以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態の一例として、眼科装置1について説明する。まず、図1を参照して、眼科装置1の光学系について説明する。眼科装置1は、被検眼Eを検査するための眼科機器である。本実施形態では、眼科装置1は、眼底反射光と、眼底Erに蓄積された物質の自発蛍光と、のそれぞれによって眼底Erを撮影可能な走査型レーザー検眼鏡(Scanning Laser Opthalmoscope:SLO)であるものとして説明する。
本実施形態において、眼科装置1は、投光光学系2と、撮影光学系3と、回転ユニット30と、標準試料ユニット40と、を有している。まず、投光光学系2について説明する。投光光学系2は、被検眼Eの眼底Erにおける撮影範囲の各位置へ光(照明光、及び、励起光)を投光する光学系である。本実施形態において、投光光学系2には、レーザー光出射部11、穴開きミラー12、レンズ13、視度補正部14、凹面ミラー15、ポリゴンミラー16、凹面ミラー17、凹面ミラー18、ガルバノミラー19、ミラー20、および、凹面ミラー21、が含まれる。
レーザー光出射部11は、少なくとも第1波長のレーザー光と第2波長のレーザー光とを出射可能である。図2に示すように、本実施形態において、レーザー光出射部11は、第1レーザー光源11a、第2レーザー光源11b、ミラー100、および、ダイクロイックミラー101を有する。本実施形態では、第1レーザ光源11aは、波長790nm付近の赤外域のレーザー光(第1光)を出射する。また、第2レーザ光源11bは、波長490nm付近の可視域のレーザー光(第2光)を出射する。第1レーザー光源11aを出射した赤外域のレーザー光は、ダイクロイックミラー101を透過し、レーザー光出射部11を出て光軸L1上を進む。第2レーザー光源11bを出射した可視域のレーザー光は、ミラー100にて折り曲げられた後、ダイクロイックミラー101にて反射して光軸L1上を進む。なお、本実施形態では、2つのレーザー光源11a、11bを同時に点灯させることも、一方だけを点灯させることもできる。
レーザー光出射部11から出射したレーザー光は、中央に開口部を有する穴開きミラー12の開口部を通り、レンズ13を介した後、視度補正部14、凹面ミラー15にて反射し、ポリゴンミラー16に向かう。ポリゴンミラー16に反射された光束は、凹面ミラー17,18、ガルバノミラー19、ミラー20、凹面ミラー21で反射された後、被検眼Eの眼底Erで集光する。
視度補正部14は、視度補正を行うための機構である。視度補正部14は、2枚のミラー14a,14bと、図示しない駆動部とを有している。駆動部は、2枚のミラー14a,14bの位置関係を維持したまま、2枚のミラー14a,14bを矢印s方向に移動させる。その結果、投光光学系2、および、後述する受光光学系3の光路長が変更される。これによって、眼科装置1の視度補正が行われる。
また、ポリゴンミラー16を、図示しないモータによって回転させることによって、眼底Erにおけるレーザー光の照射位置(スキャン位置)が眼底Erの水平方向(即ち、X方向)に移動する。よって、レーザー光出射部11からレーザー光が出射されている状態で、ポリゴンミラー16を回動させることによって、眼底上でレーザー光が水平方向に走査される。
また、ガルバノミラー19を図示しないモータによって回動させることで、眼底Erにおけるレーザー光の照射位置が、眼底上で垂直方向(即ち、Y方向)に移動する。よって、レーザー光出射部11からレーザー光が出射されている状態で、ガルバノミラー19を回動させることによって、眼底上でレーザー光が垂直方向に走査される。このように、ポリゴンミラー16およびガルバノミラー19を駆動させることで、レーザー光によって眼底Erが2次元的に走査される。
レーザー光出射部11から眼底Erに対してレーザー光が照射されることに伴って、眼底Erから光が発せられる。具体的には、レーザー光の一部は、眼底Erで反射される。その結果、眼底Erで反射された眼底反射光が瞳孔から出射される。また、レーザー光の一部は、眼底Erに存在する自発蛍光物質を励起させる。本実施形態では、第2波長のレーザー光の一部によって、眼底Erに蓄積されているリポフスチンが励起されると考えられる。このため、眼底Erの自発蛍光物質から発せられた蛍光も、瞳孔から出射する。なお、一般に、自発蛍光物質から発せられる蛍光は、眼底反射光に比べて微弱な光である。このため、眼底反射光によって被検眼Eを撮影する場合に、眼底Erで発生する自発蛍光は問題になり難いと考えられる。
次に、撮影光学系3について説明する。撮影光学系3は、投光光学系2からのレーザー光に伴う眼底Erからの光(即ち、通常撮影時には眼底反射光、蛍光撮影時においは眼底Erで発生した蛍光)を受光するための受光光学系である。本実施形態において、撮影光学系3は、投光光学系2の光路L1上において、穴開きミラー12から凹面ミラー21までに配置された各部材を、投光光学系2と共用している。また、本実施形態の撮影光学系3は、レンズ22、ピンホール板23、レンズ24、および、受光素子25、を含む。
被検眼Eの眼底にレーザー光が照射される場合、レーザー光に基づいて眼底Erで反射または出射された光は、前述した投光光学系2を逆に辿り、穴開きミラー12で反射し、レンズ22へ導かれる。なお、被検眼Eの瞳位置と穴開きミラー12の開口部とは、光学的に共役な関係である。レンズ22へ導かれた眼底Erからの光は、ピンホール板23のピンホールにおいて焦点を結ぶ。焦点を結んだ眼底Erからの光は、レンズ24を介して受光素子25に受光される。なお、本実施形態では、受光素子25として、可視域及び赤外域に感度を持つAPD(アバランシェフォトダイオード)を用いている。
回転板ユニット30は、受光素子25に受光させる光の波長を選択する。回転板ユニット30は、回転板31、パルスモータ32、および、センサ33、を含む。
回転板31は、眼底Erで発生した蛍光を観察するためのバリアフィルタが設けられたディスクである。回転板31の中心から離れた板面の一部に光軸L2が通過し、かつ、回
転板31の板面が光軸L2に対して直交するように、回転板31は置かれている。パルスモータ32は、回転板31の中心に固定される回転軸32aを介して、回転板31を回転させる装置である。また、センサ33は、回転板31の位置を検出(回転角度検出)するための検出装置である。回転板31の所定位置に設けられた遮蔽板31aが、センサ33と重なるときに、回転板31の基準位置が検出される。本実施形態では、基準位置を基準として、回転板31の回転角度が調節される。
ここで、図3を参照して、回転板31の構成を詳しく説明する。図3は、レンズ22側から見た回転板31を示している。L2は、撮影光学系3の撮影光軸であり、Lzは、回転板31における撮影光学系3の撮影領域を表す。
回転板31には、フィルタ31bが設けられている。フィルタ31bは、可視蛍光撮影用のバリアフィルタである。フィルタ31bは、図4に示す分光特性を有する。フィルタ31bは、本実施形態では、第2波長のレーザー光(可視域のレーザー光)を眼底に照射して行う、FAF(fundus−auto−fluorescence:自発蛍光)撮影に用いる。なお、本実施形態における自発蛍光撮影は、網膜色素上皮のリポフスチンが第2レーザー光源11b(波長490nm付近)に自発蛍光(波長500nm付近〜波長750nm付近)を示す原理を利用した蛍光撮影である。図4に示すように、本実施形態において、フィルタ31bは、第2レーザー光源11bから出射されるレーザー光を励起光として眼底Erで発生する蛍光を透過する。一方で、フィルタ31bは、第1レーザー光源11aから出射される赤外域のレーザー光、第2レーザー光源11bから出射される可視域のレーザー光、及び、第1レーザー光源11aから出射されるレーザー光を励起光として眼底に発生する蛍光を遮断する。なお、本実施形態では、リポフスチンの発光に基づ
て自発蛍光撮影を行う場合について説明するが、眼底Erに存在する他の自発蛍光物質および眼底に投与された蛍光造影剤等を発光させて撮影を行うこともできる。この場合は、発光させたい蛍光物質の蛍光特性に合わせて、光源とフィルタとを設ければよい。
図3に示すように、フィルタ31bは、回転板31が回転された場合における撮影領域Lzの通過領域の軌跡上に配置されている。
また、図3に示すように、回転板31における撮影領域Lzの通過領域の軌跡上には、開口部31cが設けられている。開口部31cは、例えば、被検眼Eと装置との位置あわせ時、および、通常の眼底観察の際に光軸L2上に置かれる。このとき、開口部31cは、眼底Erからの光を全て通し、受光素子25に導く。なお、本実施形態において、開口部31cの大きさは、撮影光学系3の撮影領域Lzの大きさに略一致するように設計されている。
また、図1に示すように、標準試料ユニット40が、投光光学系2および撮影光学系3の共通の光路上に設けられる。具体的には、標準試料ユニット40は、凹面ミラー21とミラー20との間に設けられる。詳細は後述するが、本実施形態において、標準試料ユニット40は、眼底Erと共に撮影されて、自発蛍光の蛍光強度および中間透光体の混濁程度等の各種情報を求めるときの基準を、眼科装置1に取得させるためのユニットである。
標準試料ユニット40は、反射標準試料41(第1参照部41)と蛍光標準試料42(第2参照部42)とを含む。本実施形態では、反射標準試料41と蛍光標準試料42とのうち一方が、凹面ミラー21とミラー20との間で、レーザー光が被検眼Eの眼底Erを走査するときのレーザー光の通過領域内(すなわち、走査範囲内、撮影範囲内)に配置される。光束の通過領域内に配置された標準試料41,42は、レーザー光が照明されることによって、参照光(反射光または蛍光)を発する(反射または放射する)。標準試料41,42が発した参照光は、投光光学系2を逆に辿って、レンズ22へ導かれる。そして、受光光学系3の受光素子25に導かれる。このため、標準試料41は、図5に示すように、眼底Erと共に撮影される。
なお、標準試料41,42は、レーザー光の通過領域の外縁近傍に配置される。よって、撮影で取得する眼底画像の注目部位(例えば、画像中心)の情報が、標準試料41,42によって大きく損なわれることはない。
また、レーザー光の通過領域内に配置された標準試料41,42の一方は、0ディオプターの被検眼Eに対して視度補正を行ったときに眼底Erと共役になる。反射標準試料41と蛍光標準試料42とのうち、レーザー光の通過領域内に挿入されるものは、図示しない駆動機構によって切り替えられる。
反射標準試料41は、受光素子25で受光される眼底反射光の強度を正規化するために撮影する部材である。図6に示すように、反射標準試料41は、白部材41aと、黒部材41bとを備えている。白部材41aは、照射されるレーザー光の大部分を乱反射させる部材である。白部材41aには、例えば、白色の紙、および、硫酸バリウムが塗布された部材を用いてもよい。また、黒部材41bは、照射されるレーザー光の大部分を吸収する部材であればよい。例えば、黒色の植毛紙、および、艶消しの黒色が塗布された部材を用いてもよい。
また、蛍光標準試料42は、被検眼Eの眼底から発せられる蛍光の強度を算出するために撮影される部材である。蛍光標準試料42は、蛍光部材42aと、黒部材42bとを備えている。本実施形態において、蛍光部材42aは、所定の励起光(第2レーザー光源から出射される可視域のレーザー光)によって蛍光を発する部材である。蛍光部材42aは、使用する励起光の波長で蛍光を発生させる特性を持つ蛍光物質である。例えば第2レーザー光源11bからの可視光レーザーを励起光、フィルタ31bをバリアフィルタとして蛍光を取得する場合には、MICROSCOPY/MICROSCOPY EDUCATION製のFLUOR−REF Redを使用すればよい。また、黒部材42bは励起光を照射しても蛍光が発生しない部材を選べばよい。
なお、本実施形態では、撮影範囲に配置する標準試料41,42の一方を、0ディオプターの被検眼Eに対して視度補正を行ったときに被検眼Eの眼底Erと共役となる位置に配置している。しかし、標準試料41,42の配置位置はこれに限るものではなく、レーザー光の走査範囲内に標準試料41,42が配置されていればよい。
図7は、本実施形態における眼科装置1の制御系を示したブロック図である。眼科装置1の主な制御は、制御部200によって行われる。制御部200は、眼科装置1の各部の制御処理と、測定結果の演算処理とを行う電子回路を有する処理装置である。
本実施形態において、制御部200は、フラッシュメモリ205、画像処理IC206、水晶体透過率データベース207、視度補正部4、レーザー光出射部11、視度補正部14、ポリゴンミラー駆動用モータ16a、ガルバノミラー駆動用モータ19a、受光素子25、パルスモータ32、標準試料ユニット40、および、操作部50に接続される。また、制御部200は、画像処理IC206を介して、モニタ60と接続される。なお、モニタ60は、眼科装置1によって撮影された被検眼Eの画像、および、各種の測定結果を表示するための表示装置である。
また、制御部200は、CPU201と、ROM202と、RAM203とを備えている。CPU201は、眼科装置1に関する各種の処理を実行するための処理装置である。ROM202は、制御プログラムおよび固定データが格納された、不揮発性の記憶装置である。RAM203は、書き換え可能な揮発性の記憶装置である。RAM203には、例えば、眼科装置1による被検眼Eの撮影および測定に用いる一時データが格納される。
フラッシュメモリ205は、書き換え可能な不揮発性の記憶装置である。フラッシュメモリ205には、後述する蛍光画像撮影・解析処理を制御部200に実行させるためのプログラムが、少なくとも格納されている。
画像処理IC206は、受光素子25にて受光した信号を基に、被検眼Eの眼底画像を形成するための処理装置である。画像処理IC206は、受光素子25から逐次出力される受光信号に基づいて、1フレーム分の眼底画像の画像データを構築(生成)し、モニタ60に出力する。
水晶体透過率データベース207は、複数の被検眼について予め測定された水晶体透過率を格納するデータベースである。詳細は後述するが、本実施形態において、水晶体透過率データベース207の水晶体透過率は、白内障手術(例えば、IOL手術)を行った被検眼の、手術前と手術後とに撮影した眼底画像を用いて求めたものである。
操作部50には、検者に操作されるスイッチ等の入力装置が配設されている。本実施形態では、モード切替スイッチ50a、光源選択スイッチ50b、光量調節ダイアル50c、屈折力値入力スイッチ50d、ジョイスティック50e、撮影スイッチ50f等の各種スイッチと、が用意されている。
モード切替スイッチ50aは、制御部200で実行される眼科装置1の制御を、マニュアル撮影モードと、FAF撮影モードとに切り替えるためのスイッチである。詳細は後述するが、マニュアルモードは、赤外光の眼底反射光で、眼底を観察するモードである。また、FAF撮影モードは、眼底Erで発せられる自発蛍光を観察するモードである。光源選択スイッチ50bは、レーザー光出射部11から出射されるレーザー光の波長を選択するためのスイッチである。検者が光源選択スイッチ50bを操作することによって、第1レーザー光源11aおよび第2レーザー光源11bのうち、点灯および消灯させる光源を選択することができる。光量調節ダイアル50cは、レーザー光出射部11から出射されるレーザー光の光量を変更するためのダイアルである。本実施形態において、光量調節ダイアル50cは、第1レーザー光源11aの光量調整ダイアルと、第2レーザー光源11bの光量調整用ダイアルとの2つのダイアルを有する。屈折力値入力スイッチ50dは、予め測定しておいた被検眼Eの屈折力値を検者が入力するためのスイッチである。ジョイスティック50eは、検者が眼底Erの撮影範囲を指定するために操作される入力装置である。制御部200は、ジョイスティック50eの操作に応じて、図示しない駆動機構を駆動させて、眼科装置1を被検眼Eに対して移動させる。撮影スイッチ50fは、眼底画像を撮影(キャプチャ)するために操作されるスイッチである。
以上のような構成を有する眼科装置において、その動作について説明する。ここでは、マニュアル撮影モードで、被検眼Eに対する眼科装置1の位置あわせを行った後に、FAF撮影モード(自発蛍光撮影)で撮影を行い、自発蛍光画像の解析を行う方法について説明する。
<マニュアル撮影モード>
まず、検者は、眼科装置1を被検眼Eへ位置合わせするため、モード切替スイッチ50aを操作してマニュアル撮影モードを選択する。これによって、制御部200は、パルスモータ32を駆動させて、回転板31の開口部31cが光軸L2に位置するように回転板31の回転角度を調節する。また、制御部200は、標準試料ユニット40の駆動機構(図示せず)を駆動して、光路L1上に、反射標準試料41をセットする。
次に、検者は、光源選択スイッチ50bを操作して、第1レーザー光源11aのみが点灯する状態を選択する。これによって、制御部200は、第1レーザー光源11aを点灯させる。また、検者は、屈折力値入力スイッチ50dから、事前に測定しておいた被検眼Eの屈折力値を入力する。制御部200は、視度補正部14の図示しない駆動機構によって、屈折力値に応じた位置へミラー14a,14bを駆動させる。このようにして、視度補正が行われる。
更に、検者は、被検眼Eに対する眼科装置1の撮影位置を変更するために、ジョイスティック50eを操作する。制御部200は、ジョイスティック50eから出力される操作信号に応じて、図示無き駆動機構を駆動させて、被検眼Eに対して眼科装置1の光学系を移動させる。ここで、検者は、被検眼Eの眼底にレーザー光が照射されて眼底上の所望する箇所がモニタ60に表示されるように、被検眼Eに対する眼科装置1の位置合わせを行う。
また、制御部200は、ポリゴンミラー16及びガルバノミラー19を動作させることにより、被検眼Eの眼底上でレーザー光を二次元的に走査させる。このため、眼底上におけるレーザー光の走査位置に対応する眼底反射光が、受光素子25によって逐次受光される。また、反射標準試料41が、レーザー光の走査領域内に置かれている。よって、反射標準試料41にレーザー光が照射される場合は、反射標準試料41からの反射光が、受光素子25によって受光される。眼底Erまたは反射標準試料41からの反射光が受光素子25に受光されることによって、受光素子25から画像処理IC206へ受光信号が逐次出力される。画像処理IC206は、受光素子25からの受光信号に基づいて、一枚の眼底画像(1フレーム分の画像)の画像データを、反射標準試料41からの反射情報を含めた状態で構築し、モニタ60に出力する。以上のような眼底画像の生成と出力とが、ポリゴンミラー16及びガルバノミラー19による1フレーム分の走査毎に繰り返されることで、モニタ60の画面上において、被検眼Eの眼底を動画にてリアルタイムで観察可能となる。
このような制御により、モニタ60には、赤外光を用いて撮影した眼底画像が動画像として表示される。検者は、モニタ60に表示される眼底画像を見ながら操作部50を操作して、眼底画像のピントを合わせる。被検眼Eと眼科装置1とが適正な位置関係となっていることが確認されてから、検者は、モード切替スイッチ50aを操作して、FAF撮影モードを選択する。
<FAF撮影モード>
FAF撮影モードが選択されると、制御部200は、ポリゴンミラー16及びガルバノミラー19の動作を維持したまま、以下の制御を行う。すなわち、制御部200は、第1レーザー光源11aからの赤外光の出射を停止させると共に、光軸L2上にフィルタ31bが位置するように回転板31を回転させる。また、制御部200は、蛍光標準試料42を、光路上にセットする。続いて、制御部200は、第2レーザー光源11bから可視光のレーザー光を出射する。前述したように、第2レーザー光源11bから出力される可視光のレーザー光は、眼底に蓄積されたリポフスチンを励起して、蛍光(自発蛍光)を発生させる。また、フィルタ31bは、リポフスチンから発せられる蛍光を透過して、第2レーザー光源11bの眼底反射光を遮断する。このため、受光素子25には、眼底で発生する蛍光が受光される。このため、被検眼Eの眼底で発生する蛍光(自発蛍光像)が、モニタ60に動画で表示される。よって、検者は、モニタ60を通じて、被検眼Eの眼底で発生する蛍光を観察できる。なお、検者は、自発蛍光像が見やすい明るさになるように光量調節ダイアル50cを操作する。これにより、制御部200は、光量調節ダイアル50cの示す光量に、第2レーザー光源11bから出力される光量を変更する。
適切な自発蛍光像(動画)が観察できたときに、検者は、撮影スイッチ50fを操作する。撮影スイッチ50fが操作されると、制御部200によって、蛍光画像撮影・解析処理が実行される。この蛍光画像撮影・解析処理は、自発蛍光像の静止画像を撮影すると共に、自発蛍光像の撮影範囲における自発蛍光の強度を求める処理である。
以下、図8を参照して、蛍光画像撮影・解析処理について説明する。初めに、自発蛍光像の静止画像を撮影する処理が実行される(S1)。CPU201は、ポリゴンミラー16およびガルバノミラー19を駆動させると共に、ポリゴンミラー16およびガルバノミラー19による走査と連動して画像処理IC206によって生成される一枚の自発蛍光像の画像データを、RAM203に格納する。画像データには、各画素の2次元座標と階調情報(階調値)とが含まれる。なお、本実施形態において、受光素子25から画像処理IC206へ出力される受光信号の信号強度と、各画素の階調値との関係(階調特性)は、線形特性になっている。受光素子25おいて受光される眼底からの光の強度(受光強度)と、各画素の階調値との関係(階調特性)も線形特性になっている。このように、本実施形態において、制御部200は、眼底Erの各位置で反射される反射光(眼底からの光の一例)の強度であって、受光素子25によって受光された光の強度を、画像処理IC206から出力される画像データとして取得する。
また、前述したように、レーザー光の走査範囲には、蛍光標準試料42が配置されている。このため、図5に示すように、撮影される画像には、蛍光撮影された眼底画像部分Dと蛍光標準試料42とが合わせて撮影される。
なお、本実施形態では、1フレーム分の自発蛍光像の画像データをRAM203に格納することとした。前述したように、一般に、自発蛍光の強度は微弱なので、画像処理ICで複数フレームの眼底画像を加算処理した画像を、RAM203に格納させるようにしてもよい。
次に、CPU201は、S2以下の処理を実行して、自発蛍光像(静止画像)の撮影範囲における自発蛍光の蛍光強度を導出する。
S2の処理によって、CPU201は、フィルタ31bが光軸L2上から外れ、開口部31cが光軸L2上に配置されるように回転板31を回転させる(S2)。その結果、受光素子25には、眼底で発生した蛍光だけでなく、第2光源11bから出射される可視光レーザーの眼底反射光が受光される。また、CPU201は、標準試料ユニット40の駆動機構(図示せず)を駆動して、蛍光標準試料42を光路上から退避させ、代わりに、反射標準試料41を光路に挿入する(S3)。
続いて、CPU201は、可視光の眼底反射光に基づく眼底画像(静止画像)を撮影し、眼底画像の画像データをRAM203に格納させる(S4)。本実施形態において、S4の処理では、上述したS1の処理と同様の処理を行うので、詳細な説明は省略する。なお、レーザー光の走査範囲の光路上には、反射標準試料41が配置されるため、撮影される眼底画像の中には、眼底画像部分Dと、反射標準試料41からの反射像と、が含まれることとなる(図5参照)。
次に、CPU201は、点灯させるレーザー光を切り替える(S5)。具体的には、CPU201は、第2レーザー光源11bを消灯させると共に、第1レーザー光源11aを点灯させる。これによって、被検眼Eには、赤外光レーザーが照射される。そして、S1,S4の各処理と同様にして、CPU201は、赤外光レーザーの眼底反射光に基づく眼底画像(静止画像)を撮影し、眼底画像の画像データをRAM203に格納する(S6)。なお、赤外光で撮影された画像の中には、眼底画像部分Dと、反射標準試料41からの反射像と、が含まれる。
次に、S4の処理でRAM203に格納された画像データを参照して、可視光レーザーの眼底反射光に基づく眼底画像の明るさBbを算出する(S7)。Bbは、次の式(1)によって与えられる。
Bb=(Lb−Vb)/(Ub−Vb)・・・(1)
ここで、Lbは、可視光レーザーの眼底反射光によって撮影された画像のうち、反射標準試料41以外の領域(すなわち、眼底画像部分D)における平均階調値である。また、反射標準試料41の白部材41a部分における平均階調値がUbである。また、反射標準試料41の黒部材41b部分における平均階調値がVbである。平均階調値Vbによって、バックグラウンドの階調値が示される。よって、(Lb−Vb)は、眼底画像部分Dの実質的な階調値を示す。また、(Ub−Vb)は、白部材41a部分の実質的な階調値を示す。従って、上記の式(1)では、眼底画像部分の実質的な階調値(Lb−Vb)を、白部材41a部分の実質的な階調値(Ub−Vb)で正規化(本実施形態では除算)することによって、明るさBbを導いている。
このように、本実施形態では、眼底画像の明るさを、撮影された画像に含まれる各領域(眼底画像部分D、および、標準試料41,42部分)における平均階調値から決定する。しかし、眼底画像の明るさは、他の方法で決定しても良い。例えば、各領域の階調分布における中央値、又は、各領域の階調分布における最大階調値等から、眼底画像の明るさを決定してもよい。また、各領域において予め定められた特定の画素の階調値から、眼底画の明るさを決定することもできる。
ここで、明るさBbが、眼科装置1の撮影条件(装置の特性)の影響を受け難い値であることを説明する。受光素子25から出力される受光信号の信号強度は、レーザー出射部11から出射されるレーザー光の光量、及び、受光素子25の受光特性(ゲイン特性)等に例示される撮影条件(装置の特性)に応じて異なってしまうことが知られている。眼底画像の階調値は、受光素子25からの受光信号の信号強度と線形関係にあるので、眼底画像の階調値も、レーザー光の光量等の撮影条件に応じて異なってしまう。
しかしながら、レーザー光の光量等の撮影条件は、眼底画像部分Dの実質的な階調値(Lb−Vb)と、白部材41a部分の実質的な階調値(Ub−Vb)とのそれぞれに対して、同様の比率で影響すると考えられる。一方、眼底画像部分Dの実質的な階調値(Lb−Vb)と、白部材41a部分の実質的な階調値(Ub−Vb)との比は、詰まるところ、眼底画像部分Dに対応する範囲の可視光レーザーの反射率と、白部材41a部分に対応する範囲の可視光レーザーの反射率との比と同じになると考えられる。このため、上記の式(1)において、明るさBbは、眼底画像部分Dに対応する範囲の可視光レーザーの反射率と、白部材41a部分に対応する範囲の可視光レーザーの反射率との比率を示していると考えられる。
ここで、眼底画像部分Dに対応する範囲の可視光レーザーの反射率、および、白部材41a部分に対応する範囲の可視光レーザーの反射率は、それぞれ、レーザー光の光量等の撮影条件に依らない値であると考えられる。また、白部材41aにおける可視光レーザーの反射率(反射特性)は、レーザー光の光量等の撮影条件に拘わらず、各撮影で一定である。よって、眼底画像部分Dに対応する範囲における可視光レーザーの反射率と、白部材41aにおける可視光レーザーの反射率との比率(明るさ)Bbは、レーザー光の光量等、眼科装置1の撮影条件に依らない一定の基準に基づいて、眼底画像の明るさを評価した値であると考えられる。従って、Bbには、眼科装置1の撮影条件の影響による誤差が含まれ難い。
なお、眼底画像部分Dに対応する範囲の可視光レーザーの反射率と、白部材41aにおける可視光レーザーの反射率との比は、受光素子25によって受光される白部材41aからの光の強度と、受光素子25によって受光される眼底反射光の強度との比と同義である。このため、明るさBbは、可視光レーザーによる眼底反射光の強度を、可視光レーザーによる白部材41aからの光の強度で正規化した値であると、言い換えることができる。
次に、CPU201は、S7の処理と同様にして、赤外光レーザーで撮影した画像の明るさBirを算出する(S8)。明るさBirは、次の式(2)によって与えられる。
Bir=(Lir−Vir)/(Uir−Vir)・・・(2)
ここで、Lirは、赤外光レーザーの眼底反射光によって撮影された画像のうち、眼底画像部分Dの領域における各画素の階調値の平均値である。また、Uirは、反射標準試料41の白部材41aの画像領域における各画素の階調値の平均値であり、Virは、黒部材41bの画像領域における各画素の階調値の平均値である。なお、各領域の階調値は、S6の処理によってRAM203に格納された画像データから求められる。式(2)においても、式(1)同様に、明るさBirは、赤外光レーザーによる眼底反射光の強度を、赤外光光レーザーによる白部材41aからの光の強度で正規化した値であると、言い換えることができる。
次に、CPU201は、以下の式(3)に示すように、S7,S8において求めたBb、Birの比率から、水晶体の混濁度Pを求める(S9)。なお、混濁度Pは、中間透光体(本実施形態においては、水晶体)の混濁を示すパラメーターであり、混濁が強くなるほど低下する。
P=Bb/Bir・・・(3)
ここで、混濁度Pが、中間透光体の混濁の程度を示していることを説明する。本実施形態のように、眼底画像を撮影する場合、被検眼Eの混濁が強い(多い)ほど、多くの光が散乱されてしまう。このため、画像の明るさは、混濁が強いほど低下してしまうと考えられる。また、一般に、波長の短い光ほど、混濁によって散乱され易いとことが知られている。このため、可視光、赤外光でそれぞれ撮影された眼底画像についての明るさBb,Birは、それぞれ、次の式(4)、式(5)で書き換えることができる。
Bb=Rb×(1−Kx)・・・(4)
Bir=Rir×(1−x)・・・(5)
ここで、xは、赤外光(特に、本実施形態では、第1レーザー光源11bから出射されるレーザー光の波長)を基準とした光散乱量を示している。ここでいう光散乱量とは、被検眼Eに入射する赤外光の光量に対する散乱光の割合のことである。xは、中間透光体における混濁が強いほど、大きな値となる。Kは、1より大きな定数であり、赤外光に対する可視光の散乱され易さを示す値である。また、Rbは、可視光の反射率である。Rirは、赤外光の反射率である。式(4)および式(5)から、BbとBirとの比率を求めると、次の式(6)のように書ける。
Bb/Bir={Rb/Rir}×{(1−Kx)/(1−x)}
={Rb/Rir}×{K−(K−1)/(1−x)}・・・(6)
ここで、RbおよびRirは、網膜形状等の被検眼Eの個体差によって被検眼E毎に異なる値となる。しかし、RbとRirの比率は、被検眼Eが異なっても、投光する光の波長の組み合わせに応じて、一定の比率になると考えられる。よって、Rb/Rirを、所定の定数Jで置き換えることができる。そこで、式(6)を、以下の式(7)に書き換える。
P=J×{K−(K−1)/(1−x)},P=Bb/Bir・・・(7)
このように、Pは、中間透光体における散乱光の割合xが大きいほど、即ち、混濁が強いほど、減少する量である。よって、中間透光体の混濁の度合いを、可視光で撮影された眼底画像の明るさBbと、赤外光で撮影された眼底画像の明るさBirとの比率Pによって示すことができると考えられる。
次に、S10の処理に移行して、CPU201は、水晶体透過率データベース207を参照することによって、混濁度Pに応じた水晶体の透過率を取得する(S10)。水晶体透過率データベース207には、事前に測定された複数の被検眼についての水晶体透過率が、水晶体の混濁度Pに対応付けて格納されている。前述したように、本実施形態では、水晶体透過率データベース207に格納される水晶体透過率は、白内障手術を行った同一の被検眼についての、手術前の状態と手術後の状態とのそれぞれの状態で撮影した眼底画像を用いて求めている。水晶体透過率Tλは、次の式(8)で求めることができる。
Tλ=Bλ/Rλ・・・(8)
式(8)のBλは、白内障手術前の被検眼(即ち、水晶体に混濁のある被検眼)に対して所定波長のレーザー光を投光することによって撮影された、眼底画像の明るさを示す。Rλは、白内障手術後の被検眼(即ち、混濁部位が水晶体から除去された被検眼)に対して所定波長のレーザー光を投光することによって撮影された、眼底画像の明るさを示す。なお、本実施形態では、白内障手術前の眼底画像の明るさBλと、白内障手術後の眼底画像の明るさRλとは、S7,S8と同様の方法で正規化している。なお、所定波長のレーザー光による眼底画像の撮影は、本実施形態の眼科装置1以外の眼科装置で行ってもよい。このような眼科装置は、被検眼Eの眼底Erに所定の波長の光を投光する投光光学系と、投光光学系から投光された光に伴い眼底からの光を受光する受光素子を有する受光光学系とを備え、受光素子の受光結果に基づいて眼底画像を撮影するものであればよい。また、眼底画像を撮影しなくても、眼底Erに投光される光に伴う眼底Erからの光の強度を取得する構成を有していれば良い。
また、本実施形態では、CPU201が、水晶体透過率を水晶体透過率データベース207から取得する際に、水晶体透過率データベース207に格納された複数の被検眼Eについての(Tλ,P)の関係を、最小二乗法を用いて近似式に近似する。そして、CPU201は、近似式にS9の処理で得た混濁度Pを代入して、水晶体透過率を得る。なお、これに限らず、水晶体透過率データベース207に格納された複数の(Tλ,P)の組み合わせを直線補間し、S9の処理で得た混濁度Pに対応する水晶体透過率を、補間直線から求めてもよい。
次に、CPU201は、S1の処理で撮影した自発蛍光像における蛍光強度を求める(S11)。まず、S1の処理で撮影した自発蛍光像の眼底画像部分Dに含まれる各々の画素についての明るさBfを、次の式(9)によって求める。
Bfi=(Lfi−Vf)/(Uf−Vf) 但し、i=(1,2,・・・,n)・・・(9)
ここで、Lfiは、自発蛍光像の眼底画像部分Dに含まれる1画素の階調値を示す。Bfi,Lfiの添え字iは、n個の画素からなる眼底画像部分Dにおける対応画素を示している。また、蛍光標準試料42の蛍光部材42aの画像領域における各画素の階調値の平均値がUfであり、黒部材42bの画像領域における各画素の階調値の平均値がVfである。自発蛍光像の階調値は、眼科装置1の撮影条件に応じて異なるため、本実施形態では、式(9)によって、撮影条件に依らない正規化された画像の明るさを求めている。Bfiは、水晶体の混濁によって散乱された分だけ、眼底Erから発せられた自発蛍光の蛍光強度Afiよりも少なくなっている。このため、自発蛍光像の各画素における蛍光強度Afiは、水晶体の透過率Tλ、後述する係数CdおよびCs、を用いて、次の式(10)で表すことができる。
Afi=Bfi×(1/Tλ)×Cd×Cs 但し、i=(1,2,・・・,n)・・・(10)
係数Cdは視度補正手段による視度補正位置によって変動する蛍光部材42aの明るさ(階調値)を補償するための係数である。係数Csは被検眼Eの眼球の大きさなど眼底情報を補償するための係数である。係数Csは、例えば、検者が被検眼Eの角膜曲率半径、眼軸長の何れか一方または両方と屈折度を装置に入力することで、制御部200が、入力された情報に対応した係数値を設定してもよい。なお、係数Cd,Csは、必須となるものではなく、これらの係数は許容される精度との関係で適宜選択して使用されればよい。このように、本実施形態では、CPU201に、式(10)を演算させることで、自発蛍光像の(各画素における)蛍光強度を、中間透光体の混濁の程度に応じて補正するための処理が行われる。
次に、S11の処理で算出した各画素の蛍光強度に所定の係数を乗じて階調情報に変換したうえで、モニタ60へ出力する(S12)。モニタ60には、各画素の階調値が補正された自発蛍光像が表示される。これによって、例えば、検者は、モニタ60に表示された自発蛍光画像から、自発蛍光物質の分布状態および蓄積量を把握することができる。なお、このとき、S9,S10の処理で得られた混濁度Pの値、又は水晶体透過率Tλの値を、モニタ60に表示出力してもよい。これにより、検者は、あわせて白内障の程度を把握することができる。また、式(10)で求めた自発蛍光の強度の平均値をCPU201で算出させて、モニタ60に表示出力してもよい。この場合は、検者が自発蛍光物質の蓄積総量を推測しやすくなる。
次に、CPU201は、フィルタ31bの位置と、レーザー光出射部11から出射されるレーザー光とを、蛍光画像撮影・解析処理の実行前の状態に戻す(S13)。具体的には、光軸L2上にフィルタ31bをセットする。また、第1レーザー光源11aを消灯すると共に、第2レーザー光源11bを点灯させる。これによって、検者は、続けて眼底Erの自発蛍光像を撮影することができる。そして、CPU201は、蛍光画像撮影・解析処理を終了させる。
以上説明したように、本実施形態の眼科装置1では、眼科装置1から眼底Er上の撮影範囲の各位置に投光したレーザー光に伴う眼底反射光(眼底Erからの光)を、受光素子25に受光させることによって、眼底画像を撮影する。眼科装置1では、眼底画像の画像データにおいて、受光素子25で受光される眼底Erからの光の強度を示す階調値から、中間透光体の混濁の程度(本実施形態では、混濁度P、及び、水晶体透過率Tλ)を解析した。被検眼Eの中間透光体における混濁が強いほど、眼底Erへのレーザー光の散乱量、および、眼底Erからの光の散乱量は、それぞれ多くなる。よって、中間透光体の混濁が強いほど、受光素子25で受光される光の強度が低下する。このように、受光素子25で受光される光の強度には、中間透光体の混濁の程度が反映される。よって、眼科装置1は、眼底Erの各位置で反射される反射光の強度に基づいて、中間透光体の混濁の程度を求めることができる。
また、中間透光体の混濁の程度を求める場合、被検眼Eの前眼部の観察結果に基づいて求める手法が考えられる。例えば、前眼部を観察するための光学系によって、被検眼Eの前眼部画像(いわゆる徹照像)を撮影する。そして、前眼部画像に写りこんだ混濁のサイズや、色の濃淡に基づいて、混濁の程度を求める手法が考えられる。
これに対し、本実施形態の眼科装置1によれば、眼底画像の画像データに基づいて中間透光体の混濁の程度を解析する。よって、眼科装置1は、必ずしも前眼部を観察する光学系が設けられていなくても、中間透光体の混濁の程度を求めることができる。
また、眼軸長、網膜形状、網膜における光の反射率等には被検眼毎の個体差がある。このため、中間透光体の混濁の程度が同程度の被検眼Eを撮影する場合であっても、受光素子25によって受光される眼底Erからの光の強度は、被検眼毎にばらついてしまう。よって、眼底Erの各位置で反射される反射光の強度に基づいて、中間透光体の混濁の程度を解析する場合に、混濁の程度を示す基準が、被検眼毎に異なってしまう場合があることが考えられる。混濁の程度を示す基準が、被検眼毎に異なってしまうと、例えば、別々の被検眼Eの症例を比べるときに、それぞれの被検眼について求められた中間透光体の混濁の程度を、参考にし難いといった問題が生じると考えられる。
これに対し、本実施形態の眼科装置1では、中間透光体の混濁の程度が、可視光で撮影された眼底画像の明るさBb(即ち、可視光レーザーに伴う眼底反射光の強度)と、赤外光で撮影された眼底画像の明るさBir(即ち、赤外光レーザーに伴う眼底反射光の強度)との比率を用いて取得される(S9,S10)。前述したように、BbとBirとの比率は、被検眼毎の個体差に依らず、中間透光体の混濁の程度に応じた値となると考えられる。よって、眼科装置1によって求められる中間透光体の混濁の程度において、被検眼Eの個体差(例えば、眼軸長、網膜形状、網膜における光の反射率等)の影響による誤差を抑制できる。その結果、例えば、眼科装置1によって、異なる被検眼Eを観察する場合に、それぞれの被検眼Eにおける中間透光体の混濁の程度を、同じ基準で求めることができる。
ところで、前述したように、眼底画像の画像データの階調値は、例えば、レーザー光の光量、および受光素子25のゲイン等の、眼科装置1の撮影条件が影響してしまう。眼底Erからの光が受光素子25で受光されることによって受光素子25からから出力される受光信号の信号強度に、レーザー光の光量等の撮影条件が影響してしまうからである。
これに対し、本実施形態の眼科装置1では、撮影された画像に含まれる眼底画像部分Dの階調値(Lb−Vb),(Lir−Vir)が、それぞれ白部材41aの階調値(Ub−Vb),(Uir−Vir)によって正規化されて、Bb,Birが求められる。Bb,Birは、受光素子25で受光された眼底反射光の強度を、受光素子25で受光された白部材41aからの光の強度で正規化した値と同義である。前述したように、Bb,Birは、正規化される前と比べて、眼科装置1の撮影条件の影響による誤差が抑制される。被検眼Eにおける中間透光体の混濁の程度は、Bb,Birに基づく値なので、中間透光体における混濁の程度の解析値において、眼科装置1の撮影条件による誤差を抑制できる。よって、例えば、同一の被検眼Eについて、異なる撮影条件で撮影が行われた場合でも、同じ中間透光体の混濁の程度が得られ易い。
また、眼科装置1では、水晶体透過率データベース207を参照することによって、混濁度Pに対応する水晶体の透過率を得ることができる。よって、眼科装置1では、被検眼Eの水晶体の透過率を好適に得ることができる。
しかも、水晶体透過率データベース207に格納される水晶体透過率Tλは、白内障手術前と白内障手術後との各状態で、眼底からの光の強度を測定して求めた値である。よって、眼科装置1では、水晶体透過率データベース207から、水晶体の正確な透過率を得ることができる。
また、眼底で発生した自発蛍光の強度を測定する場合に、被検眼の中間透光体に混濁があると、中間透光体に混濁がない場合と比べて自発蛍光の強度の測定値が小さくなってしまうおそれがあった。このため、眼底Erで発生した自発蛍光の強度(光量)を定量的に求めることが難しかった。よって、例えば、中間透光体に混濁がある被検眼の眼底における自発蛍光物質の蓄積量を、受光素子で受光された蛍光の強度から測定する場合に、自発蛍光物質の蓄積量が、実際よりも少なめに見積もられてしまうおそれがあった。
これに対し、本実施形態では、中間透光体の混濁の程度を解析した結果として制御部200が取得する水晶体透過率Tλを加味して、自発蛍光の蛍光強度を求めている。このため、中間透光体の混濁の影響を抑制しつつ、眼底Erで発生した自発蛍光の強度を定量的に求め易いという効果がある。
なお、本実施形態における蛍光画像撮影・解析処理のアルゴリズム(例えば、式(1)〜式(10))を適宜変更できることは言うまでもない。例えば、水晶体透過率データベース207を用いて水晶体透過率Tλを求める処理を省略することもできる。この場合、例えば、上記の式(10)において水晶体透過率Tλの変わりに混濁度Pを用いることで、自発蛍光像の蛍光強度を補正してもよい。
以上、実施形態に基づき説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、様々な変形が可能であることは勿論である。
例えば、上記実施形態においては、眼科装置1は、眼底Erに蓄積された自発蛍光物質で発生する蛍光の蛍光強度を混濁の程度に応じて定量化するものとして説明したが、眼底反射光の反射強度を定量化する場合に適用することができる。また、蛍光造影剤を用いて眼底を撮影する場合に、蛍光造影剤から発生する蛍光の強度を混濁の程度に応じて定量化する場合にも適用することができる。蛍光造影剤としては、インドシアニングリーン、フルオレセイン等を用いることができる。
また、上記実施形態では、可視光で撮影された眼底画像の明るさBbと、赤外光で撮影された眼底画像の明るさBirとの比率を算出することで混濁度Pを求める場合について説明した。しかし、必ずしも眼科装置1で比率を算出する処理を行う必要はなく、可視光で撮影された眼底画像の明るさとBbと、赤外光で撮影された眼底画像の明るさBirとの比率に対応した混濁度Pが取得できればよい。例えば、予めBb,Birの複数の組み合わせに対応づけて、混濁度Pが記憶されたテーブルを眼科装置1に用意しておく。そして、眼科装置1よる被検眼Eの測定で得られたBb,Birに基づいてテーブルを参照することで、Bb,Birに対応する混濁度Pを取得してもよい。
また、上記実施形態では、眼科装置1が、混濁度Pおよび水晶体透過率Tλを、混濁の程度として取得する場合について説明した。しかし、眼科装置1が取得する混濁の程度は、これらの情報以外のものであってもよい。例えば、混濁の程度を、複数段階の(例えば5段階)の評価で示すような情報を取得させてもよい。
また、上記実施形態においては、眼科装置1は、走査型レーザー検眼鏡であるものとして説明したが、本発明を、眼底の各位置からの光の強度を取得する他の眼科装置に適用してもよい。例えば、本発明を、眼底カメラに適用しても良い。なお、眼底に投光される光に伴う眼底からの光の強度を取得できるのであれば、本発明を実施するうえで、必ずしも眼底画像を撮影する構成を有している必要はない。
なお、本発明を眼底カメラに適用する場合は、眼底Erの自発蛍光像を撮影する場合とは別に、波長帯の異なるフラッシュ光を、眼底Erに順次照射することによって、中間透光体の混濁の程度を求めるための眼底画像を撮影してもよい。また、眼底カメラによってカラー眼底画像が撮影される場合には、制御部200が1枚のカラー眼底画像を用いて中間透光体の混濁の程度を求めることもできる。例えば、眼底画像の画像データにR(赤)、G(緑)、B(青)、IR(赤外)の4色の輝度情報(例えば、輝度値)が含まれている場合、このうちの少なくとも2色の輝度情報を用いて中間透光体の混濁の程度が求められる。例えば、カラー眼底画像の第1の色成分(例えば、B成分)の輝度値を、式(1)
のLbに代入し、第1の色成分とは異なる第2の色成分(例えば、R成分)の輝度値を式
(2)のLirに代入することで、上記実施形態のアルゴリズムを用いて、中間透光体の混濁の程度を装置が求めることができる。このとき、LbおよびLirは、眼底の同一の範囲についての値なので、装置は、より適正な中間透光体の混濁の程度を求めることができる。
また、上記実施形態では、眼底に投光するレーザー光の波長を切り替えて撮影した2種類の眼底画像(可視光レーザーの眼底反射光に基づく眼底画像、および、赤外光レーザーの眼底反射光に基づく眼底画像)を用いて、中間透光体の混濁の程度を解析する場合を説明したが、必ずしも2種類の眼底画像を撮影する必要は無い。例えば、測定精度との関係で、被検眼毎の個体差による誤差が許容されるのであれば、いずれか1種類の眼底画像だけを用いて、混濁の程度を求めることができる。この場合、例えば、予め、所定波長のレーザー光で、中間透光体に混濁の無い被検眼についての眼底画像(以下、「基準画像」と称す。)、或いは、その眼底画像の平均階調値を、RAM203に記憶させておく。また、眼科装置1によって、所定波長のレーザー光で眼底画像が撮影された場合に、制御部200に、撮影された眼底画像の階調値を求めさせる。そして、撮影された眼底画像の階調値と、基準画像における階調値との比率を、混濁度P(混濁の程度の一例)として求めてもよい。
また、上記実施形態では、2種類の眼底画像(可視光レーザーの眼底反射光に基づく眼底画像、および、赤外光レーザーの眼底反射光に基づく眼底画像)を撮影するために投光光学系2から眼底に投光されるレーザー光の波長が、可視域と赤外域とに切り替えられる場合について説明したが、投光光学系2から可視域のレーザー光と赤外域のレーザー光とが同時に出力された状態で、眼科装置1が2種類の眼底画像を撮影することもできる。この場合、例えば、赤外域の光(第1光に伴う眼底反射光)を透過し可視域の光(第2光に伴う眼底反射光)を遮断する赤外透過フィルタと、赤外域の光の光を遮断し可視域の光を透過する可視透過フィルタと、が回転板31に設けられてもよい。そのうえで、制御部200が、赤外透過フィルタと、可視透過フィルタとを撮影光学系3の光路上に切り替えて配置させる。その結果、眼科装置1は、異なる波長のレーザー光を用いて撮影された2種類の眼底画像を、受光素子25の受光結果に基づいて取得できる。
また、投光光学系2から波長の異なる2種類のレーザー光が同時に出力される場合に眼科装置1で取得される2種類の眼底画像は、同時に撮影されたものであってもよい。例えば、図9に示すように、ダイクロイックミラー26と、受光素子27とが、撮影光学系3に設けられても良い。ダイクロイックミラー26は、撮影光学系3の光軸L2上に配置され、赤外域の光を反射し可視域の光を透過する。このため、ダイクロイックミラー26は、投光光学系2から2種類のレーザー光が同時に出力される場合に、赤外域の光に伴う眼底反射光と、可視域の光に伴う眼底反射光とを分離する。また、受光素子27は、ダイクロイックミラー26の反射側の光軸上に配置され、少なくとも赤外域に感度を持つ。このような光学系を持つ眼科装置1は、受光素子25および受光素子27のそれぞれによって同時に撮影された2種類の眼底画像を取得できる。同時に撮影された2種類の眼底画像の間には、被検眼Eの時間的変化による差(例えば、固視微動による画像間の位置ズレ等)が無い。よって、眼科装置1が求める中間透光体の混濁の程度において、被検眼Eの時間的変化に基づく誤差が抑制される。
また、上記実施形態では、中間透光体の混濁の程度を解析するための画像を、レーザー光の眼底反射光によって撮影する場合について説明したが、眼底で発生した蛍光によって撮影しても良い。この場合は、眼科装置の受光素子に対して、眼底反射光を入射させずに蛍光を入射させるとよい。よって、例えば、中間透光体の混濁の程度を解析するための画像を撮影する際に、上記実施形態の回転板31に、眼底反射光を遮断しつつ、眼底Erからの蛍光を透過する分光特性のフィルタを配置してもよい。
また、上記実施形態において、赤外域のレーザー光と、可視域のレーザー光とを被検眼Eに投光して中間透光体の混濁の程度を求める場合について説明したが、他の波長のレーザー光を被検眼Eに投光して中間透光体の混濁の程度を求めてもよい。但し、紫外域の波長の光は、角膜で吸収され易いので、可視域、又は、可視域よりも波長の長い光を投光することが好ましい。2種類のレーザー光は、波長の差が大きいほど、混濁による散乱の影響が異なる。このため、混濁の程度(本実施形態では、混濁度P、および水晶体透過率Tλ)を精度良く求め易くなる。そこで、2種類のレーザー光を、可視域と紫外域との境界付近の光(波長が380nm付近の光)と、赤外域(波長が790nm以長の光)との組み合わせとすることがより好ましい。
また、上記実施形態では、式(1)で使用するVb、式(2)で使用するVirは、それぞれ、撮影された画像における黒部材41b,42bの階調値を取得して決定したが、黒部材41b,42bを設けずに、レーザー光を消灯したときの受光素子25の受光信号からなる階調値を、VbおよびVirとして使用しても良い。
また、上記実施形態では、明るさBb,Birの比率(即ち、赤外光レーザーによる眼底反射光の強度と、可視光レーザーによる眼底反射光の強度と、の比率)を用いて、中間透光体の混濁の程度(混濁度Pおよび水晶体透過率Tλ)求める場合を説明した。しかし、中間透光体の混濁の程度を、他の演算によって求めてもよい。例えば、明るさBb,Birの差を用いて、中間透光体の混濁の程度を求めてもよい。
また、上記実施形態では、標準試料41,42のいずれかを、常にレーザー光の走査範囲内に配置するものとしているが、これ限るものではない。例えば、マニュアルモード等、自発蛍光撮影を行わない撮影モードでは、標準試料41,42を両方とも、レーザー光の走査範囲の外へ退避させてもよい。これによって、蛍光強度の解析が不要な撮影モードでは標準試料41,42が写り込むことがなく、自発蛍光撮影時に標準試料41,42の背後に隠れてしまう眼底の情報を取得できる。
また、上記実施形態では、反射標準試料41および蛍光標準試料42の一方を、凹面ミラー21とミラー20との間に配置する場合について説明したが、他の位置に配置してもよい。例えば、穴あきミラー12とレンズ13との間に、駆動機構によって配置が切り替わるミラーを配置する。ミラーが挿入された状態で、ミラーによって反射されるレーザー光の光路上に、標準試料41,42を配置させる。この場合、ミラーを挿入させた状態では、標準試料41,42が撮影され、ミラーが退避された状態では眼底画像が撮影されるので、眼底画像の階調値Lb、Lirと標準試料41,42の階調値(Ub,Vb)、(Uir,Vir)とを、それぞれ別々に撮影した画像から求めるとよい。
また、上記実施形態では、眼底画像部分Dと標準試料41,42との両方が含まれる眼底画像を、モニタ60上に表示するものとして説明した。しかし、モニタ60には、標準試料41,42を除いた範囲を表示させるようにしてもよい。
また、上記実施形態では、可視光で撮影された眼底画像の明るさBb、および、赤外光で撮影された眼底画像の明るさBirを算出するために、白部材41aと黒部材41bとを含む反射標準部材41を設けた。しかし、反射標準部材41には、白部材41aと黒部材41bとの中間の反射率を持つ中間部材を設けても良い。
例えば、中間透光体の混濁が強い場合に、十分な明るさの眼底画像を撮影するため、レーザー光の光量や受光素子25のゲインを高めたい場合がある。このとき、白部材41aにおける平均階調値Ub,Uirは、飽和レベル(階調値が0〜255であれば255)となり易い。また、黒部材41bにおけるVb,Virは、ゼロレベル(階調値が0〜255であれば0)となり易い。Ub,Uirが飽和レベルまたはVb,Virがゼロレベルとなっている場合は、反射標準試料41からの反射光の強度が、(Ub,Vb)または(Uir,Vir)に正確に反映されていないおそれがあると考えられる。よって、この場合は、BbまたはBirが、不正確な値となってしまうおそれがある(式(1),式(2)参照)。これに対して、反射標準試料41に、白部材41aと黒部材41bとの中間の反射率を持つ中間部材を追加する。例えば、白部材41aおよび黒部材41bにおけるレーザー光の反射率が、それぞれ、99%および1%である場合に、反射率64%の第1中間部材と、反射率25%の第2中間部材とを設ける。そして、それぞれのレーザー光が照射された場合における第1中間部材の平均階調値をUb又はUirに代入すると共に、それぞれのレーザー光が照射された場合における第2中間部材の平均階調値をVb又はVirに代入することによって、Bb及びBirを算出すればよい。なお、中間部材の階調値を用いて眼底画像の明るさBb,Birを求めるCPU201の処理は、検者から操作部50に対する所定の入力に基づいて行うようにしても良い。また、例えば、蛍光画像撮影・解析処理のS8,S9の処理において、レーザー光の光量や受光素子25のゲインが、所定の閾値よりも高いか否かをCPU201に判定させる。そして、CPU201によって、所定の閾値よりも高いと判定された場合に、中間部材の階調値を用いてBb,Birを求めるようにしても良い。また、蛍光画像撮影・解析処理のS8,S9の処理において、白部材41aの階調値が飽和レベル、又は、黒部材41bの階調値がゼロレベルであるか否かをCPU201に判定させる。そして、白部材41aの階調値が飽和レベル、又は、黒部材41bの階調値がゼロレベルであるとCPU201によって判定された場合に、中間部材の階調値を用いてBb,Birを求めるようにしても良い。
また、上記実施形態において、水晶体透過率データベース207には、複数の被検眼についての水晶体透過率Tλに、混濁度Pが対応付けされているものとして説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、水晶体透過率データベース207には、中間透光体の透過率に関する情報として、水晶体に混濁の無い被検眼(正常眼)における混濁度P0(即ち、上記実施形態の式(7)における定数J)の値が格納されていても良い。この場合、制御部200は、式(7)によって得られる混濁度Pを水晶体透過率データベース207の混濁度P0で除算した値を、中間透光体の透過率として求めることができる。ここで、図10に、所定の透過率を持つ模型眼に対して、混濁度P0を用いて眼科装置1で測定される中間透光体の混濁度および透過率を示す。
図10に結果を示した各測定では、模型眼の前方に、白内障眼に近い波長透過特性の混濁を有する液体を配置することで、模型眼を白内障眼に模擬した。また、模型眼の眼底は、被検眼の眼底と同様の光反射特性(光吸収特性)を持つ。図10の縦軸に示す「透過率」は、光が完全に透過するときを「1」とし、光が全く透過しないときを「0」としている。また、「データ番号」が小さな番号のときほど、模型眼前方の液体の混濁を強めて測定している。なお、5番のデータでは、液体を全く混濁させずに測定している。図10に示すように、眼科装置1で測定される混濁度(測定値)は、中間透光体の混濁の有無に関わらず、1よりも小さな値となる。可視光レーザーが、赤外光レーザーに比べて眼底で吸収されやすいためである。図10に示すように、混濁度(測定値)を水晶体透過率データベース207に格納されたP0で除算した場合、模型眼の実際の透過率(設定値)に対する誤差が少ない透過率(測定値)が、眼科装置1によって測定される。
また、水晶体透過率データベース207には、例えば、明るさBb,Birと、水晶体透過率Tλとが対応付け記憶されていてもよい。また、水晶体透過率データベース207には、複数の被検眼についての、白内障前の眼底画像と、手術後の眼底画像とが格納されていてもよい。この場合は、水晶体透過率データベースを参照する都度、制御部200が混濁度P等に対応する水晶体透過率データベース207の眼底画像から水晶体透過率Tλを求める。また、水晶体透過率データベース207は、眼科装置1とは別体の記憶装置であってもよい。
また、眼科装置1において、凹面ミラー21と被検眼Eとの間に、絞り(人口瞳)を設けてもよい。これによって、被検眼Eの瞳孔径に拘わらず、各被検眼に入射するレーザー光量が揃い易くなる。その結果、眼科装置1で撮影された自発蛍光像を、他の被検眼の自発蛍光像と比較し易くなる。
また、上記実施形態では、第1光に伴う眼底からの光についての強度情報(上記実施形態では、明るさBir)および第2光に伴う眼底からの光についての強度情報(上記実施形態では、明るさBb)が、眼底画像部分Dの全範囲に含まれる画素の階調値に基づいて制御部200で取得される場合について説明した。しかし、制御部200は、眼底からの光についての強度情報を、眼底画像部分Dの一部の範囲に含まれる画素の階調値に基づいて取得してもよい。また、このときの眼底画像部分Dの一部は、予め装置に取得された範囲指定情報に基づいて設定してもよい。範囲指定情報は、例えば、操作部50等を介して検者が指示した眼底画像部分D上の範囲を示す情報であってもよく、また、予め定められた固定的な範囲を示す情報であってもよい。
ところで、本発明者は、眼底画像部分Dにおいて強度情報が取得される範囲が明瞭である場合ほど、上記実施形態の処理によって中間透光体の混濁の程度が適正に得られることを見出した。このために、例えば、制御部200は、強度情報を取得する範囲として、眼底画像部分Dにおける中心領域D1(図11参照)を設定してもよい。眼底Erと受光素子25とが共役な位置関係になるように視度を調節して撮影した眼底画像では、撮影光学系3の中心領域に近い画像領域ほど、画像を撮影した光学系(撮影光学系3)および被検眼等による収差の影響が少なく、明瞭な画像になるからである。一方、眼底画像部分Dにおける周辺領域D2は、収差の影響が大きく、不明瞭な画像となる可能性がある。
なお、強度情報を取得する範囲は、眼底画像において収差等の影響が抑制されやすい領域に設定されればよく、必ずしも撮影中心の周りに設定されなくても良い。例えば、画像を撮影する光学系に関する情報(視度情報、収差情報等)、被検眼に関する情報(屈折力および眼軸長に関する情報、収差情報等)を取得して、眼底画像において明瞭な像が形成される領域を制御部200が求め、その領域から制御部200が強度情報を取得してもよい。
また、上記各実施形態においては、眼科装置1によって、中間透光体の混濁の程度を解析する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない、例えば、撮影に用いた光の波長が異なり、撮影範囲が同じ2種類の眼底画像が、汎用のコンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)へ転送され、そのコンピュータで実行される画像処理によって、中間透光体の混濁の程度を求められてもよい。かかる場合、上記実施形態の眼科装置1によって実行される蛍光画像撮影・解析処理のS7〜S9またはS7〜S10の処理をコンピュータのプロセッサに実行させる解析プログラムが、中間透光体の混濁の程度を求めるためのプログラムとして、コンピュータのハードディスク等に用意されてもよい。この場合、コンピュータは、上記実施形態の眼科装置1と同様に、中間透光体の混濁の程度を求めることができる。
また、予め、中間透光体の混濁の程度を求めるための画像と同一の撮影範囲で撮影された自発蛍光画像が予め転送された(取得された)コンピュータにおいて、S7〜S9又はS7〜S10に相当する処理の実行後に、蛍光画像撮影・解析処理のS11の処理が実行されてもよい。この場合、中間透光体の混濁の程度が加味された自発蛍光の蛍光強度を得ることができる。
また、上記説明したように、中間透光体の混濁の程度を用いて眼底からの蛍光の強度を補正することによって、眼科装置1は、蛍光の強度をより適正に得ることができる。ここで、上記実施形態では、中間透光体の混濁の程度は、投光光学系から眼底へ投光される光に応じて眼底から発せられる光の強度に関する強度情報に基づいて解析される。しかし、蛍光の強度を補正するために用いる中間透光体の混濁の程度は、上記の強度情報に基づく解析以外の手法によって求めたものであってもよい。
例えば、中間透光体の混濁の程度は、被検眼に光を投光することによって、被検眼の中間透光体又はそれよりも眼底側の部位からの戻り光を受光素子で受光し、その受光素子から出力される信号に基づいて取得される。例えば、中間透光体を含む被検眼の断面情報を解析することによって得られてもよい。被検眼の断面情報は、被検眼の中間透光体からの反射光を検出器(受光素子)で受光し、検出器から出力される受光信号に基づいて被検眼の断面画像を得る断面画像撮像装置によって取得されてもよい。断面画像撮像装置は、例えば、光源からの光を被検眼に向けて投光し、中間透光体に光切断面を形成する投光光学系と、光切断面上の中間透光体にて散乱(および反射)された散乱光(および反射光)を含む光を検出器によって検出する受光光学系と、を有する。被検眼の断面情報は、検出器から出力される信号による生データであってもよいし、信号が処理されて生成される断面画像であってもよいし、断面画像に画像処理を行うことで生成されるデータであってもよい。この場合、互いに異なる複数の光切断面についての断面情報を解析することによって、中間透光体における混濁の程度を、中間透光体の位置毎に得ることもできる。詳細は、例えば、特開2003−111731号公報等を参照されたい。断面画像撮像装置としては、例えば、シャインプルークカメラ、光断層干渉計(OCT)等が例示される。なお、断面画像撮像装置は、中間透光体の混濁の程度を用いて自発蛍光の強度の補正を行う眼科装置とは別の筐体の装置であってもよいし、同一の筐体の装置であってもよい。同一の筐体の装置である場合、両装置の動作は一つの制御部によって制御されてもよい。
また、中間透光体の混濁の程度は、被検眼のいわゆる徹照像を解析することによって求められてもよい。徹照像は、被検眼の眼底からの反射光を、中間透光体(又はその近傍)と共役な位置に配置された撮像素子(受光素子)で受光する前眼部撮像装置を用いて得ることができる。撮像素子からの信号に基づいて徹照像が生成される。この場合、徹照像における混濁部分の画像情報を解析することによって、中間透光体における混濁の程度を、中間透光体の位置毎に得ることもできる。なお、前眼部撮像装置は、自発蛍光の強度の補正を行う眼科装置とは別の筐体の装置であってもよいし、同一の筐体の装置であってもよい。同一の筐体の装置である場合、両装置の動作は一つの制御部によって制御されてもよい。