JP6344968B2 - ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤 - Google Patents
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Description
(a) 配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b) 配列番号10に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
(c) 配列番号10に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
(4)上記(1)又は(2)記載の表出抑制剤を含む、医薬組成物。
上記(4)の医薬組成物としては、例えば、抗リン脂質抗体症候群(APS)の治療又は予防に用いる医薬組成物や、過剰な血栓もしくは塞栓形成に起因する各種疾患(例えば、既存の抗血小板薬の適用がある各種疾患)の治療又は予防に用いる医薬組成物等が挙げられる。
本発明の表出抑制剤は、凝固第9因子(F9)の重鎖(トリプシンドメイン)と軽鎖との間に存在する中間部のペプチド(F9-APペプチド)を含むものであるが、正常細胞に対する障害性は低く、副作用等が無いものと推察される。しかも、本発明の表出抑制剤は、従来、有効な治療法が無かった抗リン脂質抗体症候群(APS)に対し、自己抗体の標的抗原となり得るPSが細胞表面に表出するのを抑制できるため、自己免疫反応を顕著に抑制でき、従来の治療法に比べて飛躍的に治療効果を向上させ得るという顕著な効果を奏する点で、極めて有用なものである。
1.ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤
本発明のホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出抑制剤(以下、本発明の表出抑制剤ということがある。)は、前述のとおり、血液凝固第9因子(F9)の全長から重鎖であるトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分(すなわちF9-APペプチド)を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むものである。
本発明の表出抑制剤による、PSの細胞表面への表出抑制の対象となる細胞は、特に限定はされないが、PSの細胞表面への表出が異常に亢進している細胞などが好ましく挙げられ、例えば、活性化された血小板等が挙げられる。
ここで、上記配列番号4、6、8及び10に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、それぞれ順に、配列番号3、5、7及び9に示される塩基配列である。
(a) 配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
上記(a)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。
(b) 配列番号10に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
当該(b)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号10に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチドが好ましい。
(c) 配列番号10に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性(相同性)を有するアミノ酸配列を有し、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
当該(c)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号10に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチドが好ましい。
前記(a)〜(c)のペプチドは、天然物由来のペプチドであってもよいし、人工的に化学合成して得られたものであってもよく、限定はされないが、天然物由来のペプチドである場合は、細胞毒性等の悪影響や副作用等がない場合が多いため好ましい。
本発明の表出抑制剤は、前記(a)〜(c)のペプチドとともに、又はそれに代えて、当該ペプチドの誘導体を含むことができる。当該誘導体とは、当該ペプチドに由来して調製され得るものをすべて含む意味であり、例えば、構成アミノ酸の一部が非天然のアミノ酸に置換されたものや、構成アミノ酸(主にその側鎖)の一部に化学修飾が施されたもの等が挙げられる。
塩は、塩酸などの適切な酸、又は水酸化ナトリウムなどの適切な塩基を用いて調製することができる。例えば、水中、又はメタノール、エタノール若しくはジオキサンなどの不活性な水混和性有機溶媒を含む液体中で、標準的なプロトコルを用いて処理することにより調製することができる。
なお、被験動物の生体内に本発明の表出抑制剤を投与する場合は、その有効成分である前記(a)〜(c)のペプチド等を直接投与してもよいし、あるいは当該ペプチドをコードするDNAの状態で導入(遺伝子導入)してもよく、限定はされない。DNAの導入は、リポソーム法(リポプレックス法)、ポリプレックス法、ペプチド法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、及びウイルスベクター法などの公知の各種遺伝子導入方法を用いて行うことができる。
2.DNA、組換えベクター、形質転換体
(1) DNA
本発明においては、前記(a)〜(c)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAも包含される。当該DNAは、当該ペプチドをコードする塩基配列からなるDNA(具体的には、前述した配列番号9に示される塩基配列からなるDNA)であってもよいし、あるいは、当該塩基配列を一部に含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター等)を含んでなるDNAであってもよく、限定はされない。なお、当該ペプチドをコードする塩基配列では、コドンの種類は限定されず、例えば、転写後、ヒト等の哺乳類において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよいし、大腸菌や酵母等の微生物や、植物等において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよく、適宜選択又は設計することができる。
本発明においては、適当なベクターに上記本発明のDNAを連結(挿入)することにより得られる組換えベクターも包含される。本発明のDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、ウイルス等が挙げられる。
プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。またウイルスとしてはアデノウイルスやレトロウイルスなどが挙げられる。
本発明の組換えベクターには、プロモーター、本発明のDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子、レポーター遺伝子などを連結することができる。なお、選択マーカー遺伝子としては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。レポーター遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその変異体(EGFP、BFP、YFP等の蛍光タンパク質)、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、LacZ等の遺伝子が挙げられる。
本発明においては、上記本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入して得ることができる形質転換体も包含される。宿主としては、本発明のDNAを発現し得るものであれば限定されず、例えば、当該分野において周知の細菌、酵母等を用いることができる。
細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明のDNA、転写終結配列を含めることができる。細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)などが挙げられる。プロモーターとしては、例えばlacプロモーターなどが用いられる。細菌へのベクター導入法としては、公知の各種導入方法、例えばカルシウムイオン法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばgal1プロモーター等が挙げられる。酵母へのベクター導入法としては、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法等が挙げられる。
3.医薬組成物
本発明の表出抑制剤は、医薬組成物に含まれる有効成分として有用である。なお、実質的には、前記(a)〜(c)のペプチドを当該有効成分ということもできる。
本発明の医薬組成物は、限定はされないが、例えば、抗リン脂質抗体症候群(APS)の治療又は予防に用いる医薬組成物であることが好ましい。また、本発明の医薬組成物としては、過剰な血栓・塞栓形成に起因する各種疾患(例えば、既存の抗血小板薬の適用がある各種疾患)の治療又は予防に用いる医薬組成物も好ましく挙げられる。当該各種疾患としては、より具体的には、例えば、虚血性脳血管障害、虚血性心疾患(急性冠症候群(不安定狭心症、非ST上昇心筋梗塞、ST上昇心筋梗塞)、安定狭心症、陳旧性心筋梗塞)、末梢動脈疾患における血栓・塞栓形成などが好ましく挙げられる。
本発明の医薬組成物は、本発明の表出抑制剤を有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で提供され得る。
例えば注射剤により投与する場合は、ヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、1μg〜100mgの量を、1日平均あたり1回〜数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合等により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。すなわち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
4.キット
本発明においては、構成成分として本発明の表出抑制剤を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出抑制用キットも提供される。
本発明のキットは、本発明の表出抑制剤の他に、各種バッファー、滅菌水、各種反応容器(エッペンドルフチューブ等)、洗浄剤、界面活性剤、各種プレート、防腐剤、各種細胞培養容器、及び実験操作マニュアル(説明書)等を含んでいてもよく、限定はされない。
[製造例1]
以下の実施例においては、本発明の表出抑制剤に用いるペプチドとして、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるF9-APペプチド、及び、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるF9-EGF1ペプチドを用いた。本発明の表出抑制剤に用いるペプチドは、適宜、そのC末端及び/又はN末端に1又は複数のリシン残基を付加した形で用いることもできる。以下の実施例では、F9-APペプチドは、化学合成により作製したものを用い、F9-EGF1ペプチドは、アルカリフォスファターゼ(AP)との融合タンパク質として作製したものを用いた。
[参考例1]
細胞表面(細胞膜の外側の脂質膜)に表出するホスファチジルセリン(PS)を、蛍光標識化PS結合タンパク(Annexin及びp-SIVA)を用いて検出した。
具体的には、各培養皿に、扁平上皮癌由来細胞A431(A431細胞)を疎らに播いて、37℃で60分間培養した。その後、培養液中に、AP(陰性コントロール)、及びF9-EGF1ペプチド(1 pmol/ml)と、蛍光標識化PS結合タンパク質(Annexin V 及びp-SIVA)とを添加した後、5分間培養した。その後、4%パラホルムアルデヒドにより細胞を固定して、共焦点顕微鏡を用いて撮影して蛍光検出した。その結果、当該ペプチドの添加から5分後には、A431細胞の細胞表面(細胞外)にPSが表出していることが確認された。この結果を図1に示した。
具体的には、参考例1と同様にして、A431細胞を60分間培養し、その後、培養液中に、コントロールペプチド、及びF9-APペプチド(10 pmol/ml)を添加して30分培養した。さらに、培養液中に、AP(陰性コントロール)、及びF9-EGF1ペプチド(1 pmol/ml)を添加した。参考例1と同様に、蛍光標識化PS結合タンパク質(p-SIVA)や共焦点顕微鏡を用いて、透過像の撮影と蛍光検出を行った。その結果を図2に示した。
Claims (6)
- 血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド、又はその塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤。
- 以下の(a)若しくは(b)のペプチド、又はその塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤。
(a) 配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b) 配列番号10に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。 - 非ヒト被験動物に請求項1又は2記載の表出抑制剤を投与することを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の表出抑制剤を含む、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制用の医薬組成物。
- 抗リン脂質抗体症候群の治療又は予防に用いるものである、請求項4記載の組成物。
- 過剰な血栓もしくは塞栓形成に起因する疾患の治療又は予防に用いるものである、請求項4記載の組成物。
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