以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
[インクジェット記録装置]
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置の概略構成を示す側断面模式図である。
図1に示すように、インクジェット記録装置11は、本体フレーム12を備えている。本体フレーム12には、ロール・ツー・ロール方式でロール状の被記録媒体Fをその搬送経路に沿って上流側から下流側に向かって搬送する搬送ユニット(搬送機構)13が設けられている。さらに、本体フレーム12には、搬送ユニット13によって搬送される被記録媒体Fにインク組成物を噴射する液体噴射ユニット14が設けられている。
搬送ユニット13は、搬送経路の上流側でロール状の被記録媒体Fを支持するとともに該被記録媒体Fを巻き解きながら搬送経路に沿って下流側へ繰り出す繰出軸15と、繰出軸15から繰り出された被記録媒体Fを下流側で巻き取る巻取軸16とを備えている。繰出軸15は巻取軸16よりも高い位置に配置されるとともに、被記録媒体Fの搬送経路は全体として略円弧状をなしている。
繰出軸15及び巻取軸16は、被記録媒体Fの搬送方向と直交する幅方向に延びる軸線を中心に回転可能に構成されるとともに、互いに平行となるように延びている。繰出軸15には、被記録媒体Fが繰り出される方向に該繰出軸15を回転駆動する繰出モーター17(図3参照)が設けられている。一方、巻取軸16には、被記録媒体Fが巻き取られる方向に該巻取軸16を回転駆動する巻取モーター18(図3参照)が設けられている。
被記録媒体Fの搬送経路の途中位置には、該搬送経路の一部を形成するとともに繰出軸15から巻取軸16に向かって搬送される被記録媒体Fを一方側(図1では下側)から支持する略矩形板状のメイン支持部20が配置されている。そして、メイン支持部20における被記録媒体Fを支持する面は、水平な支持面としての印刷支持面20aとされている。
被記録媒体Fの搬送経路におけるメイン支持部20の上流側には、該搬送経路の一部を形成するとともに被記録媒体Fを一方側(図1では下側)から支持する板状の上流側支持部21がメイン支持部20と隣り合うように配置されている。上流側支持部21は、下流側へ向かうほど高さが高くなるように湾曲(屈曲)されている。そして、上流側支持部21における被記録媒体Fを支持する面は、上流側支持面21aとされている。
被記録媒体Fの搬送経路におけるメイン支持部20の下流側には、該搬送経路の一部を形成するとともに被記録媒体Fを一方側(図1では下側)から支持する板状の下流側支持部22がメイン支持部20と隣り合うように配置されている。下流側支持部22は、下流側へ向かうほど高さが低くなるように湾曲(屈曲)されている。そして、下流側支持部22における被記録媒体Fを支持する面は、下流側支持面22aとされている。
なお、上流側支持面21aにおける下流側の端部と、印刷支持面20aと、下流側支持面22aにおける上流側の端部とは、面一となっている。
図1及び図2に示すように、メイン支持部20における印刷支持面20aとは反対側の面には、メイン支持部20を加熱するメイン加熱部としての印刷ヒーター23が蛇行状に這うように設けられている。さらに、メイン支持部20における印刷支持面20aとは反対側の面には、メイン支持部20の温度を検出する印刷温度センサー24が設けられている。
上流側支持部21における上流側支持面21aとは反対側の面には、上流側支持部21を加熱する上流側ヒーター25が蛇行状に這うように設けられている。さらに、上流側支持部21における上流側支持面21aとは反対側の面には、上流側支持部21の温度を検出する上流側温度センサー26が設けられている。
下流側支持部22における下流側支持面22aとは反対側の面には、下流側支持部22を加熱する下流側加熱部としての下流側ヒーター27が蛇行状に這うように設けられている。さらに、下流側支持部22における下流側支持面22aとは反対側の面には、下流側支持部22の温度を検出する下流側温度センサー28が設けられている。
図1に示すように、被記録媒体Fの搬送経路におけるメイン支持部20と上流側支持部21との間には、上流側支持面21a上の被記録媒体Fを挟持しながら印刷支持面20a上へ搬送する第1搬送ローラー対30が配置されている。一方、被記録媒体Fの搬送経路におけるメイン支持部20と下流側支持部22との間には、印刷支持面20a上の被記録媒体Fを挟持しながら下流側支持面22a上へ搬送する第2搬送ローラー対31が配置されている。各ローラー対30,31は、搬送モーター32(図3参照)によって回転駆動される。
また、被記録媒体Fの搬送経路における下流側支持部22と巻取軸16との間には、搬送される被記録媒体Fにテンションを付与するテンションローラー33が配置されている。すなわち、テンションローラー33は、一端側が本体フレーム12に揺動可能に支持された揺動フレーム34の他端側に回転可能に支持されるとともに、被記録媒体Fにおける各支持部20〜22によって支持される側の面に接触するように配置されている。
テンションローラー33は、被記録媒体Fの搬送方向と直交する幅方向に延びるとともに、その長さが最大幅の被記録媒体Fの幅よりも長くなっている。そして、テンションローラー33は、揺動フレーム34によって常に被記録媒体Fを押圧する方向へ一定の付勢力で付勢されている。
図1に示すように、液体噴射ユニット14は、メイン支持部20の上方に配置されたキャリッジ40と、キャリッジ40の下端部にメイン支持部20の印刷支持面20aと対向するように支持された液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド(吐出ヘッド)41とを備えている。したがって、メイン支持部20は、被記録媒体Fを記録ヘッド41と対向するように支持する。
キャリッジ40は、本体フレーム12に設けられたガイド部材42によって被記録媒体Fの搬送方向と直交する幅方向に移動可能に支持されている。ガイド部材42は、キャリッジ40よりも被記録媒体Fの搬送経路の上流側に位置するとともに、被記録媒体Fの搬送方向と直交する幅方向に延びている。
ガイド部材42におけるキャリッジ40側の面には被記録媒体Fの搬送方向と直交する幅方向に延びる主ガイド軸43が設けられるとともに、ガイド部材42の上面には被記録媒体Fの搬送方向と直交する幅方向に延びる副ガイド軸44が設けられている。
主ガイド軸43は、キャリッジ40におけるガイド部材42との対向面の下端部に設けられた摺動溝45内に挿通された状態で摺接している。一方、副ガイド軸44には、キャリッジ40におけるガイド部材42との対向面の上端部に設けられたL字状の係合片46が摺動可能に係合している。そして、キャリッジ40は、キャリッジモーター47(図3参照)の駆動に基づき図示しない移動機構によってガイド部材42に沿って被記録媒体Fの搬送方向と直交する幅方向に往復移動される。
記録ヘッド41におけるメイン支持部20に支持された被記録媒体Fとの対向面には、該被記録媒体Fにインク組成物を噴射するための複数のノズル41aが開口している。各ノズル41aは、被記録媒体Fの搬送方向と直交する幅方向と平行な水平方向に等間隔で配列されている。また、記録ヘッド41には対応するインクカートリッジ(図示略)から互いに異なる種類のインク組成物がそれぞれ供給されるとともに、記録ヘッド41内にはインク組成物を各ノズル41aから噴射させるための圧電素子48(図3参照)がそれぞれ備えられている。また、記録ヘッド41にはインク組成物を必要に応じて加熱するヘッドヒーター51(図3)が設けられている。
そして、キャリッジ40を被記録媒体Fの搬送方向と直交する幅方向に往復移動させながら、圧電素子48(図3参照)を駆動することで、インクカートリッジ(図示略)内の各インク組成物が記録ヘッド41へと供給され、該記録ヘッド41の各ノズル41aからメイン支持部20の印刷支持面20aに支持された被記録媒体Fに該各インク組成物がそれぞれ噴射されて印刷が行われる。なお、液体噴射ユニット14は、本体フレーム12に対して開閉自在に設けられたカバー部材49によって覆われている。
図3に示すように、インクジェット記録装置11は、装置全体を統括制御する制御部50を備えている。制御部50の入力側インターフェース(図示略)には、上流側温度センサー26、印刷温度センサー24、下流側温度センサー28、及び入力部29がそれぞれ電気的に接続されている。また、制御部50の出力側インターフェース(図示略)には、搬送モーター32、繰出モーター17、巻取モーター18、キャリッジモーター47、圧電素子48、上流側ヒーター25、印刷ヒーター23、下流側ヒーター27及びヘッドヒーター51がそれぞれ電気的に接続されている。
そして、制御部50は、搬送モーター32、繰出モーター17、巻取モーター18、キャリッジモーター47、及び圧電素子48の駆動を個別に制御する。また、制御部50は、各センサー24,26,28から送信される信号に基づいて、各ヒーター23,25,27への通電状態をそれぞれ制御する。
被記録媒体は、吸収性の被記録媒体、特に布帛のような高い吸収性の被記録媒体であることが好ましい。布帛としては、以下に限定されないが、例えば、絹、綿、羊毛、ナイロン、ポリエステル、及びレーヨン等の天然繊維又は合成繊維が挙げられる。
インク組成物に限定はないが、特に布帛のような高い吸収性の被記録媒体に適したインク組成物が好ましい。インク組成物は、種々のカラーインク組成物を含み、背景用ないし下地用として用いられる、白インク組成物、メタリックインク組成物、クリアインク組成物の場合もある。各インク組成物の内容については後述する。
本実施形態に係るインクジェット記録装置は、被記録媒体の厚さに応じて切り替え可能な、少なくとも2つの記録モードを備える。例えば、本実施形態に係るインクジェット記録装置11は、通常の厚さを有する被記録媒体(第2被記録媒体)に対してインク組成物を記録するための標準モード(第2記録モード)に加えて、非常に薄い被記録媒体(第1被記録媒体)に対してインク組成物を記録するための裏写り防止モード(第1記録モード)を備える。なお、以下では相対的に厚い被記録媒体への記録モードを標準モードとして説明するが、相対的に薄い被記録媒体への記録モードを標準モードとしてもよい。
例えば、裏写り防止モードは、450μm未満の厚みの被記録媒体に適用し、標準モードは、450μm以上の厚みの被記録媒体に適用する。450μm未満の厚みの被記録媒体の場合、インク組成物の粘度が低いと画像の裏写りが発生する。したがって、450μm未満の被記録媒体に対して裏写り防止モードを適用することにより、被記録媒体への裏写りを防止して、良好な画像を記録することが可能となる。なお、本明細書における粘度は絶対粘度(Pa・s)のことを示す。
標準モードと裏写り防止モードとの切り替えは制御部50により行なわれる。制御部に接続された入力部29においては、ユーザが標準モードと裏写り防止モードの選択が可能なように構成される。例えば、制御部50は、入力部29においてユーザーからの入力された情報に基づいて記録モードを切り替える。これにより、検出器を設けることなく簡易にモード切替が可能となり、かつ、ユーザの判断に応じた柔軟な対応が可能となる。ただし、被記録媒体の厚みを検出する検出器を設け、検出器からの検出結果に基づいて制御部が記録モードを切り替える構成であってもよい。
標準モードにおいて、被記録媒体の搬送速度は、被記録媒体の滑りを防止し、被記録媒体へのしわの発生を抑制し得るように、裏写り防止モードよりも遅い速度に設定される。これは、ロール状の被記録媒体を搬送する際に被記録媒体の自重により被記録媒体の滑りが生じ、この滑りにより被記録媒体へしわが発生する場合があるからである。被記録媒体上でのインク組成物の粘度は、裏写り防止モードよりも低めに設定される。所定の厚さを有する被記録媒体に対してはインク組成物の粘度を低めに調整しても裏写りの問題はなく、むしろ、インク組成物の濡れ広がりを高めて画像の品質を向上させるためである。
これに対して、裏写り防止モードでは、被記録媒体上でのインク組成物の粘度は、標準モードで記録する際の被記録媒体上でのインク組成物の粘度よりも高く、裏写り防止モードにおける被記録媒体の搬送速度は、標準モードにおける被記録媒体の搬送速度よりも速く設定される。制御部50が、搬送モーター32、繰出モーター17、及び巻取モーター18の回転速度を制御することにより、搬送速度が調整される。被記録媒体上でのインク組成物の粘度を高めに調整ないし制御することにより、被記録媒体へのインク組成物の浸透が抑制され、被記録媒体の表面にインクが留まる。この結果、インクの発色性の向上および裏写りを抑制することが可能となる。また、薄い被記録媒体に対しては搬送速度を速めに設定しても滑り等の問題はなく、むしろ、被記録媒体の処理効率の向上に繋がる。また、搬送速度を速めに設定することにより、被記録媒体へのインク組成物の吐出工程から乾燥工程までの時間を短縮することができ、インク組成物の浸透を抑制することができ、裏写りを抑制することができる。
例えば、裏写り防止モードによって記録された画像の単位面積当たり固形分重量は、標準モードによって記録された画像の単位面積当たりの固形分重量よりも少ない。このように、裏写り防止モードにおいて被記録媒体上での粘度を高めたインク組成物を用いることにより、インク組成物は被記録媒体の表面にとどまることから、裏写り防止モードにおける単位面積辺りのインク組成物の固形分重量を標準モードよりも少なくした場合であっても、記録画像の発色性を同等に維持することが可能となる。
例えば、裏写り防止モードにおける記録ヘッド41から吐出されるインク滴のドット径は、標準モードにおける記録ヘッド41から吐出されるインク滴のドット径よりも小さい。裏写り防止モードにおけるインク滴のドット径を小さくすることにより、薄い被記録媒体へのインク滴のしみ込みが防止される。
上述したように、本実施形態に係るインクジェット記録装置11は、記録モードに応じて被記録媒体の表面上でのインク組成物の粘度を異ならせる。具体的には、裏写り防止モードにおいて、標準モードと比べて、被記憶媒体上でのインク組成物の粘度が高くなるようにする。被記録媒体の表面上とは、記録ヘッド41の直下における被記録媒体の表面温度をいう。したがって、本実施形態の場合には、印刷支持面20aに支持された被記録媒体の表面温度を指す。被記録媒体上でのインク組成物の粘度を異ならせる方法として種々の方法が挙げられる。
例えば、標準モードと裏写り防止モードとで同一のインク組成物を使用する場合、制御部50はヘッドヒーター51を制御して、裏写り防止モードにおける吐出時のインク組成物の温度が、標準モードにおける吐出時のインク組成物の温度よりも低くなるようにする。これにより、裏写り防止モードにおいて、標準モードと同一のインク組成物を用いた場合であっても、被記憶媒体上でのインク組成物の粘度を標準モードよりも高めることができる。
裏写り防止モードで記録するインク組成物を吐出するヘッドとして、記録ヘッド41とは別の吐出ヘッドを用いてもよい。裏写り防止モードで記録する高粘度のインク組成物をノズル41aから良好に吐出するためには、標準モードとは異なる波形で圧電素子48を駆動して、圧電素子48による吐出力を高めることが好ましいからである。なお、裏写り防止モードで記録する高粘度のインク組成物を吐出するための圧電素子として、標準モードとは異なる駆動方式の圧電素子を用いてもよい。駆動方式としては、例えば、撓みモード型,縦モード型,シェアモード型等が挙げられる。
あるいは、標準モードと裏写り防止モードとで同一のインク組成物を使用する場合、制御部50は印刷ヒーター23を制御して、裏写り防止モードにおける被記録媒体の表面温度が標準モードにおける被記録媒体の表面温度よりも低くなるようにする。これにより、裏写り防止モードにおいて、標準モードと同一のインク組成物を用いた場合であっても、被記憶媒体上でのインク組成物の粘度を標準モードよりも高めることができる。被記録媒体の表面温度を加熱する手段として、ヒータ以外にも、赤外線照射器を用いてもよい。
あるいは、裏写り防止モードで記録するインク組成物として、標準モードとは別のインク組成物を用意してもよい。この場合には、裏写り防止モードで記録するインク組成物の25℃における粘度は、標準モードで記録するインク組成物の25℃における粘度よりも高い。これにより、ヒーター等を制御しなくても、裏写り防止モードにおいて、被記憶媒体上でのインク組成物の粘度を標準モードよりも高めることができる。
薄い被記録媒体に対して下地用インク組成物を記録した後に、下地用インク組成物上にカラーインク組成物を記録する場合には、下地用インク組成物の記録に、裏写り防止モードを使用することが好ましい。下地用インク組成物に限定はないが、例えば、白色インク組成物、メタリックインク組成物、クリアインク組成物が挙げられる。この場合には、下地用インク組成物の25℃における粘度は、カラーインク組成物の25℃における粘度よりも高くなるように、下地用インク組成物が調製される。非記録媒体に2層構造の画像を形成する場合において、裏写りを防止するためには、被記録媒体に接触する1層目の下地用インク組成物の過度の染み込みを防止する必要がある。本実施形態によれば、下地用インク組成物の粘度をカラーインク組成物よりも高めることにより、下地用インク組成物の過度の染み込みが防止される。また、その結果として、下地用インク組成物の上に付与されるカラーインク組成物の過度の染み込みも防止出来る。また、下地用インク組成物が顔料を含み(例えばメタリック顔料、白色顔料)、カラーインク組成物も顔料を含む場合は、下地用インク組成物に含まれる顔料の方が、カラーインク組成物に含まれる顔料よりも平均粒子径が大きい方が好ましい。この場合においても、下地用インク組成物の上に付与されるカラーインク組成物の過度の染み込みも防止出来る。
[インクジェット記録方法]本実施形態は、上述したインクジェット記録装置を用いて、被記録媒体に対しインクを吐出する、インクジェット記録方法である。
具体的には、標準モードで布帛のような被記録媒体Fの印刷を行う場合には、まず、メイン支持部20及び上流側支持部21の温度が40〜65℃となるとともに下流側支持部22の温度が150〜200℃となるように、各ヒーター23,25,27に対して通電したり通電を停止したりする通電制御を行う。続いて、繰出モーター17、巻取モーター18、及び搬送モーター32を駆動する。すると、繰出軸15から被記録媒体Fがその搬送経路に沿って繰り出される。この繰出軸15から繰り出された被記録媒体Fは、上流側支持部21の上流側支持面21a上を第1搬送ローラー対30に向かって搬送される。
印刷支持面20a上へ搬送された被記録媒体Fは、メイン支持部20により所定の温度に維持される。そして、キャリッジモーター47を駆動してキャリッジ40を被記録媒体Fの搬送方向と直交する幅方向に往復移動させながら記録ヘッド41の各圧電素子48を駆動すると、印刷支持面20a上の被記録媒体Fに記録ヘッド41の各ノズル41aから各インク組成物がそれぞれ噴射されて被記録媒体Fの印刷が行われる。
続いて、印刷支持面20a上で印刷がなされた被記録媒体Fは、第2搬送ローラー対31によって挟持されながら下流側支持部22の下流側支持面22a上へ搬送される。このとき、下流側支持面22a上へ搬送された被記録媒体Fは、150〜200℃に加熱された下流側支持部22から熱を得る。これにより、この被記録媒体Fに着弾したインク組成物のうち未だ乾燥していないものが速やかに乾燥されて、該被記録媒体Fに対して該インク組成物が完全に定着する。なお、乾燥のために加熱手段を備えるプレス機構を設けてもよい。
そして、下流側支持面22a上でインク組成物が乾燥されて完全に定着した被記録媒体Fは、その搬送経路に沿って下流側へ搬送され、テンションローラー33を経由して巻取軸16によって順次巻き取られる。
450μm未満の薄い布帛に対して印刷する場合には、ユーザは、入力部29により裏写り防止モードを選択し、制御部50により、裏写り防止モードで印刷処理がなされるよに搬送ユニット13及び各種ヒーターが制御される。これにより、標準モードに比べて高い粘度、かつ、速い搬送速度で印刷が行なわれる。
本実施形態に係るインクジェット記録方法によれば、被記録媒体として吸収性が高い布帛を用いる場合において、広い厚さ範囲の布帛に対して良好な画像の形成が可能となる。
インクジェット記録装置11により印刷を行なう前に、色材を凝集させる凝集剤を含む前処理液を被記録媒体に塗布してもよい。前処理液を塗布する手段としては、特に限定されないが、例えば、ローラー塗布、スプレー塗布、インクジェット塗布を利用することができる。インクジェット塗布を利用する場合には、記録ヘッド41の上流に前処理液を付着させるための別個の吐出ヘッドを設ける。
裏写り防止モードが選択されるような薄い布帛に前処理液を塗布する場合には、前処理液に含まれる凝集剤として、多価金属塩又は有機酸を用いることが好ましい。多価金属塩又は有機酸は、薄い被記録媒体のしなやかさを損なうことなく、色材を凝集させることができるからである。このため、このような凝集剤を含む前処理液により、薄い布帛本来のしなやかさを損なうことなく、記録画像の発色性を高めることが可能となる。
[インク組成物] インク組成物は、布帛などの吸収性が高い被記録媒体に用いられるものであれば特に限定はないが、以下に、本実施形態のインクに含まれるか、又は含まれ得る添加剤(成分)を説明する。
〔1.色材〕 本実施形態のインクは、色材を含んでもよい。上記色材は、顔料及び染料から選択される。
(1−1.顔料) 本実施形態において、色材として顔料を用いることにより、インクの耐光性を向上させることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。
無機顔料としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、酸化鉄、酸化チタン、及び酸化シリカが挙げられる。無機顔料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機顔料としては、特に限定されないが、例えば、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料、及びアゾ系顔料が挙げられる。有機顔料の具体例としては、下記のものが挙げられる。
ブラックインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックとしては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、及びチャンネルブラック(C.I.ピグメントブラック7)が挙げられる。また、カーボンブラックの市販品として、特に限定されないが、例えば、No.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B(以上全て商品名、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製)、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250(以上全て商品名、デグサ社(Degussa AG)製)、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700(以上全て商品名、コロンビアカーボン社(Columbian Carbon Japan Ltd)製)、リガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12(以上全て商品名、キャボット社(Cabot Corporation)製)等が挙げられる。
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、15:34、16、18、22
、60、65、66、C.I.バットブルー4、60が挙げられる。中でも、C.I.ピ
グメントブルー15:3及び15:4のうち少なくともいずれかが好ましい。
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48:2、48:4、57、57:1、88、112、114、122、123、144、
146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、254、264、C.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。中でも、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される一種以上が好ましい。
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、155、167、172、180、185、213が挙げられる。中でもC.I.ピグメントイエロー74、155、及び213からなる群から選択される一種以上が好ましい。
なお、グリーンインクやオレンジインク等、上記以外の色のインクに用いられる顔料としては、従来公知のものが挙げられる。
(1−2.染料) 本実施形態において、色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能である。
色材の含有量は、インクの総質量(100質量%)に対して、0.4〜12質量%であると好ましく、2〜5質量%であるとより好ましい。
〔2.樹脂〕 本実施形態におけるインクは、樹脂を含有する。インクが樹脂を含有することにより、被記録媒体上に樹脂被膜が形成され、結果としてインクを被記録媒体上に十分定着させて、主に画像の耐擦性を良好にする効果を発揮する。
樹脂は、アニオン性、ノニオン性、又はカチオン性のいずれであってもよい。これらの中でも、ヘッドに適した材質という観点から、ノニオン性又はアニオン性が好ましい。
樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、上記インクに含有させてもよい樹脂としては、例えば、樹脂分散剤、樹脂エマルジョン、及びワックス等が挙げられる。
(2−1.樹脂分散剤) 本実施形態のインクに上記の顔料を含有させる際、顔料が水中で安定的に分散保持できるようにするため、当該インクは樹脂分散剤を含むとよい。上記インクが水溶性樹脂や水分散性樹脂などの樹脂分散剤を用いて分散された顔料(以下、「樹脂分散顔料」という。)を含むことにより、インクが被記録媒体に付着したときに、被記録媒体とインクとの間及びインク中の固化物間のうち少なくともいずれかの密着性を良好なものとすることができる。樹脂分散剤の中でも分散安定性に優れるため、水溶性樹脂が好ましい。
樹脂分散剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
樹脂の中でも樹脂分散剤の顔料に対する添加量は、顔料100質量部に対して好ましくは1質量部〜100質量部であり、より好ましくは5質量部〜50質量部である。添加量が上記範囲内であると、顔料の水中への良好な分散安定性が確保できる。
(2−2.樹脂エマルジョン) 本実施形態のインクは、樹脂エマルジョンを含んでもよい。樹脂エマルジョンは、樹脂被膜を形成することで、インクを被記録媒体上に十分定着させて画像の密着性、耐擦性を良好にする効果を発揮する。
また、バインダーとして機能する樹脂エマルジョンはインク中にエマルジョン状態で含有される。バインダーとして機能する樹脂をエマルジョン状態でインク中に含有させることにより、インクの粘度をインクジェット記録方式において適正な範囲に調整しやすく、かつ、インクの保存安定性及び吐出安定性に優れたものとなる。
樹脂エマルジョンとしては、以下に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、シアノアクリレート、アクリルアミド、オレフィン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルエーテル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、及び塩化ビニリデンの単独重合体又は共重合体、フッ素樹脂、及び天然樹脂が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル系樹脂及びスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体系樹脂のうち少なくともいずれかが好ましく、アクリル系樹脂及びスチレン−アクリル酸共重合体系樹脂のうち少なくともいずれかがより好ましく、スチレン−アクリル酸共重合体系樹脂がさらに好ましい。なお、上記の共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、及びグラフト共重合体のうちいずれの形態であってもよい。
樹脂エマルジョンは、市販品を用いてもよく、以下のように乳化重合法などを利用して作製してもよい。インク中の熱可塑性樹脂をエマルジョンの状態で得る方法としては、重合触媒及び乳化剤を存在させた水中で、上述した水溶性樹脂の単量体を乳化重合させることが挙げられる。乳化重合の際に使用される重合開始剤、乳化剤、及び分子量調整剤は従来公知の方法に準じて使用できる。
樹脂エマルジョンの平均粒子径は、インクの保存安定性及び吐出安定性を一層良好にするため、好ましくは5nm〜400nmの範囲であり、より好ましくは20nm〜300nmの範囲である。
本明細書における平均粒子径とは、特に断りがない限りは体積基準の平均粒子径である。測定方法としては、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて回折散乱光の光強度分布パターンを検出し、その光強度分布パターンをMie散乱理論に基づいて計算することにより体積基準の粒度分布を求められる。その粒度分布から算出された体積平均粒子径は算出可能である。このようなレーザー回折式粒度分布測定装置としては、例えば、マイクロトラックUPA(日機装株式会社製)が挙げられる。
樹脂エマルジョンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
樹脂の中でも樹脂エマルジョンの含有量は、インクの総質量(100質量%)に対して、0.5〜7質量%の範囲であることが好ましい。含有量が上記範囲内であると、固形分濃度を低くすることができるため、吐出安定性を一層良好にすることができる。
〔3.界面活性剤〕 本実施形態のインクは、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。インク組成物がこれらの界面活性剤を含むことにより、インクの保存安定性及び吐出安定性が一層良好となり、かつ、高速印刷が可能となる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール及び2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4−ジメチル−5−デシン−4−オール及び2,4−ジメチル−5−デシン−4−オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(エアプロダクツ社(Air Products Japan, Inc.)製商品名)、サーフィノール104、465、61(日信化学工業社(Nissin Chemical Industry CO.,Ltd.)製商品名)などが挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、S-144、S-145(旭硝子株式会社製);FC-170C、FC-430、フロラード-FC4430(住友スリーエム株式会社製);FSO、FSO−100、FSN、FSN−100、FS−300(Dupont社製);FT−250、251(株式会社ネオス製)などが挙げられる。フッ素系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、具体的には、具体的には、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、BYK−349(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。
界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
界面活性剤の含有量は、インクの保存安定性及び吐出安定性が一層良好なものとなるため、インクの総質量(100質量%)に対して、0.1質量%以上3質量%以下の範囲であることが好ましい。
〔4.水〕 本実施形態のインクは、水を含有してもよい。特に、当該インクが水性インクである場合、水は、インクの主となる媒体であり、インクジェット記録において被記録媒体が加熱される際、蒸発飛散する成分となる。
水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を極力除去したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加などによって滅菌した水を用いると、顔料分散液及びこれを用いたインクを長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができる。
水の含有量は特に制限されず、必要に応じて適宜決定すればよい。
〔5.有機溶剤〕 本実施形態のインクは、揮発性の水溶性有機溶剤を含む。有機溶剤としては、以下に限定されないが、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、n−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、及びtert−ペンタノール等のアルコール類あるいはグリコール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、及び1,1,3,3−テトラメチル尿素が挙げられる。
有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。有機溶剤の含有量は特に制限されず、必要に応じて適宜決定すればよい。
〔6.pH調整剤〕 本実施形態のインクは、pH調整剤を含んでもよい。pH調整剤として、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、モルホリン、リン酸二水素カリウム、及びリン酸水素二ナトリウムが挙げられる。
pH調整剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。pH調整剤の含有量は特に制限されず、必要に応じて適宜決定すればよい。
〔7.その他の成分〕 本実施形態のインクは、上記の成分に加えて、溶解助剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、消泡剤、腐食防止剤などの、種々の添加剤を適宜添加することもできる。
〔8.インクの製造方法〕 本実施形態のインクは、上述の成分(材料)を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過などを行い、不純物を除去することにより得ることができる。ここで、顔料は、あらかじめ溶媒中に均一に分散させた状態に調製してから混合することが、取り扱いが簡便になるため好ましい。
各材料の混合方法としては、メカニカルスターラーやマグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法として、例えば、遠心濾過やフィルター濾過などを必要に応じて行うことができる。
[下地用インク組成物]
下地用インク組成物として特に限定はないが、白色インク組成物、メタリックインク組成物、クリアインク組成物が挙げられる。
(白色インク組成物)
白色インク組成物は、色材として白色顔料を含むインク組成物である。白色インク組成物の成分は、上述した(カラー)インク組成物の成分と同様であり、白色顔料の発色性等を考慮して適宜、成分の含有量を変えて調製される。
白色インク組成物に使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、白色の中空樹脂粒子及び高分子粒子が挙げられる。
白色インク組成物に用いられる白色顔料の平均粒子径は、200nm以上1μm以下が好ましく、250nm以上800nm以下であることがさらに好ましく、270nm以上600nm以下であることがより好ましく、300nm以上500nm以下であることが特に好ましい。上記範囲にあることにより良好な白色度、隠ぺい性を有する画像を形成可能である。
(メタリックインク組成物)
メタリックインク組成物は、被記録媒体に付着して形成したパターンが金属光沢感を有するインクである。メタリックインク組成物の成分は、上述した(カラー)インク組成物の成分と同様であり、メタリックインク色材の発色性等を考慮して適宜、成分の含有量を変えて調製される。
メタリック色材としては金属光沢感を発現するメタリック顔料が挙げられ、金属微粒子が使用でき、金属はアルミ、アルミ合金、銀などが挙げられる。メタリック顔料の形状は特に限定されないが、平板状の形状を有しているものが好ましい。
また、平板上の形状を有している場合、その顔料の平均粒子径は0.25〜3μmであることが好ましく、0.25〜1.5μmであることがより好ましく、0.3μm以上1μm未満がさらに好ましい。また、本実施の形態に係るメタリック顔料では、平均厚みが1〜100nmであることが好ましく、10〜70nmであることがより好ましい。色材の平均粒子径及び平均厚みが上記範囲にあることで、金属光沢性に優れた画像を記録することができる。
なお平板状を有しているメタリック顔料の平均粒子径は、粒子像分析装置により得られるメタリック顔料の投影画像の面積から求めた円相当径の50%平均粒子径(R50)で表される。「円相当径」とは、粒子像分析装置を用いて得られる該メタリック顔料の投影画像の面積と同じ面積を持つ円と想定したときの当該円の直径である。例えばメタリック顔料の投影画像が多角形である場合、その投影画像を円に変換して得られた当該円の直径を、そのメタリック顔料の円相当径という。
メタリック顔料の投影画像の面積および円相当径は、粒子像分析装置を用いて測定することができる。このような粒子像分析装置としては、例えば、フロー式粒子像分析装置FPIA−2100、FPIA−3000、FPIA−3000S(以上、シスメックス株式会社製)等が挙げられる。なお、円相当径の平均粒子径は、個数基準の粒子径である。また、FPIA−3000または3000Sを用いる場合の測定方法としては、高倍率撮像ユニットを用い、HPF測定モードで測定する方法が一例として挙げられる。
なお、平均厚みとは、透過型電子顕微鏡(TEM)または走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてメタリック顔料の側面画像を撮影し、10個のメタリック顔料の厚みをそれぞれ求め、それらを平均したものである。透過型電子顕微鏡(TEM)としては、日本電子株式会社製の型式「JEM−2000EX」等が、走査型電子顕微鏡としては、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の型式「S−4700」等がそれぞれ挙げられる。
(クリアインク組成物)
クリアインク組成物とは、被記録媒体に着色するために用いるインクではなく、その他の目的で用いるインクである。その他の目的はカラーインク組成物中の色材の記録媒体内部への過度な染み込み防止、記録物の耐擦性などの特性の向上や、カラーインクの定着性、発色性を向上させるためなどである。クリアインクは好ましくは色材の含有量が0.1質量%以下であり、より好ましくは色材を含まないインク組成物である。クリアインク組成物は、上述の(2―2.樹脂エマルジョン)で記載した樹脂エマルジョンを含むとより好ましい。樹脂エマルジョンを含ませることによって、カラーインク組成物中の色材の記録媒体内部への過度な染み込み防止、記録物の耐擦性などの特性の向上、カラーインクの定着性、発色性をより良好に達成することが可能である。
[前処理液]
前処理液は、インク組成物に含まれる色材を凝集させる凝集剤を含み、本実施形態では、前処理液が多価金属塩又は有機酸を含むことが好ましい。凝集剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。多価金属塩又は有機酸は、特に薄い布帛のしなやかさを損なうことなく、インク組成物に含まれる色材を凝集させて発色性の向上、滲みの防止、色むらの低減に寄与できる。他方、前処理液の凝集剤としてカチオン性樹脂を用いると、薄い布帛のしなやかさを損なってしまうという不利益がある。
多価金属塩としては、多価金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩等が挙げられる。また、多価金属としては、特に限定されないが、例えば、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛等が挙げられ、これらの中でも凝集能の点でアルミニウム、カルシウム及びマグネシウムが好ましい。
有機酸としては、特に限定されないが、例えば、グリコール酸、コハク酸、クエン酸、酢酸、乳酸等が挙げられる。
凝集剤の含有量は、前処理液の総質量(100質量%)に対して、5〜20質量%が好ましい。凝集剤の含有量が上記範囲内であることにより、手触性と発色性を高いレベルで両立できる傾向にある。
また、前処理液は、水及び水溶性溶剤のうちの少なくとも1種からなる溶媒を含むことができ、pH調整剤、及び/又は、ヒドロトロピー剤を必要に応じて含むことができる。
以下、上述した本発明に係るインクジェット記録装置及び記録方法の効果を示すべく、参考例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
下記の参考例において使用したインク調製用の主な材料は、以下の通りである。
〔顔料〕カーボンブラック、二酸化チタン
〔樹脂エマルジョン〕
〔有機溶剤〕グリセリン、1,2−ヘキサンジオール、トリエチレングリコール
〔界面活性剤〕BYK348
〔水〕
各材料を下記の表1に示す組成(質量%)で混合し、十分に撹拌し、各インク組成物を得た。各インク組成物1〜3の粘度も併せて表記した。
インク組成物1〜3を比較した場合、インク組成物1は低粘度のインク組成物であり、インク組成物2は高粘度のインク組成物である。インク組成物3は高粘度の下地用インク組成物として用いる。
薄い被記録媒体としてhpライトテキスタイルディスプレイバナー(厚さ380μm)を用い、厚い被記録媒体として布帛の綿(HANES社製 ヘビーウェイト、厚さ1000μm)を用いた。
各被記録媒体にバーコーターを用いて硝酸カルシウムを20%含む水溶液を前処理液として塗布し、温度150℃のヒートプレス機を用いて乾燥させた。その後、インクジェットプリンター(商品名PX-G930、セイコーエプソン株式会社製)にインク組成物を充填して、各被記録媒体に記録した。具体的には、参考例1は、各記録媒体にインク組成物1を用いて、横720dpi、縦720dpiの解像度で、100%のdutyで記録画像を作成した。参考例2は、各被記録媒体にインク組成物2を用いて、横720dpi、縦720dpiの解像度で、80%のdutyで記録画像を作成した。参考例3については、1層目については、インク組成物3(下地用インク組成物)を用いて、横720dpi、縦720dpiの解像度で、80%のdutyで背景画像を作成した後、2層目について、インク組成物1を用いて、横720dpi、縦720dpiの解像度で、80%のdutyで記録画像を作成した。各被記録媒体について記録後に上述のヒートプレス機を用いて再度加熱、乾燥を行った。
なお、インク組成物1の吐出液滴は21plを主体とし、インク組成物2と3の吐出液滴は21plを主体とした。また、インク組成物2と3は、インク組成物1よりも高い駆動電圧を用いてヘッドから吐出を行った。さらに薄手メディアを搬送する際は、厚手メディアの搬送よりも高速で搬送を行った。
裏写りについては、目視にて判定を行ない、十分に裏写りが抑えられている場合については、○と判定した。各被記録媒体に対して参考例1〜3でインクジェット記録した場合における裏写りの評価結果を表2に示す。
表2の参考例1に示すように、薄手の被記録媒体に対しては裏写りを十分に防止できなかったことがわかる。すなわち、仮に参考例1のインク組成物1を用いたインクジェット記録方法を標準モードとした場合、標準モードの記録条件では薄手の被記録媒体の裏写りを十分に防止できないことが判明した。これに対して、参考例1に比べてインク組成物の粘度を高め、搬送速度を遅くした裏写り防止モードに対応する参考例2では、薄手の被記録媒体に対しては裏写りを十分に防止できたことが明らかとなった。なお、上記の参考例では、インク組成物1とは異なるインク組成物2を用いた例であるが、実施形態において説明したように被記録媒体上でのインク組成物1の温度を変えることによりインク組成物1の粘度を高めても同様の効果が得られることが容易に類推できる。
以上のように、参考例1〜3の結果を参照すれば、本発明のインクジェット記録装置および記録方法が、吸収性が高い被記録媒体の広い厚さ範囲にわたって良好な画像を形成することができることが明らかとなった。