JP6325523B2 - 液体急結剤 - Google Patents

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Description

本発明は、道路、鉄道、及び導水路等のトンネルにおいて、露出した地山面へ吹付ける液体急結剤に関する。
従来、トンネル掘削等、露出した地山の崩落を防止するために、急結剤をコンクリートに混合した急結性コンクリートの吹付け工法が用いられている(特許文献1)。
この工法は、通常、掘削工事現場に設置した計量混合プラントで、セメント、骨材、及び水を計量混合して吹付け用のコンクリートを調製し、アジテータ車で運搬し、コンクリートポンプで圧送し、途中に設けた合流管で他方から圧送された急結剤と混合して急結性吹付けコンクリートとし、地山面に所定の厚さになるまで吹付ける工法である。
急結剤としては、カルシウムアルミネートにアルカリ金属アルミン酸塩やアルカリ金属炭酸塩等を混合した粉体急結剤が使用される場合が多い。吹付け時の粉塵量が少なく、アルカリ薬傷がないという点から、アルミニウム塩を主成分とする酸性の液体急結剤の使用が望まれている(特許文献2〜6)。
液体急結剤に用いられるアルミニウム塩は硫酸塩である場合が多く、濃度が高い程、急結性が高くなり、吹付け時の添加率を減らすこともできる。
しかしながら、硫酸アルミニウムの水に対する溶解度は、20℃で27質量%である。よって、硫酸アルミニウム濃度が27質量%以上の液体急結剤は懸濁状であり、不溶物が凝集したり、沈降したり、液の粘性が高くなったりしていた。
そのため、このような液体急結剤は、攪拌や振蕩により沈降物を分散する必要があるだけではなく、析出物がホースやポンプなどに詰まったり、コンクリートと十分に混ざらなかったりすることがあった。さらに、溶解度は温度に比例するため、低温で使用した際は、これらの課題がより顕著に生じており、改善が必要であった。
液体急結剤の急結性を向上させるために、アルカリ金属、アルカリ土類金属、フッ素化合物、アルコールアミン、及びカルボン酸等を含有させる技術も知られているが、長期強度が低下する場合があり、また、配合成分が多く、製造工程が増え、温度やpHを調整する必要があり、製造コスト面で課題が残っていた。
ビスフェノール系縮合物と急結成分を含有した急結剤が報告されている(特許文献7)。
しかしながら、ここで言う急結成分とはカルシウムアルミネートのことであり、本発明の硫酸アルミニウムとは異なる。
ビスフェノール系縮合物と硫酸アルミニウムを含有する吹付け材料が報告されている(特許文献8〜10)。
これらの先行技術文献は、いずれも飽和水溶液状態である硫酸アルミニウム水溶液、即ち硫酸アルミニウムの濃度の上限が27質量%である硫酸アルミニウム水溶液に対して、ビスフェノール系縮合物を添加しているものであり、溶解度を超える硫酸アルミニウムを含有する本発明の液体急結剤とは異なる。また、これらの先行技術文献において、ビスフェノール系縮合物を用いる目的は、併用するポリアルキレンオキサイドとの反応により、吹付けコンクリートのずり落ちを防ぐためである。
本発明は、例えば、溶解度以上の硫酸アルミニウムを水に添加した際に生成する不溶性粒子が沈降したり、分離したりすることを防ぎ、水中に分散させるために、ビスフェノール系縮合物を用いるものである。
本発明は、これらの先行技術文献とは、ビスフェノール系縮合物を用いる目的が異なる。
これらの先行技術文献には、溶解度を超える多量の硫酸アルミニウムを含有する液体急結剤を開発したり、ビスフェノール系縮合物が不溶性粒子となる硫酸アルミニウムを分散化したりすることは記載されていない。
特公昭60−4149号公報 特開平10−87358号公報 特開2003−246659号公報 特開2005−89276号公報 特開2006−193388号公報 特開2008−30999号公報 特開2002−220267号公報 特開2002−121061号公報 特開2001−335353号公報 特開2002−249356号公報
本発明者は、前記課題や要求を種々検討した結果、本発明により、前述の課題を解決する知見を得て本発明を完成するに至った。
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する
(1)液体急結剤100質量部中、固形分換算で、硫酸アルミニウム30〜40質量部、ビスフェノール系縮合物0.5〜5質量部、及び水を含有し、前記ビスフェノール系縮合物がビスフェノールSである液体急結剤。
)前記ビスフェノール系縮合物の平均分子量が1,000〜30,000である前記(1)の液体急結剤である
(3)−5〜40℃において、硫酸アルミニウムを含有する不溶性粒子が水中に分散している懸濁液である前記(1)又は2)の液体急結剤である。
)セメントと、前記(1)〜()のいずれかの液体急結剤を含有するセメント組成物である。
)前記()のセメント組成物を含有する吹付け材料である。
)セメントと、前記(1)〜()のいずれかの液体急結剤を混合する吹付け工法である。
本発明の液体急結剤は、例えば、従来の液体急結剤に比べ、硫酸アルミニウムの固形分濃度が高いにもかかわらず、貯蔵安定性や流動性に優れる。
さらに、この液体急結剤を使用することで、従来の液体急結剤に比べ、急結性吹付けセメントコンクリートの急結性と強度発現性が向上する。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で言うセメントコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの総称である。
本発明で言う部や%は、特に規定のない限り質量基準である。
液体とは、懸濁液を包含する。
本発明は、液体急結剤100部中、固形分換算で、硫酸アルミニウム30部以上とビスフェノール系縮合物を含有する液体急結剤である。本発明の液体急結剤は、硫酸アルミニウムとビスフェノール系縮合物以外の残りの成分が水であることが好ましい。
本発明で使用する硫酸アルミニウムは、無水物、水和物のいずれも使用することができる。さらに、本発明は、水酸化アルミニウムと硫酸水溶液を反応させて生成した硫酸アルミニウム水溶液を使用することができる。これらの中では、溶解時の分散性が優れる点で、水和物が好ましく、14水和物がより好ましい。
液体急結剤100部中の硫酸アルミニウムの使用量は、固形分換算で、30部以上が好ましく、30〜45部がより好ましく、32〜40部が最も好ましい。30部未満ではセメントコンクリートと混合した際に、優れた急結性が得られない場合がある。硫酸アルミニウムが30部以上の場合、溶解度以上の硫酸アルミニウムが存在するから、基本的に液体急結剤は、硫酸アルミニウムを含有する不溶性粒子が水中に分散している懸濁液となる。
液体急結剤の粘度は、圧送性の点で、4,000mPa・s以下が好ましく、2,000mPa・s以下がより好ましい。
本発明で使用するビスフェノール系縮合物とは、例えば、2個のフェノールが官能基で架橋された化合物とホルムアルデヒドを縮合反応して得られる生成物の総称である。
2個のフェノールを架橋する官能基としては、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、ブチリデン基、シクロヘキシリデン基、ビニリデン基、カルボニル基、イミノ基、エーテル基、スルフィド基、及びスルホニル基等が挙げられる。
さらに、これらの基の任意の水素原子が、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、アミノ基、ヒドロキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、又はヨード基等で置換されたものも挙げられる。
ここで言うフェノールとは、芳香環に結合している任意の水素原子が、炭素数1〜4のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基等で置換された化合物、並びに、ヒドロキシル基の水素原子の一部がアルカリ金属原子等に置換された化合物も含有する。ビスフェノール系縮合物は1種又は2種以上使用することが可能である。これらの中では、硫酸アルミニウムを含有する不溶性粒子が均一に分散し、懸濁液の粘性が低くなり、圧送性や急結性に優れる点で、2個のフェノールをスルホニル基で架橋したビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(通称、ビスフェノールS)が好ましい。
ここでいう均一に分散した状態とは、例えば、不溶性粒子の直径が0.5mm以下であり、撹拌や振蕩をしなくても1か月以上の期間、分散媒中で粒子が沈降せずに浮遊し、液体急結剤中、90体積%以上が懸濁している状態のことを言う。
ビスフェノール系縮合物は、その塩であっても良い。ビスフェノールとは、例えば、下記式(1)の化合物が挙げられる。
Figure 0006325523
(式(1)中、Xは下記式(2)、式(3)、式(4)、式(5)、O(酸素)、S(硫黄)のいずれかを示す。)
Figure 0006325523
Figure 0006325523
Figure 0006325523
Figure 0006325523
(式(2)、式(3)、式(4)、式(5)のうち、R1、R2、R3は夫々独立して水素、ハロゲン又はアルキル基を示す。R4はアルキレン基を示す。)
ビスフェノール系縮合物の平均分子量は700〜35,000が好ましく、1,000〜30,000がより好ましく、5,000〜20,000が最も好ましい。この範囲内であれば、不溶性粒子が均一に分散し、液体急結剤の粘性が低く、圧送性に優れる。ここでいう平均分子量とは、重量平均分子量を指す。ビスフェノール系縮合物は、例えば、各成分をアルカリ存在下で、加熱して縮合することによって得られる。
液体急結剤100部中のビスフェノール系縮合物の使用量は、固形分換算で、0.2〜7部が好ましく、0.5〜5部がより好ましく、0.5〜3部が最も好ましい。この範囲内であれば、不溶性粒子が均一に分散し、懸濁液の粘性が低く、圧送性に優れ、セメントコンクリートと混合した際に、優れた急結性が得られる。
本発明の液体急結剤の使用量は、セメント100部に対して、固形分換算で、3〜20部が好ましく、5〜15部がより好ましく、7〜10部が最も好ましい。この範囲内であれば、急結性吹付けコンクリートの急結性が促進され、長期強度発現性が優れる。
ここでセメントとは、通常市販されている普通、早強、中庸熱、及び超早強等の各種ポルトランドセメントや、これら各種ポルトランドセメントにフライアッシュや高炉スラグなどを混合した各種混合セメントなどが挙げられる。これらを微粉末化して使用することも可能である。
本発明で使用するセメントコンクリートはセメントと骨材とを含有するものである。
ここで骨材としては、吸水率が低く、骨材強度が高いものが好ましい。骨材の最大寸法は吹付けできれば特に限定されるものではない。
細骨材としては、川砂、山砂、石灰砂、及び珪砂等が使用可能である。粗骨材としては、川砂利、山砂利、及び石灰砂利等が使用可能である。
セメントコンクリートに使用する水の量は、強度発現性の点で、35%以上が好ましく、40〜55%がより好ましい。この範囲内であれば、セメントコンクリートを十分に混合できる。
湿式吹付け工法としては、例えば、セメント、細骨材、粗骨材、及び水を加えて練り混ぜ、空気圧送し、途中にY字管を設け、その一方から急結剤供給装置により圧送した液体急結剤を合流混合して急結性湿式吹付けセメントコンクリートとしたものを吹付ける方法が挙げられる。
液体急結剤を圧送する圧送空気の圧力は、セメントコンクリートが液体急結剤の圧送管内に混入した際に圧送管内が閉塞しないように、セメントコンクリートの圧送圧力より0.01〜0.3MPa高いことが好ましい。
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明する。なお、試験(実験)環境温度は20℃に設定した。
実験例1
硫酸アルミニウムと表1に示すビスフェノール系縮合物を、液体急結剤100部中、固形分換算で、表1に示す量になるように水に添加し、1時間攪拌することで、種々の液体急結剤を調製した。攪拌後、液体急結剤を3時間静置し、粘度計で粘度を測定した。攪拌後、液体急結剤をメスシリンダーに移し、1か月間静置し、液体急結剤の分散性の指標として、液体急結剤の分離度を測定した。結果を表1に併記する。
<使用材料>
硫酸アルミニウム:硫酸アルミニウム14水和物、市販品
ビスフェノール系縮合物A:ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンの縮合物、平均分子量12.000、市販品
ビスフェノール系縮合物B:2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンの縮合物、平均分子量12,000、市販品
ビスフェノール系縮合物C:2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンの縮合物、平均分子量12,000、市販品
ビスフェノール系縮合物D:2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンの縮合物、平均分子量12,000、市販品
ビスフェノール系縮合物E:4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンの縮合物、平均分子量12,000、市販品
ビスフェノール系縮合物F:ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィドの縮合物、平均分子量12,000、市販品
ビスフェノール系縮合物G:ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンの縮合物、平均分子量12,000、市販品
<測定方法>
粘度 :B型粘度計(東機産業 TVB−10型)を使用し、測定した。
分離度 :液体急結剤全体に対する上澄み液の体積割合を算出した(体積%)。ここで、上澄み液とは、懸濁液である液体急結剤が、時間が経つにつれ分離し、発生する、不溶性粒子が存在しない透明な液相を指す。上澄み液の下は懸濁液である。分離度が小さい程、不溶性粒子が水中に均一に分散しているので、好ましい。
Figure 0006325523
表1より、液体急結剤100部中、固形分換算で、30部以上の硫酸アルミニウムと、ビスフェノール系縮合物とを含有すると、液体急結剤の粘度が小さくなり、液体急結剤の分散性が優れる。ビスフェノール系縮合物の中では、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)が好ましい。
実験例2
表2に示す平均分子量のビスフェノールSを使用し、液体急結剤100部中、固形分換算で、硫酸アルミニウム35部、ビスフェノールS1部の液体急結剤を調製した。粘度と分離度を測定した。それ以外は、実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
<使用材料>
ビスフェノールSア:平均分子量700、市販品
ビスフェノールSイ:平均分子量1,000、市販品
ビスフェノールSウ:平均分子量5,000、市販品
ビスフェノールSエ:ビスフェノール系縮合物G、平均分子量12.000、市販品
ビスフェノールSオ:平均分子量16,000、市販品
ビスフェノールSカ:平均分子量20,000、市販品
ビスフェノールSキ:平均分子量24,000、市販品
ビスフェノールSク:平均分子量30,000、市販品
ビスフェノールSケ:平均分子量35,000、市販品
<測定方法>
平均分子量:ゲル浸透クロマトグラフ分析(標準物質はポリスチレンスルホン酸ナトリウム)により測定した。
Figure 0006325523
表2より、平均分子量1,000〜30,000のビスフェノール系縮合物が、液体急結剤の粘度として好ましく、分散性に優れる。
実験例3
液体急結剤100部中、固形分換算で、表3に示す量になるように硫酸アルミニウムとビスフェノールSエを水に添加し、液体急結剤を調製した。
砂/セメント比=3、水/セメント比=52%のモルタルを調製した。セメント100部に対して、固形分換算で、液体急結剤7部を、モルタルに添加し、急結性モルタルとした。急結性モルタルの凝結時間と圧縮強度を測定した。結果を表3に併記する。
<使用材料>
セメント :普通ポルトランドセメント、市販品、ブレーン値4,000cm2/g、比重3.16
細骨材 :新潟県糸魚川市姫川産川砂、表乾状態、比重2.62
<測定方法>
凝結時間 :急結性モルタルを土木学会基準「吹付けコンクリート用急結剤品質規格(JSCED−102)」に準じて測定した。
圧縮強度 :急結性モルタルをJIS R 5201に準じて測定した。
Figure 0006325523
表3より、固形分換算で、硫酸アルミニウム30部以上が液体急結剤の性状として好ましい。硫酸アルミニウム30〜45部、ビスフェノール系縮合物0.5〜5部が、液体急結剤の性状としてより好ましい。
実験例4
液体急結剤100部中、固形分換算で、硫酸アルミニウム35部、ビスフェノールSエ1部、残りが水である液体急結剤を調製した。セメント100部に対して、固形分換算で、液体急結剤を表4に示す量添加し、急結性モルタルとした。急結性モルタルの凝結時間と圧縮強度を測定した。それ以外は、実験例3と同様に行った。結果を表4に併記する。
Figure 0006325523
表4より、液体急結剤の使用量は、セメント100部に対し、3〜20部であることが、吹付け材料の性状として好ましい。
本発明の液体急結剤は、分散効果を有するビスフェノール系縮合物を使用することにより、溶解度を超える硫酸アルミニウムを使用しても、硫酸アルミニウムが水中で沈降することなく、不溶性粒子として均一に分散させることができるので、従来の急結剤に比べ、貯蔵安定性及び流動性が向上し、凝結性状や強度発現性を高くすることができる。そのため、土木、建築の分野等で広範に使用することが可能である。

Claims (6)

  1. 液体急結剤100質量部中、固形分換算で、硫酸アルミニウム30〜40質量部、ビスフェノール系縮合物0.5〜5質量部、及び水を含有し、前記ビスフェノール系縮合物がビスフェノールSである液体急結剤。
  2. ビスフェノール系縮合物の平均分子量が1,000〜30,000である請求項1記載の液体急結剤。
  3. −5〜40℃において、硫酸アルミニウムを含有する不溶性粒子が水中に分散している懸濁液である請求項1又は2記載の液体急結剤。
  4. セメントと、請求項1〜のうちの1項記載の液体急結剤を含有するセメント組成物。
  5. 請求項記載のセメント組成物を含有する吹付け材料。
  6. セメントと、請求項1〜のうちの1項記載の液体急結剤を混合する吹付け工法。
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