JP6339768B2 - 弱め界磁性に優れたipmモータのロータ鉄心用鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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即ち、本発明は、金属組織がフェライト単相またはフェライト+セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物からなり、フェライトの結晶粒径が30μm以下で、磁界の強さが8000A/mの時の磁束密度B8000の値が1.65T以上であり、その時の残留磁束密度が0.5T以上であり、必要に応じて8000A/mまで磁化した時の保磁力が100A/m以上であることを特徴とするIPMモータのロータ鉄心用鋼板である。
<磁界の強さが8000A/mのときの磁束密度B8000:1.65T以上> 磁束密度B8000の値が1.65T以上とされているのは、ロータとして高速回転する際に永久磁石12を挿入した位置(d軸)と挿入していない位置(q軸)でのインダクタンスの値の差に基づくリラクタンストルクを有効に活用し、とくに高速回転領域において従来の鋼板と同等以上のトルク性能を発揮するためである。
8000A/mまで磁化した時の残留磁束密度Brが0.5T以上とされているのは、以下の通りである。即ち、IPMモータでは、永久磁石による磁石磁束(d軸磁束)に加え、リラクタンストルクを得るためにステータ側からロータ内を貫通する磁束(q軸磁束)を流し、高トルク化及び高効率化を達成している。しかし、例えば非特許文献1「平成23年度電気学会産業応用部門大会講演論文集、3−24(2011)、PIII−179」のように、モータへの入力電流を増加させ、q軸磁束を増加させると、d軸磁束との相互干渉によりd軸磁束の向きが回転方向とは逆方向にずれて偏り、d軸及びq軸インダクタンスの変化を通じて最大トルクを減少させることが知られている。この現象はdq軸相互干渉と呼ばれ、本来のd軸磁束よりも回転方向前方では磁束が強め合い、後方では弱め合うことに起因しているが、電磁鋼板のように保磁力が小さくかつ残留磁束密度も小さい高透磁率材料では、回転方向の後方における磁束の弱め合いがスムーズに進行するのに対して、保磁力が大きな低透磁率材料では残留磁束密度が大きいことに起因して、磁束の弱め合いが抑制されるため、前述のd軸磁束のずれによる偏りが小さくなる。その結果として、dq軸相互干渉に伴う最大トルクの減少を抑制することが可能となる。この効果を得るためには、8000A/mまで磁化した時の残留磁束密度Brが0.5T以上、好ましくは1.0T以上が必要である。本発明者らが種々の鋼板を素材としてIPMモータを試作し、モータの性能評価を行ったところ、0.5T以上、望ましくは1.0T以上の残留磁束密度を有する鋼板を用いてロータ鉄心を形成することで、高速回転時に行う弱め界磁制御の消費電力を低減でき、出力トルクを向上できることが分かった。
<金属組織:フェライト単相またはフェライト+セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物>
金属組織は、高い磁束密度を得るため、強磁性体であるフェライト単相あるいはフェラ
イト+セメンタイトからなることがのぞましい。なお、Ti、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物は、磁束密度には大きな影響を及ぼさず、磁壁の移動を妨げ高残留磁束密度及び高保磁力を得るために有効であり、必要に応じて鋼中に分布させることが望ましい。
金属組織がフェライト単相またはフェライト+セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物からなるとともにフェライト結晶粒径が30μm以下である必要がある。フェライト結晶粒径が30μmを超えると、磁壁の移動が容易になることに起因して残留磁束密度が0.5Tよりも小さくなるため、良好な弱め界磁性が得られない。
<C:0.0005質量%超〜0.10質量%以下>
Cは、鋼中に固溶又はセメンタイト(Fe3C)として析出し、高強度化に有効な元素である。IPMモータのロータ鉄心として用いるのに適した降伏強度とするために、0.0005質量%を超えるCを含有させることが好ましい。しかし、0.10質量%を超えて含有させると、溶接性が劣化し連続焼鈍ライン等での通板性が大幅に劣化する。
Siは、高強度化に有効である上に、体積抵抗率を高め、渦電流損を小さくするのに有効な元素であるが、本発明では添加しなくてもよい。渦電流損の抑制や高強度化の効果を得ようとするためには、0.01質量%以上含有させることが好ましい。しかし、3.0質量%を超えて含有させると、鋼板の靭性が劣化するとともに、磁束密度の低下を招く。また、より高い磁束密度を得るためには、できるだけその添加量を抑制し、例えば0.1%以下または0.01%以下さらには無添加であることが望ましい場合もある。
Mnは、高強度化に有効な元素であるが、本発明では添加しなくてもよい。高強度化の効果を得るためには、0.05質量%以上の含有させることが好ましい。しかし、2.5質量%を超えて含有させると、強度の向上効果は飽和するとともに、かえって磁束密度の低下を招く場合がある。
Pは、磁束密度の低下を抑制しつつ高強度化を図るのに有効な元素であるが、一方で鋼の靭性を著しく低下させる。0.05質量%までは許容できるため、上限を0.05質量%とする。
Sは、高温脆化を引き起こす元素であり、大量に含有させると、熱間圧延時に表面欠陥を生じ、表面品質を劣化させる。したがって、できるだけ低減することが望まれる。0.02質量%までは許容できるため、上限を0.02質量%とする。
Alは脱酸剤として添加されるほか、Siと同様に鋼の体積抵抗率を上昇させるのに有効な元素である。その効果を発揮するためには、0.005質量%以上の酸可溶Alを含有させることが好ましい。しかし、Siとの合計で3.0質量%を越えて含有させると磁束密度の低下が大きくなり、モータの性能が劣化する場合がある。また、より高い磁束密度を得るためには、できるだけその添加量を抑制し、例えば0.1%以下または0.01%以下さらには無添加であることが望ましい場合もある。
Ti、Nb及びVは、鋼中で炭窒化物を形成し、析出強化による高強度化に有効な元素である。また、フェライト結晶粒径の微細化にも有効に作用する。その効果を得るためには、1種又は2種以上を合計で、0.01質量%以上添加することが好ましい。しかし、0.20質量%を超えて添加しても、析出物の粗大化により強度上昇は飽和するとともに製造コストの増大を招く。
Mo、Cr及びBも、高強度化に有効な元素である。その効果を得るためには、Mo、Cr及びBの1種以上を、それぞれ設定した下限値以上添加することが好ましい。しかしそれぞれ設定した上限値を超えて添加してもその効果は飽和するととともに製造コストの増大を招く。なお、1種だけの添加でも2種以上の添加でもその効果は認められるが、2種以上を添加する場合は、それぞれ設定した上限値の1/2を超える量を添加すると、その効果に比して製造コストの上昇が大きくなるので、1/2以下の量で添加することが望ましい。
Cu及びNiも高強度化に有効な他、保持力を上昇させるのに有効な元素である。その効果を得るためには、それぞれ設定した下限値以上添加することが好ましい。しかし、それぞれ設定した上限値を超えて添加しても、その効果は飽和するととともに製造コストの増大を招く。
製造条件の限定理由は以下の通りである。
熱間圧延条件は、特に規定する必要は無く、通常の方法に従い実施すればよいが、熱間圧延の仕上げ温度は、γ単相域で実施することが望ましい。また、巻取り温度は高温になり過ぎると酸化スケールが厚くなり、その後の酸洗性を阻害するため、700℃以下とすることが望ましい。
得られた熱間圧延鋼板は、焼鈍後に1回の冷間圧延を施してもよいし、中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を施してもよいが、最終圧延率を60%以上とすることが望ましい。冷間圧延率が60%未満では、最終焼鈍後のフェライト結晶粒径が30μmよりも大きくなる場合がある。
冷間圧延ままの鋼板に、620〜850℃にて再結晶焼鈍を施すことにより、30μm以下のフェライト結晶粒径を有する再結晶組織を得ることができる。焼鈍温度が620°C未満では、未再結晶組織が残留する場合がある。また、850℃を超えると、フェライト結晶粒径が30μmを超える場合があるとともに過大な熱エネルギーが必要になり製造コストの増大を招く。焼鈍はバッチ焼鈍、連続焼鈍のいずれでも構わないが、連続焼鈍の場合には、焼鈍温度の下限値を680℃とすることが好ましく、また冷却はガスジェット冷却とすることが板形状確保の観点から好ましく、バッチ焼鈍の場合は、焼鈍温度の上限値を680℃とすることが好ましい。
良好な板形状の観点から、再結晶焼鈍後にインラインまたはオフラインで伸び率で0.1〜0.5%までのSKP圧延またはテンションレベラーを施すことが好ましい。
本発明では、ロータに発生する渦電流損の低減を目的として、鋼板の少なくとも片方の表面に、有機材料からなる絶縁皮膜、無機材料からなる絶縁皮膜及び有機・無機複合材料からなる絶縁皮膜を形成することが好ましい。無機材料からなる絶縁皮膜の例としては、六価クロムのような有害物質を含まず、リン酸二水素アルミニウムを含有する無機質系水溶液が挙げられるが、良好な絶縁が得られれば、有機材料からなる絶縁皮膜又は有機・無機複合材料からなる絶縁皮膜を用いてもよい。
表1及び2に示す成分組成を有する鋼を溶解し、これらの連鋳片を1250℃に加熱し950℃で仕上げ圧延して560℃で巻取り、板厚1.8mmの熱間圧延鋼板を得た。これらの熱間圧延鋼板を酸洗した後、一回の冷間圧延にて板厚0.35mmの冷間圧延鋼帯を得た(最終圧延率:約81%)。これらの冷間圧延鋼帯を800℃に60秒均熱処理する連続焼鈍を施した。冷却はガスジェット冷却とし、伸び率0.5%のインラインSKPを施した。その後、Cr系酸化物及びMg系酸化物を含有する半有機組成の約1μmの厚さの絶縁皮膜を鋼板の両面に形成した。なお、No.12、13及び19鋼は、参考例とする。
(2%硝酸・エチルアルコール溶液)にてエッチングを施し、走査型電子顕微鏡を用いた観察により、その組織形態から、フェライト、フェライト+セメンタイト等の組織に分類した。各サンプルの磁界の強さが8000A/mのときの磁束密度(B8000)、残留磁束密度(Br)、保磁力(Hc)、降伏強さ、引張強さ、全伸び、フェライトの結晶粒径及び焼鈍後の金属組織を表3及び4に示した。表2の結果から明らかなように、本願発明範囲の成分組成を有し、本願発明で規定した製造条件で製造したサンプルでは、フェライトの結晶粒径が30μm以下となり、同時に0.5T以上の残留磁束密度がえられることがわかる。
実施例1のN0.3、8、21鋼について、図1及び2に示す8極(4極対)構造のロータを打抜き加工により作製し、負荷トルクを付与したモータ性能評価試験に供した。また、ステータは1ヶのみ製造し、製造したロータを組替えてモータとしての性能評価に供した。モータの最大出力はいずれも4.5kWである。この性能評価では、10000rpm以上で弱め界磁制御を行った。なお、市販の電磁鋼板(35A300、板厚:0.35mm)について、本発明の素材鋼板と同様の方法による機械的特性及び磁気的特性を評価したところ、降伏強さが381N/mm2であり、引張強さが511N/mm2であり、飽和磁束密度B8000が1.76Tであり、残留磁束密度が0.45T、保磁力が75A/mであった。
◎ロータの仕様
・外径:80.1mm、軸長50mm
・積層枚数:0.35mm/140枚
・センターブリッヂ、アウターブリッヂの幅:1.00mm
・永久磁石:ネオジム磁石(NEOMAX−38VH)、9.0mm幅×3.0mm厚×50mm長さ、合計16ヶ埋め込み
◎ステータの仕様
・ギャップ長:0.5mm
・外径:138.0mm、ヨーク厚:10mm、長さ:50mm
・鉄心素材:電磁鋼板(35A300)、板厚0.35mm
・積層枚数:140枚
・巻線方式:分布巻き.
Claims (9)
- C:0.0005質量%超〜0.10質量%以下、Si:0質量%〜0.270質量%、Mn:0質量%〜2.48質量%未満、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、酸可溶Al:0質量%〜3.0質量%かつSi+Al:3.0質量%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、金属組織がフェライト単相またはフェライト+セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物からなり、フェライトの結晶粒径が30μm以下であることを特徴とする磁界の強さが8000A/mの時の磁束密度B8000の値が1.68T以上でありかつその時の残留磁束密度Brが0.5T以上であることを特徴とするIPMモータのロータ鉄心用鋼板。
- 磁界の強さが8000A/mまで磁化した時の保磁力Hcが100A/m以上であることを特徴とする請求項1に記載のIPMモータのロータ鉄心用鋼板。
- Ti、Nb及びVからなる群から選択される1種以上の成分を合計して0.01質量%〜0.20質量%さらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載のIPMモータのロータ鉄心用鋼板。
- Mo:0.1質量%〜0.6質量%、Cr:0.1質量%〜1.0質量%及びB:0.0005質量%〜0.005質量%からなる群から選択される1種以上の成分をさらに含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のIPMモータのロータ鉄心用鋼板。
- Cu:0.05質量%〜1.5質量%及びNi:0.05質量%〜1.0質量%からなる群から選択される1種以上の成分をさらに含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のIPMモータのロータ鉄心用鋼板。
- 鋼板の少なくとも片方の表面に、有機材料からなる絶縁皮膜、無機材料からなる絶縁皮膜又は有機・無機複合材料からなる絶縁皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のIPMモータのロータ鉄心用鋼板。
- 請求項1〜5に示した成分組成を有する熱間圧延鋼板を、1回の冷間圧延又は中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を施した後、620〜850℃の温度まで加熱して再結晶焼鈍を行うことにより、金属組織がフェライト単相またはフェライト+セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物からなり、フェライトの結晶粒径が30μm以下であることを特徴とする磁界の強さが8000A/mの時の磁束密度B8000の値が1.68T以上でその時の残留磁束密度が0.5T以上であるIPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法。
- 再結晶焼鈍は、680〜850℃まで加熱する連続焼鈍とし、加熱後の冷却をガスジェット冷却とすることを特徴とする請求項7に記載した金属組織がフェライト単相またはフェライト+セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物からなり、フェライトの結晶粒径が30μm以下であることを特徴とする磁界の強さが8000A/mの時の磁束密度B8000の値が1.68T以上で、その時の残留磁束密度が0.5T以上であるIPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法。
- 再結晶焼鈍後に伸び率で0.1〜0.5%までのSKP圧延またはテンションレベラーを施すことを特徴とする請求項7または8に記載した金属組織がフェライト単相またはフェライト+セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物からなり、フェライトの結晶粒径が30μm以下であることを特徴とする磁界の強さが8000A/mの時の磁束密度B8000の値が1.68T以上で、その時の残留磁束密度が0.5T以上であるIPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法。
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