以下、この発明の好適な実施の形態について図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による回転電機を示す構成図である。図において、回転電機1は、円筒状の電機子(固定子)2と、電機子2の軸線上に配置された回転軸3と、回転軸3に固定され回転軸3と一体に電機子2に対して回転される回転子4とを有している。
回転子4は、電機子2の内側に配置されている。また、回転子4は、磁性材料(例えば鉄等)で構成された円柱状の回転子コア5と、回転子コア5の外周面(電機子2の内周面に対向する面)に設けられた複数の磁石6とを有している。各磁石6は、回転子コア5の周方向について互いに間隔を置いて配置されている。回転子4には、各磁石6によって回転子コア5の周方向へ並ぶ複数の磁極が形成されている。この例では、28個の磁石6が回転子コア5の外周面に設けられており、回転子4の磁極数Pが28になっている。
電機子2は、磁性材料(例えば鉄等)で構成された電機子コア7と、電機子コア7に設けられた電機子コイル群8とを有している。
電機子コア7は、円筒状のバックヨーク9と、バックヨーク9の内周部から径方向内側へ(回転子4に向けて)突出する複数の磁極ティース10とを有している。各磁極ティース10は、電機子コア7の周方向について互いに間隔を置いて設けられている。これにより、各磁極ティース10間には、電機子コア7の径方向内側へ(回転子4に向けて)開放されたスロット11が形成されている。電機子コア7では、磁極ティース10の数とスロット11の数(スロット数)Qとが同じになっている。この例では、磁極ティース10の数及びスロット数Qがともに72になっている。
ここでは、説明の便宜上、図1において回転軸3の中心から上側に位置するスロット11を基準スロットとし、基準スロット11の番号をNo.1としている。また、図1の基準スロットNo.1から反時計まわりの順に各スロット11の番号をNo.2、No.3、…、No.72としている。また、図1のNo.1及びNo.2のスロット11間に位置する磁極ティース10の番号をNo.1とし、No.1の磁極ティース10から反時計まわりの順に各磁極ティース10の番号をNo.2、No.3、…、No.72としている。
また、スロット数Qと磁極数Pとの関係を示す係数である毎極スロット数(回転子4の1つの磁極当たりのスロット11の数)q’は、以下の式(1)で表される。
q’=Q/P …(1)
従って、この例では、毎極スロット数q’の値が72/28=18/7≒2.57となっている。
図2は、図1の電機子2の一部を示す展開図である。また、図3は、図1の電機子2の図2で示されている部分と異なる部分を示す展開図である。図2では図1の電機子2のうちNo.1〜No.24の各スロット11の範囲が示され、図3では図1の電機子2のうちNo.37〜No.61の各スロット11の範囲が示されている。電機子コイル群8は、複数のベースコイル12と、複数の上層コイル13と、複数の下層コイル14とを電機子コイルとして有している。
ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれは、複数の磁極ティース10にまとめて巻かれた導線束により構成されている。即ち、ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれは、重ね巻きで磁極ティース10に巻かれている。また、ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれを構成する導線束の線種及びターン数は、すべて同じである。
ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれは、互いに異なるスロット11に配置された一対のコイル辺21と、複数の磁極ティース10を跨いで一対のコイル辺21間を繋ぐ一対のコイルエンド22とを有している。各コイル辺21は、スロット11に沿った略直線部である。各コイルエンド22は、電機子コア7の軸線方向外側でコイル辺21の端部間を繋いでいる。
各スロット11には、コイル辺21を配置するための空間である上口(上層)及び下口(下層)がスロット11の深さ方向について存在している。スロット11の上口は、スロット11の下口よりも電機子コア7の径方向内側(スロット11の開口側)に位置している。
各ベースコイル12は、一方のコイル辺21をスロット11の上口に配置し、他方のコイル辺21をスロット11の下口に配置して電機子コア7に設けられている。また、各ベースコイル12のコイルエンド22は、電機子コア7の周方向に対して同じ方向に傾いた状態で複数の磁極ティース10を跨いでいる。
コイルエンド22が跨ぐ磁極ティース10の数(即ち、共通のコイルにおける一方及び他方のコイル辺21間に挟まれる磁極ティース10の数)をコイルピッチとすると、各ベースコイル12のコイルピッチは、すべて同じになっている。各ベースコイル12は、コイルピッチが毎極スロット数q’よりも大きい長節巻きのコイルである。
上層コイル13は、一方及び他方のコイル辺21をいずれもスロット11の上口に配置して電機子コア7に設けられている。下層コイル14は、一方及び他方のコイル辺21をいずれもスロット11の下口に配置して電機子コア7に設けられている。
なお、図2及び図3では、各ベースコイル12、各上層コイル13及び各下層コイル14のそれぞれに流れる電流相をU、V、Wで示している。また、図2及び図3では、各コイル辺21に流れる電流の向きを、U、V、Wの大文字及び小文字と、コイル辺21を示す白抜きの丸印の中に黒丸印及びX印を付した記号とで示している。従って、各コイル12,13,14の巻き回し方向は、各コイル辺21の電流の向きで分かるようになっている。
ここで、本実施の形態による回転電機1での各ベースコイル12、各上層コイル13及び各下層コイル14のそれぞれの位置を特定するために、上層コイル13及び下層コイル14を含まない比較例1による回転電機を想定する。
図4は、比較例1による回転電機101を示す構成図である。また、図5は、図4の回転電機101の電機子2を示す展開図である。さらに、図6は、図5の回転電機101の電機子2の要部拡大図である。なお、図5及び図6では、各コイルに流れる電流相と、各コイル辺に流れる電流の向きとが、図2及び図3と同様の方法で示されている。
比較例1による回転電機101の構成は、電機子コア7の各磁極ティース10の幅寸法及び電機子コイル群8の構成以外、実施の形態1による回転電機1の構成と同様である。比較例1による電機子コア7では、各磁極ティース10の幅寸法がすべて同じ寸法T0になっている。また、電機子コイル群8は、ベースコイル12と同じ構成の複数の仮想ベースコイル12aのみを有している。各仮想ベースコイル12aは、ベースコイル12のコイル辺21と同じ構成の一対のコイル辺21aと、ベースコイル12のコイルエンド22と同じ構成の一対のコイルエンド22aとを有している。
各仮想ベースコイル12aは、一方のコイル辺21aをスロット11の上口に配置し他方のコイル辺21aをスロット11の下口に配置して電機子コア7に規則的に並べられている。各仮想ベースコイル12aの各コイル辺21aは、各スロット11の上口及び下口のすべてに配置されている。これにより、比較例1による回転電機101の電機子2の状態は、各仮想ベースコイル12aが2層重ね巻きで電機子コア7に規則的に配置された仮想ベースコイル装着状態となっている。
回転電機の理想状態は、U相、V相、W相の各電機子コイルがつくる誘起電圧のそれぞれの合成ベクトルの大きさが同じで、各相の誘起電圧の合成ベクトルが電気角で位相差120°ごとに分布している状態である。従って、比較例1による回転電機101では、回転電機の理想状態になるように、各仮想ベースコイル12aに接続される電流相(U相、V相、W相)の選択と、各仮想ベースコイル12aの巻き回し方向の選択とが行われている。回転電機101では、各相の仮想ベースコイル12aの配置順及び各仮想ベースコイル12aの巻き回し方向をそれぞれ調整することにより、回転子4の磁極がつくる磁束に対応するおよそ正弦波状の誘起電圧が発生するようになっている。
図5では、No.1〜No.18のスロット11と、No.19〜No.36のスロット11とに分けてみると、コイル辺21aに流れる電流の向きが反転していることを除いて、各相の仮想ベースコイル12aの配置が同じになっていることが分かる。また、No.37〜No.72のスロット11についても同様に、No.37〜No.54のスロット11と、No.55〜No.72のスロット11とに分けてみると、コイル辺21aに流れる電流の向きが反転していることを除いて、各相の仮想ベースコイル12aの配置が同じになっていることが分かる。これは、比較例1による回転電機101の毎極スロット数q’の値が18/7であることによるものである。即ち、比較例1での電機子2では、18個のスロット11に対して7個の磁極が対応して1組となっていることから、各相の仮想ベースコイル12aの配置が18個のスロット11のまとまりで繰り返される構成となっている。
従って、この例では、各相の仮想ベースコイル12aの配置が、No.1〜No.18のスロット11と、No.37〜No.54のスロット11とで同じになっており、No.19〜No.36のスロット11と、No.55〜No.72のスロット11とで同じになっている。
仮想ベースコイル装着状態では、Nを2以上の自然数とすると、毎極スロット数q’が以下の式(2)を満たすとき、各仮想ベースコイル12aのU相、V相、W相の電流相及び巻き回し方向を調整することにより、電流相及び電流の向きに関して特定の関係を持つ2つの仮想ベースコイル12aで構成された仮想コイル対23が、一定間隔で出現するようにすることができる。仮想コイル対23を構成する2つの仮想ベースコイル12aをそれぞれ仮想特定コイル12Aとすると、共通の仮想コイル対23に含まれる2つの仮想特定コイル12Aの関係は、N個の磁極ティース10を挟む2つのスロット11の上口同士(又は下口同士)に配置された2つのコイル辺21aに流れる電流が同相逆向きになる関係になっている。
N<q’<N+1 …(2)
これは、U相、V相、W相の各仮想ベースコイル12aがつくる誘起電圧のそれぞれの合成ベクトルの大きさが各相で同じで、かつ各合成ベクトルの位相差が120°ごとに分布する理想状態になるように、各仮想ベースコイル12aの配置を決めることによる。
毎極スロット数q’の値は、上述のように約2.57であるので、2よりも大きく3よりも小さい値(2<q’<3)である。従って、比較例1による回転電機101の電機子2の構成は、式(2)から、N=2としたときの電機子2の構成であることが分かる。また、各仮想ベースコイル12aは、コイルエンド22aがN+1個の磁極ティース10を跨ぐコイルになっている。従って、この例では、各仮想ベースコイル12aのコイルピッチが3になっている。
ここで、U相に着目すると、No.7及びNo.9のスロット11の上口同士、No.4及びNo.6のスロット11の下口同士のそれぞれに、同相逆向きの電流が流れるコイル辺21aの組が配置されていることが分かる。また、No.13及びNo.15のスロット11の上口同士、No.10及びNo.12のスロット11の下口同士のそれぞれには、W相について同相逆向きの電流が流れるコイル辺21aの組が配置され、No.19及びNo.21のスロット11の上口同士、No.16及びNo.18のスロット11の下口同士のそれぞれには、V相について同相逆向きの電流が流れるコイル辺21aの組が配置されていることが分かる。
また、上述したように、18個のスロット11ごとにコイル辺21aの同じパターンの配置が繰り返されているため、各相において仮想コイル対23も18個のスロット11ごとに繰り返し現れる。出現する各仮想コイル対23の電流相の順序は、各相(U相、V相、W相)が同じ順番で繰り返される順序となっている。
図5の仮想ベースコイル12aでは、スロット11の上口のコイル辺21aを基準に考えると、No.7及びNo.9の上口同士の2つのコイル辺21aを持つ仮想コイル対23がU相、No.13及びNo.15の上口同士の2つのコイル辺21aを持つ仮想コイル対23がW相、No.19及びNo.21の上口同士の2つのコイル辺21aを持つ仮想コイル対23がV相であることから、U相、W相、V相の順に並ぶ組が繰り返されている。
図5の各仮想コイル対23に含まれるそれぞれの仮想特定コイル12A間に挟まれた仮想ベースコイル12aを仮想調整コイル12Bとすると、比較例1の電機子2では、図5に示すように、仮想調整コイル12Bの電流相と、仮想調整コイル12Bを挟む2つの仮想特定コイル12Aで構成された仮想コイル対23の電流相とが、互いに異なっている。この例では、U相の仮想コイル対23の仮想特定コイル12Aに挟まれた仮想調整コイル12Bの電流相がV相、W相の仮想コイル対23の仮想特定コイル12Aに挟まれた仮想調整コイル12Bの電流相がU相、V相の仮想コイル対23の仮想特定コイル12Aに挟まれた仮想調整コイル12Bの電流相がW相となっている。
U相、V相、W相の各仮想調整コイル12Bは、互いに位相差が120°となる誘起電圧をつくる仮想ベースコイル12aである。また、U相、V相、W相の各仮想調整コイル12Bは、電気角α°の範囲に同数ずつ(この例では、1つずつ)存在している。電気角α°は、スロット数Q及び極数P、即ち毎極スロット数q’に依存して決まり、以下の式(3)で表される。
α°=180°×P/gcd(Q,P) …(3)
ただし、gcd(Q,P)は、スロット数Qと回転子4の極数Pとの最大公約数である。
電気角α°の範囲は、スロット数Qと回転子4の極数Pとの関係が最小の数で特定される設定範囲である。従って、電機子2は、複数の電気角α°の範囲(即ち、複数の設定範囲)で周方向について等分できる。
比較例1では、磁極数Pが28であるので、回転子4の1周分の電気角が5040°である。一方、比較例1では、式(3)より、電気角α°が1260°になる。従って、電気角α°の範囲である設定範囲は、電機子2の1/4周分の範囲、即ち18個分の磁極ティース10を含む範囲になる。即ち、比較例1では、電機子2を4等分する位置に4つの設定範囲15a〜15dが設定されている。比較例1による電機子2では、設定範囲15a及び15bの境界がNo.21の磁極ティース10に位置し、設定範囲15b及び15cの境界がNo.39の磁極ティース10に位置し、設定範囲15c及び15dの境界がNo.57の磁極ティース10に位置し、設定範囲15d及び15aの境界がNo.3の磁極ティース10に位置している。
図7は、比較例1による回転電機101の巻線係数Kdを示す表である。巻線係数Kdは、回転電機の特性を示す指標であり、基本波成分の数値が1に近いほどトルク特性が良く、5次、7次、…等の高次成分の数値が小さいほど高周波振動が小さくなって、回転電機の動作特性が良いことを示す。比較例1による回転電機101では、巻線係数Kdの数値が基本波成分、高次成分ともに良好な傾向を示していることが分かる。
本実施の形態による回転電機1の電機子2にも、図1に示すように、比較例1と同様の電気角α°=1260°の範囲である複数(この例では、4個)の設定範囲15a〜15dが設定されている。また、本実施の形態による電機子2でも、設定範囲15a及び15bの境界がNo.21の磁極ティース10に位置し、設定範囲15b及び15cの境界がNo.39の磁極ティース10に位置し、設定範囲15c及び15dの境界がNo.57の磁極ティース10に位置し、設定範囲15d及び15aの境界がNo.3の磁極ティース10に位置している。
また、各設定範囲15a〜15dのうち、互いに離れた一部の設定範囲15a及び15cが調整範囲とされている。本実施の形態による回転電機1では、各調整範囲15a及び15cを除いて、各仮想ベースコイル12aの位置のすべてに各ベースコイル12が配置されている。各調整範囲15a及び15cでは、各仮想特定コイル12A及び各仮想調整コイル12Bのすべての位置を避けて、各ベースコイル12が各仮想ベースコイル12aの位置に配置されている。
ベースコイル12のコイルエンド22はN+1個の磁極ティース10を跨いでいる。即ち、ベースコイル12のコイルピッチはN+1になっている。この例では、N=2であることから、ベースコイル12のコイルピッチが3になっている。
上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイル辺21は、ベースコイル12の配置が回避されている仮想特定コイル12Aのそれぞれのコイル辺21aの位置に配置されている。これにより、上層コイル13及び下層コイル14は、ベースコイル12の配置が回避されている共通の仮想コイル対23につき1つずつ配置されている。従って、電機子コイル群8に含まれる上層コイル13の数と下層コイル14の数とは、同じになっている。この例では、2つの調整範囲15a及び15cのそれぞれに上層コイル13及び下層コイル14が3つずつ配置されており、電機子コイル群8に含まれる上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれの数が6つずつになっている。また、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイルエンド22は、N個の磁極ティース10を跨いでいる。即ち、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイルピッチは、いずれもN(この例では、N=2)になっている。
上層コイル13の電流相は、上層コイル13のコイル辺21に対応するコイル辺21aを持つ仮想コイル対23の電流相と同じ相とされている。また、上層コイル13のコイル辺21に流れる電流の向きが仮想特定コイル12Aのコイル辺21aに流れる電流の向きと同じになるように、上層コイル13の巻き回し方向が決められている。
下層コイル14の電流相は、下層コイル14のコイル辺21に対応するコイル辺21aを持つ仮想コイル対23の電流相と同じ相とされている。また、下層コイル14のコイル辺21に流れる電流の向きが仮想特定コイル12Aのコイル辺21aに流れる電流の向きと同じになるように、下層コイル14の巻き回し方向が決められている。
各スロット11の上口及び下口のうち、ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイル辺21が配置されずに残った空間には、スロット11内の隙間を埋める図示しないスペーサブロックなどが配置されている。スペーサブロックが配置されたスロット11内では、コイル辺21がスペーサブロックで保持されている。
即ち、本実施の形態での電機子2の構成は、各仮想ベースコイル12aのすべてのコイル辺21aが各スロット11の上口及び下口のすべてに規則的に配置されている仮想ベースコイル装着状態(図4)を想定した場合、図2及び図3に示すように、一部の設定範囲である調整範囲15a及び15cでの各仮想特定コイル12A及び各仮想調整コイル12Bのそれぞれの位置を除いて、各仮想ベースコイル12aの位置のすべてにベースコイル12が配置され、ベースコイル12が配置されていない仮想特定コイル12Aのそれぞれのコイル辺21aの位置に上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイル辺21が配置された構成になっている。
これにより、電機子2の状態は、図2及び図3に示すように、上層コイル13と下層コイル14との間に位置する磁極ティース10(この例では、No.6、No.12、No.18、No.42、No.48及びNo.54の磁極ティース10)にベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイルエンド22がいずれも跨っていない状態になっている。
また、本実施の形態での電機子2は、図2及び図3を図5と比較すると、一部のベースコイル12を無くして上層コイル13及び下層コイル14を加えている点で、比較例1での電機子2と異なっているが、加えた上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイル辺21の配置は、比較例1の各仮想特定コイル12Aのそれぞれのコイル辺21aの配置と同じになっていることが分かる。これにより、本実施の形態では、上層コイル13及び下層コイル14がつくる誘起電圧によって、比較例1で各仮想特定コイル12Aを無くすことによる誘起電圧の低下が抑制される。
ここで、比較例1による回転電機101の電機子2の調整範囲15aにおいて、スロット11の下口に配置されているコイル辺21aを持つU相の仮想ベースコイル12aのすべてがつくる合成起磁力をHuとし、時刻tでのHuの位相をβ(Hu,t)とする。また、同様に、調整範囲15aにおいて、スロット11の下口に配置されているV相の各仮想ベースコイル12aのすべてがつくる合成起磁力をHv、スロット11の下口に配置されているW相の各仮想ベースコイル12aのすべてがつくる合成起磁力をHwとし、時刻tでのHv、Hwの位相をそれぞれβ(Hv,t)、β(Hw,t)とする。
また、本実施の形態による回転電機1の電機子2の調整範囲15aにおいて、スロット11の下口に配置されているコイル辺21を持つU相の各ベースコイル12、U相の上層コイル13及びU相の下層コイル14がつくる合成起磁力をHu’とし、時刻tでのHu’の位相をβ(Hu’,t)とする。また、同様に、調整範囲15aにおいて、スロット11の下口に配置されているV相の各ベースコイル12、V相の上層コイル13及びV相の下層コイル14がつくる合成起磁力をHv’、スロット11の下口に配置されているW相の各ベースコイル12、W相の上層コイル13及びW相の下層コイル14がつくる合成起磁力をHw’とし、時刻tでのHv’、Hw’の位相をそれぞれβ(Hv’,t)、β(Hw’,t)とする。
そうすると、U相の合成起磁力Hu及びHu’の位相差βu°、V相の合成起磁力Hv及びHv’の位相差βv°、W相の合成起磁力Hw及びHw’の位相差βw°は以下の式(4)〜(6)で表され、βu°、βv°、βw°の関係は以下の式(7)で表される。
βu°=β(Hu,t)−β(Hu’,t) …(4)
βv°=β(Hv,t)−β(Hv’,t) …(5)
βw°=β(Hw,t)−β(Hw’,t) …(6)
βu°=βv°=βw°=β°(一定) …(7)
本実施の形態では、図2及び図3に示すように比較例1(図5)の各相の仮想調整コイル12Bの位置にベースコイル12が配置されておらず、ベースコイル12の配置を避けた各相の仮想調整コイル12Bがつくる起磁力の位相差が時刻tに関係なく120°になっているため、式(7)に示されるように、βu°、βv°、βw°が同じ値β°になっている。
本実施の形態における調整範囲15aに隣接する設定範囲15bには、調整範囲15aと異なり、上層コイル13及び下層コイル14が配置されておらず、比較例1による図5の仮想ベースコイル12aのすべての位置に各ベースコイル12が配置されている。従って、各磁極ティース10の幅寸法がすべて同じT0である場合には、調整範囲15aに配置された各ベースコイル12、各上層コイル13及び各下層コイル14がつくる各相の合成起磁力と、設定範囲15bに配置された各ベースコイル12がつくる各相の合成起磁力との位相差が式(7)によりβ°で同じになる。なお、本実施の形態では、スロット11の下口に配置されたコイル辺21を基準にして、各ベースコイル12が各設定範囲15a〜15dのいずれの範囲に配置されているかが決められている。
本実施の形態では、調整範囲15aでの電機子コイルによる各相の合成起磁力と、設定範囲15bでの電機子コイルによる各相の合成起磁力との位相差β°をなくすために、図2に示すように、調整範囲15aの一端部に位置する磁極ティース10(この例では、No.3の磁極ティース)の幅寸法T1が他の磁極ティース10の幅寸法T0よりもティース幅調整寸法T’だけ狭くなっており、調整範囲15aの他端部に位置する磁極ティース10(この例では、No.21の磁極ティース)の幅寸法T2が他の磁極ティース10の幅寸法T0よりもティース幅調整寸法T’と同じ寸法だけ広くなっている。なお、他の磁極ティース10の幅寸法T0はすべて同じ寸法になっている。
ティース幅調整寸法T’は、電機子コア7の内径をrとすると、以下の式(8)で表される。
T’=2×π×r×β°/(180°×P) …(8)
従って、No.3の磁極ティース10の幅寸法T1、No.21の磁極ティース10の幅寸法T2は、それぞれ以下の式(9)及び(10)で表される寸法になっている。
T1=T0−T’=T0−2×π×r×β°/(180°×P) …(9)
T2=T0+T’=T0+2×π×r×β°/(180°×P) …(10)
これにより、本実施の形態では、調整範囲15aに配置された各ベースコイル12、各上層コイル13及び各下層コイル14がつくる各相の合成起磁力の位相が、設定範囲15bに配置された各ベースコイル12がつくる各相の合成起磁力の位相と一致して位相差がなくなるようになっている。即ち、本実施の形態では、調整範囲15aに配置された各ベースコイル12、各上層コイル13及び各下層コイル14がつくる各相の合成起磁力と、設定範囲15bに配置された各ベースコイル12がつくる各相の合成起磁力との位相差がなくなる方向へ調整範囲15a内の各スロット11が設定範囲15b内の各スロット11に対して電機子コア7の周方向についてずれている。これにより、調整範囲15a内の各スロット11の位置が、本実施の形態と比較例とで電機子コア7の周方向についてずれている。
調整範囲15aの一端部及び他端部に位置する2つの磁極ティース10のうち、どちらの幅寸法を狭くして、どちらの幅寸法を広くするかは、位相差β°と、スロット11の下口に配置されているコイル辺21を基準としたときのベースコイル12が傾く方向とによって決まる。従って、本実施の形態では、調整範囲15a及び15cの一端部及び他端部に位置する各磁極ティース10の幅寸法が以下の条件1及び条件2のいずれかに従って決まっている。
(条件1)
位相差β°の値が正(β°>0)である場合には、調整範囲の一端部及び他端部のうち、調整範囲に配置されたベースコイル12がスロット11の下口に対して傾く側の端部に位置する磁極ティース10の幅寸法をT0からT’だけ狭くし、反対側の端部に位置する磁極ティース10の幅寸法をT0からT’だけ広くする。
(条件2)
一方、位相差β°の値が負(β°<0)である場合には、調整範囲の一端部及び他端部のうち、調整範囲に配置されたベースコイル12がスロット11の下口に対して傾く側の端部に位置する磁極ティース10の幅寸法をT0からT’だけ広くし、反対側の端部に位置する磁極ティース10の幅寸法をT0からT’だけ狭くする。
図2の場合を考えると、調整範囲15aに配置されたベースコイル12がスロット11の下口に対して右側に傾斜し、かつ位相差β°=−5°<0になっているので、図2の調整範囲15aの左側の端部に位置するNo.3の磁極ティース10の幅寸法T1がT0−T’とされ、図2の調整範囲15aの右側の端部に位置するNo.21の磁極ティース10の幅寸法T2がT0+T’とされている。
調整範囲15cと設定範囲15dとの関係も、調整範囲15aと設定範囲15bとの関係と同じになっている。即ち、調整範囲15cに存在する各スロット11には調整範囲15aに存在する各スロット11と同じパターンでコイル辺21が配置され、設定範囲15dに存在する各スロット11には設定範囲15bに存在する各スロット11と同じパターンでコイル辺21が配置されている。従って、調整範囲15cの一端部及び他端部に位置する磁極ティース10の幅寸法についても、調整範囲15aの一端部及び他端部に位置する磁極ティース10の幅寸法の変更を適用することができる。これにより、図3に示すように、調整範囲15cの左側の端部に位置するNo.39の磁極ティース10の幅寸法T1がT0−T’とされ、調整範囲15cの右側の端部に位置するNo.57の磁極ティース10の幅寸法T2がT0+T’とされている。
図8は、図1の回転電機1の巻線係数Kdを示す表である。図1の回転電機1では、図8に示すように、巻線係数Kdの数値が良好であることが分かる。これにより、図1の回転電機1は、トルク特性が良く電磁加振力によるロスが少なく動作特性の良い回転電機であることが分かる。
本実施の形態では、調整範囲15a,15cと、設定範囲15b,15dとでコイル数が異なるので、電機子コイルの総抵抗値、インピーダンス、インダクタンスなどが調整範囲15a,15cと設定範囲15b,15dとで異なる。しかし、例えば、調整範囲15a及び設定範囲15bの各相の電機子コイルを直列につなぎ、調整範囲15c及び設定範囲15dの各相の電機子コイルを直列につなぐことで、調整範囲15a及び設定範囲15cを合わせた範囲での各相のコイル数、コイル総抵抗値、インダクタンスなどと、調整範囲15c及び設定範囲15dを合わせた範囲での各相のコイル数、コイル総抵抗値、インダクタンスなどとが、同じになる。これにより、回転電機1の動作特性を良好にする電機子回路を組むことができる。
図9は、比較例1’による回転電機の電機子の一部を示す展開図である。比較例1’では、比較例1での各設定範囲15a〜15dのうち、設定範囲15a及び15cに配置された各仮想特定コイル12Aの位置を除いて、各仮想ベースコイル12aの位置のすべてにベースコイル12が配置され、ベースコイル12が配置されていない仮想特定コイル12Aのそれぞれのコイル辺21aの位置に上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイル辺21が配置されている。他の構成は比較例1と同様である。比較例1’による回転電機では、一部の仮想ベースコイル12aを無くして上層コイル13及び下層コイル14を加えている点で比較例1と異なっているが、各スロット11の上口及び下口のそれぞれのコイル辺21の配置は、比較例1及び1’も同じである。従って、比較例1’による回転電機の電機子がつくる合成起磁力は、比較例1での電機子2がつくる合成起磁力と同じになる。
次に、比較例1での仮想ベースコイル12aを電機子コア7に装着する場合、比較例1’でのベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14を電機子コア7に装着する場合、及び本実施の形態でのベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14を電機子コア7に装着する場合を考える。
比較例1では、各スロット11の上口及び下口のすべてに仮想ベースコイル12aのコイル辺21aが配置されるので、例えばNo.7〜No.9のスロット11の上口に配置されるコイル辺21aを持つ各仮想ベースコイル12aを電機子コア7に最後に巻く場合、No.4〜No.6のスロット11の上口にすでに配置されている各コイル辺21aをスロット11外に一旦取り出す必要がある。このとき、仮想ベースコイル12aを電機子コア7の内径側へ押し曲げてコイル辺21aをスロット11外に取り出す。この後、スロット11外に取り出したコイル辺21aと磁極ティース10との間に生じた空間を通して、No.4〜No.6のスロット11内に最後の各仮想ベースコイル12aのコイル辺21aを挿入する上げコイル作業と呼ばれる作業を行う。上げコイル作業の作業性は一般的に悪い。
比較例1’では、各ベースコイル12の中で、仮想調整コイル12Bの位置に配置されるベースコイル12、例えばNo.8のスロット11の上口に配置されるコイル辺21を持つベースコイル12を電機子コア7に最後に巻いて、すべてのベースコイル12を電機子コア7に装着する。しかし、比較例1’でも、最後のベースコイル12を電機子コア7に巻くときには、電機子コア7にすでに巻かれている一部のベースコイル12が、最後のベースコイル12の巻き予定位置に被さっているので、このベースコイル12を曲げてコイル辺21をスロット11外に取り出す上げコイル作業を行う必要がある。
これに対して、本実施の形態では、図2及び図3をみると、上述したように、上層コイル13と下層コイル14との間に位置する磁極ティース10に、ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイルエンド22がいずれも跨っていない。従って、ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14を電機子コア7に巻くときには、まず下層コイル14を電機子コア7に巻いた後、最初に巻いた下層コイル14と対になる上層コイル13から離れるように電機子コア7の周方向に沿って電機子コイル12〜14を順次巻いていく。例えば、No.4及びNo.6の各スロット11の下口に配置されるコイル辺21を持つ下層コイル14を電機子コア7に巻いた後、図2の左方向へ電機子コイル12〜14を電機子コア7に順次巻いていく。このとき、各調整範囲15a及び15c、各設定範囲15b及び15dに応じて、ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14を選択しながら、電機子コイルを電機子コア7に巻いていく。
最後に、最初に巻いた下層コイル14と対になる上層コイル13(即ち、例えばNo.7及びNo.9の各スロット11の上口に配置されるコイル辺21を持つ上層コイル13)を電機子コア7に巻く。このように、最初に巻いた下層コイル14と対になる上層コイル13を最後に巻くようにすると、各スロット11の下口にコイル辺21を挿入するときに必ずスロット11の上口が空いている状態にすることができ、上げコイル作業を無くすことができる。
このような回転電機1では、各ベースコイル12が調整範囲15a及び15cにおける各仮想特定コイル12A及び各仮想調整コイル12Bのすべての位置を避けて配置され、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイル辺21が調整範囲15a及び15cにおける各仮想特定コイル12Aのそれぞれのコイル辺21aの位置に配置されているので、調整範囲15a及び15cにおける各ベースコイル12の一部が無くなることによる起磁力の低下を上層コイル13及び下層コイル14によって抑制することができ、回転電機1のトルク特性の低下を抑制することができる。また、調整範囲15a及び15cの一端部に位置する磁極ティース10の幅寸法T1が他の磁極ティース10の幅寸法T0よりもティース幅調整寸法T’だけ狭くなっており、調整範囲15a及び15cの他端部に位置する磁極ティース10の幅寸法T2が他の磁極ティース10の幅寸法T0よりもティース幅調整寸法T’と同じ寸法だけ広くなっているので、調整範囲15a及び15cに配置されたベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14による各相の合成起磁力の位相と、設定範囲15b及び15dに配置されたベースコイル12による各相の合成起磁力の位相とを一致させる方向へ各電機子コイル12〜14の配置を調整することができる。これにより、トルクを効率良く発生させることができ、回転電機1の動作特性を良好にすることができる。さらに、各ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14を電機子コア7に巻くときに上げコイル作業を無くすことができ、回転電機1の製造を容易にすることができる。
また、ティース幅調整寸法T’は、上記の式(8)で表されるので、調整範囲15a及び15cに配置されたベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14による各相の合成起磁力の位相と、設定範囲15b及び15dに配置されたベースコイル12による各相の合成起磁力の位相とをより確実に一致させることができ、回転電機1の動作特性をさらに確実に向上させることができる。
実施の形態2.
図10は、この発明の実施の形態2による回転電機を示す構成図である。実施の形態2による回転電機1の構成は、電機子コア7が電機子コア7の周方向へ並ぶ複数(この例では、2つ)の分割コア31に分割されていることを除いて、実施の形態1と同様である。即ち、実施の形態2による電機子2を示す展開図も、電機子コア7が2つの分割コア31に分割されていることを除き、図2及び図3と同様である。
各分割コア31は、例えば溶接等により互いに連結されている。各分割コア31の境界32の位置は、コイルエンド22が跨っていない磁極ティース10の位置になっている。この例では、各分割コア31の境界32の位置がNo.6及びNo.42の各磁極ティース10の位置になっている。また、この例では、各分割コア31の境界32が電機子コア7の径方向に沿って形成されている。これにより、電機子2は、ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14を分割コア31に巻いてできた複数(この例では、2つ)の分割電機子33で構成されている。即ち、電機子2は、複数(この例では、2つ)の分割電機子33を連結して構成された分割電機子連結体になっている。他の構成は実施の形態1と同様である。
このような回転電機1では、電機子コア7が電機子コア7の周方向へ並ぶ複数の分割コア31に分割され、各分割コア31の境界32の位置が、各電機子コイル、即ちベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14がいずれも跨らない磁極ティース10の位置となっているので、ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14を分割コア31ごとに巻くことができ、複数の分割電機子33に分けて電機子2を製造することができる。これにより、各分割コア31を含む部品の小形軽量化を図ることができ、回転電機1の生産性の向上を図ることができる。電機子2を構成する各部品の小形軽量化を図ることができるので、回転電機1の完成後も、電機子2を分割電機子33単位で分解及び再組立を行うことができ、回転電機1の修理及びメンテナンス等の作業性を向上させることができる。これにより、電機子2が損傷した場合であっても、電機子2全体を修理、交換する必要がなくなり、回転電機1の修理及び交換に要するコストの低減化及び作業期間の短縮化を図ることができる。さらに、本実施の形態の構成は、電機子コア7が複数の分割コア31に分割されていることを除いて、実施の形態1の構成と同様であるので、回転電機1の動作特性を良好に維持することができる。
なお、上記の例では、電機子コア7が2つの分割コア31に分割されているが、電機子コア7に含まれる分割コア31の数は2つに限定されず、電機子コア7を3つ以上の分割コア31に分割してもよい。この場合、各分割コア31の境界32の位置は、ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイルエンド22がいずれも跨っていない磁極ティース10の位置にされる。
実施の形態3.
実施の形態3による回転電機1を説明する前に、比較例2による回転電機101の構成を説明する。
図11は、比較例2による回転電機101を示す構成図である。また、図12は、図11の電機子2を示す展開図である。比較例2による回転電機101では、比較例1と同様に、各仮想ベースコイル12aが2層重ね巻きで電機子コア7に規則的に配置されている。また、比較例2による回転電機101では、スロット11の数Qが84、回転子4の磁極数Pが32になっている。従って、比較例2での毎極スロット数q’の値は、21/8(=2.625)であり、2よりも大きく3よりも小さい値(2<q’<3)である。
このことから、比較例2による回転電機101の電機子2の構成は、式(2)から、N=2としたときの電機子2の構成であることが分かる。これにより、比較例2では、各仮想ベースコイル12aのコイルピッチが3になっていることが分かる。
また、図12のNo.6〜No.26の21個のスロット11に収まっているコイル辺21aの順番と、No.27〜No.47の21個のスロット11に収まっているコイル辺21aの順番とを比較すると、コイル辺21aの電流相及び電流の向きが全く同じパターンで配置されていることが分かる。これは、毎極スロット数q’=21/8より、21個のスロット11に対して8個の磁石6、即ち磁極が対向している構成によるものであり、スロット48以降のスロット11についても、21個のスロット11ごとに同様のパターンでコイル辺21aが配置されている。
比較例2では、磁極数Pが32であるので、回転子4の一周分の電気角が5760°である。一方、比較例2では、上記の式(3)から、電気角α°が1440°になる。従って、電気角α°の範囲である設定範囲は、電機子2の1/4周分(1440°/5760°=1/4)の範囲、即ち21個分の磁極ティース10を含む範囲になる。即ち、比較例2による電機子2でも、比較例1と同様に、電機子2を4等分する位置に4つの設定範囲15a〜15dが設定されている。比較例2による電機子2では、設定範囲15a及び15bの境界がNo.26の磁極ティース10に位置し、設定範囲15b及び15cの境界がNo.47の磁極ティース10に位置し、設定範囲15c及び15dの境界がNo.68の磁極ティース10に位置し、設定範囲15d及び15aの境界がNo.5の磁極ティース10に位置している。
ここで、設定範囲15aにおいてV相に着目すると、図12に示すように、No.9及びNo.11のスロット11の上口同士、No.6及びNo.8のスロット11の下口同士のそれぞれに、同相逆向きの電流が流れるコイル辺21aの組が配置されていることが分かる。同様に、設定範囲15aにおいてW相に着目すると、No.16及びNo.18のスロット11の上口同士、No.13及びNo.15のスロット11の下口同士のそれぞれに、同相逆向きの電流が流れるコイル辺21aの組が配置され、U相に着目すると、No.23及びNo.25のスロット11の上口同士、No.20及びNo.22のスロット11の下口同士のそれぞれに、同相逆向きの電流が流れるコイル辺21aの組が配置されていることが分かる。
これにより、図12の設定範囲15aでは、2個(即ち、N=2)の磁極ティース10を挟む2つのスロット11の上口同士(又は下口同士)の2つのコイル辺21aに同相逆向きの電流が流れる関係を持つ2つの仮想ベースコイル12aがそれぞれ仮想特定コイル12Aとなり、2つの仮想特定コイル12Aで構成された仮想コイル対23が相ごとに現れていることが分かる。また、仮想コイル対23を構成する2つの仮想特定コイル12Aで挟まれた仮想ベースコイル12aが仮想調整コイル12Bとなる。
電機子コイル群8では、21個のスロット11ごとに繰り返し同じパターンのコイル辺21aが配置されていることから、設定範囲15aだけでなく各設定範囲15b〜15dにおいても、各相の仮想コイル対23が規則的に現れていることが分かる。
一定のスロット間隔で出現する各仮想コイル対23の電流相の順序は、各相(U相、V相、W相)が同じ順番で繰り返される順序となっている。図12の仮想ベースコイル12aでは、スロット11の上口のコイル辺21aを基準に考えると、No.9及びNo.11の上口同士の2つのコイル辺21aを持つ仮想コイル対23がV相、No.16及びNo.18の上口同士の2つのコイル辺21aを持つ仮想コイル対23がW相、No.23及びNo.25の上口同士の2つのコイル辺21aを持つ仮想コイル対23がU相であることから、V相、W相、U相の順に並ぶ組が繰り返されている。比較例2の他の構成は比較例1と同様である。
図13は、比較例2による回転電機101の巻線係数Kdを示す表である。比較例2による回転電機101では、巻線係数Kdの数値が基本波成分、高次成分ともに良好な傾向を示していることが分かる。
図14は、この発明の実施の形態3による回転電機1を示す構成図である。また、図15は、図14の電機子2の一部を示す展開図である。さらに、図16は、図14の電機子2の図15で示されている部分と異なる部分を示す展開図である。図15では図14の電機子2のうちNo.1〜No.27の各スロット11の範囲が示され、図16では図14の電機子2のうちNo.22〜No.49の各スロット11の範囲が示されている。
本実施の形態による回転電機1の構成は、電機子コイル群8の配置及び磁極ティース10の幅寸法を除いて、比較例2と同様の構成である。
本実施の形態による回転電機1の電機子2にも、図14〜図16に示すように、比較例2と同様の電気角α°=1440°の範囲である複数(この例では、4個)の設定範囲15a〜15dが設定されている。従って、本実施の形態による電機子2でも、設定範囲15a及び15bの境界がNo.26の磁極ティース10に位置し、設定範囲15b及び15cの境界がNo.47の磁極ティース10に位置し、設定範囲15c及び15dの境界がNo.68の磁極ティース10に位置し、設定範囲15d及び15aの境界がNo.5の磁極ティース10に位置している。
また、各設定範囲15a〜15dのうち、互いに隣接する一部の設定範囲15a及び15bを調整範囲15a及び15bとすると、本実施の形態による回転電機1では、調整範囲15a及び15bを除いて、各仮想ベースコイル12aの位置のすべてに各ベースコイル12が配置されている。調整範囲15a及び15bでは、各仮想特定コイル12A及び各仮想調整コイル12Bのそれぞれの位置を避けて、各ベースコイル12が各仮想ベースコイル12aの位置に配置されている。
ベースコイル12のコイルエンド22はN+1個の磁極ティース10を跨いでいる。即ち、ベースコイル12のコイルピッチはN+1になっている。この例では、N=2であることから、ベースコイル12のコイルピッチが3になっている。
上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイル辺21は、ベースコイル12の配置が回避されている仮想特定コイル12Aのそれぞれのコイル辺21aの位置に配置されている。この例では、2つの調整範囲15a及び15bのそれぞれに上層コイル13及び下層コイル14が3つずつ配置されており、電機子コイル群8に含まれる上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれの数が6つずつになっている。また、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイルエンド22は、N個の磁極ティース10を跨いでいる。即ち、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイルピッチは、いずれもN(この例では、N=2)になっている。
即ち、本実施の形態での電機子2の構成は、各仮想ベースコイル12aのすべてのコイル辺21aが各スロット11の上口及び下口のすべてに規則的に配置されている仮想ベースコイル装着状態(図11)を想定した場合、図15及び図16に示すように、互いに隣接する一部の設定範囲である調整範囲15a及び15bでの各仮想特定コイル12A及び各仮想調整コイル12Bのそれぞれの位置を除いて、各仮想ベースコイル12aの位置のすべてにベースコイル12が配置され、ベースコイル12が配置されていない仮想特定コイル12Aのそれぞれのコイル辺21aの位置に上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイル辺21が配置された構成になっている。
各スロット11の上口及び下口のうち、ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイル辺21が配置されずに残った空間には、実施の形態1と同様にスペーサブロックなどが配置され、コイル辺21がスペーサブロックで保持されている。
また、比較例2による回転電機101の電機子2の調整範囲15aにおいてスロット11の下口に配置されているコイル辺21aを持つ各相の仮想ベースコイル12aがそれぞれつくる合成起磁力と、本実施の形態による回転電機1の電機子2の調整範囲15aにおいてスロット11の下口に配置されているコイル辺21aを持つ各相のベースコイル12、各相の上層コイル13及び各相の下層コイル14がそれぞれつくる合成起磁力との位相差β°は、約4.29°である(β°≒4.29)。従って、本実施の形態による電機子コア7では、上記の条件1と式(8)とにより、図15の調整範囲15aの左側の端部(一端部)に位置するNo.6の磁極ティース10の幅寸法T3がT0+T’とされている。
一方、図15及び図16の調整範囲15aの右側の端部(他端部)に位置するNo.26の磁極ティース10は、図15及び図16の調整範囲15bの左側の端部(一端部)に位置する磁極ティース10でもある。調整範囲15bにおいても、比較例2と本実施の形態との間での各相の合成起磁力の位相差β°が、調整範囲15aと同様の位相差になる。従って、調整範囲15aの他端部で調整範囲15bの一端部に位置するNo.26の磁極ティース10の幅寸法T4は、T0−T’+T’=T0となる。即ち、各調整範囲15a及び15bの境界に位置する磁極ティース10の幅寸法T4は、比較例2での磁極ティース10の幅寸法T0と同じになっている。
また、本実施の形態では、図16の調整範囲15bの右側の端部(他端部)に位置するNo.47の磁極ティース10の幅寸法T5がT0−T’とされている。他の磁極ティース10の幅寸法はすべて、比較例2と同じT0となっている。これにより、本実施の形態では、各設定範囲15a〜15dのそれぞれにおける電機子コイルがつくるそれぞれの合成起磁力の位相を一致させることができる。
図17は、図14の回転電機1の巻線係数Kdを示す表である。図14の回転電機1では、図17に示すように、巻線係数Kdの数値が良好であることが分かる。これにより、図14の回転電機1は、少ないロスでトルクを発生して動作特性の良い回転電機であることが分かる。
また、本実施の形態では、調整範囲15a,15bと、設定範囲15c,15dとでコイル数が異なるので、電機子コイルの総抵抗値、インピーダンス、インダクタンスなどが調整範囲15a,15bと設定範囲15c,15dとで異なる。しかし、上記と同様に、例えば、調整範囲15a及び設定範囲15dの各相の電機子コイルを直列につなぎ、調整範囲15b及び設定範囲15cの各相の電機子コイルを直列につなぐことで、調整範囲15a及び設定範囲15dを合わせた範囲での各相のコイル数、コイル総抵抗値、インダクタンスなどと、調整範囲15b及び設定範囲15cを合わせた範囲での各相のコイル数、コイル総抵抗値、インダクタンスなどとが、同じになる。これにより、回転電機1の動作特性を良好にする電機子回路を組むことができる。
このように、毎極スロット数q’が実施の形態1及び2と異なる場合であっても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
なお、上記の例では、電機子コア7が分割されていないが、実施の形態2と同様に、電機子コア7を複数の分割コアに分割してもよい。この場合、各分割コアの境界の位置は、各電機子コイルのコイルエンド22が跨っていない磁極ティース10(例えば、No.8及びNo.43の各磁極ティース10)の位置とされる。
また、各上記実施の形態では、電機子2の内側に回転子4が配置されたインナロータ型の回転電機1にこの発明が適用されているが、これに限定されず、筒状の回転子の内側に電機子が配置されたアウタロータ型の回転電機にこの発明を適用してもよい。また、電機子と回転子とが径方向について対向するラジアルギャップ型(インナロータ型、アウタロータ型)の回転電機だけでなく、例えば、電機子と回転子とが軸線方向について対向するアキシャルギャップ型の回転電機にこの発明を適用してもよい。
また、各上記実施の形態による回転電機1は、例えば電動機、発電機及び発電電動機のいずれにも適用することができる。また、各上記実施の形態による回転電機1は、同期機以外の例えば誘導機等に適用することもできる。