合にも、優れた靱性を有する溶
接金属が得られる大入熱サブマージアーク溶接用鋼ワイ
ヤおよび優れた溶接金属部靱性を有する大入熱サブマー
ジアーク溶接継手の製造方法並びに溶接継手を提供する
ことを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記した
課題を達成するために、被溶接材である490 〜 520 MPa
級鋼材を溶接入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアー
ク溶接で接合し、得られた溶接金属の靱性に影響する各
種要因について鋭意研究した。その結果、溶接入熱150k
J/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接により得られた
溶接金属の靱性は、窒素に対し非常に敏感であり、窒素
量のわずかな変化により、靱性が顕著に劣化する場合が
あることを見いだした。
【0008】とくに、被溶接材が、TiおよびNb含有量が
少ない鋼材の場合には、わずかの窒素量の増加によっ
て、溶接金属の組織が粗大化し、靱性が著しく劣化す
る。これは、Ti含有量が少ない鋼材の場合には、溶接金
属にTiが十分に供給されず、固溶N量の調整が難しいこ
とによるものと考えられる。本発明者らは、上記した知
見に基づいてさらに検討を進めた結果、被溶接材が、Ti
およびNb含有量が少ない鋼材の場合にも、安定して高靱
性の大入熱サブマージアーク溶接金属を得るためには、
溶接用鋼ワイヤのN含有量を適正量に調整するととも
に、ワイヤ中にTiを、ワイヤ中のN含有量に応じた適正
量含有させることにより、大入熱溶接を行っても微細な
溶接金属組織を得ることが可能であることに想到した。
【0009】また、本発明者らは、大入熱サブマージア
ーク溶接金属に更なる高靱性を安定して付与するため
に、さらに研究を行った。まず、Tiを0.006 質量%以
下、Nbを0.012 質量%以下含有する鋼材(板厚40mm)を
溶接入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接し
て得られた溶接継手について、溶接金属の組織および靭
性を調査した。その結果を、靭性(0℃における吸収エ
ネルギー:vE0 )と組織(粒界フェライト生成量)との
関係で図4に示す。図4から、粒界フェライト生成量を
15面積%以下、好ましくは10面積%以下とすることによ
り、vE0 :40J以上という高靭性を安定して得られると
いう知見を得た。
【0010】さらに、本発明者らは、溶接金属組織中の
粒界フェライト生成量に及ぼす要因について検討した。
その結果、図5に示すように、溶接金属中のB/N比
(質量比)を適正値に調整することにより、粒界フェラ
イト生成量を低減できることを見いだした。さらに、本
発明者らは、ワイヤ中にMo、Nb等を含有させ、溶接金属
に適正量のMo、Nb等を含有させることにより、溶接金属
中のB/N比(質量比)が適正範囲に容易に調整可能と
なり、粒界フェライト生成量を15面積%以下、好ましく
は10面積%以下に制御できることを見いだした。
【0011】本発明は、上記した知見に基づき、さらに
検討を加え完成されたものである。すなわち、本発明
は、質量%で、C:0.03〜0.10%、N:0.0035%以下、
Si:0.40%以下、Mn:1.0 〜2.5 %を含み、さらにTiを
0.03%以上で、かつTi/N:15〜50を満足するように含
有し、残部Feおよび不可避的不純物からなるワイヤ組成
を有することを特徴とする大入熱サブマージアーク溶接
用鋼ワイヤであり、また、本発明は、前記ワイヤ組成に
加えてさらに、質量%で、Mo:0.10〜0.60%、Nb:0.01
〜0.10%、B:0.0005〜0.0100%、Ni:0.2 〜2.0 %の
うちから選ばれた1種または2種以上を含有することが
好ましい。
【0012】また、本発明は、Ti含有量が0.006 質量%
以下、Nb含有量が0.012 質量%以下の母材組成を有する
鋼材を入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接
により溶接接合するサブマージアーク溶接継手の製造方
法において、前記大入熱サブマージアーク溶接で使用す
るワイヤを、質量%で、C:0.03〜0.10%、N:0.0035
%以下、Si:0.40%以下、Mn:1.0 〜2.5 %を含み、さ
らにTiを0.03%以上で、かつTi/N:15〜50を満足する
ように含有し、あるいはさらに、Mo:0.10〜0.60%、N
b:0.01〜0.10%、B:0.0005〜0.0100%、Ni:0.2 〜
2.0 %のうちから選ばれた1種または2種以上を含有
し、残部Feおよび不可避的不純物からなるワイヤ組成を
有する大入熱サブマージアーク溶接用鋼ワイヤとするこ
とを特徴とする優れた溶接金属部靱性を有するサブマー
ジアーク溶接継手の製造方法であり、また、本発明で
は、前記大入熱サブマージアーク溶接で使用するフラッ
クスを、ボロン酸化物を含み、あるいはさらに質量%で
鉄粉以外の合金粉をフラックス全量に対し8%以下含
み、あるいはさらに質量%で、N:0.0030%以下を含む
鉄粉を、フラックス全量に対し20〜45%含有するフラッ
クスとすることが好ましい。
【0013】また、本発明は、溶接入熱150kJ/cm以上の
大入熱サブマージアーク溶接により溶接接合されたサブ
マージアーク溶接継手であって、前記サブマージアーク
溶接継手の溶接金属が、質量%で、C:0.03〜0.15%、
N:0.0050%以下、Si:0.1〜1.0 %、Mn:0.7 〜2.5
%、Ti:0.003 〜0.030 %を含む組成を有し、粒界フェ
ライト生成量が15面積%以下である組織を有することを
特徴とするサブマージアーク溶接継手であり、また、本
発明では、前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.
1 〜0.5 %、Nb:0.01〜0.2 %、Ni:0.05〜1.0 %のう
ちから選ばれた1種または2種以上を含み、かつB/
N:0.6 〜1.2 である組成を有し、粒界フェライト生成
量が10面積%以下である組織を有することが好ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】まず、本発明の大入熱サブマージ
アーク溶接用鋼ワイヤのワイヤ組成限定理由について説
明する。以下、組成における質量%は、単に%で記す。 C:0.03〜0.10% Cは、溶接金属の強度を増加する元素であり、本発明で
は、所望の溶接金属強度を確保するため、ワイヤ中に0.
03%以上含有する。ワイヤ中のC含有量が0.03%未満で
は、所定の溶接金属強度を得るのが難しくなるうえ、溶
接時アーク雰囲気中のCO分圧が低くなり、大気中からN
を巻き込み溶接金属のN含有量が増加することが懸念さ
れる。一方、0.10%を超えて含有すると、溶接金属中の
C含有量が増加し、溶接金属の靱性が劣化するとともに
高温割れが発生しやすくなる。このため、Cは0.03〜0.
10%に限定した。なお、好ましくは、0.04〜0.08%であ
る。
【0015】N:0.0035%以下 Nは、溶接金属の靱性を劣化させる元素であり、本発明
ではできるだけ低減するのが望ましいが、ワイヤ中に0.
0035%を超えて含有すると、溶接金属中のN含有量が高
くなりすぎ靱性が劣化する。このため、Nは0.0035%以
下に限定した。なお、N含有量を0.0010%以下に低減す
ることも可能であるが、精錬コストが増加し、経済的に
高価となるため、Nは0.0010%以上とするのが望まし
い。
【0016】Si:0.40%以下 Siは、脱酸剤として作用し溶接金属中の酸素低減に有効
な元素であるが、0.40%を超えて多量に含有すると、溶
接金属のセメンタイト生成を抑制し、島状マルテンサイ
トを生成させるとともに、フェライトの粗大化を促進し
て、溶接金属の靱性を劣化させる。このため、Siは0.40
%以下に限定した。なお、鋼材のSiまたはフラックス中
のSiO2からの寄与もあり、ワイヤ中のSiは0.30%以下と
するのが好ましい。
【0017】Mn:1.0 〜2.5 % Mnは、脱酸剤として作用し溶接金属中の酸素低減に有効
な元素である。また、Mnは焼入れ性を向上し、組織を微
細化するとともに、固溶強化により溶接金属の強度を増
加させる作用を有する。このような効果を得るため、本
発明では、1.0%以上のMn含有を必要とする。1.0 %未
満の含有では、所望の溶接金属強度を得ることが難しい
うえ、溶接金属組織に粗大な組織が発生しやすく、溶接
金属の靱性が劣化する。一方、2.5 %を超えて含有して
も、組織微細化効果が飽和し、むしろCの拡散を阻害し
島状マルテンサイトを生成させるとともに、固溶強化に
より溶接金属を著しく硬化させ、溶接金属の靱性を劣化
させる。このため、Mnは1.0 〜2.5 %に限定した。な
お、好ましくは、1.4 〜2.1 %である。
【0018】Ti:0.03%以上、Ti/N:15〜50 Tiは、溶接金属の組織を微細化するため、本発明ではワ
イヤ中に添加させる。とくに、被溶接材である鋼材中の
Ti含有量が少ない場合に有効である。このような溶接金
属組織の微細化のためには0.03%以上の含有を必要とす
る。0.03%未満では、とくに被溶接材である鋼材中のTi
含有量が少ない場合には、溶接金属組織の微細化が不十
分となる。溶接金属へのTi添加をフラックスより行う
と、ビード外観劣化やスラグ剥離不良などの問題があ
り、溶接金属へのTi添加は本発明では、主としてワイヤ
より行う。
【0019】また、Tiは、Nを固定し固溶N量を調整し
靭性を向上させるため、本発明では、Ti含有量は、0.03
%以上でかつワイヤ中のN含有量に応じ、Ti/Nが15〜
50となるように調整する。Ti/Nが15未満では溶接金属
の靱性改善効果が少ない。一方、Ti/Nが50を超えて過
剰に、Tiを含有すると、溶接金属の靱性が劣化する。こ
のため、Tiは0.03%以上で、かつTi/N:15〜50の範囲
となるように限定した。なお、Tiは、靱性の観点から0.
20%以下とするのが好ましい。より好ましくは、0.15%
以下である。
【0020】Mo:0.10〜0.60%、Nb:0.01〜0.10%、
B:0.0005〜0.0100%、Ni:0.2 〜2.0 %のうちから選
ばれた1種または2種以上 Mo、Nb、B、Niはいずれも、溶接金属の靱性を顕著に向
上させる作用を有しており、本発明では、必要に応じ選
択して1種または2種以上含有できる。Mo、Nb、Bはオ
ーステナイト粒界に析出する粗大な粒界フェライトの生
成を抑制し、溶接金属の靱性を向上させる。このような
効果は、Mo:0.10%以上、Nb:0.01%以上、B:0.0005
%以上、それぞれの含有で顕著となる。一方、Mo:0.60
%、Nb:0.10%、B:0.0100%をそれぞれ超える含有
は、溶接金属の組織が上部ベイナイトとなりやすく、靱
性が劣化する。このようなことから、それぞれ、Mo:0.
10〜0.60%、Nb:0.01〜0.10%、B:0.0005〜0.0100%
の範囲とするのが好ましい。
【0021】また、Niは、フェライト相の靱性を向上さ
せて、溶接金属の靱性を向上させる。この効果は0.2 %
以上の含有で顕著となる。一方、2.0 %を超えると低温
割れの発生が起こりやすくなる。このため、Niは、0.2
〜2.0 %の範囲とするのが好ましい。上記した成分以外
の残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不
純物としては、O:0.0050%以下、P:0.020 %以下、
S:0.010 %以下が許容できる。
【0022】なお、本発明の鋼ワイヤは、送給性向上、
防錆性の観点から、ワイヤ表面にCuめっきを施すのが好
ましい。また、本発明の鋼ワイヤは、入熱150kJ/cm以上
の大入熱サブマージアーク溶接用として好適であるが、
入熱150kJ/cm未満のサブマージアーク溶接用鋼ワイヤと
して適用しても、優れた靭性を有する溶接金属が安定し
て得られ、何ら問題はない。
【0023】つぎに、溶接金属部靱性に優れた大入熱サ
ブマージアーク溶接継手の製造方法について説明する。
本発明の大入熱サブマージアーク溶接継手の製造方法
は、被溶接材として、Ti、Nb含有量が少ない鋼材を使用
し、入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接に
より溶接接合を行う場合に、高靱性の溶接金属を得るの
にとくに有効となる。
【0024】被溶接材として使用する鋼材は、Ti含有量
が0.006 質量%以下、Nb含有量が0.012 質量%以下、好
ましくはN含有量が0.0055%以下の母材組成を有する鋼
材である。その他の成分としては、C:0.07〜0.18%、
Si:0.40%以下、Mn:1.0 〜1.6 %、P:0.020 %以
下、S:0.010 %以下を含み、あるいはさらにAl:0.05
%以下を含有するのが好ましい。上記した成分以外にV
を含んでもよい。なお、本発明でいう鋼材とは、厚鋼
板、形鋼、鋼管、棒鋼を含むものとする。
【0025】上記した鋼材に、所定形状の開先加工を施
したのち、該開先内にフラックスを散布し、上記した大
入熱サブマージアーク溶接用鋼ワイヤを使用し、入熱15
0kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接により溶接接
合する。本発明におけるサブマージアーク溶接は、多電
極のサブマージアーク溶接を含む、通常公知の溶接法が
いずれも適用でき、とくに限定する必要はない。また、
溶接条件もとくに限定する必要はない。
【0026】なお、上記した鋼ワイヤを使用する場合に
は、使用するフラックスは、特に限定する必要はなく、
通常公知の焼成型フラックスがいずれも使用できる。な
お、使用するフラックスとしては、好ましくは0.1 〜1.
0 質量%のボロン酸化物を含む焼成型フラックスが好適
であり、これにより、溶接金属にBを供給し組織の粗大
化を抑制し靱性の劣化を防止できる。なお、ボロン酸化
物以外のフラックス成分としては、とくに限定する必要
はないが、質量%で、SiO2:15〜28%、MgO :15〜38
%、鉄粉:15〜35%、CaCO3 :5〜15%、Al2O3 :5〜
20%、TiO2:2〜10%、CaF2:2〜10%、鉄粉以外の金
属粉:8%以下を含有するのが好ましい。なお、本発明
では、フラックスは、これに限定されるものではなく、
JIS Z 3352に規定されるフラックスのうち、作業性がよ
いフラックスなら鉄粉を含まないものでもよいことはい
うまでもない。なお、フラックス中に鉄粉を添加する場
合には、N:0.0030質量%以下の鉄粉を使用することが
好ましい。N:0.0030質量%以下の鉄粉は、フラックス
全量に対し、20〜45質量%含有することが好ましい。
【0027】鉄粉中のN含有量が0.0030質量%を超える
と、得られる溶接金属のN含有量が増加し、高靱性を安
定して確保することが難しくなる傾向を示す。なお、鉄
粉中のN含有量は0.0025質量%以下とするのがより好ま
しい。フラックス中の鉄粉は、溶接時に溶融池へ移行し
溶着速度を増加し、溶接能率の向上と溶接入熱の低減に
寄与する。フラックス中のN:0.0030質量%以下の鉄粉
の含有量が20質量%未満では、上記した効果が少なく、
一方、45質量%を超えて含有すると、アークが不安定と
なりビード外観が劣化する傾向を示す。このようなこと
から、N:0.0030質量%以下の鉄粉の含有量は、フラッ
クス全量に対し、20〜45質量%とするのが好ましい。
【0028】このような被溶接材、溶接材料を組み合わ
せ、入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接に
より溶接接合することにより、以下に示す組成、組織の
高靭性溶接金属を有する溶接継手(溶接構造物)が得ら
れる。以下、大入熱サブマージアーク溶接して得られる
溶接金属の好ましい組成について説明する。
【0029】C:0.03〜0.15% Cは、溶接金属の強度を増加する元素であるが、溶接金
属中のC含有量が0.03%未満では、所定の溶接金属強度
を得るのが難しくなるうえ、溶接金属の靭性改善が難し
い。一方、0.15%を超えて含有すると、溶接高温割れが
起こり易くなる。このため、Cは0.03〜0.15%に限定す
ることが好ましい。
【0030】N:0.0050%以下 Nは、溶接金属の靱性を劣化させる元素であり、本発明
ではできるだけ低減するのが望ましいが、溶接金属中に
0.0050%を超えて含有すると、溶接金属の靱性が劣化す
る。このため、Nは0.0050%以下に限定することが好ま
しい。なお、溶接金属中のN含有量を0.0020%以下に低
減することも可能であるが、溶接材料コストが増加し、
溶接継手の作製費が高価となるため、Nは0.0020%以上
とするのが好ましい。
【0031】Si:0.1 〜1.0 % Siは、溶接金属中の酸素低減に有効な元素であるが、0.
1 %未満では溶接金属中の酸素量が高くなり、良好な溶
接金属靭性が得られ難くなる。一方、1.0 %を超えて多
量に含有すると、島状マルテンサイトが生成するように
なり、溶接金属の靱性が劣化する。このため、Siは0.1
〜1.0 %に限定することが好ましい。
【0032】Mn:0.7 〜2.5 % 溶接金属中のMn含有量が0.7 %未満では、溶接金属のパ
ーライト変態を抑制し、溶接金属の靭性が劣化する。一
方、溶接金属中のMn量が2.5 %を超えると、島状マルテ
ンサイトが生成するようになり、溶接金属の靭性が劣化
する。このため、溶接金属中のMnは0.7 〜2.5 %とする
ことが好ましい。
【0033】Ti:0.003 〜0.030 % Tiは、溶接金属中に酸化物として存在し、フェライトの
生成核として作用し、フェライト粒の微細化に寄与す
る。このような効果は0.003 %以上の含有で認められ
る。一方、0.030 %を超えて含有すると、溶接金属の強
度が高くなりすぎて、溶接金属の硬さ上昇による低温割
れが起こり易くなる。このため、溶接金属中のTiは0.00
3 〜0.030 %に限定することが好ましい。
【0034】本発明の溶接金属は、上記した基本組成に
加えてさらに、Mo:0.1 〜0.5 %、Nb:0.01〜0.2 %、
Ni:0.05〜1.0 %のうちから選ばれた1種または2種以
上を含み、かつB/N:0.6 〜1.2 である組成を有する
ことが好ましい。Mo:0.1 〜0.5 %、Nb:0.01〜0.2
%、Ni:0.05〜1.0 %のうちから選ばれた1種または2
種以上 Mo、Nb、Niはいずれも、溶接金属の靱性を顕著に向上さ
せる作用を有しており、本発明では、必要に応じ選択し
て1種または2種以上含有できる。
【0035】Mo、Nbはオーステナイト粒界に析出する粗
大な粒界フェライトの生成を抑制し、溶接金属の靱性を
向上させる。このような効果は、Mo:0.1 %以上、Nb:
0.01%以上、それぞれの含有で顕著となる。一方、Mo:
0.5 %、Nb:0.2 %をそれぞれ超える含有は、溶接金属
の組織が上部ベイナイトとなりやすく、靱性が劣化す
る。このようなことから、それぞれ、Mo:0.1 〜0.5
%、Nb:0.01〜0.2 %の範囲とするのが好ましい。
【0036】また、Niは、フェライト相の靱性を向上さ
せて、溶接金属の靱性を向上させる。この効果は0.05%
以上の含有で顕著となる。一方、1.0 %を超えると低温
割れの発生が起こりやすくなる。このため、Niは、0.05
〜1.0 %の範囲とするのが好ましい。 B/N:0.6 〜1.2 Bは、オーステナイト粒界に析出する粗大な粒界フェラ
イトの生成を抑制する作用を有し、溶接金属の靭性を向
上させる元素であり、本発明では、B/N比(質量%
比)で0.6 以上含有することが好ましい。B/N比(質
量%比)で0.6 未満では安定的に更なる溶接金属靭性の
向上が期待できない。一方、B/N比(質量%比)で1.
2 を超えると、溶接金属の靭性が劣化する。なお、B
は、鋼ワイヤまたはフラックスから供給し、溶接金属中
に0.0010〜0.0040%含有することが好ましい。
【0037】なお、本発明の溶接継手における溶接金属
では、上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不
純物である。次に、本発明の溶接継手における溶接金属
の組織について、説明する。 粒界フェライト生成量:15面積%以下 溶接金属は、上記した組成に加えて、粒界フェライト生
成量が15面積%以下である組織を有することが好まし
い。粒界フェライト生成量を15面積%以下とすることに
より、大入熱サブマージアーク溶接継手の溶接金属に高
靭性を付与することができる。なお、更なる高靭性の付
与のためには、粒界フェライト生成量を10面積%以下と
することが好ましい。粒界フェライト生成量を10面積%
以下とするためには、上記したように溶接金属にMo,Nb
等を適正量含有させ、溶接金属中のB/N比(質量%
比)を0.6 〜1.2 の範囲に調整することが好ましい。
【0038】なお、溶接金属中の粒界フェライト生成量
は、観察面を研磨後、腐食液で腐食し、光学顕微鏡また
は電子顕微鏡を用いて、10〜500 倍で観察し、得られた
撮像を画像解析装置を用いて解析して求めた。なお、粒
界フェライト生成量の測定方法はこれに限定されないこ
とはいうまでもない。
【0039】
【実施例】(実施例1)表1に示す母材組成の490 MPa
級鋼板(板厚:25mm、40mm)に、図1(a)、(b)に
示す形状の開先加工を施し、1パスのサブマージアーク
溶接により溶接継手を作製した。鋼板25mm厚の場合の開
先形状は、レ型開先とし、開先角度40°、ルートフェー
ス2mmとした。また、鋼板40mm厚の場合の開先形状は、
Y型開先とし、開先角度35°、ルートフェース3mmとし
た。
【0040】サブマージアーク溶接は、2電極のサブマ
ージアーク溶接機を用いて、表2に示す溶接条件で、表
3に示すワイヤ組成の溶接用鋼ワイヤ(ワイヤ径:6.4m
m)を用いて行った。なお、使用したフラックスは、表
4に示す組成の、酸化ボロンを0.4 質量%含む市販の鉄
粉入り焼成型フラックスとした。なお、フラックス中に
含有する鉄粉は、海綿鉄を原料とした鉄粉を用いた。溶
接入熱は、板厚25mmの場合で153kJ/cm、板厚40mmの場合
で270kJ/cmであった。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】このようにして得られた溶接継手につい
て、溶接長中央部の図2(a),(b)に示す位置から
試験片を採取し、溶接金属の組成、組織、引張強さ、靱
性を調査した。溶接金属の組成は湿式分析で各元素の含
有量、B/N量を求め、また、組織は上記した方法で粒
界フェライト生成量を測定した。引張試験は、JIS Z 31
11の規定に準拠し、また、衝撃試験は、JIS Z 3112の規
定に準拠して実施し、引張強さTS、および0℃、−20
℃におけるシャルピー吸収エネルギー値vE0 、vE
-20 を求めた。
【0046】それらの結果を表5に示す。
【0047】
【表5】
【0048】本発明例はいずれも、溶接金属中の粒界フ
ェライト生成量が15面積%以下となっており、溶接金属
のvE0 が27J 以上と、母材規格の一般レベルと同等の
優れた靱性を有する溶接継手が得られている。また、本
発明の範囲内のMo、Nbを含有する鋼ワイヤを用いて得ら
れた溶接継手(溶接継手No.3、No.4、No.5)は、溶接金
属中の粒界フェライト生成量が10面積%以下となってお
り、溶接金属のvE-2 0 が27J を超える優れた靱性を有
している。
【0049】一方、本発明の範囲を外れる比較例はいず
れも、溶接金属の粒界フェライト生成量が15面積%を超
えており、溶接金属のvE0 が27J 未満と靭性が劣化し
ている。鋼ワイヤのN含有量が本発明の範囲を高く外れ
る比較例(溶接継手No.6)では、溶接金属のvE0 が27
J 未満と靱性が劣化している。また、鋼ワイヤのTi含有
量が本発明の範囲を低く外れる比較例(溶接継手No.7)
では、組織が粗大化し、溶接金属のvE0 が27J 未満と
靱性が劣化している。また、鋼ワイヤのTi/Nが本発明
の範囲を低く外れる比較例(溶接継手No.6、No.7、No.
8)では、溶接金属のvE0 が27J 未満と靱性が劣化し
ている。また、鋼ワイヤのTi含有量が本発明の範囲を高
く外れる比較例(溶接継手No.9)では、組織が上部ベイ
ナイト主体の組織となり、溶接金属のvE0 が27J 未満
と靱性が劣化している。また、鋼ワイヤのMn含有量が本
発明の範囲を低く外れる比較例(溶接継手No.10 )、鋼
ワイヤのSi含有量が本発明の範囲を高く外れる比較例
(溶接継手No.11 )では、溶接金属のフェライトが粗大
化して、vE0 が27J 未満と溶接金属の靱性が劣化して
いる。 (実施例2)表6に示す母材組成の490 MPa 級鋼板(板
厚:40mm)、建築構造用TMCP鋼板(板厚t:60mm)
に、図3に示す形状の開先加工を施し、1パスのサブマ
ージアーク溶接により溶接継手を作製した。開先形状
は、Y型開先とし、開先角度35°、ルートフェースd
(mm)を板厚t:40mmの場合には2mmとし、板厚t:60
mmの場合には3mmとした。
【0050】サブマージアーク溶接は、2電極のサブマ
ージアーク溶接機を用いて、表7に示す溶接条件で、表
8に示すワイヤ組成の溶接用鋼ワイヤ(ワイヤ径:6.4m
m)を用いて行った。なお、フラックスは、表9に示す
組成になるように原料を配合し、珪酸ソーダ水溶液とと
もに混練し、造粒したのち、500 ℃×15min の条件で焼
成し、粒子径3mm以下とした、酸化ボロンと鉄粉を含む
フラックスを使用した。なお、フラックス中に添加した
鉄粉は、表10に示す窒素含有量の鉄粉を用いた。溶接入
熱は、板厚t:40mmの場合で269kJ/cm、板厚t:60mmの
場合で549kJ/cmであった。
【0051】
【表6】
【0052】
【表7】
【0053】
【表8】
【0054】
【表9】
【0055】
【表10】
【0056】このようにして得られた溶接継手につい
て、実施例1と同様に、溶接長中央部の図2(a),
(b)に示す位置から試験片を採取し、溶接金属の組
成、組織、引張強さ、靱性を調査した。溶接金属の組
成、組織の測定方法は実施例1と同様とした。また、実
施例1と同様に、引張試験は、JIS Z 3111の規定に準拠
し、また、衝撃試験は、JIS Z 3112の規定に準拠して実
施し、引張強さTS、および0℃、−20℃におけるシャ
ルピー吸収エネルギー値vE0 、vE-20 を求めた。
【0057】それらの結果を表11に示す。
【0058】
【表11】
【0059】本発明例では、溶接金属中の粒界フェライ
ト生成量が15面積%以下となっており、溶接金属のvE
0 は、47J以上を満足し、また、溶接金属のvE
-20 は、27J以上を満足し、優れた靱性を有する溶接継
手が得られている。
【0060】
【発明の効果】本発明によれば、溶接入熱150kJ/cm以上
の大入熱サブマージアーク溶接でTi、Nb等の含有量が少
ない鋼材を溶接した場合にも、優れた靱性を有する溶接
金属が安定して得られ、溶接能率を顕著に向上でき、産
業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に使用した溶接継手の開先形状
の概要を示す模式図である。
【図2】実施例で採用した試験片採取位置を模式的に説
明する説明図である。(a)は衝撃試験片、(b)は引
張試験片の採取位置を示す。
【図3】本発明の実施例に使用した溶接継手の開先形状
の概要を示す模式図である。
【図4】溶接金属のシャルピー吸収エネルギーvE0
粒界フェライト生成量との関係を示すグラフである。
【図5】溶接金属の粒界フェライト生成量とB/Nとの
関係を示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 安田 功一 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内 Fターム(参考) 4E001 AA03 BB05 DA01 DC07 EA05 EA07 4E084 AA03 AA07 AA11 AA20 AA26 BA02 CA03 GA02 HA10

Claims (9)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%で、 C:0.03〜0.10%、 N:0.0035%以下、 Si:0.40%以下、 Mn:1.0 〜2.5 % を含み、さらにTiを0.03%以上で、かつTi/N:15〜50
    を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物
    からなるワイヤ組成を有することを特徴とする大入熱サ
    ブマージアーク溶接用鋼ワイヤ。
  2. 【請求項2】 前記ワイヤ組成に加えてさらに、質量%
    で、Mo:0.10〜0.60%、Nb:0.01〜0.10%、B:0.0005
    〜0.0100%、Ni:0.2 〜2.0 %のうちから選ばれた1種
    または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に
    記載の大入熱サブマージアーク溶接用鋼ワイヤ。
  3. 【請求項3】 Ti含有量が0.006 質量%以下、Nb含有量
    が0.012 質量%以下の母材組成を有する鋼材を入熱150k
    J/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接により溶接接合
    するサブマージアーク溶接継手の製造方法において、前
    記大入熱サブマージアーク溶接で使用するワイヤを、質
    量%で、 C:0.03〜0.10%、 N:0.0035%以下、 Si:0.40%以下、 Mn:1.0 〜2.5 % を含み、さらにTiを0.03%以上で、かつTi/N:15〜50
    を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物
    からなるワイヤ組成を有する大入熱サブマージアーク溶
    接用鋼ワイヤとすることを特徴とする優れた溶接金属部
    靱性を有するサブマージアーク溶接継手の製造方法。
  4. 【請求項4】 前記ワイヤが、前記ワイヤ組成に加えて
    さらに、質量%で、Mo:0.10〜0.60%、Nb:0.01〜0.10
    %、B:0.0005〜0.0100%、Ni:0.2 〜2.0%のうちか
    ら選ばれた1種または2種以上を含有する大入熱サブマ
    ージアーク溶接用鋼ワイヤであることを特徴とする請求
    項3に記載のサブマージアーク溶接継手の製造方法。
  5. 【請求項5】 前記大入熱サブマージアーク溶接で使用
    するフラックスを、ボロン酸化物を含むフラックスとす
    ることを特徴とする請求項3または4に記載のサブマー
    ジアーク溶接継手の製造方法。
  6. 【請求項6】 前記フラックスが、鉄粉以外の合金粉を
    8質量%以下含むフラックスとすることを特徴とする請
    求項5に記載のサブマージアーク溶接継手の製造方法。
  7. 【請求項7】 前記フラックスが、質量%で、N:0.00
    30%以下を含む鉄粉を20〜45%含有することを特徴とす
    る請求項5または6に記載のサブマージアーク溶接継手
    の製造方法。
  8. 【請求項8】 溶接入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマー
    ジアーク溶接により溶接接合されたサブマージアーク溶
    接継手であって、前記サブマージアーク溶接継手の溶接
    金属が、質量%で、 C:0.03〜0.15%、 N:0.0050%以下、 Si:0.1 〜1.0 %、 Mn:0.7 〜2.5 % Ti:0.003 〜0.030 % を含む組成を有し、粒界フェライト生成量が15面積%以
    下である組織を有することを特徴とするサブマージアー
    ク溶接継手。
  9. 【請求項9】 前記組成に加えてさらに、質量%で、M
    o:0.1 〜0.5 %、Nb:0.01〜0.2 %、Ni:0.05〜1.0
    %のうちから選ばれた1種または2種以上を含み、かつ
    B/N:0.6 〜1.2 である組成を有し、粒界フェライト
    生成量が10面積%以下である組織を有することを特徴と
    する請求項8に記載のサブマージアーク溶接継手。
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