発明の詳細な説明
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を、以下の付随の説明に示す。本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法および材料が、本発明の実施または試験において使用され得るが、好ましい方法および材料をここに記載する。本発明の他の特徴、目的および利点は、該説明から明らかとなろう。本明細書において、文脈から明白にそうでないことが示される場合以外は、単数形は複数も含む。特に記載のない限り、本明細書で用いる科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。矛盾する場合は、本発明の明細書に支配される。本明細書に挙げたすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる。
KX2−391およびその塩の調製
4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンの合成を以下のスキームに示す:
4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリン(5)を3工程で合成した。中間体2は、エーテルカップリング反応を用いて、例えば、ウィリアムソンエーテル合成を用いて合成した。4−(2−クロロエチル)モルホリン(1)と4−ブロモフェノール間のエーテル形成を、炭酸カリウムとDMFの存在下で行ない、4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリン(2)を得た。この反応に過酷な乾燥条件は必須ではなく、残留4−ブロモフェノール(あれば)の除去には、水酸化ナトリウムでの塩基性洗浄を使用した。本発明の別の態様において、中間体2は、任意のエーテル形成反応を用いて合成される。
中間体2は、任意の脱離基を含有する化合物1から出発して合成される。例えば、当業者の化学者であれば、一般式:
(式中、脱離基「LG」としては、限定されないが、ハロゲン(化合物1で示したもの)、トシル基、メシル基、トリフラートなどが挙げられる)の化合物を出発物質とするであろう。
化合物5は、スズキ反応を用いて形成した。ホウ酸アリールである6−フルオロピリジン−3−イル−3−ボロン酸(4)の形成は、n−BuLiを用いてアリールアニオンを形成した後、ホウ酸トリイソプロピルにより適所でクエンチングすることにより行なった(Liら、J.Org.Chem.2002年、67、5394−5397)。得られた6−フルオロピリジン−3−イル−3−ボロン酸(4)を4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリン(2)に、DMEと水性炭酸ナトリウムの溶液中で、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを用いてカップリングさせ、4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリン(5)を得、これを、シリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製した。当業者の化学者であれば、他の遷移金属カップリング反応を用いて化合物5が調製されることがわかるであろう。
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド二塩酸塩の合成を以下に示す:
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド二塩酸塩(KX2−391HC1)を4つの線形工程で合成した。4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリン(5)のフッ化物を、市販のΝaHMDSを用いて形成させたアセトニトリルの陰イオンで置き換えた。アセトニトリルを、化合物5と塩基の冷却混合物にゆっくりと添加すると、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリル(6)が形成された。本発明の別の態様において、中間体5は、フッ素以外の脱離基を有するものであり得る。したがって、一般式の化合物:
(式中、LGは、当業者の化学者にわかる他の脱離基を含む)
を得ようとするものであり得る。
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリル(6)の酸触媒型メタノール分解を、濃硫酸と発煙硫酸の混合物を用いて行なった。発煙硫酸の使用によって反応混合物から残留水が除去され、形成されるカルボン酸副生成物の量が減少した。温度を20℃より下に維持しながら、反応混合物を飽和重炭酸ナトリウムとジクロロメタンの溶液に添加することにより、反応混合物をクエンチさせた。カルボン酸混入物(あれば)は、水性調製物で容易に除去された。本発明の別の態様において、当業者により、化合物7を得るための化合物6のニトリルの加アルコール分解には他の酸触媒型条件が使用される。
得られた2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチル(7)とベンジルアミンを、アニソール中、高温でカップリングさせ、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド(KX2−391)を得た。無水エタノールに塩化アセチルを添加することにより形成されたHCl溶液をKX2−391に添加し、ビス−HCl塩、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド二塩酸塩、(KX2−ジ−HCl)を形成した。
KX2−391(KX2−391−MSA)のメシル酸塩の合成を以下のスキームに示す:
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシル酸塩(KX2−391・MSA)を、化合物5から初めて4つの線形工程で合成した。最初の3つの工程は、KX2−391・2HClについての上記の手順と同様にして行ない、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチル(KX2−391)を得た。アセトン中、50℃でメタンスルホン酸(MSA)での処理によってKX2−391をメタンスルホン酸塩に変換させ、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシル酸塩(KX2−391・MSA)を得た。
本発明の別の態様において、−C(O)OMe以外の基を有する中間体7が合成され得る。当業者の化学者であれば、一般式:
(式中、基「R」としては、限定されないが、水素およびアルキルが挙げられる)
の中間体化合物を得ようとするであろう。
一態様において、本発明は、
4−(2−クロロエチル)モルホリンを4−ブロモフェノールと反応させて4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンを得る工程;(2)4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンを6−フルオロピリジン−3−イル−3−ボロン酸とカップリングさせて4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンを得る工程;
4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンをアセトニトリルと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを得る工程;(4)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルに変換させる工程;および (5)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルをベンジルアミンと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドを得る工程
を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの調製方法に関する。
別の態様において、本発明は、(1)4−(2−クロロエチル)モルホリンを4−ブロモフェノールと反応させて4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンを得る工程;(2)4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンを6−フルオロピリジン−3−イル−3−ボロン酸とカップリングさせて4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンを得る工程;(3)4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンをアセトニトリルと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを得る工程;(4)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルに変換させる工程;(5)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルをベンジルアミンと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドを得る工程;および(6)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドをメタンスルホン酸と接触させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシラートを得る工程
を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシラートの調製方法に関する。
別の態様において、本発明は、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドをメタンスルホン酸と接触させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシラートを得る工程を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシラートの調製方法に関する。
別の態様において、本発明は、
(1)4−(2−クロロエチル)モルホリンを4−ブロモフェノールを反応させて4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンを得る工程;
(2)4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンを6−フルオロピリジン−3−イル−3−ボロン酸とカップリングさせて4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンを得る工程;
(3)4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンをアセトニトリルと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを得る工程;
(4)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルに変換させる工程;
(5)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルをベンジルアミンと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドを得る工程;および
(6)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドを塩酸と接触させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド二塩酸塩を得る工程を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド二塩酸塩の調製方法に関する。
別の態様において、本発明は、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドを塩酸と接触させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド二塩酸塩を得る工程を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド二塩酸塩の調製方法に関する。
別の態様において、本発明は、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルをベンジルアミンと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドを得る工程を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの調製方法に関する。
別の態様において、本発明は、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルに変換させる工程;および2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルをベンジルアミンと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドを得る工程を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの作製方法に関する。
別の態様において、本発明は、4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンをアセトニトリルと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを得る工程;2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルに変換させる工程;および2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルをベンジルアミンと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドを得る工程を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの作製方法に関する。
別の態様において、本発明は、4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンを6−フルオロピリジン−3−イル−3−ボロン酸とカップリングさせて4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンを得る工程;4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンをアセトニトリルと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを得る工程;2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルに変換させる工程;および2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルをベンジルアミンと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドを得る工程を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの作製方法に関する。
別の態様において、本発明は、4−(2−クロロエチル)モルホリンを4−ブロモフェノールと反応させて4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンを得る工程を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの調製方法に関する。
別の態様において、本発明は、4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンを6−フルオロピリジン−3−イル−3−ボロン酸とカップリングさせて4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンを得る工程を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの調製方法に関する。
別の態様において、本発明は、4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンをアセトニトリルと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを得る工程を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの調製方法に関する。
別の態様において、本発明は、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルに変換させる工程を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの調製方法に関する。
別の態様において、本発明は、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドをメタンスルホン酸と接触させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシラートを得る工程を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシラートを調製するための上記のKX2−391のための方法に関する。
別の態様において、本発明は、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドを塩酸と接触させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド二塩酸塩を得る工程を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド二塩酸塩を調製するための上記のKX2−391のための方法に関する。
組成物
本発明は、実質的に純粋な2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド(KX2−391)、およびその塩、溶媒和物、水和物、またはプロドラッグ:
に関する。化合物KX2−391に対する他の名称としては、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドおよびKX2−391遊離塩基が挙げられる。
本発明は、安全で簡単であり、KX2−391が大規模で(>100g)得られる、高純度のKX2−391(HPLCによる測定時、>98.0%)の合成のための組成物および方法に関する。好ましくは、この合成により該化合物f高収率で(>80%)で得られ、不純物は限定的である。
好ましい実施形態において、本発明の組成物中のKX2−391は、98%より高い純度を有する。例えば、本発明の組成物中のKX2−391の純度は、98.5%、99.0%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%または99.9%である。
好ましい実施形態において、本発明の組成物および製剤は、含まれる不純物が2%未満である。例えば、本発明の組成物および製剤は、含まれる以下の不純物:塩化エチル、エタノール、酢酸エチル、ヘプタン、アニソール、およびパラジウムのいずれか1種類またはその組合せが2%未満である。
一部の不純物は単位ppmで測定され、この単位は、溶質の重量/溶液の重量×1,000,000である相対重量測定値であり、例えば、塩化エチルの重量/KX2−391ジHCl試料の重量×1,000,000;例えば、塩化エチルの重量/KX2−391メシル酸塩試料の重量×1,000,000である。
他の好ましい実施形態において、該組成物は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー残留溶媒解析による測定時、含まれる塩化エチルが250ppmである。一実施形態において、本発明の化合物および製剤は、含まれる塩化エチルが約0ppm〜約250ppmの範囲(または前記範囲内の任意の値)である。例えば、該組成物は、含まれる塩化エチルが200ppm未満、200ppm未満、150ppm未満、100ppm未満、または50ppm未満である。
本発明の化合物および製剤は、含まれるパラジウムが約100ppm未満である。一実施形態において、本発明の化合物および製剤は、含まれるパラジウムが約0ppm〜約100ppmの範囲(または前記範囲内の任意の値)である。例えば、該組成物は、含まれるパラジウムが75ppm未満、50ppm未満、30ppm未満、20ppm未満、10ppm未満、または5ppm未満である。
一実施形態において、本発明の化合物および製剤は、含まれるエタノールが約0ppm〜約5000ppmの範囲(または前記範囲内の任意の値)である。例えば、該組成物は、含まれるエタノールが4500ppm未満、4000ppm未満、3500ppm未満、3000ppm未満、2500ppm未満、または2000ppm未満である。
一実施形態において、本発明の化合物および製剤は、含まれる酢酸エチルが約0ppm〜約50,000ppmの範囲(または前記範囲内の任意の値)である。例えば、該組成物は、含まれる酢酸エチルが48,000ppm未満、45,000ppm未満、40,000ppm未満、35,000ppm未満、30,000ppm未満、または25,000ppm未満である。
一実施形態において、本発明の化合物および製剤は、含まれるヘプタンが約0ppm〜約7,500ppmの範囲(または前記範囲内の任意の値)である。例えば、該組成物は、含まれるヘプタンが7,000ppm未満、6,500ppm未満、6,000ppm未満、5,000ppm未満、3,000ppm未満、または1,000ppm未満である。
一実施形態において、本発明の化合物および製剤は、含まれるアニソールが約0ppm〜約100ppmの範囲(または前記範囲内の任意の値)である。例えば、該組成物は、含まれるアニソールが80ppm未満、75ppm未満、50ppm未満、25ppm未満、10ppm未満、または5ppm未満である。
本発明は、KX2−391の実質的に純粋な溶媒和物を含む組成物に関する。
また、本発明は、KX2−391の実質的に純粋な水和物を含む組成物に関する。
また、本発明は、KX2−391の実質的に純粋な酸付加塩(例えば、塩酸塩)を含む。酸付加塩は、例えば、二塩酸塩であり得る。例えば、酸付加塩はメシル酸塩であり得る。
本発明は、KX2−391の実質的に純粋な酸付加塩を含む組成物に関する。
本発明は、KX2−391の実質的に純粋な塩酸塩を含む組成物に関する。本発明は、KX2−391の実質的に純粋な二塩酸塩を含む組成物に関する。
本発明は、KX2−391の実質的に純粋なメシル酸塩を含む組成物に関する。
また、本発明は、KX2−391のプロドラッグを含む。
また、本発明は、KX2−391の実質的に純粋な薬学的に許容され得る塩を含む。
また、本発明は、実質的に純粋なKX2−391またはその溶媒和物、水和物もしくは塩と、少なくとも1種類の薬学的に許容され得る賦形剤とを含む組成物に関する。
本発明は、実質的に純粋な2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド二塩酸塩:
本発明は、高純度のKX2−391・2HClまたはKX2−391・MSA(HPLCによる測定時、>98.0%)の合成のための組成物および方法であって、安全で簡単であり、それぞれKX2−391・2HClまたはKX2−391・MSAが、大規模で(>100g)高収率で(>80%)得られ、塩化エチルが限定的である(ヘッドスペースガスクロマトグラフィー残留溶媒解析による測定時の塩化エチルが<250ppm)方法に関する。
好ましい実施形態において、本発明の組成物中のKX2−391・2HClは、98%より高い純度を有する。例えば、本発明の組成物中のKX2−391・2HClの純度は、98.5%、99.0%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%または99.9%である。
好ましい実施形態において、本発明の組成物および製剤は、含まれる不純物が2%未満である。例えば、本発明の組成物および製剤は、含まれる以下の不純物:塩化エチル、エタノール、酢酸エチル、ヘプタン、アニソール、およびパラジウムのいずれか1種類またはその組合せが2%未満である。
他の好ましい実施形態において、該組成物は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー残留溶媒解析による測定時、含まれる塩化エチルが250ppmである。一実施形態において、本発明の化合物および製剤は、含まれる塩化エチルが約0ppm〜約250ppmの範囲(または前記範囲内の任意の値)である。例えば、該組成物は、含まれる塩化エチルが200ppm未満、200ppm未満、150ppm未満、100ppm未満、または50ppm未満である。
本発明の化合物および製剤は、含まれるパラジウムが約100ppm未満である。一実施形態において、本発明の化合物および製剤は、含まれるパラジウムが約0ppm〜約100ppmの範囲(または前記範囲内の任意の値)である。例えば、該組成物は、含まれるパラジウムが75ppm未満、50ppm未満、30ppm未満、20ppm未満、10ppm未満、または5ppm未満である。
また、本発明は、実質的に純粋なKX2−391・2HClおよび少なくとも1種類の薬学的に許容され得る賦形剤を含む組成物に関する。
本発明は、実質的に純粋な2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシル酸塩(KX2−391・MSA):
本発明は、安全で簡単であり、KX2−391・MSAが大規模で(>100g)高収率で(>80%)で得られ、塩化エチルが限定的である(ヘッドスペースガスクロマトグラフィー残留溶媒解析による測定時の塩化エチルが<250ppm)、高純度のKX2−391・MSA(HPLCによる測定時、>98.0%)の合成のための組成物および方法に関する。
好ましい実施形態において、本発明の組成物中のKX2−391・MSAは、98%より高い純度を有する。例えば、本発明の組成物中のKX2−391・MSAの純度は、98.5%、99.0%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%または99.9%である。
好ましい実施形態において、本発明の組成物および製剤は、含まれる不純物が2%未満である。例えば、本発明の組成物および製剤は、含まれる以下の不純物:塩化エチル、エタノール、酢酸エチル、ヘプタン、アニソール、およびパラジウムのいずれか1種類またはその組合せが2%未満である。
他の好ましい実施形態において、該組成物は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー残留溶媒解析による測定時、含まれる塩化エチルが250ppm未満である。一実施形態において、本発明の化合物および製剤は、含まれる塩化エチルが約0ppm〜約250ppmの範囲(または前記範囲内の任意の値)である。例えば、該組成物は、含まれる塩化エチルが200ppm未満、200ppm未満、150ppm未満、100ppm未満、または50ppm未満である。
本発明の化合物および製剤は、含まれるパラジウムが約100ppm未満である。一実施形態において、本発明の化合物および製剤は、含まれるパラジウムが約0ppm〜約100ppmの範囲(または前記範囲内の任意の値)である。例えば、該組成物は、含まれるパラジウムが75ppm未満、50ppm未満、30ppm未満、20ppm未満、10ppm未満、または5ppm未満である。
また、本発明は、実質的に純粋なKX2−391・MSAと、少なくとも1種類の薬学的に許容され得る賦形剤と、を含む組成物に関する。
本発明の特定のある化合物は、非ATP競合的キナーゼインヒビターである。
例えば、本発明の化合物は、微生物感染、例えば、細菌、真菌、寄生虫またはウイルス感染などを処置または予防するのに有用である。
本発明の特定のある医薬組成物は、実質的に純粋なKX2−391・2HClを含むものである。
本発明の化合物は、医薬用薬剤として使用される。例えば、本発明の化合物は、ヒトおよび/または動物を処置するため、例えば、ヒトおよび/または他の哺乳動物を処置するためなどの抗増殖剤として使用される。該化合物は、限定されないが、例えば、抗癌剤、抗新脈管形成剤、抗微生物剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗寄生虫剤および/または抗ウイルス剤として使用され得る。さらに、該化合物は、他の細胞増殖関連障害、例えば、糖尿病性網膜症、黄斑変性および乾癬などに使用され得る。抗癌剤としては、抗転移剤が挙げられる。
医薬用薬剤として使用される本発明の化合物は、例えば、実質的に純粋なKX2−391、KX2−391・2HCl、またはKX2−391・MSAであり得る。
本発明は、含まれる不純物が限定的である組成物および製剤を提供する。本発明の化合物および製剤は、当該技術分野で知られた方法(例えば、HPLC)によって測定したとき、約98.0%より高い純度を有する。一実施形態において、本発明の化合物および製剤は、約99.0%〜約100%(または前記範囲内の任意の値)の範囲の純度を有する。例えば、かかる化合物、組成物、または製剤は、98.1%、98.2%、98.3%、98.4%、98.5%、98.6%、98.7%、98.8%、98.9%、99.0%、99.1%、99.2%、99.3、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の純度を有するものであり得る。
本発明の組成物および製剤の最大の薬力学的効果および治療効果を誘発するためには、塩化エチルおよびパラジウムなどの不純物のレベルを抑制することが有益である。このような不純物は、望ましくない毒性をもたらすことがあり得る。
好ましい実施形態において、本発明の組成物および製剤は、含まれる不純物が2%未満である。例えば、本発明の組成物および製剤は、含まれる以下の不純物:塩化エチル、エタノール、酢酸エチル、ヘプタン、アニソール、およびパラジウムのいずれか1種類またはその組合せが2%未満である。
他の好ましい実施形態において、該組成物は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー残留溶媒解析による測定時、含まれる塩化エチルが250ppmである。一実施形態において、本発明の化合物および製剤は、含まれる塩化エチルが約0ppm〜約250ppmの範囲(または前記範囲内の任意の値)である。例えば、該組成物は、含まれる塩化エチルが200ppm未満、200ppm未満、150ppm未満、100ppm未満、または50ppm未満である。
本発明の化合物および製剤は、含まれるパラジウムが約100ppmである。一実施形態において、本発明の化合物および製剤は、含まれるパラジウムが約0ppm〜約100ppmの範囲(または前記範囲内の任意の値)である。例えば、該組成物は、含まれるパラジウムが75ppm未満、50ppm未満、30ppm未満、20ppm未満、10ppm未満、または5ppm未満である。
使用方法
キナーゼは、多種多様な通常の細胞内シグナル伝達経路(例えば、細胞の成長、分化、生存、接着、遊走など)の調節に関与しているため、キナーゼは、さまざまな疾患および障害において役割を果たしていると考えられている。したがって、キナーゼシグナル伝達カスケードのモジュレーションは、かかる疾患および障害を処置または予防するための重要な方法であり得る。かかる疾患および障害としては、例えば、癌、骨粗鬆症、心血管障害、免疫系機能不全、II型糖尿病、肥満、および移植片拒絶が挙げられる。
本発明の化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの成分のモジュレーションに有用である。一部の化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1種類より多くの成分のモジュレーションに有用であり得る。語句「プロテインキナーゼシグナル伝達カスケードの1種類以上の成分を調節する」は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1種類以上の成分が、細胞の機能発揮が変化するように影響されることを意味する。プロテインキナーゼシグナル伝達カスケードの成分としては、キナーゼシグナル伝達経路に直接または間接的に関与している任意のタンパク質、例えば、セカンドメッセンジャーならびに上流および下流の標的が挙げられる。
いくつかのプロテインキナーゼおよびホスファターゼが知られており、治療剤の開発の標的である。例えば、HidakaおよびKobayashi、Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol、1992年、32:377−397;Daviesら、Biochem.J.、2000年、351:95−105(これらは各々、引用により本明細書に組み込まれる)を参照のこと。
キナーゼファミリーの1つであるプロテインチロシンキナーゼは、大きな2つのファミリー:受容体チロシンキナーゼ、またはRTK(例えば、インスリン受容体キナーゼ(ERK)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、塩基性線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR−2もしくはFlk1/KDR)、および神経発育因子受容体(NGFR))と、非受容体チロシンキナーゼ、またはNRTK(例えば、Srcファミリー(Src、Fyn、Yes、Blk、Yrk、Fgr、Hck、Lck、およびLyn)、Fak、Jak、AblおよびZap70)に分けられる。例えば、ParangおよびSun、Expert Opin.Ther.Patents、2005年、15:1183−1207(引用により本明細書に組み込まれる)を参照のこと。
さまざまな癌におけるSrcキナーゼの役割のため、これらのキナーゼは、高度に転移性の癌細胞の成長などの癌治療剤としてのSrcインヒビターの開発に関するいくつかの研究の対象である。Srcインヒビターは、さまざまな癌、例えば、結腸癌、前癌性結腸病変、卵巣癌、乳癌、上皮癌、食道癌、非小細胞肺癌、膵臓癌などの治療剤として探求されている。例えば、Frame,Biochim.Biophys.Acta、2002年、1602:114−130ならびにParangおよびSun、Expert Opin.Ther.Patents、2005年、15:1183−1207を参照のこと。
他のキナーゼの阻害は、他の型の疾患および障害の処置およびモジュレーションに有用であり得る。例えば、種々の眼疾患は、VEGF受容体チロシンキナーゼインヒビターの投与によって抑制または予防され得る。チロシンホスファターゼPTP−1Bおよび/またはグリコーゲンホスホリラーゼのインヒビターは、II型糖尿病または肥満に対する処置をもたらすことがあり得る。p561ckのインヒビターは、免疫系障害の処置に有用であり得る。他の標的としては、HIV逆転写酵素、トロンボキサンシンターゼ、EGFRTK、p55 fynなどが挙げられる。
本発明の化合物は、Srcペプチド基質部位内に結合するSrcシグナル伝達インヒビターであり得る。本発明の種々の化合物の活性を、c−Src(527F、構成的に活性で形質転換性)形質転換NIH3T3細胞およびヒト結腸癌細胞(HT29)において試験した。例えば、これらの細胞株において、KX2−391は、既知のSrcタンパク質基質のリン酸化レベルを容量依存的様式で、増殖阻害効果と良好に相関して低減させることが示された。したがって、一部のある実施形態において、本発明の化合物は、Srcを直接阻害するものであり得、ペプチド結合部位に結合すること(アロステリック部位における結合とは反対)によりそのように阻害するものであり得る。
本発明の化合物がモデルSrc基質部位内に適合することを示す分子モデル設計実験を行なった(例えば、US特許第7,005,445号および同第7,070,936号を参照のこと)。また、他のキナーゼを標的化するため、単に、分子上に存在する異なる組の側鎖を使用すること、および/または主鎖自体を修飾することにより、モデル設計を用いてSrcキナーゼインヒビター主鎖を一新した。
理論に拘束されることを望まないが、細胞内では、多くのキナーゼが多タンパク質シグナル伝達複合体中に埋め込まれているので、細胞内における立体配座と比較して、ある種のキナーゼ(例えば、Src)の細胞外での立体配座は、著しく異なると考えられる。したがって、ペプチド基質結合部位は、単離されたキナーゼにおいて十分に形成されない(SrcのX線構造で示されるように)ため、ペプチド基質結合インヒビターについての単離されたキナーゼに対する活性は、弱いものと考えられる。単離されたキナーゼのアッセイにおけるこの部位に対する結合には、インヒビターが、細胞の内部に存在する立体配座と同じ立体配座である単離された酵素のアッセイにおいて、非常に低い割合の総タンパク質を捕捉することが必要である。このため、検出可能にするために、大過剰のインヒビターに、アッセイにおける触媒周期から大量の酵素を排出させることが必要になる。
しかしながら、細胞系アッセイに関して、ペプチド結合部位が形成されると予測されるため、大過剰のインヒビターは必要ではない。細胞系Srcアッセイにおいて、SH2およびSH3ドメイン結合タンパク質は、ペプチド基質結合部位が完全に形成されるように、すでにSrc立体配座に移行している。したがって、酵素のすべてが強固な結合立体配座にあるので、低濃度のインヒビターでも、触媒周期から酵素を除去することができる。
公知のキナーゼインヒビターの圧倒的多数が、ATP競合的であり、単離されたキナーゼのアッセイのパネルにおいて低い選択性を示す。しかしながら、本発明の化合物の多くは、ペプチド基質結合インヒビターであると考えられる。したがって、Srcのような単離された酵素に対する化合物の従来型の高機能スクリーニングでは、本発明の化合物を見つけ出すことはできない。
本発明の化合物は、キナーゼインヒビターであってもよい。本発明の化合物は、非ATP競合的キナーゼインヒビターであってもよい。本発明の化合物は、キナーゼを直接阻害し得、あるいはキナーゼの経路に影響を与え得る。一実施形態において、該化合物は、プロテインキナーゼシグナル伝達カスケードの1種類以上の成分を阻害する。別の実施形態において、該化合物は、アロステリックインヒビターである。別の実施形態において、該化合物は、ペプチド基質インヒビターである。別の実施形態において、該化合物は、プロテインキナーゼへのATPの結合を阻害しない。一実施形態において、該化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。別の実施形態において、Srcファミリープロテインキナーゼは、pp60c−srcチロシンキナーゼである。
本発明の化合物は、医薬用薬剤として、例えば、ヒトおよび動物を処置するための治療用薬剤として有用である。該化合物は、限定されないが、例えば、抗癌、抗新脈管形成剤、抗転移剤、抗微生物剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗寄生虫剤および/または抗ウィルス剤として使用され得る。
一実施形態において、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下的に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内または膀胱内注入によって、局所的、例えば、耳に液滴を投与することによって、動脈内に、病変内に、ポンプで計測することによって、あるいは粘膜に塗ることによって行なわれる。別の実施形態において、化合物は、薬学的に許容され得る担体とともに投与される。
癌
重大な毒性を引き起こすことのない癌治療の広範囲に有用な手法として、考慮すべき最近の文献がpp60c−src(Src)の標的化を支持している。例えば、増強されたEGF受容体型PTKシグナル伝達を示す、または関連Her−2/neu受容体を過剰発現する腫瘍は、恒常的にSrcを活性化し、腫瘍の侵襲性を増強している。これらの細胞におけるSrcの阻害は、増殖停止を引き起こし、アポトーシスを誘発し、形質転換された表現型を逆転させる(Karniら.(1999)Oncogene 18(33):4654−4662)。異常に高いSrc活性により、形質転換され細胞は、足場非依存性の形態で成長することが知られている。これは、明らかに、細胞外マトリックスシグナル伝達が、細胞分裂シグナル伝達を持つ配位形態であるFAK/Src経路中のSrc活性を上昇させ、それによって、通常であれば活性化されていたであろうアポトーシス機構を遮断するという事実によって引き起こされる。その結果、細胞外マトリックスが存在しない破壊時に通常であれば活性化し始めたであろうアポトーシス機構が引き起こされるであろうため、腫瘍細胞におけるFAK/Src阻害により、アポトーシスが引き起こされ得る(Hisanoら、Proc.Annu.Meet.Am.Assoc.Cancer Res.38:A1925(1997))。さらに、VEGF mRNA発現の減少が、Src阻害時に観察され、これらのSrc阻害細胞株から誘導された腫瘍は、血管形成発現の減少を示した。(Ellisら、Journal of Biological Chemistry 273(2):1052−1057(1998))。
Srcは、成長しつつあるヒトの腫瘍において過剰活性化することが見出されているので、癌治療のための「万能の」標的であると提案されてきた(Levitzki、Current Opinion in Cell Biology、8、239−244(1996);Levitzki、Anti−Cancer Drug Design、11、175−182(1996))。癌治療に関するSrc阻害の潜在的な利点は、自己分泌成長因子ループ型効果によって引き起こされる制御不可能な細胞増殖の4倍の阻害、細胞マトリックスが存在しない破壊時のアポトーシス誘発による転移の阻害、VEGFレベルの低下による腫瘍新脈管形成の阻害、および低毒性であると思われる。
前立腺癌細胞は、パキシリンおよびpl30casの両方を過剰発現し、過度にリン酸エステル化されていることが報告されており(Tremblayら、Int.J.Cancer、68、164−171,1996)、したがって、Srcインヒビターの主要な標的であり得る。
本発明は、実質的に純粋なKX2−391、あるいはその塩、溶媒和物、水和物またはプロドラッグと、少なくとも1種類の薬学的に許容され得る賦形剤とを含む医薬組成物を、それを必要とする被検体に投与することにより、細胞増殖障害を予防または処置する方法を含む。本発明は、実質的に純粋なKX2−391ビス−HClを含む。本発明は、実質的に純粋なKX2−391メシル酸塩を含む。
例えば、細胞増殖障害は、前癌または癌である。本発明の化合物により処置または予防される細胞増殖障害は、例えば結腸癌または肺癌のような癌であってもよい。本発明の化合物により処置または予防される細胞増殖障害は、過剰増殖性障害であってもよい。本発明の化合物により処置または予防される細胞増殖障害は、乾癬であってもよい。
増殖性障害の処置または予防は、チロシンキナーゼの阻害によって行ってもよい。例えば、該チロシンキナーゼは、Srcキナーゼまたは接着斑キナーゼ(FAK)であってもよい。
また、本発明は、被検体中の癌または増殖障害を処置または予防する方法であって、有効量の実質的に純粋なKX2−391、あるいはその塩、溶媒和物、水和物またはプロドラッグ、例えば、実質的に純粋なKX2−391、KX2−391・2HClまたはKX2−391・MSAを含む組成物を投与することを含む方法に関する。
聴覚障害
本明細書に記載するように、本発明の化合物を、被検体を難聴から保護する、あるいは被検体の難聴を予防するために使用してもよい。難聴から保護するために、騒音に曝される前に、または難聴を予防するか、もしくは難聴のレベルを低下させるために難聴を誘発する薬を投与する前に、該化合物を投与してもよい。難聴を誘発する薬として、化学療法剤(例えば、有毛細胞を標的とする白金系薬剤)およびアミノグリコシド系抗菌薬が挙げられる。本発明の化合物は、特定の制癌剤とともに相乗効果を発揮してもよい。例えば、特に、他の公知の抗癌薬との相乗効果を見つけ出すために、期待されるインヒビターを、原発ヒト腫瘍組織アッセイ(primary human tumor tissue assay)でスクリーニングすることができる。さらに、プロテインキナーゼインヒビターは、特定の制癌剤(例えば、蝸牛および腎臓に対して毒性のある白金系薬剤)の毒性を減らし、それによって投与量を増やすことができる。
あるいは、本発明の化合物を、被検体の難聴を処置するために使用してもよい。この実施形態では、該化合物を、難聴が始まった後で、被検体に投与し、難聴のレベルを低下させる。本発明の化合物は、キナーゼカスケードの調節に関与し、例えば、キナーゼインヒビター、非ATP競合的インヒビター、チロシンキナーゼインヒビター、Srcインヒビターまたは接着斑キナーゼ(FAK)モジュレーターである。理論に拘束されることを望まないが、キナーゼインヒビターの投与により、蝸牛有毛細胞のアポトーシスが阻止され、これによって難聴が防止されると考えられる。一実施形態では、さらなる難聴を予防するため、本発明の化合物を、難聴を患う被検体に投与する。別の実施形態では、なくした聴力を回復させるために、本発明の化合物を、難聴を患う被検体に投与する。特に、騒音に曝された後、蝸牛有毛細胞間の密接な細胞接合、および細胞と細胞外マトリックスとの相互作用は、分裂し、圧力を受けている。これらの密接な細胞接合への圧力付加により、チロシンキナーゼが分子スイッチとして働き、接着斑キナーゼと相互作用し、細胞−マトリックス分裂のシグナルを核に伝達する複合シグナル伝達経路によって、細胞中でアポトーシスが開始する。キナーゼインヒビターの投与により、このカスケードにおけるアポトーシスの開始が妨げられると考えられる。
騒音に曝された蝸牛管内でのアポトーシスの確認により、騒音性難聴(NIHL)を予防するためのいくつかの新しい可能性が生み出されている(Huら;2000、Acta. Otolaryngol.、120、19−24)。例えば、抗酸化剤を耳の正円窓に投与することにより、耳はNIHLから保護されうる(Hightら;2003、Hear.Res.、179、21−32;Huら;Hear.Res.113、198−206)。具体的には、チンチラにおいて、FDAに認可された抗酸化性化合物(N−L−アセチルシステイン(L−NAC)およびサリチル酸塩)を投与することにより、NIHLは軽減している(Kopkeら;2000、Hear.Res.、149、138−146)。さらに、Harrisらは、最近、Src−PTKインヒビターによるNIHLの予防について記載している(Harrisら;2005、Hear.Res.、208、14−25)。したがって、キナーゼの活性を調節する本発明の化合物の投与は、難聴を治療するのに有用であると仮定される。
細胞接着または細胞ストレスにおける変化は、インテグリンの活性化、およびチロシンキナーゼのSrcファミリーを始めとするPTKのリン酸化によって、さまざまなシグナルを活性化することができる。Src相互作用は、細胞骨格を修飾し、細胞生存および遺伝子転写を調節するさまざまなプロテインキナーゼカスケードを活性化するシグナル伝達経路に結びつけられてきた(GiancottiおよびRuoslahti;1999、Science、285、1028−1032で検討)。実際、最近の結果では、激しい騒音に曝された後、細胞ベースで切り離された外有毛細胞(OHC)が、アポトーシス細胞死を経たことが示されている。具体的には、Src PTKシグナル伝達カスケードは、蝸牛管の感覚細胞において、アポトーシスの代謝的および機械的の両方で誘発される阻害に関与していることが考えられる。最近の研究では、Srcインヒビターは、106dBで、4時間、4kHzオクターブバンドのノイズからの保護を提供し、これは、騒音に曝された後、外有毛細胞において、Src−PTKが活性化する可能性があることを示している(Harrisら、2005,Hear.Res.、208、14−25)。したがって、Srcの活性を調節する本発明の化合物は、難聴の処置に有用である。
本発明の別の態様は、被検体を難聴から保護する、または被検体の難聴を処置する方法であって、有効量の実質的に純粋なKX2−391、あるいはその塩、溶媒和物、水和物またはプロドラッグ、例えば、実質的に純粋なKX2−391、KX2−391・2HClまたはKX2−391・MSAを含む組成物を投与することを含む方法を含む。
一実施形態では、化合物は、難聴が始まる前に投与される。別の実施形態では、化合物は、難聴が始まった後に投与される。
一実施形態では、化合物は、難聴を引き起こす薬剤、例えば、シス白金またはアミノグリコシド系抗菌薬と組み合わせて投与される。別の実施形態では、化合物は、有毛細胞を標的にする薬と組み合わせて投与される。
骨粗鬆症
本発明は、被検体を骨粗鬆症から保護する、または被検体の骨粗鬆症を処置する方法に関する。この方法は、骨粗鬆症から保護するために、あるいは処置するために、有効量の本発明の化合物を、被検体に投与することを含む。骨粗鬆症から保護するために、化合物を、骨粗鬆症が発生する前に投与してもよい。あるいは、被検体の骨粗鬆症を処置するために、化合物を使用してもよい。一実施形態では、骨粗鬆症のレベルを低下させるために、化合物を骨粗鬆症が発生した後に被検体に投与する。
本発明の化合物は、例えば、非ATP競合的インヒビターであり得る。本発明の化合物は、選択された特定の側鎖および主鎖修飾に応じて、キナーゼシグナル伝達カスケードを調節することができる。本発明の化合物は、キナーゼインヒビターであり得る。例えば、化合物は、プロテインチロシンキナーゼ(PTK)インヒビターであり得る。高プロリンチロシンキナーゼ(PYK2;細胞接着キナーゼβ、関連接着焦点チロシンキナーゼ、またはカルシウム依存性チロシンキナーゼとしても知られる)、および接着斑キナーゼ(FAK)は、さまざまな細胞外刺激によって制御される非受容体プロテインチロシンキナーゼの異なるファミリーのメンバーである(Avrahamら、2000、Cell Signal、12、123−133;Schlaepferら、1999、Prog.Biophys.Mol.Biol.、71、435−478)。本発明の化合物は、Srcインヒビターであり得る。Src欠損症は、破骨細胞機能の喪失から、マウスにおける骨粗鬆症と関連することが示されている(Sorianoら、1991、Cell、64、693−702)。あるいは、本発明の化合物は、インターロイキン−1受容体関連キナーゼM(IRAK−M)の発現を調節することができる。IRAK−Mのないマウスは、重い骨粗鬆症を発症し、これは、破骨細胞の分化の促進、破骨細胞の半減期の増加、およびそれらの活性化と関連している(Hongmeiら;2005、J.Exp.Med.、201、1169−1177)。
多核破骨細胞は、単核食細胞の融合から生じ、骨の成長および骨の再吸収による再構築において大きな役割を果たす。破骨細胞は、多核の、ミネラル化マトリックスを劣化させる最終分化細胞である。正常な骨組織では、骨芽細胞による骨形成と、破骨細胞による骨再吸収との間のバランスが取れている。この動的で十分に制御されたプロセスのバランスが崩れた時、骨再吸収が骨形成を上回る可能性があり、結果として骨量の減少が生じる。破骨細胞は、骨の発達および再構築にとって必須であるため、それらの数および/または活性が増加すれば、全身性の骨減少に関連する疾患(例えば、骨粗鬆症)および局所的な骨減少に関連する他の疾患(例えば、リウマチ性関節炎、歯周病)が生じる。
破骨細胞および骨芽細胞は、両方とも、プロテインキナーゼに関係する多数の細胞シグナル伝達経路を支配する。破骨細胞の活性化は、骨への接着、細胞骨格再配列、密封ゾーンの形成、および極性化された波状膜の形成により開始される。プロテインチロシンキナーゼ2(PYK2)は、破骨細胞中の接着開始シグナル伝達によってチロシンリン酸化および活性化されるため、細胞表面から細胞骨格へのシグナルの伝達に関与すると考えられる(Duongら、1998、J.Clin.Invest.、102、881−892)。最近の証拠により、PYK2タンパク質レベルの低下は、インビトロでの破骨細胞形成および骨再吸収を阻害する結果となることが指摘されている(Duongら、2001、J.Bio.Chem.、276、7484−7492)。したがって、PYK2または他のプロテインチロシンキナーゼの阻害は、破骨細胞形成および骨再吸収を減少させることにより、骨粗鬆症のレベルを低下させ得る。したがって、理論に拘束されることは望まないが、本発明の化合物の投与により、キナーゼ(例えば、PTK)活性が調節され、したがって破骨細胞形成および/または骨再吸収が阻害され、これによって骨粗鬆症を処置することが仮定される。
Src欠損マウスの研究およびインビトロ細胞実験において確認されているように、Srcチロシンキナーゼは、骨疾患用の有望な治療標的として際立っており、骨破骨細胞(正)および骨芽細胞(負)の両方におけるSrcの調節的な役割が示唆される。破骨細胞において、Srcは、とりわけサイトカインにおける種々のシグナル伝達経路、およびインテグリンシグナル伝達を媒介することによって、運動性、極性化、生存、活性化(波状縁形成)および接着に重要な役割を果たす(ParangおよびSun;2005、Expert Opin.Ther.Patents、15、1183−1207)。さらに、マウス中のsrc遺伝子の標的破壊により、他の組織または細胞において何ら明らかな形態学的または機能的異常を示すことなく、骨再吸収の減少を特徴とする障害である骨化石症が誘発される(Sorianoら;1991、Cell、64、693−702)。src−/−マウスの大理石骨病表現型は、細胞自立的であり、通常は高いレベルのSrcタンパク質を発現する成熟した破骨細胞の欠損が原因である。(Horneら;1991、Cell、119、1003−1013)。Srcインヒビターは、破骨細胞の活性を誘発し骨芽細胞を阻害するSrcチロシンキナーゼの有効性を制限することにより、骨折を減らし、骨形成を促進すると考えられる。破骨細胞は、通常は高いレベルのSrcを発現するため、Srcキナーゼ活性の阻害は、骨粗鬆症の処置に有用であり得る(Missbachら;1999、Bone、24、437−449)。したがって、Srcの活性を調節する本発明のPTKインヒビターは、骨粗鬆症の処置において有用である。
例えば、マウスにおけるSrc遺伝子の欠損は、たった1つの欠点、すなわち、波状縁を形成できず、その結果として骨を再吸収しない破骨細胞を生じる。しかしながら、破骨細胞の骨再吸収機能は、これらのマウスにおいて、キナーゼ欠損Src遺伝子を挿入することによって、救済された(Schwartzbergら、(1997)Genes &
Development 11:2835−2844)。これは、Srcタンパク質の存在が、シグナル伝達複合体に不可欠な破骨細胞において、他のPTK(破骨細胞機能の維持に不可欠である)を補充し、活性化するのに明らかに十分であるから、Srcキナーゼ活性が、公知の毒性のみを誘発することなく、インビボで阻害することができることを示唆する。
本発明の別の態様は、被検体を骨粗鬆症から保護する、または被検体の骨粗鬆症を処置する方法であって、有効量の実質的に純粋なKX2−391、あるいはその塩、溶媒和物、水和物またはプロドラッグ、例えば、実質的に純粋なKX2−391、KX2−391・2HClまたはKX2−391・MSAを含む組成物を投与することを含む方法を含む。
一実施形態では、化合物は、骨粗鬆症の発症前に投与される。別の実施形態では、化合物は、骨粗鬆症の発症後に投与される。
肥満
本明細書に記載されるように、本発明の化合物を、被検体を肥満から保護する、または被検体の肥満を予防するために使用してもよい。肥満から保護するために、化合物は、被検体の肥満が発症する前に投与されていもよい。例えば、化合物は、体重増加を予防または低減させるために投与されてもよい。あるいは、化合物は、被検体の肥満を処置するために使用されてもよい。本発明の化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードのモジュレーションに関与し、例えば、キナーゼインヒビター、非ATP競合的インヒビター、チロシンキナーゼインヒビター、タンパク質チロシンホスファターゼインヒビター、またはタンパク質−チロシンホスファターゼ1Bインヒビターである。
肥満は、しばしば、糖尿病、および骨格筋、肝臓ならびに白色脂肪組織のようなインスリン応答組織におけるインスリン耐性の増加に関連する(Klamanら;2000、Mol.Cell.Biol、20、5479−5489)。インスリンは、グルコース恒常性、脂質代謝およびエネルギーバランスの調節において、重要な役割を果たす。インスリンシグナル伝達は、インスリンのインスリン受容体(IR)、すなわち受容体チロシンキナーゼへの結合によって開始される。インスリン結合は、複数のチロシル残基上でのIRの自己リン酸化から開始して、リン酸化事象のカスケードを誘起する。自己リン酸化は、IRキナーゼ活性を高め、下流でのシグナル伝達事象を誘起する。プロテインチロシンキナーゼの促進作用およびタンパク質チロシンホスファターゼの阻害効果により、インスリンの作用の大部分が規定される。適切なインスリンシグナル伝達により、血中グルコース濃度の大きな変動が最小化され、グルコースの細胞への十分な送達が確保される。インスリン刺激は、複数のチロシルリン酸化事象を引き起こすため、1種以上のタンパク質−チロシンホスファターゼ(PTP)の活性の増強は、肥満をもたらすおそれのあるインスリン耐性を生じ得る。実際、肥満を始めとするいくつかのインスリン耐性状態において、PTP活性の増加が報告されている(Ahmadら;1997、Metabolism、46、1140−1145)。したがって、理論に拘束されることを望まないが、本発明の化合物の投与により、キナーゼ(例えば、PTP)活性を調節し、これによって被検体の肥満を処置する。
インスリンシグナル伝達は、チロシンリン酸化によるIRの活性化で始まり、グルコース輸送体であるGLUT4によるグルコースの細胞への取り込みで終わる(SaltielおよびKahn;2001、Nature、414、799−806)。活性化されたIRは、次いで非活性化され、基礎状態に戻るはずである(タンパク質−チロシンホスファターゼ−1B(PTP−1B)が関与すると考えられるプロセス)(Ahmadら;1997、J.Biol.Chem.、270、20503−20508)。マウスにおいてPTP−1Bをコードする遺伝子の破壊により、インスリンに対して感受性になり、食餌性肥満に対する耐性が増加する(Elcheblyら;1999、Science、283、1544−1548;Klamanら;2000、Mol Cell.Biol、20、5479−5489)。PTP−1B欠損マウスにおける脂肪蓄積の減少は、脂肪細胞数を減らすことなく、脂肪細胞質量が著しく減少したことによるものであった(Klamanら、2000、Mol.Cell.Biol、20、5479−5489)。さらに、PTP−1B欠損マウスの痩せは、カップリングしていないタンパク質のmRNA発現の大きな変更なしに、基礎代謝率および総消費エネルギーの増加を伴った。PTP−1B遺伝子の破壊は、PTP−1Bの活性の変更により、インビボでのインスリンシグナル伝達および食餌性肥満を調節することができることを示した。したがって、理論に拘束されることを望まないが、インスリンシグナル伝達(例えば、PTP−1B活性)を調節する本発明の化合物の投与は、被検体の肥満の処置に有用である。
本発明の別の態様は、被検体を肥満から保護する、または肥満を処置する方法であって、有効量の実質的に純粋なKX2−391、あるいはその塩、溶媒和物、水和物またはプロドラッグ、例えば、実質的に純粋なKX2−391、KX2−391・2HClまたはKX2−391・MSAを含む組成物を投与することを含む方法を含む。
一実施形態では、化合物は、被検体が肥満になる前に投与される。別の実施形態では、化合物は、被検体が肥満になった後に投与される。
糖尿病
本明細書に記載するように、本発明の化合物を、被検体を糖尿病から保護するため、または糖尿病を予防するために使用してもよい。糖尿病から保護するために、化合物を、被検体において糖尿病が発病する前に投与してもよい。あるいは、化合物を、被検体の糖尿病を処置するために使用してもよい。本発明の化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードのモジュレーションに関与し得、例えば、キナーゼインヒビター、非ATP競合的インヒビター、チロシンキナーゼインヒビター、10番染色体におけるホスファターゼ・テンシン・ホモログ(PTEN)インヒビター、または配列相同性2−含有イノシトール5’−ホスファターゼ2(SHIP2)インヒビターである。
II型糖尿病(T2DM)は、調節不全のエネルギー代謝の障害である。エネルギー代謝は、ホルモンインスリン、すなわちタンパク質、炭水化物および脂質の合成および貯蔵を促進し、これらの分解を阻害し、循環系に復帰させる強力な同化薬によって主に制御される。インスリンの作用は、そのチロシンキナーゼ受容体への結合によって開始され、自己リン酸化およびキナーゼの触媒活性の増加を引き起こす(Pattiら、1998、J.Basic Clin.Physiol.Pharmacol.9、89−109)。チロシンリン酸化により、インスリン受容体基質(IRS)タンパク質は、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)のp85制御サブユニットと相互作用し、酵素の活性化、および細胞型に応じた特異的細胞内位置への標識化がもたらされる。酵素は、脂質生成物であるホスファチジルイノシトール−3,4,5−三リン酸エステル(PtdIns(3,4,5)P3)を産生し、これは、数多くのタンパク質の局在性および活性を制御する(Kidoら;2001、J.Clin.Endocrinol.Metab.、86、972−979)。PI3Kは、インスリン刺激グルコースの取り込みおよび貯蔵、脂肪分解の阻害、および肝臓遺伝子発現の調節に重要な役割を持つ(Saltielら;2001、Nature、414、799−806)。PI3Kの優性妨害形態の過剰発現は、グルコース取り込みおよびグルタミン酸輸送体4、GLUT4の細胞膜への転位を遮断する可能性がある(Quonら;1995、Mol.Cell.Biol、15、5403−5411)。したがって、キナーゼ(例えば、PI3K)活性を調節し、その結果グルコース取り込みを増加させる本発明の化合物の投与は、糖尿病の処置において有用である。
PTENは、多くの細胞型において、PI3Kシグナル伝達の主な調節因子であり、PI3K経路の抗アポトーシス、増殖および肥大活性の拮抗作用による腫瘍抑制因子として機能する(Goberdhanら;2003、Hum.Mol.Genet.、12、R239−R248;Leslieら;2004、J.Biochem.、382、1−11)。理論に拘束されることを望まないが、PTENは、PtdIns(3,4,5)P3分子の脱リン酸化によってPI3K経路を減弱させ、この重要な脂質セカンドメッセンジャーをPtdIns(4,5)P2に劣化させると考えられる。最近の研究では、短鎖干渉RNA(siRNA)を使用した内在性PTENタンパク質の50%の減少により、PtdIns(3,4,5)P3レベルにおけるインスリン依存性の増加およびグルコース取り込みが増強された(Tangら;2005、J.Biol.Chem.,280、22523−22529)。したがって、理論に拘束されることを望まないが、PTEN活性を調節し、したがってグルコース取り込みの増加をもたらす本発明の化合物の投与は、糖尿病の処置に有用であると仮定される。
また、PtdIns(3,4,5)P3レベルは、SRC相同性2(SH2)含有イノシトール5’−ホスファターゼ(SHIP)タンパク質のファミリー、すなわちSHIP1およびSHIP2によっても制御される(LazarおよびSaltiel;2006、Nature Reviews、5、333−342)。他のインスリン感受性組織の中でも骨格筋中で発現されたSHIP2は、PtdIns(3,4,5)P3のPtdIns(3,4)P2への変換を触媒する(Pesesseら;1997;Biochem Biophys.Res.Commun.、239、697−700;Backersら;2003、Adv.Enzyme Regul.、43、15−28;Chiら;2004、J.Biol Chem.、279、44987−44995;Sleemanら;2005、Nature Med.、11、199−205)。SHIP2の過剰発現により、インスリンで刺激されたPtdIns(3,4,5)P3のレベルが、SHIP2の提案された容量と調和して大幅に減少し、PI3Kの下流エフェクターの活性化が減弱する(Ishiharaら;1999、Biochem.Biophys.Res.Commun.、260、265−272)。したがって、理論に拘束されることを望まないが、SHIP2活性を調節し、したがってグルコース取り込みの増加をもたらす本発明の化合物の投与は、糖尿病の処置に有用であると仮定される。
本発明の別の態様は、被検体を糖尿病から保護する、または糖尿病を処置する方法であって、有効量の実質的に純粋なKX2−391、あるいはその塩、溶媒和物、水和物またはプロドラッグ、例えば、実質的に純粋なKX2−391、KX2−391・2HClまたはKX2−391・MSAを含む組成物を投与することを含む方法を含む。
一実施形態では、化合物は、糖尿病が発病する前に投与される。別の実施形態では、化合物は、疾患が発病した後に投与される。
眼の疾患
本明細書に記載するように、本発明の化合物を、被検体を眼(目)疾患から保護する、または眼疾患を予防するために使用してもよい。目疾患から保護するために、化合物を、被検体の目疾患の発症の前に投与してもよい。あるいは、化合物を、被検体の目疾患、例えば、黄斑変性、網膜症および黄斑浮腫を処置するために使用してもよい。本発明の化合物は、キナーゼカスケードの調整に関与し、例えば、キナーゼインヒビター、非ATP競合的インヒビター、チロシンキナーゼインヒビター、例えば血管内皮増殖因子(VEGF)受容体チロシンキナーゼインヒビターである。
生理学的に無血管の角膜の、視力を脅かす新血管形成が起こり得る。増殖性網膜症、主に糖尿病性網膜症および加齢性黄斑変性は、血管透過性の増加を特徴とし、網膜浮腫および網膜下液蓄積、ならびに出血を起こしがちな新しい血管の増殖をもたらす。血管形成、すなわち既存の毛細血管からの新しい血管の形成は、正常な発達と数多くの病理学的プロセスとの一体不可分な要素である。新脈管形成の複雑なカスケードの中心的メディエーターであり、重要な透過性因子であるVEGFは、新規な治療剤の魅力的な標的である。VEGは、2種の膜結合チロシンキナーゼ受容体、すなわちVEGFR−1およびVEGFR−2のリガンドである。リガンド結合は、VEGFRの二量化およびトランスリン酸化、それに続く細胞間チロシンキナーゼドメインの活性化を引き起こす。後に続く細胞内シグナル伝達軸(intracellular signaling axis)は、血管内皮の細胞増殖、遊走および生存を引き起こす。したがって、理論に拘束されることを望まないが、キナーゼ活性、例えば、チロシンキナーゼ活性を調節し、その結果として新脈管形成および/または新血管形成の阻害を引き起こす本発明の化合物の投与は、目疾患、例えば、黄斑変性、網膜症および/または黄斑浮腫の処置に有用であると仮定される。
黄斑変性は、VEGFに媒介された網膜漏出(血管透過性の増加)および目の裏側の小血管の異常な成長(新脈管形成)を特徴とする。VEGFは、糖尿病性網膜症および加齢性黄斑変性の両方の新生血管膜で確認され、この因子の眼内レベルは、糖尿病性網膜症における新血管形成の重症度と相関する(Kvantaら;1996、Invest.Ophthal.Vis.Sci、37、1929−1934.;Aielloら、1994、N.Engl.J.Med.、331、1480−1487)。これらのモデルでは、VEGFの治療的拮抗作用により、網膜および脈絡膜の両方の新血管形成が大きく阻害されるとともに、血管透過性が低下する結果となる(Aielloら;1995、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.、92、10457−10461;Krzystolikら;2002、Arch.Ophthal.、120、338−346;Qaumら;2001、Invest.Ophthal.Vis.Sci.、42、2408−2413)。したがって、理論に拘束されることを望まないが、VEGF活性を調節し、その結果として新脈管形成および/または新血管形成の阻害を引き起こす本発明の化合物の投与は、目疾患、例えば、黄斑変性、網膜症および/または黄斑浮腫の処置に有用であると仮定される。
本発明の別の態様は、眼疾患、例えば、黄斑変性、網膜症、黄斑浮腫などから被検体を保護する、またはこれらを処置する方法であって、有効量の実質的に純粋なKX2−391、あるいはその塩、溶媒和物、水和物またはプロドラッグ、例えば、実質的に純粋なKX2−391、KX2−391・2HC1またはKX2−391・MSAを含む組成物を投与るすことを含む方法を含む。
一実施形態において、化合物は、眼疾患の発症の前に投与される。別の実施形態において、化合物は、眼疾患の発症の後に投与される。
脳卒中
本発明の化合物は、脳卒中を患う危険性がある、脳卒中を患っている、あるいは脳卒中を患ったことがある被検体の脳卒中を処置、予防、緩和させる方法において使用される。本発明の化合物は、脳卒中後のリハビリテーションを受けている患者を処置する方法に有用である。
脳血管発作(CVA)としても知られる脳卒中は、急性神経性損傷であり、それによって脳の一部への血液供給が動脈の封鎖あるいは血管の破裂により妨溶媒られる。血液供給が妨溶媒られた脳の部分は、もはや血液によって運ばれる酸素および/または栄養を受け取れない。脳細胞は損なわれるか壊死し、これによって、脳のその部分の機能あるいはその部分からの機能が損なわれる。60〜90秒を超える間にわたって酸素が欠乏すると、脳組織は機能を停止し、数分後、該組織の死、すなわち梗塞を引き起こす可能性のある修復不可能な損傷を受ける。
脳卒中は、2種の主な型:虚血性脳卒中、すなわち脳に供給する血管の封鎖、および出血性脳卒中、すなわち脳内または脳周囲への出血に分類される。全脳卒中の大部分は、虚血性脳卒中である。虚血性脳卒中は、一般に、血栓性脳卒中、塞栓性脳卒中、全身性低灌流(分水嶺脳卒中)、または静脈血栓症に分けられる。血栓性脳卒中では、血栓形成プロセスが罹患した動脈内で発生し、血栓、すなわち血の塊が、徐々に動脈の内腔を狭め、これによって遠位の組織への血流が遮断される。このような血塊は、通常、動脈硬化プラークの周りに形成する。血栓性脳卒中には2つの種類があり、これらは血栓が形成される血管の種類に基づいて分類される。大血管血栓性脳卒中は、総頚動脈および内頚動脈、脊椎、およびウィリス動脈輪に関わる。小血管血栓性脳卒中は、脳内動脈、ウィリス動脈輪の枝、中大脳動脈基部、および遠位の椎骨動脈ならびに脳底動脈から始まる動脈に関わる。
血栓は、たとえ閉塞されなくても、もし血栓が破れたら、その点で血栓子になる、塞栓性脳卒中を引き起こす可能性がある。血栓子は、他の場所で発生した動脈血流中を移動する粒子または細片をいう。塞栓性脳卒中は、血栓子により、脳の一部への動脈による接近が封鎖されることをいう。血栓子は、血塊であることが多いが、アテローム性硬化血管から離れたプラーク、あるいは脂肪、空気、あるいは癌性細胞である場合もある数多くの他の物質である可能性もある。血栓子は他の場所で発生するので、局所的処置は、一時的に問題を解決するのみである。したがって、血栓子の原因を確認しなければならない。塞栓性脳卒中には4つの種類、すなわち公知の心臓性の原因であるもの、潜在的な心臓性または大動脈性の原因であるもの(経胸部または経食道エコー法から);動脈性の原因であるもの;および原因不明のものがある。
全身性低灌流は、体の全部分への血流の減少である。これは、最も一般的には心停止または心臓の不整脈、あるいは心筋梗塞、肺塞栓、心膜液貯留、または出血の結果としての血液排出量の減少による心拍出の不全により起こる。低酸素血症(すなわち、低血液酸素含量)により、急激に低灌流が起こり得る。血流の減少が全般的であるので、脳のすべての部分、とりわけ主大脳動脈によって供給される境界域である「分水嶺」範囲が影響を受ける。これらの範囲への血流は必ずしも停止せず、脳の損傷が起きた点への血流が減少し得る。
脳内の静脈は、血液を体に流し返すように機能する。静脈が血栓症のために閉塞すると、血液の流れは遮断され、血液は逆流し、脳浮腫を起こす。この脳浮腫は、虚血性および出血性脳卒中を引き起こし得る。これは、一般に、奇病である静脈洞血栓症において起こる。
脳卒中は、当該分野で公知のさまざまな技術の1つ以上、例えば、神経学的検査、血液検査、CTスキャン(コントラスト強調なしで)、MRIスキャン、ドップラー超音波検査および動脈造影(すなわち、放射線不透過性物質を血流に注射した後の、動脈のX線撮影)を使用して、被検体または患者において診断される。造影によって脳卒中が確認されれば、閉塞の周辺の原因があるか否か測定するために、種々の他の検査が行われる。このような検査として、例えば、頚動脈の超音波/ドップラー検査(頚動脈狭窄を検出するため);心電図(ECG)および心エコー(血流によって脳血管に広がり得る、心臓内の不整脈およびその結果としての血塊を確認するため);間欠型不整脈を確認するためのホルターモニター検査および脳血管の血管造影(出血が動脈瘤または動静脈の奇形に起因すると考えられる場合)が挙げられる。
脳卒中または脳卒中に伴う症状を処置、予防または緩和するこれらの方法において有用な化合物は、脳卒中の間または後にキナーゼシグナル伝達カスケードの進行を調節する化合物である。一部のある実施形態において、化合物は、キナーゼインヒビターである。例えば、化合物は、チロシンキナーゼインヒビターである。一実施形態では、チロシンキナーゼインヒビターは、Srcインヒビターである。例えば、本明細書に記載する脳卒中または脳卒中に伴う症状を処置、予防または緩和する方法において使用される化合物は、脳卒中の間または後のキナーゼシグナル伝達カスケードの進行のアロステリックインヒビターである。本明細書に記載する脳卒中または脳卒中に伴う症状を処置、予防または緩和する方法において使用される化合物は、脳卒中の間または後のキナーゼシグナル伝達カスケードの進行の非ATP競合的インヒビターであることが好ましい。
Src活性の阻害により、脳卒中の間、脳が保護されることが示されている(Paulら、Nature Medicine、vol.7(2):222−227(2001)参照、該文献は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)。虚血性損傷に応答して産生される血管内皮成長因子(VEGF)は、血管透過性を促進することが示されている。Srcキナーゼは、脳中のVEGF媒介VPを、次いで脳卒中を制御し、脳卒中前および後にSrcインヒビターを投与することにより、浮腫が減少し、脳灌流が改善され、損傷が起こった後の梗塞の体積が減少するということが研究によって示されている(Paulら、2001)。したがって、Src阻害は、脳卒中後の二次的な損傷の処置、治療および緩和にに有用であり得る。
本発明の化合物は、脳卒中に伴う症状を予防し、処置し、緩和する。脳卒中の症状として、とりわけ体の片側で起こる突然のしびれ感または脱力感;突然の錯乱、発話困難、会話理解の困難;片方または両方の目の突然の視覚困難;突然の歩行困難、めまい、あるいはバランスまたは運動協調の喪失;あるいは原因不明の突然の重い頭痛が挙げられる。
一般に、脳卒中には3つの治療段階、すなわち、予防、脳卒中直後の処置、および脳卒中後のリハビリテーションがある。最初の脳卒中または再発する脳卒中を予防する処置は、脳卒中の下に潜む危険因子、例えば、高血圧、高コレステロール値、心房細動および糖尿病の処置に基づく。急性の脳卒中処置では、虚血性脳卒中を引き起こす血塊を素早く溶解させること、あるいは出血性脳卒中の出血を止めることによって、脳卒中を止めるよう試みる。脳卒中後のリハビリテーションは、脳卒中の損傷に起因する身体障害を個人が克服するのを助ける。薬物療法や薬物治療は、脳卒中の最も一般的な処置である。脳卒中を予防または処置するために使用される最も一般的な種類の薬物は、抗血栓剤(例えば、抗血小板剤および抗凝固剤)および血栓溶解剤である。該化合物は、脳卒中を患う危険性がある、脳卒中を患っている、あるいは脳卒中を患ったことがある被検体に、脳卒中が発生する前、発生中または発生後、あるいはこれらの任意の組合せで投与される。本発明の化合物は、医薬組成物として単独で投与され、あるいは任意のさまざまな公知の処置、例えば、抗血小板薬物療法(例えば、アスピリン、クロピドグレル、ジピリダモール)、抗血液凝固薬(例えば、ワルファリン)、または血栓溶解薬物療法(例えば、組織プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)、レテプラーゼ、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、テネクテプラーゼ、ラノテプラーゼ、またはアニストレプラーゼと組み合わせて投与される。
本発明の別の態様は、被検体を脳卒中から保護する、または脳卒中を処置する方法であって、有効量の実質的に純粋なKX2−391、あるいはその塩、溶媒和物、水和物またはプロドラッグ、例えば、実質的に純粋なKX2−391、KX2−391・2HClまたはKX2−391・MSAを含む組成物を投与することを含む方法を含む。
一実施形態では、化合物は、脳卒中が起こる前に投与される。別の実施形態では、化合物は、脳卒中が起こった後に投与される。
アテローム性動脈硬化症
本発明の化合物は、アテローム性動脈硬化症を患う危険性のある、または患っている被検体において、該アテローム性動脈硬化症またはその症状を処置、予防または緩和する方法において使用される。
アテローム性動脈硬化症は、動脈の血管に影響を及ぼす疾患であって、通常、動脈の「硬化」と呼ばれる。アテローム性動脈硬化症は、動脈内の複数のプラークの形成に起因する。動脈硬化プラークは動脈拡張によって打ち消されるが、これは、最終的には、プラーク破裂または動脈の狭窄(すなわち、狭くなること)を引き起こし、それは次いで、該血管が血液を与える器官への血液供給が不足することになる。あるいは、打ち消される動脈拡張プロセスが過度であると、最終的に動脈瘤が起こる。これらの合併症は、慢性的で、ゆっくり進行し、累積する。最も一般的には、軟らかいプラークが突然破裂し、血液塊(すなわち、血栓)を形成し、急激に血流を遅くしたり止めたりし、それによって次いで該動脈から血液の供給を受けていた組織を死に至らしめる。この破局的な事象は、梗塞と呼ばれる。例えば、冠状動脈の冠状動脈血栓症は、一般に心臓発作として知られている心筋梗塞を引き起こす。心筋梗塞は、動脈硬化プラークがゆっくりと冠状動脈の内側に堆積し、次いで、突然破裂し、動脈全体を塞ぎ、下流方向への血流を阻止した時に起こる。
アテローム性動脈硬化症および急性心筋梗塞は、患者において、さまざまな臨床および/または実験室検査、たとえば、健康診断、放射線または超音波検査、および血液解析のいずれかを使用して診断される。例えば、医者または臨床医は、ブルイと呼ばれる異常なヒューという音を検出するために、被検体の動脈音を聞くことがある。ブルイは、罹患している動脈上に聴診器を当てることによって聞くことができる。これに代えて、またはこれに加えて、臨床医または内科医は、虚弱や欠如などの異常を見つけるため、例えば、脚部または足で脈拍を検査することができる。内科医または臨床医は、異常を検出するために、コレステロールレベルを検査する、またはクレアチンキナーゼ、トロポニンおよび乳酸デヒドロゲナーゼのような心臓の酵素レベルを検査する血液検査を行なってもよい。例えば、心筋に対して非常に特異的なトロポニンサブユニットIまたはTは、永続的な損傷が発生する前に上昇する。胸部疼痛中の陽性トロポニンは、近い将来、心筋梗塞が起こる可能性が高いことを正確に予測し得る。アテローム性動脈硬化および/または心筋梗塞を診断する他の検査として、例えば、被検体の心拍の速度および規則性を測定するEKG(心電図);足関節の血圧を上腕の血圧と比較する検査である足関節/上腕血圧指数を測定する胸部X線;動脈の超音波解析;対象となる範囲のCTスキャン;血管造影検査;運動ストレス検査、核心臓スキャンニング(nuclear heart scanning);および心臓の核磁気共鳴映像(MRI)およびポジトロン放射形断層撮影(PET)スキャンが挙げられる。
アテローム性動脈硬化症またはその症状を処置、予防または緩和するこれらの方法において有用な化合物は、アテローム性動脈硬化症の危険性がある、またはそれを患う患者のキナーゼシグナル伝達カスケードを調節する化合物である。一部のある実施形態では、化合物はキナーゼインヒビターである。例えば、化合物はチロシンキナーゼインヒビターである。一実施形態では、チロシンキナーゼインヒビターはSrcインヒビターである。本明細書に記載するアテローム性動脈硬化症およびその症状を、処置、予防または緩和する方法において使用される化合物は、アテローム性動脈硬化に関与するキナーゼシグナル伝達カスケードのアロステリックインヒビターであることが好ましい。本明細書に記載されるアテローム性動脈硬化症またはそれに伴う症状を処置、予防または緩和する方法において使用される化合物は、アテローム性動脈硬化に関与するキナーゼシグナル伝達カスケードの非ATP競合的インヒビターであることが好ましい。
Srcによる細胞内シグナル伝達は、血管透過性(VP)として知られる血管の透過性の増加において重要な役割を果たすと考えられる。例えば、心筋梗塞を始めとする虚血性損傷に応答して産生される血管内皮成長因子(VEGF)は、血管透過性を促進することが示されている。Srcキナーゼの阻害により、VEGF媒介VPが減少することが研究によって示されている(ParangおよびSun、Expert Opin.Ther.Patents、vol.15(9):1183−1206(2005)参照、この文献は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)。Srcインヒビターで処置されたマウスでは、心筋梗塞後の血管に対する外傷または損傷に伴う組織損傷が、処置されなかったマウスに比べて減少することが実証された(例えば、Chereshらによる米国特許公開公報第20040214836号および第20030130209号参照、これらの公報は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)。したがって、Srcの阻害は、例えば心筋梗塞のようなアテローム性動脈硬化による損傷後の二次的な損傷の予防、処置または緩和に有用であり得る。
アテローム性動脈硬化症は、一般に、動脈を大幅に狭くして血流を制限するまで、あるいは突然の閉塞を引き起こすまで、症状を示さない。症状は、プラークあるいは狭窄が起こっている部位、例えば、心臓、脳、他の生体臓器および脚、あるいは体のあらゆる部位などの部位による。アテローム性動脈硬化の初期症状は、体がより多くの酸素を必要とする時、たとえば運動中、人が心臓への酸素の欠乏のために胸部疼痛を感じる時(狭心症)、または脚への酸素の欠乏のために脚の痙攣を感じる時の疼痛または痙攣であり得る。脳へ血液を供給する動脈の狭窄は、めまいまたは一過性虚血性発作(TIA)を引き起こすことがあり、この場合、脳卒中の症状または徴候は、24時間間未満にわたって続く。典型的には、これらの症状は徐々に進行する。
心筋梗塞の症状は、さまざまな程度の胸部疼痛、違和感、発汗、脱力感、悪寒、嘔吐、および不整脈を特徴とし、意識の喪失を引き起こすこともある。胸部疼痛は急性心筋梗塞の最も一般的な症状であり、緊張感、圧迫感、圧搾感と説明されることが多い。疼痛は、あご、首、腕、背中およびみぞおちに広がる場合もあり、左腕または首に広がることが最も多い。心筋梗塞が30分を超えて続く場合、胸部疼痛がより起こりやすくなる。心筋梗塞を患う患者は、とりわけ、梗塞による心筋収縮力の低下が、胚うっ血または胚水腫すらも伴う左心室不全を起こすのに十分である場合、息切れ(呼吸困難)を示す場合がある。
本発明の化合物は、医薬組成物として単独で投与され、または任意のさまざまな公知のアテローム性動脈硬化の処置、例えば、コレステロール低下薬(例えば、スタチン類)、抗血小板薬物療法、または抗凝固薬と組み合わせて投与される。
本発明の別の態様は、被検体をアテローム性動脈硬化症から保護する、またはアテローム性動脈硬化症を処置する方法であって、有効量の実質的に純粋なKX2−391、あるいはその塩、溶媒和物、水和物またはプロドラッグ、例えば、実質的に純粋なKX2−391、KX2−391・2HClまたはKX2−391・MSAを含む組成物を投与することを含む方法を含む。一実施形態では、化合物は、アテローム性動脈硬化症の症状が発症する前に投与される。別の実施形態では、化合物は、アテローム性動脈硬化の症状の発症の後に投与される。
神経因性疼痛
本発明の化合物は、神経因性疼痛を患う危険性のある、患っている、または患ったことのある被検体における、慢性神経因性疼痛のような神経因性疼痛、またはその症状を処置、予防または緩和する方法において使用される。
神経痛としても知られる神経因性疼痛は、普通の侵害受容性疼痛とは質的に異なる。神経因性疼痛は、通常、常時の灼熱感および/または「チクチクする」感じおよび/または「感電」のような感じとして存在する。侵害受容性疼痛と神経因性疼痛との違いは、「通常の」侵害受容性疼痛が疼痛神経のみを刺激するのに対して、神経因性疼痛が、しばしば、同じ範囲の疼痛感覚神経および非疼痛感覚神経(例えば、触覚、温感、冷感に応答する神経)の両方を刺激し、それによって脊髄および脳が通常は受け取らないであろうシグナルを発生する結果となるという事実による。
神経因性疼痛は、通常、組織損傷を伴う複合的な慢性疼痛状態である。神経因性疼痛については、神経線維それ自体が損傷を受けたり、機能不全になったり、傷つくことがある。これらの損傷を受けた神経線維は、他の疼痛中枢に間違ったシグナルを送る。神経線維損傷の影響として、損傷部位および損傷の周りの範囲の両方での神経機能の変化が挙げられる。
神経因性疼痛は、当該技術分野で公知の1種以上のさまざまな実験室および/または臨床手法、例えば、健康診断を使用して、被検体または患者において診断される。
慢性神経因性疼痛のような神経因性疼痛、または神経因性疼痛に伴う症状を処置、予防または緩和する方法において有用な化合物は、神経因性疼痛に関与するキナーゼシグナル伝達カスケードを調節する化合物である。
c−Srcは、N−メチル−D−アスパラギン酸塩(NMDA)受容体の活性を調節することが示されている(Yuら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、vol.96:7697−7704(1999)参照、該文献は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)。PP2、すなわち低分子量Srcキナーゼインヒビターは、NMDA受容体であるNM2サブユニットのリン酸化を減少させることが研究によって示されている(Guoら、J.Neuro.、vol.22:6208−6217(2002)参照、該文献は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)。したがって、Src阻害(これはやがてNMDA受容体の活性を阻害する)は、慢性神経因性疼痛のような神経因性疼痛の予防、処置または緩和に有用であり得る。
本発明の化合物は、慢性神経因性疼痛のような神経因性疼痛、または神経因性疼痛に伴う症状を予防、処置または緩和する。神経因性疼痛の症状として、刺すような疼痛、焼け付くような疼痛、ピリピリ感およびしびれ感が挙げられる。
本発明の化合物は、医薬組成物として単独で投与され、あるいは任意のさまざまな公知の治療、例えば、鎮痛剤、オピオイド類、3環系抗うつ薬、抗痙攣薬およびセロトニンノルエピネフリン再取り込みインヒビターのいずれかと組み合わせて投与される。
一実施形態では、化合物は、慢性神経因性疼痛の発症前に投与される。別の実施形態では、化合物は、慢性神経因性疼痛の発症後に投与される。
B型肝炎
本発明の化合物は、B型肝炎を患う危険性のある、または患っている被検体において、B型肝炎またはその症状を処置、予防または緩和する方法において使用される。
ヘパドナウィルスファミリーのメンバーであるB型肝炎ウィルスは、1本鎖領域を持つ2本鎖DNAの形態のウィルスゲノムを含むタンパク質のコア粒子と、埋め込まれたタンパク質を持つ外側の脂質系包膜とで構成されている。包膜タンパク質は、ウィルス結合および感受性細胞への放出に関与する。内部カプシドはDNAゲノムを細胞の核に再配置し、そこでウィルスのmRNAは転写される。Xタンパク質をコードするトランスクリプトと共に、包膜タンパク質をコードする3種のサブゲノムトランスクリプトが作られる。第4のプレゲノムRNAが転写され、これはサイトゾルに輸送され、ウィルスポリメラーゼおよびコアタンパク質を翻訳する。ポリメラーゼおよび前ゲノムRNAは、コア粒子の凝集においてキャプシド形成され、そこで、前ゲノムRNAのゲノムDNAへの逆転写がポリメラーゼタンパク質により起こる。成熟コア粒子は、次いで、正常な分泌経路から細胞を出るが、その途中で包膜を獲得する。
B型肝炎は、逆転写を複製プロセスの一部として採用する数種の公知の非レトロウィルス性のウイルスの1種である。逆転写を使用する他のウィルスとして、例えば、HTLVまたはHIVが挙げられる。
HBV感染の間、宿主の免疫応答は、肝細胞性損傷およびウィルスクリアランスの両方の原因となる。先天性の免疫応答は、これらのプロセスにおいて重要な役割を果たさないが、適応免疫応答、特にウィルス特異的細胞障害性Tリンパ球(CTL)は、HBV感染に伴う肝臓損傷のほとんどすべての原因となる。感染細胞を殺し、HBVを生存肝細胞から追い出すことができる抗ウィルス性サイトカインを産生することによって、CTLもウィルスを排除する。肝臓損傷は、CTLによって開始され媒介されるが、抗原非特異的炎症性細胞は、CTL誘導免疫病理を悪化させ得、血小板は、CTLの肝臓への蓄積を促進し得る。
B型肝炎は、任意のさまざまな臨床および/または実験室試験、たとえば、健康診断、および血液または血清分析を使用して、患者において診断される。例えば、血液または血清を、宿主により産生されたウィルス抗原および/または抗体の存在に関して検査する。B型肝炎の一般的な試験では、B型肝炎表面抗原(HBsAg)の検出が、感染の存在をスクリーニングするため使用される。これは、このウィルス感染の間に現れる最初の検出可能なウィルス抗原であるが、この抗原は宿主によって排除されるため、感染の早い段階では存在しない場合があり、感染の後期の段階では検出不可能な場合がある。宿主が感染したままであるがウィルスをうまく排除しつつあるこの「窓」の間は、B型肝炎コア抗原に対するIgM抗体(抗HBc IGM)が、疾患の唯一の血清学的証拠であり得る。
HBsAgが現れたすぐ後、B型肝炎e抗原(HBeAg)と命名された別の抗原が現れる。従来、宿主の血清中のHBeAgの存在は、ウィルス複製の非常に高い速度と関係しているとされているが、B型肝炎ウィルスの変異体の中には、「e」抗原を全く産生しないものもある。感染の自然経過の間、HBeAgは排除され、「e」抗原(抗HBe)に対する抗体がその直後に生じる。この変換は、通常、ウィルス複製における劇的な減少に関係する。宿主が感染を排除できる場合、最終的にHBsAgは検出不可能になり、B型肝炎表面抗原(抗HB)に対する抗体が続く。HBsAgには陰性であるが、抗HBには陽性である人は、感染を排除したか、あるいは以前にワクチン接種を受けた人である。HBsAgに陽性である人の中には、ほとんどウィルス増殖のない人も多く、したがって、長期合併症または他人を感染させるおそれがほとんどない可能性がある。
B型肝炎またはその症状を処置、予防、または緩和するこれらの方法において有用な化合物は、B型肝炎を患う危険性のある、または患っている患者のキナーゼシグナル伝達カスケードを調節する化合物である。一部のある実施形態では、化合物はキナーゼインヒビターである。例えば、化合物はチロシンキナーゼインヒビターである。一実施形態では、チロシンキナーゼインヒビターはSrcインヒビターである。本明細書に記載するB型肝炎またはその症状を処置、予防または緩和する方法において使用される化合物は、B型肝炎に関与するキナーゼシグナル伝達カスケードのアロステリックインヒビターであることが好ましい。本明細書に記載されるB型肝炎またはB型肝炎に伴う症状を処置、予防、または緩和する方法において使用される化合物は、B型肝炎に関与するキナーゼシグナル伝達カスケードの非ATP競合的インヒビターであることが好ましい。
Srcは、B型肝炎ウィルスの複製においてある役割を果たす。ウィルスによってコードされた転写因子HBxは、HBVウィルスの伝播により必要とされる工程において、Srcを活性化する(例えば、Kleinら、EMBO J.、vol.18:5019−5027(1999);Kleinら、Mol.Cell.Biol.、vol.17:6427−6436(1997)を参照、これらの文献は、引用によりそれぞれその全体が本明細書に組み込まれる)。したがって、Src阻害(これは、次いでHBVウィルスのSrc媒介伝播を阻害する)は、B型肝炎またはその症状の処置、治療または緩和において有用であり得る。
本発明の化合物は、B型肝炎またはB型肝炎に伴う症状を予防。処置または緩和する。B型肝炎の症状は、典型的には、ウィルスへの曝露後30〜180日以内に発症する。しかしながら、B型肝炎ウィルスに感染したすべての人の半分までは症状を示さない。B型肝炎の症状は、インフルエンザと比較されることが多く、例えば、食欲の減退;疲労;吐き気および嘔吐、全身のかゆみ;肝臓の疼痛(例えば、腹部の右側、下部胸郭の下)、黄疸、および排泄機能の変化が挙げられる。
本発明の化合物は、医薬組成物として単独で投与され、または任意のさまざまな公知のB型肝炎処置、例えば、インターフェロンα、ラミブシン(エピビル−HBV)およびバラクルード(エンテカビル)と組み合わせて投与される。
本発明の別の態様は、被検体をB型肝炎から保護する、またはB型肝炎を処置する方法であって、有効量の実質的に純粋なKX2−391、あるいはその塩、溶媒和物、水和物またはプロドラッグ、例えば、実質的に純粋なKX2−391、KX2−391・2HClまたはKX2−391・MSAを含む組成物を投与することを含む方法を含む。
一実施形態では、化合物は被検体がB型肝炎に感染する前に投与される。別の実施形態では、化合物は被検体がB型肝炎に感染した後に投与される。
免疫系の活動の制御
本明細書に記載するように、本発明の化合物を、被検体の免疫系の活動を制御し、それによって自己免疫疾患、例えば、リウマチ性関節炎、多発性硬化症、敗血症および狼瘡、ならびに移植片拒絶およびアレルギー性疾患から保護する、またはこれらを予防するために使用してもよい。あるいは、化合物を、被検体の自己免疫疾患を処置するために使用してもよい。例えば、化合物は、症状の重症度の低下、または被検体の自己免疫疾患の切迫した進行の停止をもたらす。本発明の化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードのモジュレーションに関与し、例えば、キナーゼインヒビター、非ATP競合的インヒビター、チロシンキナーゼインヒビター、例えば、Srcインヒビター、p59fyn(Fyn)インヒビターまたはp561ck(Lck)インヒビターである。
自己免疫疾患は、適応免疫系が自己抗原に応答し、細胞および組織損傷を媒介するような、自己寛容の崩壊によって起こる疾患である。自己免疫疾患は、器官特異的(例えば、甲状腺炎または糖尿病)、または全身的(例えば、全身性エリテマトーデス)であり得る。T細胞は、適応免疫系における細胞媒介免疫応答を調節する。通常の状態では、T細胞は、自己主要組織適合性複合体分子に結合した異種タンパク質のペプチド断片を認識する抗原受容体(T細胞受容体)を発現する。T細胞受容体(TCR)による刺激後に最も早く認識され得る事象としては、、LckおよびFynの活性化が挙げられ、これらは、免疫受容体チロシン系活性化モチーフ内のチロシン残基上でのTCRのリン酸化をもたらす(Zamoyskaら,2003、Immunol.Rev.、191、107−118)。Lck(プロテインチロシンキナーゼのSrcファミリーのメンバー)のようなチロシンキナーゼは、ペプチドおよびタンパク質のチロシン残基をリン酸化することによって、細胞シグナル伝達および細胞増殖のモジュレーションにおいて重要な役割を果たす(Levitzki;2001、Top.Curr.Chem.、211、1−15;Longatiら;2001、Curr.Drug Targets、2、41−55;QianおよびWeiss;1997、Curr.Opin.Cell Biol、9、205−211)。したがって、理論に拘束されることを望まないが、チロシンキナーゼ(例えば、Src)活性を調節する本発明の化合物の投与は、自己免疫疾患の処置において有用であると仮定される。
チロシンキナーゼlckおよびfynは、両方ともTCR経路で活性化され、したがって、lckおよび/またはfynのインヒビターは、自己免疫剤として潜在的な有用性を有する(PalaciosおよびWeiss;2004、Oncogene、23、7990−8000)。LckおよびFynは、それらの寿命のほぼ全体を通して、主にT細胞によって発現される。T細胞の発生、恒常性および活性化におけるLckおよびFynの役割は、動物および細胞株の研究によって実証されている(ParangおよびSun;2005、Expert Opin.The.Patents、15、1183−1207)。Lckの活性化は、自己免疫疾患および移植片拒絶に関与している(Kamensら;2001、Curr.Opin.Investig.Drugs、2、1213−1219)。その結果は、lck(−)ジャーカット細胞株が、T細胞受容体の刺激に応答して、増殖し、サイトカインを産生し、細胞内カルシウム、リン酸イノシトール、およびチロシンリン酸化を増加させることができないことを示している(StrausおよびWeiss;1992、Cell.、70、585−593;Yamasakiら;1996、Mol. Cell.Biol、16、7151−7160)。したがって、lckを阻害する薬剤は、T細胞の機能を効果的に遮断し、免疫抑制剤として作用し、リウマチ性関節炎、多発性硬化症および狼瘡のような自己免疫疾患、ならびに移植片拒絶およびアレルギー性疾患の領域において潜在的な有用性がある(HankeおよびPollok;1995、Inflammation Res.、44、357−371)。したがって、理論に拘束されることを望まないが、プロテインチロシンキナーゼのSrcファミリーの1種以上のメンバー(例えば、lckおよび/またはfyn)を調節する本発明の化合物の投与は、自己免疫疾患の処置において有用であることが仮定される。
本発明の別の態様は、被検体の免疫系の活動を制御する方法であって、有効量の実質的に純粋なKX2−391、あるいはその塩、溶媒和物、水和物またはプロドラッグ、例えば、実質的に純粋なKX2−391、KX2−391・2HClまたはKX2−391・MSAを含む組成物を投与することを含む方法を含む。
定義
便宜上、本明細書、実施例および添付の請求項で使用される特定の用語をここに集める。
プロテインキナーゼは、ATPからタンパク質およびペプチド中のSer/ThrまたはTyrの側鎖にあるヒドロキシル基へのγ−リン酸塩の移行を触媒し、種々の重要な細胞機能(おそらく最も注目すべきはシグナル伝達、分化および増殖)の制御に密接に関与する酵素の大きな種類である。ヒトの体内には約2,000個の異なるプロテインキナーゼが存在し、これらはそれぞれ特定のタンパク質/ペプチド基質をリン酸化するが、これらの全てが高度に保存されたポケット内の同じ第2基質ATPと結合すると推定される。約50%の公知の癌原遺伝子産物は、プロテインチロシンキナーゼ(PTK)であり、それらのキナーゼ活性は、細胞の形質転換をもたらすことが示されている。
PTKは、2つのカテゴリー、すなわち膜受容体型PTK(例えば、成長因子受容体型PTK)と、非受容体型PTK(例えば、癌原遺伝子産物のSrcファミリーおよび接着斑キナーゼ(FAK))とに分類することができる。Srcの過剰活性化は、結腸、乳房、肺、膀胱および皮膚の癌を始めとする数々のヒト癌、ならびに胃癌、ヘアリーセル白血病および神経芽腫において報告されている。
「プロテインキナーゼシグナル伝達カスケードの1種類以上の成分を阻害する」は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1種類以上の成分を、細胞の機能が変化するように実施することを意味する。プロテインキナーゼシグナル伝達カスケードの成分として、セカンドメッセンジャーならびに上流および下流標的を含むキナーゼシグナル伝達経路に直接または間接的に関与する任意のタンパク質が挙げられる。
「処置すること」は、結果として状態、疾患、障害などの改善をもたらす任意の効果、例えば、和らげること、減らすこと、調節すること、または除くことを含む。疾患状態を「処置すること」または疾患状態の「処置」として、疾患状態を阻害すること、すなわち、疾患状態またはその臨床的症状の進行を止めること、あるいは疾患状態を和らげること、すなわち、疾患状態またはその臨床的症状の一時的または永久的な退行を引き起こすことが挙げられる。
疾患状態を「予防すること」は、疾患状態に曝された、または疾患状態になりやすいが、まだ疾患状態の症状を経験していない、または該症状が現れていない被検体において、疾患状態の臨床的症状が発症しないようにすることを含む。
「疾患状態」は、任意の疾患、障害、状態、症状、または徴候を意味する。
本明細書で用いる場合、用語「細胞増殖障害」は、未制御のおよび/または異常な細胞増殖により、癌性または非癌性状態であり得る状態、例えば乾癬状態のような望ましくない状態または疾患の発生がもたらされ得る状態をいう。本明細書で使用される用語「乾癬状態」または「乾癬症」は、ケラチン細胞過剰増殖、炎症性細胞の浸潤、およびサイトカイン変性を含む障害をいう。
一実施形態では、細胞増殖障害は癌である。本明細書で用いる場合、用語「癌」として、肺、乳房、結腸、卵巣、脳、肝臓、膵臓、前立腺の癌、悪性メラノーマ、非メラノーマ皮膚癌のような固形腫瘍、ならびに小児白血病およびリンパ腫のような血液腫瘍および/または悪性腫瘍、多発性骨髄腫、ホジキン病、リンパ球および皮膚が原因のリンパ腫、急性リンパ芽球性、急性骨髄性または慢性骨髄性白血病のような急性および慢性白血病、形質細胞腫瘍、リンパ系腫瘍およびAIDSに伴う癌が挙げられる。
乾癬性状態に加えて、本発明の組成物を使用して処置することができる増殖性疾患の種類として、流行性および類皮嚢胞、脂肪腫、腺腫、毛細血管および皮膚血管腫、リンパ管腫、母斑病変、奇形腫、腎腫瘍、筋線維腫症、骨形成腫瘍、および他の形成異常腫瘤などが挙げられる。増殖性疾患としては、形成異常および障害などが挙げられる。
「治療有効量」は、化合物が疾患の処置のために哺乳動物に投与された時、該疾患の処置を行うのに十分な量を意味する。一実施形態において、治療有効量は、疾患のレベルを低下させる、例えば難聴のレベルを低下させるように、哺乳動物に投与される。一実施形態において、治療有効量の化合物が投与される。別の実施形態では、治療有効量の組成物が投与される。「治療有効量」は、化合物、疾患およびその重症度、処置すべき哺乳動物の年齢、体重などに応じて変化する。
治療有効量の1種以上の化合物は、ヒトまたは動物に投与するために、薬学的に許容され得る担体とともに製剤化することができる。したがって、化合物または製剤を、例えば、経口、非経口または局所的な経路で投与し、治療有効量の化合物を提供することができる。代替的な実施形態において、本発明に従って製造された化合物は、医療器具、例えばステントを被覆または含浸するために使用することができる。
用語「予防有効量」は、投与されて疾患の予防を来たす本発明の化合物(1種類または複数種)の有効量を意味する。一実施形態においては、予防有効量の化合物が投与される。別の実施形態においては、予防有効量の組成物が投与される。
本明細書で使用される「薬理学的効果」は、意図する治療目的を達成する、被検体において生み出される効果を包含する。一実施形態において、薬理学的効果は、処置されている被検体の主な徴候が、予防され、緩和され、または減らされることを意味する。例えば、薬理学的効果は、処置される被検体において、主な徴候の予防、緩和、または減少をもたらすことである。別の実施形態において、薬理学的効果は、処置を受けている被検体の障害または主な徴候の症状が、予防、緩和または減らされることを意味する。例えば、薬理学的効果は、処置される被検体において、主な徴候の予防または減少をもたらすことである。
窒素を含む本発明の化合物は、酸化剤(例えば、3−クロロペルオキシ安息香酸(m−CPBA)および/または過酸化水素)で処理することによって、N−酸化物に変換させ、本発明の他の化合物を生じさせることができる。したがって、示され、および特許請求されているすべての窒素含有化合物は、原子価および構造が許す場合、示された化合物と、そのN−酸化物誘導体(N→OまたはN+−O−と示すことができる)の両方を含むと考えられる。さらに、他の場合、本発明の化合物の窒素を、N−ヒドロキシまたはN−アルコキシ化合物に変換させることもできる。例えば、N−ヒドロキシ化合物は、親アミンを、m−CPBAのような酸化剤で酸化することによって製造することができる。示され、および特許請求されているすべての窒素含有化合物は、原子価および構造が許す場合、示された化合物と、そのN−ヒドロキシ(例えばN−OH)およびN−アルコキシ(例えばN−OR(式中、Rは、置換または非置換C1−6アルキル、C1−6アルケニル、C1−6アルキニル、C3−14炭素環、または3〜14員複素環))誘導体の両方をも包含すると考えられる。
「対イオン」は、小さな、負に帯電した種、たとえば、塩化物、臭化物、水酸化物、酢酸塩および硫酸塩を表わすために使用される。
本明細書で使用される「陰イオン基」は、生理学的pHで負に帯電した基をいう。陰イオン基として、カルボン酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、スルフィン酸塩、スルファミン酸塩、テトラゾリル、リン酸塩、ホスホン酸塩、ホスフィン酸塩またはチオリン酸塩、あるいはこれらの機能的等価物が挙げられる。陰イオン基の「機能的等価物」は、生物学的等価体、例えば、カルボキシレート基の生物学的等価体を含むものである。生物学的等価体は、古典的な生物学的生物学的等価体等価物および非古典的生物学的等価体等価物を包含する。古典的および非古典的生物学的等価体は、当該技術分野で公知である(例えば、Silverman、R.B.The Organic Chemistry of Drug Design and Drug Action、Academic Press,Inc.:San Diego、Calif.、1992、pp.19−23参照)。一実施形態において、陰イオン基はカルボキシレートである。
本発明は、本化合物に存在する原子のすべての同位体を含むものである。同位体は、同じ原子番号を持つが、異なる質量数を持つ原子を含む。一般例であって限定ではないが、水素の同位体として、三重水素および二重水素、炭素の同位体として、C−13およびC−14が挙げられる。
本明細書に記載された化合物は、不斉中心を持つものもある。非対称的に置換された原子を含む本発明の化合物は、光学的に活性な形態またはラセミ形態で単離され得る。たとえば、ラセミ形態の分割または光学的に活性な出発物質からの合成によって光学的に活性な形態を製造する方法は、当該技術分野で周知である。C=N二重結合などのオレフィン類の多くの幾何異性体も、本明細書に記載する化合物の中に存在する可能性があり、そのような安定な異性体はすべて、本明細書で意図されるものである。本発明の化合物のシスおよびトランス幾何異性体が、異性体の混合物として、または分離された異性体の形態として記載され、単離され得る。特定の立体化学または異性体形態が具体的に示されていない限り、構造体のすべてのキラル、ジアステレオマー、ラセミおよび幾何異性体形態が意図される。示され、または記載されている化合物のすべての互変異性体も、本発明の一部と考えられる。
本明細書では、ある場合には便宜上、化合物の構造式は特定の異性体を表わすが、本発明は、構造的に起こる異性体、例えば幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、立体異性体、互変異性体などのようなすべての異性体、および異性体混合物を含み、便宜上の式の記載に限定されず、異性体のいずれか1つまたは混合物であってもよい。したがって、不斉炭素原子は、分子内に存在してもよく、光学的に活性な化合物およびラセミ化合物が本化合物中に存在し得るが、本発明は、これらに限定されることはなく、任意のものを含む。さらに、結晶多形も存在し得るが、限定的ではなく、あらゆる結晶形態は、単独であっても、結晶形混合物であっても、あるいは無水物または水和物であってもよい。そのうえ、本化合物のインビボでの分解によって産生するいわゆる代謝物も、本発明の範囲内に含まれる。
「異性」は、同じ分子式を持つが、性質、またはそれらの原子の結合の順序、あるいは空間におけるそれらの原子の配置が異なる化合物を意味する。空間におけるそれらの原子の配置が異なる異性体は、「立体異性体」と呼ばれる。互いに対する鏡像体ではない立体異性体は、「ジアステレオ異性体」と呼ばれ、重なり合わない鏡像体である立体異性体は、「エナンチオマー」と呼ばれ、あるいは光学異性体と呼ばれることもある。4個の同じではない置換基に結合する炭素原子は、「キラル中心」と呼ばれる。
「キラル異性体」は、少なくとも1個のキラル中心を持つ化合物を意味する。キラル異性体は、逆のキラリティーの2個のエナンチオマー形態を持ち、個々のエナンチオマーとして、またはエナンチオマーの混合物として存在し得る。同量の逆のキラリティーを持つ個々のエナンチオマー形態を含む混合物を、「ラセミ混合物」と呼ぶ。複数のキラル中心を持つ化合物は、2n−1個のエナンチオマーペアを持ち、ここで、nはキラル中心の数である。複数のキラル中心を持つ化合物は、個々のジアステレオマーとして、あるいは「ジアステレオマー混合物」と呼ばれるジアステレオマーの混合物として存在することができる。1個のキラル中心が存在する場合、立体異性体は、そのキラル中心の絶対配置(RまたはS)を特徴とし得る。絶対配置は、キラル中心に結合する置換基の空間配置をいう。検討されているキラル中心に結合する置換基は、Cahn、IngoldおよびPrelogの順位規則に従ってランクを付けられる(Cahnら、Angew.Chem.Inter.Edit.1966、5、385;errata511;Cahnら、Angew.Chem.1966、78、413;CahnおよびIngold、J.Chem.Soc.1951(London)、612;Cahnら、Experientia 1956、12、81;Cahn、J.、Chem.Educ.1964、41、116)。
「幾何異性体」は、二重結合の束縛回転によって存在するジアステレオマーを意味する。このような配置は、Cahn−Ingold−Prelog規則に従い、基が分子中の二重結合の同じ側あるいは反対側にあることを示す接頭辞であるシスおよびトランス、またはZおよびEによって、それらの名前で区別される。
さらに、本願で検討する構造および他の化合物は、それらのアトロプ異性体のすべてを含む。「アトロプ異性体」は、2個の異性体の原子が、空間的に異なって配列されている立体異性体の一種である。アトロプ異性体は、中心結合の周囲の大きな基の束縛回転によって起こる制限された回転によって存在する。かかるアトロプ異性体は、通常、混合物として存在するが、クロマトグラフィー手法の最近の進歩の結果、選択された場合に、2種のアトロプ異性体の混合物を分離することが可能である。
用語「結晶多形体」または「多形体」または「結晶形態」は、化合物(あるいはその塩または溶媒和物)が、すべて同じ元素組成を持つ、異なる結晶充填配置で結晶化し得る結晶構造を意味する。異なる結晶形態は、通常、異なるX線回析パターン、赤外線スペクトル、融点、密度、硬度、結晶形、光学特性および電気特性、安定性および溶解性を持つ。再結晶化溶媒、結晶化速度、貯蔵温度および他の要因によって、1種の結晶形態が優勢になることもある。化合物の結晶多形体は、異なる条件下での晶出により製造することができる。
さらに、本発明の化合物、例えば該化合物の塩は、水和物または非水和物(無水物)形態として、あるいは他の溶媒分子との溶媒和物として存在することもできる。水和物の非限定的な例として、一水和物、二水和物などが挙げられる。溶媒和物の非限定的な例として、エタノール溶媒和物、アセトン溶媒和物などが挙げられる。
「溶媒和物」は、化学量論的な量、または非化学量論的な量の溶媒を含む溶媒付加形態を意味する。化合物の中には、結晶性固体の状態で一定のモル比の溶媒分子を閉じ込め、それによって溶媒和物を形成する傾向を持つものもある。溶媒が水であれば、形成された溶媒和物は水和物であり、溶媒がアルコールの場合は、形成された溶媒和物はアルコラートである。水和物は、1個以上の水の分子と、1個の物質とが組合わされて形成され、該水和物中では、水は、その分子状態をH2Oとして保ち、このような組合せは、1個以上の水和物を形成することができる。
「互変異性体」は、その構造は原子の配置において著しく異なるが、簡単で素早い平衡状態で存在する化合物をいう。本発明の化合物は、異なる互変異性体として示され得ると理解するべきである。また、化合物が互変異性体形態を持つ場合、互変異性体形態はすべて、本発明の範囲内に含まれ、化合物の命名によって、いかなる互変異性体形態も除外されることはないと理解するべきである。
本発明の化合物の中には、互変異性体形態で存在し得るものもある。互変異性体も本発明の範囲内に包含されることが意図される。
本発明の化合物、塩およびプロドラッグは、エノールおよびイミン形態、ケトおよびエナミン形態、およびこれらの幾何異性体および混合物を含む、数種の互変異性体形態で存在することができる。このような互変異性体形態はすべて、本発明の範囲内に含まれる。互変異性体は、互変異性体のセットの混合物として溶液中に存在する。固体形態の場合、通常1つの互変異性体が優勢である。たとえ1つの互変異性体しか記載されていないとしても、本発明は、本化合物のすべての互変異性体を含む。
互変異性体は、平衡状態で存在し、1つの異性体形態から別の形態に容易に変換される2つ以上の構造異性体の1つである。この反応は、隣接する共役二重結合の切替えと同時に、水素原子の形式的な移動を引き起こす。互変異性化が可能な溶液では、互変異性体の化学平衡が達成される。互変異性体の正確な比は、温度、溶媒およびpHを始めとするいくつかの要因によって決まる。互変異性化によって相互に変換可能な互変異性体の概念を、互変異性と呼ぶ。
可能な互変異性の種々の種類の中で、2種類が一般に観察される。ケト−エノール互変異性では、電子と水素原子とが同時に移行する。環−鎖互変異性は、グルコースによって示される。環−鎖互変異性は、糖鎖分子中のアルデヒド基(−CHO)を、同じ分子中のヒドロキシ基(−OH)と反応させた結果として生じ、環(環状)形態となる。
互変異性化は、塩基:1.脱プロトン化;2.非局在化アニオン(例えば、エノラート)の形成;3.アニオンの異なる位置でのプロトン化;酸:1.プロトン化;2.非局在化カチオンの形成;3.カチオンに隣接する異なる位置での脱プロトン化によって触媒される。
一般的な互変異性体ペアは、ケトン−エノール、アミド−ニトリル、ラクタム−ラクチム、複素環中の(例えば、核酸塩基であるグアニジン、チミンおよびシトシン中の)アミド−イミド酸互変異性、アミン−エナミンおよびエナミン−エナミンである。
したがって、他に示唆されない限り、不斉炭素原子から生じる異性体(例えば、すべてのエナンチオマーおよびジアステレオマー)は、本発明の範囲内に含まれると理解されるべきである。そのような異性体は、古典的な分離手法により、および立体化学的に制御された合成により、実質的に純粋な形態で得ることができる。さらに、本願で検討される構造体、他の化合物および部分も、それらの互変異性体をすべて含む。アルケン類は、適切な場合は、E幾何構造またはZ幾何構造のいずれかを含み得る。本発明の化合物は、立体異性体の形態で存在してもよく、したがって、個々の立体異性体または混合物として製造することができる。
「医薬組成物」は、開示した化合物を、被検体への投与に適切な形態で含む製剤である。一実施形態では、医薬組成物は、一括形態、または単位投薬形態である。組成物を単位投薬形態に製剤することは、投与の簡単さおよび投与量の統一の点で、有利であり得る。本明細書で使用される場合、単位投薬形態は、処置される被検体に単位投与量として適切な物理的に個別の単位をいい、各単位は、要求される医薬担体と一緒になって、所望の治療効果を生み出すように計算された所定の量の活性試薬を含む。本発明の単位投薬形態のための仕様は、活性試薬の固有の特徴および達成されるべき特定の治療効果、および個人の処置のためにそのような活性薬剤を配合する分野に固有の限定によって指示され、それらに直接依存する。
単位投薬形態は、さまざまな形態のどれでもよく、例えば、カプセル、IVバッグ、錠剤、噴霧吸入器具での1回の噴霧量、またはバイアルが挙げられる。組成物の単位用量における活性成分(例えば、開示した化合物、あるいはその塩、水和物、溶媒和物または異性体の製剤)の量は有効量であり、関与する特定の処置に応じて変化する。当業者は、患者の年齢および状態により、用量を恒常的に変化させる必要がある場合もあることを理解するであろう。また、用量は、投与経路にも依存する。さまざまな経路が意図され、経口、肺、直腸内、非経口、経皮、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、吸入、頬粘膜、舌下、胸膜内、クモ膜下、鼻腔内投与などが挙げられる。本発明の化合物の局所投与または経皮投与に関する投薬形態として、粉末剤、噴霧剤、軟膏剤、ペースト剤、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチおよび吸入剤が挙げられる。一実施形態において、活性化合物は、無菌状態で、薬学的に許容され得る担体、および任意の防腐剤、緩衝液、または必要とされる推進剤と混合される。
用語「フラッシュドース(flash dose)」は、投薬形態を素早く分散させる化合物製剤をいう。
用語「即時放出」は、化合物を投薬形態から一般に約60分間までの比較的短い時間で放出させることであると定義される。用語「制御放出」は、遅延放出、持続放出およびパルス放出を含むものと定義される。用語「パルス放出」は、投薬形態から薬物を相次いで放出することと定義される。用語「徐放性」または「持続放出」は、投薬形態から化合物を長時間連続して放出することと定義される。
「被検体」として、哺乳動物、例えば、ヒト、ペット動物(例えば、イヌ、ネコ、トリなど)、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ニワトリなど)および実験室動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、トリなど)が挙げられる。一実施形態において、被検体はヒトである。
本明細書で使用される場合、語句「薬学的に許容され得る」は、妥当な医学的範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー性応答あるいは他の問題または合併症を引き起こすことなく、妥当な利益/リスク比で、ヒトおよび動物の組織との接触に使用するのに適切である化合物、物質、組成物、担体および/または投薬形態をいう。
「薬学的に許容され得る賦形剤」は、一般に、安全で、非毒性で、生物学的にも他のことでも望ましくないことのない、医薬組成物を製造するのに有用な賦形剤を意味し、獣医学的用途およびヒト医薬用途に許容され得る賦形剤が挙げられる。本明細書および請求項で使用される場合、「薬学的に許容され得る賦形剤」として、そのような賦形剤の1種あるいは複数種が含まれる。
本発明の化合物は、さらに塩を形成することができる。また、これらの形態のすべては、特許請求された発明の範囲内に包含される。
化合物の「薬学的に許容され得る塩」は、薬学的に許容され得、親化合物の所望の薬理学的活性を有する塩を意味する。
本明細書で用いる場合、「薬学的に許容され得る塩」は、開示した化合物の誘導体であって、親化合物が、その酸または塩基塩を製造することによって変性された誘導体をいう。薬学的に許容され得る塩の例として、アミン類のような塩基性残基の鉱物または有機酸塩、カルボン酸のような酸性残基のアルカリまたは有機塩などが挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に許容され得る塩として、例えば、非毒性無機酸または有機酸から形成された親化合物の従来の非毒性塩または四級アンモニウム塩が挙げられる。例えば、そのような従来の非毒性塩として、2−アセトキシ安息香酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、酢酸、アスコルビン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、重炭酸、炭酸、クエン酸、エデト酸、エタンジスルホン酸、1,2−エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、グリコニルアルサニル(glycollyarsanilic)酸、ヘキシルレゾルシン酸(hexylresorcinic)、ヒドラバミン(hydrabamic)酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、ヒドロキシマレイン酸、ヒドロキシナフトエ酸、イセチオン酸、乳酸、ラクトビオン酸、ラウリルスルホン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ナプシル酸(napsylic)、硝酸、シュウ酸、パモ酸、パントテン酸、フェニル酢酸、リン酸、ポリガラクツロン酸、プロピオン酸、サリチル酸(salicyclic)、ステアリン酸、塩基性酢酸(subacetic)、コハク酸、スルファミン酸、スルファニル酸、硫酸、タンニン酸、酒石酸、トルエンスルホン酸、および通常得られるアミン酸、例えば、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、アルギニンなどから選択される無機酸および有機酸から誘導される塩が挙げられるが、これらに限定されない。
他の例として、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、ピルビン酸、マロン酸、3−(4−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、ケイ皮酸、4−クロロベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、4−トルエンスルホン酸、ショウノウスルホン酸、4−メチルビシクロ−[2.2.2]−オクタ−2−エン−1−カルボン酸、3−フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、ターシャリーブチル酢酸、ムコン酸などが挙げられる。また、本発明は、親化合物中に存在する酸性プロトンが、金属イオン、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類イオン、あるいはアンモニウムイオンと置き換わった時、あるいはエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N−メチルグルカミンなどのような有機塩基と配位した時に、形成される塩も包含する。
薬学的に許容され得る塩への言及はすべて、該塩の本明細書で規定した溶媒付加形態(溶媒和物)または結晶形態(多形体)も含むことを理解するべきである。
本発明の薬学的に許容され得る塩は、塩基性または酸性部分を含む親化合物から、従来の化学的方法により合成することができる。一般に、そのような塩は、これらの化合物の遊離酸または塩基形態を、化学量論的な量の適切な塩基または酸と、水または有機溶媒またはこれらの混合物中で反応させることにより製造することができ、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリルのような非水性溶媒を使用することができる。適切な塩の一覧は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18編(Mack Publishing Company、1990)に記載されている。例えば、塩として、本発明の脂肪族アミン含有化合物、ヒドロキシルアミン含有化合物、およびイミン含有化合物の塩酸塩および酢酸塩を挙げることができるが、これらに限定されない。
本発明の化合物は、プロドラッグ、例えば、薬学的に許容され得るプロドラッグとして製造することができる。用語「プロ−ドラッグ」および「プロドラッグ」は、本明細書では、相互互換的に使用され、インビボで活性な親薬を放出する任意の化合物をいう。プロドラッグは、医薬品の数多くの望ましい特性(例えば、溶解性、バイオアベイラビリティ、製造性など)を高めることが知られているので、本発明の化合物を、プロドラッグ形態として送達することができる。したがって、本発明は、今回特許請求する化合物のプロドラッグ、該プロドラッグを送達する方法、および該プロドラッグを含む組成物を包含することが意図される。「プロドラッグ」は、該プロドラッグが被検体に投与された時、本発明の活性な親薬をインビボで放出する、共有結合した任意の担体を含むことが意図される。本発明のプロドラッグは、化合物内に存在する官能基を、通常の操作あるいはインビボで変性物が親化合物に開裂するような方法で、変性することによって製造される。プロドラッグとして、ヒドロキシ、アミノ、スルフヒドリル、カルボキシまたはカルボニル基が任意の基に結合し、これがインビボで開裂して、それぞれ、遊離ヒドロキシル基、遊離アミノ基、遊離スルフヒドリル基、遊離カルボキシ基または遊離カルボニル基を形成するような、本発明の化合物が挙げられる。
プロドラッグの例として、ヒドロキシ官能基のエステル類(例えば、酢酸エステル、ジアルキルアミノアセテート、ギ酸エステル、リン酸エステル、硫酸エステル、および安息香酸エステル誘導体)およびカルバミン酸塩類(例えば、N,N−ジメチルアミノカルボニル)、カルボキシル官能基のエステル基(例えば、エチルエステル類、モルホリノエタノールエステル類)、N−アシル誘導体(例えば、N−アセチル)、N−マンニッヒ塩基、シッフ塩基およびアミノ官能基のエナミノン類、化合物中のケトンおよびアルデヒド官能基のオキシム類、アセタール類、ケタール類、およびエノールエステル類などが挙げられるが、これらに限定されない。Bundegaard,H.「Design of Prodrugs」p1−92、Elesevier、New York−Oxford(1985)参照。
「保護基」は、分子中の反応基に結合した時、その反応性をマスクする、減らすまたは抑制する原子の集団をいう。保護基の例は、GreenおよびWuts、Protective Groups in Organic Chemistry、(Wiley、第2版、1991);HarrisonおよびHarrisonら、Compendium of Synthetic Organic Methods、第1〜8巻(John Wiley and Sons、1971−1996);およびKocienski、Protecting Groups(Verlag、第3版、2003)に見出すことができる。
「安定な化合物」および「安定な構造体」は、反応混合物から有用な程度の純度への単離および効果的な治療用薬剤への製剤に持ちこたえるくらい十分に頑健な化合物を示す意味である。
本明細書において、単数形は、文脈から明らかにそうでないと指示されない限り、複数形も含む。他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、この発明が属する分野の当業者によって普通に理解されるのと同じ意味を持つ。矛盾がある場合は、本明細書が優先する。
本明細書で使用されるすべてのパーセンテージおよび割合は、他に指示がない限り、重量基準である。
「併用療法」(または「共治療」)は、本発明の化合物と、少なくとも第2の薬剤とを、これらの治療用薬剤の共同作用から有益な効果を得ることを意図した特定の治療レジメンの一部として投与することを含む。組合せの有益な効果として、治療用薬剤の組合せによって生じる薬物動力学的または薬力学的共同作用が挙げられるが、これらに限定されない。これらの組合せの治療用薬剤の投与は、通常、規定された時間(通常、選択された組合せに応じて、数分間、数時間、数日または数週間)行われる。「併用療法」は、一般的ではないが、偶発的におよび任意に本発明との組合せを生じる別々の単独治療レジメンの一部として、2種以上のこれらの治療用薬剤の投与も包含し得る。
「併用療法」は、これらの治療用薬剤を連続方式、すなわち、各治療用薬剤を異なる時間に投与することと、これらの治療用薬剤、または少なくとも2種の治療用薬剤を実質的に同時方式で投与することを包含するものである。実質的な同時投与は、例えば、被検体に、各治療用薬剤を決まった割合で有する単一のカプセル、または複数のそれぞれの治療用薬剤用のカプセルを投与することにより達成することができる。各治療用薬剤の連続的投与または実質的な同時投与は、任意の適切な経路、たとえば、経口経路、静脈内経路、筋肉内経路、および粘膜組織を介した直接吸収(これらに限定されない)によって行うことができる。治療用薬剤は、同じ経路によって、または異なる経路によって投与できる。例えば、選択された組合せの第1の治療用薬剤を、静脈内注射により投与し、該組合せのもう一方の治療用薬剤を、経口投与してもよい。あるいは、例えば、すべての治療用薬剤を経口投与してもよく、あるいはすべての治療用薬剤を静脈内注射によって投与してもよい。治療用薬剤が投与される順序は、それほど厳密ではない。
また、「併用療法」は、さらに、他の生物学的活性成分および非薬物治療(例えば、外科手術または放射線処置)と組み合わせて、上記の治療用薬剤を投与することも包含する。併用療法が、さらに非薬物処置を含む場合、該非薬物処置は、治療用薬剤と非薬物治療との組合せの共同作用から有益な効果が達成される限り、任意の適切な時間に行うことができる。例えば、適切な場合は、非薬物治療を一時的に、おそらく数日またはさらには数週間、治療用薬剤の投与から切り離した時でも、やはり有益な効果が達成される。
本開示を通して、組成物が、特性の成分を持つ、含有するまたは含むと記載されている場合、該組成物は、本質的に列挙された成分で構成される、または列挙された成分からなることも意図される。同様に、方法が、特定の処理工程を有する、含有するまたは含むと記載されている場合、該方法は、列挙された処理工程で本質的に構成される、または列挙された処理工程からなることも意図される。さらに、工程の順序またはある行為が行われる順序は、本発明が実施可能であれば、重要ではないことが理解されるべきである。さらに、2つ以上の工程または作用は、同時に行ってもよい。
該化合物、またはその薬学的に許容され得る塩は、経口的に、経鼻的に、経皮的に、経肺的に、吸入的に、経頬粘膜的に、舌下に、腹腔内に、皮下的に、筋肉内に、静脈内に、直腸内に、胸膜内に、クモ膜下に、および非経口的に投与される。一実施形態では、化合物は経口投与される。当業者は、特定の投与経路の利点を認識するであろう。
化合物を利用する投与量レジメンは、患者のタイプ、種、年齢、体重、性別および医療状態;処置すべき状態の重症度;投与経路;患者の腎機能および肝機能;および使用される特定の化合物またはその塩を始めとするさまざまな要素に応じて選択される。通常の技術を有する医者または獣医は、状態の進行を阻止し、反撃しまたは停止するのに必要とされる薬物の有効量を容易に決定、処方することができる。
開示した本発明の化合物の製剤および投与に関する技術は、Remington:the Science and Practice of Pharmacy、第19版、Mack Publishing Co.、Easton、PA(1995)に見出すことができる。一実施形態において、本明細書に記載する化合物、およびその薬学的に許容され得る塩は、薬学的に許容され得る担体または希釈剤と組み合わせて、医薬調製物中で使用される。適切な薬学的に許容され得る担体として、不活性固体充填剤または希釈剤、および無菌水溶液または有機溶液が挙げられる。該化合物は、前記医薬組成物中に、本明細書に記載する範囲内の所望の投与量を提供するのに十分な量で存在する。
一実施形態において、化合物は経口投与用に調製され、ここで開示した化合物またはその塩が、適切な固体または液体担体または希釈剤と混合され、カプセル、錠剤、ピル、粉末、シロップ、溶液または懸濁液などを形成する。
錠剤、ピル、カプセルなどは、約1〜約99重量%の活性成分と、トラガントガム、アカシア、トウモロコシデンプンまたはゼラチンのような結合剤;リン酸二カルシウムのような賦形剤;トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプンまたはアルギン酸のような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤および/またはサッカロース、ラクトース、サッカリン、キシリトールのような甘味剤などとを含む。単位投薬形態がカプセルの場合、先に記載した種類の物質に加えて、脂肪油のような液体担体を含むことが多い。
一部のある実施形態において、種々の他の物質は、被膜として、または用量単位の物理的な形態を変性するために存在する。たとえば、一部のある実施形態では、錠剤は、シェラック、糖またはその両方で被覆されている。一部のある実施形態では、シロップまたはエリキシルは、活性成分の他に、甘味剤としてサッカロース、防腐剤としてメチルパラベンおよびプロピルパラベン、着色剤、およびチェリーまたはオレンジフレーバーのような風味剤などを含む。
非経口投与に関する一部のある実施形態について、開示した化合物、あるいはその塩、溶媒和物、互変異性体または多形体は、無菌水性または有機媒体と組合せ、注射用溶液または懸濁液を形成することができる。一実施形態では、注射用組成物は、水性等張液または懸濁液である。組成物は、殺菌され、および/または防腐剤、安定化剤、湿潤剤または乳化剤のようなアジュバント、溶解促進剤、浸透圧を制御する塩および/または緩衝剤を含んでもよい。さらに、他の治療的に有益な物質を含んでもよい。組成物は、それぞれ、従来の混合、造粒または塗布方法に従って調製され、約0.1〜75%の活性成分を含み、別の実施形態では、該組成物は、約1〜50%の活性成分を含む。
例えば、注射用溶液を、ゴマ油またはピーナッツ油のような溶媒、水性プロピレングリコール、ならびに化合物の水溶性の薬学的に許容され得る塩の水溶液を使用して製造する。一部のある実施形態では、懸濁液を、油中のグリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびこれらの混合物中で製造する。通常の貯蔵および使用条件下では、これらの調製物は微生物の成長を阻止するための防腐剤を含む。本明細書で使用される用語「非経口投与」および「非経口的に投与された」は、経腸および局所投与以外の経路であって、通常は注射による経路を意味し、静脈内、筋肉内、動脈内、クモ膜下、関節内、眼窩内、心臓内、真皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、クモ膜下、脊髄内および胸骨内注射および点滴が挙げられるが、これらに限定されない。
直腸内投与に関し、適切な医薬組成物は、例えば、局所調製物、座薬剤または浣腸剤である。座薬剤は、有利には脂肪エマルジョンまたは懸濁液から調製される。組成物は、殺菌され、および/または防腐剤、安定化剤、湿潤剤または乳化剤のようなアジュバント、溶解促進剤、浸透圧を制御する塩および/または緩衝液を含んでもよい。さらに、他の治療的に有益な物質を含んでもよい。組成物は、それぞれ、従来の混合、造粒または塗布方法に従って調製され、約0.1〜75%の活性成分を含み、別の実施形態では、該組成物は、約1〜50%の活性成分を含む。
一部のある実施形態では、化合物は、活性な薬剤を肺投与によって、例えば、手動のポンプ噴霧器、ネブライザーまたは加圧計量投薬吸入器から選ばれる、活性薬剤を含むエアロゾルの投与によって送達するように製剤化される。一部のある実施形態では、このタイプの適切な製剤は、開示した化合物を効果的なエアロゾルとして保つために、帯電防止剤のような他の薬剤も含む。
エアロゾルを送達するための薬物送達デバイスは、記載した医薬エアロゾル製剤を含む、計測バルブを備えた適切なエアロゾル容器と、キャニスタを支え、薬物送達を可能にするために備えられたアクチュエータ筐体とを含む。薬物送達デバイスにおけるキャニスタは、該キャニスタの総容量の約15%を超えるヘッドスペースを持つ。肺投与向けのポリマーは、溶媒、表面活性剤および推進剤の混合物に溶解、懸濁または乳化されることが多い。混合物は、計測バルブで密閉されているキャニスタ内に加圧下で維持される。
経鼻投与では、固体または液体のいずれかの担体を使用することができる。固体担体は、粒径が例えば、約20〜約500ミクロンの範囲の粗い粉末を含み、該製剤は、鼻孔を通って、急速吸引によって投与される。液体担体が使用される一部のある実施形態では、製剤は、経鼻噴霧剤または液滴として投与され、活性成分の油溶液または水溶液を含む。
活性試薬は、体から素早く消失しないように保護する担体を使用して調製することができる。例えば、制御放出製剤を使用することができ、これらとしてインプラントおよびマイクロカプセル化送達システムが挙げられる。エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸のような生分解性の生体適合性ポリマーを使用することができる。そのような製剤の調整方法は、当業者に明らかであろう。該物質は、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.からも市販されている。また、リポソーム懸濁液(ウィルス抗原に対するモノクローナル抗体と共に、感染細胞に標的化されたリポソームを含む)も薬学的に許容され得る担体として使用することができる。これは、当業者に公知の方法、例えば米国特許第4,522,811号に記載の方法に従って調製することができる。
また、本発明の組成物および製剤は、1種以上の乾燥剤を含むこともできる。本発明で使用することができる適切な乾燥剤は、医薬的に安全なものであり、例えば、医薬品グレードのシリカゲル、結晶質ナトリウム、カリウムまたはカルシウムアルミノシリケート、コロイド状シリカ、無水硫酸カルシウムなどが挙げられる。乾燥剤は、約1.0%〜20.0%、または約2%〜15%w/w(または前記範囲内の任意の値)の量で存在させてもよい。
「フラッシュドース」形態としても知られる急速に分散する投薬形態である製剤も意図するものである。特に、本発明の一部のある実施形態は、それらの活性成分を、短時間、例えば、典型的には約5分間未満、別の実施形態では約90秒未満、別の実施形態では約30秒未満、および別の実施形態では、約10または15秒未満の間に放出する組成物として製剤化される。かかる製剤は、種々の経路で、例えば、体腔に挿入するか、または湿った身体表面または開いた傷口に塗布することによって、被検体に投与するのに適している。
通常、「フラッシュ投与形態」は、経口投与される固体投薬形態であり、これは、口内で素早く分散し、したがって飲み込むのに大きな努力を必要とせず、化合物が口腔粘膜を通して素早く摂取または吸収されることを可能にする。一部のある実施形態では、適切な急速に分散する投薬形態は、傷、および外部から供給する水分によっては医薬の放出が不可能な他の肉体的傷害および疾患状態の処置を始めとする他の用途にも使用される。
「フラッシュドース」形態は、当該技術分野で公知であり、例えば、米国特許第5,578,322号および第5,607,697号の発泡性投薬形態および不溶性マイクロ粒子の急速放出被膜;米国特許第4,642,903号および第5,631,023号の凍結乾燥泡および液体;米国特許第4,855,326号、第5,380,473号および第5,518,730号の投薬形態の溶融紡糸;米国特許第6,471,992号の固体フリー形態製造;米国特許第5,587,172号、第5,616,344号、第6,277,406号および第5,622,719号のサッカライド系担体マトリックスおよび液体結合剤;および当該分野で公知の他の形態を参照のこと。
また、本発明の化合物は、化合物が医薬組成物から順次(すなわちパルスで)放出される「パルス放出」製剤として製剤化される。また、該化合物は、化合物が長時間にわたって医薬組成物から連続して放出される「徐放性」製剤としても製剤化される。
また、環状または非環状カプセル化剤、または溶媒和剤、例えば、シクロデキストリン、ポリエーテルまたはポリサッカライド(例えば、メチルセルロース)、あるいは別の実施形態では、アルキルエーテルスペーサー基またはポリサッカライドにより親油性空孔から離されたナトリウムスルホン酸塩基とのポリアニオン性β−シクロデキストリン誘導体を含む液体製剤のような製剤も意図する。一実施形態では、カプセル化剤または溶媒和剤はメチルセルロースである。別の実施形態において、カプセル化剤または溶媒和剤は、ブチルエーテルスペーサ基によって親油性空孔から離されたナトリウムスルホン酸塩とのポリアニオン性β−シクロデキストリン誘導体、例えば、CAPTISOL(登録商標)(CyDex、Overland、KS)である。当業者であれば、前記薬剤/開示した化合物製剤の適正な比を、剤の水溶液、例えば40重量%溶液を調製し、連続希釈液を調製し、例えば溶液を20%、10、5%、2.5%、0%(コントロール)などとし、過剰の(薬剤が可溶化することができる量に比較して)開示した化合物を添加し;適切な条件下、例えば、加熱、攪拌、超音波処理下などで混合し、得られた混合物を遠心分離またはろ過し、透明な溶液を得、開示した化合物の濃度に関して溶液を分析することによって求めることができる。
本明細書で挙げられたすべての刊行物および特許文献は、これらの刊行物または文献それぞれが、引用により具体的におよび個別にそこに組み込まれることを示したように、引用により本明細書に組み込まれる。刊行物および特許文献の引用は、どれも関連のある先行文献であると認めるものではなく、あるいはどれも内容または日付に関して何ら許可を与えるものではない。明細書によってここまでに記載した発明について、当業者は、本発明が、さまざまな実施形態で実施することができ、先の説明および以下の実施例は、説明を目的とするのであり、以下に続く請求項の限定を目的としないことを理解するであろう。
実施例
実施例1:KX2−391の小規模合成
以下に記載する予備合成は、US20060160800A1に示されたものである。この手順は、小規模反応、例えば、50gまでの生成物を得る反応に有用である。
以下の合成では、特に記載のない限り、試薬および溶媒は、市販の供給元から受け取ったままの状態で使用した。プロトンおよびカーボン核磁気共鳴スペクトルは、Bruker AC 300またはBruker AV 300スペクトロメータにおいて、プロトンでは300MHzで、カーボンでは75MHzで取得した。スペクトルを単位ppm(δ)で示し、結合定数Jは、単位ヘルツで報告する。テトラメチルシランをプロトンスペクトルの内部標準として使用し、溶媒ピークをカーボンスペクトルの参照ピークとして使用した。質量スペクトルおよびLC−MS質量データは、Perkin Elmer Sciex 100大気圧イオン化(APCI)質量分析計において取得した。LC−MS解析値は、Luna C8(2)Column(100×4.6mm、Phenomenex)を使用し、254nmでのUV検出により、標準的な溶媒勾配プログラム(方法B)を用いて取得した。薄層クロマトグラフィー(TLC)は、Analtechシリカゲルプレートを用いて行ない、紫外(UV)光、ヨウ素、または20wt%リンモリブデン酸含有エタノールによって可視化した。HPLC解析値は、Prevail C18カラム(53×7mm、Alltech)を使用し、254nmでのUV検出により、標準的な溶媒勾配プログラム(方法AまたはB)を用いて取得した。
N−ベンジル−2−(5−ブロモピリジン−2−イル)アセトアミドの合成:
フラスコに、5−(5−ブロモピリジン−2(1H)−イリデン)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキサン−4,6−ジオン(1.039g、3.46mmol)、ベンジルアミン(0.50mL、4.58mmol)、およびトルエン(20mL)を仕込んだ。反応液を窒素下で18時間還流させ、次いで、冷却し、低温になるまでフリーザー内に入れた。生成物を濾過によって回収し、ヘキサンで洗浄し、明白色結晶塊(1.018g、96%)を得た。
4−(2−(4−(4,4,5,5−テトラメチル[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−フェノキシ)エチル)モルホリンの合成:
4−(4,4,5,5−テトラメチル[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−フェノール(2.55g、11.58mmol)、2−モルホリン−4−イルエタノール(1.60mL、1.73g,13.2mmol)およびトリフェニルホスフィン(3.64g、13.9mmol)の塩化メチレン(60mL)撹拌溶液に、0℃で、DIAD(2.82g、13.9mmol)を滴下した。反応液を室温まで昇温させ、一晩撹拌した。18時間後、さらに一部のトリフェニルホスフィン(1.51g、5.8mmol)、2−モルホリン−4−イルエタノール(0.70mL、5.8mmol)、およびDIAD(1.17g、5.8mmol)を添加した。室温で、さらに2時間撹拌後、反応液を濃縮し、残渣をフラッシュクロマトグラフィー(CHCl
3中5%〜25%EtOAc)によって精製し、生成物を白色固形物(2.855g、74%)として得た。
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドKX2−391合成
栓封止部と撹拌棒を取り付けた10mL容の反応チューブに、N−ベンジル−2−(5−ブロモピリジン−2−イル)アセトアミド(123mg、0.403mmol)、4−(2−(4−(4,4,5,5−テトラメチル[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−フェノキシ)エチル)モルホリン(171mg、0.513mmol)、およびFibreCat 1007
1(30mg、0.015mmol)を仕込んだ。エタノール(3mL)を添加した後、炭酸カリウム水溶液(0.60mL、1.0M、0.60mmol)を添加した。チューブを密封し、マイクロ波条件下、150℃で10分間加熱した。反応液を冷却し、濃縮してエタノールの大部分を除去し、次いで10mLの酢酸エチルに溶解させ、水および飽和塩化ナトリウム溶液で連続的に洗浄した。有機層をMgSO
4で乾燥させ、濾過し、濃縮し、白色固形物を得た。この白色固形物をエチルエーテルとともに磨砕し、KX2−391を白色固形物(137mg、79%)として得た:mp 135〜137℃;
1H NMR(300MHz,CDCl
3)δ 8.70(d,1H,J=2.0Hz),7.81(dd,1H,J=2.4Hz,J=8.0Hz),7.65(br s,1H),7.49(d,2H,J=8.8Hz),7.37−7.20(m,6H),7.01(d,2H,J=8.8Hz),4.49(d,2H,J=5.8Hz),4.16(t,2H,J=5.7Hz,3.82(s,2H),3.78−3.72(m,4H),2.84(t,2H,J=5.7Hz),2.62−2.58(m,4H);HPLC (方法B)98.0%(AUC)、t
R=1.834分;APCI MS m/z 432 [M+H]
+。
1 ポリマー結合ジ(アセタート)ジシクロヘキシルフェニルホスフィンパラジウム(II)、Johnson Matthey社製、Aldrich(カタログ番号590231)から入手可能。
実施例2: KX2−391二塩酸塩の中規模合成
この実施例に概要を示す合成は、中規模反応において使用され得る。少なくとも50gのKX2−391二塩酸塩のバッチの調製をスキーム1に示す。この線形合成は6つの工程からなり、第7工程は、試薬の1つ、6−フルオロピリジン−3−イルボロン酸(これは、市販品でも入手可能である)の調製であった。このシーケンスの全体収率は35%、平均収率は83%、最低収率の工程は68%のものであった。この7つの工程のうち、1工程のみクロマトグラフィーが必要であった。以下に記載する手順は、70g規模で行なった。
第1工程は、K
2CO
3粉末(3〜3.5当量)を塩基として使用し、アセトニトリルを溶媒とする4−ブロモフェノール(131g)とN−クロロエチルモルホリン(HCl塩としての1;141g)間のウィリアムソンエーテル合成である。成分を混合し、還流下で一晩撹拌すると、高度に変換された(96.3〜99.1%)。ジクロロメタンとヘプタンで希釈後、反応混合物を濾過し、エバポレートし、所望の生成物2を本質的に定量的収量(216g)で得た。同様の基質(例えば、4−ブロモ−3−フルオロフェノール)、変換(さらなる加熱を伴うことさえある)で、必ずしも高いとは限らない(例えば、59.9〜98.3%)ことに注意のこと。塩化アルキルおよびK
2CO
3はともに、好ましくはAldrichから購入したものである。継続的な加熱によって反応は終了するよう促進されず、未反応ブロモフェノールは、粗製反応混合物を4部のトルエンに溶解させ、フェノールを4部の15%NaOH水溶液で洗い流すことにより容易に除去され得る。
第2工程に(スズキカップリング)に必要とされた試薬の1つは、6−フルオロピリジン−3−イルボロン酸(4)であった。市販品で入手可能であるが、この試薬は、TBME中、低温(<−60℃)にて、n−ブチルリチウム(1.2当量)での5−ブロモ−2−フルオロピリジン(3、102g)の臭化リチウム交換の後、ホウ酸トリイソプロピル(1.65当量)の添加によって容易に調製された。この反応の両段階は短時間であり、全体の反応時間(添加時間を含む)は約3時間である。クエンチングは水性24%NaOHで行ない、これにより生成物も抽出され、不純物が有機層中に残る。水層を取り出したら、次いで、これをHClで中和し、EtOAcで抽出する。有機層を乾燥させた後、少量のヘプタンで希釈し、濃縮により、生成物の沈殿/晶出がもたらされる。濾過によりボロン酸4が比較的高純度(96.4%AUC)および良好な収率(69g、79〜90%;実験セクションの収率の推定に関する注釈を参照)で得られた。これは、さらに精製せずに使用され得る。
この線形シーケンスの第2反応工程(スズキカップリング)は、設定が簡単な反応である;すべての試薬[2(111g)、水性Na2CO3、DME、およびPd(PPh3)4(0.04当量)]を反応フラスコに仕込み、混合物を還流下で加熱した;反応混合物を脱気体して酸素を除去したことに注意のこと。反応が終了したら(7時間以内)、作業は、フラスコの側面上での有機塩からの反応溶液のデカント(または吸い上げ)(目に見える水層は無かった)を伴い、フラスコをすすぎ、乾燥させ、合わせた有機層から溶媒を除去した。イソプロパノール/ヘプタンからの粗製5の晶出により、粗製物と比べて改善された純度の物質が得られたが、なおクロマトグラフィー(粗製物に対するシリカゲルの比は約8.5:1であった)が必要であり、充分な純度(>98%)の物質が得られた;収率は68%(79.5g)であった。透明な5の使用により、次の工程、フッ素原子のアセトニトリル置換でのクロマトグラフィーの必要性が回避された。
また、アセトニトリルでのフッ化物の交換も簡単な反応であり、粗製生成物の簡単な室温での晶出により、透明な6が高収率高純度で得られた。反応は、最初に、−10℃でヘキサメチルジシランカリウムKHMDS(8当量)/THFを用いたアセトニトリル(6.5当量)からの「エノラート」の形成後、直ちにフッ化物5(79g)の添加を伴うものであった。反応は急速であり、1時間後、飽和ブラインによりクエンチングを行なった。有機層の乾燥および溶媒のエバポレーション後、得られた粗製混合物は、所望の生成物と、見かけ上、アセトニトリルの自己縮合によるずっと極性の低い生成物との2種類の成分のみからなるものであった。粗製混合物をイソプロパノール/ヘプタン中で旋回させ、一晩放置し、これにより生成物の完全な晶出がもたされ、これを濾別し、洗浄し、高純度の6(99.3%AUC)を良好な収率(64g、76%)で得た。
6(64g)の加メタノール分解を、反応が終了する(25時間)まで、40%H2SO4(MeOH中)中で加熱することにより行なった。次いで、反応液を冷却し、MgSO4とともに撹拌し、微量の加水分解生成物(ArCH2−CO2Me)を生成物に変換して戻し、次いで、冷却した水性K2CO3に添加し、同時にジクロロメタン中に抽出した。乾燥およびほとんどのDCMのエバポレーション後、5%EtOAc(ヘプタン中)の添加およびさらなる濃縮により、生成物の晶出がもたらされた。この固形物の濾過と洗浄により、高純度(98.9%AUC)の7が良好な収率(82%)で得られ、さらに高純度の生成物(4g)が母液から総収量61.7g(87%)で得られた。
また、アミド化工程は、反応槽への諸成分(7(61g)、ベンジルアミン(3当量)、および高沸点アニソール)の仕込み、次いで、反応終了まで還流下での加熱を伴うものであった。
反応混合物の冷却により、高純度(98.9%)で良好な収率(81%)の目的化合物の完全な晶出がもたらされた。
最終工程は、目的化合物の二塩酸塩の形成であった。両方の塩基性部位での完全なプロトン化を確実にするため、反応を、該二塩酸塩がよく溶ける無水エタノール中で行なった。ほぼ蒸発乾固させた後、反応混合物をエタノールで2回「追跡」し、過剰の塩化水素を除去した。得られた粘性の油状物をエタノール(2部)に溶解させ、次いで、高速撹拌しながら、大容量(20部)のEtOAc(酢酸エチル)に添加した。濾過、酢酸エチル(ヘプタンなし)での洗浄および真空乾燥により、KX2−391二塩酸塩が乳白色粉末として得られた。最終的に合計68g(収率97%)の塩が高純度(99.6%AUC)で得られ、これは、微量のEtOAc(4.8%w/w)、EtOH(0.3%w/w)、およびヘプタン(0.6%w/w;真空乾燥前のヘプタンでの最終洗浄から)を含んでいた。また、この塩を高温EtOH/EtOAcから晶出させ(上記の沈殿法の代わりに)、結晶質のビーズ状物を得た。これは、ずっと低い捕捉溶媒レベル(わずか0.26%w/wのEtOAcおよび0.45%w/wのEtOH)を有し、自由流動性のものであった。
4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリン(2)の調製:
自動攪拌装置、アダプターを有する温度計、濃縮器、および窒素供給口(濃縮器の上部)を取り付けた5L容の3つ口丸底フラスコに、1(140.7g、0.756mol)、4−ブロモフェノール(130.6g、0.755mol)、無水K
2CO
3粉末(367.6g、2.66mol、3.5当量)、およびアセトニトリル(1.3L)を仕込んだ。混合物を80℃で(一晩)激しく撹拌(ブレードがフラスコ底面に接触)した後、DCM(500mL)とヘプタン(200mL)で希釈し、セライトに通して濾過した。蒸発乾固(回転濃縮、次いで高真空)により、2が、淡黄色油状物(216.00g、収率100%、96.3%AUC、3.7%の未反応ブロモフェノール含有)として得られた。この物質は、さらに精製せずに成功裡に使用された。
1H NMR(CDCl3)δ 2.57(t,4H),2.79(t,2H),3.73(t,4H),4.08(t,2H),6.78(d,2H),7.37(d,2H)。MS(LC/MSによる):m/z 287.1 [M+1]。
ブロモフェノールが容易に除去され得ることは、2g試料において、まず試料をトルエン(8g)に溶解させ、8gの15%水性NaOHで洗浄することにより示された;液体クロマトグラフィーにより、回収された生成物(1.97g;98.5%回収率)中に未反応ブロモフェノールの痕跡は示されなかった。
6−フルオロピリジン−3−イルボロン酸(4)の調製:
撹拌冷却(ドライアイス−アセトン浴)無水[TBME](620mL;自動攪拌装置、アダプターを有する温度プローブ、および窒素供給口を取り付けた3L容の3つ口丸底フラスコ内)に、(シリンジによって)2MのBuLi(352mL、0.704mol、1.2当量)を添加した。この高速撹拌冷却(<−75℃)混合物に、3(102.2g、0.581mol)の無水TBME(100mL)溶液を13分間にわたって添加し、この間、内部温度は−62℃に上昇した。反応液をさらに45分間撹拌(温度は−62℃〜−80℃に維持)した後、ホウ酸トリイソプロピル(合計180g、0.957mol、1.65当量)を4分割で速やかに連続的に添加した。添加終了時、内部温度は−33℃に上昇していた。さらに45分間、冷水浴で撹拌後(内部温度は−33℃から−65℃に低下)、冷水浴を除くと、撹拌混合物は、50分間かけて自然に−22℃まで昇温した。15分間かけて(水浴による)6℃まで昇温後、撹拌反応混合物を氷水浴内に入れ、次いで、窒素下、NaOH(160g)の冷水(500mL)溶液でクエンチした。添加が終了したとき、内部温度は20℃であった。この混合物を室温で1.5時間撹拌した。水層を取り出し、約350mLの濃HClでpH7まで中和し、次いでEtOAc(3×1L)で抽出した。この時点でpHは8〜9であったため、約15mLの濃HClを用いて水層をpH7に調整し、酢酸エチルでさらに(2×1L)抽出した。合わせたEtOAc抽出物を乾燥させ(Na
2SO
4)、濾過し、約150mLの容量まで濃縮した。この濃縮物を旋回させながら、ヘプタンを分割して添加(総容量300mL)すると、生成物の沈殿/晶出がもたらされた。濾過、ヘプタン(100mL、300mL、次いでさらに300mL)での固形物の洗浄、および風乾により、標題生成物がオフホワイト色固形物(68.6g、収率79〜90%
*;LC純度96.4%、NMRにより、推定5.5%w/wのヘプタンが示された)として得られ、これは、さらに精製せずに成功裡に使用された。LC/MSにより、これは、以下の2つの存在体の混合物であることが示され、高分子量の方の存在体の強度が主であった(
*注:反応の収率は、ボロン酸唯一の構成成分であると仮定した場合は79%であり、環状ボロン酸塩が唯一の構成成分であると仮定した場合は90%である):
1H NMR(CDCl
3)δ 7.14(dd,1H),8.27(ddd,1H),8.39(br s,2H,2 OH),8.54(fine d,1 Η)。MS(LC/MSによる):m/z 143.0 [M+1;ボロン酸]および370.0 [M+1;上記の環状ボロン酸塩]。
4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリン(5)の調製:
自動攪拌装置、温度計とアダプター、濃縮器、および窒素供給口(濃縮器の上部)を取り付けた2L容の3つ口丸底フラスコに、2(110.7g、0.387mol)、4(71.05g、0.477mol、1.23当量)およびDME(700mL)を仕込んだ。得られた撹拌溶液を、該撹拌溶液中に高速窒素流を5分間にわたって通過させた後、Na
2CO
3(121.06g、1.142mol、3当量)のH
2O(250mL)脱気溶液ならびに固体のPd(PPh
3)
4(19.8g、0.044当量)を添加することにより脱気した。最後の添加直後、反応混合物上部のヘッドスペースに窒素をパージし、次いで、混合物を80〜85℃(内部温度)で7時間撹拌した後、室温まで冷却した。水層がないため、上清みをデカンテーションすると、無機塩(吸着水を有する)が残留した。無機塩の入った反応フラスコを50%ジクロロメタン/酢酸エチル(2×250mL)で洗浄し、洗浄液を、デカンテーションした上清みに添加した。合わせたこの有機層を乾燥させ(Na
2SO
4)、濾過し、暗褐色油状物(148g)まで蒸発乾固させた。この油状物に、150gの50%ヘプタン/イソプロピルアルコール(IPA)を添加し、旋回および冷却(氷水浴による)後、晶出が始まった。さらにヘプタン(50g)を添加し、得られた固形物を濾過し、洗浄し、風乾させると、48gの淡褐色固形物が得られた。濾液を蒸発乾固させた後、得られた混合物を100mLの50%ヘプタン/IPA中で旋回させた後、さらにヘプタン(約100mL)を添加し、栓をし、フリーザー内に入れ、晶出させた。得られた固形物を濾過し、ヘプタンで洗浄し、風乾させると、61gのガム状固形物が得られた。得られた濾液のエバポレーションにより油状物(34g)が得られた。これに含まれていた極性不純物(Ph
3P=Oなど)は相当少なく、そのため、2N HCl(240mL)とEtOAc(220mL)とに分配させた。底部の水層を取り出し、次いでEtOAcとともに撹拌しながらK
2CO
3でpH7〜8に中和した。EtOAc層を乾燥させ、濾過し、蒸発乾固させた(22g)。一部48g、61gおよび22gを、DCM中に充填したシリカゲル(1.1Kg)にてクロマトグラフィー処理した。DCM(400mL)、50%DCM/EtOAc(5L)、次いで、漸増量のMeOH/Et
3N(1.5%MeOH/1%Et
3Nから始めて5%MeOH/3%Et
3Nで終わる)含有50%DCM/EtOAc(8L)での溶出により、77.68gの粘性の油状物(純度98.0%)を得、これは、ヘプタン(300mL)中で旋回させることによりすぐに晶出された。濾過、ヘプタンでの洗浄および風乾により、75.55g(98.7%AUC)の固体の5が得られた。さらに純粋な5(総量3.9g、98.6〜99.3%AUC)が、Ph
3P=Oを含有する最初の方のクロマトグラフィー画分から、上記の34g試料で行なったようにして洗浄した後、エバポレーションによる晶出によって得られた。5の総収量は79.5g(68%)であった。
1H NMR(CDCl3)δ 2.59(t,4H),2.84(t,2H),3.75(t,4H),4.16(t,2H),6.97(dd,1H),7.01(d,2H),7.46(d,2H),7.92(ddd,1H),8.37(fine d,1H)。MS(LC/MSによる):m/z 303.2 [M+1]。
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリル(6)の調製:
3L容の3つ口丸底フラスコに、自動攪拌装置、温度計とアダプター、滴下漏斗、および窒素供給口(滴下漏斗の上部、バブラーによる陽圧)を備え付けた。高速窒素流をバブラーに通しながら、ストッパーを外し、フラスコに、KHMDS(415.8g、2.08mol)、次いで無水THF(1L)を仕込んだ。撹拌冷却(氷/メタノール浴、溶液の内部温度は−8℃であった)KHMDS/THF溶液に、MeCN(70g)のTHF(110mL)溶液を22分間にわたって滴下した直後、比較的急速に(4分間)5(79.06g、0.262mol)のTHF(400mL)溶液を添加し、その期間後、反応混合物の内部温度は10℃に達した。継続的に冷却しながら(1時間)、内部温度を−6℃にし、TLCによると反応は終了したようであった。さらに30分後(内部温度−3℃)、反応混合物を飽和ブライン(1L)でクエンチし、EtOAc(500mL)で希釈した。水層を除去した後、有機溶液を乾燥させ(Na
2SO
4)、濾過し、蒸発乾固させた(油状物まで)後、IPA(150mL)に完全に溶解させ、ヘプタン(300mL)で希釈し、種晶(約100mgの粗製油状物をIPA(約150mg)に溶解させ、ヘプタン(約2.5mL)で希釈することにより調製)を添加し、一晩放置した。撹拌して結晶質固形物を分解後、固形物を濾過し、250mLの2:1ヘプタン/IPAで洗浄し、次いでヘプタンで多数回洗浄し、風乾させ、64.38g(収率76%)の標題生成物6を結晶質の褐色固形物として得た(LC純度99.3%)。さらに5.88gの低純度物質が濾液から得られた。
1H NMR(CDCl3)δ 2.59(t,4H),2.84(t,2H),3.74(t,4H),3.97(s,2H),4.17(t,2H),7.02(d,2H),7.46(d,1H),7.51(d,2H),7.87(dd,1H),8.77(fine d,1H)。MS(LC/MSによる):m/z 324.4 [M+1]。
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチル(7)の調製:
2L容の一つ口丸底フラスコに、6(64.00g、0.198mol)およびMeOH(360g)を仕込んだ後、ゆっくりと注意深くH
2SO
4(240g)を滴下し、得られた均一な溶液を還流下(115℃の油浴)、反応が終了するまで(25時間(0.8%の未反応出発物質を有した))3.5%ArCH
2CO
2Hとともに撹拌した。短時間の冷却後、MgSO
4(75g)を添加し、混合物を旋回させ、さらに45分間放置した(このとき、組成物は、96.3%の生成物、0.8%の未反応出発物質、および2.5%のArCH
2CO
2H)。次いで、反応混合物を、DCM(2L)とK
2CO
3(450g)のH
2O(600mL)溶液との高速撹拌冷却(氷水浴)混合物にゆっくりと添加した。得られたエマルジョンを一晩放置した。有機溶液の透明な部分を吸い上げ、残りの部分を水とDCMで繰り返し処理し、透明な有機部分を、吸い上げた元の部分と合わせた。合わせた有機部分を乾燥させ(Na
2SO
4)、濾過し、容量約1.2Lまで濃縮した後、300mLの5%EtOAc(ヘプタン中)次いでヘプタン(300mL)を添加し、混合物を濃縮し(加熱しながら回転濃縮)、再度、DCMを除去した。この時点で、15mLのEtOAcを添加し、晶出が始まるまで高温混合物を旋回させ、晶出がほぼ終了するまで旋回を継続し、次いで放置し、室温まで冷却して完全に晶出させた。次いで、固形物を濾過し、300mLの5%EtOAc(ヘプタン中)とヘプタン(100mL)で洗浄し、次いで、完全に風乾させ、57.74g(収率82%)の7を淡黄色固形物として得た(98.9%AUC)。さらに3.94gの透明な生成物(97.9%AUC)が濾液から得られた(総収率87%)。
1H NMR(CDCl3)δ 2.60(t,4H),2.84(t,2H),3.74(重複するtとs、6H),3.89(s,2H),4.17(t,2H),7.01(d,2H),7.34(d,1H),7.49(d,2H),7.80(dd,1H),8.74(fine d,1H)。MS(LC/MSによる):m/z 357.4
[M+1]。
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド(KX2−391遊離塩基)の調製
1L容の一つ口丸底フラスコに、7(61.4g、0.172mol)、ベンジルアミン(55.6g、0.519mol、3当量)、および無水アニソール(300g)を仕込み、次いで、還流下、反応が本質的に終了するまで(23時間、165℃の油浴温度;内部温度は147℃であった)撹拌し、次いで、ほぼ室温まで放冷した。反応混合物の一部(1mL)をトルエン(1mL)で希釈すると、該部分の完全な晶出がもたらされた。次いで、この種晶を反応混合物に添加し、反応混合物全体が晶出されて1つの塊になるまで放置した。トルエン(150mL)を添加し、混合物を旋回させて固形物を分解した。ヘプタン/トルエン(1:1、100mL)を添加し、固形物の混合物をさらに分解した。最後に、ヘプタン(50mL、次いで25mL)を添加し、混合物をさらにいっそう分解し、さらに30分間放置した後、固形物を濾過した。固形物の濾過、2:1トルエン/ヘプタン(300mL)、1:2トルエン/ヘプタン(300mL)、次いでヘプタン(2×300mL)での洗浄、次いで、乾燥(風乾、次いで高真空)により、60.16g(収率81%)の標題生成物が白色固形物として得られた(>98.9%AUC)。さらに2.5gの低純粋(97.4%)物質が母液から得られた。
1H NMR(CDCl3)δ 2.60(t,4H),2.83(t,2H),3.74(t,4H),3.82(s,2H),4.18(t,2H),4.49(d,2H),7.01(d,2H),7.2−7.35(m,6H),7.49(d,2H),7.64(br t,1H),7.81(dd,1H),8.69(fine d,1H)。MS(LC/MSによる):m/z 432.5 [M+1]。
4−(2−(4−(6−(2−(ベンジルアミノ)−2−オキソエチル)ピリジニウム−3−イル)フェノキシ)エチル)−モルホリン−4−イウムクロリド(KX2−391、ジHCl塩)の調製
KX2−391(遊離塩基、60.00g)の無水EtOH(600mL)撹拌懸濁液に、170mLの2.5MのHCl(エタノール中)を添加し、25mLのEtOHを、フラスコの側面を洗い流すように添加した。得られた均一な溶液を室温で撹拌し(20分間)、次いでほぼ蒸発乾固した(起泡するまで)。EtOH(2×150mL)で追跡後、残渣を再度EtOH(150mL)に溶解させた後、次いで、混合物が飽和したと思われるまで(濁った状態になるまで33mLを要した)ゆっくりとヘプタンを添加した。一晩放置後、2層が形成された。さらにヘプタン(250mL)を添加後、晶出は依然として誘導されなかったため、反応混合物を容量約200mLまで濃縮し、この時点で混合物は均一となった。この高濃度の均一な溶液を、非常に高速で撹拌している(自動)EtOAc(2L)に滴下した。滴下終了後、元のフラスコと滴下漏斗の25mLのEtOHすすぎ液を高速撹拌混合物に添加した。高速撹拌をさらに約1時間継続し、次いで、混合物を濾過し、固形物(一部ガム状)をEtOAc(300mL)、次いでヘプタンで洗浄した。ヘプタン洗浄を開始したとたんに、固形物はさらにガム状となった。ガラス製ブフナー漏斗およびその内容物を覆い(ペーパータオル/輪ゴム)、すぐに真空炉内に入れた。約45℃で一晩真空後、窒素下で真空を解除し、生成物(泡状固形物)の入ったブフナー漏斗をすぐにジップロック袋に入れ、次いで、窒素下(グローブ袋)でビンに移し、泡状固形物を粉末に分解した(スパチュラ)。高真空下(約45℃)で2日目の晩、わずかに1.3gのさらなる重量減損がもたらされた。高真空(約45℃)3日目の晩では、本質的に一定重量が得られ、このときはわずか0.2gの重量減損であった。物質の最終重量は68.05g(収率97%)であり、0.29当量(4.8%w/w)のEtOAc、0.035当量(0.3%w/w)のEtOH、および0.03当量(0.6%w/w)のヘプタンを含んでいた。純度は99.6%であった。
1H NMR(DMSO−d6)δ 3.1−3.3(m,2H),3.45−3.65(m,4H),3.8−4.0(m,4H),4.11(s,2H),4.32(d,2H),4.57(t,2H),7.19(d,2H),7.2−7.4(m,5H),7.88(d,2H),7.93(d,1H),8.68(dd,1H),8.99(br t,1H),9.10(fine d,1H),11.8(br s,1H)。MS(LC/MSによる):m/z 432.5 [遊離塩基のM+1]。
元素分析(C26H29N3O3・2HCl・0.035EtOH・0.29EtOAc・0.03ヘプタン・0.8H2Oのもの):
a.計算値(%):C、60.03;H、6.54;N、7.65;Cl、12.91
b.実測値(%):C、59.85/59.97;H、6.54/6.47;N、7.67/7.67;Cl、13.10/13.24
計算値FW:534.63 (おそらくこの非常に吸湿性の粉末の取り扱い時に生じた0.8H2Oは、1H NMRがH2Oの痕跡を示さなかったため、考慮していない)。
この物質中の塩化エチルレベルを測定すると、98ppmであることがわかった。また、試料も解析し、5,800ppmのヘプタンを含有することがわかった。
この試料の別の部分の解析により、以下の結果が得られた:99.6%AUC、1640ppmのエタノール、41,480ppmの酢酸エチル、5600ppmのヘプタン、アニソールは検出されず、および120ppmの塩化エチル。
また、該塩の再結晶化の手順を、上記の乾燥させた塩を用いて開発した。この手順は、HCl塩形成性反応混合物の濃縮により得られる高純度の粗製塩(残留EtOHを含有)に対するものと同様に実に良好に機能するであろう。
塩(575mg)を無水EtOH(1.157g)に2倍質量で溶解させ、次いで、窒素下加熱した。この高温溶液(撹拌)に、1.6gの25%EtOH(EtOAc中)を添加した後、EtOAc(0.25mL)を添加すると、濁った状態となった。この濁った高温溶液を室温まで放冷すると、この間に晶出が起こった。晶出が終了(2時間)後、結晶質の固形物を濾過し、無水EtOAc(約40mL)で洗浄し、真空乾燥させると、424mgのKX2−391二塩酸塩が自由流動性固形物として得られ(微小なビーズ状物、99.8%AUC)、これに含まれるEtOHは0.05当量(0.45%w/w)のみ、およびEtOAcは0.015当量(0.26%w/w)のみであった。イソプロパノール/EtOAcを使用すると、やや良好な回収率(586mgから460mg)が得られたが、溶媒捕捉レベルは高かった[0.085当量(1.0%w/w)のイソプロパノールおよび0.023当量(0.4%w/w)のEtOAc]。
実施例3:KX2−391ジHClの大規模合成
試薬および溶媒は、市販の供給元から受け取ったままの状態で使用した。反応の進行は、HPLC、GC/MS、または1H NMRによって監視した。薄層クロマトグラフィー(TLC)は、Analtechシリカゲルプレートを用いて行ない、UV光(254nm)によって可視化した。高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)は、Agilent 1100シリーズの装置において行なった。プロトンおよびカーボン核磁気共鳴スペクトルは、Bruker AV 300を使用し、プロトンでは300MHzで、カーボンでは75MHzで取得した。溶媒ピークを、プロトンスペクトルおよびカーボンスペクトルの参照ピークとして使用した。
4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリン(2)の調製
還流濃縮器と温度プローブを取り付けた50L容のジャケット付き反応器に、4−(3−クロロプロピル)モルホリン(2.44kg、0.54mol)、4−ブロモフェノール(2.27kg、0.54mol、1.0当量)、粉末状炭酸カリウム(6.331kg、1.88mol、3.50当量)、およびDMF(12.2L)を仕込み、撹拌した。次いで、反応混合物を60〜65℃まで加熱し、一晩撹拌した。17.5時間後、反応混合物を20〜25℃まで冷却した。反応混合物を、調製のためのボトムバルブを取り付けた異なる反応器に仕込んだ。温度を20〜30℃に維持しながら、この反応器にDI水(48.7L)を仕込んだ。相分離が起こった。水層をMTBE(3×24.4L)で抽出した。合わせた有機層に、DI水(18.3L)、次いで6M水酸化ナトリウム(18.2L)を添加した。混合物を2〜5分間撹拌すると、相分離が起こった。有機相を水(24.4L)とブライン(24.4L)で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、濃縮し、3370gの黄色油状物(89%粗製収率、HPLCにより99.4%AUC)。
6−フルオロピリジン−3−イルボロン酸(4)の調製
72L容の反応器に還流濃縮器と温度プローブを取り付けた。この反応器に、5−ブロモ−2−フルオロピリジン(1.17L、0.568mol)、トルエン(18.2L)、およびホウ酸トリイソプロピル(3.13L、0.68mol、1.2当量)を仕込み、撹拌した。テトラヒドロフラン(4.4L)を反応器に添加し、反応混合物を−35〜−50℃に冷却した。温度を−35〜−45℃に維持しながら、n−ブチルリチウム(2.5Mのヘキサン溶液、5.44L、0.68mol、1.2当量)を反応器に注意深く添加した。5時間後、反応が終了したとみなし、反応混合物を−15〜−20℃に昇温させた。反応器のこの反応液に、2M HCl(11.80L)を添加するとともに、温度を−15℃〜0℃に維持した。反応混合物を18〜23℃で(16時間)撹拌すると、相分離が起こった。次いで、有機相を6Mの水酸化ナトリウム(6.0L)で抽出した。酸性の非塩基性水相を反応器内で混合し、pH7.5に達するまで6MのHCl(2.5L)を添加した。次いで、塩化ナトリウム(6.0kg)を水相に添加した。次いで、水相をTHF(3×20L)で抽出した。合わせた有機部分を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濃縮し、1300gの褐色固形物を得た(81%粗製収率)。
4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリン(5)の調製
還流濃縮器、スパージングチューブ、バブラー、および温度プローブを取り付けた72L容の反応器に、6−フルオロピリジン−3−イルホウ酸(2.84kg、1.24当量)、4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリン(4.27kg、1.0当量)、およびDME(27L)を仕込んだ。撹拌を開始し、次いで、炭酸ナトリウム(4.74kg、3.0当量)をDI水(17.1L)溶液として反応混合物に仕込んだ。アルゴンを反応混合物中で50分間起泡させた。アルゴン雰囲気下、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(750g、0.04当量)をDME(1.0L)中のスラリーとして反応混合物に添加した。反応混合物を75〜85℃まで加熱し、一晩(17時間)撹拌した。反応混合物を18〜22℃に冷却した。DI水(26.681kg)とMTBE(26.681L)を反応器に仕込み、5分間撹拌した。相分離が起こり、水相をMTBE(2×26.7L)で抽出した。合わせた有機部分を2M HCl(1×15.0L、3×21.8L)で抽出した。次いで、水相を反応器に戻して仕込み、酢酸エチルを添加した(26.7L)。6Mの水酸化ナトリウム(26.7L)を用いてpHを6.2に調整するとともに、温度を15〜25℃に維持した。相分離が起こり、水相を酢酸エチル(2×26.7L)で抽出した。合わせた有機部分を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濃縮し、4555gの残渣を得た(101%粗製収率、HPLCにより67.1%AUC)。
4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリン(5)の精製
粗製生成物(575g)をシリカゲルクロマトグラフィーによって精製した(メタノール/酢酸エチル/ヘプタン(30%酢酸エチル/ヘプタン、50%酢酸エチル/ヘプタン、75%酢酸エチル/ヘプタン、100%酢酸エチル、および5%メタノール/酢酸エチルで溶出)。TLC(10%メタノール/ジクロロメタン、Rf=0.3)による純粋な画分の溶出により、420gの淡褐色固形物を得た(73%回収率、HPLCにより>99.9%AUC)。
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリル(6)の調製
1MのNaHMDS(2.0L、5.0当量)のTHFの調製を5L容フラスコに仕込み、−20〜−15℃まで冷却した。温度を−10℃より下に維持しながら、このフラスコに、フッ化物(119.7g、1.0当量)含有THF(500mL)を20分間かけて仕込んだ。アセトニトリル(82.5mL、4.0当量)含有THF(170mL)を20分間かけてフラスコに添加するとともに、温度を−10℃より下に維持した。次いで、反応混合物を1時間撹拌した。この反応液にブライン(1.5L、12.6容量)を、温度が10℃より下に維持される速度で添加した。次いで、溶液を室温まで昇温させ、層分離させた。混合物をセライト上で濾過し、THF(1×200mL、1×100mL)で洗浄した。水相をトルエン(750mL)で抽出した。合わせた有機部分を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、トルエン(2×25OmL)で洗浄し、濃縮乾固した。トルエン(1L)を添加し、溶液を再度濃縮乾固し、169.8gの油状物を得た。この油状物にMTBE(1190mL,7容量)を50℃で添加し、15分間撹拌した。ヘプタン(850mL、5容量)を50℃で10分間かけて添加した。次いで、混合物を室温まで1.5時間かけて冷却し、2時間撹拌した。スラリーを濾過し、1:4 MBTE/ヘプタン(2×100mL)で洗浄し、45℃で一晩炉内にて乾燥させ、102.3gのオフホワイト色固形物を得た(80%収率、HPLCにより98.8%AUC)。
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチル(7)の調製
ニトリル6(101g)とメタノール(1.01L、10容量)を、撹拌棒と熱電対を取り付けた3L容フラスコに仕込んだ。この溶液に濃H2SO4(175mL、10.0当量)を15分間かけて滴下するとともに、温度を60℃より下に維持した。続いて、この溶液に30%発煙硫酸(124mL)を滴下するとともに、温度を60℃より下に維持した。次いで、この溶液を加熱マントルで還流加熱し、一晩撹拌した。反応が終了したとみなされたとき、これを20℃まで冷却した。第2のフラスコ(22L)に、飽和重炭酸ナトリウム(10.7L)とジクロロメタン(1.1L)を仕込み、15℃まで冷却した。温度を20℃より下に維持しながら、反応混合物を重炭酸ナトリウム/ジクロロメタン混合物に添加した。クエンチ液を15分間撹拌すると相分離が起こった。水相をジクロロメタン(1×550mL、1×300mL)で抽出した。合わせた有機部分を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濃縮乾固し、105gのオレンジ色の固形物を得た(94%粗製収率、HPLCにより97.7%AUC)。
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド(KX2−391)の調製
エステル7(103g)、アニソール(513mL、5容量)、およびベンジルアミン(94mL、3.0当量)を、熱電対と頭上式攪拌装置を取り付けた3L容フラスコに仕込んだ。次いで、反応混合物を142℃まで加熱し、2日間撹拌した。反応混合物を45〜50℃まで冷却し、2時間撹拌した。この混合物に、n−ヘプタン(1.5L)を1時間かけて滴下した。この溶液を室温まで3時間かけて冷却し、次いで、一晩撹拌した。得られたスラリーを濾過し、4:1アニソール/n−ヘプタン(200mL)とn−ヘプタン(3×100mL)で洗浄した。炉内で一晩乾燥し、得られた生成物は、112.1gの褐色固形物であった(90%収率、HPLCにより99.6%AUC)。ヘプタンの単独の異性体の使用は、残留溶媒を充分に定量するのに必須であった。KX2−391の1H NMRに関する図5参照。
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド二塩酸塩(KX2−391 2HC1)の調製
EtOH(1.0L)を2L容フラスコに仕込み、このフラスコに塩化アセチル(62.5mL、3.0当量)をゆっくりと添加し、40分間撹拌した。得られた溶液をKX2−391(100g)に30分間かけて添加するとともに、温度を30℃に維持した。この溶液を質量270gまで濃縮した。濃縮した溶液を酢酸エチル(2L)に、高速撹拌しながら20分間かけて添加した。混合物を一晩撹拌し、次いで窒素下で濾過し、2種類の異なる固形生成物、褐色固形物(73.5g)と、より暗色の固形物(42.2g)を得た。これらの固形物をドライブレンドし、合計収率99%を得た。HPLC解析により、99.0%純度(AUC)が示された。
解析により、存在するエタノールは2530ppm、酢酸エチルは48,110ppm、塩化エチルは170ppm、ヘプタンとアニソールは検出されなかったことが示された。パラジウム含有量を3回アッセイし、29ppm、2ppm、および1ppm未満であると測定された。
KX2−391・2HClの晶出試験
表1に示す実験は、KX2−391・2HClの種々の晶出および沈殿条件を調べるために行なった。
沈殿は、エタノール濃縮溶液中での大容量の高速撹拌酢酸エチルへのKX2−391・2HC1の逆添加によって行なった。この沈殿手順は、2種類の異なる型の固形物の形成が得られるデモンストレーションバッチで行なった。この2種類の異なる型の固形物を物理的に分離し、別々に濾過した。褐色が薄い方の固形物(ロット02BP111E、74g、HPLCにより99.1%AUC)をまず濾過した後、褐色が濃い方の固形物(ロット02BP111F、43g、HPLCにより99.1%AUC)を濾過した。真空炉内で乾燥後、ブレンドする前に、2つの各固形物試料を解析用に保持した。目的のデータは、示差走査熱量測定(DSC、図1と2)および粉末X線回折(XRPD、図3と4)である。2つの試料のHPLCデータは同等であったが、DSCとXRPDは異なっていた。
両HPLC調製物は、99.0%より高い純度であり(面積%による)、ロット02BP111E試料では、およそ198℃で1回の吸熱事象が示されたが、ロット02BP111F試料では、117℃と189℃で2回の吸熱事象が示された。また、2つの試料のXRPDデータも異なっており、ロット02BP111E試料は結晶質のようであったが、ロット02BP111F試料は非晶質のようであった。HPLCデータ、XRPDデータおよびDSCデータは、2つの試料が同じ物質の異なる形態であることを裏付ける。
この2つのロットのKX2−391・2HCl(ロット02BP111Eと02BP111F)をドライブレンドし、新たなロットのKX2−391・2HCl(ロット02BP111G)を得た。KX2−391・2HCl(ロット02BP111G)は、170ppmの塩化エチルを含んでいた。
実施例4:2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシル酸塩(KX2−391・MSA)の調製
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリル(6)の調製
丸底反応器1にナトリウムビス(トリメチルジシリル)アミド(THF中、1.0M、23.2L)を仕込み、溶液を≦−10℃まで52分間かけて冷却した。ガラス製カーボイに、窒素下、化合物5(1400g、1重量)とTHF(7.0L、無水、5容量))を仕込んだ。バッチを窒素下、空気駆動式撹拌装置で撹拌した。このバッチは完全に可溶性ではなく、濁った溶液であった。化合物5の溶液を反応器1に、5L容滴下漏斗から41分間かけて添加した。アセトニトリル(965mL、無水、0.69容量)のTHF(2.0L、無水、1.43容量)溶液を調製し、反応器1に同じ滴下漏斗から≦−10℃で48分間かけてに添加した(微量の黄色固形物が反応器の壁面に存在した)。≦−10℃で45分間熟成後、解析用にバッチの試料採取を行ない、化合物5は、変換によって0.03%であった(規格は変換により≦1.5%)。試料採取の1時間24分後、ブライン(17.6L、12.6容量)を反応器1に52分間かけて添加し、不充分な撹拌バッチ(エマルジョンと類似)を得た。ケイソウ土パッドを24インチポリプロピレン漏斗上に準備した(1026gのセライト545の3.3Lの水中のスラリー、濾液は排気)。バッチを吸引下でパッドから濾過し、反応器をTHF(1.75L、1.25容量)ですすぎ、すすぎ液をケークに移した。ケークを第2の一部のTHF(1.75L、1.25容量)ですすぎ、合計濾過時間は1時間17分間であった。濾液を反応器2に移すと、相分離し、一晩保持した(バッチは、反応器内で窒素下に保持した)。有機相(およそ34.5L)を廃棄し、水相をトルエン(8.1L、5.8容量)で抽出し、16分間撹拌し、12分間にわたって放置した。分離後、トルエン抽出を省略し、単にトルエンを直接有機相に添加することことも可能である。水相(およそ19L)を除去し、有機相を合わせ、反応器2内で硫酸マグネシウム(1400g、1重量、無水)にて55分間にわたって乾燥させた。ガラス製カーボイ内へのインラインフィルターを取り付けた24インチポリプロピレン漏斗により、バッチを濾過した。バッチをアルゴンで覆い、低温室内(2〜8℃)で保存した(濃縮を保留)。翌日、バッチを濃縮して残渣とし、トルエン(11.8L、8.4容量)ですすぎ、これを濃縮した(水浴50±5℃)。トルエン添加時点で、バッチはオレンジ色のスラリーであり、濃縮後もそのままであった。合計濃縮時間は5時間3分であった。
反応器3にMTBE(13.9L、9.9容量,ACS)を仕込み、次いで、これを45±5℃に加熱した。MTBEを廃棄し、およそ2LのMTBEをバルブから反応器3内へのスラリーバッチに使用した。残りのMTBEを反応器3に添加し、バッチを45±5℃に維持し、次いで、バッチを33分間、この温度範囲で熟成させた。次いで、n−ヘプタン(10L、7.1容量、99%)を反応器3に39分間かけて添加し、バッチを45±5℃に維持した。加熱電源を切り、バッチを25±5℃まで4時間5分間かけて冷却し、この温度範囲で27時間4分間熟成させた。次いで、24インチポリプロピレン漏斗(PTFEクロス)によってバッチを吸引下で濾過し、乾燥窒素下で覆い、吸引した。合計濾過時間は20分間であった。オレンジ色のバッチ(正味湿潤重量1322g)を、45±5℃に設定した真空炉内で、一定の重量になるまで48時間3分間にわたって乾燥させた。バッチを、2つの80オンス琥珀色ガラス瓶(封止部にはテフロン(登録商標)で被覆)に移し、アルゴン(1217gの6、理論値の81%)で覆った。
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチル(7)の調製
22L容反応器に、化合物6(900g、2.78mol)とメタノール(9.0L、10容量、無水)を仕込んだ。この懸濁液に硫酸(1115mL、発煙)を2時間11分間かけて添加すると、暗色溶液が得られた。最大温度は65.5℃であった(目標≦65℃)。硫酸(1565mL、1.74容量、濃縮)をバッチに1時間49分間かけて添加し、次いで、バッチを18分間にわたって可視還流(74℃)加熱した。バッチをその温度に16時間57分間維持した。この穏やかな可視還流が非存在であると認めらた場合では、バッチを再度、79〜80℃で2時間15分間にわたって還流加熱した。バッチをその温度(80±5℃)に10時間57分間維持し、次いで、加熱電源を切り、26時間4分後、さらなる負荷量のメタノール(0.75L、0.8容量、無水)を加えて失われた溶媒容量を補充した。2.5〜3.3Lの溶媒がエバポレーションによって失われたと推定された。還流から42時間31分後のHPLC解析により、化合物6のレベルは変換により0.6%であることが示された(規格≦1.0%)。各反応器1と2に、塩化メチレン(4.8L、5.3容量)と炭酸水素ナトリウム溶液(48L、53.3容量、飽和)を仕込んだ。炭酸水素ナトリウム溶液は、2〜8℃で一晩保存し、翌朝除去した。22L容反応器の半分のバッチを分割して各反応器にそれぞれ、47分間および44分間かけて添加した(バッチ温度は、それぞれ、12〜13℃および14〜15℃であった)。クエンチは、二酸化炭素の発生(ボルテックスで激しく撹拌)によって行なった。次いで、各反応器のバッチを200L反応容器に移し、バッチを16分間撹拌し、次いで25分間にわたって放置すると、有機相が分離した。水相を塩化メチレンで2回、連続的に抽出した(5L、5.6容量、および2.7L、3容量);各抽出は、撹拌しながら15分間かけて行ない、それぞれ6分間および9分間にわたって放置した。合わせた有機相を反応器3に移し、硫酸マグネシウム(900g、1重量、無水)で35分間にわたって乾燥させた。次いで、シャークスキンクロスとインラインフィルター(10ミクロン、Pall P/N 12077)を取り付けた24インチポリプロピレン漏斗によって、バッチを吸引下で濾過した。濾液を回転式エバポレータにて合計2時間18分間にわたって40±5℃(水浴温度)で濃縮した。54分後、バッチは固化し、球状物が形成された。これを分解し、濃縮を継続した。次いで、バッチ(微細な固形物と脆性塊の混合物)を、さらに磨砕し、バルブに戻し、濃縮を継続した。バッチを、テフロン(登録商標)でで覆われた蓋を有する80オンスの琥珀色の瓶に移し、アルゴンで覆い、化合物7(871g、理論の88%)を得た。
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド(KX2−391)の調製
22L容反応器に、化合物7(650g、1.82mol)、アニソール(3.25L、5容量、無水)およびベンジルアミン(600mL、0.92容量、3当量)を仕込んだ。バッチ(およそ18℃)を142±5℃まで1時間44分間かけて加熱し、溶解は30℃で起こった。バッチを142±5℃に69時間30分間維持し、この時点で、HPLC解析により、化合物7は変換により0.9%であることが示された(規格は変換により≦1.7%)。バッチを45〜50℃まで5時間12分間にわたって冷却した(冷却を補助するため、バッチがおよそ72℃になったとき、窒素流を増やした)。その温度範囲で、バッチは撹拌が不充分であり、混合すると、バッチ温度は52℃に上昇した。これは、≦15分間で>50℃であった。最初に<50℃になったとき、バッチを2時間2分間熟成させ、次いで、n−ヘプタン(9.75L、15容量、99%)をバッチに1時間56分間かけて添加し、バッチ温度を45〜50℃に維持した。次いで、加熱を中止し、バッチを25℃まで10時間32分間かけて、次いで、およそ20℃まで20分間かけて冷却した。バッチを≦25℃に維持した合計時間は4時間50分間であった(およそ20℃で2時間47分間)。24インチポリプロピレンフィルター漏斗(PTFEクロスを取り付けた)によって、バッチを吸引下で濾過し、反応器をアニソール/n−ヘプタン(1.3L、4:1)ですすぎ、すすぎ液をケークに移した。次いで、ケークをn−ヘプタンで2回(1.3L、0.65L)連続的に洗浄した。合計濾過時間は39分間であった。バッチ(正味湿潤重量1004gのKX2・391)を、3つのガラストレイに移し、50℃に設定した真空炉内に入れ、一定の重量になるまで96時間26分間かけて乾燥させた。
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシル酸塩(KX2−391・MSA)の調製
KX2−391(520g、1.21mol)を、移送を簡単にするためのアセトン(41.6容量、80容量、ACS)を用いて反応器1に移した。バッチを50±5℃まで33分間かけて加熱すると、溶解が30℃で起こった。バッチを、インラインフィルター(Pall P/N 12077、10ミクロン)を取り付けた輸送ポンプによって第2の反応器内に全部移し、46℃から50±5℃まで再加熱した。メタンスルホン酸(121.4g、1.05当量、99%超純粋)を、薄黄色バッチに12分間かけて添加し、次いで、加熱を中断した。14分後、白色固形物が観察され、これは数が増え、59分後、白色懸濁液が得られた。バッチは7時間51分後25±5℃となり、さらに19時間21分間(≦27℃で10時間30分間)熟成させた。24インチポリプロピレンフィルター(PTFEクロス)によってバッチを吸引下で濾過し、反応器をアセトン(2.0L、清澄、ACS)ですすぎ、すすぎ液をケークに移した。ケークをステンレス鋼カバーで覆い、乾燥窒素流下で吸引した。合計濾過時間は21分間であった。バッチ(正味湿潤重量764g)を3つのガラス製乾燥トレイに移し、真空炉内で一定の重量になるまで25±5℃で21時間54分間にわたって乾燥させた(565g、理論の89%)。試料を解析用に取り出し、バッチを真空にて25±5℃に維持した。次いで、バッチを2つの80オンスの琥珀色ガラスビン(テフロン(登録商標)で被覆ポリプロピレン封止部)に移し、アルゴンで覆い、−10〜−20℃で保存した。
他の実施形態
本発明は以下をも提供する。
(1)(1)4−(2−クロロエチル)モルホリンを4−ブロモフェノールと反応させて4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンを得る工程;
(2)4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンを6−フルオロピリジン−3−イル−3−ボロン酸とカップリングさせて4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンを得る工程;
(3)4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンをアセトニトリルと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを得る工程;
(4)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルに変換させる工程;および
(5)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルをベンジルアミンと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドを得る工程
を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの調製のための方法。
(2)(1)4−(2−クロロエチル)モルホリンを4−ブロモフェノールと反応させて4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンを得る工程;
(2)4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンを6−フルオロピリジン−3−イル−3−ボロン酸とカップリングさせて4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンを得る工程;
(3)4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンをアセトニトリルと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを得る工程;
(4)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルに変換させる工程;
(5)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルをベンジルアミンと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドを得る工程;および
(6)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドをメタンスルホン酸と接触させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシラートを得る工程
を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシラートの調製のための方法。
(3)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドをメタンスルホン酸と接触させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシラートを得る工程
を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシラートの調製のための方法。
(4)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルをベンジルアミンと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドを得る工程
を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの調製のための方法。
(5)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルに変換させる工程
を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの調製のための項目4に記載の方法。
(6)4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンをアセトニトリルと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを得る工程
を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの調製のための項目5に記載の方法。
(7)4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンを6−フルオロピリジン−3−イル−3−ボロン酸とカップリングさせて4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンを得る工程
を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの調製のための項目6に記載の方法。
(8)4−(2−クロロエチル)モルホリンを4−ブロモフェノールと反応させて4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンを得る工程
を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの調製のための方法。
(9)4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンを6−フルオロピリジン−3−イル−3−ボロン酸とカップリングさせて4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンを得る工程
を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの調製のための方法。
(10)4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリンをアセトニトリルと反応させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを得る工程
を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの調製のための方法。
(11)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリルを2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチルに変換させる工程
を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドの調製のための方法。
(12)2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドをメタンスルホン酸と接触させて2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシラートを得る工程を含む、2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシラートの調製のための項目4〜11のいずれか1項に記載の方法。
(13)KX2−391メシル酸塩を含む組成物。
(14)前記KX2−391メシル酸塩がHPLCによる測定時、98.0%より高い純度を有する、項目13に記載の組成物。
(15)前記KX2−391メシル酸塩が99.0%の純度を有する、項目13に記載の組成物。
(16)前記KX2−391メシル酸塩が99.5%の純度を有する、項目13に記載の組成物。
(17)前記KX2−391メシル酸塩が99.6%の純度を有する、項目13に記載の組成物。
(18)前記KX2−391メシル酸塩が99.7%の純度を有する、項目13に記載の組成物。
(19)前記組成物が、塩化エチル、エタノール、酢酸エチル、ヘプタン、アニソール、パラジウム、およびその組合せから選択される、2%未満の不純物を含む、項目13に記載の組成物。
(20)薬学的に許容され得る担体または賦形剤をさらに含む、項目13〜19のいずれか1項に記載の組成物。
(21)プロテインキナーゼシグナル伝達カスケードのうち1種類以上の成分を調節するための医薬の製造における、項目13〜20のいずれか1項に記載の組成物の使用。
(22)前記医薬が、Srcファミリープロテインキナーゼ、接着斑キナーゼ、およびチロシンキナーゼから選択されるキナーゼを阻害する、項目21に記載の使用。
(23)前記チロシンキナーゼがSrcファミリープロテインキナーゼである、項目22に記載の使用。
(24)前記医薬が経口投与される、項目21〜23のいずれか1項に記載の使用。
(25)前記医薬が局所的に投与される、項目21〜23のいずれか1項に記載の使用。(26)前記キナーゼカスケードの成分が、過剰増殖性障害、癌、前癌、骨粗鬆症、心血管障害、免疫系機能不全、II型糖尿病、肥満、難聴、および移植片拒絶から選択される疾患または障害の症状発現の原因である、項目21に記載の使用。
本発明をその詳細説明とともに説明したが、前述の説明は、例示を意図し、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲を限定しない。他の態様、利点および変形例は、添付の特許請求の範囲に含まれる。当業者には、本明細書において、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱することなく、形態および詳細において種々の変更が行なわれ得ることが理解されよう。