JP6312125B2 - 被膜形成キット及び被膜を有する食品の製造方法 - Google Patents

被膜形成キット及び被膜を有する食品の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、食品に被膜を形成するための被膜形成キット、及び被膜を有する食品の製造方法に関する。
一般にソーセージは、ケーシングと呼ばれる容器内に、香辛料や調味料を混練した練肉等の具材を充填し、具材とケーシングを共に加熱することにより製造される。ソーセージの製造に用いられるケーシングとしては、天然及び人工のケーシングが知られており、天然のケーシングとして牛腸、豚腸、羊腸等の哺乳類の腸管(天然腸)や、人工のケーシングとして管状に成形されたコラーゲンケーシング、セルロースケーシング等が使用されている。
一方、ケーシングには練肉を主原料とする具材以外の食材をも充填することができることが知られており、例えば、特許文献1には、包装フィルムをその縁部をシールして筒状に成形しつつ、その内部に炊飯用原料を所定量充填してユニット長にて結さつしてケーシング詰炊飯用原料を製造し、次いでこれを加熱釜中で加熱炊飯することを特徴とするケーシング詰米飯の製造方法が開示されている。
このような、天然又は人工のケーシングに具材を充填し、ソーセージ等の、ケーシングに由来する被膜を有する食品を製造する作業を行うにあたっては、一般に、ソーセージフィラーと呼ばれる特殊な装置や、専用の絞り器等が必要となり、作業の手間もかかることが知られている(例えば、特許文献2参照)。このため、これらの被膜を有する食品の製造は、従来、家庭等で手軽に行うことが出来るものではなかった。
特開平07−051007号公報 特開2013−132280号公報
よって、本発明は、ソーセージフィラー等の特殊な装置や、専用の絞り器等の特別な器材を使用せずに、ソーセージ等、天然又は人工のケーシングに由来する被膜を有する食品と同様の食感を有する食品を、家庭等において、親子で気軽に製造することができる被膜を有する食品の製造方法、及びこれに用いられる被膜形成キットを提供することを目的とする。
本発明の発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を行った。その結果、多価カチオンにより架橋される所定の第一のゲル化剤を含む水溶液Aと、第一のゲル化剤とは異なる、所定の第二のゲル化剤、並びに第一のゲル化剤を架橋する多価カチオンを含む水溶液Bと、をこの順に食品に適用し、食品の表面に形成されたゲル状の層に含まれる水分の一部を加熱により蒸発させることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
[1]食品に被膜を形成するための被膜形成キットであって、多価カチオンにより架橋されてゲルとなり、そのゲルは加熱によりゾル化しない第一のゲル化剤を含み、水に溶解させて水溶液Aの調製に用いる粉体組成物Aと、ゼラチン、コラーゲン、増粘多糖類、及び加工澱粉からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、第一のゲル化剤とは異なる第二のゲル化剤、並びに前記第一のゲル化剤を架橋する多価カチオンを水溶液中で生成する塩を含み、水に溶解させて水溶液Bの調製に用いる粉体組成物Bと、を含み、
(1)食品に水溶液Aを適用し、
(2)水溶液Aを適用した食品に水溶液Bを適用して、食品の表面にゲル状の層を形成し、
(3)食品の表面に形成されたゲル状の層に含まれる水分の少なくとも一部を蒸発させて被膜を有する食品を得るために使用する、被膜形成キット。
[2]食品の表面に形成されたゲル状の層に含まれる水分の少なくとも一部を加熱により蒸発させる[1]に記載の被膜形成キット。
[3]第一のゲル化剤が、ジェランガム、ローメトキシルペクチン、κ−カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、及びアルギン酸カリウムからなる群から選ばれる、[1]又は[2]に記載の被膜形成キット。
[4]前記多価カチオンとして、二価カチオンを使用することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の被膜形成キット。
[5]前記二価カチオンを生成する塩がカルシウム塩又はマグネシウム塩である[4]に記載の被膜形成キット。
[6]前記二価カチオンを生成する塩が塩化カルシウム及び/又は乳酸カルシウムである[4]に記載の被膜形成キット。
[7]水溶液A中の第一のゲル化剤の濃度が1質量%以上6質量%以下である[1]〜[6]のいずれかに記載の被膜形成キット。
[8]水溶液B中の第二のゲル化剤の濃度が5質量%以上20質量%以下である[1]〜[7]のいずれかに記載の被膜形成キット。
[9]粉体組成物Aが更に第二のゲル化剤を含む[1]〜[8]のいずれかに記載の被膜形成キット。
[10](1)食品に、多価カチオンにより架橋されてゲルとなり、そのゲルは加熱によりゾル化しない第一のゲル化剤を含む水溶液Aを適用する工程、(2)水溶液Aを適用した食品に、ゼラチン、コラーゲン、増粘多糖類、及び加工澱粉からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、第一のゲル化剤とは異なる第二のゲル化剤、並びに前記第一のゲル化剤を架橋する多価カチオンを含む水溶液Bを適用して、食品の表面にゲル状の層を形成する工程、及び(3)食品の表面に形成されたゲル状の層に含まれる水分の少なくとも一部を蒸発させる工程を含む被膜を有する食品の製造方法。
被膜形成キットを使用した本発明の被膜を有する食品の製造方法においては、多価カチオンにより架橋される第一のゲル化剤を含む水溶液Aと、第一のゲル化剤とは異なる第二のゲル化剤、及び第一のゲル化剤を架橋する多価カチオンを含む水溶液Bとを、この順に食品に適用する。これより、まず、第一のゲル化剤が食品の表面に均一に付着した状態で第二のゲル化剤がその周りに均一に付着して水溶液Aと水溶液Bが接触し、その接触面で水溶液A及び水溶液Bが混じり合う。そして、水溶液B中に含まれていた多価カチオンにより第一のゲル化剤が架橋されて、食品の表面にゼラチンを取り込んだゲル状の層が形成されると共に、このゲル状の層に含まれる水分の一部を蒸発させることにより、特殊な装置や器材を使用しなくても、天然及び人工のケーシングを使用した場合と同様な食感を有する被膜を有する食品を家庭等で製造することができる。
このような被膜形成キットを使用した食品の製造方法は、家庭でも容易に実施することができ、子供を持つ家庭においては、親子で一緒に楽しむことができる。また、被膜を有する食品を製造する際の体験を親子で共有できると共に、その製造過程も子供の興味を引く科学的な面白さを有するものである。よって、本発明の被膜形成キットは、親子の間のコミュニケーションツールとしても有用なものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
<被膜形成キット>
本発明の被膜形成キットは、第一のゲル化剤を含む粉体組成物Aと、第二のゲル化剤及び第一のゲル化剤を架橋する多価カチオンを生成する塩を含む粉体組成物Bとを含む。また、本発明の被膜形成キットは、以下に述べる被膜を有する食品の製造方法において使用されるものである。
[粉体組成物A]
粉体組成物Aは、多価カチオンにより架橋されてゲルとなり、そのゲルは加熱によりゾル化しない第一のゲル化剤を含む。
(第一のゲル化剤)
第一のゲル化剤としては、加熱によりゾル化しない熱不可逆性のものであり、多価カチオンにより架橋されてゲルを形成するものであれば、特に限定されるものではなく、熱不可逆性であり、多価カチオン反応性の任意のゲル化剤を使用することができる。そのようなゲル化剤としては、例えば、ジュランガム、ローメトキシルペクチン、κ−カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等を挙げることができる。これらの中でも、アルギン酸ナトリウム及びアルギン酸カリウムが好ましく、アルギン酸ナトリウムが最も好ましい。
なお、これらの第一のゲル化剤は、多価カチオンの存在下、短時間でゲル化すると共に、固化条件も単純で、熱に強く、様々な形状の食品をコーティング可能である。このため、第一のゲル化剤を使用することにより、様々な食品に、手間をかけずに被膜を形成することができる。
(その他の成分)
粉体組成物Aは、第一のゲル化剤に加え、更に、後述する粉体組成物Bに含まれる第二のゲル化剤(ゼラチン、コラーゲン、増粘多糖類、及び加工澱粉からなる群から選ばれる少なくとも1種)を含んでいてもよい。この場合において、第二のゲル化剤は、第一のゲル化剤とは異なるものであり、好ましくは多価カチオンにより架橋されてゲル化しないものである。粉体組成物Aに第二のゲル化剤を含有させることにより、水溶液Aを食品に適用した際に第一のゲル化剤を含む被膜中に、第二のゲル化剤をより均一に存在させることができるので、被膜を有する食品を製造した際に、より好ましい強度を有し、パリッとした食感を有する被膜を形成することができる。
水溶液A中における第二のゲル化剤の存在量は、例えばゼラチンであれば0.5質量%以上8質量%以下であることが好ましく、2質量%以上4質量%以下であることが更に好ましい。水溶液A中における第二のゲル化剤の存在量を上記の範囲内のものとすることにより、食品の表面に形成される被膜の食感をより良好なものとすることができる。
粉体組成物Aには、これを用いて製造される被膜を有する食品に求められる特性に応じて、そのほか、食塩、香辛料、香辛料抽出物、粉末醤油等の粉末調味食品、アミノ酸等の調味料、甘味料、粉末油脂、分散剤、乳化剤、香料、着色料等を配合することができる。
[粉体組成物B]
粉体組成物Bは、第一のゲル化剤とは異なる第二のゲル化剤、並びに前記第一のゲル化剤を架橋する多価カチオンを水溶液中で生成する塩を含む。
(第二のゲル化剤)
粉体組成物Bに含有される第二のゲル化剤は、ゼラチン、コラーゲン、増粘多糖類、及び加工澱粉からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、上述のとおり第一のゲル化剤とは異なるものである。ここで、第二のゲル化剤は、多価カチオンへの反応性を有さないものであることが好ましい。第二のゲル化剤は、乾燥によりパリっとした硬い食感を発現し、天然腸にも近い食感を有する被膜を形成可能な素材であるため、天然又は人工のケーシングに類する食感を容易に実現することができる。
ゼラチンとしては、例えば、牛や豚などの哺乳動物の皮、骨、軟骨、腱などに含まれるタンパク質を熱水抽出して凝固させたものを挙げることができる。また、コラーゲンは、ゼラチンから精製して得ることができ、牛骨、豚皮、及び魚類から得られたもののいずれをも使用することができる。ゼラチン及びコラーゲンとしては、一般に流通しているものを用いればよい。
増粘多糖類としては、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グアーガム、タラガム、ι−カラギーナン、λ−カラギーナン、アラビアガム、タマリンドシードガム、ハイメトキシルペクチン、寒天等を挙げることができる。
加工澱粉としては、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル燐酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉、リン酸架橋澱粉、澱粉グルコース酸ナトリウムを挙げることができる。
以上に挙げた第二のゲル化剤は、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよいが、これらの中でも、ゼラチン、コラーゲンを用いることが好ましく、ゼラチンを用いることが更に好ましい。
被膜形成キットにおける粉体組成物A中の第一のゲル化剤と粉体組成物B中の第二のゲル化剤との使用量比率は、水溶液A及びBを調製した際の各ゲル化剤の濃度に換算して、1:1から1:8であることが好ましく、1:2から1:4であることが更に好ましい。被膜形成キットにおける第一のゲル化剤と第二のゲル化剤との比率を上記の範囲内のものとすることにより、水溶液Aを適用した食品に水溶液Bを適用した際に、多価カチオンによる第一のゲル化剤の架橋反応を迅速に引き起こすことができると共に、食品の表面に形成される被膜の食感をより良好なものとすることができる。
なお、以上に説明したとおり、本発明の被膜形成キットにおいて、第一のゲル化剤と第二のゲル化剤を、粉体組成物A及びBとして組み合わせて併用することにより、食品の表面に容易に均一な被膜を形成できるとともに、乾燥後の被膜は、適度な硬さを有する天然腸様の食感を有するものとなる。
(多価カチオン)
粉体組成物Bは、第一のゲル化剤を架橋する多価カチオンを水溶液中で生成する塩を含む。このような多価カチオンは、第一のゲル化剤の種類に応じて選択する必要があるが、一般的には二価のカチオンを生成する塩を好適に用いることができる。二価カチオンとしては、一般的にはカルシウムイオン又はマグネシウムイオンを用いることが好ましく、これらのカチオンを生成する塩としては、カルシウムイオン又はマグネシウムイオンを生成する塩として、公知の可食性塩(有機塩及び/又は無機塩)を用いることが好ましい。これらの公知の可食性塩としては、リン酸三カルシウム、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム等のカルシウム塩;及びリン酸三マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム塩を挙げることができる。本発明において、これらの多価カチオンを生成する塩としては、塩化カルシウム及び乳酸カルシウムが好ましく、架橋反応を迅速に起こすことができる塩化カルシウムが最も好ましい。また、粉体組成物Bは、純品としての上記多価カチオンを生成する塩を含んでいる必要はなく、例えば、脱脂粉乳、全粉乳、胡麻粉砕物、豆類粉砕物及び海藻乾燥粉砕物等、上記多価カチオンを含有する材料を、多価カチオンを必要量生じる分量で含んでいてもよい。
<被膜形成キットの使用方法・被膜を有する食品の製造方法>
本発明の被膜形成キットは、後述する被膜を有する食品の製造方法において使用される。すなわち、本発明の被膜形成キットは、粉体組成物Aから水溶液Aを調製し、粉体組成物Bから水溶液Bを調製した後、以下で詳細に述べる方法、すなわち(1)食品に、多価カチオンにより架橋されてゲルとなり、そのゲルは加熱によりゾル化しない第一のゲル化剤を含む水溶液Aを適用する工程(「第一の工程」)、(2)水溶液Aを適用した食品に、ゼラチン、コラーゲン、増粘多糖類、及び加工澱粉からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、第一のゲル化剤とは異なる第二のゲル化剤、並びに前記第一のゲル化剤を架橋する多価カチオンを含む水溶液Bを適用して、食品の表面にゲル状の層を形成する工程(「第二の工程」)、及び(3)食品の表面に形成されたゲル状の層に含まれる水分の少なくとも一部を蒸発させる工程(「第三の工程」)を有する被膜を有する食品の製造方法により使用されるものである。本発明の被膜形成キットを用いて製造された被膜を有する食品は、天然又は人工のケーシングに由来する被膜を有する食品と同等の、好ましくはパリっとした食感を有するものとなる。
[第一の工程]
第一の工程においては、食品に、第一のゲル化剤を含む水溶液Aを適用する。ここで、粉体組成物Aから水溶液Aを調製するにあたっては、粉体組成物Aを、80℃以上100℃以下、好ましくは85℃以上90℃以下の温水に溶解させればよい。当該温度の温水に粉体組成物Aを溶解させることにより、粉体組成物Aに含まれる各種の成分を良好に溶解させることができる。
第一の工程においては、このように調製した水溶液Aを、被膜を形成させる食品に適用する。被膜を形成させる食品に水溶液Aを適用する方法としては、食品表面の全体に均一に水溶液Aを付着させることができる方法であればどの様な方法であってもよく、浸漬、スプレー噴射、刷毛等を用いた塗布、及び上掛け等、特に限定されるものではないが、本発明においては、家庭においても容易に実施することができるという点から、水溶液Aに被膜を形成させる食品を浸漬することにより、水溶液Aを適用することが好ましい。ここで、水溶液Aに食品を浸漬するにあたっては、水溶液Aを60℃以上の温度に維持し、食品を1分から5分、水溶液Aに浸漬することが好ましい。この際、食品を串等の棒状の部材に刺して食品を水溶液A中に浸漬させることが好ましい。
(水溶液Aにおける第一のゲル化剤の濃度)
水溶液Aは、第一のゲル化剤を、例えばアルギン酸ナトリウムであれば1質量%以上6.5質量%以下となる濃度で含有していることが好ましく、1.5質量%以上4質量%以下となる濃度で含有していることが更に好ましい。第一のゲル化剤の濃度を、上記の範囲内のものとすることにより、水溶液Aを食品に適用する際に、水溶液Aが適度な粘性を持つため、水溶液Aをまんべんなく、均一に食品に適用することができる。また、水溶液Aにおける第一のゲル化剤の濃度を上記の範囲内のものとすることにより、被膜を有する食品を製造した際に、適度な保水力及び強度を有し、水溶液Bを適用した後に形成される被膜の第二のゲル化剤に由来するパリッとした食感を十分に引き出させるとともに、これを引き立たせて阻害しない被膜を形成することができる。
また、水溶液Aが第二のゲル化剤を含んでいる場合、水溶液A中における第二のゲル化剤の濃度は、例えばゼラチンであれば0.5質量%以上8質量%以下であることが好ましく、2質量%以上4質量%以下であることが更に好ましい。水溶液Aに含有される第二のゲル化剤の濃度を上記の範囲内とすることにより、水溶液Aを食品に適用した際に第二のゲル化剤を含む被膜を安定的に形成させることができると共に、被膜を有する食品を製造した際に、適度な強度を有し、パリッとした食感を有する被膜を形成することができる。
[第二の工程]
第二の工程においては、水溶液Aを適用した食品に、ゼラチン、コラーゲン、増粘多糖類、及び加工澱粉からなる群から選ばれる少なくとも1種の第二のゲル化剤、並びに前記第一のゲル化剤を架橋する多価カチオンを含む水溶液Bを適用して、食品の表面にゲル状の層を形成する。
粉体組成物Bを溶解させる水としては、80℃以上100℃以下の温水を用いることが好ましく、85℃以上90℃以下の温水を用いることが更に好ましい。当該温度の温水に粉体組成物Bを溶解させることにより、粉体組成物Bに含まれる各種の成分を良好に溶解させることができる。
第二の工程においては、このように調製した水溶液Bを、水溶液Aを適用した食品に適用する。水溶液Aを適用した食品に水溶液Bを適用する方法としては、食品表面の全体に均一に水溶液Bを付着させることができる方法であればどの様な方法であってもよく、浸漬、スプレー噴射、刷毛等を用いた塗布、上掛け等、特に限定されるものではないが、本発明においては、家庭においても容易に実施することができるという点から、水溶液Bに水溶液Aを適用した食品を浸漬することにより、水溶液Bを適用することが好ましい。ここで、水溶液Bに食品を浸漬するにあたっては、水溶液Bを60℃以上の温度に維持し、食品を1分から5分、水溶液Bに浸漬することが好ましい。
このように、水溶液Aを適用した食品に水溶液Bを適用することにより、水溶液A中の第一のゲル化剤と、水溶液B中の多価カチオンが反応し、食品がゲル化された被膜で覆われたものとなる。このゲル化された被膜には、水溶液B中の多価カチオンが経時的に浸透することにより、時間を追って被膜の内部に至るまでゲル化が進行し、続く第三の工程を経た後に、好ましくはパリっとした食感の被膜を形成させることができる。
(第二のゲル化剤の濃度)
水溶液B中における第二のゲル化剤の濃度は、例えばゼラチンであれば5質量%以上20質量%以下となる量であることが好ましく、6質量%以上19質量%以下となる量であることが更に好ましく、8質量%以上15質量%以下であることが特に好ましい。第二のゲル化剤の濃度を、上記の範囲内のものとすることにより、適度な強度を有し、パリッとした食感を有する被膜を形成することができる。なお、水溶液Aに第二のゲル化剤を含ませる場合は、水溶液Aと水溶液Bとに含まれる第二のゲル化剤の濃度の合算値が上記の範囲内になるよう、水溶液Aと水溶液Bに第二のゲル化剤を含ませればよく、粉体組成物A又は水溶液A中において、上記の<被膜形成キット>、[粉体組成物A]の(その他の成分)の項、及び上記の<被膜形成キットの使用方法・被膜を有する食品の製造方法>、[第一の工程]の(水溶液Aにおける第一のゲル化剤の濃度)項で説明した量の第二のゲル化剤の使用量が上記水溶液A及びB中の第二のゲル化剤の使用量の合算値に満たない範囲で第二のゲル化剤を水溶液Bに含ませればよい。
(多価カチオンの濃度)
水溶液B中における多価カチオンの濃度は水溶液A中に含まれる第一のゲル化剤の濃度、使用原料中のカルシウムの存在状態及び含有量にもよるが、例えば塩化カルシウムを使用する場合であれば3質量%以上12質量%以下であることが好ましく、5質量%以上9質量%であることが更に好ましい。多価カチオンの濃度を、上記の範囲内のものとすることにより、被膜を有する食品を製造した際に、粉体組成物Aに含まれる第一のゲル化剤を多価カチオンにより十分に架橋でき、ゲル化させることができる。なお、水溶液B中の多価カチオンの濃度を調整することにより、結果として得られる被膜の硬さや被膜が得られるまでの反応時間を容易に調整することができる。
水溶液Bには、これを用いて製造される被膜を有する食品に求められる特性に応じて、そのほか、食塩、香辛料、香辛料抽出物、粉末醤油等の粉末調味食品、アミノ酸等の調味料、甘味料、粉末油脂、分散剤、乳化剤、香料、着色料等を含有させることができる。
[第三の工程]
第三の工程においては、食品の表面に形成されたゲル状の層に含まれる水分の少なくとも一部を蒸発させる。食品の表面に形成されたゲル状の層に含まれる水分の少なくとも一部を蒸発させる具体的手法は、特に限定されるものではないが、食品の表面に形成されたゲル状の層に含まれる水分の少なくとも一部を、例えばフライパンやオーブンによる加熱等の加熱により蒸発させることが好ましい。食品の表面に形成されたゲル状の層に含まれる水分の一部を蒸発させるに当たっては、被膜を有する食品の表面温度が70℃以上となる加熱条件において、10分から20分加熱すればよい。食品の表面に形成されたゲル状の層に含まれる水分の一部を蒸発させることにより、被膜が形成された食品が、天然又は人工のケーシングに充填された食品のような、表面のパリっとした食感を有するものとなる。
なお、ひき肉を含む具材のように中心部まで熱が伝わりにくい食品を使用して本発明の被膜を有する食品の製造方法を実施する場合、第三の工程である食品の表面に形成されたゲル状の層に含まれる水分の少なくとも一部を蒸発させる工程に先立って、ゲル状の層が形成された食品を熱湯中で加熱してもよい。この際、食品表面のゲル状の層が固まったことを確認した後、80℃から95℃の熱湯中に食品を投入して、中心品温が70℃から80℃に到達する程度にまで、5分から10分加熱すればよい。
[被膜を有する食品の製造方法を適用する対象となる食品]
被膜を有する食品の製造方法を適用する対象となる食品としては、特に限定されるものではなく、ひき肉を含む具材、ギョーザ、シュウマイ、ハンバーグ、ミートボール、及び厚切りのハム等を挙げることができるが、本発明の被膜を有する食品の製造方法は、ひき肉を含む具材を使用してソーセージ様の食品の製造に好適に適用することができる。特に、ひき肉を含む具材を使用する場合、結果として得られる被膜を有する食品の羊腸のようなパリッとした食感が容易に感じられるものとなる。また、ひき肉を含む具材を使用する場合、ひき肉にリン酸塩を配合して下味を付与することにより、ひき肉を含む材料から成形される具材に適度な弾力が付与され、羊腸様の食感を感じやすくできるため好ましい。ここで、以下に、ひき肉を含む具材を使用したソーセージ様の食品の製造方法を説明する。
ひき肉を含む具材を調製するにあたっては、鶏ひき肉、豚ひき肉、牛ひき肉、又はこれらの合い挽き肉に、必要に応じて香味野菜等を含む野菜や肉片等を混合し、香辛料を含む調味料を混合する。これらのうち、一般的な基礎調味料としては、塩、グルタミン酸ナトリウム等の旨味調味料、馬鈴薯澱粉、乾燥卵白、リン酸塩、全粉乳等を使用することができる。また、香辛料としては、粗挽きコショウ粉末、スパイス混合物、ガーリックパウダー、オニオンパウダー、ショウガパウダー、ハーブミックス、微粉唐辛子等を含有させることができるが、子供用の食品を製造する場合には、粗挽きコショウ、スパイス混合物、ハーブミックス、微粉唐辛子等の刺激性の強い材料は配合しないことが好ましく、これらに代えてナツメグパウダー、バターミルクパウダー等を配合してもよい。なお、ひき肉を含む具材に乳化剤を配合することにより、調理中にひき肉中の脂が溶出するのを抑制でき、仕上がりの見た目も良好になると共に、溶出した脂による被膜の食感の低下も抑制することができる。
具材を調製するにあたっては、ひき肉と香辛料を含む調味料を略均一になるまで混合した後、得られた具材を、成形し、好ましくは串等の棒状の部材に装着して、必要に応じて冷蔵庫で10分から30分、特にひき肉にリン酸塩を混合する場合、好ましくは20分から30分静置し、水溶液A及びBをこの順に具材に適用する。次に、水溶液A及びBを適用した食品をフライパンやオーブン等で加熱して、被膜中の水分の一部を蒸発させるが、これに先立って、沸騰したお湯等を使用して具材を中心部に至るまで十分に加熱してもよい。
本発明の被膜を有する食品の製造方法は、家庭でも容易に実施することができ、子供を持つ家庭においては、親子で一緒に楽しむことができる。また、親子で被膜を有する食品を製造する際の体験を共有できると共に、その製造過程も子供の興味を引く科学的な面白さを有するものである。よって、本発明の被膜形成キットは、親子の間のコミュニケーションツールとしても有用なものである。
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1から4>
[具材の調整]
豚ひき肉150gに下記表1に示す調味料を15g、水20gを加え、均一に粘りがでるまで混ぜ込んだ。均一に混ぜた具材を30gずつ割り箸に巻き付けるように棒状に成形し、成形した具材を冷蔵庫内で30分間静置した。具材を冷蔵庫内で静置することにより、塩溶性のタンパク質を抽出し、具材が適度な粘りを有するものとなり、結果として、被膜を有する加熱後の食品の食感が弾力を有するものとなった。
[被膜の形成]
表2に示すように配合された粉体組成物A及びBを用意するとともに、これらの粉体組成物のそれぞれを、90℃のお湯100gに溶解させて、水溶液A及びBを調製した。なお、水溶液A及びBにおける各成分の濃度は、表2中の各欄に括弧書きで示した(単位は質量%)。割り箸に巻き付けた上記の具材に、水溶液Aを浸漬により適用し、次いで、水溶液Bを浸漬により適用した。水溶液Bの適用後、食品表面の被膜が十分に固まったことを確認した後、80℃から90℃のお湯の中に投入し、蓋をして10分間加熱した。なお、このとき、食品の中心品温は70℃から80℃程度に達温していると考えられる。食品をお湯から取り出し、油を引いて加熱したフライパン上に載せ、弱火から中火で20分間加熱して表面を乾燥させた。この際、内側から油が生じた場合には、キッチンペーパー等で適宜ぬぐいながら加熱した。被膜の加熱を終えた後、被膜を有する食品を、常温で20分から30分静置して風乾させた。
得られた食品の被膜の性状について、試食により評価を行った。結果を表2に示す。
表1 豚ひき肉150gあたりの調味料の配合
Figure 0006312125
表2 粉体組成物A及びBの配合と、食品の被膜の性状
Figure 0006312125
※単位はg、( )内の数値の単位は質量%
実施例1から4では、水溶液A及びBを具材に適用し、その後、加熱により被膜中の水分の一部を蒸発させることにより、天然又は人工のケーシングと同等の被膜を食品表面に形成させることができた。ただし、実施例2では、実施例1に比べて被膜の硬さが若干低かった。実施例3では天然腸様の被膜は得られたものの、被膜が若干もろく、パリッとした食感を必ずしも有するものではなかった。更に、実施例4でも、天然腸様の被膜が得られたものの、被膜の硬さがやや低く、パリっとした食感を必ずしも有するものではなかった。
なお、各実施例とも加熱後の風乾工程を設けることにより、被膜のパリパリ感は向上した。

Claims (10)

  1. 食品に被膜を形成するための被膜形成キットであって、
    多価カチオンにより架橋されてゲルとなり、そのゲルは加熱によりゾル化しない第一のゲル化剤を含み、水に溶解させて水溶液Aの調製に用いる粉体組成物Aと、
    ゼラチン、コラーゲン、増粘多糖類、及び加工澱粉からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、第一のゲル化剤とは異なる第二のゲル化剤、並びに前記第一のゲル化剤を架橋する多価カチオンを水溶液中で生成する塩を含み、水に溶解させて水溶液Bの調製に用いる粉体組成物Bと、を含み、
    (1)食品に水溶液Aを適用し、
    (2)水溶液Aを適用した食品に水溶液Bを適用して、食品の表面にゲル状の層を形成し、
    (3)食品の表面に形成されたゲル状の層に含まれる水分の少なくとも一部を蒸発させて被膜を有する食品を得るために使用する、被膜形成キット。
  2. 食品の表面に形成されたゲル状の層に含まれる水分の少なくとも一部を加熱により蒸発させる請求項1に記載の被膜形成キット。
  3. 第一のゲル化剤が、ジェランガム、ローメトキシルペクチン、κ−カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、及びアルギン酸カリウムからなる群から選ばれる、請求項1又は2に記載の被膜形成キット。
  4. 前記多価カチオンとして、二価カチオンを使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の被膜形成キット。
  5. 前記二価カチオンを生成する塩がカルシウム塩又はマグネシウム塩である請求項4に記載の被膜形成キット。
  6. 前記二価カチオンを生成する塩が塩化カルシウム及び/又は乳酸カルシウムである請求項4に記載の被膜形成キット。
  7. 水溶液A中の第一のゲル化剤の濃度が1質量%以上6質量%以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の被膜形成キット。
  8. 水溶液B中の第二のゲル化剤の濃度が5質量%以上20質量%以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の被膜形成キット。
  9. 粉体組成物Aが更に第二のゲル化剤を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の被膜形成キット。
  10. (1)食品に、多価カチオンにより架橋されてゲルとなり、そのゲルは加熱によりゾル化しない第一のゲル化剤を含む水溶液Aを適用する工程、
    (2)水溶液Aを適用した食品に、ゼラチン、コラーゲン、増粘多糖類、及び加工澱粉からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、第一のゲル化剤とは異なる第二のゲル化剤、並びに前記第一のゲル化剤を架橋する多価カチオンを含む水溶液Bを適用して、食品の表面にゲル状の層を形成する工程、及び
    (3)食品の表面に形成されたゲル状の層に含まれる水分の少なくとも一部を蒸発させる工程を含む被膜を有する食品の製造方法。
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