ところで、近年では、自動二輪車/三輪車のような鞍乗型車両にもナビゲーション装置が取り付けられることがあり、特許文献1のような報知システムの導入も可能である。
この点、旋回走行時に車体を傾けてバランスを取り、タイヤの接地面積も小さい自動二輪車/三輪車のような鞍乗型車両は、四輪自動車に比して路面状況の影響を受けやすいことから、特許文献1の「事故発生個所」とは異なる視点からの報知を行うことが考えられる。しかし、特許文献1のナビゲーション装置では、鞍乗型車両に特化した路面情報の報知をその必要性が高い場合にのみ行うことは検討されていなかった。
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、鞍乗型車両の特性を考慮した路面状況の報知を特定の状況にのみ行うことができる鞍乗型車両の路面状況報知装置並びに鞍乗型車両の路面状況判断装置を提供することにある。
前記目的を達成するために、本発明は、自車位置を検知する位置検知機能部(40)と、所定条件が満たされると乗員に報知を行う制御部(7)とを有する鞍乗型車両(1)に適用される鞍乗型車両の路面状況報知装置において、前記制御部(7)は、自車位置から所定距離内の路面が濡れているか否かの情報であるウェット路情報(51)と、濡れた際の摩擦係数が通常舗装路(70,80)より低い値となるウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)の位置情報(41,55)とを取得し、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、かつ前記ウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)に近づいたときに乗員に報知を行う点に第1の特徴がある。
また、前記制御部(7)は、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、道路の交差点(73)に所定時間内に到達すると予測され、かつ前記交差点(73)に前記ウェット時低μ路(M2,M3,M4,M5)が存在するときに報知を行う点に第2の特徴がある。
また、前記鞍乗型車両(1)が、ウインカ装置(70,71)を操作するウインカスイッチ(33)を備え、前記制御部(7)は、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、前記交差点(73)に所定時間内に到達すると予測され、かつ前記ウインカスイッチ(33)が操作され、さらに、前記ウインカ装置(70,71)の作動方向に右折または左折した後の進行経路上に前記ウェット時低μ路(M4,M5)が存在するときに報知を行う点に第3の特徴がある。
また、前記制御部(7)は、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、前記交差点(73)に所定時間内に到達すると予測され、かつナビゲーション装置が案内する右折または左折後の進行経路上に前記ウェット時低μ路(M4,M5)が存在するときに報知を行う点に第4の特徴がある。
また、前記制御部(7)は、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、所定値を超える曲率を有するカーブ路(80)に所定時間内に到達すると予測され、かつ前記カーブ路(80)に前記ウェット時低μ路(M7)が存在するときに報知を行う点に第5の特徴がある。
また、前記鞍乗型車両(1)が、車体のロール角を検出するロール角検出手段(14)を備え、前記制御部(7)は、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、前記ウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)に所定時間内に到達すると予測され、かつ前記ロール角が所定値より大きいときに報知を行う点に第6の特徴がある。
また、前記鞍乗型車両(1)が、動力源のスロットル開度を検出するスロットル開度センサ(37)を備え、前記制御部(7)は、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、前記ウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)に所定時間内に到達すると予測され、かつ前記スロットル開度が所定値より大きいときに報知を行う点に第7の特徴がある。
また、前記鞍乗型車両(1)が、ブレーキ装置の操作を検出するブレーキ操作検出部(29,38)を備え、前記制御部(7)は、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、前記ウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)に所定時間内に到達すると予測され、かつ前記ブレーキ操作検出部(29,38)がブレーキ操作を検出したときに報知を行う点に第8の特徴がある。
また、前記鞍乗型車両(1)が、ネットワーク通信部(43)を備え、前記制御部(7)は、前記ネットワーク通信部(43)を介して、外部のシステムサーバ(50)または周辺走行車両(60)から前記ウェット路情報(51,61)を取得する点に第9の特徴がある。
また、前記鞍乗型車両(1)が、駆動輪(WR)の駆動力を調整するトラクションコントロールシステム(15)を備え、前記制御部(7)は、前記報知を行う際に、前記駆動輪(WR)のスリップを抑えるように前記トラクションコントロールシステム(15)を作動させる点に第10の特徴がある。
また、前記鞍乗型車両(1)が、乗員に対する報知の手段として、運転者(P)のヘルメット(24)周辺に設けられるワイヤレススピーカ(23)、運転者(P)のヘルメット(24)周辺に設けられるヘッドマウントディスプレイ(25)、運転者(P)の前方で車体に設けられるヘッドアップディスプレイ(4)、メータ装置(28)のメータインジケータ(39)、運転者(P)の身体に触れるハプティックデバイス(H)のうちの少なくとも1つ以上を有する点に第11の特徴がある。
また、前記ウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)の位置情報(41)は、前記制御部(7)に記憶されている点に第12の特徴がある。
また、前記ウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)の位置情報(55)は、前記制御部(7)に設けられたネットワーク通信部(43)を用いて外部のシステムサーバ(55)から取得される点に第13の特徴がある。
さらに、自車位置を検知する位置検知機能部(40)と、所定条件が満たされると乗員に報知を行う制御部(7)とを有する鞍乗型車両(1)に適用される鞍乗型車両の路面状況判断装置において、前記制御部(7)は、自車位置から所定距離内の路面が濡れているか否かの情報であるウェット路情報(51)と、濡れた際の摩擦係数が通常舗装路(70,80)より低い値となるウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)の位置情報(41,55)とを取得し、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、かつ前記ウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)に近づいたと判断する点に第14の特徴がある。
第1の特徴によれば、前記制御部(7)は、自車位置から所定距離内の路面が濡れているか否かの情報であるウェット路情報(51)と、濡れた際の摩擦係数が通常舗装路(70,80)より低い値となるウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)の位置情報(41,55)とを取得し、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、かつ前記ウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)に近づいたときに乗員に報知を行うので、マンホールに代表されるウェット時低μ路が近づいても、スリップの可能性が低いドライ状態での報知を抑えて乗員の快適性を高めると共に、ウェット状態ではマンホールが近づいていることを運転者に報知することが可能となる。
第2の特徴によれば、前記制御部(7)は、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、道路の交差点(73)に所定時間内に到達すると予測され、かつ前記交差点(73)に前記ウェット時低μ路(M2,M3,M4,M5)が存在するときに報知を行うので、車両の速度や姿勢が変化しやすい交差点にウェット時低μ路があることを報知の付加条件とすることで、より状況を絞って報知を行うことができる。
第3の特徴によれば、前記鞍乗型車両(1)が、ウインカ装置(70,71)を操作するウインカスイッチ(33)を備え、前記制御部(7)は、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、前記交差点(73)に所定時間内に到達すると予測され、かつ前記ウインカスイッチ(33)が操作され、さらに、前記ウインカ装置(70,71)の作動方向に右折または左折した後の進行経路上に前記ウェット時低μ路(M4,M5)が存在するときに報知を行うので、ウインカスイッチの操作信号を用いて自車が交差点を右折または左折することを予測し、交差点を曲がった先にウェット時低μ路があることを付加条件とすることで、より状況を絞って報知を行うことができる。これにより、交差点を右折または左折した後の走行経路上にウェット時低μ路が存在しても、ウェット時低μ路を通過しないと予測される場合は報知を行わないようにし、より状況を絞って報知を行うことができる。
第4の特徴によれば、前記制御部(7)は、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、前記交差点(73)に所定時間内に到達すると予測され、かつナビゲーション装置が案内する右折または左折後の進行経路上に前記ウェット時低μ路(M4,M5)が存在するときに報知を行うので、ナビゲーション装置を用いて自車が交差点を右折または左折することを予測し、交差点を曲がった先にウェット時低μ路があることを付加条件とすることで、より必要性の高いシーンに絞って報知を行うことができる。これにより、交差点を右折または左折した後の走行経路上にウェット時低μ路が存在しても、ウェット時低μ路を通過しないと予測される場合は報知を行わないようにし、より状況を絞って報知を行うことができる。
第5の特徴によれば、前記制御部(7)は、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、所定値を超える曲率を有するカーブ路(80)に所定時間内に到達すると予測され、かつ前記カーブ路(80)に前記ウェット時低μ路(M7)が存在するときに報知を行うので、鞍乗型車両がカーブ路で旋回方向に傾きながら走行することに対応し、カーブ路にウエット時低μ路があることを付加条件とすることで、より必要性の高いシーンに絞って報知を行うことができる。
第6の特徴によれば、前記鞍乗型車両(1)が、車体のロール角を検出するロール角検出手段(14)を備え、前記制御部(7)は、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、前記ウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)に所定時間内に到達すると予測され、かつ前記ロール角が所定値より大きいときに報知を行うので、鞍乗型車両がロール角の大きい状態での旋回走行に対応し、ロール角が大きいことを報知の付加条件とすることで、より状況を絞って報知を行うことができる。
第7の特徴によれば、前記鞍乗型車両(1)が、動力源のスロットル開度を検出するスロットル開度センサ(37)を備え、前記制御部(7)は、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、前記ウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)に所定時間内に到達すると予測され、かつ前記スロットル開度が所定値より大きいときに報知を行うので、ウェット時低μ路では、スロットル開度が大きく車輪の駆動力が増加することに対応し、スロットル開度が大きいことを報知の付加条件とすることで、より状況を絞って報知を行うことができる。
第8の特徴によれば、前記鞍乗型車両(1)が、ブレーキ装置の操作を検出するブレーキ操作検出部(29,38)を備え、前記制御部(7)は、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、前記ウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)に所定時間内に到達すると予測され、かつ前記ブレーキ操作検出部(29,38)がブレーキ操作を検出したときに報知を行うので、ウェット時低μ路では、ブレーキ制動力が発生した状態であることに対応し、ブレーキ操作があることを報知の付加条件とすることで、より状況を絞って報知を行うことができる。
第9の特徴によれば、前記鞍乗型車両(1)が、ネットワーク通信部(43)を備え、前記制御部(7)は、前記ネットワーク通信部(43)を介して、外部のシステムサーバ(50)または周辺走行車両(60)から前記ウェット路情報(51,61)を取得するので、ウェット路面情報を鞍乗型車両の外部から取得することで、常に最新のウェット路情報を得ることができる。
第10の特徴によれば、前記鞍乗型車両(1)が、駆動輪(WR)の駆動力を調整するトラクションコントロールシステム(15)を備え、前記制御部(7)は、前記報知を行う際に、前記駆動輪(WR)のスリップを抑えるように前記トラクションコントロールシステム(15)を作動させるので、乗員への報知だけでなく、トラクションコントロールシステムを作動させることで、駆動力を最適にすることが可能となる。
第11の特徴によれば、前記鞍乗型車両(1)が、乗員に対する報知の手段として、運転者(P)のヘルメット(24)周辺に設けられるワイヤレススピーカ(23)、運転者(P)のヘルメット(24)周辺に設けられるヘッドマウントディスプレイ(25)、運転者(P)の前方で車体に設けられるヘッドアップディスプレイ(4)、メータ装置(28)のメータインジケータ(39)、運転者(P)の身体に触れるハプティックデバイス(H)のうちの少なくとも1つ以上を有するので、ウェット時低μ路であることの報知を効果的に行うことが可能となる。
第12の特徴によれば、前記ウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)の位置情報(41)は、前記制御部(7)に記憶されているので、例えば、ネットワーク通信を介してウェット時低μ路の位置情報を取得する場合に比して、ウェット時低μ路の位置情報と自車位置とを照合する処理速度を速めることができる。
第13の特徴によれば、前記ウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)の位置情報(55)は、前記制御部(7)に設けられたネットワーク通信部(43)を用いて外部のシステムサーバ(55)から取得されるので、最新のウェット時低μ路の位置情報を取得することができ、報知の精度を高めることができる。
第14の特徴によれば、前記制御部(7)は、自車位置から所定距離内の路面が濡れているか否かの情報であるウェット路情報(51)と、濡れた際の摩擦係数が通常舗装路(70,80)より低い値となるウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)の位置情報(41,55)とを取得し、前記自車位置の周辺の路面が濡れており、かつ前記ウェット時低μ路(M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8)に近づいたと判断するので、マンホールに代表されるウェット時低μ路が近づいたことを検出することが可能となる。
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る鞍乗型車両の路面状況報知装置を適用した自動二輪車1の左側面図である。自動二輪車1は、乗員Pの両足を乗せる低床フロア13を有するスクータ型の鞍乗型車両である。前輪WFを回転自在に軸支するフロントフォーク12は、自動二輪車1の車体フレームに揺動可能に軸支されている。フロントフォーク12の上部は、操向ハンドル27に連結されている。
自動二輪車1の車体後方には、内燃機関および変速機を一体に構成したユニットスイング式のパワーユニット17が揺動可能に取り付けられている。駆動輪としての後輪WRを回転自在に軸支するパワーユニット17の後端部は、リヤクッション19によって車体フレームに吊り下げられている。パワーユニット17の上部には、エアクリーナボックス18が配設されている。
自動二輪車1の前部は、ヘッドライト10が配設されたフロントカウル8で覆われている。フロントカウル8の上部には防風スクリーン6が設けられ、フロントカウル8の後部には、乗員Pの足に対向するフロアパネル3が設けられている。ヘッドライト10の上部には、左右一対の前側ウインカ装置70が配設されている。
フロントカウル8と低床フロア13との間は、サイドカウル11によって連結されている。低床フロア13の後方上部には、シート22を支持するリヤカウル21が配設されている。リヤカウル21の後端部には尾灯装置20が取り付けられている。尾灯装置20の下方には、左右一対の後側ウインカ装置71が配設されている。
シート22の下方の車幅方向中央の位置には、車体のロール角、ピッチ角およびヨーレートを検出可能な慣性センサ14が設けられている。パワーユニット17には、後輪WRの駆動力を制御してタイヤのスリップを防ぐトラクションコントロールシステム15と、後輪WRの回転速度を検出する車速センサ16とが設けられている。
フロントカウル8の内側には、内燃機関の出力制御等のほか、本願発明に係る路面状況の報知を行う制御部7が配設されている。防風スクリーン6の内側には降雨状態を検出する雨センサ9が配設され、防風スクリーン6と操向ハンドル27との間には種々の情報を表示可能なヘッドアップディスプレイ5が配設されている。また、ヘッドアップディスプレイ5に替えて操向ハンドル27等にスマートフォン等の通信機器4を取り付けることもできる。そして、乗員Pのヘルメット24には、小型バッテリで駆動するスピーカ23およびシールド26に一体のヘッドマウントディスプレイ25が配設されている。
図2は、乗員Pの視点から見た自動二輪車1のハンドルまわりの構造図である。防風スクリーン6と操向ハンドル27との間には、速度計や距離計等を有するメータ装置28が配設されている。メータ装置28には、各種の情報表示、ランプの点灯や点滅で乗員に報知を行うメータインジケータ39が設けられている。
操向ハンドル27の右側には、右側ハンドルスイッチ34、前輪ブレーキレバー36、内燃機関のスロットル操作子である右側ハンドルグリップ35が設けられている。前輪ブレーキレバー36の基部には、ブレーキ操作が行われたことを検知するブレーキ操作検出部としてのブレーキスイッチ38が設けられている。右側ハンドルスイッチ34の内部には、右側ハンドルグリップ35の回動角度を検知するスロットル開度センサ37が配設されている。また、右側ハンドルグリップ35の内部には、ハプティックデバイスHとしてのバイブレータ46が設けられている。
操向ハンドル27の左側には、左側ハンドルスイッチ32、後輪ブレーキレバー30、左側ハンドルグリップ31が設けられている。左側ハンドルスイッチ32には、前後のウインカ装置70,71を操作するウインカスイッチ33が配設されている。後輪ブレーキレバー30の基部には、ブレーキ操作が行われたことを検知するブレーキスイッチ29が設けられている。左側ハンドルグリップ31の内部には、ハプティックデバイスHとしてのバイブレータ46が設けられている。
図3は、本実施形態に係る鞍乗型車両の路面状況報知装置(鞍乗型車両の路面状況判断装置)のシステム構成図である。本実施形態に係る鞍乗型車両の路面状況報知装置は、アスファルトやコンクリート等の普通舗装路上に配設される、マンホールの蓋、工事現場の鉄板、線路、道路の継ぎ目等、特に雨天時に滑りやすくなる「ウェット時低μ路」が近づいた際にこれを乗員に報知するものである。これにより、事前に「ウェット時低μ路」を認知することができる。さらに、本実施形態では、報知の必要性が低いドライ時には報知を行わず、ウェット時にのみ報知を行う点に特徴がある。
制御部としての車載制御装置7には、位置検知機能部としてのGPS機能部40、ウェット時低μ路情報41、運転者側通信部42、ネットワーク通信部43、ウォーニング発生手段44、CAN信号送受信部45が含まれる。GPS機能部40は、全地球測位システム(GPS)によって経路案内(ナビゲーション)等に用いるための自車位置を検出する。ウェット時低μ路情報41は、マンホールに代表されるウェット時低μ路の位置情報を含む地図からなる。運転者側通信部42は、Bluetooth(登録商標)等の無線通信やCAN通信を介して、スピーカ23、ヘッドマウントディスプレイ25、ヘッドアップディスプレイ5、メータインジケータ39、ハプティックデバイスH等からなるウォーニング出力装置Wの駆動信号を出力する。ハプティックデバイスHは、ハンドルグリップ31,35に設けられたバイブレータ46のほか、シート下のバイブレータ、スロットルグリップの回動摩擦調整装置または反力発生装置等を含むことができる。
ネットワーク通信部43は、無線通信器を介してインターネットへの接続を行う。ウォーニング発生手段44は、ウェット時低μ路が所定距離内に近づいたり、ウェット時低μ路に所定時間内に到達すると予測された場合等に、運転者側通信部42を介してウォーニング出力装置Wを駆動し、乗員への報知を行う。また、CAN信号送受信部45は、ブレーキ操作検出部としてのブレーキスイッチ29,38、車速センサ16、ウインカスイッチ33、慣性センサ14、雨センサ9、スロットル開度センサ46の出力信号を受信すると共に、トラクションコントロールシステム15の作動信号を出力する。トラクションコントロールシステム15は、燃料噴射や点火のカット、スロットルバイワイヤ方式のスロットルバルブを駆動する等によって、内燃機関の駆動力を低減してスリップを防止するシステムである。なお、トラクションコントロールシステムのほか、制動力制御装置、電子制御サスペンションや電子制御ステアリング装置等により車体挙動を制御システムを適用してもよい。
本実施形態では、ネットワーク通信部43がインターネットを介してシステムサーバ50にアクセス可能に構成されている。システムサーバ50には、ウェット路情報51、サーバ側ウェット時低μ路情報55が含まれる。
ウェット路情報51には、他車が取得したウェット路情報52およびインフラから取得したウェット路情報53が含まれる。他車が取得したウェット路情報52は、雨センサおよび無線通信器を有する他車からシステムサーバ50にアップされたものであり、インフラから取得したウェット路情報53は、天気予報情報や各地に配設された降雨センサ(雨量計)の情報がシステムサーバ50にアップされたものである。車載制御装置7は、これらのウェット路情報に基づいて、自車の周囲の路面が濡れているか否かを認識することが可能となる。なお、ウェット路情報は、降雨に限られず、雪やひょうが降る、露が下りる、道路清掃車が走る、水道管や河川からの流水等、路面が濡れる原因となる種々の情報を含むことができる。また、ウェット路情報は、雨がやんでから路面が乾くまでにかかる時間、他車の乗員が投稿した現在の降雨状況、晴天でも残雪や凍結がある場合や凍結防止剤が散布されている場合等を考慮したものとすることができる。
サーバ側ウェット時低μ路情報55は、マンホールや鉄板が新設された等、ウェット時低μ路の最新情報がアップされたものである。車載制御装置7は、システムサーバ50に定期的(例えば、1日1回)にアクセスすることで、車載制御装置7に記憶されているウェット時低μ路情報41を更新することができる。本実施形態では、通常走行時には車載制御装置7に記憶されたウェット時低μ路情報41を用いて乗員への報知を行うため、サーバ側ウェット時低μ路情報55に常時アクセスする方式に比して、報知に必要な処理速度を高めることが可能となる。
図4は、鞍乗型車両の路面状況報知装置の変形例を示すシステム構成図である。この変形例では、ネットワーク通信部43が車々間通信(V2VやV2X通信)によって周辺走行車両60からウェット路情報を取得する点に特徴がある。周辺走行車両60のウェット路情報61には、周辺走行車両がインフラから取得したウェット路情報62および周辺走行車両が直接取得したウェット路情報63が含まれる。周辺走行車両がインフラから取得したウェット路情報62は、他車が取得した天気予報情報や各地に配設された降雨センサ(雨量計)の情報である。また、周辺走行車両が直接取得したウェット路情報63は、周辺走行車両の雨センサによって取得されたウェット路情報である。
このような構成により、車載制御装置7は、システムサーバ50や周辺走行車両60から常に最新のウェット路情報を取得することができる。
図5は、交差点にウェット時低μ路が存在する場合の報知の条件を示す概念図である。道路70を構成する自車線71および対向車線72の路面は、アスファルトやコンクリートからなる普通舗装路であり、この道路上に、ウェット時低μ路であるマンホールM1,M2,M3,M4,M5,M6が存在している。
この図では、自車である鞍乗型車両1が十字路の交差点73に向かって走行中である。一般的に、交差点では、マンホールの有無にかかわらず、ブレーキ制動力や加速駆動力の発生、車体姿勢の変化等の事象が発生しやすい。本実施形態では、交差する道路の端部から所定距離Tの範囲を交差点73として設定しており、この交差点73内に4つのマンホールM2,M3,M4,M5が存在している。マンホールM1は交差点73の手前側に位置し、マンホールM6は交差点73の奥側に位置している。
鞍乗型車両1は、現在、マンホールM1の近傍を走行しているが、このマンホールM1に対しては、自車の周辺の路面が水に濡れており、かつマンホールM1が近づいた際に乗員に報知を行うことができる。この「近づいた」か否かの判断は、単に所定距離内に入った場合のほか、自車位置と車速情報とを用いて何秒後に到達するかという観点から行うことができる。一方、交差点73のかなり手前にあるマンホールM1に対しては、乗員Pがブレーキを操作したり車体を傾けながら通過する可能性が低いと考えて、ウェット状態であっても報知を行わないように設定してもよい。このような設定は、交差点73を直進通過した後の走行経路にあるマンホールM6にも同様に行うことができる。
本実施形態では、交差点73にマンホールM2,M3,M4,M5が存在するため、ウェット路情報に基づいて自車の周辺の路面が濡れており、かつ所定時間内に交差点73に到達すると判定されると、ウォーニング出力装置Wを駆動して乗員に報知を行う。換言すれば、自車の周辺の路面がウェット状態であっても交差点73にマンホールが存在しない場合は報知を行わず、また、交差点73にマンホールMが存在してもドライ状態であれば報知を行わない。これにより、ウェット時低μ路であってもドライ状態では、報知を抑えて運転の快適性を高めることができる。
報知は、スピーカ23による警告音、ヘッドマウントディスプレイ25等の表示装置による警告表示、バイブレータ46等のハプティックデバイスHの駆動等によって実行される。なお、スピーカは車両に設けられたオーディオ用スピーカとしてもよい。
次に、報知条件の変形例として、交差点73内にマンホールが存在しても、自車の走行経路上に存在しなければ報知しないとする付加条件を設けることができる。第1変形例としては、ウインカ装置70,71を操作するウインカスイッチ33の操作信号に基づいて自車が交差点を右折または左折することを予測し、交差点を曲がった先にウェット時低μ路があることを付加条件とするものである。
例えば、交差点73を左折した先のマンホールM4のみが存在している場合、交差点73に所定時間内に到達すると予測され、かつウインカスイッチ33が左折方向に操作された場合に報知が実行される。また、交差点73を右折した先のマンホールM5のみが存在している場合、交差点73に所定時間内に到達すると予測され、かつウインカスイッチ33が右折方向に操作された場合に報知が実行される。すなわち、例えば、左折した先のマンホールM4のみが存在しているとき、ウインカスイッチ33が操作されていない場合、または、ウインカスイッチ33が右折方向に操作された場合には、マンホールM4を通過しないと予測して報知を行わないようにすることができる。
さらに、自車が交差点を右折または左折することの予測は、ナビゲーション装置の経路案内が実行中であれば、ナビゲーション装置の情報に基づいて行うことができる。すなわち、例えば、左折した先のマンホールM4のみが存在しているとき、ナビゲーション装置の案内経路が直進または右折である場合には、マンホールM4を通過しないと予測して報知を行わないようにすることができる。
対向車線72にマンホールが存在する場合には、これを自車両が通過する可能性は低いとして、報知を行わないように設定することができる。なお、交差点の形態は、十字路に限られず三叉路や五叉路であってもよい。
図6は、カーブ路にウェット時低μ路が存在する場合の報知の条件を示す概念図である。カーブ路80を構成する自車線81および対向車線82の路面は、アスファルトやコンクリートからなる普通舗装路であり、自車線81上に、ウェット時低μ路であるマンホールM7が存在し、対向車線82上にマンホールM8が存在している。
この図では、自車である鞍乗型車両1が所定の曲率を超える曲率半径Rを有するカーブ路80を走行中である。一般的に、カーブ路では、車体を旋回方向に傾ける。なお、カーブ路80の始点は、例えば、曲率半径Rが描く円弧の始点に設定することができる。
本実施形態では、カーブ路80の自車線にマンホールM7が存在するため、ウェット路情報に基づいて自車の周辺の路面が濡れており、かつ所定時間内にカーブ路80に到達すると判定されると、乗員に報知を行う。また、ウェット路情報に基づいて自車の周辺の路面が濡れており、かつ所定時間内にマンホールM7に到達すると判定されることで報知を行うように設定してもよい。いずれの場合も、対向車線82のマンホールM8のみが存在する場合は、これを通過する可能性が低いとして報知を行わないように設定できる。
次に、報知条件の変形例として、カーブ路80の自車線81にマンホールM7が存在しても、慣性センサ14により検知される車体のロール角が所定値より小さいときには、報知を行わないように設定できる。すなわち、ロール角が所定値より大きい状況に絞って報知を行うことができる。
このような付加条件には、他に、車速が所定値より大きい場合、スロットル開度センサ37で検知されるスロットル開度が所定値より大きい場合、スロットルが急閉された場合(後輪WRにエンジンブレーキがかかる)、ブレーキスイッチ29,38の出力信号に基づいて検知されるブレーキ操作がある場合等を含めることができる。なお、ブレーキ操作検出部は、ブレーキスイッチに限られず、例えば、油圧ブレーキの場合は、油圧センサの出力値が所定値を超えた場合とすることもできる。
また、上記した報知を行う際に、後輪WRの駆動力を調整するトラクションコントロールシステム15を作動させるように設定することができる。トラクションコントロールシステム15の作動は、報知と連動してオフからオンに切り換えたり、また、報知の際にオンであった場合は作動モードをよりスリップ対策に適したレインモードに切り替えるように設定することができる。
図7は、ウェット時低μ路ウォーニング制御の手順を示すフローチャートである。ステップS1では、車載制御装置7が、GPS機能部40および慣性センサ14を用いて、自車の現在位置及び進行方向を取得する。ステップS2では、ネットワーク通信部43が、ネットワーク通信によりウェット路情報51を取得する。ステップS3では、現在位置周辺の路面がウェット状態であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS4の交差点ウォーニング制御に移行する。なお、ステップS3で否定判定されると一連の制御を終了する。また、このステップS1〜S3の手順は、例えば、1分に1度の頻度で定期的に実行される。
図8は、交差点ウォーニング制御の手順を示すフローチャートである。ステップS10では、車載制御装置7が、現在位置、進行方向及び車速情報が取得する。ステップS11では、5秒以内(所定時間内)に交差点に到達するか否かが判定され、肯定判定されるとステップS12に進む。ステップS12では、交差点の直進路上にマンホールがあるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS13に進んでウォーニング発生手段44がウォーニング発生信号をオンすることで乗員への報知が行われる。
一方、ステップS12で否定判定されると、ステップS14に進んで、ウインカスイッチ33のウインカ操作信号があるか否かが判定される。ステップS14で肯定判定されると、ステップS15に進んで、右左折後の路上にマンホールがあるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS13で乗員への報知が行われ、一連の制御を終了する。
そして、ステップS11,S15で否定判定されると、ステップS16のカーブ路ウォーニング制御に移行する。
図9は、カーブ路ウォーニング制御の手順を示すフローチャートである。ステップS20では、5秒以内にマンホールのあるカーブ路に到達するか否かが判定される。ステップS20で肯定判定されると、ステップS21では、カーブ路の曲率が所定値を超えているか否かが判定され、肯定判定されるとステップS22で乗員への報知が行われ、一連の制御を終了する。
一方、ステップS20,21で否定判定されると、ステップS23に進んで、4秒以内にマンホールに到達するか否かが判定される。ステップS23で否定判定されると、マンホールが存在しないとして、そのまま一連の制御を終了する。
なお、ステップS23の判定では、単に自車がマンホールに到達するか否かのみならず、より精度を高めた自車位置、車速およびロール角等の情報に基づいて、自車線上に存在するマンホールに乗る可能性の有無を判定するようにしてもよい。詳しくは、マンホールが自車線上に存在しても、例えば、自車線の路肩付近にマンホールが存在するのに対し、自車が自車線の中央寄りを走行すると予測される場合には、マンホールには乗らずにマンホールの側方を通過する可能性が高いとして、報知を行わないように設定することが可能である。このマンホールに乗るか否かの判定は、交差点ウォーニング制御にも適用することができる。
フローチャートに戻って、ステップS23で肯定判定される、すなわち、4秒以内にマンホールに到達すると判定されると、ステップS24に進む。ステップS24では、車体のロール角が所定値を超えているか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS22で乗員への報知が行われる。
一方、ステップS24で否定判定されると、ステップS25に進んで、ブレーキ操作信号がオンか否かが判定される。ステップS25で肯定判定されると、ステップS22で乗員への報知が行われる。すなわち、ロール角が小さい場合でもブレーキ操作が行われていれば報知を行うものである。なお、ステップS25の判定は、ブレーキ油圧が所定値を超えた等によってブレーキ操作を検出したときや、スロットルの急開および急閉を付加条件としてもよい。
上記したように、本発明に係る鞍乗型車両の路面状況報知装置によれば、自車の周辺の路面が濡れており、かつマンホールに代表されるウェット時低μ路が近づいた場合に乗員に報知するようにしたので、ドライ状態での報知を抑えて乗員の快適性を高めると共に、ウェット状態に絞って報知を行うことができる。
なお、自車位置の検出は、実施例のGPSに限られず、いわゆる路車間通信、ITS(Intelligent Transport System:高度道路交通システム)、ジャイロスコープによる自律走行によるもの、あるいはこれらを組み合わせるものであってもよい。また、交差点やカーブ路の形態、報知条件としての交差点/カーブ路およびウェット時低μ路までの距離や時間の設定、を算出するための始点の設定、交差点やカーブ路までの距離や時間を算出するための交差点やカーブ路の始点の設定、報知の付加条件の内容や組み合わせ、付加条件としてのロール角度/車速/スロットル開度に係る所定値等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。本発明に係る鞍乗型車両の路面状況報知装置は、自動二輪車に限られず、前側2輪/後側1輪の三輪車、前側1輪/後側2輪の鞍乗型三輪車に適用することが可能である。