以下、本発明に係る電動機(モータ)の制御装置、制御方法の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。但し、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。各図において同一の符号は実質的に同じ構成を示す。
まず、一般的なモータのPWM制御方式について説明する。図1は、モータのPWM制御に用いられるインバータを示す回路図である。図2は、PWM制御におけるスイッチング素子の動作波形を示すタイミングチャートである。図1に示すように、インバータ20は、モータ11に接続されている。モータ11はU相、V相、W相を備えた三相モータである。
インバータ20は、スイッチング素子Q1〜Q6を備えている。スイッチング素子Q1〜Q6は、例えば、パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのパワートランジスタである。ここでは、スイッチング素子Q1〜Q6がパワーMOSFETであり、ゲート(制御端子)にゲート電圧(PWM制御信号)が供給されることによって、スイッチング素子Q1〜Q6がオンオフする。例えば、マイコン(不図示)などのコントローラが、スイッチング素子Q1〜Q6をオンオフ制御するためのPWM制御信号を出力する。
スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とが電源電圧とグランドとの間に直列接続されている。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との間の接続点が、モータ11のU相に接続されている。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4とが電源電圧とグランドとの間に直列接続されている。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4との間の接続点が、モータ11のV相に接続されている。スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6とが電源電圧とグランドとの間に直列接続されている。スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6との間の接続点が、モータ11のW相に接続されている。また、スイッチング素子Q2、Q4、Q6とグランドとの間には抵抗が接続されている。なお、抵抗によって、各相に流れる電流を検出してもよい。
図2の波形において、期間Aでは、スイッチング素子Q1、Q4、Q6がオンしており、スイッチング素子Q2、Q3、Q5がオフしている。したがって、電源電圧からの電流が、スイッチング素子Q1を介して、モータ11のU相に供給される。また、モータ11のV相の電流が、スイッチング素子Q4を介して、グランドに引き込まれる。同様に、モータ11のW相の電流が、スイッチング素子Q6を介して、グランドに引き込まれる。このように、モータ11のU相、V相、W相には、それぞれ電流Iu、電流Iv、及びIwがスイッチング素子を介して流れる。そして、PWM制御信号の電圧レベルに応じて、スイッチング素子Q1〜Q6がオンオフ制御される。
スイッチング素子Q1〜Q6には、MOSFETが用いられる。図3は、スイッチング素子Q1〜Q6として用いられるMOSFETの特性を示すグラフである。図3では、横軸がMOSFETのゲート−ソース間電圧VGS(以下、ゲート電圧)を示し、縦軸がソース−ドレイン間抵抗(以下、抵抗RON)を示している。なお、図3に示す数値は、MOSFET特性の一例であり、MOSFET特性は図3に示す数値に限られるものではない。
ゲート電圧VGsが5Vになると、スイッチング素子がONし、ゲート電圧VGSが0Vとなるとスイッチング素子がOFFする。図3に示す例では、ゲート電圧VGsが5Vのとき、抵抗RONが10mΩとなっている。図3に示す例では、5Vがスイッチング素子のオン電圧VONとなり、0Vがオフ電圧VOFFとなる。オン電圧は、トランジスタの閾値電圧以上の電圧であり、ゲート電圧VGsに対して抵抗がほとんど変動しない。すなわち、オン電圧付近では、ゲート電圧VGsが増加しても、流れる電流がほぼ一定の飽和領域となる。
オン電圧とオフ電圧との間には、ゲート電圧VGsに対して抵抗RONがほぼ線形に変化する線形領域が存在する。例えば、ゲート電圧VGsが1V付近では、ゲート電圧と抵抗RONとの関係が線形になる。
スイッチング素子Q1〜Q6における損失は、RON×ID 2となる。したがって、スイッチング素子の抵抗が低い飽和領域では、スイッチング素子の通電電流による損失が小さくなる。一方、スイッチング素子の抵抗が大きい線形領域では、スイッチング素子の通電電流による損失が大きくなる。このように、飽和領域では電力の損失が小さくなり、線形領域では電力の損失が大きくなる。線形領域では、スイッチング素子Q1〜Q6が抵抗として機能する。したがって、線形領域で動作するスイッチング素子Q1〜Q6に電流が流れることで、スイッチング素子Q1〜Q6が発熱する。これにより、回生電力を消費することができる。
本実施の形態では、一部のスイッチング素子のゲート電圧をオフ電圧とオン電圧との間の中間電圧とすることで、通電電流による損失を大きくしている。なお、中間電圧は、オフ電圧とオン電圧との間の電圧であればよく、オン電圧とオフ電圧との真ん中の電圧でなくてもよい。中間電圧は、線形領域の電圧であることが好ましい。
具体的には、電源電圧がしきい値を越えた場合、スイッチング素子のゲートに中間電圧が供給される。こうすることで、モータ11で発生した回生電力を熱として消費することができる。すなわち、スイッチング素子の通電電流が、熱に変換される。こうすることで、回生電力を消費することができ、回生領域を拡大することができる(図28参照)。
以下、本実施の形態にかかるモータの制御装置、及び制御方法について、図面を参照して説明する。図4、図7、図8、図10、図11、図13、図14、図16、図17、図19、図20は、モータ制御装置100の構成を示す回路図である。図5、図9、図12、図15、図18、図21は、制御方法を示すフローチャートである。図6は、PWM制御信号の信号波形を示すタイミングチャートである。また、図6では、スイッチング素子Q1〜Q6の制御信号だけでなく、電源電圧、及びモータ11のU相の電流の波形が示されている。図4、図7、図8、図10、図11、図13、図14、図16、図17、図19、図20の回路図は図6の期間A〜期間Jにおける動作をそれぞれ示している。また、これらの回路図では、オン状態のスイッチング素子を実線で示し、オン状態以外のスイッチング素子を破線で示している。
以下、図6のタイミングチャートにしたがって、インバータ20のスイッチング素子Q1〜Q6が動作する例について説明する。図6では、期間Aから期間Eにおいて、電源電圧がしきい値を越えている。
まず、回路の構成について、図4を用いて説明する。モータ制御装置100は、電源13とインバータ20と電源コンデンサ21とを備えている。モータ11は、上記の通り、三相モータであり、U相、V相、及びW相を備えている。モータ11としては、例えば、ACブラシレスモータを用いることができる。電源13は、充放電可能なバッテリであり、例えば、リチウムイオン電池等である。電源13は、インバータ20に電源電圧を供給する。なお、電源13とインバータ20との間には、ダイオードなどの整流素子が設けられていてもよい。
電源コンデンサ21は、電源13と並列に接続されている。すなわち、電源コンデンサ21の一端は、電源13の電源電位(第1の電位)となり、他端はグランド電位(第2の電位)となる。電源コンデンサ21は、モータ11の回生電力により充電される。インバータ20は電源13と、モータ11との間に接続されている。そして、インバータ20は、電源13からのモータ11に供給される駆動電流を制御する。電源13の電源電圧はモニタされている。そして、比較器(不図示)が、電源電圧がしきい値を越えたか否かを判定している。
インバータ20は、スイッチング素子Q1〜Q6を備えている。上記の通り、スイッチング素子Q1〜Q6は、パワーMOSトランジスタなどのパワー素子である。ここでは、スイッチング素子Q1〜Q6は、NMOSトランジスタとして説明するが、NMOSトランジスタの代わりにPMOSトランジスタを用いてもよい。もちろん、MOSトランジスタ以外のトランジスタをスイッチング素子Q1〜Q6として用いてもよい。
インバータ20は、電源13と並列に接続されている。インバータ20は、電源13とモータ11との間に設けられている。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とが電源電圧とグランドとの間に直列接続されている。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4とが電源電圧とグランドとの間に直列接続されている。スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6とが電源電圧とグランドとの間に直列接続されている。
スイッチング素子Q1、Q3、Q5のドレインが電源13の電源電位となっている。スイッチング素子Q2、Q4、Q6のソースが電源13のグランド電位となっている。スイッチング素子Q1のソースは、スイッチング素子Q2のドレインと接続されている。スイッチング素子Q1のソースとスイッチング素子Q2のドレインとの間の接続点が、モータ11のU相に接続されている。スイッチング素子Q3のソースとスイッチング素子Q4のドレインとの間の接続点が、モータ11のV相に接続されている。スイッチング素子Q5のソースとスイッチング素子Q6のドレインとの間の接続点が、モータ11のW相に接続されている。
電源電位側に設けられたスイッチング素子Q1、Q3、Q5がインバータ20の上アーム22を構成する。グランド電位側に設けられたスイッチング素子Q2、Q4、Q6がインバータ20の下アーム23を構成する。スイッチング素子Q1〜Q6のゲート(制御端子)には、マイコン(不図示)などからのPWM制御信号(ゲート電圧)が入力される。PWM制御信号によって、各トランジスタのゲートにオン電圧又はオフ電圧が供給される。ゲートにHレベルのPWM制御信号(オン電圧)が供給されると、スイッチング素子Q1〜Q6はオンし、ゲートにLレベルのPWM制御信号(オフ電圧)が供給されると、スイッチング素子Q1〜Q6はオフする。スイッチング素子Q1〜Q6は独立にオンオフ制御される。
PWM制御においては、スイッチング素子Q1、及びスイッチング素子Q2のオンオフ状態によって、モータ11のU相に流れる電流の方向が決まる。スイッチング素子Q1がオンし、スイッチング素子Q2がオフすると、電源13からの電流がモータ11のU相に供給される。スイッチング素子Q1がオフし、スイッチング素子Q2がオンすると、モータ11のU相の電流がグランドに引き込まれる。V相についても同様に、スイッチングQ3、Q4のオンオフ状態によって、電流の方向が決まる。W相についても同様に、スイッチングQ5、Q6のオンオフ状態によって、電流の方向が決まる。このように、上アーム22と下アーム23のうち、一方のスイッチング素子がオンし、他方がオフすることで、各相の電流の方向が決まる。なお、各相の電流の向きが変わる場合、上アーム22のスイッチング素子と下アーム23のスイッチング素子が同時にオフするデッドタイム期間が存在する。これにより、電源電位側からグランド電位側に直接電流が流れるのを防ぐことができる。
以下、モータ制御装置100の動作について説明する。期間Aでは、スイッチング素子Q1、Q4、Q6のPWM制御信号がオン電圧となり、スイッチング素子Q2、Q3、Q5のPWM制御信号がオフ電圧となるように設定されている。例えば、図4に示すように、U相の電流Iuがスイッチング素子Q1を介して、モータ11から電源電圧側に流れると、回生電力によって電源電圧が上昇する(図5のS11)。期間Aでは電源電圧がしきい値を越えるため、オフ状態であったスイッチング素子Q2、Q3、Q5のゲートにVMIDが印加される(S12)。VMIDは、オン電圧(例えば、5V)とオフ電圧(例えば、0V)との間の電圧(例えば、1V)である。VMIDは一定の電圧となっている。これにより、スイッチング素子Q2、Q3、Q5が線形領域となり、スイッチング素子Q2、Q3、Q5にそれぞれアーム電流Iarmが流れる(S13)。
回生電力が発生しているため電源コンデンサ21が充電されて、電源コンデンサ21の電圧が電源13の出力電圧よりも高くなっている。よって、電源コンデンサ21からアーム電流Iarm×3が放電される(S14)。アーム電流Iarmによりスイッチング素子Q2、Q3、Q5が発熱する。アーム電流Iarmによる発熱で、回生電力が消費される(S15)。図6に示すように、電源コンデンサ21の放電によって電源電圧が低下する(S16)。
なお、VMIDは一定の電圧ではなく、VMIDを線形領域内で可変となっていてもよい。VMIDを可変とすることで、貫通電流であるアーム電流Iarmを動的に制御することもできる。例えば、電源電圧に応じてアーム電流Iarmを調整するようにしてもよい。具体的には、回生によって上昇した電源電圧の幅に比例して、アーム電流Iarmを上昇させるようにVMIDを制御してもよい。このようにすることで、より効果的に電源電圧を低下させることができる。
そして、デッドタイム期間(期間B)を経て、通電状態が切り替わる(S17)。V相の電流の向きが変わるため、期間Bでは、V相のスイッチング素子Q3、Q4が同時にオフとなる。デッドタイム期間(期間B)では、スイッチング素子Q1〜Q6のいずれにもVMIDが供給されない。すなわち、PWM制御信号に応じてスイッチング素子Q1〜Q6がオン又はオフとなっている。期間Bでは、図7に示すように、スイッチング素子Q1、Q6がオンとなり、スイッチング素子Q2〜Q5がオフとなっている。
通電状態が切り替わると、図6の期間Cになる。期間Cでは、スイッチング素子Q1、Q3、Q6のPWM制御信号がオン電圧となり、スイッチング素子Q2、Q4、Q5のPWM制御信号がオフ電圧となるように設定されている。例えば、図8に示すように、U相の電流Iuがスイッチング素子Q1を介して、モータ11から電源電圧側に流れると、回生電力によって電源電圧が上昇する(図9のS18)。図6に示すように、期間Cでは電源電圧がしきい値を越えるため、オフ状態であったスイッチング素子Q2、Q4、Q5のゲートにVMIDが印加される(S19)。これにより、図8に示すようにスイッチング素子Q2、Q4、Q5が線形領域となり、スイッチング素子Q2、Q4、Q5にアーム電流Iarmが流れる(S20)。
回生電力が発生しているため、電源コンデンサ21の電圧が電源13の出力電圧よりも高くなっている。よって、電源コンデンサ21からアーム電流Iarm×3が放電される(S21)。アーム電流Iarmによりスイッチング素子Q2、Q4、Q5が発熱する。アーム電流Iarmによる発熱で、回生電力が消費される(S22)。図6に示すように、電源コンデンサ21の放電によって電源電圧が低下する(S23)。
そして、デッドタイム期間(期間D)を経て、通電状態が切り替わる(S24)。W相の電流の向きが変わるため、期間Dでは、W相のスイッチング素子Q5、Q6が同時にオフとなる。デッドタイム期間(期間D)では、スイッチング素子Q1〜Q6のいずれにもVMIDが供給されない。すなわち、PWM制御信号に応じてスイッチング素子Q1〜Q6がオン又はオフとなっている。期間Fでは、図10に示すように、スイッチング素子Q1、Q3がオンとなり、スイッチング素子Q2、Q4、Q5、Q6がオフとなっている。
通電状態が切り替わると、図6の期間Eになる。期間Eでは、スイッチング素子Q1、Q3、Q5のPWM制御信号がオン電圧となり、スイッチング素子Q2、Q4、Q6のPWM制御信号がオフ電圧となるように設定されている。例えば、図11に示すように、U相の電流Iuがスイッチング素子Q1を介して、モータ11から電源電圧側に流れると、回生電力によって電源電圧が上昇する(図12のS25)。図6に示すように、期間Eでは電源電圧がしきい値を越えるため、オフ状態であったスイッチング素子Q2、Q4、Q6のゲートにVMIDが印加される(S26)。これにより、図11に示すようにスイッチング素子Q2、Q4、Q6が線形領域となり、スイッチング素子Q2、Q4、Q6にアーム電流Iarmが流れる(S27)。
回生電力が発生しているため、電源コンデンサ21の電圧が電源13の出力電圧よりも高くなっている。よって、電源コンデンサ21からアーム電流Iarm×3が放電される(S28)。アーム電流Iarmによりスイッチング素子Q2、Q4、Q6が発熱する。アーム電流Iarmによる発熱で、回生電力が消費される(S29)。図6に示すように、電源コンデンサ21の放電によって電源電圧が低下する(S30)。
そして、デッドタイム期間(期間F)を経て、通電状態が切り替わる(S31)。W相の電流の向きが変わるため、期間Fでは、W相のスイッチング素子Q5、Q6が同時にオフとなる。デッドタイム期間(期間F)では、スイッチング素子Q1〜Q6のいずれにもVMIDが供給されない。すなわち、PWM制御信号に応じてスイッチング素子Q1〜Q6がオン又はオフとなっている。期間Fでは、図13に示すように、スイッチング素子Q1、Q3がオンとなり、スイッチング素子Q2、Q4、Q5、Q6がオフとなっている。
通電状態が切り替わると、図6の期間Gになる。期間Gでは、スイッチング素子Q1、Q3、Q6のPWM制御信号がオン電圧となり、スイッチング素子Q2、Q4、Q5のPWM制御信号がオフ電圧となるように設定されている。例えば、図14に示すように、U相の電流Iuがスイッチング素子Q1を介して、モータ11から電源電圧側に流れると、回生電力によって電源電圧が上昇する(図15のS32)。しかしながら、図6に示すように、期間Gでは電源電圧がしきい値未満となっているため、スイッチング素子Q2、Q4、Q5のゲートにVMIDが印加されない(S33)。すなわち、通常のPWM制御によって、スイッチング素子Q1〜Q6がオンオフ制御される。
そして、デッドタイム期間(期間H)を経て、通電状態が切り替わる(S34)。V相の電流の向きが変わるため、期間Fでは、V相のスイッチング素子Q3、Q4が同時にオフとなる。デッドタイム期間(期間H)では、スイッチング素子Q1〜Q6のいずれにもVMIDが供給されない。すなわち、PWM制御信号に応じてスイッチング素子Q1〜Q6がオン又はオフとなっている。期間Hでは、図16に示すように、スイッチング素子Q1、Q6がオンとなり、スイッチング素子Q2〜Q5がオフとなっている。
通電状態が切り替わると、図6の期間Iになる。期間Iでは、スイッチング素子Q1、Q4、Q6のPWM制御信号がオン電圧となり、スイッチング素子Q2、Q3、Q5のPWM制御信号がオフ電圧となるように設定されている。例えば、図17に示すように、U相の電流Iuがスイッチング素子Q1を介して、モータ11から電源電圧側に流れると、回生電力によって電源電圧が上昇する(図18のS35)。期間Iでは電源電圧がしきい値未満となっているため、スイッチング素子Q2、Q3、Q5のゲートにVMIDが印加されない(S36)。すなわち、通常のPWM制御によって、スイッチング素子Q1〜Q6がオンオフ制御される。
そして、デッドタイム期間(期間J)を経て、通電状態が切り替わる(S37)。U相の電流の向きが変わるため、期間Jでは、U相のスイッチング素子Q1、Q2が同時にオフとなる。デッドタイム期間(期間J)では、スイッチング素子Q1〜Q6のいずれにもVMIDが供給されない。すなわち、PWM制御信号に応じてスイッチング素子Q1〜Q6がオン又はオフとなっている。期間Hでは、図19に示すように、スイッチング素子Q4、Q6がオンとなり、スイッチング素子Q1〜Q3、Q65がオフとなっている。
通電状態が切り替わると、図6の期間Kになる。期間Kでは、スイッチング素子Q2、Q4、Q6のPWM制御信号がオン電圧となり、スイッチング素子Q1、Q3、Q5のPWM制御信号がオフ電圧となるように設定されている。例えば、図20に示すように、V相の電流IVがスイッチング素子Q4を介して、グランド電位側からモータ11に流れると、回生電力によって電源電圧が上昇する(図21のS38)。しかしながら、期間Iでは電源電圧がしきい値未満となっているため、スイッチング素子Q1、Q3、Q5のゲートにVMIDが印加されない(S39)。すなわち、通常のPWM制御によって、スイッチング素子Q1〜Q6がオンオフ制御される。そして、通電状態が切り替わり、期間Aから繰り返す(S40)。
このように、本実施の形態では、PWM制御によりモータ11を駆動する場合において、回生電力が電源コンデンサ21に蓄積して、しきい値電圧以上となると、オフ状態のスイッチング素子のゲートに中間電圧VMIDを供給している。すなわち、回生電力によって電源電圧がしきい値を越えると、スイッチング素子にオン電圧とオフ電圧の間の中間電圧VMIDが供給される。換言すると、電源電圧がしきい値を越えたタイミングにおいて、オフ電圧を中間電圧VMIDに切り替えている。こうすることで、スイッチング素子にアーム電流Iarmを通電することができる。
オフ状態のスイッチング素子に中間電圧VMIDを供給するのみでよいため、モータ11の制御と並行して、回生電力を消費することができる。電源電圧がしきい値を越えた場合、オンとなっているスイッチング素子については、オン状態を維持し、オフとなっているスイッチング素子のみにオン電圧とオフ電圧との間の電圧を供給する。そして、PWM制御信号の切替えのタイミングで、通電状態が変化する。従って、モータ動作を阻害しないタイミングでゲート電圧VMIDを印加することができる。モータのPWM制御と並行して、回生電力を効率よく消費することができる。
さらに、ゲート電圧VMIDを供給した場合、オン電圧を供給した場合よりも抵抗が高くなる。これにより、回生電力の消費を大きくすることができ、電源電圧を速やかに下降させることができる。
また、本実施の形態にかかるモータ制御装置100は、回生電力を電源13に蓄積する構成(図29参照)とはなっていないため、電池充電状態に依存しない回生が可能となる。さらに、充電制御用のシステムが不要となり、低コスト化を図ることができる。
本実施の形態にかかるモータ制御装置100は、回生抵抗12で回生電力を消費する構成(図30参照)となっていないため、回生抵抗12を設ける必要がなくなる。よって、追加ハードにより、ECU42のスペースを圧迫するのを防ぐことができる。さらに、発熱するスイッチング素子Q1〜Q6を有するインバータ20は、通常、ECU42の筐体と強固に熱結合している。よって、放熱のために、新たな部材を設ける必要がなくなる。これにより、コスト上昇を防ぐことができる。
また、本実施の形態にかかるモータ制御装置100は、モータ11で回生電力を消費する構成(図31参照)とはなっていない。したがって、モータ11を熱管理するための温度センサなどが不要となる。これにより、コスト上昇を防ぐことができる。
(構成例1)
上記したモータ制御装置の構成の一例を図22に示す。図22は、モータ制御装置101の構成を示す回路図である。図22のモータ制御装置101は、電源13、インバータ20、及び電源コンデンサ21を備えている。電源13、インバータ20、及び電源コンデンサ21の構成及び動作は、上記と同様であるため、説明を省略する。モータ制御装置101は、マイコン30、切替え制御器31、比較器32、アンプ34、及び切替えスイッチ35を備えている。
マイコン30は、スイッチング素子Q1〜Q6に供給されるPWM制御信号をそれぞれ生成する。例えば、マイコンは、モータ指令値に基づいて、PWM制御信号を生成する。マイコン30からのPWM制御信号は、切替えスイッチ35を介して、アンプ34に入力される。切替えスイッチ35、及びアンプ34はスイッチング素子Q1〜Q6毎に設けられている。アンプ34で増幅されたPWM制御信号は、スイッチング素子Q1〜Q6に入力される。これにより、スイッチング素子Q1〜Q6がPWM制御信号によって、独立にオンオフ制御される。すなわち、モータ11がPWM動作によって駆動する。
電源13の電源電圧は比較器32に入力されている。さらに、比較器32には、しきい値が入力されている。比較器32はしきい値と電源電圧を比較して、その比較結果を切替え制御器31に出力する。すなわち、比較器32は電源電圧がしきい値を越えたことを検出する。そして、比較器32は、電源電圧がしきい値を越えたこと示す比較信号を切替え制御器31に出力する。
さらに、切替え制御器31には、マイコン30からのPWM制御信号が入力されている。切替え制御器31は、比較器32からの比較信号、及びマイコンからのPWM制御信号に基づいて、切替えスイッチ35に切替え信号を出力する。切替えスイッチ35には、電圧値VMIDが入力されている。切替えスイッチ35は切替え制御器31からの切替え信号に基づいて、スイッチング素子Q1〜Q6のゲートに供給する電圧を切替える。すなわち、切替え信号に基づいて、切替えスイッチ35は、PWM制御信号に基づく電圧(オン電圧又はオフ電圧)、及び中間電圧VMIDのどちらかを選択して、選択した電圧をスイッチング素子Q1〜Q6にアンプ34を介して供給する。切替え制御器31は、切替えスイッチ35毎に切替え信号を出力する。すなわち、切替えスイッチ35は、スイッチング素子Q1〜Q6毎に適切なタイミングで、電圧を切り替える。
具体的には、電源電圧がしきい値を越えた場合に、PWM制御信号がオフ電圧となっているスイッチング素子については、切替えスイッチ35が中間電圧VMIDを出力する。具体的には、電源電圧がしきい値を越えた場合に、PWM制御信号がオン電圧となっているスイッチング素子については、切替えスイッチ35がPWM制御信号を出力する。電源電圧がしきい値を越えていない場合に、切替えスイッチ35がPWM制御信号を出力する。
こうすることで、中間電圧VMIDが供給されたスイッチング素子に電源コンデンサ21からの電流が流れるため、回生電力をスイッチング素子で消費することができる。よって、図29に示したように回生領域を適切に拡大することができる。
(構成例2)
次に、モータ制御装置の第2の構成例について、図23を参照して説明する。図23は、モータ制御装置102の構成を示す回路図である。構成例1では、デジタル処理によって切替えスイッチ35を切替えていたが、構成例2ではアナログ回路によって切替えスイッチ35を切替えている。なお、モータ制御装置102の基本的構成は、構成例1のモータ制御装置101と同様であるため、適宜説明を省略する。
構成例2では、切替え制御器として、AND回路37が設けられている。AND回路37には、PWM制御信号が反転して入力されている。比較器32には、電源電圧が入力されている。また、比較器32には、抵抗分割によってしきい値が入力されている。比較器32は、電源電圧としきい値との比較結果を示す比較信号をAND回路37に出力する。そして、AND回路37は比較器からの比較信号とPWM制御信号の反転信号のANDを取って、切替えスイッチ35に切替え信号として出力する。こうすることで、構成例1と同様のタイミングで、切替えスイッチ35が切り替わる。
上記したモータ制御装置100〜102は、ロボットの関節に設けられたモータ11の制御に好適である。例えば、図26に示すロボット43においては、モータ制御装置がECU42に搭載されている。すなわち、電源(バッテリ)13、インバータ20、及び電源コンデンサ21等は、ロボット43に搭載されている。そして、モータ11がロボット43の各関節のアクチュエータ41として設けられている。モータ11が動作することで、アーム機構40が駆動される。本実施形態の制御方法によれば、モータ11の回生領域を広げることが可能にあるため、瞬時領域を拡大することができる。よって、瞬間的に大出力でモータ11が動作することができるため、ロボット43の制御に好適である。
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。