JP6364745B2 - 回収ボイラ捕集灰の処理方法及び処理装置 - Google Patents

回収ボイラ捕集灰の処理方法及び処理装置 Download PDF

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Description

本発明は、回収ボイラ捕集灰の処理方法及び処理装置に関する。具体的には、本発明は、回収ボイラの捕集灰からカリウムと塩素を溶解除去する処理方法であって、捕集灰と水を混合する際の塩化物イオン濃度を調節することにより、効率よくカリウムと塩素を除去する処理方法に関する。
回収ボイラは、クラフトパルプ製造工程で排出される廃液(黒液)を燃料とするボイラである。クラフトパルプ製造工程で排出された黒液は、蒸留器等を用いて濃縮され、ボイラの燃料として使用される。この濃縮黒液は、ボイラで燃焼されることで、有機分はエネルギーとして使用され、無機分はクラフトパルプ製造工程の薬品として回収される。クラフトパルプ製造工程では回収した無機分が繰り返し循環利用されることで、原料の木材チップ等に含まれる塩素やカリウムが濃縮され、腐食等の障害の原因となるため、ボイラ捕集灰等より塩素とカリウムを一定比率除去することが必要である。
ボイラ捕集灰とは、回収ボイラの煙道中に設置した電機集塵機で捕集された飛灰であり、硫酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを主成分とするものである。ボイラ捕集灰は、絶乾重量の30%程度がナトリウムであるため、黒液に戻し、クラフトパルプ製造用薬品のナトリウム源として利用される。なお、このほかにボイラ捕集灰には不純物として塩化ナトリウムおよび硫酸カリウムが含まれている。
カリウムや塩素の除去方法としては、ボイラ捕集灰中の塩化ナトリウム及び硫酸カリウムを水に溶解した後、スラリ中の固形分(硫酸ナトリウム)を分離回収する方法が挙げられる(特許文献1及び2)。また、ボイラ捕集灰を水分に溶解した溶解スラリを冷却し、冷却により再結晶化したナトリウム分を溶解スラリから分離(ろ過)する方法も知られている(特許文献3〜5)。さらに、カリウム成分を除去する目的で塩化ナトリウムなどの塩溶液でボイラ捕集灰を溶解する試みもなされている(特許文献6)。
特開平2−264089号公報 特開平4−153386号公報 特開平11−12973号公報 特開平9−29201号公報 特開平10−118611号公報 特開平4−146284号公報
しかしながら、再結晶化を行わない特許文献1の処理方法では、未溶解の硫酸ナトリウムが高い比率で10水和物となって、回収物であるナトリウム塩の水分含有率が高くなるという問題があった。また、水分が結晶水に取られることで、カリウムおよび塩素を溶解するための水が減って、カリウムおよび塩素の除去率が悪化するという問題があった。さらに、捕集灰中のナトリウムが炭酸塩である場合、ナトリウムの回収率が下がるという問題もあった。同様に、特許文献2の処理方法採用した場合、ナトリウム回収率が上がらないという問題があった。
一方、再結晶化を行う特許文献3〜5の処理方法では、再結晶化に必要な冷却および再結晶化時や中和時の発熱を相殺するための冷却負荷が多大であるという問題があった。さらに、再結晶化物はすべて10水和物であることから、再結晶化物を回収し、黒液ラインに戻した場合、黒液を希釈してしまうという問題もあった。黒液が希釈されると、黒液濃縮に必要なエネルギーが増大し問題となる。
また、カリウム成分を除去する目的で、塩化ナトリウムなどの塩溶液でボイラ捕集灰を溶解する特許文献6の処理方法では、塩素の溶解率が低く、塩素除去の効果が不十分であるという問題がある。この場合、脱水後の固形物に多くの塩素イオンやカリウムイオンが残されているため、この固形物を回収ボイラの黒液ラインに戻した場合に、黒液中のカリウム、塩素のイオン濃度が高くなるという問題がある。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、ボイラ捕集灰中に含まれるカリウムおよび塩素の除去率を高めつつも、高いナトリウム塩の回収率を実現し、捕集灰を溶解した溶解スラリの冷却にかかるコストを削減し得る方法を検討した。すなわち、回収ボイラの捕集灰からカリウムと塩素を高効率で除去し、かつナトリウム塩を高収率で回収する際の、エネルギー効率およびナトリウム回収率を向上させることを目的として検討を進めた。
さらに、本発明者らは、本発明の処理方法によりボイラ捕集灰を処理した後、回収された固形物を回収ボイラの黒液ラインに戻した場合であっても、黒液の希釈を促進させない回収ボイラ捕集灰の処理方法を提供することも目的として検討を進めた。
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合する工程において、溶解スラリ中の塩化物イオン濃度を5g/l以上100g/l未満となるように含有することにより、捕集灰中に含まれるカリウムおよび塩素の除去率を高めつつも、高いナトリウム塩の回収率を実現し、溶解スラリの冷却負荷を軽減し得ることを見出した。
さらに、本発明者らは、上記のような方法を用いることにより、溶解スラリ中で溶解せずに回収されるナトリウム塩の多くを無水物の硫酸や炭酸のナトリウム塩とすることができ、ナトリウム塩の水分含有率を低減し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
[1]回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを得る工程と、前記溶解スラリから固形分を分離する工程を有し、前記溶解スラリを得る工程において、前記溶解スラリ中の塩化物イオン濃度が5g/l以上100g/l未満となるように制御することを特徴とする回収ボイラ捕集灰の処理方法。
[2]前記水分は、塩化物イオン含有水溶液を含むことを特徴とする[1]に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
[3]前記溶解スラリを得る工程は、前記溶解スラリの溶解スラリ中の塩化物イオンが20〜70mg/lとなるように、塩化物イオンを含む水溶液を添加する工程を有することを特徴とする[1]又は[2]に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
[4]前記塩化物イオン含有水溶液は、回収ボイラの捕集灰を水分に溶解して得られる溶解スラリから固形分を分離したろ液を含有することを特徴とする[2]又は[3]に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
[5]前記溶解スラリを得る工程では、前記捕集灰に含まれるナトリウムの溶解率を90質量%以下とすることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
[6]前記溶解スラリを得る工程では、前記捕集灰に含まれるカリウムの溶解率を50質量%以上とすることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1項に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
[7]前記溶解スラリを得る工程では、前記捕集灰に含まれる塩素の溶解率を50質量%以上とすることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか1項に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
[8]前記溶解スラリを得る工程では、前記捕集灰と水分の混合質量比率が1:0.2〜50となるように混合することを特徴とする[1]〜[7]のいずれか1項に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
[9]回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合するスラリ化槽と、前記スラリ化槽に連結された分離機とを有する回収ボイラ捕集灰の処理装置において、前記分離機はろ液を回収する機構と、回収したろ液を前記スラリ化槽に送液する機構を備え、前記スラリ化槽では、スラリ化槽に存在する塩化物イオンの濃度が5g/l以上100g/l未満となるように制御されることを特徴とする回収ボイラ捕集灰の処理装置。
[10]前記送液する機構は、スラリ化槽に存在する塩化物イオンの濃度に応じて送液量を調節し得る機構を有することを特徴とする[9]に記載の回収ボイラ捕集灰の処理装置。
本発明の処理方法によれば、捕集灰中に含まれるカリウムおよび塩素の除去率を高めつつも、高いナトリウム塩の回収率を実現し、溶解スラリの冷却負荷を軽減することができる。すなわち、本発明の処理方法は、従来技術がナトリウムを回収するために行っていた再結晶化工程を不要とすることが可能で、再結晶化に必要な冷却負荷を軽減し、さらに再結晶化工程の省略によって処理工程の簡略化にも寄与できる。
さらに、本発明の処理方法を用いれば、水分含有率の低い硫酸ナトリウムや炭酸ナトリウムを主成分とする固形回収物を得ることが可能となり、回収物を黒液ラインに戻した際に黒液の濃度が希釈されることを抑制することができる。これにより、ナトリウムを回収するために固形物を黒液ラインに戻した場合であってもボイラ効率を低下させることがなくなる。
なお、回収されたナトリウム塩は塩素イオンやカリウムイオンの含有量が少ないため、回収されたナトリウム塩をボイラの黒液ラインに戻した場合であっても、黒液のカリウムおよび塩素濃度を高めることが殆どないという特徴がある。
図1は、本発明の回収ボイラ捕集灰の処理方法の一例を示す工程の概略図である。 図2は、本発明の回収ボイラ捕集灰の処理方法の一例を示す工程の概略図である。 図3は、従来の回収ボイラ捕集灰の処理方法を示す工程の概略図である。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
(処理方法)
本発明は、回収ボイラの燃焼により生じる捕集灰の処理方法に関する。本発明の処理方法は、回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを得る工程と、溶解スラリから固形分を分離する工程を含む。また、溶解スラリを得る工程においては、溶解スラリ中の塩化物イオン濃度が5g/l以上100g/l未満となるように制御される。
溶解スラリ中の塩化物イオン濃度は5g/l以上100g/l未満となるように制御されればよく、10〜80g/lとなることが好ましく、20〜70g/lとなることがより好ましい。30〜50g/lとなることが最も好ましい。溶解スラリ中の塩化物イオン濃度を上記範囲内に制御ことにより、カリウムおよび塩素の除去率を高めつつも、ナトリウムの回収率を高め、溶解スラリから分離されるナトリウム塩の収率を高めることが可能となる。さらに、硫酸ナトリウム結晶の水分含有率を低減することもできる。
一方、塩化物イオン濃度が上記下限値以下ではナトリウムの回収率が不十分である。また、塩化物イオン濃度が上記上限値以上では、塩素の溶解率が低く、塩素除去の効果が不十分である。また、塩化物イオン濃度が上記上限値以上では、回収された脱水後のナトリウム塩の固形分に多くの塩素イオンとカリウムイオンが残留し、回収ボイラの黒液ラインに戻した場合に、黒液中のカリウム、塩素のイオン濃度が高くなるおそれがある。
さらに、ボイラ捕集灰を溶解する際の溶解スラリ中の塩化物イオン濃度を上記範囲内とすることにより、捕集灰中の硫酸ナトリウムの溶解を抑制することができ、高いナトリウム回収率が得られる。捕集灰中の硫酸ナトリウムの溶解を抑制することで、スラリに溶解した硫酸ナトリウムを冷却して10水和物結晶を再結晶化して回収する従来の方法に比べて、冷却負荷を抑制しつつナトリウム塩を得ることができる。従来の処理方法では、冷却して硫酸ナトリウム(10水和物)が結晶化する際の水和熱による温度上昇や硫酸ナトリウムの溶解熱による温度上昇分の冷却をする必要があり、冷却負荷が極めて大きかった。
溶解スラリを得る工程では、水分は、塩化物イオン含有水溶液を含むことが好ましい。具体的には、溶解スラリを得る工程は、塩化物イオンを含む水溶液を添加する工程を有することが好ましい。塩化物イオンを含む水溶液を添加する工程では、塩化物イオンを含む水溶液は、塩化物イオンが5g/l以上100g/l未満となるように添加されることが好ましく、10〜80g/lとなるように添加されることがより好ましく、20〜70g/lとなるように添加されることがさらに好ましい。
図1には、本発明の回収ボイラ捕集灰の処理方法の一例を示す工程の概略図を示している。図1に示すように、回収ボイラで生じた捕集灰は、スラリ化槽に移され、そこで水と混合される。さらに、スラリ化槽には、硫酸が添加されることとしてもよい。また、スラリ化槽には、塩化物イオンを含む水溶液が添加されることが好ましい。スラリ化槽に添加される水と氷の量や水温は、後述するような条件となるように調節される。
スラリ化槽は、分離機に連結されており、スラリ化槽で混合された溶解スラリは、分離機に供給される。分離機では、溶解スラリが溶解成分(ろ液)と固形分に分離される。固形分は沈殿物として分離され、溶解成分はろ液として回収される。分離機において分離された沈殿物には、硫酸ナトリウム(Na2SO4)や炭酸ナトリウム(Na2CO3)が含まれる。また、ろ液には、カリウムや塩素がイオンとして含まれている。
分離機において分離されたろ液には、カリウムや塩素がイオンとして含まれている。本発明では、このように、捕集灰の溶解スラリからろ液を分離することにより、カリウムや塩素を捕集灰から除去することが可能となる。このようにして、捕集灰からカリウムや塩素を除去することにより、回収ボイラの装置の腐食等を抑制することができる。なお、このように捕集灰からカリウムや塩素を除去することを、各々脱カリ(脱K)、脱塩(脱Cl)と呼ぶ場合がある。
カリウムの除去率は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。また、塩素の除去率は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
なお、除去率は、100質量%から捕集灰に含まれるカリウム又は塩素の質量に対する、黒液に戻されるカリウム又は塩素の質量百分率を引いたものである。除去率は、具体的には、以下の式で算出される。
除去率(質量%)=100−(黒液に戻される質量数/捕集灰に含まれる質量)×100
分離機において分離されたろ液は通常は廃棄されるが、本発明では、ろ液を再利用することが好ましく、上述した塩化物イオンを含む水溶液として再利用されることが好ましい。図2に示されているように、分離機において分離されたろ液は回収され、それを再びスラリ化槽に戻すことが好ましい。このように、ろ液を再びスラリ化槽に戻すことにより、スラリ化槽におけるナトリウムの溶解率をより低減させることが可能となり、硫酸ナトリウム結晶の回収率を高めることができる。硫酸ナトリウムの溶解を抑制し、再結晶化に伴う冷却コストを削減できる。
スラリ化槽にろ液が戻される場合、そのろ液の量は、ろ液に含まれる塩化物イオンの濃度によって適宜調節されることが好ましい。スラリ化槽の塩化物イオンの濃度が5g/l以上100g/l未満となるように、ろ液が戻されることが好ましく、10〜80g/lとなるように戻されることがより好ましく、20〜70g/lとなるように戻されることがさらに好ましい。
分離機において分離された沈殿物には、主として硫酸ナトリウム(Na2SO4)が含まれる。この沈殿物は、スラリ化槽で溶解せずに残った固形分であり、主成分の無水硫酸ナトリウムは結晶水を持たないため、沈殿物の水分含有率は低い。このため、沈殿物を回収して、黒液に戻した場合であっても、黒液の濃度低下を抑制できる。なお、含水率は分離機や分離方法によって多少異なるが、0〜40%が好ましく、0〜20%がさらに好ましい。
回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを得る工程では、捕集灰に含まれるナトリウムの溶解率を90質量%以下とすることが好ましく、60質量%以下とすることがより好ましく、50質量%以下とすることがさらに好ましく、35質量%以下とすることが特に好ましい。溶解スラリを得る工程において、捕集灰に含まれるナトリウムの溶解率を上記範囲内とすることにより、カリウムや塩素を捕集灰から分離するために行われる溶解スラリの冷却負荷を低減することができる。すなわち、溶解スラリの冷却にかかるエネルギーを低減することができる。このため、エネルギー効率よく、捕集灰からカリウム及び塩素を除去することが可能となる。また、捕集灰に含まれるナトリウムの溶解率を上記範囲内とすることにより、溶解スラリを別途冷却する工程を省略することが可能となり、処理工程を簡略化することが可能となる。
ここで、ナトリウム溶解率とは、100質量%から、捕集灰に含まれるナトリウムの質量に対する黒液に戻されるナトリウムの質量百分率を引いたものである。具体的には、以下の式で算出される。
溶解率(質量%)=100−(黒液に戻される質量数/捕集灰に含まれる質量)×100
回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを得る工程では、捕集灰に含まれるカリウムの溶解率を50質量%以上とすることが好ましく、60質量%以上とすることがより好ましく、70質量%以上とすることが特に好ましい。溶解スラリのカリウムの溶解率を上記範囲以上とすることにより、捕集灰からカリウムを十分に除去することが可能となる。すなわち、カリウムの除去率を高めることができる。
また、回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを得る工程では、捕集灰に含まれる塩素の溶解率を50質量%以上とすることが好ましく、70質量%以上とすることがより好ましい。溶解スラリの塩素の溶解率を上記範囲以上とすることにより、捕集灰から塩素を十分に除去することが可能となる。すなわち、塩素の除去率を高めることができる。
回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを得る工程は、回収ボイラの燃焼により生じる捕集灰を水分に混合させスラリ化する工程である。通常、この工程は、スラリ化槽で行われる。スラリ化槽では、捕集灰の量に応じて必要量の水分が添加される。捕集灰と水分の混合質量比率は、1:0.2〜3.0であることが好ましく、1:0.3〜2.5であることがより好ましく、1:0.5〜1.5であることがさらに好ましい。捕集灰と水分の混合質量比率を上記範囲内とすることにより、ナトリウム、カリウム及び塩素の各々の溶解率を調節することが可能となり、捕集灰からカリウム及び塩素を効率よく除去することができる。
さらにスラリ化槽に硫酸を加え、分離した固形分中の硫酸比率やナトリウム回収率を調整することができる。溶解スラリのpHは7〜12であることが好ましく、7〜10であることがより好ましい。
スラリ化槽において溶解スラリを作成する工程は、回分式(バッチ式)でも連続式でも良い。スラリ化槽の温度を35℃以下とする場合、捕集灰と水分との混合時間に比例して捕集灰中の硫酸ナトリウムが水和熱を発しながら10水和物に変化するため、混合時間の管理は重要である。回分式の場合、混合時間は、捕集灰の投入からスラリ排出までの時間である。なお、連続式の場合、混合時間は、捕集灰投入量とスラリ引き抜き量の比率で調整する。
回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合し溶解スラリを得る工程では、溶解スラリの水温を25℃未満もしくは40〜100℃に調整することが好ましく、20℃未満もしくは50〜85℃に調整することがより好ましい。
さらに、溶解スラリの水温を25℃未満とする場合、混合時間は5〜70分であることが好ましく、10〜60分であることがより好ましく、20〜50分であることが最も好ましい。また、溶解スラリの水温を40〜100℃とする場合、捕集灰と水分との混合時間は10〜120分であることが好ましく、20〜90分であることがより好ましく、30〜80分であることがさらに好ましい。
このように、溶解スラリを上記温度に保つことや、混合時間を上記範囲内に制御することにより、捕集灰に含まれる硫酸カリウムや塩化ナトリウムの除去率を高く維持しつつ、捕集灰に含まれるナトリウム塩の溶解率を低下させることが可能となる。水分に溶解したナトリウム塩は、黒液に回収するために析出槽で冷却し、再結晶化して回収するが、スラリ化温度を上記温度範囲に保つことで、硫酸ナトリウムや炭酸ナトリウムが未溶解で残り、析出槽の省略、もしくは再結晶化量の削減により再結晶化に必要な冷却エネルギーを削減できる。
図3には、従来技術における回収ボイラ捕集灰の処理方法を示す工程の概略図を示している。図3に示すように、従来技術においては、スラリ化槽で捕集灰と水分を混合し溶解スラリを得た後に、その溶解スラリをさらに析出槽に移し冷却することが行われていた。すなわち、従来技術においては、スラリ化槽では、ナトリウム、カリウム、塩素の全ての溶解率が最大となるように溶解が行われ、その溶解スラリを析出槽で冷却することにより、硫酸ナトリウム等の固形分を再結晶させることが行われていた。析出槽において、このような冷却工程が設けられ、固形分の再結晶が析出させた後、固形分の分離が行われる。ここで、沈殿物として硫酸ナトリウムが得られ、カリウムイオンや塩化物イオンが含まれたろ液が分離されていた。
図1又は図2と図3を比較すると分かるように、本発明の回収ボイラ捕集灰の処理方法においては、析出槽を設ける必要がない。本発明においても析出槽を設けることとしてもよいが、その析出槽における冷却エネルギーは少なくて済み、冷却時間や冷却コストを大幅に低減することが可能となる。
本発明では、析出槽を設けない場合であっても、図3のように析出槽を設けた場合と同等にカリウムや塩素を除去することができる。すなわち、本発明の処理方法を用いることにより、回収ボイラの捕集灰の処理工程を簡略化することができ、処理コストを抑制することができる。さらに、回収ボイラ捕集灰の処理装置を小型化することが可能となり、処理スペースを省スペース化することができる。
また、図3に示されたような工程を経て分離された硫酸ナトリウムは、溶解スラリに溶解した後に再結晶化により得られたものであり、結晶水を含む。具体的には、硫酸ナトリウムは10水和物(Na2SO4・10H2O)として得られ、固形分中の含水率が高い。
硫酸ナトリウムを主成分とする沈殿物は黒液に戻すことで回収ボイラを経由してクラフトパルプ製造用薬品に再生できる。黒液は回収ボイラで燃焼させる前に固形分濃度80%程度まで濃縮機を使って水分を蒸発させる必要がある。図2の工程から得られる沈殿物は結晶水を多く含み、含水率が高いため、蒸発すべき水分が増え、濃縮機の負担が大きくなる問題があった。一方、図1の工程を採用し、沈殿物の結晶水が減って含水率が低くなることで、濃縮機の負担、すなわち濃縮機でのエネルギー投入量を低減できる。
(処理装置)
本発明は、回収ボイラの燃焼により生じる捕集灰の処理装置に関する。本発明の処理装置は、回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合するスラリ化槽と、スラリ化槽に連結された分離機とを有する。分離機はろ液を回収する機構と、回収したろ液をスラリ化槽に送液する機構を備える。また、スラリ化槽では、スラリ化槽に存在する塩化物イオンの濃度が5g/l以上100g/l未満となるように制御される。
分離機には、得られたろ液を回収する他のタンクを備えていてもよい。例えば、ろ液をポンプ等により回収し、それを一時貯蔵できるタンクを備えていることが好ましい。
このような、ろ液を回収するタンクはさらにスラリ化槽と連結されていることが好ましい。ろ液をスラリ化槽に送液するためには、ろ液を貯蔵するタンクとスラリ化槽の間にポンプ等を設け、送液することが好ましい。
送液する機構は、スラリ化槽に存在する塩化物イオンの濃度に応じて送液量を調節し得る機構を有することが好ましい。具体的には、スラリ化槽の塩化物イオンの濃度を測定し、所望の塩化物イオン濃度となるように、ろ液の送液を促進したり中断したりする機構を備えることが好ましい。
スラリ化槽では、捕集灰に含まれるナトリウムの溶解率が90質量%以下に調節されればよく、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下とすることが特に好ましい。また、スラリ化槽では、捕集灰に含まれるカリウムの溶解率が50質量%以上に調節されることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上とすることが特に好ましい。さらに、スラリ化槽では、捕集灰に含まれる塩素の溶解率が50質量%以上に調節されることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
スラリ化槽は、捕集灰に含まれるナトリウム、カリウム、塩素の溶解率を各々、上記範囲内とする調節機構を備えることが好ましい。例えば、冷却機構を備えていることが好ましい。このようにスラリ化槽に冷却機構を備え付けることにより、スラリ化槽中の溶解スラリを任意の温度に調整できる。
スラリ化槽は、溶解スラリのナトリウム、カリウム、塩素の各々の溶解率を測定する機構を備えていてもよい。さらに、その測定結果を冷却機構にフィードバックし、冷却温度を適宜調節することとしてもよい。このような測定機構を備えることにより、捕集灰から、効率良くカリウム及び塩素を除去することが可能となる。
スラリ化槽には、捕集灰と水を効率良く混合できる機構が備え付けられていることが好ましく、例えば、撹拌ペラ等を有することが好ましい。
分離機は、スラリ化槽で得られた溶解スラリ中に含まれる固形分とろ液を分離する機器である。分離機としては、デカンター方式、加圧ろ過方式、ベルトプレス方式などが採用できる。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
実施例3は参考例である。
(実施例1)
溶解スラリの塩化物イオン濃度が6g/lになるように予め塩化ナトリウムを溶かした塩化ナトリウム溶液でボイラ捕集灰を処理した。ボイラ捕集灰と水分(塩化ナトリウムを除いた溶媒のみとして)の混合質量比率を1:1.4、溶解スラリ温度60℃としてボイラ捕集灰100kgをスラリ化した。ボイラ捕集灰は硫酸カリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウムを含有し、かつ計算上のナトリウム含有質量比は30%であった。
実施例1では、ナトリウム回収率は52%であり、目標回収率を65%とする場合には、12.3kgのナトリウム塩を再結晶化して回収することが必要となった。再結晶化時の発熱量は6700kJ、結晶水量は15.6kgであった。
(実施例2)
実施例1と同様のボイラ捕集灰を用いて、溶解スラリの塩化物イオン濃度が40g/lになるように予め塩化ナトリウムを溶かした塩化ナトリウム溶液でボイラ捕集灰を処理した。その他の処理条件は実施例1と同様にした。
この場合のナトリウム回収率は66%であり、目標回収率を65%とした場合、追加のナトリウム塩の再結晶化は不要であった。析出槽を省いても、高いナトリウム回収率が得られた。さらに、再結晶化で新たに持ち込まれる結晶水がなくなり、分離機で分離した固形物を黒液に回収した場合の水分による黒液の希釈も減少した。
(実施例3)
実施例1と同様のボイラ捕集灰を用いて、溶解スラリの塩化物イオン濃度が95g/lになるように予め塩化ナトリウムを溶かした塩化ナトリウム溶液でボイラ捕集灰を処理した。その他の処理条件は実施例1と同様にした。
この場合のナトリウム回収率は88%であり、目標回収率を65%とした場合、追加のナトリウム塩の再結晶化は不要であった。析出槽を省いても、高いナトリウム回収率が得られた。さらに、再結晶化で新たに持ち込まれる結晶水がなくなり、分離機で分離した固形物を黒液に回収した場合の水分による黒液の希釈も減少した。
(実施例4)
実施例1と同様のボイラ捕集灰を用いて、実施例2の分離機で分離して得られたろ液25%を含有する水分(溶解スラリの塩化物イオン濃度が32g/lであった)でボイラ捕集灰を処理した。ボイラ捕集灰と水分(塩化ナトリウムを除いた溶媒のみとして)の混合質量比率を1:1.4、溶解スラリ温度60℃としてボイラ捕集灰100kgをスラリ化した。
この場合のナトリウム回収率は69%であり、目標回収率を65%とした場合、追加のナトリウム塩の再結晶化は不要であった。析出槽を省いても、高いナトリウム回収率が得られた。さらに、再結晶化で新たに持ち込まれる結晶水がなくなり、分離機で分離した固形物を黒液に回収した場合の水分による黒液の希釈も減少した。
(比較例1)
実施例1と同様のボイラ捕集灰を用いて、溶解スラリの塩化物イオン濃度が3g/lになるように予め塩化ナトリウムを溶かした塩化ナトリウム溶液でボイラ捕集灰を処理した。その他の処理条件は実施例1と同様にした。
この場合のナトリウム回収率は45%と低く、目標回収率を65%とする場合には、18.7kgのナトリウム塩を再結晶化して回収することが必要となった。再結晶化時の発熱量は10100KJ、結晶水量は23.7Kgであった。
(比較例2)
実施例1と同様のボイラ捕集灰を用いて、溶解スラリの塩化物イオン濃度が105g/lになるように予め塩化ナトリウムを溶かした塩化ナトリウム溶液でボイラ捕集灰を処理した。その他の処理条件は実施例1と同様にした。
この場合のナトリウム回収率は89%と高いが、塩素除去率が48%と低く、50%未満であった。
Figure 0006364745
従来技術による比較例に対し、本発明ではナトリウムの溶解率が低く抑えられ、かつ塩素とカリウムの溶解率が高く、高い塩素とカリウムの除去効果が得られている。さらに、本発明においては、ナトリウム塩の再結晶化に伴う発熱が抑制され、発熱を相殺するための冷却が不要となり、ナトリウム回収率の目標設定しだいでは結晶化設備も不要となることが分かる。
一方、比較例1においては、ナトリウム塩の再結晶化に伴う発熱が非常に大きく、ナトリウム塩に含まれる結晶水量も多い、また、比較例2では、塩素除去率が低下していることがわかる。
本発明の処理方法によれば、捕集灰中に含まれるカリウムおよび塩素の除去率を高めつつも、溶解スラリの冷却負荷を軽減することができる。さらに本発明の処理方法を用いれば、結晶水が少ない硫酸ナトリウムを得ることが可能となり、黒液ラインに戻した際に黒液の濃度を希釈することを抑制することができ、産業上の利用可能性が高い。

Claims (8)

  1. 回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部をスラリ化槽において水分と混合し溶解スラリを得る工程と、前記スラリ化槽から前記溶解スラリを排出する工程と、前記スラリ化槽から排出される前記溶解スラリの塩化物イオンの濃度を測定する工程と、前記溶解スラリから固形分を分離する工程を有し、
    前記水分は、塩化物イオン含有水溶液を含み、
    前記溶解スラリを得る工程が前記溶解スラリ中の塩化物イオンが5〜70g/lとなるように塩化物イオンを含む水溶液を添加する工程を有することにより、前記溶解スラリを得る工程において、前記溶解スラリ中の塩化物イオン濃度が5〜70g/lとなるように制御し、
    前記溶解スラリの水温を25℃未満とする場合は前記捕集灰と前記水分との混合時間を5〜70分とし、前記溶解スラリの水温を40〜100℃とする場合は前記捕集灰と前記水分との混合時間を10〜120分とすることを特徴とする回収ボイラ捕集灰の処理方法。
  2. 前記溶解スラリを得る工程は、前記溶解スラリ中の塩化物イオンが20〜70g/lとなるように、塩化物イオンを含む水溶液を添加する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
  3. 前記塩化物イオン含有水溶液は、回収ボイラの捕集灰を水分に溶解して得られる溶解スラリから固形分を分離したろ液を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
  4. 前記溶解スラリを得る工程では、前記捕集灰に含まれるナトリウムの溶解率を90質量%以下とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
  5. 前記溶解スラリを得る工程では、前記捕集灰に含まれるカリウムの溶解率を50質量%以上とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
  6. 前記溶解スラリを得る工程では、前記捕集灰に含まれる塩素の溶解率を50質量%以上とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
  7. 前記溶解スラリを得る工程では、前記捕集灰と水分の混合質量比率が1:0.2〜50となるように混合することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の回収ボイラ捕集灰の処理方法。
  8. 回収ボイラの捕集灰の少なくとも一部を水分と混合するスラリ化槽と、前記スラリ化槽から排出される溶解スラリの塩化物イオンの濃度を測定する機構と、前記スラリ化槽に連結された分離機とを有する回収ボイラ捕集灰の処理装置において、
    前記分離機はろ液を回収する機構と、回収したろ液を前記スラリ化槽に送液する機構を備え、
    前記送液する機構はスラリ化槽に存在する塩化物イオンの濃度に応じて送液量を調節し得る機構を有し、
    前記スラリ化槽では、スラリ化槽に存在する塩化物イオンの濃度が5〜70g/lとなるように制御され、
    前記溶解スラリの水温を25℃未満とする場合は前記捕集灰と前記水分との混合時間を5〜70分とし、前記溶解スラリの水温を40〜100℃とする場合は前記捕集灰と前記水分との混合時間を10〜120分とすることを特徴とする回収ボイラ捕集灰の処理装置。
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