以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図1は、本発明の実施形態に係る吐水装置10が、男性用小便器CPに設置された状態を模式的に示す図である。吐水装置10は、男性用小便器CPのボウル部BWに対して上方から洗浄水を供給するための装置として設置されている。吐水装置10は、給水配管PIと、開閉弁100と、アンテナユニット200と、制御部300と、スプレッダ400とを備えている。
給水配管PIは、不図示の水道管(給水路)から水の供給を受けるための配管である。給水配管PIの下流側端部はスプレッダ400に繋がっている。スプレッダ400は、吐水装置10から吐出される水の出口(吐水部)であって、ボウル部BWのうち上方部分に配置されている。水道管から供給された水は、給水配管PIを通過した後にスプレッダ400から吐出され、洗浄水としてボウル部BWの略全体に供給される。
開閉弁100は電磁式の開閉弁であって、給水配管PIの途中に配置されている。後述の制御部300によって開閉弁100が開閉し、スプレッダ400からの水の吐出が開始又は停止される。
アンテナユニット200は、男性用小便器CPに対する使用者HBの接近、及び使用者HBから排泄された尿URの動き(使用状況)を非接触で検知するためのセンサーである。アンテナユニット200は所謂ドップラーセンサーであって、使用者HBの接近及び使用状況を検知しようとする検知領域SAに向けて、所定周波数のマイクロ波を送信することにより、検知領域SAに存在する検知対象(使用者HB及び尿UR)の動作を検知するものである。
アンテナユニット200は、男性用小便器CPの背面側(使用者HBの立つ位置とは反対側)であり且つスプレッダ400の近傍となる位置に配置されている。アンテナユニット200から送信されたマイクロ波は、陶器である男性用小便器CPを透過して検知領域SAに向かい進行する。その後、検知対象によって反射されたマイクロ波は、再び男性用小便器CPを透過してアンテナユニット200に到達し、アンテナユニット200により受信される。
アンテナユニット200は男性用小便器CPのうち上部に配置されている。このため、アンテナユニット200からマイクロ波を送信する方向、すなわち、使用者HBの接近や尿URの動きを検知しようとする検知領域SAに向かう方向は、図1に示したように使用者HB側且つ下方側に向かう方向となっている。
アンテナユニット200は、送信したマイクロ波(以下、「送信波SW」とも称する)と、受信したマイクロ波(以下、「反射波RW」とも称する)とに基づいてドップラー信号を生成し、かかるドップラー信号を制御部300に送信する。ドップラー信号とは、送信波SWの周波数と反射波RWの周波数との差分に相当する周波数(AC成分)を有する信号である。また、検知対象からアンテナユニット200までの距離に応じた強度(DC成分)を有する信号ともなっている。
制御部300は、アンテナユニット200から入力された上記ドップラー信号に基づいて検知対象の動作(使用者HBの接近、尿URの動き)を検知し、これに基づいて開閉弁100を動作させることによりスプレッダ400からの水の吐出を制御するものである。このような制御部300は、CPU、RAM等を備えたコンピュータ装置で構成されている。
後に詳しく説明するように、本実施形態に係る吐水装置10は、使用者HBが男性用小便器CPに接近したことをドップラー信号に基づいて検知すると、まず一定量の水を吐出してボウル部BWの予備洗浄を行う。その後、尿URの動きが検知されなくなったこと(排尿が完了したこと)をドップラー信号に基づいて検知すると、再度水を吐出してボウル部BWの洗浄(本洗浄)を行う。つまり、吐水装置10は、予備洗浄を行うための判断を行う際には使用者HB(人体)の全体をドップラーセンサーの検知対象としており、本洗浄を行うための判断を行う際には尿URをドップラーセンサーの検知対象としている。
ところで、公共のトイレ室では、複数の男性用小便器CPが並んだ状態で設置されていることが多い。図2は、このようなトイレ室RMの一例を模式的に示した図である。トイレ室RMでは、4台の男性用小便器CPが一つの壁面に沿って並んでおり、このような壁面が互いに対向している。その結果、トイレ室RM内には計8台の男性用小便器CP(及び吐水装置10)が配置されている。
吐水装置10を備えた男性用小便器CPがこのように複数並んだ状態で設置された場合には、複数の吐水装置10間でマイクロ波が干渉することにより、ドップラーセンサーの誤検知が生じてしまう場合がある。つまり、他の吐水装置10から到達したマイクロ波がノイズとなってしまい、生成されたドップラー信号の波形が変化して、使用者HBの検知等に失敗してしまうことがある。このようなノイズは、上記のように他の吐水装置10から到達するのみならず、トイレ室RM内に配置された手洗い器HWや蛍光灯等の外部機器からも到達する。更に、吐水装置10の内部で生じた電気的なノイズ(例えば電源ノイズ等)によっても、ドップラー信号の波形が変化して誤検知が生じてしまう場合もある。
上記のような誤検知により、使用者HBが接近していないにも拘わらず予備洗浄や本洗浄が行われてしまう場合が生じ得る。逆に、図2に示した動線FLに沿って使用者HBが男性用小便器CPに接近したにも拘わらず、予備洗浄が行われない場合も生じ得る。
特に、検知対象が尿URである場合(すなわち、本洗浄を行うための判断を行う場合)には、尿URにより反射されて戻ってくるマイクロ波の強度が弱いため、受信したマイクロ波や生成したドップラー信号がノイズに埋もれてしまい、検知に失敗してしまう可能性が高い。
そこで、本実施形態に係る吐水装置10では、アンテナユニット200の構成や制御部300による制御方法、及びドップラー信号の増幅率等を工夫することにより、ノイズの影響を低減している。これらの工夫については以下に詳しく説明する。
図3を参照しながら、アンテナユニット200の構成について説明する。図3に示したように、アンテナユニット200は、発振回路210と、送信アンテナ220と、受信アンテナ230と、二つのミキサ回路241、242と、位相調整線路250とを有している。
発振回路210は、制御部300からの指令に基づいて所定周波数のマイクロ波信号(出力信号)を生成し、これを送信アンテナ220に向けて出力する回路である。尚、発振回路210からの上記出力信号は、伝送線路を介し送信アンテナ220に入力されるほか、後述のミキサ回路241、242にもそれぞれ入力される。
送信アンテナ220は、検知領域SAに向けて送信波SWを送信するためのアンテナである。送信アンテナ220に発振回路210からの出力信号が入力されると、送信アンテナ220から送信波SWとして検知領域SAに向けて送信される。送信波SWの周波数は、出力信号の周波数と同一である。
受信アンテナ230は、検知領域SAの検知対象(使用者HBや尿UR)によって反射されたマイクロ波(反射波RW)を受信するためのアンテナである。受信アンテナ230が反射波RWを受信すると、反射波RWは受信アンテナ230によって電気信号(受信信号)に変換されて、ミキサ回路241、242にそれぞれ入力される。受信信号の周波数は反射波RWの周波数と同一である。
送信波SWを反射した検知対象が静止していた場合には、送信波SWの周波数と反射波RWの周波数とは一致する。一方、送信波SWを反射した検知対象が動いていた場合には、ドップラー効果により、送信波SWの周波数と反射波RWの周波数とは一致しない。これら周波数の差は、検知対象の動作速度によって変化する。
受信アンテナ230とミキサ回路242との間には、位相調整線路250が配置されている。位相調整線路250は、入力された信号の位相を90度遅らせて出力する回路である。このため、受信アンテナ230からの受信信号は、ミキサ回路241に対しては直接(位相遅れなく)入力されるが、ミキサ回路242に対しては位相が90度シフトした(遅れた)状態で入力される。
ミキサ回路241には、発振回路210からの出力信号と、受信アンテナ230からの受信信号とが入力される。ミキサ回路241は、これらに基づいてドップラー信号DS1を生成し、当該ドップラー信号DS1を制御部300に送信する。
同様に、ミキサ回路242には、発振回路210からの出力信号と、受信アンテナ230からの受信信号とが入力される。ミキサ回路242は、これらに基づいてドップラー信号DS2を生成し、当該ドップラー信号DS2を制御部300に送信する。上記のように、ミキサ回路242に入力される受信信号は、ミキサ回路241に入力される受信信号の位相を90度遅らせたものである。従って、ミキサ回路242で生成されるドップラー信号DS2は、ミキサ回路241で生成されるドップラー信号DS1の位相を90度遅らせたものに略等しい。
既に説明したように、ドップラー信号(DS1、DS2)は、送信波SWの周波数と反射波RWの周波数との差分に相当する周波数(AC成分)を有する信号であり、検知対象からアンテナユニット200までの距離に応じた強度(DC成分)を有する信号である。従って、制御部300は、ドップラー信号DS1、DS2のうち少なくともいずれか一方を受信することによって検知対象の動きを検知することができ、当該動きに基づいてスプレッダ400からの水の吐出(開閉弁100の開閉)を制御する。
図4を参照しながら、アンテナユニット200と制御部300との接続について説明する。図4に示したように、アンテナユニット200と制御部300との間には複数の増幅回路(G1、G2、G3)が配置されている。アンテナユニット200において生成されたドップラー信号DS1、DS2は、そのまま制御部300に入力されるのではなく、これら増幅回路によって増幅されてから制御部300に入力される。
制御部300は、アナログ信号の入力を受け入れるための3つの入力ポート(AD1、AD2、AD3)を有している。入力ポートAD1等に入力されたアナログ信号(増幅されたドップラー信号)はデジタル信号に変換され(A/D変換され)、制御部300の内部で処理される。
アンテナユニット200で生成されたドップラー信号DS1は、増幅回路G1によって増幅された後、入力ポートAD1に入力される。また、アンテナユニット200で生成されたドップラー信号DS2は、増幅回路G2によって増幅された後、入力ポートAD2に入力される。増幅回路G1の増幅率と増幅回路G2の増幅率は同一である。従って、入力ポートAD1に入力される増幅後のドップラー信号DS1は、入力ポートAD2に入力される増幅後のドップラー信号DS2と略同一であり、これらは位相のみにおいて互いに異なっているということができる。
入力ポートAD3には、ドップラー信号DS1とドップラー信号DS2との差分を、増幅回路G3によって増幅して得られた信号(以下、「ドップラー信号DS3」とも称する)が入力される。図5に示したように、増幅回路G3は、オペアンプOAを用いた差動増幅回路(減算回路)となっている。オペアンプOAには、ドップラー信号DS1が反転入力され、ドップラー信号DS2が非反転入力されており、これらの差分が増幅されて、ドップラー信号DS3としてオペアンプOAから出力される。
ところで、増幅前のドップラー信号DS1、DS2は、それぞれ複数種類のノイズを含んだ信号となっている。これらのノイズとは、一部は蛍光灯等の外部機器から受信アンテナ230に到達した電波に起因するノイズ(以下、「外部ノイズ」とも称する)であり、一部は吐水装置10の内部で生じたノイズ(電源ノイズ等、以下、「内部ノイズ」とも称する)である。
ドップラー信号DS1が増幅回路G1により増幅される際には、検知対象の動作に関する情報を含んだ信号が増幅されるほか、上記のような複数のノイズも一様に増幅される。ドップラー信号DS2が増幅回路G2により増幅される際にも同様である。
一方、増幅回路G3が行う増幅においては、増幅前のドップラー信号DS1、DS2が含んでいた複数種類のノイズのうち内部ノイズの影響は低減される。これは、ドップラー信号DS1、DS2にそれぞれ含まれていた内部ノイズは互いの位相が略一致しており、オペアンプOAに入力され差分を取る際において互いに相殺されてしまうためである。その結果、オペアンプOAから出力されるドップラー信号DS3は、増幅された外部ノイズを含んではいるものの、ノイズの影響が比較的少ない信号となっている。
本実施形態の増幅回路G3では差動増幅回路を用いているため、増幅前のドップラー信号DS1、DS2の差分を抽出して増幅前のドップラー信号の大きさに対して約1.4倍のドップラー信号に増幅することができる。従って、増幅回路G3の増幅率は、増幅回路G1や増幅回路G2の増幅率と同じであっても、差分抽出した信号が増幅されるため、増幅回路G3におけるトータルの増幅率は増幅回路G1、G2の増幅率よりも高い。
後に説明するように、吐水装置10は、使用者HBの動きを検知する際には、増幅回路G1で増幅されたドップラー信号DS1、又は増幅回路G2で増幅されたドップラー信号DS2に基づいて検知を行う。増幅回路G1等の増幅率は比較的低いのであるが、使用者HB(人体)の全体で反射された電波の強度は高いため、検知精度が低下してしまうことはない。
また、吐水装置10は、尿URの動きを検知する際には、増幅回路G3で増幅されたドップラー信号DS3に基づいて検知を行う。尿URによって反射された電波の強度は低いのであるが、増幅回路G3等の増幅率は比較的高いため、検知精度が低下してしまうことはない。更に、複数種類のノイズのうち少なくとも内部ノイズの影響は低減されているため、反射波RWやドップラー信号DS3がノイズに埋もれてしまうことは抑制される。
続いて、図6乃至11を参照しながら、男性用小便器CPが使用される状況に応じた吐水装置10の具体的な動作について説明する。図6は、制御部300が行う処理の全体の流れを説明するためのフローチャートである。図7乃至9は、それぞれ、図6に示した処理のうち一部の処理内容を詳細に示したフローチャートである。図10は、使用者HBにより男性用小便器CPが使用される際の状態の変化を模式的に示す図である。
図11は、制御部300に到達するドップラー信号(DS1、DS2、DS3)を説明するためのグラフである。同図のうち図11(A)は、ドップラー信号(DS1、DS2、DS3)の周波数の時間変化を示している。図11(B)は、入力ポートAD1に到達するドップラー信号DS1を、電圧の時間変化として示している。図11(C)は、入力ポートAD2に到達するドップラー信号DS2を、電圧の時間変化として示している。図11(D)は、入力ポートAD3に到達するドップラー信号DS3を、電圧の時間変化として示している。
<待機時>男性用小便器CPが使用されておらず、検知領域SA内に使用者HBが存在していない状態(図10に示した状態ST1)においては、男性用小便器CPは使用者HBの接近を検知しようと待機している。このとき、送信アンテナ220は送信波SWを検知領域SAに向けて送信しており、受信アンテナ230は反射波RW(この場合、トイレ室RMの床面等の静止物により反射されたマイクロ波である)を受信している。
送信アンテナ220による送信波SWの送信、及び受信アンテナ230による反射波RWの受信は、待機時のみならず、男性用小便器CPが使用される過程においても継続的に行われている。従って、制御部300の入力ポートAD1、AD2、AD3には、それぞれドップラー信号DS1、DS2、DS3が継続的に入力されている。ただし、制御部300は常にこれらの全てに基づいて検知対象の検知を行っているのではなく、これらのうち一部のみを用いて演算処理及び検知を行い、他については演算処理及び検知に用いることなく無視している。具体的には、入力ポートAD1、AD2、AD3のうち一部のみを有効化し、他を無効化することにより、演算処理に用いる信号の選択を行っている。
待機時(状態ST1)においては、制御部300はドップラー信号DS1、DS2のみを演算処理に使用し、ドップラー信号DS3を無視する。このため、図6に示したステップS01では、入力ポートAD1、AD2を有効化し、入力ポートAD3を無効化する。使用者HBの接近を検知するために、すなわち、使用者HBが検知領域SA内の使用位置まで移動する動作を検知するために、上記のように入力ポートAD1、AD2のみを有効化している制御部300の状態を、以下では「第一検知状態」と称する。
待機時において制御部300に入力されるドップラー信号DS1、DS2、DS3の波形を、図11では時刻t0から時刻t1までのグラフとしてそれぞれ示している。待機時においては、検知領域SA内に使用者HBが存在していないため、送信波SWは静止物(床面等)によって反射される。その結果、図11(A)、(B)、(C)、(D)に示したように、ドップラー信号DS1、DS2、DS3はいずれも周波数が0の信号となっている。
<接近時>使用者HBが男性用小便器CPを使用するために接近し、検知領域SA内の使用位置で静止する際(図10に示した状態ST2になる際)には、制御部300は当該接近及び静止を検知する。
接近時(状態ST2)において制御部300に入力されるドップラー信号DS1、DS2、DS3の波形を、図11では時刻t1から時刻t2までのグラフとしてそれぞれ示している。図11に示したように、使用者HBが接近するに伴って、ドップラー信号DS1、DS2、DS3は次第にその振幅が大きくなる。これは、反射波RWの強度が次第に強くなっていることを示している。また、特に図11(A)を見れば明らかなように、ドップラー信号DS1、DS2、DS3の周波数はしばらくの間は一定値となっており、その後減少し、最終的には0となっている。これは、使用者HBが一定速度で接近し、その後減速し、最終的には使用位置で静止することを示している。
ステップS01に続くステップS02では、第一検知状態である制御部300によって、使用者HBが男性用小便器CPに接近したかどうかが判断される。使用者HBが検知領域SA内の使用位置まで移動して静止したことが検知されれば(ステップS02における判断がYESなら)、ステップS03に進み予備洗浄を行う。使用者HBの接近が検知されず、図10の状態ST1のままであると判断されれば(ステップS02における判断がNOなら)、ステップS01に戻り第一検知状態が継続される。
図7は、ステップS02の具体的な処理内容を示すフローチャートである。ステップS02では、有効となっている入力ポートAD1に入力されたドップラー信号DS1の波形と、有効となっている入力ポートAD2に入力されたドップラー信号DS2の波形とが、それぞれサンプリングされて制御部300が有する記憶装置に格納される。制御部300は、記憶装置に格納された波形(必要に応じてフィルタ処理を行ってもよい)に基づいて、図7に示した一連の演算処理を実行する。尚、以下に説明するように、ステップS02の演算処理に必要なのは、ドップラー信号DS1等の振幅と周波数、及びドップラー信号DS1、DS2の位相差である。従って、波形全体ではなく振幅、周波数及び位相差のみを記憶装置に格納することとしてもよい。
ステップS21では、ドップラー信号DS1の振幅が、予め設定された閾値(上限閾値UTH1、下限閾値LTH1)を超えたかどうかが判断される。ドップラー信号DS1の振幅(電圧)が上限閾値UTH1を上回ったか、又は下限閾値LTH1を下回った場合には、反射波RWの強度が強いこと、すなわち、検知領域SA内に使用者HBが存在することが推定されるため、続くステップS22に移行する。ドップラー信号DS1の振幅(電圧)が下限閾値LTH1と上限閾値UTH1との間である場合には、反射波RWの強度が弱いこと、すなわち、検知領域SA内に使用者HBが存在しないことが推定されるため、ステップS01に戻る。尚、上記のような判断は、ドップラー信号DS2の振幅に基づいて行ってもよい。この場合、ドップラー信号DS2の振幅(電圧)が、図11(B)に示した閾値(上限閾値UTH2、下限閾値LTH2)を超えたかどうかが判断される。
ステップS22では、ドップラー信号DS1とドップラー信号DS2との位相差に基づいて、使用者HBの移動方向、すなわち、接近して来るのか離れて行くのかが判断される。使用者HBの移動方向が接近方向である場合には、ステップS23に移行する。使用者HBの移動方向が離れて行く方向である場合には、その後男性用小便器CPが使用される可能性は低いと推定されるため、ステップS01に戻る。
ステップS23では、ドップラー信号DS1の周波数に基づいて、接近してくる使用者HBの速度が減速に転じたか否かが判断される。図11(A)に時刻t1から時刻t2までのグラフとして示したように、ドップラー信号DS1の周波数が一定値から減少し始めた場合には、検知領域SAにおいて使用者HBの移動速度(接近速度)が減速したことが推定されるため、ステップS03に移行する。ドップラー信号DS1の周波数が一定値であれば、ステップS22に戻り、周波数が減少するまで待機する。
図6に戻って説明を続ける。ステップS02の判断がYESであった場合には、上記のように、使用者HBが接近して減速したことが推定される。このため、続くステップS03では、制御部300は開閉弁100を一定時間開弁させる。その結果、スプレッダ400から一定量の水が吐出されて、ボウル部BWの予備洗浄が行われる。
<排泄時>使用位置に立った使用者HBが、男性用小便器CPにおいて排泄を行う際(図10に示した状態ST3)には、制御部300は排泄された尿URの動きを検知する。
排泄時(状態ST3)において制御部300に入力されるドップラー信号DS1、DS2、DS3の波形を、図11では時刻t2から時刻t3までのグラフとしてそれぞれ示している。図11に示したように、排泄が開始されると、尿URの動きによってドップラー信号DS1、DS2、DS3の周波数が高くなる。尿URの移動速度はほぼ一定であるから、ドップラー信号DS1等の周波数の変化を示した図11(A)のグラフは矩形波状となる。排泄が終了すると、検知領域SAにおいて動いているものがなくなるため、ドップラー信号DS1、DS2、DS3の周波数はいずれも0となる。
尿URの動きの検知は、ドップラー信号DS3に基づいて行われる。このため、ステップS03に続くステップS04では、制御部300は入力ポートAD1、AD2を無効化し、入力ポートAD3のみを有効化する。尿URの動き(排尿)を検知するために、上記のように入力ポートAD3のみを有効化している制御部300の状態を、以下では「第二検知状態」と称する。第二検知状態は、第一検知状態における増幅率(増幅回路G1の増幅率)よりも高い増幅率(増幅回路G3の増幅率)でドップラー信号を増幅し、排尿(つまり、使用者HBの使用状況)を検知するための状態である。
ステップS04に続くステップS05では、第二検知状態である制御部300によって、排尿が開始されその後終了したかどうかが判断される。排尿が終了したことが検知されれば(ステップS05における判断がYESなら)、ステップS06に進み、後に説明する本洗浄を行うための準備が行われる。排尿の終了が検知されず、又は排尿の開始すら検知されない場合には(ステップS05における判断がNOなら)、ステップS01に戻る。この場合、制御部300は第一検知状態に戻り待機状態となる。
図8は、ステップS05の具体的な処理内容を示すフローチャートである。ステップS05では、有効となっている入力ポートAD3に入力されたドップラー信号DS3の波形がサンプリングされて、制御部300が有する記憶装置に格納される。制御部300は、記憶装置に格納された波形(必要に応じてフィルタ処理を行ってもよい)に基づいて、図8に示した一連の演算処理を実行する。尚、以下に説明するように、ステップS02の演算処理に必要なのは、ドップラー信号DS3等の振幅である。従って、波形全体ではなく振幅のみを記憶装置に格納することとしてもよい。
ステップS51では、ドップラー信号DS3の振幅が、予め設定された閾値(上限閾値UTH3、下限閾値LTH3)を超えたかどうかが判断される。ドップラー信号DS3の振幅(電圧)が上限閾値UTH3を上回ったか、又は下限閾値LTH3を下回った場合には、反射波RWの強度が強いこと、すなわち、排尿が行われており尿URが動いていることが推定されるため、続くステップS52に移行する。ドップラー信号DS3の振幅(電圧)が下限閾値LTH3と上限閾値UTH3との間である場合には、反射波RWの強度が弱いこと、すなわち、排尿が行われていないこと(排尿が開始されなかったこと)が推定されるため、ステップS01に戻る。尚、使用位置に到達してから排尿が開始されるまでの時間は、使用者毎に異なるものであるから、ステップS05が開始されてから所定の待ち時間が経過した後に、排尿が行われたか否かの判断を行うこととしてもよい。
ステップS52では、ドップラー信号DS3の振幅が閾値(上限閾値UTH3、下限閾値LTH3)を超えている状態のまま継続された時間が計測される。ドップラー信号DS3の振幅が減少し、下限閾値LTH3と上限閾値UTH3との間になると、それまでの経過時間(以下、「排尿時間」とも称する)が制御部300の記憶装置に記憶される。その後、ステップS53に移行する。
ステップS53では、記憶された排尿時間の長さが所定時間よりも長かったか否かが判断される。排尿時間が所定時間よりも長かった場合には、実際に排尿が行われたと推定し、ステップS06に移行する。排尿時間が所定時間よりも短かった場合には、実際には排尿が行われなかった(誤検知であった)と推定し、ステップS01に戻る。
図6に戻って説明を続ける。ステップS05の判断がYESであった場合には、実際に排尿が行われ、且つ当該排尿が完了したことが推定される。このため、以降のステップでは本洗浄を行うための準備が行われる。本実施形態に係る吐水装置10では、排尿が完了したことを検知した時点で直ちに本洗浄を行うのではなく、使用者HBが離れて行ったこと(図10に示した状態ST4になったこと)を検知してから本洗浄を行うように構成されている。ただし、本発明の実施形態としてはこのような態様に限られず、排尿が完了したことを検知した時点(ステップS05でYESと判定された時点)で直ちに本洗浄を行うように構成されていてもよい。
<離遠時>ステップS06では、入力ポートAD1、AD2を再び有効化し、入力ポートAD3を無効化する。つまり、使用者HBが離れて行く動きを検知するために、第二検知状態から第一検知状態に戻す。ステップS06以降において制御部300に入力されるドップラー信号DS1、DS2、DS3の波形を、図11では時刻t3以降のグラフとしてそれぞれ示している。図11に示したように、使用者HBが離れて行くに伴って、ドップラー信号DS1、DS2、DS3は次第にその振幅が小さくなる。これは、反射波RWの強度が次第に弱くなっていることを示している。また、特に図11(A)を見れば明らかなように、ドップラー信号DS1、DS2、DS3の周波数はしばらくの間は次第に増加して行き、その後、一定値となっている。これは、使用者HBが(速度0から)加速しながら離れて行き、その後、一定速度で離れて行くことを示している。
ステップS06に続くステップS07では、第一検知状態である制御部300によって、使用者HBが男性用小便器CPから離れて行ったかどうかが判断される。使用者HBが検知領域SAから離れて行ったことが検知されれば(ステップS07における判断がYESなら)、ステップS08に進み本洗浄を行う。使用者HBが離れて行く動きが検知されなければ(ステップS07における判断がNOなら)、ステップS06に戻り、使用者HBの動きが検知されるまで待機する。
図9は、ステップS07の具体的な処理内容を示すフローチャートである。ステップS07では、有効となっている入力ポートAD1に入力されたドップラー信号DS1の波形と、有効となっている入力ポートAD2に入力されたドップラー信号DS2の波形とが、それぞれサンプリングされて制御部300が有する記憶装置に格納される。制御部300は、記憶装置に格納された波形(必要に応じてフィルタ処理を行ってもよい)に基づいて、図9に示した一連の演算処理を実行する。尚、以下に説明するように、ステップS07の演算処理に必要なのは、ドップラー信号DS1等の振幅と周波数、及びドップラー信号DS1、DS2の位相差である。従って、波形全体ではなく振幅、周波数及び位相差のみを記憶装置に格納することとしてもよい。
ステップS71では、ドップラー信号DS1の振幅が、予め設定された閾値(上限閾値UTH1、下限閾値LTH1)を超えたかどうかが判断される。ドップラー信号DS1の振幅(電圧)が上限閾値UTH1を上回ったか、又は下限閾値LTH1を下回った場合には、反射波RWの強度が強いこと、すなわち、検知領域SA内に使用者HBが存在することが推定されるため、続くステップS72に移行する。ドップラー信号DS1の振幅(電圧)が下限閾値LTH1と上限閾値UTH1との間である場合には、反射波RWの強度が弱いこと、すなわち、検知領域SA内に使用者HBが存在しないことが推定される。しかしながら、この場合には誤検知である可能性が高いため、ステップS06に戻って再度使用者HBの存在を判断する。
尚、上記のような判断は、ドップラー信号DS2の振幅に基づいて行ってもよい。この場合、ドップラー信号DS2の振幅(電圧)が、図11(B)に示した閾値(上限閾値UTH2、下限閾値LTH2)を超えたかどうかが判断される。
ステップS72では、ドップラー信号DS1とドップラー信号DS2との位相差に基づいて、使用者HBの移動方向、すなわち、接近して来るのか離れて行くのかが判断される。使用者HBの移動方向が離れて行く方向である場合には、ステップS73に移行する。使用者HBの移動方向が接近方向である場合には、誤検知である可能性が高いため、ステップS06に戻って再度使用者HBの移動方向を判断する。
ステップS73では、ドップラー信号DS1の周波数に基づいて、離れて行く使用者HBの速度が加速から定速に転じたか否かが判断される。図11(A)に時刻t3以降のグラフとして示したように、ドップラー信号DS1の周波数が増加してから一定となった場合には、検知領域SAから使用者HBが離れて行くことが推定されるため、ステップS08に移行する。ドップラー信号DS1の周波数が増加してから一定値となることが検知されなければ、ステップS72に戻って当該検知を待機する。
図6に戻って説明を続ける。ステップS07の判断がYESであった場合には、上記のように、使用者HBが検知領域SAから離れて行ったことが推定される。このため、続くステップS08では、制御部300は開閉弁100を開弁させる。その結果、スプレッダ400から水が吐出されて、ボウル部BWの本洗浄が行われる。
尚、上記のように、ステップS08によって使用者HBが離れていく動作を検知し、その移動速度が一定となったタイミングで本洗浄を行うこととしてもよいのであるが、ステップS07でYESと判定された後、一定期間が経過したことのみを条件として本洗浄を行こととしてもよい。
以上のように、本実施形態に係る吐水装置10は、制御部300が第一検知状態と第二検知状態とをとり得るものとなっている。第一検知状態は、入力ポートAD1及びAD2のみを有効化した状態であって、使用者HBが検知領域SA内の使用位置まで移動する動作を検知する状態である。この第一検知状態においては、使用者HB(人体)の全体が検知対象となるため、使用者HBの全体により反射された比較的強いマイクロ波に基づいてドップラー信号が生成される。第二検知状態は、入力ポートAD3のみを有効化した状態であって、使用者HBの使用状況(尿URの動き)を検知する状態である。この第二検知状態においては、使用者HBから排泄される尿URの動きが検知対象となるため、尿URにより反射された比較的弱いマイクロ波に基づいてドップラー信号が生成される。
第二検知状態においては、上記のように検知対象により反射されて戻ってくるマイクロ波の強度が弱く、受信したマイクロ波(反射波RW)や生成したドップラー信号がノイズに埋もれてしまう可能性がある。そこで、第二検知状態においては、制御部300は第一検知状態における増幅率(増幅回路G1、G2の増幅率)よりも高い増幅率(増幅回路G3の増幅率)でドップラー信号を増幅することとしている。増幅率を高くすることにより、検知対象により反射されて戻ってくるマイクロ波の強度が弱い第二検知状態において、使用状況(尿URの動き)を確実に検知することが可能となっている。
特に、アンテナユニットの小型化を目的として、アンテナユニットから送信されるマイクロ波の周波数を24GHzと高くしたような場合には、検知対象により反射されて戻ってくるマイクロ波の強度は非常に弱くなる。しかしながら、本発明によれば、上記のような場合であっても、使用状況(尿URの動き)を確実に検知することが可能となる。
制御部300は、第一検知状態において、使用者HBが使用位置まで移動して静止したことを検知すると、予備洗浄を行うとともに、第一検知状態から第二検知状態に切り替わる(図6のステップS04)ように構成されている。このような構成により、制御部300は常に高い増幅率でドップラー信号を増幅するのではなく、使用者HBが使用位置に存在するときにのみ高い増幅率でドップラー信号を増幅し、使用状況(尿URの動き)を検知する。
制御部300が常に高い増幅率でドップラー信号を増幅することとした場合には、外部(蛍光灯等)から受信アンテナ230に到達するマイクロ波、すなわち外部ノイズも同時に増幅されてしまい、その影響によってドップラー信号に基づく検知が失敗することが懸念される。これに対し、本実施形態に係る吐水装置10では、使用者HBが使用位置に存在し、外部から受信アンテナ230に向かうマイクロ波が使用者HBによって遮られ低減されているときにおいてのみ、制御部300が(第二検知状態となり)高い増幅率でドップラー信号を増幅している。このため、外部ノイズの影響を低減しながら、使用者HBの接近及び使用状況のいずれをも確実に検知することが可能となっている。
第二検知状態において制御部300は、ドップラー信号DS1と、ドップラー信号DS1の位相を90度変化させたものに相当するドップラー信号DS2との差を増幅回路G3で増幅することにより、ドップラー信号を増幅する。すなわち、第二検知状態においては所謂差動増幅によってドップラー信号を増幅する。
このような増幅を行うことにより、増幅前のドップラー信号(DS1、DS2)に含まれていたノイズのうち、吐水装置10の内部で生じたノイズ(電源ノイズ等)の影響を低減しながら、ドップラー信号を増幅することが可能となっている。その結果、第二検知状態において使用状況(尿URの動き)をさらに確実に検知することが可能となっている。
使用者HBによる男性用小便器CPの使用が終了した後は、使用者HBが使用位置から離れて行くため、外部(蛍光灯等)から受信アンテナ230に到達するマイクロ波、すなわち外部ノイズが使用者HBによって遮られなくなる。このような状態においても、増幅率の高い第二検知状態が継続されると、受信アンテナ230に到達した外部ノイズが高い増幅率で増幅されてしまい、使用者HBの移動を正確に検知することができなくなってしまう。
そこで、制御部300は、第二検知状態において使用者HBによる使用が終了したことを検知すると、第二検知状態から第一検知状態に切り替わる(図6のステップS06)ように構成されている。使用者HBが使用位置から離れて行く際には、増幅率の低い第一検知状態となっているため、受信アンテナ230に到達した外部ノイズが大きく増幅されてしまうことがない。その結果、使用者HBの移動を正確に検知することが可能となっている。
尚、本実施形態においては、例えば図7のステップS23において、使用者HBの接近をドップラー信号DS1の周波数に基づいて判断している。しかしながら、使用者HBの接近(又は離れて行く動き)を検知するための方法としてはこのようなものに限られず、ドップラー信号DS1の周波数以外に基づいて判断してもよい。例えば、図11に示したドップラー信号DS1等のグラフにおいて、波形のピーク数に基づいて判断してもよい。波形のピーク数は、使用者HBの移動速度によらず、使用者HBと受信アンテナ230との距離のみに基づいて変化するものであるから、波形のピーク数によって使用者HBの接近(又は離れて行く動き)を検知することが可能である。図9のステップS73についても同様である。
以上においては、本発明の実施形態に係る吐水装置10を男性用小便器CPに設置した例を説明したが、本発明の適用範囲は男性用小便器CPに限られるものではない。本発明は、人体に向けて水を吐出する様々な装置(例えば手洗い器)に適用することができる。また、本発明の実施形態に係る吐水装置10では、制御部300の入力ポートAD1、AD2、AD3に、それぞれドップラー信号DS1、DS2、DS3が継続的に入力される回路構成としたが、ドップラー信号DS1、DS2、DS3の信号をアナログスイッチ等で切り替え、制御部300の単一の入力ポートADに順次入力して演算処理をしても同様の効果が得られる。
図12は、本発明の他の実施形態に係る吐水装置10aが、手洗い器HWに設置された状態を模式的に示す図である。図6に示した例においては、手洗い器HWの背面側にアンテナユニット200aを配置して、使用者HB側(斜め上方側)に向けてマイクロ波が送信され、使用者HBの手の動きが検知される。アンテナユニット200aにより、使用者HBの手がスパウト400aに接近したことが検知されると、制御部300aが開閉弁100aを開き、スパウト400aからの水の吐出が開始される。
この実施形態においても、制御部300aは第一検知状態及び第二検知状態を取り得るものとなっており、図6に示した制御と同様の制御を行うことが可能となっている。第一検知状態においては低い増幅率によってドップラー信号を増幅し、これにより使用者HBの接近を検知する。使用者HBの接近を検知すると、制御部300aは第二検知状態に切り替わる。その後、高い増幅率によってドップラー信号を増幅し、使用者HBの手の動きを検知しようとする。
尚、第二検知状態に切り替わると同時に、送信アンテナ220からマイクロ波を送信する周期を、第一検知状態における周期よりも短くすることが望ましい。使用者HBが接近したときにのみマイクロ波の送信周期を高めることにより、消費電力を抑制しながら、使用者HBの手の動きを確実に検知することが可能となる。
第二検知状態において使用者HBの手の動きを検知すると、制御部300aが開閉弁100を開弁させ、スパウト400a(吐水部)からの水の吐出が開始される。
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。