JP4549666B2 - 抗体の製造方法 - Google Patents
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Description
タンパク質はほとんどの場合、ただそれだけを投与したのでは、免疫原性が弱いかほとんど無い。タンパク質などの抗原に対する強い適応免疫反応を引き起こし、抗体産生の効率を上げることは抗体作製の最大の課題である。この手段の一つとして、免疫反応を非特異的に誘導する物質であるアジュバントが知られている。代表的なものとして完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント等が知られており、市販品として入手することもできる。ただし、その有効性は抗原の種類によって異なっている。また、完全フロイントアジュバントに含まれるような細菌成分によるアジュバント効果は抗原誘導に重要であることが知られているが、局所の炎症反応を引き起こすため、ヒトに対して投与するワクチンに使用することが出来ない。
タンパク質の精製に比較して、当該タンパク質をコードする遺伝子の純化のほうが容易である場合も少なくない。これは遺伝子については1種の遺伝子のクローニング手法が確立しているからである。このことから、純化された遺伝子を動物に導入し、動物の体内でこの遺伝子にコードされるタンパク質を発現させて抗体産生を誘導する方法が開発されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。また、II型膜タンパク質由来の膜貫通ドメインと抗原との融合ポリペプチドをコードする発現ベクターを動物に投与する工程を包含する抗体の作製方法が開発されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、生体への遺伝子を直接投与する手法は一般的に細胞内に遺伝子が送達される効率は低い。細胞内への遺伝子導入効率を向上させるために、前記特許文献2記載の方法では、遺伝子銃が使用されているが、生体に対して使用することは煩雑である。また、生体に投与された遺伝子が実際に細胞内で発現された場合であっても、抗体の誘導に十分なタンパク質が発現されないことも多い。
しかしながら、上記の膜貫通ドメイン以外のものは抗体の製造において利用可能なものであるかどうかは知られていない。
以下、当該領域を「膜局在化領域」と記載することがある。さらに、細胞膜に局在化させる能力を失わない範囲で、これらのポリペプチドまたはその一部のアミノ酸配列に1以上アミノ酸の置換、欠失、挿入もしくは付加のいずれか1以上が導入されたポリペプチドも本発明に使用することができる。
さらに、前記融合ポリペプチドは、その機能、すなわち細胞表面への局在化と抗原性が損なわれない範囲で、これらの要素以外のペプチド、例えば分泌シグナル等を有していてもよい。また、膜局在化領域と抗原の間にリンカーポリペプチドが挿入された融合ポリペプチドも本願発明に使用することができる。
なお、感作される動物にとって異種の細胞を本発明の方法に使用した場合には、細胞自体やその成分を抗原として認識し、これらに対応する抗体の産生が誘導される可能性があることから、通常、前記動物と同種の動物に由来する細胞が使用される。さらに好ましくは同系の動物由来の細胞が使用されるが、例えば、感作される動物自身より採取された細胞を使用してもよい。
本発明によって得られる細胞表面に抗原を提示する細胞は、生体内において効率よく抗原に対する免疫応答を誘導することができることから、ワクチン組成物として使用することができる。特に、接種される動物由来の細胞の表面に抗原を提示する前記ワクチン組成物は、抗原部分のみが当該動物に対して異物であるために安全性が高く、疾患の予防、治療に有用である。ヒト由来の細胞の表面に所望の抗原を提示させた場合には、当該細胞を医薬としてヒトの疾患の予防、治療に使用することもできる。
(1)細胞膜表面局在発現ベクターpCA−SMの構築
Retrovirus Packaging Kit Ampho(タカラバイオ社製)に含まれるベクターであるアンフォトロピックエンベロープ発現ベクター、pE−amphoを制限酵素KpnI、EcoRIで消化し、アンフォトロピックエンベロープ遺伝子を除いたベクター断片を調製した。
一方、J. Biol. Chem.、第276巻、第26249〜26259頁(2001)に記載のラット中性セラミダーゼ発現ベクター、pcDNAkCDを鋳型とし、配列表の配列番号2に塩基配列を示す、制限酵素KpnI認識部位を有する5’側プライマーと、配列表の配列番号3に塩基配列を示す、EcoRI認識部位を有する3’側プライマーを用いたPCRにより、flag−tagが付加されたラット中性セラミダーゼ由来のシグナル配列−ムチンボックス部分をコードするDNA断片を増幅した。
得られたPCR断片を制限酵素KpnI、EcoRIで切断し、先のアンフォトロピックエンベロープ遺伝子を除いたpE−amphoベクター断片とライゲーションした。得られたプラスミドについて塩基配列を確認し、pCA−SMとした。
pCA−SMはサイトメガロウイルスプロモーターの下流にflag−tagが付加されたラット中性セラミダーゼ遺伝子由来のシグナル配列−ムチンボックスをコードする領域があり、その下流にはクローニングサイトとしてEcoRI、EcoRV、NotI、XhoI、XbaI、ApaIの認識配列がある。目的遺伝子のフレームを合わせて挿入することによって、目的遺伝子の産物をflag−tag−シグナル配列−ムチンボックスとの融合タンパクとして発現させることができる。
プラスミドpQBI25(Quantum Biotechnologies Inc.社製)に挿入されているred shifted−green fluorescent protein(以下、rsGFPと称す)をコードする遺伝子領域を、配列表の配列番号4に塩基配列を示す、制限酵素EcoRI認識部位を有する5’側プライマー、配列表の配列番号5に塩基配列を示す、制限酵素XbaI認識部位を有する3’側プライマーを用いたPCRにより増幅した。
得られた増幅断片を制限酵素EcoRI、XbaIで切断後、同じく制限酵素EcoRI、XbaIで切断したpCA−SMに挿入してプラスミドpCA−SM−GFPを構築した。
このプラスミドは配列表の配列番号6に示すアミノ酸配列のポリペプチドをコードしている。該配列中、2〜9番目のアミノ酸がflag−tag、10〜92番目のアミノ酸がラット中性セラミダーゼ由来のシグナル配列−ムチンボックス領域(51〜86番目のアミノ酸が配列番号1のムチンボックス)、それ以降の配列がrsGFPに相当する。
(1)細胞の無タンパク質培地への馴化
マウス神経芽腫由来の株化細胞であるNeuro−2a細胞(ATCC CCL−131)を、無タンパク質培地であるUltraDOMA−PFTM培地(Cambrex 社製)で継代培養し、無タンパク質培地への馴化を行った。この操作により、無タンパク質培地に馴化された細胞株を取得し、Neuro2Aとして以下の実験に用いた。このNeuro2Aはシャーレへの接着力が低下しており、分散用酵素(トリプシン等)を使用せずに剥離させることができた。
以下の操作に従い、Neuro2Aにリポフェクトアミン2000(インビトロジェン社)を使用して上記のpCA−SM−GFPを導入した。
UltraDOMA−PF培地(Cambrex社製) 20mlを含む10cmシャーレ(初代培養用のシャーレPRIMARIA;Falcon社製)中、37℃の5%CO2インキュベータ内で前日より培養しておいたNeuro2A細胞をリン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSと称す;Cambrex社製) 10mlで2回洗浄後、RPMI1640培地(Cambrex社製) 10mlを加えた。一方、エッペンドルフチューブに1.5mlのRPMI1640培地を加え、そこにリポフェクトアミン2000試薬 60μlを加えたものを用意した。更に、別のチューブに1.5mlのRPMI1640培地とpCM−SM−GFP 24μgを加えたものを準備し、それぞれ室温に5分間放置した。5分後、この2つを充分に混和してDNA−Lipid混合液を調製し、室温に20分放置した。この混合液の全量を上記のNeuro2A細胞に培地上から滴下した後、37℃の5%CO2インキュベータ内で24時間培養した。24時間後、UltraDOMA−PF培地を15ml添加し、さらに37℃の5%CO2インキュベータ内で培養した。
比較対照実験のため、上記のpCA−SM−GFPを細胞内でrsGFPを発現するpQBI25にかえて、上記と同条件で、Neuro2A細胞に導入し、pQBI25導入Neuro2A細胞を調製した。
以上の遺伝子導入は、pCA−SM−GFPは6枚のシャーレの細胞に対して、pQBI25は4枚のシャーレの細胞に対して実施した。
A群:回収したpCA−SM−GFP導入細胞を滅菌PBS 0.9mlに懸濁し、RIBIアジュバントシステム(Corixa社製) 0.1mlを添加して投与試料とした。
B群:回収したpCA−SM−GFP導入細胞を滅菌PBS 1.0mlに懸濁液して投与試料とした。
C群:回収したpCA−SM−GFP導入細胞細胞を1% Nonidet P40を含むPBS(以下、NP40/PBSと称す) 0.1mlで充分にほぐすように可溶化し、そのあとに0.9mlの滅菌PBSを追加してよく混合し、投与試料とした。
D群:回収したpQBI25導入細胞を滅菌PBS 0.9mlに懸濁し、RIBIアジュバントシステム(Corixa社製) 0.1mlを添加して投与試料とした。
E群:回収したpQBI25導入細胞をNP40/PBS 0.1mlで充分にほぐすように可溶化し、そのあとに0.8mlの滅菌PBSを追加してよく混合した。さらにRIBIアジュバントシステム(Corixa社製) 0.1mlを添加して投与試料とした。
F群:精製GFPタンパク質(Upstate Biotech社製) 15μg(20μl相当)を滅菌PBS 0.98mlで溶解して調製した1.0mlのタンパク質溶液を投与試料とした。
以下に記載の操作により、抗対価の測定を行った。
(1) 精製GFPタンパク質を2μg/mlとなるようにPBSに溶解し、これをイムノアッセイ用のマイクロプレート(ナルジェヌンク社製)に50μl/ウェルずつ入れた。プレートをラップに包み、4℃で一晩放置して精製GFPタンパク質を固定化した。
(2) マイクロプレートからGFP溶液を除き、ブロックエース原液(大日本製薬社製)を200μl/ウェルずつ入れて室温で1時間ブロッキングした後、ブロックエース原液を除去し、GFP固定化マイクロプレートを作製した。
(3) 上記実施例3で調製したマウス血清 10μlを使用し、101〜107倍の系列希釈を行った。調製した希釈液をそれぞれ50μl/ウェルずつGFP固定化マイクロプレートに加え、ラップに包んで室温で1時間反応させた。
(4) 反応終了後、プレートをPBSで3回洗浄し、次いで抗マウスIgG−POD標識二次抗体(Zymed社製)をブロックエースで1000倍希釈したものを50μl/ウェルずつ加え、ラップに包んで室温で1時間反応させた。
(5) 反応終了後、プレートをPBSで4回洗浄し、次いで自家調製した発色基質ABTSを50μl/ウェルずつ加えて発色反応させた。10分間の反応後、50μl/ウェルの150mM シュウ酸溶液を添加して反応を停止させた。
(6) 反応停止より5分以内にマイクロプレートリーダー(波長405nm)で吸光度を測定し、同時に写真撮影した。
上記の測定の結果を表1に示す。なお、表中の数値は405nmにおける吸光度である。
詳細に見ると、アジュバントを添加したA群に比べて生細胞のみで免疫したB群のほうが良好な結果を得たことは、投与された細胞がアジュバントの毒性の影響を受けず、マウス腹腔内でしばらくの間生存できたことに起因するのではないかと考えられた。また、C群の抗体価がB群よりも低いことは、可溶化のために細胞膜表面への提示効果が損なわれたことが原因とも考えられる。
上記実施例4において、D、E群の抗体価上昇が見られなかったため、遺伝子導入細胞可溶化物を使用してウエスタンブロット法による発現タンパク質量の確認を行った。
pCA−SM−GFP、pQBIがそれぞれ導入されたNeuro2A細胞を6cm径シャーレで3日間培養した。さらに、回収した細胞に500μlのNP40/PBS溶液を加えて可溶化し、その15μl相当ずつを10%アクリルアミドゲル電気泳動に供した。陽性コントロールとしては、上記実施例3の免疫に使用した精製GFPタンパク質溶液 2μl(3μg相当)を使用した。前記の試料にはすべて還元・加熱処理を施した。泳動終了後、分離されたタンパク質をPVDF膜へ転写した。
上記のPDVF膜について、上記実施例3のB群より作製された抗血清(No.1)、F群より作製された抗血清(No.1)の2種をそれぞれブロックエースで500倍希釈したもの、上記実施例4で使用された抗マウスIgG−POD標識二次抗体を使用し、rsGFPタンパク質の検出を行った。
また、精製タンパク質での免疫により作製されたF群由来の抗血清を使用した場合、精製GFPタンパク質が泳動されたレーンにおいて複数(少なくとも5本)の、極めて明瞭なバンドが示された。これに対し、B群由来の抗血清ではGFPの分子量に相当する1本のメインバンドのみが示された。さらに、遺伝子導入細胞由来の試料が泳動されたレーンにおいて、F群由来の抗血清ではB群由来の抗血清では確認できないマイナーバンドが検出された。
これらのことは、細胞表面に提示された抗原を使用して作製された抗血清の特異性は極めて厳格であり、不純物を含む抗原の中であっても目的の抗原のみを検出可能であることを示している。さらに、F群の抗血清について測定された抗体価は、実際には抗不純物抗体を含んだ力価であると考えられる。
SEQ ID NO. 3: Designed oligonucleotide PCR to amplify a portion of neutral ceramidase gene from Rattus norvegicus with flag-tag. "nucleotide 2 to 7 is EcoRI restriction site."
SEQ ID NO. 4: Designed oligonucleotide PCR to amplify a portion of rsGFP gene. "nucleotide 7 to 13 is EcoRI restriction site."
SEQ ID NO. 5: Designed oligonucleotide PCR to amplify a portion of rsGFP gene. "nucleotide 6 to 11 is XbaI restriction site."
SEQ ID NO. 6: Artificial protein comprising flag-tag, signal sequence and mutin box from Rattus norvegicus, and rsGFP.
Claims (4)
- 細胞をヒトを除く動物に投与する工程を包含する抗体の製造方法であって、当該細胞が配列番号1に示されるアミノ酸配列との融合ポリペプチドとして抗原を細胞表面に提示し、かつ前記動物と同種の動物由来の細胞であることを特徴とする抗体の製造方法。
- 配列番号1に示されるアミノ酸配列と抗原との融合ポリペプチドをコードする遺伝子が細胞に導入されることを特徴とする請求項1記載の方法。
- 配列番号1に示されるアミノ酸配列との融合ポリペプチドとして抗原をその表面に提示しうる、接種される動物と同種の動物由来の細胞を有効成分として含有するワクチン組成物。
- 配列番号1に示されるアミノ酸配列と抗原との融合ポリペプチドをコードする遺伝子が細胞に導入されていることを特徴とする請求項3記載のワクチン組成物。
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