以下、この発明の好適な実施の形態について図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による回転電機を示す構成図である。図において、回転電機1は、円筒状の固定子である電機子2と、電機子2の軸線上に配置された回転軸3と、回転軸3に固定され、回転軸3と一体に電機子2に対して回転される回転子4とを有している。
回転子4は、電機子2の内側に配置されている。また、回転子4は、磁性材料(例えば鉄等)で構成された円柱状の回転子コア5と、回転子コア5の外周面(即ち、電機子2の内周面に対向する面)に設けられた複数の磁石6とを有している。各磁石6は、回転子コア5の周方向について互いに間隔を置いて配置されている。回転子4には、各磁石6によって回転子コア5の周方向へ並ぶ複数の磁極が形成されている。この例では、14個の磁石6が回転子コア5の外周面に設けられており、回転子4の磁極数Pが14になっている。
電機子2は、磁性材料(例えば鉄等)で構成された電機子コア7と、電機子コア7に設けられた電機子コイル群8とを有している。
電機子コア7は、円筒状のバックヨーク9と、バックヨーク9の内周部から径方向内側へ(即ち、回転子4に向けて)突出する複数の磁極ティース10とを有している。各磁極ティース10は、電機子コア7の周方向について互いに間隔を置いて設けられている。これにより、各磁極ティース10間には、電機子コア7の径方向内側へ(即ち、回転子4に向けて)開放されたスロット11が形成されている。電機子コア7では、磁極ティース10の数とスロット11の数(スロット数)Qとが同じになっている。この例では、磁極ティース10の数及びスロット数Qがともに36になっている。
ここでは、説明の便宜上、図1の回転軸3の中心から真上に位置するスロット11を基準スロットとし、基準スロット11の番号をNo.1としている。また、図1の基準スロットNo.1から反時計まわりの順に各スロット11の番号をNo.2、No.3、…、No.36としている。また、図1のNo.1及びNo.2のスロット11間に位置する磁極ティース10の番号をNo.1とし、No.1の磁極ティース10から反時計まわりの順に各磁極ティース10の番号をNo.2、No.3、…、No.36としている。
また、スロット数Qと磁極数Pとの関係を示す係数である毎極スロット数(即ち、回転子4の1つの磁極当たりのスロット11の数)q’は、以下の式(1)で表される。
q’=Q/P …(1)
従って、この例では、毎極スロット数q’の値が36/14=18/7≒2.57となっている。
図2は、図1の電機子2を示す展開図である。電機子コイル群8は、複数のベースコイル12と、複数の上層コイル13と、複数の下層コイル14と、複数の最下層コイル15とを電機子コイルとして有している。
ベースコイル12、上層コイル13、下層コイル14及び最下層コイル15のそれぞれは、複数の磁極ティース10にまとめて巻かれた導線束により構成されている。即ち、ベースコイル12、上層コイル13、下層コイル14及び最下層コイル15のそれぞれは、重ね巻きで磁極ティース10に巻かれている。また、ベースコイル12、上層コイル13、下層コイル14及び最下層コイル15のそれぞれを構成する導線束の線種及びターン数は、すべて同じである。
ベースコイル12、上層コイル13、下層コイル14及び最下層コイル15のそれぞれは、互いに異なるスロット11に配置された一対のコイル辺21と、複数の磁極ティース10を跨いで一対のコイル辺21間を繋ぐ一対のコイルエンド22とを有している。各コイル辺21は、スロット11に沿った略直線部である。各コイルエンド22は、電機子コア7の軸線方向外側でコイル辺21の端部間を繋いでいる。
電機子コア7に設けられている複数のスロット11のうち、電機子コア7の周方向について一定間隔で存在する一部のスロット11は深溝型スロット111とされ、深溝型スロット111以外の他のスロット11は通常スロット112とされている。
各通常スロット112の深さ寸法は、すべて同じになっている。各通常スロット112には、コイル辺21を配置するための空間である上口(即ち、上層)及び下口(即ち、下層)が存在している。通常スロット112の上口は、通常スロット112の下口よりも電機子コア7の径方向内側(即ち、通常スロット112の開口側)に位置している。
各深溝型スロット111の深さ寸法は、すべて同じになっている。また、各深溝型スロット111は、各通常スロット112よりも深くなっている。各深溝型スロット111には、コイル辺21を配置するための空間である上口(即ち、上層)、下口(即ち、下層)及び最下口(即ち、最下層)が存在している。深溝型スロット111の上口は深溝型スロット111の下口よりも電機子コア7の径方向内側(即ち、深溝型スロット111の開口側)に位置し、深溝型スロット111の下口は深溝型スロット111の最下口よりも電機子コア7の径方向内側(即ち、深溝型スロット111の開口側)に位置している。
各深溝型スロット111及び各通常スロット112のそれぞれの上口は電機子コア7の径方向について同位置に存在し、各深溝型スロット111及び各通常スロット112のそれぞれの下口は電機子コア7の径方向について同位置に存在している。従って、各深溝型スロット111のそれぞれの最下口は、通常スロット112の下口よりも径方向外側の位置に存在している。
各ベースコイル12は、一方のコイル辺21をスロット11の上口に配置し、他方のコイル辺21をスロット11の下口に配置した状態で電機子コア7に設けられている。また、各ベースコイル12のコイルエンド22は、電機子コア7の周方向に対して同じ方向に傾いた状態で複数の磁極ティース10を跨いでいる。
コイルエンド22が跨ぐ磁極ティース10の数(即ち、共通のコイルにおける一方及び他方のコイル辺21間に挟まれる磁極ティース10の数)をコイルピッチとすると、各ベースコイル12のコイルピッチは、すべて同じになっている。各ベースコイル12は、コイルピッチが毎極スロット数q’よりも大きい長節巻きのコイルである。
上層コイル13は、一方及び他方のコイル辺21をいずれもスロット11の上口に配置した状態で電機子コア7に設けられている。下層コイル14は、一方及び他方のコイル辺21をいずれもスロット11の下口に配置した状態で電機子コア7に設けられている。最下層コイル15は、一方及び他方のコイル辺21をいずれも深溝型スロット111の最下口に配置した状態で電機子コア7に設けられている。
なお、図2では、各ベースコイル12、各上層コイル13、各下層コイル14及び各最下層コイル15のそれぞれに流れる電流の相をU、V、Wで示している。また、図2では、各コイル辺21に流れる電流の向きを、U、V、Wの大文字及び小文字と、コイル辺21を示す白抜きの丸印の中に黒丸印及びX印を付した記号とで示している。従って、各コイル12,13,14,15の巻き回し方向は、各コイル辺21の電流の向きで分かるようになっている。
ここで、本実施の形態による回転電機1での各ベースコイル12、各上層コイル13、各下層コイル14及び各最下層コイル15のそれぞれの位置を特定するために、上層コイル13、下層コイル14及び最下層コイル15を含まない比較例1による回転電機を想定する。
図3は、比較例1による回転電機1Aを示す構成図である。また、図4は、図3の回転電機1Aの電機子2を示す展開図である。さらに、図5は、図4の回転電機1Aの電機子2の要部拡大図である。なお、図4及び図5では、各コイルに流れる電流相と、各コイル辺に流れる電流の向きとが、図2と同様の方法で示されている。
比較例1による回転電機1Aの構成は、電機子コイル群8の構成及び電機子コア7のスロット11の構成以外、実施の形態1による回転電機1の構成と同様である。比較例1では、実施の形態1による各深溝型スロット111に代えて通常スロット112が電機子コア7に設けられている。即ち、比較例1では、電機子コア7に設けられているすべてのスロット11が通常スロット112と同じ構成になっている。
比較例1による電機子コイル群8は、ベースコイル12と同じ構成の複数の仮想ベースコイル12aのみを有している。各仮想ベースコイル12aは、ベースコイル12のコイル辺21と同じ構成の一対のコイル辺21aと、ベースコイル12のコイルエンド22と同じ構成の一対のコイルエンド22aとを有している。
各仮想ベースコイル12aは、一方のコイル辺21aをスロット11の上口に配置し他方のコイル辺21aをスロット11の下口に配置した状態で電機子コア7に規則的に並べられている。各仮想ベースコイル12aの各コイル辺21aは、各スロット11の上口及び下口のすべてに配置されている。これにより、比較例1による回転電機1Aの電機子2の状態は、各仮想ベースコイル12aが2層重ね巻きで電機子コア7に規則的に配置された仮想ベースコイル装着状態となっている。
回転電機の理想状態は、U相、V相、W相の各電機子コイルがつくる誘起電圧のそれぞれの合成ベクトルの大きさが同じで、各相の誘起電圧の合成ベクトルが電気角で位相差120°ごとに分布している状態である。従って、比較例1による回転電機1Aでは、回転電機の理想状態になるように、各仮想ベースコイル12aに接続される電流相(U相、V相、W相)の選択と、各仮想ベースコイル12aの巻き回し方向の選択とが行われている。回転電機1Aでは、各相の仮想ベースコイル12aの配置順及び各仮想ベースコイル12aの巻き回し方向をそれぞれ調整することにより、回転子4の磁極がつくる磁束に対応するおよそ正弦波状の誘起電圧が発生するようになっている。
図4では、No.1〜No.18のスロット11と、No.19〜No.36のスロット11とに分けてみると、コイル辺21aに流れる電流の向きが反転していることを除いて、各相の仮想ベースコイル12aの配置が同じになっていることが分かる。これは、比較例1による回転電機1Aの毎極スロット数q’の値が18/7であることによるものである。即ち、比較例1での電機子2では、18個のスロット11に対して7個の磁極が対応して1組となっていることから、各相の仮想ベースコイル12aの配置が18個のスロット11のまとまりで繰り返される構成となっている。
各仮想ベースコイル12aが2層重ね巻きで電機子コア7に規則的に配置された仮想ベースコイル装着状態では、Nを2以上の自然数とすると、毎極スロット数q’が以下の式(2)を満たすとき、各仮想ベースコイル12aのU相、V相、W相の電流相及び巻き回し方向を調整することにより、電流相及び電流の向きに関して特定の関係を持つ2つの仮想ベースコイル12aで構成された仮想コイル対23が、一定間隔で出現するようにすることができる。仮想コイル対23を構成する2つの仮想ベースコイル12aをそれぞれ仮想特定コイル12Aとすると、共通の仮想コイル対23に含まれる2つの仮想特定コイル12Aの関係は、N個の磁極ティース10を挟む2つのスロット11の上口同士(又は下口同士)に配置された2つのコイル辺21aに流れる電流が同相逆向きになる関係になっている。
N<q’<N+1 …(2)
これは、U相、V相、W相の各仮想ベースコイル12aがつくる誘起電圧のそれぞれの合成ベクトルの大きさが各相で同じで、かつ各合成ベクトルの位相差が120°ごとに分布する理想状態になるように、各仮想ベースコイル12aの配置を決めることによる。
毎極スロット数q’の値は、上述のように約2.57であるので、2よりも大きく3よりも小さい値(2<q’<3)である。従って、比較例1による回転電機1Aの電機子2の構成は、式(2)から、N=2としたときの電機子2の構成であることが分かる。比較例1での各仮想ベースコイル12aは、コイルエンド22aがN+1個の磁極ティース10を跨ぐコイルになっている。このことから、比較例1では、各仮想ベースコイル12aのコイルピッチが3になっている。
共通の仮想コイル対23に含まれる2つの仮想特定コイル12A間には、N−1個の仮想ベースコイル12aが仮想調整コイル12Bとして存在している。N−1個の仮想調整コイル12Bも、仮想コイル対23と同様に、電機子コア7の周方向について一定間隔で存在している。比較例1による電機子2では、図4に示すように、仮想調整コイル12Bの電流相と、仮想調整コイル12Bを挟む2つの仮想特定コイル12Aで構成された仮想コイル対23の電流相とが、互いに異なっている。比較例1による電機子2では、V相の仮想コイル対23の仮想特定コイル12Aに挟まれた仮想調整コイル12Bの電流相がW相、U相の仮想コイル対23の仮想特定コイル12Aに挟まれた仮想調整コイル12Bの電流相がV相、W相の仮想コイル対23の仮想特定コイル12Aに挟まれた仮想調整コイル12Bの電流相がU相になっている。
図6は、比較例1による回転電機1Aの巻線係数Kdを示す表である。巻線係数Kdは、回転電機の特性を示す指標であり、基本波成分の数値が1に近いほどトルク特性が良く、5次、7次、…等の高次成分の数値が小さいほど高周波振動が小さくなって、回転電機の動作特性が良いことを示す。比較例1による回転電機1Aでは、巻線係数Kdの数値が基本波成分、高次成分ともに良好な傾向を示していることが分かる。
実施の形態1による回転電機1では、図2を図4と比較すると、各仮想コイル対23を構成するすべての仮想特定コイル12Aの位置、及びすべての仮想調整コイル12Bの位置を避けて、各仮想ベースコイル12aの位置に各ベースコイル12が配置されている。
ベースコイル12のコイルエンド22はN+1個の磁極ティース10を跨いでいる。即ち、ベースコイル12のコイルピッチはN+1になっている。この例では、N=2であることから、ベースコイル12のコイルピッチが3になっている。
上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイル辺21は、ベースコイル12の配置が回避されている仮想特定コイル12Aのそれぞれのコイル辺21aの位置に配置されている。これにより、上層コイル13及び下層コイル14は、ベースコイル12の配置が回避されている共通の仮想コイル対23につき1つずつ配置されている。従って、電機子コイル群8に含まれる上層コイル13の数と下層コイル14の数とは、同じになっている。また、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイルエンド22は、N個の磁極ティース10を跨いでいる。即ち、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイルピッチは、いずれもN(この例では、N=2)になっている。
上層コイル13の電流相は、上層コイル13のコイル辺21に対応するコイル辺21aを持つ仮想コイル対23の電流相と同じ相とされている。また、上層コイル13のコイル辺21に流れる電流の向きが仮想特定コイル12Aのコイル辺21aに流れる電流の向きと同じになるように、上層コイル13の巻き回し方向が決められている。
下層コイル14の電流相は、下層コイル14のコイル辺21に対応するコイル辺21aを持つ仮想コイル対23の電流相と同じ相とされている。また、下層コイル14のコイル辺21に流れる電流の向きが仮想特定コイル12Aのコイル辺21aに流れる電流の向きと同じになるように、下層コイル14の巻き回し方向が決められている。
即ち、本実施の形態による電機子2は、図2を図4と比較すると、各仮想特定コイル12Aの位置のベースコイル12を無くしている点で、比較例1による電機子2と異なっている。各仮想特定コイル12Aの位置のベースコイル12を単に無くした場合、電機子2がつくる誘起電圧が低下してしまうが、本実施の形態による電機子2では、各仮想特定コイル12Aのそれぞれのコイル辺21aの位置に上層コイル13のコイル辺21及び下層コイル14のコイル辺21のいずれかが配置されている。これにより、各仮想特定コイル12Aの位置のベースコイル12を無くしたことによる誘起電圧の低下が防止される。
ここで、図4に示すように、電機子コア7の周方向について互いに隣り合うとともに電流相が互いに異なっている3つの仮想調整コイル12B(例えば、No.2、No.8、No.14のスロット11のそれぞれの上口に配置されたコイル辺21aを持つU相、V相、W相の仮想調整コイル12B)は、互いに位相差が120°となる誘起電圧をつくる仮想ベースコイル12aである。これにより、回転電機1Aの電機子2では、すべての仮想調整コイル12Bをなくした場合、U相、V相、W相の各仮想ベースコイル12aがつくる誘起電圧のそれぞれの合成ベクトルの大きさが同じで、各相の誘起電圧の合成ベクトルの位相差が電気角で120°ごとに分布する状態を保つことができる。また、U相、V相、W相の各仮想調整コイル12Bは、電気角幅α°の範囲内に同数ずつ(この例では、1つずつ)存在している。電気角幅α°は、スロット数Q及び磁極数P、即ち毎極スロット数q’に依存して決まり、以下の式(3)で表される。
α°=180°×P/gcd(Q,P)=1260° …(3)
ただし、gcd(Q,P)は、スロット数Qと回転子4の磁極数Pとの最大公約数である。
本実施の形態では、上述したように、各仮想調整コイル12Bのすべての位置を避けてベースコイル12が配置されている。従って、本実施の形態では、U相、V相、W相の各ベースコイル12がつくる誘起電圧のそれぞれの合成ベクトルの大きさ及び位相差の関係が崩れることが防止されている。
本実施の形態による電機子コア7では、図2を図4と比較すると、仮想ベースコイル装着状態で各仮想調整コイル12Bのそれぞれのコイル辺21aを収容する各スロット11のすべてが、深溝型スロット111になっている。即ち、本実施の形態による電機子コア7では、図2に示すように、各上層コイル13の一方及び他方のコイル辺21間に挟まれた各スロット11と、各下層コイル14の一方及び他方のコイル辺21間に挟まれた各スロット11とが、深溝型スロット111になっている。
従って、本実施の形態では、3個のスロット11ごとに各深溝型スロット111が存在している。即ち、本実施の形態では、No.2、No.5、No.8、No.11、No.14、No.17、No.20、No.23、No.26、No.29、No.32、No.35のスロット11が深溝型スロット111になっている。
共通の仮想コイル対23に対応する上層コイル13と下層コイル14との間には、図2に示すように、ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイルエンド22が跨らない磁極ティース10が存在している。各最下層コイル15のそれぞれのコイルエンド22は、ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14がいずれも跨らない磁極ティース10(この例では、No.6、No.12、No.18、No.24、No.30、No.36の磁極ティース10)を避けて配置されている。また、最下層コイル15のそれぞれのコイルエンド22が跨ぐ磁極ティース10の数は、各最下層コイル15で同じになっている。本実施の形態では、各最下層コイル15のそれぞれのコイルエンド22が3個の磁極ティース10を跨いでいる。即ち、各最下層コイル15のそれぞれのコイルピッチは、いずれも3になっている。
最下層コイル15の一方及び他方のコイル辺21は、互いに隣り合う2つの深溝型スロット111のそれぞれの最下口に配置されている。これにより、各最下層コイル15のそれぞれのコイルエンド22は、電機子コア7の周方向と平行になっている。
即ち、互いに隣り合う2つの仮想コイル対23のうち、一方の仮想コイル対23に対応する上層コイル13の一対のコイル辺21間に挟まれた一方の深溝型スロット111の最下口に最下層コイル15の一方のコイル辺21が配置され、他方の仮想コイル対23に対応する下層コイル14の一対のコイル辺21間に挟まれた他方の深溝型スロット111の最下口に最下層コイル15の他方のコイル辺21が配置されている。
最下層コイル15の電流相は、一方の深溝型スロット111を挟む一対のコイル辺21を持つ上層コイル13の電流相、及び他方の深溝型スロット111を挟む一対のコイル辺21を持つ下層コイル14の電流相のそれぞれと異なる相になっている。例えば、No.2及びNo.5の深溝型スロット111のそれぞれの最下口に配置されたコイル辺21を持つ最下層コイル15の電流相は、No.2の深溝型スロット111を挟む一対のコイル辺21を持つV相の上層コイル13(即ち、No.1及びNo.3のスロット11の上口に配置されたコイル辺21を持つ上層コイル13)の電流相、及びNo.5の深溝型スロット111を挟む一対のコイル辺21を持つU相の下層コイル14(即ち、No.4及びNo.6のスロット11の下口に配置されたコイル辺21を持つ下層コイル14)の電流相のそれぞれと異なるW相になっている。
また、各最下層コイル15のコイル辺21の電流の向きは、最下層コイル15と同じ相のベースコイル12のコイル辺21のうち、最下層コイル15のコイル辺21が配置された深溝型スロット111に配置されているコイル辺21に流れる電流の向きと同じになっている。
電機子コア7の周方向について互いに隣り合う3つの最下層コイル15の電流相は、図2に示すように、互いに異なっている。例えば、No.2、No.8、No.14のそれぞれの深溝型スロット111の最下口に配置されたコイル辺21を持つ3つの最下層コイル15の電流相は、互いに異なるW相、V相、U相になっている。
即ち、互いに異なる相、即ちU相、V相、W相の各最下層コイル15のそれぞれの一方のコイル辺21が配置されている各深溝型スロット111は、電機子コア7の周方向について、以下の式(4)で表されるn個のスロット11ごとに現れている。
n=Q/{gcd(Q,P)×m}…(4)
ただし、mは、電機子コイル群8の相数(この例では、m=3)である。
この例では、互いに異なる相の各最下層コイル15のそれぞれの一方のコイル辺21が配置されている各深溝型スロット111(例えば、No.2、No.8、No.14の各深溝型スロット111)が、6個のスロット11ごとに現れており、式(4)の関係が成立している。
従って、電機子コア7の周方向について互いに隣り合う3つの最下層コイル15は、互いに位相差が120°となる誘起電圧をつくるコイルになっている。これにより、回転電機1Aの電機子2では、電機子コア7に最下層コイル15を追加して、すべての深溝型スロット111に最下層コイル15のコイル辺21を配置した場合でも、U相、V相、W相の各電機子コイル12,13,14,15がつくる誘起電圧のそれぞれの合成ベクトルの大きさが同じで、各相の誘起電圧の合成ベクトルの位相差が電気角で120°となる状態を保つことができる。
U相、V相、W相の各最下層コイル15は、仮想調整コイル12Bと同様に、電気角幅α°の範囲内に同数ずつ(この例では、1つずつ)配置されている。これにより、本実施の形態による電機子2では、ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14がつくる誘起電圧の合成ベクトルの大きさが、各最下層コイル15の追加によって各相で均等に大きくなる。
電機子コア7は、電機子コア7の周方向へ並ぶ複数(この例では、2個)の分割コア31に分割されている。各分割コア31は、例えば溶接等により互いに連結されている。各分割コア31の境界32の位置は、ベースコイル12、上層コイル13、下層コイル14及び最下層コイル15のそれぞれのコイルエンド22がいずれも跨らない磁極ティース10(この例では、No.18及びNo.36のそれぞれの磁極ティース10)の位置になっている。各分割コア31の境界32は、電機子コア7の径方向に沿って形成されている。電機子2は、ベースコイル12、上層コイル13、下層コイル14及び最下層コイル15を分割コア31に設けて構成した複数(この例では、2個)の分割電機子33によって構成されている。
図7は、図1の回転電機1の巻線係数Kdを示す表である。本実施の形態による回転電機1の巻線係数Kdの数値は、比較例1による回転電機1Aの巻線係数Kdと比較しても、基本波成分、高次成分ともに良好であることが分かる。
電機子2を製造するときには、複数の分割電機子33を予め製造しておき、各分割電機子33を環状に並べて各分割コア31同士を固定することにより電機子2を製造する。
分割電機子33を製造するときには、各最下層コイル15、各下層コイル14、各ベースコイル12及び各上層コイル13の順番でコイル辺21を分割コア31の各スロット11に挿入して、各電機子コイル12〜15を分割コア31に装着する。これにより、分割電機子33が完成する。
分割電機子33では、電機子コイル12〜15のコイルエンド22がいずれも跨っていない磁極ティース10が一定間隔で存在している。従って、分割電機子33を製造するときには、最下層コイル15、下層コイル14、ベースコイル12及び上層コイル13を分割コア31に順次装着する作業を、コイルエンド22が跨っていない各磁極ティース10間の区間ごとに個別に行ってもよい。
このような回転電機1では、仮想ベースコイル装着状態で仮想調整コイル12Bのコイル辺21aを収容するスロット11が、通常スロット112よりも深い深溝型スロット111になっており、最下層コイル15の一方及び他方のコイル辺21がいずれも深溝型スロット111の最下口に配置されているので、ベースコイル12に対して最下層コイル15を電機子コア7の径方向外側に離して配置することができ、最下層コイル15のコイルエンド22がベースコイル12のコイルエンド22と交差することを回避することができる。これにより、ベースコイル12、上層コイル13、下層コイル14及び最下層コイル15を電機子コア7に巻くときに、各コイル12〜15のそれぞれのコイルエンド22が互いに邪魔にならないようにすることができ、電機子2の製造を容易にすることができる。また、ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14がつくる誘起電圧の合成ベクトルの大きさを各相(U相、V相、W相)で大きくする誘起電圧を各最下層コイル15によってつくることができ、電機子コイル群8の各相(U相、V相、W相)の誘起電圧のバランスを維持しながら、各相の誘起電圧の低下を防止することができる。これにより、回転電機1の動作特性を良好に維持することができる。
また、電機子コア7は、電機子コア7の周方向へ並ぶ複数の分割コア31に分割されており、各分割コア31の境界32の位置は、各電機子コイル12〜15がいずれも跨らない磁極ティース10の位置になっているので、ベースコイル12、上層コイル13、下層コイル14及び最下層コイル15を分割コア31ごとに巻くことができる。従って、各コイル12〜15の分割コア31への装着作業を容易にすることができ、電機子2の製造を容易にすることができる。
また、電機子2は複数の分割電機子33で構成されているので、電機子2を構成する各部品の小形軽量化を図ることができる。これにより、回転電機1の完成後も、分割電機子33単位で電機子2の分解及び再組立を行うことができ、回転電機1の修理及びメンテナンス等の作業性を向上させることができる。また、電機子2が損傷した場合であっても、電機子2全体を修理、交換する必要がなくなり、回転電機1の修理及び交換に要するコストの低減化及び作業時間の短縮化を図ることができる。
実施の形態2.
実施の形態2による回転電機1を説明する前に、比較例2による回転電機1Bの構成を説明する。
図8は、比較例2による回転電機1Bを示す構成図である。また、図9は、図8の電機子2を示す展開図である。比較例2による回転電機1Bでは、比較例1と同様に、各仮想ベースコイル12aが2層重ね巻きで電機子コア7に規則的に配置された仮想ベースコイル装着状態になっている。また、比較例2による回転電機1Bでは、スロット11の数Qが54、回転子4の磁極数Pが14になっている。従って、比較例2での毎極スロット数q’の値は、27/7(≒3.85)になっており、3よりも大きく4よりも小さい値(3<q’<4)になっている。このことから、比較例2による回転電機1Bの電機子2の構成は、式(2)から、N=3としたときの電機子2の構成になっている。即ち、比較例2では、各仮想ベースコイル12aのコイルピッチがN+1=4になっている。
比較例2では、U相に着目すると、No.1及びNo.4のスロット11の上口同士、No.24及びNo.27のスロット11の下口同士、No.28及びNo.31のスロット11の上口同士、No.51及びNo.54のスロット11の下口同士のそれぞれに、同相逆向きの電流が流れるコイル辺21aの組が配置されていることが分かる。また、同相逆向きの電流が流れるコイル辺21aの組がそれぞれ上口にあるNo.1及びNo.4のスロット11とNo.28及びNo.31のスロット11との距離は27スロット分であり、同相逆向きの電流が流れるコイル辺21aの組が下口にあるNo.24及びNo.27のスロット11とNo.51及びNo.54のスロット11との間の距離も27スロット分であることが分かる。さらに、No.1及びNo.4のスロット11の上口同士、No.51及びNo.54のスロット11の下口同士のそれぞれのコイル辺21aが共通の2つの仮想ベースコイル12aのコイル辺21aになっており、No.28及びNo.31のスロット11の上口同士、No.24及びNo.27のスロット11の下口同士のそれぞれのコイル辺21aも共通の2つの仮想ベースコイル12aのコイル辺21aになっていることが分かる。このようなことから、図9では、3個(N=3)の磁極ティース10を挟む2つのスロット11の上口同士(又は下口同士)の2つのコイル辺21aに同相逆向きの電流が流れる関係を持つ2つの仮想ベースコイル12aがそれぞれ仮想特定コイル12Aとなり、2つの仮想特定コイル12Aで構成された仮想コイル対23が、27スロット間隔で配置されていることが分かる。また、V相、W相についても、U相と同様に、仮想コイル対23が、27スロット間隔で配置されている。
一定のスロット間隔で出現する各仮想コイル対23の電流相の順序は、各相(U相、V相、W相)が同じ順番で繰り返される順序となっている。図9の仮想ベースコイル12aでは、スロット11の上口のコイル辺21aを基準に考えると、No.1及びNo.4の上口同士の2つのコイル辺21aを持つ仮想コイル対23がU相、No.10及びNo.13の上口同士の2つのコイル辺21aを持つ仮想コイル対23がW相、No.19及びNo.22の上口同士の2つのコイル辺21aを持つ仮想コイル対23がV相であることから、U相、W相、V相の順に並ぶ組が繰り返されている。
また、比較例2による回転電機1Bでは、共通の仮想コイル対23に含まれる2つの仮想特定コイル12A間に複数の仮想ベースコイル12aが仮想調整コイル12Bとして存在している。比較例2では、N=3であることから、共通の仮想コイル対23に含まれる2つの仮想特定コイル12A間に、2つ(即ち、N−1=2)の仮想調整コイル12Bが存在している。また、共通の仮想コイル対23の2つの仮想特定コイル12A間に存在する2つの仮想調整コイル12Bは、電機子コア7の周方向について、仮想コイル対23と同じ間隔で存在している。さらに、比較例2による電機子2でも、比較例1と同様に、2つの仮想調整コイル12Bの電流相と、仮想調整コイル12Bを挟む2つの仮想特定コイル12Aで構成された仮想コイル対23の電流相とが、互いに異なっている。従って、比較例2による電機子2では、U相の仮想コイル対23の仮想特定コイル12Aに挟まれた2個の仮想調整コイル12Bの電流相がV相及びW相、W相の仮想コイル対23の仮想特定コイル12Aに挟まれた2個の仮想調整コイル12Bの電流相がV相及びU相、V相の仮想コイル対23の仮想特定コイル12Aに挟まれた2つの仮想調整コイル12Bの電流相がU相及びW相となっている。
U相、V相、W相の各仮想調整コイル12Bは、互いに位相差が120°となる誘起電圧をつくる仮想ベースコイル12aである。また、U相、V相、W相の各仮想調整コイル12Bは、式(3)で表される電気角幅α°(α°=1260°)の範囲内に同数ずつ(この例では、2つずつ)存在している。比較例2の他の構成は比較例1と同様である。
図10は、比較例2による回転電機1Bの巻線係数Kdを示す表である。比較例2による回転電機1Bでは、巻線係数Kdの数値が基本波成分、高次成分ともに良好な傾向を示していることが分かる。
図11は、この発明の実施の形態2による回転電機1を示す構成図である。また、図12は、図11の電機子2を示す展開図である。各ベースコイル12は、図12を図9と比較すると、各相の仮想コイル対23に含まれるすべての仮想特定コイル12Aの位置、及びすべての仮想調整コイル12Bの位置を避けて、他のすべての仮想ベースコイル12aの位置に配置されている。これにより、各ベースコイル12のそれぞれのコイルエンド22は、4個(N+1=4)の磁極ティース10を跨いでいる。即ち、各ベースコイル12のコイルピッチは、4になっている。上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイル辺21は、ベースコイル12の配置が回避されている各相の仮想特定コイル12Aのそれぞれのコイル辺21aの位置に配置されている。上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイルエンド22は、3個(N=3)の磁極ティース10を跨いでいる。即ち、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれのコイルピッチは、いずれも3になっている。
本実施の形態による電機子コア7では、図12を図9と比較すると、仮想ベースコイル装着状態で各仮想調整コイル12Bのそれぞれのコイル辺21aを収容する各スロット11のすべてが、深溝型スロット111になっている。即ち、本実施の形態による電機子コア7では、図12に示すように、各上層コイル13の一方及び他方のコイル辺21間に挟まれた各スロット11と、各下層コイル14の一方及び他方のコイル辺21間に挟まれた各スロット11とが、深溝型スロット111になっている。
また、本実施の形態では、共通の上層コイル13で挟まれた深溝型スロット111の数、及び共通の下層コイル14で挟まれた深溝型スロット111の数は、それぞれ2つ(複数)である。
共通の上層コイル13で挟まれた互いに異なる2つの深溝型スロット111のうち、一方の深溝型スロット111が第1の深溝型スロット111Aとされ、他方の深溝型スロット111が第2の深溝型スロット111Bとされている。また、共通の下層コイル14で挟まれた互いに異なる2つの深溝型スロット111のうち、一方の深溝型スロット111が第1の深溝型スロット111Aとされ、他方の深溝型スロット111が第2の深溝型スロット111Bとされている。各第1の深溝型スロット111Aは電機子コア7の周方向について一定間隔で存在し、各第2の深溝型スロット111Bは電機子コア7の周方向について各第1の深溝型スロット111Aと同じ一定間隔で存在している。
第1の深溝型スロット111Aの深さ寸法と、第2の深溝型スロット111Bの深さ寸法とは、互いに異なっている。従って、第1の深溝型スロット111Aの最下口の位置と、第2の深溝型スロット111Bの最下口の位置とは、電機子コア7の径方向について互いに異なっている。本実施の形態では、各第1の深溝型スロット111Aの深さ寸法が各第2の深溝型スロット111Bの深さ寸法よりも小さくなっている。従って、本実施の形態では、各第1の深溝型スロット111Aの最下口が各第2の深溝型スロット111Bの最下口よりも径方向内側に位置している。
各第1の深溝型スロット111Aの深さ寸法は互いに同じであり、各第2の深溝型スロット111Bの深さ寸法も互いに同じである。通常スロット112、第1及び第2の深溝型スロット111A,111Bのそれぞれの下口は、第1及び第2の深溝型スロット111A,111Bのそれぞれの最下口よりも径方向内側に位置している。通常スロット112、第1及び第2の深溝型スロット111A,111Bのそれぞれの上口は、通常スロット112、第1及び第2の深溝型スロット111A,111Bのそれぞれの下口よりも径方向内側に位置している。
各最下層コイル15のそれぞれのコイル辺21は、実施の形態1と同様に、すべての深溝型スロット111(即ち、すべての第1及び第2の深溝型スロット111A,111B)のそれぞれの最下口に配置されている。本実施の形態では、U相、V相、W相の最下層コイル15が4つずつ電機子コア7に設けられている。
共通の最下層コイル15の一方及び他方のコイル辺21は、同じ深さ寸法を持つ2つの深溝型スロット111にそれぞれ配置されている。本実施の形態による電機子2では、互いに異なる第1の深溝型スロット111Aのそれぞれの最下口に配置された一対のコイル辺21を持つ最下層コイル15が第1の最下層コイル15Aとされ、互いに異なる第2の深溝型スロット111Bの最下口に配置された一対のコイル辺21を持つ最下層コイル15が第2の最下層コイル15Bとされている。従って、本実施の形態では、第1の最下層コイル15Aが第2の最下層コイル15Bよりも径方向内側に配置されている。また、第1及び第2の最下層コイル15A,15Bのそれぞれのコイルエンド22は、電機子コア7の周方向と平行になっている。
第1の最下層コイル15Aは、互いに隣り合う2つの仮想コイル対23のうち、一方の仮想コイル対23に対応する上層コイル13の一対のコイル辺21間に挟まれた第1の深溝型スロット111Aの最下口に一方のコイル辺21を配置し、他方の仮想コイル対23に対応する下層コイル14の一対のコイル辺21間に挟まれた第1の深溝型スロット111Aの最下口に他方のコイル辺21を配置した状態で、電機子コア7に設けられている。
第2の最下層コイル15Bは、互いに隣り合う2つの仮想コイル対23のうち、一方の仮想コイル対23に対応する上層コイル13の一対のコイル辺21間に挟まれた第2の深溝型スロット111Bの最下口に一方のコイル辺21を配置し、他方の仮想コイル対23に対応する下層コイル14の一対のコイル辺21間に挟まれた第2の深溝型スロット111Bの最下口に他方のコイル辺21を配置した状態で、電機子コア7に設けられている。
第1及び第2の最下層コイル15A,15Bは、ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14がいずれも跨らない磁極ティース10(No.9、No.18、No.27、No.36、No.45、No.54の磁極ティース10)を避けて配置されている。第1の深溝型スロット111Aは電機子コア7の周方向について一定間隔で存在し、第2の深溝型スロット111Bも電機子コア7の周方向について、第1の深溝型スロット111Aと同じ一定間隔で存在している。これにより、第1及び第2の最下層コイル15A,15Bのそれぞれのコイルエンド22が跨ぐ磁極ティース10の数は、各第1及び第2の最下層コイル15A,15Bですべて同じになっている。即ち、第1及び第2の最下層コイル15A,15Bのそれぞれのコイルピッチはすべて同じになっている。本実施の形態では、第1及び第2の最下層コイル15A,15Bのそれぞれのコイルエンド22が跨ぐ磁極ティース10の数が5個になっている。
第1及び第2の最下層コイル15A,15Bは、図12を図9と比較すると、共通の上層コイル13(又は、共通の下層コイル14)の一対のコイル辺21間に挟まれた第1及び第2の深溝型スロット111A,111Bに配置されているコイル辺21を持つ第1及び第2の最下層コイル15A,15Bは、電機子コア7の径方向について互いに隣接している。電機子コア7の径方向について互いに隣接する第1及び第2の最下層コイル15A,15Bのそれぞれのコイル辺21には、第1又は第2の最下層コイル15A,15Bのコイル辺21を収容する第1又は第2の深溝型スロット111A,111Bに配置されている他のコイル辺21と、その深溝型スロット111A,111Bの両隣にある2つのスロット11にそれぞれ配置されているコイル辺21とのいずれかと同相同向きの電流が流れるようになっている。
本実施の形態では、電機子コア7の径方向について互いに隣接する第1及び第2の最下層コイル15A,15Bのそれぞれの電流相が、互いに同じ相になっている。また、本実施の形態では、電機子コア7の径方向について互いに隣接する第1及び第2の最下層コイル15A,15Bのそれぞれの電流相が、第1及び第2の最下層コイル15A,15Bの両側に位置する第1及び第2の深溝型スロット111A,111Bを挟む上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれの電流相と異なる相になっている。即ち、電機子コア7の径方向について互いに隣接する第1及び第2の最下層コイル15のそれぞれの電流相は、一方の第1及び第2の深溝型スロット111A,111Bを挟む一対のコイル辺21を持つ上層コイル13の電流相、及び他方の第1及び第2の深溝型スロット111A,111Bを挟む一対のコイル辺21を持つ下層コイル14の電流相のそれぞれと異なる相になっている。
例えば、No.2の第1の深溝型スロット111Aの最下口に配置されたコイル辺21を持つ第1の最下層コイル15Aの電流相、及びNo.3の第2の深溝型スロット111Bの最下口に配置されたコイル辺21を持つ第2の最下層コイル15Bの電流相は、No.2及びNo.3の深溝型スロット111A,111Bを挟む一対のコイル辺21を持つU相の上層コイル13(即ち、No.1及びNo.4のスロット11の上口に配置されたコイル辺21を持つ上層コイル13)の電流相、及びNo.7及びNo.8の深溝型スロット111A,111Bを挟む一対のコイル辺21を持つW相の下層コイル14(即ち、No.6及びNo.9のスロット11の下口に配置されたコイル辺21を持つ下層コイル14)の電流相のそれぞれと異なるV相になっている。
また、第1及び第2の最下層コイル15A,15Bのコイル辺21の電流の向きは、第1及び第2の最下層コイル15A,15Bと同じ相のベースコイル12のコイル辺21のうち、第1及び第2の最下層コイル15A,15Bのコイル辺21が配置された第1及び第2の深溝型スロット111A,111Bに配置されているコイル辺21に流れる電流の向きと同じになっている。
電気角幅α°(α=1260°)の範囲内には、U相、V相、W相の第1の最下層コイル15Aが同数ずつ(この例では、1つずつ)配置され、U相、V相、W相の第2の最下層コイル15Bが同数ずつ(この例では、1つずつ)配置されている。
即ち、互いに異なる相の各第1の最下層コイル15Aのそれぞれの一方のコイル辺21が配置されている各第1の深溝型スロット111Aは、電機子コア7の周方向について、上記の式(4)で表されるn個のスロット11ごとに現れている。また、互いに異なる相の各第2の最下層コイル15Bのそれぞれの一方のコイル辺21が配置されている各第2の深溝型スロット111Bも、電機子コア7の周方向について、上記の式(4)で表されるn個のスロット11ごとに現れている。この例では、各第1の最下層コイル15Aのそれぞれの一方のコイル辺21が配置されている各第1の深溝型スロット111A(例えば、No.2、No.11、No.20の各第1の深溝型スロット111A)、及び各第2の最下層コイル15Bのそれぞれの一方のコイル辺21が配置されている各第2の深溝型スロット111B(例えば、No.3、No.12、No.22の各第2の深溝型スロット111B)のそれぞれが、9個のスロット11ごとに現れており、式(4)の関係が成立している。
これにより、本実施の形態による電機子2では、ベースコイル12、上層コイル13、下層コイル14及び最下層コイル15A,15Bがつくる誘起電圧の合成ベクトルの大きさが各相で均等に大きくなる。
電機子コア7は、電機子コア7の周方向へ並ぶ複数(この例では、2個)の分割コア31に分割されている。各分割コア31は、例えば溶接等により互いに連結されている。各分割コア31の境界32の位置は、ベースコイル12、上層コイル13、下層コイル14及び最下層コイル15A,15Bのそれぞれのコイルエンド22がいずれも跨らない磁極ティース10(この例では、No.27及びNo.54のそれぞれの磁極ティース10)の位置になっている。各分割コア31の境界32は、電機子コア7の径方向に沿って形成されている。電機子2は、ベースコイル12、上層コイル13、下層コイル14及び最下層コイル15A,15Bを分割コア31に設けて構成した複数(この例では、2つ)の分割電機子33によって構成されている。他の構成は実施の形態1と同様である。
図13は、図11の回転電機1の巻線係数Kdを示す表である。本実施の形態による回転電機1の巻線係数Kdの数値は、比較例2による回転電機1Bの巻線係数Kd(図10)と比較しても、基本波成分、高次成分ともに良好であることが分かる。
このように、毎極スロット数q’が3よりも大きく4よりも小さい値である場合であっても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
即ち、実施の形態1及び2で示した通り、回転電機1の電機子2のスロット数Qと、回転子4の磁極数Pとの組み合わせにかかわらず、毎極スロット数q’が式(2)の条件を満たしていれば、各コイル辺21の配置を維持したまま、各ベースコイル12のコイルピッチN+1よりも小さいコイルピッチNを持つ上層コイル13及び下層コイル14を得ることができる。また、各相の最下層コイル15のそれぞれのコイル辺21を各深溝型スロット111のそれぞれの最下口に配置することにより、ベースコイル12、上層コイル13及び下層コイル14のそれぞれから径方向外側に外して各最下層コイル15を配置することができる。これにより、回転電機1の動作特性を良好に維持しながら、回転電機1の製造を容易にすることができる。
なお、各上記実施の形態では、電機子コア7が複数の分割コア31に分割されているが、電機子コア7を複数の分割コア31に分割しない単一部品としてもよい。
また、各上記実施の形態では、電機子2の内側に回転子4が配置されたインナロータ型の回転電機1にこの発明が適用されているが、これに限定されず、筒状の回転子の内側に電機子が配置されたアウタロータ型の回転電機にこの発明を適用してもよい。さらに、電機子と回転子とが径方向について対向するラジアルギャップ型(即ち、インナロータ型及びアウタロータ型)の回転電機だけでなく、例えば、電機子と回転子とが軸線方向について対向するアキシャルギャップ型の回転電機にこの発明を適用してもよい。
また、各上記実施の形態による回転電機1は、例えば電動機、発電機及び発電電動機のいずれにも適用することができる。また、各上記実施の形態による回転電機1は、同期機以外の例えば誘導機等に適用することもできる。