JP2017048133A - 組織の線維化抑制剤及び皮膚の拘縮抑制剤 - Google Patents

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Tomoaki Hidai
智明 日臺
尚孝 北野
Naotaka Kitano
尚孝 北野
淳 真宮
Jun Mamiya
淳 真宮
友美 石川
Tomomi Ishikawa
友美 石川
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Abstract

【課題】本発明は、副作用の危険性がなく、有効性の高い組織の線維化抑制剤を提供する。【解決手段】本発明の組織の線維化抑制剤は、(a)〜(d)のいずれか一つのペプチド、又はこれらの塩若しくはエステルを有効成分として含有することを特徴とする。【選択図】なし

Description

本発明は、組織の線維化抑制剤及び皮膚の拘縮抑制剤に関する。
コラーゲンの異常な蓄積によって起こる組織の線維化は、炎症反応に伴って起きる。そのため、炎症反応が関与する多種多様な疾患でコラーゲンの異常な蓄積による組織の線維化は生じる。この線維化に対する治療には、(1)原因疾患の治療を行う方法(例えば、肝硬変の治療に抗ウイルス剤を用いる方法等)、(2)疾患によって起こる炎症反応を抑制する方法(例えば、ケロイドや気管支喘息の治療に副腎皮質ステロイド剤を用いる方法等)、(3)線維化に伴う障害を外科的に治療する方法(例えば、拘縮した関節を人工関節に置換する方法等)、等が挙げられる。
上述の(1)及び(2)の内科的治療において、ウイルス肝炎や気管支喘息等の疾患は治療効果が確立しているが、肺線維症やケロイド等のその他多くの疾患は未だ有効な治療方法が確立されていない。また、上述の(3)の外科的治療は、限定された疾患に有効であるが、患者への負担が大きく、さらに、原因疾患が完全に治癒せず再発することも多い。
また、今のところ、一度起きた組織の線維化の改善は、自然の吸収に任せる以外方法がなく、組織の線維化が起こる以前の状態に戻ることは、期待できない。
特許文献1には、複素環誘導体を有効成分として含有する線維化抑制剤が開示されている。この線維化抑制剤は、腎臓、呼吸器、消化器、心血管、皮膚等の幅広い組織の線維化に有効である旨が記載されている。
国際公開第2009/107736号
しかしながら、化学合成した有機化合物を有効成分として含有する治療薬では、副作用の危険性が課題となる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、副作用の危険性がなく、有効性の高い組織の線維化抑制剤を提供することを目的とする。
[1]本発明の組織の線維化抑制剤は、以下の(a)〜(d)のいずれか一つのペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルを有効成分として含有することを特徴とする。
(a)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチド、
(b)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、組織の線維化抑制能を有するペプチド、
(c)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチドのアミノ酸配列と同一性が70%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、組織の線維化抑制能を有するペプチド、
(d)(a)〜(c)のいずれかの断片であって、かつ、組織の線維化抑制能を有するペプチド。
[2]本発明の組織の線維化抑制剤は、前記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列からなるDNAを含むベクターを有効成分として含有する[1]に記載の線維化抑制剤である。
[3]本発明の組織の線維化抑制剤は、前記組織の線維化抑制能がコラーゲンの産生抑制又はコラーゲンの分解亢進によるものである[1]又は[2]に記載の線維化抑制剤である。
[4]本発明の組織の線維化の予防又は治療用医薬組成物は、[1]〜[3]のいずれか一つに記載の組織の線維化抑制剤、並びに薬学的に許容できる担体及び希釈剤のうち少なくともいずれかを含むことを特徴とする。
[5]本発明の皮膚の拘縮抑制剤は、以下の(a)〜(d)のいずれか一つのペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルを有効成分として含有することを特徴とする。
(a)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチド、
(b)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、皮膚の拘縮抑制能を有するペプチド、
(c)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチドのアミノ酸配列と同一性が70%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、皮膚の拘縮抑制能を有するペプチド、
(d)(a)〜(c)のいずれかの断片であって、かつ、皮膚の拘縮抑制能を有するペプチド。
[6]本発明の皮膚の拘縮抑制剤は、前記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列からなるDNAを含むベクターを有効成分として含有する[5]に記載の拘縮抑制剤である。
本発明によれば、副作用の危険性がなく、有効性の高い組織の線維化抑制剤を提供することができる。
試験例1における創傷モデルマウスの創部の変化を撮影した画像である。 試験例1における創傷モデルマウスの創部のHE染色及びコラーゲン染色の結果を撮影した画像である。 試験例1における創傷モデルマウスの創部でのコラーゲン染色による染色面積からコラーゲンと非コラーゲンとの比を示したグラフである。 試験例2における移植腫瘍モデルマウスの腫瘍部のHE染色及びコラーゲン染色の結果を撮影した画像である。 試験例2における移植腫瘍モデルマウスの腫瘍部のPECAM(Platelet Endothelial Cell Adhesion Molecule)抗体及びαSMA(α smooth muscle actin)抗体による蛍光免疫染色の結果を撮影した画像である。 試験例2における移植腫瘍モデルマウスの心臓及び小腸のコラーゲン染色の結果を撮影した画像である。 試験例3におけるヒト線維芽細胞でのMMP9(matrix metalloproteinase 9)の活性を示したグラフである。 試験例4における移植腫瘍モデルマウスの腫瘍部のPECAM抗体及びMMP9抗体による蛍光免疫染色の結果を撮影した画像である。 試験例5における血管上皮細胞での活性型Notch及びhey1の発現をウエスタンブロッティング法により検出した結果を示す画像である。
[組織の線維化抑制剤]
≪第一実施形態≫
本実施形態の組織の線維化抑制剤は、以下の(a)〜(d)のいずれか一つのペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルを有効成分として含有するものである。
(a)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチド、
(b)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、組織の線維化抑制能を有するペプチド、
(c)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチドのアミノ酸配列と同一性が70%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、組織の線維化抑制能を有するペプチド、
(d)(a)〜(c)のいずれかの断片であって、かつ、組織の線維化抑制能を有するペプチド。
本実施形態の組織の線維化抑制剤は、副作用の危険性がなく、高い組織の線維化抑制能を有する。
本明細書において、「有効成分として含有する」とは、治療的に有効量のペプチド又は遺伝子を含有することを意味する。
本明細書において、「ペプチド」とは、少なくとも2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合して構成されたものを意味し、オリゴペプチド、ポリペプチドなどが含まれる。さらに、ポリペプチドが一定の立体構造を形成したものはタンパク質と呼ばれるが、本明細書において、このようなタンパク質も上記「ペプチド」に含まれるものとする。従って、本明細書において、「ペプチド」は、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質のいずれをも意味し得るものである。
本実施形態の組織の線維化抑制剤は、具体的には、下記(a)のペプチドを含むものである。
(a)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチド。
上記(a)における配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列は、下記のアミノ酸配列で表される配列である。この中でも、配列番号1又は4で表されるアミノ酸配列が好ましい。
CKDDISSYECWC (配列番号1)
CQDHLKSYVCFC (配列番号2)
CKDGLGEYTCTC (配列番号3)
CVDLGNSYLCRC (配列番号4)
本明細書において、「上皮成長因子(EGF:epidermal growth factor)モチーフ」とは、30〜40アミノ酸からなり、6個の保存されたシステイン残基によって3組のジスルフィド結合が形成されたタンパク質の基本モジュールを意味する。
上記(a)のペプチドは、配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含むEGFモチーフを備えることにより、コラーゲンの異常な蓄積による組織の線維化抑制能を有する。また、上記(a)のペプチドは、配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含むEGFモチーフのみからなるペプチドであっても、コラーゲンの異常な蓄積による組織の線維化抑制能を有する。
上記(a)のペプチドは、天然物由来のペプチドであってもよいし、人工的に化学合成して得られたものであってもよく、限定はされないが、天然物由来のペプチドである場合は、細胞毒性等の悪影響がない場合が多いため好ましい。
天然物由来のペプチドとしては、天然に存在するオリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質、又はこれらを断片化した状態のもの等が挙げられる。天然物由来のペプチドは、天然物から公知の回収法及び精製法により直接得てもよいし、又は、公知の遺伝子組換え技術により、当該ペプチドをコードする遺伝子を各種発現ベクター等に組込んで細胞に導入し、発現させた後、公知の回収法及び精製法により得てもよい。あるいは、市販のキット、例えば、試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTM System(プロメガ)、合成装置のPG−MateTM(東洋紡)及びRTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)等を用いた無細胞タンパク質合成系により当該ペプチドを産生し、公知の回収法及び精製法により得てもよく、限定はされない。
また、化学合成ペプチドは、公知のペプチド合成方法を用いて得ることができる。合成方法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法及び酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置を使用してもよい。合成反応後は、クロマトグラフィー等の公知の精製法を組み合わせてペプチドを精製することができる。
上記(a)のペプチドであって、天然由来のペプチドの具体例としては、血液凝固因子 第7因子(F7)、第9因子(F9)、第10因子(F10)、内皮細胞遺伝子座−1(Del−1:developmentally endothelial locus−1)、等が挙げられる。中でも、F9のうち126番目のアルギニンから236番目のアルギニンまでのactivation peptideを取り除いたペプチド(配列番号5)、Del−1(配列番号6)が好ましく、F9の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むEGFモチーフのみからなるペプチド(配列番号7)、又は、Del−1の配列番号4で表されるアミノ酸配列を含むEGFモチーフのみからなるペプチド(配列番号8)がさらに好ましい。
なお、配列番号7は、配列番号5で表されるアミノ酸配列のうちの第97番目〜第130番目のアミノ酸からなる配列で構成される。また、配列番号8は、配列番号6で表されるアミノ酸配列のうちの第123番目〜第157番目のアミノ酸からなる配列で構成される。
上記(a)のペプチドであって、天然由来のペプチドに該当するものとして、上記Del−1及び上記F9について、以下に詳細を説明する。
Del−1は、上皮増殖因子(EGF;epidermal growth factor)モチーフ及びジスコイジンIモチーフを有する細胞外基質沈着タンパク質であり、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。このDel−1のEGFモチーフとしてはEGF1、EGF2及びEGF3があり、ジスコイジンIモチーフとしてはDiscoidin1及びDiscoidin2があることが知られている。本発明者らは、上記各種モチーフのうちEGF3に着目し、さらにEGF3を構成するアミノ酸配列(配列番号8)中の特定の12アミノ酸残基からなる領域:C−T−D−L−V−A−N−Y−S−C−E−C(配列番号4)に着目した。そして、この配列番号4のアミノ酸配列を含むEGF3モチーフが、組織の線維化抑制能を有することを見出し、本発明に至った。
また、F9は、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり、N末端から順に、Glaモチーフ、EGFモチーフ及びプロテアーゼモチーフを有する一本鎖糖タンパク質である。ここで、F9のEGFモチーフは、配列番号5で表されるアミノ酸配列のうちの第97番目〜第130番目のアミノ酸からなる配列(配列番号7)で構成される。本発明者らは、F9のEGFモチーフを構成するアミノ酸配列中には、上記Del−1のEGF3(EGFモチーフ)と同様に、特定の12アミノ酸残基からなる領域:C−K−D−D−I−S−S−Y−E−C−W−C(配列番号1)が含まれていることに着目し、この配列番号1のアミノ酸配列を含むEGFモチーフが、組織の線維化抑制能を有することを見出し、本発明に至った。
本実施形態の組織の線維化抑制剤は、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(b)のペプチドを含有する。
(b)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、組織の線維化抑制能を有するペプチド。
ここで、欠失、置換、若しくは付加されてもよいアミノ酸の数としては、1〜15個が好ましく、1〜10個がより好ましく、1〜5個が特に好ましい。
本実施形態の組織の線維化抑制剤は、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(c)のペプチドを含有する。
(c)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチドのアミノ酸配列と同一性が70%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、組織の線維化抑制能を有するペプチド。
上記(a)のペプチドと機能的に同等であるためには70%以上の同一性を有する。係る同一性としては、75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上が更に好ましく、90%以上が特に好ましく、95%以上が最も好ましい。
更に、前記(c)のペプチドは、組織の線維化抑制能を有する。
本明細書において、「組織の線維化」とは、コラーゲンの異常な蓄積により、生体内外の組織が厚く硬くなった状態を意味する。組織の線維化が関連する疾患には、例えば心内膜下線維症、心筋線維症等の心血管疾患;肺線維症、気管支喘息等の呼吸器疾患;口腔粘膜下線維症、胃線維症、肝硬変、慢性膵炎、炎症性大腸炎、スキルス胃癌、クローン病等の消化器疾患;三角筋線維症、等の筋組織疾患;結節性筋膜炎、骨髄線維症、骨髄性白血病、関節リウマチ等の骨・関節疾患;ケロイド、手術後の瘢痕、熱傷性瘢痕、肥厚性瘢痕、強皮症、カポジ肉腫、ハンセン病等の皮膚疾患;尿細管間質性腎炎、慢性腎不全等の腎臓疾患;乳腺線維症、子宮筋腫等の産科疾患;神経膠芽腫、アルツハイマー病等の脳神経疾患;後腹膜線維症、I型糖尿病、手術後臓器癒着等のその他の疾患が挙げられる。
本実施形態において、上記組織の線維化抑制能はコラーゲンの産生抑制によるものである。
後述の実施例で示すとおり、創傷モデルマウスを用いた試験において、本実施形態の組織の線維化抑制剤を皮下注射したマウスでは、コラーゲンの産生が抑制されることが明らかとなった。さらに、コラーゲン産生の経路として、炎症反応が起こると、細胞間シグナル伝達を仲介する受容体であるNotchが活性化され、コラーゲン産生が促され、分泌される経路が存在する。本実施形態の組織の線維化抑制剤は、後述の実施例で示すとおり、このNotchの活性化を抑制することにより、コラーゲンの産生を抑制することができる。
また、本実施形態において、上記組織の線維化抑制能はコラーゲンの分解亢進によるものである。
後述の実施例で示すとおり、ヒト線維芽細胞を用いたin vitroの試験及び移植腫瘍モデルマウスを用いたin vivoの試験において、本実施形態の組織の線維化抑制剤を使用したサンプルでは、コラーゲン分解酵素であるMMP9(matrix metalloproteinase 9)の活性を向上し、また、腫瘍部において、MMP9が高発現していることが明らかとなった。本実施形態の組織の線維化抑制剤は、MMP9の活性を向上することにより、コラーゲンの分解を亢進することができる。
本実施形態の組織の線維化抑制剤は、コラーゲンの産生を抑制すること又はコラーゲンの分解を亢進することにより、組織の線維化を抑制することができる。また、コラーゲンの産生抑制及びコラーゲンの分解亢進の両方を行っていてもよく、コラーゲンの産生抑制及びコラーゲンの分解亢進の両方を行うことで、組織内のトータルのコラーゲン量を効果的に減らすことができる。
本実施形態の組織の線維化抑制剤は、前記(a)〜(c)のいずれかの断片であって、かつ、組織の線維化抑制能を有するペプチド(d)を含有する。
上記(a)〜(d)のペプチドは、L−アミノ酸、D−アミノ酸、又はこれらの組み合わせからなるものであってもよい。L−アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸であり、D−アミノ酸は、L−アミノ酸残基のキラリティーが反転しているものである。また、組織の線維化抑制能を増加させるために、又は他の物性を最適化するために化学的修飾を受けていてもよい。
即ち、本実施形態の組織の線維化抑制剤は、前記(a)〜(d)のペプチドとともに、又はそれに代えて、前記(a)〜(d)の誘導体を含んでいてもよい。
また、本実施形態の組織の線維化抑制剤は、細胞膜に接触さえすれば所望の効果を発揮するため、細胞内への透過性を有していなくともよい。
本実施形態の組織の線維化抑制剤は、前記(a)〜(d)のペプチド、及び/又は、前記ペプチドの誘導体とともに、或いは、それに代えて、前記(a)〜(d)のペプチドの塩、若しくはエステル、及び/又は、前記ペプチドの誘導体の塩若しくはエステルを含んでいてもよい。
塩としては、医薬として生理学的に許容される酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。
酸付加塩としては、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸等の無機酸との塩;酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機酸との塩が挙げられる。
塩基性塩としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウム等の無機塩基との塩;カフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジン等の有機塩基との塩が挙げられる。
エステルとしては、例えば、カルボキシル基を有する場合の当該カルボキシル基における医薬として許容され得る慣用的なものが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等の低級アルキル基とのエステル;アリル基、2−ブテニル基等の低級アルキル基とのエステル;メトキシメチル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基等の低級アルコキシ低級アルキル基とのエステル等が挙げられる。ここで低級アルキル基とは、炭素数1〜6のアルキル基を意味する。
本実施形態の組織の線維化抑制剤は、他の成分として、PBS、Tris−HCl等の緩衝液;アジ化ナトリウム、グリセロール等の添加剤を含んでいてもよい。
本実施形態の組織の線維化抑制剤を用いて、組織の線維化により生じる上述の疾患の治療方法を提供することができる。
治療対象として限定はされず、ヒト又は非ヒト動物を含む哺乳動物が挙げられ、ヒトが好ましい。
≪第二実施形態≫
本実施形態の組織の線維化抑制剤は、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列からなるDNAを含むベクターを有効成分として含有する。
本実施形態の組織の線維化抑制剤は、副作用の危険性がなく、高い組織の線維化抑制能を有する。
上記(a)のペプチドをコードする塩基配列の具体例としては、上述のF7、F9、F10、Del−1等のペプチドをコードする塩基配列が挙げられる。中でも、F9のうち126番目のアルギニンから236番目のアルギニンまでのactivation peptideを取り除いたペプチドをコードする塩基配列(配列番号9)又はDel−1をコードする塩基配列(配列番号10)が好ましく、F9の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むEGFモチーフのみからなるペプチドをコードする塩基配列(配列番号11)、又は、Del−1の配列番号4で表されるアミノ酸配列を含むEGFモチーフのみからなるペプチドをコードする塩基配列(配列番号12)がさらに好ましい。
なお、配列番号11は、配列番号9に示される塩基酸配列のうちの第290番目〜第391番目の塩基からなる配列で構成される。また、配列番号12は、配列番号10に示される塩基配列のうちの第985番目〜第1089番目のアミノ酸からなる配列で構成される。
本実施形態の組織の線維化抑制剤は、具体的には、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列からなるDNAのみからなるものであってもよいし、又は、当該DNAの一部を含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター配列等)を含むものであってもよい。
また、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列では、コドンの種類は限定されず、例えば、転写後、ヒト等の哺乳類において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよく、大腸菌や酵母等の微生物や、植物等において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよく、適宜選択又は設計することができる。
また、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列の代わりに、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列のうち、1〜数個の塩基が欠損、置換又は付加されている塩基配列であって、且つ、組織の線維化抑制能を有するペプチドをコードする塩基配列であってもよい。
ここで、欠失、置換、若しくは付加されてもよい塩基の数としては、1〜30個が好ましく、1〜15個がより好ましく、1〜10個が特に好ましく、1〜5個が最も好ましい。
また、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列の代わりに、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列と、同一性が80%以上である塩基配列であって、且つ、組織の線維化抑制能を有するペプチドをコードする塩基配列であってもよい。
上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドと機能的に同等であるためには80%以上の同一性を有する。係る同一性としては、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましく、95%以上が特に好ましく、99%以上が最も好ましい。
また、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列の代わりに、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列からなるDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列であって、且つ、組織の線維化抑制能を有するペプチドをコードする塩基配列であってもよい。
本明細書において、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、Molecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION(Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載の方法が挙げられる。例えば、5×SSC(20×SSCの組成:3M 塩化ナトリウム,0.3M クエン酸溶液,pH7.0)、0.1重量% N−ラウロイルサルコシン、0.02重量%のSDS、2重量%の核酸ハイブルダイゼーション用ブロッキング試薬、及び50%フォルムアミドから成るハイブリダイゼーションバッファー中で、55〜70℃で数時間から一晩インキュベーションを行うことによりハイブリダイズさせる条件を挙げることができる。なお、インキュベーション後の洗浄の際に用いる洗浄バッファーとしては、好ましくは0.1重量%SDS含有1×SSC溶液、より好ましくは0.1重量%SDS含有0.1×SSC溶液である。
(ベクター)
本実施形態のベクターは発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターとしては特に制限されず、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等の大腸菌由来のプラスミド;pUB110、pTP5、pC194等の枯草菌由来のプラスミド;pSH19、pSH15等の酵母由来プラスミド;λファージ等のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウィルス等のウイルス;及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。
上述の発現ベクターにおいて、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチド発現用プロモーターとしては特に限定されず、例えば、EF1αプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウィルス)プロモーター、HSV−tkプロモーター等の動物細胞を宿主とした発現用のプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、REF(rubber elongation factor)プロモーター等の植物細胞を宿主とした発現用のプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、p10プロモーター等の昆虫細胞を宿主とした発現用のプロモーター等を使用することができる。これらプロモーターは、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドを発現する宿主に応じて、適宜選択することができる。
上述の発現ベクターは、さらに、マルチクローニングサイト、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、複製起点等を有していてもよい。
[組織の線維化抑制剤の投与量]
本実施形態の組織の線維化抑制剤の投与量は、被検動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重、症状、治療方法、投与方法、処理時間等を勘案して適宜調節される。
例えば、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列からなるDNAを含むベクターを注射剤により皮下注射する場合、被検動物(好ましくはヒト)に対し、1回の投与において1μg以上のベクターDNAの量を投与することが好ましく、10μg〜3mgのベクターDNAの量を投与することがより好ましく、25μg〜1mgのベクターDNAの量を投与することが特に好ましい。
また、例えば、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドを注射剤により皮下注射する場合、被検動物(好ましくはヒト)に対し、1回の投与において1kg体重当たり、100μg以上のペプチドの量を投与することが好ましく、200μg〜3mgのペプチドの量を投与することがより好ましく、400μg〜1mgのペプチドの量を投与することが特に好ましい。
投与回数としては、1週間平均当たり、1回〜数回投与することが好ましい。
投与形態としては、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法が挙げられ、皮下注射が好ましい。
注射剤は、非水性の希釈剤(例えば、ポレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤、又は乳濁剤として調製することもできる。このような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤等の配合により行うことができる。注射剤は、用事調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって、無菌の固体組成物とし、使用前に注射用蒸留水又は他の溶媒に溶解して使用することができる。
[医薬組成物]
本発明の医薬組成物は、治療的に有効量の組織の線維化抑制剤の治療剤、及び薬学的に許容されうる担体又は希釈剤を含む。薬学的に許容されうる担体又は希釈剤は、賦形剤、稀釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味料、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤、添加剤等が挙げられる。これら担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤、又はシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。
また、担体としてコロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、ペプチドの生体内安定性を高める効果や、特定の臓器、組織、又は細胞へ、ペプチドの移行性を高める効果が期待される。コロイド分散系としては、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル、リポソームを包含する脂質を挙げることができ、特定の臓器、組織、又は細胞へ、ペプチドを効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞が好ましい。
本発明の医薬組成物における製剤化の例としては、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に使用されるものが挙げられる。
または、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用されるものが挙げられる。更には、薬理学上許容される担体又は希釈剤、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化されたものが挙げられる。
錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO−50と併用してもよい。
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
[皮膚の拘縮抑制剤]
≪第一実施形態≫
本実施形態の皮膚の拘縮抑制剤は、以下の(a)〜(d)のいずれか一つのペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルを有効成分として含有する。
(a)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチド、
(b)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、皮膚の拘縮抑制能を有するペプチド、
(c)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチドのアミノ酸配列と同一性が70%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、皮膚の拘縮抑制能を有するペプチド、
(d)(a)〜(c)のいずれかの断片であって、かつ、皮膚の拘縮抑制能を有するペプチド。
本実施形態の皮膚の拘縮抑制剤は、具体的には、下記(a)のペプチドを含むものである。
(a)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチド。
上記(a)における配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列は、上記のアミノ酸配列である。この中でも、配列番号1又は4で表されるアミノ酸配列が好ましい。
上記(a)のペプチドは、配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含むEGFモチーフを備えることにより、コラーゲンの異常な蓄積による皮膚の拘縮抑制能を有する。また、上記(a)のペプチドは、配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含むEGFモチーフのみからなるペプチドであっても、コラーゲンの異常な蓄積による皮膚の拘縮抑制能を有する。
上記(a)のペプチドの具体例としては、上記に挙げたとおりである。中でも、F9のうち126番目のアルギニンから236番目のアルギニンまでのactivation peptideを取り除いたペプチド(配列番号5)、Del−1(配列番号6)が好ましく、F9の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むEGFモチーフのみからなるペプチド(配列番号7)、又は、Del−1の配列番号4で表されるアミノ酸配列を含むEGFモチーフのみからなるペプチド(配列番号8)がさらに好ましい。
本実施形態の皮膚の拘縮抑制剤は、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(b)のペプチドを含有する。
(b)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、皮膚の拘縮抑制能を有するペプチド。
ここで、欠失、置換、若しくは付加されてもよいアミノ酸の数としては、1〜15個が好ましく、1〜10個がより好ましく、1〜5個が特に好ましい。
本実施形態の皮膚の拘縮抑制剤は、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(c)のペプチドを含有する。
(c)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチドのアミノ酸配列と同一性が70%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、皮膚の拘縮抑制能を有するペプチド。
上記(a)のペプチドと機能的に同等であるためには70%以上の同一性を有する。係る同一性としては、75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上が更に好ましく、90%以上が特に好ましく、95%以上が最も好ましい。
更に、前記(c)のペプチドは、皮膚の拘縮抑制能を有する。
本明細書において、「皮膚の拘縮」とは、コラーゲンの異常な蓄積により、皮膚、筋肉などの組織が収縮して、皮膚が引き攣れを起こした状態を意味する。皮膚の拘縮は、その見た目から、美容的又は精神的な問題となる場合があり、さらに、手指等に拘縮がある場合には、手指等の機能障害も引き起こす可能性がある。本実施形態の皮膚の拘縮抑制剤は、患者の美容的又は精神的な問題を解決することに寄与し、さらに、手指等の機能障害を防ぐことができる。
本実施形態において、上記の皮膚の拘縮抑制能は、上述と同様に、コラーゲンの産生抑制又はコラーゲンの分解亢進によるものである。
本実施形態の皮膚の拘縮抑制剤は、コラーゲンの産生を抑制すること又はコラーゲンの分解を亢進することにより、皮膚の拘縮を抑制することができる。また、コラーゲンの産生抑制及びコラーゲンの分解亢進の両方を行っていてもよく、コラーゲンの産生抑制及びコラーゲンの分解亢進の両方を行うことで、皮膚、筋肉など組織のトータルのコラーゲン量を効果的に減らすことができる。
本実施形態の皮膚の拘縮抑制剤は、前記(a)〜(c)のいずれかの断片であって、かつ、皮膚の拘縮抑制能を有するペプチド(d)を含有する。
上記(a)〜(d)のペプチドは、L−アミノ酸、D−アミノ酸、又はこれらの組み合わせからなるものであってもよい。L−アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸であり、D−アミノ酸は、L−アミノ酸残基のキラリティーが反転しているものである。また、組織の線維化抑制能を増加させるために、又は他の物性を最適化するために化学的修飾を受けていてもよい。
即ち、本実施形態の皮膚の拘縮抑制剤は、前記(a)〜(d)のペプチドとともに、又はそれに代えて、前記(a)〜(d)の誘導体を含んでいてもよい。
また、本実施形態の皮膚の拘縮抑制剤は、細胞膜に接触さえすれば所望の効果を発揮するため、細胞内への透過性を有していなくともよい。
本実施形態の皮膚の拘縮抑制剤は、前記(a)〜(d)のペプチド、及び/又は、前記ペプチドの誘導体とともに、或いは、それに代えて、前記(a)〜(d)のペプチドの塩、若しくはエステル、及び/又は、前記ペプチドの誘導体の塩若しくはエステルを含んでいてもよい。
塩としては、上述と同様のものが挙げられる。
塩基性塩としては、上述と同様のものが挙げられる。
エステルとしては、上述と同様のものが挙げられる。
本実施形態の皮膚の拘縮抑制剤は、他の成分として、PBS、Tris−HCl等の緩衝液;アジ化ナトリウム、グリセロール等の添加剤を含んでいてもよい。
本実施形態の皮膚の拘縮抑制剤を用いて、皮膚の拘縮により生じる疾患(例えば、患者の美容的又は精神的な問題、手指等の機能障害等)の治療方法を提供することができる。
治療対象として限定はされず、ヒト又は非ヒト動物を含む哺乳動物が挙げられ、ヒトが好ましい。
≪第二実施形態≫
本実施形態の皮膚の拘縮抑制剤は、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列からなるDNAを含むベクターを有効成分として含有する。
本実施形態の皮膚の拘縮抑制剤は、副作用の危険性がなく、高い組織の線維化抑制能を有する。
上記(a)のペプチドをコードする塩基配列の具体例としては、上述のF7、F9、F10、Del−1等のペプチドをコードする塩基配列が挙げられる。中でも、F9のうち126番目のアルギニンから236番目のアルギニンまでのactivation peptideを取り除いたペプチドをコードする塩基配列(配列番号9)又はDel−1をコードする塩基配列(配列番号10)が好ましく、F9の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むEGFモチーフのみからなるペプチドをコードする塩基配列(配列番号11)、又は、Del−1の配列番号4で表されるアミノ酸配列を含むEGFモチーフのみからなるペプチドをコードする塩基配列(配列番号12)がさらに好ましい。
本実施形態の皮膚の拘縮抑制剤は、具体的には、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列からなるDNAのみからなるものであってもよいし、又は、当該DNAの一部を含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター配列等)を含むものであってもよい。
また、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列では、コドンの種類は限定されず、例えば、転写後、ヒト等の哺乳類において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよく、大腸菌や酵母等の微生物や、植物等において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよく、適宜選択又は設計することができる。
また、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列の代わりに、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列のうち、1〜数個の塩基が欠損、置換又は付加されている塩基配列であって、且つ、組織の線維化抑制能を有するペプチドをコードする塩基配列であってもよい。
ここで、欠失、置換、若しくは付加されてもよい塩基の数としては、1〜30個が好ましく、1〜15個がより好ましく、1〜10個が特に好ましく、1〜5個が最も好ましい。
また、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列の代わりに、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列と、同一性が80%以上である塩基配列であって、且つ、組織の線維化抑制能を有するペプチドをコードする塩基配列であってもよい。
上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドと機能的に同等であるためには80%以上の同一性を有する。係る同一性としては、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましく、95%以上が特に好ましく、99%以上が最も好ましい。
また、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列の代わりに、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列からなるDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列であって、且つ、皮膚の拘縮抑制能を有するペプチドをコードする塩基配列であってもよい。
(ベクター)
本実施形態のベクターは発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターとしては特に制限されず、上記に例示したもの等を用いることができる。
上述の発現ベクターにおいて、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチド発現用プロモーターとしては特に限定されず、上記に例示したもの等を使用することができる。これらプロモーターは、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドを発現する宿主に応じて、適宜選択することができる。
上述の発現ベクターは、さらに、マルチクローニングサイト、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、複製起点等を有していてもよい。
[皮膚の拘縮抑制剤の投与量]
本実施形態の皮膚の拘縮抑制剤の投与量は、被検動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重、症状、治療方法、投与方法、処理時間等を勘案して適宜調節される。
例えば、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列からなるDNAを含むベクターを注射剤により皮下注射する場合、被検動物(好ましくはヒト)に対し、1回の投与において1μg以上のベクターDNAの量を投与することが好ましく、10μg〜3mgのベクターDNAの量を投与することがより好ましく、25μg〜1mgのベクターDNAの量を投与することが特に好ましい。
また、例えば、上記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドを注射剤により皮下注射する場合、被検動物(好ましくはヒト)に対し、1回の投与において1kg体重当たり、100μg以上のペプチドの量を投与することが好ましく、200μg〜3mgのペプチドの量を投与することがより好ましく、400μg〜1mgのペプチドの量を投与することが特に好ましい。
投与回数としては、1週間平均当たり、1回〜数回投与することが好ましい。
投与形態としては、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法が挙げられ、皮下注射が好ましい。
注射剤は、非水性の希釈剤(例えば、ポレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤、又は乳濁剤として調製することもできる。このような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤等の配合により行うことができる。注射剤は、用事調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって、無菌の固体組成物とし、使用前に注射用蒸留水又は他の溶媒に溶解して使用することができる。
[医薬組成物]
本発明の医薬組成物は、治療的に有効量の皮膚の拘縮抑制剤の治療剤、及び薬学的に許容されうる担体又は希釈剤を含む。薬学的に許容されうる担体又は希釈剤は、上記例示したもの等が挙げられる。これら担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤、又はシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。
また、担体としてコロイド分散系を用いることもできる。
本発明の医薬組成物における製剤化の例としては、上記例示したもの等が挙げられる。
錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、上記例示したもの等が挙げられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
注射用の水溶液としては、上記例示したもの等が挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO−50と併用してもよい。
油性液としては、上記例示したもの等が挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、無痛化剤及び安定剤としては、上記例示したもの等が挙げられ、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
また、本発明の一側面は、組織の線維化により生じる上述の疾患の治療のための前記(a)〜(d)のいずれかのペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルを提供する。
また、本発明の一側面は、皮膚の拘縮により生じる上述の疾患の治療のための前記(a)〜(d)のいずれかのペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルを提供する。
また、本発明の一側面は、治療的に有効量の上記ペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステル、上記ペプチドをコードする塩基配列からなるDNAを含むベクター、及び薬学的に許容されうる担体又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。
また、本発明の一側面は、前記医薬組成物を含む、組織の線維化抑制剤を提供する。
また、本発明の一側面は、前記医薬組成物を含む、皮膚の拘縮抑制剤を提供する。
また、本発明の一側面は、前記医薬組成物を含む、組織の線維化抑制剤を製造するための前記ペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルの使用を提供する。
また、本発明の一側面は、前記医薬組成物を含む、皮膚の拘縮抑制剤を製造するための前記ペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルの使用を提供する。
また、本発明の一側面は、上記ペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステル、上記ペプチドをコードする塩基配列からなるDNAを含むベクター、の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、組織の線維化により生じる上述の疾患の治療方法を提供する。
また、本発明の一側面は、上記ペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステル、上記ペプチドをコードする塩基配列からなるDNAを含むベクター、の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、皮膚の拘縮により生じる上述の疾患の治療方法を提供する。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]mF9−LC発現ベクターの作製
まず、下記表1に示すmF9−LCのcDNAを含む発現ベクターを作製した。「mF9−LC」とは、マウスの血液凝固第9因子(F9)のうち、GLAモチーフ及び該GLAモチーフに続く2つのEGFモチーフ(EGF1及びEGF2)からなる軽鎖(Light Chain:LC)を示す。発現ベクターとしては、アルカリホスタファーゼ(AP)発現ベクター(APtag4)を用いた。
発現ベクターに公知の遺伝子組み換え技術を用いて、下記表1に示すペプチドをコードするcDNAをそれぞれAP遺伝子との融合遺伝子となるように挿入し、組み換えベクターを構築した。
[実施例2]mDel−1−E3C1発現ベクターの作製
下記表1に示すmDel−1−E3C1のcDNAを含む以外は、実施例1と同様の方法を用いて、発現ベクターを作製した。「mDel−1−E3C1」とは、マウスの内皮細胞遺伝子座−1(Del−1)のうち、N末端から3番目のEGFモチーフ(EGF3)及び該EGF3に続く1番目のDiscoidinモチーフ(C1)からなるペプチドを示す。
[試験例1]創傷モデルマウスを用いたコラーゲン産生抑制確認試験
(1)創傷モデルマウスへの発現ベクターの投与
マウス背部の皮膚を真皮に至る深さで20mm×10mm剥離し、創傷モデルマウスを作製した。創傷作製直後から、実施例1で作製したmF9−LCのcDNAを含む発現ベクター 1μgを、jetPEI(polyplus transfection社製)と共に創部周囲の皮膚に皮下注射した。「創部」とは、皮膚などが物理的に損傷し、創傷ができた部分を意味する。また、コントロールとして、別の創傷モデルマウスにAP遺伝子のみを含む発現ベクターを皮下注射した。
週に2回のペースで、45日間投与を続けた。創部の変化を撮影した画像を図1に示す。図1中、矢印(←)は皮膚の盛り上がりを示し、三角(▲)は皮膚の凹みをしめす。
図1から、mF9−LCのcDNAを含む発現ベクターDNAを皮下注射したマウスでは、コントロールと比較して、皮膚の拘縮が少ないことが確かめられた。
(2)HE(Hematoxylin−Eosin)染色及びコラーゲン染色
mF9−LCのcDNAを含む発現ベクター又はAP遺伝子のみを含む発現ベクターを投与した45日後のマウスの創部周囲の皮膚を切り出し、コラーゲンステインキット(コラーゲン技術研修会製)を用いて、コラーゲン染色を行った。コラーゲンステインキットを使用すると、コラーゲンが発現している部位は、赤く染まり、コラーゲン以外のタンパク質(非コラーゲン)が発現している部位は。青緑に染まる。また、さらに創傷周囲の皮膚を切り出し、Eosin Y solution (和光純薬社製)と、Mayer’s Hematoxylin solution (和光純薬社製)とを用いて、HE(Hematoxylin−Eosin)染色を行った。結果を図2に示す。図2中、矢印は毛包を示し、創傷周囲の健常部である。また、図3は、コラーゲン染色による染色面積からコラーゲンと非コラーゲンとの比を示したグラフである。
図2及び図3から、mF9−LCのcDNAを含む発現ベクターを投与したマウスでは、創部において、コラーゲンの発現が抑制されていることが明らかとなった。
[試験例2]移植腫瘍モデルマウスを用いたコラーゲン産生抑制確認試験
(1)移植腫瘍モデルマウスへの発現ベクターの投与
ヌードマウスの背面にヒト扁平上皮癌由来細胞株A431を移植した移植腫瘍モデルマウスを作製した。腫瘍の生着を確認後、実施例2において作製したmDel−1−E3C1のcDNAを含む発現ベクター 10μgを、jetPEI(polyplus transfection社製)と共に腫瘍から2cm程度離れた背面の皮膚に皮下注射した。また、コントロールとして、別の移植腫瘍モデルマウスにAP遺伝子のみを含む発現ベクターを皮下注射した。週に1回のペースで、45日間投与を続けた。
(2)HE染色及びコラーゲン染色
試験例1の(2)と同様の方法により、HE染色及びコラーゲン染色を行った。結果を図4に示す。
図4から、mDel−1−E3C1のcDNAを含む発現ベクターを投与したマウスでは、腫瘍部において、コラーゲンの発現が抑制されていることが明らかとなった。
(3)PECAM(Platelet Endothelial Cell Adhesion Molecule)抗体及びαSMA(α smooth muscle actin)抗体による蛍光免疫染色
mDel−1−E3C1のcDNAを含む発現ベクター又はAP遺伝子のみを含む発現ベクターを投与した45日後の移植腫瘍モデルマウスの腫瘍部の皮膚を切り出し、PECAM(Platelet Endothelial Cell Adhesion Molecule)抗体及びαSMA(α smooth muscle actin)抗体を一次抗体として用いた。続いて、Alexafluor488及びAlexafluor568で標識された二次抗体を使用し、蛍光免疫染色を行った。PECAMは、胚及び成体血管内皮細胞で発現しているタンパク質であり、癌細胞の周囲を囲む「間質」という組織が形成されているか否かの指標となる。また、αSMAは、平滑筋細胞に多く存在するタンパク質であり、細胞が縮むために働くため、皮膚の拘縮に関与するものである。PECAM抗体、αSMA抗体、並びに、Alexafluor488及びAlexafluor568で標識された二次抗体は市販の抗体を使用した。結果を図5に示す。
図5から、mDel−1−E3C1のcDNAを含む発現ベクターを投与したマウスでは、腫瘍部において、間質が形成されておらず、また、αSMAの発現が抑制されていることが明らかとなった。
(4)心臓及び小腸のコラーゲン染色
mDel−1−E3C1のcDNAを含む発現ベクターを腫瘍から離れた位置に皮下注射したため、全身に効いている可能性があり、副作用がないかを確認するために、45日後の移植腫瘍モデルマウスの心臓及び小腸を切り出し、コラーゲン染色を行った。結果を図6に示す。(A)が心臓の染色結果であり、(B)が小腸の染色結果である。
図6から、心臓及び小腸において、正常にコラーゲンが発現していることが確かめられた。このことから、mDel−1−E3C1のcDNAを含む発現ベクターは、炎症反応が起こった病巣部特異的に作用すると推察された。
[試験例3]ヒト線維芽細胞(in vitro系)でのコラーゲン分解亢進確認試験
(1)ヒト線維芽細胞への組み換えタンパク質の投与
CHO細胞に、実施例2において作製したmDel−1−E3C1のcDNAを含む発現ベクター0.8μgを、jetPEIを用いて遺伝子導入した。コントロールとしてAP遺伝子のみを含む発現ベクターを遺伝子導入した。それによって作製されたAP−mDel1−E3C1の組み換えタンパクを含む培養液を、mDel−1−E3C1が1pmol/mLになるように、ヒト線維芽細胞の培養液中に添加した。
(2)MMP9の活性確認試験
上記操作後、7日間培養した線維芽細胞の培養液FibroLife Medium (LIFELINE CELL TECHNOLOGY社製)を50μL採取し、ヒトMMP測定キット(SesoLyte 520 MMP−9 Assay Kit) (ANASPEC社製)を用いて、培養液中に含まれるMMP9活性を定量した。
図7から、mDel−1−E3C1のcDNAを含む発現ベクターを用いて産生された組み換えタンパク質を投与されたヒト線維芽細胞では、MMP9の活性が向上していることが確かめられた。
[試験例4]移植腫瘍モデルマウス(in vivo系)でのコラーゲン分解亢進確認試験
(1)移植腫瘍モデルマウスへの発現ベクターの投与
試験例2の(1)と同様の方法により、実施例2において作製したmDel−1−E3C1のcDNAを含む発現ベクターを45日間投与した。
(2)PECAM抗体及びMMP9抗体による蛍光免疫染色
αSMA抗体の代わりに、MMP9抗体を用いた以外は、試験例2の(3)と同様の方法により、蛍光免疫染色を行った。PECAM抗体、MMP9抗体、並びに、Alexafluor488及びAlexafluor568で標識された二次抗体は市販の抗体を使用した。結果を図8に示す。
図8から、mDel−1−E3C1のcDNAを含む発現ベクターを投与したマウスでは、腫瘍部において、間質の形成が抑制され、また、MMP9が高発現していることが明らかとなった。
試験例3及び4の結果から、炎症反応が起こった部位特異的にMMP9の活性が向上することで、コラーゲンの分解が亢進していると推察される。
[試験例5]ヒト血管内皮細胞での活性型Notch及びhey1(Hairy/enhancer−of−split related with YRPW motif 1)の発現抑制確認試験
(1)ヒト血管内皮細胞への組み換えタンパク質の投与
ハムスター卵巣由来細胞株(CHO細胞)に、実施例1において作製したmF9−LCのcDNAを含む発現ベクター0.8μgを、jetPEIを用いて遺伝子導入した。コントロールとしてAP遺伝子のみを含む発現ベクターを遺伝子導入した。それによって作製されたAP−mF9−LCの組み換えタンパク質を含む培養液を、mF9−LCが100pmol/mLになるように、ヒト臍帯静脈内皮細胞の培養液中に添加した。
(2)ウエスタンブロッティング法
上記操作後5分間、10分間、60分間培養した細胞を回収し、細胞を破砕した。破砕液をSDS−PAGEゲルで展開し、PVDF膜に転写した。転写の終了したPVDF膜は、ブロッキングを行い、活性型Notch抗体及びhey1(Hairy/enhancer−of−split related with YRPW motif 1)抗体を一次抗体として使用した。続いて、HRP標識二次抗体は1:1000で希釈して使用し、検出にはImmobilon Western detection regents(Millipore,Billerica,USA)による化学発光を用いた。hey1は、Notchの下流に存在するタンパク質であり、炎症反応等の細胞間シグナル伝達が引き金となるNotchによるコラーゲンの産生及び分泌を仲介するタンパク質である。活性型Notch抗体、hey1抗体、HRP標識二次抗体は市販の抗体を使用した。結果を図9に示す。
図9から、mF9−LCの組み換えタンパク質を投与したヒト血管内皮細胞では、活性型Notch及びhey1の発現が抑制されていることが確かめられた。
以上の結果から、mF9−LCのcDNAを含む発現ベクター又はmDel−1−E3C1のcDNAを含む発現ベクターにより、コラーゲンの産生が抑制され、また、コラーゲンの分解が亢進されることにより、組織の線維化又は皮膚の拘縮が抑制されることが明らかとなった。
本発明によれば、副作用の危険性がなく、有効性の高い組織の線維化抑制剤を提供することができる。

Claims (6)

  1. 以下の(a)〜(d)のいずれか一つのペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルを有効成分として含有することを特徴とする組織の線維化抑制剤。
    (a)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチド、
    (b)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、組織の線維化抑制能を有するペプチド、
    (c)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチドのアミノ酸配列と同一性が70%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、組織の線維化抑制能を有するペプチド、
    (d)(a)〜(c)のいずれかの断片であって、かつ、組織の線維化抑制能を有するペプチド。
  2. 前記(a)〜(d)のいずれか一つのペプチドをコードする塩基配列からなるDNAを含むベクターを有効成分として含有する請求項1に記載の組織の線維化抑制剤。
  3. 前記組織の線維化抑制能がコラーゲンの産生抑制又はコラーゲンの分解亢進によるものである請求項1又は2に記載の組織の線維化抑制剤。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の組織の線維化抑制剤、並びに薬学的に許容できる担体及び希釈剤のうち少なくともいずれかを含むことを特徴とする組織の線維化の予防又は治療用医薬組成物。
  5. 以下の(a)〜(d)のいずれか一つのペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルを有効成分として含有することを特徴とする皮膚の拘縮抑制剤。
    (a)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチド、
    (b)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、皮膚の拘縮抑制能を有するペプチド、
    (c)配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列を含む上皮成長因子(EGF)モチーフを備えるペプチドのアミノ酸配列と同一性が70%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、皮膚の拘縮抑制能を有するペプチド、
    (d)(a)〜(c)のいずれかの断片であって、かつ、皮膚の拘縮抑制能を有するペプチド。
  6. 請求項5に記載のペプチドをコードする塩基配列からなるDNAを含むベクターを有効成分として含有することを特徴とする皮膚の拘縮抑制剤。
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