JP6349211B2 - 正極材料、正極、およびリチウムイオン電池 - Google Patents
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Description
しかし、本発明者らの検討によれば、正極活物質層に無機固体電解質材料や導電助剤が添加された正極を全固体型リチウムイオン電池に用いた場合、使用する正極活物質から期待される容量密度が得られないことが明らかになった。また、このような全固体型リチウムイオン電池はサイクル特性に劣っていた。
正極活物質と、導電助剤と、無機固体電解質材料とを混合してなる正極材料であって、
正極として当該正極材料により形成したもの、負極としてインジウム箔、固体電解質層として硫化物系無機固体電解質材料により形成したもの、を用いて作製した全固体型リチウムイオン電池に対し、
電流密度65μA/cm2の条件で充放電を10回行ったとき、
充放電を10回行った後の前記全固体型リチウムイオン電池の交流インピーダンス測定により得られるコール・コールプロットにおいて、
第一の半円の後に、前記第一の半円よりも小さな円弧を有する第二の半円または平坦領域が観察されない正極材料が提供される。
上記正極材料からなる正極活物質層を備えた正極が提供される。
上記正極と、電解質層と、負極とを備えたリチウムイオン電池が提供される。
はじめに、本実施形態の正極材料(P)について説明する。
正極材料(P)は、正極活物質(A)と、導電助剤(B)と、無機固体電解質材料(C)とを混合してなる。
正極材料(P)は、後述する条件で作製した全固体型リチウムイオン電池について、後述する充放電条件で充放電を10回行ったとき、充放電を10回行った後の上記全固体型リチウムイオン電池の交流インピーダンス測定により得られるコール・コールプロットにおいて、第一の半円の後に、第一の半円よりも小さな円弧を有する第二の半円または平坦領域が観察されない。
ここで、平坦領域とは、複素インピーダンスの実部(RealZ)が10Ω変化する際に、複素インピーダンスの虚部(−ImagZ)が0Ω以上2Ω以下変化する領域のことをいう。
すなわち、コール・コールプロットにおける第二の半円または平坦領域の有無という尺度が、高い放電容量密度を有するとともにサイクル特性にも優れる全固体型リチウムイオン電池を実現するための設計指針として有効であることを初めて見出した。
なお、本発明者らは、第二の半円または平坦領域が観察される正極材料と観察されない正極材料との間では、X線回折により得られる正極材料の結晶構造や、SEM−EDXにより観察される各成分の分散状態は変わらないことを確認した。すなわち、コール・コールプロットにおける第二の半円の有無という尺度が重要であることを確認した。
これに対し、第一の半円の後に上記第一の半円よりも小さな円弧の第二の半円または平坦領域が観察されない正極材料は、放電容量密度およびサイクル特性に優れていることを見出した。この理由は必ずしも明らかではないが、このような正極材料は正極活物質(A)と無機固体電解質材料(C)との界面のインピーダンスが低下しているからだと考えられる。すなわち、第一の半円の後に第二の半円または平坦領域が観察されないことは、正極活物質(A)と無機固体電解質材料(C)との界面のインピーダンスが低いことを意味していると考えられる。そのため、得られるリチウムイオン電池のインピーダンスが低下し、放電容量密度およびサイクル特性が向上すると考えられる。
上述した全固体型リチウムイオン電池は、正極としては正極材料(P)により形成したもの、負極としてはインジウム箔、固体電解質層としては硫化物系無機固体電解質材料により形成したものをそれぞれ用いる。
以下、上記全固体型リチウムイオン電池の作製条件の一例について説明する。
まず、正極材料(P)(2mg)を導電性アルミ箔粘着テープ(寺岡製作所社製、φ14mm)の粘着面に付着させ、正極を得る。
つづいて、プレス治具を用いて、Li11P3S12等の硫化物系無機固体電解質材料(100mg)に対し予備プレスを83MPaにて行う。その後、それを上記正極にのせて、さらに250MPa、10分間プレス成型をおこない、正極上に固体電解質層(φ14mm)を形成する。
次いで、上記方法で得られた正極、固体電解質層、負極であるインジウム箔(φ=14mm、t=0.5mm)をこの順で積層させ、25MPa、5分間プレスすることにより、全固体型リチウムイオン電池が得られる。
上述し全固体型リチウムイオン電池の充放電条件は、例えば、以下のとおりである。なお、正極活物質の種類より、充電終止電位および放電終止電位は適宜調整される。例えば、正極活物質として硫化物を用いる場合、充電終止電位は3.0V、放電終止電位は0.4Vである。また、正極活物質として複合酸化物を用いる場合、充電終止電位は3.6V、放電終止電位は2.4Vである。
測定温度:25℃
充電条件:電流密度65μA/cm2
放電条件:電流密度65μA/cm2
また、充放電を10回行った後の上記全固体型リチウムイオン電池の交流インピーダンスは以下の方法により測定できる。
まず、充放電を10回行った後の上記全固体型リチウムイオン電池について、放電終止電圧に到達した状態で交流インピーダンス測定装置(例えば、BioLogic社製SP-300)を用いて、25℃の温度下で、上記全固体型リチウムイオン電池に7000kHz〜0.1Hzに周波数を変えつつ交流信号を付与し、電圧/電流の応答信号からインピーダンスを測定する。電池に印加する交流の電圧振幅としては10mVである。
このとき、周波数の違いにより、複数のインピーダンスが得られる。かかる複数のインピーダンスに基づいて、平面座標の横軸Xに複素インピーダンスの実部(RealZ)(Ω)を、縦軸Yに複素インピーダンスの虚部(−ImagZ)(Ω)をプロットし、コール・コールプロットを得ることができる。
このコール・コールプロットにおいて、高周波信号を付与したときに得られるプロットは、実部(RealZ)(Ω)の値が低い方にプロットされる。また、低周波信号を付与したときに得られるプロットは、実部(RealZ)(Ω)の値が高い方にプロットされる。
これにより、得られるリチウムイオン電池のインピーダンスがより一層低下し、得られるリチウムイオン電池の放電容量密度およびサイクル特性をより一層向上させることができる。
ここで、各抵抗成分(R2、R3、R4)の帰属にはQ値を用いた。Q値の大きい順に無機固体電解質材料/正極活物質界面の抵抗成分、無機固体電解質材料の粒界の抵抗成分、無機固体電解質材料のバルクの抵抗成分と帰属した。
最も値の大きいQ2を無機固体電解質材料/正極活物質界面の抵抗成分と帰属した。帰属結果を以下に示す。
Q2:無機固体電解質材料/正極活物質界面の抵抗成分
Q3、Q4:無機固体電解質材料の粒界の抵抗成分、または無機固体電解質材料のバルクの抵抗成分
各Q値に対応する抵抗成分R値を以下のように帰属した。
R1:回路抵抗
R2:無機固体電解質材料/正極活物質界面の抵抗
R3、R4:無機固体電解質材料の粒界の抵抗、または無機固体電解質材料のバルクの抵抗
ここで、フィッティングには、BioLogic社製EC−Lab Softwareのフィッティング機能を利用した。
なお、図2に示す等価回路中におけるCPE2〜CPE4は表面状態および密度分布の影響を考慮した電気二重層容量を示し、a2〜a4は表面状態および密度分布の均一性を示す。
正極材料(P)の全固形分100質量%に対し、正極活物質(A)の含有量をX質量%とし、導電助剤(B)の含有量をY質量%としたとき、正極活物質(A)の含有量に対する導電助剤(B)の含有量の比(Y/X)が好ましくは0.20以上、より好ましくは0.30以上、さらに好ましくは0.40以上、特に好ましく0.50以上、そして、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.0以下である。
以上から、Y/Xが上記範囲内であると、得られるリチウムイオン電池の正極材料(P)の単位重量当たりの放電容量密度を向上させることができる。
したがって、従来は、導電助剤は正極活物質に対して0〜10質量%程度添加するのが一般的であった。
しかし、本発明者らが、正極材料に含まれる導電助剤の割合を従来の基準よりも増やしてみたところ、リチウムイオン電池の正極材料の単位重量当たりの放電容量密度が向上するという、予想外の効果が得られることが明らかになった。すなわち、本発明者らは、全固体型リチウムイオン電池において、その充放電容量密度を向上させるためには、電解液を用いた従来のリチウムイオン電池とは異なる観点から配合設計をおこなうことが重要であることを見出した。
以上から、Z/Xが上記範囲内であると、得られるリチウムイオン電池の正極材料(P)の単位重量当たりの放電容量密度をより一層向上させることができる。
正極材料(P)の配合が上記範囲内であると、得られるリチウムイオン電池の電池特性が特に優れている。
正極活物質(A)としてはリチウムイオンを可逆に放出・吸蔵でき、電子輸送が容易におこなえるように電子伝導度が高い材料が好ましい。例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)、リチウム−マンガン−ニッケル酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)、オリビン型リチウムリン酸化物(LiFePO4)等の複合酸化物;ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子;Li2S、CuS、Li−Cu−S化合物、TiS2、FeS、MoS2、Li−Mo−S化合物、Li−Ti−S化合物、Li−V−S化合物等の硫化物;硫黄を含浸したアセチレンブラック、硫黄を含浸した多孔質炭素、硫黄と炭素の混合粉等の硫黄を活物質とした材料;等を用いることができる。これらの正極活物質(A)は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
Li−Mo−S化合物は、構成元素として、Li、Mo、およびSを含んでいるものである。
本実施形態のLi−Mo−S化合物は、通常は原料であるMoS2およびLi2Sを混合することにより得ることができる。ここで、原料であるMoS2は、リチウムイオンのインターカレーションによる体積収縮が小さい材料である。このMoS2にLi2Sを混合し、Sの量を高めると、MoS2の結晶構造からなるドメインが微細化し、非晶質のLi−Mo−S化合物が生成することでリチウムイオンが出入りするサイトが広がるとともにリチウムイオンが出入りするサイト数が増加すると考えられる。そしてその結果として、Li−Mo−S化合物はインターカレーションによる体積収縮がより一層小さい材料となり、より一層優れたサイクル特性を実現できていると推察される。
Li/MoおよびS/Moを上記範囲内とすることにより、充放電容量(mAh/g)をより一層向上させることができる。
ここで、本実施形態のLi−Mo−S化合物中のLi、Mo、およびSの含有量は、例えば、ICP発光分光分析により求めることができる。
本実施形態のLi−Mo−S化合物は、例えば、原料であるMoS2、Li2S、必要に応じてS(硫黄)を粉砕混合することにより得ることができる。以下、具体的に説明する。
ここで、Li2Sに対するMoS2の混合モル比が、通常はLi2Sに対するMoS2の反応モル比となる。本実施形態の混合モル比は、例えば、ICP発光分光分析により求めることができるが、通常は仕込みの重量比から算出できる。
正極活物質(A)の平均粒子径d50を上記範囲内とすることにより、良好なハンドリング性を維持すると共に、より一層高密度の正極を作製することができる。
導電助剤(B)としてはリチウムイオン電池に使用可能な通常の導電助剤であれば特に限定されないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック;カーボンファイバー;気相法炭素繊維;黒鉛;カーボンナノチューブ;等の炭素材料が挙げられる。これらの導電助剤(B)は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、粒子径が小さく、価格が安いカーボンブラックが好ましい。
無機固体電解質材料(C)としては、イオン伝導性および絶縁性を有するものであれば特に限定されないが、一般的に全固体型リチウムイオン電池に用いられるものを用いることができる。例えば、硫化物系無機固体電解質材料、酸化物系無機固体電解質材料等を挙げることができる。これらの中でも、硫化物系無機固体電解質材料が好ましい。これにより、正極活物質(A)との界面抵抗がより一層低下し、出力特性に優れた全固体型リチウムイオン電池とすることができる。
無機固体電解質材料(C)の平均粒子径d50を上記範囲内とすることにより、良好なハンドリング性を維持すると共に、リチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。
正極材料(P)は、正極活物質(A)同士および正極活物質(A)と集電体とを結着させる役割をもつバインダー(D)を含んでもよい。
本実施形態のバインダー(D)はリチウムイオン電池に使用可能な通常のバインダーであれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレン・ブタジエン系ゴム、ポリイミド等が挙げられる。これらのバインダーは一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極材料(P)は、塗布に適した流動性を確保する点から、増粘剤を含んでもよい。本実施形態の増粘剤としてはリチウムイオン電池に使用可能な通常の増粘剤であれば特に限定されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩、ポリカルボン酸、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマー、膨潤性粘度鉱物のスクメタイト、ポリビニルカルボン酸アミド等が挙げられる。これらの増粘剤は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
次に、正極材料(P)の製造方法について説明する。
正極材料(P)は、正極活物質(A)、導電助剤(B)、無機固体電解質材料(C)、必要に応じて、バインダー(D)、増粘剤(E)、溶剤等を粉砕混合することにより得ることができる。ここで、上記粉砕混合する工程では、示差走査熱量計により測定して得られる、当該正極材料(P)のDSC曲線において、200℃以上300℃以下、好ましくは100℃以上320℃以下、特に好ましくは30℃以上350℃以下の温度領域に、吸熱ピークおよび発熱ピークの少なくとも一方のピークが観察されなくなるまで、好ましくは吸熱ピークおよび発熱ピークの両方のピークが観察されなくなるまで上記粉砕混合をおこなう。
こうすることにより、正極材料(P)を得ることができる。
本実施形態において、DSC曲線にピークが観察されないとは、熱量が4.0J/g以上、好ましくは1.0J/g以上、より好ましくは0.5J/g以上、特に好ましくは0.1J/g以上のピークが観察されないことを意味する。
まず、アルゴン雰囲気中で、白金パンに270MPaでプレス成型した測定試料の薄片3〜5mgを秤量し、その後、白金蓋を被せる。リファレンスの白金容器は空の状態とする。開始温度25℃、測定温度範囲30〜350℃、昇温速度10℃/min、アルゴン毎分400mlの雰囲気の条件下で、示差走査熱量計を用いて示差走査熱量測定を行う。また、示差走査熱量計としては、特に限定されないが、例えば、DSC6300、セイコーインスツルメント社製を使用することができる。
また、正極材料(P)が溶媒を含む場合は、正極材料(P)から溶剤を乾燥除去してから測定することが好ましい。
一般的には、回転速度が速いほど、上記DSCプロファイルを有する正極材料(P)の生成速度は速くなり、処理時間が長いほど上記吸熱ピークおよび発熱ピークをより低下させることができる。
つぎに、本実施形態の正極について説明する。
本実施形態の正極は、正極材料(P)からなる正極活物質層を備えている。
つぎに、本実施形態の正極の製造方法について説明する。
本実施形態の正極は特に限定されないが、一般的に公知の方法に準じて製造することができる。例えば、本実施形態の正極材料(P)からなる正極活物質層をアルミ等の集電体の表面に形成することにより得ることができる。
つぎに、本実施形態に係るリチウムイオン電池100について説明する。図1は、本発明に係る実施形態のリチウムイオン電池100の構造の一例を示す断面図である。
リチウムイオン電池100は、一般的に公知の方法に準じて製造される。例えば、本実施形態の正極110および負極130をセパレーター中心に重ねたものを、円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状に形成し非水電解液を封入することにより作製される。
負極130は特に限定されず、リチウムイオン電池に一般的に用いられているものを使用することができる。負極130は特に限定されないが、一般的に公知の方法に準じて製造することができる。例えば、負極活物質を含む負極活物質層を銅、ステンレス、アルミニウム、ニッケル等の集電体の表面に形成することにより得られる。
次に、電解質層120について説明する。電解質層120は、正極110および負極130の間に形成される層である。
電解質層120とは、セパレーターに非水電解液を含浸させたものや、固体電解質材料を含む固体電解質層が挙げられる。
上記電解質としては、公知のリチウム塩がいずれも使用でき、活物質の種類に応じて選択すればよい。例えば、LiClO4、LiBF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiB10Cl10、LiAlCl4、LiCl、LiBr、LiB(C2H5)4、CF3SO3Li、CH3SO3Li、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、Li(CF3SO2)2N、低級脂肪酸カルボン酸リチウム等が挙げられる。
本実施形態の固体電解質層における固体電解質材料の含有量は、所望の絶縁性が得られる割合であれば特に限定されるものではないが、例えば、10体積%以上100体積%以下の範囲内、中でも、50体積%以上100体積%以下の範囲内であることが好ましい。
本実施形態のリチウムイオン電池100は電解質層120として、上述した固体電解質層を用いることによって全固体型リチウムイオン電池とすることができる。
本実施形態の全固体型リチウムイオン電池は、例えば、本実施形態の正極110、負極130、および、正極110と負極130との間に固体電解質により形成された固体電解質層を有するものである。
全固体型リチウムイオン電池の正極材料として、本実施形態の正極材料(P)を用いると、放電容量密度、サイクル特性等の電池特性が良好で、かつ、高い安全性を有するリチウムイオン電池とすることができる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
はじめに、以下の実施例、比較例における測定方法を説明する。
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マルバーン社製、マスターサイザー3000)を用いて、レーザー回折法により、実施例および比較例で用いた正極活物質の粒度分布を測定した。測定結果から、各正極活物質について、重量基準の累積分布における50%累積時の粒径(d50、平均粒子径)をそれぞれ求めた。
ICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメント社製、SPS3000)を用いて、ICP発光分光分析法により測定し、実施例および比較例で用いた正極活物質中の各元素の質量%をそれぞれ求め、それらの値に基づいて、各元素のモル比をそれぞれ計算した。
実施例および比較例で得られた正極材料(2mg)を導電性アルミ箔粘着テープ(寺岡製作所社製、φ14mm)の粘着面に付着させ、正極を得た。
つづいて、プレス治具を用いて、無機固体電解質材料(Li11P3S12、100mg)を83MPaにて予備プレスを行った。その後、それを正極にのせて、さらに250MPa、10分間プレス成型をおこない、正極上に固体電解質層を形成した。
また、上記方法で得られた正極、固体電解質層、負極であるインジウム箔(φ=14mm、t=0.5mm)をこの順で積層させて25MPa、5分間プレスすることで全固体型リチウムイオン電池を作製した。次いで、得られた全固体型リチウムイオン電池について、25℃で、電流密度65μA/cm2の条件で充電終止電位3.0Vまで充電した後、電流密度65μA/cm2の条件で、放電終止電位0.4Vまで放電させる条件で充放電を10回行った。
ここで、1回目の放電容量を100%としたときの10回目の放電容量を放電容量変化率[%]とした。正極材料に対する放電容量密度と放電容量変化率について得られた結果を表2に示す。
また、以下の方法により、充放電を10回行った後の上記全固体型リチウムイオン電池の交流インピーダンスを測定した。
まず、充放電を10回行った後の上記全固体型リチウムイオン電池について、放電終止電圧に到達した状態で交流インピーダンス測定装置(Bio−Logic社製SP−300)を用いて、25℃の温度下で、上記全固体型リチウムイオン電池に7000kHz〜0.1Hzに周波数を変えつつ交流信号を付与し、電圧/電流の応答信号からインピーダンスを測定した。電池に印加する交流の電圧振幅は10mVとした。
得られた複数のインピーダンスに基づいて、平面座標の横軸Xに複素インピーダンスの実部(RealZ)(Ω)を、縦軸Yに複素インピーダンスの虚部(−ImagZ)(Ω)をプロットし、コール・コールプロットを得た。
このコール・コールプロットにより、第二の半円または平坦領域の有無、第一の半円の右端におけるRealZ1(Ω)と第三の半円の左端におけるRealZ3(Ω)との差(RealZ3−RealZ1)を求めた。
また、EC−Lab社製EC−Lab Softwareのフィッティング機能を利用して、得られた上記コール・コールプロットを図2に示す等価回路にフィッティングし、正極活物質(A)と無機固体電解質材料(C)との界面のインピーダンスR2を算出した。
実施例および比較例で得られた正極材料に対し次のようにしてDSC測定を行った。まず、アルゴン雰囲気中で、270MPaでプレス成型した正極材料の薄片3〜5mgを白金パンへ秤量し試料とした。次いで、当該試料に対し、開始温度25℃、測定温度範囲30〜350℃、昇温速度10℃/min、アルゴン毎分400mlの雰囲気の条件下で、示差走査熱量計(DSC6300、セイコーインスツルメント社製)を用いて示差走査熱量測定を行った。これにより得られたDSC曲線から、30℃以上350℃以下の温度領域における発熱ピークの有無、当該発熱ピークの熱量(J/g)、30℃以上350℃以下の温度領域における吸熱ピークの有無、当該吸熱ピークの熱量(J/g)およびピーク温度(℃)をそれぞれ算出した。
つぎに、以下の実施例、比較例において使用した材料について説明する。
アルゴン雰囲気下で、Al2O3製ポットに、MoS2(和光純薬工業社製、745mg、4.7mmol、平均粒子径:10μm)と、Li2S(シグマアルドリッチジャパン社製、1497mg、32.5mmol、平均粒子径:5μm)と、を秤量して加え、さらにZrO2ボールを入れ、Al2O3製ポットを密閉した。
次いで、Al2O3製ポットを、ボールミル回転台に乗せ97rpmで、4日間処理を行い、混合物を得た。
Moの含有量に対するLiの含有量のモル比(Li/Mo)は14であり、Moの含有量に対するSの含有量のモル比(S/Mo)は9であった。
実施例および比較例で使用したLi−P−S系無機固体電解質材料であるLi11P3S12を以下の手順で作製した。
原料には、Li2S(シグマアルドリッチジャパン製、純度99.9%)、P2S5(関東化学製試薬)を使用した。Li3Nは、以下の手順で作製した。
まず、窒素雰囲気のグローブボックス中で、Li箔(本城金属社製純度99.8%、厚さ0.5mm)にステンレス製の剣山を使用しφ1mm以下の穴を多数開けた。Li箔は穴の部分から黒紫色に変化し始め、そのまま、常温で24時間放置することでLi箔すべてが黒紫色のLi3Nに変化した。Li3Nは、メノウ乳鉢で粉砕後、ステンレス製篩で篩い分けし、75μm以下の粉末を回収し無機固体電解質材料の原料とした。
つづいて、アルゴングローブボックス中で各原料をLi2S:P2S5:Li3N=67.5:22.5:10.0(モル%)になるように精秤し、これら粉末を20分間メノウ乳鉢で混合した。次いで、混合粉末2gを秤量し、φ10mmのジルコニア製ボール500gとともに、遊星ボールミル(フリッチュ社製、P−7)にて100rpmで1時間混合粉砕した。次いで、400rpmで15時間混合粉砕した。混合粉砕後の粉末はカーボンボートに入れアルゴン気流中で300℃、2時間加熱処理し、Li11P3S12組成のLi−P−S系無機固体電解質材料を得た。
正極活物質であるLi−Mo−S化合物(Li14MoS9)を0.370gと、導電助剤であるケッチェンブラックを0.185gとを乳鉢を用いて15分間混合した。次いで、その混合物に無機固体電解質材料であるLi11P3S12を0.445g加え、乳鉢を用いて5分間混合した。
得られた混合物を400mLのAl2O3製ポットに加え、さらにφ10mmのZrO2ボール500gを入れ、Al2O3製ポットを密閉した。Al2O3製ポット内はアルゴン雰囲気とした。
次いで、Al2O3製ポットを、ボールミル回転台に乗せ100rpmで、24時間粉砕混合を行い、正極材料を得た。
得られた正極材料について各評価をおこなった。得られた結果を表2に示す。
正極活物質、導電助剤、無機固体電解質材料の種類と配合割合およびボールミルによる粉砕混合時間を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして正極材料をそれぞれ調製し、得られた正極材料について各評価をおこなった。得られた結果を表2に示す。
ただし、正極活物質としてLiCoO2を使用した場合は、硫化物より電位窓が高電圧側にシフトするため充電終止電圧を3.6V、放電終止電圧を2.4Vとした。
また、正極活物質である各Li−Mo−S化合物およびLi2S−P2S5無機固体電解質材料は前述したLi14MoS9の製造およびLi11P3S12の製造に準じてそれぞれ作製した。また、Li2S−GeS2−P2S5−SiS2無機固体電解質材料は、特許文献4(特開2013−177288号公報)の段落0092に記載の実施例2に準じて作製した。導電助剤であるケッチェンブラック、アセチレンブラック、正極活物質であるLiCoO2は、市販品を用いた。
得られた結果を表2に示す。
これに対し、図4に示すように、比較例1で得られた正極材料は、第一の半円の後に、平坦領域が観察された。また、図5に示すように、比較例2で得られた正極材料も、平坦領域が観察された。
以上から、本実施形態の正極材料(P)によれば、高い放電容量密度を有するとともにサイクル特性にも優れる全固体型リチウムイオン電池を実現できることが確認できた。
110 正極
120 電解質層
130 負極
Claims (11)
- 正極活物質と、導電助剤と、無機固体電解質材料とを混合してなる正極材料であって、
正極として当該正極材料により形成したもの、負極としてインジウム箔、固体電解質層として硫化物系無機固体電解質材料により形成したもの、を用いて作製した全固体型リチウムイオン電池に対し、
電流密度65μA/cm2の条件で充放電を10回行ったとき、
充放電を10回行った後の前記全固体型リチウムイオン電池の交流インピーダンス測定により得られるコール・コールプロットにおいて、
第一の半円の後に、前記第一の半円よりも小さな円弧を有する第二の半円または平坦領域が観察されない正極材料。 - 請求項1に記載の正極材料において、
当該正極材料の全固形分100質量%に対し、
前記正極活物質の含有量をX質量%とし、前記導電助剤の含有量をY質量%としたとき、
前記正極活物質の含有量に対する前記導電助剤の含有量の比(Y/X)が0.20以上2.0以下である正極材料。 - 請求項2に記載の正極材料において、
当該正極材料の全固形分100質量%に対し、
前記無機固体電解質材料の含有量をZ質量%としたとき、
前記正極活物質の含有量に対する前記無機固体電解質材料の含有量の比(Z/X)が0.50以上5.0以下である正極材料。 - 請求項1乃至3いずれか一項に記載の正極材料において、
当該正極材料の全固形分100質量%に対し、
前記正極活物質の含有量(X)が20質量%以上50質量%以下であり、
前記導電助剤の含有量(Y)が11質量%以上45質量%以下であり、
前記無機固体電解質材料の含有量(Z)が25質量%以上60質量%以下である正極材料。 - 請求項1乃至4いずれか一項に記載の正極材料において、
前記正極活物質が、構成元素として、Li、Mo、およびSを含むものである正極材料。 - 請求項5に記載の正極材料において、
前記Moの含有量に対する前記Liの含有量のモル比(Li/Mo)が2以上20以下であり、前記Moの含有量に対する前記Sの含有量のモル比(S/Mo)が、3以上13以下である正極材料。 - 請求項1乃至6いずれか一項に記載の正極材料において、
前記無機固体電解質材料が硫化物系無機固体電解質材料である正極材料。 - 請求項1乃至7いずれか一項に記載の正極材料において、
前記導電助剤が炭素材料である正極材料。 - 請求項1乃至8いずれか一項に記載の正極材料からなる正極活物質層を備えた正極。
- 請求項9に記載の正極と、電解質層と、負極とを備えたリチウムイオン電池。
- 請求項10に記載のリチウムイオン電池において、
前記電解質層が固体電解質により形成されたものであるリチウムイオン電池。
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