WO2015170778A1 - ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進剤又は表出抑制剤、及び脂質ラフトのクラスター形成抑制剤 - Google Patents
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Abstract
本発明は、血液凝固第9因子のEGF1ドメインを含むペプチド、又は内皮細胞遺伝子座-1タンパク質のEGF3ドメインを含むペプチド等を含む、PSの細胞表面への表出促進剤、及び、血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン(重鎖)部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド等を含む、PSの細胞表面への表出抑制剤、並びに、血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン(重鎖)部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド等を含む、脂質ラフトのクラスター形成抑制剤を提供する。
Description
本発明は、細胞膜の内側に偏在しているホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出促進剤等に関する。詳しくは、細胞膜の内側に偏在しているPSを細胞膜の外側(細胞表面)に表出させる促進活性を有するペプチドを含む、前記表出促進剤等に関する。
また本発明は、細胞膜の内側に偏在しているホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出抑制剤等に関する。詳しくは、細胞膜の内側に偏在しているPSの細胞膜の外側(細胞表面)への表出を抑制する活性を有するペプチドを含む、前記表出抑制剤等に関する。
さらに本発明は、細胞膜における脂質ラフトのクラスター形成抑制剤等に関する。詳しくは、細胞膜におけるコレステロールやスフィンゴ脂質に富む領域である脂質ラフトのクラスター形成を抑制する活性を有するペプチドを含む、前記クラスター形成抑制剤等に関する。
また本発明は、細胞膜の内側に偏在しているホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出抑制剤等に関する。詳しくは、細胞膜の内側に偏在しているPSの細胞膜の外側(細胞表面)への表出を抑制する活性を有するペプチドを含む、前記表出抑制剤等に関する。
さらに本発明は、細胞膜における脂質ラフトのクラスター形成抑制剤等に関する。詳しくは、細胞膜におけるコレステロールやスフィンゴ脂質に富む領域である脂質ラフトのクラスター形成を抑制する活性を有するペプチドを含む、前記クラスター形成抑制剤等に関する。
<PSの細胞表面への表出促進剤>
止血凝固に携わる凝固第9因子(F9)は古くから知られる必須の血液凝固因子であり、血友病の原因タンパク質として周知である。F9は、凝固反応の過程で凝固第11因子(F11)により2つの断片(重鎖、軽鎖)等に切断されることで活性化され、凝固反応を促進する(非特許文献1:Textbook of Medical Physiology,10e.Arthur C.Guyton MD)。F9において、凝固因子としての機能を有する重要な部分はC末端側(重鎖)のトリプシンドメインであり、N末端側(軽鎖)の機能についてはよく知られていなかった。特に、当該軽鎖断片中の第一EGF(EGF1)ドメイン(F9−EGF1)の機能についてはあまり詳しく知られていなかった。
ところで、癌の治療に使用される放射線や薬剤(抗癌剤)の細胞毒性は非常に高いため、治療上の問題点は、いかにして治療効果を癌組織・癌細胞に集中させ、健常組織への副作用を減らすかにある。そのため、癌細胞に特徴的な性質や特異的なタンパク質が治療ターゲットとして試されてきた。癌組織の血管は健常組織の血管と性質が異なるために治療ターゲットとして選ばれ、抗Vascular Endothelial Growth factor(VEGF)抗体が製品化された。抗VEGF抗体以外にも血管を標的とする薬剤が血管を標的としており、その一つが抗ホスファチジルセリン(PS)抗体である。
細胞膜は二層の脂質膜からなるものであり、内側の脂質膜と外側の脂質膜とでは膜を構成する脂質成分が異なる。通常の細胞では、PSは内側の脂質膜に含まれる(偏在している;限局している)が、腫瘍血管の内皮細胞では外側の脂質膜(すなわち細胞膜の外側)に表出する。抗PS抗体は、その表出したPSに結合し、免疫反応を起こして腫瘍血管を攻撃及び破壊する。血流を絶たれた腫瘍細胞は死滅するか、増殖が停止する。実際に、抗PS抗体療法の治験第二相では、進行した肺非小細胞癌患者の生命予後が7ヶ月から11ヶ月に延長した。また、抗PS抗体の適用は治療だけではない。抗体に放射性同位元素を結合させて患者に投与すると、放射能が腫瘍に集積する。それを体外からカメラで撮影すれば、腫瘍の部位や広がりを評価できる。
抗PS抗体の他の適用としては、ウイルス感染症の治療がある。ウイルスに感染した細胞では、PSが外側に表出するので、腫瘍血管の内皮細胞と同様に抗PS抗体療法が適用される。ウイルスは細胞内で増殖するので、ウイルスが増殖する前に感染細胞を死滅させてしまえば、ウイルスの増殖が抑制される。現在使用されている抗ウイルス薬は、ウイルスの種類毎に開発されているものが多く、他種のウイルスには効果がない。他方、抗PS抗体によるウイルス治療は、動物実験によれば、エイズウイルス、インフルエンザウイルス、コクサッキウイルス、C型肝炎ウイルス、ラッサ熱ウイルスなど、広範囲なウイルスに対する感染症に有効であることが確認されている。
しかしながら、前述した腫瘍血管の内皮細胞のすべてが、細胞表面にPSを表出しているわけではない。PSを細胞表面に表出しているのは腫瘍血管内皮細胞の15~40%であると報告されている。そこで、PSの細胞表面への表出を促進させる作用がある放射線や抗癌剤が、現在でも癌治療に使用され、抗PS抗体との併用に一定の効果をもたらすが、周知のとおり、放射線や抗癌剤を用いた治療には強い副作用がある。そのため、そのような治療は、癌の治療においても制限があるし、ウイルス治療に用いることはできない。
<PSの細胞表面への表出抑制剤>
止血凝固に携わる凝固第9因子(F9)は古くから知られる必須の血液凝固因子であり、血友病の原因タンパク質として周知である。F9は、凝固反応の過程で凝固第11因子(F11)により2つの断片(重鎖、軽鎖)等に切断されることで活性化され、凝固反応を促進する(前掲の非特許文献1)。F9において、凝固因子としての機能を有する重要な部分はC末端側(重鎖)のトリプシンドメインであり、N末端側(軽鎖)の機能についてはよく知られていなかった。特に、当該軽鎖断片中の第一EGF(EGF1)ドメイン(F9−EGF1)の機能についてはあまり詳しく知られていなかった。
ところで、癌の治療に使用される放射線や薬剤(抗癌剤)の細胞毒性は非常に高いため、治療上の問題点は、いかにして治療効果を癌組織・癌細胞に集中させ、健常組織への副作用を減らすかにある。そのため、癌細胞に特徴的な性質や特異的なタンパク質が治療ターゲットとして試されてきた。癌組織の血管は健常組織の血管と性質が異なるために治療ターゲットとして選ばれ、抗Vascular Endothelial Growth factor(VEGF)抗体が製品化された。抗VEGF抗体以外にも血管を標的とする薬剤が血管を標的としており、その一つが抗ホスファチジルセリン(PS)抗体である。
細胞膜は二層の脂質膜からなるものであり、内側の脂質膜と外側の脂質膜とでは膜を構成する脂質成分が異なる。通常の細胞では、PSは内側の脂質膜に含まれる(偏在している;限局している)が、腫瘍血管の内皮細胞では外側の脂質膜(すなわち細胞膜の外側)に表出する。抗PS抗体は、その表出したPSに結合し、免疫反応を起こして腫瘍血管を攻撃及び破壊する。血流を絶たれた腫瘍細胞は死滅するか、増殖が停止する。実際に、抗PS抗体療法の治験第二相では、進行した肺非小細胞癌患者の生命予後が7ヶ月から11ヶ月に延長した。また、抗PS抗体の適用は治療だけではない。抗体に放射性同位元素を結合させて患者に投与すると、放射能が腫瘍に集積する。それを体外からカメラで撮影すれば、腫瘍の部位や広がりを評価できる。
抗PS抗体の他の適用としては、ウイルス感染症の治療がある。ウイルスに感染した細胞では、PSが外側に表出するので、腫瘍血管の内皮細胞と同様に抗PS抗体療法が適用される。ウイルスは細胞内で増殖するので、ウイルスが増殖する前に感染細胞を死滅させてしまえば、ウイルスの増殖が抑制される。現在使用されている抗ウイルス薬は、ウイルスの種類毎に開発されているものが多く、他種のウイルスには効果がない。他方、抗PS抗体によるウイルス治療は、動物実験によれば、エイズウイルス、インフルエンザウイルス、コクサッキウイルス、C型肝炎ウイルス、ラッサ熱ウイルスなど、広範囲なウイルスに対する感染症に有効であることが確認されている。
しかしながら、前述した腫瘍血管の内皮細胞のすべてが、細胞表面にPSを表出しているわけではない。PSを細胞表面に表出しているのは腫瘍血管内皮細胞の15~40%であると報告されている。そこで、PSの細胞表面への表出を促進させる作用がある放射線や抗癌剤が、現在でも癌治療に使用され、抗PS抗体との併用に一定の効果をもたらすが、周知のとおり、放射線や抗癌剤を用いた治療には強い副作用がある。そのため、そのような治療は、癌の治療においても制限があるし、ウイルス治療に用いることはできない。
<脂質ラフトのクラスター形成抑制剤>
止血凝固に携わる凝固第9因子(F9)は古くから知られる必須の血液凝固因子であり、血友病の原因タンパク質として周知である。F9は、血液凝固反応の過程において、凝固第11因子と凝固第7因子により、重鎖(トリプシンドメイン)と軽鎖との間に存在する中間部(Activation peptide(F9−AP))が切断され、活性化される。切断後も重鎖と軽鎖はジスルフィド結合によりつながっており、1つの分子として、血液凝固反応を促進する(前掲の非特許文献1)。しかしながら、中間部であるF9−APペプチドの機能についての報告はほとんどない。
ところで、従来の感染症に対する治療薬の多くは、病原体(ウイルス、細菌、原虫など)由来のタンパク質を標的とし、その機能の阻害により効果を発揮するものである。また、従来の癌細胞の情報伝達の阻害を目標とする分子標的薬は、情報伝達に携わるタンパク質の機能を阻害し、効果を発揮するものが多い。
しかしながら、単一のタンパク質に対する阻害剤は個々の病原体のタンパク質に対して開発されるため、病原体が異なれば無効となる。さらに、最大の欠点は薬剤耐性の成立である。病原体や癌細胞は、阻害剤の標的となるタンパク質の変異や、他の情報伝達系経路の代替により、薬の攻撃を無力化する。耐性化は、疾患を重症化するばかりでなく、長期にわたる開発の努力や費用を無駄にしてしまう。
さて、細胞膜は、通常、二層の脂質膜から構成されている。その中に、コレステロールやスフィンゴ脂質に富む領域があり、この領域は脂質ラフトと呼ばれている。脂質ラフトは、貪食(エンドサイトーシス)に必要な構造である。また、脂質ラフトには多くの膜タンパクが集まっており、種々の生物学的反応の場となっている。
細胞によるエンドサイトーシスは、細胞外から細胞内への物質と情報の入り口である。ウイルス、細菌、原虫など、多くの病原体は、細胞膜の脂質ラフトで起こるエンドサイトーシスを利用して細胞に入りこむ。よって、脂質ラフトのクラスター形成を抑制すれば、エンドサイトーシスを介した病原体の感染と増殖を抑制することができる。脂質ラフトのもう一つの機能は、細胞外から細胞内への細胞膜受容体を介した情報伝達であるが、脂質ラフトのクラスター形成を抑制すれば、当該受容体を介する複数の情報伝達を同時にブロックすることができる。
止血凝固に携わる凝固第9因子(F9)は古くから知られる必須の血液凝固因子であり、血友病の原因タンパク質として周知である。F9は、凝固反応の過程で凝固第11因子(F11)により2つの断片(重鎖、軽鎖)等に切断されることで活性化され、凝固反応を促進する(非特許文献1:Textbook of Medical Physiology,10e.Arthur C.Guyton MD)。F9において、凝固因子としての機能を有する重要な部分はC末端側(重鎖)のトリプシンドメインであり、N末端側(軽鎖)の機能についてはよく知られていなかった。特に、当該軽鎖断片中の第一EGF(EGF1)ドメイン(F9−EGF1)の機能についてはあまり詳しく知られていなかった。
ところで、癌の治療に使用される放射線や薬剤(抗癌剤)の細胞毒性は非常に高いため、治療上の問題点は、いかにして治療効果を癌組織・癌細胞に集中させ、健常組織への副作用を減らすかにある。そのため、癌細胞に特徴的な性質や特異的なタンパク質が治療ターゲットとして試されてきた。癌組織の血管は健常組織の血管と性質が異なるために治療ターゲットとして選ばれ、抗Vascular Endothelial Growth factor(VEGF)抗体が製品化された。抗VEGF抗体以外にも血管を標的とする薬剤が血管を標的としており、その一つが抗ホスファチジルセリン(PS)抗体である。
細胞膜は二層の脂質膜からなるものであり、内側の脂質膜と外側の脂質膜とでは膜を構成する脂質成分が異なる。通常の細胞では、PSは内側の脂質膜に含まれる(偏在している;限局している)が、腫瘍血管の内皮細胞では外側の脂質膜(すなわち細胞膜の外側)に表出する。抗PS抗体は、その表出したPSに結合し、免疫反応を起こして腫瘍血管を攻撃及び破壊する。血流を絶たれた腫瘍細胞は死滅するか、増殖が停止する。実際に、抗PS抗体療法の治験第二相では、進行した肺非小細胞癌患者の生命予後が7ヶ月から11ヶ月に延長した。また、抗PS抗体の適用は治療だけではない。抗体に放射性同位元素を結合させて患者に投与すると、放射能が腫瘍に集積する。それを体外からカメラで撮影すれば、腫瘍の部位や広がりを評価できる。
抗PS抗体の他の適用としては、ウイルス感染症の治療がある。ウイルスに感染した細胞では、PSが外側に表出するので、腫瘍血管の内皮細胞と同様に抗PS抗体療法が適用される。ウイルスは細胞内で増殖するので、ウイルスが増殖する前に感染細胞を死滅させてしまえば、ウイルスの増殖が抑制される。現在使用されている抗ウイルス薬は、ウイルスの種類毎に開発されているものが多く、他種のウイルスには効果がない。他方、抗PS抗体によるウイルス治療は、動物実験によれば、エイズウイルス、インフルエンザウイルス、コクサッキウイルス、C型肝炎ウイルス、ラッサ熱ウイルスなど、広範囲なウイルスに対する感染症に有効であることが確認されている。
しかしながら、前述した腫瘍血管の内皮細胞のすべてが、細胞表面にPSを表出しているわけではない。PSを細胞表面に表出しているのは腫瘍血管内皮細胞の15~40%であると報告されている。そこで、PSの細胞表面への表出を促進させる作用がある放射線や抗癌剤が、現在でも癌治療に使用され、抗PS抗体との併用に一定の効果をもたらすが、周知のとおり、放射線や抗癌剤を用いた治療には強い副作用がある。そのため、そのような治療は、癌の治療においても制限があるし、ウイルス治療に用いることはできない。
<PSの細胞表面への表出抑制剤>
止血凝固に携わる凝固第9因子(F9)は古くから知られる必須の血液凝固因子であり、血友病の原因タンパク質として周知である。F9は、凝固反応の過程で凝固第11因子(F11)により2つの断片(重鎖、軽鎖)等に切断されることで活性化され、凝固反応を促進する(前掲の非特許文献1)。F9において、凝固因子としての機能を有する重要な部分はC末端側(重鎖)のトリプシンドメインであり、N末端側(軽鎖)の機能についてはよく知られていなかった。特に、当該軽鎖断片中の第一EGF(EGF1)ドメイン(F9−EGF1)の機能についてはあまり詳しく知られていなかった。
ところで、癌の治療に使用される放射線や薬剤(抗癌剤)の細胞毒性は非常に高いため、治療上の問題点は、いかにして治療効果を癌組織・癌細胞に集中させ、健常組織への副作用を減らすかにある。そのため、癌細胞に特徴的な性質や特異的なタンパク質が治療ターゲットとして試されてきた。癌組織の血管は健常組織の血管と性質が異なるために治療ターゲットとして選ばれ、抗Vascular Endothelial Growth factor(VEGF)抗体が製品化された。抗VEGF抗体以外にも血管を標的とする薬剤が血管を標的としており、その一つが抗ホスファチジルセリン(PS)抗体である。
細胞膜は二層の脂質膜からなるものであり、内側の脂質膜と外側の脂質膜とでは膜を構成する脂質成分が異なる。通常の細胞では、PSは内側の脂質膜に含まれる(偏在している;限局している)が、腫瘍血管の内皮細胞では外側の脂質膜(すなわち細胞膜の外側)に表出する。抗PS抗体は、その表出したPSに結合し、免疫反応を起こして腫瘍血管を攻撃及び破壊する。血流を絶たれた腫瘍細胞は死滅するか、増殖が停止する。実際に、抗PS抗体療法の治験第二相では、進行した肺非小細胞癌患者の生命予後が7ヶ月から11ヶ月に延長した。また、抗PS抗体の適用は治療だけではない。抗体に放射性同位元素を結合させて患者に投与すると、放射能が腫瘍に集積する。それを体外からカメラで撮影すれば、腫瘍の部位や広がりを評価できる。
抗PS抗体の他の適用としては、ウイルス感染症の治療がある。ウイルスに感染した細胞では、PSが外側に表出するので、腫瘍血管の内皮細胞と同様に抗PS抗体療法が適用される。ウイルスは細胞内で増殖するので、ウイルスが増殖する前に感染細胞を死滅させてしまえば、ウイルスの増殖が抑制される。現在使用されている抗ウイルス薬は、ウイルスの種類毎に開発されているものが多く、他種のウイルスには効果がない。他方、抗PS抗体によるウイルス治療は、動物実験によれば、エイズウイルス、インフルエンザウイルス、コクサッキウイルス、C型肝炎ウイルス、ラッサ熱ウイルスなど、広範囲なウイルスに対する感染症に有効であることが確認されている。
しかしながら、前述した腫瘍血管の内皮細胞のすべてが、細胞表面にPSを表出しているわけではない。PSを細胞表面に表出しているのは腫瘍血管内皮細胞の15~40%であると報告されている。そこで、PSの細胞表面への表出を促進させる作用がある放射線や抗癌剤が、現在でも癌治療に使用され、抗PS抗体との併用に一定の効果をもたらすが、周知のとおり、放射線や抗癌剤を用いた治療には強い副作用がある。そのため、そのような治療は、癌の治療においても制限があるし、ウイルス治療に用いることはできない。
<脂質ラフトのクラスター形成抑制剤>
止血凝固に携わる凝固第9因子(F9)は古くから知られる必須の血液凝固因子であり、血友病の原因タンパク質として周知である。F9は、血液凝固反応の過程において、凝固第11因子と凝固第7因子により、重鎖(トリプシンドメイン)と軽鎖との間に存在する中間部(Activation peptide(F9−AP))が切断され、活性化される。切断後も重鎖と軽鎖はジスルフィド結合によりつながっており、1つの分子として、血液凝固反応を促進する(前掲の非特許文献1)。しかしながら、中間部であるF9−APペプチドの機能についての報告はほとんどない。
ところで、従来の感染症に対する治療薬の多くは、病原体(ウイルス、細菌、原虫など)由来のタンパク質を標的とし、その機能の阻害により効果を発揮するものである。また、従来の癌細胞の情報伝達の阻害を目標とする分子標的薬は、情報伝達に携わるタンパク質の機能を阻害し、効果を発揮するものが多い。
しかしながら、単一のタンパク質に対する阻害剤は個々の病原体のタンパク質に対して開発されるため、病原体が異なれば無効となる。さらに、最大の欠点は薬剤耐性の成立である。病原体や癌細胞は、阻害剤の標的となるタンパク質の変異や、他の情報伝達系経路の代替により、薬の攻撃を無力化する。耐性化は、疾患を重症化するばかりでなく、長期にわたる開発の努力や費用を無駄にしてしまう。
さて、細胞膜は、通常、二層の脂質膜から構成されている。その中に、コレステロールやスフィンゴ脂質に富む領域があり、この領域は脂質ラフトと呼ばれている。脂質ラフトは、貪食(エンドサイトーシス)に必要な構造である。また、脂質ラフトには多くの膜タンパクが集まっており、種々の生物学的反応の場となっている。
細胞によるエンドサイトーシスは、細胞外から細胞内への物質と情報の入り口である。ウイルス、細菌、原虫など、多くの病原体は、細胞膜の脂質ラフトで起こるエンドサイトーシスを利用して細胞に入りこむ。よって、脂質ラフトのクラスター形成を抑制すれば、エンドサイトーシスを介した病原体の感染と増殖を抑制することができる。脂質ラフトのもう一つの機能は、細胞外から細胞内への細胞膜受容体を介した情報伝達であるが、脂質ラフトのクラスター形成を抑制すれば、当該受容体を介する複数の情報伝達を同時にブロックすることができる。
このような状況下において、細胞膜の内側の脂質膜に偏在するホスファチジルセリン(PS)を外側の脂質膜に表出(いわゆる外転)させることができる、PSの細胞表面への表出促進剤の開発が望まれていた。特に、腫瘍血管の内皮細胞やウイルス感染細胞において、PSの細胞表面への表出を効果的に促進することができる、前記表出促進剤の開発が望まれていた。
また、細胞膜の内側の脂質膜に偏在するホスファチジルセリン(PS)が外側の脂質膜に表出(いわゆる外転)するのを抑制することができる、PSの細胞表面への表出抑制剤の開発が望まれていた。特に、PSが抗原となって発症しているAPS患者においては、PSの細胞表面への表出を効果的に抑制することが、自己免疫反応の抑制に重要であることから、前記表出抑制剤の開発が切望されていた。
さらに、細胞膜における脂質ラフトのクラスター形成を効果的に抑制することができる、脂質ラフトのクラスター形成抑制剤等の開発が望まれていた。
本発明は、以上のような状況を考慮してなされたもので、以下に示す、
PSの細胞表面への表出促進剤や、当該表出促進剤を含む医薬組成物等;
PSの細胞表面への表出抑制剤や、当該表出抑制剤を含む医薬組成物等;及び
脂質ラフトのクラスター形成抑制剤や、当該抑制剤を含む医薬組成物等
を提供するものである。
<PSの細胞表面への表出促進剤>
(1−1)血液凝固第9因子のEGF1ドメインを含むペプチド、又は内皮細胞遺伝子座−1タンパク質のEGF3ドメインを含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進剤。
(1−2)以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進剤。
(a)配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進活性を有するペプチド。
(c)配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性(相同性)を有するアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進活性を有するペプチド。
上記(1−1)及び(1−2)の表出促進剤において、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進としては、例えば、腫瘍血管の内皮細胞又はウイルス感染細胞におけるホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進が挙げられる。
(1−3)被験動物に上記(1−1)又は(1−2)の表出促進剤を投与することを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進方法。
上記(1−3)の方法としては、例えば、腫瘍血管の内皮細胞又はウイルス感染細胞におけるホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進方法が挙げられる。
(1−4)上記(1−1)又は(1−2)の表出促進剤を含む、医薬組成物。
上記(1−4)の医薬組成物は、例えば、さらに抗ホスファチジルセリン抗体を含むものであってもよい。
上記(1−4)の医薬組成物としては、例えば、癌又はウイルス感染症の治療用の医薬組成物や、癌又はウイルス感染症の診断用の医薬組成物が挙げられる。
<PSの細胞表面への表出抑制剤>
(2−1)血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤。
(2−2)以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤。
(a)配列番号26に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号26に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
(c)配列番号26に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
(2−3)被験動物に上記(2−1)又は(2−2)記載の表出抑制剤を投与することを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制方法。
(2−4)上記(2−1)又は(2−2)記載の表出抑制剤を含む、医薬組成物。
上記(2−4)の医薬組成物としては、例えば、抗リン脂質抗体症候群(APS)の治療又は予防に用いる医薬組成物や、過剰な血栓もしくは塞栓形成に起因する各種疾患(例えば、既存の抗血小板薬の適用がある各種疾患)の治療又は予防に用いる医薬組成物等が挙げられる。
<脂質ラフトのクラスター形成抑制剤>
(3−1)血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、脂質ラフトのクラスター形成抑制剤。
(3−2)以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、脂質ラフトのクラスター形成抑制剤。
(a)配列番号38に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号38に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性を有するペプチド。
(c)配列番号38に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性を有するペプチド。
(3−3)血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、細胞によるエンドサイトーシス抑制剤。
(3−4)以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、細胞によるエンドサイトーシス抑制剤。
(a)配列番号38に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号38に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性を有するペプチド。
(c)配列番号38に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性を有するペプチド。
(3−5)血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制剤。
(3−6)以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制剤。
(a)配列番号38に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号38に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性を有するペプチド。
(c)配列番号38に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性を有するペプチド。
(3−7)被験動物に上記(3−1)又は(3−2)記載の抑制剤を投与することを特徴とする、脂質ラフトのクラスター形成抑制方法。
(3−8)被験動物に上記(3−3)又は(3−4)記載の抑制剤を投与することを特徴とする、細胞によるエンドサイトーシス抑制方法。
(3−9)被験動物に上記(3−5)又は(3−6)記載の抑制剤を投与することを特徴とする、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制方法。
(3−10)上記(3−1)~(3−6)のいずれかに記載の抑制剤を含む、医薬組成物。
上記(3−10)の医薬組成物としては、例えば、感染症の治療又は予防に用いるものや、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達により生じる疾患若しくは病態の治療又は予防に用いるものが挙げられる。
また、細胞膜の内側の脂質膜に偏在するホスファチジルセリン(PS)が外側の脂質膜に表出(いわゆる外転)するのを抑制することができる、PSの細胞表面への表出抑制剤の開発が望まれていた。特に、PSが抗原となって発症しているAPS患者においては、PSの細胞表面への表出を効果的に抑制することが、自己免疫反応の抑制に重要であることから、前記表出抑制剤の開発が切望されていた。
さらに、細胞膜における脂質ラフトのクラスター形成を効果的に抑制することができる、脂質ラフトのクラスター形成抑制剤等の開発が望まれていた。
本発明は、以上のような状況を考慮してなされたもので、以下に示す、
PSの細胞表面への表出促進剤や、当該表出促進剤を含む医薬組成物等;
PSの細胞表面への表出抑制剤や、当該表出抑制剤を含む医薬組成物等;及び
脂質ラフトのクラスター形成抑制剤や、当該抑制剤を含む医薬組成物等
を提供するものである。
<PSの細胞表面への表出促進剤>
(1−1)血液凝固第9因子のEGF1ドメインを含むペプチド、又は内皮細胞遺伝子座−1タンパク質のEGF3ドメインを含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進剤。
(1−2)以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進剤。
(a)配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進活性を有するペプチド。
(c)配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性(相同性)を有するアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進活性を有するペプチド。
上記(1−1)及び(1−2)の表出促進剤において、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進としては、例えば、腫瘍血管の内皮細胞又はウイルス感染細胞におけるホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進が挙げられる。
(1−3)被験動物に上記(1−1)又は(1−2)の表出促進剤を投与することを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進方法。
上記(1−3)の方法としては、例えば、腫瘍血管の内皮細胞又はウイルス感染細胞におけるホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進方法が挙げられる。
(1−4)上記(1−1)又は(1−2)の表出促進剤を含む、医薬組成物。
上記(1−4)の医薬組成物は、例えば、さらに抗ホスファチジルセリン抗体を含むものであってもよい。
上記(1−4)の医薬組成物としては、例えば、癌又はウイルス感染症の治療用の医薬組成物や、癌又はウイルス感染症の診断用の医薬組成物が挙げられる。
<PSの細胞表面への表出抑制剤>
(2−1)血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤。
(2−2)以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤。
(a)配列番号26に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号26に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
(c)配列番号26に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
(2−3)被験動物に上記(2−1)又は(2−2)記載の表出抑制剤を投与することを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制方法。
(2−4)上記(2−1)又は(2−2)記載の表出抑制剤を含む、医薬組成物。
上記(2−4)の医薬組成物としては、例えば、抗リン脂質抗体症候群(APS)の治療又は予防に用いる医薬組成物や、過剰な血栓もしくは塞栓形成に起因する各種疾患(例えば、既存の抗血小板薬の適用がある各種疾患)の治療又は予防に用いる医薬組成物等が挙げられる。
<脂質ラフトのクラスター形成抑制剤>
(3−1)血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、脂質ラフトのクラスター形成抑制剤。
(3−2)以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、脂質ラフトのクラスター形成抑制剤。
(a)配列番号38に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号38に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性を有するペプチド。
(c)配列番号38に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性を有するペプチド。
(3−3)血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、細胞によるエンドサイトーシス抑制剤。
(3−4)以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、細胞によるエンドサイトーシス抑制剤。
(a)配列番号38に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号38に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性を有するペプチド。
(c)配列番号38に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性を有するペプチド。
(3−5)血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制剤。
(3−6)以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制剤。
(a)配列番号38に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号38に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性を有するペプチド。
(c)配列番号38に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性を有するペプチド。
(3−7)被験動物に上記(3−1)又は(3−2)記載の抑制剤を投与することを特徴とする、脂質ラフトのクラスター形成抑制方法。
(3−8)被験動物に上記(3−3)又は(3−4)記載の抑制剤を投与することを特徴とする、細胞によるエンドサイトーシス抑制方法。
(3−9)被験動物に上記(3−5)又は(3−6)記載の抑制剤を投与することを特徴とする、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制方法。
(3−10)上記(3−1)~(3−6)のいずれかに記載の抑制剤を含む、医薬組成物。
上記(3−10)の医薬組成物としては、例えば、感染症の治療又は予防に用いるものや、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達により生じる疾患若しくは病態の治療又は予防に用いるものが挙げられる。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。
なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2014−097201号明細書(2014年5月8日出願)、特願2014−097202号明細書(2014年5月8日出願)、及び特願2014−097203号明細書(2014年5月8日出願)の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
<PSの細胞表面への表出促進剤>
1−1.ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進剤
本発明のホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出促進剤(以下、本発明の表出促進剤ということがある。)は、前述のとおり、血液凝固第9因子(F9)の全長における軽鎖の一部である第一EGFドメイン(F9−EGF1)のペプチド、又は内皮細胞遺伝子座−1(Del−1)タンパク質の第三EGFドメイン(Del1−EGF3)、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むものである。
本発明の表出促進剤による、PSの細胞表面への表出促進の対象となる細胞は、特に限定はされないが、好ましくは、腫瘍細胞(癌細胞)、又はウイルス感染細胞、あるいは活性化された血小板等であり、特に腫瘍細胞については、腫瘍血管の内皮細胞が好ましく挙げられる。すなわち、本発明の表出促進剤は、腫瘍細胞(癌細胞)又はウイルス感染細胞において、その細胞膜の内側の脂質膜に偏在するPSを、細胞膜の外側の脂質膜に外転させ、その結果、細胞表面に表出させ得る促進活性を有する、表出促進剤であることが好ましい。
本発明において、上記腫瘍(癌)の種類については、特に限定はされず、例えば、腺癌、移行上皮癌、肉腫、脳腫瘍、皮膚癌等が挙げられる。また、上記ウイルスの種類についても、特に限定はされず、例えば、エイズウイルス、インフルエンザウイルス、コクサッキウイルス、C型肝炎ウイルス、ラッサ熱ウイルス、エボラウィルス、マールブルグ病ウイルス、クリミアコンゴ出血熱、南米出血熱、西ナイル熱等が挙げられる。
本発明における、F9の全長とは、シグナルペプチド及びプロペプチドを有するF9全体のアミノ酸配列(配列番号12;GenBankアクセッション番号:BAE28840;計471アミノ酸)から、当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分が除かれたアミノ酸配列(配列番号2;計425アミノ酸)からなるペプチド(タンパク質)を意味する。当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分は、配列番号12に示されるアミノ酸配列の第1番目~第46番目のアミノ酸からなる領域である。したがって、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号12に示されるアミノ酸配列の第47番目~第471番目のアミノ酸からなる配列である。なお、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号11に示される塩基配列(GenBankアクセッション番号:AK149372)の第2番目~第1417番目の塩基からなるDNAであり、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号1に示される塩基配列(すなわち、配列番号11に示される塩基配列の第140番目~第1414番目(又は第140番目~第1417番目)の塩基からなるDNA)である。
F9の全長(配列番号2)は、重鎖(すなわちF9のトリプシンドメイン)(配列番号4)と軽鎖(配列番号6)と、これらの間に存在する中間部(Activation peptide(F9−AP))(配列番号10)から構成されるものである。F9−EGF1ペプチド(配列番号8)は、上記軽鎖(配列番号6)の一部からなるペプチドである。
ここで、上記配列番号4、6、8及び10に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、それぞれ順に、配列番号3、5、7及び9に示される塩基配列である。
また、Del−1タンパク質の全長は、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなり、その一部であるDel1−EGF3ペプチドは、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなるペプチドである。
ここで、上記配列番号14及び16に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、それぞれ順に、配列番号13及び15に示される塩基配列である。
本発明の表出促進剤は、具体的には、下記(a)のペプチドを含むものである。
(a)配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
上記(a)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。
本発明において、「ペプチド」とは、少なくとも2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合して構成されたものを意味し、オリゴペプチド、ポリペプチドなどが含まれる。さらに、ポリペプチドが一定の立体構造を形成したものはタンパク質と呼ばれるが、本発明においては、このようなタンパク質も上記「ペプチド」に含まれるものとする。従って、本発明の表出促進剤に含まれるペプチドは、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質のいずれをも意味し得るものである。
また本発明の表出促進剤は、先に述べた通り、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(b)のペプチドを含むものであってもよい。
(b)配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、PSの細胞表面への表出促進活性を有するペプチド。
当該(b)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、PSの細胞表面への表出促進活性を有するペプチドが好ましい。
ここで、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、1~15個、1~14個、1~13個、1~12個、1~11個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個(1~数個)、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、1個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が挙げられ、限定はされないが、当該欠失、置換又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。当該欠失、置換又は付加等の変異の導入は、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えば、GeneTailorTM Site−Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、及びTaKaRa Site−Directed Mutagenesis System(Prime STAR(登録商標)Mutagenesis Basal kit、Mutan(登録商標)−Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。また、上記欠失、置換又は付加の変異が導入されたペプチドであるかどうかは、各種アミノ酸配列決定法、並びにX線及びNMR等による構造解析法などを用いて確認することができる。
また、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとしては、例えば、下記(c)のペプチドも挙げられる。
(c)配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性(相同性)を有するアミノ酸配列を有し、かつ、PSの細胞表面への表出促進活性を有するペプチド。
当該(c)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、PSの細胞表面への表出促進活性を有するペプチドが好ましい。
さらに、当該(c)のペプチドとしては、配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列に対して、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し(又は当該アミノ酸配列からなり)、かつ、PSの細胞表面への表出促進活性を有するペプチドも好ましく挙げられる。上記同一性の数値は一般的に大きい程好ましい。
本発明において、ホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出促進活性とは、細胞膜の内側の脂質膜に存在する(偏在する)PSを、細胞膜の外側の脂質膜に外転させ、PSを細胞表面に表出させることを促進する活性を意味する。当該活性は、例えば、蛍光物質等により標識化したPS結合タンパク質(Annexin等)を用いる蛍光検出法や、免疫染色法等を用いて評価及び測定することができる。
本発明の表出促進剤に含まれる前記(a)~(c)のペプチドは、その構成アミノ酸の残基数は特に限定はされず、所定の活性(PSの細胞表面への表出促進活性)を有する範囲内で適宜設定することができる。
前記(a)~(c)のペプチドは、天然物由来のペプチドであってもよいし、人工的に化学合成して得られたものであってもよく、限定はされないが、天然物由来のペプチドである場合は、細胞毒性等の悪影響や副作用等がない場合が多いため好ましい。
天然物由来のペプチドとしては、天然に存在するオリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質、又はこれらを断片化した状態のもの等が挙げられる。天然物由来のペプチドは、天然物から公知の回収法及び精製法により直接得てもよいし、又は、公知の遺伝子組換え技術により、当該ペプチドをコードする遺伝子を各種発現ベクター等に組込んで細胞に導入し、発現させた後、公知の回収法及び精製法により得てもよい。あるいは、市販のキット、例えば、試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTM System(プロメガ)、合成装置のPG−MateTM(東洋紡)及びRTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)等を用いた無細胞タンパク質合成系により当該ペプチドを産生し、公知の回収法及び精製法により得てもよく、限定はされない。
また、化学合成ペプチドは、公知のペプチド合成方法を用いて得ることができる。合成方法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法及び酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置を使用してもよい。合成反応後は、クロマトグラフィー等の公知の精製法を組み合わせてペプチドを精製することができる。
本発明の表出促進剤は、前記(a)~(c)のペプチドとともに、又はそれに代えて、当該ペプチドの誘導体を含むことができる。当該誘導体とは、当該ペプチドに由来して調製され得るものをすべて含む意味であり、例えば、構成アミノ酸の一部が非天然のアミノ酸に置換されたものや、構成アミノ酸(主にその側鎖)の一部に化学修飾が施されたもの等が挙げられる。
本発明の表出促進剤は、前記(a)~(c)のペプチド、及び/又は、当該ペプチドの誘導体とともに、あるいはそれに代えて、当該ペプチド及び/又は当該誘導体の塩を含むことができる。当該塩としては、生理学的に許容される酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸などの無機酸との塩、あるいは酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。塩基性塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウムなどの無機塩基との塩、あるいはカフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジンなどの有機塩基との塩が挙げられる。
塩は、塩酸などの適切な酸、又は水酸化ナトリウムなどの適切な塩基を用いて調製することができる。例えば、水中、又はメタノール、エタノール若しくはジオキサンなどの不活性な水混和性有機溶媒を含む液体中で、標準的なプロトコルを用いて処理することにより調製することができる。
本発明の表出促進剤は、前記(a)~(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩からなるものであってもよいし、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩と他の成分とを含むものであってもよく、限定はされない。他の成分としては、例えば、PBS及びTris−HCl等の緩衝液、並びにアジ化ナトリウム及びグリセロール等の添加剤などが挙げられる。他の成分を含む場合、その含有割合は、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩による所定の活性(PSの細胞表面への表出促進活性)が著しく妨げられない範囲で、適宜設定することができる。具体的には、上記ペプチドの溶液で用いる場合、ペプチド濃度は、限定はされないが、0.3ng/ml以上であることが好ましく、より好ましくは0.3~5ng/ml、さらに好ましくは0.3~2ng/ml、さらにより好ましくは0.4~1.5ng/ml、特に好ましくは0.6~1ng/ml、最も好ましくは0.8~1ng/mlである。
本発明においては、本発明の表出促進剤を用いる、PSの細胞表面への表出促進方法を提供することができる。当該方法は、被験動物(患者を含む)に対して本発明の表出促進剤を投与する工程を含む方法であり、それ以外にどのような工程を含むものであってもよく、限定はされない。被験動物としては、限定はされないが、ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。本発明の表出促進剤の投与方法、用法、用量等については、限定はされないが、後述する医薬組成物の投与方法における説明が適宜同様に適用できる。
なお、被験動物の生体内に本発明の表出促進剤を投与する場合は、その有効成分である前記(a)~(c)のペプチド等を直接投与してもよいし、あるいは当該ペプチドをコードするDNAの状態で導入(遺伝子導入)してもよく、限定はされない。DNAの導入は、リポソーム法(リポプレックス法)、ポリプレックス法、ペプチド法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、及びウイルスベクター法などの公知の各種遺伝子導入方法を用いて行うことができる。
1−2.DNA、組換えベクター、形質転換体
(1)DNA
本発明においては、前記(a)~(c)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAも包含される。当該DNAは、当該ペプチドをコードする塩基配列からなるDNA(具体的には、前述した配列番号7又は15に示される塩基配列からなるDNA)であってもよいし、あるいは、当該塩基配列を一部に含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター等)を含んでなるDNAであってもよく、限定はされない。なお、当該ペプチドをコードする塩基配列では、コドンの種類は限定されず、例えば、転写後、ヒト等の哺乳類において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよいし、大腸菌や酵母等の微生物や、植物等において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよく、適宜選択又は設計することができる。
また本発明においては、前記(a)~(c)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAに対して相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAであって、PSの細胞表面への表出促進活性を有するタンパク質をコードするDNAも包含される。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、塩(ナトリウム)濃度が150~900mMであり、温度が55~75℃、好ましくは塩(ナトリウム)濃度が150~200mMであり、温度が60~70℃での条件等が挙げられる。
上記以外に当該ハイブリダイズが可能なDNAとしては、FASTA、BLASTなどの相同性(同一性)検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号7又は15に示される塩基配列からなるDNA、あるいは、配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードするDNAと、約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上又は99.9%以上の同一性(相同性)を有するDNAであって、PSの細胞表面への表出促進活性を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。
(2)DNAを含む組換えベクター
本発明においては、適当なベクターに上記本発明のDNAを連結(挿入)することにより得られる組換えベクターも包含される。本発明のDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、ウイルス等が挙げられる。
プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。またウイルスとしてはアデノウイルスやレトロウイルスなどが挙げられる。
本発明の組換えベクターには、プロモーター、本発明のDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子、レポーター遺伝子などを連結することができる。なお、選択マーカー遺伝子としては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。レポーター遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその変異体(EGFP、BFP、YFP等の蛍光タンパク質)、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、LacZ等の遺伝子が挙げられる。
(3)形質転換体
本発明においては、上記本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入して得ることができる形質転換体も包含される。宿主としては、本発明のDNAを発現し得るものであれば限定されず、例えば、当該分野において周知の細菌、酵母等を用いることができる。
細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明のDNA、転写終結配列を含めることができる。細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)などが挙げられる。プロモーターとしては、例えばlacプロモーターなどが用いられる。細菌へのベクター導入法としては、公知の各種導入方法、例えばカルシウムイオン法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばgal1プロモーター等が挙げられる。酵母へのベクター導入法としては、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法等が挙げられる。
1−3.医薬組成物
本発明の表出促進剤は、医薬組成物に含まれる有効成分として有用である。なお、実質的には、前記(a)~(c)のペプチドを当該有効成分ということもできる。
本発明の医薬組成物は、限定はされないが、例えば、さらに抗ホスファチジルセリン抗体(抗PS抗体)を含むものであることが好ましい。抗PS抗体と本発明の表出促進剤とを併用することにより、例えば、癌又はウイルス感染症の治療用の医薬組成物として治療効果に優れ、副作用の少ない、有用なものとなる。また、例えば、抗PS抗体に放射性同位元素や標識物質を結合させて用いれば、上記併用により、検出感度の高い、癌又はウイルス感染症の診断用医薬組成物として有用なものとなり、好ましい。
ここで、抗PS抗体としては、特に限定はされず、既に市販されているものでもよいし、公知の抗体作製技術を用いて作製したもの(モノクローナル抗体やポリクローナル抗体)であってもよく、特に限定はされない。
本発明の医薬組成物は、本発明の表出促進剤を有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で提供され得る。
「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、1つ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。注射剤の場合には、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に溶解または懸濁することにより製造することができる。また、有効成分である本発明の表出促進剤を生体内に投与する場合、コロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、上記ペプチドの生体内の安定性を高めたり、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果が期待される。コロイド分散系は、通常用いられるものであればよく限定はされないが、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、及び水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル及びリポソームを包含する脂質をベースとする分散系を挙げることができ、好ましくは、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞である。
本発明の医薬組成物の投与量は、被験動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは医薬組成物に含有される本発明の表出促進剤等の種類などにより異なっていてもよい。通常、成人一人あたり、一回につき100μg~5000mgの範囲で投与することができるが、限定はされない。
例えば注射剤により投与する場合は、ヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、1μg~100mgの量を、1日平均あたり1回~数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合等により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。すなわち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
なお、本発明の一態様としては、癌もしくはウイルス感染症を治療又は診断する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の表出促進剤の使用も含まれる。また、本発明の他の一態様としては、本発明の表出促進剤を用いること(すなわち被験動物や患者に投与すること)を特徴とする癌もしくはウイルス感染症の治療方法又は診断方法も含まれる。さらに、本発明の他の一態様としては、癌もしくはウイルス感染症を治療又は診断するための、本発明の表出促進剤の使用も含まれる。
1−4.キット
本発明においては、構成成分として本発明の表出促進剤を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出促進用キットも提供される。
本発明のキットは、本発明の表出促進剤の他に、各種バッファー、滅菌水、各種反応容器(エッペンドルフチューブ等)、洗浄剤、界面活性剤、各種プレート、防腐剤、各種細胞培養容器、及び実験操作マニュアル(説明書)等を含んでいてもよく、限定はされない。
<PSの細胞表面への表出抑制剤>
2−1.ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤
本発明のホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出抑制剤(以下、本発明の表出抑制剤ということがある。)は、前述のとおり、血液凝固第9因子(F9)の全長から重鎖であるトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分(すなわちF9−APペプチド)を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むものである。
本発明の表出抑制剤による、PSの細胞表面への表出抑制の対象となる細胞は、特に限定はされないが、PSの細胞表面への表出が異常に亢進している細胞などが好ましく挙げられ、例えば、活性化された血小板等が挙げられる。
本発明における、F9の全長とは、シグナルペプチド及びプロペプチドを有するF9全体のアミノ酸配列(配列番号28;GenBankアクセッション番号:BAE28840;計471アミノ酸)から、当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分が除かれたアミノ酸配列(配列番号18;計425アミノ酸)からなるペプチド(タンパク質)を意味する。当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分は、配列番号28に示されるアミノ酸配列の第1番目~第46番目のアミノ酸からなる領域である。したがって、配列番号18に示されるアミノ酸配列は、配列番号28に示されるアミノ酸配列の第47番目~第471番目のアミノ酸からなる配列である。なお、配列番号28に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号27に示される塩基配列(GenBankアクセッション番号:AK149372)の第2番目~第1417番目の塩基からなるDNAであり、配列番号18に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号17に示される塩基配列(すなわち、配列番号28に示される塩基配列の第140番目~第1414番目(又は第140番目~第1417番目)の塩基からなるDNA)である。
F9の全長(配列番号18)は、重鎖(すなわちF9のトリプシンドメイン)(配列番号20)と軽鎖(配列番号22)と、これらの間に存在する中間部(F9−APペプチド)(配列番号26)から構成されるものである。F9−EGF1ペプチド(配列番号24)は、上記軽鎖(配列番号22)の一部からなるペプチドである。
ここで、上記配列番号20、22、24及び26に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、それぞれ順に、配列番号19、21、23及び25に示される塩基配列である。
本発明の表出抑制剤は、具体的には、下記(a)のペプチドを含むものである。
(a)配列番号26に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
上記(a)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。
本発明において、「ペプチド」とは、少なくとも2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合して構成されたものを意味し、オリゴペプチド、ポリペプチドなどが含まれる。さらに、ポリペプチドが一定の立体構造を形成したものはタンパク質と呼ばれるが、本発明においては、このようなタンパク質も上記「ペプチド」に含まれるものとする。従って、本発明の表出抑制剤に含まれるペプチドは、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質のいずれをも意味し得るものである。
また本発明の表出抑制剤は、先に述べた通り、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(b)のペプチドを含むものであってもよい。
(b)配列番号26に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
当該(b)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号26に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチドが好ましい。
ここで、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、1~15個、1~14個、1~13個、1~12個、1~11個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個(1~数個)、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、1個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が挙げられ、限定はされないが、当該欠失、置換又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。当該欠失、置換又は付加等の変異の導入は、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えば、GeneTailorTM Site−Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、及びTaKaRa Site−Directed Mutagenesis System(Prime STAR(登録商標)Mutagenesis Basal kit、Mutan(登録商標)−Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。また、上記欠失、置換又は付加の変異が導入されたペプチドであるかどうかは、各種アミノ酸配列決定法、並びにX線及びNMR等による構造解析法などを用いて確認することができる。
また、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとしては、例えば、下記(c)のペプチドも挙げられる。
(c)配列番号26に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性(相同性)を有するアミノ酸配列を有し、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
当該(c)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号26に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチドが好ましい。
さらに、当該(c)のペプチドとしては、配列番号26に示されるアミノ酸配列に対して、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し(又は当該アミノ酸配列からなり)、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチドも好ましく挙げられる。上記同一性の数値は一般的に大きい程好ましい。
本発明において、ホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出抑制活性とは、細胞膜の内側の脂質膜に存在する(偏在する)PSを、細胞膜の外側の脂質膜に外転させ、PSを細胞表面に表出させることを抑制する活性を意味する。当該活性は、例えば、蛍光物質等により標識化したPS結合タンパク質(Annexin等)を用いる蛍光検出法や、免疫染色法等を用いて評価及び測定することができる。
本発明の表出抑制剤に含まれる前記(a)~(c)のペプチドは、その構成アミノ酸の残基数は特に限定はされず、所定の活性(PSの細胞表面への表出抑制活性)を有する範囲内で適宜設定することができる。
前記(a)~(c)のペプチドは、天然物由来のペプチドであってもよいし、人工的に化学合成して得られたものであってもよく、限定はされないが、天然物由来のペプチドである場合は、細胞毒性等の悪影響や副作用等がない場合が多いため好ましい。
天然物由来のペプチドとしては、天然に存在するオリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質、又はこれらを断片化した状態のもの等が挙げられる。天然物由来のペプチドは、天然物から公知の回収法及び精製法により直接得てもよいし、又は、公知の遺伝子組換え技術により、当該ペプチドをコードする遺伝子を各種発現ベクター等に組込んで細胞に導入し、発現させた後、公知の回収法及び精製法により得てもよい。あるいは、市販のキット、例えば、試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTM System(プロメガ)、合成装置のPG−MateTM(東洋紡)及びRTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)等を用いた無細胞タンパク質合成系により当該ペプチドを産生し、公知の回収法及び精製法により得てもよく、限定はされない。
また、化学合成ペプチドは、公知のペプチド合成方法を用いて得ることができる。合成方法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法及び酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置を使用してもよい。合成反応後は、クロマトグラフィー等の公知の精製法を組み合わせてペプチドを精製することができる。
本発明の表出抑制剤は、前記(a)~(c)のペプチドとともに、又はそれに代えて、当該ペプチドの誘導体を含むことができる。当該誘導体とは、当該ペプチドに由来して調製され得るものをすべて含む意味であり、例えば、構成アミノ酸の一部が非天然のアミノ酸に置換されたものや、構成アミノ酸(主にその側鎖)の一部に化学修飾が施されたもの等が挙げられる。
本発明の表出抑制剤は、前記(a)~(c)のペプチド、及び/又は、当該ペプチドの誘導体とともに、あるいはそれに代えて、当該ペプチド及び/又は当該誘導体の塩を含むことができる。当該塩としては、生理学的に許容される酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸などの無機酸との塩、あるいは酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。塩基性塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウムなどの無機塩基との塩、あるいはカフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジンなどの有機塩基との塩が挙げられる。
塩は、塩酸などの適切な酸、又は水酸化ナトリウムなどの適切な塩基を用いて調製することができる。例えば、水中、又はメタノール、エタノール若しくはジオキサンなどの不活性な水混和性有機溶媒を含む液体中で、標準的なプロトコルを用いて処理することにより調製することができる。
本発明の表出抑制剤は、前記(a)~(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩からなるものであってもよいし、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩と他の成分とを含むものであってもよく、限定はされない。他の成分としては、例えば、PBS及びTris−HCl等の緩衝液、並びにアジ化ナトリウム及びグリセロール等の添加剤などが挙げられる。他の成分を含む場合、その含有割合は、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩による所定の活性(PSの細胞表面への表出抑制活性)が著しく妨げられない範囲で、適宜設定することができる。具体的には、上記ペプチドの溶液で用いる場合、ペプチド濃度は、限定はされないが、0.3ng/ml以上であることが好ましく、より好ましくは0.3~5ng/ml、さらに好ましくは0.3~2ng/ml、さらにより好ましくは0.4~1.5ng/ml、特に好ましくは0.6~1ng/ml、最も好ましくは0.8~1ng/mlである。
本発明においては、本発明の表出抑制剤を用いる、PSの細胞表面への表出抑制方法を提供することができる。当該方法は、被験動物(患者を含む)に対して本発明の表出抑制剤を投与する工程を含む方法であり、それ以外にどのような工程を含むものであってもよく、限定はされない。被験動物としては、限定はされないが、ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。本発明の表出抑制剤の投与方法、用法、用量等については、限定はされないが、後述する医薬組成物の投与方法における説明が適宜同様に適用できる。
なお、被験動物の生体内に本発明の表出抑制剤を投与する場合は、その有効成分である前記(a)~(c)のペプチド等を直接投与してもよいし、あるいは当該ペプチドをコードするDNAの状態で導入(遺伝子導入)してもよく、限定はされない。DNAの導入は、リポソーム法(リポプレックス法)、ポリプレックス法、ペプチド法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、及びウイルスベクター法などの公知の各種遺伝子導入方法を用いて行うことができる。
2−2.DNA、組換えベクター、形質転換体
(1)DNA
本発明においては、前記(a)~(c)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAも包含される。当該DNAは、当該ペプチドをコードする塩基配列からなるDNA(具体的には、前述した配列番号25に示される塩基配列からなるDNA)であってもよいし、あるいは、当該塩基配列を一部に含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター等)を含んでなるDNAであってもよく、限定はされない。なお、当該ペプチドをコードする塩基配列では、コドンの種類は限定されず、例えば、転写後、ヒト等の哺乳類において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよいし、大腸菌や酵母等の微生物や、植物等において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよく、適宜選択又は設計することができる。
また本発明においては、前記(a)~(c)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAに対して相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAであって、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAも包含される。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、塩(ナトリウム)濃度が150~900mMであり、温度が55~75℃、好ましくは塩(ナトリウム)濃度が150~200mMであり、温度が60~70℃での条件等が挙げられる。
上記以外に当該ハイブリダイズが可能なDNAとしては、FASTA、BLASTなどの相同性(同一性)検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号25に示される塩基配列からなるDNA、あるいは、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードするDNAと、約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上又は99.9%以上の同一性(相同性)を有するDNAであって、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。
(2)DNAを含む組換えベクター
本発明においては、適当なベクターに上記本発明のDNAを連結(挿入)することにより得られる組換えベクターも包含される。本発明のDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、ウイルス等が挙げられる。
プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。またウイルスとしてはアデノウイルスやレトロウイルスなどが挙げられる。
本発明の組換えベクターには、プロモーター、本発明のDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子、レポーター遺伝子などを連結することができる。なお、選択マーカー遺伝子としては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。レポーター遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその変異体(EGFP、BFP、YFP等の蛍光タンパク質)、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、LacZ等の遺伝子が挙げられる。
(3)形質転換体
本発明においては、上記本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入して得ることができる形質転換体も包含される。宿主としては、本発明のDNAを発現し得るものであれば限定されず、例えば、当該分野において周知の細菌、酵母等を用いることができる。
細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明のDNA、転写終結配列を含めることができる。細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)などが挙げられる。プロモーターとしては、例えばlacプロモーターなどが用いられる。細菌へのベクター導入法としては、公知の各種導入方法、例えばカルシウムイオン法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばgal1プロモーター等が挙げられる。酵母へのベクター導入法としては、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法等が挙げられる。
2−3.医薬組成物
本発明の表出抑制剤は、医薬組成物に含まれる有効成分として有用である。なお、実質的には、前記(a)~(c)のペプチドを当該有効成分ということもできる。
本発明の医薬組成物は、限定はされないが、例えば、抗リン脂質抗体症候群(APS)の治療又は予防に用いる医薬組成物であることが好ましい。また、本発明の医薬組成物としては、過剰な血栓・塞栓形成に起因する各種疾患(例えば、既存の抗血小板薬の適用がある各種疾患)の治療又は予防に用いる医薬組成物も好ましく挙げられる。当該各種疾患としては、より具体的には、例えば、虚血性脳血管障害、虚血性心疾患(急性冠症候群(不安定狭心症、非ST上昇心筋梗塞、ST上昇心筋梗塞)、安定狭心症、陳旧性心筋梗塞)、末梢動脈疾患における血栓・塞栓形成などが好ましく挙げられる。
本発明の医薬組成物は、本発明の表出抑制剤を有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で提供され得る。
「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、1つ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。注射剤の場合には、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に溶解または懸濁することにより製造することができる。また、有効成分である本発明の表出抑制剤を生体内に投与する場合、コロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、上記ペプチドの生体内の安定性を高めたり、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果が期待される。コロイド分散系は、通常用いられるものであればよく限定はされないが、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、及び水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル及びリポソームを包含する脂質をベースとする分散系を挙げることができ、好ましくは、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞である。
本発明の医薬組成物の投与量は、被験動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは医薬組成物に含有される本発明の表出抑制剤等の種類などにより異なっていてもよい。通常、成人一人あたり、一回につき100μg~5000mgの範囲で投与することができるが、限定はされない。
例えば注射剤により投与する場合は、ヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、1μg~100mgの量を、1日平均あたり1回~数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合等により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。すなわち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
なお、本発明の一態様としては、抗リン脂質抗体症候群(APS)を治療又は予防する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の表出抑制剤の使用も含まれる。また、本発明の他の一態様としては、本発明の表出抑制剤を用いること(すなわち被験動物や患者に投与すること)を特徴とするAPSの治療又は予防方法も含まれる。さらに、本発明の他の一態様としては、APSを治療又は予防するための、本発明の表出抑制剤の使用も含まれる。
同様に、本発明の一態様としては、前述の過剰な血栓・塞栓形成に起因する各種疾患(例えば、既存の抗血小板薬の適用がある各種疾患)を治療又は予防する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の表出抑制剤の使用も含まれる。また、本発明の他の一態様としては、本発明の表出抑制剤を用いること(すなわち被験動物や患者に投与すること)を特徴とする、前述の過剰な血栓・塞栓形成に起因する各種疾患の治療又は予防方法も含まれる。さらに、本発明の他の一態様としては、前述の過剰な血栓・塞栓形成に起因する各種疾患を治療又は予防するための、本発明の表出抑制剤の使用も含まれる。ここでいう各種疾患のより具体的な例としては、前記列挙したものが同様に適用できる。
2−4.キット
本発明においては、構成成分として本発明の表出抑制剤を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出抑制用キットも提供される。
本発明のキットは、本発明の表出抑制剤の他に、各種バッファー、滅菌水、各種反応容器(エッペンドルフチューブ等)、洗浄剤、界面活性剤、各種プレート、防腐剤、各種細胞培養容器、及び実験操作マニュアル(説明書)等を含んでいてもよく、限定はされない。
<脂質ラフトのクラスター形成抑制剤>
3−1.脂質ラフトのクラスター形成抑制剤等
本発明の脂質ラフトのクラスター形成抑制剤は、前述のとおり、血液凝固第9因子(F9)の全長から重鎖であるトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分(すなわちF9−APペプチド)を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むものである。
また、本発明の他の態様としては、F9−APペプチドを含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含む、細胞によるエンドサイトーシス抑制剤や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制剤も含まれる。細胞によるエンドサイトーシスの抑制や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達の抑制は、細胞膜における脂質ラフトのクラスター形成の抑制と密接に関連しているものである。よって、本明細書においては、上記脂質ラフトのクラスター形成抑制剤、細胞によるエンドサイトーシス抑制剤、及び細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制剤を、まとめて「本発明の抑制剤」という場合がある。
本発明の抑制剤による、脂質ラフトのクラスター形成抑制等の対象となる細胞は、特に限定はされないが、例えば、感染症の原因となる病原体(ウイルス、細菌、原虫等、又はこれらに由来するタンパク質等の物質)が感染した細胞等が挙げられる。
また、本発明でいう「脂質ラフト」とは、細胞膜を構成する二層の脂質膜における、コレステロールやスフィンゴ脂質に富む領域を意味する。なお、「脂質ラフトのクラスター」については、1つの脂質ラフト自体をクラスターと解してもよいし、複数の脂質ラフトが一定の領域に集まった状態のものをクラスターと解してもよく、本発明においては限定されない。
本発明における、F9の全長とは、シグナルペプチド及びプロペプチドを有するF9全体のアミノ酸配列(配列番号40;GenBankアクセッション番号:BAE28840;計471アミノ酸)から、当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分が除かれたアミノ酸配列(配列番号30;計425アミノ酸)からなるペプチド(タンパク質)を意味する。当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分は、配列番号40に示されるアミノ酸配列の第1番目~第46番目のアミノ酸からなる領域である。したがって、配列番号30に示されるアミノ酸配列は、配列番号40に示されるアミノ酸配列の第47番目~第471番目のアミノ酸からなる配列である。なお、配列番号40に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号39に示される塩基配列(GenBankアクセッション番号:AK149372)の第2番目~第1417番目の塩基からなるDNAであり、配列番号30に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号29に示される塩基配列(すなわち、配列番号39に示される塩基配列の第140番目~第1414番目(又は第140番目~第1417番目)の塩基からなるDNA)である。
F9の全長(配列番号30)は、重鎖(すなわちF9のトリプシンドメイン)(配列番号32)と軽鎖(配列番号34)と、これらの間に存在する中間部(F9−APペプチド)(配列番号38)から構成されるものである。F9−EGF1ペプチド(配列番号36)は、上記軽鎖(配列番号34)の一部からなるペプチドである。
ここで、上記配列番号32、34、36及び38に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、それぞれ順に、配列番号31、33、35及び37に示される塩基配列である。
本発明の抑制剤は、具体的には、下記(a)のペプチドを含むものである。
(a)配列番号38に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
上記(a)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号38に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。
本発明において、「ペプチド」とは、少なくとも2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合して構成されたものを意味し、オリゴペプチド、ポリペプチドなどが含まれる。さらに、ポリペプチドが一定の立体構造を形成したものはタンパク質と呼ばれるが、本発明においては、このようなタンパク質も上記「ペプチド」に含まれるものとする。従って、本発明の抑制剤に含まれるペプチドは、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質のいずれをも意味し得るものである。
また本発明の抑制剤は、先に述べた通り、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(b)のペプチドを含むものであってもよい。
(b)配列番号38に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性)を有するペプチド。
当該(b)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号38に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性)を有するペプチドが好ましい。
ここで、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、1~15個、1~14個、1~13個、1~12個、1~11個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個(1~数個)、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、1個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が挙げられ、限定はされないが、当該欠失、置換又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。当該欠失、置換又は付加等の変異の導入は、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えば、GeneTailorTM Site−Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、及びTaKaRa Site−Directed Mutagenesis System(Prime STAR(登録商標)Mutagenesis Basal kit、Mutan(登録商標)−Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。また、上記欠失、置換又は付加の変異が導入されたペプチドであるかどうかは、各種アミノ酸配列決定法、並びにX線及びNMR等による構造解析法などを用いて確認することができる。
また、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとしては、例えば、下記(c)のペプチドも挙げられる。
(c)配列番号38に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性(相同性)を有するアミノ酸配列を有し、かつ、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性)を有するペプチド。
当該(c)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号38に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性)を有するペプチドが好ましい。
さらに、当該(c)のペプチドとしては、配列番号38に示されるアミノ酸配列に対して、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し(又は当該アミノ酸配列からなり)、かつ、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性)を有するペプチドも好ましく挙げられる。上記同一性の数値は一般的に大きい程好ましい。
本発明において、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性とは、細胞膜において脂質ラフトのプローブであるCTxB(コレラ毒素サブユニットB)や脂質ラフトのマーカーであるカベオリン1(caveolin1)により染色される領域が減少する活性を意味する。当該活性は、例えば、後述する実施例等に記載の各種免疫染色法等を用いて評価及び測定することができる。
また本発明において、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性とは、上記CTxBやデキストランなどの物質の細胞内への取り込みを抑制する活性を意味する。当該活性は、例えば、上記脂質ラフトのクラスター形成抑制活性の方法により評価及び測定することができる。
また本発明において、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性とは、リガンドが細胞膜上の受容体に結合した後に細胞内に生じるタンパクリン酸化などの変化を抑制する活性を意味する。当該活性は、例えば、上記脂質ラフトのクラスター形成抑制活性の方法により評価及び測定することができる。
本発明の抑制剤に含まれる前記(a)~(c)のペプチドは、その構成アミノ酸の残基数は特に限定はされず、所定の活性(脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性))を有する範囲内で適宜設定することができる。
前記(a)~(c)のペプチドは、天然物由来のペプチドであってもよいし、人工的に化学合成して得られたものであってもよく、限定はされないが、天然物由来のペプチドである場合は、細胞毒性等の悪影響や副作用等がない場合が多いため好ましい。
天然物由来のペプチドとしては、天然に存在するオリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質、又はこれらを断片化した状態のもの等が挙げられる。天然物由来のペプチドは、天然物から公知の回収法及び精製法により直接得てもよいし、又は、公知の遺伝子組換え技術により、当該ペプチドをコードする遺伝子を各種発現ベクター等に組込んで細胞に導入し、発現させた後、公知の回収法及び精製法により得てもよい。あるいは、市販のキット、例えば、試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTM System(プロメガ)、合成装置のPG−MateTM(東洋紡)及びRTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)等を用いた無細胞タンパク質合成系により当該ペプチドを産生し、公知の回収法及び精製法により得てもよく、限定はされない。
また、化学合成ペプチドは、公知のペプチド合成方法を用いて得ることができる。合成方法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法及び酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置を使用してもよい。合成反応後は、クロマトグラフィー等の公知の精製法を組み合わせてペプチドを精製することができる。
本発明の抑制剤は、前記(a)~(c)のペプチドとともに、又はそれに代えて、当該ペプチドの誘導体を含むことができる。当該誘導体とは、当該ペプチドに由来して調製され得るものをすべて含む意味であり、例えば、構成アミノ酸の一部が非天然のアミノ酸に置換されたものや、構成アミノ酸(主にその側鎖)の一部に化学修飾が施されたもの等が挙げられる。
本発明の抑制剤は、前記(a)~(c)のペプチド、及び/又は、当該ペプチドの誘導体とともに、あるいはそれに代えて、当該ペプチド及び/又は当該誘導体の塩を含むことができる。当該塩としては、生理学的に許容される酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸などの無機酸との塩、あるいは酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。塩基性塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウムなどの無機塩基との塩、あるいはカフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジンなどの有機塩基との塩が挙げられる。
塩は、塩酸などの適切な酸、又は水酸化ナトリウムなどの適切な塩基を用いて調製することができる。例えば、水中、又はメタノール、エタノール若しくはジオキサンなどの不活性な水混和性有機溶媒を含む液体中で、標準的なプロトコルを用いて処理することにより調製することができる。
本発明の抑制剤は、前記(a)~(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩からなるものであってもよいし、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩と他の成分とを含むものであってもよく、限定はされない。他の成分としては、例えば、PBS及びTris−HCl等の緩衝液、並びにアジ化ナトリウム及びグリセロール等の添加剤などが挙げられる。他の成分を含む場合、その含有割合は、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩による所定の活性(脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性))が著しく妨げられない範囲で、適宜設定することができる。具体的には、上記ペプチドの溶液で用いる場合、ペプチド濃度は、限定はされないが、0.3ng/ml以上であることが好ましく、より好ましくは0.3~5ng/ml、さらに好ましくは0.3~2ng/ml、さらにより好ましくは0.4~1.5ng/ml、特に好ましくは0.6~1ng/ml、最も好ましくは0.8~1ng/mlである。
本発明においては、本発明の抑制剤を用いる、脂質ラフトのクラスター形成抑制方法、細胞によるエンドサイトーシス抑制方法、及び細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制方法を提供することができる。当該方法は、被験動物(患者を含む)に対して本発明の抑制剤を投与する工程を含む方法であり、それ以外にどのような工程を含むものであってもよく、限定はされない。被験動物としては、限定はされないが、ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。本発明の抑制剤の投与方法、用法、用量等については、限定はされないが、後述する医薬組成物の投与方法における説明が適宜同様に適用できる。
なお、被験動物の生体内に本発明の抑制剤を投与する場合は、その有効成分である前記(a)~(c)のペプチド等を直接投与してもよいし、あるいは当該ペプチドをコードするDNAの状態で導入(遺伝子導入)してもよく、限定はされない。DNAの導入は、リポソーム法(リポプレックス法)、ポリプレックス法、ペプチド法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、及びウイルスベクター法などの公知の各種遺伝子導入方法を用いて行うことができる。
3−2.DNA、組換えベクター、形質転換体
(1)DNA
本発明においては、前記(a)~(c)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAも包含される。当該DNAは、当該ペプチドをコードする塩基配列からなるDNA(具体的には、前述した配列番号37に示される塩基配列からなるDNA)であってもよいし、あるいは、当該塩基配列を一部に含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター等)を含んでなるDNAであってもよく、限定はされない。なお、当該ペプチドをコードする塩基配列では、コドンの種類は限定されず、例えば、転写後、ヒト等の哺乳類において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよいし、大腸菌や酵母等の微生物や、植物等において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよく、適宜選択又は設計することができる。
また本発明においては、前記(a)~(c)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAに対して相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAであって、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性)を有するタンパク質をコードするDNAも包含される。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、塩(ナトリウム)濃度が150~900mMであり、温度が55~75℃、好ましくは塩(ナトリウム)濃度が150~200mMであり、温度が60~70℃での条件等が挙げられる。
上記以外に当該ハイブリダイズが可能なDNAとしては、FASTA、BLASTなどの相同性(同一性)検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号37に示される塩基配列からなるDNA、あるいは、配列番号38に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードするDNAと、約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上又は99.9%以上の同一性(相同性)を有するDNAであって、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性)を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。
(2)DNAを含む組換えベクター
本発明においては、適当なベクターに上記本発明のDNAを連結(挿入)することにより得られる組換えベクターも包含される。本発明のDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、ウイルス等が挙げられる。
プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。またウイルスとしてはアデノウイルスやレトロウイルスなどが挙げられる。
本発明の組換えベクターには、プロモーター、本発明のDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子、レポーター遺伝子などを連結することができる。なお、選択マーカー遺伝子としては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。レポーター遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその変異体(EGFP、BFP、YFP等の蛍光タンパク質)、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、LacZ等の遺伝子が挙げられる。
(3)形質転換体
本発明においては、上記本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入して得ることができる形質転換体も包含される。宿主としては、本発明のDNAを発現し得るものであれば限定されず、例えば、当該分野において周知の細菌、酵母等を用いることができる。
細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明のDNA、転写終結配列を含めることができる。細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)などが挙げられる。プロモーターとしては、例えばlacプロモーターなどが用いられる。細菌へのベクター導入法としては、公知の各種導入方法、例えばカルシウムイオン法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばgal1プロモーター等が挙げられる。酵母へのベクター導入法としては、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法等が挙げられる。
3−3.医薬組成物
本発明の抑制剤は、医薬組成物に含まれる有効成分として有用である。なお、実質的には、前記(a)~(c)のペプチドを当該有効成分ということもできる。
本発明の医薬組成物は、限定はされないが、例えば、感染症の治療又は予防に用いる医薬組成物や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達により生じる疾患若しくは病態の治療又は予防に用いる医薬組成物であることが好ましい。
ここで、感染症としては、限定はされないが、病原体(ウイルス、細菌、原虫等、又はこれらに由来するタンパク質等の物質)の細胞内への侵入に起因して発症する公知の症状及び病態がすべて含まれる。また、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達により生じる疾患若しくは病態としては、限定はされないが、癌細胞の増殖等、細胞膜受容体を介するシグナルシグナル伝達に起因して発症する公知の症状及び病態がすべて含まれる。
本発明の医薬組成物は、公知の抗ウイルス薬など、既存の感染症等の治療薬と適宜併用してもよい。
本発明の医薬組成物は、本発明の抑制剤を有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で提供され得る。
「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、1つ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。注射剤の場合には、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に溶解または懸濁することにより製造することができる。また、有効成分である本発明の抑制剤を生体内に投与する場合、コロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、上記ペプチドの生体内の安定性を高めたり、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果が期待される。コロイド分散系は、通常用いられるものであればよく限定はされないが、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、及び水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル及びリポソームを包含する脂質をベースとする分散系を挙げることができ、好ましくは、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞である。
本発明の医薬組成物の投与量は、被験動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは医薬組成物に含有される本発明の抑制剤等の種類などにより異なっていてもよい。通常、成人一人あたり、一回につき100μg~5000mgの範囲で投与することができるが、限定はされない。
例えば注射剤により投与する場合は、ヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、1μg~100mgの量を、1日平均あたり1回~数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合等により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。すなわち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
なお、本発明の一態様としては、感染症を治療又は予防する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の抑制剤の使用も含まれる。また、本発明の他の一態様としては、本発明の抑制剤を用いること(すなわち被験動物や患者に投与すること)を特徴とする感染症の治療又は予防方法も含まれる。さらに、本発明の他の一態様としては、感染症を治療又は予防するための、本発明の抑制剤の使用も含まれる。
さらに、本発明の一態様としては、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達により生じる疾患若しくは病態を治療又は予防する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の抑制剤の使用も含まれる。また、本発明の他の一態様としては、本発明の抑制剤を用いること(すなわち被験動物や患者に投与すること)を特徴とする、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達により生じる疾患若しくは病態の治療又は予防方法も含まれる。さらに、本発明の他の一態様としては、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達により生じる疾患若しくは病態を治療又は予防するための、本発明の抑制剤の使用も含まれる。
3−4.キット
本発明においては、構成成分として本発明の抑制剤を含むことを特徴とする、脂質ラフトのクラスター形成抑制用キット、細胞によるエンドサイトーシス抑制用キットや、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制用キットも提供される。
本発明のキットは、本発明の抑制剤の他に、各種バッファー、滅菌水、各種反応容器(エッペンドルフチューブ等)、洗浄剤、界面活性剤、各種プレート、防腐剤、各種細胞培養容器、及び実験操作マニュアル(説明書)等を含んでいてもよく、限定はされない。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<PSの細胞表面への表出促進剤>
[製造例1−1]
以下の実施例においては、本発明の表出促進剤に用いるペプチドとして、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるF9−EGF1ペプチド、及び、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなるDel1−EGF3ペプチドを用いた。本発明の表出促進剤に用いるペプチドは、適宜、そのC末端及び/又はN末端に1又は複数のリシン残基を付加した形で用いることもできる。以下の実施例では、F9−EGF1ペプチド及びDel1−EGF3ペプチドは、アルカリフォスファターゼ(AP)との融合タンパク質として作製して用いた。
なお、各融合タンパク質は、具体的には、M発現ベクター(APtag4)に、公知の遺伝子組み換え技術を用いて、所定のペプチド(F9−EGF1ペプチド、Del1−EGF3ペプチド)をコードするcDNA(具体的には、配列番号7、15に示される塩基配列からなるDNA)をAP遺伝子との融合遺伝子となるように挿入した組換えベクターを構築し、当該ベクターをCHO細胞に導入して発現させ、精製等を行って作製した。なお、当該cDNAは、公知のF9全体の遺伝子配列(配列番号11)や公知のDel−1全長の遺伝子配列(配列番号13)に基づいて適宜プライマーを設計し、PCRにより所望のcDNA断片を増幅して得て、APtag4に組み込んで用いた。
なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2014−097201号明細書(2014年5月8日出願)、特願2014−097202号明細書(2014年5月8日出願)、及び特願2014−097203号明細書(2014年5月8日出願)の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
<PSの細胞表面への表出促進剤>
1−1.ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進剤
本発明のホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出促進剤(以下、本発明の表出促進剤ということがある。)は、前述のとおり、血液凝固第9因子(F9)の全長における軽鎖の一部である第一EGFドメイン(F9−EGF1)のペプチド、又は内皮細胞遺伝子座−1(Del−1)タンパク質の第三EGFドメイン(Del1−EGF3)、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むものである。
本発明の表出促進剤による、PSの細胞表面への表出促進の対象となる細胞は、特に限定はされないが、好ましくは、腫瘍細胞(癌細胞)、又はウイルス感染細胞、あるいは活性化された血小板等であり、特に腫瘍細胞については、腫瘍血管の内皮細胞が好ましく挙げられる。すなわち、本発明の表出促進剤は、腫瘍細胞(癌細胞)又はウイルス感染細胞において、その細胞膜の内側の脂質膜に偏在するPSを、細胞膜の外側の脂質膜に外転させ、その結果、細胞表面に表出させ得る促進活性を有する、表出促進剤であることが好ましい。
本発明において、上記腫瘍(癌)の種類については、特に限定はされず、例えば、腺癌、移行上皮癌、肉腫、脳腫瘍、皮膚癌等が挙げられる。また、上記ウイルスの種類についても、特に限定はされず、例えば、エイズウイルス、インフルエンザウイルス、コクサッキウイルス、C型肝炎ウイルス、ラッサ熱ウイルス、エボラウィルス、マールブルグ病ウイルス、クリミアコンゴ出血熱、南米出血熱、西ナイル熱等が挙げられる。
本発明における、F9の全長とは、シグナルペプチド及びプロペプチドを有するF9全体のアミノ酸配列(配列番号12;GenBankアクセッション番号:BAE28840;計471アミノ酸)から、当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分が除かれたアミノ酸配列(配列番号2;計425アミノ酸)からなるペプチド(タンパク質)を意味する。当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分は、配列番号12に示されるアミノ酸配列の第1番目~第46番目のアミノ酸からなる領域である。したがって、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号12に示されるアミノ酸配列の第47番目~第471番目のアミノ酸からなる配列である。なお、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号11に示される塩基配列(GenBankアクセッション番号:AK149372)の第2番目~第1417番目の塩基からなるDNAであり、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号1に示される塩基配列(すなわち、配列番号11に示される塩基配列の第140番目~第1414番目(又は第140番目~第1417番目)の塩基からなるDNA)である。
F9の全長(配列番号2)は、重鎖(すなわちF9のトリプシンドメイン)(配列番号4)と軽鎖(配列番号6)と、これらの間に存在する中間部(Activation peptide(F9−AP))(配列番号10)から構成されるものである。F9−EGF1ペプチド(配列番号8)は、上記軽鎖(配列番号6)の一部からなるペプチドである。
ここで、上記配列番号4、6、8及び10に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、それぞれ順に、配列番号3、5、7及び9に示される塩基配列である。
また、Del−1タンパク質の全長は、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなり、その一部であるDel1−EGF3ペプチドは、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなるペプチドである。
ここで、上記配列番号14及び16に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、それぞれ順に、配列番号13及び15に示される塩基配列である。
本発明の表出促進剤は、具体的には、下記(a)のペプチドを含むものである。
(a)配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
上記(a)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。
本発明において、「ペプチド」とは、少なくとも2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合して構成されたものを意味し、オリゴペプチド、ポリペプチドなどが含まれる。さらに、ポリペプチドが一定の立体構造を形成したものはタンパク質と呼ばれるが、本発明においては、このようなタンパク質も上記「ペプチド」に含まれるものとする。従って、本発明の表出促進剤に含まれるペプチドは、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質のいずれをも意味し得るものである。
また本発明の表出促進剤は、先に述べた通り、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(b)のペプチドを含むものであってもよい。
(b)配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、PSの細胞表面への表出促進活性を有するペプチド。
当該(b)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、PSの細胞表面への表出促進活性を有するペプチドが好ましい。
ここで、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、1~15個、1~14個、1~13個、1~12個、1~11個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個(1~数個)、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、1個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が挙げられ、限定はされないが、当該欠失、置換又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。当該欠失、置換又は付加等の変異の導入は、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えば、GeneTailorTM Site−Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、及びTaKaRa Site−Directed Mutagenesis System(Prime STAR(登録商標)Mutagenesis Basal kit、Mutan(登録商標)−Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。また、上記欠失、置換又は付加の変異が導入されたペプチドであるかどうかは、各種アミノ酸配列決定法、並びにX線及びNMR等による構造解析法などを用いて確認することができる。
また、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとしては、例えば、下記(c)のペプチドも挙げられる。
(c)配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性(相同性)を有するアミノ酸配列を有し、かつ、PSの細胞表面への表出促進活性を有するペプチド。
当該(c)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、PSの細胞表面への表出促進活性を有するペプチドが好ましい。
さらに、当該(c)のペプチドとしては、配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列に対して、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し(又は当該アミノ酸配列からなり)、かつ、PSの細胞表面への表出促進活性を有するペプチドも好ましく挙げられる。上記同一性の数値は一般的に大きい程好ましい。
本発明において、ホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出促進活性とは、細胞膜の内側の脂質膜に存在する(偏在する)PSを、細胞膜の外側の脂質膜に外転させ、PSを細胞表面に表出させることを促進する活性を意味する。当該活性は、例えば、蛍光物質等により標識化したPS結合タンパク質(Annexin等)を用いる蛍光検出法や、免疫染色法等を用いて評価及び測定することができる。
本発明の表出促進剤に含まれる前記(a)~(c)のペプチドは、その構成アミノ酸の残基数は特に限定はされず、所定の活性(PSの細胞表面への表出促進活性)を有する範囲内で適宜設定することができる。
前記(a)~(c)のペプチドは、天然物由来のペプチドであってもよいし、人工的に化学合成して得られたものであってもよく、限定はされないが、天然物由来のペプチドである場合は、細胞毒性等の悪影響や副作用等がない場合が多いため好ましい。
天然物由来のペプチドとしては、天然に存在するオリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質、又はこれらを断片化した状態のもの等が挙げられる。天然物由来のペプチドは、天然物から公知の回収法及び精製法により直接得てもよいし、又は、公知の遺伝子組換え技術により、当該ペプチドをコードする遺伝子を各種発現ベクター等に組込んで細胞に導入し、発現させた後、公知の回収法及び精製法により得てもよい。あるいは、市販のキット、例えば、試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTM System(プロメガ)、合成装置のPG−MateTM(東洋紡)及びRTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)等を用いた無細胞タンパク質合成系により当該ペプチドを産生し、公知の回収法及び精製法により得てもよく、限定はされない。
また、化学合成ペプチドは、公知のペプチド合成方法を用いて得ることができる。合成方法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法及び酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置を使用してもよい。合成反応後は、クロマトグラフィー等の公知の精製法を組み合わせてペプチドを精製することができる。
本発明の表出促進剤は、前記(a)~(c)のペプチドとともに、又はそれに代えて、当該ペプチドの誘導体を含むことができる。当該誘導体とは、当該ペプチドに由来して調製され得るものをすべて含む意味であり、例えば、構成アミノ酸の一部が非天然のアミノ酸に置換されたものや、構成アミノ酸(主にその側鎖)の一部に化学修飾が施されたもの等が挙げられる。
本発明の表出促進剤は、前記(a)~(c)のペプチド、及び/又は、当該ペプチドの誘導体とともに、あるいはそれに代えて、当該ペプチド及び/又は当該誘導体の塩を含むことができる。当該塩としては、生理学的に許容される酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸などの無機酸との塩、あるいは酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。塩基性塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウムなどの無機塩基との塩、あるいはカフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジンなどの有機塩基との塩が挙げられる。
塩は、塩酸などの適切な酸、又は水酸化ナトリウムなどの適切な塩基を用いて調製することができる。例えば、水中、又はメタノール、エタノール若しくはジオキサンなどの不活性な水混和性有機溶媒を含む液体中で、標準的なプロトコルを用いて処理することにより調製することができる。
本発明の表出促進剤は、前記(a)~(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩からなるものであってもよいし、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩と他の成分とを含むものであってもよく、限定はされない。他の成分としては、例えば、PBS及びTris−HCl等の緩衝液、並びにアジ化ナトリウム及びグリセロール等の添加剤などが挙げられる。他の成分を含む場合、その含有割合は、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩による所定の活性(PSの細胞表面への表出促進活性)が著しく妨げられない範囲で、適宜設定することができる。具体的には、上記ペプチドの溶液で用いる場合、ペプチド濃度は、限定はされないが、0.3ng/ml以上であることが好ましく、より好ましくは0.3~5ng/ml、さらに好ましくは0.3~2ng/ml、さらにより好ましくは0.4~1.5ng/ml、特に好ましくは0.6~1ng/ml、最も好ましくは0.8~1ng/mlである。
本発明においては、本発明の表出促進剤を用いる、PSの細胞表面への表出促進方法を提供することができる。当該方法は、被験動物(患者を含む)に対して本発明の表出促進剤を投与する工程を含む方法であり、それ以外にどのような工程を含むものであってもよく、限定はされない。被験動物としては、限定はされないが、ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。本発明の表出促進剤の投与方法、用法、用量等については、限定はされないが、後述する医薬組成物の投与方法における説明が適宜同様に適用できる。
なお、被験動物の生体内に本発明の表出促進剤を投与する場合は、その有効成分である前記(a)~(c)のペプチド等を直接投与してもよいし、あるいは当該ペプチドをコードするDNAの状態で導入(遺伝子導入)してもよく、限定はされない。DNAの導入は、リポソーム法(リポプレックス法)、ポリプレックス法、ペプチド法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、及びウイルスベクター法などの公知の各種遺伝子導入方法を用いて行うことができる。
1−2.DNA、組換えベクター、形質転換体
(1)DNA
本発明においては、前記(a)~(c)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAも包含される。当該DNAは、当該ペプチドをコードする塩基配列からなるDNA(具体的には、前述した配列番号7又は15に示される塩基配列からなるDNA)であってもよいし、あるいは、当該塩基配列を一部に含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター等)を含んでなるDNAであってもよく、限定はされない。なお、当該ペプチドをコードする塩基配列では、コドンの種類は限定されず、例えば、転写後、ヒト等の哺乳類において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよいし、大腸菌や酵母等の微生物や、植物等において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよく、適宜選択又は設計することができる。
また本発明においては、前記(a)~(c)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAに対して相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAであって、PSの細胞表面への表出促進活性を有するタンパク質をコードするDNAも包含される。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、塩(ナトリウム)濃度が150~900mMであり、温度が55~75℃、好ましくは塩(ナトリウム)濃度が150~200mMであり、温度が60~70℃での条件等が挙げられる。
上記以外に当該ハイブリダイズが可能なDNAとしては、FASTA、BLASTなどの相同性(同一性)検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号7又は15に示される塩基配列からなるDNA、あるいは、配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードするDNAと、約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上又は99.9%以上の同一性(相同性)を有するDNAであって、PSの細胞表面への表出促進活性を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。
(2)DNAを含む組換えベクター
本発明においては、適当なベクターに上記本発明のDNAを連結(挿入)することにより得られる組換えベクターも包含される。本発明のDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、ウイルス等が挙げられる。
プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。またウイルスとしてはアデノウイルスやレトロウイルスなどが挙げられる。
本発明の組換えベクターには、プロモーター、本発明のDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子、レポーター遺伝子などを連結することができる。なお、選択マーカー遺伝子としては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。レポーター遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその変異体(EGFP、BFP、YFP等の蛍光タンパク質)、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、LacZ等の遺伝子が挙げられる。
(3)形質転換体
本発明においては、上記本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入して得ることができる形質転換体も包含される。宿主としては、本発明のDNAを発現し得るものであれば限定されず、例えば、当該分野において周知の細菌、酵母等を用いることができる。
細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明のDNA、転写終結配列を含めることができる。細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)などが挙げられる。プロモーターとしては、例えばlacプロモーターなどが用いられる。細菌へのベクター導入法としては、公知の各種導入方法、例えばカルシウムイオン法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばgal1プロモーター等が挙げられる。酵母へのベクター導入法としては、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法等が挙げられる。
1−3.医薬組成物
本発明の表出促進剤は、医薬組成物に含まれる有効成分として有用である。なお、実質的には、前記(a)~(c)のペプチドを当該有効成分ということもできる。
本発明の医薬組成物は、限定はされないが、例えば、さらに抗ホスファチジルセリン抗体(抗PS抗体)を含むものであることが好ましい。抗PS抗体と本発明の表出促進剤とを併用することにより、例えば、癌又はウイルス感染症の治療用の医薬組成物として治療効果に優れ、副作用の少ない、有用なものとなる。また、例えば、抗PS抗体に放射性同位元素や標識物質を結合させて用いれば、上記併用により、検出感度の高い、癌又はウイルス感染症の診断用医薬組成物として有用なものとなり、好ましい。
ここで、抗PS抗体としては、特に限定はされず、既に市販されているものでもよいし、公知の抗体作製技術を用いて作製したもの(モノクローナル抗体やポリクローナル抗体)であってもよく、特に限定はされない。
本発明の医薬組成物は、本発明の表出促進剤を有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で提供され得る。
「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、1つ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。注射剤の場合には、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に溶解または懸濁することにより製造することができる。また、有効成分である本発明の表出促進剤を生体内に投与する場合、コロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、上記ペプチドの生体内の安定性を高めたり、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果が期待される。コロイド分散系は、通常用いられるものであればよく限定はされないが、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、及び水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル及びリポソームを包含する脂質をベースとする分散系を挙げることができ、好ましくは、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞である。
本発明の医薬組成物の投与量は、被験動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは医薬組成物に含有される本発明の表出促進剤等の種類などにより異なっていてもよい。通常、成人一人あたり、一回につき100μg~5000mgの範囲で投与することができるが、限定はされない。
例えば注射剤により投与する場合は、ヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、1μg~100mgの量を、1日平均あたり1回~数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合等により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。すなわち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
なお、本発明の一態様としては、癌もしくはウイルス感染症を治療又は診断する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の表出促進剤の使用も含まれる。また、本発明の他の一態様としては、本発明の表出促進剤を用いること(すなわち被験動物や患者に投与すること)を特徴とする癌もしくはウイルス感染症の治療方法又は診断方法も含まれる。さらに、本発明の他の一態様としては、癌もしくはウイルス感染症を治療又は診断するための、本発明の表出促進剤の使用も含まれる。
1−4.キット
本発明においては、構成成分として本発明の表出促進剤を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出促進用キットも提供される。
本発明のキットは、本発明の表出促進剤の他に、各種バッファー、滅菌水、各種反応容器(エッペンドルフチューブ等)、洗浄剤、界面活性剤、各種プレート、防腐剤、各種細胞培養容器、及び実験操作マニュアル(説明書)等を含んでいてもよく、限定はされない。
<PSの細胞表面への表出抑制剤>
2−1.ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤
本発明のホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出抑制剤(以下、本発明の表出抑制剤ということがある。)は、前述のとおり、血液凝固第9因子(F9)の全長から重鎖であるトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分(すなわちF9−APペプチド)を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むものである。
本発明の表出抑制剤による、PSの細胞表面への表出抑制の対象となる細胞は、特に限定はされないが、PSの細胞表面への表出が異常に亢進している細胞などが好ましく挙げられ、例えば、活性化された血小板等が挙げられる。
本発明における、F9の全長とは、シグナルペプチド及びプロペプチドを有するF9全体のアミノ酸配列(配列番号28;GenBankアクセッション番号:BAE28840;計471アミノ酸)から、当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分が除かれたアミノ酸配列(配列番号18;計425アミノ酸)からなるペプチド(タンパク質)を意味する。当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分は、配列番号28に示されるアミノ酸配列の第1番目~第46番目のアミノ酸からなる領域である。したがって、配列番号18に示されるアミノ酸配列は、配列番号28に示されるアミノ酸配列の第47番目~第471番目のアミノ酸からなる配列である。なお、配列番号28に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号27に示される塩基配列(GenBankアクセッション番号:AK149372)の第2番目~第1417番目の塩基からなるDNAであり、配列番号18に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号17に示される塩基配列(すなわち、配列番号28に示される塩基配列の第140番目~第1414番目(又は第140番目~第1417番目)の塩基からなるDNA)である。
F9の全長(配列番号18)は、重鎖(すなわちF9のトリプシンドメイン)(配列番号20)と軽鎖(配列番号22)と、これらの間に存在する中間部(F9−APペプチド)(配列番号26)から構成されるものである。F9−EGF1ペプチド(配列番号24)は、上記軽鎖(配列番号22)の一部からなるペプチドである。
ここで、上記配列番号20、22、24及び26に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、それぞれ順に、配列番号19、21、23及び25に示される塩基配列である。
本発明の表出抑制剤は、具体的には、下記(a)のペプチドを含むものである。
(a)配列番号26に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
上記(a)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。
本発明において、「ペプチド」とは、少なくとも2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合して構成されたものを意味し、オリゴペプチド、ポリペプチドなどが含まれる。さらに、ポリペプチドが一定の立体構造を形成したものはタンパク質と呼ばれるが、本発明においては、このようなタンパク質も上記「ペプチド」に含まれるものとする。従って、本発明の表出抑制剤に含まれるペプチドは、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質のいずれをも意味し得るものである。
また本発明の表出抑制剤は、先に述べた通り、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(b)のペプチドを含むものであってもよい。
(b)配列番号26に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
当該(b)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号26に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチドが好ましい。
ここで、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、1~15個、1~14個、1~13個、1~12個、1~11個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個(1~数個)、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、1個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が挙げられ、限定はされないが、当該欠失、置換又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。当該欠失、置換又は付加等の変異の導入は、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えば、GeneTailorTM Site−Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、及びTaKaRa Site−Directed Mutagenesis System(Prime STAR(登録商標)Mutagenesis Basal kit、Mutan(登録商標)−Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。また、上記欠失、置換又は付加の変異が導入されたペプチドであるかどうかは、各種アミノ酸配列決定法、並びにX線及びNMR等による構造解析法などを用いて確認することができる。
また、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとしては、例えば、下記(c)のペプチドも挙げられる。
(c)配列番号26に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性(相同性)を有するアミノ酸配列を有し、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
当該(c)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号26に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチドが好ましい。
さらに、当該(c)のペプチドとしては、配列番号26に示されるアミノ酸配列に対して、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し(又は当該アミノ酸配列からなり)、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチドも好ましく挙げられる。上記同一性の数値は一般的に大きい程好ましい。
本発明において、ホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出抑制活性とは、細胞膜の内側の脂質膜に存在する(偏在する)PSを、細胞膜の外側の脂質膜に外転させ、PSを細胞表面に表出させることを抑制する活性を意味する。当該活性は、例えば、蛍光物質等により標識化したPS結合タンパク質(Annexin等)を用いる蛍光検出法や、免疫染色法等を用いて評価及び測定することができる。
本発明の表出抑制剤に含まれる前記(a)~(c)のペプチドは、その構成アミノ酸の残基数は特に限定はされず、所定の活性(PSの細胞表面への表出抑制活性)を有する範囲内で適宜設定することができる。
前記(a)~(c)のペプチドは、天然物由来のペプチドであってもよいし、人工的に化学合成して得られたものであってもよく、限定はされないが、天然物由来のペプチドである場合は、細胞毒性等の悪影響や副作用等がない場合が多いため好ましい。
天然物由来のペプチドとしては、天然に存在するオリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質、又はこれらを断片化した状態のもの等が挙げられる。天然物由来のペプチドは、天然物から公知の回収法及び精製法により直接得てもよいし、又は、公知の遺伝子組換え技術により、当該ペプチドをコードする遺伝子を各種発現ベクター等に組込んで細胞に導入し、発現させた後、公知の回収法及び精製法により得てもよい。あるいは、市販のキット、例えば、試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTM System(プロメガ)、合成装置のPG−MateTM(東洋紡)及びRTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)等を用いた無細胞タンパク質合成系により当該ペプチドを産生し、公知の回収法及び精製法により得てもよく、限定はされない。
また、化学合成ペプチドは、公知のペプチド合成方法を用いて得ることができる。合成方法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法及び酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置を使用してもよい。合成反応後は、クロマトグラフィー等の公知の精製法を組み合わせてペプチドを精製することができる。
本発明の表出抑制剤は、前記(a)~(c)のペプチドとともに、又はそれに代えて、当該ペプチドの誘導体を含むことができる。当該誘導体とは、当該ペプチドに由来して調製され得るものをすべて含む意味であり、例えば、構成アミノ酸の一部が非天然のアミノ酸に置換されたものや、構成アミノ酸(主にその側鎖)の一部に化学修飾が施されたもの等が挙げられる。
本発明の表出抑制剤は、前記(a)~(c)のペプチド、及び/又は、当該ペプチドの誘導体とともに、あるいはそれに代えて、当該ペプチド及び/又は当該誘導体の塩を含むことができる。当該塩としては、生理学的に許容される酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸などの無機酸との塩、あるいは酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。塩基性塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウムなどの無機塩基との塩、あるいはカフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジンなどの有機塩基との塩が挙げられる。
塩は、塩酸などの適切な酸、又は水酸化ナトリウムなどの適切な塩基を用いて調製することができる。例えば、水中、又はメタノール、エタノール若しくはジオキサンなどの不活性な水混和性有機溶媒を含む液体中で、標準的なプロトコルを用いて処理することにより調製することができる。
本発明の表出抑制剤は、前記(a)~(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩からなるものであってもよいし、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩と他の成分とを含むものであってもよく、限定はされない。他の成分としては、例えば、PBS及びTris−HCl等の緩衝液、並びにアジ化ナトリウム及びグリセロール等の添加剤などが挙げられる。他の成分を含む場合、その含有割合は、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩による所定の活性(PSの細胞表面への表出抑制活性)が著しく妨げられない範囲で、適宜設定することができる。具体的には、上記ペプチドの溶液で用いる場合、ペプチド濃度は、限定はされないが、0.3ng/ml以上であることが好ましく、より好ましくは0.3~5ng/ml、さらに好ましくは0.3~2ng/ml、さらにより好ましくは0.4~1.5ng/ml、特に好ましくは0.6~1ng/ml、最も好ましくは0.8~1ng/mlである。
本発明においては、本発明の表出抑制剤を用いる、PSの細胞表面への表出抑制方法を提供することができる。当該方法は、被験動物(患者を含む)に対して本発明の表出抑制剤を投与する工程を含む方法であり、それ以外にどのような工程を含むものであってもよく、限定はされない。被験動物としては、限定はされないが、ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。本発明の表出抑制剤の投与方法、用法、用量等については、限定はされないが、後述する医薬組成物の投与方法における説明が適宜同様に適用できる。
なお、被験動物の生体内に本発明の表出抑制剤を投与する場合は、その有効成分である前記(a)~(c)のペプチド等を直接投与してもよいし、あるいは当該ペプチドをコードするDNAの状態で導入(遺伝子導入)してもよく、限定はされない。DNAの導入は、リポソーム法(リポプレックス法)、ポリプレックス法、ペプチド法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、及びウイルスベクター法などの公知の各種遺伝子導入方法を用いて行うことができる。
2−2.DNA、組換えベクター、形質転換体
(1)DNA
本発明においては、前記(a)~(c)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAも包含される。当該DNAは、当該ペプチドをコードする塩基配列からなるDNA(具体的には、前述した配列番号25に示される塩基配列からなるDNA)であってもよいし、あるいは、当該塩基配列を一部に含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター等)を含んでなるDNAであってもよく、限定はされない。なお、当該ペプチドをコードする塩基配列では、コドンの種類は限定されず、例えば、転写後、ヒト等の哺乳類において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよいし、大腸菌や酵母等の微生物や、植物等において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよく、適宜選択又は設計することができる。
また本発明においては、前記(a)~(c)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAに対して相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAであって、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAも包含される。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、塩(ナトリウム)濃度が150~900mMであり、温度が55~75℃、好ましくは塩(ナトリウム)濃度が150~200mMであり、温度が60~70℃での条件等が挙げられる。
上記以外に当該ハイブリダイズが可能なDNAとしては、FASTA、BLASTなどの相同性(同一性)検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号25に示される塩基配列からなるDNA、あるいは、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードするDNAと、約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上又は99.9%以上の同一性(相同性)を有するDNAであって、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。
(2)DNAを含む組換えベクター
本発明においては、適当なベクターに上記本発明のDNAを連結(挿入)することにより得られる組換えベクターも包含される。本発明のDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、ウイルス等が挙げられる。
プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。またウイルスとしてはアデノウイルスやレトロウイルスなどが挙げられる。
本発明の組換えベクターには、プロモーター、本発明のDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子、レポーター遺伝子などを連結することができる。なお、選択マーカー遺伝子としては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。レポーター遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその変異体(EGFP、BFP、YFP等の蛍光タンパク質)、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、LacZ等の遺伝子が挙げられる。
(3)形質転換体
本発明においては、上記本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入して得ることができる形質転換体も包含される。宿主としては、本発明のDNAを発現し得るものであれば限定されず、例えば、当該分野において周知の細菌、酵母等を用いることができる。
細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明のDNA、転写終結配列を含めることができる。細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)などが挙げられる。プロモーターとしては、例えばlacプロモーターなどが用いられる。細菌へのベクター導入法としては、公知の各種導入方法、例えばカルシウムイオン法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばgal1プロモーター等が挙げられる。酵母へのベクター導入法としては、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法等が挙げられる。
2−3.医薬組成物
本発明の表出抑制剤は、医薬組成物に含まれる有効成分として有用である。なお、実質的には、前記(a)~(c)のペプチドを当該有効成分ということもできる。
本発明の医薬組成物は、限定はされないが、例えば、抗リン脂質抗体症候群(APS)の治療又は予防に用いる医薬組成物であることが好ましい。また、本発明の医薬組成物としては、過剰な血栓・塞栓形成に起因する各種疾患(例えば、既存の抗血小板薬の適用がある各種疾患)の治療又は予防に用いる医薬組成物も好ましく挙げられる。当該各種疾患としては、より具体的には、例えば、虚血性脳血管障害、虚血性心疾患(急性冠症候群(不安定狭心症、非ST上昇心筋梗塞、ST上昇心筋梗塞)、安定狭心症、陳旧性心筋梗塞)、末梢動脈疾患における血栓・塞栓形成などが好ましく挙げられる。
本発明の医薬組成物は、本発明の表出抑制剤を有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で提供され得る。
「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、1つ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。注射剤の場合には、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に溶解または懸濁することにより製造することができる。また、有効成分である本発明の表出抑制剤を生体内に投与する場合、コロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、上記ペプチドの生体内の安定性を高めたり、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果が期待される。コロイド分散系は、通常用いられるものであればよく限定はされないが、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、及び水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル及びリポソームを包含する脂質をベースとする分散系を挙げることができ、好ましくは、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞である。
本発明の医薬組成物の投与量は、被験動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは医薬組成物に含有される本発明の表出抑制剤等の種類などにより異なっていてもよい。通常、成人一人あたり、一回につき100μg~5000mgの範囲で投与することができるが、限定はされない。
例えば注射剤により投与する場合は、ヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、1μg~100mgの量を、1日平均あたり1回~数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合等により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。すなわち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
なお、本発明の一態様としては、抗リン脂質抗体症候群(APS)を治療又は予防する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の表出抑制剤の使用も含まれる。また、本発明の他の一態様としては、本発明の表出抑制剤を用いること(すなわち被験動物や患者に投与すること)を特徴とするAPSの治療又は予防方法も含まれる。さらに、本発明の他の一態様としては、APSを治療又は予防するための、本発明の表出抑制剤の使用も含まれる。
同様に、本発明の一態様としては、前述の過剰な血栓・塞栓形成に起因する各種疾患(例えば、既存の抗血小板薬の適用がある各種疾患)を治療又は予防する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の表出抑制剤の使用も含まれる。また、本発明の他の一態様としては、本発明の表出抑制剤を用いること(すなわち被験動物や患者に投与すること)を特徴とする、前述の過剰な血栓・塞栓形成に起因する各種疾患の治療又は予防方法も含まれる。さらに、本発明の他の一態様としては、前述の過剰な血栓・塞栓形成に起因する各種疾患を治療又は予防するための、本発明の表出抑制剤の使用も含まれる。ここでいう各種疾患のより具体的な例としては、前記列挙したものが同様に適用できる。
2−4.キット
本発明においては、構成成分として本発明の表出抑制剤を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出抑制用キットも提供される。
本発明のキットは、本発明の表出抑制剤の他に、各種バッファー、滅菌水、各種反応容器(エッペンドルフチューブ等)、洗浄剤、界面活性剤、各種プレート、防腐剤、各種細胞培養容器、及び実験操作マニュアル(説明書)等を含んでいてもよく、限定はされない。
<脂質ラフトのクラスター形成抑制剤>
3−1.脂質ラフトのクラスター形成抑制剤等
本発明の脂質ラフトのクラスター形成抑制剤は、前述のとおり、血液凝固第9因子(F9)の全長から重鎖であるトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分(すなわちF9−APペプチド)を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むものである。
また、本発明の他の態様としては、F9−APペプチドを含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含む、細胞によるエンドサイトーシス抑制剤や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制剤も含まれる。細胞によるエンドサイトーシスの抑制や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達の抑制は、細胞膜における脂質ラフトのクラスター形成の抑制と密接に関連しているものである。よって、本明細書においては、上記脂質ラフトのクラスター形成抑制剤、細胞によるエンドサイトーシス抑制剤、及び細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制剤を、まとめて「本発明の抑制剤」という場合がある。
本発明の抑制剤による、脂質ラフトのクラスター形成抑制等の対象となる細胞は、特に限定はされないが、例えば、感染症の原因となる病原体(ウイルス、細菌、原虫等、又はこれらに由来するタンパク質等の物質)が感染した細胞等が挙げられる。
また、本発明でいう「脂質ラフト」とは、細胞膜を構成する二層の脂質膜における、コレステロールやスフィンゴ脂質に富む領域を意味する。なお、「脂質ラフトのクラスター」については、1つの脂質ラフト自体をクラスターと解してもよいし、複数の脂質ラフトが一定の領域に集まった状態のものをクラスターと解してもよく、本発明においては限定されない。
本発明における、F9の全長とは、シグナルペプチド及びプロペプチドを有するF9全体のアミノ酸配列(配列番号40;GenBankアクセッション番号:BAE28840;計471アミノ酸)から、当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分が除かれたアミノ酸配列(配列番号30;計425アミノ酸)からなるペプチド(タンパク質)を意味する。当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分は、配列番号40に示されるアミノ酸配列の第1番目~第46番目のアミノ酸からなる領域である。したがって、配列番号30に示されるアミノ酸配列は、配列番号40に示されるアミノ酸配列の第47番目~第471番目のアミノ酸からなる配列である。なお、配列番号40に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号39に示される塩基配列(GenBankアクセッション番号:AK149372)の第2番目~第1417番目の塩基からなるDNAであり、配列番号30に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号29に示される塩基配列(すなわち、配列番号39に示される塩基配列の第140番目~第1414番目(又は第140番目~第1417番目)の塩基からなるDNA)である。
F9の全長(配列番号30)は、重鎖(すなわちF9のトリプシンドメイン)(配列番号32)と軽鎖(配列番号34)と、これらの間に存在する中間部(F9−APペプチド)(配列番号38)から構成されるものである。F9−EGF1ペプチド(配列番号36)は、上記軽鎖(配列番号34)の一部からなるペプチドである。
ここで、上記配列番号32、34、36及び38に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、それぞれ順に、配列番号31、33、35及び37に示される塩基配列である。
本発明の抑制剤は、具体的には、下記(a)のペプチドを含むものである。
(a)配列番号38に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
上記(a)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号38に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。
本発明において、「ペプチド」とは、少なくとも2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合して構成されたものを意味し、オリゴペプチド、ポリペプチドなどが含まれる。さらに、ポリペプチドが一定の立体構造を形成したものはタンパク質と呼ばれるが、本発明においては、このようなタンパク質も上記「ペプチド」に含まれるものとする。従って、本発明の抑制剤に含まれるペプチドは、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質のいずれをも意味し得るものである。
また本発明の抑制剤は、先に述べた通り、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(b)のペプチドを含むものであってもよい。
(b)配列番号38に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性)を有するペプチド。
当該(b)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号38に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性)を有するペプチドが好ましい。
ここで、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、1~15個、1~14個、1~13個、1~12個、1~11個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個(1~数個)、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、1個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が挙げられ、限定はされないが、当該欠失、置換又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。当該欠失、置換又は付加等の変異の導入は、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えば、GeneTailorTM Site−Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、及びTaKaRa Site−Directed Mutagenesis System(Prime STAR(登録商標)Mutagenesis Basal kit、Mutan(登録商標)−Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。また、上記欠失、置換又は付加の変異が導入されたペプチドであるかどうかは、各種アミノ酸配列決定法、並びにX線及びNMR等による構造解析法などを用いて確認することができる。
また、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとしては、例えば、下記(c)のペプチドも挙げられる。
(c)配列番号38に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性(相同性)を有するアミノ酸配列を有し、かつ、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性)を有するペプチド。
当該(c)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号38に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性)を有するペプチドが好ましい。
さらに、当該(c)のペプチドとしては、配列番号38に示されるアミノ酸配列に対して、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し(又は当該アミノ酸配列からなり)、かつ、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性)を有するペプチドも好ましく挙げられる。上記同一性の数値は一般的に大きい程好ましい。
本発明において、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性とは、細胞膜において脂質ラフトのプローブであるCTxB(コレラ毒素サブユニットB)や脂質ラフトのマーカーであるカベオリン1(caveolin1)により染色される領域が減少する活性を意味する。当該活性は、例えば、後述する実施例等に記載の各種免疫染色法等を用いて評価及び測定することができる。
また本発明において、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性とは、上記CTxBやデキストランなどの物質の細胞内への取り込みを抑制する活性を意味する。当該活性は、例えば、上記脂質ラフトのクラスター形成抑制活性の方法により評価及び測定することができる。
また本発明において、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性とは、リガンドが細胞膜上の受容体に結合した後に細胞内に生じるタンパクリン酸化などの変化を抑制する活性を意味する。当該活性は、例えば、上記脂質ラフトのクラスター形成抑制活性の方法により評価及び測定することができる。
本発明の抑制剤に含まれる前記(a)~(c)のペプチドは、その構成アミノ酸の残基数は特に限定はされず、所定の活性(脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性))を有する範囲内で適宜設定することができる。
前記(a)~(c)のペプチドは、天然物由来のペプチドであってもよいし、人工的に化学合成して得られたものであってもよく、限定はされないが、天然物由来のペプチドである場合は、細胞毒性等の悪影響や副作用等がない場合が多いため好ましい。
天然物由来のペプチドとしては、天然に存在するオリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質、又はこれらを断片化した状態のもの等が挙げられる。天然物由来のペプチドは、天然物から公知の回収法及び精製法により直接得てもよいし、又は、公知の遺伝子組換え技術により、当該ペプチドをコードする遺伝子を各種発現ベクター等に組込んで細胞に導入し、発現させた後、公知の回収法及び精製法により得てもよい。あるいは、市販のキット、例えば、試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTM System(プロメガ)、合成装置のPG−MateTM(東洋紡)及びRTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)等を用いた無細胞タンパク質合成系により当該ペプチドを産生し、公知の回収法及び精製法により得てもよく、限定はされない。
また、化学合成ペプチドは、公知のペプチド合成方法を用いて得ることができる。合成方法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法及び酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置を使用してもよい。合成反応後は、クロマトグラフィー等の公知の精製法を組み合わせてペプチドを精製することができる。
本発明の抑制剤は、前記(a)~(c)のペプチドとともに、又はそれに代えて、当該ペプチドの誘導体を含むことができる。当該誘導体とは、当該ペプチドに由来して調製され得るものをすべて含む意味であり、例えば、構成アミノ酸の一部が非天然のアミノ酸に置換されたものや、構成アミノ酸(主にその側鎖)の一部に化学修飾が施されたもの等が挙げられる。
本発明の抑制剤は、前記(a)~(c)のペプチド、及び/又は、当該ペプチドの誘導体とともに、あるいはそれに代えて、当該ペプチド及び/又は当該誘導体の塩を含むことができる。当該塩としては、生理学的に許容される酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸などの無機酸との塩、あるいは酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。塩基性塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウムなどの無機塩基との塩、あるいはカフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジンなどの有機塩基との塩が挙げられる。
塩は、塩酸などの適切な酸、又は水酸化ナトリウムなどの適切な塩基を用いて調製することができる。例えば、水中、又はメタノール、エタノール若しくはジオキサンなどの不活性な水混和性有機溶媒を含む液体中で、標準的なプロトコルを用いて処理することにより調製することができる。
本発明の抑制剤は、前記(a)~(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩からなるものであってもよいし、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩と他の成分とを含むものであってもよく、限定はされない。他の成分としては、例えば、PBS及びTris−HCl等の緩衝液、並びにアジ化ナトリウム及びグリセロール等の添加剤などが挙げられる。他の成分を含む場合、その含有割合は、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩による所定の活性(脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性))が著しく妨げられない範囲で、適宜設定することができる。具体的には、上記ペプチドの溶液で用いる場合、ペプチド濃度は、限定はされないが、0.3ng/ml以上であることが好ましく、より好ましくは0.3~5ng/ml、さらに好ましくは0.3~2ng/ml、さらにより好ましくは0.4~1.5ng/ml、特に好ましくは0.6~1ng/ml、最も好ましくは0.8~1ng/mlである。
本発明においては、本発明の抑制剤を用いる、脂質ラフトのクラスター形成抑制方法、細胞によるエンドサイトーシス抑制方法、及び細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制方法を提供することができる。当該方法は、被験動物(患者を含む)に対して本発明の抑制剤を投与する工程を含む方法であり、それ以外にどのような工程を含むものであってもよく、限定はされない。被験動物としては、限定はされないが、ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。本発明の抑制剤の投与方法、用法、用量等については、限定はされないが、後述する医薬組成物の投与方法における説明が適宜同様に適用できる。
なお、被験動物の生体内に本発明の抑制剤を投与する場合は、その有効成分である前記(a)~(c)のペプチド等を直接投与してもよいし、あるいは当該ペプチドをコードするDNAの状態で導入(遺伝子導入)してもよく、限定はされない。DNAの導入は、リポソーム法(リポプレックス法)、ポリプレックス法、ペプチド法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、及びウイルスベクター法などの公知の各種遺伝子導入方法を用いて行うことができる。
3−2.DNA、組換えベクター、形質転換体
(1)DNA
本発明においては、前記(a)~(c)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAも包含される。当該DNAは、当該ペプチドをコードする塩基配列からなるDNA(具体的には、前述した配列番号37に示される塩基配列からなるDNA)であってもよいし、あるいは、当該塩基配列を一部に含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター等)を含んでなるDNAであってもよく、限定はされない。なお、当該ペプチドをコードする塩基配列では、コドンの種類は限定されず、例えば、転写後、ヒト等の哺乳類において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよいし、大腸菌や酵母等の微生物や、植物等において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよく、適宜選択又は設計することができる。
また本発明においては、前記(a)~(c)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAに対して相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAであって、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性)を有するタンパク質をコードするDNAも包含される。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、塩(ナトリウム)濃度が150~900mMであり、温度が55~75℃、好ましくは塩(ナトリウム)濃度が150~200mMであり、温度が60~70℃での条件等が挙げられる。
上記以外に当該ハイブリダイズが可能なDNAとしては、FASTA、BLASTなどの相同性(同一性)検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号37に示される塩基配列からなるDNA、あるいは、配列番号38に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードするDNAと、約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上又は99.9%以上の同一性(相同性)を有するDNAであって、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性(あるいは、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性)を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。
(2)DNAを含む組換えベクター
本発明においては、適当なベクターに上記本発明のDNAを連結(挿入)することにより得られる組換えベクターも包含される。本発明のDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、ウイルス等が挙げられる。
プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。またウイルスとしてはアデノウイルスやレトロウイルスなどが挙げられる。
本発明の組換えベクターには、プロモーター、本発明のDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子、レポーター遺伝子などを連結することができる。なお、選択マーカー遺伝子としては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。レポーター遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその変異体(EGFP、BFP、YFP等の蛍光タンパク質)、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、LacZ等の遺伝子が挙げられる。
(3)形質転換体
本発明においては、上記本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入して得ることができる形質転換体も包含される。宿主としては、本発明のDNAを発現し得るものであれば限定されず、例えば、当該分野において周知の細菌、酵母等を用いることができる。
細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明のDNA、転写終結配列を含めることができる。細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)などが挙げられる。プロモーターとしては、例えばlacプロモーターなどが用いられる。細菌へのベクター導入法としては、公知の各種導入方法、例えばカルシウムイオン法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばgal1プロモーター等が挙げられる。酵母へのベクター導入法としては、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法等が挙げられる。
3−3.医薬組成物
本発明の抑制剤は、医薬組成物に含まれる有効成分として有用である。なお、実質的には、前記(a)~(c)のペプチドを当該有効成分ということもできる。
本発明の医薬組成物は、限定はされないが、例えば、感染症の治療又は予防に用いる医薬組成物や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達により生じる疾患若しくは病態の治療又は予防に用いる医薬組成物であることが好ましい。
ここで、感染症としては、限定はされないが、病原体(ウイルス、細菌、原虫等、又はこれらに由来するタンパク質等の物質)の細胞内への侵入に起因して発症する公知の症状及び病態がすべて含まれる。また、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達により生じる疾患若しくは病態としては、限定はされないが、癌細胞の増殖等、細胞膜受容体を介するシグナルシグナル伝達に起因して発症する公知の症状及び病態がすべて含まれる。
本発明の医薬組成物は、公知の抗ウイルス薬など、既存の感染症等の治療薬と適宜併用してもよい。
本発明の医薬組成物は、本発明の抑制剤を有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で提供され得る。
「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、1つ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。注射剤の場合には、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に溶解または懸濁することにより製造することができる。また、有効成分である本発明の抑制剤を生体内に投与する場合、コロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、上記ペプチドの生体内の安定性を高めたり、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果が期待される。コロイド分散系は、通常用いられるものであればよく限定はされないが、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、及び水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル及びリポソームを包含する脂質をベースとする分散系を挙げることができ、好ましくは、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞である。
本発明の医薬組成物の投与量は、被験動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは医薬組成物に含有される本発明の抑制剤等の種類などにより異なっていてもよい。通常、成人一人あたり、一回につき100μg~5000mgの範囲で投与することができるが、限定はされない。
例えば注射剤により投与する場合は、ヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、1μg~100mgの量を、1日平均あたり1回~数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合等により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。すなわち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
なお、本発明の一態様としては、感染症を治療又は予防する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の抑制剤の使用も含まれる。また、本発明の他の一態様としては、本発明の抑制剤を用いること(すなわち被験動物や患者に投与すること)を特徴とする感染症の治療又は予防方法も含まれる。さらに、本発明の他の一態様としては、感染症を治療又は予防するための、本発明の抑制剤の使用も含まれる。
さらに、本発明の一態様としては、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達により生じる疾患若しくは病態を治療又は予防する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の抑制剤の使用も含まれる。また、本発明の他の一態様としては、本発明の抑制剤を用いること(すなわち被験動物や患者に投与すること)を特徴とする、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達により生じる疾患若しくは病態の治療又は予防方法も含まれる。さらに、本発明の他の一態様としては、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達により生じる疾患若しくは病態を治療又は予防するための、本発明の抑制剤の使用も含まれる。
3−4.キット
本発明においては、構成成分として本発明の抑制剤を含むことを特徴とする、脂質ラフトのクラスター形成抑制用キット、細胞によるエンドサイトーシス抑制用キットや、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制用キットも提供される。
本発明のキットは、本発明の抑制剤の他に、各種バッファー、滅菌水、各種反応容器(エッペンドルフチューブ等)、洗浄剤、界面活性剤、各種プレート、防腐剤、各種細胞培養容器、及び実験操作マニュアル(説明書)等を含んでいてもよく、限定はされない。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<PSの細胞表面への表出促進剤>
[製造例1−1]
以下の実施例においては、本発明の表出促進剤に用いるペプチドとして、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるF9−EGF1ペプチド、及び、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなるDel1−EGF3ペプチドを用いた。本発明の表出促進剤に用いるペプチドは、適宜、そのC末端及び/又はN末端に1又は複数のリシン残基を付加した形で用いることもできる。以下の実施例では、F9−EGF1ペプチド及びDel1−EGF3ペプチドは、アルカリフォスファターゼ(AP)との融合タンパク質として作製して用いた。
なお、各融合タンパク質は、具体的には、M発現ベクター(APtag4)に、公知の遺伝子組み換え技術を用いて、所定のペプチド(F9−EGF1ペプチド、Del1−EGF3ペプチド)をコードするcDNA(具体的には、配列番号7、15に示される塩基配列からなるDNA)をAP遺伝子との融合遺伝子となるように挿入した組換えベクターを構築し、当該ベクターをCHO細胞に導入して発現させ、精製等を行って作製した。なお、当該cDNAは、公知のF9全体の遺伝子配列(配列番号11)や公知のDel−1全長の遺伝子配列(配列番号13)に基づいて適宜プライマーを設計し、PCRにより所望のcDNA断片を増幅して得て、APtag4に組み込んで用いた。
[実施例1−1]
細胞表面(細胞膜の外側の脂質膜)に表出するホスファチジルセリン(PS)を、蛍光標識化PS結合タンパク(Annexin及びp−SIVA)を用いて検出した。
具体的には、各培養皿に、ヒト扁平上皮癌由来細胞A431(A431細胞)を疎らに播いて、37℃で60分間培養した。その後、培養液中に、AP(陰性コントロール)、及びF9−EGF1ペプチド(1pmol/ml)と、蛍光標識化PS結合タンパク質(Annexin V及びp−SIVA)とを添加した後、5分間培養した。その後、4%パラホルムアルデヒドにより細胞を固定して、共焦点顕微鏡を用いて撮影して蛍光検出した。その結果、当該ペプチドの添加から5分後には、A431細胞の細胞表面(細胞外)にPSが表出していることが確認された。また、Del1−EGF3ペプチド(1pmol/ml)を添加した場合も、F9−EGF1ペプチドを添加した場合と同様に、A431細胞の細胞表面(細胞外)にPSが表出していることが確認された。これらの結果を図1−1に示した。
[実施例1−2]
F9−EGF1ペプチドによるPSの細胞表面への表出促進効果に対する、培養液中のカルシウムイオンの有無が及ぼす影響を、実施例1−1と同様に培養したA431細胞を用いて検討した。
具体的には、培養液中にカルシウムイオンを含む場合と、含まない場合とについて、実施例1−1と同様に、AP(陰性コントロール)、及びF9−EGF1ペプチド(1pmol/ml)を添加し、蛍光標識化PS結合タンパク質(Annexin V及びp−SIVA)や共焦点顕微鏡を用いて蛍光検出した。その結果を図1−2に示した。
図1−2から分かるとおり、培養液中にカルシウムイオンを含む場合は、F9−EGF1ペプチドの添加により、細胞表面にPSが表出していることが確認された。他方、培養液中にカルシウムイオンを含まない場合(Ca(−))は、F9−EGF1ペプチドを添加しても、細胞表面にPSの表出は確認されなかった。なお、カルシウムイオンを含まない培養液には、キレート剤であるEGTA(グリコールエーテルジアミン四酢酸)を添加して実験を行った。
上記のカルシウムイオン依存性の結果から、細胞表面へのPSの外転及び表出には、Scramblase1(PSを細胞表面に外転させる酵素)が働いていることが推察された。
[実施例1−3]
Scramblase1(PSを細胞表面に外転させる酵素)の酵素活性を抑制するsiRNAを用い、F9−EGF1ペプチドによるPSの細胞表面への表出促進効果に対する、Scramblase1依存性の影響を、実施例1−1と同様に培養したA431細胞を用いて検討した。
具体的には、培養液中にScramblase1の酵素活性を抑制するsiRNAを添加しない場合と、添加した場合とについて、実施例1−1と同様に、AP(陰性コントロール)、及びF9−EGF1ペプチド(1pmol/ml)を添加し、蛍光標識化PS結合タンパク質(Annexin V)や共焦点顕微鏡を用いて蛍光検出した。その結果を図1−3に示した。
図1−3から分かるとおり、培養液中にScramblase1の酵素活性を抑制するsiRNAを添加しなかった場合は、F9−EGF1ペプチドの添加により、細胞表面にPSが表出していることが確認された。他方、培養液中にScramblase1の酵素活性を抑制するsiRNAとF9−EGF1ペプチドとを添加した場合(Scr1−siRNA)は、細胞表面へのPSの表出が確認されなかった(表出が抑制された)が、陰性コントロールとなるsiRNAとF9−EGF1ペプチドとを添加した場合(Control−siRNA)は、細胞表面へのPSの表出は抑制されなかった。この結果から、F9−EGF1ペプチドの添加による細胞表面へのPSの表出促進効果は、Scramblase1依存性であると推察できる。
<PSの細胞表面への表出抑制剤>
[製造例2−1]
以下の実施例においては、本発明の表出抑制剤に用いるペプチドとして、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるF9−APペプチド、及び、配列番号38に示されるアミノ酸配列からなるF9−EGF1ペプチドを用いた。本発明の表出抑制剤に用いるペプチドは、適宜、そのC末端及び/又はN末端に1又は複数のリシン残基を付加した形で用いることもできる。以下の実施例では、F9−APペプチドは、化学合成により作製したものを用い、F9−EGF1ペプチドは、アルカリフォスファターゼ(AP)との融合タンパク質として作製したものを用いた。
なお、当該融合タンパク質は、具体的には、AP発現ベクター(APtag4)に、公知の遺伝子組み換え技術を用いて、所定のペプチド(F9−EGF1ペプチド)をコードするcDNA(具体的には、配列番号23に示される塩基配列からなるDNA)をAP遺伝子との融合遺伝子となるように挿入した組換えベクターを構築し、当該ベクターをCHO細胞に導入して発現させ、精製等を行って作製した。なお、当該cDNAは、公知のF9全体の遺伝子配列(配列番号27)に基づいて適宜プライマーを設計し、PCRにより所望のcDNA断片を増幅して得て、APtag4に組み込んで用いた。
[参考例2−1]
細胞表面(細胞膜の外側の脂質膜)に表出するホスファチジルセリン(PS)を、蛍光標識化PS結合タンパク(Annexin及びp−SIVA)を用いて検出した。
具体的には、各培養皿に、扁平上皮癌由来細胞A431(A431細胞)を疎らに播いて、37℃で60分間培養した。その後、培養液中に、AP(陰性コントロール)、及びF9−EGF1ペプチド(1pmol/ml)と、蛍光標識化PS結合タンパク質(Annexin V及びp−SIVA)とを添加した後、5分間培養した。その後、4%パラホルムアルデヒドにより細胞を固定して、共焦点顕微鏡を用いて撮影して蛍光検出した。その結果、当該ペプチドの添加から5分後には、A431細胞の細胞表面(細胞外)にPSが表出していることが確認された。この結果を図2−1に示した。
[実施例2−1]
F9−APペプチドによるPSの細胞表面への表出抑制活性の有無を、上記参考例2−1と同様に培養したA431細胞を用いて検討した。
具体的には、参考例2−1と同様にして、A431細胞を60分間培養し、その後、培養液中に、コントロールペプチド、及びF9−APペプチド(10pmol/ml)を添加して30分培養した。さらに、培養液中に、AP(陰性コントロール)、及びF9−EGF1ペプチド(1pmol/ml)を添加した。参考例2−1と同様に、蛍光標識化PS結合タンパク質(p−SIVA)や共焦点顕微鏡を用いて、透過像の撮影と蛍光検出を行った。その結果を図2−2に示した。
図2−2から分かるとおり、F9−EGF1ペプチドのみを添加した場合の細胞では、細胞表面にPSが表出していることが確認された。他方、F9−EGF1ペプチドとF9−APペプチドを添加した場合(F9−EGF1/F9−AP)の細胞では、細胞表面へのPSの表出は確認されなかった。この結果から、F9−APペプチドは、PSの細胞表面への表出を効果的に抑制し得るものであることが実証された。
<脂質ラフトのクラスター形成抑制剤>
[製造例3−1]
以下の実施例においては、本発明の抑制剤に用いるペプチドとして、配列番号38に示されるアミノ酸配列からなるF9−APペプチド、及び、配列番号36に示されるアミノ酸配列からなるF9−EGF1ペプチドを用いた。本発明の抑制剤に用いるペプチドは、適宜、そのC末端及び/又はN末端に1又は複数のリシン残基を付加した形で用いることもできる。以下の実施例では、F9−APペプチドは、化学合成により作製したものを用い、F9−EGF1ペプチドは、アルカリフォスファターゼ(AP)との融合タンパク質として作製したものを用いた。
なお、当該融合タンパク質は、具体的には、AP発現ベクター(APtag4)に、公知の遺伝子組み換え技術を用いて、所定のペプチド(F9−EGF1ペプチド)をコードするcDNA(具体的には、配列番号35に示される塩基配列からなるDNA)をAP遺伝子との融合遺伝子となるように挿入した組換えベクターを構築し、当該ベクターをCHO細胞に導入して発現させ、精製等を行って作製した。なお、当該cDNAは、公知のF9全体の遺伝子配列(配列番号39)に基づいて適宜プライマーを設計し、PCRにより所望のcDNA断片を増幅して得て、APtag4に組み込んで用いた。
[実施例3−1]
F9−APペプチドの添加による、細胞膜の脂質ラフトのクラスター形成の抑制の有無を検討した。
具体的には、各培養皿に、扁平上皮癌由来細胞A431(A431細胞)を疎らに播いて、37℃で60分間培養した。その後、培養液中に、AP(陰性コントロール)、及びF9−APペプチド(1pmol/ml)を添加し、その30分後に蛍光CTxBを添加し、さらに5分後に4%パラホルムアルデヒドにより細胞を固定した。その後、共焦点顕微鏡を用いて撮影し蛍光検出した。その結果を図3−1に示した。F9−APペプチドの添加により細胞は伸展し、脂質ラフトのプローブであるCTxBの細胞膜上での染色性は顕著に低下した。
[実施例3−2]
F9−APペプチドが、F9−EGF1ペプチドによるcaveolin1(脂質ラフトのマーカータンパク質)の集積を阻害するか否かを、実施例3−1と同様に培養したA431細胞を用いて検討した。
具体的には、実施例3−1と同様にして、A431細胞の培養液中に、AP(陰性コントロール)、及びF9−EGF1ペプチド(1pmol/ml)を添加し、F9−EGF1ペプチドを添加したものについては、一部、同時にF9−APペプチド(5pmol/ml)も添加した。その後、細胞を抗caveolin1抗体を用いて免疫染色し、共焦点顕微鏡を用いて蛍光検出を行った。その結果を図3−2に示した。
図3−2から分かるとおり、F9−EGF1ペプチドのみを添加した場合の細胞では、細胞膜にcaveolin1の集積(すなわち脂質ラフトのクラスター形成)が確認された。他方、F9−EGF1ペプチドとF9−APペプチドとを添加した場合(F9−EGF1+F9−AP)の細胞では、caveolin1の集積が確認されなかった。この結果から、F9−APペプチドは、細胞膜における脂質ラフトのクラスター形成を抑制し得るものであることが実証された。
[実施例3−3]
F9−APペプチドが、内皮細胞の脂質ラフトに多く存在するeNOSタンパク質(一酸化窒素合成酵素)の細胞膜への分布を抑制するか否かを検討した。
具体的には、各培養皿に、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を疎らに播いて、37℃で48時間培養した。その後、脂質ラフトのプローブであるCTxBと、抗eNOS抗体とを用いて免疫染色し、共焦点顕微鏡を用いて蛍光検出を行った。eNOSは細胞膜上でCTxBと共存していた。その後、AP(陰性コントロール)、及びF9−APペプチド(10pmol/ml)を培養細胞に添加したところ、F9−APペプチドを添加した細胞では、添加から30分後にCTxBの染色性が低下し、eNOSも細胞膜上から消失した。その結果を、図3−3(A)に示した。
別途、各培養皿に、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を疎らに播いて、37℃で48時間培養した。その後、Actinと、抗eNOS抗体とを用いて免疫染色し、共焦点顕微鏡を用いて蛍光検出を行った。eNOSは細胞間接着部位に存在していた。その後、AP(陰性コントロール)、及びF9−APペプチド(10pmol/ml)を培養細胞に添加したところ、F9−APペプチドを添加した細胞では、添加から30分後にeNOSの細胞間接着部位での局在が抑制された。その結果を、図3−3(B)に示した。
細胞表面(細胞膜の外側の脂質膜)に表出するホスファチジルセリン(PS)を、蛍光標識化PS結合タンパク(Annexin及びp−SIVA)を用いて検出した。
具体的には、各培養皿に、ヒト扁平上皮癌由来細胞A431(A431細胞)を疎らに播いて、37℃で60分間培養した。その後、培養液中に、AP(陰性コントロール)、及びF9−EGF1ペプチド(1pmol/ml)と、蛍光標識化PS結合タンパク質(Annexin V及びp−SIVA)とを添加した後、5分間培養した。その後、4%パラホルムアルデヒドにより細胞を固定して、共焦点顕微鏡を用いて撮影して蛍光検出した。その結果、当該ペプチドの添加から5分後には、A431細胞の細胞表面(細胞外)にPSが表出していることが確認された。また、Del1−EGF3ペプチド(1pmol/ml)を添加した場合も、F9−EGF1ペプチドを添加した場合と同様に、A431細胞の細胞表面(細胞外)にPSが表出していることが確認された。これらの結果を図1−1に示した。
[実施例1−2]
F9−EGF1ペプチドによるPSの細胞表面への表出促進効果に対する、培養液中のカルシウムイオンの有無が及ぼす影響を、実施例1−1と同様に培養したA431細胞を用いて検討した。
具体的には、培養液中にカルシウムイオンを含む場合と、含まない場合とについて、実施例1−1と同様に、AP(陰性コントロール)、及びF9−EGF1ペプチド(1pmol/ml)を添加し、蛍光標識化PS結合タンパク質(Annexin V及びp−SIVA)や共焦点顕微鏡を用いて蛍光検出した。その結果を図1−2に示した。
図1−2から分かるとおり、培養液中にカルシウムイオンを含む場合は、F9−EGF1ペプチドの添加により、細胞表面にPSが表出していることが確認された。他方、培養液中にカルシウムイオンを含まない場合(Ca(−))は、F9−EGF1ペプチドを添加しても、細胞表面にPSの表出は確認されなかった。なお、カルシウムイオンを含まない培養液には、キレート剤であるEGTA(グリコールエーテルジアミン四酢酸)を添加して実験を行った。
上記のカルシウムイオン依存性の結果から、細胞表面へのPSの外転及び表出には、Scramblase1(PSを細胞表面に外転させる酵素)が働いていることが推察された。
[実施例1−3]
Scramblase1(PSを細胞表面に外転させる酵素)の酵素活性を抑制するsiRNAを用い、F9−EGF1ペプチドによるPSの細胞表面への表出促進効果に対する、Scramblase1依存性の影響を、実施例1−1と同様に培養したA431細胞を用いて検討した。
具体的には、培養液中にScramblase1の酵素活性を抑制するsiRNAを添加しない場合と、添加した場合とについて、実施例1−1と同様に、AP(陰性コントロール)、及びF9−EGF1ペプチド(1pmol/ml)を添加し、蛍光標識化PS結合タンパク質(Annexin V)や共焦点顕微鏡を用いて蛍光検出した。その結果を図1−3に示した。
図1−3から分かるとおり、培養液中にScramblase1の酵素活性を抑制するsiRNAを添加しなかった場合は、F9−EGF1ペプチドの添加により、細胞表面にPSが表出していることが確認された。他方、培養液中にScramblase1の酵素活性を抑制するsiRNAとF9−EGF1ペプチドとを添加した場合(Scr1−siRNA)は、細胞表面へのPSの表出が確認されなかった(表出が抑制された)が、陰性コントロールとなるsiRNAとF9−EGF1ペプチドとを添加した場合(Control−siRNA)は、細胞表面へのPSの表出は抑制されなかった。この結果から、F9−EGF1ペプチドの添加による細胞表面へのPSの表出促進効果は、Scramblase1依存性であると推察できる。
<PSの細胞表面への表出抑制剤>
[製造例2−1]
以下の実施例においては、本発明の表出抑制剤に用いるペプチドとして、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるF9−APペプチド、及び、配列番号38に示されるアミノ酸配列からなるF9−EGF1ペプチドを用いた。本発明の表出抑制剤に用いるペプチドは、適宜、そのC末端及び/又はN末端に1又は複数のリシン残基を付加した形で用いることもできる。以下の実施例では、F9−APペプチドは、化学合成により作製したものを用い、F9−EGF1ペプチドは、アルカリフォスファターゼ(AP)との融合タンパク質として作製したものを用いた。
なお、当該融合タンパク質は、具体的には、AP発現ベクター(APtag4)に、公知の遺伝子組み換え技術を用いて、所定のペプチド(F9−EGF1ペプチド)をコードするcDNA(具体的には、配列番号23に示される塩基配列からなるDNA)をAP遺伝子との融合遺伝子となるように挿入した組換えベクターを構築し、当該ベクターをCHO細胞に導入して発現させ、精製等を行って作製した。なお、当該cDNAは、公知のF9全体の遺伝子配列(配列番号27)に基づいて適宜プライマーを設計し、PCRにより所望のcDNA断片を増幅して得て、APtag4に組み込んで用いた。
[参考例2−1]
細胞表面(細胞膜の外側の脂質膜)に表出するホスファチジルセリン(PS)を、蛍光標識化PS結合タンパク(Annexin及びp−SIVA)を用いて検出した。
具体的には、各培養皿に、扁平上皮癌由来細胞A431(A431細胞)を疎らに播いて、37℃で60分間培養した。その後、培養液中に、AP(陰性コントロール)、及びF9−EGF1ペプチド(1pmol/ml)と、蛍光標識化PS結合タンパク質(Annexin V及びp−SIVA)とを添加した後、5分間培養した。その後、4%パラホルムアルデヒドにより細胞を固定して、共焦点顕微鏡を用いて撮影して蛍光検出した。その結果、当該ペプチドの添加から5分後には、A431細胞の細胞表面(細胞外)にPSが表出していることが確認された。この結果を図2−1に示した。
[実施例2−1]
F9−APペプチドによるPSの細胞表面への表出抑制活性の有無を、上記参考例2−1と同様に培養したA431細胞を用いて検討した。
具体的には、参考例2−1と同様にして、A431細胞を60分間培養し、その後、培養液中に、コントロールペプチド、及びF9−APペプチド(10pmol/ml)を添加して30分培養した。さらに、培養液中に、AP(陰性コントロール)、及びF9−EGF1ペプチド(1pmol/ml)を添加した。参考例2−1と同様に、蛍光標識化PS結合タンパク質(p−SIVA)や共焦点顕微鏡を用いて、透過像の撮影と蛍光検出を行った。その結果を図2−2に示した。
図2−2から分かるとおり、F9−EGF1ペプチドのみを添加した場合の細胞では、細胞表面にPSが表出していることが確認された。他方、F9−EGF1ペプチドとF9−APペプチドを添加した場合(F9−EGF1/F9−AP)の細胞では、細胞表面へのPSの表出は確認されなかった。この結果から、F9−APペプチドは、PSの細胞表面への表出を効果的に抑制し得るものであることが実証された。
<脂質ラフトのクラスター形成抑制剤>
[製造例3−1]
以下の実施例においては、本発明の抑制剤に用いるペプチドとして、配列番号38に示されるアミノ酸配列からなるF9−APペプチド、及び、配列番号36に示されるアミノ酸配列からなるF9−EGF1ペプチドを用いた。本発明の抑制剤に用いるペプチドは、適宜、そのC末端及び/又はN末端に1又は複数のリシン残基を付加した形で用いることもできる。以下の実施例では、F9−APペプチドは、化学合成により作製したものを用い、F9−EGF1ペプチドは、アルカリフォスファターゼ(AP)との融合タンパク質として作製したものを用いた。
なお、当該融合タンパク質は、具体的には、AP発現ベクター(APtag4)に、公知の遺伝子組み換え技術を用いて、所定のペプチド(F9−EGF1ペプチド)をコードするcDNA(具体的には、配列番号35に示される塩基配列からなるDNA)をAP遺伝子との融合遺伝子となるように挿入した組換えベクターを構築し、当該ベクターをCHO細胞に導入して発現させ、精製等を行って作製した。なお、当該cDNAは、公知のF9全体の遺伝子配列(配列番号39)に基づいて適宜プライマーを設計し、PCRにより所望のcDNA断片を増幅して得て、APtag4に組み込んで用いた。
[実施例3−1]
F9−APペプチドの添加による、細胞膜の脂質ラフトのクラスター形成の抑制の有無を検討した。
具体的には、各培養皿に、扁平上皮癌由来細胞A431(A431細胞)を疎らに播いて、37℃で60分間培養した。その後、培養液中に、AP(陰性コントロール)、及びF9−APペプチド(1pmol/ml)を添加し、その30分後に蛍光CTxBを添加し、さらに5分後に4%パラホルムアルデヒドにより細胞を固定した。その後、共焦点顕微鏡を用いて撮影し蛍光検出した。その結果を図3−1に示した。F9−APペプチドの添加により細胞は伸展し、脂質ラフトのプローブであるCTxBの細胞膜上での染色性は顕著に低下した。
[実施例3−2]
F9−APペプチドが、F9−EGF1ペプチドによるcaveolin1(脂質ラフトのマーカータンパク質)の集積を阻害するか否かを、実施例3−1と同様に培養したA431細胞を用いて検討した。
具体的には、実施例3−1と同様にして、A431細胞の培養液中に、AP(陰性コントロール)、及びF9−EGF1ペプチド(1pmol/ml)を添加し、F9−EGF1ペプチドを添加したものについては、一部、同時にF9−APペプチド(5pmol/ml)も添加した。その後、細胞を抗caveolin1抗体を用いて免疫染色し、共焦点顕微鏡を用いて蛍光検出を行った。その結果を図3−2に示した。
図3−2から分かるとおり、F9−EGF1ペプチドのみを添加した場合の細胞では、細胞膜にcaveolin1の集積(すなわち脂質ラフトのクラスター形成)が確認された。他方、F9−EGF1ペプチドとF9−APペプチドとを添加した場合(F9−EGF1+F9−AP)の細胞では、caveolin1の集積が確認されなかった。この結果から、F9−APペプチドは、細胞膜における脂質ラフトのクラスター形成を抑制し得るものであることが実証された。
[実施例3−3]
F9−APペプチドが、内皮細胞の脂質ラフトに多く存在するeNOSタンパク質(一酸化窒素合成酵素)の細胞膜への分布を抑制するか否かを検討した。
具体的には、各培養皿に、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を疎らに播いて、37℃で48時間培養した。その後、脂質ラフトのプローブであるCTxBと、抗eNOS抗体とを用いて免疫染色し、共焦点顕微鏡を用いて蛍光検出を行った。eNOSは細胞膜上でCTxBと共存していた。その後、AP(陰性コントロール)、及びF9−APペプチド(10pmol/ml)を培養細胞に添加したところ、F9−APペプチドを添加した細胞では、添加から30分後にCTxBの染色性が低下し、eNOSも細胞膜上から消失した。その結果を、図3−3(A)に示した。
別途、各培養皿に、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を疎らに播いて、37℃で48時間培養した。その後、Actinと、抗eNOS抗体とを用いて免疫染色し、共焦点顕微鏡を用いて蛍光検出を行った。eNOSは細胞間接着部位に存在していた。その後、AP(陰性コントロール)、及びF9−APペプチド(10pmol/ml)を培養細胞に添加したところ、F9−APペプチドを添加した細胞では、添加から30分後にeNOSの細胞間接着部位での局在が抑制された。その結果を、図3−3(B)に示した。
<PSの細胞表面への表出促進剤>
本発明によれば、細胞、特に、腫瘍血管の内皮細胞やウイルス感染細胞において、細胞膜の内側に偏在するホスファチジルセリン(PS)を効果的に細胞表面に表出させることができる、PSの細胞表面への表出促進剤を提供することができる。
本発明の上記表出促進剤は、凝固第9因子(F9)の軽鎖断片中の第一EGFドメイン(F9−EGF1)のペプチドを含むものであるが、当該表出促進剤は、正常細胞に対する障害性は低いと推察される一方で、腫瘍血管の内皮細胞等に対してはPSの細胞表面への外転を促進させる機能を有する。また、本発明者は、F9−EGF1と類似のアミノ酸配列を有する内皮細胞遺伝子座−1(Del−1;developmentally endothelial locus−1)タンパク質の第三EGFドメイン(Del1−EGF3)にも、同様に、PSの細胞表面への外転を促進させる機能を有することを発見した。すなわち、F9−EGF1ペプチドやDel1−EGF3ペプチドを用いることで、従来公知の癌治療やウイルス感染症治療である抗PS抗体を用いた治療の効果を、格段に向上させることができる。さらに、従来の抗PS抗体を用いる癌治療では、副作用への影響が強い放射線照射や抗癌剤投与によって細胞表面にPSをより多く表出させることを行っていたが、F9−EGF1ペプチドやDel1−EGF3ペプチドを用いれば、そのような副作用の問題もなくPSを効果的に細胞表面に表出させることができる。そのため、F9−EGF1ペプチドやDel1−EGF3ペプチドを含む前記表出促進剤は、抗PS抗体との併用により、抗PS抗体による癌治療やウイルス感染症治療の治療効果を格段に向上させ、かつ、従来より副作用を劇的に低減できるという顕著な効果を奏する点で、極めて有用なものである。
さらに、ヒトF9由来のF9−EGF1ペプチドは、内因性のタンパク質の一部であるため抗原性や毒性の問題がなく、血液凝固因子の一部ではあるものの、それだけでは凝固反応には影響しないため凝固に関連する副作用が起こる可能性も低い。また、F9−EGF1ペプチドは34残基のアミノ酸からなるペプチドであり、Del1−EGF3ペプチドは35残基のアミノ酸からなるペプチドであるため、安価に合成することもできる。そのため、このような安全性や経済性の面からも、これらペプチドを含む前記表出促進剤は、技術的有用性及び実用性に優れたものである。
<PSの細胞表面への表出抑制剤>
本発明によれば、細胞の細胞膜の内側に偏在するホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出を効果的に抑制することができる、PSの細胞表面への表出抑制剤を提供することができる。
本発明の表出抑制剤は、凝固第9因子(F9)の重鎖(トリプシンドメイン)と軽鎖との間に存在する中間部のペプチド(F9−APペプチド)を含むものであるが、正常細胞に対する障害性は低く、副作用等が無いものと推察される。しかも、本発明の表出抑制剤は、従来、有効な治療法が無かった抗リン脂質抗体症候群(APS)に対し、自己抗体の標的抗原となり得るPSが細胞表面に表出するのを抑制できるため、自己免疫反応を顕著に抑制でき、従来の治療法に比べて飛躍的に治療効果を向上させ得るという顕著な効果を奏する点で、極めて有用なものである。
さらに、ヒトF9由来のF9−APペプチドは、内因性のタンパク質の一部であるため抗原性や毒性の問題がなく、血液凝固因子の一部ではあるものの、それだけでは凝固反応には影響しないため凝固に関連する副作用が起こる可能性も低い。また、F9−APペプチドは45残基のアミノ酸からなるペプチドであるため、安価に合成することもできる。そのため、このような安全性や経済性の面からも、当該ペプチドを含む前記表出抑制剤は、技術的有用性及び実用性に優れたものである。
<脂質ラフトのクラスター形成抑制剤>
本発明によれば、細胞膜における脂質ラフトのクラスター形成を効果的に抑制することができる、脂質ラフトのクラスター形成抑制剤を提供することができる。また、細胞によるエンドサイトーシス抑制剤や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制剤を提供することもできる。
本発明の上記各抑制剤は、凝固第9因子(F9)の重鎖(トリプシンドメイン)と軽鎖との間に存在する中間部のペプチド(F9−APペプチド)を含むものであるが、正常細胞に対する障害性は低く、副作用等が無いものと推察される。
しかも、F9−APペプチドを用いることで、脂質ラフトの形成からエンドサイトーシスに至る、病原体(ウイルス、細菌、原虫等、又はこれらに由来するタンパク質等の物質)の侵入の基盤過程を効果的に抑制することができる。よって、本発明の脂質ラフトのクラスター形成抑制剤や、細胞によるエンドサイトーシス抑制剤は、体内での病原体の広がりを効果的に抑止し、また病原体由来タンパク質等の変異があっても耐性の獲得を効果的に阻止することができるため、各種感染症に対する新たな治療及び予防法の開発や、治療及び予防効果の格段の向上が期待できるものである。例えば、脂質ラフトやエンドサイトーシスを介して感染する病原体には、呼吸器感染として重篤化するインフルエンザウィルスやSARSウイルス以外にも、アデノウイルス、ノロウィルスなどエンベロープを持たないウイルス、サルモネラや結核菌などの細菌、マラリア原虫など多数に及ぶ。なかでも特にインフルエンザやSARSのように短い潜伏期で急性に発症する感染症の場合は、初期に感染した細胞から他の細胞への感染の抑制が、疾病の進展する速度を落とし、免疫系に有利に働く。よって、感染の初期段階で本発明の上記抑制剤を投与すれば、ウイルスが体内に広がる速度が遅くなり、ウイルスに対する免疫反応は数日で活性化されるため、発症しないか、軽症化することができる。また本発明の抑制剤は、脂質ラフトのクラスター形成からエンドサイトーシスに至る病原体侵入の基盤となる過程を抑制するため、病原体タンパク質の多少の変異では耐性が成立しない。本発明の抑制剤は、他の抗ウイルス薬とは全く別の機序で作用するため、既存のウイルス薬との併用効果も期待できる。
また、本発明の抑制剤は、細胞表面の脂質ラフトのクラスターを消失させ得るものであるが、脂質ラフト内に含まれる受容体などのタンパク質が機能するには脂質ラフトを必要としたり、脂質ラフト内の方が活性が高いことが多い。したがって、本発明の抑制剤による脂質ラフトのクラスター形成の抑制により、一度に複数の脂質ラフト内のタンパク質の機能を抑制し、細胞内への情報伝達を効果的に抑制することができる。そのため、本発明の抑制剤を用いれば、他の情報伝達系経路の代替による、薬効の無効化の問題を解消することができ、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達により生じる疾患若しくは病態の治療又は予防を効果的に行うことができる。
さらに、ヒトF9由来のF9−APペプチドは、内因性のタンパク質の一部であるため抗原性や毒性の問題がなく、血液凝固因子の一部ではあるものの、それだけでは凝固反応には影響しないため凝固に関連する副作用が起こる可能性も低い。また、F9−APペプチドは45残基のアミノ酸からなるペプチドであるため、安価に合成することもできる。そのため、このような安全性や経済性の面からも、当該ペプチドを含む前記抑制剤は、技術的有用性及び実用性に優れたものである。
本発明によれば、細胞、特に、腫瘍血管の内皮細胞やウイルス感染細胞において、細胞膜の内側に偏在するホスファチジルセリン(PS)を効果的に細胞表面に表出させることができる、PSの細胞表面への表出促進剤を提供することができる。
本発明の上記表出促進剤は、凝固第9因子(F9)の軽鎖断片中の第一EGFドメイン(F9−EGF1)のペプチドを含むものであるが、当該表出促進剤は、正常細胞に対する障害性は低いと推察される一方で、腫瘍血管の内皮細胞等に対してはPSの細胞表面への外転を促進させる機能を有する。また、本発明者は、F9−EGF1と類似のアミノ酸配列を有する内皮細胞遺伝子座−1(Del−1;developmentally endothelial locus−1)タンパク質の第三EGFドメイン(Del1−EGF3)にも、同様に、PSの細胞表面への外転を促進させる機能を有することを発見した。すなわち、F9−EGF1ペプチドやDel1−EGF3ペプチドを用いることで、従来公知の癌治療やウイルス感染症治療である抗PS抗体を用いた治療の効果を、格段に向上させることができる。さらに、従来の抗PS抗体を用いる癌治療では、副作用への影響が強い放射線照射や抗癌剤投与によって細胞表面にPSをより多く表出させることを行っていたが、F9−EGF1ペプチドやDel1−EGF3ペプチドを用いれば、そのような副作用の問題もなくPSを効果的に細胞表面に表出させることができる。そのため、F9−EGF1ペプチドやDel1−EGF3ペプチドを含む前記表出促進剤は、抗PS抗体との併用により、抗PS抗体による癌治療やウイルス感染症治療の治療効果を格段に向上させ、かつ、従来より副作用を劇的に低減できるという顕著な効果を奏する点で、極めて有用なものである。
さらに、ヒトF9由来のF9−EGF1ペプチドは、内因性のタンパク質の一部であるため抗原性や毒性の問題がなく、血液凝固因子の一部ではあるものの、それだけでは凝固反応には影響しないため凝固に関連する副作用が起こる可能性も低い。また、F9−EGF1ペプチドは34残基のアミノ酸からなるペプチドであり、Del1−EGF3ペプチドは35残基のアミノ酸からなるペプチドであるため、安価に合成することもできる。そのため、このような安全性や経済性の面からも、これらペプチドを含む前記表出促進剤は、技術的有用性及び実用性に優れたものである。
<PSの細胞表面への表出抑制剤>
本発明によれば、細胞の細胞膜の内側に偏在するホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出を効果的に抑制することができる、PSの細胞表面への表出抑制剤を提供することができる。
本発明の表出抑制剤は、凝固第9因子(F9)の重鎖(トリプシンドメイン)と軽鎖との間に存在する中間部のペプチド(F9−APペプチド)を含むものであるが、正常細胞に対する障害性は低く、副作用等が無いものと推察される。しかも、本発明の表出抑制剤は、従来、有効な治療法が無かった抗リン脂質抗体症候群(APS)に対し、自己抗体の標的抗原となり得るPSが細胞表面に表出するのを抑制できるため、自己免疫反応を顕著に抑制でき、従来の治療法に比べて飛躍的に治療効果を向上させ得るという顕著な効果を奏する点で、極めて有用なものである。
さらに、ヒトF9由来のF9−APペプチドは、内因性のタンパク質の一部であるため抗原性や毒性の問題がなく、血液凝固因子の一部ではあるものの、それだけでは凝固反応には影響しないため凝固に関連する副作用が起こる可能性も低い。また、F9−APペプチドは45残基のアミノ酸からなるペプチドであるため、安価に合成することもできる。そのため、このような安全性や経済性の面からも、当該ペプチドを含む前記表出抑制剤は、技術的有用性及び実用性に優れたものである。
<脂質ラフトのクラスター形成抑制剤>
本発明によれば、細胞膜における脂質ラフトのクラスター形成を効果的に抑制することができる、脂質ラフトのクラスター形成抑制剤を提供することができる。また、細胞によるエンドサイトーシス抑制剤や、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制剤を提供することもできる。
本発明の上記各抑制剤は、凝固第9因子(F9)の重鎖(トリプシンドメイン)と軽鎖との間に存在する中間部のペプチド(F9−APペプチド)を含むものであるが、正常細胞に対する障害性は低く、副作用等が無いものと推察される。
しかも、F9−APペプチドを用いることで、脂質ラフトの形成からエンドサイトーシスに至る、病原体(ウイルス、細菌、原虫等、又はこれらに由来するタンパク質等の物質)の侵入の基盤過程を効果的に抑制することができる。よって、本発明の脂質ラフトのクラスター形成抑制剤や、細胞によるエンドサイトーシス抑制剤は、体内での病原体の広がりを効果的に抑止し、また病原体由来タンパク質等の変異があっても耐性の獲得を効果的に阻止することができるため、各種感染症に対する新たな治療及び予防法の開発や、治療及び予防効果の格段の向上が期待できるものである。例えば、脂質ラフトやエンドサイトーシスを介して感染する病原体には、呼吸器感染として重篤化するインフルエンザウィルスやSARSウイルス以外にも、アデノウイルス、ノロウィルスなどエンベロープを持たないウイルス、サルモネラや結核菌などの細菌、マラリア原虫など多数に及ぶ。なかでも特にインフルエンザやSARSのように短い潜伏期で急性に発症する感染症の場合は、初期に感染した細胞から他の細胞への感染の抑制が、疾病の進展する速度を落とし、免疫系に有利に働く。よって、感染の初期段階で本発明の上記抑制剤を投与すれば、ウイルスが体内に広がる速度が遅くなり、ウイルスに対する免疫反応は数日で活性化されるため、発症しないか、軽症化することができる。また本発明の抑制剤は、脂質ラフトのクラスター形成からエンドサイトーシスに至る病原体侵入の基盤となる過程を抑制するため、病原体タンパク質の多少の変異では耐性が成立しない。本発明の抑制剤は、他の抗ウイルス薬とは全く別の機序で作用するため、既存のウイルス薬との併用効果も期待できる。
また、本発明の抑制剤は、細胞表面の脂質ラフトのクラスターを消失させ得るものであるが、脂質ラフト内に含まれる受容体などのタンパク質が機能するには脂質ラフトを必要としたり、脂質ラフト内の方が活性が高いことが多い。したがって、本発明の抑制剤による脂質ラフトのクラスター形成の抑制により、一度に複数の脂質ラフト内のタンパク質の機能を抑制し、細胞内への情報伝達を効果的に抑制することができる。そのため、本発明の抑制剤を用いれば、他の情報伝達系経路の代替による、薬効の無効化の問題を解消することができ、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達により生じる疾患若しくは病態の治療又は予防を効果的に行うことができる。
さらに、ヒトF9由来のF9−APペプチドは、内因性のタンパク質の一部であるため抗原性や毒性の問題がなく、血液凝固因子の一部ではあるものの、それだけでは凝固反応には影響しないため凝固に関連する副作用が起こる可能性も低い。また、F9−APペプチドは45残基のアミノ酸からなるペプチドであるため、安価に合成することもできる。そのため、このような安全性や経済性の面からも、当該ペプチドを含む前記抑制剤は、技術的有用性及び実用性に優れたものである。
Claims (27)
- 血液凝固第9因子のEGF1ドメインを合むペプチド、又は内皮細胞遣伝子座−1タンパク質のEGF3ドメインを含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進剤。
- 以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進剤。
(a)配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進活性を有するペプチド。
(c)配列番号8又は16に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進活性を有するペプチド。 - ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進が、腫瘍血管の内皮細胞又はウイルス感染細胞におけるホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進である、請求項1又は2記載の表出促進剤。
- 被験動物に請求項1~3のいずれか1項に記載の表出促進剤を投与することを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進方法。
- 腫瘍血管の内皮細胞又はウイルス感染細胞におけるホスファチジルセリンの細胞表面への表出促進方法である、請求項4記載の方法。
- 請求項1~3のいずれか1項に記載の表出促進剤を含む、医薬組成物。
- さらに抗ホスファチジルセリン抗体を含む、請求項6記載の組成物。
- 癌又はウイルス感染症の治療に用いるものである、請求項6又は7記載の組成物。
- 癌又はウイルス感染症の診断に用いるものである、請求項6又は7記載の組成物。
- 血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤。
- 以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤。
(a)配列番号26に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号26に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
(c)配列番号26に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。 - 被験動物に請求項10又は11記載の表出抑制剤を投与することを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制方法。
- 請求項10~12のいずれか1項に記載の表出抑制剤を含む、医薬組成物。
- 抗リン脂質抗体症候群の治療又は予防に用いるものである、請求項13記載の組成物。
- 過剰な血栓もしくは塞栓形成に起因する疾患の治療又は予防に用いるものである、請求項13記載の組成物。
- 血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、脂質ラフトのクラスター形成抑制剤。
- 以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、脂質ラフトのクラスター形成抑制剤。
(a)配列番号38に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号38に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性を有するペプチド。
(c)配列番号38に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、脂質ラフトのクラスター形成抑制活性を有するペプチド。 - 血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、細胞によるエンドサイトーシス抑制剤。
- 以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、細胞によるエンドサイトーシス抑制剤。
(a)配列番号38に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号38に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性を有するペプチド。
(c)配列番号38に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、細胞によるエンドサイトーシス抑制活性を有するペプチド。 - 血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制剤。
- 以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制剤。
(a)配列番号38に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号38に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性を有するペプチド。
(c)配列番号38に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制活性を有するペプチド。 - 被験動物に請求項16又は17記載の抑制剤を投与することを特徴とする、脂質ラフトのクラスター形成抑制方法。
- 被験動物に請求項18又は19記載の抑制剤を投与することを特徴とする、細胞によるエンドサイトーシス抑制方法。
- 被験動物に請求項20又は21記載の抑制剤を投与することを特徴とする、細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達抑制方法。
- 請求項16~21のいずれか1項に記載の抑制剤を含む、医薬組成物。
- 感染症の治療又は予防に用いるものである、請求項25記載の組成物。
- 細胞膜受容体を介する細胞内への情報伝達により生じる疾患若しくは病態の治療又は予防に用いるものである、請求項25記載の組成物。
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